(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128948
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】表面処理装置および表面処理方法
(51)【国際特許分類】
H05H 1/24 20060101AFI20240913BHJP
【FI】
H05H1/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024026214
(22)【出願日】2024-02-26
(31)【優先権主張番号】P 2023037295
(32)【優先日】2023-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】天野 裕太
(72)【発明者】
【氏名】藤内 俊平
(72)【発明者】
【氏名】金杉 和弥
【テーマコード(参考)】
2G084
【Fターム(参考)】
2G084AA01
2G084AA03
2G084AA05
2G084AA07
2G084AA13
2G084BB02
2G084BB07
2G084BB11
2G084CC02
2G084CC03
2G084CC05
2G084CC06
2G084CC08
2G084CC12
2G084CC13
2G084CC19
2G084CC20
2G084CC34
2G084DD01
2G084DD15
2G084DD22
2G084FF02
2G084FF13
2G084GG02
2G084GG04
2G084GG07
2G084GG24
2G084HH02
2G084HH17
2G084HH20
2G084HH36
2G084HH42
(57)【要約】 (修正有)
【課題】基材にダメージを与えずに効率的に大気圧雰囲気下で表面処理するための表面処理装置と表面処理方法を提供する。
【解決手段】本発明の大気圧雰囲気下で基材を表面処理する表面処理装置は、ラジカル放出機構と、前記ラジカル放出機構と空間を隔てて配置された基材保持機構と、を備え、前記ラジカル放出機構はラジカル放出口とガス放出口を有し、ラジカル生成器と、ガスの流路を有し、前記ラジカル放出口から前記基材保持機構に向けてラジカル化された第1のガスを放出する第1のガス供給器と、前記ラジカル生成空間を通過せずに前記ガス放出口に連通するガスの流路を有し、前記ガス放出口からラジカル化されていない第2のガスを放出する第2のガス供給器と、を備え、前記ガス放出口は、前記ラジカル放出口を取り囲むまたは挟むように配置されており、前期第2のガスの流速を、前記第1のガスの流速よりも速くするように構成または調整されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気圧雰囲気下で基材を表面処理する表面処理装置であって、
ラジカル放出機構と、前記ラジカル放出機構と空間を隔てて配置された基材を保持する ための基材保持機構と、を備え、
前記ラジカル放出機構は
前記基材保持機構に対向する部分にラジカル放出口とガス放出口を有し、
ラジカル生成空間を有するラジカル生成器と、
前記ラジカル生成空間を通過して前記ラジカル放出口に連通するガスの流路を有し、前記ラジカル放出口から前記基材保持機構に向けてラジカル化された第1のガスを放出する第1のガス放出器と、
前記ラジカル生成空間を通過せずに前記ガス放出口に連通するガスの流路を有し、前記ガス放出口から前記基材保持機構に向けてラジカル化されていない第2のガスを放出する第2のガス放出器と、を備え、
前記基材保持機構から前記ラジカル放出機構を見て、前記ガス放出口は、前記ラジカル放出口を取り囲むまたは挟むように配置されており、
前記ガス放出口から放出される前記第2のガスの流速を、前記ラジカル放出口から放出される前記第1のガスの流速よりも速くするように構成または調整された、
表面処理装置。
【請求項2】
前記ガス放出口から放出される前記第2のガスの流速を、前記ラジカル放出口から放出される前記第1のガスの流速よりも速くする構成が、前記ガス放出口の開口面積の合計が、前記ラジカル放出口の開口面積の合計よりも小さいことである、請求項1の表面処理装置。
【請求項3】
前記ラジカル放出口と前記ガス放出口がスリット形状である、請求項1または2の表面処理装置。
【請求項4】
前記第2のガス放出器のガスの流路が、前記ガス放出口から放出される前記第2のガスの放出方向が、前記ラジカル放出口から放出される前記第1のガスの放出方向と平行になるように、または放出される前記第1のガスに近づくように構成されている、請求項1または2の表面処理装置。
【請求項5】
前記ラジカル生成器が大気圧プラズマ処理器である、請求項1または2の表面処理装置。
【請求項6】
大気圧雰囲気下で基材を表面処理する表面処理方法であって、
ラジカル放出口と前記ラジカル放出口を取り囲むまたは挟むように配置されたガス放出口を有するラジカル放出機構を、前記基材から空間を隔てて、前記ラジカル放出口と前記ガス放出口が前記基材に対向するように配置し、
前記ラジカル放出口から前記基材に向けてラジカル化された第1のガスを放出し、
前記ガス放出口から前記基材に向けてラジカル化されていない第2のガスを、前記ラジカル放出口から放出される前記第1のガスの流速よりも速い流速で放出する、
表面処理方法。
【請求項7】
前記第2のガスが不活性ガスである、請求項6の表面処理方法。
【請求項8】
前記第1のガスをラジカル化する処理が大気圧プラズマ処理である、請求項6または7の表面処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材にダメージを与えずに効率的に大気圧下で表面処理するための表面処理装置および表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種基材に対する表面改質や微細加工を目的に、光や熱、プラズマ等のエネルギー源を用いた表面処理技術が活用されている。中でも、エネルギー源と基材を分離し、エネルギー源によって分解したガス(ラジカル)を基材表面に供給して処理するリモート式の表面処理技術(以下、リモート表面処理という)は、エネルギー源が基材表面に直接暴露されないため、熱変質やチャージアップ損傷等の基材ダメージを受け難い特徴がある。そのため、低融点基材や電子デバイス等に対する表面処理技術として適用されている。しかしながら、リモート表面処理は、エネルギー源を基材に直接暴露するダイレクト式の表面処理に比べて処理速度が遅い課題があり、効率的にラジカルを基材表面に供給して高速処理するための方法や装置がこれまでに提案されている。
【0003】
例えば特許文献1には、リモート式の大気圧プラズマ処理方法において、ガスの種類を窒素ガスにすることで、寿命の長い窒素ラジカルが生成されることが開示されている。これにより、効率的にラジカルが基材表面に供給され、表面処理が促進することが開示されている。
【0004】
特許文献2には、リモート式の大気圧プラズマ電極内にガスを通過させる2つの流路を設け、それぞれの流路においてガスをプラズマ分解した後、これら分解ガスを合流させて基材に噴射供給することで表面処理効率(プラズマ活性化)が向上できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10―275698号公報
【特許文献2】特開2005―108482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら特許文献1、2に開示されている大気圧雰囲気下での表面処理方法では、ラジカル放出口から放出されたラジカルが基材に届くまでに拡散損失してしまい十分な処理効果が得られない場合がある。
【0007】
本発明は、上述した問題点を鑑みてなされたものであり、効率的に大気圧雰囲気下で表面処理するための表面処理装置と表面処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1] 上記課題を解決する本発明は、大気圧雰囲気下で基材を表面処理する表面処理装置であって、
ラジカル放出機構と、上記ラジカル放出機構と空間を隔てて配置された基材を保持するための基材保持機構と、を備え、
上記ラジカル放出機構は
上記基材保持機構に対向する部分にラジカル放出口とガス放出口を有し、
ラジカル生成空間を有するラジカル生成器と、
上記ラジカル生成空間を通過して上記ラジカル放出口に連通するガスの流路を有し、上記ラジカル放出口から上記基材保持機構に向けてラジカル化された第1のガスを放出する第1のガス放出器と、
上記ラジカル生成空間を通過せずに上記ガス放出口に連通するガスの流路を有し、上記ガス放出口から上記基材保持機構に向けてラジカル化されていない第2のガスを放出する第2のガス放出器と、を備え、
上記基材保持機構から上記ラジカル放出機構を見て、上記ガス放出口は、上記ラジカル放出口を取り囲むまたは挟むように配置されており、
上記ガス放出口から放出される上記第2のガスの流速を、上記ラジカル放出口から放出される上記第1のガスの流速よりも速くするように構成または調整されている。
【0009】
本発明の表面処理装置は以下の[2]~[5]のいずれかの態様であることが好ましい。
[2] 上記ガス放出口から放出される上記第2のガスの流速を、上記ラジカル放出口から放出される上記第1のガスの流速よりも速くする構成が、上記ガス放出口の開口面積の合計が、上記ラジカル放出口の開口面積の合計よりも小さいことである、上記[1]の表面処理装置。
[3] 上記ラジカル放出口と上記ガス放出口がスリット形状である、上記[1]または[2]の表面処理装置。
[4] 上記第2のガス放出器のガスの流路が、上記ガス放出口から放出される上記第2のガスの放出方向が、上記ラジカル放出口から放出される上記第1のガスの放出方向と平行になるように、または放出される上記第1のガスに近づくように構成されている、上記[1]~[3]のいずれかの表面処理装置。
[5] 上記ラジカル生成器が大気圧プラズマ処理器である、上記[1]~[4]のいずれかの表面処理装置。
【0010】
[6] 上記課題を解決する本発明は、大気圧雰囲気下で基材を表面処理する表面処理方法であって、
ラジカル放出口と前記ラジカル放出口を取り囲むまたは挟むように配置されたガス放出口を有するラジカル放出機構を、上記基材から空間を隔てて、上記ラジカル放出口と上記ガス放出口が上記基材に対向するように配置し、
上記ラジカル放出口から上記基材に向けてラジカル化された第1のガスを放出し、上記ガス放出口から上記基材に向けてラジカル化されていない第2のガスを、上記ラジカル放出口から放出される上記第1のガスの流速よりも速い流速で放出する。
【0011】
本発明の表面処理方法は以下の[7]または[8]の態様であることが好ましい。
[7] 上記第2のガスが不活性ガスである、上記[6]の表面処理方法。
[8] 上記第1のガスをラジカル化する処理が大気圧プラズマ処理である、上記[6]または[7]の表面処理方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、基材にダメージを与えずに効率的に大気圧雰囲気下で表面処理するための表面処理装置および表面処理方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の第一実施形態の表面処理装置を示す概略図である。
【
図2】
図2は、本発明の第一実施形態の表面処理装置におけるラジカル放出機構を基材保持機構から見た概略図である。
【
図3】
図3は、本発明の第二実施形態の表面処理装置におけるラジカル放出機構を基材保持機構から見た概略図である。
【
図4】
図4は、本発明の第三実施形態の表面処理装置におけるラジカル放出機構を基材保持機構から見た概略図である。
【
図5】
図5は、本発明の第四実施形態の表面処理装置におけるラジカル放出機構を基材保持機構から見た概略図である。
【
図6】
図6は、本発明の第五実施形態の表面処理装置を示す概略図である。
【
図7】
図7は、本発明の第六実施形態の表面処理装置を示す概略図である。
【
図8】
図8は、本発明の第七実施形態の表面処理装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[表面処理装置の第一実施形態]
以下、本発明の実施形態の例を図面を参照しながら説明する。
図1は本発明の大気圧雰囲気下で基材5を表面処理する表面処理装置1の第一実施形態を示す概略図である。
図1に示すように、本実施形態の表面処理装置1はラジカル放出機構2と、ラジカル放出機構2と空間を隔てて配置された基材5を保持するための基材保持機構4を備えている。以下に、ラジカル放出機構2と基材保持機構4についてそれぞれ説明する。
【0015】
[ラジカル放出機構]
図1を参照する。まずラジカル放出機構2について説明する。ラジカル放出機構2は、大気圧雰囲気下で第1のガスにエネルギーを与えて分解した後、その分解生成物であるラジカルをラジカル放出機構2の外部となるラジカル輸送空間17に放出するための機構である。
【0016】
ラジカル放出機構2は、基材保持機構4に対向する部分にラジカル放出口6とガス放出口7を有し、ラジカル生成空間10を有するラジカル生成器3、第1のガス放出器8および第2のガス放出器9を備えている。また、ラジカル生成器3は電源18に接続されている。
【0017】
第1のガス放出器8は、ラジカル生成空間10を通過してラジカル放出口6に連通する第1のガスの流路を有しており、ラジカル放出口6から基材保持機構4に向けてラジカル化された第1のガスを放出する。本実施形態では、ラジカル放出機構2に形成された第1のガスの流路自体が第1のガス放出器8を構成しているが、第1のガスの流路を有する別部材の第1のガス放出器8がラジカル放出機構2に取り付けられていてもよい。第1のガスの流路には、第1のガス流量調整機構15を介して第1のガスの供給源11から第1のガスが供給される。
【0018】
第2のガス放出器9は、ラジカル生成空間10を通過せずにガス放出口7に連通する第2のガスの流路を有しており、ガス放出口7から基材保持機構4に向けてラジカル化されていない第2のガスを放出する。本実施形態では、ラジカル生成器3に形成された第2のガスの流路自体が第2のガス放出器9を構成しているが、第2のガスの流路を有する別部材の第2のガス放出器9がラジカル放出機構2に取り付けられていてもよい。第2のガスの流路には、第2のガスの流量調整機構16を介して第2のガスの供給源12から第2のガスが供給される。
【0019】
本発明において「大気圧」とは、真空ポンプなどで意図的にガス圧力を制御していない、大気の質量によって生じるガス圧力のことを指す。例えば、標準大気圧は1013.25hPaと定義されているが標高や気候などによって変化するものも大気圧に含まれる。
また「ラジカル」とは、活性種のことであり、反応性の高い不対電子を持った原子・分子または励起状態にある原子・分子を指す。
【0020】
ラジカル生成器3は、第1のガス流路8内のラジカル生成空間10にエネルギーを与えて第1のガスを分解できるものであればよく、大気圧プラズマ生成器や紫外線照射器、火炎照射器などを少なくとも1つ以上用いることができる。特に、大気圧プラズマ生成器は、プラズマ中に存在する荷電粒子が高いエネルギーを持っており、効率良くラジカルを生成できる点で好ましい。大気圧プラズマ生成器のプラズマ発生方式としては、容量結合方式、誘導結合方式、誘電体バリア方式等が挙げられるが、中でも誘電体バリア方式が好ましい。誘電体バリア方式を用いることで、大気圧プラズマ生成器への過度な電流流入を抑制することができ、ラジカル生成空間10全体に安定かつ広範囲にプラズマを発生することができる。これにより、多量のラジカルを生成することができ、表面処理を促進することができる。
【0021】
電源18は上記に示すエネルギー発生手段に応じて適宜選択できる。例えば、直流電源や交流電源を選択することができる。本発明において「交流」とは、時間により電圧値および電流値の大きさが常に変化するものをいう。時間とともに正弦波状にその値が変化するものが一般的であるが、この他にも矩形波状やパルス波状に値が変化するものも例示される。交流電源における電源周波数は、特に規定されるものでは無いが、数kHzオーダーの低周波から数十MHzオーダーの高周波、数GHzオーダーのマイクロ波などが例示される。
【0022】
ラジカル生成空間10は第1のガス流路8全長に渡って形成してもよいが、第1のガス流路8の局所部分に形成してもよい。また、第1のガス流路8の長手方向に分割して複数のラジカル生成空間10を設けてもよく、第1のガス流路8内に分割した複数のガス流路およびラジカル生成空間10を設けてもよい。
【0023】
第1のガス流路8の断面積は、ラジカル放出口6の開口面積と等しくても異なっていてもよい。例えば、ラジカル生成効率が高くなるよう、使用するエネルギー源に応じて、そのラジカル生成空間10の断面積を変更してもよい。
【0024】
ラジカル生成器3には、ラジカル生成空間10内のエネルギー状態やラジカル生成状態を監視するための計測器を備えることが好ましい。計測器を備えることで、表面処理時の異常を早期に発見することができる。例えば、ラジカル生成器3に大気圧プラズマ処理器を用いた場合にはプラズマの発光状態が計測できる発光分光計測器を備えることで、その発光ピークや発光波長からプラズマのエネルギーや励起種の量が把握できる。また、ラジカルモニターを配置することで、ラジカル量が測定できる。これらの計測器は、上記以外のものでも、監視したい対象に応じて適宜変更できる。
【0025】
図2を参照する。
図2は、本実施形態でのラジカル放出機構2を基材保持機構4側からの視点13から見た概略図である。ガス放出口7は、ラジカル放出口6を取り囲むように配置されている。これにより、ラジカル放出口6から放出される第1のガスを取り囲むように、ガス放出口7から放出される第2のガスが流れる。この随伴流の効果により、ラジカル放出口6から放出されるラジカル化された第1のガスの直進性が向上し、ラジカルの拡散損失が抑制される。
【0026】
また、ガス放出口7から放出される第2のガスの流速が、ラジカル放出口6から放出される第1のガスの流速よりも速くするように構成または調整されている。それらガス流速はガス流量を開口面積の合計で除することで求めることができ、下記式を満たすようにガス流量Q1、Q2と開口面積の合計S1、S2が調整または構成されている。
・Q1/S1<Q2/S2 ・・・(1)
第1のガス流量:Q1
ラジカル放出口6の開口面積の合計:S1
第2のガス流量:Q2
ガス放出口7の開口面積の合計:S2。
【0027】
ラジカル放出口6から放出される第1のガス流速よりもラジカル放出口6を囲うように配置されたガス放出口7から放出される第2のガス流速を早くすると、ガス分子の持つ運動エネルギーが大きくなり、その第2のガスと第1のガスが強く弾性衝突することで第1のガスの直進性が向上する。その結果、ラジカルの拡散損失が抑制される。これにより、効率よく基材5までラジカルを輸送することができ、表面処理を促進することができる。
【0028】
第1のガス流量および第2のガス流量はガス流量制御機構15、16によって調整することができる。このガス流量制御機構15、16には、マスフローコントローラーやガス流量制御バルブなどを用いることができる。
【0029】
また、ガス放出口7の開口面積の合計が、ラジカル放出口6の開口面積の合計よりも小さいことが好ましい。これにより、ラジカル放出口6から放出される第1のガス流速よりもガス放出口7から放出される第2のガス流速を効率よく早くすることができる。
【0030】
第1のガスおよび第2のガスのガス流速は、ラジカル放出口6とガス放出口7の開口部の直下において、風速計などを用いて測定できる。風速計の一例としては、熱式風速計やベーン式風速計、ピトー管式風速計、レーザードップラー流速計などが挙げられる。特に、レーザードップラー流速計は、非接触でガス流速が測定できるため、それらガス流れを乱すことなく、連続的にモニタリングできる点で好ましい。
【0031】
ガス放出口7から放出される第2のガスの放出方向がラジカル放出口6から放出される第1のガスの放出方向に平行になるように、または近づくように、第2のガス供給器の第2のガス流路9が構成されていること好ましい。これにより、ラジカルを含む第1のガスを囲むように第2のガスが効果的に随伴し、ラジカル放出口6から放出される第1のガスの拡散損失が抑制される。これにより、効率よく基材5にラジカルを供給することができる。
【0032】
ガス放出口7とラジカル放出口6は、同一平面上もしくはガス放出口7がラジカル放出口6よりも基材5から離れていることが好ましい。これは、ガス放出口7がラジカル放出口6よりも基材5側にあると、第2のガスが第1のガスを随伴しない領域で、第1のガスが拡散損失するためである。
【0033】
ラジカル放出口6とガス放出口7の形状は、孔形状でも構わないが、スリット形状にすることが好ましい。スリット形状にすることでガス流速ムラが小さくなり、基材5に対するラジカル供給量および処理効果を均一にすることができる。
【0034】
ラジカル化される第1のガスは、表面改質や薄膜形成などの表面処理の目的に応じて適宜変更することができ、例えばアルゴン、ヘリウム、窒素などの不活性ガスや、酸素、水蒸気などの非重合性の反応性ガス、メタンやヘキサメチルジシロキサンなどの重合性の反応性ガスなどが例示される。また、異なるガス種を2つ以上混合しても構わない。
【0035】
ラジカル化されない第2のガスは、上記の不活性ガスや反応性ガスを選択することが出来るが、第1のガスに含まれるラジカルと第2のガスが反応し、ラジカルが失活しないように不活性ガスを用いることが好ましい。特に、コスト面から窒素ガスを用いることが好ましい。また、異なる不活性ガス種を2つ以上混合しても構わない。
【0036】
[基材保持機構]
再び
図1を参照する。基材保持機構4は、ラジカル放出機構2と空間を隔てて配置された基材5を保持するためのものであればよく、具体的な機構は特に制限されない。例えば、処理対象となる基材5がフィルムの場合には、フィルムを搬送するためのロール搬送機構を基材保持機構4としても構わない。ラジカル放出機構2のラジカル生成空間10と基材5を分離することで、プラズマ等の高いエネルギーを有するエネルギー源が直接基材5に曝されないため、基材ダメージを与えずに表面処理することが出来る。
【0037】
基材保持機構4に荷電粒子が電界誘引されないよう、基材保持機構4はラジカル放出機構2と電気的に絶縁されていることが好ましい。本発明において「絶縁」とは、対象とする2点間の電気抵抗値が0.4MΩ以上であって、電圧をかけても電流が流れない状態のことを指す。
【0038】
基材保持機構4は、基材5を加熱するヒータなどの加熱手段を備えてもよい。
【0039】
ラジカル放出口と基材の距離14は任意に調整することができ、特に制限されない。また、平面基板でも立体構造物でも目的に応じて適宜選択できる。
【0040】
基材5の材質は金属材料、セラミック、樹脂材料などから用途に応じて適宜選択することができる。また、平面基板でも立体構造物でも目的に応じて適宜選択できる。
【0041】
[表面処理装置の第二実施形態]
図3を参照する。
図3は本発明の表面処理装置の第二実施形態におけるラジカル放出機構2を基材保持機構側から見た概略図である。この第二実施形態は、ラジカル放出口6とガス放出口7の形状が異なっている以外は第一実施形態と同じである。
【0042】
本実施形態では、ラジカル放出機構2の中央部にラジカル放出口6とそれを挟むようにガス放出口7が配置されている。ラジカル放出口6から放出される第1のガスを挟むようにガス放出口7から放出される第2のガスが流れる。この随伴流の効果により、ラジカル放出口6から放出されるラジカル化された第1のガスの直進性が向上し、
図2の第一の実施形態と同様にラジカルの拡散損失が抑制される。
【0043】
[表面処理装置の第三実施形態]
図4を参照する。
図4は本発明の表面処理装置の第三実施形態におけるラジカル放出機構2を基材保持機構側から見た概略図である。この第三実施形態は、ラジカル放出口6とガス放出口7の形状が異なっている以外は第一実施形態と同じである。本実施形態では、ラジカル放出口6とガス放出口7がそれぞれ複数設けられている。
【0044】
[表面処理装置の第四実施形態]
図5を参照する。
図5は本発明の表面処理装置の第四実施形態におけるラジカル放出機構2を基材保持機構側から見た概略図である。この第四実施形態は、ラジカル放出口6とガス放出口7の形状が異なっている以外は第一実施形態と同じである。本実施形態では、ラジカル放出口6が孔であり、その孔を囲むように円環状のガス放出口7が設けられている。
【0045】
[第一、第二、第三、第四の実施形態の比較]
第四の実施形態に比べて第二の実施形態は、広幅基材に対してラジカル放出口6とガス放出口7をスリット形状にすることで、ガス流速ムラが小さくなり、基材5に対するラジカル供給量および処理効果を均一にすることができるため、より好ましい。
【0046】
さらに第二の実施形態に比べて第一の実施形態は、第1のガスを取り囲むように第2のガスを供給することで、全周にわたってガスの拡散防止効果が得られるため、より好ましい。
【0047】
またさらに第一の実施形態に比べて第三の実施形態は、ラジカル放出口6とガス放出口7をそれぞれ複数個設けることで、ガス流量を個別で制御でき、効率よくガスを供給することができるため、より好ましい。
【0048】
第一、第二、第三、第四の実施形態を比較して、ラジカル放出口6とガス放出口7の形状の違いによる効果を説明する。
図3の第二の実施形態と
図5の第四の実施形態を比較する。第二の実施形態はラジカル放出口6とガス放出口7がスリット形状になっているので、スリット形状の長手方向でのガス流速ムラが小さくなり、基材5に対するラジカル供給量と処理効果を均一にすることができる。そのため、広幅基材を処理する場合には、第二の実施形態は第四の実施形態に比べて有効である。
【0049】
図2の第一の実施形態と
図3の第二の実施形態を比較する。第一の実施形態では、ガス放出口7から放出される第2のガスがラジカル放出口6から放出される第1のガスを取り囲むようになるので、全周にわたって第1のガスの拡散を防止できる。そのため、第一の実施形態は第二の実施形態に比べて、ガスの拡散防止効果の点では有効である。
【0050】
図2の第一の実施形態と
図4の第三の実施形態を比較する。第三の実施形態はラジカル放出口6とガス放出口7をそれぞれ複数個設けられているので、ガス流量を個別に制御できる。そのため、第三の実施形態は第一の実施形態に比べて、効率よくガスを供給することができる点で有効である。
【0051】
[表面処理装置の第五実施形態]
図6を参照する。
図6は本発明の表面処理装置の第五実施形態を示す概略図である。本実施形態の表面処理装置1’は、第一実施形態の表面処理装置1の構成に加えて、ラジカル化されていない第3のガスをラジカル放出機構2へ向けて放出する第3のガス放出器19が基材保持機構4に取り付けられている。第3のガス放出器19は、ラジカル放出機構2に対向する面に第3のガス放出口21と、内部に第3のガスの流路20を有している。第3のガスの流路20には第3のガス供給源22から第3のガスが供給される。ラジカル放出口6とガス放出口7から放出されるガスは空間17に放出されてから基材5に至るまで徐々に流速が低下し、随伴流による第1のガスの拡散防止効果が小さくなる。しかし、基材保持機構4側からラジカル放出機構2側に第3のガス放出口21から第3のガスを放出することで、第2のガスの拡散防止効果が低下している基材5近傍においても、第3のガスにより第2のガスの拡散が防止され、結果として第1のガスの拡散防止効果の低下を抑制することができる。
【0052】
[表面処理装置の第六実施形態]
図7を参照する。
図7は本発明の表面処理装置の第六実施形態を示す概略図である。本実施形態の表面処理装置26は、第一実施形態の表面処理装置1のラジカル生成器3を平行平板型誘電体バリア方式の大気圧プラズマ処理器にした構成となっている。
【0053】
本発明において平行平板型誘電体バリア方式とは、空間を隔てて対向に配置された2枚の金属板(カソード23およびアノード24)の少なくとも一方の表面に接触するように誘電体25が備えられた構成を指す。また、本発明におけるカソード23とは電源18から印可される駆動電位、アノード24は接地電位のことを指す。誘電体25の材質や厚みは、カソード23およびアノード24間に印可する電圧よりも高い耐電圧を有していればよく、特に制限されない。
【0054】
[表面処理装置の第七実施形態]
図8を参照する。
図8は本発明の表面処理装置の第七実施形態を示す概略図である。本実施形態の表面処理装置27は、第一実施形態の表面処理装置1のラジカル生成器3を沿面放電型誘電体バリア方式の大気圧プラズマ処理器にした構成となっている。
【0055】
本発明において沿面放電型誘電体バリア方式とは、誘電体25を隙間なく挟むようにカソード23とアノード24が配置されており、ラジカル生成空間10側の誘電体25が一部露出した構成となっている。この方式では、平行平板型誘電体バリア方式よりも、カソード23とアノード24間の距離を近づけることができため、それらカソード23とアノード24間の電界強度を大きくすることができ、ラジカル生成空間10に高密度なプラズマが生成される。これにより、より多くのラジカルを生成することができ、表面処理を促進することができる。また、平行平板型誘電体バリア方式に比べて低い電圧でプラズマが生成できるため、異常放電のリスクが小さく、安定にラジカルを生成することができる。
【0056】
また、沿面放電型誘電体バリア方式では、ラジカル生成空間10を囲むまたは挟むようにカソード23とアノード24を設けることが好ましい。これにより、高密度なプラズマを広範囲に生成することができる。
【0057】
また、ラジカル生成空間10側のカソード23もしくはアノード24の形状および周長さは任意に調整することができるが、ラジカル生成空間10側のカソード23もしくはアノード24の周長さを増やすことでプラズマ生成領域を拡大することができる。これにより、ラジカル生成空間10に多量のラジカルを生成することができ、表面処理を更に促進することができる。
【0058】
また、ラジカル放出口6に向かって電界が形成されるように、カソード23とアノード24、誘電体25を配置することが好ましい。これは、電界方向に沿ってプラズマ流が生じ、第1のガスの流動性および直進性を高めることができるためである。これにより、ガスの拡散損失を抑制することができ、表面処理効果を更に高めることができる。
【実施例0059】
以下実施例で、本発明の表面処理装置および表面処理方法を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。また、以下実施例および比較例の結果を表1に示す。
【0060】
[実施例1]
図7に示す表面処理装置を用いた。この装置では、ラジカル生成器3に平行平板型誘電体バリア方式の大気圧プラズマ処理器3を使用しており、搬送機構の無い昇降台4の上に基材5となるプラズマインジケータ(株式会社サクラクレパス製“プラズマーク”(登録商標):大気圧プラズマ用No.41)を配置した。
【0061】
大気圧プラズマ処理器3のラジカル放出口6と基材5との距離14は100mmに調整し、ラジカル放出口6とガス放出口7が基材5に対して正対するように配置した。
【0062】
ラジカル放出口6とガス放出口7の形状は、
図3に示すスリット形状となっており、ラジカル放出口6の開口面積は100mm
2(開口幅X1:1mm、開口長Y1:100mm)、ガス放出口7の開口面積はそれぞれ10mm
2(開口幅X2:0.1mm、開口長Y2:100mm)の合計20mm
2とした。また、ラジカル放出口6とガス放出口7の距離Zは1mmである。また、ラジカル放出口6とガス放出口7のガス流速を1mm離れた位置において、ピトー管式風速計(testo社製“testo435-1”)を用いて測定した。
【0063】
第1のガスおよび第2のガスの種類は空気とし、第1のガス流速を1.4m/sec、第2のガス流速を4.7m/secとなるように、第1および第2のガス流速制御機構15、16において流量を調整した。
【0064】
大気圧プラズマ処理器3に16KVppの投入電圧(正弦波、5KHz)を印加し、ラジカル生成空間10にラジカルを生成した後、基材5を10秒間処理した。その結果、プラズマインジケータの色差△E*が15.7になることを確認した。このプラズマインジケータの色差△E*は、表面処理前後のL*a*b*の色度を基に下記式で算出され、その数値が大きくなるほど表面処理が進行していることを意味する。
・色差△E*=((L*1―L*2)2+(a*1―a*2)2+(b*1-b*2)2
)1/2
表面処理前のプラズマインジケータの明度:L*1
表面処理後のプラズマインジケータの明度:L*2
表面処理前のプラズマインジケータの緑赤座標:a*1
表面処理後のプラズマインジケータの緑赤座標:a*2
表面処理前のプラズマインジケータの青黄座標:b*1
表面処理後のプラズマインジケータの青黄座標:b*2。
【0065】
[比較例1]
第2のガスを供給しないこと以外は実施例1と同条件にして処理基材5に対して10秒間処理を行った。その結果、色差△E*は14.6であった。
【0066】
[比較例2]
第2のガスのガス流速を1.2m/secで供給したこと以外は実施例1と同条件として処理基材5に対して10秒間処理を行った。その結果、色差△E*は15.1であった。
【0067】
[実施例2]
図8に示す表面処理装置を用いた。ラジカル生成器3に沿面放電型誘電体バリア方式の大気圧プラズマ処理器を用い、ラジカル放出口6に向かって電界が形成されるように、カソード23とアノード24、誘電体25を配置した。そして、その大気圧プラズマ処理器に16KVppの投入電圧(正弦波、5KHz)を印加し、第1のガス流速を1.4m/sec、第2のガス流速を4.7m/secで供給したこと以外の条件は実施例1と同条件として処理基材5に対して10秒間処理を行った。その結果、色差△E*は17.4であった。これは、沿面放電型誘電体バリア方式の方が平行平板型誘電体バリア方式に比べてプラズマ密度が高く、ラジカル生成空間10に多量のラジカルが生成されることと、プラズマ流によって第1のガスの直進性が向上したことが影響しているものと考えられる。
【0068】
本発明の表面処理装置、方法を用いることで、基材にダメージを与えずに効率的に大気圧雰囲気下で表面処理することができる。この処理装置、方法は、例えば、基材の洗浄や表面改質、成膜などに用いることができるが、その応用範囲がこれらに限られるものではない。