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  • 特開-積層セラミックコンデンサ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128876
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】積層セラミックコンデンサ
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/30 20060101AFI20240913BHJP
【FI】
H01G4/30 201L
H01G4/30 512
H01G4/30 515
H01G4/30 201K
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038143
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】518422482
【氏名又は名称】深▲せん▼市信維通信股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】SHENZHEN SUNWAY COMMUNICATION CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】BuildingA,B,No.1013,Xihuan Road,Shajing Street,Bao’an District,Shenzhen,Guangdong 518000,China
(71)【出願人】
【識別番号】523090526
【氏名又は名称】信維電子科技(益陽)有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100119378
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】小出 信行
(72)【発明者】
【氏名】宋 ▲哲▼
(72)【発明者】
【氏名】虞 成城
【テーマコード(参考)】
5E001
5E082
【Fターム(参考)】
5E001AB03
5E001AC04
5E001AD02
5E001AD03
5E001AD04
5E001AE02
5E001AE03
5E001AE04
5E001AF06
5E001AH01
5E001AH05
5E001AH07
5E001AH09
5E001AJ02
5E082AA01
5E082AB03
5E082EE04
5E082EE23
5E082EE35
5E082FF05
5E082FG03
5E082FG04
5E082FG26
5E082GG10
5E082GG28
(57)【要約】
【課題】高い静電容量と耐圧特性とが両立し得る積層セラミックコンデンサの提供。
【解決手段】隣接する内部電極層150・160・170に挟まれるセラミックス有効層111・121と、内部電極層160の端部から外部電極部に延長した領域を占めるセラミックス端部層130と、内部電極層150・170とセラミックス端部層130との間を占めるセラミックス境界層112・122とを有し、セラミックス端部層130の比誘電率がセラミックス有効層111・121の比誘電率よりも高く、かつ、セラミックス境界層112・122の比誘電率がセラミックス有効層111・121の比誘電率と同じかそれより低い、ことを特徴とする部分構造100を有する、積層セラミックコンデンサ。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに直行する高さ方向、長さ方向、幅方向を有する略直方体の形状を成す積層体と、前記積層体の長さ方向において相対する一対の端面にそれぞれ互いに絶縁されて形成された一対の外部電極と、を有する積層セラミックコンデンサであって、
前記積層体は、高さ方向に間を隔てて積層されてなる複数の内部電極層と、積層体における前記内部電極層以外の領域を占める誘電体セラミックス層とを有し、
前記積層体はさらに、下記特徴をもつ部分構造を有し、ここで;
前記部分構造は前記一対の外部電極のうちの一方の外部電極近傍の構造であり、
前記部分構造は三層の内部電極層を有し、そのうち二層の内部電極層は前記一方の外部電極に接続し、前記二層の内部電極層に挟まれた残りの一層の内部電極層は前記一方の外部電極には接続せず、
前記部分構造における誘電体セラミックス層は;
A)高さ方向において前記二層の内部電極層のいずれかの層と前記残りの一層の内部電極層との間を占めるセラミックス有効層と、
B)前記残り一層の内部電極層の端部から前記一方の外部電極へと前記残り一層の内部電極層を長さ方向に延長した領域を占めるセラミックス端部層と、
C)高さ方向において前記二層の内部電極層のいずれかの層と前記セラミックス端部層との間を占めるセラミックス境界層と、を有し、
前記部分構造において、前記セラミックス端部層の比誘電率が前記セラミックス有効層の比誘電率よりも高く、かつ、
前記部分構造において、前記セラミックス境界層の比誘電率が前記セラミックス有効層の比誘電率と同じかそれより低い、ことを特徴とする、
上記積層セラミックコンデンサ。
【請求項2】
前記部分構造において、前記セラミックス境界層の方が前記セラミックス有効層よりも比誘電率が低いことを特徴とする、
請求項1記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項3】
前記部分構造において、前記セラミックス端部層の比誘電率が前記セラミックス有効層の比誘電率の1.5倍以上であることを特徴とする、
請求項1記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項4】
前記部分構造において、前記セラミックス境界層の比誘電率が前記セラミックス有効層の比誘電率の1/2以下であることを特徴とする、
請求項1記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項5】
前記部分構造において、前記セラミックス端部層及び前記セラミックス境界層の高さ方向に直行するそれぞれの断面は10μm四方の正方形を包含する形状であることを特徴とする、
請求項1記載の積層セラミックコンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は積層セラミックコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高耐圧特性が要求される中高圧タイプの積層セラミックコンデンサが電源回路などに利用されている。このような中高圧タイプの積層セラミックコンデンサでは耐圧特性を確保するために、セラミックス層の厚みを厚くし、そのことによる静電容量の低下を補うために積層セラミックコンデンサ自体のサイズを大きくすることで対応していた。また、小型大容量タイプの積層セラミックコンデンサでは誘電体層の薄層化が進んでおり、現在では誘電体層が1μm以下の厚さをもつものも量産化されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-108360号公報
【特許文献2】特開2021-108361号公報
【特許文献3】特開2021-108363号公報
【特許文献4】特開2021-108364号公報
【特許文献5】特開2021-197458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように薄層化された誘電体層をもつ積層セラミックコンデンサにおいては、耐圧特性を確保することが難しい。そういった事情に鑑みて、本発明は、高い静電容量と耐圧特性とが両立し得る積層セラミックコンデンサの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らが鋭意検討した結果、以下の内容の本発明を完成した。
【0006】
本発明の積層セラミックコンデンサは、積層体と外部電極とを有する。積層体は、互いに直行する高さ方向、長さ方向、幅方向を有する略直方体の形状を成している。外部電極は、積層体の長さ方向において相対する一対の端面にそれぞれ互いに絶縁されて形成される。積層体は内部電極層と誘電体セラミックス層とを有する。内部電極は、高さ方向に間を隔てて積層されている。誘電体セラミックス層は積層体における内部電極層以外の領域を占める。
【0007】
本発明においては、積層体は以下のような部分構造を有する。
この部分構造は前記一対の外部電極のうちの一方の外部電極近傍の構造である。この部分構造は三層の内部電極層を有し、そのうち二層の内部電極層は一方の外部電極に接続し、この二層の内部電極層に挟まれた残りの一層の内部電極層は、前記一方の外部電極には接続しない。この部分構造における誘電体セラミックス層は以下のA)~C)の層を有する。
【0008】
A)高さ方向において前記二層の内部電極層のいずれかの層と前記残りの一層の内部電極層との間を占めるセラミックス有効層、
B)前記残り一層の内部電極層の端部から前記一方の外部電極へと前記残り一層の内部電極層を長さ方向に延長した領域を占めるセラミックス端部層、及び
C)高さ方向において前記二層の内部電極層のいずれかの層と前記セラミックス端部層との間を占めるセラミックス境界層。
【0009】
本発明では、この部分構造において、セラミックス端部層の比誘電率はセラミックス有効層の比誘電率よりも高く、好ましくは、セラミックス端部層の比誘電率はセラミックス有効層の比誘電率の1.5倍以上である。
【0010】
さらに、この部分構造において、セラミックス境界層の比誘電率はセラミックス有効層の比誘電率と同じかそれより低く、好ましくは、セラミックス境界層の方が前記セラミックス有効層よりも比誘電率が低く、さらに好ましくは、セラミックス境界層の比誘電率はセラミックス有効層の比誘電率の1/2以下である。
【0011】
好ましくは、この部分構造において、セラミックス端部層及びセラミックス境界層の高さ方向に直行するそれぞれの断面は10μm四方の正方形を包含する形状である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、静電容量を大きく低下させずに耐圧特性を向上させることが可能である。そのように耐圧特性を向上させることができるメカニズムについては後述する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の積層セラミックコンデンサの模式的な部分断面図である。
図2】従来の積層セラミックコンデンサにおける、誘電体セラミックス層の長さ方向の位置と電界強度のシミュレーション結果との関係を表す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を適宜参照しながら本発明を詳述する。但し、本発明は図示された態様に限定されるわけでない。
【0015】
本発明の積層セラミックコンデンサは略直方体状の積層体と外部電極を備える。積層体は内部電極層と誘電体セラミックス層とを有する。外部電極は少なくとも一対は存在し、一対の外部電極は、積層体の1つの端面と前記端面に対向する端面に互いに絶縁された状態で形成される。前記一対の外部電極が対向する方向を積層体の長さ方向であると定義する。
【0016】
図1は本発明の積層セラミックコンデンサの模式的な部分断面図である。図面左右方向が長さ方向(L方向)であり、図面上下方向が高さ方向(T方向)である。図1には積層体の一部とその端部に形成された外部電極が描写されている。一対の外部電極のうち、図1には一方の外部電極180のみが描写されていて、他方の外部電極の描写は省略されている。本発明では、内部電極層及び誘電体セラミックス層の積層方向を積層体の高さ方向であると定義する。
【0017】
上述のように定義した長さ方向(L方向)及び高さ方向(T方向)の両方に直行する方向を、積層体の幅方向(W方向)であると定義する。図1においては、図面の奥行き方向が幅方向(W方向)である。
【0018】
積層体は内部電極層150、160、170および誘電体セラミックス層110、120が高さ方向に交互に積層されてなる。図1には、3層の内部電極層およびそれらに挟まれる2層の誘電体セラミックス層が描写されている。通常は、T方向にはさらに多数の内部電極層や誘電体セラミックス層が存在している。本発明において、積層体における内部電極層及び誘電体セラミックス層の積層の形態などは特に限定されず、当該技術分野における従来公知の技術を適宜採り入れることができる。
【0019】
本発明の積層セラミックコンデンサは以下詳述する部分構造を有する。この部分構造は外部電極180の近傍における構造であり、この部分構造を有するところに存在する外部電極180を「一方の外部電極」であると定義する。なお、好ましくは、他方の外部電極の近傍にも以下詳述する部分構造が存在する。
【0020】
この部分構造は、三層の内部電極層とそれらに挟まれる誘電体セラミックス層を有する。換言すると、この部分構造の存在を確認するために、外部電極近傍における三層の内部電極層とそれらに挟まれる誘電体セラミックス層を着目すべきであるということである。図1に示される構造においては、三層の内部電極層は符号150・160・170で表され、これらに挟まれる誘電体セラミックス層は符号110・120・130で表される。三層の内部電極層のうち符号150、170で示される二層の内部電極層は一方の外部電極180に接続している。三層の内部電極層のうちの残りの一層の内部電極層160は、前記二層の内部電極層150・170に挟まれ、上述した一方の外部電極180には接続していない。通常、残りの一層の内部電極層160は図1に描写されていない他方の外部電極に接続している。
【0021】
二層の内部電極層150・170に挟まれた領域にある誘電体セラミックス層について、以下A)~C)のように分類する。分類の便宜のために、図1に点線による補助線を描写する。補助線は、一方の外部電極180に接続していない内部電極層160の各辺を内部電極層160の端部から延長したものに相当する。内部電極層160の各辺が厳密な直線を形成していない場合には、最小二乗法などによって直線近似することができる。
【0022】
A)セラミックス有効層
セラミックス有効層は、高さ方向において前記二層の内部電極層のいずれかの層と前記残りの一層の内部電極層との間を占める。ここで、「前記二層の内部電極層」は、一方の外部電極180に接続する二層の内部電極層150・170であり、「前記残りの一層の内部電極層」は、内部電極層160である。図1においてセラミック有効層は符号111及び121で示される。
【0023】
B)セラミックス端部層
セラミックス端部層は、前記残り一層の内部電極層160の端部から前記一方の外部電極180へと前記残り一層の内部電極層160を長さ方向(L方向)に延長した領域を占める。図1においてセラミック有効層は符号130で示される。
【0024】
C)セラミック境界層
セラミック境界層は、高さ方向(T方向)において前記二層の内部電極層150、170のいずれかの層と、前記セラミックス端部層130との間を占める。図1においてセラミック境界層は符号112及び122で示される。
【0025】
上述したセラミック有効層111・121、セラミック端部層130及びセラミック境界層112・122は、互いに、上述した補助線(図1における点線)によって区分けされる。
【0026】
本発明では、上述のように区分けされたセラミックス層のそれぞれの比誘電率に着目する。この部分構造において、セラミックス端部層130の比誘電率はセラミックス有効層111・121の比誘電率よりも高い。そして、この部分構造において、セラミックス境界層112・122の比誘電率はセラミックス有効層111・121の比誘電率と同じかそれより低い。
【0027】
セラミックス端部層130の比誘電率はセラミックス有効層111・121の比誘電率よりも高く、好ましくは、セラミックス端部層130の比誘電率はセラミックス有効層111・121の比誘電率の1.5倍以上である。セラミックス端部層130の比誘電率の好適な上限については特に限定は無く、非限定的な例示として、セラミックス有効層111・121の比誘電率の5倍や10倍が挙げられる。
【0028】
セラミックス境界層112・122の比誘電率はセラミックス有効層111・121の比誘電率と同じかそれより低く、好ましくは、セラミックス境界層112・122の比誘電率はセラミックス有効層111・121の比誘電率の1/2以下である。セラミックス境界層112・122の比誘電率の好適な下限については特に限定は無く、非限定的な例示として、セラミックス有効層111・121の比誘電率の1/5や1/10が挙げられる。
【0029】
図1において点線による補助線を使って誘電体セラミックス層を区分けしたが、実際には、補助線により区分けされる領域は明確に区切られているものではなく、この補助線を含む50~400nmの領域は比誘電率が徐々に変動する領域(グラデーションを有する領域)であることが多い。このことは、焼成後の誘電体セラミックス層内の粒子径が50~400nmであることが多いことに起因する。このことから、セラミックス端部層130やセラミックス境界層112・122の比誘電率については、図1における補助線(点線)から500nm以上離れたところの比誘電率に着目することが好ましい。
【0030】
こういったグラデーションを有する可能性があることから、セラミックス端部層130やセラミックス境界層112・122には相応の大きさを持つことが好ましい。具体的には、セラミックス端部層130及びセラミックス境界層112・122については、高さ方向(T方向)に直行するそれぞれの断面が10μm四方の正方形を包含する形状である。このことは、セラミックス端部層130及びセラミックス境界層112・122は、長さ方向(L方向)及び幅方向(W方向)に10μm以上の長さを有することを意味する。
【0031】
上述した部分構造については端部付近における電界集中が抑制され、耐電圧特性の向上が期待される。このような部分構造が積層体においてより多く存在することが好ましい。以下、上述した部分構造により電界集中が抑制される作用について考察する。
【0032】
図2は従来の積層セラミックコンデンサにおける、誘電体セラミックス層110の長さ方向(L方向)の位置とその位置における電界強度のシミュレーション結果との関係を表すグラフである。このシミュレーションにおいて、従来のコンデンサでは、誘電体セラミックス層の比誘電率は全域にわたって均一であると想定している。Lがゼロであるところは誘電体セラミックス層110が一方の外部電極180に接する箇所である。Lが約0.3mmであるところに電界強度のピークが認められ、この箇所は、セラミックス境界層112とセラミックス有効層111との境目付近(図1における補助線付近)に相当する。Lが0.5~2.5mmの領域はセラミックス有効層111に相当する。
【0033】
このように、内部電極の端部付近において電界強度が著しく増加する。これに対して、セラミックス端部層130の比誘電率をセラミックス有効層111・121の比誘電率よりも高くすることにより、図2に鋭く表現されている電界強度のピークを平坦化することができる。そのメカニズムは必ずしも明らかではないが概ね以下のように推察できる。積層セラミックコンデンサにおいては、内部電極層に接する誘電体層の比誘電率が高いほど、内部電極層表面の電荷密度が大きくなる。セラミックス端部層130の比誘電率をセラミックス有効層111・121の比誘電率よりも高くすることにより、同じようにセラミックス端部層と接する側の内部電極端部表面の電荷密度が大きくなり、それに伴い、セラミックス有効層に接する側の内部電極端部表面の電荷密度が小さくなる。その効果により、セラミックス有効層に接する側の内部電極の端部付近における電界強度のピークが平坦化されるものと発明者らは推察している。
【0034】
さらに、セラミックス境界層112・122の比誘電率をセラミックス有効層111・121の比誘電率より低くすることで、上述した電界集中をさらに低減することができる。そのメカニズムは必ずしも明らかではないが概ね以下のように推察できる。セラミックス境界層112・122の比誘電率はセラミックス境界層112・122の比誘電率より低くなると、セラミックス境界層112・122とセラミックス端部層130との境界に、より大きな電位差が発生することになる。それにより、セラミックス有効層に接する側の内部電極端部表面の電気力線の方向が水平方向に拡散しやすくなる。その結果、セラミックス有効層に接する側の内部電極端部表面における電界強度のピークが平坦化されるものと発明者らは推察している。
【0035】
誘電体セラミックス層において上記A)~C)のように比誘電率を調節するためには、誘電体セラミックス層の原料における組成を変更したり、用いるセラミックス原料の粒子径を変更したりすることが挙げられる。誘電体セラミックス層の比誘電率を上げたり下げたりする具体的手段は従来公知の技術を適宜参照することができる。誘電体セラミックス層の主成分をチタン酸バリウムで構成する場合には、例えば、比誘電率を上げる方策の非限定的な例として、セラミック原料の粒子径を大きくしたり、Mg、希土類酸化物等の添加量を少なくする、チタン酸バリウムにおけるBa/Tiの量の比率を下げたりする、などといったことが挙げられる。逆に、比誘電率を下げる方策の非限定的な例として、セラミック原料の粒子径を小さくする、Mg、希土類酸化物等の添加量を多くする、チタン酸バリウムにおけるBa/Tiの量の比率を上げる、チタン酸カルシウムなどといった常誘電体材料を添加するなどといったことが挙げられる。
【0036】
積層セラミックコンデンサを製造する方法については従来公知の技術を適宜採り入れることができる。以下、非限定的な3つの製法を挙げる。第1の製法は、上記A)~C)の各セラミックス層の比誘電率を自在に調節するのに適した製法である。この製法においては、内部電極層及びA)~C)の各セラミックス層のためのペースト(誘電体インク)をそれぞれ調製する。これらとは別個に平板なセラミックグリーンシートを調製する。このセラミックグリーンシートは最終的には積層体の高さ方向(T方向)の両端を占めるいわゆるカバー層になるべきものである。
【0037】
前記グリーンシート上に内部電極層用のペースト、A)~C)の各セラミックス層のためのペースト(誘電体インク)を所定のパターンにて塗布する。塗布方法として、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、インクジェット法等といった従来公知の方法を用いることができる。このような塗布を積層数の回数だけ繰り返して、その後、最後に上述のカバー層用のセラミックグリーンシートを積み重ねることによって、焼成前の積層体構造を得ることができる。これを焼成した後に、従来公知の方法でニッケルや銅やそれらの合金からなる外部電極を形成することで積層セラミックコンデンサを得ることができる。このように、A)~C)の各セラミックス層のためのペースト(誘電体インク)を調製することにより、A)~C)の各セラミックス層の比誘電率を上述したように自由に調節することができる。
【0038】
第2の製法として、セラミックス有効層111・121とセラミックス境界層112・122とを同一のセラミックグリーンシートから得る製法を挙げる。この製法は、塗布の工程を削減することができ、従来公知の積層セラミックコンデンサの製法と類似するために採用し易い。この製法によれば、通常は、セラミックス有効層111・121とセラミックス境界層112・122とは同じ比誘電率になる。具体的には、セラミックス有効層111・121とセラミックス境界層112・122のためのセラミックグリーンシートを用意し、これとは別に、内部電極層用のペースト及びセラミックス端部層用のペースト(誘電体インク)を用意する。そして、前記セラミックグリーンシート上に、内部電極層用のペースト及びセラミックス端部層用のペースト(誘電体インク)を所定のパターンにて塗布し、各ペーストが塗布されたセラミックグリーンシートを所定数積層して、圧着、焼成することにより積層体を得ることができる。得られた積層体に外部電極を形成することによって積層セラミックコンデンサを得ることができる。
【0039】
第3の製法として、第2の製法のように、セラミックス有効層111・121とセラミックス境界層112・122のためのセラミックグリーンシートを用意し、これとは別に、内部電極層用のペースト及びセラミックス端部層用のペースト(誘電体インク)を用意する。そして、前記セラミックグリーンシート上に、内部電極層用のペースト及びセラミックス端部層用のペースト(誘電体インク)を所定のパターンにて塗布し、各ペーストが塗布されたセラミックグリーンシートを所定数積層して、圧着する。このようにして得た焼成前の積層体に対して、気相反応法によって所定の元素をセラミックス端部層及びセラミックス境界層にまで含侵させる。気相反応法として非限定的に原子層堆積法(ALD法)が挙げられる。このような気相反応法は含侵の深さを制御できる利点がある。含侵させる元素としては、MgやNiなどといった粒成長を抑制する元素やBaやZrなどといった比誘電率を低下させる元素が挙げられる。含侵前はセラミックス有効層111・121とセラミックス境界層112・122とは同じ比誘電率であるところ、前記のように比誘電率を下げる効果のある元素をセラミックス境界層112・122に含侵させることによって、セラミックス境界層112・122の比誘電率をセラミックス有効層111・121よりも小さくすることができる。この場合、セラミックス端部層130の比誘電率も前記含侵によって小さくなるが、セラミックス端部層を得るための誘電体ペーストの組成を調節することによって、前記含侵後においてもセラミックス端部層130の比誘電率をセラミックス有効層111・121よりも大きく維持することは可能である。
【実施例0040】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は、本実施例により何ら限定されるものではない。
【0041】
以下の部品仕様にて比較例、実施例の積層セラミックコンデンサを製造した。誘電体セラミックス層の主成分はチタン酸バリウムであり、内部電極の主成分はニッケルである。
誘電体セラミックス層の厚み:2μm、
内部電極層の厚み:1μm
積層数:400
積層セラミックコンデンサのサイズ:長さ方向(L方向)2.0mm、幅方向(W方向)1.2mm
セラミックス端部層の寸法:高さ方向(T方向)1μm、長さ方向(L方向)200μm、幅方向(W方向)1.2mm
セラミックス境界層の寸法:高さ方向(T方向)2μm、長さ方向(L方向)200μm、幅方向(W方向)1.2mm
【0042】
(比較例1)
この例では、セラミックス有効層、セラミックス端部層及びセラミックス境界層を全て同じセラミック材料(チタン酸バリウム、粒子径200nm)を用いて製造した。
この例で得た積層セラミックコンデンサの各セラミックス層の比誘電率は以下のとおりである。
セラミックス有効層、セラミックス端部層及びセラミックス境界層ともに3500。
【0043】
(実施例1)
この例では、比較例と同じセラミックス有効層とセラミックス境界層のために、比較例で用いたものと同じセラミックグリーンシートを用いた。セラミック端部層については、比誘電率を高めるためにセラミック材料の粒子径を400nmにした誘電体インクを調製し、前記セラミックグリーンシート上に、内部電極ペースト及びこの誘電体インクを所定パターンにて印刷して、積層、圧着、焼成、外部電極形成によって積層セラミックコンデンサを得た。
この例で得た積層セラミックコンデンサの各セラミックス層の比誘電率は以下のとおりである。
セラミックス有効層及びセラミックス境界層は3500、セラミック端部層は7000。
【0044】
(実施例2)
この例では、セラミックス有効層、セラミック端部層及びセラミック境界層のそれぞれのために、それぞれ別個の誘電体インクを調製した。セラミック有効層のための誘電体インクは、乾燥後に実施例1におけるセラミックグリーンシートにおける組成と同様になるように調製した。セラミック端部層については、比誘電率を高めるためにセラミック材料の粒子径を400nmにした。セラミック境界層については、比誘電率を低くするためにチタン酸カルシウムを添加した。カバー層になるべきセラミックグリーンシートの上に、内部電極ペースト及び上述の3種の誘電体インクを所定パターンにて、所定の回数(層数に相当)をインクジェット法によって印刷して、圧着、焼成、外部電極形成によって積層セラミックコンデンサを得た。
この例で得た積層セラミックコンデンサの各セラミックス層の比誘電率は以下のとおりである。
セラミックス有効層は3500、セラミックス境界層は500、セラミック端部層は7000。
【0045】
(比較例2)
セラミック端部層のための誘電体インクとして、セラミック境界層のための誘電体インクを同じインクを用いたことの他は実施例3と同様に積層セラミックコンデンサを得た。
この例で得た積層セラミックコンデンサの各セラミックス層の比誘電率は以下のとおりである。
セラミックス有効層は3500、セラミックス境界層は500、セラミック端部層は500。
【0046】
(比較例3)
セラミック境界層のための誘電体インクとして、セラミック端部層のための誘電体インクを同じインクを用いたことの他は実施例2と同様に積層セラミックコンデンサを得た。
この例で得た積層セラミックコンデンサの各セラミックス層の比誘電率は以下のとおりである。
セラミックス有効層は3500、セラミックス境界層は7000、セラミック端部層は7000。
【0047】
(評価)
上記のようにして得た積層セラミックコンデンサについて、主として静電容量と耐圧特性を対比するために、以下のような評価を行った。
(静電容量)
LCRメータ(Keysight社製:E4980)にて、1kHz、1Vrmsの条件で測定し、比較例と実施例で静電容量に大差が無いことを確認した。
(耐圧特性)
破壊電圧測定機にて、積層セラミックコンデンサ試料に、10V/secの速度で昇圧する直流電圧を連続的に印可して、10mAの電流が流れた電圧を絶縁破壊電圧とした。
【0048】
上記評価において測定される絶縁破壊電圧は以下のとおりであった。
比較例1:148V
実施例1:170V
実施例2:230V
比較例2:156V
比較例3:145V
【符号の説明】
【0049】
100 部分構造
110・120 誘電体セラミックス層
111・121 セラミックス有効層
112・122 セラミックス境界層
130 セラミック端部層
150・160・170 内部電極層
180 外部電極
図1
図2