(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128909
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】アズブジンを含む免疫調節剤組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7068 20060101AFI20240913BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240913BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240913BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240913BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240913BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
A61K31/7068
A61K39/395 N
A61P37/04
A61P35/00
A61P35/02
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092449
(22)【出願日】2023-06-05
(31)【優先権主張番号】202310232465.9
(32)【優先日】2023-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】523187789
【氏名又は名称】ホーナン・ジェニュイン・バイオテック・カンパニー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100122644
【弁理士】
【氏名又は名称】寺地 拓己
(74)【代理人】
【識別番号】100220098
【弁理士】
【氏名又は名称】宮脇 薫
(72)【発明者】
【氏名】パン・リー
(72)【発明者】
【氏名】リミン・ジア
(72)【発明者】
【氏名】ジヨン・シン
(72)【発明者】
【氏名】ザオヤン・ワン
【テーマコード(参考)】
4C085
4C086
【Fターム(参考)】
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4C085DD62
4C085EE01
4C085GG01
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA17
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB02
4C086ZB07
4C086ZB09
4C086ZC75
(57)【要約】 (修正有)
【課題】アズブジンを含む免疫調節剤組成物を提供する。
【解決手段】免疫調節剤としてアズブジンを含む、医薬組成物を提供する。前記医薬組成物が、PD-1抗体、PD-L1抗体、又はそれらの組み合わせである第2の免疫調節活性物をさらに含むことが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫調節剤としてアズブジンを含む、医薬組成物。
【請求項2】
PD-1抗体、PD-L1抗体、又はそれらの組み合わせである第2の免疫調節活性物をさらに含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
アズブジンを有効活性物として含む、免疫機能を調節するために用いられる医薬組成物。
【請求項4】
第2の免疫調節活性物をさらに含む、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記第2の免疫活性物質が、PD-1抗体、PD-L1抗体、又はそれらの組み合わせである、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記PD-1抗体が、ペムブロリズマブ(pembrolizumab)、ニボルマブ(nivolumab)、シンチリマブ(sintilimab)、トリパリマブ(toripalimab)、RMP1-14、カムレリズマブ(camrelizumab)、チスレリズマブ(tislelizumab)、セミプリマブ(cemiplimab)、及びそれらの組み合わせからなる群より選択されるか、或いは、
前記PD-L1抗体が、アベルマブ(avelumab)、アテゾリズマブ(atezolizumab)、デュルバルマブ(durvalumab)、及びそれらの組み合わせからなる群より選択されるか、或いは、
前記PD-1抗体が、RMP1-14抗体と一致する相補性決定領域を有するヒト化抗体から選択される、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
インビボでの免疫応答を調節又は増強するために用いられるアズブジン。
【請求項8】
免疫応答を増強するためのアズブジンを含む医薬組成物。
【請求項9】
第2の免疫調節活性物質をさらに含む、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記第2の免疫調節活性物質が、PD-1抗体、PD-L1抗体、又はそれらの組み合わせである、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記PD-1抗体が、ペムブロリズマブ、ニボルマブ、シンチリマブ、トリパリマブ、RMP1-14、カムレリズマブ、チスレリズマブ、セミプリマブ、及びそれらの組み合わせからなる群より選択されるか、或いは
前記PD-L1抗体が、アベルマブ、アテゾリズマブ、デュルバルマブ、及びそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
免疫細胞の浸潤及び増殖の改善のために用いられるアズブジン。
【請求項13】
前記免疫細胞が、B細胞、T細胞及びNK細胞からなる群より選択される、請求項12に記載のアズブジン。
【請求項14】
腫瘍組織又は血清サンプルからのサイトカインの放出を調節するために用いられるアズブジン。
【請求項15】
前記サイトカインが、IFNγ、IFNβ、TNFa、GM-CSF、IL10、IL2、IL4、IL8、及びMCP-1からなる群より選択される、請求項14に記載のアズブジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオ医薬品の分野に属し、具体的にはアズブジンを含む免疫調節剤組成物の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
デオキシシチジンキナーゼ(DCK)は、幅広い基質の特異性を備えた酵素であり、ピリミジン及びプリンデオキシヌクレオシドをリン酸化することができ、デオキシヌクレオシド生合成のサルベージ経路における肝要な酵素であり、正常なDNA代謝を維持して様々な抗ウイルス及び抗がんのヌクレオシド類似体薬物(これらの薬物は、リン酸化された後にのみ活性化され、それによって腫瘍の増殖を阻害する。)をリン酸化することができる。過去数十年間、広く研究されているアポトーシスについての放射線治療戦略は、腫瘍治療に重要な手段の1つになっている。
【0003】
アズブジンは、広域スペクトルRNAウイルス阻害剤であり、人工的に合成されたウイルスRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)のヌクレオシド類似体として、細胞内で抗ウイルス活性を有する5’-三リン酸塩代謝物(アズブジン三リン酸塩)に代謝され、新型コロナウイルスポリメラーゼ(RdRp)に特異的に作用することができ、ウイルスのRdRpを標的として宿主細胞においてRdRpの活性を阻害することにより、RNA鎖の合成と複製をブロックすることができる。2021年7月に、アズブジン錠は、ウイルス量の高い成人のHIV-1感染患者を治療するために用いられるのが中国での販売に承認された。また、2022年7月に、アズブジンは、新型コロナウイルス感染症の治療薬として承認された。
【0004】
特許文献CN201010506595.Xには、結腸がん、肝臓癌、胃癌、食道癌、肺癌、乳がん、子宮頸癌、白血病、リンパ腫などの腫瘍を治療するためにアズブジンを使用することが開示されている。アズブジンは様々なヒトのがん細胞や動物の移植腫瘍に対して明らかな抑制効果を有することが見られた。
【発明の概要】
【0005】
本発明では、従来技術に基づいて、アズブジンに対してさらに研究したところ、アズブジンは広範囲の抗ウイルス薬や抗腫瘍薬に使用されることに加えて、免疫調節剤として良好な免疫調節効果を示す可能性もあり、そしてPD-1と併用されると腫瘍の進行を有意に阻害できることが分かった。
【0006】
本発明は、免疫調節剤としてアズブジンを含む医薬組成物を提供する。体的には、本発明は以下の技術的態様を提供する。
【0007】
一態様では、本発明は、免疫調節剤としてアズブジンを含む医薬組成物を提供する。
【0008】
本発明の好ましい実施形態では、第2の免疫調節活性物をさらに含む。
【0009】
本発明の好ましい実施形態では、前記第2の免疫調節活性物は、PD1抗体、PD-L1抗体、又はそれらの組み合わせである。
【0010】
別の態様では、本発明は、免疫機能の調節における有効活性物としてのアズブジンの使用を提供する。
【0011】
さらに別の態様では、本発明は、免疫機能を調節するための薬物の調製におけるアズブジンの使用を提供する。
【0012】
さらに別の態様では、本発明は、免疫機能を調節するために有効活性物として用いられるアズブジンを提供する。
【0013】
さらに別の態様では、本発明は、免疫機能の調節における、アズブジンを有効活性物として含む医薬組成物の使用を提供する。
【0014】
さらに別の態様では、本発明は、免疫機能を調節するための薬物の調製における、アズブジンを含む医薬組成物の使用を提供する。
【0015】
さらに別の態様では、本発明は、免疫機能を調節するためのアズブジンを有効活性物として含む医薬組成物を提供する。
【0016】
本発明の好ましい実施形態では、前記医薬組成物は第2の免疫調節活性物をさらに含む。
【0017】
本発明の好ましい実施形態では、前記第2の免疫活性物質は、PD-1抗体、PD-L1抗体、又はそれらの組み合わせである。
【0018】
本発明の好ましい実施形態では、前記PD-1抗体は、ペムブロリズマブ、ニボルマブ、シンチリマブ、トリパリマブ、RMP1-14、カムレリズマブ、チスレリズマブ、セミプリマブ、及びそれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0019】
本発明の好ましい実施形態では、前記PD-L1抗体は、アベルマブ、アテゾリズマブ、デュルバルマブ、及びそれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0020】
本発明の好ましい実施形態では、前記PD-1抗体は、RMP1-14抗体と一致する相補性決定領域を有するヒト化抗体からなる群より選択される。
【0021】
別の態様では、本発明は、必要とする個体にを投与することを含むか、特には、必要とする個体に有効量のアズブジンを投与することを含むインビボでの免疫応答を調節又は増強するための方法を提供する。
【0022】
また別の態様では、本発明は、インビボでの免疫応答を調節又は増強するために用いられるアズブジンを提供する。
【0023】
さらに別の態様では、本発明はまた、患者からサンプルを採取すること、サンプルから免疫細胞を単離すること、アズブジンを用いて免疫細胞を培養すること、免疫細胞を増幅させて前記細胞を患者に再導入すること、及び免疫応答を増強することを含む、免疫応答を増強するための方法を提供する。
【0024】
また別の態様では、本発明は、免疫応答を増強するために用いられるアズブジンを提供する。
【0025】
また別の態様では、本発明は、免疫応答を増強するために用いられるアズブジンを含む医薬組成物を提供する。
【0026】
さらにまた別の態様では、本発明は、対象からサンプルを採取すること、サンプルから免疫細胞を単離すること、アズブジンを含む医薬組成物を用いて免疫細胞を培養すること、免疫細胞を増幅させて前記細胞を該対象に再導入すること、及び免疫応答を増強することを含む、免疫応答の増強方法を提供する。
【0027】
本発明の好ましい実施形態では、前記免疫細胞は、抗原提示細胞、T細胞、B細胞及びナチュラルキラー細胞からなる群より選択される。
【0028】
本発明の好ましい実施形態では、前記医薬組成物は第2の免疫調節活性物質をさらに含む。
【0029】
本発明の好ましい実施形態では、前記第2の免疫調節活性物質は、PD1抗体、PDL1抗体、又はそれらの組み合わせである。
【0030】
本発明の好ましい実施形態では、前記PD-1抗体は、ペムブロリズマブ、ニボルマブ、シンチリマブ、トリパリマブ、RMP1-14、カムレリズマブ、チスレリズマブ、セミプリマブ、及びそれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0031】
本発明の好ましい実施形態では、前記PD-L1抗体は、アベルマブ、アテゾリズマブ、デュルバルマブ、及びそれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0032】
別の態様では、本発明は、免疫細胞の浸潤及び増殖の改善におけるアズブジンの使用を提供する。
【0033】
別の態様では、本発明は、免疫細胞の浸潤及び増殖の改善のために用いられるアズブジンを提供する。
【0034】
本発明の好ましい実施形態では、前記免疫細胞は、B細胞、T細胞及びNK細胞からなる群より選択される。
【0035】
さらに別の態様では、本発明は、腫瘍組織又は血清サンプルからのサイトカインの放出を調節するためのアズブジンの使用を提供する。
【0036】
別の態様では、本発明は、腫瘍組織又は血清サンプルからのサイトカインの放出を調節するためのアズブジンを提供する。
【0037】
本発明の好ましい実施形態では、前記サイトカインは、IFNγ、IFNβ、TNFa、GM-CSF、IL10、IL2、IL4、IL8、及びMCP-1からなる群より選択される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】
図1は、フローサイトメトリゲートを示すものである。
【
図2】
図2は、CD45+/T/NK/骨髄系細胞(Myeloid細胞)の割合及び腫瘍100mgあたりの細胞数を示すものである。
【
図3】
図3は、CD4+T/CD8+T/制御性T細胞(Treg)の割合及び腫瘍100mgあたりの細胞数を示すものである。
【
図4】
図4は、DC/M-MDSC/PMN-MDSCの割合及び腫瘍100mgあたりの細胞数を示すものである。
【
図5】
図5は、CD8+TとTregの比及びCD4+エフェクターT細胞(Teff)とTregの比を示すものである。
【
図6】
図6は、T、CD4+T、CD8+T細胞におけるCD69陽性率及び蛍光強度の中央値を示すものである。
【
図7】
図7は、T、CD4+T、CD8+T細胞におけるKi67陽性率及び蛍光強度の中央値を示すものである。
【
図8-1】
図8は、GM-CSF、MCP-1、IFNγ、IFNβ、TNFa、IL2、IL4、IL8、IL10の発現量を示すものである。
【
図8-2】
図8は、GM-CSF、MCP-1、IFNγ、IFNβ、TNFa、IL2、IL4、IL8、IL10の発現量を示すものである。
【
図9】
図9は、マウス結腸直腸癌CT-26同種移植腫瘍モデルにおける腫瘍体積に対するアズブジンとPD-1抗体の併用の影響を示すものである。
【
図10】
図10は、B細胞リンパ腫A20担癌マウスモデルにおける腫瘍体積に対するアズブジンとPD-1抗体の併用の影響を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
実施例1 正常免疫マウス及び重度免疫不全マウスに対するアズブジンの抗腫瘍効果の比較
実験材料
実験動物及び飼育環境
【0040】
実験動物
種:マウス
系統:BALB/cマウス
週齢及び体重:6~8週齢、18.7~22.5g
性別:雌
サプライヤー:Shanghai Lingchang Biotechnology Co., Ltd.
【0041】
供試品及び対照品の情報
名称:アズブジン、物性説明:粉末、純度:100%、分子量:286.08、塩分含有分子量:286.22、包装:30.5mg/本、保存条件:4°C
名称:抗マウスPD-1(CD279)、サプライヤー:Bio X Cell社、物性説明:液体、包装:10.29mg/ml
保存条件:4°C
【0042】
細胞培養
CT26細胞は、10%ウシ胎児血清を加えたRPMI 1640培地に、37°C、5%CO2インキュベーターで培養した。通常の継代を週に1回行った。細胞の飽和度が80%~90%になって必要な数に達したら、細胞を収集し、カウントして接種した。
【0043】
腫瘍細胞接種
CT26細胞0.1mL(0.3×106)を各マウスの右下肢に皮下接種し、腫瘍の平均体積が約51mm3に達した時にグループ分けに投薬を開始した。
【0044】
試験過程:免疫が正常なBALB/cマウスを選択した。それらのマウスは、兄妹・姉弟同士の近親交配により得られた近交系マウスであり、それらの間の個体差が小さく、遺伝子がより純粋であり、全体の品質がより良い。B-NDGマウスは、バイオサイトジェンが独自に開発した重度免疫不全マウスである。NOD-scidマウスからIL2rg遺伝子がノックアウトされて成熟のT、B、NK細胞が欠損したマウスである。
【0045】
第1群はブランク群、第2群は0.25mpkで投与された正常免疫マウス、第3群は1mpkで投与された正常免疫マウス、第4群は0.25mpkで投与された重度免疫不全マウス、第5群は1mpkで投与された重度免疫不全であった。投与方式を経口投与(o.p.)とし、投与周期をQD×2Wとした。
【0046】
実験指標は、腫瘍の増殖が阻害、遅延又は治癒されたかどうかを調査することであった。腫瘍の直径を週に3回ノギスにで測定した。腫瘍体積は、V=0.5a×b2(但し、aとbはそれぞれ腫瘍の長径と短径を表す)という計算式で算出した。
【0047】
化合物の抗腫瘍効果は、TGI(%)又は相対的腫瘍増殖率T/C(%)によって評価した。TGI(%)は、腫瘍増殖阻害率を反映し、TGI(%)=[1-(ある治療群の投与終了時の平均腫瘍体積-当該治療群の投与開始時の平均腫瘍体積)/(溶剤対照群の治療終了時の平均腫瘍体積-溶剤対照群の治療開始時の平均腫瘍体積)]×100%という計算式で算出した。
【0048】
相対的腫瘍増殖率T/C(%)は、T/C%=TRTV/CRTV×100%(ただし、TRTVは治療群のRTV平均値、CRTVは陰性対照群のRTV平均値である)という計算式で算出した。相対的腫瘍体積(relative tumor volume,RTV)は、腫瘍測定の結果から、RTV=Vt/V0(ただし、V0はグループ投与時(即ちd0)に測定された腫瘍体積、Vtはある測定時の腫瘍体積であり、TRTVとCRTVは同じ日に取得したデータである)という計算式で算出した。
【0049】
【0050】
試験結果の比較
上記の試験結果から分かるように、アズブジンは、0.25mg/kg及び1mg/kgの2つの投与量で投与された場合、CT-26腫瘍担持B-NDG免疫不全マウスに対して明らかな腫瘍阻害効果を示さず、TGIがそれぞれ13%と53%であった。また、それらの結果はCT-26腫瘍担持BALB/c免疫正常マウスモデルに対して同じの投与量で投与されたアズブジンの抗腫瘍効果(TGIがそれぞれ63%と94%であった)よりもそれぞれ低かったことから、アズブジンは免疫調節剤として使用できることが証明された。
【0051】
実施例2 アズブジンが腫瘍中の免疫細胞浸潤に与える影響の研究
単一細胞懸濁液の調製
脂肪を除去するために腫瘍組織をPBSで1回洗浄し、腫瘍組織を迅速に小塊に切断した。切り刻んだ腫瘍組織を5mLの消化酵素混合液を含むチューブCに移した。チューブCを組織プロセッサーに置き、組織破片が消化酵素に浸るように確認し、プログラムm_imptumor_01_01を実行した。サンプルを37°Cの水浴シェーカーに入れ、30分間消化した。消化終了後、プログラムm_imptumor_01_01を再度実行し、2%ウシ胎児血清を含む適切な量のPBSを加えて消化を停止させた。残留組織を70μm細胞メッシュでろ過して除去し、PBSで洗浄した。細胞沈殿の量に応じて適切な体積のPBSを加えて細胞を再懸濁し、細胞を均一に軽くピペッティングし、血球計で細胞を計数した。適切な量の細胞を採取して抗体染色を行った。
【0052】
細胞外染色
細胞濃度が1×106個/100μLになるように、PBSで細胞を再懸濁し、細胞懸濁液を96ウェル-V底プレートにウェルあたり100μLで加え、4℃、450g条件下で5分間遠心し、上清を除去した。準備したZombie NIR Live/Dead溶液100μLで細胞を再懸濁し、4°Cで暗所で30分間インキュベートし、PBSで2回洗浄した。次に、ウェルあたりFc受容体阻害剤を含む染色緩衝液50μL(1μLのFc受容体阻害剤+49μLの染色緩衝液)で細胞を再懸濁し、4℃で暗所で5分間インキュベートした。次に、各ウェルにPacific Orange CD8、BV605 MHCII、BV650 CD25、BV750 CD45、BV785 Ly6C、AF488 CD11c、AF532 CD11b、PE-DZL594 CD49b、APC Ly6G、APC-Cy5.5 CD4、APC-Cy7 CD3、BV421 CD69(又はそのアイソタイプ対照抗体)を含むブリリアント染色緩衝液50μLを加えて細胞を再懸濁し、4°Cで暗所で30分間インキュベートした。染色終了後、200μLの染色緩衝液で2回洗浄した。
【0053】
細胞内染色
各ウェルに100μLの固定/透過処理液(Fixation/permeabilization)を加えて細胞を再懸濁し、4℃で暗所で30分間インキュベートした。透過処理終了後、200μLの透過処理緩衝液で2回洗浄した。Fc受容体阻害剤を含む透過緩衝液100μLを加えて細胞を再懸濁し、4℃で暗所で5分間インキュベートし、次に、PE-Cy7 FoxP3、PE Ki67(又はそのアイソタイプ対照抗体)細胞内抗体を直接加え、4℃で暗所で30分間インキュベートした。染色終了後、200μLの透過処理緩衝液で2回洗浄した後、200μLの染色緩衝液で細胞を再懸濁し、24時間以内にフローサイトメトリー検出を完了した。
【0054】
データ分析
FlowJo、SPSS及びGraphpad Prismソフトウェアを使用してフローデータを以下の数値を分析した。
1)腫瘍組織活細胞中のCD45と細胞の合計(CD45+細胞)の割合
2)CD45と細胞との合計(CD45+細胞)中のT、CD4とTの合計(CD4+T)、CD8とTの合計(CD8+T)、Treg、Myeloid、DC、NK、PMN-MDSC、M-MDSCの割合
3)CD8とTの合計(CD8+T)とTregの比及びCD4とTeffの合計(CD4+Teff)とTregの比
4)T、CD4とTの合計(CD4+T)、CD8とTの合計(CD8+T)の細胞におけるCD69陽性率及び蛍光強度の中央値(MFI)
5)T、CD4とTの合計(CD4+T)、CD8とTの合計(CD8+T)の細胞におけるKi67陽性率及び蛍光強度の中央値(MFI)
6)腫瘍組織100mgあたりのT、CD4+T、CD8+T、Treg、Myeloid、DC、NK、PMN-MDSC、M-MDSC、白血球の細胞数
【0055】
【0056】
この実験では、BALB/cマウスにCT26腫瘍モデルを構築し、異なる用量(0.25mg/kg、1mg/kg)のアズブジンで処理したマウスから、腫瘍サンプルを収集した後、フローサイトメトリーを使用して各免疫細胞サブセットの割合、及びT、CD4+T、CD8+Tの活性化と増殖を検出した。
【0057】
投薬後の腫瘍における免疫細胞浸潤の増加は、主にCD8+T及びNK細胞浸潤の増加に起因し、一定の用量依存性があった。高用量群では、CD8T/Treg及びCD4Teff/Tregの割合が有意に向上し、また、高用量群における骨髄細胞の割合が有意に低減し、それは、M-MDSC及びPMN-MDSC細胞の割合が有意に低減したことに起因したと主に考えられ、また、低用量群でも同じ傾向を示し、一定の用量依存性を示した。他の細胞サブセットでは、投薬後に、対照群と比較して有意な変化は見られなく、T、CD4+T、CD8+T細胞におけるKi67及びCD69の発現レベルにも有意差は見られなかった(実験結果を
図1~
図7に示す。
図2~
図7には、ブラックはブランク群、ライトブラックは0.25mg/kgで投与した投与群、グレーは1mg/kgで投与した投与群を表す。)。
【0058】
この実験から、アズブジンは、腫瘍におけるM-MDSC及びPMN-MDSCの浸潤及び増殖を抑制し、CD8+T/NK細胞の浸潤及び増殖を促進することにより腫瘍抑制効果を発揮することができ、また、アズブジンが免疫調節剤として使用できることが証明された。
【0059】
実施例3 血清及び腫瘍組織におけるサイトカインの放出レベルに対するアズブジンの影響
細胞培養:
CT26細胞は、10%ウシ胎児血清を加えたRPMI 1640培地に、37℃、5%CO2インキュベーターで培養した。通常の継代を週に1回行った。細胞の飽和度が80%~90%になって必要な数に達したら、細胞を収集し、カウントして接種した。
【0060】
動物:
BALB/cメスマウスは、雌、8週齢、体重18.5~22.9グラムであり、Shanghai Lingchang Biotechnology Co.,Ltd.より提供された。
【0061】
腫瘍接種:
CT26細胞0.1ml(0.3×10^6)を各マウスに皮下接種し、腫瘍の平均体積が101mm3に達した時にグループ分けに投薬を開始した。
【0062】
投薬レジメン:
この実験のインビボ投薬レジメンを以下の表に示す。
【0063】
【0064】
タンパク質の抽出と定量
1)-80℃の冷蔵庫から急速凍結した組織サンプルを取り出した。
2)ドライアイス上で切り取った腫瘍組織の一部(約50~100mg)を、スチールビーズを加えた2mLの遠心管に入れ、さらに、350μLの細胞分解液RIPA(1%のプロテアーゼ阻害剤とホスファターゼ阻害剤が新たに加えておいた。)を加えた。
3)ティッシュ グラインダーにより最高周波数で組織を5分間破砕した。
4)組織分解液を氷の上に置いて30分間分解した。
5)12,000rpmで4℃で10分間遠心し、上清を取り、新しい1.5mLの遠心管に入れた。
【0065】
腫瘍組織タンパク質定量の方法
1)タンパク質抽出物を50倍希釈した(タンパク質抽出物2μL+RIPA細胞分解緩衝液98μL)。
2)標準品及び希釈サンプルを96ウェル透明プレートに10μL/ウェルで加えた。
3)試薬Aと試薬Bを50:1の割合で混合して調製した作業溶液を各ウェルに200μL添加した。
4)96ウェル透明プレートを37℃で30分間インキュベートした。
5)マイクロプレートリーダーにより562nmでOD値を検出し、ODの結果に従って腫瘍タンパク質を定量化した。
6)腫瘍サンプルの総タンパク質濃度をすべて2mg/mLにした。
7)BCA定量化キットによりタンパク質を定量化した。
8)定量結果に従って、RIPA分解液を用いてサンプルタンパク質濃度をすべて2μg/μLに希釈した。
9)MSD実験を行ったか、又は希釈したサンプルを-80℃の冷蔵庫に保管した。
【0066】
MSDサイトカインの検出
MSD試薬の調製
1)標準品の調製:標準品にDiluent 43希釈剤250μLを加え、均一に混合し、室温で15~30min静置し、Diluent 43で4倍段階希釈し、番号1~7の標準品を得た。なお、Diluent 43は番号8標準品とした。
2)サンプル希釈:Diluent 43でサンプルを希釈した。
3)抗体希釈:100X抗体原液を1Xに希釈した。
4)緩衝液の調製:脱イオン水で5X緩衝液を1Xに希釈した。
【0067】
MSD検出
1)指定されたリンカー300ulに各ビオチン抗体200μLを加えた。ボルテックスし、室温で30分間インキュベートした。
2)停止液を200μL加えた。ボルテックスし、室温で30分間インキュベートした。
3)各U-PLEXリンカー結合抗体溶液(10X)600μLを1本のチューブに混合してボルテックスした。
4)結合抗体の数が10未満である場合、停止液で溶液を6mlに増加した。
5)各ウェルに50μLのマルチプレックスコーティング溶液を加え、粘着プレートシールでプレートをシールし、室温で1時間振とうした。
6)150μL/ウェル1X MSD洗浄緩衝液で3回洗浄した。
7)標準品及び検出抗体溶液を調製した。
8)各ウェルに25μLのDiluent 43を加えた。
9)各ウェルに25μLの調製済み標準品、組織サンプル又は血清サンプルを加えた。粘着プレートシールでプレートをシールした。室温で1時間インキュベートした。
10)150μL/ウェル1X MSD洗浄緩衝液で3回洗浄した。
11)各ウェルに検出抗体液50μLを加えた。粘着プレートシールでプレートをシールした。室温で1時間インキュベートした。
12)150μL/ウェル1X MSD洗浄緩衝液で3回洗浄した。
13)各ウェルに150μLのLMSD GLOD読み取りバッファーを加えた。MSD装置でプレート読み取りを行った。
【0068】
この実験では、BALB/cマウスにCT26腫瘍モデルを構築し、異なる用量(0.25mg/kg、1mg/kg)のアズブジンでマウスを5日間処理し、最後の投与から2時間後に血清及び腫瘍サンプルを採取し、血清及び腫瘍組織中のサイトカイン(GM-CSF、MCP-1、IFNγ、IFNβ、TNFa、IL2、IL4、IL8、IL10)の放出レベルをMSD法で検出した(
図8)。
【0069】
血清サンプルでは、ブランク群に比較すると、アズブジン0.25mg/kg治療群はMCP-1の放出が有意に低減し、アズブジン0.25mg/kg及び1mg/kg治療群はIL8の放出が有意に低減し、他の因子が有意な変化が見られなかった。腫瘍組織では、ブランク群に比較すると、アズブジン0.25mg/kg及び1mg/kg治療群はIFNγ及びTNFαの放出が増加し、IFN-βの放出が低減し、一定の用量依存性を示した。上記の実験結果は、アズブジンがサイトカインの放出に対して一定の調節効果を有することを示した。
【0070】
実施例4 マウス結腸直腸癌CT-26同種移植腫瘍モデルにおけるアズブジンとPD-1抗体の併用の研究
さらに、マウス結腸直腸癌CT-26細胞株BALB/c雌マウスの皮下異種移植動物モデルにおけるアズブジンとPD-1抗体の併用の抗腫瘍効果。
【0071】
【0072】
試験結果の分析を以下の表に示す。
【0073】
【0074】
【0075】
この実験では、CT26同種移植腫瘍モデルにおける被験物質のインビボ薬効を評価した。異なる時点での各群の腫瘍体積を表5、表6及び
図9に示す。投与開始17日後、アズブジン(0.25mg/kg)は、担癌マウスの腫瘍体積が2,004mm
3に達したブランク対照群に比較すると、明らかな抗腫瘍効果を有し、腫瘍体積が768mm
3、T/Cが39.18%、TGIが63.26%、p値<0.0001であった。アズブジン(0.5mg/kg)は、ブランク対照群に比較すると、明らかな抗腫瘍効果を有し、腫瘍体積が347mm
3、T/Cが17.63%、TGIが84.85%、p値<0.0001であった。被験物質併用群であるアズブジン+抗PD-1(0.5+10mg/kg)は、ブランク対照群に比較すると、明らかな抗腫瘍効果を有し、腫瘍体積がそれぞれ119mm
3、T/Cがそれぞれ5.66%、TGIが96.5%、p値<0.0001であった。被験物質併用群における腫瘍重量の分析及び統計結果は、腫瘍体積のデータと基本的に合致した。
【0076】
実験動物の体重は、薬物毒性を間接的に測定するための参照指標とした。担癌マウスは、様々な用量の被験薬に対して良好な耐性を示し、すべての治療群では有意な体重減少が見られなかった。
【0077】
この実験では、被験物質であるアズブジン(0.25mg/kg)、アズブジン(0.5mg/kg)、及びアズブジン+抗PD-1(0.5+10mg/kg)は、試験用量でCT26同種移植腫瘍の増殖に対して有意な阻害効果を示した。この実験では、被験物質であるアズブジン(0.5mg/kg)と抗PD-1の併用により、このCT26モデルにおける単剤アズブジン及び単剤抗PD-1の抗腫瘍効果を向上させることができ、TGIはそれぞれ84.85%、74.16%から96.5%に向上した。
【0078】
実施例5 B細胞リンパ腫A20担癌マウスモデルにおけるアズブジンとPD-1抗体の併用の研究
アズブジンとPD-1抗体の併用がB細胞リンパ腫A20担癌マウスモデルにおいて生じる影響をさらに研究したところ、PD-1及びアズブジンをそれぞれの単独投与した場合は、B細胞リンパ腫A20担癌マウスに対して一定の阻害活性を示したが、アズブジンとPD-1抗体を併用した場合は、マウスの腫瘍進行が顕著に抑制された。
【0079】
【0080】
表7及び
図10に示すように、アズブジン1mg/kgと2mg/kgの2つの用量の場合、及びアズブジンと抗PD-1(1+10mg/kg)の併用の場合は、A20同種移植腫瘍の増殖に対して明らかな阻害効果を示し、TGIがそれぞれ70%、88%、81%であった。アズブジン1mg/kgと抗PD-1の併用により、このA20 B細胞性リンパ腫における単剤抗PD-1の抗腫瘍効果を向上させることができ、TGIは34.8%から81%に向上した。
【0081】
以上、本発明の具体的な実施形態を説明したが、これらは単なる例であり、本発明の原理及び要旨から逸脱することなく、これらの実施形態に対して様々な変更や修正を加え得ることは、当業者なら理解すべきである。従って、本発明の保護範囲は、添付の特許請求の範囲によって定義されるものである。