IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社レールテックの特許一覧

<>
  • 特開-火花ガード及びレール削正車 図1
  • 特開-火花ガード及びレール削正車 図2
  • 特開-火花ガード及びレール削正車 図3
  • 特開-火花ガード及びレール削正車 図4
  • 特開-火花ガード及びレール削正車 図5
  • 特開-火花ガード及びレール削正車 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128981
(43)【公開日】2024-09-25
(54)【発明の名称】火花ガード及びレール削正車
(51)【国際特許分類】
   E01B 31/17 20060101AFI20240917BHJP
   B61D 15/00 20060101ALI20240917BHJP
【FI】
E01B31/17
B61D15/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038181
(22)【出願日】2023-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】597110995
【氏名又は名称】株式会社レールテック
(74)【代理人】
【識別番号】100113712
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 裕弘
(72)【発明者】
【氏名】手塚 稔
(72)【発明者】
【氏名】井上 和真
【テーマコード(参考)】
2D057
【Fターム(参考)】
2D057BA26
(57)【要約】
【課題】削正火花の飛散を防ぎ、焼損し難い火花ガードを提供する。
【解決手段】火花ガード1は、レール削正車に設けられて削正火花の飛散を防ぐためのものである。火花ガード1は、面状鎖列2を備える。面状鎖列2は、複数列の金属製の鎖21を平面状に並べて吊り下げたものである。面状鎖列2は、上部が支持されて軌道面に向かって垂下する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レール削正車に設けられて削正火花の飛散を防ぐための火花ガードであって、
複数列の金属製の鎖を平面状に並べて吊り下げた面状鎖列を備え、
前記面状鎖列は、上部が支持されて軌道面に向かって垂下することを特徴とする火花ガード。
【請求項2】
重ねられた複数層の前記面状鎖列を有することを特徴とする請求項1に記載の火花ガード。
【請求項3】
削正火花を遮るための金属製の遮蔽板をさらに備え、
前記遮蔽板は、上部がレール削正車に支持され、
前記面状鎖列は、前記遮蔽板の下部に支持されることを特徴とする請求項1に記載の火花ガード。
【請求項4】
前記遮蔽板は、上下方向及び横方向に並べた複数の金属板で構成され、
前記各金属板は、変位可能に支持されることを特徴とする請求項3に記載の火花ガード。
【請求項5】
前記鎖は、銅合金又は銅から成ることを特徴とする請求項1に記載の火花ガード。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の火花ガードが設けられたレール削正車であって、
前記火花ガードを通過した削正火花を遮るための耐熱布を有し、
前記耐熱布は、巻き上げ可能に設けられ、吊り下げられた状態で前記火花ガードの外側に位置することを特徴とするレール削正車。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レール削正車に設けられて削正火花の飛散を防ぐための火花ガード、及びその火花ガードを有するレール削正車に関する。
【背景技術】
【0002】
線路の保守において、レール寿命の延伸、列車の走行安全性の確保、及び列車の走行騒音低減を目的としてレール削正が行われる。レール削正は、レール頭頂面や側面の凹凸を滑らかに削る保線作業である(非特許文献1の番号405参照)。レール削正は、レール削正車を用いて行われる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
レール削正車は、レール表面に回転砥石を押し付けて削正するので、削正クズである鉄粉が摩擦熱で発火して火花(削正火花)を発生する。削正火花が飛散すると、沿線火災が発生するおそれがある。このため、レール削正車は、削正火花の飛散を防ぐために防護シートが設けられる(例えば、特許文献2参照)。図6に示すように、防護シートは、耐熱布であり、レール削正車の車体下部から軌道面近傍まで吊り下げられる。
【0004】
現在用いられている防護シートの耐熱温度は、連続で260℃、断続で1093℃である(純正品の仕様)。レール削正の火花の温度は、1200℃から1700℃であり、防護シートの耐熱温度を超えている。このため、防護シートは、削正火花で焼損し、交換する必要がある。防護シートは、高価であり、交換の手間もかかる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-224608号公報
【特許文献2】特開2015-214827号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】JIS E 1001:2001「鉄道-線路用語」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題を解決するものであり、削正火花の飛散を防ぎ、焼損し難い火花ガードを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の火花ガードは、レール削正車に設けられて削正火花の飛散を防ぐためのものであって、複数列の金属製の鎖を平面状に並べて吊り下げた面状鎖列を備え、前記面状鎖列は、上部が支持されて軌道面に向かって垂下することを特徴とする。
【0009】
この火花ガードにおいて、重ねられた複数層の前記面状鎖列を有することが好ましい。
【0010】
この火花ガードにおいて、削正火花を遮るための金属製の遮蔽板をさらに備え、前記遮蔽板は、上部がレール削正車に支持され、前記面状鎖列は、前記遮蔽板の下部に支持されることが好ましい。
【0011】
この火花ガードにおいて、前記遮蔽板は、上下方向及び横方向に並べた複数の金属板で構成され、前記各金属板は、変位可能に支持されることが好ましい。
【0012】
この火花ガードにおいて、前記鎖は、銅合金又は銅から成ることが好ましい。
【0013】
本発明のレール削正車は、前記の火花ガードが設けられたレール削正車であって、前記火花ガードを通過した削正火花を遮るための耐熱布を有し、前記耐熱布は、巻き上げ可能に設けられ、吊り下げられた状態で前記火花ガードの外側に位置することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の火花ガードによれば、削正火花は、面状鎖列によってほとんど遮られ、飛散が防がれる。一部の切削火花は、面状鎖列を通過するが、面状鎖列を通過する時に鎖に衝突して熱を奪われる。面状鎖列の鎖は、金属製であるので、削正火花によって焼損し難い。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は本発明の第1の実施形態に係る火花ガードの正面図である。
図2図2は同火花ガードの側面図である。
図3図3は本発明の第2の実施形態に係る火花ガードの正面図である。
図4図4は同火花ガードの側面図である。
図5図5はレール削正車に設けられる巻上機の正面図である。
図6図6はレール削正車に設けられた従来の防護シートの図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係る火花ガードを図1及び図2を参照して説明する。火花ガードは、レール削正車に設けられて、レール削正で発生する削正火花の飛散を防ぐためのものである。火花ガードは、従来の防護シートの代わりに用いられる。
【0017】
図1に示すように、火花ガード1は、面状鎖列2を備える。面状鎖列2は、複数列の金属製の鎖21を平面状に並べて吊り下げたものである。面状鎖列2は、上部が支持されて軌道面に向かって垂下する。面状鎖列2を構成する鎖21は、密に配置される。
【0018】
鎖は、チェーンともいい、鎖素子という連結可能な部品を複数連結して線状にしたものである。鎖(チェーン)は、撚線と比べて腐食に強く、太くても可撓性が高い。
【0019】
本実施形態では、各鎖21は、ほぼ同じ長さであり、上部がねじ31で取付板3に固定される。取付板3は、横長の平らな金属板であり、レール削正車に取り付けられる。火花ガード1がレール削正車に取り付けられた状態で、面状鎖列2は、その下端がレールの頭頂面より低い。面状鎖列2の下端は、軌道に接触することが望ましい。面状鎖列2の下端が軌道のバラスト等に接触することにより、面状鎖列2の下を火花が通り抜けることが防がれる。面状鎖列2は、柔軟性が高いので、軌道に接触しても軌道を損傷せず、ケーブルやトラフ等の地上設備に接触しても地上設備を損傷しない。
【0020】
上記のように構成された火花ガード1において、削正火花は、面状鎖列2によってほとんど遮られ、飛散が防がれる。一部の切削火花は、面状鎖列2を通過するが、面状鎖列2を通過する時に鎖21に衝突して熱を奪われる。面状鎖列2の鎖21は、金属製であるので、削正火花によって焼損し難い。
【0021】
本実施形態では、鎖21は、銅合金又は銅から成る。その銅合金は、例えば、真鍮、リン青銅、青銅である。削正火花(削正クズ)は高温の鉄粉である。鉄と銅は、結晶構造、比重、融点が異なるので合金化が不可能に近い組み合わせである。このため、銅合金又は銅から成る鎖21は、高温の鉄粉が付着し難い。銅及びその合金は、熱伝導率が高いので、高温の鉄粉が当たっても冷却されやすい。また、銅及びその合金は、アルミニウムよりも耐熱性が高い。
【0022】
図2に示すように、火花ガード1は、重ねられた複数層の面状鎖列2を有する。本実施形態では、火花ガード1の面状鎖列2は、3層(3重)である。
【0023】
面状鎖列2を重ねることにより、火花ガード1を通過する削正火花の割合が低下する。
【0024】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係る火花ガードを図3及び図4を参照して説明する。本実施形態の火花ガードは、第1の実施形態と同様の面状鎖列を有し、遮蔽板が追加されている。第1の実施形態と同等の箇所には同じ符号を付している。以下の説明において、第1の実施形態と同等の箇所の詳細な説明は省略する。
【0025】
図3及び図4に示すように、火花ガード10は、削正火花を遮るための金属製の遮蔽板4をさらに備える。遮蔽板4は、上部がレール削正車に支持される。面状鎖列2は、遮蔽板4の下部に支持される。
【0026】
遮蔽板4は、上部がねじ42で取付板5に取り付けられる。取付板5は、横長の平らな金属板であり、レール削正車に取り付けられる。すなわち、遮蔽板4は、取付板5を介してレール削正車に支持される。火花ガード10がレール削正車に取り付けられた状態で、面状鎖列2は、その下端がレールの頭頂面より低い。面状鎖列2の下端は、軌道に接触することが望ましい。面状鎖列2の下端が軌道に接触することにより、面状鎖列2の下を削正火花が通り抜けることが防がれる。面状鎖列2は、柔軟性が高いので、軌道に接触しても軌道を損傷せず、地上設備に接触しても地上設備を損傷しない。
【0027】
上記のように構成された火花ガード10において、遮蔽板4に当たった切削火花は遮られ、面状鎖列2に当たった切削火花はほとんど遮られ、飛散が防がれる。切削火花は遮蔽板4を通過しない。一部の切削火花は、面状鎖列2を通過するが、面状鎖列2を通過する時に鎖21に衝突して熱を奪われる。遮蔽板4と面状鎖列2の鎖21は、金属製であるので、削正火花によって焼損し難い。
【0028】
遮蔽板4は、面状鎖列2よりも軽量で低コストであるので、遮蔽板4を有する火花ガード10は、遮蔽板4を有しない火花ガード1よりも軽量で低コストである。
【0029】
本実施形態では、遮蔽板4は、銅合金又は銅の板である。その銅合金は、例えば、真鍮、リン青銅、青銅である。削正火花(削正クズ)は高温の鉄粉である。鉄と銅は、合金化が不可能に近い組み合わせである。このため、銅合金又は銅の板である遮蔽板4は、高温の鉄粉が付着し難い。銅及びその合金は、熱伝導率が高いので、高温の鉄粉が当たっても冷却されやすい。また、銅及びその合金は、アルミニウムよりも耐熱性が高い。
【0030】
遮蔽板4は、上下方向及び横方向に並べた複数の金属板41で構成される。各金属板41は、変位可能に支持される。各金属板41は、長方形である。隣り合う遮蔽板4は、隙間ができないように端部が重なっている。
【0031】
遮蔽板4が力学的に一体でなければよく、金属板41の変位可能な量は小さくてもよい。各金属板41は、ボルト・ナット42によって揺動可能に支持される。一番上の行の金属板41は、取付板5に支持される。それ以外の金属板41は、一つ上の行の金属板41に支持される。遮蔽板4は、レール削正車の車両限界内に設けられるので、通常は地上設備に当たらないが、もし、作業中に遮蔽板4が地上の物体に当たった場合、その物体は、当たった金属板41から衝撃力を受ける。1枚の金属板41の質量が遮蔽板4全体の質量よりも小さいので、衝撃力もほぼ同じ比率で小さくなる。
【0032】
第1及び第2の実施形態の変形例として、火花ガード1又は火花ガード10が設けられたレール削正車において、火花ガード1、10を通過した削正火花を遮るための耐熱布を設けてもよい。図5に示すように、耐熱布6は、巻上機7によって、巻き上げ可能に設けられる。耐熱布6は、吊り下げられた状態で火花ガード1、10の外側に位置する。耐熱布6は、巻き上げられた状態でレール削正車の車両限界内に位置する。火花ガード1、10の外側とは、火花ガード1、10を通過した削正火花が飛ぶ側である。
【0033】
巻上機7は、軸部71と、ハンドル72と、ストッパ73と、取付部74を有する。軸部71は、耐熱布6が巻かれる。ハンドル72は、軸部71を回すための部材である。ストッパ73は、軸部の回転を止めるものである。取付部74は、巻上機7をレール削正車に取り付ける部材である。
【0034】
耐熱布6によって、火花ガード1、10を通過した削正火花が遮られる。
【0035】
火花ガード1、10を通過する削正火花は、ごくわずかであり、面状鎖列2の鎖21に熱を奪われるので、耐熱布6をほとんど焼損しない。このため、耐熱布6は、従来の防護シートよりも耐熱性が低くてもよく、耐熱布6のコストダウンができる。
【実施例0036】
面状鎖列2が削正火花の飛散を防止する効果を調べる試験を行った。一頭式レール削正機(砥石が一つのレール削正車)に火花ガード1を設け、レール削正を行い、火花通過量と火花阻止量を測定した。火花通過量と火花阻止量は、それぞれ火花ガード1の外側と内側で回収した削正カスの重量である。3回レール削正を行い、測定値の平均値を求めた。そして、火花通過率と火花阻止率を算出した(合計100%)。実施例1では、1層の面状鎖列2を用いた。面状鎖列2の鎖21は、アルミ製とした。
【0037】
削正火花が面状鎖列2で拡散されるとともに、面状鎖列2の内側よりも外側の削正火花が減少することが目視で確認された。面状鎖列2の外側の削正火花の減少したのは、面状鎖列2が削正火花を遮ったためである。削正火花が面状鎖列2に当たって拡散するのは、通過する削正火花が鎖21に当たっているからであり、それにより削正火花は鎖21に熱を奪われることになる。測定の結果、火花透過率は42%であった。
【実施例0038】
2層の面状鎖列2を用いた。それ以外の試験条件は実施例1と同じにした。火花透過率は21%であった。2層の面状鎖列2を用いることによって、1層の面状鎖列2と比べて火花透過率が半減した。
【実施例0039】
3層の面状鎖列2を用いた。それ以外の試験条件は実施例1、2と同じにした。火花透過率は10%であった。3層の面状鎖列2を用いることによって、2層の面状鎖列2と比べて火花透過率がほぼ半減した。
【実施例0040】
実施例1~3の試験後、削正カスである鉄粉がアルミ製の鎖21に付着していたため、面状鎖列2の鎖21の金属を変更する試験を行った。アルミニウム、鉄、真鍮のそれぞれから成る面状鎖列2に削正火花を一定時間当てて鉄粉の付着量を確認した。その結果、銅合金である真鍮の鎖21が、削正火花による鉄粉の付着量が少ないことが分かった。
【実施例0041】
面状鎖列2の鎖21を真鍮製とし、3層の面状鎖列2を有する火花ガード1を作製した(第1の実施形態)。多頭式のレール削正車において削正火花が最も当たる箇所に火花ガード1を設けた。なお、レール削正車におけるそれ以外の箇所には、従来と同じ防護シートを設けた。
【0042】
火花ガード1によって、削正火花の飛散が十分に防がれた。面状鎖列2は、変色はするものの、削正カスの付着、焼損はなかった。
【実施例0043】
火花ガード1の外側に耐熱布6をさらに設けた(第2の実施形態)。それ以外の試験条件は実施例5と同じにした。耐熱布6には、純正品(輸入品)の防護シートではなく、国産品を用いた。その国産品は、カーボングラスシート製の防火シートであり、耐熱温度は1000℃が限界であり、純正品よりも耐熱温度が低いが、価格が純正品の2割弱と安い。耐熱布6の焼損はなかった。
【0044】
なお、本発明は、上記の実施形態の構成に限られず、発明の要旨を変更しない範囲で種々の変形が可能である。例えば、火花ガード1は、4層以上の面状鎖列2を有してもよい。
【符号の説明】
【0045】
1、10 火花ガード
2 面状鎖列
21 鎖
4 遮蔽板
41 金属板
6 耐熱布
図1
図2
図3
図4
図5
図6