(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128923
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】積層ポリエステルフィルムおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/36 20060101AFI20240913BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
B32B27/36
B32B27/00 L
B32B27/00 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023171781
(22)【出願日】2023-10-03
(31)【優先権主張番号】P 2023037296
(32)【優先日】2023-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤瀬 空
(72)【発明者】
【氏名】吉田 昌平
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 維允
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AK01B
4F100AK21B
4F100AK41A
4F100AK42A
4F100AK52C
4F100AT00C
4F100BA03
4F100BA07
4F100EH46B
4F100EH46C
4F100EJ38A
4F100GB41
4F100JA07B
4F100JK12
4F100JL14
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】本発明は、再利用性が高く、離型層密着性と剥離性を両立する積層ポリエステルフィルムを提供することを課題とする。
【解決手段】ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、水酸基を有する樹脂を含む層Xを介して、層Yが積層されてなる積層ポリエステルフィルムであって、以下の条件1を満たす積層ポリエステルフィルム。
条件1:
(1)スクラッチ試験機で測定される層Xと層Yの破壊強度が40mN以上80mN以下、かつ
(2)スクラッチ試験機で測定される層Xと層Yの硬さ指標が100以上300以下
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、水酸基を有する樹脂を含む層Xを介して、層Yが積層されてなる積層ポリエステルフィルムであって、以下の条件1を満たす積層ポリエステルフィルム。
条件1:
(1)スクラッチ試験機で以下の測定方法により測定される層Xと層Yの破壊強度が40mN以上80mN以下、かつ
(2)スクラッチ試験機で以下の測定方法により測定される層Xと層Yの硬さ指標が100以上300以下
<測定方法>
積層ポリエステルフィルムを4cm×4cmの正方形状に切りだし、スクラッチ試験機(レスカ社製CSR5000)の測定ステージに設置し、以下の条件にて層Y側表面のスクラッチ試験を行う。
装置:スクラッチ試験機(レスカ社製CSR5000)
測定条件:
スクラッチ速度:25μm/秒
励振振幅:50μm
励振周波数:45Hz
タッチ検出レベル:3.0mN
荷重条件:単調増加(+3.33mN/秒)
初期荷重:0mN
最大荷重:100mN
測定時間:30秒
触針:ダイヤモンド触針(スタイラス径15μm)
測定結果は、付属のソフトウェアによって解析され、横軸にプローブ押込強さ、縦軸にプローブの変位速度としてグラフ化される。そのグラフから、以下のように読み取る。
破壊強度:押込深さが最大値となるプローブ押込強さ[mN]
硬さ指標:プローブの変位速度の最大値
【請求項2】
ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、水酸基を有する樹脂を含む層Xを介して、層Yが積層されてなる積層ポリエステルフィルムであって、以下の条件2を満たす請求項1に記載の積層ポリエステルフィルム。
条件2:
(3)スクラッチ試験機で測定される層Xと層Yの破壊強度が45mN以上60mN以下、かつ
(4)スクラッチ試験機で測定される層Xと層Yの硬さ指標が200以上300以下
【請求項3】
前記水酸基を有する樹脂がビニルアルコール残基を有する樹脂である請求項1または2に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項4】
前記ビニルアルコール残基を有する樹脂が、平均重合度が700~5000の樹脂である、請求項3に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項5】
前記層Yがジメチルシロキサン残基を有する樹脂を含む請求項1または2に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項6】
前記層Xの厚みXt(nm)と前記層Yの厚みYt(nm)が以下の条件3を満たす請求項1に記載の積層ポリエステルフィルム。
条件3:10≦Xt≦500かつ20≦Yt≦1,000
【請求項7】
前記層Yが以下の条件4を満たす請求項5に記載の積層ポリエステルフィルム。
条件4:50≦ジメチルシロキサン残基を有する樹脂に対する白金触媒の含有量(質量ppm)≦4,000
【請求項8】
少なくとも積層セラミックコンデンサ(MLCC)製造工程用の離型フィルムの一部として用いられる請求項1または2に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項9】
前記層Yにおいて、層Xと接する面の反対面に被離型層が設けられてなり、層Yから被離型層を剥離する離型用途に用いられる請求項8に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項10】
層Yから被離型層を剥離した後、層Xと層Yが除去される用途に用いられる請求項8に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項11】
層Yから被離型層を剥離した後、層Xを膨潤させた後に層Xと層Yが除去される用途に用いられる請求項10に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項12】
層Yから被離型層を剥離した後、層Xを膨潤させた後に層Xと層Yが物理的外力により除去される用途に用いられる請求項11に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項13】
層Xと層Yを除去した積層ポリエステルフィルムを再利用する用途に用いられる請求項1または2に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項14】
請求項1または2に記載の積層ポリエステルフィルムの製造方法であって、層Yを形成後に40℃以上100℃以下の温度で20時間以上60時間以下フィルムを熱処理する工程を含む積層ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項15】
請求項1または2に記載のポリエステルフィルムの製造方法であって、平均重合度が700~5000のビニルアルコール基を有する樹脂を用いて層Xを形成する製造方法。
【請求項16】
ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、水酸基を有する樹脂を含む層Xを介して、層Yが積層されてなる積層ポリエステルフィルムであって、以下の条件5を満たす積層ポリエステルフィルム。
条件5:
(5)スクラッチ試験機で測定される層Xと層Yの破壊強度が45mN以上55mN以下、かつ
(6)スクラッチ試験機で測定される層Xと層Yの硬さ指標が220以上280以下
<測定方法>
積層ポリエステルフィルムを4cm×4cmの正方形状に切りだし、スクラッチ試験機(レスカ社製CSR5000)の測定ステージに設置し、以下の条件にて層Y側表面のスクラッチ試験を行う。
装置:スクラッチ試験機(レスカ社製CSR5000)
測定条件:
スクラッチ速度:25μm/秒
励振振幅:50μm
励振周波数:45Hz
タッチ検出レベル:3.0mN
荷重条件:単調増加(+3.33mN/秒)
初期荷重:0mN
最大荷重:100mN
測定時間:30秒
触針:ダイヤモンド触針(スタイラス径15μm)
測定結果は、付属のソフトウェアによって解析され、横軸にプローブ押込強さ、縦軸にプローブの変位速度としてグラフ化される。そのグラフから、以下のように読み取る。
破壊強度:押込深さが最大値となるプローブ押込強さ[mN]
硬さ指標:プローブの変位速度の最大値
【請求項17】
請求項16に記載の積層ポリエステルフィルムの製造方法であって、層Yを形成後に40℃以上100℃以下の温度で20時間以上60時間以下フィルムを熱処理する工程を含む積層ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項18】
ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、水酸基を有する樹脂を含む層Xを介して、層Yが積層されてなる積層ポリエステルフィルムであって、以下の条件6を満たす積層ポリエステルフィルム。
条件6:
(7)スクラッチ試験機で測定される層Xと層Yの破壊強度が55mNを超え60mN以下、かつ
(8)スクラッチ試験機で測定される層Xと層Yの硬さ指標が200以上220未満
<測定方法>
積層ポリエステルフィルムを4cm×4cmの正方形状に切りだし、スクラッチ試験機(レスカ社製CSR5000)の測定ステージに設置し、以下の条件にて層Y側表面のスクラッチ試験を行う。
装置:スクラッチ試験機(レスカ社製CSR5000)
測定条件:
スクラッチ速度:25μm/秒
励振振幅:50μm
励振周波数:45Hz
タッチ検出レベル:3.0mN
荷重条件:単調増加(+3.33mN/秒)
初期荷重:0mN
最大荷重:100mN
測定時間:30秒
触針:ダイヤモンド触針(スタイラス径15μm)
測定結果は、付属のソフトウェアによって解析され、横軸にプローブ押込強さ、縦軸にプローブの変位速度としてグラフ化される。そのグラフから、以下のように読み取る。
破壊強度:押込深さが最大値となるプローブ押込強さ[mN]
硬さ指標:プローブの変位速度の最大値
【請求項19】
請求項18に記載のポリエステルフィルムの製造方法であって、平均重合度が700~5000のビニルアルコール基を有する樹脂を用いて層Xを形成する製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層ポリエステルフィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックは様々な分野に利用されている一方、マイクロプラスチックなど海洋汚染の原因物とされ、プラスチックによる環境負荷低減が急務となっている。また、近年、IoT(Internet of Things)の進化により、コンピュータやスマートフォンに搭載されるCPUなどの電子デバイスが急激に増加し、それに伴い、電子デバイスを駆動するために重要な積層セラミックコンデンサ(MLCC)の数も爆発的に増加している。MLCCの一般的な製造方法は、プラスチックフィルムを基材とし、該基材上に離型層を設けた離型フィルム上に、セラミックグリーンシートと電極を積層して乾燥して固めた後、該積層体を離型フィルムから剥離し複数層を積層し、焼成するというものである。この工程において、離型フィルムは、工程中で不要物として廃棄されることとなる。
【0003】
すなわち、近年のMLCC数量の爆発的増加で不要物として廃棄される離型フィルムが増えることによる環境への負荷が課題となりつつある。MLCCの製造工程で用いられる離型フィルムに含まれる離型層の成分は、離型性の観点から、一般的にはフィルムを構成する成分とは異なる組成であるため、離型層がついた離型フィルムをそのまま再溶融した場合、離型層の成分が異物として存在するため、再利用が難しい。
【0004】
そこで離型フィルムを再利用する技術の例として、特許文献1では、離型層を有する離型用フィルムを金属ブラシを用いて洗浄し、離型層を除去したフィルムを再利用する方法が開示されている。また、特許文献2では、離型層とポリエステルフィルムの中間に水溶性樹脂の層を設け、水洗することで離型層を除去した後、再利用する方法が開示されている。さらに、特許文献3では、セラミックグリーンシート積層時の工程条件を規定することで平滑性と剥離性が良好なセラミックグリーンシートが得られ、離型層とポリエステルフィルムの中間に水溶性樹脂の層を設け、水洗することで離型層を除去した後、再利用する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-171276号公報
【特許文献2】特開2004-050681号公報
【特許文献3】特開2004-160773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のような、MLCC数量の爆発的増加に伴い、不要物として廃棄される離型フィルムが増えることによる環境への負荷を低減することが重要である。そのため、離型フィルムの基材に用いられる積層ポリエステルフィルムには、再利用性が必要である一方、離型フィルムとして、離型層密着性(溶剤などにより意図せず離型層がポリエステルフィルムから剥離することが少ないこと)や被離型物の剥離性が求められる。
【0007】
以上の要望に対し、本発明者らが前述の従来技術について確認したところ、特許文献1に記載の技術の場合は、剥離性は比較的良好である一方、離型層密着性に問題があり、また均一に離型層を除去できず、再利用する際に多くの手間がかかり、再利用性に問題があった。特許文献2に記載の技術の場合、再利用性に加え、離型層密着性と剥離性も改善の余地がある程度あった。また、特許文献3に記載の技術の場合、離型層密着性は比較的良好である一方、剥離性に改善の余地がある程度あり、再利用性にも改善の余地があった。
【0008】
以上の点から、本発明の課題は、再利用性が高く、離型層密着性と剥離性を両立する積層ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の積層ポリエステルフィルムの好ましい一態様は次の構成を有する。
<1>
ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、水酸基を有する樹脂を含む層Xを介して、層Yが積層されてなる積層ポリエステルフィルムであって、以下の条件1を満たす積層ポリエステルフィルム。
条件1:
(1)スクラッチ試験機で以下の測定方法により測定される層Xと層Yの破壊強度が40mN以上80mN以下、かつ
(2)スクラッチ試験機で以下の測定方法により測定される層Xと層Yの硬さ指標が100以上300以下
<測定方法>
積層ポリエステルフィルムを4cm×4cmの正方形状に切りだし、スクラッチ試験機(レスカ社製CSR5000)の測定ステージに設置し、以下の条件にて層Y側表面のスクラッチ試験を行う。
装置:スクラッチ試験機(レスカ社製CSR5000)
測定条件:
スクラッチ速度:25μm/秒
励振振幅:50μm
励振周波数:45Hz
タッチ検出レベル:3.0mN
荷重条件:単調増加(+3.33mN/秒)
初期荷重:0mN
最大荷重:100mN
測定時間:30秒
触針:ダイヤモンド触針(スタイラス径15μm)
測定結果は、付属のソフトウェアによって解析され、横軸にプローブ押込強さ、縦軸にプローブの変位速度としてグラフ化される。そのグラフから、以下のように読み取る。
破壊強度:押込深さが最大値となるプローブ押込強さ[mN]
硬さ指標:プローブの変位速度の最大値
<2>
ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、水酸基を有する樹脂を含む層Xを介して、層Yが積層されてなる積層ポリエステルフィルムであって、以下の条件2を満たす<1>に記載の積層ポリエステルフィルム。
条件2:
(3)スクラッチ試験機で測定される層Xと層Yの破壊強度が45mN以上60mN以下、かつ
(4)スクラッチ試験機で測定される層Xと層Yの硬さ指標が200以上300以下
<3>
前記水酸基を有する樹脂がビニルアルコール残基を有する樹脂である<1>または<2>に記載の積層ポリエステルフィルム。
<4>
前記ビニルアルコール残基を有する樹脂が、平均重合度が700~5000の樹脂である<3>に記載の積層ポリエステルフィルム。
<5>
前記層Yがジメチルシロキサン残基を有する樹脂を含む<1>または<2>に記載の積層ポリエステルフィルム。
<6>
前記層Xの厚みXt(nm)と前記層Yの厚みYt(nm)が以下の条件3を満たす<1>または<2>に記載の積層ポリエステルフィルム。
条件3:10≦Xt≦500かつ20≦Yt≦1,000
<7>
前記層Yが以下の条件4を満たす<5>に記載の積層ポリエステルフィルム。
条件4:50≦ジメチルシロキサン残基を有する樹脂に対する白金触媒の含有量(質量ppm)≦4,000
<8>
少なくとも積層セラミックコンデンサ(MLCC)製造工程用の離型フィルムの一部として用いられる<1>または<2>に記載の積層ポリエステルフィルム。
<9>
前記層Yにおいて、層Xと接する面の反対面に被離型層が設けられてなり層Yから被離型層を剥離する離型用途に用いられる<8>に記載の積層ポリエステルフィルム。
<10>
層Yから被離型層を剥離した後、層Xと層Yが除去される用途に用いられる<8>に記載の積層ポリエステルフィルム。
<11>
層Yから被離型層を剥離した後、層Xを膨潤させた後に層Xと層Yが除去される用途に用いられる<10>に記載の積層ポリエステルフィルム。
<12>
層Yから被離型層を剥離した後、層Xを膨潤させた後に層Xと層Yが物理的外力により除去される用途に用いられる<11>に記載の積層ポリエステルフィルム。
<13>
層Xと層Yを除去した積層ポリエステルフィルムを再利用する用途に用いられる<1>または<2>にいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。
<14>
<1>または<2>に記載の積層ポリエステルフィルムの製造方法であって、層Yを形成
後に40℃以上100℃以下の温度で20時間以上60時間以下フィルムを熱処理する工程を含む積層ポリエステルフィルムの製造方法。
<15>
<1>または<2>に記載のポリエステルフィルムの製造方法であって、平均重合度が700~5000のビニルアルコール基を有する樹脂を用いて層Xを形成する製造方法。
<16>
ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、水酸基を有する樹脂を含む層Xを介して、層Yが積層されてなる積層ポリエステルフィルムであって、以下の条件5を満たす積層ポリエステルフィルム。
条件5:
(5)スクラッチ試験機で測定される層Xと層Yの破壊強度が45mN以上55mN以下、かつ
(6)スクラッチ試験機で測定される層Xと層Yの硬さ指標が220以上280以下
<測定方法>
積層ポリエステルフィルムを4cm×4cmの正方形状に切りだし、スクラッチ試験機(レスカ社製CSR5000)の測定ステージに設置し、以下の条件にて層Y側表面のスクラッチ試験を行う。
装置:スクラッチ試験機(レスカ社製CSR5000)
測定条件:
スクラッチ速度:25μm/秒
励振振幅:50μm
励振周波数:45Hz
タッチ検出レベル:3.0mN
荷重条件:単調増加(+3.33mN/秒)
初期荷重:0mN
最大荷重:100mN
測定時間:30秒
触針:ダイヤモンド触針(スタイラス径15μm)
測定結果は、付属のソフトウェアによって解析され、横軸にプローブ押込強さ、縦軸にプローブの変位速度としてグラフ化される。そのグラフから、以下のように読み取る。
破壊強度:押込深さが最大値となるプローブ押込強さ[mN]
硬さ指標:プローブの変位速度の最大値
<17>
<16>に記載の積層ポリエステルフィルムの製造方法であって、層Yを形成後に40℃以上100℃以下の温度で20時間以上60時間以下フィルムを熱処理する工程を含む積層ポリエステルフィルムの製造方法。
<18>
ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、水酸基を有する樹脂を含む層Xを介して、層Yが積層されてなる積層ポリエステルフィルムであって、以下の条件6を満たす積層ポリエステルフィルム。
条件6:
(7)スクラッチ試験機で測定される層Xと層Yの破壊強度が55mNを超え60mN以下、かつ
(8)スクラッチ試験機で測定される層Xと層Yの硬さ指標が200以上220未満
<測定方法>
積層ポリエステルフィルムを4cm×4cmの正方形状に切りだし、スクラッチ試験機(レスカ社製CSR5000)の測定ステージに設置し、以下の条件にて層Y側表面のスクラッチ試験を行う。
装置:スクラッチ試験機(レスカ社製CSR5000)
測定条件:
スクラッチ速度:25μm/秒
励振振幅:50μm
励振周波数:45Hz
タッチ検出レベル:3.0mN
荷重条件:単調増加(+3.33mN/秒)
初期荷重:0mN
最大荷重:100mN
測定時間:30秒
触針:ダイヤモンド触針(スタイラス径15μm)
測定結果は、付属のソフトウェアによって解析され、横軸にプローブ押込強さ、縦軸にプローブの変位速度としてグラフ化される。そのグラフから、以下のように読み取る。
破壊強度:押込深さが最大値となるプローブ押込強さ[mN]
硬さ指標:プローブの変位速度の最大値
<19>
<18>に記載のポリエステルフィルムの製造方法であって、平均重合度が700~5000のビニルアルコール基を有する樹脂を用いて層Xを形成する製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、再利用性が高く、離型層密着性と剥離性を両立する積層ポリエステルフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に具体例を挙げつつ、本発明について詳細に説明する。
【0012】
本発明はポリエステルフィルムと、さらに1層以上の層を有する積層ポリエステルフィルムに関する。本発明でいうポリエステルは、ジカルボン酸構成成分とジオール構成成分を有してなるものである。なお、本明細書内において、構成成分とはポリエステルを加水分解することで得ることが可能な最小単位のことを示す。かかるポリエステルを構成するジカルボン酸構成成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、もしくはそのエステル誘導体が挙げられる。
【0013】
また、かかるポリエステルを構成するジオール構成成分としては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール等の脂肪族ジオール類、シクロヘキサンジメタノール、スピログリコールなどの脂環式ジオール類、上述のジオールが複数個連なったものなどが挙げられる。中でも、機械特性、透明性の観点から、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレート(PEN)、およびPETのジカルボン酸成分の一部にイソフタル酸やナフタレンジカルボン酸を共重合したもの、PETのジオール成分の一部にシクロヘキサンジメタノール、スピログリコール、ジエチレングリコールを共重合したポリエステルが好適に用いられる。
【0014】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、水酸基を有する樹脂を含む層Xを介して、層Yが積層されてなる積層ポリエステルフィルムであって、以下の条件(1)(2)を満たすことが好ましい。
(1)層Xと層Yの破壊強度が40mN以上80mN以下、かつ
(2)層Xと層Yの硬さ指標が100以上300以下
ここでいう層Xと層Yの破壊強度、層Xと層Yの硬さ指標は、以下の測定方法によって得られるものである。
<測定方法>
4cm×4cmの正方形状に切りだし、スクラッチ試験機(レスカ社製CSR5000)の測定ステージに設置し、以下の条件にて少なくとも片面に存在する層Y側表面のスクラッチ試験を行う。
装置:スクラッチ試験機(レスカ社製CSR5000)
測定条件:
スクラッチ速度:25μm/秒
励振振幅:50μm
励振周波数:45Hz
タッチ検出レベル:3.0mN
荷重条件:単調増加(+3.33mN/秒)
初期荷重:0mN
最大荷重:100mN
測定時間:30秒
触針:ダイヤモンド触針(スタイラス径15μm)
測定結果は、付属のソフトウェアによって解析され、横軸にプローブ押込強さ、縦軸にプローブの変位速度としてグラフ化される。そのグラフから、以下のように読み取る。
破壊強度:押込深さが最大値となるプローブ押込強さ[mN]
硬さ指標:プローブの変位速度の最大値。
【0015】
破壊強度とは、上述の測定方法によって得られるスクラッチ試験における表層膜が破壊される強度であり、本発明においては層Xと層Yの基材に対する密着性の指標である。破壊強度が大きいほど密着性が高く、破壊強度が小さいと密着性は低くなる。層Xや層Yの親溶媒を用いて層Xあるいは層Y、もしくはその両方を剥離しようとする場合、破壊強度が大きい、すなわち層Xと層Yの基材に対する密着性が高い場合、層Xと層Yは基材から剥がれにくい。また、層Xと層Yの破壊強度が小さい、すなわち層Xと層Yの基材に対する密着性が低い場合、層Xと層Yは、層Xや層Yの親溶媒を用いて物理的に力を掛ける際に基材から剥離されやすい。破壊強度が大きく、80mNを超えると、後述の方法により、水を用いて層Xと層Yを基材から剥離する場合、層X、層Yが剥がれにくい場合がある。同様の観点から、破壊強度は56mN以下であることが好ましい。また、破壊強度が40mNに満たない場合、基材と層X、層Yの密着性が低く、層Xと層Yが基材から容易に剥離してしまう結果、層Xと層Yの耐久性が低くなる場合がある。層Xと層Yの耐久性が低い場合、層Yを機能層として利用する場合、層Yの機能を十分に発現できないことがある。
【0016】
硬さ指標とは、上述の測定方法によって得られるスクラッチ試験における膜を押し込む際のプローブの変位速度の最大値である。上述の測定方法では、プローブに荷重をかけながら膜を押し込むため、膜が破壊される際はプローブの変位に速度が生じることになる。その変位速度が大きいほど、プローブが膜へ侵入しやすく、即ち膜が柔らかいことを表し、変位速度が小さいほどプローブが膜へ侵入しにくい、即ち膜が硬いことを表す。硬さ指標が大きいと膜が柔らかく、硬さ指標が小さいと膜が硬い状態である。硬さ指標が300を超える場合、膜が変形しやすく層Yの機能を保てない場合があるうえ、例えば層Yが離型機能を有する層とした場合、被離型物の剥離のために必要な力が高くなってしまう場合がある。また、硬さ指標が300を超える場合、水流やスクレイパーなどで外力を与えて層Xと層Yを除去する場合、膜が柔らかすぎて外力が層X、層Yに効率的に伝わらず、除去しにくい場合がある。硬さ指標が小さく、100に満たない場合、水流やスクレイパーなどで外力を与えて層Xと層Yを除去する場合、膜が硬すぎて外力が層X、層Yに効率的に伝わらず、除去しにくい場合がある。すなわち、上記態様をとることにより、特に、層Xを膨潤させ、物理的外力により層Xや層Yを剥離する用途に使用する際に剥離しやすく再利用性がよく、かつ離型層密着性や剥離性も良くすることができる。同様の観点から硬さ指標は220以上であることが好ましい。層Xを膨潤させるために水などの層Xや層Yを膨潤させることのできる液体を使用することができ、例えば水の場合はスチームなどのガス状態のものも使用できる。物理的外力としては、水流、スクレイパーやブラシによる外力や、フィルムへ掛ける張力、摩擦力なども使用できる。ここでいうスクレイパーとはフィルムよりも硬度が大きいものである。なかでも、物理的外力として、スクレイパーによる外力を用いることが、効果的な剥離の観点から好ましい。
【0017】
また、再利用性、離型層密着性、剥離性の観点から、以下条件2を満たしていることがより好ましい。
条件2:
(3)スクラッチ試験機で測定される層Xと層Yの破壊強度が45mN以上60mN以下、かつ
(4)スクラッチ試験機で測定される層Xと層Yの硬さ指標が200以上300以下。
【0018】
なお、両面ともに層X、層Yを有する場合は、少なくとも片面において(1)かつ(2)を満たしていればよいが、両面において(1)かつ(2)を満たしていることがより好ましい。
【0019】
また、比較的層Yが柔らかく、密着性がやや低めであるため、スクレイパーなどで外力を与える場合に剥離機構の摩耗を抑制できる観点から、以下条件5を満たしていることが好ましい。
条件5:
(5)スクラッチ試験機で測定される層Xと層Yの破壊強度が45mN以上55mN以下、かつ
(6)スクラッチ試験機で測定される層Xと層Yの硬さ指標が220以上280以下。
【0020】
一方で、比較的層Yが硬く、密着性がやや高めであるため、短時間で層Xと層Yを剥離できる観点から、以下条件6を満たしていることが好ましい。
条件6:
(7)スクラッチ試験機で測定される層Xと層Yの破壊強度が55mNを超え60mN以下、かつ
(8)スクラッチ試験機で測定される層Xと層Yの硬さ指標が200以上220未満。
【0021】
本発明の層Xとして用いることができる水酸基を有する樹脂としては、ポリビニルアルコール残基を有する樹脂、セルロース残基を有する樹脂、水酸基を含むアクリル残基を有する樹脂、水酸基を含むポリエステル残基を有する樹脂などが挙げられる。これらは1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、水溶性の観点から、水酸基を有する樹脂として、ポリビニルアルコール残基を有する樹脂が好ましい。ポリビニルアルコール残基を有する樹脂では、後述の通り、水酸基や酢酸基の割合が異なるポリビニルアルコールや、水酸基や酢酸基以外の官能基を側鎖に共重合した共重合ポリビニルアルコール等がある。セルロース残基を有する樹脂では、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等がある。水酸基を含むアクリル残基を有する樹脂は、水酸基を有するアクリル系モノマーを、他のアクリル系モノマーまたは他のエチレン性二重結合を有するモノマーと共重合したものである。アクリル骨格を有する樹脂に使用される水酸基を有するモノマーとしては、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシイソプロピルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシイソプロピルメタクリレート等が挙げられる。水酸基を含むポリエステル残基を有する樹脂は、水酸基を含む原料として、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1、4-ブチレングリコール、1,6-ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどを使用し、この水酸基がポリエステル残基を有する樹脂に水酸基を付与する。
【0022】
水酸基を有する樹脂としてポリビニルアルコール残基を有する樹脂を用いる場合、重合度は200を超え5000以下が好ましく、500以上5000以下がより好ましく、さらに好ましくは500以上4000以下である。重合度を5000以下とすることで、ポリビニルアルコールの分子鎖が長くなり、分子鎖内におけるパッキングを抑制し、結晶化度が低くでき、層Xの溶出性を高くできる。また、重合度を200超とすることで、層Xをコーティングによって設ける際、塗布性を良好にでき、塗布性の悪化によってフィルム上に偏在したり、結晶化度が高くなってしまい水溶性が悪化することを抑制できる。なお、重合度は、JIS K 6726(1994)で求められる平均重合度を指す。
【0023】
また、上記した観点から層Xは、水酸基を有する樹脂全体に対してポリビニルアルコール残基を有する樹脂を60質量%以上含むことが好ましく、90質量%以上含むことがより好ましく、95質量%以上含むことがさらに好ましく、ポリビニルアルコール残基を有する樹脂のみからなることが特に好ましい。また、層Xは水溶性を示すことが好ましい。
【0024】
また、水酸基を有する樹脂としてポリビニルアルコール残基を有する樹脂を用いる場合、けん化度は好ましくは30以上90以下、より好ましくは60以上88以下である。ポリビニルアルコールは、側鎖として少なくとも水酸基と酢酸基を有するが、けん化度が高いほど官能基としての嵩が小さい水酸基の量が多く、酢酸基の量が少ない。そのため、けん化度が高い場合、分子鎖パッキングによる結晶化が生じやすい傾向にある。けん化度を90以下とすると、結晶化度を低くでき、水溶性がより向上する。また、けん化度を30以上とすると、酢酸基の量を一定以下にできるため、水溶性が良好となる。
【0025】
また、水酸基を有する樹脂として用いるポリビニルアルコール残基を有する樹脂として、水酸基や酢酸基以外の官能基を側鎖に共重合した共重合ポリビニルアルコールを用いることも好ましい実施形態である。共重合量としては、ポリビニルアルコール残基を有する樹脂全体に対して0.1mol%以上10mol%以下であることが好ましく、より好ましくは0.5mol%以上5.0mol%以下、さらに好ましくは1.0mol%以上3.0mol%以下である。共重合量を前述の範囲とすると、層Xをコーティングによって設ける際、塗布性が良好となり、フィルム上に偏在して結晶化度が過剰に高くなることを抑制することができる。
【0026】
水酸基を有する樹脂としてポリビニルアルコール残基を有する樹脂を用いる場合、メラミンやオキサゾリンなどの架橋作用のある樹脂は含有しないことが好ましい。バインダーや架橋作用のある樹脂は、ポリビニルアルコール残基を有する樹脂の側鎖の水酸基と相互作用し、水溶性を著しく低下させ、再利用性が困難となる傾向にある。なお、層Xの定性定量分析の際、層Xが露出していない場合は層Xが露出するよう研磨してから定性定量分析を行うものとする。
【0027】
層Yは、積層ポリエステルフィルムの最表層に位置し、積層ポリエステルフィルムとしての性能を発現する機能層である。層Yは、本発明のポリエステルフィルムを工程用フィルムとして用いる場合、離型性を有する樹脂からなることが好ましい。層Yに用いることができる樹脂として、ジメチルシロキサン残基を有する樹脂、長鎖アルキル基を有する樹脂、ポリオレフィン残基を有する樹脂、パーフロロアルキル基などのフッ素化合物より選ばれる1種以上の樹脂を挙げることができる。中でも、剥離性と水透過性の観点から、ジメチルシロキサン残基を有する樹脂が好ましく、硬化型のジメチルシロキサン残基を有する樹脂がより好ましい。水透過性があると水により層Xを膨潤でき洗浄性が向上する。硬化型ジメチルシロキサン残基を有する樹脂には、オルガノハイドロジェンポリシロキサンとアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサンとを白金触媒のもとに、加熱硬化させた「付加反応型」、オルガノハイドロジェンポリロキサンと末端に水酸基を含有するオルガノポリシロキサンとを有機錫触媒を用いて加熱硬化させた「縮合反応型」、アクリロイル基あるいはメタクリロイル基を含有するオルガノポリシロキサン、あるいはアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサンとメルカプト基を含有するオルガノポリシロキサンに光重合開始剤を配合し、UV光を照射することによって硬化させる「UV硬化型」、エポキシ基をオニウム塩開始剤にて光開環させて硬化させる「カチオン重合型」などが挙げられる。いずれを用いてもよいが、生産性、剥離性の観点から付加反応型が特に好ましい。
【0028】
付加反応型シリコーン残基を有する樹脂の具体例としては、末端にビニル基を含有するポリジメチルシロキサンとハイドロジェンシロキサンとを含むものが好ましく、信越化学工業株式会社製のKS-847、KS-847T、KS-841、KS-774、KS-3703T、X-62-2825、ダウ・東レ株式会社製のSD7333、SRX357、SRX345、LTC310、LTC303E、LTC300B、LTC350G、LTC750A、LTC851、LTC759、LTC755、LTC761、LTC856、などが挙げられる(なお、“LTC”は登録商標である)。
【0029】
縮合反応型シリコーン残基を有する樹脂と触媒の具体例としては、末端に水酸基を含有するポリジメチルシロキサンとハイドロジェンシロキサンとを有機錫触媒を含むものが好ましく、ダウ・東レ株式会社製のSRX290やSY LOFF23が挙げられる。
【0030】
UV硬化型シリコーン残基を有する樹脂と触媒の具体例としては、アクリロイル基あるいはメタクリロイル基を含有するオルガノポリシロキサンと光重合開始剤を含むものや、アルケニル基を含むポリジメチルシロキサンとメルカプト基を含むポリジメチルシロキサンと光重合開始剤を含むものが好ましく、JNC株式会社製のFM-0711、FM-0721、FM-0725、FM-7711、FM-7721、FM-7725、ダウ・東レ株式会社製のBY24-510HおよびBY24-544などが挙げられる。
【0031】
カチオン重合型シリコーン残基を有する樹脂と触媒の具体例としては、エポキシ基を含むシロキサンと、オニウム塩開始剤を含むものが好ましく、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製のTPR6501、UV9300およびXS56-A2775などが挙げられる。
【0032】
本発明の積層ポリエステルフィルムの樹脂層Yとして付加反応型オルガノポリシロキサンを用いる場合、該オルガノポリシロキサンは、白金触媒を介してハイドロジェンオルガノポリシロキサンとアルケニル基含有オルガノポリシロキサンが付加反応することにより得られるが、ハイドロジェンオルガノポリシロキサンは、白金触媒を介して水酸基を有する化合物とも縮合反応を起こすことが知られている(国際公開特許文献WO2014/099497)。樹脂層Yがハイドロジェンオルガノポリシロキサンを含有し、層Yに接する層Xにポリビニルアルコールが含有される場合、ハイドロジェンオルガノポリシロキサンとポリビニルアルコールが縮合し、層Xと層Yが化学的に結合する。その結果、層Yに層Xの成分の一部が入り込むため、層Yが適度に柔らかくなり層Xと層Yの硬さを好ましい範囲に制御しやすくなる。また、層Xは極性基である水酸基を含有するため、基材であるポリエステルとの密着性が高い。層Xに接して層Yを設け、層Xと層Yが水酸基を介して化学的に結合する場合、基材と相互作用できる層Xの水酸基の量が減少する結果、層Xと層Yの基材との密着性を高すぎない程度の好ましい範囲に制御することができる。本発明における層Xと層Yの破壊強度および層Xと層Yの硬さ指標を好ましい範囲とするため、層Yに用いる付加反応型オルガノポリシロキサンは熱付加重合型が好ましい。その結果、本発明のフィルムにおける上述の(1)(2)を好ましい範囲とすることができる。
【0033】
本発明の積層ポリエステルフィルムの好ましい一態様は、層Xの厚みXt(nm)が10nm以上500nm以下であり、かつ、層Yの厚みYt(nm)が20nm以上1,000nm以下である。Xt(nm)を10nm以上とすることで層Xと層Yの硬さ指標、密着性を良好にすることができる。また、Xt(nm)を500nm以下とすることで、層Xをコーティングによって設ける場合、塗布性を良好にすることができる。Yt(nm)を20nm以上とすることで層Yの機能を発現しやすくすることができる。また、Yt(nm)を1,000nm以下とすることで、層Yをコーティングによって設ける場合、生産性や塗布性を良好にすることができる。同様の観点から、Xtが20nm以上200nm以下かつYtが50nm以上300nm以下であることがより好ましく、Xtが50nm以上150nm以下かつYtが75nm以上150nm以下であることが特に好ましい。
【0034】
付加反応型ジメチルシロキサン残基を有する樹脂に用いられる触媒としては、白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウムなどの金属を含有する触媒が挙げられる。中でも白金を含有する触媒(以下、白金触媒)が好ましく、白金触媒としては、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、塩化白金酸とアルコールの反応物、塩化白金酸とオレフィン化合物との反応物、塩化白金酸とビニル基含有シロキサンとの反応物などが挙げられる。
【0035】
層Yを形成するための塗剤に使用する白金触媒の量は、ジメチルシロキサン残基を有する樹脂に対して質量基準で、50ppm以上4,000ppm以下が好ましく、50ppm以上700ppm以下がより好ましい。白金触媒の量はジメチルシロキサン残基を有する樹脂に対して質量基準で50ppm以上とすることで付加反応性および層Xと層Yの反応性を良好にすることができる。また、白金触媒の量はジメチルシロキサン残基を有する樹脂に対して質量基準で4,000ppm以下とすることで層Yを形成するための塗剤の可使時間を長くすることができる。
【0036】
また、層Yに含まれる白金触媒の量について、(ICP-AES)法で求まるPt元素/Si元素比が個数基準で5ppm以上500ppm以下であることが好ましく、10ppm以上400ppm以下がより好ましい。Pt元素/Si元素比を5ppm以上とすることで上述の反応性を良好にすることができる。また、Pt元素/Si元素比を500ppm以下とすることで層Yを形成するための塗剤の可使時間を長くすることができる。
【0037】
本発明の積層ポリエステルフィルムにおいて、層Xと層Yの反応を進行させ、層Xと層Yの破壊強度および層Xと層Yの硬さ指標を好ましい範囲とするため、層Xと層Yを形成した後、加熱処理、いわゆるエージング処理をすることも好ましい実施形態である。エージング処理することにより、層Xと層Yの反応を進行させることができる。エージング処理の温度は40℃以上100℃以下であることが好ましい。また、エージング処理の時間は20時間以上60時間以下であることが好ましい。エージング処理の温度が40℃に満たない場合、層Xと層Yの反応が進行せず、層Xと層Yの破壊強度や硬さ指標を好ましい範囲とすることができず、層Yに被離型物を設けた際の被離型物の剥離性や層X、層Yの除去性に劣る場合がある。エージング処理の温度が100℃を超える場合、層Xと層Yの反応が進行しすぎる結果、層Xと層Yが変性し、層Xと層Yの破壊強度や硬さ指標を好ましい範囲とすることができず、層X、層Yの除去性に劣る場合がある。エージング処理は、層Xの重合度500以上700未満の場合に特に顕著な効果を示す。
【0038】
また、層Xと層Yの反応を進行させ、層Xと層Yの破壊強度および硬さ指標を好ましい範囲とするため、層Xの重合度を大きくすることも好ましい実施形態である。層Xの重合度を大きくすることで、層Xを塗布した後の乾燥工程の熱処理による結晶化を抑制して非晶状態を保ち、層Yと反応する水酸基が多く存在させられる結果、層Y形成時に層Xとの反応を進行させることができる。その観点から層Xの重合度は700以上5000以下であることが好ましい。
【0039】
また、本発明の積層ポリエステルフィルムの層Yの表面の溶剤耐久率が5%以上100%以下であることが好ましい。より好ましくは10%以上100%以下である。溶剤耐久率とは、積層ポリエステルフィルムの層Yの表面に対して、溶剤を用いた擦過試験を行い、層Y表面の剥離力を擦過試験後の層Y表面の剥離力で除した値を指す。測定方法の詳細は後述する。溶剤耐久率が高いほど、耐溶剤性が高いことを意味し、後工程による離型層密着性の悪化を抑制することができる。溶剤耐久率の実質的な上限は100%である。溶剤は層Yだけでなく、浸透して層Xにも影響を及ぼすことから、層Xと層Yとの反応性を高めることで溶剤耐久率を向上させることができる。
【0040】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、前述の特性を活かして、層Yの層Xまたは基材と接する面の反対面に被離型層を設け、層Yから被離型層を剥離する離型用途に好適に用いることができる。さらに、本発明の積層ポリエステルフィルムは、水によって層Xや層Yを除去することが可能であるため、被離型物を剥離した後、層Xや層Yを除去して純度の高いポリエステルフィルムを取り出すことが可能である。さらに、本発明の積層ポリエステルフィルムは、層Xや層Yを除去した後、純度の高いポリエステルフィルムを取り出し、再利用することが好ましい。なお、層Xや層Yを除去した後、ポリエステルフィルムのみを取り出し、再利用することがより好ましい。再利用する方法としては、取り出したポリエステルフィルムに再び層Xや層Yを設けて離型用フィルムとして用いる方法や、ポリエステルフィルムを再溶融して再びポリエステルフィルムに成型する方法が挙げられる。再溶融して再びポリエステルフィルムに成型する方法は、再利用する用途が限定されず、様々な用途に使用が可能であり、環境負荷低減に大きく寄与することが可能となる
ため好ましい。
【0041】
本発明の積層ポリエステルフィルムの層Yの構成成分としてシリコーン化合物、特にジメチルシロキサン結合を有する樹脂を用いる場合、ジメチルシロキサン結合を有する樹脂は、ポリエステルフィルムと混合して再溶融すると異物になりやすく、ポリエステルの劣化を促進したり、溶融後に押出成形することができなくなることがあるため、本発明のフィルムを再溶融して再利用するためには層Yを除去することが好ましい。
【0042】
層Xや層Yを有する本発明の積層ポリエステルフィルムを離型用フィルムとして用いる場合、被離型層としてはアクリルを主成分とする有機系粘着剤や、金属や金属酸化物を主成分とする無機物のシートで構成することが好ましく挙げられる。特に、金属酸化物のチタン酸バリウムは、MLCCを製造するために必要不可欠なものであり、チタン酸バリウムのシートを製造するための工程用離型フィルムの使用量が増加している。かかる状況下、チタン酸バリウムのシートを製造する工程において、層Xや層Yを有する本発明の積層ポリエステルフィルムを用いることで、チタン酸バリウムのシートを製造する工程での使用後に、本発明の積層ポリエステルフィルムから層Xや層Yを除去して純度の高いポリエステルフィルムを得て再利用することができ、環境負荷低減に大きく寄与することが可能となる。
【0043】
本発明の積層ポリエステルフィルムを製造する方法を以下に説明するが、本発明はこの方法により得られる積層ポリエステルフィルムに限られるものではない。
【0044】
本発明の積層ポリエステルフィルムのポリエステルフィルムは、必要に応じて乾燥した原料を押出機内で加熱溶融し、口金から冷却したキャストドラム上に押し出してシート状に加工する方法(溶融キャスト法)を使用することができる。該シートは、表面温度20℃以上60℃以下に冷却されたドラム上で静電気により密着冷却固化し、未延伸シートを作製することが好ましい。キャストドラムの温度は、より好ましくは20℃以上40℃以下、さらに好ましくは20℃以上30℃以下である。
【0045】
次に、未延伸シートを、下記(i)式を満たす温度T1n(℃)にて、フィルムの長手方向(MD)に3.6倍以上、フィルムの幅方向(TD)に3.9倍以上、面積倍率14.0倍以上20.0倍以下に二軸延伸することが好ましい。
【0046】
フィルム幅方向の延伸倍率は、好ましくは4.0倍以上、より好ましくは4.3倍以上5.0倍以下である。フィルム幅方向の延伸倍率を4.0倍以上とすることで、層Xを後述のインラインコート法を用いて一軸延伸後のフィルムに塗布する場合、層Xを構成する成分がフィルムに追随して延伸されて引き延ばされるため、層Xを構成する成分が規則正しく配列するのを抑制し、層Xの結晶化度を好ましい範囲とすることが可能となる。幅方向延伸倍率が5.0倍を超えると、フィルムの製膜性が低下する場合がある。
(i)Tg(℃)≦T1n(℃)≦Tg+40(℃)
Tg:ポリエステルフィルムのガラス転移温度(℃)
フィルムの長手方向の延伸方法には、ロール間の速度差を用いる方法が好適に用いられる。この際、フィルムが滑らないようにニップロールでフィルムを固定しながら、複数区間にわけて延伸することも好ましい実施形態である。
【0047】
次に、二軸延伸フィルムを、下記(ii)式を満足する温度(Th0(℃))で、1秒間以上30秒間以下の熱固定処理を行い、均一に徐冷後、室温まで冷却することによって、ポリエステルフィルムを得ることが好ましい。
(ii)Tmf-35(℃)≦Th0(℃)≦Tmf(℃)
Tmf:フィルムの融点(℃)
(ii)を満たす条件によって二軸延伸フィルムを得ることにより、フィルムに適度な配向を付与せしめ、離型用フィルムとして使用する場合のハンドリング性を向上させることができる。
【0048】
本発明の積層ポリエステルフィルムのポリエステルフィルムには、上述の製造方法に加え、フィルムに粒子を添加するのも好ましい実施形態である。添加する粒子としては、コロイダルシリカ粒子、架橋ポリスチレン粒子、炭酸カルシウム粒子が好適に用いられる。好ましい粒子添加量は、ポリエステルフィルムの全質量に対して0.01質量%以上0.7質量%以下である。
【0049】
次に、本発明の積層ポリエステルフィルムのポリエステルフィルムに、層X、層Yを設ける方法について以下に説明するが、本発明はかかる方法により得られるフィルムに限られるものではない。
【0050】
層Xを水を吸収しやすい樹脂で形成する場合、層Xを形成する樹脂を水に溶解させ、本発明のポリエステルフィルム上にコーティングする方法を好ましく用いることができる。コーティング方法としては、グラビアコーティング、メイヤーバーコーティング、エアーナイフコーティング、ドクターナイフコーティング等の一般的なコーティング方式を利用することが出来る。特に、層Xの結晶化度制御の観点から、長手方向に一軸延伸した後のポリエステルフィルムの表層に、層Xの元となる樹脂をコーティングし、ポリエステルフィルムを幅方向に延伸すると同時に層Xを造膜するインラインコート法を好適に用いることができる。
【0051】
次に、層Yを設ける方法について説明する。層Yは、層Xと同時に設けても、別々に設けてもよい。同時に設ける場合は、ダイなどを用いて2層を同時に塗布する方法、もしくは層Xの成分と層Yの成分を予め混合した塗剤を用いて塗布する方法が挙げられる。層Xと層Yの積層精度を向上させるため、層Xと層Yを設ける場合に、層Xと層Yを別々に設ける方が好ましい。上述の方法で得られた層Xを含む積層ポリエステルフィルムに、層Yの成分を溶解させた塗液を用い、グラビアコーティング、メイヤーバーコーティング、エアーナイフコーティング、ドクターナイフコーティング等の一般的なコーティング方式を利用して塗布することができる。
【0052】
積層ポリエステルフィルムの製造方法においては、層Yを形成するための塗剤として以下の組成比を有するものを用いることが好ましい。このような塗剤を用いることにより、前述のとおり、硬化性を良好にすることができ、また、層Yを形成するための塗剤の可使時間を長くすることができる。
【0053】
50≦ジメチルシロキサン残基を有する樹脂に対する白金触媒の含有量(質量ppm)≦2,000
さらに、層Yと層Xの反応を進行させるため、層Xと層Yを設けた積層ポリエステルフィルムを40℃以上100℃以下で熱処理する工程を含むことが好ましい。熱処理する場合、積層ポリエステルフィルムを枚葉に切り出した状態でもロール状に巻き取った状態で実施しても構わない。また、熱処理する炉としては、熱風が炉内を循環し温度を均一に保つことができる熱風循環型のオーブンで実施することが好ましい。
【0054】
次に、層Xと層Yを除去する方法について説明する。層Xは前述の特性を有するため、水で洗浄することが好ましい実施形態である。例えば、層Xと層Yを除去する際、本発明の層X、層Yを含む積層ポリエステルフィルムを、積層ポリエステルフィルムを巻き出す工程と、巻き出した積層ポリエステルフィルム表面に温水を供給し、該積層ポリエステルフィルムから表面積層部(層X、層Y)を剥離する工程と、剥離後のポリエステルフィルムを巻き取る工程に供することが好ましい。温水の温度は50℃以上120℃以下であることが好ましい。50℃以上とすることで洗浄性を充分に得ることができる。120℃以下とすることで、ポリエステルフィルムのガラス転移温度を超えてしまい、フィルムが搬送できない場合が起こることを抑制することができる。積層ポリエステルフィルムの表面に水が接する時間は、5秒以上が好ましく、より好ましくは10秒以上、さらに好ましくは30秒以上600秒以下である。巻出した積層ポリエステルフィルム表面に温水を供する工程は、水槽で行い、積層ポリエステルフィルム全体を覆う方法や、加熱された水を加圧して積層ポリエステルフィルムに対して噴射する方法が挙げられる。積層ポリエステルフィルムの層Yに水を供給することで、層Yを通して層Xや基材側に水が吸水され、層Yの物性を変化させることができる結果、層Yが積層ポリエステルフィルムからはがれやすくなり、洗浄性が向上する。該積層ポリエステルフィルムから表面積層部(層X、層Y)を剥離する工程は、スクレイパーで擦る方法、ブラシで擦る方法、布で擦る方法を含むことも、層Xと層Yを効率的に除去できるため好ましい。層Xと層Yを除去する工程において層Xと層Yを設けた積層ポリエステルフィルムを搬送する際、積層ポリエステルフィルムに張力をかけることも好適な態様として挙げられる。張力をかけることによって積層ポリエステルフィルムの表面を展伸することで、上述のようにスクレイパーで擦る方法、ブラシで擦る方法、布で擦る方法を用いる場合、それらとの接触が効率よく実施できるため、洗浄性を向上させることができる。張力は5N/m以上100N/m以下が好ましく、より好ましくは20N/m以上80N/m以下、さらに好ましくは30N/m以上50N/m以下である。張力を前述の5N/m以上とすることで、積層ポリエステルフィルムの表面が十分に展伸され、洗浄性を良好にすることができる。また、張力を100N/m以下とすることで、フィルムにシワが入り表面の展伸性が低下することを抑制でき、洗浄性を良好にすることができる。前記の工程において、積層ポリエステルフィルムを搬送する速度は、5m/分以上、好ましくは10m/分以上、より好ましくは20m/分以上100m/分以下である。
【0055】
次に、層Xと層Yを除去したフィルムを再生原料とする方法に係る好ましい一態様について述べる。上述の方法で層Xや層Yを除去したフィルムロールを、モーターにて駆動する回転刃を有するクラッシャーに導入して粉砕した後、押出機に導入して溶融し、ストランド状に押出加工し、ペレット状に裁断して再生原料を得る方法を取ることが好ましい。溶融する温度は、再生原料の固有粘度を好ましい範囲とするため、250℃以上300℃以下であることが好ましい。また、押出機が有するスクリュウは単軸でも二軸でも構わない。層Xや層Yを除去したフィルムには、フィルム自体が粒子を含有している場合や、層Xや層Yを除去した際の残渣が含まれる場合があるため、含有される成分を均一に混練する観点から、押出機は二軸であることが好ましい。また、溶融押出する際に、ポリエステル以外の成分を適正な範囲とするため、フィルターでろ過することも好ましい。
【0056】
本発明の積層ポリエステルフィルムの好ましい態様としては、上記のように、ポリエステルフィルムの少なくとも片側に層Xを設けた後、層Yを設けて工程用の離型用フィルムや他の機能性積層フィルムとして用い、さらに層Xや層Yを水により洗浄して除去し、純度の高いポリエステルフィルムを得ることを挙げることができる。そのため、得られるポリエステルフィルムをそのまま再利用したり、該フィルムを再溶融したのちチップ化し、再生原料としてフィルムの製膜に用い、フィルムとして再利用することが可能となる。
【0057】
[特性の評価方法]
A.層Xの組成分析
層Xの飛行時間型二次イオン質量分析(TOF-SIMS)スペクトルおよびフーリエ変換赤外分光(FT-IR)スペクトルを測定し、水酸基(ポリビニルアルコール骨格など)の有無を分析する。
[TOF-SIMSの測定条件]
層X表面に対して、下記の装置を用い、TOF-SIMSスペクトルを測定する。
装置:ION-TOF社製TOF.SIMS5
1次イオン種:Bi3
++
1次イオンの加速電圧:25kV
パルス幅:125ns
パンチング:なし(高空間分解能測定)
ラスターサイズ:40μm×40μm
スキャン数:64回
2次イオンの極性:正
帯電中和:あり
後段加速電圧:9.5kV。
[FT-IRの測定条件]
層X表面に対して、下記の装置を用い、FT-IRスペクトルを測定する。
装置:PerkinElmer社製Spectrum100
光源:特殊セラミックス
検出器:DTGS
分解能:4cm-1
積算回数:256回
測定波数範囲:4,000~680cm-1
測定モード:減衰全反射(ATR)法
付属装置:1回反射型ATRクリスタル(材質:ダイヤモンド/ZnSe)。
【0058】
B.層Xと層Yの破壊強度、層Xと層Yの硬さ指標
積層ポリエステルフィルムを4cm×4cmの正方形状に切りだし、スクラッチ試験機(レスカ社製CSR5000)の測定ステージに設置し、以下の条件にて表面のスクラッチ試験を行う。
装置:スクラッチ試験機(レスカ社製CSR5000)
測定条件:
スクラッチ速度:25μm/秒
励振振幅:50μm
励振周波数:45Hz
タッチ検出レベル:3.0mN
荷重条件:単調増加(+3.33mN/秒)
初期荷重:0mN
最大荷重:100mN
測定時間:30秒
触針:ダイヤモンド触針(スタイラス径15μm)
測定結果は、付属のソフトウェアによって解析され、横軸にプローブ押込強さ、縦軸にプローブの変位速度としてグラフ化される。そのグラフから、以下のように読み取る。
破壊強度:押込深さが最大値となるプローブ押込強さ[mN]
硬さ指標:プローブの変位速度の最大値。
【0059】
C.層Yの組成分析
層Yの飛行時間型二次イオン質量分析(TOF-SIMS)スペクトルおよびフーリエ変換赤外分光(FT-IR)スペクトルをA.層Xの組成分析と同様の条件で測定し、ポリジメチルシロキサン骨格などの有無を分析する。
【0060】
D.各層の厚み
下記の方法にて、積層フィルム各層の厚みを求める。フィルム断面を、フィルム幅方向に平行な方向にミクロトームで切り出す。該断面を走査型電子顕微鏡で5000倍の倍率で観察し、積層各層の厚みを測定する。
【0061】
E.層Yに含まれる白金触媒の量(Pt元素/Si元素)
層Yに含まれる白金触媒の量(Pt元素/Si元素比)は、積層ポリエステルフィルムから層Yを削り取った後、JIS K 0116(2014)に従い、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)法による定量分析を行う。
装置:株式会社島津製作所製ICPS-8100
前処理:アルカリ融解法。
【0062】
F.溶剤耐久率(%)
株式会社大栄科学精機製作所製の学振型試験機(JIS L 0849(2013)準拠)を用いて以下の方法で測定する。
[溶媒含浸布による擦過処理]
以下の試験機、摩擦子を用いて、フィルムの層Y表面を擦過処理する。
試験機:学振型試験機(JIS L 0849(2013)に記載の摩擦試験機II形)
摩擦子:綿布(金巾3号)にトルエンを含浸
荷重:1.0kg
回数:30往復
[剥離処理]
層Y表面の溶媒含浸布による擦過処理を行った部分にポリエステル粘着テープ(日東電工株式会社製No.31B、幅19mm)を2.0kgのローラーで圧着させながら貼り合わせ、23℃、65%RHの雰囲気下で24時間静置した後、共和界面科学株式会社製の剥離試験機VPA-H200剥離試験機を用いて、剥離角度180°、剥離速度300mm/minにて試料表面とポリエステル粘着テープの間の剥離力を測定し、50mm幅に換算して溶媒含浸布による擦過処理後の層Y表面の剥離力F(B)を求める。擦過処理前の層Y表面の剥離力F(A)も同様の手法で測定し、以下の式に基づき、溶剤耐久率を測定する。
溶剤耐久率(%)=F(A)/F(B)×100。
【0063】
G.層Yの密着性(離型層密着性)の評価
F.項の溶剤耐久率(%)から、以下の通り判定する。
A:溶剤耐久率50%以上
B:溶剤耐久率35%以上50%未満
C:溶剤耐久率10%以上35%未満
D:溶剤耐久率10%未満。
【0064】
H.被離型物の剥離性の評価
被離型物を積層した積層ポリエステルフィルムを40mm幅×80mm長に切り出し、試験片とする。共和界面科学株式会社製の剥離試験機VPA-H200を用いて、剥離角度90°、剥離速度300mm/minにて被離型物を層Yから剥離し、剥離強度を測定し、50mm幅に剥離強度を換算する。以下の通り判定する。
A:40mN/50mm未満
B:40mN/50mm以上45mN/50mm未満
C:45mN/50mm以上50mN/50mm未満
D:50mN/50mm以上。
【0065】
I.水接触角(°)
水接触角は共和界面科学株式会社製の接触角計DM501および付属の解析ソフトウェアFAMASを用い、水がサンプル表面に着適した後、1秒後の液滴の角度を測定する。
【0066】
J.層X、層Yの除去性の評価
層X、層Yを積層した積層ポリエステルフィルムを10cm四方に切りだし、水に10秒間浸漬した後取り出し、荷重1kgをかけつつスクレイパー(井上工具製プラスチックマルチヘラ)で層X、層Yを除去する。層X、層Yを除去して得られたポリエステルフィルムを用い、上記H.項に従って、1秒後に得られる水の接触角を測定し、以下の通り判定する。
A:65°以上80°未満
B:80°以上85°未満、もしくは65°未満
C:85°以上95°未満
D:95°以上。
【0067】
K.層Xの平均重合度
層X、層Yを積層した積層ポリエステルフィルムを10cm四方に切りだし、20mLの水に10秒間浸漬した後、水の中で荷重1kgをかけつつスクレイパー(井上工具製プラスチックマルチヘラ)で層X、層Yを除去する。JIS P 3801の2種に規定されたろ紙を用いて層X、層Yを除去した水をろ過し、ろ過した水を乾燥させてJIS K 6726(1994)で平均重合度を求めた。
【実施例0068】
以下、本発明について実施例を挙げて説明するが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0069】
[PET-1の製造]テレフタル酸およびエチレングリコールから、三酸化アンチモン、酢酸マグネシウム・四水塩を触媒として、常法により重合を行い、溶融重合ポリエステルを得た。得られた溶融重合ポリエステルのガラス転移温度は81℃、融点は255℃、固有粘度(単位:dl/g)は0.65、末端カルボキシル基量は20eq./tであった。
【0070】
[MB-1の製造]PET-1を80質量部と粒径0.1μmの架橋ポリスチレン粒子(スチレン・アクリレート共重合体)の10質量%水スラリーを10質量部(架橋ポリスチレン粒子として1質量部)供給し、ベント孔を1kPa以下の減圧度に保持し水分を除去し、架橋ポリスチレン粒子を1質量%含有するマスターバッチを得た。ガラス転移温度は81℃、融点は255℃、固有粘度は0.61、末端カルボキシル基量は22eq./tであった。
【0071】
[塗剤Aの作製]
特開平9-227627号を参考にして、けん化度88、平均重合度500となるPVAを作製した。該PVAを、4質量%となるように水に溶解し、塗剤Aを得た。
【0072】
[塗剤Bの作製]
特開平9-227627号を参考にして、けん化度88、平均重合度500、スルホン酸ナトリウムの共重合量1mol%となるPVAを作製した。該PVAを、4質量%となるように水に溶解し、塗剤Bを得た。
【0073】
[塗剤Jの作製]
特許文献特開平9-227627号を参考にして、けん化度88、平均重合度800となるPVAを作製した。該PVAを、4質量%となるように水に溶解し、塗剤Jを得た。
【0074】
[塗剤Kの作製]
特許文献特開平9-227627号を参考にして、けん化度88、平均重合度4000となるPVAを作製した。該PVAを、4質量%となるように水に溶解し、塗剤Kを得た。
【0075】
[塗剤Lの作製]
特許文献特開平9-227627号を参考にして、けん化度88、平均重合度6000となるPVAを作製した。該PVAを、4質量%となるように水に溶解し、塗剤Lを得た。
【0076】
[塗剤Cの作製]
特許文献特開2006-213810号を参考にして、平均重合度200の付加反応型シリコーン樹脂を作製し、付加反応型シリコーン樹脂に対して質量基準で白金触媒(塩化白金酸のジビニルテトラメチルジシロキサン錯体)を660ppm加え、トルエンを溶媒として固形分1.5質量%となるように調整し、塗剤Cを得た。
【0077】
[塗剤Dの作製]
特許文献特開2006-213810号を参考にして、平均重合度200の付加反応型シリコーン樹脂を作製し、付加反応型シリコーン樹脂に対して質量基準で白金触媒(塩化白金酸のジビニルテトラメチルジシロキサン錯体)を220ppm加え、トルエンを溶媒として固形分1.5質量%となるように調整し、塗剤Dを得た。
【0078】
[塗剤Eの作製]
特許文献特開2006-213810号を参考にして、平均重合度200の付加反応型シリコーン樹脂を作製し、付加反応型シリコーン樹脂に対して質量基準で白金触媒(塩化白金酸のジビニルテトラメチルジシロキサン錯体)を3300ppm加え、トルエンを溶媒として固形分1.5質量%となるように調整し、塗剤Eを得た。
【0079】
[塗剤Fの作製]
長鎖アルキル基含有化合物として、長鎖アルキル基含有ポリビニル樹脂(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)の“ピーロイル”(登録商標)1050)を固形分換算で10質量部、架橋剤としてメラミン系架橋剤(住友化学(株)の“スミマール”(登録商標)M-55)を固形分換算で1.0質量部、酸触媒としてp-トルエンスルホン酸(テイカ(株)のテイカキュア(商品名)AC-700)を固形分換算で1.3質量部を量り取り、溶媒としてトルエンを400質量部、メチルエチルケトンを130質量部に混合し、塗剤Fを得た。
【0080】
[塗剤Gの作製]
特許文献特開2006-213810号を参考にして、平均重合度200の付加反応型シリコーン樹脂を作製し、トルエンを溶媒として固形分1.5質量%となるように調整し、塗剤Gを得た。
【0081】
[塗剤Hの作製]
チタン酸バリウム(富士チタン工業株式会社製商品名HPBT-1)100質量部、ポリビニルブチラール(積水化学株式会社製商品名BL-1)10質量部、フタル酸ジブチル5質量部とトルエン-エタノール(質量比30:30)60質量部に、数平均粒径2mmのガラスビーズを加え、ジェットミルにて24時間混合・分散させた後、濾過してペースト状の誘電体ペーストを作製し、塗剤Hを得た。
【0082】
[塗剤Iの作製]
株式会社日本触媒製のPVP(ポリビニルピロリドン)樹脂「K-90」を、4質量%となるように水で希釈し、塗剤Iを得た。
【0083】
(実施例1)
原料としてPET-1を80質量部、MB-1を20質量部混合し、160℃で2時間真空乾燥した後押出機に投入し、280℃で溶融させ、ダイを通して表面温度25℃のキャスティングドラム上に押し出し、未延伸シートを作製した。続いて該シートを加熱したロール群で予熱した後、90℃の温度で長手方向(MD方向)に3.8倍延伸を行った後、25℃の温度のロール群で冷却して一軸延伸フィルムを得た。得られた一軸延伸フィルムに、乾燥・TD延伸・熱固定・冷却後の塗布厚みが100nmとなるようにバーコート法にて塗剤Aを塗布し、続いてフィルムのフィルム両端をクリップで把持しながらテンター内の100℃の温度の加熱ゾーンで長手方向に直角な幅方向(TD方向)に4.3倍延伸した。さらに引き続いて、テンター内の熱処理ゾーンで230℃の温度で10秒間の熱固定を施した。次いで、冷却ゾーンで均一に徐冷後、巻き取り、層Xが積層された積層ポリエステルフィルムを得た。
【0084】
得られた積層ポリエステルフィルムの層Xのポリエステルフィルムと接する面とは反対の面に、層Yとして乾燥後の厚みが100nmとなるように塗剤Cを用いてグラビアコート法にて塗布し、積層ポリエステルフィルムを得た。
【0085】
層Xと層Yを設けた積層ポリエステルフィルムを熱風オーブンにて40℃20時間熱処理した。
【0086】
熱処理した積層ポリエステルフィルムに、被離型物として、塗剤Hをダイコート法によって乾燥後の厚みが1.0μmとなるように塗布し、塗布してから15秒後に100℃の温度で風速5m/秒の炉内で2分間の乾燥を実施した。その後、得られた積層体から、誘電体(被離型物)を離型するとともに、被離型物を剥離した積層ポリエステルフィルムが巻き取られてなるフィルムロールを得た。得られた積層ポリエステルフィルムの各特性を評価した。評価結果を表に示す。エージングを実施したことにより層Xと層Yの反応が適度に進行し、層Xと層Yの硬さ指標、層Xと層Yの破壊強度が特に好ましい範囲となり、各特性とも良好であった。
【0087】
(実施例2-19)
使用する塗剤、エージング条件、層X、層Yの厚みを表の記載の通りに変えた以外は、実施例1と同様にして積層ポリエステルフィルムを得た。各特性の評価結果を表に示す。
【0088】
実施例2~4、6~8、10、14では、エージングを実施したことにより層Xと層Yの反応が適度に進行し、層Xと層Yの硬さ指標、層Xと層Yの破壊強度が特に好ましい範囲となり、各特性に優れたフィルムであった。
【0089】
実施例5、9、11ではエージングを実施していないため、層Xと層Yの反応が進行しにくく、層Yは硬くなり、層Xと層Yの硬さ指標がやや小さく(すなわち硬い)、また層Xと層Yの破壊強度もやや大きい結果、層X、層Yの除去性にやや劣る結果であったが、実用上問題ない範囲であった。
【0090】
実施例12では、層Yの厚みが薄いため、層Xと層Yの反応が進行しやすく、層Xと層Yの破壊強度がやや小さく、被離型物の剥離性にやや劣るが、実用上問題ない範囲であった。
【0091】
実施例13では、層Yの厚みが厚いため、層Xと層Yの反応が進行しにくく、層Xと層Yの破壊強度がやや小さく、層Xと層Yの硬さ指標、層Xと層Yの破壊強度が特に好ましい範囲からは外れるためやや特性に劣るものの、実用上問題のないフィルムであった。
【0092】
実施例15では、付加反応型シリコーンではない離型剤を用いたため、層Xと層Yの反応が進行せず、層Xと層Yの硬さ指標、層Xと層Yの破壊強度が特に好ましい範囲からは外れるためやや特性に劣るものの、実用上問題のないフィルムであった。
【0093】
実施例16~19では、層Xの平均重合度が700以上のため、層Xと層Yの反応が十分に進行し、層Xと層Yの硬さ指標、層Xと層Yの破壊強度が特に好ましい範囲となり、各特性に優れたフィルムであった。
【0094】
(比較例1)
層Xを形成するための塗剤として、塗剤Iを使用した以外は、実施例1と同様に積層ポリエステルフィルムを作製し、各特性を評価した。層Xが水酸基を有する組成物ではないため、層Xと層Yの反応が進行せず、特に層Yは硬いものとなり、層Xと層Yの硬さ指標、破壊強度を制御することができず、特性に劣るフィルムであった。
【0095】
(比較例2)
層Yを形成するための塗剤として、塗剤Gを使用した以外は、実施例1と同様に積層ポリエステルフィルムを作製し各特性を評価した。Pt元素を添加しないため層Xと層Yの反応が進行せず、また層Y自体の形成もできず非常に柔らかい層となり、全ての特性に劣るフィルムであった。
【0096】
(比較例3、4)
エージング条件を表に記載の通りに変えた以外は、実施例1と同様にして積層ポリエステルフィルムを作製し、各特性を評価した。エージング温度が高いため、層Xと層Yの反応が過度に進行した結果、層Xと層Yの硬さ指標が大きくなり、また層Xと層Yの破壊強度も小さくなりすぎたため、各特性に劣るフィルムであった。
【0097】
(比較例5)
層Xを形成するための塗剤として、塗剤Lを使用した以外は、実施例1と同様に積層ポリエステルフィルムを作製し、各特性を評価した。層Xの平均重合度が大きく、層Xと層Yの反応が進行せず、層Xと層Yの硬さ指標、層Xと層Yの破壊強度を制御することができず、特性に劣るフィルムであった。
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
なお、実施例に関し、明細書の説明と表の記載に齟齬がある場合は、表の記載を優先する。
本発明の積層ポリエステルフィルムは、離型層密着性と剥離性に優れ、ポリエステルフィルム以外の層の除去性に優れる。また、本発明の層Yを撥水性のある材料とすることで、誘電体ペーストを被離型物とした積層セラミックコンデンサ(MLCC)の製造工程用の離型用フィルムとして好適に使用できる。また、MLCC製造工程で使用した後の離型用フィルムからポリエステルフィルムを容易に回収できるため、ポリエステルフィルムを溶融製膜用の原料として容易に再利用することができる。