IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人理化学研究所の特許一覧 ▶ 石井 佳誉の特許一覧

特開2024-128959コロナウイルス感染症治療薬のスクリーニング方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128959
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】コロナウイルス感染症治療薬のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/113 20100101AFI20240913BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20240913BHJP
   C12Q 1/6811 20180101ALI20240913BHJP
   C12Q 1/6816 20180101ALI20240913BHJP
   C12Q 1/6818 20180101ALI20240913BHJP
   C12Q 1/70 20060101ALI20240913BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20240913BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20240913BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
C12N15/113 Z ZNA
C12N15/113 100Z
C12Q1/68
C12Q1/6811 Z
C12Q1/6816 Z
C12Q1/6818 Z
C12Q1/70
C12N15/11 Z
G01N33/15 Z
G01N33/50 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024034653
(22)【出願日】2024-03-07
(31)【優先権主張番号】P 2023037223
(32)【優先日】2023-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業大規模プロジェクト型エネルギー損失の革新的な低減化につながる高温超電導線材接合技術「高温超電導線材接合技術の超高磁場NMRと鉄道き電線への社会実装」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(71)【出願人】
【識別番号】523088718
【氏名又は名称】石井 佳誉
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】大山 貴子
(72)【発明者】
【氏名】石井 佳誉
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
【Fターム(参考)】
2G045AA40
2G045DA14
2G045DA20
2G045FA36
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ10
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR32
4B063QR35
4B063QS16
4B063QS39
4B063QS40
4B063QX01
4B063QX10
(57)【要約】
【課題】 コロナウイルスのRNA依存性RNAポリメラーゼまたはプライマーゼが結合する二次構造を形成する塩基配列を含むRNA、およびこのRNAを用いたコロナウイルス感染症の治療剤または予防剤のスクリーニング方法を提供すること。
【解決手段】 シュードノット構造を形成する塩基配列を含むRNA、およびこのRNAを用いたコロナウイルス感染症の治療剤または予防剤のスクリーニング方法が提供される。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号22に記載の塩基配列、または
配列番号22に記載の塩基配列と少なくとも90%の塩基配列同一性を有し且つシュードノット構造を形成する塩基配列を含む、RNA。
【請求項2】
配列番号21に記載の塩基配列、または配列番号21に記載の塩基配列と少なくとも90%の塩基配列同一性を有し且つ3つのステム構造を形成する塩基配列を含む、RNA。
【請求項3】
配列番号20に記載の塩基配列、または配列番号20に記載の塩基配列と少なくとも90%の塩基配列同一性を有し且つシュードノット構造を形成する塩基配列を含む、RNA。
【請求項4】
配列番号19に記載の塩基配列、または配列番号19に記載の塩基配列と少なくとも90%の塩基配列同一性を有し且つ2つのステム構造を形成する塩基配列を含む、RNA。
【請求項5】
シュードノット構造に加えて1つのステムループ構造を形成する、請求項1に記載のRNA。
【請求項6】
請求項1に記載のRNA、並びに
請求項2から4のいずれか一項に記載のRNAから選択される1種、2種、または3種のRNAを含む、セット。
【請求項7】
請求項1に記載のRNAとプライマーゼ/RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)との結合を検出するアッセイを使用して、プライマーゼ/RdRpのRNAへの結合を阻害する化合物を同定する工程を含む、
コロナウイルス感染症の治療剤または予防剤のスクリーニング方法。
【請求項8】
核磁気共鳴(NMR)分析により、請求項1に記載のRNAについて化合物の結合部位を解析する工程をさらに含む、請求項7に記載のスクリーニング方法。
【請求項9】
同定された化合物の存在下で、請求項2から4のいずれか一項に記載のRNAとプライマーゼ/RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)との結合を分析する工程をさらに含む、請求項7に記載のスクリーニング方法。
【請求項10】
コロナウイルスがアルファコロナウイルス属またはベータコロナウイルス属のウイルスである、請求項7に記載のスクリーニング方法。
【請求項11】
コロナウイルスがSARS-CoV-2である、請求項7に記載のスクリーニング方法。
【請求項12】
請求項1から4のいずれか一項に記載のRNAをコードするDNA。
【請求項13】
請求項1から4のいずれか一項に記載のRNAについてNMR解析により二次構造の形成を測定する方法。
【請求項14】
プライマーゼまたはRdRpのRNAにおける結合部位を特定するための、請求項13に記載の測定方法。
【請求項15】
請求項1から4のいずれか一項にRNAをアッセイ溶液中で維持することを含む、シュードノット構造またはステムループ構造の形成方法であって、アッセイ溶液のカリウムイオン濃度がナトリウムイオン濃度よりも高い、方法。
【請求項16】
請求項1から4のいずれか一項に記載のRNAの少なくとも一部分に結合して、前記RNAとプライマーゼ/RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)との結合を阻害する、アンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項17】
下記(a)~(o)からなる群から選択される何れかの塩基配列(但し、ウラシルはチミンであってもよい)を含む、請求項16に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド:
(a)GGGAAUAGCUUCUUAGGAGAAU(配列番号25)、
(b)AAUAGCUUCUUAGGAGAAU(配列番号27)、
(c)GAUUAAAGUUAAUUACGAGAAUU(配列番号28)、
(d)AAAGUCGAGAAUUCAUUCAUUCU(配列番号29)、
(e)UUGUGCUAUGUAGUUACGAGA(配列番号30)、
(f)UGUGAGAUUAAAGUUAACUACAUCUAC(配列番号31)、
(g)UUGUGCUAUGUAGUUA(配列番号32)、
(h)UGUGAGAUUAAAGUUAACUACA(配列番号33)、
(i)AUUCUCCUAAGAAGCUAUU(配列番号34)、
(j)UAUGUAGUUACGAGAAUUCAUUCU(配列番号35)、
(k)AAAGUCGAGAAUUCAUUCAUUCUGCACAAG(配列番号36)、
(l)AUCUACUUGUGCUAUGUAGUUACGAGAA(配列番号37)、
(m)UGUGAGAUUAAAGUUAACUACAUCUAU(配列番号38)、
(n)(a)~(m)の塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列からなり、請求項1から4のいずれか一項に記載のRNAとRdRpとの結合を阻害することができる、塩基配列、および
(o)(a)~(m)のいずれか一の塩基配列と90%塩基配列同一性を有する配列を含み、請求項1から4のいずれか一項に記載のRNAとRdRpとの結合を阻害することができる、塩基配列。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シュードノット構造を形成する塩基配列を含むRNAに関する。本発明はさらに、このRNAを用いたコロナウイルス感染症の治療剤または予防剤のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本で承認されている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬のうち、レムデシビルとモルヌピラビルはRNA合成阻害剤である(非特許文献1)。レムデシビルはアデノシンヌクレオシドのプロドラッグである。生体内で加水分解などを経て生成される活性代謝物であるアデノシン三リン酸(ATP)の類似体が、RNAウイルスの複製に必要なRNA依存性RNAポリメラーゼを阻害することで抗ウイルス作用を発揮する(非特許文献1)。モルヌピラビルもプロドラッグであり、N-ヒドロキシシチジン(NHC)に代謝され細胞内に取り込まれた後、活性型であるリボヌクレオシド三リン酸化体(NHC-TP)にリン酸化され、NHC-TPがウイルス由来RNA依存性RNAポリメラーゼによりウイルスRNAに取り込まれた結果、ウイルスゲノムのエラー頻度が増加し、ウイルスの増殖が阻害される(非特許文献2)。すなわちこれら2剤はRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)阻害剤である。RdRpは、RNAウイルスの複製過程を担う重要な酵素であり、COVID-19治療薬の開発の有用な標的の一つである。しかしながら、両剤ともCOVID-19に対する治療効果が十分であるとはいえないものである。
【0003】
コロナウイルスはプラス鎖一本鎖のRNAをウイルスゲノムとして有し、その3′末端非翻訳領域(UTR)から(-)鎖ゲノムRNAとサブゲノムRNAが転写される。非特許文献3は、コロナウイルス(-)鎖RNA合成の開始に関する仮説的モデルを開示する。この仮説的モデルでは、プライマーゼがシュードノットのループ(ループ1)になる部分と3′末端が形成するステムに結合してプライマーゼが(-)鎖RNAの5′末端を合成することで、ゲノムの3′末端がループ1から離れてシュードノットが形成され、このシュードノットにRdRpが結合して(-)鎖が伸長することが提唱されている。しかしながら、コロナウイルスゲノムの3′末端においてシュードノット構造が形成されるかについては実験的に確認されてなかったため、コロナウイルス(-)鎖RNAの合成開始機構の詳細は分かっていなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Ghosh, Arun K et al. “Recent Drug Development and Medicinal Chemistry Approaches for the Treatment of SARS-CoV-2 Infection and COVID-19.” ChemMedChem vol. 17,22 (2022): e202200440. doi:10.1002/cmdc.202200440.
【非特許文献2】Imran M, Kumar Arora M, Asdaq SMB, Khan SA, Alaqel SI, Alshammari MK, Alshehri MM, Alshrari AS, Mateq Ali A, Al-Shammeri AM, Alhazmi BD, Harshan AA, Alam MT, Abida. Discovery, Development, and Patent Trends on Molnupiravir: A Prospective Oral Treatment for COVID-19. Molecules. 2021 Sep 24;26(19):5795. doi: 10.3390/molecules26195795. PMID: 34641339; PMCID: PMC8510125.
【非特許文献3】Zust, R., Miller, T. B., Goebel, S. J., Thiel, V. & Masters, P. S. Genetic interactions between an essential 3' cis-acting RNA pseudoknot, replicase gene products, and the extreme 3' end of the mouse coronavirus genome. J Virol 82, 1214-1228 (2008). https://doi.org:10.1128/JVI.01690-07
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のとおり、RdRpは、RNAウイルスの複製過程を担う重要な酵素であるため、これを標的とするCOVID-19治療薬の開発が求められている。コロナウイルスのRdRp阻害剤の開発には、(-)鎖gRNAの転写開始点であり特異な構造を形成するウイルスゲノムの3′末端の二次構造の詳細を実験的に明らかにし、それをin vitroで再構築する必要がある。
【0006】
よって、本発明の課題は、コロナウイルスのRdRpまたはプライマーゼが結合する二次構造を形成する塩基配列を含むRNAを提供すること、およびこのRNAを用いたコロナウイルス感染症の治療剤または予防剤のスクリーニング方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、SARS-CoV-2の3′UTRの塩基配列を基にRNAコンストラクトを設計作成し、3′UTRの3′PKと呼ばれている部分がステムループ構造とシュードノット構造を相互に排他的にとることをNMRにより初めて原子レベルで証明した。P1pkとP2領域によるシュードノット形成に伴い、ステムループ構造から抜け出し、3′末端の配列を含むP5ステムが開口することを明らかにした。ゲルシフトアッセイにより、nsp7とnsp8の1対1混合物は、ステムループとシュードノットの両方のコンフォメーションと約2μMの見かけの親和性で相互作用することが明らかになった。NMR解析の結果、nsp7とnsp8の相互作用はステムループ構造においてはP5ステムを不安定化させ、シュードノット型は変化させないことがわかった。これらの結果は、シュードノットとnsp7-nsp8複合体の相互作用により、ウイルスgRNAの3′末端がRNA合成に適した一本鎖RNAに変換されることを示唆しており、シュードノットが抗ウイルス薬開発の有用な標的であることを示している。本発明はこの知見に基づくものである。
【0008】
本発明によれば以下の発明が提供される。
[1] 配列番号22に記載の塩基配列、または配列番号22に記載の塩基配列と少なくとも90%の塩基配列同一性を有し且つシュードノット構造を形成する塩基配列を含む、RNA。
[2] 配列番号21に記載の塩基配列、または配列番号21に記載の塩基配列と少なくとも90%の塩基配列同一性を有し且つ3つのステム構造を形成する塩基配列を含む、RNA。
[3] 配列番号20に記載の塩基配列、または配列番号20に記載の塩基配列と少なくとも90%の塩基配列同一性を有し且つシュードノット構造を形成する塩基配列を含む、RNA。
[4] 配列番号19に記載の塩基配列、または配列番号19に記載の塩基配列と少なくとも90%の塩基配列同一性を有し且つ2つのステム構造を形成する塩基配列を含む、RNA。
[5] シュードノット構造に加えて、1つのステムループ構造を形成する、[1]に記載のRNA。
[6] [1]に記載のRNA、並びに[2]から[4]のいずれか一に記載のRNAから選択される1種、2種、または3種のRNAを含む、セット。
[7] [1]に記載のRNAとプライマーゼ/RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)との結合を検出するアッセイを使用して、プライマーゼ/RdRpのRNAへの結合を阻害する化合物を同定する工程を含む、コロナウイルス感染症の治療剤または予防剤のスクリーニング方法。
[8] 核磁気共鳴(NMR)分析により、[1]に記載のRNAについて化合物の結合部位を解析する工程をさらに含む、[7]に記載のスクリーニング方法。
[9] 同定された化合物の存在下で、[2]から[4]のいずれか一に記載のRNAとプライマーゼ/RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)との結合を分析する工程をさらに含む、[7]に記載のスクリーニング方法。
[10] コロナウイルスがアルファコロナウイルス属またはベータコロナウイルス属のウイルスである、[7]に記載のスクリーニング方法。
[11] コロナウイルスがSARS-CoV-2である、[7]に記載のスクリーニング方法。
[12] [1]から[4]のいずれか一に記載のRNAをコードするDNA。
[13] [1]から[4]のいずれか一に記載のRNAについてNMR解析により二次構造の形成を測定する方法。
[14] プライマーゼまたはRdRpのRNAにおける結合部位を特定するための、[13]に記載の測定方法。
[15] [1]から[4]のいずれか一にRNAをアッセイ溶液中で維持することを含む、シュードノット構造またはステムループ構造の形成方法であって、アッセイ溶液のカリウムイオン濃度がナトリウムイオン濃度よりも高い、方法。
[16] [1]から[4]のいずれか一に記載のRNAの少なくとも一部分に結合して、前記RNAとプライマーゼ/RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)との結合を阻害する、アンチセンスオリゴヌクレオチド。
[17] 下記(a)~(o)からなる群から選択される何れかの塩基配列(但し、ウラシルはチミンであってもよい)を含む、[16]に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド:
(a)GGGAAUAGCUUCUUAGGAGAAU(配列番号25)、
(b)AAUAGCUUCUUAGGAGAAU(配列番号27)、
(c)GAUUAAAGUUAAUUACGAGAAUU(配列番号28)、
(d)AAAGUCGAGAAUUCAUUCAUUCU(配列番号29)、
(e)UUGUGCUAUGUAGUUACGAGA(配列番号30)、
(f)UGUGAGAUUAAAGUUAACUACAUCUAC(配列番号31)、
(g)UUGUGCUAUGUAGUUA(配列番号32)、
(h)UGUGAGAUUAAAGUUAACUACA(配列番号33)、
(i)AUUCUCCUAAGAAGCUAUU(配列番号34)、
(j)UAUGUAGUUACGAGAAUUCAUUCU(配列番号35)、
(k)AAAGUCGAGAAUUCAUUCAUUCUGCACAAG(配列番号36)、
(l)AUCUACUUGUGCUAUGUAGUUACGAGAA(配列番号37)、
(m)UGUGAGAUUAAAGUUAACUACAUCUAU(配列番号38)、
(n)(a)~(m)の塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加塩基配列された塩基配列から成り、[1]から[4]のいずれか一に記載のRNAとRdRpとの結合を阻害することができる、塩基配列、および
(o)(a)~(m)のいずれか一の塩基配列と90%塩基配列同一性を有する配列を含み、[1]から[4]のいずれか一に記載のRNAとRdRpとの結合を阻害することができる、塩基配列。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】(A) SARS-CoV-2のゲノムRNAと二次構造の模式図。(B)3′PK領域の二次構造の模式図。BSL:バルジドステムループ、HVR:超可変領域、ONM:オクタヌクレオチドモチーフ、S2M:ステムループII様モチーフ、3′PK:BSLの一部とBSLとHVR構造の間のステムを含む領域。
図2】Zustら(非特許文献3)の提案に基づき、若干の修正を加えたコロナウイルスの仮想的なゲノムRNA複製開始モデル。(A)3′PKにステムループ構造が形成される。(B)nsp7、nsp8、nsp9からなるプライマーゼがP5ステムに結合する。(C)プライマーゼは(-)鎖gRNAのプライマーを転写する。(D)プライマーがgRNAの3′末端にプライミングされ、P5ステムが対になっていないため、シュードノット構造が形成される。(E)Nsp12がシュードノット構造とnsp7-nsp8-nsp9複合体に結合し、(-)鎖gRNAを伸長させる。
図3】(A)SL、(B)PK、(C)SLP4、(D)PKP4の3′PK断片の2D NOESYスペクトルのイミノプロトン領域と、NMRに基づく対応する二次構造との比較。図では簡略化のため、塩基番号の最初の2桁(29XXX)は省略した。塗りつぶした丸で示したNOEはG639-UおそらくU637またはU650である。アスタリスクで示したクロスピークはU665とU846イミノプロトン間の塩基対内NOEである。U845-★はU845とU665またはU846間のNOE、U847-★はU847とU665またはU846間のNOE。
図4】nsp7およびnsp8との結合について試験した4つのRNA断片(SL、PK、SLP4、PKP4)のゲル画像。一番下の矢印(ウエルから最も離れたもの)で示したバンドは構造を形成したRNA、下から二番目の矢印で示したバンドは構造を形成していない(直鎖状)RNAに対応し、上から二番目と一番目の矢印で示したバンドはそれぞれタンパク質と結合したRNA、タンパク質と結合したRNAの別のコンフォーマーに対応する。RNA断片は、nsp8またはnsp7-nsp8混合物の添加により、バンドがシフトすることがわかった。
図5】RNAとnsp7-nsp8混合物の複合体形成による構造変化。(A)PKP4,nsp7,nsp8の1:2:2混合物,(B)SLP4,nsp7,nsp8の1:1:1混合物,(C)nsp7とnsp8の1:1混合物,(D)PKP4,および(E)SLP4の1D H NMRスペクトルのイミノプロトン領域。星印で示したタンパク質によるシグナルは、PKP4-nsp7-nsp8混合物でのみ観察された。
図6-1】nsp7-nsp8混合物の結合によるSLP4とPKP4の構造変化。H-H 2D NOESY スペクトルのイミノプロトン領域(A)SLP4,(B)PKP4,(C)SLP4,nsp7,nsp8の1:1:1混合物および(D)PKP4,nsp7,nsp8の1:2:2混合物。
図6-2】nsp7-nsp8混合物の結合によるSLP4とPKP4の構造変化。(E)nsp7-nsp8とSLP4の結合の模式図。SLP4に存在するP5ステム領域の解離は、塩基対内NOEシグナルの欠如によって確認された。(F)nsp7-nsp8と結合したPKP4の二次構造の模式図。nsp7-nsp8との結合による化学シフトの変化Δδを示す。
図7】コロナウイルスの改変(-)鎖ゲノムRNA複製開始仮説モデル。本発明者らにより提案されるモデルである。(A)3′PKにステムループ構造が形成される。(B)nsp7-nsp8複合体(図中ではPrimaseと記載)がステムループ構造に結合するか、(C)シュードノット構造に直接結合し、P5が一本鎖に変換される。(D)プライマーゼによりRNAプライマーが合成される。(E)Nsp12がシュードノット構造およびプライマーゼに結合し、(-)鎖gRNAを伸長させる。
図8】P1の2D NOESYスペクトルのイミノプロトン領域と、NMRに基づく対応する二次構造との比較。図では簡略化のため、塩基番号の最初の2桁(29XXX)は省略した。
図9】P2の2D NOESYスペクトルのイミノプロトン領域と、NMRに基づく対応する二次構造との比較。図では簡略化のため、塩基番号の最初の2桁(29XXX)は省略した。
図10】(A)SL,(B)SLL,(C)SLP4のイミノプロトン領域。(D)SL(E)SLL,(F)SLP4のNMRによる二次構造の模式図。SLLとSLP4のU29655とU29656(P2ステムに含まれる)に起因するシグナルは、SLに対して著しく低い強度を示した。
図11】(A)PK、SL、SLP4、PKP4のゲルシフトアッセイ。下から(移動度の早い)順に矢印で、タンパク質と結合していないが構造を形成しているRNA、タンパク質と結合していない直鎖状RNA、RNA-nsp7-nsp8複合体を示した。(B)各RNA断片のHill-Langmuirプロット。PKのKdは5.1μM、SLは5.5μM、PKP4は2.5μM、SLP4は2.3μMであった。パラメータθ=1-([タンパク質と結合していないRNA]/[RNA総量]),[タンパク質と結合していないRNA]/[RNA総量]はタンパク質とRNAを混合したサンプルの各タンパク質と結合していないが構造を形成しているRNA のバンドとRNAのみの構造を形成しているRNAのバンドの体積比から求めた。P4とL4/5を持つ断片は、他の断片よりも親和性が高いことがわかった。また、全ての断片がn>1を示し、nsp7-nsp8が正の協同性を示すことが示された。
図12】(A)nsp7-nsp8、(B)PKP4-nsp7-nsp8混合物、(C)SLP4-nsp7-nsp8混合物のH-H 2D NOESYスペクトルのタンパク質アミドプロトン領域。PKP4やSLP4の添加により、RNA-タンパク質複合体による新たなNOEシグナルが多数観測された。RNA-タンパク質複合体のNOEパターンは、結合するRNAの構造によって部分的に異なることがわかった。
図13】実施例4のアンチセンスRNAを用いた実験の電気泳動のゲル写真である。
図14】実施例5のアンチセンスRNAを用いた実験の電気泳動のゲル写真である。
図15】アンチセンスRNA#2(配列番号28)、#3(配列番号29)、#4(配列番号30)および#5(配列番号31)のSLP4およびPKP4への結合位置を示す概要図である。
図16】アンチセンスRNA#8(配列番号34)、#9(配列番号35)、#10(配列番号36)および#11(配列番号37)のSLP4およびPKP4への結合位置を示す概要図である。
図17】実施例6のアンチセンスRNAを用いた実験の電気泳動のゲル写真である。
図18】実施例6における、結合していないRNAのバンドボリューム比を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に記載する本発明の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0011】
本明細書で使用する略語の説明
DNA:デオキシリボ核酸
DTT:ジチオトレイトール
RdRp:RNA依存性RNAポリメラーゼ
3′PK:3′UTRのシュードノット領域
gRNA:ゲノムRNA
NMR:核磁気共鳴
NOE:核オーバーハウザー効果
nsp:非構造タンパク質
nt:ヌクレオチド
PK:シュードノット
RNA:リボ核酸
sgRNA:サブゲノムRNA
UTR:非翻訳領域
【0012】
本明細書において、核酸は、5′末端から3′末端に示される。
本明細書において、RNAにおける塩基位置は、SARS-CoV-2分離株Wuhan-Hu-1の全ゲノム(NCBI accession code NC_045512.2、配列番号26)を基準として、(+)鎖の5′末端から数えた位置を指す。
【0013】
本明細書において、「RNAを示す4種類の文字のうち一つ(A,G,CまたはU)+数字」の記載は、SARS-CoV-2分離株Wuhan-Hu-1株の全長ゲノム配列(配列番号26)の5′末端からの位置の塩基を示す。例えば「U29609」は、Wuhan-Hu-1株の全長ゲノム配列の5′末端から29609番目の位置のU(ウラシル)を指す。図中では、塩基位置を表す数字の最初の2桁(29XXX)を省略した。
【0014】
本明細書において、「上流」とは、所与の位置よりも(+)鎖の5′末端(または(-)鎖の3′末端)に近い位置を指す。「下流」とは、所与の位置よりも(+)鎖の3′末端(または(-)鎖の5′末端)に近い位置を指す。
【0015】
本明細書において、3′PK領域は、SARS-CoV-2分離株Wuhan-Hu-1のゲノムRNAの塩基位置29610から29656の範囲である。
シュードノット(pseudoknot)構造は、少なくとも2つのステムループ構造を含む核酸の二次構造で、一方のステムの片側を形成する部分塩基配列が他方のステムを形成する部分塩基配列の間に位置している。
本明細書において、P1、P1pk、P2、P4およびP5は、ステムループ構造のステム部分を指す。P1ステムがシュードノットに含まれる場合はP1pkと記載する。
【0016】
本明細書において、配列同一性は、比較する2本の塩基配列を整列させ、最大のパーセント配列同一性を得るために必要ならばギャップを導入した後、2本の塩基配列間で同一である塩基のパーセントとして定義される。塩基配列同一性は、例えばBLAST、BLAST-2、ALIGN、またはMegalign(DNASTAR)ソフトウェアのような公に入手可能なコンピュータソフトウェアを使用することにより決定することができる。DNAとRNAと配列解析では、RNAのUをTに変換してアライメントをすることができる。
【0017】
本明細書中の「1もしくは数個の塩基が置換、挿入、欠失および/または付加された塩基配列」における「1から数個」の範囲は特には限定されないが、例えば、1から20個、好ましくは1から10個、より好ましくは1から7個、さらに好ましくは1から5個、特に好ましくは1から3個程度を意味する。
【0018】
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を引き起こすSARS-CoV-2ウイルスのゲノムは約30kntの長さであり、ゲノムの5′末端と3′末端にはそれぞれ約250ntと約340ntの非翻訳領域(UTR)が存在する(図1)(文献1、文献リストは本明細書の末尾に示す。以下同じ)。ウイルスゲノムおよびサブゲノムRNAの転写機構については、いくつかの仮説が提唱されている(文献2および3)。いずれにしろ、SARS-CoV-2ウイルスの(+)鎖ゲノムRNAの3′末端から(-)鎖ゲノムRNAとサブゲノムRNAが転写される。3′UTRは非コードRNAであり、ウイルスゲノムRNAの翻訳や転写に不可欠な役割を果たすことが知られている(文献4および5)。3′UTRには、バルジドステムループ(BSL、図1B)と呼ばれる1つのステムループと、超可変領域(HVR、図1B)、オクタヌクレオチドモチーフ(ONM、図1B)、ステムループII様モチーフ(S2M、図1B)などの大きく分岐したステムループを含む領域がある。BSLの一部とBSLとHVR構造の間のステムを含む領域(3′PK、図1B)は、シュードノット構造を形成していると提案されている(文献6)。この領域は、ウイルスゲノムの複製を制御する重要な役割を果たすと広く信じられている(文献5、6、7)。SARS関連コロナウイルス(SARSr-CoV)の間で高度に保存されている(文献9および10)。
【0019】
ゲノム5′末端のオープンリーディングフレーム(ORF)1abにコードされる非構造タンパク質(nsp)7~16は、ウイルスゲノムの複製に主要な役割を果たす。ゲノムRNAは、nsp12とも呼ばれるRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)と補因子タンパク質nsp7およびnsp8からなる複製転写複合体(nsp7-nsp8-nsp12)により転写され、ゲノムRNAは複製される(文献11-14)。nsp8もRNAポリメラーゼ活性を持つことが示唆されている(文献15)。nsp7-nsp8複合体がプライマーゼとして働くことが示唆されている(文献16)。また、RdRpはnsp9やnsp13などの他のアクセサリータンパク質と結合する(文献17および18)。Nsp9は二量体を形成してnsp8と結合し、一本鎖RNAと非特異的に結合している(文献19-23)。最近、nsp9はnsp12と複合体となってRNAのキャッピングを仲介することが明らかにされた(文献17)。Nsp13は2量体を形成し、ヘリカーゼとして働き、nsp8およびnsp12と結合する(文献18)。
【0020】
Zustらが提唱した(-)鎖gRNAの転写開始のモデルとして広く採用されているものは、以下のように記述されている(文献5)(図2)。まず、nsp7、nsp8とnsp9からなるプライマーゼ複合体が3′PKのステムループ構造に結合し、低分子RNAプライマーを転写する。次に、3′PKはこの構造をシュードノット型に変換する。そして、シュードノット構造が形成されると、nsp12がプライマーゼ-3′PK複合体中のシュードノット構造のRNAに結合し、ウイルスgRNAの転写を開始することが提案されている。3′PK領域のシュードノット塩基対の変異は、ウイルスの複製に致死的であった(文献4および24)。SHAPE-MaPseqおよびDMS-MaPseqによるin vivoおよびin virion(細胞外においてウイルスが粒子構造をとった状態)の全ゲノムまたは部分ゲノムRNA解析により、3′UTRの二次構造が明らかになった(文献8,25-29)。これらの報告は、3′PK領域の二次構造がステムループであることを示唆しているが、シュードノット構造の形成を支持する証拠はほとんどない(文献8,25-29)。サーマルアンフォールディングプロファイリング実験とSPLASYアッセイにより、マウス肝炎ウイルス(MHV)とSARS-CoV-2では3′PKにおけるシュードノット構造の形成がわずかに安定であることが間接的に示唆された(文献30および31)。さらに、最近のNMRによる二次構造の研究では、3′PK領域にはシュードノットではなくステムループが存在することが報告されている(文献32)。このように、従来、シュードノット構造の実験的な検出は困難であった。
【0021】
一方、本明細書において、本発明者らは実験からウイルスgRNAの転写開始に関与するタンパク質が3′PK領域に結合する時にシュードノット構造を形成することを示した。従来シュードノット構造の検出が困難であったのは、シュードノット構造の形成が転写開始時のみということが理由の一つであったと考えられる。本発明者らは、3′PKがシュードノットとステムループの両方の二次構造を形成できることを、一方の構造を安定化するように設計したRNAコンストラクトのNMR分光測定によって初めて実験的に証明した。2つの二次構造の比較から、3′末端の配列を含むP5ステムはステムループ構造でのみ形成され、シュードノット構造では形成されないことが示された。一方、P2ステムはどちらの構造にも存在し、2つの構造の間にはわずかな違いしか見られなかった。このように、ステムループ構造からシュードノット構造への構造転換により、プライマーゼは3′末端(+)鎖一本鎖配列を転写することができることが示された。さらに、ステムループ型とシュードノット型とnsp7-nsp8プライマーゼとの原子レベルでの相互作用と、その結果生じるプライマーゼと結合していない状態からプライマーゼ結合状態への構造変化についても検討した。nsp7とnsp8の1:1混合タンパク質は、ステムループとシュードノット構造の両方と相互作用した。ステムループ構造のイミノプロトン信号解析の結果、P5ステムはnsp7とnsp8の結合により不安定化することがわかった。一方、シュードノットRNAはnsp7とnsp8の結合後もその二次構造をほぼ維持していた。このことから、ステムループ構造の3′PKにnsp7-nsp8複合体が結合することで、gRNAの3′末端が一本鎖RNAに変化していることが示唆された。また、nsp7とnsp8の主鎖アミドプロトンのNMR信号は、タンパク質-SLP4混合物中の信号と同じ化学シフトを示したが、いくつかの信号はRNA構造がステムループかシュードノットかによって顕著に異なる化学シフトを示した。これらの結果は、nsp7-nsp8混合タンパク質のRNAへの結合様式が、RNAの構造に一部依存していることを示唆するものであった。
【0022】
これらの結果は、SARS-CoV-2ウイルスのゲノム複製の初期過程における仮説的モデルに強い実験的根拠を与えるものである。プライマーゼ複合体の主要構成要素であるnsp7とnsp8が結合することで、ウイルスgRNAの3′末端に配置されたステムループ構造のP5ステムが一本鎖に誘導された。また、nsp7-nsp8がRNAプライマーの合成開始前でも、シュードノット構造が形成される可能性が示され、RNA複製の初期過程における既存の機構モデルの経路が変化する可能性が示された。
【0023】
1)PKP4
本発明は、「PKP4」と名付けた、以下のRNAに関する。
配列番号22に記載の塩基配列、または配列番号22に記載の塩基配列と少なくとも90%の塩基配列同一性を有し且つシュードノット構造を形成する塩基配列を含む、RNA。

CUUGUGCAGAAUGAAUUCUCGUAACUACAUAGCACAAGUAGAUGUAGUUAACUUUAAUCUCACAGCAAUGUGAUUUUAAUAGCUUCUUAGGAGAAU (配列番号22)

配列番号22に示す塩基配列を有する設計された「PKP4」は、Wuhan-Hu-1株の全長ゲノム配列の位置29608から29671に対応するRNA断片、および位置29840から29867に対応するRNA断片をGCAAリンカーで連結したRNAコンストラクトである。「PKP4」は、3′UTRに由来する複数の部分を連結したRNAコンストラクトであり、天然に存在しない。GCAAリンカーは安定的にループを形成する。
【0024】
配列番号22に記載の塩基配列の5′末端から1番目から61番目の塩基の部分が、Wuhan-Hu-1株の全長ゲノム配列の位置29608から29670に対応し、配列番号22に記載の塩基配列の5′末端から69番目から96番目の塩基の部分が、Wuhan-Hu-1株の全長ゲノム配列の位置29840から29867に対応する。
【0025】
「PKP4」は、P1pkステム構造(Wuhan-Hu-1株の全長ゲノム配列の位置29610から29614部分および位置29643から29639部分が形成する塩基対を少なくとも含む)、
P2ステム構造(Wuhan-Hu-1株の全長ゲノム配列の位置29630から29635部分および位置29651から29656部分が形成する塩基対を少なくとも含む)、および
P4ステム構造(Wuhan-Hu-1株の全長ゲノム配列の位置29663から29670部分および位置29841から29848部分が形成する塩基対を少なくとも含む)を形成することができる。
【0026】
PKP4は、シュードノット構造を形成することができる。シュードノット構造は、P1pkステム構造とP2ステム構造を含む。PKP4は、シュードノット構造に含まれるステム構造のほかに、1つのステムループ構造(P4)を形成することができる。PKP4はP5ステム構造(Wuhan-Hu-1株の全長ゲノム配列の位置29623から29626部分および29863から29866部分が形成する塩基対を少なくとも含む)を形成しない。PKP4は、nsp8、またはnsp7-nsp8混合物と複合体を形成することができる。一態様では、PKP4は、nsp8、またはnsp7-nsp8混合物と複合体を形成することができ、それによりシュードノット構造が形成され得る。別の態様では、PKP4は、シュードノット構造が形成することができ、そのシュードノット構造にnsp8、またはnsp7-nsp8混合物が結合することができる。一方で、PKP4は、nsp8、またはnsp7-nsp8混合物が十分に存在する場合に、P5ステム構造(Wuhan-Hu-1株の全長ゲノム配列の位置29623から29626部分および29863から29866部分が形成する塩基対を少なくとも含む)を形成しない。
【0027】
本発明の一実施態様において、プライマーゼおよび/またはRdRPが、PKP4において、シュードノット構造の少なくとも一部に結合する。本発明の一実施態様において、プライマーゼおよび/またはRdRPが、PKP4において、位置A29850からC29854に対応する領域(配列番号22に記載の塩基配列の5′末端から79番目から83番目の塩基の部分)の少なくとも一部に結合する。本発明の一実施態様において、プライマーゼおよび/またはRdRPが、PKP4において、P4ステムの少なくとも一部に結合する。本発明の一実施態様において、プライマーゼおよび/またはRdRPが、PKP4において、シュードノット構造の少なくとも一部、位置A29850からC29854に対応する領域(配列番号22に記載の塩基配列の5′末端から79番目から83番目の塩基の部分)の少なくとも一部および/またはP4ステムの少なくとも一部に結合する。本発明の一実施態様において、プライマーゼおよび/またはRdRPが、PKP4において、シュードノット構造の少なくとも一部、位置A29850からC29854に対応する領域(配列番号22に記載の塩基配列の5′末端から79番目から83番目の塩基の部分)の少なくとも一部および/またはP4ステムの少なくとも一部に結合し、かつP5ステム構造が形成されない。
【0028】
PKP4のシュードノット構造を含む二次構造、およびPKP4とタンパク質(nsp8、またはnsp7-nsp8混合物)の相互作用は、NMR法、ゲルシフトアッセイ、ALPHA screen、質量分析法、Biacore、等温滴定型カロリメトリー、等により測定することができる。RNAの二次構造分析やRNAとタンパク質の相互作用分析に用いるアッセイ溶液は、塩、緩衝液、RNAase阻害剤を含み得るがこれらに限定されない。RNAの二次構造測定や、RNAとタンパク質の相互作用の測定は、nsp8またはnsp7-nsp8混合物の存在下で実施することができる。RNAとnsp8は、1:1または1:2以上のモル比で混合することができる。RNAとnsp7-nsp8混合物は、1:1または1:2以上のモル比で混合することができ、ここでnsp7-nsp8混合物はnsp7とnsp8の等モル混合物であることができる。
【0029】
本発明の特定の実施態様では、RNAの二次構造分析やRNAとタンパク質の相互作用分析は、nsp8、またはnsp7-nsp8混合物に加えて、nsp12(RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp))の存在下で実施することができ、さらにnsp9やnsp13を加えることができる。
【0030】
アッセイ溶液のイオン強度は細胞内(細胞質)のイオン環境に基づいて設定することができる。細胞内液のカリウムイオン濃度は約140mM、ナトリウムイオン濃度は約10mMであり、カリウムイオン濃度がナトリウムイオン濃度よりも高い。本発明のアッセイ溶液中のカリウムイオンの塩濃度を90~190mMの範囲、100~180mMの範囲、110~170mMの範囲、または120~60mMの範囲とし、ナトリウムイオンの塩濃度を1~50mMの範囲、3~30の範囲、または5~20mMのとすることができる。アッセイ溶液は、マグネシウムイオンを更に含むことができる。マグネシウムイオンの塩濃度は、0.1mM~5mMの範囲、0.1mM~3mMの範囲、または0.1mM~1mMの範囲であることができる。アッセイ溶液のpHは5.5~9の範囲で設定することができる。
【0031】
本発明は、配列番号22に記載の塩基配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の塩基配列同一性を有し且つシュードノット構造を形成する塩基配列を含むRNAに関する。さらに本発明は、配列番号22に記載の塩基配列において1もしくは数個の塩基が置換、挿入、欠失および/または付加された塩基配列を有し且つシュードノット構造を形成する塩基配列を含むRNAに関する。配列番号22に記載の塩基配列において許容される変異(置換、挿入、欠失および/または付加)は、配列番号22の塩基配列を含むRNA「PKP4」が形成する2次構造(シュードノットを含む構造)を壊さないものである。本発明の一実施形態では、シュードノット構造が形成されることは、nsp8またはnsp7-nsp8混合物の存在下、上記アッセイ溶液中でNMR法により測定することができる。
【0032】
「PKP4」は、配列番号22に記載の塩基配列の5′末端または3′末端に、RNAコンストラクト解析用、合成用等のヌクレオチドを付加することができる。付加されるヌクレオチドは、10nt以下、9nt以下、8nt以下、7nt以下、6nt以下、5nt以下、4nt以下、3nt以下、2nt以下、または1ntである。本発明の一実施態様において、「PKP4」は、配列番号22に記載の塩基配列の5′末端に、RNAコンストラクトの製造の際に追加される1~3個のGを含むことができる。
【0033】
本発明の一実施態様では、「PKP4」の5′末端は、Wuhan-Hu-1株の全長ゲノム配列の位置29608より上流の配列に対応するヌクレオチドを含むことができる。例えば、「PKP4」は、配列番号22に記載の塩基配列の5′末端に、Wuhan-Hu-1株の全長ゲノム配列の位置29607から上流の位置29587に連続して対応する長さ1~10ntのヌクレオチドをさらに含むことができる。
【0034】
本発明の上記RNAは、限定されないが、特にループ構造を形成する部分、およびステム構造を形成しない部分の塩基配列に変異、すなわち置換、挿入、欠失および/または付加を有することができる。ただし、変異はシュードノット構造の形成を阻害するものではない。例えば、上記RNAは、配列番号22に記載の塩基配列の5′末端からの位置1、位置2、位置8から位置22、位置29から位置31、位置37から位置43、位置50から位置55、位置64から位置69、位置78から位置96の塩基に変異を有することができる。さらに、本発明の一態様では、ステム構造を形成する部分に変異があってよい。ステム構造を形成する部分に存在する変異は、塩基対を形成する相手塩基とともに対で生じることができ、変異の結果、C-G、A-U、またはU-G塩基対のいずれかを生じ得る。例えば、Wuhan-Hu-1株のC29635-G29651の塩基対は、SARS-CoV-2の一部の変異株およびベータコロナウイルス属の他種では、U29635-A29651、A29635-U29651、またはU29635-G29651の塩基対に変化することが報告されている(文献44)。同様に、Wuhan-Hu-1株のU29637-A29649は、SARS-CoV-2の一部の変異株あるいは他のベータコロナウイルス属の他種では、C29637-U29649、C29637-G29649の塩基対に変化することが報告されている。さらに、Wuhan-Hu-1株のA29631―U29655は、SARS-CoV-2の一部の変異株およびベータコロナウイルス属の他種では、A29631―U29655の塩基対に変化することが報告されている。よって、「PKP4」RNAもこれらに相当する変異を有することができると考えられる。例えば、「PKP4」RNAは、配列番号22に記載の塩基配列の5′末端から数えた位置3から7、22から30、32から36、42から50、56から63、70から77に変異を有することができ、特に変異は以下の塩基対を形成する相手塩基とともに対で生じ得る:位置3と36、位置4と35、位置5と34、位置6と33、位置7と32;位置22と50、位置23と49、位置24と48、位置25と47、位置26と46、位置27と45、位置28と44、位置29と43、位置30と42;位置56と77、位置57と76、位置58と75、位置59と74、位置60と73、位置61と72、位置62と71、位置63と70。
【0035】
本発明の一実施態様では、配列番号22に記載の塩基配列、または配列番号22に記載の塩基配列と少なくとも90%の塩基配列同一性を有し且つシュードノット構造を形成する塩基配列を含む、RNAは、プライマーゼおよび/またはRdRpの前記RNAへの結合を阻害する化合物を同定する方法、および/またはコロナウイルス感染症の治療剤または予防剤をスクリーニングする方法に用いることができる。
【0036】
2)SLP4
本発明は、「SLP4」と名付けた、以下のRNAに関する。
配列番号21に記載の塩基配列、または配列番号21に記載の塩基配列と少なくとも90%の塩基配列同一性を有し且つ3つのステム構造を形成する塩基配列を含む、RNA。

AUUCUCGUAACUACAUAGCACAAGUAGAUGUAGUUAACUUUAAUCUCACAGCAAUGUGAUUUUAAUAGCUUCUUAGGAGAAU (配列番号21)
【0037】
配列番号21に示す塩基配列を有する設計されたRNAの「SLP4」は、Wuhan-Hu-1株の全長ゲノム配列の位置29622から29671に対応するRNA断片、および位置29840から29867に対応するRNA断片を含む、RNAコンストラクトである。「SLP4」は、3′UTRに由来する複数の部分を連結したRNAコンストラクトであり、天然に存在しない。
【0038】
配列番号21に記載の塩基配列の5′末端から数えて1番目から50番目の塩基の部分が、Wuhan-Hu-1株の全長ゲノム配列の位置29622から29671に対応し、配列番号21に記載の塩基配列の5′末端から55番目から82番目の塩基の部分が、Wuhan-Hu-1株の全長ゲノム配列の位置29840から29867に対応する。
【0039】
「SLP4」は、P2ステム構造(Wuhan-Hu-1株の全長ゲノム配列の位置29630から29635部分および29651から29656部分が形成する塩基対)、
P4ステム構造(Wuhan-Hu-1株の全長ゲノム配列の位置29663から29670部分および29841から29848部分が形成する塩基対を少なくとも含む)、および
P5ステム構造(Wuhan-Hu-1株の全長ゲノム配列の位置29623から29626部分および29863から29866部分が形成する塩基対を少なくとも含む)を形成することができる。
【0040】
SLP4は、nsp8、またはnsp7-nsp8混合物と複合体を形成することができる。SLP4の二次構造や、SLP4とnsp7-nsp8混合物との相互作用は、NMR法、ゲルシフトアッセイ等により測定することができる。RNAとタンパク質の相互作用分析に用いるアッセイ溶液は、塩、緩衝液、RNAase阻害剤を含み得るがこれらに限定されない。
【0041】
本発明は、配列番号21に記載の塩基配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の塩基配列同一性を有し且つ3つのステム構造を形成する塩基配列を含むRNAに関する。さらに本発明は、配列番号21に記載の塩基配列において1もしくは数個の塩基が置換、挿入、欠失および/または付加された塩基配列を有し且つ3つのステム構造を形成す塩基配列を含むRNAに関する。配列番号21に記載の塩基配列において許容される変異(置換、挿入、欠失および/または付加)は、配列番号21の塩基配列を含むRNA「SLP4」が形成する2次構造(P2、P4およびP5を含む構造)を壊さないものである。本発明の一実施形態では、P2、P4およびP5を含む構造が形成されることは、nsp8またはnsp7-nsp8混合物の存在下、上記アッセイ溶液中でNMR法により測定することができる。
【0042】
「SLP4」は、配列番号21に記載の塩基配列の5′末端または3′末端に、RNAコンストラクト解析用、合成用等のヌクレオチドを付加することができる。付加されるヌクレオチドは、10nt以下、9nt以下、8nt以下、7nt以下、6nt以下、5nt以下、4nt以下、3nt以下、2nt以下、または1ntである。本発明の一実施態様において、「SLP4」は、配列番号21に記載の塩基配列の5′末端に、RNAコンストラクトの製造の際に追加される1~3個のGを含むことができる。
【0043】
本発明の上記RNAは、限定されないが、特にループ構造を形成する部分、およびステム構造を形成しない部分の塩基配列に変異、すなわち置換、挿入、欠失および/または付加を有することができる。ただし、変異はP2、P4およびP5を含む構造の形成を阻害するものではない。例えば、上記RNAは、配列番号21に記載の塩基配列の5′末端から位置1、位置16から28、位置37から41、位置50から55、位置64から77、位置82の塩基に変異を有することができる。さらに、本発明の一態様では、ステム構造を形成する部分に変異があってよい。ステム構造を形成する部分に存在する変異は、塩基対を形成する相手塩基とともに対で生じ得ることができ、変異の結果C-G、A-U、またはU-G塩基対のいずれかを生じ得る。例えば、上記RNAは、配列番号21に記載の塩基配列の5′末端から数えた位置2から5、位置11から14、位置30から33、位置42から49、位置56から63、位置78から81に変異を有することができ、特に変異は以下の塩基対を形成する相手塩基とともに対で生じ得る:位置3と80、位置4と79、位置5と78;位置11と33、位置12と32、位置13と31、位置14と30;位置42と63、位置43と62、位置44と61、位置45と60、位置46と59、位置47と58、位置48と57、位置49と56。
【0044】
本発明の一実施態様では、配列番号21に記載の塩基配列、または配列番号21に記載の塩基配列と少なくとも90%の塩基配列同一性を有し且つ3つのステム構造を形成する塩基配列を含む、RNAは、プライマーゼおよび/またはRdRpの前記RNAへの結合を阻害する化合物を同定する方法、および/またはコロナウイルス感染症の治療剤または予防剤をスクリーニングする方法に用いることができる。
【0045】
3)PK
本発明は、「PK」と名付けた、以下のRNAに関する。
配列番号20に記載の塩基配列、または配列番号20に記載の塩基配列と少なくとも90%の塩基配列同一性を有し且つシュードノット構造を形成する塩基配列を含む、RNA。

UCUUGUGCAGAAUGAAUUCUCGUAACUACAUAGCACAAGUAGAUGUAGUUA (配列番号20)

配列番号20に示す塩基配列を有する設計されたRNAの「PK」は、Wuhan-Hu-1株の全長ゲノム配列の位置29607から29657に対応するRNA断片を含む。
【0046】
配列番号20に記載の塩基配列の5′末端から1番目から51番目の塩基の部分が、Wuhan-Hu-1株の全長ゲノム配列の位置29607から29657に対応する。本発明の一実施態様において、「PK」は、配列番号20に記載の塩基配列の5′末端に、RNA合成の際に追加される1~3個のG(例えば、GGG)を含むことができる。
【0047】
「PK」は、P1pkステム構造(Wuhan-Hu-1株の全長ゲノム配列の位置29610から29614部分および29643から29639部分が形成する塩基対を少なくとも含む)、
P2ステム構造(Wuhan-Hu-1株の全長ゲノム配列の位置29630から29635部分および29651から29656部分が形成する塩基対を少なくとも含む)を形成することができる。
【0048】
PKは、シュードノット構造を形成することができる。シュードノット構造は、P1pkステム構造とP2ステム構造を含む。PKは、nsp8、またはnsp7-nsp8混合物と複合体を形成することができる。一態様では、PKは、nsp8、またはnsp7-nsp8混合物と複合体を形成することができ、それによりシュードノット構造が形成され得る。別の態様では、PKP4は、シュードノット構造が形成することができ、そのシュードノット構造にnsp8、またはnsp7-nsp8混合物が結合することができる。
【0049】
本発明は、配列番号20に記載の塩基配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の塩基配列同一性を有し且つシュードノット構造を形成する塩基配列を含むRNAに関する。さらに本発明は、配列番号20に記載の塩基配列において1もしくは数個の塩基が置換、挿入、欠失および/または付加された塩基配列を有し且つシュードノット構造を形成する塩基配列を含むRNAに関する。配列番号20に記載の塩基配列において許容される変異(置換、挿入、欠失および/または付加)は、配列番号20の塩基配列を含むRNA「PK」が形成する2次構造(シュードノットを含む構造)を壊さないものである。本発明の一実施形態では、シュードノット構造が形成されることは、nsp8またはnsp7-nsp8混合物の存在下、上記アッセイ溶液中でNMR法により測定することができる。
【0050】
「PK」は、配列番号20に記載の塩基配列の5′末端または3′末端に、RNAコンストラクト解析用、合成用等のヌクレオチドを付加することができる。付加されるヌクレオチドは、10nt以下、9nt以下、8nt以下、7nt以下、6nt以下、5nt以下、4nt以下、3nt以下、2nt以下、または1ntである。本発明の一実施態様において、「PK」は、配列番号20に記載の塩基配列の5′末端に、RNAコンストラクトの製造の際に追加される1~3個のG(例えば、GGG)を含むことができる。
【0051】
本発明の一実施態様では、「PK」の5′末端は、Wuhan-Hu-1株の全長ゲノム配列の位置29607より上流の配列に対応するヌクレオチドを含むことができる。例えば、「PK」は、配列番号20に記載の塩基配列の5′末端に、Wuhan-Hu-1株の全長ゲノム配列の位置29606から上流の位置29586に連続して対応する長さ1~10ntのヌクレオチドをさらに含むことができる。
【0052】
本発明の一実施態様では、「PK」の3′末端は、Wuhan-Hu-1株の全長ゲノム配列の位置29657より下流の配列に対応するヌクレオチドを含むことができる。例えば、「PK」は、配列番号20に記載の塩基配列の3′末端に、Wuhan-Hu-1株の全長ゲノム配列の位置29658から上流の位置29667に連続して対応する長さ1~10ntのヌクレオチドをさらに含むことができる。
【0053】
本発明の上記RNAは、限定されないが、特にループ構造を形成する部分、およびステム構造を形成しない部分の塩基配列に変異、すなわち置換、挿入、欠失および/または付加を有することができる。ただし、変異はシュードノット構造の形成を阻害するものではない。例えば、上記RNAは、配列番号20に記載の塩基配列の5′末端からの位置1から3、位置9から位置22、位置32、位置38から位置44、の塩基に変異を有することができる。さらに、本発明の一態様では、ステム構造を形成する部分に変異があってよい。ステム構造を形成する部分に存在する変異は、塩基対を形成する相手塩基とともに対で生じ得ることができ、変異の結果C-G、A-U、またはU-G塩基対のいずれかを生じ得る。例えば、上記RNAは、配列番号20に記載の塩基配列の5′末端から数えた位置4から8、24から31、33から37、43から51に変異を有することができ、特に変異は以下の塩基対を形成する相手塩基とともに対で生じ得る:位置4と37、位置5と36、位置6と35、位置7と34、位置8と33;位置23と51、位置24と50、位置25と49、位置26と48、位置27と47、位置28と46、位置29と45、位置30と44、位置31と43。
【0054】
本発明の一実施態様では、配列番号20に記載の塩基配列、または配列番号20に記載の塩基配列と少なくとも90%の塩基配列同一性を有し且つシュードノット構造を形成する塩基配列を含む、RNAは、プライマーゼおよび/またはRdRpの前記RNAへの結合を阻害する化合物を同定する方法、および/またはコロナウイルス感染症の治療剤または予防剤をスクリーニングする方法に用いることができる。
【0055】
4)SL
本発明は、「SL」と名付けた、以下のRNAに関する。
配列番号19に記載の塩基配列、または配列番号19に記載の塩基配列と少なくとも90%の塩基配列同一性を有し且つ2つのステム構造を形成する塩基配列を含む、RNA。

AUUCUCGUAACUACAUAGCACAAGUAGAUGUAGUUACUUAGGAGAAU (配列番号19)

配列番号19に示す塩基配列を有する設計された「SL」は、Wuhan-Hu-1株の全長ゲノム配列の位置29622から29657に対応するRNA断片、および位置29857から29867に対応するRNA断片を含むRNAコンストラクトである。「SL」は、3′UTRに由来する複数の部分を連結したRNAコンストラクトであり、天然に存在しない。
【0056】
配列番号19に記載の塩基配列の5′末端から数えて1番目から36番目の塩基の部分が、Wuhan-Hu-1株の全長ゲノム配列の位置29622から29657に対応し、配列番号19に記載の塩基配列の5′末端から37番目から47番目の塩基の部分が、Wuhan-Hu-1株の全長ゲノム配列の位置29857から29867に対応する。
【0057】
「SL」は、P2ステム構造(Wuhan-Hu-1株の全長ゲノム配列の位置29630から29635部分および29651から29656部分が形成する塩基対を少なくとも含む)、および
P5ステム構造(Wuhan-Hu-1株の全長ゲノム配列の位置29623から29626部分および29863から29866部分が形成する塩基対を少なくとも含む)を形成することができる。
【0058】
SLは、nsp8、またはnsp7-nsp8混合物と複合体を形成することができる。SLの二次構造や、SLとnsp7-nsp8混合物との相互作用は、NMR法、ゲルシフトアッセイ等により測定することができる。RNAとタンパク質の相互作用分析に用いるアッセイ溶液は、塩、緩衝液、RNAase阻害剤を含み得るがこれらに限定されない。
【0059】
本発明は、配列番号19に記載の塩基配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の塩基配列同一性を有し且つ2つのステム構造を形成する塩基配列を含むRNAに関する。さらに本発明は、配列番号19に記載の塩基配列において1もしくは数個の塩基が置換、挿入、欠失および/または付加された塩基配列を有し且つ2つのステム構造を形成す塩基配列を含むRNAに関する。配列番号19に記載の塩基配列において許容される変異(置換、挿入、欠失および/または付加)は、配列番号19の塩基配列を含むRNA「SL」が形成する2次構造を壊さないものである。
【0060】
「SL」は、配列番号19に記載の塩基配列の5′末端または3′末端に、RNAコンストラクト解析用、合成用等のヌクレオチドを付加することができる。付加されるヌクレオチドは、10nt以下、9nt以下、8nt以下、7nt以下、6nt以下、5nt以下、4nt以下、3nt以下、2nt以下、または1ntである。本発明の一実施態様において、「SL」は、配列番号19に記載の塩基配列の5′末端に、RNAコンストラクトの製造の際に追加される1~3のGを含むことができる。
【0061】
本発明の上記RNAは、限定されないが、特にループ構造を形成する部分、およびステム構造を形成しない部分の塩基配列に変異、すなわち置換、挿入、欠失および/または付加を有することができる。例えば、上記RNAは、配列番号19に記載の塩基配列の5′末端から位置1、位置6から8、位置15から29、位置36から42、位置47の塩基に変異を有することができる。さらに、本発明の一態様では、ステム構造を形成する部分に変異があってよい。ステム構造を形成する部分に存在する変異は、塩基対を形成する相手塩基とともに対で生じ得ることができ、変異の結果C-G、A-U、またはU-G塩基対のいずれかを生じ得る。例えば、上記RNAは、配列番号19に記載の塩基配列の5′末端から数えた位置2から5、位置8から15、位置29から36、位置43から46に変異を有することができ、特に変異は以下の塩基対を形成する相手塩基とともに対で生じ得る:位置2と46、位置3と45、位置4と44、位置5と43;位置8と36、位置9と35、位置10と34、位置11と33、位置12と32、位置13と31、位置14と30、位置15と29。
【0062】
本発明の一実施態様では、配列番号19に記載の塩基配列、または配列番号19に記載の塩基配列と少なくとも90%の塩基配列同一性を有し且つ2つのステム構造を形成する塩基配列を含むRNAは、プライマーゼおよび/またはRdRpの前記RNAへの結合を阻害する化合物を同定する方法、および/またはコロナウイルス感染症の治療剤または予防剤をスクリーニングする方法に用いることができる。
【0063】
本発明は、上記PKP4、SLP4、PK、およびSLの4つのRNAから選択される1種、2種、3種、または4種のRNAを含む、セットに関する。
本発明の一実施態様では、前記セットは、PKP4、ならびにSLP4、PK、およびSLの4つのRNAから選択される1種、2種、または3種のRNAを含むことができる。
【0064】
本発明の一実施態様では、前記セットは、PKP4およびSLP4を含むことができる。本発明の一実施態様では、前記セットは、PKP4およびPKを含むことができる。本発明の一実施態様では、前記セットは、SLP4およびSLを含むことができる。本発明のセットは、プライマーゼおよび/またはRdRpの前記RNAへの結合を阻害する化合物を同定する方法、および/またはコロナウイルス感染症の治療剤または予防剤をスクリーニングする方法に用いることができる。
【0065】
スクリーニング方法
本発明は、コロナウイルス感染症の治療剤または予防剤のスクリーニング方法に関し、本方法はRNAコンストラクトであるPKP4と、プライマーゼおよび/またはRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)との結合を検出するアッセイを使用して、プライマーゼおよび/またはRdRpのPKP4への結合を阻害する化合物を同定する工程を含む。RNAとタンパク質との結合を検出するアッセイは、NMR法やゲルシフトアッセイであってもよい。
【0066】
本発明の一実施態様では、さらに、本方法は、同定された化合物の存在下で、RNAコンストラクトであるSLP4、PK、およびSLから選択される何れかと、プライマーゼおよび/またはRdRpとの結合を分析する工程を含むことができる。本発明の一実施態様では、本方法は、同定された化合物の存在下で、SLP4と、プライマーゼおよび/またはRdRpとの結合を分析する工程を含むことができる。
【0067】
PKP4を用いたアッセイの結果と、SLP4を用いたアッセイの結果を比較することにより、化合物が、プライマーゼおよび/またはRdRpのシュードノット構造への結合を阻害するものであるか否かを判別することができる。PKP4を用いたアッセイの結果と、PKを用いたアッセイの結果を比較することにより、化合物とP4ステム構造との間の相互作用を評価することができる。さらに、SLを用いたアッセイの結果を評価することにより、化合物とP2、P4、またはP5ステム構造との間の相互作用を評価することができる。
【0068】
本発明の一実施態様では、化合物(候補物質あるいは被験物質)は、任意の化合物、例えばタンパク質(例えば、抗体、およびその抗原結合性断片)、ペプチド、核酸、糖質、脂質、タンパク質以外の高分子化合物または低分子化合物、およびこれらの誘導体などであるが、これらに限定されない。
【0069】
本発明の一実施態様では、コロナウイルスがアルファコロナウイルス属またはベータコロナウイルス属のウイルスであってもよい。今までに分離同定されたヒトの病原コロナウイルスはアルファコロナウイルス属またはベータコロナウイルス属に属する。アルファコロナウイルス属には、ヒトで風邪の原因となるヒトコロナウイルス229E、ヒトコロナウイルスNL63が同定されている。ベータコロナウイルス属には、ヒトコロナウイルスOC43、ヒトコロナウイルスHKU1、中東呼吸器症候群(MERS)の原因となるMERSコロナウイルス、2003年に同定され重症急性呼吸器症候群(SARS)の原因となるSARSコロナウイルス、COVID-19の原因となるSARSコロナウイルス-2(SARS-CoV-2)が同定されている。
【0070】
SARS-CoV-2の変異株の配列比較では、3′UTRでは配列の変異が非常に少なく、特に3′PKは非常に高い配列保存性を示す(文献44)。SARS-CoV-2の属するベータコロナウイルス属の種は3′PKを持ち、それらの種間で高い配列保存性を示す(文献44)。よって、3′PK部位の機能はSARS-CoV-2に必須であるため、機能阻害により変異体ウイルスも抑制可能であると考えられる。アルファコロナウイルス属の種にも3′PKの相同配列が存在するため、ベータコロナ属と同様のゲノムRNA転写開始機構が推定され、アルファコロナウイルス属の増殖も抑制可能であると考えられる。
【0071】
DNA
本発明は、以下のいずれかのRNAをコードするDNAまたはその相補鎖DNAに関する。
1)配列番号22に記載の塩基配列、または配列番号22に記載の塩基配列と少なくとも90%の塩基配列同一性を有し且つシュードノット構造を形成する塩基配列を含む、RNA。
2)配列番号21に記載の塩基配列、または配列番号21に記載の塩基配列と少なくとも90%の塩基配列同一性を有し且つ3つのステム構造を形成する塩基配列を含む、RNA。
3)配列番号20に記載の塩基配列、または配列番号20に記載の塩基配列と少なくとも90%の塩基配列同一性を有し且つシュードノット構造を形成する塩基配列を含む、RNA。
4)配列番号19に記載の塩基配列、または配列番号19に記載の塩基配列と少なくとも90%の塩基配列同一性を有し且つ2つのステム構造を形成する塩基配列を含む、RNA。
【0072】
測定方法
本発明は、NMR解析によりRNAコンストラクトの二次構造の形成を測定する方法に関する。ここで、RNAコンストラクトは、コロナウイルスの3′UTR構造を再構築できるものであり、特にシュードノット構造を再構築できるものである。一実施態様では、本発明は、以下のいずれかのRNAについてNMR解析により二次構造の形成を測定する方法に関する。
1)配列番号22に記載の塩基配列、または配列番号22に記載の塩基配列と少なくとも90%の塩基配列同一性を有し且つシュードノット構造を形成する塩基配列を含む、RNA。
2)配列番号21に記載の塩基配列、または配列番号21に記載の塩基配列と少なくとも90%の塩基配列同一性を有し且つ3つのステム構造を形成する塩基配列を含む、RNA。
3)配列番号20に記載の塩基配列、または配列番号20に記載の塩基配列と少なくとも90%の塩基配列同一性を有し且つシュードノット構造を形成する塩基配列を含む、RNA。
4)配列番号19に記載の塩基配列、または配列番号19に記載の塩基配列と少なくとも90%の塩基配列同一性を有し且つ2つのステム構造を形成する塩基配列を含む、RNA。
【0073】
本発明の一実施態様では、上記のNMR解析によりRNAの二次構造の形成を測定する方法は、プライマーゼまたはRdRpの、RNAにおける結合部位を特定するために実施することができる。例えば、1次元H NMR測定、1次元31P NMR測定、2次元H-15N HSQC, H-15N HMQC, H-13C HSQC、H-H NOESY測定等により、RNAとプライマーゼおよび/またはRdRpとを混合した時の、プライマーゼまたはRdRp由来のNMR信号をモニターすることができる。プライマーゼおよび/またはRdRpのNMR信号の帰属情報に基づいて、混合により信号が変化すること(化学シフト)を一次元や多次元スペクトルでモニターすることができ、プライマーゼおよび/またはRdRpがRNAのどの部分に結合しているのかを詳細に解析することができる。RNAと結合したnsp7-nsp8(プライマーゼ)由来のシグナルの一部が9~10ppmに観測されることが分かっている。タンパク質(プライマーゼおよび/またはRdRp)のほか、RNAを安定同位体で標識してNMR解析することもできる。RNAだけ標識、タンパク質だけ標識、どちらも標識のそれぞれについて測定することができる。安定同位体としては、例えば13C、15N、Hが挙げられるがこれらに限定されない。
【0074】
本発明の一実施態様では、上記のNMR解析によりRNAの二次構造の形成を測定する方法は、コロナウイルス感染症の治療剤または予防剤をスクリーニングする方法において、プライマーゼまたはRdRpとRNAとの相互作用における、化合物(候補物質あるいは被験物質)の影響を評価するために実施することができる。例えば、1次元H NMR測定、1次元31P NMR測定、2次元H-15N HSQC,H-15N HMQC,H-13C HSQC,H-H NOESY測定等により、RNAとプライマーゼおよび/またはRdRpに、化合物を混合した時の、プライマーゼまたはRdRp由来のNMR信号をモニターすることができる。化学シフトをモニターして、化合物が、RNAとプライマーゼおよび/またはRdRpとの相互作用に与える影響を詳細に解析することができる。また、フッ素を含む低分子化合物の結合アッセイには19F NMR解析も有効である。
【0075】
本発明は、以下のいずれかのRNAをアッセイ溶液中で維持することを含む、シュードノット構造またはステムループ構造の形成方法に関する。本発明の一態様ではでアッセイ溶液のカリウムイオン濃度がナトリウムイオン濃度よりも高い。
1)配列番号22に記載の塩基配列、または配列番号22に記載の塩基配列と少なくとも90%の塩基配列同一性を有し且つシュードノット構造を形成する塩基配列を含む、RNA。
2)配列番号21に記載の塩基配列、または配列番号21に記載の塩基配列と少なくとも90%の塩基配列同一性を有し且つ3つのステム構造を形成する塩基配列を含む、RNA。
3)配列番号20に記載の塩基配列、または配列番号20に記載の塩基配列と少なくとも90%の塩基配列同一性を有し且つシュードノット構造を形成する塩基配列を含む、RNA。
4)配列番号19に記載の塩基配列、または配列番号19に記載の塩基配列と少なくとも90%の塩基配列同一性を有し且つ2つのステム構造を形成する塩基配列を含む、RNA。
【0076】
本発明の一実施態様において、アッセイ溶液のイオン強度は細胞内(細胞質)のイオン環境に基づいて設定することができる。細胞内液のカリウムイオン濃度は約140mM、ナトリウムイオン濃度は約10mMであり、カリウムイオン濃度がナトリウムイオン濃度よりも高い。本発明のアッセイ溶液中のカリウムイオンの塩濃度を90~190mMの範囲、100~180mMの範囲、110~170mMの範囲、または120~160mMの範囲とし、ナトリウムイオンの塩濃度を1~50mMの範囲、3~30の範囲、または5~20mMのとすることができる。アッセイ溶液は、マグネシウムイオンを更に含むことができる。マグネシウムイオンの塩濃度は、0.1mM~5mMの範囲、0.2mM~4mMの範囲、または0.3mM~3mMの範囲であることができる。アッセイ溶液のpHは6~9の範囲で設定することができる。アッセイ溶液でのインキュベーションは、例えば室温で10分間静置することにより実施できるが、これに限定されず、当業者は最適な条件を検討し採用することができる。
【0077】
本発明の一実施態様において、RNAにおけるシュードノット構造またはステムループ構造の形成方法は、nsp8またはnsp7-nsp8の存在下で実施することができる。アッセイ溶液は、RNAとnsp8を、1:1または1:2以上のモル比で含有することができる。アッセイ溶液は、RNAとnsp7-nsp8混合物を、1:1または1:2以上のモル比で含有することができ、ここでnsp7-nsp8混合物はnsp7とnsp8の等モル混合物であることができる。
【0078】
本発明は、以下のいずれかのRNAの少なくとも一部分に結合して、前記RNAとプライマーゼ/RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)との結合を阻害する、アンチセンスオリゴヌクレオチド、例えばアンチセンスRNAに関する。
1)配列番号22に記載の塩基配列、または配列番号22に記載の塩基配列と少なくとも90%の塩基配列同一性を有し且つシュードノット構造を形成する塩基配列を含む、RNA。
2)配列番号21に記載の塩基配列、または配列番号21に記載の塩基配列と少なくとも90%の塩基配列同一性を有し且つ3つのステム構造を形成する塩基配列を含む、RNA。
3)配列番号20に記載の塩基配列、または配列番号20に記載の塩基配列と少なくとも90%の塩基配列同一性を有し且つシュードノット構造を形成する塩基配列を含む、RNA。
4)配列番号19に記載の塩基配列、または配列番号19に記載の塩基配列と少なくとも90%の塩基配列同一性を有し且つ2つのステム構造を形成する塩基配列を含む、RNA。
【0079】
本発明の一実施態様において、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、GGGAAUAGCUUCUUAGGAGAAU(配列番号25)の配列を含む。この配列は、Wuhan-Hu-1株の全長ゲノム配列の位置29844~29867の配列である。
【0080】
本発明の一実施態様において、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、以下の(a)~(o)からなる群から選択される何れかの塩基配列(但し、ウラシルはチミンであってもよい)を含む:
(a)GGGAAUAGCUUCUUAGGAGAAU(配列番号25)、
(b)AAUAGCUUCUUAGGAGAAU(配列番号27)、
(c)GAUUAAAGUUAAUUACGAGAAUU(配列番号28)、
(d)AAAGUCGAGAAUUCAUUCAUUCU(配列番号29)、
(e)UUGUGCUAUGUAGUUACGAGA(配列番号30)、
(f)UGUGAGAUUAAAGUUAACUACAUCUAC(配列番号31)、
(g)UUGUGCUAUGUAGUUA(配列番号32)、
(h)UGUGAGAUUAAAGUUAACUACA(配列番号33)、
(i)AUUCUCCUAAGAAGCUAUU(配列番号34)、
(j)UAUGUAGUUACGAGAAUUCAUUCU(配列番号35)、
(k)AAAGUCGAGAAUUCAUUCAUUCUGCACAAG(配列番号36)、
(l)AUCUACUUGUGCUAUGUAGUUACGAGAA(配列番号37)、
(m)UGUGAGAUUAAAGUUAACUACAUCUAU(配列番号38)、
(n)(a)~(m)の塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入及び/又は付加された塩基配列からなり、下記1)~4)のいずれかのRNAとRdRpとの結合を阻害することができる、塩基配列、または
(o)(a)~(m)のいずれか一の塩基配列と90%塩基配列同一性を有する配列を含み、下記1)~4)のいずれかのRNAとRdRpとの結合を阻害することができる、塩基配列。
1)配列番号22に記載の塩基配列、または配列番号22に記載の塩基配列と少なくとも90%の塩基配列同一性を有し且つシュードノット構造を形成する塩基配列を含む、RNA。
2)配列番号21に記載の塩基配列、または配列番号21に記載の塩基配列と少なくとも90%の塩基配列同一性を有し且つ3つのステム構造を形成する塩基配列を含む、RNA。
3)配列番号20に記載の塩基配列、または配列番号20に記載の塩基配列と少なくとも90%の塩基配列同一性を有し且つシュードノット構造を形成する塩基配列を含む、RNA。
4)配列番号19に記載の塩基配列、または配列番号19に記載の塩基配列と少なくとも90%の塩基配列同一性を有し且つ2つのステム構造を形成する塩基配列を含む、RNA。
【0081】
本明細書で言う「1から数個の塩基が欠失、置換、挿入及び/又は付加された塩基配列」における「1から数個」の範囲は特には限定されないが、欠失、置換、挿入については、例えば、1から3個、1または2個、または1個を意味し、両端部への付加については、特には限定されないが、1から20個、1から10個、1から7個、1から5個、1から3個程度を意味する。一実施態様において、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、塩基配列の5′末端に、RNA合成の際に追加される1~3個のG(例えば、GGG)を含むことができる。上記の(o)の塩基配列を含むアンチセンスオリゴヌクレオチドは、上記1)~4)のいずれかのRNAとRdRpとの結合を阻害することができる効果を有する限りにおいて、(a)~(m)のいずれか一の塩基配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%塩基配列同一性を有する塩基配列を含むことができる。
【0082】
本発明は、被検ヌクレオチドの存在下で、下記RNA1)~4)のいずれかのRNAとプライマーゼ/RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)との結合を検出する工程を含む、アンチセンスオリゴヌクレオチドの製造方法に関する。
1)配列番号22に記載の塩基配列、または配列番号22に記載の塩基配列と少なくとも90%の塩基配列同一性を有し且つシュードノット構造を形成する塩基配列を含む、RNA。
2)配列番号21に記載の塩基配列、または配列番号21に記載の塩基配列と少なくとも90%の塩基配列同一性を有し且つ3つのステム構造を形成する塩基配列を含む、RNA。
3)配列番号20に記載の塩基配列、または配列番号20に記載の塩基配列と少なくとも90%の塩基配列同一性を有し且つシュードノット構造を形成する塩基配列を含む、RNA。
4)配列番号19に記載の塩基配列、または配列番号19に記載の塩基配列と少なくとも90%の塩基配列同一性を有し且つ2つのステム構造を形成する塩基配列を含む、RNA。
【0083】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、アンチセンスRNA、アンチセンスDNA、および低分子干渉RNA(siRNA)を含む。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、医薬組成物の形態で提供され得る。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、in vivoでのその安定性および/または治療効率を増加させる、修飾されたヌクレオチド、例えば化学修飾されたヌクレオチドを含み得る。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、一本鎖DNA、一本鎖または二本鎖RNAであり得る。アンチセンスオリゴヌクレオチドを含むナノ粒子の形態で提供され得る。ナノ粒子を使用することにより、アンチセンスオリゴヌクレオチドの半減期を増加させることが可能となる。本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、SARS-CoV-2ゲノムRNA転写を阻害することができ、COVID-19の治療のために有用である。
【実施例0084】
以下の例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。なお、本明細書において、特に記載しない限り、「%」、「部」等は質量基準であり、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【0085】
方法と材料
1)RNA断片の作成
本実施例では、RNAコンストラクトP1、P4、SL、SLL,SLP4およびPKP4を作成した。
SARS-CoV-2分離株Wuhan-Hu-1の全ゲノム(NCBI accession code NC_045512.2)を参照配列として用いた。すべてのRNA断片は、AmpliScribe T7-Flash Transcription Kit (LGC Biosearch Technologies, Teddington, UK) とHiScribe T7 High Yield RNA Synthesis kit (New England Biolabs Inc., Massachusetts, USA) を用いて作成され、文献40に記載のように精製した。
【0086】
RNAのT7RNAポリメラーゼを用いたRNA合成にはフォワードとリバースのDNA鋳型が必要であり、フォワードとリバースは相補配列である。in-vitro転写用のDNA鋳型はEurofins Genomics社から購入した。RNAコンストラクトP1、P4、SL、SLL,SLP4、PKP4のDNA鋳型は各々2つの配列をGCAAリンカーで連結した。フォワード鋳型の5′側にはT7プロモーター配列(フォワード:TAATACGACTCACTATA(配列番号1)を、リバース鋳型には3′側にT7プロモーター配列(リバース:TATAGTGAGTCGTATTA(配列番号2)を付与した。
P1のDNA鋳型は、Wuhan-Hu-1株の塩基位置29607~29617の配列、GCAAリンカーおよび位置29636~29645の配列に基づく。
P2のDNA鋳型は、Wuhan-Hu-1株の塩基位置29628~29657の配列に基づく。
P4のDNA鋳型は、Wuhan-Hu-1株の塩基位置29661~29671の配列、GCAAリンカーおよび位置29840~29848の配列に基づく。
PKのDNA鋳型は、Wuhan-Hu-1株の塩基位置29607~29645の配列に基づく。
SLのDNA鋳型は、Wuhan-Hu-1株の塩基位置29622~29657の配列、GCAAリンカーおよび位置29857~29867の配列に基づく。
SLLのDNA鋳型は、Wuhan-Hu-1株の塩基位置29622~29657の配列、GCAAリンカーおよび位置29850~29867の配列に基づく。
SLP4のDNA鋳型は、Wuhan-Hu-1株の塩基位置29622~29671の配列、GCAAリンカーおよび位置29840~29867の配列に基づく。
PKP4のDNA鋳型は、Wuhan-Hu-1株の塩基位置29607~29671の配列、GCAAリンカーおよび位置29840~29867の配列に基づく。
すべてのコンストラクトについて、フォワード鋳型はT7プロモーター配列を用いてもよい。
【0087】
【表1】
各RNA断片の濃度は、260nmの紫外線吸光度から求めた。
【0088】
2)nsp7およびnsp8の作成
nsp7,nsp8の遺伝子は以下の配列を使用した。
nsp7 [Severe acute respiratory syndrome coronavirus 2]
NCBI Reference Sequence: YP_009742614.1

nsp8 [Severe acute respiratory syndrome coronavirus 2]
NCBI Reference Sequence: YP_009742615.1

Nsp7,nsp8の遺伝子はpCR2.1-TOPOベクターにクローニングした。各遺伝子はN末端にニッケル結合タグとHRV 3Cプロテアーゼ切断サイトを持つ。大腸菌KRX細胞を上述のプラスミドで形質転換し、0.1%ラムノースを含む培養液で細胞を培養した。培養後に回収した細胞は緩衝液A(20mMトリス塩酸緩衝液(pH7.9もしくは8.0)、500mM塩化ナトリウム、20mMイミダゾール、1mM PMSF、cOmplete プロテアーゼ抑制剤)に懸濁し、超音波破砕した。菌体破砕液を遠心分離し、得られた上清をニッケルセファロース6ファストフロー樹脂と懸濁後、4℃にて1-1.5時間静置した。その後、樹脂をカラムに移し、樹脂の洗浄後にタンパク質を溶出した。N末端に付加したタグを除去するため、HRV 3Cプロテアーゼを添加し、PMSFとcOmpleteプロテアーゼ阻害剤を含まない緩衝液Aに対して透析した。透析した目的タンパク質を含む溶液をニッケルセファロース6ファストフローおよびHiTrapQカラムにて精製した。その後、目的タンパク質を含む溶液を緩衝液B(20mM HEPES(pH 8.0)、150mM 塩化ナトリウム、1mMジチオトレイトール)で平衡化したSuperdex200 increase 10/300カラムにて分画した。
【0089】
3)電気泳動移動度測定法
RNA断片およびタンパク質の保存および反応バッファー成分は、20mM HEPES-Na(pH7.4、NaOHにてpH調整を行った)、140mM KCl、および0.8mM MgClであった。0または4.95μMのnsp7と0または4.95μMのnsp8の反応バッファー溶液を0.33μMのRNAと混合した。この混合溶液を20℃で10分間インキュベートした後、35mM HEPES、43mM イミダゾール、10mM KClバッファーを含む6%ポリアクリルアミド(19:1=acrylamide:bis)ゲルにロードし、100Vで4℃、60分間反応させた。電気泳動に用いるバッファー成分は、pH7.4となるように選択した(文献41)。
バンドはGelStar Nucleic Acid Gel Stain(Lonza,Basel,Switzerland)で染色し、470nmの青色LEDライトで可視化した。
見かけの解離定数Kdは、以下のHill-Langmuirの式から求めた。
式中、θは{1-(タンパク質と非結合RNA/RNA総量)}、[L]は[nsp8]から求めた。タンパク質と非結合RNA/RNA総量は、各RNA-タンパク質混合物のタンパク質と非結合RNAバンドに対するRNAのみのレーンの構造形成したRNAバンドの比率から求めた。
【0090】
4)NMR測定
すべてのRNAサンプルは、8%または100%DOを含む20mM MES(NaOHで調整したpH6.0),140mM KCl,0.8mM MgClに溶解し、溶液はその後56~334μMに調整した。RNAとタンパク質の混合試料は、8%DOを含む20mM MES(pH6.0,NaOHで調整)、140mM KCl、0.8mM MgCl、1mM DTTおよび40units RiboGuard RNAse inhibitor(LGC Biosearch Technologies,Teddington,UK)に溶解し、溶液はその後、50μM SLP4,50μM nsp7および50μM nsp8に調節してSLP4-nsp7-nsp8とし、50μM SLP4,100μM nsp7および100μM nsp8に調節してPKP4-nsp7-nsp8混合物とした。NMR試料にはすべて直径4mmのShigemi管(Shigemi,Tokyo,Japan)を使用した。NMRバッファーの一価および二価のカチオン濃度は、細胞質のイオン強度に基づき選択した(文献42)。
【0091】
NMRスペクトルは,Bruker Avance 700,800,900MHz スペクトロメーターにクライオプローブ(Bruker Biospin,Inc.,Billerica,USA)を装着して記録した.1D H NMRスペクトルは、8kのデータポイント、および288Kで25ppmのスペクトル幅で収集された。H-H 2D NOESY スペクトルのスペクトル幅(全データポイント数)は、direct dimensionでは25ppm(2048)、in-direct dimensionでは25ppm(512または600)、混合時間は120または240ms、繰り返し時間1.5s、測定温度288Kまたは298Kを用いた。Watergate 3-9-19パルスシーケンスで水を抑制した。スペクトルの解析には,NMRFAM-SPARKY(文献43)(https://nmrfam.wisc.edu/nmrfam-sparky-distribution/)とTopSpin 3.6.2 NMR processing software (Bruker Biospin, Inc.)を用いて解析した。
【0092】
実施例1:3′PK領域で形成される2つの二次構造の解析
まず、3′PKの構造領域ともっともらしい構造を定義するために、3′PKから切り離した一連のRNA断片を準備した(表2)。
【表2】
なお、実験には、各配列の5′末端にGGGが付加されたRNAを用いた。
【0093】
Ranganらによって決定された二次構造モデルを参考にした(文献9)。図3に、SL、PK、SLP4、およびPKP4(順に、図3のA、B、CおよびD)と呼ばれる4つの設計RNA断片の2DH-H NOESY スペクトルとNMRデータから解明された2次構造を示す。SLP4とPKP4は、それぞれSLとPKに、P4ステムとP4とP5の間のループ(L4/5)領域の配列を追加した断片に相当する。イミノプロトン共鳴は、RNAが塩基対を形成しているときのみ検出される。これは、一般にNMR検出には速すぎる溶媒水プロトンとの交換速度が、イミノプロトンが水素結合に関与すると十分に低くなるためである。
【0094】
PKとPKP4はP1pkとP2イミノプロトンの両方のシグナルを示した。SARS-CoV-2 gRNA全体の二次構造については、いくつかの研究グループによって報告されている(文献25-29,31,32)。これらの解析から、3′PK領域はステムループ構造を形成していることが示唆された(文献25-29,32)。NMRによる解析の結果、図3(BおよびD)において、PKとPKP4は3′PK領域がシュードノット構造をとることが確認された。図3(BおよびD)では、PKとPKP4の4塩基対のシグナルは、P1ステム構造のみを含むRNA配列からのNMRスペクトルに基づき、P1pkステムに起因することがわかった(図8)。U29609、U29610、G29645はP1単独でのステム構造(P1ステム)のみに観測され、PKとPKP4には観測されない。P1ステムで観測された化学シフトは、シュードノット構造に収容されたP1pk(PKおよびPKP4)のものとわずかな差はあるがおおよそ一致した(表3および図8を参照)。PKとPKP4のP2ステムのシグナルは、SLとSLP4のシグナルとの比較から同定された。図3(BおよびD)のシュードノット構造(PKとPKP4)のP2ステムのシグナルは、SLのもの(図3A)とほぼ同じであった。PKP4断片は、塩基対U29855-A29866、U29856-A29865、C29857-G29864と推定される小さなシグナルを示した(図3B)。全体として、PKとPKP4の塩基対形成パターンは、すべてシュードノット構造の形成と一致した。
【0095】
興味深いことに、SLP4では、U29655、U29656、U29629のイミノプロトン信号がP2には観測されなかった(図3C)。これらの3つのU-Aペアは、SLP4と同じ領域を含む3_SL3baseでも観測されなかった(文献32)。一方、P2ステムのみ(図9)、SL(図3A)では、これらのシグナルが観測された。SLはP2とP5の間に短いバルジ領域(C29857-G29861)を持ち(図3A)、これはSLP4のP4-P5間の全長バルジループ領域の半分(L4/5;A29850-G29861)(図3C)に相当する。P2ステムのみではバルジループ領域を持たなかった。また、P2とP5のステムを持ち、L4/5が全長のSLLも、SLP4と同様に非常に弱いU29655とU29656シグナルを示した(図10)。これらのデータから、SLP4とSLLのP2領域の末端部位は、L4/5の上流(A29850-U29856)を欠いた他の断片(SLとP2シングルステム)とは明らかに異なる構造をとっており、おそらくL4/5のこの領域と相互作用していることが推測された。実際、A29850からC29854の領域は、SARSr-CoV間で高度に保存されている(文献9)。これらの結果から、L4/5の上流領域はステムループ構造を変化させ、プライマーゼやRdRpによる認識に必須である可能性が示唆された。
P5ステムはステムループ構造(SLとSLP4;図3(AおよびC))でのみ形成されていた。PKP4もこの領域を含んでいたが、PKP4ではP5ステムは形成されなかった。P1pkとP5ステムの両方の形成が全長のgRNA解析で示唆された(文献31)。全ゲノム解析におけるこれらのデータは、シュードノットとステムループの2つのコンフォーマーが混在していることが想定されていたが、3′PK領域でシュードノット構造が形成できることは、これまで確認されていなかった。
【0096】
【表3】
上表の「Hi」はイミノプロトン、「N」はイミノ基の窒素である。各RNA断片のH化学シフト値。簡略化のため、塩基番号の最初の2桁(29XXX)は省略した。
【0097】
実施例2:RNA断片とnsp7-nsp8混合物の結合アッセイ
次に、ステムループ構造あるいはシュードノット構造を形成する4つのgRNA断片(PK、SL、PKP4、SLP4)とnsp7-nsp8との相互作用をゲルシフトアッセイにより検討した。nsp7と混合したRNA断片は、RNA-nsp7複合体に起因するバンドを示さなかった。また、nsp8と混合したRNA断片やnsp7-nsp8混合物では、RNA-タンパク質複合体による新しいシフトしたバンドを示した(図4)。これらの結果は、nsp7が二重鎖や一本鎖RNAに直接結合しないというこれまでの報告と一致していた(文献33および34)。また、PKP4(2.5μM)およびSLP4(2.3μM)に対して、nsp7-nsp8が比較的に高い見かけ上の親和性を示すこともわかった。この結果は、3′PKのステムループRNA構造がnsp7-nsp8複合体をリクルートし、nsp7-nsp8と結合している間にシュードノット構造にコンフォメーションが変化するという現在の仮説と矛盾しない。また、nsp7-nsp8がステムループ型と平衡状態にある3′PKのシュードノット型に直接結合できる可能性が新たに示された。nsp7-nsp8に対する見かけの親和性は、PK(5.1μM)とSL(5.5μM;図11B)で顕著に低下していた。この結果は、P4ステムまたはP4とP5の間のループがタンパク質結合に関与していることを示唆するものであった。nsp8またはnsp7-nsp8混合物を添加すると、すべてのRNA断片にタンパク質結合による2本の遅い移動度バンド(図11Aの矢印)が見られた。すべてのRNA断片について、Hill-Langmuir式から求めたHill係数は1以上であった(図11B)。特に、PKP4とSLP4については、Hill係数が約2.7であり、複数のnsp7-nsp8複合体がこれらのRNA断片と相互作用している可能性があることがわかった。nsp7とnsp8の混合物が複数の多量体コンフォーマーを示すことは既に報告されている(文献35,36)。したがって、これらのバンドは、RNA断片と結合したタンパク質の多量体構造の違いを反映していると考えることができる。
【0098】
実施例3:nsp7-nsp8混合物との結合によるRNAの構造変化
ゲルシフトアッセイにより、PKP4とSLP4はPKやSLよりもnsp7-nsp8に親和性が高いことがわかったため、RNA-タンパク質相互作用のより詳細な情報を得るために、さらにNMR分析に使用することにした。RNAを含まないnsp7とnsp8の混合物のNMR信号は顕著なブロード化を示し、NMRの時間スケールよりも非一様な、あるいは速い複合化速度が示唆された(図5C)。実際、nsp7とnsp8の混合物が多様な多量体形成パターンを示すことは既に報告されており、その主成分はnsp7:nsp8=2:2の複合体であった(文献35,36)。PKP4をnsp7とnsp8の混合物に1:2:2(PKP4:nsp7:nsp8)の割合で添加すると、RNAを含まないnsp7とnsp8の混合物のシグナル(図5C)と比較して、タンパク質によるシグナルは劇的な違いを示した(図5A)。特に、RNAを添加することで、9~10ppmに新たなシャープなシグナルがいくつか観測された(図5A)。これらの新しいシグナルはタンパク質のアミドプロトンのシグナルと考えられ、RNAの結合によってnsp7-nsp8複合体の大きな構造変化が引き起こされたことが示唆された。nsp7とnsp8タンパク質にSLP4を1:1:1の割合で添加すると、RNAを含まないnsp7とnsp8タンパク質のスペクトル(図5C)と比較して、同様の劇的な変化と鋭いシグナルが観測された(図5B)。なお、nsp7とnsp8の組成を減らしたのは、1:2:2混合試料ではSLP4のイミノプロトンNMR信号が大幅にブロード化し、NOE信号が観測しにくくなったためである。図5AおよびBでシャープなNMRシグナルが現れたことから、RNA断片に結合したnsp7-nsp8の特定の多量体が安定化したことが示唆された。また、nsp7-nsp8混合物で観測されたNOEは、SLP4-nsp7-nsp8およびPKP4-nsp7-nsp8混合物では観測されなかった(図12参照)。このことから、nsp7-nsp8タンパク質の大部分は、混合試料中のPKP4とSLP4の両方のRNA断片と複合体化しているはずであることが示唆された。図5Aには、PKP4-nsp7-nsp8混合試料でのみ観測されたタンパク質に起因するシグナル(アスタリスクで示す)がいくつか示されている。このように、PKP4とSLP4では、RNA断片との相互作用の様式が異なる可能性がある。
【0099】
RNAのNMR信号については、RNA-タンパク質混合物試料は結合時に10.5-14.5ppmで線幅が広がった(図5AおよびB)。これは、PKP4とSLP4の両方において、RNA-タンパク質複合体のモル質量がRNA断片単独の場合よりも大きいことを考えると、驚くにはあたらない。nsp7-nsp8と混合したPKP4とSLP4のイミノプロトン信号の一部(図5AおよびB)は、タンパク質結合によってRNA断片単独の信号(図5DおよびE)から化学シフトが変化していることが確認された。図6-1は、(A)SLP4,(B)PKP4,(C)SLP4-nsp7-nsp8混合物(1:1:1),(D)PKP4-nsp7-nsp8混合物(1:2:2)の二次元H/ H NOESYスペクトルである。SLP4とPKP4は共にnsp7-nsp8を添加してもイミノ・イミノ NOEをほとんど示さなかった。そこで、水素結合塩基対でのみ観測される11.5-14.5ppmのイミノプロトン共鳴(U H3,G H1,U H3)と5.5-8.5ppmのA H2またはCアミノ基プロトン共鳴間の塩基対内NOEを用いてさらに解析した。nsp7-nsp8と結合したPKP4のスペクトルパターン(図6-1、D)は、タンパク質を添加していないPKP4のスペクトルパターン(図6―1、B)とほとんど変わりがない。nsp7-nsp8結合後、PKP4はP1pk、P2ステム、P4について、残基間NOEによるクロスピーク(図6-1のD)の大部分を保持していた。また、観測された化学シフトの変化は、P1pkとP2で0.06ppm以内であった(図6F)。この結果から、PKP4はシュードノット構造を維持したまま、nsp7-nsp8と結合することが示唆された(図6-1のB、D;図6-2のF)。
【0100】
一方、遊離のSLP4(図6-1のA)とnsp7-nsp8と結合したSLP4(図6-1のC)では、スペクトルパターンが大きく異なっていることがわかる。両スペクトルとも、P2ステムとP4の残基間NOEによるクロスピークが観測された。nsp7-nsp8と結合したSLP4では、線幅が広がるためP2ステムの隣接塩基間の弱いNOEシグナルが欠落しているが、ペア内の強いNOEシグナルはすべて保持されていた。興味深いことに、nsp7-nsp8と複合体化したSLP4ではP5による塩基対内NOEは観測されなかったが(図6-1のC)、SLP4のみではP5によるNOEが明確に見られた(図6-1のA)。したがって、この結果はnsp7-nsp8結合によるP5ステムの不安定化を示唆するものであった。
【0101】
いずれのRNAもnsp7-nsp8混合物を添加することでP4ステムの化学シフトが小さいながらも顕著に変化し、P4ステムがタンパク質相互作用に関与していると考えられる(図6-2のFおよび表3)。このことは、PKP4やSLP4がP4を欠くPKやSLよりも高い見かけ上の結合親和性を持つことと矛盾しない。NMRの結果は、P4とnsp7-nsp8複合体の相互作用がPKP4とSLP4への親和性を高めていることを支持するものであった。
【0102】
検討
SARS-CoV-2を含むSARSr-CoVのgRNA転写開始機構は、近年盛んに研究されているが、これまで不明な点が多くあった。SARSr-CoVを含むベータコロナウイルスでは、センス鎖gRNAやsgRNAを転写するためには、アンチセンス鎖のgRNAをセンス鎖から転写することが第一段階であり、必須である。転写開始仮説モデルによるとnsp7とnsp8の複合体により、gRNAの3′末端でのプライマー伸長が達成される(文献5、非特許文献3)。nsp7-nsp8複合体は、ステムループ構造を形成する3′PKに結合し、プライマーRNAが伸長すると、3′PKはシュードノットに構造を変化させると提唱されている。しかし、3′PKのシュードノット構造の存在は、実験的には明らかにされていなかった。今回、SARS-CoV-2の3′PKがステムループ構造だけでなく、シュードノット構造も形成することを明らかにした。P1pk、P2、P5の3つのステムを持つシュードノット構造は、計算機による立体構造予測プログラムを用いた研究により、以前から提案されていた(文献37)。本発明者らのNMR解析(図3D)では、P5ステムはシュードノット構造では形成されていないことが明らかになった。
【0103】
これまでの全ゲノムに対するケミカルプロービング解析では、3′PKにおいてA29636-U29650,U29637-A29649、G29639-U29646、C29640-G29645の塩基対形成が報告されている(文献25-29)。一方、NMR実験では、SLとSLP4ではこれらの塩基対は観察されなかった(図3)。A29636-U29650を除くこれらの塩基対は、以前に報告された3_SL3baseでも観察されなかった(文献32)。これらの塩基はP1pkのステムを形成しているか、あるいはシュードノット構造が形成される際にP1pkとP2の接合部に配置されていることがわかった。実験的に決定された3′PKのステムループとシュードノット二次構造から、化学証明解析でP2ステムのループに配置された未反応塩基は、シュードノット構造を形成する少量のRNAに起因すると推測することができる。
【0104】
RNA-nsp7-nsp8混合物のゲルシフトアッセイとNMR解析により、nsp7-nsp8混合物は、突出末端を持つシングルステムループのみならず、分岐したステムループ(SLP4)やシュードノット(PKP4)とも相互作用することが示された。PKP4とSLP4は、nsp7-nsp8混合物を添加することでP4ステムに対するH NMRシグナルに軽度の化学シフト変化を示し(表4)、SLやPKよりもわずかに高い親和性を持つことがわかった。これらの結果は、P4がnsp7-nsp8結合に関与している可能性を示唆するものであった。また、2次元NMRのデータから、SLP4のP5ステムはnsp7-nsp8結合によって不安定化することが明らかになった。また、PKP4のP5領域は、nsp7-nsp8が結合した状態でも、結合していない状態でも、塩基対を形成していないことがわかった。この結果は、gRNAが3′PK領域でnsp7-nsp8と結合すると、3′末端が一本鎖になることを初めて実験的に証明した(図7)。
【0105】
興味深いことに、nsp7-nsp8混合物のNMRシグナルは、PKP4やSLPKの添加により化学シフトが大きく変化した(図5AおよびB)。これらのシャープなスペクトルを持つシグナルは、遊離のnsp7、nsp8(BMRB ID 51325)またはRNA断片を含まないnsp7-nsp8混合物のシグナルとは異なっていた(文献38)。また、PKP4やSLP4を添加すると、nsp7-nsp8混合物中のタンパク質の多量体化や高速交換に起因するブロードなシグナルが減少することがわかった。この結果は、RNA断片との結合により、様々な多量体化状態を持つnsp7-nsp8複合体が、特定のnsp7-nsp8多量体化状態を持つ固有の複合体に構造変化する可能性を示唆するものであった。nsp7-nsp8に起因する9-10ppmのH NMRシグナルは、SLP4-タンパク質とPKP4-タンパク質複合体の間で異なる化学シフトを示した(図5A、Bアスタリスクで示すシグナル)。この結果は、nsp7-nsp8とSLP4およびPKP4の複合体は、RNAの構造によって何らかの構造の違いがあることを示唆するものであった。SLP4-nsp7-nsp8混合物のnsp7-nsp8は、1:1:1混合物では鋭いシグナルを示したが、1:2:2混合物では線幅の広がりを示した理由は不明である。これは、図2で示唆されたように、nsp7-nsp8を多く搭載することでSLP4-nsp7-nsp8複合体が不安定化したことを示唆している可能性がある。SLP4やPKP4との複合体形成に伴うnsp7-nsp8の構造変化については、さらなる研究が必要である。
【0106】
以上のことから、SARS-CoV-2をはじめとするSARSr-CoVの仮想的なゲノムRNA複製開始モデル(図2)のキーコンセプトであるシュードノット構造に関する初めての実験的証拠を得ることができた。この構造は、ゲノムRNA複製にとってかなり稀であり、重要であることから、今回の結果は、PKP4とその関連RNA断片が、SARSr-CoVを含む抗コロナウイルス薬の開発における治療標的となる可能性を示している。3′PK領域はベータコロナウイルス間で高度に保存されている(文献39)。また、SARS-CoV-2変異体の変異解析では、3′PK領域の変異はほとんど見られず、ステムループ構造を維持していることが示された。これらの結果は、構造特異的な結合がウイルスの増殖を制御している可能性を示唆している。また、nsp7-nsp8との相互作用により、3′PKのシュードノット構造とステムループ構造のRNA構造の詳細が初めて明らかになった。また、3′PKのP5ステムは、プライマーゼ複合体がステムループ化した3′PKに結合すると、一本鎖に構造変化する可能性が高いことも明らかになった(図7)。
【0107】
実施例4:アンチセンスRNAを用いた実験
反応条件:20mM HEPES(NaOHでpH7.4に合わせた),140mM KCl,0.8mM MgCl
PKP4,SLP4 各RNA濃度0.4μM,nsp7 6μM,nsp8 6μM
アンチセンスRNA 0.2(+)または1(++)μM(配列:GGGAAUAGCUUCUUAGGAGAAU(配列番号25)

上記の溶液5μLを室温で30分静置後に電気泳動(4℃、100V,52分)した。
ゲル:6% ポリアクリルアミド(アクリルアミド:ビス=19:1)、35mM HEPES,43mM イミダゾール、10mM KCl
泳動バッファー:35mM HEPES,43 mM イミダゾール、10mM KCl
【0108】
PKP4あるいはSLP4に15当量のnsp7とnsp8を添加しさらにRNAに対して0.5当量あるいは2.5当量のアンチセンスRNAを添加した試料の電気泳動を行った結果、PKP4に対して2.5当量アンチセンスRNAを添加した場合では、アンチセンスを添加していないか、0.5当量添加した場合と比べて、タンパク質と結合していないRNAのバンドが濃くなった。一方、SLP4ではアンチセンスRNAを添加してもSLP4のみのバンドに変化はなかった。これらのことから、アンチセンスRNAはPKP4とnsp7-nsp8の複合体からPKP4を解離させることが示唆された。アンチセンスRNAはPKP4とnsp7-nsp8の結合を選択的に阻害することから、このアンチセンスRNAはSARS-CoV-2ゲノムRNA転写を阻害する抗COVID-19薬の候補になると考えられる。
【0109】
実施例5:アンチセンスRNAを用いた実験2
本実施例および実施例6では、ベータコロナ属内の配列相同性を考慮してアンチセンスRNAを作成し、PKP4およびSLP4それぞれとnsp7:nsp8複合体の結合を阻害するアンチセンスRNAの探索を行った。

反応条件:20mM HEPES(NaOHでpH7.4に合わせた),140mM KCl,0.8mM MgCl
PKP4,SLP4 各RNA濃度0.2μM,nsp7 3μM,nsp8 3μM
アンチセンスRNA 各0.1(+)または1(++)μM

アンチセンスRNA
#1 配列:AAUAGCUUCUUAGGAGAAU(配列番号27)
#2 配列:GAUUAAAGUUAAUUACGAGAAUU(配列番号28)
#3 配列:AAAGUCGAGAAUUCAUUCAUUCU(配列番号29)
#4 配列:UUGUGCUAUGUAGUUACGAGA(配列番号30)
#5 配列:UGUGAGAUUAAAGUUAACUACAUCUAC(配列番号31)
上記の溶液10μLを室温で30分静置後に電気泳動(4℃、100V定電圧,1時間)した。
ゲル:6% ポリアクリルアミド(アクリルアミド:ビス=19:1)、35mM HEPES,43mM イミダゾール、10mM KCl
泳動バッファー:35mM HEPES,43 mM イミダゾール、10mM KCl
【0110】
SLP4に15当量のnsp7とnsp8を添加しさらにRNAに対して0.5当量あるいは5当量のアンチセンスRNA#1~#5の何れかを添加した試料の電気泳動を行った結果、SLP4に対してアンチセンスRNA#3および#4をそれぞれ添加した場合では、アンチセンスを添加していない場合と比べて、タンパク質と結合していないRNAのバンドが濃くなった。一方、PKP4ではアンチセンスRNA#3および#4をそれぞれ添加してもPKP4のみのバンドに変化はなかった(図14)。これらのことから、アンチセンスRNA#3および#4はSLP4とnsp7-nsp8の複合体からSLP4を解離させることが示唆された。アンチセンスRNA#3および#4はSLP4とnsp7-nsp8の結合を選択的に阻害することから、これらのアンチセンスRNAはSARS-CoV-2ゲノムRNA転写を阻害する抗COVID-19薬の候補になると考えられる。
【0111】
実施例6:アンチセンスRNAを用いた実験3

反応条件:20mM HEPES(NaOHでpH7.4に合わせた),140mM KCl,0.8mM MgCl
PKP4,SLP4 各RNA濃度0.2μM,nsp7 3μM,nsp8 3μM
アンチセンスRNA 各0.2(+)または1(++)μM

アンチセンスRNA
#6 配列:UUGUGCUAUGUAGUUA(配列番号32)
#7 配列:UGUGAGAUUAAAGUUAACUACA(配列番号33)
#8 配列:AUUCUCCUAAGAAGCUAUU(配列番号34)
#9 配列:UAUGUAGUUACGAGAAUUCAUUCU(配列番号35)
#10 配列:AAAGUCGAGAAUUCAUUCAUUCUGCACAAG(配列番号36)
#11 配列:AUCUACUUGUGCUAUGUAGUUACGAGAA(配列番号37)
#12 配列:UGUGAGAUUAAAGUUAACUACAUCUAU(配列番号38)

上記の溶液10μLを30℃で30分静置後に電気泳動(4℃、100V定電圧,1時間)した。
ゲル:6% ポリアクリルアミド(アクリルアミド:ビス=19:1)、35mM HEPES,43mM イミダゾール、10mM KCl
泳動バッファー:35mM HEPES,43 mM イミダゾール、10mM KCl
【0112】
SLP4に15当量のnsp7とnsp8を添加しさらにRNAに対して1当量あるいは5当量のアンチセンスRNA#6~#12の何れかを添加した試料の電気泳動を行った結果、SLP4に対してアンチセンスRNA#9および#10をそれぞれ添加した場合では、アンチセンスを添加していない場合と比べて、タンパク質と結合していないRNAのバンドが濃くなった。さらに、PKP4に対してアンチセンスRNA#10を添加した場合では、アンチセンスを添加していない場合と比べて、タンパク質と結合していないRNAのバンドが濃くなった(図17)。これらのことから、アンチセンスRNA#9および#10はSLP4とnsp7-nsp8の複合体からSLP4を解離させることが示唆された。さらに、アンチセンスRNA#10は、PKP4とnsp7-nsp8の複合体からPKP4を解離させることが示唆された。よって、アンチセンスRNA#9および#10はSARS-CoV-2ゲノムRNA転写を阻害する抗COVID-19薬の候補になると考えられる。
【0113】
文献リスト
1 Wu, F. et al. A new coronavirus associated with human respiratory disease in China. Nature 579, 265-269 (2020). https://doi.org:10.1038/s41586-020-2008-3
2 Mizutani, T., Repass, J. F. & Makino, S. Nascent synthesis of leader sequence-containing subgenomic mRNAs in coronavirus genome-length replicative intermediate RNA. Virology 275, 238-243 (2000). https://doi.org:10.1006/viro.2000.0489
3 Sethna, P. B., Hung, S. L. & Brian, D. A. Coronavirus subgenomic minus-strand RNAs and the potential for mRNA replicons. Proceedings of the National Academy of Sciences 86, 5626-5630 (1989). https://doi.org:doi:10.1073/pnas.86.14.5626
4 Williams, G. D., Chang, R.-Y. & Brian, D. A. A Phylogenetically Conserved Hairpin-Type 3′ Untranslated Region Pseudoknot Functions in Coronavirus RNA Replication. Journal of Virology 73, 8349-8355 (1999). https://doi.org:10.1128/jvi.73.10.8349-8355.1999
5 Zust, R., Miller, T. B., Goebel, S. J., Thiel, V. & Masters, P. S. Genetic interactions between an essential 3' cis-acting RNA pseudoknot, replicase gene products, and the extreme 3' end of the mouse coronavirus genome. J Virol 82, 1214-1228 (2008). https://doi.org:10.1128/JVI.01690-07
6 Goebel, S. J., Taylor, J. & Masters, P. S. The 3' cis-acting genomic replication element of the severe acute respiratory syndrome coronavirus can function in the murine coronavirus genome. J Virol 78, 7846-7851 (2004). https://doi.org:10.1128/JVI.78.14.7846-7851.2004
7 Yang, D. & Leibowitz, J. L. The structure and functions of coronavirus genomic 3' and 5' ends. Virus Res 206, 120-133 (2015). https://doi.org:10.1016/j.virusres.2015.02.025
8 Zhao, J., Qiu, J., Aryal, S., Hackett, J. L. & Wang, J. The RNA Architecture of the SARS-CoV-2 3'-Untranslated Region. Viruses 12 (2020). https://doi.org:10.3390/v12121473
9 Rangan, R., Zheludev, I. N. & Das, R. RNA genome conservation and secondary structure in SARS-CoV-2 and SARS-related viruses: a first look. RNA (2020). https://doi.org:10.1261/rna.076141.120
10 Jungreis, I., Sealfon, R. & Kellis, M. SARS-CoV-2 gene content and COVID-19 mutation impact by comparing 44 Sarbecovirus genomes. Nature Communications 12, 2642 (2021). https://doi.org:10.1038/s41467-021-22905-7
11 Subissi, L. et al. One severe acute respiratory syndrome coronavirus protein complex integrates processive RNA polymerase and exonuclease activities. Proc Natl Acad Sci U S A 111, E3900-3909 (2014). https://doi.org:10.1073/pnas.1323705111
12 Hillen, H. S. et al. Structure of replicating SARS-CoV-2 polymerase. Nature 584, 154-156 (2020). https://doi.org:10.1038/s41586-020-2368-8
13 Kirchdoerfer, R. N. & Ward, A. B. Structure of the SARS-CoV nsp12 polymerase bound to nsp7 and nsp8 co-factors. Nat Commun 10, 2342 (2019). https://doi.org:10.1038/s41467-019-10280-3
14 te Velthuis, A. J., Arnold, J. J., Cameron, C. E., van den Worm, S. H. & Snijder, E. J. The RNA polymerase activity of SARS-coronavirus nsp12 is primer dependent. Nucleic Acids Res 38, 203-214 (2010). https://doi.org:10.1093/nar/gkp904
15 Imbert, I. et al. A second, non-canonical RNA-dependent RNA polymerase in SARS Coronavirus. The EMBO Journal 25, 4933-4942 (2006). https://doi.org:https://doi.org/10.1038/sj.emboj.7601368
16 Imbert, I. et al. A second, non-canonical RNA-dependent RNA polymerase in SARS coronavirus. Embo j 25, 4933-4942 (2006). https://doi.org:10.1038/sj.emboj.7601368
17 Park, G. J. et al. The mechanism of RNA capping by SARS-CoV-2. Nature 609, 793-800 (2022). https://doi.org:10.1038/s41586-022-05185-z
18 Yan, L. et al. Architecture of a SARS-CoV-2 mini replication and transcription complex. Nature Communications 11, 5874 (2020). https://doi.org:10.1038/s41467-020-19770-1
19 Egloff, M.-P. et al. The severe acute respiratory syndrome-coronavirus replicative protein nsp9 is a single-stranded RNA-binding subunit unique in the RNA virus world. Proceedings of the National Academy of Sciences 101, 3792-3796 (2004). https://doi.org:doi:10.1073/pnas.0307877101
20 de O. Araujo, J. et al. Structural, energetic and lipophilic analysis of SARS-CoV-2 non-structural protein 9 (NSP9). Scientific Reports 11, 23003 (2021). https://doi.org:10.1038/s41598-021-02366-0
21 Littler, D. R., Gully, B. S., Colson, R. N. & Rossjohn, J. Crystal Structure of the SARS-CoV-2 Non-structural Protein 9, Nsp9. iScience 23, 101258 (2020). https://doi.org:https://doi.org/10.1016/j.isci.2020.101258
22 Sutton, G. et al. The nsp9 Replicase Protein of SARS-Coronavirus, Structure and Functional Insights. Structure 12, 341-353 (2004). https://doi.org:https://doi.org/10.1016/j.str.2004.01.016
23 El-Kamand, S. et al. A distinct ssDNA/RNA binding interface in the Nsp9 protein from SARS-CoV-2. Proteins: Structure, Function, and Bioinformatics 90, 176-185 (2022). https://doi.org:https://doi.org/10.1002/prot.26205
24 Goebel, S. J., Hsue, B., Dombrowski, T. F. & Masters, P. S. Characterization of the RNA Components of a Putative Molecular Switch in the 3′ Untranslated Region of the Murine Coronavirus Genome. Journal of Virology 78, 669-682 (2004). https://doi.org:10.1128/jvi.78.2.669-682.2004
25 Sun, L. et al. In vivo structural characterization of the SARS-CoV-2 RNA genome identifies host proteins vulnerable to repurposed drugs. Cell 184, 1865-1883.e1820 (2021). https://doi.org:https://doi.org/10.1016/j.cell.2021.02.008
26 Manfredonia, I. et al. Genome-wide mapping of SARS-CoV-2 RNA structures identifies therapeutically-relevant elements. Nucleic Acids Research (2020). https://doi.org:10.1093/nar/gkaa1053
27 Huston, N. C. et al. Comprehensive in vivo secondary structure of the SARS-CoV-2 genome reveals novel regulatory motifs and mechanisms. Molecular Cell 81, 584-598.e585 (2021). https://doi.org:https://doi.org/10.1016/j.molcel.2020.12.041
28 Lan, T. C. T. et al. Secondary structural ensembles of the SARS-CoV-2 RNA genome in infected cells. Nature Communications 13, 1128 (2022). https://doi.org:10.1038/s41467-022-28603-2
29 Cao, C. et al. The architecture of the SARS-CoV-2 RNA genome inside virion. Nature Communications 12, 3917 (2021). https://doi.org:10.1038/s41467-021-22785-x
30 Stammler, S. N., Cao, S., Chen, S.-J. & Giedroc, D. P. A conserved RNA pseudoknot in a putative molecular switch domain of the 3′-untranslated region of coronaviruses is only marginally stable. RNA 17, 1747-1759 (2011). https://doi.org:10.1261/rna.2816711
31 Zhang, Y. et al. In vivo structure and dynamics of the SARS-CoV-2 RNA genome. Nature Communications 12, 5695 (2021). https://doi.org:10.1038/s41467-021-25999-1
32 Wacker, A. et al. Secondary structure determination of conserved SARS-CoV-2 RNA elements by NMR spectroscopy. Nucleic Acids Research (2020). https://doi.org:10.1093/nar/gkaa1013
33 Zhai, Y. et al. Insights into SARS-CoV transcription and replication from the structure of the nsp7-nsp8 hexadecamer. Nature Structural & Molecular Biology 12, 980-986 (2005). https://doi.org:10.1038/nsmb999
34 Zhang, C., Li, L., He, J., Chen, C. & Su, D. Nonstructural protein 7 and 8 complexes of SARS-CoV-2. Protein Science 30, 873-881 (2021). https://doi.org:https://doi.org/10.1002/pro.4046
35 Krichel, B. et al. Hallmarks of Alpha- and Betacoronavirus non-structural protein 7+8 complexes. Science Advances 7, eabf1004 (2021). https://doi.org:doi:10.1126/sciadv.abf1004
36 Biswal, M. et al. Two conserved oligomer interfaces of NSP7 and NSP8 underpin the dynamic assembly of SARS-CoV-2 RdRP. Nucleic Acids Research 49, 5956-5966 (2021). https://doi.org:10.1093/nar/gkab370
37 Rangan, R. et al. De novo 3D models of SARS-CoV-2 RNA elements from consensus experimental secondary structures. Nucleic Acids Research 49, 3092-3108 (2021). https://doi.org:10.1093/nar/gkab119
38 Tonelli, M., Rienstra, C., Anderson, T. K., Kirchdoerfer, R. & Henzler-Wildman, K. (1)H, (13)C, and (15)N backbone and side chain chemical shift assignments of the SARS-CoV-2 non-structural protein 7. Biomol NMR Assign 15, 73-77 (2021). https://doi.org:10.1007/s12104-020-09985-0
39 Park, J. H. & Moon, J. Conserved 3′ UTR of Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2: Potential Therapeutic Targets. Frontiers in Genetics 13 (2022). https://doi.org:10.3389/fgene.2022.893141
40 Ohyama, T. et al. An NMR-based approach reveals the core structure of the functional domain of SINEUP lncRNAs. Nucleic Acids Research 48, 9346-9360 (2020). https://doi.org:10.1093/nar/gkaa598
41 McLellan, T. Electrophoresis buffers for polyacrylamide gels at various pH. Analytical Biochemistry 126, 94-99 (1982). https://doi.org:https://doi.org/10.1016/0003-2697(82)90113-0
42 Thier, S. O. Potassium physiology. The American Journal of Medicine 80, 3-7 (1986). https://doi.org:https://doi.org/10.1016/0002-9343(86)90334-7
43 Lee, W., Tonelli, M. & Markley, J. L. NMRFAM-SPARKY: enhanced software for biomolecular NMR spectroscopy. Bioinformatics 31, 1325-1327 (2015). https://doi.org:10.1093/bioinformatics/btu830
44 Chan AP, Choi Y, Schork NJ. Conserved Genomic Terminals of SARS-CoV-2 as Co-evolving Functional Elements and Potential Therapeutic Targets. bioRxiv [Preprint]. 2020 Jul 6:2020.07.06.190207. doi: 10.1101/2020.07.06.190207. Update in: mSphere. 2020 Nov 25;5(6): PMID: 32676601; PMCID: PMC7359523.
図1
図2
図3
図4
図5
図6-1】
図6-2】
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
【配列表】
2024128959000001.xml