(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128931
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】冷蔵庫
(51)【国際特許分類】
F25D 17/08 20060101AFI20240913BHJP
【FI】
F25D17/08 307
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023204818
(22)【出願日】2023-12-04
(31)【優先権主張番号】P 2023038029
(32)【優先日】2023-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】307036856
【氏名又は名称】アクア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】星野 仁
(72)【発明者】
【氏名】吉田 芳彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 正昭
【テーマコード(参考)】
3L345
【Fターム(参考)】
3L345AA02
3L345BB02
3L345CC01
3L345DD05
3L345DD18
3L345DD21
3L345DD44
3L345KK04
3L345KK05
(57)【要約】
【課題】 冷凍室に収納された食品に冷凍焼けが生じるのを抑制できる冷蔵庫を提供する。
【解決手段】 冷凍室4と、冷凍室4内に配置された上面が開口した容器20A,20Bと、蒸発器12を有する冷却回路と、庫内の空気を流動させるファン14と、を備え、ファン14により流動した空気が、蒸発器12を通過して冷凍室4に流入し、冷凍室4に配置された容器20A,20B内を流れて容器20A,20Bから流出し、容器20A,20Bの面部22,Sに沿って流れて、冷凍室4の下側から流出し、再び蒸発器12の入側に戻る流動サイクルが実施され、容器20A,20Bから流出した空気が沿って流れる容器20A,20Bの面部22,Sに断熱材30が取り付けられている、または冷凍室4の底面4Aに冷却器40が配置されている冷蔵庫2,2’を提供する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷凍室と、
前記冷凍室に配置された上面が開口した容器と、
蒸発器を有する冷却回路と、
庫内の空気を流動させるファンと、
を備え、
前記ファンにより流動した空気が、前記蒸発器を通過して前記冷凍室に流入し、前記冷凍室に配置された前記容器内を流れて前記容器から流出し、前記容器の面部に沿って流れて、前記冷凍室の下側から流出し、再び前記蒸発器の入側に戻る流動サイクルが実施され、
前記冷凍室の底面に冷却器が配置されていることを特徴とする冷蔵庫。
【請求項2】
冷凍室と、
前記冷凍室に配置された上面が開口した容器と、
蒸発器を有する冷却回路と、
庫内の空気を流動させるファンと、
を備え、
前記ファンにより流動した空気が、前記蒸発器を通過して前記冷凍室に流入し、前記冷凍室に配置された前記容器内を流れて前記容器から流出し、前記容器の面部に沿って流れて、前記冷凍室の下側から流出し、再び前記蒸発器の入側に戻る流動サイクルが実施され、
前記容器から流出した空気が沿って流れる前記容器の面部に断熱材が取り付けられていることを特徴とする冷蔵庫。
【請求項3】
前記容器の下面部に前記断熱材が取り付けられていることを特徴とする請求項2に記載の冷蔵庫。
【請求項4】
前記容器の側面部に前記断熱材が取り付けられていることを特徴とする請求項2に記載の冷蔵庫。
【請求項5】
前記冷凍室の底面に冷却器が配置されていることを特徴とする請求項2に記載の冷蔵庫。
【請求項6】
前記容器の底での気温をTBとし、前記容器の高さ方向で略中央の位置における気温をTMとするとき、
TB-TM ≦ 1.0℃
の関係を有することを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の冷蔵庫。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍室を備えた冷蔵庫に関する。
【背景技術】
【0002】
冷凍室を備えた冷蔵庫の中には、冷凍室内の空気の温度差を緩和するためのファンを備えたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の冷蔵庫では、小冷凍室内に容器が配置され、ファンで小冷凍室内に送風を行うことで、容器と、容器内に収容される食品と、小冷凍室内の空気との温度差を緩和することができる。これにより、保存された食品の温度変動を緩和して、食品からの水分放出による乾燥を防ぐことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の冷蔵庫では、空気が容器内を流れる間に、容器内の食品を冷却するとともに、その空気の温度が上昇して容器から流出する。温度が上昇した空気が、容器の外面に沿って流れるとき、熱伝達で容器内の食品が加温される。よって、食品の温度が食品周囲の空気の温度より高くなり、食品の水分が昇華して、食品内の細胞から水分が抜ける虞がある。すると、水分が抜けた部分に空気が入り込んで酸化し、冷凍焼けが生じる虞がある。
【0005】
よって、本発明の目的は、上記の課題を解決するものであり、冷凍室に収納された食品に冷凍焼けが生じるのを抑制できる冷蔵庫を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明の第1の態様は、
冷凍室と、
前記冷凍室に配置された上面が開口した容器と、
蒸発器を有する冷却回路と、
庫内の空気を流動させるファンと、
を備え、
前記ファンにより流動した空気が、前記蒸発器を通過して前記冷凍室に流入し、前記冷凍室に配置された前記容器内を流れて前記容器から流出し、前記容器の面部に沿って流れて、前記冷凍室の下側から流出し、再び前記蒸発器の入側に戻る流動サイクルが実施され、
前記冷凍室の底面に冷却器が配置されている冷蔵庫である。
【0007】
蒸発器を通過した空気が容器内を流れる間に、容器内の食品を冷却するとともに、その空気の温度が上昇して容器から流出する。しかし、冷凍室の底面に配置された冷却器により、下側から冷却されるので、容器の面部に沿って、特に下面部に沿って流れる空気の温度を下げることができる。これにより、空気からの熱伝達で容器内の食品が加温されるのを抑制することができる。よって、食品と食品周囲の空気の温度の差を小さくして、食品に冷凍焼けが生じるのを抑制することができる。
【0008】
これにより、冷凍室に収納された食品に冷凍焼けが生じるのを抑制できる冷蔵庫を提供することができる。
【0009】
本発明の第2の態様は、
冷凍室と、
前記冷凍室に配置された上面が開口した容器と、
蒸発器を有する冷却回路と、
庫内の空気を流動させるファンと、
を備え、
前記ファンにより流動した空気が、前記蒸発器を通過して前記冷凍室に流入し、前記冷凍室に配置された前記容器内を流れて前記容器から流出し、前記容器の面部に沿って流れて、前記冷凍室の下側から流出し、再び前記蒸発器の入側に戻る流動サイクルが実施され、
前記容器から流出した空気が沿って流れる前記容器の面部に断熱材が取り付けられている冷蔵庫である。
【0010】
蒸発器を通過した空気が容器内を流れる間に、容器内の食品を冷却するとともに、空気の温度が上昇して容器から流出する。この温度の上昇した空気が容器の面部に沿って流れるが、断熱材により、空気からの熱伝達で容器内の食品が加温されるのを抑制することができる。よって、食品と食品周囲の空気の温度の差を小さくして、食品に冷凍焼けが生じるのを抑制することができる。
【0011】
これにより、冷凍室に収納された食品に冷凍焼けが生じるのを抑制できる冷蔵庫を提供することができる。
【0012】
本発明の第3態様は、第2の態様において、
前記容器の下面部に前記断熱材が取り付けられている冷蔵庫である。
【0013】
容器の下面部に断熱材が取り付けられている場合には、容器内に収納された食品の温度上昇を効果的に抑制できる。これにより、食品と食品周囲の空気の温度の差を小さくして、冷凍焼けを効果的に抑制することができる。
【0014】
本発明の第4態様は、第2または第3の態様において、
前記容器の側面部に前記断熱材が取り付けられている冷蔵庫である。
【0015】
容器の側面部に断熱材が取り付けられている場合にも、食品と食品周囲の空気の温度の差を小さくして、冷凍焼けを抑制することが期待できる。
【0016】
本発明の第5態様は、第2から第4の何れか1つの態様において、
前記冷凍室の底面に冷却器が配置されている冷蔵庫である。
【0017】
本態様に係る冷蔵庫では、冷却器により、容器の面部に沿って流れる空気の温度を下げることができるとともに、断熱材により、空気から容器内の食品への熱伝達を抑制することができる。これにより、食品と食品周囲の空気の温度の差が小さくなり、冷凍焼けを効果的に抑制することができる。
【0018】
本発明の第6の態様は、第1から第5の何れか1の態様において、
前記容器の底での気温をTBとし、前記容器の高さ方向で略中央の位置における気温をTMとするとき、
TB-TM ≦ 1.0℃
の関係を有する冷蔵庫である。
【0019】
TB-TM ≦ 1.0℃ の関係を有することにより、食品と食品周囲の空気の温度の差を抑えて、冷凍焼けを確実に抑制することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明では、冷凍室に収納された食品に冷凍焼けが生じるのを抑制できる冷蔵庫を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る冷蔵庫の外形を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図1Aの断面A-Aを示す図であって、本発明の第1の実施形態に係る冷蔵庫の構成を模式的に示す側面断面図である。
【
図3A】従来の容器内の食品を冷却する空気の流れ及び熱の移動を模式的に示す側面断面図である。
【
図3B】下面部に断熱材が取り付けられた容器内の食品を冷却する空気の流れ及び熱の移動を模式的に示す側面断面図である。
【
図4】本発明の第2の実施形態に係る冷蔵庫の構成を模式的に示す側面断面図である。
【
図5】本発明の第3の実施形態に係る冷蔵庫の構成を模式的に示す側面断面図である。
【
図6A】本発明の第3の実施形態に係る冷蔵庫で冷凍させた食品(肉)を示す図(写真)である。
【
図6B】従来の冷蔵庫で冷凍させた食品(肉)を示す図(写真)である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の技術思想を具体化するためのものであって、特定的な記載がない限り、本発明を以下のものに限定しない。図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため、誇張して示している場合もある。以下の記載では、冷蔵庫を水平面上に載置し、扉がある側を前側、その反対側を後側として説明する。図面では、空気の流れを点線の矢印で模式的に示す。
【0023】
(本発明の第1の実施形態に係る冷蔵庫)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る冷蔵庫の外形を模式的に示す斜視図である。
図2は、本発明の第1の実施形態に係る冷蔵庫2の構成を模式的に示す側面断面図である。はじめに、
図1及び
図2を参照しながら、本発明の第1の実施形態に係る冷蔵庫2の説明を行う。冷蔵庫2の外箱3及び断熱材5で囲まれた庫内には、下側に冷凍室4が配置され、上側に冷蔵室6が配置されている。冷凍室4の前側には、冷凍室4を開閉する扉8Aが配置され、冷蔵室6の前側には、冷蔵室6を開閉する扉8Bが配置されている。
【0024】
<冷却流路>
冷凍室4及び冷蔵室6の後方には、それぞれ仕切板で仕切られた下側冷却流路10A及び上側冷却流路10Bで構成された冷却流路10が設けられている。下側冷却流路10Aには、蒸発器12が配置されている。蒸発器12は、冷蔵庫2の冷却回路の一部を構成する。
【0025】
冷却回路は、主に、圧縮機42と、凝縮器と、キャピラリチューブと、蒸発器12とを備える。冷却回路の各構成要素間は、配管によって上記の順で流体的に接続されており、冷却回路内で冷媒が循環することにより、蒸発器12が冷却される。圧縮機42の回転数が可変になっており、圧縮機42の回転数が高くなると、より多くの冷媒が循環して蒸発器12の冷却能力を高めることができる。
【0026】
下側冷却流路10A内の蒸発器12の上方には、ファン14が配置されている。ファン14により、庫内の空気を流動させることができ、蒸発器12のフィンの間を通過して冷却された空気を、冷却流路10から冷凍室4や冷蔵室6に供給することができる。
【0027】
下側冷却流路10Aの上方の開口に、冷凍室ダンパ16が配置されている。
図2の点線の矢印に模式的に示すように、冷凍室ダンパ16が開の状態では、蒸発器12を通過した空気が、下側冷却流路10Aから、上下に配置された吹出口24B,24Aから冷凍室4内に流入する。
【0028】
冷凍室4内に流入した空気は、容器20B,20A内を流れて、冷凍室4の下側の戻り口26から下側冷却流路10Aへ戻る。下側冷却流路10Aへ戻った空気は、下側冷却流路10A内を上側に流れて、再び蒸発器12を通過して冷却され、同様な流動サイクルを繰り返す。蒸発器12を通過した空気が容器20A,20B内を流動する間に、容器20A,20B内に収納された食品を冷却することができる。
【0029】
一方、冷凍室ダンパ16が閉の状態では、蒸発器12を通過した空気が、下側冷却流路10Aから冷凍室4に流れないようになる。
【0030】
ただし、冷凍室4への空気を流入させるか否かの切り替えは、冷凍室ダンパ16を用いる場合に限られるものではない。例えば、ファン14の外側を覆う可動式のファンカバーを有する遮蔽装置を用いることもできる。ファンカバーが開の場合には、ファン14から吐出された空気が冷凍室4に流入し、ファンカバーが閉の場合には、ファン14から吐出された空気が冷凍室4に流入しないようにすることができる。
【0031】
冷凍室4内に流入した空気の流れを更に詳細に述べれば、下記のように示せる。
上側の吹出口24Bから冷凍室4に流入した空気は、後側から上側の容器20B内に流入し、容器20B内を後側から前側に流れて、容器20Bの前側に流出する。空気が容器20B内を流れるときに、容器20B内に収納された食品を冷却することができる。食容器20Bの前側に流出した空気は、冷凍室4の前側を下向きに流れて、冷凍室4の底面に沿って前から後ろ側に流れて、戻り口26から下側冷却流路10Aへ戻る。空気が冷凍室4の底面に沿って流れる場合、下側の容器20Aの下面部22に沿って流れることになる。
【0032】
下側の吹出口24Aから冷凍室4に流入した空気は、後側から下側の容器20A内に流入し、容器20A内を後側から前側に流れて、容器20Aの前側に流出する。空気が容器20A内を流れるときに、容器20A内に収納された食品を冷却することができる。容器20Aの前側に流出した空気は、冷凍室4の前側を下向きに流れて、冷凍室4の底面に沿って前から後ろ側に流れて、戻り口26から下側冷却流路10Aへ戻る。空気が冷凍室4の底面に沿って流れる場合、容器20Aの下面部22に沿って流れることになる。
【0033】
更に、下側冷却流路10A及び上側冷却流路10Bの間には、冷蔵室ダンパ18が配置されている。冷蔵室ダンパ18が開の状態では、蒸発器12を通過した空気が、下側冷却流路10Aから上側冷却流路10Bに流れる。更に、上側冷却流路10Bに流入した空気は、複数の高さ位置に設けられた各吹出口を介して、上側冷却流路10Bから冷蔵室6内に流入する。
【0034】
冷蔵室6内に流入した空気は、冷蔵室6内を循環して、冷蔵室6の下側の戻り口から戻り流路28に流入する。流入した空気は、戻り流路28内を下側に流れて、下側の開口を介して下側冷却流路10Aへ戻る。下側冷却流路10Aへ戻った空気は、下側冷却流路10A内を上側に流れて、再び蒸発器12を通過して冷却され、同様な流動サイクルを繰り返す。
【0035】
一方、冷蔵室ダンパ18が閉の状態では、蒸発器12を通過した空気が、下側冷却流路10Aから上側冷却流路10Bへ流れず、冷蔵室6にも流れないようになる。
図2では、冷蔵室ダンパ18が閉の状態を示す。
【0036】
<容器内の食品の冷却>
図3Aは、従来の容器120内の食品Gを冷却する空気の流れ及び熱の移動を模式的に示す側面断面図である。次に、
図3Aを参照しながら、冷凍室内に配置された容器120内に収納された食品Gを冷却する空気の流れを説明し、そのとき生じる課題について説明する。
【0037】
蒸発器を通過して冷却された空気が冷凍室内に流入し、
図3Aの点線の矢印に示すように、後側から容器120内に流入する。容器120内に流入した空気は、容器120内に収納された食品Gの外面に沿って流れた後、容器120の前側へ流出する。容器120の前側に出した空気は、容器120の前側の側面部Sに沿って下側に流れ、更に、容器120の下面部122(下面122A)に沿って前側に流れる。
【0038】
仮に容器120の上側に他の容器が配置されている場合には、容器120の前側の側面部Sに沿って下側に流れるとき、上側の容器から流出した空気も合流する。
【0039】
蒸発器を通過した空気は、食品Gの外面に沿って流れている間に熱伝達で食品Gを冷却する。このため、空気は、食品G側から熱量を受けるので、食品Gの外面に沿って流れている間に温度が上昇する。食品Gに到達する前の空気の温度をTLとし、食品Gの外面に沿って流れた後の空気の温度をTHとすると、温度TLより温度THが高い値となる。
【0040】
仮に容器120の上側に容器が配置されている場合には、上側の容器でも同様な現象が生じる。よって、下側の容器120から流出した空気と上側の容器から流出した空気とが合流した空気の温度は、温度THより更に高くなる。よって、上側の容器から流出した空気と合流する場合には、容器120の下面部120(下面122A)に沿って流れる空気の温度TH’は温度THよりも更に高くなっていると考えられる。また、上側に容器が配置されていない場合には、温度TH’は、温度THと同程度かまたは少し高い値になると考えられる。
【0041】
以上のように、上側から食品Gに当たる空気の温度TLよりも、容器120の下側を流れる空気の温度TH’の方が明らかに高い値となる。このため、温度TH’の空気と容器120の下面部122の下面122Aとの間の熱伝達、容器120の下面部122の厚み方向の熱伝導、及び容器120の下面部122の上面122Bと上面122Bに接する食品Gとの間の熱伝達により、食品Gは、温度TH’の空気から熱量Qを受けることになる。つまり、空気からの熱伝達で、食品Gは下側から加温されて温度が上昇する。
【0042】
このため、上側から食品Gに当たる空気の温度TLよりも、食品Gの表面温度が高くなる。一般的に、食品G表面の温度と食品周囲の空気の温度に差が生じると、それぞれの飽和水蒸気圧に差が生じ、温度が低い方が飽和水蒸気圧は低くなる。そのため、食品Gの表面の水分は、飽和水蒸気圧の低い空気側に移動する。つまり、固体から気体へと変化する昇華が生じて、氷から水蒸気へと変化し、食品G内の水分が抜けていく。このことは、例えば、技術論文:T. Suzuki, Frozen Foods Technical Research, No.88 (2010), pp. 3-10.に示されている。
【0043】
食品G内の細胞から水分が抜けると、抜けた部分に空気が入り込み酸化する。酸化するとタンパク質が変質し、変色、油やけ、酸敗を引き起こす。その結果、風味や食感が落ち、品質が劣化する。この現象を冷凍焼けと称する。水分量の移動速度は飽和水蒸気圧の差に比例して速くなるので、冷凍焼けを抑制するには、食品Gと食品周囲の空気の温度の差を小さくすることが重要である。
【0044】
(断熱材)
この課題に対処するため、本発明の第1の実施形態に係る冷蔵庫2では、冷凍室4内に配置された容器20A,20Bの下面部22に断熱材30が取り付けられている。
図3Bは、下面部22に断熱材30が取り付けられた容器20A内の食品Gを冷却する空気の流れ及び熱の移動を模式的に示す側面断面図である。
【0045】
断熱材30の材質として、発泡スチロールをはじめとする発泡させた樹脂材料を例示できる。断熱効果を考慮すれば、断熱材30は厚い方が好ましい。一方、容器20Aの収納効率を考慮すれば、断熱材30は薄い方が好ましい。これらを考慮して、断熱材30の好ましい厚みtとして、20mm以上60mm以下の範囲を例示できる。
【0046】
図3Bに示す場合においても、上側から食品Gに当たる空気の温度TLよりも、容器20Aの下側を流れる空気の温度TH’の方が高い値となる。しかし、容器20Aの下面部22に断熱材30が取り付けられているので、空気から下面部22の下面22Aへ熱伝達が生じても、
図3Bの×印で模式的に示すように、断熱材30での熱伝導は強く抑制される。このため、空気からの熱伝達で、食品Gが下側から加温されて温度が上昇することが抑制される。
【0047】
このため、
図3Aに示す場合に比べて、食品Gと食品周囲の空気の温度の差が小さくなり、飽和水蒸気圧に差が小さくなって、冷凍焼けを抑制することができる。
【0048】
冷凍焼け抑制の効果を考慮すると、容器20Aの底の気温、つまり下面部22の上面22B位置における空気の温度をTBとし、容器20Aの高さ方向で略中央の位置における気温をTMとするとき、温度TBと温度TMとの差が1.0℃以内であることが好ましい。つまり、TB-TM ≦ 1.0℃ であるのが好ましい。
【0049】
第1の実施形態では、十分な断熱効果を発揮する断熱材30の材質及び厚みtを適宜設定することにより、TB-TM ≦ 1.0℃ の関係を達成することができる。TB-TM ≦ 1.0℃ の関係を有することにより、食品Gと食品周囲の空気の温度の差を抑えて、冷凍焼けを確実に抑制することができる。
【0050】
図2に示すように、第1の実施形態に係る冷蔵庫2では、下側に配置された容器20Aの下面部22だけでなく、上側に配置された容器20Bの下面部22にも断熱材30が取り付けられている。上側の容器20Bの下面に沿って流れる空気の流量は、下側の容器20Aに比べて少ないが、容器20Bから流出した空気の温度は、容器20Bに流入した空気の温度より高くなっているので、断熱材30を下面部22に取り付けることにより、食品Gと食品周囲の空気の温度の差を小さくすることができる。これにより、食品Gの冷凍焼けを抑制することができる。
【0051】
更に、容器20A,20B内を通って温度が上昇した空気は、容器20A,20Bの側面部Sに沿って流れる。よって、温度が上昇した空気が沿って流れる容器20A,20Bの側面部Sにも、断熱材30を取り付けることが好ましい。ここで、断熱材30が取り付けられる容器20A,20Bの下面部22及び側面部Sを、総じて面部22,Sと称することができる。
【0052】
容器20A,20Bの下面部22に比べて、食品Gとの接触頻度は少ないとしても、側面部Sの内面に食品Gが接触する可能性がある。よって、容器20A,20Bの側面部Sに断熱材30を取り付けることにより、空気からの熱伝達による食品Gと食品周囲の空気の温度の差を小さくすることができる。
【0053】
以上のように、本発明の第1の実施形態に係る冷蔵庫2は、冷凍室4と、冷凍室4内に配置された上面が開口した容器20A,20Bと、蒸発器12を有する冷却回路と、庫内の空気を流動させるファン14と、を備え、ファン14により流動した空気が、蒸発器12を通過して冷凍室4に流入し、冷凍室4に配置された容器20A,20B内を流れて容器20A,20Bから流出し、容器20A,20Bの面部22,Sに沿って流れて、冷凍室4の下側から流出し、再び蒸発器12の入側に戻る流動サイクルが実施され、容器20A,20Bから流出した空気が沿って流れる容器20A,20Bの面部22,Sに断熱材30が取り付けられている。
【0054】
蒸発器12を通過した空気が容器20A,20B内を流れる間に、容器20A,20B内の食品Gを冷却するとともに、空気の温度が上昇して容器20A,20Bから流出する。この温度の上昇した空気が容器20A,20Bの面部22,Sに沿って流れるが、断熱材30により、空気からの熱伝達で容器20A,20B内の食品が加温されるのを抑制することができる。よって、食品Gと食品周囲の空気の温度の差を小さくして、食品Gに冷凍焼けが生じるのを抑制することができる。
【0055】
これにより、冷凍室4に収納された食品Gに冷凍焼けが生じるのを抑制できる冷蔵庫2を提供できる。
【0056】
特に、容器20A,20Bの下面部22に断熱材30が取り付けられている場合には、容器20A,20B内に収納された食品Gの温度上昇を効果的に抑制できる。これにより、食品Gと食品周囲の空気の温度の差を小さくして、冷凍焼けを効果的に抑制することができる。
【0057】
更に、容器20A,20Bの側面部Sに断熱材30が取り付けられている場合にも、食品Gと食品周囲の空気の温度の差を小さくして、冷凍焼けを抑制することが期待できる。
【0058】
(本発明の第2の実施形態に係る冷蔵庫)
図4は、本発明の第2の実施形態に係る冷蔵庫2’の構成を模式的に示す側面断面図である。次に、
図2を参照しながら、本発明の第2の実施形態に係る冷蔵庫2’の説明を行う。
【0059】
上記のように、冷凍焼けを抑制するためには、容器20A,20Bに収納された食品Gと食品周囲の空気の温度の差を小さくすることが重要である。第1の実施形態では、容器20A、20Bの面部22,Sに断熱材30を取り付けることにより、面部22,Sに沿って流れる温度が上昇した空気により、食品Gが加温されるのを防いで、食品Gと食品周囲の空気の温度の差を小さくすることができる。
【0060】
一方、第2の実施形態に係る冷蔵庫2’では、面部22,Sに沿って流れる空気の温度を下げることにより、食品Gと食品周囲の空気の温度の差を小さくすることができる。本実施形態では、
図4に示すように、容器20A、20Bの面部22,Sに断熱材30は取り付けられておらず、代わりに、冷凍室4の底面4Aに冷却器40が配置されている。
【0061】
蒸発器12を通過して冷却され、吹出口24A,24Bから冷凍室4に流入した空気は、容器20A,20B内を流れる間に温度が上昇しながら、冷凍室4内を上から下の方向に流れて、戻り口26を介して蒸発器12に戻る。つまり、冷凍室4内を流動する空気の温度は、上から下にいくにつれて上昇し、冷凍室4の下部で最も温度が高くなる。よって、冷凍室4の底面4Aに配置された冷却器40で下側から冷却することにより、冷凍室4内を流れる空気を効果的に冷却することができる。
【0062】
本実施形態に係る冷却器40は、蒸発器12と同様に、内部に冷媒が流れるチューブとフィンとを有し、冷蔵庫2’の冷却機構の一部を構成する。圧縮機42、凝縮器、キャピラリチューブ等を流れた冷媒が分岐して、蒸発器12及び冷却器40に流れ、蒸発器12及び冷却器40から再び圧縮機42に戻る冷却サイクルを行う。ただし、これに限られるものではなく、必要とされる冷却能力に応じて、ペルチェ素子を用いた冷却装置をはじめとする、その他の任意の冷却装置を用いることもできる。
【0063】
上記のように、冷凍室4に流入した空気の温度は、下方へいくにつれて上昇する。容器20A,20Bの面部22,Sに沿って流れる温度が上昇した空気からの熱伝達で、容器20A,20Bに収納された食品Gは加温される。これにより、容器20A,20B内に収納された食品Gの温度が、食品周囲の温度よりも高くなる。特に、冷凍室4の一番下側に配置された容器20Aにおいて、下面部22(下面22A)に沿って最も高い温度の空気が流れるので、収納された食品Gの温度が食品周囲の温度よりも高くなる傾向が顕著になる。
【0064】
しかし、本実施形態では、冷凍室4の底面4Aに配置された冷却器40により、冷凍室4内を流れる空気を下側から冷却することができる。これにより、容器20A,20Bの面部22,Sに沿って流れる空気の温度を下げることができる。特に、下側の容器20Aの下面部22(下面22A)に沿って流れる空気の温度を、効果的に下げることができる。よって、容器20A,20B内に収納された食品Gが加温されるのを抑制できる。
【0065】
また、冷却器40の冷却性能、つまり蛇行するチューブの管径及び全長、フィンの総面積等を適宜選択することにより、第2の実施形態においても、上記のTB-TM ≦ 1.0℃の条件を達成することができる。
【0066】
以上のように、本発明の第2の実施形態に係る冷蔵庫2’は、冷凍室4と、冷凍室4内に配置された上面が開口した容器20A,20Bと、蒸発器12を有する冷却回路と、庫内の空気を流動させるファン14と、を備え、ファン14により流動した空気が、蒸発器12を通過して冷凍室4に流入し、冷凍室4に配置された容器20A,20B内を流れて容器20A,20Bから流出し、容器20A,20Bの面部22,Sに沿って流れて、冷凍室4の下側から流出し、再び蒸発器12の入側に戻る流動サイクルが実施され、冷凍室4の底面4Aに冷却器40が配置されている。
【0067】
蒸発器12を通過した空気が容器20A,20B内を流れる間に、容器20A,20B内の食品Gを冷却するとともに、その空気の温度が上昇して、容器20A,20Bから流出する。しかし、冷凍室4の底面4Aに配置された冷却器40により、下側から冷却されるので、容器20A,20Bの面部22,Sに沿って流れる空気の温度を下げることができる。特に下面部22に沿って流れる空気の温度を、効果的に下げることができる。これにより、空気からの熱伝達で容器20A,20B内の食品Gが加温されるのを抑制することができる。よって、食品Gと食品周囲の空気の温度の差を小さくして、食品Gに冷凍焼けが生じるのを抑制することができる。
【0068】
これにより、冷凍室4に収納された食品Gに冷凍焼けが生じるのを抑制できる冷蔵庫2’’を提供できる。その他の構成については、上記の第1の実施形態と同様なので、更なる説明は省略する。
【0069】
(本発明の第3の実施形態に係る冷蔵庫)
図5は、本発明の第3の実施形態に係る冷蔵庫2’’の構成を模式的に示す側面断面図である。次に、
図5を参照しながら、本発明の第3の実施形態に係る冷蔵庫2’’の説明を行う。
【0070】
第3の実施形態は、上記の第1の実施形態及び第2の実施形態を組み合わせたものである。つまり、容器20A,20Bから流出した空気が沿って流れる容器20A,20Bの面部22,Sに断熱材30が取り付けられているとともに、冷凍室4の底面4Aに冷却器40が配置されている。特に、
図5に示す例では、容器20A,20Bの下面部22に断熱材30が取り付けられている場合を示すが、側面部Sに断熱材30が取り付けることもできる。
【0071】
本実施形態によれば、冷却器40により容器20A,20Bの面部22,Sに沿って流れる空気の温度を下げることができるとともに、断熱材30により、空気から容器20A,20B内の食品Gへの熱伝達を抑制することができる。これにより、食品Gと食品周囲の空気の温度の差が非常に小さくなり、冷凍焼けを効果的に抑制することができる。
【0072】
冷却器40及び断熱材30を備えた第3の実施形態では、上記のTB-TM ≦ 1.0℃の条件を達成できることは明らかである。本実施形態では、断熱材30及び冷却器40が組み合わされているので、TB-TM ≦ 0.4℃ であるのが好ましく、TB-TM ≦ 0.2℃ であるのが更に好ましい。その他の構成については、上記の第1及び第2の実施形態と同様なので、更なる説明は省略する。
【0073】
上記の実施形態においては、各容器20A,20Bに対応した吹出口24A,24Bから空気が流入するようになっているが、これに限られるものではない。例えば、吹出口が冷凍室4の上側にだけ設けられ、上側の吹出口から冷凍室4に流入した空気が、各容器20A,20Bに分岐しながら下側に流れる場合もあり得る。その場合でも、温度が上昇した空気が容器20A,20Bの面部22,Sに沿って流れる。このため、容器20A,20Bの面部22,Sに断熱材30が取り付ける、及び/または冷凍室4の底面4Aに冷却器40を配置することにより、食品Gと食品周囲の空気の温度の差を非常に小さくして、冷凍焼けを抑制することができる。
【0074】
(実施例)
次に、上記の第3の実施形態に係る冷蔵庫を用いて食品を冷凍させた実施例、及び容器の面部に断熱材が取り付けられておらず、冷凍室の底面に冷却器が配置されていない従来の冷蔵庫食品(肉)を用いて食品を冷凍させた比較例の説明を行う。
図6Aは、本発明の第3の実施形態に係る冷蔵庫で冷凍させた食品(肉)を示す図(写真)である。
図6Bは、従来の冷蔵庫で冷凍させた食品(肉)を示す図(写真)である。冷凍させる食品として、肉の切り身を用いた。
【0075】
実施例では、容器の面部に10mmの厚みの断熱材を取り付けている。実施例では、容器の底の気温TBと、容器の高さ方向で略中央の位置における気温TMとの平均温度差が0.2℃であった。一方、比較例では、気温TBと気温TMとの平均温度差が1.2℃であった。
【0076】
図6A、6Bは、冷蔵庫で食品(肉)を3週間冷凍したときの外面の凍結状態を示す。
図6A及び
図6Bに示す食品(肉)の表面の状態を比較すると、比較例の方が、食品(肉)の表面からより多くの水分が抜けていることがわかる。また、実施例では変色はあまり生じていないが、比較例では変色が進んでいることがわかる。乾燥率を測定すると、
図6Aに示す実施例では0.6%であったが、
図6Bに示す比較例では1.1%であった。ここで乾燥率値とは、食品の表面から抜けた水分の冷凍前の食品重量に対する重量%である。この数値からも、実施例では冷凍焼けがあまり進まず、比較例では冷凍焼けがかなり進んでいることがわかる。この実施例及び比較例により、本発明による冷凍焼けの抑制効果が実証された。
【0077】
本発明の実施の形態、実施の態様を説明したが、開示内容は構成の細部において変化してもよく、実施の形態、実施の態様における要素の組合せや順序の変化等は請求された本発明の範囲及び思想を逸脱することなく実現し得るものである。
【符号の説明】
【0078】
2,2’,2’’ 冷蔵庫
3 外箱
4 冷凍室
4A 底面
5 断熱材
6 冷蔵室
8A,8B 扉
10 冷却流路
10A 下側冷却流路
10B 上側冷却流路
12 蒸発器
14 ファン
16 冷凍室ダンパ
18 冷蔵室ダンパ
20A,20B 容器
22 下面部
22A 下面
22B 上面
24A,24B 吹出口
26 戻り口
28 戻り流路
30 断熱材
40 冷却器
42 圧縮機
120 容器
122 下面部
122A 下面
122B 上面
S 側面
G 食品