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特開2024-128983カーボンブラックのアグリゲートの集まりからなる絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムを作成する方法
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  • 特開-カーボンブラックのアグリゲートの集まりからなる絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムを作成する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128983
(43)【公開日】2024-09-25
(54)【発明の名称】カーボンブラックのアグリゲートの集まりからなる絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムを作成する方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20240917BHJP
   B29C 65/02 20060101ALI20240917BHJP
【FI】
C08J5/18 CER
C08J5/18 CEZ
B29C65/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038184
(22)【出願日】2023-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】512150358
【氏名又は名称】小林 博
(72)【発明者】
【氏名】小林 博
【テーマコード(参考)】
4F071
4F211
【Fターム(参考)】
4F071AA31
4F071AB03
4F071AD07
4F071AE15
4F071AF15
4F071BB03
4F071BC01
4F071BC12
4F211AA24
4F211AA29
4F211AB18
4F211AB19
4F211AC05
4F211AD16
4F211AG01
4F211AR12
4F211AR15
4F211TA01
4F211TC01
4F211TD11
(57)【要約】      (修正有)
【課題】カーボンブラックを用い、絶縁性シートないしは絶縁性フィルムを作成する方法を見出す。また、合成樹脂のシートないしはフィルムに比べ紫外線による劣化がなく、耐熱性に優れ、耐食性に優れるシートないしはフィルムを作成する方法を見出す。さらに、絶縁性シートないしは絶縁性フィルムを、基材や部品に接合する方法を見出す。
【解決手段】有機溶剤に浸漬したカーボンブラックの集まりを限界の大きさに粉砕する。粉砕したカーボンブラックにおけるアグリゲートの絡み合いを分離させ、絶縁性の有機化合物を溶解させる。この懸濁液を容器に充填し、有機溶剤を気化させ、有機化合物を熱融解させる。この後、懸濁液の表面全体を圧縮し、シートないしはフィルムの形成に過剰な有機化合物を押出し、アグリゲート同士を摩擦圧接で接合し、アグリゲートの集まりの空隙を固化した有機化合物で埋め、絶縁性シートないしは絶縁性フィルムを容器の底面に形成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンブラックのアグリゲート同士を摩擦圧接で接合し、該接合したアグリゲートの集まりにおける空隙を、絶縁性である固体の有機化合物で埋め尽くし、かつ、該接合したアグリゲートの集まりの表面全体を、前記絶縁性である固体の有機化合物の被膜で覆った構成からなる絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムを作成する方法は、
有極性の絶縁体である有機化合物に溶解する第一の性質と、20℃における粘度が1.2mPa・秒以下である第二の性質と、密度が1.0g/cmより小さい第三の性質と、沸点が前記有機化合物の融点より低い第四の性質を兼備する有極性の有機溶剤を、カーボンブラックの集まりの重量より多い重量として秤量し、該秤量した有極性の有機溶剤と前記カーボンブラックの集まりを、第一の容器に投入し、該有極性の有機溶剤を攪拌し、前記カーボンブラックの集まりが前記有極性の有機溶剤中に浸漬した第一の懸濁液を作成する、この後、該第一の懸濁液の表面全体を覆う第一の板材を、該第一の懸濁液の上に被せ、さらに、該第一の板材の表面全体に圧縮荷重を均一に加え、前記有極性の有機溶剤に浸漬したカーボンブラックの集まりを粉砕する、さらに、前記第一の板材を前記第一の懸濁液から引き上げ、前記第一の容器を加振機の加振台の上に配置し、該加振機を稼働し、前記第一の容器に、前後、左右、上下の3方向の振動加速度を繰り返し加え、前記粉砕したカーボンブラックの集まりの前記有極性の有機溶剤中における集積度を高める、この後、前記第一の板材を前記第一の懸濁液に再度被せ、該第一の板材の表面全体に前記圧縮荷重を再度均一に加え、前記有極性の有機溶剤中に浸漬した前記カーボンブラックの集まりの粉砕をさらに進める、さらに、前記第一の板材を前記第一の懸濁液から再度引き上げ、前記第一の容器に前記3方向の振動加速度を再度繰り返し加える、こうした前記圧縮荷重を加える処理と前記振動加速度を加える処理とからなる一対の処理を繰り返し、前記第一の板材に前記圧縮荷重を加えた際に、該第一の板材に反発力が発生した時点で、前記有極性の有機溶剤中に浸漬した前記カーボンブラックの集まりの粉砕が完了したと判断し、前記一対の処理を停止する、この後、前記第一の板材を前記第一の容器から取り出す第一の工程と、
前記第一の容器内にホモジナイザー装置を配置し、該ホモジナイザー装置を稼働させ、前記有極性の有機溶剤を介して、前記粉砕が完了したカーボンブラックの集まりに衝撃波を繰り返し加え、該カーボンブラックの集まりにおけるアグリゲート同士の絡み合いを分離させ、さらに、前記有極性の有機溶剤を介して前記アグリゲート同士を絡み合わせ、該絡み合ったアグリゲートの集まりが、前記有極性の有機溶剤に分散した第二の懸濁液を作成する第二の工程と、
融点が200℃より高い第一の性質と、沸点が290℃より高い第二の性質と、有極性の絶縁体である第三の性質を兼備する絶縁性の有機化合物を、前記第一の容器内の第二の懸濁液の重量より少ない重量として秤量し、該秤量した絶縁性の有機化合物を、前記第一の容器内の第二の懸濁液に注入し、該第二の懸濁液を撹拌し、前記絶縁性の有機化合物を、該第二の懸濁液を構成する前記有極性の有機溶剤に溶解させ、該絶縁性の有機化合物が前記有極性の有機溶剤に溶解した液体を介して、前記アグリゲート同士を絡み合わせ、該絡み合ったアグリゲートの集まりが前記液体に分散した第三の懸濁液を作成する第三の工程と、
作成するシートないしは作成するフィルムの形状を底面として有する第二の容器に、前記第三の懸濁液の一部を、前記作成するシートないしは前記作成するフィルムの大きさと厚みとに応じた量として充填する、この後、該第二の容器を、第一の工程で用いた加振機の加振台の上に配置させ、該加振機を稼働させ、該第二の容器に、第一の工程で加えた振動加速度より小さな3方向の振動加速度を繰り返し加え、前記第三の懸濁液における前記アグリゲートの集まりの集積度を高める、この後、該第二の容器を熱処理装置内に移動し、該第二の容器を前記絶縁性の有機化合物の融点より高い温度に昇温し、前記第三の懸濁体から前記有極性の有機溶剤を気化させ、さらに、前記絶縁性の有機化合物を熱融解させる、これによって、該熱融解した絶縁性の有機化合物を介して前記アグリゲート同士が絡み合い、該絡み合ったアグリゲートの集まりが、前記熱融解した絶縁性の有機化合物に分散した第四の懸濁液が作成される、この後、前記第二の容器を前記熱処理装置から移動する第四の工程と、
前記第二の容器内の前記第四の懸濁液の表面全体を覆う第二の板材を、該第四の懸濁液の表面の上に被せる、さらに、該第二の板材の表面全体に、第一の工程で加えた圧縮荷重より大きな圧縮荷重を均一に加える、これによって、最初に、前記第四の懸濁液におけるシートないしはフィルムの形成に必要な量より過剰な前記熱融解した絶縁性の有機化合物が、前記第二の板材の表面に滲み出る、次に、前記アグリゲートの多くが前記熱融解した絶縁性の有機化合物を介して互いに絡み合うとともに、前記アグリゲートの多くが前記熱融解した絶縁性の有機化合物を介して互いに接触する、さらに、前記第四の懸濁液における前記アグリゲートの集まりの空隙が、前記熱融解した絶縁性の有機化合物で埋め尽くされ、さらに、前記熱融解した絶縁性の有機化合物を介して互いに絡み合った前記アグリゲート同士の絡み合い部と、前記熱融解した絶縁性の有機化合物を介して互いに接合した前記アグリゲート同士の接触部に圧縮応力が加わり、該絡み合い部と該接触部から前記熱融解した絶縁性の有機化合物が押し出され、この後、前記アグリゲート同士が、前記絡み合い部と前記接触部で摩擦圧接によって接合する、さらに、前記第二の容器を前記絶縁性の有機化合物の融点より低い温度に冷却させる、この結果、前記摩擦圧接で接合したアグリゲートの集まりと、該アグリゲートの集まりにおける空隙が固化した絶縁性の有機化合物で埋め尽くされ、さらに、該アグリゲートの集まりの表面全体が固化した絶縁性の有機化合物の被膜で覆われた構成からなるシートないしはフィルムが、前記第二の容器の底面の形状として作成される第五の工程と、
前記第二の容器の底面の複数個所に、同一の衝撃加速度を上下方向に同時に加え、該第二の容器の底面に形成された前記シートないしは前記フィルムを、該第二の容器の底面から引き剥がし、さらに、前記第二の板材の表面の複数個所に、前記と同じ大きさの衝撃加速度を上下方向に同時に加え、該第二の板材の表面に接合した前記シートないしは前記フィルムを該第二の板材の表面から引き剥がす第六の工程からなり、
前記した6つの工程を連続して実施する方法が、カーボンブラックのアグリゲート同士を摩擦圧接で接合し、該接合したアグリゲートの集まりにおける空隙を、固体の絶縁性の有機化合物で埋め尽くし、かつ、該接合したアグリゲートの集まりの表面全体を、前記固体の絶縁性の有機化合物の被膜で覆った構成からなる絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムを作成する方法である。
【請求項2】
請求項1に記載した絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムが、ケッチェンブラックのアグリゲート同士を摩擦圧接で接合し、該接合したアグリゲートの集まりにおける空隙を、固体の絶縁性の有機化合物で埋め尽くし、かつ、該接合したアグリゲートの集まりの表面全体を、前記固体の絶縁性の有機化合物の被膜で覆った構成からなる絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムであり、該絶縁性のシートないしは該絶縁性のフィルムを作成する方法は、
請求項1に記載したカーボンブラックとしてケッチェンブラックを用い、請求項1に記載した絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムを作成する方法に従って、請求項1に記載した6つの工程を連続して実施する方法が、絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムを作成する方法である。
【請求項3】
請求項1に記載した絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムを作成する方法は、
請求項1に記載した有極性の有機溶剤としてメタノールないしはエタノールを用い、請求項1に記載した有極性の絶縁体である有機化合物としてフタル酸を用い、請求項1に記載した絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムを作成する方法に従って、請求項1に記載した6つの工程を連続して実施する方法が、請求項1に記載した絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムを作成する方法である。
【請求項4】
請求項1に記載した絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムを作成する方法は、
請求項1に記載した有極性の有機溶剤としてメタノールないしはエタノールを用い、請求項1に記載した有極性の絶縁体である有機化合物としてイソフタル酸を用い、請求項1に記載した絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムを作成する方法に従って、請求項1に記載した6つの工程を連続して実施する方法が、請求項1に記載した絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムを作成する方法である。
【請求項5】
請求項1に記載した絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムを作成する方法は、
請求項1に記載した有極性の有機溶剤としてN、N-ジメチルホルムアミドを用い、請求項1に記載した有極性の絶縁体である有機化合物としてテレフタル酸を用い、請求項1に記載した絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムを作成する方法に従って、請求項1に記載した6つの工程を連続して実施する方法が、請求項1に記載した絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムを作成する方法である。
【請求項6】
請求項1に記載した方法で作成した絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムを、基材ないしは部品に接合する方法は、
請求項1に記載した方法で作成した絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムを、基材ないしは部品の予め決めた位置に配置し、該絶縁性のシートないしは該絶縁性のフィルムの表面の全体に圧縮荷重を均等に加えて圧縮し、該絶縁性のシートの裏面の固体の絶縁性の有機化合物を、ないしは、該絶縁性のフィルムの裏面の固体の絶縁性の有機化合物を、前記基材ないしは前記部品の表面に熱溶着させ、該有機化合物の熱溶着によって、前記絶縁性のシートないしは前記絶縁性のフィルムを、前記基材ないしは前記部品に接合させる方法である、
ないしは、
請求項1に記載した方法で作成した絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムを所定の形状に切断し、該切断した絶縁性のシートないしは該切断した絶縁性のフィルムを、基材ないしは部品の予め決めた位置に配置し、該切断した絶縁性のシートないしは該切断した絶縁性のフィルムの表面の全体に圧縮荷重を均等に加えて圧縮し、該切断した絶縁性のシートの裏面の固体の絶縁性の有機化合物を、ないしは、該切断した絶縁性のフィルムの裏面の固体の絶縁性の有機化合物を、前記基材ないしは前記部品の表面に熱溶着させ、該有機化合物の熱溶着によって、前記切断した絶縁性のシートないしは前記切断した絶縁性のフィルムを、前記基材ないしは前記部品に接合させる方法である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦圧接でアグリゲート同士を接合し、接合したアグリゲートの集まりにおける空隙を、絶縁性である固体の有機化合物で埋め尽くし、また、接合したアグリゲートの集まりの表面全体を、絶縁性である固体の有機化合物の被膜で覆った構成からなる絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムを作成する方法に関わる。
すなわち、有極性の絶縁体である有機化合物に溶解する第一の性質と、20℃における粘度が1.2mPa・秒以下である第二の性質と、密度が1.0g/cmより小さい第三の性質と、沸点が前記有機化合物の融点より低い第四の性質を兼備する有極性の有機溶剤にカーボンブラックの集まりを浸漬し、該カーボンブラックの集まりを圧縮して粉砕する。さらに、粉砕したカーボンブラックの集まりに3方向の振動加速度を加える。なお、有極性の有機溶剤の密度は、0.94g/cm以下と小さく、これに対し、カーボンブラックの密度は、1.8-2.1g/cmである。また、有極性の有機溶剤の粘度は、1.2mPa・秒以下と低い。従って、粉砕したカーボンブラックの集まりに3方向の振動加速度を加えると、低粘度で低密度の有極性の有機溶剤中において、粉砕したカーボンブラックの集まりの集積度が高まる。この圧縮応力を加える処理と3方向の振動加速度を加える処理からなる一対の処理を繰り返し、カーボンブラックの集まりを、有極性の有機溶剤中で限界の大きさに粉砕する。さらに、ホモジナイザー装置によって、粉砕したカーボンブラックの集まりに衝撃波を繰り返し加え、粉砕されたカーボンブラックの集まりにおけるアグリゲートの絡み合いを分離させ、有極性の有機溶剤を介してアグリゲート同士を絡み合わせ、該絡み合ったアグリゲートの集まりが有極性の有機溶剤に分散した第一の懸濁液を作成する。この後、第一の懸濁液に絶縁性の有機化合物を混合し、絶縁性の有機化合物が有極性の有機溶剤に溶解した液体を介して、アグリゲート同士を絡み合わせ、絡み合ったアグリゲートの集まりが液体に分散した第二の懸濁液を作成する。さらに、第二の懸濁液を容器に充填し、容器を絶縁性の有機化合物の融点より高い温度に昇温し、第二の懸濁液から有極性の有機溶剤を気化させ、さらに、絶縁性の有機化合物を熱融解させ、熱融解した絶縁性の有機化合物を介してアグリゲート同士を絡み合わせ、絡み合ったアグリゲートの集まりが、熱融解した絶縁性の有機化合物に分散した第三の懸濁液を作成する。この後、第三の懸濁液の表面全体を圧縮し、シートないしはフィルムの形成に必要な量より過剰な熱融解した絶縁性の有機化合物を、第三の懸濁液から滲み出させると、アグリゲートの多くが熱融解した絶縁性の有機化合物を介して互いに絡み合うとともに、アグリゲートの多くが熱融解した絶縁性の有機化合物を介して互いに接触する。また、アグリゲートの集まりにおける空隙が、熱融解した絶縁性の有機化合物で埋め尽くされ、さらに、アグリゲート同士の絡み合い部と接触部が摩擦圧接で接合するとともに、アグリゲートの集まりの表面全体が、熱融解した絶縁性の有機化合物の被膜で覆われる。この後、絶縁性の有機化合物を固化させる。これによって、摩擦圧接でアグリゲート同士が接合し、接合したアグリゲートの集まりにおける空隙が固化した絶縁性の有機化合物で埋め尽くされ、また、接合されたアグリゲートの集まりの表面全体が固化した絶縁性の有機化合物の被膜で覆われた構成からなる絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムが、容器の底面に形成される。この後、容器の底面からシートないしはフィルムを引き剥がし、絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムを取り出す。
【0002】
カーボンブラックの全光線透過率が0%と小さく、カーボンブラックは優れた遮光性を持つ。従って、カーボンブラックの集まりからなるシートないしはフィルムに、紫外線が連続して照射しても、カーボンブラックが紫外線を反射するため、シートないしはフィルムは化学的に劣化しない。いっぽう、カーボンブラックの集まりからなるシートないしはフィルムは、遠赤外線を吸収する。さらに、カーボンブラックの比抵抗が、金属の比抵抗より6桁大きいが、合成樹脂の比抵抗より13桁小さい導電性を持つ。このため、カーボンブラックが、遠赤外線を継続して吸収すると、カーボンブラックの集まりからなるシートないしはフィルムが昇温し、熱劣化をもたらす。また、カーボンブラックは、黒体の熱放射との比率である熱放射率が0.95-0.97と高い。このため、カーボンブラックの集まりからなるシートないしはフィルムは放熱性に優れる。
いっぽう、シートないしはフィルムが、カーボンブラックの集まりと絶縁性の有機化合物とが複合化したシートないしはフィルムであり、カーボンブラックに隣接する絶縁性の有機化合物によって、シートないしはフィルムが絶縁性を持てば、カーボンブラックが遠赤外線を吸収しても、カーボンブラックに隣接する絶縁性の有機化合物が熱伝導の障害になり、カーボンブラックの集まりを熱が伝導しにくくなる。また、カーボンブラックが熱を放射する。このため、シートないしはフィルムに遠赤外線が継続して照射しても、シートないしはフィルムの熱劣化が抑制される。さらに、カーボンブラックは、炭素の一次粒子の集まりのアグリゲートで構成されるため、耐食性に優れる。また、絶縁性の有機化合物は、有極性の限定された有機溶剤のみに溶解し、強酸化剤、強酸、強塩基、還元剤を除く物質と反応しない。なお、カーボンブラックの大気中での発火温度は500℃を超える。さらに、絶縁性の有機化合物の融点が340℃より高ければ、融点が370℃である液晶ポリマーを除く熱可塑性樹脂の融点より高く、合成樹脂のシートないしは合成樹脂のフィルムより耐熱性が高い。いっぽう、シートないしはフィルムの表面を覆う固体の絶縁性の有機化合物は、アグリゲートの集まりの空隙を埋める固体の絶縁性の有機化合物と一体となり、また、アグリゲートの集まりの空隙を埋めた固体の絶縁性の有機化合物は、アグリゲートの集まりで拘束されている。このため、シートないしはフィルムが、絶縁性の有機化合物の融点以上に昇温され、絶縁性の有機化合物が融解しても、融解した絶縁性の有機化合物は、シートないしはフィルムから移動も脱落もしない。
ところで、従来のシートないしは従来のフィルムは、様々な材質からなる合成樹脂で構成されている。いっぽう、合成樹脂のシートないしは合成樹脂のフィルムは、紫外線の照射によって、高分子が低分子に分解され、化学的に劣化する。これに対し、カーボンブラックの集まりからなる絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムは、紫外線による劣化がない。また、絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムは、合成樹脂のシートないしは合成樹脂のフィルムより、耐熱性に優れ、また、耐食性に優れる。このため、絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムは、従来の合成樹脂からなるシートないしはフィルムが、使用できない環境でも使用でき、新たな用途に用いることができる。さらに、絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムは、容器の底面に底面の形状として形成されるため、任意の大きさと形状と厚みからなるシートないしはフィルムが作成できる。さらに、シートないしはフィルムを、絶縁性の有機化合物の熱溶着によって、基材や部品に接合できる。また、アグリゲートが容易に切断でき、絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムを任意の形状に切断できる。さらに、切断したシートないしはフィルムを、絶縁性の有機化合物の熱溶着によって、基材や部品に接合できる。
なお、本発明者は、摩擦圧接でアグリゲート同士を接合したアグリゲートの集まりからなるシートないしはフィルムを形成する方法を、特願2021-086572して出願している。先願のシートないしはフィルムは導電性を持つ。これに対し、本発明のシートないしはフィルムは絶縁性である。
JISの包装用語によれば、フィルムとは「厚さが250μm未満のプラスチックからなる膜状のもの」で、シートとは「厚さ250μm以上のプラスチックからなる薄い板状のもの」と規定されている。本発明においても、JISに則り、カーボンブラックのアグリゲートの集まりからなる幅が広く厚みが薄い膜状体について、厚さ250μm以上のものをシートとし、厚さが250μm未満のものをフィルムとする。
【背景技術】
【0003】
本発明に近い従来技術に、遮光性薄膜および遮光性フィルムと、放熱薄膜および放熱フィルムとがある。いっぽう、従来の絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムは、様々な材質からなる合成樹脂のシートないしは合成樹脂のフィルムである。
例えば、遮光性フィルムの従来技術として特許文献1がある。つまり、液体飲料の容器の外側を遮光性シュリンクフィルムで覆い、液体飲料に対する光線の入射を防ぎ、光線の照射による液体飲料の機能性成分の劣化を抑制する。しかしながら、遮光性シュリンクフィルムの全光線透過率は、最も高いフィルムであっても92%台であり、紫外線が継続してフィルムに照射すると、液体飲料の劣化が緩やかに進む。
【0004】
また、放熱フィルムの従来技術として特許文献2がある。つまり、赤外線放射による放熱性に優れる熱放射層を、水不溶性無機化合物と耐熱性合成樹脂とを、伝熱性に優れる金属フィルム上に積層した。しかしながら、水不溶性無機化合物と耐熱性合成樹脂とからなる熱放射層の放射率は、0.8-0.9と低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-201569号公報
【特許文献2】特開2014-193529号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、第一に、カーボンブラックを用いて、絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムを作成する方法を見出す。第二に、従来の合成樹脂のシートないしはフィルムに比べ、紫外線による劣化がなく、耐熱性に優れ、耐食性に優れるシートないしはフィルムを作成する方法を見出す。第三に、絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムを、基材や部品の表面に接合する方法法見出す。
【課題を解決するための手段】
【0007】
カーボンブラックのアグリゲート同士を摩擦圧接で接合し、該接合したアグリゲートの集まりにおける空隙を、絶縁性である固体の有機化合物で埋め尽くし、かつ、該接合したアグリゲートの集まりの表面全体を、前記絶縁性である固体の有機化合物の被膜で覆った構成からなる絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムを作成する方法は、
有極性の絶縁体である有機化合物に溶解する第一の性質と、20℃における粘度が1.2mPa・秒以下である第二の性質と、密度が1.0g/cmより小さい第三の性質と、沸点が前記有機化合物の融点より低い第四の性質を兼備する有極性の有機溶剤を、カーボンブラックの集まりの重量より多い重量として秤量し、該秤量した有極性の有機溶剤と前記カーボンブラックの集まりを、第一の容器に投入し、該有極性の有機溶剤を攪拌し、前記カーボンブラックの集まりが前記有極性の有機溶剤中に浸漬した第一の懸濁液を作成する、この後、該第一の懸濁液の表面全体を覆う第一の板材を、該第一の懸濁液の上に被せ、さらに、該第一の板材の表面全体に圧縮荷重を均一に加え、前記有極性の有機溶剤に浸漬したカーボンブラックの集まりを粉砕する、さらに、前記第一の板材を前記第一の懸濁液から引き上げ、前記第一の容器を加振機の加振台の上に配置し、該加振機を稼働し、前記第一の容器に、前後、左右、上下の3方向の振動加速度を繰り返し加え、前記粉砕したカーボンブラックの集まりの前記有極性の有機溶剤中における集積度を高める、この後、前記第一の板材を前記第一の懸濁液に再度被せ、該第一の板材の表面全体に前記圧縮荷重を再度均一に加え、前記有極性の有機溶剤中に浸漬した前記カーボンブラックの集まりの粉砕をさらに進める、さらに、前記第一の板材を前記第一の懸濁液から再度引き上げ、前記第一の容器に前記3方向の振動加速度を再度繰り返し加える、こうした前記圧縮荷重を加える処理と前記振動加速度を加える処理とからなる一対の処理を繰り返し、前記第一の板材に前記圧縮荷重を加えた際に、該第一の板材に反発力が発生した時点で、前記有極性の有機溶剤中に浸漬した前記カーボンブラックの集まりの粉砕が完了したと判断し、前記一対の処理を停止する、この後、前記第一の板材を前記第一の容器から取り出す第一の工程と、
前記第一の容器内にホモジナイザー装置を配置し、該ホモジナイザー装置を稼働させ、前記有極性の有機溶剤を介して、前記粉砕が完了したカーボンブラックの集まりに衝撃波を繰り返し加え、該カーボンブラックの集まりにおけるアグリゲート同士の絡み合いを分離させ、さらに、前記有極性の有機溶剤を介して前記アグリゲート同士を絡み合わせ、該絡み合ったアグリゲートの集まりが、前記有極性の有機溶剤に分散した第二の懸濁液を作成する第二の工程と、
融点が200℃より高い第一の性質と、沸点が290℃より高い第二の性質と、有極性の絶縁体である第三の性質を兼備する絶縁性の有機化合物を、前記第一の容器内の第二の懸濁液の重量より少ない重量として秤量し、該秤量した絶縁性の有機化合物を、前記第一の容器内の第二の懸濁液に注入し、該第二の懸濁液を撹拌し、前記絶縁性の有機化合物を、該第二の懸濁液を構成する前記有極性の有機溶剤に溶解させ、該絶縁性の有機化合物が前記有極性の有機溶剤に溶解した液体を介して、前記アグリゲート同士を絡み合わせ、該絡み合ったアグリゲートの集まりが前記液体に分散した第三の懸濁液を作成する第三の工程と、
作成するシートないしは作成するフィルムの形状を底面として有する第二の容器に、前記第三の懸濁液の一部を、前記作成するシートないしは前記作成するフィルムの大きさと厚みとに応じた量として充填する、この後、該第二の容器を、第一の工程で用いた加振機の加振台の上に配置させ、該加振機を稼働させ、該第二の容器に、第一の工程で加えた振動加速度より小さな3方向の振動加速度を繰り返し加え、前記第三の懸濁液における前記アグリゲートの集まりの集積度を高める、この後、該第二の容器を熱処理装置内に移動し、該第二の容器を前記絶縁性の有機化合物の融点より高い温度に昇温し、前記第三の懸濁体から前記有極性の有機溶剤を気化させ、さらに、前記絶縁性の有機化合物を熱融解させる、これによって、該熱融解した絶縁性の有機化合物を介して前記アグリゲート同士が絡み合い、該絡み合ったアグリゲートの集まりが、前記熱融解した絶縁性の有機化合物に分散した第四の懸濁液が作成される、この後、前記第二の容器を前記熱処理装置から移動する第四の工程と、
前記第二の容器内の前記第四の懸濁液の表面全体を覆う第二の板材を、該第四の懸濁液の表面の上に被せる、さらに、該第二の板材の表面全体に、第一の工程で加えた圧縮荷重より大きな圧縮荷重を均一に加える、これによって、最初に、前記第四の懸濁液におけるシートないしはフィルムの形成に必要な量より過剰な前記熱融解した絶縁性の有機化合物が、前記第二の板材の表面に滲み出る、次に、前記アグリゲートの多くが前記熱融解した絶縁性の有機化合物を介して互いに絡み合うとともに、前記アグリゲートの多くが前記熱融解した絶縁性の有機化合物を介して互いに接触する、さらに、前記第四の懸濁液における前記アグリゲートの集まりの空隙が、前記熱融解した絶縁性の有機化合物で埋め尽くされ、さらに、前記熱融解した絶縁性の有機化合物を介して互いに絡み合った前記アグリゲート同士の絡み合い部と、前記熱融解した絶縁性の有機化合物を介して互いに接合した前記アグリゲート同士の接触部に圧縮応力が加わり、該絡み合い部と該接触部から前記熱融解した絶縁性の有機化合物が押し出され、この後、前記アグリゲート同士が、前記絡み合い部と前記接触部で摩擦圧接によって接合する、さらに、前記第二の容器を前記絶縁性の有機化合物の融点より低い温度に冷却させる、この結果、前記摩擦圧接で接合したアグリゲートの集まりと、該アグリゲートの集まりにおける空隙が固化した絶縁性の有機化合物で埋め尽くされ、さらに、該アグリゲートの集まりの表面全体が固化した絶縁性の有機化合物の被膜で覆われた構成からなるシートないしはフィルムが、前記第二の容器の底面の形状として作成される第五の工程と、
前記第二の容器の底面の複数個所に、同一の衝撃加速度を上下方向に同時に加え、該第二の容器の底面に形成された前記シートないしは前記フィルムを、該第二の容器の底面から引き剥がし、さらに、前記第二の板材の表面の複数個所に、前記と同じ大きさの衝撃加速度を上下方向に同時に加え、該第二の板材の表面に接合した前記シートないしは前記フィルムを該第二の板材の表面から引き剥がす第六の工程からなり、
前記した6つの工程を連続して実施する方法が、カーボンブラックのアグリゲート同士を摩擦圧接で接合し、該接合したアグリゲートの集まりにおける空隙を、固体の絶縁性の有機化合物で埋め尽くし、かつ、該接合したアグリゲートの集まりの表面全体を、前記固体の絶縁性の有機化合物の被膜で覆った構成からなる絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムを作成する方法である。
【0008】
つまり、以下に説明する極めて簡単な6つの工程における処理を連続して実施すると、カーボンブラックのアグリゲート同士が摩擦圧接で接合し、接合したアグリゲートの集まりにおける空隙を絶縁性である固体の有機化合物が埋め尽くし、かつ、接合したアグリゲートの集まりの表面全体が絶縁性である固体の有機化合物で覆われた構成からなる絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムが作成できる。ここで、6つの工程における処理と、処理の作用効果を説明する。
第一の工程は、粉砕したカーボンブラックの集まりが、有極性の有機溶剤に浸漬した懸濁液を作成する工程である。なお、有極性の有機溶剤は、有極性の絶縁体である有機化合物に溶解する第一の性質と、20℃における粘度が1.2mPa・秒以下である第二の性質と、密度が1.0g/cmより小さい第三の性質と、沸点が前記有機化合物の融点より低い第四の性質を兼備する。最初に、カーボンブラックの集まりと、カーボンブラックの集まりの重量より多い重量からなる有極性の有機溶剤を第一の容器に投入し、有極性の有機溶剤を攪拌し、カーボンブラックの集まりが、有極性の有機溶剤中に浸漬した第一の懸濁液を作成する。つまり、有極性の有機溶剤中に浸漬したカーボンブラックの集まりを圧縮すると、カーボンブラックの集まりが容易に粉砕する。この後、第一の懸濁液の表面全体を覆う第一の板材を、第一の懸濁液の上に被せ、第一の板材の表面全体に圧縮荷重を均一に加え、有極性の有機溶剤に浸漬したカーボンブラックの集まりを粉砕する。さらに、第一の板材を第一の懸濁液から引き上げ、第一の容器を加振機の加振台の上に配置させ、加振機を稼働し、第一の容器に、前後、左右、上下の3方向の振動加速度を、容器の大きさに応じて、2G-3Gの振動加速度として繰り返し加え、有極性の有機溶剤中で、粉砕したカーボンブラックの集まりの集積度を高める。つまり、カーボンブラックの集まりにおいて、カーボンブラックの大きさにバラツキがあり、粉砕されたカーボンブラックの大きさにもバラツキがある。このため、粉砕されたカーボンブラックの集まりに空隙が形成される。この空隙を埋めるため、粉砕したカーボンブラックの集まりに、3方向の振動加速度を繰り返し加え、有極性の有機溶剤中で粉砕したカーボンブラックの集まりを再配列させる。さらに、再度カーボンブラックの集まりを粉砕することで、全てのカーボンブラックの粉砕を進め、粉砕したカーボンブラックの大きさを均等に近づける。こうした圧縮荷重を加える処理と3方向の振動加速度を加える処理とからなる一対の処理を繰り返し、第一の板材に圧縮荷重を加えた際に、第一の板材に反発力が発生した時点で、有極性の有機溶剤中に浸漬したカーボンブラックの集まりの粉砕が完了したと判断し、一対の処理を停止する。この後、第一の板材を第一の容器から取り出す。つまり、カーボンブラックの粉砕が進むと、粉砕したカーボンブラックを圧縮しても、微細になったカーボンブラックが粉砕しないため、第一の板材に反発力が発生する。この時点で、カーボンブラックの集まりにおける粉砕が完了したと判断する。この結果、カーボンブラックは、当初の大きさの1/25程度の大きさに粉砕される。
なお、カーボンブラックの最小単位は、炭素粒子の1次凝集体であるアグリゲートである。このアグリゲートは、カーボンブラックにおいて、10-100nmの大きさからなる炭素粒子同士が、不規則で複雑な形状で数珠つなぎした構造(これをストラクチャーと呼ぶ)で結合した炭素粒子の集まりである。アグリゲートの大きさは100-500nmからなり、炭素粒子の数は100-1000個からなる。従って、アグリゲートは、軽量で、また、切断できる。このアグリゲートは、ストラクチャーによって容易に絡み合い、炭素粒子の2次凝集体であり、アグリゲートの凝集塊であるアグロメレートを形成する。従って、有極性の有機溶剤に浸漬したカーボンブラックを粉砕することで、アグロメレートも粉砕され、アグロメレートの大きさも、当初の大きさの1/25程度の大きさに粉砕される。アグロメレートの粉砕に伴い、アグリゲートも切断される。なお、アグリゲートを微細化することで、第四の工程における処理を実施すると、熱融解した絶縁性の有機化合物を介して、微細化したアグリゲート同士が高い集積度で絡み合い、絡み合ったアグリゲートの集まりが、熱融解した絶縁性の有機化合物に分散した第四の懸濁液が作成できる。さらに、第五の工程において、第四の懸濁液を均等に圧縮すると、シートないしはフィルムの形成に必要な量より過剰な熱融解した絶縁性の有機化合物が、第四の懸濁液から滲み出た後に、微細なアグリゲートの多くが絡み合うとともに接触し、さらに、アグリゲートの多くが絡み合い部と接触部で摩擦圧接によって接合する。
つまり、アグリゲートの集まりにおいて、個々のアグリゲートの大きさと個々のアグリゲートのストラクチャーの形状が異なる。このため、アグリゲート同士は、ストラクチャーによって複雑に絡み合っている。従って、複雑に絡み合ったアグルゲートの集まりを、高い集積度で集積させると、アグリゲートの多くが絡み合うとともに、アグリゲートの多くが接触する。さらに、アグリゲートの集まりを圧縮すると、アグリゲート同士の絡み合い部と接触部で、アグリゲート同士が摩擦圧接で接合し、接合したアグリゲートの集まりが、シートないしはフィルムの多くの体積割合を占めるため、シートないしはフィルムが一定の接合力を持つ。この目的を実現させるため、第二から第五の工程を連続して実施する。この結果、作成したシートないしは作成したフィルムは、合成樹脂のシートないしは合成樹脂のフィルムより引張強度が高い。
第二の工程は、粉砕されたカーボンブラックにおけるアグリゲートの絡み合いを分離させる工程である。つまり、第三の工程において、絶縁性の有機化合物が有極性の有機溶剤に溶解した液体を介して、アグリゲート同士を絡み合わせ、絡み合ったアグリゲートの集まりが前記液体に分散した第三の懸濁液を作成する。さらに、第四の工程において、熱融解した絶縁性の有機化合物を介して、高い集積度でアグリゲート同士を絡み合わせる。このため、第三の工程の前処理として、第二の工程において、粉砕されたアグリゲート同士の絡み合いを分離させ、有極性の有機溶剤を介してアグリゲート同士を絡み合わせ、絡み合ったアグリゲートの集まりを有極性の有機溶剤に分散した第二の懸濁液を作成する。なお、アグリゲート同士の絡み合いは、単にアグリゲート同士が接触しているだけであり、絡み合いにおけるアグリゲート同士の接合力は弱い。つまり、カーボンブラックは、その多くがアグリゲートの凝集塊であるアグロメレートで構成され、大きなものは1mm近くまで及ぶ粉体になる。このため、アグロメレートの集まりを有極性の有機溶剤中に分散した懸濁液を作成することは困難で、また、アグロメレートの集まりからなるシートないしはフィルムを形成することはさらに困難である。この理由から、低粘度で低密度の有極性の有機溶剤中でホモジナイザー装置を稼働させ、粉砕されたアグロメレートの集まりに、アグリゲートよりさらに小さい衝撃波を継続して加え、アグリゲート同士が直接絡み合った部位を、衝撃波の照射で分離させ、分離した部位に有極性の有機溶剤を吸着させ、有極性の有機溶剤を介してアグリゲート同士を絡み合わせ、絡み合ったアグリゲートを有極性の有機溶剤に分散させた。これによって、第三の工程の処理の後に、第四の工程の処理を実施すると、熱融解した絶縁性の有機化合物を介して、高い集積度でアグリゲート同士を絡み合わせることができる。なお、カーボンブラックを物理的に限界の大きさまで粉砕したため、アグリゲートは0.1mmより短い長さに切断される。従って、限界の大きさまで粉砕したアグロメレートの集まりに衝撃波を継続して加えると、粉砕された全てのアグロメレートの内部に衝撃波が入り込み、アグリゲート同士が直接絡み合った部位が分離され、分離した部位に有極性の有機溶剤が吸着し、有極性の有機溶剤を介してアグリゲート同士が絡み合う。これによって、アグリゲート同士が有極性の有機溶剤を介して互いに絡み合い、絡み合ったアグリゲートの集まりが低粘度で低密度の有極性の有機溶剤に分散した第二の懸濁液が作成できる。
第二の懸濁液を作成するため、第一の容器内にホモジナイザー装置を配置させ、ホモジナイザー装置を稼働させ、有極性の有機溶剤を介して、粉砕されたカーボンブラックの集まりに衝撃波を繰り返し加える。いっぽう、有極性の有機溶剤は、粘度が20℃で1.2mPa・秒以下と低く、密度が1.0g/cmより小さい。ホモジナイザー装置を有極性の有機溶剤中で稼働させると、微細な衝撃波が有極性の有機溶剤中に発生し、衝撃波が有極性の有機溶剤の分子を励起させながら、有極性の有機溶剤中を移動する。有極性の有機溶剤が低粘度で低密度であるため、衝撃波によって有極性の有機溶剤が励起される割合が少なく、衝撃波のエネルギーが失われにくい。このため、有極性の有機溶剤に浸漬したアグロメレートの集まりに、有極性の有機溶剤を介して、微細な衝撃波が効率よく繰り返し照射される。これによって、アグリゲート同士が直接絡み合った部位にも、微細な衝撃波が繰り返し照射され、微細化したアグリゲートが極めて軽量な物質で、絡み合い部のアグリゲート同士の接合力が小さいため、アグリゲート同士が直接絡み合った部位が解除し、絡み合いが解除した部位に、有極性の有機溶剤が吸着する。この結果、有極性の有機溶剤を介して互いに絡み合ったアグリゲートの集まりが、有極性の有機溶剤に分散した第二の懸濁液が作成される。
なお、アグリゲートが、不規則で複雑な形状で炭素粒子同士が数珠つなぎしたストラクチャーの構造を持ち、かつ、個々のアグリゲートの大きさと個々のアグリゲートのストラクチャーの形状が異なるため、アグリゲート同士は複雑に絡み合っている。このため、ホモジナイザー装置が発する衝撃波をアグロメレートに繰り返し照射しても、全てのアグリゲート同士の絡み合いが分離され、さらに、1つ1つのアグリゲートに分離され、1つ1つに分離したアグリゲートを有極性の有機溶剤に分散させることはできない。つまり、ホモジナイザー装置によるアグリゲート同士の絡み合いの分離は、あくまでも、アグリゲート同士が直接絡み合った部位に、有極性の有機溶剤を吸着させる処理である。この処理によって、第三の工程の処理の後に、第四の工程の処理を実施すると、熱融解した絶縁性の有機化合物を介して、高い集積度でアグリゲート同士を絡み合わせることができる。なお、アグリゲート同士の絡み合いは、単にアグリゲート同士が接触しているだけであり、絡み合いにおけるアグリゲート同士の接合力は弱い。このため、衝撃波をアグロメレートに繰り返し照射すると、アグリゲート同士が絡み合った部位が解除し、絡み合いが解除したアグリゲートの部位に、有極性の有機溶剤が吸着する。この結果、有極性の有機溶剤を介してアグリゲート同士が絡み合ったアグリゲートの集まりが、有極性の有機溶剤に容易に分散する。従って、有極性の有機溶剤を介してアグリゲート同士が絡み合ったアグリゲートの集まりにおいては、絡み合ったアグリゲート同士は直接接合せず、有極性の有機溶剤を介して互いに絡み合ったアグリゲートが有極性の有機溶剤に分散している。この処理によって、第三の工程において、絶縁性の有機化合物が有極性の有機溶剤に溶解した液体を介して、アグリゲート同士を絡み合わせ、絡み合ったアグリゲートの集まりが前記液体に分散した第三の懸濁液が作成できる。
なお、ホモジナイザー装置として、超音波方式のホモジナイザー装置を用いると、切断されたアグリゲートよりさらに小さい気泡が、莫大な数からなる気泡として同時に発生し、この後、気泡が殆ど同時に消滅する。この気泡の発生と消滅とが、超音波の発生周期に応じて繰り返し起こり、低粘度で低密度の有極性の有機溶剤中で、気泡の発生と消滅とが繰り返される(この現象をキャビテーションという)。この気泡がはじける際の衝撃波が、低粘度で低密度の有極性の有機溶剤中に継続して発生し、衝撃波が殆ど有機溶剤の励起に消費されずに、アグロメレートの細部に照射され、アグリゲート同士が直接絡み合った部位が短時間で分離し、分離した部位に有極性の有機溶剤が吸着する。従って、超音波方式のホモジナイザー装置は、超音波の発生周期に応じて、気泡の発生と消滅とを繰り返すため、アグリゲート同士が直接絡み合った部位を短時間で分離させることができる。
第三の工程は、絶縁性の有機化合物が有極性の有機溶剤に溶解した液体を介して、アグリゲート同士を絡み合わせるとともに、絡み合ったアグリゲートの集まりが、前記液体に分散した第三の懸濁液を作成する工程である。なお、絶縁性の有機化合物は、融点が200℃より高く、かつ、沸点が290℃より高く、有極性の絶縁体である性質を兼備する。つまり、有機化合物の融点が高いほど、絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムが昇温されても、絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムを構成する絶縁性の有機化合物が熱融解しない。また、有機化合物の沸点が高いほど、絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムの耐熱性が高い。さらに、有極性の絶縁体であれば、シートないしはフィルムが絶縁性を持ち、また、有極性の有機溶剤に溶解する。このため、最初に、絶縁性の有機化合物を、第一の容器内の第二の懸濁液の重量より少ない重量として秤量し、秤量した絶縁性の有機化合物を、第一の容器内の第二の懸濁液に注入し、第二の懸濁液を撹拌する。これによって、絶縁性の有機化合物が、第二の懸濁液を構成する有極性の有機溶剤に溶解する。この結果、絶縁性の有機化合物が有極性の有機溶剤に溶解した液体を介して、アグリゲート同士が絡み合い、該絡み合ったアグリゲートの集まりが前記液体に分散した第三の懸濁液が作成される。なお、有機化合物は、イオン液体と呼ばれる特殊な有機化合物を除いて、殆どの有機化合物が絶縁体である。
第四の工程は、熱融解した絶縁性の有機化合物を介してアグリゲート同士を絡み合わせ、絡み合ったアグリゲートの集まりが、熱融解した絶縁性の有機化合物に分散した第四の懸濁液を作成する工程である。このため、最初に、作成するシートないしは作成するフィルムの形状を底面として有する第二の容器に、第三の懸濁液の一部を、作成するシートないしは作成するフィルムの大きさと厚みとに応じた量として充填する。次に、第二の容器を、第一の工程で用いた加振機の加振台の上に配置させ、加振機を稼働させ、第二の容器に、第一の工程で加えた振動加速度より小さな3方向の振動加速度を繰り返し加える。これによって、絶縁性の有機化合物が有極性の有機溶剤に溶解した液体中で、アグリゲート同士が絡み合ったアグリゲートの集まりの集積度が高まる。さらに、第二の容器を熱処理装置内に移動し、第二の容器を有極性の有機溶剤の気化点に昇温し、気化した有機溶剤を回収機で回収し、さらに、第二の容器を絶縁性の有機化合物の融点より高い温度に昇温する。これによって、熱融解した絶縁性の有機化合物を介してアグリゲート同士が絡み合い、絡み合ったアグリゲートの集まりが、熱融解した絶縁性の有機化合物中に高い集積度で分散した第四の懸濁液が作成できる。この後、第二の容器を熱処理装置から移動させる。
なお、第二の容器を、絶縁性の有機化合物の融点より高い温度ではなく、有極性の有機溶剤の沸点に昇温した場合は、有機溶剤が気化した後に、固体の絶縁性の有機化合物を介してアグリゲート同士が絡み合い、絡み合ったアグリゲートの集まりが、固体の絶縁性の有機化合物に析出する。このアグリゲートの集まりを、第五の工程において圧縮しても、固体の絶縁性の有機化合物の存在が障害となり、アグリゲート同士が摩擦圧接で接合しにくくなる。また、シートないしはフィルムの多くの体積を、固体の絶縁性の有機化合物が占めるため、絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムの引張強度は低い。この理由から、第二の容器を絶縁性の有機化合物の融点より高い温度に昇温した。
第五の工程は、摩擦圧接でアグリゲート同士を接合し、接合したアグリゲートの集まりにおける空隙を、固化した絶縁性の有機化合物で埋め尽くし、さらに、接合したアグリゲートの集まりの表面全体を、固化した絶縁性の有機化合物の被膜で覆った構成からなるシートないしはフィルムを、第二の容器の底面の形状として作成する工程である。このため、最初に、第二の容器内の第四の懸濁液の表面全体を覆う第二の板材を、第四の懸濁液の表面の上に被せる。次に、第二の板材の表面全体に、第一の工程で加えた圧縮荷重より大きな圧縮荷重を均一に加える。これによって、最初に、第四の懸濁液において、シートないしはフィルムの形成に必要な量より過剰な熱融解した絶縁性の有機化合物が、第二の板材の表面に滲み出る。次に、アグリゲートの多くが熱融解した絶縁性の有機化合物を介して互いに絡み合うとともに、アグリゲートの多くが熱融解した絶縁性の有機化合物を介して互いに接触する。同時に、第四の懸濁液のアグリゲートの集まりにおける空隙が、熱融解した絶縁性の有機化合物で埋め尽くされる。さらに、熱融解した絶縁性の有機化合物を介してアグリゲート同士が絡み合った部位と、アグリゲート同士が接触した部位に圧縮応力が加わり、アグリゲート同士の絡み合い部と接触部が圧縮される。この際、絡み合い部と接触部から熱融解した絶縁性の有機化合物が押し出され、さらに、絡み合い部と接触部で、アグリゲート同士が摩擦圧接によって接合する。つまり、絡み合い部と接触部に、熱融解した絶縁性の有機化合物が吸着しているが、過剰な熱融解した絶縁性の有機化合物が押し出されると、絡み合い部と接触部に直接圧縮応力が加わり、熱融解した絶縁性の有機化合物が、絡み合い部と接触部から押し出される。この際も、熱融解した絶縁性の有機化合物が滲み出る。さらに、絡み合い部と接触部に圧縮応力が継続して加わり、絡み合い部と接触部でアグリゲート同士が摩擦圧接によって接合する。つまり、第四の工程において、熱融解した絶縁性の有機化合物を介してアグリゲート同士を絡み合わせ、絡み合ったアグリゲートの集まりが、熱融解した絶縁性の有機化合物に高い集積度で分散させた第四の懸濁液を作成した。これによって、第五の工程で第四の懸濁液を圧縮すると、アグリゲートの多くが熱融解した絶縁性の有機化合物を介して互いに絡み合うとともに、アグリゲートの多くが熱融解した絶縁性の有機化合物を介して互いに接触する。さらに、第五の工程で、第四の懸濁液の全体を圧縮し、第四の懸濁液から、シートないしはフィルムの形成に必要な量より過剰な熱融解した絶縁性の有機化合物を押出し、さらに、熱融解した絶縁性の有機化合物の大部分を、第四の懸濁液から滲み出させた。これによって、第二の容器と第二の板材とで挟まれた第四の懸濁液は、摩擦圧接で接合したアグリゲートの集まりと、接合したアグリゲートの集まりの空隙を埋め尽くした熱融解した絶縁性の有機化合物とで構成され、さらに、接合したアグリゲートの集まりの表面に、ごく厚みが薄い熱融解した絶縁性の有機化合物の被膜が形成される。この結果、摩擦圧接で接合したアグリゲートの集まりは、シートないしはフィルムの全体の9割に近い体積を占める。いっぽう、接合したアグリゲートの集まりの表面全体を、熱融解した絶縁性の有機化合物が覆うが、接合したアグリゲートの集まりの表面全体を覆う熱融解した絶縁性の有機化合物の厚みは、サブミクロンの厚みである。この後、第二の容器を絶縁性の有機化合物の融点より低い温度に冷却させる。この結果、摩擦圧接でアグリゲート同士が接合し、接合したアグリゲートの集まりにおける空隙を、固化した絶縁性の有機化合物が埋め尽くし、また、接合したアグリゲートの集まりの表面全体を、固化した絶縁性の有機化合物が、サブミクロンの厚みで覆う。こうした構成からなるシートないしはフィルムが、第二の容器の底面の形状として作成される。
第六の工程は、シートないしはフィルムを、第二の容器の底面と、第二の板材の表面から引き剥がし、シートないしはフィルムを取り出す最終の工程である。このため、最初に、第二の容器の大きさに応じて、0.2G-0.3Gからなる衝撃加速度を、第二の容器の底面の複数個所に、同一の衝撃加速度として上下方向に同時に加え、シートないしはフィルムを第二の容器の底面から引き剥がす。さらに、前記と同じ大きさの衝撃加速度を、第二の板材の表面の複数個所に、上下方向に同時に加え、シートないしはフィルムを第二の板材の表面から引き剥がす。
なお、固体の絶縁性の有機化合物は、吸湿性と吸水性を持たない。また、絶縁性の有機化合物の沸点が290℃より高いため、固体の絶縁性の有機化合物は、揮発性が極めて低く、絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムは、長期の保管が可能になる。また、固体の絶縁性の有機化合物は、極性の高い限定された有機溶媒のみに溶解し、強酸化剤、強酸、強塩基、還元剤を除く物質と反応しないため、化学的に安定した物質で、絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムは、長期の保管で変質しない。
【0009】
次に、作成したシートないしはフィルムの作用効果を説明する。
第一に、シートないしはフィルムは、接合したアグリゲートの集まりによって、アグリゲートの性質である優れた遮光性と、優れた熱放射性を兼備する。つまり、作成したシートないしはフィルムは、摩擦圧接で接合したアグリゲートの集まりが、シートないしはフィルムの全体の9割に近い体積を占める。このため、シートないしはフィルムは、アグリゲートの性質である優れた遮光性と、優れた熱放射性を兼備する。これによって、紫外線が継続して照射されても、シートないしはフィルムは、化学的に劣化しない。なお、固体の有機化合物は、遮光性と熱放射性を持たない。
第二に、遠赤外線が継続してシートないしはフィルムに照射されても、シートないしはフィルムは熱劣化しない。また、シートないしはフィルムは絶縁性を示す。つまり、有機化合物は有極性の絶縁体である。また、摩擦圧接で接合したアグリゲートの集まりにおける空隙が、固化した絶縁性の有機化合物で埋め尽くされ、固化した絶縁性の有機化合物が、アグリゲートに隣接する。また、接合したアグリゲートの集まりの表面全体が、固化した絶縁性の有機化合物の被膜で覆われる。このため、シートないしはフィルムは絶縁性を示す。従って、アグリゲートが遠赤外線を継続して吸収して発熱しても、アグリゲートに隣接する固化した絶縁性の有機化合物が熱伝導の障害になる。また、アグリゲート自身が熱を放射する。このため、シートないしはフィルムに、遠赤外線が継続して照射されても、シートないしはフィルムは熱劣化しない。
第三に、シートないしはフィルムは、合成樹脂のシートないしは合成樹脂のフィルムより高い引っ張り強度を持つ。つまり、複雑に絡み合ったアグリゲートの集まりが、摩擦圧接で接合したアグリゲートの集まりが、シートないしはフィルムの9割に近い体積を占めるため、摩擦圧接で接合したアグリゲートの集まりは、一定の接合力を持つ。このため、シートないしはフィルムは、合成樹脂のシートないしは合成樹脂のフィルムより高い引っ張り強度を持つ。
第四に、融点が合成樹脂の融点より高い絶縁性の有機化合物を用いれば、シートないしはフィルムは、合成樹脂のシートないしは合成樹脂のフィルムより耐熱性に優れる。
第五に、合成樹脂のシートないしは合成樹脂のフィルムより耐食性が優れる。つまり、アグリゲートが炭素の一次粒子の集まりで構成されるため、アグリゲートは耐食性に優れる。また、絶縁性の有機化合物は、有極性の限定された有機溶媒のみに溶解し、強酸化剤、強酸、強塩基、還元剤を除く物質と反応しない。このため、合成樹脂のシートないしは合成樹脂のフィルムより耐食性が優れる。
第六に、シートないしはフィルムの表面は撥水性を持つ。つまり、シートないしはフィルムの表面は、固化した絶縁性の有機化合物で覆われるため、シートないしはフィルムの表面は、撥水性を持つ。
第七に、シートないしはフィルムが、有機化合物の融点より高い温度に昇温されても、熱融解した有機化合物は、シートないしはフィルムから移動も脱落もしない。つまり、シートないしはフィルムの表面を覆う絶縁性の有機化合物は、アグリゲートの集まりの空隙を埋める絶縁性の有機化合物と一体となっている。いっぽう、アグリゲートの集まりの空隙を埋め尽くした絶縁性の有機化合物は、9割に近い体積を占めるアグリゲートの集まりで拘束されている。また、熱融解した有機化合物は、一定の粘度を持つ。このため、熱融解した絶縁性の有機化合物は、シートないしはフィルムから移動も脱落もしない。このため、シートないしはフィルムが、有機化合物の融点より低い温度に冷却すると、シートないしはフィルムは元の状態に戻る。
第八に、作成するシートないしはフィルムの大きさと形状は、自在に変えることができる。つまり、作成するシートないしはフィルムの大きさと形状は、第二の容器の底面の形状で決まる。このため、作成するシートないしはフィルムの大きさと形状は、自在に変えることができる。
第九に、作成するシートないしはフィルムの厚みは、自在に変えることができる。つまり、作成するシートないしはフィルムの厚みは、第二の容器に充填する第三の懸濁液の量で決まる。このため、作成するシートないしはフィルムの厚みは、自在に変えることができる。
第十に、シートないしはフィルムは、様々な大きさと様々な形状からなるシートないしはフィルムに加工できる。つまり、シートないしはフィルムが、アグリゲートの集まりと固化した絶縁性の有機化合物で構成され、アグリゲートを構成する炭素の一次粒子が容易に切断できる。このため、シートないしはフィルムは、様々な大きさと様々な形状からなるシートないしはフィルムに加工できる。
第十一に、安価な原料を用い、安価な加工費で安価なシートないしはフィルムが作成できる。つまり、カーボンブラックは安価な工業用素材で、有極性の有機溶剤は汎用的な有機溶剤で、絶縁性の有機化合物も汎用的な有機化合物である。さらに、シートないしはフィルムを作成する6つの工程は、極めて簡単な処理からなる。このため、安価な原料を用い、安価な加工費で安価なシートないしはフィルムが作成できる。
第十二に、シートないしはフィルムを安全に形成できる。つまり、カーボンブラックを有極性の有機溶剤中で粉砕するため、カーボンブラックが粉塵として飛散しない。また、絶縁性の有機化合物の融点が、カーボンブラックの発火温度より160℃以上低いため、絶縁性の有機化合物を熱融解させる際に、アグリゲートの集まりは発火しない。さらに、固体の絶縁性の有機化合物を、有極性の有機溶剤に溶解させるため、固体の絶縁性の有機化合物の粒子は飛散しない。また、極性の高い有機溶剤が気化する際に、有機溶剤の気体を回収機で回収する。
以上に説明したように、作成したシートないしはフィルムは、従来の合成樹脂のシートないしはフィルムより、様々な優れた作用効果をもたらす。また、6段落に記載した課題のうち、第一と第二の課題が解決される。
【0010】
7段落に記載した絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムが、ケッチェンブラックのアグリゲート同士を摩擦圧接で接合し、該接合したアグリゲートの集まりにおける空隙を、固体の絶縁性の有機化合物で埋め尽くし、かつ、該接合したアグリゲートの集まりの表面全体を、前記固体の絶縁性の有機化合物の被膜で覆った構成からなる絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムであり、該絶縁性のシートないしは該絶縁性のフィルムを作成する方法は、
7段落に記載したカーボンブラックとしてケッチェンブラックを用い、7段落に記載した絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムを作成する方法に従って、7段落に記載した6つの工程を連続して実施する方法が、絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムを作成する方法である。
【0011】
つまり、カーボンブラックの中で、ケッチェンブラックは、一次粒子が最も小さく、単位質量当たりの一次粒子の数が最も多く、BET表面積が最も大きいため、カーボンブラックの中で、最も優れた遮光性を持つ。このため、カーボンブラックとしてケッチェンブラックを用いると、7段落に記載した方法で作成した絶縁性のシートないし絶縁性のフィルムは、紫外線劣化防止の優れたシートないしフィルムとして作用する。さらに、ケッチェンブラックの熱放射率が0.97と高く、優れた放熱シートないし放熱フィルムとして作用する。
すなわち、ケッチェンブラックは、一次粒子径が30-40nmからなり、このため、単位質量当たりの一次粒子の数は1×10個/gに及び、BET表面積が1270m/gにも及ぶ。従って、ケッチェンブラックのアグリゲートの集まりからなるシートないしフィルムは、他のカーボンブラックのアグリゲートの集まりからなる絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムより遮光性と放熱性が優れる。
従って、7段落に記載したカーボンブラックとしてケッチェンブラックを用い、7段落に記載した絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムを作成する方法に従って、7段落に記載した6つの工程を連続して実施すると、遮光性と放熱性に優れた絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムが作成できる。
なお、カーボンブラックは、カーボンブラックの製造方法によって、カーボンブラックの特徴が大きく変わり、製造方法の名称でカーボンブラックが分類されている。この製造方法によって、カーボンブラックの性質が変わる。
ファーネスブラックは、油やガスを高温ガス中で不完全燃焼させて製造したカーボンブラックであり、燃焼させる原料により、オイルファーネスとガスファーネスとに細分化される。ファーネスブラックの中で、ケッチェンブラックは、原料として炭化水素からなるオイルを用い、オイルの不完全燃焼で、カーボンブラックを生成する。このケッチェンブラックは、カーボンブラックの中で、比表面積とDPB(ジブチルフタレート)の吸収量が最も大きく、導電性がアセチレンブラックに次いで高い。つまり、ケッチェンブラックは、ストラクチャーが円弧を描いて形成した中空体が存在するため、円弧状のストラクチャーを電子が移動することで、ケッチェンブラックの導電性が増える。
その他のカーボンブラックに、天然ガスを燃焼させ、チャンネル鋼に析出させたものを掻き集めたチャンネルブラックと、アセチレンガスを熱分解して得たアセチレンブラックと、蓄熱した炉の中でガスの燃焼と分解を繰り返して製造するサーマルブラックがある。
【0012】
7段落に記載した絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムを作成する方法は、
7段落に記載した有極性の有機溶剤としてメタノールないしはエタノールを用い、7段落に記載した有極性の絶縁体である有機化合物としてフタル酸を用い、7段落に記載した絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムを作成する方法に従って、7段落に記載した6つの工程を連続して実施する方法が、7段落に記載した絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムを作成する方法である。
【0013】
7段落に記載した有極性の有機溶剤は、有極性の絶縁体である有機化合物に溶解する第一の性質と、20℃における粘度が1.2mPa・秒以下である第二の性質と、密度が1.0g/cmより小さい第三の性質と、沸点が前記有機化合物の融点より低い第四の性質を兼備する。
メタノールは、比誘電率が32.6と極性が高い有機溶剤で、有極性の絶縁体であるフタル酸に溶解する。また、20℃における粘度が0.60mPa・秒で、1.2mPa・秒より低く、密度が0.79g/cmで、1.0g/cmより小さい。さらに、沸点が65℃であり、フタル酸の熱融解温度である210℃より低い。従って、メタノールは、7段落に記載した4つの性質を兼備する有極性の有機溶剤である。
エタノールは、比誘電率が24.6と極性が高い有機溶剤で、有極性の絶縁体であるフタル酸に溶解する。また、20℃における粘度が1.20mPa・秒で、密度が0.79g/cmで、1.0g/cmより小さい。さらに、沸点が79℃であり、フタル酸の熱融解温度である210℃より低い。従って、エタノールは、7段落に記載した4つの性質を兼備する有極性の有機溶剤である。
7段落に記載した絶縁性の有機化合物は、融点が200℃より高い第一の性質と、沸点が290℃より高い第二の性質と、有極性の絶縁体である第三の性質を兼備する。
フタル酸C(COOH)は、融点が210℃で、沸点が295℃で、固体のフタル酸の比誘電率が5.1-6.3の有極性の絶縁体であり、極性の高い有機溶剤であるメタノールとエタノールに溶解する。従って、フタル酸は、7段落に記載した融点が200℃より高い第一の性質と、沸点が290℃より高い第二の性質と、有極性の絶縁体である3つの性質を兼備する絶縁性の有機化合物である。
従って、7段落に記載した有極性の有機溶剤としてメタノールないしはエタノールを用い、7段落に記載した絶縁性の有機化合物としてフタル酸を用い、7段落に記載した絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムを作成する方法に従って、7段落に記載した6つの工程を連続して実施すると、絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムが作成できる。
【0014】
7段落に記載した絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムを作成する方法は、
7段落に記載した有極性の有機溶剤としてメタノールないしはエタノールを用い、7段落に記載した有極性の絶縁体である有機化合物としてイソフタル酸を用い、7段落に記載した絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムを作成する方法に従って、7段落に記載した6つの工程を連続して実施する方法が、7段落に記載した絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムを作成する方法である。
【0015】
つまり、イソフタル酸HOOC(C)COOHは、フタル酸の異性体で、ベンゼン環のメタ位にカルボキシル基が置換した芳香族ジカルボン酸である。イソフタル酸は、融点が342℃と高く、沸点も378℃と高く、固体のイソフタル酸の比誘電率が2.2の有極性の絶縁体であり、極性の高い有機溶剤であるメタノールとエタノールに溶解する。従って、イソフタル酸は、7段落に記載した融点が200℃より高い第一の性質と、沸点が290℃より高い第二の性質と、有極性の絶縁体である3つの性質を兼備する絶縁性の有機化合物である。
従って、7段落に記載した有極性の有機溶剤としてメタノールないしはエタノールを用い、7段落に記載した有極性の絶縁体である有機化合物としてイソフタル酸を用い、7段落に記載した絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムを作成する方法に従って、7段落に記載した6つの工程を連続して実施すると、絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムが作成できる。
【0016】
7段落に記載した絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムを作成する方法は、
7段落に記載した有極性の有機溶剤としてN、N-ジメチルホルムアミドを用い、7段落に記載した有極性の絶縁体である有機化合物としてテレフタル酸を用い、7段落に記載した絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムを作成する方法に従って、7段落に記載した6つの工程を連続して実施する方法が、絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムを作成する方法である。
【0017】
つまり、N、N-ジメチルホルムアミド(CHNCOHは、比誘電率が36.7と極性が高い有機溶剤で、有極性の絶縁体であるテレフタル酸に溶解する。また、20℃における粘度が0.92mPa・秒と低く、密度が0.94g/cmで、1.0g/cmより小さい。さらに、沸点が153℃であり、テレフタル酸の熱融解温度である300℃より低い。従って、N、N-ジメチルホルムアミドは、7段落に記載した4つの性質を兼備する有極性の有機溶剤である。また、N、N-ジメチルホルムアミドは、メタノールとエタノールと同様に、汎用的な有機溶剤である。
いっぽう、テレフタル酸HOOC(C)COOHは、フタル酸の異性体で、ベンゼン環のパラ位にカルボキシル基が置換した芳香族ジカルボン酸である。また、融点が300℃と高く、沸点も392℃と高く。さらに、固体のテレフタル酸の比誘電率が1.5-1.7で、有極性の絶縁体であり、極性の高い有機溶剤であるN、N-ジメチルホルムアミドに溶解する。このため、テレフタル酸は、7段落に記載した融点が200℃より高い第一の性質と、沸点が290℃より高い第二の性質と、有極性の絶縁体である3つの性質を兼備する絶縁性の有機化合物である。
従って、7段落に記載した有極性の有機溶剤としてN、N-ジメチルホルムアミドを用い、7段落に記載した絶縁性の有機化合物としてテレフタル酸を用い、7段落に記載した絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムを作成する方法に従って、7段落に記載した6つの工程を連続して実施すると、絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムが作成できる。
【0018】
7段落に記載した方法で作成した絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムを、基材ないしは部品に接合する方法は、
7段落に記載した方法で作成した絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムを、基材ないしは部品の予め決めた位置に配置し、該絶縁性のシートないしは該絶縁性のフィルムの表面の全体に圧縮荷重を均等に加えて圧縮し、該絶縁性のシートの裏面の固体の絶縁性の有機化合物を、ないしは、該絶縁性のフィルムの裏面の固体の絶縁性の有機化合物を、前記基材ないしは前記部品の表面に熱溶着させ、該有機化合物の熱溶着によって、前記絶縁性のシートないしは前記絶縁性のフィルムを、前記基材ないしは前記部品に接合させる方法である、
ないしは、
7段落に記載した方法で作成した絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムを所定の形状に切断し、該切断した絶縁性のシートないしは該切断した絶縁性のフィルムを、基材ないしは部品の予め決めた位置に配置し、該切断した絶縁性のシートないしは該切断した絶縁性のフィルムの表面の全体に圧縮荷重を均等に加えて圧縮し、該切断した絶縁性のシートの裏面の固体の絶縁性の有機化合物を、ないしは、該切断した絶縁性のフィルムの裏面の固体の絶縁性の有機化合物を、前記基材ないしは前記部品の表面に熱溶着させ、該有機化合物の熱溶着によって、前記切断した絶縁性のシートないしは前記切断した絶縁性のフィルムを、前記基材ないしは前記部品に接合させる方法である。
【0019】
7段落に記載した方法で作成した絶縁性のシートを、ないしは、絶縁性のシートを所定の形状に切断した絶縁性のシートを、基材ないしは部品に接合する方法は、基材ないしは部品の予め決めた位置に、絶縁性のシートないしは切断した絶縁性のシートを配置させ、絶縁性のシートの表面全体に圧縮荷重を加えて均等に加えて圧縮すると、絶縁性のシートの裏面の固体の絶縁性の有機化合物が、基材ないしは部品と接触する表面に熱溶着し、絶縁性のシートが、絶縁性の有機化合物の熱溶着によって、基材ないしは部品に接合する。
同様に、7段落に記載した方法で形成した絶縁性のフィルムを、ないしは、該絶縁性のフィルムを所定の形状に切断した絶縁性のフィルムを、基材ないしは部品に接合する方法は、基材ないしは部品の予め決めた位置に絶縁性のフィルムを配置させ、フィルムの表面全体に圧縮荷重を加えて均等に圧縮すると、絶縁性のフィルムの裏面の固体の絶縁性の有機化合物が、基材ないしは部品と接触する表面に熱溶着し、絶縁性のフィルムが、絶縁性の有機化合物の熱溶着によって、基材ないしは部品に接合する。
なお、アグリゲートが10-100nmの大きさからなる炭素粒子同士が数珠状に結合した炭素粒子の集まりであり、炭素粒子が容易に切断できるため、アグリゲートが容易に切断でき、アグリゲートの集まりと固体の絶縁性の有機化合物で構成された絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムは任意の形状に切断できる。
つまり、基材ないしは部品の表面の凹凸は、大きさがサブミクロンと小さいが、絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムと接触する表面の凸部は莫大な数からなる。いっぽう、絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムの表面は、固体の有機化合物で覆われている。従って、基材ないしは部品の表面に配置した絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムの表面全体を均一に圧縮すると、絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムの表面を覆う固体の有機化合物が、基材ないしは部品の表面の凸部の先端と接触し、先端の接触部に摩擦熱が発生し、この摩擦熱で、凸部の先端と接触した固体の有機化合物が熱融解する。熱融解した有機化合物が、凸部の先端から凹部の方向に移動し、新たな固体の有機化合物が、凸部の先端と接触し、接触した固体の有機化合物が熱融解する。これによって、熱融解した有機化合物が、基材ないしは部品の表面の凹部に入り込む。こうした現象は、熱融解した有機化合物が、基材ないしは部品の表面の凹部を埋めるまで継続する。この後、有機化合物が固化し、固化した絶縁性の有機化合物は、絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムの表面を覆う固体の絶縁性の有機化合物と一体になる。これによって、絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムが、基材ないしは部品の表面に接合する。すなわち、絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムが、基材ないしは部品の表面の莫大な数からなる凸部の先端と接触する。また、基材ないしは部品の表面の凹部は、凸部と一緒になって凹凸を形成するため、凹部も莫大な数である。さらに、絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムが軽量である。いっぽう、基材ないしは部品の表面の莫大な数からなる凹部に入り込んだ固化した有機化合物に、アンカー効果が作用する。このため、莫大な数からなる凹部に入り込んだ固化した有機化合物が発揮するアンカー効果によって、絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムが、基材ないしは部品の表面に、一定の強度で接合する。同様に、切断した絶縁性のシート、ないしは、切断した絶縁性のフィルムを、基材ないしは部品に接合することができる。なお、摩擦熱は短時間で発生し、また、凸部の先端が極めて僅かな体積であるため、摩擦熱は短時間で冷却する。従って、摩擦熱で凸部の先端と接触した絶縁性の有機化合物は、沸点までは上昇しない。
なお、基材ないしは部品の表面の凸部の先端の接触部に、摩擦熱が短時間発生し、この後、摩擦熱が短時間で冷却する。このため、基材ないしは部品が、耐熱性の低い合成樹脂であっても、また、布帛、ないしは、不織布であっても、絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムが、基材ないしは部品の表面に接合する。さらに、9段落に記載した絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムの第八から第十の作用効果で説明したように、作成するシートないしはフィルムの大きさと形状と厚みは、自在に変えることができる。また、絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムは、様々な大きさと様々な形状に切断できる。従って、絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムは、様々な材質からなる基材ないしは部品に対し、また、様々な大きさと形状とからなる基材ないしは部品に対し、絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムの表面を覆う有機化合物の熱溶着という極めて簡単な手段で接合できる。同様に、切断した絶縁性のシート、ないしは、切断した絶縁性のフィルムを、基材ないしは部品に、有機化合物の熱溶着によって接合することができる。
この結果、9段落に記載した絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムが発揮する様々な作用効果が、様々な材質からなる基材ないしは部品の表面に付与される。これによって、6段落に記載した第三の課題が解決される。
さらに、基材ないしは部品の表面に接合した絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムは、表面を覆う固化した有機化合物によって、全ての液体をはじく撥水性を持つ。また、有機化合物は、極性が高い有機溶剤のみに溶解し、強酸化剤、強酸、強塩基、還元剤を除く物質と反応しない。このため、絶縁性のシートないしは絶縁性のフィルムを熱融着した基材ないしは部品に、優れた耐食性がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】ケッチェンブラックのアグリゲートの集まりの空隙を固化したイソフタル酸が埋めた構成からなる絶縁性フィルムの一部を拡大して模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
実施例1
実施例1は、カーボンブラックとしてケッチェンブラックを用い、絶縁性の有機化合物としてイソフタル酸を用い、極性の有機溶剤としてメタノールを用い、7段落に記載した6つの工程を連続して実施し、絶縁性のフィルムを作成する実施例である。なお、イソフタル酸は、融点が342℃と高く、沸点も378℃と高く、固体のイソフタル酸の比誘電率が2.2からなる有極性の絶縁物であり、比誘電率が32.6と極性が高いメタノールに溶解する。
最初に、ケッチェンブラック(ライオン株式会社の製品EC600JD)の10gと、工業用1級メタノールの30gを容器に充填し、メタノールを攪拌して、ケッチェンブラックをメタノール中に浸漬させた。なお、ケッチェンブラックは、平均粒子径が34nmと小さく、比表面積が1270m/gと大きく、優れた遮光性を示す。また、ケチェンブラックの粒子間の空隙を満たすに要するフタル酸ジブチルの量が495cm/100gと大きく、粒子の繋がりと粒子の凝集の程度が大きく、これによって、ケッチェンブラックのアグリゲートの絡み合いが進み、フィルムの機械的強度が増える。
この後、容器の上に平板を被せ、平板の上に1kgの重り9個を等間隔に離間させて載せた。さらに、重りと平板とを除き、容器を加振台の上に固定させ、容器に、前後、左右、上下の3方向の2Gからなる加速度を繰り返し加えた。こうした圧縮荷重を加える処理と加速度を加える一対の処理を、5回繰り返した後に、重りを平板の上に再度載せたが、粉砕したケッチェンブラックの集まりから、平板に対する反発力が発生し、平板の動きが全くなくなった。このため、ケッチェンブラックのメタノール中における粉砕が完了したと判断し、一対の処理を停止した。
さらに、容器に超音波ホモジナイザー(ヤマト科学株式会社の製品LUH150)を容器内のメタノール中で稼働し、20kHzの超音波信号を10分間加え、メタノールを介してアグリゲート同士が絡み合ったアグリゲートの集まりをメタノール中に分散した第一の懸濁液を作成した。
この後、懸濁液に、イソフタル酸(例えば、三菱ガス化学トレーディング株式会社の製品)の8gを投入し、懸濁液を撹拌し、イソフタル酸がメタノールに溶解した溶解液を介してアグリゲート同士が絡み合ったアグリゲートの集まりが分散した第二の懸濁液を作成した。
さらに、20cm×20cmの大きさの容器に、第二の懸濁液の20gを充填し、容器を加振台の上に固定させ、容器に、前後、左右、上下の3方向の1.5Gからなる振動加速度を繰り返し加えた。この後、容器をイソフタル酸の融点より高い350℃に昇温し、第二の懸濁液からメタノールを気化させ、さらに、イソフタル酸を熱融解させた。
この後、容器内の懸濁液の全体を覆う平板を懸濁液に被せ、平板の上に2kgの重り9個を等間隔に離間させて載せた。さらに、平板から重りを除き、容器の底面の9か所に、0.2Gからなる上下方向の衝撃加速度を同時に加え、容器の底面から黒みがかった色彩からなる試料を剥がした。この後、平板の表面の9か所に、0.2Gからなる上下方向の衝撃加速度を同時に加え、平板から黒みがかった色彩からなる試料を剥がした。
次に、試料を電子顕微鏡で観察した。電子顕微鏡は、JFEテクノリサーチ株式会社が所有する極低加速電圧SEMを用いた。この装置は、100ボルトからの極低加速電圧による表面観察が可能で、導電性の被膜を形成せずに直接フィルムの表面が観察できる。
最初に、試料の断面の観測結果から、フィルムの厚みは10μmであった。さらに、フィルムの表面の複数個所からの反射電子線について、900-1000ボルトの間にあるエネルギーを抽出して画像処理を行った。黒みがかった物質が9割に近い体積を占め、黒みがかった物質の空隙に有機物が存在した。さらに、表面の複数個所からの特性エックス線のエネルギーとその強度を画像処理し、黒みがかった物質を構成する元素の種類を分析した。黒みがかった物質は炭素原子のみで構成されていた。
以上の観察結果から、作成した試料は、ケッチェンブラックのアグリゲートの集まりが9割に近い体積を占め、ケッチェンブラックのアグリゲートの集まりの空隙を固化したイソフタル酸が埋め、10μmの厚みからんるフィルムを形成した。図1に、断面の一部を拡大して模式的に示す。1はケッチェンブラックのアグリゲートの集まりで、2は固化したイソフタル酸である。
次に、絶縁抵抗計で試料の抵抗を測定したところ、抵抗値は10MΩより大きい値であった。
さらに、フィルムの遮光性を、JIS-L-1055A法に基づいて測定した結果、94%の遮光率を有し、優れた遮光シートであることが分かった。
次に、シートの熱放射率を、フーリエ変換赤外分光光度計と放射測定ユニットからなる分析器(株式会社コベルコ科研が所有する設備)で測定した結果、熱放射率が0.93と高く、優れた放熱シートであることが分かった。
さらに、ISO527-3:2012に基づくフィルムの引張試験を、島津製作所の試験機:AGS-Xを用いて実施した。引張強度は150±10MPaであった。なお、PET樹脂の引張強度は48-73MPaで、ガラス繊維が30%添加されたPET樹脂の引張強度は138-166MPaである。従って、絶縁性フィルムは、30%ガラス繊維が入ったPET樹脂の引張強度に近い引張強度を持った。
なお、実施例1では、カーボンブラックとして、遮光性と放熱性に優れるケッチェンブラックを用いたが、カーボンブラックがケッチェンブラックに限定されることはない。また、絶縁性の有機化合物がイソフタル酸に限定されることはない。つまり、ケッチェンブラック以外のカーボンブラックを用い、フタル酸ないしはテレフタル酸を絶縁性の有機化合物として用い、7段落に記載した6つの工程を連続して実施することで、絶縁性のフィルムが作成できる。また、カーボンブラックのアグリゲートの集まりが、熱融解した絶縁性の有機化合物に分散した懸濁液を、実施例1より多くの量を容器に充填し、7段落に記載した6つの工程を連続して実施すれば、絶縁性のシートが作成される。
【0022】
実施例2
実施例2は、実施例1で作成したフィルムを、合成樹脂の透明フィルムに熱溶着させる。透明フィルムとして、フィルム厚が50μmからなるアクリル樹脂の透明フィルム(例えば、三菱レイヨン株式会社の製品で品番HBS006)を用いた。
最初に、22cm×22cm×1cm(厚み)からなる2枚の平板を用意し、1枚の平板の上に、実施例1で作成したフィルムと、20cm×20cmの大きさに切断したアクリル樹脂の透明フィルムと実施例1で作成したフィルムの順番で3枚のフィルムを重ね合わせ、さらに、もう1枚の平板を重ね合わせた。1枚の平板の上に、5kgの重り9個を等間隔に離間させて載せた。この後、重りを取り除いた。さらに、下方の平板の底面の9か所に、0.2Gからなる上下方向の衝撃加速度を同時に加え、平板からフィルムを剥がした。また、こう1枚の平板の底面の9か所に、0.2Gからなる上下方向の衝撃加速度を同時に加え、平板からフィルムを剥がし、フィルムを取り出した。
重ね合わせたフィルムの小片を、実施例1で実施した引張試験機を行った。引張強度は85±5MPaであった。この引張強度は、アクリル樹脂の透明フィルムの引張強度である50-60MPaより大きい。従って、実施例1で作成した絶縁性フィルムをアクリル樹脂の透明フィルムと一体化することで、アクリル樹脂の透明フィルムの引張強度が増大した。
従って、絶縁性フィルムを、アクリル樹脂の透明フィルムと一体化することで、アクリル樹脂の透明フィルムの引張強度の増大がもたらされた。さらに、アクリル樹脂の透明フィルムに、遮光性と放熱性と耐熱性が付与される。いっぽう、遮光性と放熱性と耐熱性が付与される合成樹脂のフィルムは、アクリル樹脂の透明フィルムに限らず、様々な材質からなる合成樹脂のフィルムに付与できる。
【0023】
実施例3
実施例3は、実施例1で作成した絶縁性フィルムを、ナイロン66の繊維からなる基布に熱溶着させる。基布は、織り密度が2.54cmあたり55本で、目付が1mあたり216gで、厚みが0.32mmからなる。
最初に、22cm×22cm×1cm(厚み)からなる平板を2枚用意し、1枚の平板の上に、実施例1で作成したフィルムと、20cm×20cmの大きさに切断したナイロン66の繊維からなる基布と実施例1で作成したフィルムの順番で3枚を重ね合わせ、さらに、もう1枚の平板を重ね合わせ、1枚の平板の上に、5kgの重り9個を等間隔に離間させて載せた。この後、重りを取り除いた。さらに、下方の平板の底面の9か所に、0.2Gからなる上下方向の衝撃加速度を同時に加え、平板から試料を剥がした。また、残ったもう1枚の平板の底面の9か所に、0.2Gからなる上下方向の衝撃加速度を同時に加え、平板から試料を剥がし、試料を取り出した。
次に、試料の表面に、5kgの重り9個を、1個ずつ等間隔に離間させて載せ、重りを1個ずつ取り除いたが、試料の表面と側面に変化がなかった。このため、絶縁性のフィルムが一定の強度を伴って基布と一体化した。
さらに、試料の表面に水滴を垂らしたが、水滴は試料の表面からはじかれた。
以上の結果から、絶縁性のフィルムが、基布の表面と強固に接合し、フィルムが一定の強度を伴って基布と一体化した。さらに、フィルムの表面が、固体のイソフタル酸で覆われているため、フィルムの表面が撥水性を持ち、基布に水が浸透しなかった。このため、絶縁性のフィルムが接合した基布は、酸やアルカリを始めとする様々な薬品に対し耐食性を持つ。
従って、ケッチェンブラックのアグリゲートの集まりと固体のイソフタル酸からなるフィルムは、基布の表面に接合することで、基布に撥水性と遮光性と放熱性が付与される。いっぽう、撥水性、遮光性および放熱性が付与される基布は、ナイロン66の繊維からなる基布に限らない。
いっぽう、布帛についても、本実施例に従って、絶縁性のフィルムと一体化することができる。この結果、布帛に撥水性と遮光性と放熱性が付与される。なお、布帛は、織物、編み物、直交ネット、直交積層ネットおよび多軸積層ネットからなる。このため、様々な材質からなる織物、編み物、直交ネット、直交積層ネットおよび多軸積層ネットからなる布帛を、絶縁性のフィルムと一体化することができる。これによって、様々な材質からなる織物、編み物、直交ネット、直交積層ネットおよび多軸積層ネットからなる布帛に、撥水性、遮光性および放熱性が付与できる。
【0024】
実施例4
実施例4は、実施例1で作成した絶縁性フィルムを、ポリエステルの長繊維からなる不織布に熱溶着させる。ポリエステルの長繊維からなる不織布として、株式会社東レが製造する商標がアクスターと呼ばれる製品の品番M2080-3Tを用いた。この不織布は、目付が80g/mで、厚さが0.36mmで、引張強力は縦が69Nであり横が83Nであり、通気量が5cc/cm・秒の特性を持つ。
最初に、22cm×22cm×1cm(厚み)からなる平板を2枚用意し、1枚の平板の上に、実施例1で作成したフィルムと、20cm×20cmの大きさに切断した不織布と実施例1で作成したフィルムの順番で3枚を重ね合わせ、さらに、もう1枚の平板を重ね合わせ、1枚の平板の上に、5kgの重り9個を等間隔に離間させて載せた。この後、重りを取り除いた。さらに、下方の平板の底面の5か所に、0.2Gからなる上下方向の衝撃加速度を同時に加え、平板から試料を剥がした。残ったもう1枚の平板の底面の5か所に、0.2Gからなる上下方向の衝撃加速度を同時に加え、平板から試料を剥がし、試料を取り出した。
次に、実施例3と同様に、試料の表面に、5kgの重り9個を、1個ずつ等間隔に離間させて載せ、重りを1個ずつ取り除いたが、試料の表面と側面に変化がなかった。このため、絶縁性のフィルムが一定の強度を伴って基布と一体化した。
さらに、試料の表面に水滴を垂らしたが、水滴は試料の表面からはじかれた。
以上の結果から、絶縁性のフィルムが、不織布の表面と強固に接合し、フィルムが一定の強度を伴って不織布と一体化した。さらに、フィルムの表面が、固体のイソフタル酸で覆われているため、フィルムの表面が撥水性を持ち、不織布に水が浸透しなかった。このため、絶縁性のフィルムが接合した不織布は、酸やアルカリを始めとする様々な薬品に対し耐食性を持つ。
従って、ケッチェンブラックのアグリゲートの集まりと固体のイソフタル酸からなるフィルムは、不織布の表面に接合することで、不織布に撥水性と遮光性と放熱性が付与される。いっぽう、撥水性、遮光性および放熱性が付与される不織布は、ポリエステルの長繊維からなる不織布に限らない。
いっぽう、不織布は、湿式、乾式および直接式による短繊維不織布および長繊維不織布からなる。このため、様々な材質からなる湿式、乾式および直接式による短繊維不織布および長繊維不織布からなる不織布に、絶縁性のフィルムを接合させることで、様々な材質からなる湿式、乾式および直接式による短繊維不織布および長繊維不織布からなる不織布に、撥水性、遮光性および放熱性が付与できる。
【符号の説明】
【0025】
1 ケッチェンブラックのアグリゲートの集まり 2 固化したイソフタル酸
図1