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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128914
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】二次電池および二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/134 20100101AFI20240913BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20240913BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20240913BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240913BHJP
   H01M 4/1395 20100101ALI20240913BHJP
【FI】
H01M4/134
H01M4/38 Z
H01M4/587
H01M4/62 Z
H01M4/1395
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023122966
(22)【出願日】2023-07-28
(31)【優先権主張番号】P 2023037930
(32)【優先日】2023-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 直利
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA02
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB29
5H050DA10
5H050GA10
5H050HA01
5H050HA05
5H050HA07
(57)【要約】
【課題】負極活物質として黒鉛粒子とSi系材料とを含む負極を備える二次電池であって、優れた初期充放電効率を有する二次電池を提供すること。
【解決手段】ここに開示される二次電池は、正極および負極60を有する電極体を備えた二次電池であって、負極60は、負極集電体62と、該負極集電体上に配置された負極活物質層64と、を備えている。負極活物質層64は、負極活物質として黒鉛粒子66およびSi含有粒子67と、導電材としてカーボンナノチューブ68と、を含む。Si含有粒子67は、網目構造状のSiナノ粒子67aを含有した多孔質体であり、多孔質体の少なくともいくつかの細孔67bには、カーボンナノチューブ68が配置されている。Si含有粒子67の重量を100wt%としたときに該Si含有粒子67に対するカーボンナノチューブ68の重量比Xが0.02wt%以上4wt%以下である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極および負極を有する電極体を備えた二次電池であって、
前記負極は、負極集電体と、該負極集電体上に配置された負極活物質層と、を備えており、
前記負極活物質層は、負極活物質として黒鉛粒子およびSi含有粒子と、導電材としてカーボンナノチューブと、を含み、
前記Si含有粒子は、網目構造状のSiナノ粒子を含有した多孔質体であり、
前記多孔質体の少なくともいくつかの細孔には、前記カーボンナノチューブが配置されており、
前記Si含有粒子の重量を100wt%としたときに該Si含有粒子に対する前記カーボンナノチューブの重量比Xが0.02wt%以上4wt%以下である、二次電池。
【請求項2】
前記Si含有粒子は植物由来である、請求項1に記載の二次電池。
【請求項3】
前記Si含有粒子は、直径が100nm以上の細孔と、直径が10nm以下の細孔と、を有しており、
直径が100nmの細孔のlog微分細孔容積をV100、直径が10nmの細孔のlog微分細孔容積V10としたときに、V100に対するV10の比(V10/V100)が1以上である、請求項1または2に記載の二次電池。
【請求項4】
前記Siナノ粒子は、平均粒子径が50nm以下である、請求項1または2に記載の二次電池。
【請求項5】
前記Si含有粒子は、前記網目構造状のSiナノ粒子と多孔質炭素粒子とを含むSi-C複合化合物、および/または、前記網目構造状のSiナノ粒子と多孔質Si粒子とを含むSi粒子である、請求項1または2に記載の二次電池。
【請求項6】
前記Si含有粒子は、酸素含有量が10wt%以下である、請求項1または2に記載の二次電池。
【請求項7】
負極活物質の全重量を100wt%としたときに、前記Si含有粒子の含有量は、10wt%以上60wt%以下である、請求項1または2に記載の二次電池。
【請求項8】
少なくとも負極活物質としての黒鉛粒子およびSi含有粒子と、導電材としてのカーボンナノチューブと、を用意する用意工程と、
前記用意したSi含有粒子とカーボンナノチューブとを混合し、第1混合物を用意する第1混合工程と、
前記第1混合物と前記黒鉛粒子とバインダと溶媒とを混合し、第2混合物を用意する第2混合工程と、
を含み、
前記用意工程で用意するSi含有粒子は、網目構造状のSiナノ粒子を含有した多孔質体であることを特徴とする、二次電池の製造方法。
【請求項9】
前記第1混合工程において、前記Si含有粒子の重量を100wt%としたときに該Si含有粒子に対する前記カーボンナノチューブの重量比Xが0.02wt%以上4wt%以下である、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記第2混合工程において、前記負極活物質の重量を100wt%としたときに、前記黒鉛粒子の含有量が40wt%以上90wt%以下である、請求項8または9に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池および二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の二次電池は、パソコン、携帯端末等のポータブル電源や、電気自動車(BEV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の車両駆動用電源などに好適に用いられている。このような二次電池に用いられる負極は、一般的に、負極集電体上に負極活物質を含む負極活物質層が配置された構成を有する。
【0003】
近年では、二次電池の高容量化等を目的として、負極活物質としてSi系材料を使用することが検討されている(例えば特許文献1~3)。特許文献1には、ミクロ細孔、メソ細孔、および/またはマクロ細孔を有する多孔質炭素材料と、ケイ素との複合体が開示されている。また、特許文献2には、植物性原料から生成した非結晶シリカを前駆体としたシリコン素材が開示されている。特許文献3には、Si系材料を含む負極活物質と、最外周径が5nm以下のカーボンナノチューブと、重量平均分子量が15万以上45万以下のカルボキシメチルセルロースと、を含む負極が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2018-534720号公報
【特許文献2】特開2021-38114号公報
【特許文献3】国際公開第2022/070895号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
Si系材料は、黒鉛粒子等の炭素材料と比較して比容量が大きい一方で、充放電時の膨張収縮が大きく、導電パスが切れやすい傾向にある。このため、Si系材料を用いた場合には、二次電池の初期特性(例えば初期の充放電効率)が低下しやすい。したがって、Si系材料を負極活物質として用いた場合、二次電池の初期特性の向上については未だ改善の余地がある。
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、負極活物質として黒鉛粒子とSi系材料とを含む負極を備える二次電池であって、優れた初期の充放電効率を有する二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここに開示される二次電池は、正極および負極を有する電極体を備えた二次電池であって、上記負極は、負極集電体と、該負極集電体上に配置された負極活物質層と、を備えており、上記負極活物質層は、負極活物質として黒鉛粒子およびSi含有粒子と、導電材としてカーボンナノチューブと、を含む。上記Si含有粒子は、網目構造状のSiナノ粒子を含有した多孔質体であり、上記多孔質体の少なくともいくつかの細孔には、上記カーボンナノチューブが配置されている。上記Si含有粒子の重量を100wt%としたときに該Si含有粒子に対する上記カーボンナノチューブの重量比Xが0.02wt%以上4wt%以下である。
【0008】
かかる構成によれば、Si含有粒子が網目状構造のSiナノ粒子を含有した多孔質体であることにより、導電パスが好適に形成される。また、Si含有粒子が複数の細孔を有し、当該細孔にカーボンナノチューブが好適に配置されることにより、黒鉛粒子とSi含有粒子との間にも導電パスが形成される。したがって、初期特性が高い二次電池を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、一実施形態に係る二次電池の内部構造を模式的に示す図である。
図2図2は、一実施形態に係る電極体の構成を模式的に示す図である。
図3図3は、一実施形態に係る負極を模式的に示す図である。
図4図4は、一実施形態に係る二次電池の製造方法を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、ここで開示される技術の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって、ここで開示される技術の実施に必要な事柄(例えば、ここに開示される技術を特徴付けない二次電池の一般的な構成および製造プロセス等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。ここで開示される技術は、本明細書に開示されている内容と、当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、各図面は模式的に描かれており、寸法関係(長さ、幅、厚み等)は実際の寸法関係を必ずしも反映するものではない。また、以下に説明する図面において、同じ作用を奏する部材、部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略または簡略化することがある。また、本明細書において範囲を示す「A~B」(A,Bは任意の数値)の表記は、A以上B以下を意味する。
【0011】
なお、本明細書において「二次電池」とは、正極と負極との間を電荷担体が移動することによって、充放電を繰り返すことができる電池をいう。また、本明細書において「リチウムイオン二次電池」とは、電荷担体としてリチウムイオンを利用し、正負極間におけるリチウムイオンに伴う電荷の移動により充放電が実現される二次電池をいう。
【0012】
図1は、一実施形態に係る二次電池100の内部構造を模式的に示す図である。図1に示すように、二次電池100は、正極50および負極60を有する電極体20と、電解液(図示せず)と、電極体20および電解液を収容する電池ケース30と、を備えている。図1に示される二次電池100は、ここでは、リチウムイオン二次電池である。ここに開示される負極60は、好ましくはリチウムイオン二次電池用の負極として用いられる。
【0013】
電池ケース30は、外部接続用の正極端子42および負極端子44と、電池ケース30の内圧が所定レベル以上に上昇した場合に該内圧を開放するように設定された薄肉の安全弁36と、が設けられている。また、電池ケース30には、非水電解液を注入するための注入口(図示せず)が設けられている。正極端子42は、正極集電板42aと電気的に接続されている。負極端子44は、負極集電板44aと電気的に接続されている。電池ケース30の材質としては、例えば、アルミニウム等の軽量で熱伝導性の良い金属材料が用いられる。
【0014】
図2は、電極体20の構成を模式的に示す図である。ここでは、電極体20は、扁平形状の捲回電極体である。図2に示すように、電極体20は、長尺シート状の正極50(以下、「正極シート50」ともいう。)と、長尺シート状の負極60(以下、「負極シート60」ともいう。)とが、2枚の長尺状のセパレータ70を介して重ね合わされて長手方向に捲回された形態を有する。正極シート50は、長尺状の正極集電体52の片面または両面(ここでは両面)に長手方向に沿って正極活物質層54が形成された構成を有する。負極シート60は、長尺状の負極集電体62の片面または両面(ここでは両面)に長手方向に沿って負極活物質層64が形成された構成を有する。図1および図2に示すように、正極集電体露出部52a(すなわち、正極活物質層54が形成されずに正極集電体52が露出した部分)および、負極集電体露出部62a(すなわち、負極活物質層64が形成されずに負極集電体62が露出した部分)は、電極体20の捲回軸方向(すなわち、上記長手方向に直交するシート幅方向)の両端から外方にはみ出すように形成されている。正極集電体露出部52aおよび負極集電体露出部62aには、それぞれ正極集電板42aおよび負極集電板44aが接合されている。
【0015】
正極シート50を構成する正極集電体52としては、リチウムイオン二次電池に用いられる公知の正極集電体を用いてよく、特に限定されない。例えば、導電性の良好な金属(例えば、アルミニウム、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等)製のシートまたは箔が挙げられる。正極集電体52としては、アルミニウム箔が好ましい。正極集電体52の寸法は特に限定されず、電池設計に応じて適宜決定すればよい。正極集電体52としてアルミニウム箔を用いる場合には、その厚みは、特に限定されないが、例えば5μm以上35μm以下であり、好ましくは7μm以上20μm以下である。
【0016】
正極活物質層54は、正極活物質を含有する。正極活物質としては、リチウムイオン二次電池に用いられる公知の組成の正極活物質を用いてよい。具体的に例えば、正極活物質として、リチウム複合酸化物、リチウム遷移金属リン酸化合物(例えば、リン酸鉄リチウム(LiFePO)、リン酸マンガンリチウム(LiMnPO))等を用いることができる。正極活物質の結晶構造は、特に限定されず、層状構造、スピネル構造、オリビン構造等であってよい。
【0017】
リチウム複合酸化物としては、遷移金属元素として、Ni、Co、Mnのうちの少なくとも1種を含むリチウム遷移金属複合酸化物が好ましく、その具体例としては、リチウムニッケル系複合酸化物、リチウムコバルト系複合酸化物、リチウムマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム系複合酸化物、リチウム鉄ニッケルマンガン系複合酸化物等が挙げられる。これらの正極活物質は、1種単独で用いてよく、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、正極活物質としては、リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物を好ましく用いることができる。
【0018】
なお、本明細書において「リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物」とは、Li、Ni、Co、Mn、Oを構成元素とする酸化物の他に、それら以外の1種または2種以上の添加的な元素を含んだ酸化物をも包含する用語である。かかる添加的な元素の例としては、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Y、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Na、Fe、Zn、Sn等の遷移金属元素や典型金属元素等が挙げられる。また、添加的な元素は、Y/Z、Si、P等の半金属元素や、S、F、Cl、Br、I等の非金属元素であってもよい。このことは、上記したリチウムニッケル系複合酸化物、リチウムコバルト系複合酸化物、リチウムマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム系複合酸化物、リチウム鉄ニッケルマンガン系複合酸化物等についても同様である。
【0019】
正極活物質層54は、正極活物質以外の成分、例えば、導電材、バインダ等を含んでいてもよい。導電材としては、例えばアセチレンブラック(AB)等のカーボンブラック;気相法炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ(CNT)等の炭素繊維;その他(例、グラファイトなど)の炭素材料を好適に使用し得る。バインダとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVdF)等を使用し得る。
【0020】
特に限定されないが、導電材の含有量は、正極活物質を100wt%としたときに、0.1wt%以上10wt%以下であることが好ましく、1wt%以上5wt%以下であることがより好ましい。また、バインダの含有量は、正極活物質を100wt%としたときに、0.1wt%以上10wt%以下であることが好ましく、1wt%以上5wt%以下であることがより好ましい。
【0021】
正極活物質層54の片面当たりの厚みは、特に限定されないが、例えば20μm以上であり、好ましくは50μm以上である。一方、当該厚みは、例えば300μm以下であり、好ましくは200μm以下である。
【0022】
セパレータ70としては、従来と同様の各種微多孔質シートを用いることができ、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等の樹脂から成る微多孔質樹脂シートが挙げられる。かかる微多孔質樹脂シートは、単層構造であってもよく、二層以上の複層構造(例えば、PE層の両面にPP層が積層された三層構造)であってもよい。また、セパレータ70は、耐熱層(HRL)を備えていてもよい。
【0023】
電解質は従来と同様のものを使用可能であり、例えば、有機溶媒(非水溶媒)中に、支持塩を含有させた非水電解液を用いることができる。非水溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類等の非プロトン性溶媒を用いることができる。なかでも、カーボネート類、例えば、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等を好適に採用し得る。あるいは、モノフルオロエチレンカーボネート(MFEC)、ジフルオロチレンカーボネート(DFEC)、モノフルオロメチルジフルオロメチルカーボネート(F-DMC)、トリフルオロジメチルカーボネート(TFDMC)のようなフッ素化カーボネート等のフッ素系溶媒を好ましく用いることができる。このような非水溶媒は、1種を単独で、あるいは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。支持塩としては、例えば、LiPF、LiBF、LiClO等のリチウム塩を好適に用いることができる。支持塩の濃度は、特に限定されるものではないが、0.7mol/L以上1.3mol/L以下程度が好ましい。
なお、上記非水電解質は、本技術の効果を著しく損なわない限りにおいて、上述した非水溶媒、支持塩以外の成分を含んでいてもよく、例えば、ガス発生剤、被膜形成剤、分散剤、増粘剤等の各種添加剤を含み得る。
【0024】
以下、ここに開示される二次電池の負極60について説明する。図3は、ここに開示される二次電池100の負極60を模式的に示す図である。図3に示すように、負極60は、負極集電体62と、該負極集電体62上に配置される負極活物質層64と、を備えている。負極集電体62は、従来公知のものを用いてよく、特に限定されない。例えば、銅、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等の金属製のシートまたは箔状体が挙げられる。負極集電体62として銅箔を用いる場合には、その平均厚みは特に限定されないが、例えば5μm以上30μm以下であり、好ましくは5μm以上20μm以下、より好ましくは5μm以上15μm以下である。
【0025】
負極活物質層64は、少なくとも負極活物質を含んでいる。負極活物質層64は、負極活物質として、少なくとも黒鉛粒子66とSi含有粒子67とを含んでいる。かかるSi含有粒子67は、網目構造状のSiナノ粒子67aを含有する多孔質体である。Si含有粒子67は、複数の細孔67bを有している。かかる複数の細孔67bのうち、少なくともいくつかの細孔67bには、カーボンナノチューブ68が配置されている。そして、Si含有粒子67の重量を100wt%としたときに該Si含有粒子67に対するカーボンナノチューブ68の重量比Xが0.02wt%以上4wt%以下に調整されている。かかる構成によれば、二次電池100の初期充放電効率を向上させることができる。
【0026】
ここに開示される技術を限定する意図はないが、かかる効果が得られる理由は、以下のように推測される。Si含有粒子67が、網目状構造を有するSiナノ粒子67aを含有する多孔質体であることにより、導電パスが好適に向上する。また、Si含有粒子67が複数の細孔67bを有していることにより、導電材としてのカーボンナノチューブ68がSi含有粒子67の周囲に好適に配置され、黒鉛粒子66とSi含有粒子67との間に良好な充電パスが形成される。このため、二次電池100の初期の充放電効率が向上する。また、充放電に伴う膨張収縮を繰り返したとしても、アンカー効果が発揮されることにより、カーボンナノチューブ68は複数の細孔67bから外れ難い。さらに、Siナノ粒子67aが網目状構造を有していることにより、Siナノ粒子67aの膨張を抑制することができ、膨張によるSiナノ粒子67aが損傷し難い。このため、充放電に伴う膨張収縮を繰り返したとしても導電パスが切れ難く、二次電池100のサイクル特性が向上する。
【0027】
黒鉛粒子66としては、例えば人造黒鉛、天然黒鉛等が用いられる。黒鉛粒子66は、その表面に非晶質炭素の被覆層を有していてもよい。特に限定されないが、黒鉛粒子66は略球形状であるとよい。なお、本明細書において、「略球形状」とは、球状、ラグビーボール状等を包含する用語であり、例えば、平均アスペクト比(粒子の外接する最小の長方形において、短軸方向の長さに対する超軸方向の長さの比。)が、例えば1~2(好ましくは、1~1.5)であるものをいう。
【0028】
黒鉛粒子66のD50粒子径は、特に限定されないが、例えば5μm以上30μm以下であることが好ましく、10μm以上25μm以下であることがより好ましい。なお、本明細書において、「黒鉛粒子のD50粒子径」とは、レーザー回折・光散乱法に基づく粒度分布測定により測定した体積基準の粒度分布において、微粒子側から累積50%に相当する粒子径のことをいう。
【0029】
Si含有粒子67は、網目状構造のSiナノ粒子67aを含む多孔質体である。Si含有粒子67は、Siを含む限り、Si以外の成分を含んでいてもよい。Si含有粒子67としては、例えば、SiOx、Si-C複合体、多孔質Si粒子内にSiナノ粒子が分散されたもの等が挙げられる。Si含有粒子67の多孔質体部分は、例えば、Siを主成分として構成されていてもよいし、炭素(C)を主成分として構成されていてもよい。例えば、Si含有粒子67としては、網目状構造を有するSiナノ粒子と多孔質炭素粒子とを含むSi-C複合体が好ましく採用される。あるいは、Si含有粒子67としては、網目状構造を有するSiナノ粒子と多孔質Si粒子とを含むSi粒子が好ましく採用される。なお、本明細書において「AはBを主成分として構成される」とは、Aを構成する成分のうち、重量基準でBが最大成分であることを意味する。
【0030】
Si含有粒子67は、複数の細孔(ポア)67bを有する多孔質体である。Si含有粒子67は、例えば、マイクロ細孔と、メソ細孔と、マクロ細孔とを有し得る。ここで、マイクロ細孔とは直径が2nm以下の細孔のことであり、メソ細孔とは直径が2nmを超えて50nm未満である細孔のことであり、マクロ細孔とは直径が50nm以上の細孔のことである。細孔サイズが大きすぎる場合には、電解液の侵食により二次電池100のサイクル特性が低下する虞がある。かかる観点からは、Si含有粒子67が有する細孔67bは、例えば、1nm以上300nm以下であることが好ましく、1nm以上250nm以下であってもよい。Si含有粒子67は、例えば、ナノサイズのポーラス構造を有するナノポーラス構造であり得る。
【0031】
特に限定されないが、Si含有粒子67は、直径が100nm以上の細孔と、直径が10nm以下の細孔と、を含んでいることが好ましい。Si含有粒子67が100nm以上の細孔を有していることにより、アンカー効果が発揮されやすくなり、Si含有粒子67の表面にカーボンナノチューブが好適に配置される。このため、二次電池100の初期の充放電効率を向上させることができる。さらに、充放電に伴ってSi含有粒子67が膨張収縮を繰り返したとしても、アンカー効果によって導電材が外れにくく、導電パスが切れ難い。したがって、二次電池100のサイクル特性も向上させ得る。Si含有粒子67が10nm以下の細孔を有していることにより、電解液の侵食と充放電に伴う膨張収縮を好適に抑制することができる。これにより、二次電池100のサイクル特性を向上させることができる。
【0032】
より好ましくは、Si含有粒子67は、直径100nmの細孔のlog微分細孔容積V100に対する直径10nmの細孔のlog微分細孔容積V10の比(V10/V100)が、1以上となるように調整されているとよい。すなわち、Si含有粒子67は、直径が比較的大きい細孔(例えば、直径100nmの細孔)よりも、直径が比較的小さい細孔(例えば、直径10nmの細孔)が多いナノポーラス構造を有していることが好ましい。これにより、二次電池100の初期の充放電効率と、サイクル特性とを好適に両立させることができる。上記したV100に対するV10の比(V10/V100)は、1を超えることが好ましく、1.2以上であることがより好ましく、1.5以上であってもよい。また、V100に対するV10の比(V10/V100)は、例えば20以下であることが好ましく、10以下であってもよい。
【0033】
直径が100nmの細孔のlog微分細孔容積V100と、直径が10nmの細孔のlog微分細孔容積V10とは、比表面積・細孔分布測定装置を用いて、BJH法に基づき算出することができる。まず、Si含有粒子を真空下で加熱乾燥して、測定試料とする。次いで、液体窒素を冷媒として用いて、窒素ガス(Nガス)を吸着ガスとして測定試料の吸着等温線を取得し、得られた吸着等温線をBJH法により解析して、log微分細孔容積分布を求める。そして、log微分細孔容積分布から、直径が100nmの細孔のlog微分細孔容積V100と、直径が10nmの細孔のlog微分細孔容積V10とを求めることができる。
【0034】
Si含有粒子67は、網目状構造のSiナノ粒子67aを有している。Siナノ粒子67aは、ナノサイズ(すなわち、1μm未満)のSi粒子である。Siナノ粒子67aは、上記した多孔質体の表面および/または多孔質体の細孔67bの内部に存在し得る。Siナノ粒子67aは、100nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましい。これにより、Siナノ粒子67aの一粒あたりの充放電時の膨張収縮量を小さくすることができ、膨張収縮を繰り返しても割れ難くなる。また、特に限定されないが、Siナノ粒子67aの平均粒子径は、例えば、5nm以上であり得る。なお、本明細書において、「Siナノ粒子の平均粒子径」は、以下のようにして求めることができる。まず、負極活物質層を、FIB(集束イオンビーム)加工によって、走査透過型電子顕微鏡(STEM)観察用の試料を作製する。そして、当該試料をEDX元素マッピングにより元素分析した後、BF像(明視野像)およびHAADF像(高角散乱環状暗視野像)を取得する。BF像およびHAADF像により得られるコントラストおよび形状から、Siナノ粒子の直径を求めることができる。少なくとも10個のSiナノ粒子の直径の算術平均のことをここでの「Siナノ粒子の平均粒子径」とする。
【0035】
Siナノ粒子67aは、網目状構造を有している。かかる網目状構造は、複数の空隙がランダムあるいは規則的に形成されている。Siナノ粒子67aが網目状構造を有していることにより、導電パスが好適に向上する。また、Siナノ粒子67aが網目状構造を有していることにより、充放電に伴ってSiナノ粒子67aが過度に膨張収縮することが抑制される。
【0036】
特に限定されないが、Si含有粒子67は、上記したSiナノ粒子67aの周囲に複数の細孔67bが存在していることが好ましい。特に、Siナノ粒子67aの周囲に直径が小さい細孔(例えば直径10nm以下の細孔)が多く存在していることが好ましい。これにより、充放電に伴う膨張収縮を緩和しつつ、電解液の侵食を好適に抑制することができる。
【0037】
特に限定されないが、Si含有粒子の酸素含有量は、Si含有粒子全体を100wt%としたときに、例えば10wt%以下であることが好ましい。これにより、酸素含有量が多すぎることに起因する副反応を減少させることができ、二次電池の容量やサイクル特性を好適に向上させることができる。なお、酸素含有量は、酸素分析装置を用いて、不活性ガス中で加熱溶融することにより測定することができる。
【0038】
Si含有粒子67のD50粒子径は、特に限定されないが、例えば1μm以上15μm以下であることが好ましく、2μm以上10μm以下であることがより好ましい。なお、本明細書において、「Si含有粒子のD50粒子径」とは、レーザー回折・光散乱法に基づく粒度分布測定により測定した体積基準の粒度分布において、微粒子側から累積50%に相当する粒子径のことをいう。
【0039】
上記したSi含有粒子67は、例えば、Siを含有する植物を焼成することによって得ることができる。すなわち、Si含有粒子67は、植物由来であることが好ましい。具体的には、米(稲)、大麦、小麦、ライ麦等のもみ殻、椰子殻、茶葉、サトウキビ、トウモロコシ、等の植物を原料とするとよい。なかでも、Si含有粒子67はもみ殻を原料とすることが好ましい。植物は細胞壁の周囲に土中から吸収したケイ酸を蓄積している。これを焼成することにより、植物由来の網目状構造を有するSiナノ粒子67aを含有する多孔質体を得ることができる。ただし、Si含有粒子67は、SiまたはCを主体として構成される多孔質体と、網目状構造を有するSiナノ粒子とをそれぞれ用意し、当該多孔質体にSiナノ粒子を導入することにより用意してもよい。
【0040】
負極活物質層64は、本技術の効果を著しく損なわない限りにおいて、負極活物質として、上記した黒鉛粒子66とSi含有粒子以外の成分(例えば、上記したような構造を有しないSiOxやハードカーボン等)を含んでいてもよい。
【0041】
特に限定されないが、負極活物質の全重量(黒鉛粒子66の重量とSi含有粒子67の重量とその他負極活物質として含み得る成分の重量の合計重量)を100wt%としたときに、Si含有粒子67の含有量は、10wt%以上60wt%以下であることが好ましく、20wt%以上40wt%以下であることがより好ましい。負極活物質の全重量を100wt%としたときに、黒鉛粒子66の含有量は、40wt%以上90wt%以下であることが好ましく、60wt%以上80wt%以下であることがより好ましい。すなわち、黒鉛粒子66の重量とSi含有粒子の重量との重量比は、90:10~40:60となるように調整されていることが好ましく、80:20~60:40となるように調整されていてもよい。Si含有粒子67の重量が上記した範囲に調整されていることで、初期の充放電効率とサイクル特性の向上とが好適に両立され得る。
【0042】
ここに開示される二次電池100においては、導電材としてカーボンナノチューブ(CNT)68を用いている。カーボンナノチューブ68は、炭素六角網をなすグラフェンが筒状に丸められた構造を有する繊維状の炭素である。カーボンナノチューブ68はアスペクト比が高く導電性に優れる性質を有している。このため、カーボンナノチューブ68は、黒鉛粒子66とSi含有粒子67とに絡みつきやすく、導電パスが好適に維持される。また、上記したとおり、Si含有粒子67は複数の細孔67bを有しており、かかる細孔67bにカーボンナノチューブ68が配置されることにより、充放電に伴う膨張収縮を繰り返したとしてもSi含有粒子67から外れ難く、導電パスが好適に維持される。
【0043】
カーボンナノチューブ68としては、例えば、1層のグラフェンにより構成される単層カーボンナノチューブ(SWCNT)、異なる2つのSWCNTから構成される二層カーボンナノチューブ(DWCNT)、異なる3つ以上のSWCNTから構成される多層カーボンナノチューブ(MWCNT)等が挙げられる。二次電池100の容量をさらに向上させる観点からは、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)が好ましい。
【0044】
特に限定されるものではないが、カーボンナノチューブ68の平均長さは、1μm以上10μm以下であることが好ましく、1μm以上5μm以下であることがより好ましい。カーボンナノチューブ68がかかる範囲の長さであることにより、カーボンナノチューブ68が適切に分散し、好適な導電パスが形成される。また、カーボンナノチューブ68の平均直径は、特に限定されないが、1nm以上100nm以下であることが好ましく、10nm以上50nm以下であることがより好ましい。カーボンナノチューブ68の平均長さおよび平均直径は、例えば、カーボンナノチューブの電子顕微鏡写真を撮影し、30個以上のカーボンナノチューブの長さおよび直径を測定し、その平均値からそれぞれ求めることができる。
【0045】
Si含有粒子67が細孔67bを有しており、Si含有粒子67とカーボンナノチューブ68との重量比が適切に調整されていることにより、Si含有粒子67の周囲(具体的には、Si含有粒子67が有する細孔67bの少なくとも一部)にカーボンナノチューブ68が好適に配置される。これにより、負極活物質層64内において導電パスが好適に形成されるため、初期の充放電効率が向上する。Si含有粒子67の重量を100wt%としたときに該Si含有粒子67に対するカーボンナノチューブ68の重量比Xは、0.02wt%以上4wt%以下であることが好ましく、0.2wt%以上1wt%以下であることがより好ましく、0.2wt%以上0.6wt%以下であることがさらに好ましい。換言すれば、ここに開示される二次電池100は、Si含有粒子67の含有量(wt%)に対するカーボンナノチューブ68の含有量(wt%)の比(CNT/Si含有粒子)が、0.0002以上0.04以下であることが好ましく、0.002以上0.01以下であることがより好ましく、0.002以上0.006以下であることがさらに好ましい。
【0046】
特に限定されないが、負極活物質の全重量を100wt%としたときにカーボンナノチューブの含有量は、0.01wt%以上1.4wt%以下であることが好ましく、0.1wt%以上1wt%以下であることがより好ましく、0.1wt%以上0.2wt%以下であることがさらに好ましい。すなわち、負極活物質とカーボンナノチューブとは、重量基準で、負極活物質:CNT=100:0.01~100:1.4であることが好ましく、負極活物質:CNT=100:0.1~100:1であることがより好ましく、負極活物質:CNT=100:0.1~100:0.2であることがさらに好ましい。
【0047】
負極活物質層64は、上記した負極活物質(黒鉛粒子66およびSi含有粒子67)および導電材(カーボンナノチューブ)以外の成分(例えばバインダ等)を含んでいてもよい。バインダとしては、従来公知のものを使用することができる。バインダとしては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリアクリル酸(PAA)、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等が挙げられる。なかでも、CMC、PAA、SBRを好ましく用いることができる。また、特に限定されないが、CMC、PAAおよびSBRを併用することがより好ましい。
【0048】
バインダ全体の含有量は、負極活物質を100wt%としたとき、例えば1wt%以上であって、3wt%以上であることが好ましく、3.5wt%以上であることがより好ましい。また、バインダ全体の含有量は、負極活物質を100wt%としたとき、10wt%以下であって、8wt%以下であることが好ましく、5wt%以下であることがより好ましい。
【0049】
Si含有粒子67が複数の細孔を有する多孔質体であることにより、カーボンナノチューブ68だけでなく、図示されないバインダもSi含有粒子67の周囲に配置されると推測される。これにより、カーボンナノチューブ68がSi含有粒子67からより外れ難くなり、初期の充放電効率およびサイクル特性が向上し得る。
【0050】
負極活物質層64の片面当たりの厚みは、特に限定されないが、例えば20μm以上であり、好ましくは50μm以上である。一方、当該厚みは、例えば300μm以下であり、好ましくは200μm以下である。
【0051】
特に限定されないが、負極活物質層64全体に占める負極活物質の割合は、例えば、80質量%以上であって、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がさらに好ましい。また、特に限定されるものではないが、負極活物質層64全体に占める負極活物質の割合は、例えば98質量%以下であってよい。
【0052】
<二次電池の製造方法>
上記したように、ここに開示される二次電池100は、黒鉛粒子66とSi含有粒子67とカーボンナノチューブ68とを含み、該Si含有粒子67の細孔の少なくとも一部にカーボンナノチューブ68が配置されている。かかる二次電池100は、例えば以下のように製造することができる。
【0053】
図4は、ここに開示される二次電池100の製造方法の好適な実施形態の一つを示すフローチャート図である。図4に示すように、ここに開示される二次電池100の製造方法は、各材料を用意する用意工程S10と、用意した材料を混合する混合工程S20と、を含んでいる。混合工程S20は、Si含有粒子と、カーボンナノチューブと、を混合し、第1混合物を用意する第1混合工程S21と、第1混合物と、黒鉛粒子と、バインダと、溶媒と、を混合し、第2混合物を用意する第2混合工程S22と、を含むことが好ましい。ただし、ここに開示される製造方法は、任意の段階でさらに他の工程を含んでいてもよい。
【0054】
用意工程S10では、少なくとも黒鉛粒子66とSi含有粒子67とカーボンナノチューブ68とを用意する。また、用意工程S10では、その他必要な成分(例えば、バインダや溶媒等)を用意し得る。黒鉛粒子66は、上記したとおり、天然黒鉛や人造黒鉛を好ましく用いることができる。Si含有粒子67としては、網目状構造を有するSiナノ粒子67aを含む多孔質体を用意する。かかるSi含有粒子67としては、例えば植物由来のSi-C複合体および/またはSi粒子を用意するとよい。より好ましくは、Si含有粒子67として、もみ殻由来のSi-C複合体および/またはSi粒子を用意するとよい。カーボンナノチューブ68としては、固形分率が1%~10%程度の水溶性ペースト状のものを用意するとよい。
【0055】
バインダとしては、上記において例示したものを特に制限することなく用いることができる。溶媒としては、水系溶媒および非水系溶媒の何れも使用可能である。典型的には、水または水を主体とする混合溶媒が好ましく用いられる。かかる混合溶媒を構成する水以外の溶媒成分としては、水と均一に混合し得る有機溶媒(低級アルコール、低級ケトン等)の一種または二種以上を適宜選択して用いることができる。例えば、該水系溶媒の80質量%以上(より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上)が水である水系溶媒の使用が好ましい。特に好ましい例として、実質的に水からなる水系溶媒が挙げられる。
【0056】
混合工程S20は、第1混合工程S21と第2混合工程S22とを含み得る。第1混合工程S21では、Si含有粒子67とカーボンナノチューブ68とを混合し、第1混合物を作製する。Si含有粒子67とカーボンナノチューブ68とを予め混合してから他の材料と混合することにより、Si含有粒子67の細孔67bの一部にカーボンナノチューブ68を好適に配置することができる。このため、導電パスが形成されやすくなり、二次電池100の初期の充放電効率を向上させることができる。
【0057】
第1混合工程S21では、例えば、粉末状のSi含有粒子67と、ペースト状のカーボンナノチューブ68とを撹拌装置に投入し、混合する。撹拌装置は、例えば、回転する攪拌子(ディスパー翼、タービン翼などの攪拌翼、攪拌羽根)を有していればよく、特に限定されない。撹拌の回転数は、特に限定されないが、例えば1000rpm~5000rpm程度であるとよい。
【0058】
第2混合工程S22では、第1混合工程S21で作製した第1混合物と、黒鉛粒子66と、バインダと、溶媒と、を混合し、第2混合物を作製する。撹拌装置は、特に限定されず、第1混合工程S21と同様の撹拌装置を用いてもよい。特に限定されないが、第2混合工程S22において粉末状のバインダを用いる場合には、粉体状である黒鉛粒子66とバインダとを乾式混合した後に、第1混合物と溶媒とを加えて固練り混錬するとよい。これにより、分散性が向上し得る。
【0059】
上記作製した第2混合物を負極集電体62に塗布し、乾燥させる。なお、負極集電体62上に配置された負極活物質層64を、必要に応じて乾燥およびプレスする工程が行われてもよい。これにより、負極活物質層64の厚みや密度を調整することができる。
【0060】
正極活物質層54は、正極活物質と導電材とバインダとを、適当な溶媒(例えばNMP)に分散させ、ペースト状(またはスラリー状)の組成物を調製し、該組成物を正極集電体52の表面に塗布して、乾燥することにより形成することができる。その後、必要に応じてプレスすることにより、正極活物質層54の厚みや密度を調整することができる。
【0061】
上記作製した負極60および正極50を、2枚のセパレータ70によって絶縁された状態となるように積層する。必要に応じて、用意した積層体を、捲回軸を中心として長手方向に捲回し、捲回した積層体をプレス処理して、扁平形状の捲回電極体を作製する。当該捲回電極体を電池ケース30に収容し、注液孔から非水電解液を注液する。その後、注液孔を封止して、二次電池100を密閉する。以上のようにして、二次電池100を製造することができる。
【0062】
以上、一実施形態に係る二次電池100の構成及び二次電池100の製造方法について説明した。かかる二次電池100は、黒鉛粒子66とSi含有粒子67とカーボンナノチューブ68とを含み、該Si含有粒子67の細孔67bの少なくとも一部にカーボンナノチューブ68が配置されていることにより、初期の充放電効率が向上する。さらに、かかる細孔67bにカーボンナノチューブ68が配置されていることにより、充放電の繰り返しによる膨張収縮によって導電パスが切れることが好適に抑制され、二次電池100のサイクル特性が向上する。かかる二次電池100は各種用途に利用可能であるが、例えば、乗用車、トラック等の車両に搭載されるモータ用の動力源(駆動用電源)として好適に用いることができる。特に電気自動車(BEV;Battery Electric Vehicle)の動力源として好適である。二次電池100は、組電池の構築においても好適に用いることができる。
【0063】
上述の二次電池100では、電極体20として捲回電極体を例示したが、これに限られず、例えば、複数の略矩形状の正極と、複数の略矩形状の負極とがセパレータを介して交互に積層された電極体である積層電極体であってもよい。
【0064】
以下、本発明に関する試験例を説明するが、本発明を以下の試験例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0065】
1.第1試験
第1試験では、Si含有粒子の種類、Si含有粒子とCNTとの重量比、および、混合方法をそれぞれ変更して、二次電池の初期充放電効率を評価した。
【0066】
<例1>
まず、負極活物質として、黒鉛粒子と、Si含有粒子と、を用意した。例1のSi含有粒子は、もみ殻を原料とした植物由来のSi-C複合粒子である。また、導電材として、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)を用意した。そして、バインダとして、カルボキシメチルセルロース(CMC)と、ポリアクリル酸(PAA)と、スチレンブタジエンラバー(SBR)と、を用意した。これらを、重量基準で黒鉛粒子:Si含有粒子:SWCNT:CMC:PAA:SBR=65:35:0.1:1:1:1.5となるように、溶媒としての水と混錬し、負極活物質層形成用スラリーを調製した。
【0067】
具体的に、負極活物質層形成用スラリーの混合および混錬は、以下のようにして実施した。まず、Si含有粒子と、ペースト状のSWCNT(固形分率2%)と、溶媒と、を容器に投入した。ディスパーを用いて、回転数3000rpmで混合し、第1混合物を作製した。次いで、撹拌造粒機を用いて、黒鉛粒子と、CMCと、PAAと、を乾式混合し、この混合粉体に上記作製した第1混合物と、溶媒と、を加えて、固練り混錬した。固練り混錬時の固形分率は65%であった。固練り混錬した混合物に対して、さらにSBRと、溶媒とを加えて混合した。このようにして、負極活物質層形成用スラリーを調製した。
なお、混錬時の固形分率C(%)については、以下のようにして決定した。上記した比率の黒鉛粒子とSi含有粒子との混合粉体に対して加水し、混合に必要なトルクが最大となる水分率をA(%)とする。水分率A(%)に相当する混合粉体100gあたりの水分量をB(ml)とする。このとき、トルク最大を与えることができる固形分率C(%)は、式:C(%)=100-A=(100/(100+B))×100;から算出することができる。
【0068】
上記調製した負極活物質層形成用スラリーを、銅箔(厚み10μm)の両面に帯状に塗布した。そして、銅箔上のスラリーを乾燥し、所定の厚みまでプレスした後、所定の寸法に加工することで負極シートを作製した。
【0069】
次いで、正極活物質としてのリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(NCM)と、導電材としてのアセチレンブラック(AB)と、バインダとしてのPVDFとを用意した。これらを、NCM:AB:PVDF=100:1:1の重量比となるように、溶媒としてのN-メチルピロリドン(NMP)と混合し、正極活物質層形成用スラリーを調製した。このスラリーを、アルミニウム箔(厚み15μm)の両面に帯状に塗布した。そして、アルミニウム箔上のスラリーを乾燥し、所定の厚みまでプレスした後、所定の寸法に加工することで正極シートを作製した。
【0070】
上記用意した負極シートと、正極シートとをセパレータを介して積層し、積層電極体を作製した。正極板と負極板とにそれぞれ集電用のリードを取り付け、積層電極体をアルミニウムラミネートシートで構成される外装体に挿入した。外装体の内部に非水電解液を注入し、外装体の開口部を封止して例1の評価用電池を作製した。なお、セパレータとしては、PP/PE/PPの三層構造を有する多孔性ポリオレフィンシートを使用した。また、非水電解液としては、エチレンカーボネート(EC)と、フルオロエチレンカーボネート(FEC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)と、ジメチルカーボネート(DMC)とを、EC:FEC:EMC:DMC=15:5:40:40の体積比となるように混合した混合溶媒に、支持塩としてのLiPFを1mol/Lの濃度で溶解させたものを用いた。
【0071】
表1には、負極活物質の重量を100wt%としたときのSi含有粒子の含有量(wt%)、Si含有粒子の重量を100wt%としたときに当該Si含有粒子に対するSWCNTの重量比X(wt%)、負極活物質の重量を100wt%としたときのSWCNTの含有量(wt%)をそれぞれ示す。なお、SWCNTの重量比Xは、式:SWCNTの重量比X=((SWCNTの含有量)/(Si含有粒子の含有量))×100;から求めることができる。
【0072】
<例2、例3、例5および例6>
Si含有粒子の重量を100wt%としたときに当該Si含有粒子に対するSWCNTの重量比X(wt%)、を表1に示すように変更したこと以外は、例1と同様にして、例2、例3、例5および例6の評価用電池を作製した。
【0073】
<例4>
例4は、Si含有粒子とSWCNTとを先混ぜする工程を実施しなかった。すなわち、撹拌造粒機を用いて、Si含有粒子と、黒鉛粒子と、CMCと、PAAと、を乾式混合し、この混合粉体にペースト状のSWCNT(固形分率2%)と、溶媒と、を加えて、固練り混錬した。固練り混錬時の固形分率は65%であった。固練り混錬した混合物に対して、さらにSBRと、溶媒とを加えて混合した。このようにして、負極活物質層形成用スラリーを調製した。上記した以外は、例1と同様にして、例4の評価用電池を作製した。
【0074】
<例7>
Si含有粒子として、CVD法によって作製されたSi-C複合粒子を用意した。このこと以外は、例1と同様にして、例7の評価用電池を作製した。
【0075】
<初期充放電効率の評価>
25℃環境下、CCCV充電(4.2Vまでレート0.05C、その後0.05Cカット)をした後、CC放電(レート0.05Cで2.5Vカット)する初回サイクルにおいて、初回の充電容量と初回の放電容量とを測定した。初期充放電効率を以下の式(1)により求めた。結果を表1に示す。
初期充放電効率(%)=((初回放電容量)/(初回充電容量))×100 ・・・式(1)
【0076】
【表1】
【0077】
表1に示すように、例1~4の評価用電池では、初期充放電効率が82%以上であることがわかる。これらの結果より、負極活物質として黒鉛粒子と、網目状構造のSiナノ粒子を含有した多孔質体であるSi含有粒子と、を備え、Si含有粒子の重量を100wt%としたときに該Si含有粒子に対するカーボンナノチューブの重量比Xが0.02wt%以上4wt%以下であり、多孔質体の少なくともいくつかの空孔にCNTが配置されていることにより、初期充放電効率に優れる二次電池が実現される。
【0078】
また、表1の例1~3と例4とを比較すると、Si含有粒子とSWCNTとを先混ぜする第1混合工程を実施した後に第2混合工程を実施することで、多孔質体の空孔にCNTが配置されやすくなり、初期充放電効率がさらに向上することがわかる。
【0079】
2.第2試験
第2試験では、Si含有粒子とCNTとの重量比、および、多孔質体の細孔分布比をそれぞれ変更して、二次電池のサイクル特性を評価した。
【0080】
<例11>
Si含有粒子の多孔質体の細孔分布比(V10/V100)が1.5であること以外は、例1と同様にして、例11の評価用電池を作製した。
【0081】
<例12~例15>
Si含有粒子として、多孔質体の細孔分布比(V10/V100)が表1に示す値であるものをそれぞれ用意した。また、Si含有粒子の重量を100wt%としたときに当該Si含有粒子に対するカーボンナノチューブの重量比Xを表1に示すように変更した。これらのこと以外は、例1と同様にして、例12~例15の評価用電池を作製した。
【0082】
<細孔分布比の算出>
細孔分布比は、比表面積・細孔分布測定装置(マイクロメリテックス社製ASAP2020)を用いてBJH法に基づき算出した。まず、Si含有粒子を真空下で加熱乾燥して、測定試料とした。次いで、液体窒素を冷媒として用いて、窒素ガス(Nガス)を吸着ガスとして測定試料の吸着等温線を取得した。得られた吸着等温線をBJH法により解析して、log微分細孔容積分布を求めた。そして、log微分細孔容積分布から、直径が100nmの細孔のlog微分細孔容積V100と、直径が10nmの細孔のlog微分細孔容積V10とを求め、V100に対するV10の比(V10/V100)を求めた。結果を表2に示す。
【0083】
<サイクル容量維持率の評価>
25℃環境下、CCCV充電(4.2Vまでレート0.4C、その後0.1Cカット)をした後、CC放電(レート0.4Cで2.5Vカット)することを1サイクルとして、250サイクル充放電を繰り返すサイクル試験を行った。1サイクル目の放電容量(初期容量)と、250サイクル目の放電容量とを測定し、サイクル容量維持率を以下の式(2)により求めた。サイクル容量維持率が高いほど、二次電池のサイクル特性が高いと言える。結果を表2に示す。
サイクル容量維持率(%)=((250サイクル目の放電容量)/(1サイクル目の放電容量))×100 ・・・式(2)
【0084】
【表2】
【0085】
表2に示すように、例11~13の評価用電池では、容量維持率が79%以上であることがわかる。これらの結果より、負極活物質として黒鉛粒子と、網目状構造のSiナノ粒子を含有した多孔質体であるSi含有粒子と、を備え、Si含有粒子の重量を100wt%としたときに該Si含有粒子に対するカーボンナノチューブの重量比Xが0.02wt%以上4wt%以下であり、多孔質体の少なくともいくつかの空孔にCNTが配置されていることにより、二次電池のサイクル特性を向上することができる。
【0086】
表2の例11および例12と、例13とを比較すると、多孔質体の細孔分布比(V10/V100)が1以上であることにより、容量維持率が86%以上となることがわかる。すなわち、多孔質体の細孔分布比(V10/V100)が1以上であることにより、さらに二次電池のサイクル特性を向上することができる。
【0087】
以上、本発明のいくつかの実施形態について説明したが、上記実施形態は一例に過ぎない。本発明は、他にも種々の形態にて実施することができる。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。請求の範囲に記載の技術には、上記に例示した実施形態を様々に変形、変更したものが含まれる。例えば、上記した実施形態の一部を他の変形態様に置き換えることも可能であり、上記した実施形態に他の変形態様を追加することも可能である。また、その技術的特徴が必須なものとして説明されていなければ、適宜削除することも可能である。
【0088】
以上のとおり、ここに開示される技術の具体的な態様として、以下の各項に記載のものが挙げられる。
項1:正極および負極を有する電極体を備えた二次電池であって、前記負極は、負極集電体と、該負極集電体上に配置された負極活物質層と、を備えており、前記負極活物質層は、負極活物質として黒鉛粒子およびSi含有粒子と、導電材としてカーボンナノチューブと、を含み、前記Si含有粒子は、網目構造状のSiナノ粒子を含有した多孔質体であり、前記多孔質体の少なくともいくつかの細孔には、前記カーボンナノチューブが配置されており、前記Si含有粒子の重量を100wt%としたときに該Si含有粒子に対する前記カーボンナノチューブの重量比Xが0.02wt%以上4wt%以下である、二次電池。
項2:前記Si含有粒子は植物由来である、項1に記載の二次電池。
項3:前記Si含有粒子は、直径が100nm以上の細孔と、直径が10nm以下の細孔と、を有しており、直径が100nmの細孔のlog微分細孔容積をV100、直径が10nmの細孔のlog微分細孔容積V10としたときに、V100に対するV10の比(V10/V100)が1以上である、項1または項2に記載の二次電池。
項4:前記Siナノ粒子は、平均粒子径が50nm以下である、項1~項3のいずれか一つに記載の二次電池。
項5:前記Si含有粒子は、前記網目構造状のSiナノ粒子と多孔質炭素粒子とを含むSi-C複合化合物、および/または、前記網目構造状のSiナノ粒子と多孔質Si粒子とを含むSi粒子である、項1~項4のいずれか一つに記載の二次電池。
項6:前記Si含有粒子は、酸素含有量が10wt%以下である、項1~項5のいずれか一つに記載の二次電池。
項7:負極活物質の全重量を100wt%としたときに、前記Si含有粒子の含有量は、10wt%以上60wt%以下である、項1~項6のいずれか一つに記載の二次電池。
項8:少なくとも負極活物質としての黒鉛粒子およびSi含有粒子と、導電材としてのカーボンナノチューブと、を用意する用意工程と、
前記用意したSi含有粒子とカーボンナノチューブとを混合し、第1混合物を用意する第1混合工程と、前記第1混合物と前記黒鉛粒子とバインダと溶媒とを混合し、第2混合物を用意する第2混合工程と、を含み、前記用意工程で用意するSi含有粒子は、網目構造状のSiナノ粒子を含有した多孔質体であることを特徴とする、二次電池の製造方法。
項9:前記第1混合工程において、前記Si含有粒子の重量を100wt%としたときに該Si含有粒子に対する前記カーボンナノチューブの重量比Xが0.02wt%以上4wt%以下である、項8に記載の製造方法。
項10:前記第2混合工程において、前記負極活物質の重量を100wt%としたときに、前記黒鉛粒子の含有量が40wt%以上90wt%以下である、項8または項9に記載の製造方法。
【符号の説明】
【0089】
20 電極体
30 電池ケース
36 安全弁
42 正極端子
42a 正極集電板
44 負極端子
44a 負極集電板
50 正極(正極シート)
52 正極集電体
52a 正極集電体露出部
54 正極活物質層
60 負極(負極シート)
62 負極集電体
62a 負極集電体露出部
64 負極活物質層
66 黒鉛粒子
67 Si含有粒子
67a Siナノ粒子
67b 細孔
68 カーボンナノチューブ(CNT)
70 セパレータ
100 二次電池

図1
図2
図3
図4