(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128924
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】酸素発生反応用触媒または二元触媒、および触媒を備える電極
(51)【国際特許分類】
B01J 23/34 20060101AFI20240913BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20240913BHJP
H01M 12/08 20060101ALI20240913BHJP
C25B 11/052 20210101ALI20240913BHJP
C25B 11/077 20210101ALI20240913BHJP
C25B 11/087 20210101ALI20240913BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20240913BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240913BHJP
【FI】
B01J23/34 M
H01M4/90 X
H01M12/08 K
C25B11/052
C25B11/077
C25B11/087
C25B1/04
C25B9/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023188920
(22)【出願日】2023-11-02
(31)【優先権主張番号】P 2023037811
(32)【優先日】2023-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100167232
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 みな
(72)【発明者】
【氏名】坂巻 龍之介
(72)【発明者】
【氏名】小塚 久司
(72)【発明者】
【氏名】江崎 克紘
【テーマコード(参考)】
4G169
4K011
4K021
5H018
5H032
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169AA03
4G169BA06A
4G169BA08B
4G169BB02B
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BC01A
4G169BC02B
4G169BC04B
4G169BC08A
4G169BC09A
4G169BC09B
4G169BC12B
4G169BC29A
4G169BC31B
4G169BC38A
4G169BC44B
4G169BC58B
4G169BC62A
4G169BC62B
4G169BC66B
4G169BC67B
4G169BC68B
4G169BC75B
4G169CB81
4G169DA06
4G169EA02Y
4G169EB14Y
4G169EB18Y
4G169EC23
4G169FA01
4G169FB06
4G169FB30
4G169FB57
4K011AA69
4K011BA12
4K011DA01
4K021AA01
4K021BA02
4K021DB18
5H018AA10
5H018AS03
5H018BB01
5H018BB06
5H018BB11
5H018EE13
5H018HH05
5H032AA01
5H032AS01
5H032AS03
5H032AS11
5H032CC11
5H032EE02
5H032EE15
5H032HH01
(57)【要約】
【課題】酸素発生反応を促進する触媒の性能を向上させる。
【解決手段】Aサイト秩序型ペロブスカイト酸化物を有すると共に酸素発生反応を促進する酸素発生反応用触媒または二元触媒は、前記Aサイト秩序型ペロブスカイト酸化物が、組成式:Ca
aD
bMn
cE
dO
12-δ(但し、元素Dは、アルカリ金属元素、Caを除くアルカリ土類金属元素、希土類元素から選ばれる少なくとも1種を表し、元素Eは、Mnを除く遷移元素から選ばれる少なくとも1種を表す)で表され、前記a,b,c,d,δが、0.85≦(a+b)≦1.15、6.75≦(c+d)≦7.25、0.125<(a+b)/(c+d)<0.167、0≦b≦0.3、0≦d≦0.5、0<δ≦0.5を満たす。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Aサイト秩序型ペロブスカイト酸化物を有すると共に酸素発生反応を促進する酸素発生反応用触媒または二元触媒であって、
前記Aサイト秩序型ペロブスカイト酸化物が、組成式:CaaDbMncEdO12-δ(但し、元素Dは、アルカリ金属元素、Caを除くアルカリ土類金属元素、希土類元素から選ばれる少なくとも1種を表し、元素Eは、Mnを除く遷移元素から選ばれる少なくとも1種を表す)で表され、前記a,b,c,d,δが、
0.85≦(a+b)≦1.15
6.75≦(c+d)≦7.25
0.125<(a+b)/(c+d)<0.167
0≦b≦0.3
0≦d≦0.5
0<δ≦0.5
を満たすことを特徴とする
酸素発生反応用触媒または二元触媒。
【請求項2】
請求項1に記載の酸素発生反応用触媒または二元触媒であって、
前記bが正の値である場合には、前記元素Dの原子価が1であり、
前記dが正の値である場合には、前記元素Eの原子価が2または3であることを特徴とする
酸素発生反応用触媒または二元触媒。
【請求項3】
請求項2に記載の酸素発生反応用触媒または二元触媒であって、
前記Aサイト秩序型ペロブスカイト酸化物は、前記組成式における前記元素Dおよび前記元素Eを合わせた元素として、2種以上の元素を含むことを特徴とする 酸素発生反応用触媒または二元触媒。
【請求項4】
請求項1に記載の酸素発生反応用触媒または二元触媒であって、
(b+d)<0.5であることを特徴とする
酸素発生反応用触媒または二元触媒。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか一項に記載の酸素発生反応用触媒または二元触媒であって、
前記δは、0.03以上であることを特徴とする
酸素発生反応用触媒または二元触媒。
【請求項6】
請求項5に記載の酸素発生反応用触媒または二元触媒であって、
前記δは、0.10以上であることを特徴とする
酸素発生反応用触媒または二元触媒。
【請求項7】
請求項1に記載の酸素発生反応用触媒または二元触媒を備えることを特徴とする
電極。
【請求項8】
請求項7に記載の電極であって、
前記電極は、アルカリ水電解用アノード電極、金属空気2次電池の空気極、光電極システムのアノード電極、および、固体酸化物形電解セルのアノード電極のうちのいずれかであることを特徴とする
電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、酸素発生反応用触媒または二元触媒、および触媒を備える電極に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ水電解装置や金属空気二次電池など、エネルギー変換を伴う種々の装置において、酸素発生反応(OER:Oxygen Evolution Reaction)が進行し、このような反応の効率を高めるために、上記装置では酸素発生反応用触媒が用いられる。酸素発生反応用触媒としては、近年、貴金属を用いない触媒が種々検討されている。貴金属を用いない酸素発生反応用触媒としては、例えば、特許文献1では、Aサイト秩序型ペロブスカイト酸化物を含有する触媒が提案されている。また、特許文献2では、マンガン酸化物が導電性担体の表面に担持された触媒が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5869169号公報
【特許文献2】特開2020-161341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような酸素発生反応用触媒は、一般に、上記したような装置における酸素発生反応が進行する電極に設けられており、このような装置では、酸素発生反応を進行させるための過電圧を抑えてエネルギー効率を高めるために、酸素発生反応用触媒におけるさらなる性能の向上が望まれていた。このような課題は、例えば金属空気二次電池の空気極が備える触媒のように、酸素発生反応に加えて酸素還元反応を促進する二元触媒においても共通するものであった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
(1)本開示の一形態によれば、Aサイト秩序型ペロブスカイト酸化物を有すると共に酸素発生反応を促進する酸素発生反応用触媒または二元触媒が提供される。この酸素発生反応用触媒または二元触媒は、前記Aサイト秩序型ペロブスカイト酸化物が、組成式:CaaDbMncEdO12-δ(但し、元素Dは、アルカリ金属元素、Caを除くアルカリ土類金属元素、希土類元素から選ばれる少なくとも1種を表し、元素Eは、Mnを除く遷移元素から選ばれる少なくとも1種を表す)で表され、前記a,b,c,d,δが、
0.85≦(a+b)≦1.15
6.75≦(c+d)≦7.25
0.125<(a+b)/(c+d)<0.167
0≦b≦0.3
0≦d≦0.5
0<δ≦0.5
を満たす。
この形態の酸素発生反応用触媒または二元触媒によれば、組成式:CaaDbMncEdO12-δ(但し、元素Dは、アルカリ金属元素、Caを除くアルカリ土類金属元素、希土類元素から選ばれる少なくとも1種を表し、元素Eは、Mnを除く遷移元素から選ばれる少なくとも1種を表す)で表されるAサイト秩序型ペロブスカイト酸化物が、酸素欠損を有することにより、酸素発生反応用触媒としての触媒性能を高めることができる。また、上記Aサイト秩序型ペロブスカイト酸化物は、酸素発生反応に加えて酸素還元反応を促進する活性も有しており、二元触媒として用いる場合であっても、酸素発生反応を促進する活性を高める効果が得られる。
(2)上記形態の酸素発生反応用触媒または二元触媒において、前記bが正の値である場合には、前記元素Dの原子価が1であり、前記dが正の値である場合には、前記元素Eの原子価が2または3であることとしてもよい。このような構成とすれば、Caよりも原子価が低い元素Dや、Mnよりも原子価が低い元素Eは、周囲よりも電子が不足して周囲の元素から電子を受け取るアクセプタとして機能するため、Aサイト秩序型ペロブスカイト酸化物において、電気的中性条件を満たすための酸素欠損を生じさせることができる。
(3)上記形態の酸素発生反応用触媒または二元触媒において、前記Aサイト秩序型ペロブスカイト酸化物は、前記組成式における前記元素Dおよび前記元素Eを合わせた元素として、2種以上の元素を含むこととしてもよい。これは、元素Dのみで2種以上存在する、あるいは、元素Eのみで2種以上存在することとしてもよく、また、元素Dと元素Eの各々が1種以上存在して合わせて2種以上の元素が存在してもよい。このような構成とすれば、元素Dや元素Eであるすべての元素がアクセプタとして機能する元素でなくても、Aサイト秩序型ペロブスカイト酸化物全体で化学量論比の酸素の負電荷量に対し、正電荷量が不足する状態となるならば、電気的中性条件を満たすための酸素欠損を生じさせることができる。
(4)上記形態の酸素発生反応用触媒または二元触媒において、(b+d)<0.5であることとしてもよい。このような構成とすれば、元素Dおよび元素Eの含有割合を抑えることにより、Aサイト秩序型ペロブスカイト酸化物中に副相が生じることを抑えることができる。
(5)上記形態の酸素発生反応用触媒または二元触媒において、前記δは、0.03以上であることとしてもよい。このような構成とすれば、酸素発生反応用触媒としての活性をさらに高めることができる。
(6)上記形態の酸素発生反応用触媒または二元触媒において、前記δは、0.10以上であることとしてもよい。このような構成とすれば、酸素発生反応用触媒としての活性をさらに高めることができる。
(7)本開示の他の一形態によれば、電極が提供される。この電極は、(1)から(6)までのいずれか一項に記載の酸素発生反応用触媒または二元触媒を備える。
この形態の電極によれば、電極が備えるAサイト秩序型ペロブスカイト酸化物が、酸素欠損を有することにより、電極で進行する酸素発生反応の活性を高めることができる。
(8)上記形態の電極は、アルカリ水電解用アノード電極、金属空気2次電池の空気極、光電極システムのアノード電極、および、固体酸化物形電解セルのアノード電極のうちのいずれかであることとしてもよい。このような構成とすれば、アルカリ水電解用アノード電極、金属空気2次電池の空気極、光電極システムのアノード電極、および、固体酸化物形電解セルのアノード電極のうちのいずれかで進行する酸素発生反応用の活性を高めることができる。
本開示は、上記以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、酸素発生反応用触媒または二元触媒の製造方法や、上記触媒を含む電極を備えたアルカリ水電解装置、金属空気2次電池、光電極システム、および、固体酸化物形電解セルなどの形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】Aサイト秩序型ペロブスカイト酸化物の構造を模式的に表す説明図。
【
図2】本実施形態の酸化物の製造方法の一例を示す説明図。
【
図3】実施例の各サンプルの具体的な構成を示す説明図。
【
図4】触媒性能に係る評価を行った結果を示す説明図。
【
図5】OER評価としての電気化学測定結果を示す説明図。
【
図6】ORR評価としての電気化学測定結果を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
A.酸素発生反応用触媒および酸素還元反応用触媒:
本実施形態の触媒は、酸素発生反応(OER:Oxygen Evolution Reaction)を促進する酸素発生反応用触媒である。また、本実施形態の触媒は、酸素発生反応に加えてさらに酸素還元反(ORR:Oxygen Reduction Reaction)を促進するため、二元触媒として用いることもできる。以下ではまず、本実施形態の触媒の構成について説明する。
【0008】
本実施形態の触媒は、第1の組成式であるCaaDbMncEdO12-δで表されるAサイト秩序型ペロブスカイト(四重ペロブスカイト)酸化物を有している。上記第1の組成式において、元素Dは、アルカリ金属元素、Caを除くアルカリ土類金属元素、希土類元素から選ばれる少なくとも1種を表し、元素Eは、Mnを除く遷移元素から選ばれる少なくとも1種を表す。本実施形態の触媒は、上記組成式において、a,b,c,d,δが、以下に示す(1)式~(6)式を満たす。
【0009】
0.85≦(a+b)≦1.15 … (1)
6.75≦(c+d)≦7.25 … (2)
0.125<(a+b)/(c+d)<0.167 … (3)
0≦b≦0.3 … (4)
0≦d≦0.5 … (5)
0<δ≦0.5 … (6)
【0010】
図1は、Aサイト秩序型ペロブスカイト酸化物の一般的な構造を模式的に表す説明図である。Aサイト秩序型ペロブスカイト酸化物は、第2の組成式AA'
3B
4O
12(Aは希土類元素あるいはアルカリ土類金属元素、A'およびBは遷移金属)で表される。このようなAサイト秩序型ペロブスカイト酸化物の構造は、
図1に示すように、Bサイトの元素を含むBO
6八面体に加えて、元素A'を含んで秩序配列したA'O
4平面を有する。
【0011】
本実施形態の触媒を構成するAサイト秩序型ペロブスカイト酸化物は、第1の組成式CaaDbMncEdO12-δにおけるδの値が(6)式に示すように0よりも大きくなっており、酸素欠損が生じている。本実施形態のAサイト秩序型ペロブスカイト酸化物は、後述するように、このような酸素欠損を有することにより、酸素発生反応を促進する活性を高めている。
【0012】
第1の組成式CaaDbMncEdO12-δで表される本実施形態のAサイト秩序型ペロブスカイト酸化物(以下では、単に「本実施形態の酸化物」とも呼ぶ)は、第3の組成式CaMn7O12で表される構造を基本構造としている。本実施形態の酸化物では、第2の組成式AA'3B4O12におけるAサイトはカルシウム(Ca)元素によって占められると共に、bが正の値であれば元素Dによっても占められる。既述したように、第2の組成式AA'3B4O12で表されるAサイト秩序型ペロブスカイト酸化物のAサイトは、希土類元素やアルカリ土類金属元素によって占められることが一般に知られている。そのため、元素Dは、Caを除くアルカリ土類金属元素や希土類元素から選ばれる少なくとも1種とすることができるが、本実施形態の酸化物では、元素Dとして、既述したようにアルカリ金属元素から選択することもできる。第2の組成式AA'3B4O12におけるA'サイトおよびBサイトは、マンガン(Mn)元素によって占められると共に、dが正の値であれば元素Eによっても占められる。ただし、Aサイト秩序型ペロブスカイト(四重ペロブスカイト型)の結晶構造を維持できるならば、若干の結晶構造のゆがみ等に起因して、(1)式に示すように(a+b)の値は1からずれることが許容され、(2)式に示すように(c+d)の値は7からずれることが許容される。(a+b)は、0.85以上とすればよく、0.90以上とすることがより望ましい。また、(a+b)は、1.15以下とすればよく、1.10以下とすることがより望ましい。(c+d)は、6.75以上とすればよく、6.85以上とすることがより望ましい。また、(c+d)は、7.25以下とすればよく、7.15以下とすることがより望ましい。
【0013】
さらに、本実施形態の酸化物では、第3の組成式CaMn7O12におけるCaサイトとMnサイトの比が1:6より大、1:8より小とすることで、Aサイト秩序型ペロブスカイト酸化物としての構造を確保している。上記したCaサイトとMnサイトの比の範囲に基づいて、(3)式の数値範囲が設定されている。
【0014】
また、第1の組成式CaaDbMncEdO12-δで表される本実施形態のAサイト秩序型ペロブスカイト酸化物は、第1の組成式における元素Dおよび元素Eを合わせた元素として、2種以上の元素を含むこととしてもよい。なお、(4)式および(5)式に示すようにbとdとは0となり得るのであって、元素Dおよび元素Eはいずれも必須ではない。また、本実施形態の酸化物において、元素Dおよび元素Eの含有割合が高いほど酸化物中に副相が生じ易くなる。そのため、副相が生じることを抑える観点から、第1の組成式におけるbとdとは、以下の(7)式を満たすことが好ましい。
【0015】
(b+d)<0.5 … (7)
【0016】
本実施形態の酸化物に係る上記第1の組成式において、酸素欠損の程度を表すδの値は、(6)式に示すように0.5以下となっており、酸化物がAサイト秩序型ペロブスカイト(四重ペロブスカイト)の結晶構造を維持できる値であればよい。本実施形態の酸化物において酸素発生反応用触媒としての活性を高める効果を確保する観点からは、δの値は、0.03以上とすることが望ましく、0.05以上とすることがより望ましく、0.10以上とすることがさらに望ましい。
【0017】
第1の組成式で表される本実施形態の酸化物において、bとdが0ではなく、元素Dの価数がxであり、元素Eの価数がyであるときには、Ca元素の原子価が「+2価」であり酸素元素の原子価が「-2価」であるため、組成物の電気的中性条件から、以下の(8)式が成り立つといえる。なお、(8)式におけるMn元素の原子価としての3.14は、酸素欠損がない第3の組成式CaMn7O12から算出される値である。すなわち、Ca元素の原子価が「+2価」であり酸素元素の原子価が「-2価」であることからMnは7原子で価数の合計が+22となり、22を7で除することによってMnの1原子当たりの価数として算出したものである。
【0018】
a・2+b・x+c・3.14+d・y≒2・(12-δ) … (8)
【0019】
本実施形態の酸化物を表す第1の組成式であるCaaDbMncEdO12-δにおいて、bが正の値である場合には、元素Dは、Caの原子価(+2価)よりも小さな原子価の元素であることが望ましい。具体的には、元素Dは、原子価が1である元素(例えば、リチウム(Li)やナトリウム(Na)等のアルカリ金属元素)とすることが望ましい。また、dが正の値である場合には、元素Eは、Mnの原子価(上記した「+3.14」)よりも小さな原子価の元素であることが望ましい。具体的には、元素Eは、原子価が2または3である元素とすることが望ましい。このように、CaやMnよりも原子価が低い元素Dや元素Eは、周囲よりも電子が不足して周囲の元素から電子を受け取るアクセプタとして機能する。以下では、Caよりも原子価が低い元素Dや、Mnよりも原子価が低い元素Eを、「アクセプタ元素」とも呼ぶ。このようなアクセプタ元素をドープすることにより、Aサイト秩序型ペロブスカイト酸化物全体で化学量論比の酸素の負電荷量に対し、正電荷量が減少して、電気的中性条件を満たすための酸素欠損を生じさせることができる。なお、上記酸化物における元素Dや元素Eの原子価は、X線吸収微細構造解析(XAFS)またはX線光電子分光分析法(XPS)により判定することができる。
【0020】
なお、本実施形態の酸化物が、元素Dおよび元素Eを合わせた元素として2種以上の元素を含む場合、すなわち、元素Dと元素Eの双方を含む場合(ただし、元素Dと元素Eの各々は、単一の元素であってもよく複数の元素であってもよい)、あるいは、元素Dおよび元素Eのうちの少なくとも一方を含む場合であって、含まれる元素Dや元素Eが複数の元素を含む場合には、ドープされたすべての元素がアクセプタ元素である必要はない。例えば、ドープされた元素Dの一部の原子価は、Caの原子価以上であってもよく、ドープされた元素Eの一部の原子価は、Mnの原子価以上であってもよい。本実施形態の酸化物において、十分量のアクセプタ元素がドープされており、酸化物全体で化学量論比の酸素の負電荷量に対し、正電荷量が不足する状態となるならば、電気的中性条件を満たすための酸素欠損を生じさせることができる。
【0021】
また、本実施形態の酸化物が元素Dと元素Eのうちの少なくとも一方を含むときに、このようなドープされた元素のすべてがアクセプタ元素ではない、例えば、Caと同等以上の原子価の元素Dや、Mnと同等以上の原子価の元素Eのみを含むこととしてもよい。このような場合、および、元素Dおよび元素Eを含まない場合には、後述するように、酸化物の製造時において低酸素分圧下(還元雰囲気下)での焼成を行うことで、酸素欠損を有する本実施形態の酸化物を得ることができる。
【0022】
本実施形態のAサイト秩序型ペロブスカイト酸化物触媒の結晶構造は、例えば、X線回折法(XRD)によって確認することができる。
【0023】
B.触媒の製造方法:
図2は、本実施形態の酸化物の製造方法の一例を示す説明図である。
図2は、固相法を示している。以下では、既述した元素Dおよび元素Eのうちの少なくとも一方としてアクセプタ元素を備え、第3の組成式CaMn
7O
12に比べて酸化物を構成するカチオンの原子価が低下する酸化物を製造する場合について説明する。
【0024】
図2において、本実施形態の酸化物を製造する際には、まず、原料粉末を混合する(工程T100)。具体的には、カルシウム(Ca)およびマンガン(Mn)と、必要に応じてさらに元素Dや元素Eについて、酸化物や炭酸塩などの原料粉末を用意して混合する。混合は、例えば、エタノール等の溶媒を加えて、ボールミル等を用いて湿式にて行うことができる。
【0025】
その後、工程T100で得られた混合物から溶媒を除去し、仮焼成によって固相合成を進行させる(工程T110)。仮焼成は、例えば大気雰囲気下にて行えばよく、焼成温度や時間は、用いる原料の種類等に応じて適宜設定すればよい。仮焼成の後、得られた仮焼成物を粉砕し(工程T120)、所望の形状に成形する(工程T130)。成形する形状は、触媒の用途や使用態様によって適宜設定すればよく、例えば、粉末状や粒子状やペレット状とすることができる。成形後に本焼成を行って(工程T140)、本実施形態の酸化物を完成する。本焼成は、例えば大気雰囲気下にて行えばよく、焼成温度や時間は、用いる原料の種類等に応じて適宜設定すればよい。なお、第1の組成式であるCaaDbMncEdO12-δで表される本実施形態の酸化物は、焼成の工程において特別な高圧条件とする必要がなく、高圧条件を実現するための特別な装置を用いることなく製造することができる。なお、原料はすべて一括で投入する必要はなく、例えば、工程T110の仮焼成の前と後に分けて原料を投入してもよい。
【0026】
元素Dおよび元素Eのうちの少なくとも一方としてアクセプタ元素を備え、第3の組成式CaMn7O12に比べて酸化物を構成するカチオンの原子価が低下する酸化物を製造する場合には、上記のような製造方法により、酸素欠損を有する酸化物を得ることができる。なお、Aサイト秩序型ペロブスカイト酸化物において十分な酸素欠損を生じさせるために、本焼成の後に、後述するような還元雰囲気下での加熱処理をさらに行うこととしてもよい。
【0027】
上記とは異なり、本実施形態の酸化物が、添加元素である元素Dや元素Eを含まない場合、あるいは、元素Dと元素Eのうちの少なくとも一方を含む場合であって、このような添加元素のすべてがアクセプタ元素ではない場合には、大気雰囲気下にて仮焼成および本焼成を行った後に、低酸素分圧下(還元雰囲気下)で加熱処理(アニール)を行うこととすればよい。低酸素分圧下における加熱処理の条件としては、例えば、酸素分圧が10-5atm未満であって、処理温度が300~600℃程度の温度範囲であり、処理時間を1~10時間とすることができる。このように低酸素分圧下での加熱処理を行うことにより、アクセプタ元素を含まない場合であっても、酸素欠損を有するAサイト秩序型ペロブスカイト酸化物を得ることができる。
【0028】
本実施形態の酸化物を製造する方法としては、上述したような固相法以外の方法を採用してもよく、例えば、クエン酸錯体重合法や共沈法やゾルゲル法など、ペロブスカイト酸化物の製造方法として知られる種々の方法を用いることができる。この場合にも、第1の組成式であるCaaDbMncEdO12-δ(ただしδ=0)で表されるAサイト秩序型ペロブスカイト酸化物を得た後に、上記した低酸素分圧下での焼成と同様の条件での加熱処理(アニール)を行うこととすればよく、これにより、酸素欠損を有する本実施形態の酸化物を得ることができる。
【0029】
以上のように構成された本実施形態のAサイト秩序型ペロブスカイト酸化物によれば、酸素欠損を有することにより、酸素発生反応用触媒としての触媒性能を高めることができる。また、本実施形態の酸化物は、酸素発生反応に加えて酸素還元反応を促進する活性も有しており、二元触媒としての使用が可能であるが、二元触媒として用いる場合であっても、酸素発生反応を促進する活性を高める効果が得られる。
【0030】
本実施形態の酸化物を備える触媒が促進する酸素発生反応(OER)は、以下の(9)式で表すことができる。
【0031】
4OH- → O2 + 2H2O + 4e- … (9)
【0032】
酸素発生反応が進行する際には、(9)式中の「OH
-」や、酸素発生反応が進行する過程で「OH
-」から生じる中間体が、酸素発生反応用触媒における吸着サイトに吸着することにより、(9)式の反応が促進されると考えられる。本実施形態の酸化物を備える酸素発生反応用触媒では、例えば
図1に示したBサイトの元素を含むBO
6八面体の構造において酸素欠損が生じることにより、上記吸着サイト(反応起点)が増加し、あるいは上記吸着サイトの活性が高まり、反応が生じ易くなって、触媒特性が向上すると考えられる。
【0033】
C.触媒の適用例:
本実施形態の酸化物を備える酸素発生反応用触媒および二元触媒は、例えば、酸素発生反応が進行する電極において好適に用いることができる。このような電極としては、例えば、アルカリ水電解用アノード電極、金属空気2次電池の空気極、光電極システムのアノード電極、および、固体酸化物形電解セルのアノード電極を挙げることができる。ただし、本実施形態の酸化物の用途は上記に限定されず、さらに他の装置における酸素発生反応を進行する電極に適用することとしてもよい。また、電極を備える装置に限定されず、酸素発生反応が進行する種々の装置において、酸素発生反応用触媒として用いることができる。
【0034】
アルカリ水電解装置とは、一対の電極間に電解質としてアルカリ水を配置して水電解を行う装置であり、アノードにおいて以下の(10)式の反応が進行し、カソードにおいて以下の(11)式の反応が進行する。このようなアルカリ水電解装置において、酸素発生反応が進行するアノード電極を、本実施形態の酸化物を備える電極とすることで、アノード電極で進行する酸素発生反応を促進し、装置性能を向上させることができる。
【0035】
2OH- → H2O + 1/2O2 + 2e- … (10)
2H2O +2e- → H2 + 2OH- … (11)
【0036】
金属空気2次電池とは、正極活物質として空気中の酸素を用い、負極活物質として金属を用いる2次電池である。例えば、亜鉛空気電池では、放電時には、空気極(正極)において以下の(12)式の反応が進行し、負極において以下の(13)式の反応が進行する。そして、充電時には、放電時とは逆の反応が進行する。このような金属空気2次電池において、空気極を本実施形態の酸化物を備える電極とすることで、充電時に空気極で進行する酸素発生反応を促進し、装置性能を向上させることができる。
【0037】
O2 + 2H2O + 4e- → 4OH- … (12)
Zn + 2OH- → ZnO + H2O + 2e- … (13)
【0038】
光電極システムとは、太陽光などの光を利用して水を分解する装置であり、光電極であるアノード電極において上記した(10)式の反応が進行し、カソードにおいて上記した(11)式の反応が進行する。このような光電極システムにおける酸素発生反応が進行するアノード電極を、本実施形態の酸化物を備える電極とすることで、アノード光電極で進行する酸素発生反応を促進し、装置性能を向上させることができる。
【0039】
固体酸化物形電解セル(SOEC:Solid Oxide Electrolyzer Cell)とは、
高温の固体電解質を用いた水の電気分解装置であり、アノードにおいて以下の(14)式の反応が進行し、カソードにおいて以下の(15)式の反応が進行する。このような固体酸化物形電解セルにおいて、アノード電極を本実施形態の酸化物を備える電極とすることで、アノード電極で進行する酸素発生反応を促進し、装置性能を向上させることができる。
【0040】
2O2- → O2 + 4e- … (14)
H2O + 2e- → H2 + O2- … (15)
【実施例0041】
図3および
図4は、サンプルS1~サンプルS13までの13種類のペロブスカイト酸化物を作製して、その性能を調べた結果を示す説明図である。
図3は、各サンプルの具体的な構成を示し、
図4は、触媒性能に係る評価を行った結果を示す説明図である。
【0042】
サンプルS1~サンプルS10およびサンプルS13は、第1の組成式であるCa
aD
bMn
cE
dO
12-δで表されて酸素欠損を有するAサイト秩序型ペロブスカイト(四重ペロブスカイト)酸化物である。
図3に示すように、サンプルS1~S4およびサンプルS10は、Aサイトの添加元素である元素Dを含むが、サンプルS5~S9およびサンプルS13は、元素Dを含まない。また、サンプルS3~S10およびサンプルS13は、Bサイトの添加元素である元素Eを含むが、サンプルS1およびS2は元素Eを含まない。ここで、サンプルS3、S4、およびS10は1種類の元素Eを含み、サンプルS5、S6、およびS13は2種類の元素Eを含み、サンプルS7~S9は3種類の元素Eを含む。
図3では、異なる種類の元素Eを、元素E1、E2、E3として区別しており、元素E1、E2、E3の各々の係数を、d1、d2、d3として区別している。第1の組成式Ca
aD
bMn
cE
dO
12-δにおける元素Eの係数dは、d1~d3を合計した値である。
図3では、係数の関係を表す値として、「a+b」、「c+d」、および「(a+b)/(c+d)」の値も合わせて示している。
【0043】
なお、サンプルS11およびサンプルS12は、ペロブスカイト酸化物であるが、酸素欠損を有しない比較例のサンプルである。具体的には、サンプルS11は、第3の組成式CaMn7O12で表される酸化物であり、サンプルS12は、カルシウム(Ca)元素よりも原子価が大きいドナー元素であるプラセオジム(Pr)を添加元素Dとして用いた酸化物である。
【0044】
<各サンプルの作製>
図2に示した製造方法に従って、各サンプルの酸化物を作製した。工程T100で原料粉末を混合する際には、第1の組成式Ca
aD
bMn
cE
dO
12-δで表される各サンプルの原料として、CaCO
3、MnCO
3、Li
2CO
3、Na
2CO
3、SrCo
3、Cr
2O
3、Fe
2O
3、Co
3O
4、NiO、CuO、Pr
2O
3の中から必要なものを選択し、
図3に示した係数a~dの値に応じて秤量した。ここで、アルカリ金属元素など、使用原料によっては焼成中に揮発し、仕込み組成と焼成後の組成が異なる場合があるため、作製した酸化物の組成は、ICP(高周波誘導結合プラズマ)を光源とする発光分光分析(ICP-AES)で確認した。
図3に示した係数a~dは、焼成後の酸化物の粉末についてICP発光分光分析を行い、各元素のモル比に換算した値である。工程T100では、秤量した原料粉末にエタノールを加えて、ボールミルにて15時間湿式混合してスラリーを得た。
【0045】
その後、上記スラリーを乾燥して得られた混合粉末を、大気雰囲気下600~850℃で1~12時間仮焼して仮焼物とした(工程T110)。この仮焼物をボールミルにて、エタノールを加えて粉砕・混合してスラリーを作製し(工程T120)、得られたスラリーを乾燥・造粒して(工程T130)、大気雰囲気下で850~950℃で10~30時間程度焼成して、各サンプルとしての酸化物を得た。
【0046】
<サンプル組成の確認>
各サンプルの組成に関して、係数a~d(a~cおよびd1~d3)は、既述したように、各サンプルについてICP発光分光分析を行い、各元素のモル比として求めた。酸素欠損の程度を表すδは、上記のようにして求めた係数a~dを用いてδの理論値を算出して、酸素欠損が補填された場合の重量増加量の理論値を求め、このような重量増加量の理論値と、各サンプルを熱処理して実際に酸素欠損サイトを補填することによる重量増加量の実測値と、を比較することにより特定した。
【0047】
具体的には、δの理論値は、既述した(8)式に示したような酸化物の電気的中性条件を表す式に基づいて、ICP発光分光分析により求めた係数a~dを式に代入することにより算出した。各サンプルの酸素欠損サイトを補填することによる重量増加量は、以下のようにして測定した。まず、各サンプル(酸化物粉末)40gを、酸素雰囲気中、400~700℃程度の温度条件にて熱処理を行った。このような酸素雰囲気下での熱処理を行うことにより、サンプルが酸素欠損を有する場合には、酸素欠損サイトが補填される。そして、酸素欠損サイトが補填された後のサンプルの重量を測定した。サンプルの重量測定は、分析天秤(最小表示桁0.1mg)を用いて行った。
【0048】
例えば、サンプルS1(Ca0.91Li0.09Mn7O12-δ)では、ICP発光分光分析により求めた係数a~c(a=0.91、b=0.09、c=7)を(8)式に代入することにより、理論的なδの値として0.04が算出される。ここで、δが0.04であるCa0.91Li0.09Mn7O11.96の式量は613.0145となり、酸素欠損を補填した後のCa0.91Li0.09Mn7O12の式量は613.6545となる。そのため、上記酸素欠損の補填前の重量が40gであれば、酸素欠損補填後には40.04176gになると考えられる。そして、上記した分析天秤を用いて測定した熱処理前の重量が40.0011gであったサンプルS1は、熱処理により酸素欠損の補填を行った後には重量が40.0417gに増加したことから、δの値が0.04であることが確認された。他のサンプルについても同様にしてδの値を特定した。
【0049】
なお、サンプルS12については、カルシウム(Ca)元素よりも原子価が大きいドナー元素であるプラセオジム(Pr)を添加元素Dとして用いているため、酸素過剰となっている可能性がある。しかしながら、上記の方法では、重量変化が測定できないことによりδ=0の場合と同様の結果となり、酸素過剰となっているか否かを確認することができない。そのため、
図3ではδの値が空欄となっている。
【0050】
<触媒の特定評価>
[電極の作製]
各サンプルの酸化物(触媒)を用いて触媒電極を作製した。まず、各サンプルの酸化物を用いて触媒インクを作製した。触媒インクは、各サンプル粉末50mg、アセチレンブラック(AB)10mg、カリウムイオンでイオン交換したナフィオン分散液(5wt%ナフィオン分散液と0.1M KOHとを重量比2:1で混合した分散液)0.3mLを混合し、さらにテトラヒドロフラン(THF)を加えて10mLとすることによって作製した。この触媒インクを、超音波処理で十分に分散してから、回転リングディスク電極作用極であるグラッシーカーボン(GC)上に、触媒量が0.25mg/cm2となるように塗布した。その後、真空乾燥を行うことにより、触媒電極を得た。なお、上記回転リングディスク電極とは、直径4mmのグラッシーカーボンと、外径7mm、内径5mmの白金(Pt)リングとによって構成される。
【0051】
[特性評価装置および評価方法の概要]
バイポテンショスタットを備えた回転リングディスク装置を用い、後述する特定の電位掃引速度で特定の電位まで掃引し、その後、同様の電位掃引速度で初期電位まで掃引し、その間の電流密度を測定した。得られた触媒電極を用いて、Ptワイヤ電極を対極とし、0.1M-KOH水溶液で満たしたHg/HgO電極を参照電極として、電気化学特性の測定を行った。なお、全ての測定は酸素飽和下において、室温で行った。
【0052】
[酸素発生反応(OER)の評価]
図5は、OER評価としての電気化学測定結果を示す説明図である。
図5において、横軸は電極電位を示し、縦軸は電流密度を示している。OERに関する触媒酸化物の特性評価に際しては、触媒電極の電位は、10mV/sの電位掃引速度において、参照電極Hg/HgOに対して0.3~0.9V vs.Hg/HgO(1.23~1.83V vs. RHE)に制御した。また、
図5において、電位は電解液の抵抗成分によるiRドロップ(作用電極と参照電極間の溶液抵抗のせいで、作用電極と対極間に流れる電流が作る電圧降下)の補正を行い、RHE基準の電位として示している。
図5では、サンプルS1~S13についての電気化学測定結果のうち、サンプルS1、S6、S8、S10、S11、S12についての測定結果を示している。また、
図4では、OER評価の結果として、各サンプルについての上記電気化学測定結果に基づいて、電流密度が5mAcm
-2よりも大きくなるときの電位を示している。
【0053】
図5に示すOER評価としての電気化学測定結果(電流密度・電位曲線)においては、電流密度の立ち上がりが低電位側にあり、立ち上がり後の傾きが急峻であって任意の電位における電流密度が大きいほど、触媒活性が高いと評価することができる。
図4に示すように、サンプルS1~S10およびサンプルS13はいずれも、サンプルS11およびS12に比べて、電流密度が5mAcm
-2よりも大きくなるときの電位が有意に低い。このように、第1の組成式Ca
aD
bMn
cE
dO
12-δで表されるAサイト秩序型ペロブスカイト(四重ペロブスカイト)酸化物は、酸素欠損を有することにより、酸素発生反応を促進する触媒活性が高まることが確認された。
【0054】
[酸素還元反応(ORR)の評価]
図6は、ORR評価としての電気化学測定結果を示す説明図である。
図6において、横軸は電極電位を示し、縦軸は電流密度を示している。ORRに関する触媒酸化物の特性評価に際しては、触媒電極の電位は、10mV/sの電位掃引速度において、参照電極Hg/HgOに対して0.15~-0.6V vs.Hg/HgO(1.08~0.33V vs. RHE)に制御した。また、
図6において、電位は電解液の抵抗成分によるiRドロップの補正を行い、RHE基準の電位として示している。
図6では、サンプルS1~S13についての電気化学測定結果のうち、サンプルS6、S8、S10、S11についての結果を示している。また、
図4では、ORR評価の結果として、各サンプルについての上記電気化学測定結果に基づいて、電流密度が-1mAcm
-2よりも大きくなるときの電位を示している。
【0055】
さらに、
図4では、ORR評価の結果として、電位0.8Vにおける反応電子数nを示している。ORRの反応電子数nは、以下の(16)式から算出した。(16)式において、「I
disk」はディスク電流、「I
ring」はリング電流、「N」は補足率(|I
ring/I
disk|=0.41)を示す。捕捉率Nは、ディスク電極上の生成物のうちでリング電極に到達して捕捉される割合を反映する値である。ORR反応は、既述した(9)式の逆反応であって、4電子が関与する反応であるため、反応電子数nの値が4に近いほど、副生物が少なく高選択的な反応が進行していると考えられて望ましい。また、反応電子数nの値が4に近いほど、電極の酸化劣化をもたらす過酸化水素を発生する2電子反応が抑えられていることを示すため、長期使用の観点からも望ましい。
【0056】
n=4・|Idisk|/(|Idisk|+Iring/N) … (16)
【0057】
図6に示すORR評価としての電気化学測定結果(電流密度・電位曲線)においては、任意の電位における電流密度が小さい(負の値であって絶対値が大きい)ほど、酸素還元反触媒としての活性が高いと評価することができ、サンプルS6、S8、S10は、サンプルS11に比べて酸素還元反応を促進する触媒活性が高いと考えられる。ただし、
図4に示すように、電流密度が-1mAcm
-2よりも大きくなるときの電位を比較すると、サンプルS1~S10およびサンプルS13と、サンプルS11およびS12との間の差は比較的小さい。そのため、第1の組成式Ca
aD
bMn
cE
dO
12-δで表されるAサイト秩序型ペロブスカイト(四重ペロブスカイト)酸化物が酸素欠損を有することによる触媒活性向上の効果は、酸素還元反応を促進する触媒活性よりも、酸素発生反応を促進する触媒活性において、より顕著に得られると考えられる。
【0058】
本開示は、上述の実施形態等に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【0059】
本開示は、以下の形態としても実現することが可能である。
[適用例1]
Aサイト秩序型ペロブスカイト酸化物を有すると共に酸素発生反応を促進する酸素発生反応用触媒または二元触媒であって、
前記Aサイト秩序型ペロブスカイト酸化物が、組成式:CaaDbMncEdO12-δ(但し、元素Dは、アルカリ金属元素、Caを除くアルカリ土類金属元素、希土類元素から選ばれる少なくとも1種を表し、元素Eは、Mnを除く遷移元素から選ばれる少なくとも1種を表す)で表され、前記a,b,c,d,δが、
0.85≦(a+b)≦1.15
6.75≦(c+d)≦7.25
0.125<(a+b)/(c+d)<0.167
0≦b≦0.3
0≦d≦0.5
0<δ≦0.5
を満たすことを特徴とする
酸素発生反応用触媒または二元触媒。
[適用例2]
適用例1に記載の酸素発生反応用触媒または二元触媒であって、
前記bが正の値である場合には、前記元素Dの原子価が1であり、
前記dが正の値である場合には、前記元素Eの原子価が2または3であることを特徴とする
酸素発生反応用触媒または二元触媒。
[適用例3]
適用例1または2に記載の酸素発生反応用触媒または二元触媒であって、
前記Aサイト秩序型ペロブスカイト酸化物は、前記組成式における前記元素Dおよび前記元素Eを合わせた元素として、2種以上の元素を含むことを特徴とする
酸素発生反応用触媒または二元触媒。
[適用例4]
適用例1から3までのいずれか一項に記載の酸素発生反応用触媒または二元触媒であって、
(b+d)<0.5であることを特徴とする
酸素発生反応用触媒または二元触媒。
[適用例5]
適用例1から4までのいずれか一項に記載の酸素発生反応用触媒または二元触媒であって、
前記δは、0.03以上であることを特徴とする
酸素発生反応用触媒または二元触媒。
[適用例6]
適用例5に記載の酸素発生反応用触媒または二元触媒であって、
前記δは、0.10以上であることを特徴とする
酸素発生反応用触媒または二元触媒。
[適用例7]
適用例1から6までのいずれか一項に記載の酸素発生反応用触媒または二元触媒を備えることを特徴とする
電極。
[適用例8]
適用例7に記載の電極であって、
前記電極は、アルカリ水電解用アノード電極、金属空気2次電池の空気極、光電極システムのアノード電極、および、固体酸化物形電解セルのアノード電極のうちのいずれかであることを特徴とする
電極。