(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128933
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブ分散組成物およびその利用
(51)【国際特許分類】
C01B 32/174 20170101AFI20240913BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20240913BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20240913BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240913BHJP
C01B 32/159 20170101ALI20240913BHJP
【FI】
C01B32/174
H01M4/139
H01M4/13
H01M4/62 Z
C01B32/159
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023205825
(22)【出願日】2023-12-06
(62)【分割の表示】P 2023037367の分割
【原出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 大地
(72)【発明者】
【氏名】須田 康明
【テーマコード(参考)】
4G146
5H050
【Fターム(参考)】
4G146AA12
4G146AB06
4G146AC03A
4G146AC03B
4G146AD23
4G146AD25
4G146BA04
4G146CB10
4G146CB19
4G146CB35
5H050AA02
5H050AA07
5H050AA12
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA02
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5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB20
5H050DA10
5H050DA11
5H050EA08
5H050EA24
5H050GA10
5H050HA01
5H050HA05
5H050HA10
(57)【要約】
【課題】導電性が高く、流動性および貯蔵安定性の良好なカーボンナノチューブ分散組成物、並びにこれを用いた電極用合材スラリー、および電極膜により、優れたレート特性およびサイクル特性を有する非水電解質二次電池を提供すること。
【解決手段】平均外径3nm以下のカーボンナノチューブと、高分子成分と、溶媒とを含むカーボンナノチューブ分散組成物であって、前記高分子成分は、置換基を有してもよいポリフッ化ビニリデン樹脂を主成分として含み、前記カーボンナノチューブ分散組成物は、レーザー回折法によって測定した粒度分布の体積累積90%における粒径D
90が2.0μm以上20.0μm未満、かつpHが7.5以上である、カーボンナノチューブ分散組成物により解決される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均外径3nm以下のカーボンナノチューブと、高分子成分と、溶媒とを含むカーボンナノチューブ分散組成物であって、
前記高分子成分は、置換基を有してもよいポリフッ化ビニリデン樹脂を主成分として含み、
前記カーボンナノチューブ分散組成物は、レーザー回折法によって測定した粒度分布の体積累積90%における粒径D90が2.0μm以上20.0μm未満、かつpHが7.5以上である、
カーボンナノチューブ分散組成物。
【請求項2】
前記置換基を有してもよいポリフッ化ビニリデン樹脂の含有量は、前記平均外径3nm以下のカーボンナノチューブ100質量部に対し、30質量部以上270質量部以下である、請求項1記載のカーボンナノチューブ分散組成物。
【請求項3】
前記平均外径3nm以下のカーボンナノチューブ、および前記高分子成分の合計含有率は、前記分散組成物の不揮発成分の合計質量を基準として80質量%以上である、請求項1記載のカーボンナノチューブ分散組成物。
【請求項4】
さらに塩基性化合物を含み、
前記塩基性化合物の含有率は、前記分散組成物の質量を基準として0.01質量%以上0.2質量%以下である、請求項1記載のカーボンナノチューブ分散組成物。
【請求項5】
前記置換基を有してもよいポリフッ化ビニリデン樹脂の含有率は、前記高分子成分の質量を基準として87質量%以上である、請求項1記載のカーボンナノチューブ分散組成物。
【請求項6】
請求項1~5いずれか1項記載のカーボンナノチューブ分散組成物と、活物質を含む、合材スラリー。
【請求項7】
請求項6記載の合材スラリーから形成してなる電極膜。
【請求項8】
正極および負極を備える非水電解質二次電池であって、
正極および負極の少なくとも一方が、請求項7記載の電極膜を有する、非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ分散組成物に関する。さらに詳しくは、カーボンナノチューブ分散組成物、カーボンナノチューブ分散組成物と活物質とを含む合材スラリー、合材スラリーから形成してなる電極膜、および該電極膜を備える非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車の普及や携帯機器の小型軽量化および高性能化に伴い、高いエネルギー密度を有する二次電池、さらに、その二次電池の高容量化が求められている。このような背景の下で高エネルギー密度、高電圧という特徴から非水系電解液を用いる非水電解質二次電池、特に、リチウムイオン二次電池が多くの機器に使われるようになっている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の容量は、主材料である正極活物質および負極活物質に大きく依存することから、これらの電極活物質に用いるための各種材料が盛んに研究されている。しかし、実用化されている電極活物質を使用した場合の充電容量は、いずれも理論値に近いところまで到達しており、電極活物質の改良は限界に近い。そこで、電極膜内の電極活物質の充填量が増加すれば、単純に充電容量を増加させることができるため、充電容量には直接寄与しない導電材およびバインダー樹脂の添加量を削減することが試みられている。
【0004】
導電材としては、一般的に微細な炭素材料が使用されており、近年ではカーボンナノチューブが用いられることが多くなっている。特に、電極抵抗を悪化させずに極限まで導電材の添加量を削減する目的で、最も外径が小さい単層カーボンナノチューブへの期待が高まっている。しかし、単層カーボンナノチューブは、非常に凝集力が強く使いこなしが難しいため、各種検討がなされている。
【0005】
例えば、特許文献1~3には、各種分散剤を用いてカーボンナノチューブを予め微細に分散してから、電極用合材スラリーを製造することにより、特性が良好な非水電解質二次電池を提供する方法が提案されている。また、特許文献4には、2~5,000個の単層カーボンナノチューブ単位体が互いに結合したカーボンナノチューブ構造体を含む電極、および該電極を含む電池が記載されている。特許文献1~3は、カーボンナノチューブを解繊させ、電極中で発達した細かな導電ネットワークを形成することによって、また、特許文献4は、単層カーボンナノチューブを束状の構造体として分散させ、太くて長い導電ネットワークを形成することによって、いずれも特性が良好な非水電解質二次電池を提供することを目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第7107413号公報
【特許文献2】特許第7109632号公報
【特許文献3】特開2022―063234号公報
【特許文献4】特表2021―517352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1~3は、分散剤を必須成分としており、高濃度でも流動性および貯蔵安定性が良好な分散組成物が得られる。また、一般にカーボンナノチューブの外径が小さくなる
ほど比表面積が大きくなることから、理想的には効率的に導電ネットワークを形成させることができるため、平均外径3nm以下のカーボンナノチューブを用いた分散組成物が検討されている。しかし、本発明者が検討したところによると、平均外径3nm以下のカーボンナノチューブの場合には、分散能が高い分散剤を十分量含有させて解繊させると、解繊に伴いカーボンナノチューブが切断されて元の長さより短くなるため、接触抵抗が増大して、結果的に電極の抵抗が悪化する場合があることを見出した。
【0008】
一方、特許文献4は、分散能の高い分散剤を用いずに単層カーボンナノチューブとポリフッ化ビニリデン樹脂とを混合しており、カーボンナノチューブの元の長さは適度に維持されていると推定されるが、カーボンナノチューブの濃度が低いこと、および高粘度で流動性が悪いことに加え、貯蔵中にカーボンナノチューブが凝集し、沈降して相分離が起こる、といった貯蔵安定性の問題がある。また、カーボンナノチューブの濃度が低い分散組成物では、活物質等の材料を配合した際の設計自由度が低くなること、および不揮発分あたりの輸送コストが高くなることといった問題がある。さらに、流動性が悪いと、輸送または貯蔵の際にタンクからの取り出しが困難になり、貯蔵安定性が悪いと、使用期限が短くなる、または品質の安定性が悪くなることがある。
【0009】
したがって、平均外径の小さいカーボンナノチューブを高濃度で安定に分散させることが要求されており、なかでも単層を中心としたカーボンナノチューブを束状の構造体として高濃度で分散させ、流動性および貯蔵安定性が優れた分散組成物を得ることが急務となっている。
【0010】
すなわち、本発明が解決しようとする課題は、導電性が高く、流動性および貯蔵安定性の良好なカーボンナノチューブ分散組成物であり、該カーボンナノチューブ分散組成物を用いた電極用合材スラリー、および電極膜により、優れたレート特性およびサイクル特性を有する非水電解質二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らがカーボンナノチューブの分散状態とレート特性との関係性について検討したところ、平均外径3nm以下のカーボンナノチューブの束状構造体の状態を維持し、かつ繊維長を短くすることなく分散させることが、接触抵抗の低減につながり、レート特性およびサイクル特性の向上に有効であることを見出した。また、分散組成物の粒径D90が2.0μm以上20.0μm未満、かつpHが7.5以上であることにより、貯蔵安定性および流動性が劇的に向上し、カーボンナノチューブの沈降を抑制できることを見出した。
【0012】
より具体的には、平均外径3nm以下のカーボンナノチューブと、高分子成分と、溶媒とを含むカーボンナノチューブ分散組成物であって、前記高分子成分が、置換基を有してもよいポリフッ化ビニリデン樹脂を主成分として含み、前記カーボンナノチューブ分散組成物は、レーザー回折法によって測定した粒度分布の体積累積90%における粒径D90が2.0μm以上20.0μm未満、かつpHが7.5以上であることによって、貯蔵安定性および流動性に優れた分散組成物を提供し、電極中で良好な導電ネットワークを形成することが可能となる。
【0013】
すなわち、本発明は、以下の実施形態を含む。本発明の実施形態は以下に限定されない。
<1>平均外径3nm以下のカーボンナノチューブと、高分子成分と、溶媒とを含むカーボンナノチューブ分散組成物であって、
前記高分子成分は、置換基を有してもよいポリフッ化ビニリデン樹脂を主成分として含み、
前記カーボンナノチューブ分散組成物は、レーザー回折法によって測定した粒度分布の体積累積90%における粒径D90が2.0μm以上20.0μm未満、かつpHが7.5以上である、
カーボンナノチューブ分散組成物。
<2>前記置換基を有してもよいポリフッ化ビニリデン樹脂の含有量は、前記平均外径3nm以下のカーボンナノチューブ100質量部に対し、30質量部以上270質量部以下である、<1>記載のカーボンナノチューブ分散組成物。
<3>さらに塩基性化合物を含み、
前記塩基性化合物の含有率は、前記分散組成物の質量を基準として0.01質量%以上0.2質量%以下である、<1>または<2>記載のカーボンナノチューブ分散組成物。<4>前記平均外径3nm以下のカーボンナノチューブ、および前記高分子成分の合計含有率は、前記分散組成物の不揮発成分の合計質量を基準として80質量%以上である、<1>~<3>いずれか記載のカーボンナノチューブ分散組成物。
<5>前記置換基を有してもよいポリフッ化ビニリデン樹脂の含有率は、前記高分子成分の質量を基準として87質量%以上である、<1>~<4>いずれか記載のカーボンナノチューブ分散組成物。
<6><1>~<5>いずれか記載のカーボンナノチューブ分散組成物と、活物質を含む、合材スラリー。
<7><6>記載の合材スラリーから形成してなる電極膜。
<8>正極および負極を備える非水電解質二次電池であって、
正極および負極の少なくとも一方が、<7>記載の電極膜を有する、非水電解質二次電池。
【発明の効果】
【0014】
本発明の実施形態によれば、導電性が高く、貯蔵安定性の良好なカーボンナノチューブ分散組成物であり、該カーボンナノチューブ分散組成物を用いた合材スラリーにより、優れたレート特性およびサイクル特性を有する非水電解質二次電池を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、走査型電子顕微鏡観察での正極10の写真(30,000倍)である。
【
図2】
図2は、走査型電子顕微鏡観察での比較正極6の写真(30,000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態である分散組成物、合材スラリー、非水電解質二次電池について詳しく説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明には要旨を変更しない範囲において実施される実施形態も含まれる。
【0017】
本明細書において、カーボンナノチューブを「CNT」、カーボンナノチューブ分散組成物を「分散組成物」または「CNT分散組成物」、置換基を有してもよいポリフッ化ビニリデン樹脂を「ポリフッ化ビニリデン樹脂」または「PVdF」という場合がある。
【0018】
≪カーボンナノチューブ分散組成物≫
本実施形態のカーボンナノチューブ分散組成物は、平均外径3nm以下のカーボンナノチューブと、高分子成分と、溶媒とを含み、レーザー回折法によって測定した粒度分布の体積累積90%における粒径D90が2.0μm以上20.0μm未満、かつpHが7.5以上であり、前記高分子成分が、置換基を有してもよいポリフッ化ビニリデン樹脂を主成分として含む。
【0019】
なお、本発明の分散組成物は活物質を含有しない。本明細書において、活物質を含有する場合は、合材スラリーであると定義する。
【0020】
すなわち、本発明の実施形態の分散組成物は、活物質が添加される前の状態のものを意味する。この点において、分散組成物は、活物質を含む合材スラリーと区別される。すなわち分散組成物は活物質を実質的に含まないものである。これは、分散組成物に活物質が意図的に添加された状態を除く概念であり、分散組成物の全質量に対し活物質は1質量%以下、0.5質量%以下、または0.1質量%以下であればよく、あるいは0質量%であってよい。活物質については後述する通りである。
【0021】
分散組成物は、非水電解質二次電池用電極に好適に用いることができる。しかし、非水電解質二次電池の用途に限らず、非水電解質二次電池以外の蓄電デバイス、例えば、電気二重層キャパシタ用電極、非水電解質キャパシタ用電極等、または、プラスチックやゴム製品のICトレーや電子部品材料の成形体等の帯電防止材、電子部品、透明電極(ITO膜)代替、電磁波シールド等にも用いることができる。
【0022】
<カーボンナノチューブ>
本実施形態のカーボンナノチューブの平均外径は3nm以下であり、1nm以上3nm以下であることが好ましく、1nm以上2nm以下であることがより好ましい。カーボンナノチューブの平均外径が上記範囲であると、比表面積が大きくなることから、効率的に導電ネットワークを形成させることができる。
カーボンナノチューブの平均外径は、透過型電子顕微鏡(日本電子社製)によって、カーボンナノチューブの形態観察を行い、100本の短軸の長さを計測し、その平均値により、算出することができる。
【0023】
また、本実施形態のカーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブを含むことが好ましく、単層カーボンナノチューブと多層カーボンナノチューブが混在するものであってもよい。単層カーボンナノチューブ単独であることがより好ましい。単層カーボンナノチューブであると、平均外径が小さくなり、比表面積が大きくなることから、効率的に導電ネットワークを形成させることができるために好ましい。単層カーボンナノチューブは、合成上多層カーボンナノチューブが混在して製造される場合がある。カーボンナノチューブ中、単層カーボンナノチューブが主成分であることが好ましい。単層カーボンナノチューブは、一層のグラファイトが巻かれた構造を有し、多層カーボンナノチューブは、二または三以上の層のグラファイトが巻かれた構造を有するものである。
なお、主成分とは、含有率が最も高い成分のことである。
【0024】
本実施形態のカーボンナノチューブのBET比表面積は550m2/g以上1200m2/g以下であることが好ましく、600m2/g以上1200m2/g以下であることがより好ましく、700m2/g以上1200m2/g以下であることがさらに好ましく、800m2/g以上1200m2/g以下であることが最も好ましい。カーボンナノチューブのBET比表面積が上記範囲であると、電極活物質に満遍なくカーボンナノチューブが絡まりやすくなるため、効率的に導電ネットワークを形成できる。
【0025】
本実施形態のカーボンナノチューブは、ラマンスペクトルにおいて1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際に、G/D比が、5以上100以下であることが好ましく、10以上90以下であることがより好ましく、20以上80以下であることがさらに好ましい。カーボンナノチューブのG/D比が上記範囲であると、結晶性が高く、良好な導電性を得やすくなる。
【0026】
本実施形態のカーボンナノチューブの体積抵抗率は、1.0×10-3Ω・cm以上3.0×10-2Ω・cm以下であることが好ましく、1.0×10-3Ω・cm以上1.0×10-2Ω・cm以下であることがより好ましい。カーボンナノチューブの体積抵抗率は粉体抵抗率測定装置((株)三菱化学アナリテック社製:ロレスターGP粉体抵抗率測定システムMCP-PD-51))を用いて測定することができる。カーボンナノチューブの体積抵抗率が上記範囲であると、カーボンナノチューブと活物質間の電子移動抵抗を小さくすることができる。
【0027】
本実施形態のカーボンナノチューブの炭素純度は、カーボンナノチューブ中の炭素原子の含有率(%)で表される。炭素純度はカーボンナノチューブ100質量%に対して、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましい。カーボンナノチューブの炭素純度が上記範囲であると、金属触媒等の不純物によってデンドライトが形成されショートが起こる等の不具合を防ぐことができる。
【0028】
本実施形態のカーボンナノチューブ中に含まれる金属量は、カーボンナノチューブ100質量%に対して、20質量%未満であることが好ましく、10質量%未満であることがより好ましく、5質量%未満であることがさらに好ましい。カーボンナノチューブに含まれる金属としては、カーボンナノチューブを合成する際に触媒として使用される金属や金属酸化物、または装置等の摩耗によって混入した金属粉等が挙げられる。具体的には、コバルト、ニッケル、アルミニウム、マグネシウム、シリカ、マンガンやモリブデン等の金属、これら金属の合金、金属酸化物、およびこれらの複合酸化物等が挙げられる。
【0029】
本実施形態のカーボンナノチューブは、表面処理を行ったカーボンナノチューブでもよい。またカーボンナノチューブは、カルボキシル基に代表される官能基を付与させたカーボンナノチューブ誘導体であってもよい。また、有機化合物、金属原子等の物質を内包させたカーボンナノナノチューブも用いることができる。
【0030】
本実施形態のカーボンナノチューブは、粉砕処理されたカーボンナノチューブでもよい。粉砕処理とは、ビーズ、スチールボール等の粉砕メディアを内蔵した粉砕機を使用して、実質的に液状物質を介在させないでカーボンナノチューブを粉砕するものであり、乾式粉砕ともいわれる。粉砕は、粉砕メディア同士の衝突による粉砕力や破壊力を利用して行なわれる。粉砕は主にカーボンナノチューブの二次粒子を小さくする効果があり、カーボンナノチューブの分散性を向上させることができる。乾式粉砕装置としては、乾式のアトライター、ボールミル、振動ミル、ビーズミルなどの公知の方法を用いることができ、粉砕時間はその装置によって任意に設定できる。
【0031】
本実施形態のカーボンナノチューブはどのような方法で製造したカーボンナノチューブでも構わない。カーボンナノチューブは一般にレーザーアブレーション法、アーク放電法、熱CVD法、プラズマCVD法および燃焼法で製造できるが、これらに限定されない。
【0032】
<高分子成分>
本実施形態の高分子成分は、置換基を有してもよいポリフッ化ビニリデン樹脂を主成分として含む。分散を補助する目的等でポリフッ化ビニリデン樹脂以外の高分子成分を含有してもよい。なお、本明細書において「高分子」とは、重量平均分子量が1,000以上の分子を意味し、主成分とは、含有率が最も高い成分のことである。
【0033】
高分子成分中のポリフッ化ビニリデン樹脂の含有率は、高分子成分の合計量を基準として、87質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさら
に好ましく、100質量%であってよい。上記範囲とすることで、カーボンナノチューブの切断により粒径D90が小さくなって接触抵抗が増大することを抑制し、電極の抵抗が向上できるため、レート特性がより優れるものとできる。
【0034】
ポリフッ化ビニリデン樹脂以外の高分子成分としては、従来公知の界面活性剤または高分子分散剤を任意に用いることができ、とくに制限されない。
本発明の分散組成物が、ポリフッ化ビニリデン樹脂以外の高分子成分を含有する場合、ポリフッ化ビニリデン樹脂以外の高分子成分の含有率は、高分子成分の合計量を基準として、13質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましく、含有しないことが最も好ましい。
【0035】
[置換基を有してもよいポリフッ化ビニリデン樹脂]
ポリフッ化ビニリデン樹脂としては、例えば、ポリフッ化ビニリデンのホモポリマー;フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン等とのコポリマー等が挙げられ、コポリマーが好ましい。ポリフッ化ビニリデン樹脂は、特許文献1~3に記載の分散剤のように、カーボンナノチューブを高濃度で、例えば1本単位にまで分散するほどの分散能は有しないが、ポリフッ化ビニリデン樹脂を含有し、かつpHを7.5以上することでカーボンナノチューブの束状構造体の状態を維持し、かつ繊維長を短くすることなく分散させることができる。
【0036】
また、ポリフッ化ビニリデン樹脂は置換基を有することが好ましい。置換基としては、特に限定されないが、脱離能が低い置換基が好ましく、例えばカルボキシ基等の酸性官能基がより好ましい。酸性官能基を有している場合、イオン化または分極し、静電反発による分散安定化の効果を得ることができる。
【0037】
ポリフッ化ビニリデン樹脂がコポリマーである場合、またはポリフッ化ビニリデン樹脂が置換基を有している場合、塩基性化合物による協奏的な脱HF反応が一部の異種結合があることにより停止するため、粘度増加およびゲル化を抑制することができ、好ましい。
【0038】
置換基を有さないポリフッ化ビニリデン樹脂(すなわちホモポリマー)の市販品としては、例えば、株式会社クレハ社製のKFポリマーシリーズ「W#7300、W#7200、W#1700、W#1300、W#1100、L#7305、L#7208、L#1710、L#1320、L#1120」等、solvay社製solefシリーズ「6008,6010、6012、1015、6020、9007、460、41308」等が挙げられる。
【0039】
コポリマーであるポリフッ化ビニリデン樹脂の市販品としては、例えば、solvay社製solefシリーズ「21216、11010、21510、31508、60512」等が挙げられる。
【0040】
置換基を有するポリフッ化ビニリデン樹脂の市販品としては、例えば、株式会社クレハ社製のKFポリマーシリーズ「W#9700、W#9300、W#9100」等、solvay社製solefシリーズ「5130」等が挙げられる。
【0041】
ポリフッ化ビニリデン樹脂は、電極膜を形成する際の結着を目的として、分散組成物を製造した後、または合材スラリーを製造する際にさらに追加してもよい。合材スラリーについては後述で詳細に説明する。
【0042】
<溶媒>
本実施形態の分散組成物は、溶媒を含む。
溶媒は、特に限定されないが、ポリフッ化ビニリデン樹脂を溶解できる溶媒であることが好ましい。本明細書において「ポリフッ化ビニリデン樹脂を溶解できる」とは、25℃において、ポリフッ化ビニリデン樹脂0.5gを100gの溶媒に溶解した際に、目視にて不溶分が確認できず、溶液に濁りがなく透明となることを意味する。
【0043】
一実施形態において溶媒は、高誘電率溶媒のいずれか1種からなる溶媒、または2種以上からなる混合溶媒を含むことが好ましい。また、高誘電率溶媒に、その他の溶媒を1種または2種以上混合して用いてもよい。本明細書において「高誘電率溶媒」とは、溶剤ハンドブックに記載された比誘電率の数値が、20℃において25以上60以下であることが好ましく、25以上50以下であることがより好ましい。誘電率が上記範囲である溶媒を用いることで、ポリフッ化ビニリデン樹脂を安定に溶解でき、特に塩基性化合物を含有する場合、溶媒の分極によって分散組成物の貯蔵安定性および流動性を向上させることができる。
【0044】
高誘電率溶媒としては、アミド系(N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N-エチル-2-ピロリドン(NEP)、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチルカプロラクタムなど)、複素環系(シクロヘキシルピロリドン、2-オキサゾリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、γ-ブチロラクトンなど)、スルホキシド系(ジメチルスルホキシドなど)、スルホン系(ヘキサメチルホスホロトリアミド、スルホランなど)、低級ケトン系(アセトン、メチルエチルケトンなど)、カーボネート系(ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート)、その他、テトラヒドロフラン、アセトニトリルなどを使用することができる。溶媒としては、アミド系有機溶媒を含むことが好ましく、N-メチル-2-ピロリドンおよびN-エチル-2-ピロリドンからなる群から選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0045】
一実施形態において、溶媒は水を実質的に含有しないことが好ましい。ポリフッ化ビニリデン樹脂は水に対する溶解性が低い傾向がある。また、溶媒に水を含むと、フッ化水素が脱離して主鎖に共役二重結合を形成することでゲル化したり、フッ化水素が他の材料または装置を腐食したりする場合がある。また、ポリフッ化ビニリデン樹脂のカーボンナノチューブへの吸着性が低下し、カーボンナノチューブを溶媒中に安定に存在させにくくなる。「実質的に含まない」とは、吸湿等によって含まれる程度の量を超えて、意図的に水が添加されていないことを意味する。溶媒の全質量を基準とする水の含有量は、5質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましく、0.5質量%以下がさらに好ましい。
【0046】
<塩基性化合物>
一実施形態において、分散組成物は、塩基性化合物を含むことが好ましい。分散組成物が塩基性化合物を含有すると、ポリフッ化ビニリデン樹脂の強い分極と塩基性化合物が相互作用し、分散組成物の流動性および貯蔵安定性をより向上することができる。添加する塩基性化合物は、無機塩基、無機金属塩、有機塩基、および有機塩基塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
【0047】
無機塩基および無機金属塩としては、例えば、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の、塩化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、タングステン酸塩、バナジウム酸塩、モリブデン酸塩、ニオブ酸塩、ホウ酸塩;および、水酸化アンモニウム等が挙げられる。これらの中でもポリフッ化ビニリデン樹脂との相互作用が容易であることから、強塩基であるアルカリ金属の水酸化物またはアルコキシドが好ましい。
【0048】
アルカリ金属の水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸
化カリウム等が挙げられる。アルカリ土類金属の水酸化物としては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。これらの中でも、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、および水酸化カリウムからなる群から選択される少なくとも1種を用いることがより好ましい。なお、無機塩基が有する金属は、遷移金属であってもよい。
【0049】
アルカリ金属のアルコキシドは、例えば、リチウムメトキシド、リチウムエトキシド、リチウム-n-ブトキシド、リチウム-t-ブトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウム-n-ブトキシド、カリウム-t-ブトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウム-n-ブトキシド、ナトリウム-t-ブトキシド等が挙げられる。アルコキシドの炭素数は5以上であってもよい。特に、ナトリウム-t-ブトキシドであることが好ましい。
【0050】
アルカリ土類金属のアルコキシドは、例えば、マグネシウムメトキシド、マグネシウムエトキシド、マグネシウム-n-ブトキシド、マグネシウム-t-ブトキシド等が挙げられる。アルコキシドの炭素数は5以上であってもよい。
【0051】
これらのなかでも水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、リチウム-t-ブトキシド、カリウム-t-ブトキシド、ナトリウム-t-ブトキシド、がより好ましく、水酸化ナトリウム、ナトリウム-t-ブトキシドがさらに好ましく、水酸化ナトリウムが最も好ましい。なお、本発明の無機塩基および無機金属塩が有する金属は、遷移金属であってもよい。
【0052】
有機塩基としては、置換基を有してもよい炭素数1~40の1級、2級、3級アミン化合物(アルキルアミン、アミノアルコール等)、有機水酸化物、または有機金属塩が挙げられる。
【0053】
塩基性化合物を含む場合、塩基性化合物の含有率は、分散組成物の質量を基準として0.01質量%以上であることが好ましく、0.02質量%以上であることがより好ましい。また、0.2質量%以下であることが好ましく、0.15質量%以下であることがより好ましく、0.10質量%以下であることがさらに好ましい。
塩基性化合物の含有率が上記の下限以上であると、貯蔵安定性の効果が得られやすい傾向がある。また、塩基性化合物の含有率が上記の上限以下であると、ポリフッ化ビニリデン樹脂のゲル化の原因となることを抑制し、さらに、分散装置および/または電池内部の腐食の原因となることを防ぐことができるために好ましい。
【0054】
<分散組成物の製造方法>
以下、分散組成物の製造方法の一例として、溶媒にカーボンナノチューブを分散させる方法について説明する。分散組成物は、例えば、カーボンナノチューブ、置換基を有してもよいポリフッ化ビニリデン樹脂、および溶媒を、分散装置を使用して分散処理を行い微細に分散して製造することが好ましい。なお、分散処理は、使用する材料の添加タイミングを任意に調整し、2回以上の多段階処理ができる。
【0055】
また、塩基性化合物を含む場合、塩基性化合物を添加するタイミングは特に制限されないが、溶媒、ポリフッ化ビニリデン樹脂、カーボンナノチューブの混合液を分散処理した後に添加することが好ましい。これにより、貯蔵安定性および流動性に優れた分散組成物が得やすくなる。
すなわち、カーボンナノチューブ、高分子成分、および溶媒を含むカーボンナノチューブ分散体を製造し、その後前記カーボンナノチューブ分散体に塩基性化合物を混合する工程を備え、レーザー回折法によって測定した粒度分布の体積累積90%における粒径D90が2.0μm以上20.0μm未満、かつpHが7.5以上であるカーボンナノチュー
ブ分散組成物とする、カーボンナノチューブ分散組成物の製造方法が好ましい。
【0056】
分散装置は、例えば、ニーダー、2本ロールミル、3本ロールミル、プラネタリーミキサー、ボールミル、横型サンドミル、縦型サンドミル、アニュラー型ビーズミル、アトライター、ハイシアミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー等が挙げられる。なかでも、分散組成物中にCNTを微細に分散させ、好適な分散性を得るために、ハイシアミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、またはこれらを組み合わせて用いることが好ましい。特に、CNTの濡れを促進し、粗い粒子を解す観点から、分散の初期工程ではハイシアミキサーを用い、続いて、CNTのアスペクト比を保ったまま分させる観点から、高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。高圧ホモジナイザーを使用する際の圧力は50~150MPaが好ましく、70~150MPaであることがより好ましい。
【0057】
分散装置を用いた分散方式には、バッチ式分散、パス式分散、循環分散等があるが、いずれの方式でもよく、2つ以上の方式を組み合わせてもよい。バッチ式分散とは、配管などを用いずに、分散装置本体のみで分散を行う方法である。取扱いが簡易であるため、少量製造する場合に好ましい。パス式分散とは、分散装置本体に、配管を介して被分散液(分散質および分散媒を含む混合物で、分散組成物の前駆体)を供給するタンクと、被分散液を受けるタンクとを備え、分散装置本体を通過させる分散方式である。また、循環式分散とは、分散装置本体を通過した被分散液を、被分散液を供給するタンクに戻して、循環させながら分散を行う方式である。いずれも処理時間を長くするほど分散が進むため、目的の分散状態になるまでパス、あるいは循環を繰り返せばよく、タンクの大きさや処理時間を変更すれば処理量を増やすことができる。パス式分散は循環式分散と比較して分散状態を均一化させやすい点で好ましい。循環式分散はパス式分散と比較して作業や製造設備が簡易である点で好ましい。分散工程は、凝集粒子の解砕、導電材の解れ、濡れ、安定化等が順次、あるいは同時に進行し、進行の仕方によって仕上がりの分散状態が異なることから、各分散工程における分散状態を各種評価方法を用いることにより管理することが好ましい。
【0058】
本発明の分散組成物はpHが7.5以上である。分散組成物のpHは、7.7以上であることがより好ましく、8.0以上であることが最も好ましい。また、13.0以下であることが好ましく、12.0以下であることがより好ましく、11.0以下であることが最も好ましい。pHが上記好ましい上限値を上回ると、電池内での各種原料および外装材等の腐食、またはポリフッ化ビニリデン樹脂のゲル化といった問題が生じる。また、pHが上記下限値を下回ると、貯蔵安定性の効果が得られにくい。
【0059】
本明細書における分散組成物の「pH」は、分散組成物を水で希釈した「pH測定用試料」のpHを、一般的なpHメーターを用いて測定した値である。pH測定用試料は、分散組成物の不揮発分の質量を100質量部としたとき、pH測定用試料の不揮発分の質量が40質量部となるように水を添加して調整する。例えば、不揮発分濃度2質量%の分散組成物であれば、分散組成物の不揮発分濃度が0.8質量%になるように水を添加すればよく、実施例に記載の方法で測定できる。
【0060】
pHを所定の値に調整することで貯蔵安定性が向上する理由として、以下の要因が考えられる。例えば、塩基性化合物を添加した場合、これにより、ポリフッ化ビニリデン樹脂のプロトン引き抜きとフッ化物イオンの脱離が協奏的に起こり(脱HF反応)、一部にポリアセチレン部分が形成される。ポリフッ化ビニリデン樹脂の一部にポリアセチレン部分を含有することで、カーボンナノチューブ表面上にあるπ共役とのπ―π相互作用により吸着力を高めることができると思われる。また、一部のC―F結合は反応せず残存するため、電気陰性度の高いフッ素原子が、負電荷同士の静電反発を生じることで、分散性だけ
でなく、貯蔵安定性にも優れる分散組成物を得ることができると思われる。
【0061】
本実施形態の分散組成物のレーザー回折法によって測定した体積基準での累積90%における粒径D90は、2.0μm以上であることが好ましく、2.2μm以上であることがより好ましく、2.4μm以上であることがさらに好ましく、2.5μm以上であることが最も好ましい。また、20.0μm以下であることが好ましく、15.0μm以下であることがより好ましく、10.0μm以下であることが最も好ましい。分散組成物の粒径D90を上記範囲内とすることで、微細に破断した導電材を少なくしつつ、束状構造体に含まれるカーボンナノチューブの本数を一定以上に保持したまま良好に分散した分散組成物を有利に得ることができる。上記上限を上回ると凝集した状態のカーボンナノチューブが多く存在するため、束状構造体の本数が減少し、また、上記下限を下回ると、微細に切断された導電材が多数生じることから、効率的な導電ネットワークの形成が難しくなる。
【0062】
粒径D90を上記範囲内とする方法としては、分散能が高い分散剤を含まないもしくは微量含んだポリフッ化ビニリデン樹脂を用い、分散強度と時間を調整する方法が挙げられる。
なお、粒径D90は、前処理として超音波作動を行った分散液を用いて、一般的なレーザー回折法の測定装置を用いて求めることができる。前処理をしない場合、測定値にばらつきが生じる場合があるため、正確な評価が難しくなる。より具体的には、実施例に記載の方法により測定することができる。本明細書では、累積90%における粒径D90を「D90」と表記する場合がある。
【0063】
本実施形態の分散組成物は、B型粘度計にて25℃において12rpmで測定した粘度が、8,000mPa・s以上11,000mPa・s未満であることが好ましく、6,000mPa・s以上8,000mPa・s未満であることがより好ましく、6,000mPa・s未満であることがさらに好ましい。分散組成物の粘度が上記範囲内であると、良好にハンドリングが可能である。
【0064】
本実施形態の分散組成物において、平均外径が3nm以下のカーボンナノチューブの含有率は、分散組成物100質量%に対して、0.4質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、0.8質量%以上であることがさらに好ましく、1.1質量%以上であることが最も好ましい。また、3.0質量%以下であることが好ましく、2.0質量%以下であることが好ましく、1.6質量%以下であることがより好ましく、1.3質量%以下であることがさらに好ましい。
【0065】
本実施形態の分散組成物において、ポリフッ化ビニリデン樹脂の含有量は、平均外径が3nm以下のカーボンナノチューブ100質量部に対して、30質量部以上であることが好ましく、70質量部以上であることがより好ましい。また、270質量部以下であることが好ましく、200質量部以下であることがより好ましく、150質量部以下であることがさらに好ましい。上記上限を上回ると、カーボンナノチューブに未吸着なポリフッ化ビニリデン樹脂の増加に伴って分散組成物の粘度が増加し、ハンドリング性を損なう場合がある。また、上記下限を下回ると、好適なカーボンナノチューブの分散状態が得られず分散組成物の流動性が低下し、また貯蔵安定性が低くなる場合がある。
さらに、高分子成分量が適量であることで、カーボンナノチューブの切断により粒径D90が小さくなって接触抵抗が増大することを抑制し、電極の抵抗が向上できるため、レート特性がより優れるものとできる。
【0066】
本実施形態の分散組成物において、平均外径が3nm以下のカーボンナノチューブ、および置換基を有してもよいポリフッ化ビニリデン樹脂の合計質量は、分散組成物中の不揮
発成分の合計質量に対して、100質量%以下であってよく、80質量%以上であることが好ましく、82.5質量%以上であることがより好ましく、85質量%以上であることがさらに好ましい。上記範囲とすることで、平均外径が3nm以下のカーボンナノチューブ、置換基を有してもよいポリフッ化ビニリデン樹脂、および塩基性化合物とが均一に相互作用することができるため、より良好に分散した分散組成物を得ることができる。
【0067】
≪合材スラリー≫
本実施形態の合材スラリーは、分散組成物に活物質を添加して得ることができ、非水電解質二次電池電極に用いることができる。
合材スラリーは、活物質等をより結着させる目的で、分散組成物に、置換基を有してもよいポリフッ化ビニリデン樹脂または/およびその他の高分子成分をさらに追加してもよい。本明細書において、活物質等をより結着させる目的で、分散組成物に追加する置換基を有してもよいポリフッ化ビニリデン樹脂または/およびその他の高分子成分を、「バインダー樹脂」と記載することがある。また、必要に応じて、湿潤、界面活性、pH調整、濡れ促進、レベリング、導電性補助等の目的でその他の任意成分を本発明の目的を阻害しない範囲で適宜含んでもよい。任意成分は、合材スラリー作製前、混合時、混合後、またはこれらの組み合わせ等、任意のタイミングで添加することができる。活物質は、正極活物質または負極活物質であってよい。本明細書では、正極活物質および負極活物質を、単に「活物質」という場合がある。活物質とは、電池反応の基となる材料のことである。活物質は、起電力から、正極活物質と負極活物質に分けられ、正極活物質を用いることで正極合材スラリー、負極活物を用いることで負極合材スラリーとすることができる。
合材スラリーは、均一性および加工性を向上させるためにスラリー状であることが好ましい。
【0068】
活物質等をより結着させる目的で追加するバインダー樹脂としては、通常、電池用のバインダー樹脂として用いられる高分子成分であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。前述の、置換基を有してもよいポリフッ化ビニリデン樹脂を用いてもよく、その他の高分子成分として、例えば、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、マレイン酸、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、スチレン等を構成成分として有する重合体または共重合体;ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、アクリル樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコン樹脂;スチレン-ブタジエンゴム、フッ素ゴムのようなエラストマー;ポリアニリン、ポリアセチレンのような導電性樹脂等を用いてもよい。また、これらの樹脂の変性体や混合物、および共重合体でもよく、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
合材スラリー中のCNTの含有量は、活物質100質量部に対し、0.01質量部以上であることが好ましく、0.03質量部以上であることがより好ましく、0.05質量部以上であることがさらに好ましい。また、10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましく、3質量部以下であることがさらに好ましい。上記上限を上回ると、電極中の活物質の充填量が低下して電池の低容量化を招く場合がある。また、上記下限を下回ると、電極および電池の導電性が不十分となる場合がある。
【0070】
合材スラリー中の、高分子成分の含有量は、活物質100質量部に対し、0.01質量部以上であることが好ましく、0.02質量部以上であることがより好ましい。上記範囲とすることで、導電膜の密着性をより向上することができる。また、20質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましい。上記範囲内とすることで、導電膜の活物質濃度を高めて、より高容量化をはかることができる。
【0071】
<正極活物質>
正極活物質は、特に限定されないが、例えば、非水電解質二次電池用途は、リチウムイオンを可逆的にドーピングまたはインターカレーション可能な金属酸化物および金属硫化物等の金属化合物を使用することができる。例えば、リチウムマンガン複合酸化物(例えばLixMn2O4またはLixMnO2)、リチウムニッケル複合酸化物(例えばLixNiO2)、リチウムコバルト複合酸化物(LixCoO2)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(例えばLixNi1-yCoyO2)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(例えばLixMnyCo1-yO2)、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物(例えばLixNiyCozMn1-y-zO2)、スピネル型リチウムマンガンニッケル複合酸化物(例えばLixMn2-yNiyO4)等のリチウムと遷移金属との複合酸化粉末、オリビン構造を有するリチウムリン酸化物粉末(例えばLixFePO4、LixFe1-yMnyPO4、LixCoPO4など)、酸化マンガン、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、バナジウム酸化物(例えばV2O5、V6O13)、酸化チタン等の遷移金属酸化物粉末、硫酸鉄(Fe2(SO4)3)、TiS2、およびFeS等の遷移金属硫化物粉末等が挙げられる。ただし、x、y、zは、数であり、0<x<1、0<y<1、0<z<1、0<y+z<1である。これら正極活物質は、1種または複数を組み合わせて使用することもできる。
【0072】
<負極活物質>
負極活物質は、特に限定されないが、例えば、リチウムイオンを可逆的にドーピングまたはインターカレーション可能な金属Li、またはその合金、スズ合金、シリコン合金負極、LixTiO2、LixFe2O3、LixFe3O4、LixWO2等の金属酸化物系、ポリアセチレン、ポリ-p-フェニレン等の導電性高分子、高黒鉛化炭素材料等の人造黒鉛、あるいは天然黒鉛等の炭素質粉末、樹脂焼成炭素材料を用いることができる。ただし、xは数であり、0<x<1である。これら負極活物質は、1種または複数を組み合わせて使用することもできる。特にシリコン合金負極を用いる場合、理論容量が大きい反面、体積膨張が極めて大きいため、高黒鉛化炭素材料等の人造黒鉛、あるいは天然黒鉛等の炭素質粉末、樹脂焼成炭素材料等と組み合わせて用いるのが好ましい。
【0073】
<合材スラリーの製造方法>
合材スラリーを作製する方法において、分散組成物にバインダー樹脂を追加する場合、バインダー樹脂、および活物質を添加する順序は特に限定されない。例えば、分散組成物にバインダー樹脂を添加し、次いで活物質を添加して作製する方法;分散組成物に活物質を添加し、次いでバインダー樹脂を添加して作製する方法;分散組成物にバインダー樹脂および活物質を一括して添加して作製する方法等が挙げられる。また、バインダー樹脂は予め溶解してから添加してもよい。合材スラリーを作製する方法としては、分散組成物にバインダー樹脂を添加し、次いで活物質をさらに添加し撹拌させる処理を行う方法が好ましい。撹拌に使用される撹拌装置は特に限定されない。撹拌装置には、ディスパー、ホモジナイザー等を用いることができる。
【0074】
合材スラリー中の不揮発分量は、合材スラリーの質量を基準として(合材スラリーの質量を100質量%として)、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましい。また、90質量%以下であることが好ましく、85質量%以下であることがより好ましい。
【0075】
≪非水電解質二次電池≫
本発明の一実施形態である非水電解質二次電池は、正極と、負極と、電解質とを備え、正極および負極からなる群から選択される少なくとも1つが、本実施形態である合材スラリーから形成してなる電極膜を有する。正極および負極は、さらに集電体を備えることができる。なお、正極または負極が有する電極膜の一方が、本実施形態による分散組成物を用いた電極膜である場合、もう一方の電極が有する電極膜は特に制限されず、従来公知の
電極膜であってよい。
【0076】
一実施形態の非水電解質二次電池の構造は特に限定されないが、通常、正極と、負極と、電解質に加え、必要に応じて設けられるセパレーターとを備え、ペーパー型、円筒型、ボタン型、積層型等、使用する目的に応じた種々の形状とすることができる。
【0077】
<正極または負極>
正極または負極は、本実施形態である分散組成物を用いた合材スラリーから形成された電極膜と、集電体を有する。電極膜は、例えば、集電体上に分散組成物を塗工し、乾燥させることで形成できる。正極合材スラリーを用いて形成した電極膜を、正極として使用することができる。負極合材スラリーを用いて形成した電極膜を、負極として使用することができる。本明細書において、活物質を含む分散組成物を用いて形成した膜を「電極合材層」という場合がある。
【0078】
上記電極膜の形成に用いられる集電体の材質および形状は特に限定されず、各種非水電解質二次電池にあったものを適宜選択することができる。集電体の材質としては、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、またはステンレス等の導電性金属または合金が挙げられる。また、形状としては、一般的には平面状の箔が用いられるが、表面を粗面化した集電体、穴あき箔状の集電体、メッシュ状の集電体も使用できる。集電体の厚みは、0.5~30μm程度が好ましい。
【0079】
集電体上に分散組成物を塗工する方法としては、特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。具体的には、ダイコーティング法、ディップコーティング法、ロールコーティング法、ドクターコーティング法、ナイフコーティング法、スプレーコティング法、グラビアコーティング法、スクリーン印刷法または静電塗装法等を挙げることができる。乾燥方法としては、放置乾燥、または、送風乾燥機、温風乾燥機、赤外線加熱機、遠赤外線加熱機等を用いる乾燥を挙げることができるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0080】
塗工後に、平版プレス、カレンダーロール等により圧延処理を行ってもよい。形成された膜の厚みは、例えば、1μm以上500μm以下であり、好ましくは10μm以上300μm以下である。
【0081】
分散組成物を用いて形成された膜は、電極合材層と集電体との密着性向上、または、電極膜の導電性を向上させるために、電極合材層の下地層として用いることも可能である。
【0082】
<電解質>
電解質としては、イオンが移動可能な従来公知の様々なものを使用することができる。例えば、LiBF4、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiCF3SO3、Li(CF3SO2)2N、LiC4F9SO3、Li(CF3SO2)3C、LiI、LiBr、LiCl、LiAlCl、LiHF2、LiSCN、またはLiBPh4(ただし、Phはフェニル基である)等リチウム塩を含むものが挙げられるが、これらに限定されない。電解質は非水系の溶媒に溶解して、電解液として使用することが好ましい。
【0083】
非水系の溶媒としては、特に限定はされないが、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、およびジエチルカーボネート等のカーボネート類;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、およびγ-オクタノイックラクトン等のラクトン類;テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、1,2-メトキシエタン、1,2-エトキシエタン、および1,2-ジブトキ
シエタン等のグライム類;メチルフォルメート、メチルアセテート、およびメチルプロピオネート等のエステル類;ジメチルスルホキシド、およびスルホラン等のスルホキシド類;並びに、アセトニトリル等のニトリル類等が挙げられる。これらの溶媒は、それぞれ単独で使用してもよいが、2種以上を混合して使用してもよい。
【0084】
非水電解質二次電池は、セパレーターを有することが好ましい。セパレーターとしては、例えば、ポリエチレン不織布、ポリプロピレン不織布、ポリアミド不織布およびこれらに親水性処理を施した不織布が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【実施例0085】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断らない限り、「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を表す。
なお、実施例および比較例の評価結果は、それぞれ、実施可能な範囲をC、より優れている範囲をB、特に優れている範囲をAとし、それ以外をDとして評価した。
【0086】
実施例および比較例では、以下の置換基を有してもよいポリフッ化ビニリデン樹脂を用いた。
・W#7300:KFポリマーW#7300(クレハ製、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ホモポリマー)
・W#7200:KFポリマーW#7200(クレハ製、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ホモポリマー)
・W#1300:KFポリマーW#1300(クレハ製、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ホモポリマー)
・W#1100:KFポリマーW#1100(クレハ製、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ホモポリマー)
・W#9300:KFポリマーW#9300(クレハ製、ポリフッ化ビニリデン樹脂、コポリマー)
・W#9700:KFポリマーW#9700(クレハ製、置換基を有するポリフッ化ビニリデン樹脂)
・W#9100:KFポリマーW#9100(クレハ製、置換基を有するポリフッ化ビニリデン樹脂)
・S-6010:solef6010(solvay製、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ホモポリマー)
・S-6020:solef6020(solvay製、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ホモポリマー)
・S-5130:solef5130(solvay製、置換基を有するポリフッ化ビニリデン樹脂)
【0087】
実施例および比較例では、以下のカーボンナノチューブを使用した。
・TNSR:シングルウォールカーボンナノチューブ(Timesnano製、平均外径1.5nm、炭素純度95%、比表面積610m2/g)
・TNSAR:シングルウォールカーボンナノチューブ(Timesnano製、平均外径1.5nm、炭素純度95%、比表面積950m2/g)
・TUBALL:シングルウォールカーボンナノチューブ(OCSiAl製、平均外径1.6nm、炭素純度99%、比表面積980m2/g)
・TUBALL:シングルウォールカーボンナノチューブ(OCSiAl製、平均外径1.8nm、炭素純度80%、比表面積520m2/g)
【0088】
<分散組成物の作製>
(実施例1-1)
表1に示す材料と組成に従い、以下の通り分散組成物を作製した。
まず、ステンレス容器にNMPをとった。次にハイシアミキサー(L5M-A、SILVERSON製)に標準丸穴型ヘッドを装着し、3,000rpmの速度で撹拌しながらポリフッ化ビニリデン樹脂を添加した後、1時間撹拌して、ポリフッ化ビニリデン樹脂を溶解させた。続いて、CNTをハイシアミキサーで撹拌しながら添加して、6,000rpmの速度で1時間バッチ式分散を行った。続いて、ステンレス容器から、配管を介して高圧ホモジナイザー(スターバーストラボHJP-17007、スギノマシン製)に被分散液を供給し、表1に示すパス回数に従い循環式分散処理を行った。分散処理はシングルノズルチャンバーを使用し、ノズル径0.25mm、圧力100MPaにて行った。続いて、高圧ホモジナイザーから、配管を介してステンレス容器に被分散液を供給し、ハイシアミキサーで3,500rpmの速度で撹拌しながら塩基性化合物を添加した。30分間撹拌をし、分散組成物1を得た。
このとき、分散組成物1を基準としたカーボンナノチューブの含有率は1.0質量%、高分子成分は1.0質量%(高分子成分を基準としたポリフッ化ビニリデン樹脂の含有率は100質量%)、塩基性化合物の含有率は0.04質量%、溶媒97.96質量%であった。また、カーボンナノチューブ、および高分子成分の合計含有率は、分散組成物1の不揮発成分の合計質量を基準として98質量%であった。
【0089】
(実施例1-2~1-30)
表1に示す材料、組成、およびパス回数に従い変更した以外は、実施例1-1と同様にして、各分散組成物2~30を得た。
【0090】
(実施例1-31~1-37)
表1に示す材料と組成に従い、以下の通り分散組成物を作製した。まず、ステンレス容器にNMPをとった。次にハイシアミキサー(L5M-A、SILVERSON製)に標準丸穴型ヘッドを装着し、3,000rpmの速度で撹拌しながらポリフッ化ビニリデン樹脂、その他高分子成分を添加した後、1時間撹拌して、ポリフッ化ビニリデン樹脂、その他高分子成分を溶解させた。以下、実施例1-1の分散組成物の作業工程と同様にして、高圧ホモジナイザーにて循環式分散処理を行い、各分散組成物31~37を得た。
【0091】
(比較例1-1~1-3)
表1に示す材料、組成、およびパス回数に従い変更した以外は、実施例1-1と同様にして比較分散組成物1~3を得た。
【0092】
(比較例1-4)
表1に示す材料と組成に従い変更した以外は、実施例1-31と同様にして比較分散組成物4を得た。
【0093】
(比較例1-5)
表1に示す材料と組成に従い、以下の通り分散組成物を作製した。まず、ステンレス容器にNMPをとった。次にハイシアミキサー(L5M-A、SILVERSON製)に標準丸穴型ヘッドを装着し、3,000rpmの速度で撹拌しながら高分子成分、塩基性化合物を添加した後、1時間撹拌して、高分子成分、塩基性化合物を溶解させた。続いて、CNTをハイシアミキサーで撹拌しながら添加して、6,000rpmの速度で1時間バッチ式分散を行った。続いて、ステンレス容器から、配管を介して高圧ホモジナイザー(スターバーストラボHJP-17007、スギノマシン製)に被分散液を供給し、表1に示すパス回数に従い循環式分散処理を行った。分散処理はシングルノズルチャンバーを使用し、ノズル径0.25mm、圧力100MPaにて行った。続いて、高圧ホモジナイザーから、配管を介してステンレス容器に被分散液を供給し、ディスパーで撹拌しながらポ
リフッ化ビニリデン樹脂を全量溶解させ、比較分散組成物5を得た。
【0094】
なお、表1に記載の塩基性化合物は以下の通りである。
・NaOH:水酸化ナトリウム(東京化成工業製、純度>98.0%、顆粒状)
・LiOH:水酸化リチウム(東京化成工業製、純度>98.0%)
・KOH:水酸化カリウム(東京化成工業製、純度>86.0%)
・Na2CO3:炭酸ナトリウム(東京化成工業製、純度>99.0%)
・C2H5NH2:2-アミノエタノール(東京化成工業製、純度>99.0%)
【0095】
なお、表1に記載のその他高分子成分(分散剤)は以下の通りである。
・H-NBR1:Therban(R)3406(ARLANXEO製、水素化アクリロニトリル-ブタジエンゴム)
・H-NBR2:Therban(R)AT 3404(ARLANXEO製、水素化ア
クリロニトリル-ブタジエンゴム)
・H-NBR3:Zetpole2000L(日本ゼオン製、水素化アクリロニトリル-ブタジエンゴム)
・PVP:ポリビニルピロリドンK-15(ISP製)
・PVA:クラレポバール3-86SD(クラレ製、変性ポリビニルアルコール)
【0096】
【0097】
<分散組成物の物性値測定および評価>
(分散組成物のD90の粒度測定方法)
D90は粒度分布測定装置(Partical LA-960V2、HORIBA製)を用いて測定した。循環/超音波の動作条件は、循環速度:3、超音波強度:7、超音波時間:1分、撹拌速度:1、撹拌モード:連続とした。また、空気抜き中は超音波強度7、超音波時間5秒で超音波作動を行った。水の屈折率は1.333、カーボン材料の屈折率は1.92とした。測定は、測定試料を赤色レーザーダイオードの透過率が70~90%となるように希釈し、超音波強度:7、超音波時間:1分の条件で超音波作動を行い、粒子径基準は体積とした。表1中の数値は粒径D90が下記の範囲であること示す。
1:2.0μm未満
2:2.0μm以上2.3μm未満
3:2.3μm以上2.5μm未満
4:2.5μm以上10.0μm未満
5:10.0μm以上15.0μm未満
6:15.0μm以上20.0μm未満
7:20.0μm以上
【0098】
(分散組成物のpH測定方法)
pH測定用試料は、分散組成物の不揮発分の質量を100部としたとき、pH測定用試料の不揮発分が40部となるように、分散組成物をディスパーで撹拌しながら水を滴下して調整した。測定には卓上型pHメーター(セブンコンパクトS200Expert Pro、メトラー・トレド製)を用い、温度25℃にて測定した。表1中の数値はpHが下記の範囲であることを示す。
1:7.5未満
2:7.5以上7.7未満
3:7.7以上8.0未満
4:8.0以上11.0未満
5:11.0以上12.0未満
6:12.0以上13.0未満
7:13.0以上
【0099】
(分散組成物の粘度測定方法)
分散組成物の粘度は、B型粘度計(東機産業製「BL」)を用いて、温度25℃にて、ヘラで充分に撹拌した後、直ちにB型粘度計ローター回転速度12rpmにて測定した。12rpmにて測定した粘度を初期粘度とした。流動性の観点からは、初期粘度は低いほど良好であり、評価基準A~Cであれば良好にハンドリングできる。
初期粘度 評価基準
A:6,000mPa・s未満
B:6,000mPa・s以上8,000mPa・s未満
C:8,000mPa・s以上11,000mPa・s未満
D:11,000mPa・s以上
【0100】
(分散組成物の貯蔵安定性評価方法)
貯蔵安定性の評価は、分散組成物を40℃にて静置して保存した後の相分離の有無を判断した。判断方法は以下の通りである。分散組成物の上澄みを直径7.5cm、高さ1cmのアルミ皿に1.5g~2.0g入れ、電気オーブン中で120℃±5℃で1時間乾燥した。その後、固形分の重量を測定し、理論固形分から0.10%以上減少している場合、相分離が起きていると判断した。
貯蔵安定性 評価基準
A:1ヶ月後も相分離が起きなかった。
B:1週間後に相分離が起きた。
C:3日後に相分離が起きた。
D:1日後に相分離が起きた。
【0101】
【0102】
<正極合材スラリーおよび正極の作製>
表3に示す組み合わせと組成比に従い、以下のようにして正極合材スラリーおよび正極を作製した。容量150cm3のプラスチック容器に分散組成物と、正極活物質とNMPを添加し、自転・公転ミキサー(シンキー製 あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2,000rpmで150秒間撹拌し、正極合材スラリーを得た。正極合材スラリーの不揮発分は78質量%とした。
【0103】
正極合材スラリーを、アプリケーターを用いて、厚さ20μmのアルミ箔上に塗工した後、電気オーブン中で120℃±5℃で25分間乾燥し、電極膜を作製した。その後、電
極膜をロールプレス(サンクメタル製、3t油圧式ロールプレス)による圧延処理を行い、正極(正極1~32、比較正極1~3)を得た。なお、電極合材層の単位当たりの目付量が20mg/cm2であり、圧延処理後の電極合材層の密度は3.2g/ccであった。
【0104】
実施例および比較例では、以下の正極活物質を用いた。
・NMC1:S800(LiNi0.8Mn0.1Co0.1O2、金和製)
【0105】
<正極の評価>
得られた正極を走査型電子顕微鏡により観察した写真(30,000倍)を
図1、
図2に示した。
図1は、実施例2-10(正極10)であり、
図2は、比較例2-6(比較正極6)の写真(30,000倍)である。
これにより、
図2ではカーボンナノチューブが1本ずつ解繊され正極活物質上に接して
いるが、
図1では束状構造体のまま維持できている様子が確認できる。束状構造体の繊維長のほうが、1本のカーボンナノチューブよりも長いと考えられるため、カーボンナノチューブ同士の接触抵抗を低減していると推察される。
【0106】
(正極の導電性評価方法)
特許7107413号の段落0172と同様に実施した。
導電性 評価基準
A:5Ω・cm未満
B:5Ω・cm以上10Ω・cm未満
C:10Ω・cm以上20Ω・cm未満
D:20Ω・cm以上
【0107】
(正極の密着性評価方法)
特許7107413号の段落0173と同様に実施した。
密着性 評価基準
A:1.0N/cm以上
B:0.8N/cm以上1.0N/cm未満
C:0.5N/cm以上0.8N/cm未満
D:0.5N/cm未満
【0108】
【0109】
<非水電解質二次電池の作製と評価>
(標準負極の作製)
容量150mlのプラスチック容器にアセチレンブラック(デンカブラック(登録商標)HS‐100、デンカ製)0.5質量%と、MAC500LC(カルボキシメチルセルロースナトリウム塩 サンローズ特殊タイプ MAC500L、日本製紙製、不揮発分100%)1質量%と、水98.4質量%とを加えた後、自転・公転ミキサー(シンキー製
あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2,000rpmで30秒間撹拌した。さらに活物質として人造黒鉛(CGB-20、日本黒鉛工業製)を97質量%添加し、自転・公転ミキサー(シンキー製 あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2,000rpmで150秒間撹拌した。続いてSBR(スチレンブタジエンゴム、TRD2001、不揮発分48%、JSR製)を3.1質量%加えて、自転・公転ミキサー(シンキー製 あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2,000rpmで30秒間撹拌し、標準負極合材スラリーを得た。標準負極合材スラリーの不揮発分は50質量%とした。
【0110】
上述の標準負極合材スラリーを集電体となる厚さ20μmの銅箔上にアプリケーターを用いて塗工した後、電気オーブン中で80℃±5℃で25分間乾燥して電極の単位面積当たりの目付量が10mg/cm2となるように調整した。さらにロールプレス(サンクメタル製、3t油圧式ロールプレス)による圧延処理を行い、電極合材層の密度が1.6g/cm3となる標準負極を作製した。
【0111】
(非水電解質二次電池の作製)
表4に記載した正極および標準負極を使用して、各々50mm×45mm、45mm×40mmに打ち抜き、打ち抜いた正極および標準負極と、その間に挿入されるセパレーター(多孔質ポリプロプレンフィルム)とをアルミ製ラミネート袋に挿入し、電気オーブン中、70℃で1時間乾燥した。その後、アルゴンガスで満たされたグローブボックス内で、電解液(エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとジエチルカーボネートを体積比1:1:1の割合で混合した混合溶媒を作製し、さらに添加剤として、ビニレンカーボネートを100質量%に対して1質量%加えた後、LiPF6を1Mの濃度で溶解させた非水電解液)を2mL注入した後、アルミ製ラミネートを封口して非水電解質二次電池をそれぞれ作製した。
【0112】
(非水電解質二次電池のレート特性評価方法)
特許7107413号の段落0178と同様に実施した。
レート特性 評価基準
A:90%以上
B:85%以上90%未満
C:80%以上85%未満
D:80%未満
【0113】
(非水電解質二次電池のサイクル特性評価方法)
特許7107413号の段落0179と同様に実施した。
サイクル特性 評価基準
A:90%以上
B:80%以上90%未満
C:70%以上80%未満
D:70%未満
【0114】
【0115】
表4に示す総合評価とは、初期粘度、貯蔵安定性、導電性、密着性、レート特性、サイクル特性の評価Aの数を合計した評価の値であり、値が大きいほど良好であることを示す。
【0116】
表に示すように、本発明のカーボンナノチューブ分散組成物は、導電性が高く、流動性および貯蔵安定性が良好であり、該カーボンナノチューブ分散組成物を用いた電極用合材スラリー、および電極膜により、優れたレート特性およびサイクル特性を有する非水電解質二次電池が得られることが確認できた。
これに対し、比較例では、初期粘度、貯蔵安定性、導電性、密着性、レート特性、サイ
クル特性のいずれかに問題があり、また、分散組成物の貯蔵安定性と、非水電解質二次電池とした際のレート特性およびサイクル特性とを両立することはできなかった。