IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ライフセル コーポレーションの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129014
(43)【公開日】2024-09-26
(54)【発明の名称】脱細胞化された筋肉マトリクス
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/36 20060101AFI20240918BHJP
   A61L 27/40 20060101ALI20240918BHJP
   A61F 2/08 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
A61L27/36 410
A61L27/36 300
A61L27/40
A61F2/08
【審査請求】有
【請求項の数】18
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024087705
(22)【出願日】2024-05-30
(62)【分割の表示】P 2021519159の分割
【原出願日】2019-10-10
(31)【優先権主張番号】62/744,204
(32)【優先日】2018-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/854,647
(32)【優先日】2019-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】504154148
【氏名又は名称】ライフセル コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】LifeCell Corporation
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】シュ,フゥイ
(72)【発明者】
【氏名】ファン,リ チン
(72)【発明者】
【氏名】ステック,エリック
(57)【要約】      (修正有)
【課題】1または複数の脱細胞化された筋肉マトリクスを含む筋肉インプラントおよび筋肉インプラントの調製方法を提供する。
【解決手段】筋肉組織の再生の補助を可能とする脱細胞化された筋肉マトリクスの粒子の集合体を含む筋肉インプラントにおいて、前記粒子が、3μm~5000μmの大きさであり、未処理の筋肉サンプルに通常含まれるミオシンの一部のみを含む脱細胞化された筋肉マトリクスを含むことを特徴とする筋肉インプラントである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筋肉インプラントを調製する方法であって、
少なくとも1の筋肉サンプルを提供するステップと、
前記少なくとも1の筋肉サンプルを、プロテアーゼを含む溶液と接触させるステップと、
前記少なくとも1の筋肉サンプルを脱細胞化して、光学顕微鏡で測定されるように、少なくとも1の脱細胞化された筋肉マトリクスを生成するステップと、
前記筋肉マトリクスを処理して、粒子状マトリクスを生成するステップとを備え、
プロテアーゼを含む溶液との接触および脱細胞化が、処理前の筋肉サンプルに通常見られる筋線維の少なくとも一部を保持するように制御されることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
前記少なくとも1の筋肉サンプルが、少なくとも2または少なくとも3の筋肉サンプルであることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法において、
前記少なくとも1の筋肉サンプルを、ポリエチレングリコール、ドデシル硫酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウムおよびポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートのうちの少なくとも1つを含む脱細胞化溶液と接触させることにより、筋肉サンプルが脱細胞化されることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一項に記載の方法において、
酵素溶液の暴露時間および濃度を制御することにより、処理前の筋肉サンプルに通常見られる筋線維の約20~80%を保持する少なくとも1の脱細胞化された筋肉マトリクスが得られることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか一項に記載の方法において、
前記少なくとも1の筋肉サンプルをDNaseと接触させるステップをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか一項に記載の方法において、
前記少なくとも1の筋肉サンプルをアルファ-ガラクトシダーゼと接触させるステップをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1乃至5の何れか一項に記載の方法において、
前記少なくとも1の筋肉サンプルが、実質的にすべてのアルファ-ガラクトース部分を欠く動物に由来するものであることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れか一項に記載の方法において、
前記筋肉マトリクスを処理して粒子状マトリクスを生成することが、前記筋肉インプラントを混合、切断、均質化または低温破砕して粒子状の筋肉インプラントを形成することを含むことを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れか一項に記載の方法において、
バイオバーデンを低減するように前記筋肉インプラントを処理するステップをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法において、
前記筋肉インプラントが電子ビーム放射に曝されることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1乃至10の何れか一項に記載の方法において、
前記プロテアーゼが、トリプシン、セリンプロテアーゼまたはブロメラインのうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1乃至11の何れか一項に記載の方法に従って調製された筋肉インプラント。
【請求項13】
少なくとも1の脱細胞化された筋肉マトリクスを含む筋肉インプラントであって、前記少なくとも1の脱細胞化された筋肉マトリクスが、未処理の筋肉サンプルに通常含まれる筋線維の少なくとも一部を含み、前記筋肉マトリクスが粒子状であることを特徴とする筋肉インプラント。
【請求項14】
請求項13に記載の筋肉インプラントにおいて、
前記少なくとも1の脱細胞化された筋肉マトリクスが、未処理の筋肉サンプルに通常見られる筋線維の約20~80%を含むことを特徴とする筋肉インプラント。
【請求項15】
請求項13または14に記載の筋肉インプラントにおいて、
前記脱細胞化された筋肉マトリクスが、実質的にすべてのアルファ-ガラクトース部分を欠いていることを特徴とする筋肉インプラント。
【請求項16】
請求項13乃至15の何れか一項に記載の筋肉インプラントにおいて、
前記筋肉インプラントが、凍結乾燥されているか、または水溶液中にあることを特徴とする筋肉インプラント。
【請求項17】
請求項13乃至16の何れか一項に記載の筋肉インプラントにおいて、
前記筋肉インプラントが実質的にバイオバーデンを欠いていることを特徴とする筋肉インプラント。
【請求項18】
筋肉インプラントを患者に注入するステップを含む治療方法であって、
前記筋肉インプラントが、未処理の筋肉サンプルに通常見られる筋線維の少なくとも一部を含む粒子状の脱細胞化された筋肉マトリクスを含むことを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法において、
前記少なくとも1の脱細胞化された筋肉マトリクスが、未処理の筋肉サンプルに通常見られる筋線維の約20~80%を含むことを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項18または19に記載の方法において、
前記筋肉インプラントが、前記少なくとも1の脱細胞化された筋肉マトリクスに接合された少なくとも1の脱細胞化された真皮マトリクスをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項21】
請求項18または19に記載の方法において、
前記筋肉インプラントが、前記少なくとも1の脱細胞化された筋肉マトリクスに接合された少なくとも1のメッシュをさらに備えることを特徴とする方法。
【請求項22】
請求項21に記載の方法において、
前記少なくとも1のメッシュが、合成メッシュ、生物学的メッシュ、生分解性メッシュおよび生体吸収性メッシュのうちの少なくとも1つであることを特徴とする方法。
【請求項23】
請求項18または19に記載の方法において、
前記筋肉インプラントが粒子の形態であることを特徴とする方法。
【請求項24】
請求項18乃至23の何れか一項に記載の方法において、
前記筋肉インプラントが、骨格筋の欠損を治療するために使用されることを特徴とする方法。
【請求項25】
請求項24に記載の方法において、
前記骨格筋の欠損が、腹部の欠損であることを特徴とする方法。
【請求項26】
請求項18乃至23の何れか一項に記載の方法において、
前記筋肉インプラントが、バルク筋肉組織の喪失または除去の後に使用されることを特徴とする方法。
【請求項27】
請求項26に記載の方法において、
前記バルク筋肉組織の喪失が、筋肉消耗性疾患によるものであることを特徴とする方法。
【請求項28】
請求項18乃至23の何れか一項に記載の方法において、
前記筋肉インプラントが、健康な筋肉組織を増強するために使用されることを特徴とする方法。
【請求項29】
請求項18乃至23の何れか一項に記載の方法において、
前記筋肉インプラントが、弱くなった筋肉組織を補強するために使用されることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して腹壁および他の筋肉の欠損の修復、再生および/または治療において、脱細胞化された筋肉マトリクスを製造および使用する方法に関する。
【0002】
本出願は、米国特許法第119条に基づいて、2019年5月30日に出願された米国仮特許出願第62/854,647号、並びに、2018年10月11日に出願された米国仮特許出願第62/744,204号の利益を主張する。それらの各仮出願の内容全体は、引用により本明細書に援用されるものとする。
【背景技術】
【0003】
様々な損傷、疾患および外科的処置により、筋肉量、特に骨格筋が失われる。例えば、軟部組織肉腫および骨肉腫の外科的除去は、バルク筋肉の喪失をもたらす場合がある。また、ヘルニア修復や筋肉増強などの他の外科手術や美容整形では、筋肉量の長期管理が必要である。また、筋肉の損傷は、鈍器損傷や銃傷などの負傷によっても生じる場合がある。
【0004】
現在の筋肉再生処置は、筋肉同種移植片の使用(例えば、患者のドナー部位または死体からの大殿筋の採取)、または完全に脱細胞化された真皮および他の組織マトリクスを含む異種移植片の使用に焦点を当てている。しかしながら、筋肉の移植は、過剰な炎症(瘢痕組織の形成や潜在的な拒絶反応)を引き起こす可能性があり、また、患者から採取した場合、ドナー部位の筋肉が失われるという問題がある。そのため、機能的な筋肉量の生成を含む、筋肉の修復と再生の長期的な管理のための改良された方法および組成物が依然として必要とされている。さらに、例えば、機能的特性または美観を改善するために(例えば、筋肉量が少ない人、または筋肉の強さまたは量の増加を望む人のために)、筋肉量を増加させる方法に対する要望が残っている。
【発明の概要】
【0005】
すなわち、本明細書には、処理前の筋肉組織に通常見られる筋線維または他の筋肉構造タンパク質の少なくとも一部を保持する脱細胞化された筋肉マトリクスを含む筋肉インプラントと、筋肉の修復、治療、強化、増強および/または再生を改善するためのそれらの使用とが記載されている。様々な実施形態では、筋肉インプラントを調製する方法が提供される。この方法は、少なくとも1の筋肉サンプルを提供するステップと、少なくとも1の筋肉サンプルを酵素と接触させるステップと、少なくとも1の筋肉サンプルを脱細胞化して、少なくとも1の脱細胞化された筋肉マトリクスを生成するステップと、脱細胞化の前に筋肉サンプルに通常見られる筋線維の少なくとも一部を保持するために、酵素および脱細胞化プロセスの曝露時間および/または濃度を制御するステップとを含むことができる。
【0006】
また、強度を向上させるシート組織製品も提供される。このシート製品は、脱細胞化された筋肉マトリクスおよび脱細胞化された真皮マトリクスを含むことができる。マトリクスは、層状にして、複合体を形成することができる。このようなマトリクスを使用する方法は、機能的な筋肉の生成を必要とする複雑な損傷の治療を可能にする。真皮マトリクスは、筋肉再生中の荷重支持のための構造的サポートを提供することができ、新しい筋肉の周囲または近傍の結合組織の再生のための基質を提供することができる。
【0007】
様々な実施形態では、粒子状またはシート状の脱細胞化された筋肉マトリクスを含む、筋肉インプラントが提供される。マトリクスは、処理前の筋肉組織に通常見られる筋線維の少なくとも一部を含むことができる。代替的または追加的には、筋肉が一定の割合のミオシンを維持することを特徴とすることができる。さらに、筋肉は、筋線維および/またはミオシンを保持しているが、組織学的染色によって測定されるように脱細胞化することができる。いくつかの実施形態では、脱細胞化された筋肉マトリクスが、処理前の筋肉組織に通常見られる筋線維またはミオシンの約20~80%以下を含む。特定の実施形態では、筋肉インプラントが、粒子の形態である。特定の実施形態では、筋肉インプラントが、凍結乾燥されているか、または水溶液中に提供される。
【0008】
様々な実施形態では、治療方法が提供され、この方法が、上述した筋肉インプラントのうちの1つを患者に注入または移植するステップを含む。いくつかの実施形態において、筋肉インプラントは、インプラントがない場合の再生の速度および/または全体量と比較して、あるいは無傷の筋肉を含むインプラント、または実質的にすべての筋線維またはミオシンを欠く脱細胞化された筋肉を含むインプラントが存在する場合の再生の速度および/または全体量と比較して、患者への移植後の生来筋肉の再生の速度および/または全体量の増加を促進する。特定の実施形態では、筋肉インプラントが、腹部ヘルニア、腹部損傷、外科的損傷、銃創または鈍器損傷などの骨格筋欠損を治療するために使用される。いくつかの実施形態では、筋肉インプラントが、例えば、筋肉消耗性疾患、または患者からの生来筋肉組織の(例えば、肉腫または骨肉腫の治療による)外科的除去に起因する、バルク筋肉の喪失後に使用される。特定の実施形態では、筋肉インプラントが、インプラント部位における筋肉組織の外観および/または体積を増強するために使用される。筋肉インプラントは、粒子状の筋肉マトリクスの1回または複数回の注入で提供することができる。筋肉インプラントは、収縮力によって測定される機能的な筋肉の再生または増強を提供するために使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、開示された筋肉マトリクスを製造するための例示的な方法を示すフローチャートである。
図2図2Aおよび図2Bは、開示された様々な実施形態に従って調製した、新鮮なブタの筋肉およびブタの無細胞筋肉マトリクスの組織学的画像である。
図3図3は、新鮮なブタの筋肉のミオシン含有量と、シート状または粒子状のブタの無細胞筋肉マトリクス(pAMM)のミオシン含有量とを示す棒グラフである。
図4図4Aおよび図4Bは、ブタ無細胞真皮マトリクスで、またはブタ無細胞真皮マトリクスとブタ無細胞筋肉マトリクスの組合せで形成および処理してから6週後のラットの腹直筋欠損のトリクローム染色セクションである。
図5図5は、腓腹筋欠損を未処置のままのラットまたはpAMMで修復したラットの走行距離で測定した機能的な筋肉回復を示すグラフである。
図6図6は、腓腹筋欠損を未処置のままのラットまたはpAMMで修復したラットの収縮力で測定した機能的な筋肉回復を示す棒グラフである。
図7図7Aおよび図7Bは、欠損形成から3週後のラット前脛骨筋(TA)の筋肉欠損のトリクローム染色画像である。(A)は欠損を修復せずに放置した場合、(B)は欠損形成直後に注入可能なpAMMで修復した場合である。
図8図8は、注入可能なpAMMを用いて修復した場合と、修復しなかった場合の欠損形成から3週後のTA筋肉重量を、反対側の筋肉と比較して示す棒グラフである。
図9図9Aおよび図9Bは、欠損形成から12週後の霊長類の腓腹筋欠損のトリクローム染色画像である。(A)は欠損を修復せずに放置した場合、(B)は欠損形成直後にpAMMで修復した場合である。
図10図10Aおよび図10Bは、注入後1週目または3週目のpAMMを注入したラットのTA筋肉の肉眼的断面画像を示している。
図11図11は、移植から3週後のpAMMを注入したラットTA筋肉のH&Eセクションであり、新しい筋肉の形成を示している。
図12図12は、処置後3週目の、pAMMを注入したラットのTA筋肉、または注入しなかったラットのTA筋肉の棒グラフであり、既存の筋肉量を増強するpAMMの能力を示している。
図13図13は、注入後9週目の、1回、2回または3回の処置でpAMMを注入したラットTA筋肉の棒グラフである。
図14図14は、実施例8に記載されているように、対応する反対側の筋肉と比較した、注入された筋肉の重量増加の割合を示している。
図15図15は、実施例8に記載されているように、注入後3週目の、様々な配合のpAMMを注入した筋肉のトリクローム染色画像である。配合1のpAMMは、残留量が検出されないが、配合2、3のpAMMは、少量が検出される。
図16図16は、実施例8に記載されているように、注入後6週目の、様々な配合のpAMMを注入した筋肉のトリクローム染色画像である。配合1または配合2のpAMMは、残留量が検出されないが、配合3のpAMMは、少量が検出される。
図17図17A図17Eは、トリプシンで処理したブタの筋肉組織の肉眼的画像である。
図18図18は、様々な濃度のトリプシンで処理したブタの筋肉組織に残っているミオシンの棒グラフである。
図19図19A図19Jは、トリプシン処理、ブロメライン処理、および未処理のブタの筋肉組織の肉眼的画像である。
図20図20は、様々な濃度のブロメラインで処理したブタの筋肉組織に残っているミオシンの棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本開示に係る特定の例示的な実施形態を詳細に参照し、その特定の例を添付の図面に示す。
【0011】
本明細書において、「筋繊維」は、筋肉の収縮に関与する棒状の構造体であり、ミオシン、トロポニン、トロポミオシンおよびアクチニンなどのタンパク質を含む。長い筋繊維鎖は、細長い筋肉細胞(筋細胞)の中やその間に見られる。
【0012】
本明細書において、「筋肉欠損」は、移植された筋肉マトリクスによって修復、改善、増強、再生、回復および/または治療が可能な筋肉の異常または損傷である。筋肉欠損には、筋肉の変化をもたらす、疾患、外傷、外科的介入に起因する、あらゆる異常や損傷が含まれる。本明細書において、「バルク」筋肉組織の除去または喪失は、筋肉組織の評価可能かつ測定可能な体積、例えば少なくとも約0.5cmの体積の喪失を指している。
【0013】
本明細書において、「脱細胞化組織」は、組織の細胞外マトリクス中で増殖しているのが通常見られる細胞の大部分またはすべてが除去された任意の組織(例えば、生来細胞の約80、85、90、95、99、99.5、または100%、またはその間の任意の割合を欠いている組織)である。細胞の除去は、H&Eセクションで光学顕微鏡により評価することができる。
【0014】
本明細書において、「生来細胞」(native cells)および「生来組織」(native tissue)という用語は、筋肉インプラントの移植前にレシピエント組織/器官に存在していた細胞および組織、または移植後に宿主動物によって産生された細胞または組織を意味している。
【0015】
本明細書で使用されているセクションの見出しは、整理することのみを目的としており、記載されている主題を限定するものと解釈されるべきではない。特許、特許出願、論文、書籍および論文に限定されるものではないが、これらを含む本願で引用したすべての文書、または文書の一部は、その全体があらゆる目的のために引用により明示的に援用されるものとする。引用により援用された刊行物および特許または特許出願が、本明細書に含まれる発明と矛盾する場合、本明細書がその矛盾する資料に対して優先する。
【0016】
本出願において、単数形の使用には、特に明記しない限り、複数形が含まれる。また、本願において、「または」の使用は、特に明記しない限り、「および/または」を意味している。さらに、「including」(含む)という用語、並びに、「includes」および「included」などの他の形式の使用は、限定的なものではない。本明細書に記載されている任意の範囲は、端点と、それら端点間のすべての値を含むと理解される。
【0017】
本明細書には、1または複数の脱細胞化された筋肉マトリクスを含む筋肉インプラントが開示されている。筋肉マトリクスは、注入に適した粒子状マトリクスを含むことができる。注入は、大きな筋肉(例えば、四肢、腹部、首、胴体)、または括約筋、顔面筋、舌または手などの小さな筋肉を含む、多くの解剖学的部位を治療するために使用することができる。代替的には、マトリクスは、シート、脱細胞化された筋肉と脱細胞化された真皮を組み合わせたシート、筋肉とポリプロピレンメッシュなどの他の材料の組合せを含むことができる。マトリクスを移植して、機能的な筋肉の再生または増強を誘導することができる。
【0018】
開示された筋肉マトリクスは、図1のフローチャートに示す様々な例示的なプロセスを用いて製造することができる。図示のように、このプロセスは、概して、筋肉を入手すること(ステップ110)、筋肉を所望のサイズに切断すること(ステップ120)、任意選択的には、赤血球を含む特定の細胞を溶解または破壊するステップを実行すること(ステップ130)を含む。この方法は、さらに、組織をトリプシンなどの酵素で処理すること(ステップ140)、組織を脱細胞化すること(ステップ150)、任意選択的には、組織の構成要素を除去または破壊する追加のステップを実行すること(ステップ160)を含むことができる。次に、組織を処理して粒子を形成することができる(ステップ170)。次に、組織は、保護液または保存液に入れて最終的な保存および滅菌(ステップ180)、その後の最終滅菌(ステップ190)のために調製される。以下に、これらのステップの詳細を述べることとする。
【0019】
ステップ110は、筋肉組織を受け入れ、または取得することを含む。組織は、多くの様々な動物または動物の解剖学的部位から得られた骨格筋を含むことができる。代替的には、組織は、平滑筋または心筋を含むことができる。
【0020】
組織は、ヒトまたはヒト以外の哺乳類から得ることができる。さらに、筋肉は、任意の適切な筋肉を含むことができるが、多くの場合、効率的な処理を可能にするために適切な体積を提供するように選択される。適切な筋肉は、例えば、動物の脚、腕または胴体の筋肉を含むことができ、これには、例えば、腰、腹直筋、背中、脛骨筋または同様の筋肉が含まれる。
【0021】
開示された筋肉マトリクスは、意図されたレシピエント動物と同じ種の1または複数のドナー動物に由来するものであってもよいが、必ずしもそうである必要はない。このため、例えば、脱細胞化された筋肉組織は、ブタの組織から調製され、ヒトの患者に移植されるようにしてもよい。脱細胞化された筋肉組織のドナーおよび/またはレシピエントとしての役割を果たすことができる種には、ヒト、非ヒト霊長類(例えば、サル、ヒヒまたはチンパンジー)、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、アレチネズミ、ハムスター、ラットまたはマウスなどの哺乳類が含まれるが、これらに限定されるものではない。いくつかの実施形態では、複数のドナー動物からの筋肉組織を使用することができる。
【0022】
特定の実施形態では、1または複数の抗原性エピトープを欠くように遺伝的に改変された動物を、筋肉マトリクスの組織源として選択することができる。例えば、末端α-ガラクトース部分の発現を欠くように遺伝子操作された動物(例えば、ブタ)を、組織源として選択することができる。適切な動物および異種移植のためのトランスジェニック動物の製造方法の説明については、2014年8月12日に登録された「Acellular Tissue Matrices Made from Alpha-1,3-Galactose Deficient Tissue」という発明の名称の米国特許第8,802,920号を参照されたい。この特許は、引用によりその全体が援用されるものとする。代替的には、組織は、例えばアルファ-ガラクトシダーゼで処理することにより、末端α-ガラクトース部分を除去するように処理することができる。
【0023】
筋肉を得た後、使用する前に、損傷や望ましくない変化を防ぐために組織を保存することができる。例えば、組織を極低温で凍結し、凍結融解サイクル損傷を防ぐためにゆっくりと解凍することができる。例えば、組織を-60℃で凍結し、必要に応じて6~12時間かけて解凍することができる。
【0024】
筋肉を得た後、更なる処理を容易にするために、筋肉を所望のサイズに切断することができる(ステップ120)。例えば、様々な溶液での処理を可能にするために、筋肉を所望の厚さまたはサイズのピースまたはシートに切断することができる。切断に適したサイズは、約0.5mmの厚さのストリップまたはシートを含むが、それより小さいまたは大きいピースを使用することができる。
【0025】
最初の切断後、組織サンプルを処理して、血液または赤血球(「RBC」)などの血液成分を除去することができる(ステップ130)。例えば、組織サンプルは、赤血球などの細胞を除去するために、細胞溶解溶液に曝すことができる。例えば、塩化アンモニウム、低張または高張食塩水、洗浄剤、または他の既知の血液除去組成物などの溶液を含む、様々な血球除去または溶解溶液を使用することができる。さらに、溶液は、複数のインキュベーションで、かつ/または例えば、1~10回の洗浄ステップ、またはその間の任意の適切な回数を含む、洗浄ステップで使用することができる。組織は、溶解したRBC物質を除去するために濯ぐことができる。
【0026】
血液溶解後、(例えば、筋繊維中のミオシン分子を切断することによって)筋繊維束を分解するために、かつ/または望ましくない他の成分を除去するために、組織サンプルを、酵素を含む溶液と接触させることができる(ステップ140)。例えば、酵素は、セリンプロテアーゼなどの1または複数のプロテアーゼを含むことができ、プロテアーゼは、細胞の除去または破壊、変性または損傷したコラーゲン断片の除去、またはアルファ-ガラクトースなどの特定の抗原の除去を補助することができる。
【0027】
いくつかの実施形態では、溶液が、トリプシンまたはセリンプロテアーゼなどの酵素を含むことができる。適切な酵素としては、例えば、パパイン、ブロメライン、フィシンまたはアルカラーゼを挙げることができる。いくつかの実施形態では、上述したトリプシンまたは他の酵素が、その後の脱細胞化中に筋繊維の分解および筋細胞の除去の速度および/または程度を増加させることにより、脱細胞化プロセスを促進することができる。
【0028】
いくつかの実施形態では、筋肉サンプルは、約10-10~0.5%(例えば、約0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.15、0.2、0.25、0.3、0.35、0.4、0.45または0.5%)、または10-8~10-4%、または10-7~10-5%、または10-4~10-2%、またはその間の任意のパーセントの範囲の濃度で、トリプシンに曝すことができる。この濃度は、10-6%が約120~130BAEE単位に相当するような酵素活性を有するトリプシンに対して適切であると考えることができ、BAEE単位は、基質としてNα-ベンゾイル-L-アルギニンエチルエステル(BAEE)を使用するトリプシン活性の仕様を有する酵素に対して決定される。その手順は、次の反応に基づく連続分光光度法による速度測定(ΔA253、光路=1cm)である。
【0029】
【0030】
BAEE = Nα-ベンゾイル-L-アルギニンエチルエステル
【0031】
BAEE単位とは、1BAEE単位のトリプシン活性が、3.20mlの反応体積において、25℃、pH7.6の条件で、BAEEを基質として毎分0.001のΔA253を生成するように定義される。
【0032】
多くの適切なトリプシンを使用することができるが、適切な1つの例示的なトリプシンには、ウシ膵臓トリプシン、ヒト膵臓トリプシン、ブタ膵臓トリプシン、組換ヒトトリプシン、および組換ブタトリプシンが含まれる。
【0033】
いくつかの実施形態では、筋肉サンプルを、1リットルあたり約5単位から200単位までの範囲内の濃度でブロメラインに曝すことができる。
【0034】
特定の実施形態では、筋肉サンプルを、少なくとも約15分、または最大約24時間(例えば、約15分、30分、45分、60分、75分、90分、105分、120分、4時間、8時間、12時間、24時間、または中間の任意の時間)、トリプシンまたは他の酵素に曝すことができる。特定の実施形態では、筋肉サンプルを、少なくとも約15分、または最大約48時間(例えば、約15分、30分、45分、60分、75分、90分、105分、120分、4時間、8時間、12時間、24時間、48時間、または中間の任意の時間)、酵素に曝すことができる。様々な実施形態において、脱細胞化は、トリプシン処理(または他の酵素処理)の前、トリプシン処理の後、またはトリプシン処理の前と後の両方で行うことができる。
【0035】
酵素処理後、組織サンプルを処理して、脱細胞化マトリクスを生成することができる。本明細書で述べるように、「脱細胞化」組織は、光学顕微鏡で測定されるように、実質的にすべての細胞が除去された筋肉マトリクスを指すと理解されるであろう。しかしながら、本明細書で述べるように、筋肉マトリクスは、ミオシンを含む収縮タンパク質を保持することができ、これは、新しい筋肉組織の成長を可能にするのに重要であることが見出されている。ミオシンおよび他のタンパク質が細胞内に含まれていても、本明細書で言及される「脱細胞化」または「無細胞」筋肉マトリクスは、ヘマトキシリンおよびエオシン光学顕微鏡で組織が視覚的に細胞を含まない限り、脱細胞化されているか、または無細胞であると理解されるであろう。
【0036】
組織サンプルは、筋肉組織内の細胞外マトリクスの生物学的および/または構造的完全性を損なうことなく、筋肉組織から生存細胞および非生存細胞を除去するために、脱細胞化溶液に曝すことができる。脱細胞化溶液は、適切な緩衝液、塩、抗生物質、1または複数の洗浄剤(例えば、TRITON X-100(商標)または他の非イオン性オクチルフェノールエトキシレート界面活性剤、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、デオキシコール酸ナトリウム、またはポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート)、1または複数の架橋防止剤、1または複数のプロテアーゼ阻害剤、および/または1または複数の酵素を含むことができる。いくつかの実施形態では、脱細胞化溶液が、0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、1.0%、1.5%、2.0%、2.5%、3.0%、3.5%、4.0%、4.5%、5.0%、または中間の任意の割合のTRITON X-100(商標)と、任意選択的に、10mM、15mM、20mM、25mM、30mM、35mM、40mM、45mM、50mM、または中間の任意の濃度のEDTA(エチレンジアミン四酢酸)とを含むことができる。特定の実施形態では、脱細胞化溶液が、0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、1.0%、1.5%、2.0%、2.5%、3.0%、3.5%、4.0%、4.5%、5.0%、または中間の任意の割合のデオキシコール酸ナトリウムと、任意選択的に、10mM、15mM、20mM、25mM、30mM、35mM、40mM、45mM、50mM、または中間の任意の濃度のEDTAを含む、1mM、2mM、3mM、4mM、5mM、6mM、7mM、8mM、9mM、10mM、11mM、12mM、13mM、14mM、15mM、または20mMのHEPES緩衝液(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸)とを含むことができる。いくつかの実施形態では、筋肉組織を、20、21、22、23、24、25、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41または42℃(またはその間の任意の温度)で脱細胞化溶液中でインキュベートすることができ、任意選択的には、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140または150rpm(またはその間の任意のrpm)で穏やかな振とうを加えることができる。インキュベーションは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、15、20、24、36、48、60、72、84または96時間(またはその間の任意の時間)とすることができる。
【0037】
脱細胞化の程度および筋肉組織からの筋線維またはミオシンの除去の程度を制御するために、脱細胞化溶液への曝露時間の長さおよび/または洗浄剤若しくは他の脱細胞化剤の濃度を調整することができる。特定の実施形態では、筋肉組織から細胞を除去するために、追加の洗浄剤を使用することができる。例えば、いくつかの実施形態では、デオキシコール酸ナトリウム、SDS、および/またはTRITON X-100(商標)を使用して、細胞外組織マトリクスから望ましくない組織成分を脱細胞化して分離することができる。
【0038】
組織サンプルを脱細胞化する手順は、いくつかの実施形態では、処理前の組織サンプルに通常見られる少なくとも一部の筋線維を保持するように制御することができる。例えば、筋線維除去の程度を制御するために、曝露の長さおよび/または脱細胞化溶液および/またはトリプシン溶液の濃度を調整することができる。いくつかの実施形態では、持続時間および/または濃度が、トリプシン処理/他の酵素処理および脱細胞化の前に筋肉組織に通常見られる筋線維の約20~80%を除去するように選択される。特定の実施形態では、持続時間および/または濃度が、約20、30、40、50、60、70、80または90%(またはその間の任意の割合)の筋線維を除去するように選択される。いくつかの実施形態では、組織サンプルを10-10~0.5%の範囲の濃度でトリプシンに15分~24時間または48時間曝すことによって、かつ/または筋肉組織サンプルを約0.1~2.0%の脱細胞化剤(例えば、TRITON X-100(商標)または他の非イオン性オクチルフェノールエトキシレート界面活性剤、ドデシル硫酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、またはポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート)に0.1~72時間曝すことによって、筋線維の約20~80%が除去される。
【0039】
筋繊維の量は、様々な方法で分析することができる。本明細書において、残存する筋繊維は、光学顕微鏡を使用して評価することができる。
【0040】
代替的には、筋繊維を保持するのではなく、本明細書に記載の筋肉マトリクスを処理して、所望量の残留ミオシンをもたらすことができる。ミオシンは、筋繊維含有量と相関する可能性があるが、酵素結合免疫吸着法(ELISA)を用いて直接測定することができる。このため、様々な実施形態によれば、本明細書に記載の筋肉マトリクスは、新鮮な筋肉に見られるミオシンの10~50%、新鮮な筋肉に見られるミオシンの20~30%、または特定のミオシン濃度(例えば、50~150μg/mlまたは75~150μg/ml)を有するように処理することができる。このような筋繊維またはミオシンの含有量は、光学顕微鏡で測定されるように実質的に無細胞になるように処理された組織で得ることができる。
【0041】
他の実施形態では、処理前の組織サンプルに通常見られる少なくとも一部の筋線維を保持しながら組織サンプルを脱細胞化する手順は、組織の質量と脱細胞化または酵素溶液の体積との比率(例えば、トリプシンまたは他の酵素および/または脱細胞化剤を含む溶液の体積あたりの組織の質量)を調整することによって制御することができる。いくつかの実施形態では、溶液の体積に対する組織の比率が低いと、筋線維除去プロセスの効率が高くなり、その結果、より少ない無傷の筋線維を保持する脱細胞化マトリクスをもたらすことができる。他の実施形態では、溶液の体積に対する組織の比率が高いと、筋繊維除去プロセスの効率が低くなり、その結果、より多くの無傷の筋繊維を保持する脱細胞化マトリクスをもたらすことができる。
【0042】
様々な実施形態において、脱細胞化された筋肉組織内の細胞外足場は、コラーゲン(特にI型コラーゲンまたはIII型コラーゲン)、エラスチン、筋繊維および/または他の繊維、並びに、プロテオグリカン、多糖類および/または成長因子(例えば、IGF、EGF、Ang 2、HGF、FGFおよび/またはVEGF)を含むことができる。筋肉マトリクスは、脱細胞化前の筋肉に自然に見られる細胞外マトリクス成分の一部またはすべてを保持することができ、あるいは様々な望ましくない成分を化学的、酵素的および/または遺伝的手段によって除去することができる。一般的に、筋肉の細胞外マトリクスは、繊維、プロテオグリカン、多糖類および成長因子を含む構造的な足場を提供し、患者に移植した後に、そこに生来細胞や血管系が移動し、成長し、増殖する。細胞外マトリクスの正確な構造成分は、選択される筋肉および/または筋膜の種類と、脱細胞化組織を調製するために使用されるプロセスとに依存する。
【0043】
特定の実施形態では、筋肉を含む組織サンプルを化学的に処理して、細胞除去の前、間または後に生化学的および/または構造的な劣化を回避するように組織を安定化させることができる。様々な実施形態では、安定化溶液が、浸透性、低酸素性、自己分解性および/またはタンパク質分解性の低下を阻止および防止し、微生物汚染から保護し、かつ/または脱細胞化中に起こり得る機械的損傷を低減することができる。安定化溶液は、適切な緩衝液、1または複数の抗酸化剤、1または複数の膠質浸透圧剤、1または複数の抗生物質、1または複数のプロテアーゼ阻害剤、および/または1または複数の平滑筋弛緩剤を含むことができる。いくつかの実施形態では、安定化溶液が1または複数のフリーラジカル捕捉剤を含むことができ、それには、グルタチオン、n-アセチルシステイン、スーパーオキシドジスムターゼ、カタラーゼまたはグルタチオンペルオキシダーゼが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0044】
特定の実施形態では、筋肉インプラントが、1または複数の追加の薬剤を含むことができる。いくつかの実施形態では、1または複数の追加の薬剤が、抗炎症剤、鎮痛剤、または他の所望の治療剤若しくは有益な薬剤を含むことができる。特定の実施形態では、1または複数の追加の薬剤が、少なくとも1の追加の成長因子またはシグナル伝達因子(例えば、小細胞成長因子、血管新生因子、分化因子、サイトカイン、ホルモンおよび/またはケモカイン)を含むことができる。これらの追加の薬剤は、生来筋肉の移動、増殖および/または血管形成を促進することができる。いくつかの実施形態では、成長因子またはシグナル伝達因子は、発現ベクター内に含まれる核酸配列によってコードされる。本明細書において、「発現ベクター」という用語は、細胞によって取り込まれることができ、所望のタンパク質をコードする核酸配列を含み、かつ他の必要な核酸配列(例えば、プロモーター、エンハンサー、開始コドンおよび終止コドンなど)を含み、細胞による所望のタンパク質の少なくとも最小限の発現を確実にする任意の核酸構築物を指している。
【0045】
脱細胞化の後、追加の処理ステップを実行することができる(ステップ160)。特定の実施形態では、マトリクスを1または複数の酵素で処理して、望ましくない抗原、例えば、レシピエント動物によって通常は発現されず、よって免疫応答および/または拒絶反応に繋がる可能性が高い抗原を除去することができる。例えば、ある実施形態では、筋肉組織をアルファ-ガラクトシダーゼで処理して、アルファ-ガラクトース(α-gal)部分を除去することができる。いくつかの実施形態では、α-galエピトープを酵素的に除去するために、筋肉組織を生理食塩水で十分に洗浄した後、組織を1または複数の酵素処理にかけて、α-gal抗原を、サンプル中に存在する場合に除去することができる。特定の実施形態では、筋肉および/または筋膜組織をα-ガラクトシダーゼ酵素で処理して、α-galエピトープを実質的に除去することができる。さらに、アルファ-1,3-ガラクトース部分を減少または除去するために組織を処理する特定の例示的な方法は、Xu et al.,「A Porcine-Derived Acellular Dermal Scaffold That Supports Soft Tissue Regeneration:Removal of Terminal Galactose-α-(1,3)-Galactose and Retention of Matrix Structure」,Tissue Engineering Part A,Vol.15(7),1807-1819(2009)に記載されており、この文献はその全体が引用により本明細書に援用されるものとする。
【0046】
いくつかの実施形態では、脱細胞化後、筋肉組織が十分に洗浄される。洗浄には、任意の生理学的に適合する溶液を使用することができる。適切な洗浄液の例には、蒸留水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)または他の任意の生体適合性生理食塩水が含まれる。いくつかの実施形態では、洗浄液が、弱酸などの消毒剤を含むことができる。特定の実施形態では、例えば異種または同種異系の材料が使用される場合に、脱細胞化された筋肉組織が、(例えば、室温で一晩)デオキシリボヌクレアーゼ(DNase)溶液で処理される。いくつかの実施形態では、組織サンプルがDNase溶液で処理される。任意選択的には、抗生物質溶液(例えば、ゲンタマイシン)をDNase溶液に加えることができる。任意の適切なDNase緩衝液および/または抗生物質を使用することができる。
【0047】
様々な実施形態では、粒子状の脱細胞化筋肉マトリクスを含む筋肉インプラントが開示される。したがって、酵素および脱細胞化ステップの後または前に、組織を粒子に形成することができる(ステップ170)。例えば、上述した脱細胞化された筋肉マトリクスは、切断、ブレンド、低温破砕、またはその他の方法で均質化されて、粒子状マトリクスを形成することができ、それら粒子状マトリクスは、凍結乾燥して乾燥保存することができ、またはゲル、ヒドロゲルまたは他の水溶液中に懸濁して保存することができる。いくつかの実施形態では、粒子状の脱細胞化された筋肉マトリクスは、インプラント部位を満たすように容易に成形することができる流動性および/または注入可能な組成物として使用することができ、筋肉の欠損を修復し、弱った筋肉組織を増量し、または健康な筋肉組織を増強するために使用することができる。
【0048】
粒子は、いくつかの処理ステップを用いて形成することができる。例えば、粒子を生成するための適切な方法は、低温粉砕(cryomilling)、低温破砕(cryogrinding)、生検パンチング、ミートグラインダ、ハンドチョッピングまたは乾式粉砕を含むことができる。粒子形成のための具体的な方法は、所望のサイズ範囲をもたらすように選択することができる。例えば、粒子のサイズは、標準的なサイズのシリンジまたはカニューレを使用して注入できるように選択することができる。適切な粒子は、約3μm~約5,000μmの範囲のサイズを有することができる。さらに、粒子は、所定の粒子サイズ範囲をもたらすために、(例えば、ふるいで)選別またはろ過することができる。好ましいサイズ範囲は、100μm(低温粉砕法)~800μm(低温破砕法)である。粒子サイズは、様々な要因や使用目的に応じて選択することができる。例えば、化粧品の注入は、700~800μmのような大きなサイズを優先的に必要とし、非常に細い針を必要とする適応症(例えば、括約筋注入)は、50~200μmのような小さなサイズを必要とする場合がある。
【0049】
粒子形成後、またはシート組織を用いて、組織を保存および滅菌のために調製することができる。例えば、ステップ180に示すように、組織を保存液または保護液中に入れることができる。適切な保護液は、水溶液、または凍結保護剤、抗菌剤、放射線保護物質、または組織を安定化させる物質を含む溶液を含むことができる。適切な保存液は、例えば、2014年5月27日に発行された「Acellular Tissue Matrix Preservation Solution」という発明の名称の米国特許第8,735,054号に記載されている。
【0050】
溶液中に配置した後、組織を最終的に滅菌することができる(ステップ190)。滅菌は、化学的滅菌または放射線(例えば、ガンマ、電子ビームまたはUV)を用いて行うことができる。適切な滅菌プロセスは、上記米国特許第8,735,054号に記載されており、この文献は引用により本明細書に援用されるものとする。
【0051】
使用方法
様々な実施形態では、少なくとも一部の筋線維を保持する脱細胞化された筋肉マトリクスを含む筋肉インプラントを、(例えば、バルク筋肉の喪失の領域を埋めるために、または筋肉組織を美容的に増強するために)患者に移植することができる。いくつかの実施形態では、筋肉マトリクスに残っている筋線維が、移植部位で炎症反応を誘発する可能性がある。いくつかの実施形態では、炎症反応が、瘢痕組織形成の増加および/またはインプラントの拒絶反応をもたらす可能性のある過剰な炎症を引き起こすことなく、患者の筋肉修復機構を開始および/または強化するのに十分である。いくつかの実施形態では、炎症反応の誘導は、例えば、筋肉マトリクスに浸潤するマクロファージおよび筋芽細胞を集積することによって、かつ、筋肉マトリクスによって提供される足場内で筋肉に分化する衛星細胞を活性化することによって、患者の筋肉修復を開始および/または強化し、それによりインプラントを筋肉組織に再構築することができる。様々な実施形態において、生来の筋肉修復機構の活性化が、インプラント部位における筋肉修復/再生の程度および/または速度を増加させる。対照的に、インプラントがない場合や、正常な筋線維含有量を含むインプラント若しくは筋線維を欠く脱細胞化組織を含むインプラントを使用する場合の筋肉修復は、筋肉修復の速度が遅くなり、筋肉組織形成のレベルが低くなる(かつ、結合組織および/または瘢痕組織形成が付随して増加する)。
【0052】
いくつかの実施形態では、筋肉組織内の空隙を埋めるために、粒子状の筋肉インプラントを使用することができる。例えば、水溶液中の粒子状筋肉インプラントは、インプラント部位に流れ込み、所望の空間を満たし、かつ/または筋肉組織の嵩を増加させることができる。いくつかの実施形態では、粒子状の筋肉インプラントは、インプラント部位をより完全に充填するために、非粒子状の筋肉インプラントの周囲の空間を詰めるために使用することができる。
【0053】
本明細書に開示される筋肉インプラントは、筋肉組織の修復、変更、再生および/または増強が望まれる任意の外科的処置において使用することができる。例えば、筋肉インプラントは、腹壁欠損の修復(例えば、ヘルニア修復、銃創または他の腹部外傷)に使用することができる。
【0054】
いくつかの実施形態では、筋肉インプラントは、バルク筋肉組織の外科的除去の後(例えば、肉腫または骨肉腫を除去するための外科的介入の後)にも使用することができる。これらの実施形態では、筋肉インプラントが、患者の筋肉修復経路を動員(例えば、マクロファージ/筋芽細胞の動員および衛星細胞の活性化)するように働く十分な(しかし過剰ではない)レベルの炎症を誘発することによって、筋肉修復の速度および全体量を開始および/または改善することができる。対照的に、筋肉インプラントを受けていない患者、および無傷の筋肉または残存する筋線維を欠いた脱細胞化組織を含むインプラントを受けた患者では、筋肉修復の速度および全体的な量が減少する。同様に、患者のある部位への移植のために別の筋肉から筋肉組織を採取する外科的処置においては、上述したような筋肉インプラントを採取部位に配置することで、移植処置後の採取部位における筋肉修復の速度および全体的な程度を促進するのを助けることができる。
【0055】
いくつかの実施形態では、筋肉インプラントを使用して、生来筋肉量を増強することができる。例えば、筋肉インプラントは、筋肉消耗性疾患の治療の一部として使用することができ、それにより、修復および再生の速度を向上させ、かつ/またはインプラント部位における筋肉の全体的な体積を増加させることができる。別の例では、インプラントは、インプラント部位における追加の筋肉体積の成長を促進することによって、筋肉組織の外観を美容的に向上させるために使用することができる。
【0056】
上述したように、筋肉マトリクスは、シートまたは粒子の形態で提供することができる。シート状で提供する場合、マトリクスは、真皮マトリクス(例えば、ALLODERM(登録商標)またはSTRATTICE)、または生物学的、合成(例えば、ポリプロピレン)、生分解性または生体吸収性のメッシュと組み合わせることができる。組み合わせる場合は、筋肉のシートと真皮材料を層状に重ねて、例えば、接着、縫合または他の方法で接合することができる。
【0057】
シート材料は、移植するときに、単独で、または真皮マトリクス、若しくは生物学的、合成(例えば、ポリプロピレン)、生分解性または生体吸収性のメッシュと組み合わせて、筋肉の欠損部に配置することができる。真皮マトリクスを使用する場合、真皮マトリクスは構造的サポートを提供し、結合組織の再生のための基質を提供することができる。例えば、筋肉/真皮材料は、機能的な筋肉が望まれる領域に筋肉が接している状態で、腹部の欠損部に配置することができ、真皮材料は、腹部の筋膜層が通常存在する場所に配置することができる。
【0058】
粒子状の筋肉マトリクスは、多くの方法で移植することができる。例えば、前述したように、粒子は、筋肉の欠損部に、または生来筋肉を強化若しくは拡大するために提供することができる。さらに、粒子は、筋肉部位への単一の注入として提供することができ、または複数の注入を行うことができる。例えば、注入は、様々な間隔、例えば1週間、2週間、3週間、4週間またはそれ以上の間隔を空けた後続の処置中に、投与することができる。追加的または代替的には、1回の処置時に複数の注入を投与することができる。
【実施例0059】
以下の実施例は、本開示を説明する役割を果たすが、決して限定するものではない。
【0060】
実施例1:筋肉インプラントの調製および機械的分析
ブタの骨格筋を解剖し、使用するまで冷凍保存した。その後、組織を洗浄し、5mm厚のスライスまたはシートに切断し、塩化アンモニウム溶解緩衝液で洗浄してRBCを除去した。筋肉サンプルはトリプシンで処理した。その後、洗浄剤を含む脱細胞化溶液にサンプルを入れてから、HEPES溶液で洗浄した。サンプルをDNaseで処理して組織内に残っているDNAを除去した後、アルファ-ガラクトシダーゼで一晩処理して組織上のアルファgalエピトープを除去した。サンプルを弱酸に曝し、洗浄し、電子ビーム放射に曝した。
【0061】
トリプシンへの曝露と脱細胞化溶液への曝露を制御することで、筋繊維の除去の程度を調整した。
【0062】
その後、注入に適した粒子状のマトリクスを製造するために、脱細胞化した筋肉マトリクスを様々なサイズ縮小プロセスにかけた。サイズ縮小は、低温粉砕、低温破砕、生検パンチング、ミートグラインダまたは乾式粉砕を用いて行った。粒子は、例えばメスを用いて、手で切り刻むことによって形成することもできる。
【0063】
サイズ縮小後、粒子サイズを分析した。簡単に説明すると、脱イオン水に含まれるpAMMの5%固溶体の10mLのサンプルを調製し、製造者の指示に従ってHoriba Particle Analyzerを用いて分析した。サンプル毎に3回実行し、平均値を求めた。表1に、各サイズ縮小法についての粒子サイズ情報を示す。
【0064】
様々な粒子を用いて注入の容易性を評価するために、注入力を測定した。簡単に説明すると、Instron機械試験システムを、100Nのロードセルおよび50Nの圧縮プラテンでセットアップした。シリンジをベースプレート上に載せ、シリンジのプランジャを1mm/秒で25mm圧縮することで発生する力を測定した。表2に注入力のデータを示す。
【0065】
表に示すように、最も低い注入力は、低温粉砕した製品に対してもたらされた。
【0066】
処理後、残留DNA含有量を分析したところ、処理した組織のDNAは約20ng/mgまで減少した。さらに、無細胞性を確認するために組織サンプルを分析した。図2Aおよび図2Bは、新鮮な筋肉を、処理した筋肉(生検パンチサンプル)と比較して示している。図示のように、新鮮な筋肉(サンプルA)は核(暗いスポット)を保持しているが、処理した筋肉(サンプルB)は、核の欠如によって示されるように、無細胞である。
【0067】
さらに、シートまたは粒子のpAMMの残留ミオシン含有量をELISAで分析し、新鮮な筋肉と比較した。図3に示すように、シート状および粒子状の筋肉マトリクスのミオシン含有量は、比較的類似しており、新鮮な筋肉よりも大幅に低かった。この結果は、筋肉形成の誘導に必要な筋線維の保持を示している。
【0068】
実施例2:筋肉再生に対するブタの無細胞真皮マトリクス(pADM)および(pAMM)の効果
ラットの直腸筋に、15×5×5mm(長さ×幅×深さ)のサイズの筋肉片を除去して欠損部を形成した。この欠損部を、ブタの無細胞真皮マトリクス(pADM)(STRATTICE(登録商標))またはpADMとシート状pAMMの組合せで修復した。
【0069】
図4Aおよび図4Bは、ラットの腹直筋の欠損部を形成してブタ無細胞真皮マトリクス(図4A)またはブタ無細胞真皮マトリクスとブタ無細胞筋肉マトリクスの組合せ(図4B)で処置してから6週後のトリクローム染色セクションである。pADMのみで修復した欠損部では、筋肉の再生は殆ど見られなかった。しかしながら、pADMとpAMMの組合せで修復した欠損部では、欠損部の形成および修復から6週後に、有意な筋肉再生が認められた。結合組織は青、筋線維は赤で染色されている。
【0070】
pAMMは、ラットの筋肉再生をサポートする。また、筋肉マトリクスのみが、筋肉の再生をサポートすることができる。
【0071】
実施例3:ラットモデルにおける筋肉機能の回復
pAMMのサポートする筋肉再生が機能的な改善につながるか否かを判定するために、連続回し車および収縮力を調べた。各ラットの片方の脚の腓腹筋の欠損部を、サイズが約10×8×4mm(長さ×幅×深さ)で質量が20%の筋肉片を除去することにより形成した。欠損部は未修復のまま放置するか、またはシート状のpAMMで修復した。各動物のもう一方の脚の腓腹筋は手を付けずに、反対側の対照とした。
【0072】
コンピュータインターフェースに接続された電子カウンタを備えた回し車を動物のケージ内に入れ、欠損部形成および修復後の動物の自発的な活動および回し車の使用を監視した。さらに、腓腹筋を通る坐骨神経を経皮的に電気刺激することにより、手術を受けた筋肉と反対側の筋肉の両方で筋収縮を誘発した。その後、その収縮力を測定した。
【0073】
図5は、腓腹筋の欠損部を放置した場合とpAMMで修復した場合の、ラットの走行距離で測定した筋肉の機能回復のグラフである。図6は、反対側のラットの筋肉が発揮する力と比較した、修復せずに放置した欠損部、またはpAMMで修復した欠損部を含むラットの筋肉が発揮する収縮力の割合によって測定した筋肉の機能回復のグラフである。欠損部をpAMMで修復したラット(pAMMあり群)は、欠損部を修復せずに放置したラット(pAMMなし群)に比べて、より早く走り始め、より多く走った。さらに、pAMMで欠損部を修復した筋肉(pAMMあり群)は、欠損部を修復していない筋肉よりも大きな力を発揮した。注目すべきは、他の研究で、新しい筋肉の神経支配の証拠が得られたことである。
【0074】
実施例4:損傷した筋肉を有するラットにおける注入可能なマトリクスの生体内効果
上記のように調製した注入可能な筋肉マトリクスを、ラットモデルを用いて研究した。ミートグラインダ法を用いて粒子状の組織を作製した。各ラットの片足の前脛骨筋(TA)の筋肉に、15×4×4mm(長さ×幅×深さ)の大きさの筋肉片を除去して欠損部を形成した。欠損部は修復せずに放置するか、注入可能なpAMMで修復した。各ラットのもう一方の脚のTA筋肉には何も手を加えず、反対側の対照とした。動物を犠牲にした後、両脚のTA筋肉を切除し、筋肉重量と、ヘマトキシリンおよびエオジン(H&E)およびトリクローム染色を用いた組織学的染色を評価した。
【0075】
図7Aおよび図7Bは、欠損部形成から3週後のラット前脛骨筋(TA)の筋肉欠損部のトリクローム染色画像を示している。欠損部は、修復せずに放置するか(A)、欠損部形成直後に注入可能なpAMMで修復した(B)。修復しなかった欠損部は、結合性の瘢痕組織で満たされ、新しい筋肉は殆ど形成されなかった。注入可能なpAMMで修復された欠損部は、新しい筋肉形成の明確な証拠を示した。
【0076】
図8は、注入可能なpAMMを用いて修復した場合と修復しなかった場合の、欠損部形成から3週後のTA筋肉の重さを、反対側の筋肉と比較して示す棒グラフである。測定すると、pAMMを受けたTA筋肉の重量は反対側の筋肉とほぼ同じ重さであるのに対し、修復されていない欠損部を有するTA筋肉の重量は反対側の筋肉よりも大幅に少ない。このように、注入可能なpAMMは、ラットの欠損部位の筋肉の再生をサポートする。グラフに描かれているパーセンテージは、各群のTA筋肉の重量と反対側のTA筋肉との比率を表している。
【0077】
実施例5:霊長類の損傷した筋肉における注入可能なマトリクスの生体内効果
各霊長類(アフリカミドリザル)の片脚の腓腹筋に、サイズが約42×12×7mm(長さ×幅×深さ)で質量が約20%の筋肉片を除去して欠損部を形成した。この欠損部を、修復せずに放置するか(陰性対照群)、シート状または注入可能なpAMM(手で切り刻んで作ったもの)で修復するか、または自己の霊長類の細かく刻んだ筋肉で修復した(陽性対照群)。
【0078】
図9Aおよび図9Bは、欠損部形成から12週後の霊長類の腓腹筋欠損部のトリクローム染色画像である。欠損部は、修復せずに放置するか(A)、欠損部形成後すぐにpAMMで修復した(B)。この研究の結果、未処置のままの欠損部では、最小限の筋肉再生しか起こらなかった。欠損部は結合性の瘢痕組織で満たされていた。一方、何れかの形態の(シート状または注入可能な)pAMMで修復した欠損部では、複数の新しい筋肉束が検出された。いくつかのケースでは、再生の程度が、自己の霊長類の細かく刻んだ筋肉で修復した欠損部で見られたものと同様であった。pAMMは霊長類の筋肉再生をサポートすることができる。
【0079】
実施例6:無傷の筋肉を有するラットにおいて新しい筋肉形成をサポートするための注入可能なマトリクスの生体内効果
実施例1で述べたように調製した低温粉砕した注入可能なブタ無細胞筋肉マトリクス(pAMM)を、各ラットの右脚の正常な前脛骨筋(TA)の筋肉に注入した(欠損部は存在しないか、または形成した)。左脚のTA筋肉はpAMMを受けず、各動物の反対側の対照とした。動物は、1週目、2週目および3週目に犠牲にした。注入した脚と反対側の脚の両方からTA筋肉を切除し、肉眼観察、筋肉重量、ヘマトキシリンおよびエオジン(H&E)およびトリクローム染色を用いた組織学的染色について評価した。
【0080】
図10Aおよび図10Bは、注入後1週間または3週間のpAMMを注入したラットTA筋肉の肉眼的断面画像を示している。移植されたpAMMは、1週間の時点で容易に目視できたが、研究期間を通して減少した。3週後の時点では、肉眼ではpAMMは検出されなかったが、組織学的には残存量が検出された。
【0081】
さらに、トリクロームおよびH&Eで染色した外植片の評価により、調べたすべての時点で新しい筋線維の証拠が明らかになった。図11は、移植してから3週後のpAMM注入TA筋肉のH&E染色断面画像を示している。3週後には、特に残存pAMMの周辺の領域に、生来の筋肉と同様のサイズの新しい筋線維の大きな束が検出された。この新しい筋線維束の多くには、新しく形成された成熟筋線維束に特徴的な、中央に位置する核が含まれていた。
【0082】
3週後、pAMMを受けたTA筋肉は、反対側の筋肉よりも重くなっていた。図12は、pAMMを注入した場合と注入しなかった場合の、処置の3週後のラットのTA筋肉の棒グラフであり、既存の筋肉量を増大させるpAMMの能力を示している。(肉眼的または組織学的に)検出可能な瘢痕組織はなく、pAMMの残量のみが検出可能であったため、追加の重量は新しい筋肉のみに起因するものと考えられる。注入可能なpAMMは、ラットの無傷の筋肉における筋肉形成(再生)をサポートする。
【0083】
実施例7:反復処置の研究
pAMMによる反復処置が新しい筋肉形成の量を増加させるか否かを判定するために、追加の研究を行った。
【0084】
ラットを3つのグループに分けた。すべてのグループにおいて、ラットの右脚の正常なTA筋肉にpAMM(ブタの無細胞筋肉マトリクス)を注入した。左脚のTA筋肉は注入を受けず、反対側の対照とした。3つのグループの各々の動物は、以下のように異なる時点で異なる回数の処置を受けた。
グループ1:T=0でpAMMの注入を受けた動物
グループ2:T=0およびT=3週目にpAMM注入を受けた動物
グループ3:T=0、T=3週目、T=6週目にpAMM注入を受けた動物
【0085】
各処置において、131±15mg(平均±標準偏差)のpAMMを動物に注入した。すべての動物は、T=0の最初の処置の9週後に犠牲にした。
【0086】
9週後、1回の処置を受けた筋肉は、反対側の筋肉よりも平均197mg重かった。しかしながら、3回の処置を受けた筋肉は、反対側の筋肉よりも平均292mg重かった(図13)。
【0087】
注入したTA筋肉と反対側のTA筋肉との間の平均重量差は、図13に示すように、処置の回数が増えるに連れて増加する。図13は、最初の処置から9週後の注入されたTA筋肉と反対側のTA筋肉との間の重量差を示す棒グラフである。
【0088】
実施例8:体積保持に対する粒子サイズの影響
より大きなマトリクス粒子は、注入が容易でない可能性がある(すなわち、より大きな針またはより高い注入力を必要とする)ことが認識されている。しかしながら、マトリクスの体積保持に対する粒子サイズの影響は完全には明らかではない。そこで、様々な粒子サイズを使用して注入を行った。
【0089】
すなわち、この研究の目的は、pAMMの粒子サイズが、(1)pAMMの生体内保持の動態、または(2)新しい筋肉の形成の程度に影響を与えるか否かを判定することであった。
【0090】
ラットを4つのグループに分けた。すべてのグループにおいて、ラットの右脚の正常なTA筋肉にpAMM(ブタの無細胞筋肉マトリクス)を注入した。左脚のTA筋肉は何も注入せずに、反対側の対照とした。各グループの動物は、以下のように異なる材料を受けた。
グループ1:低温破砕したpADMを受けた動物
グループ2:低温粉砕したpAMM-約100umの粒子サイズ(配合1)を受けた動物
グループ3:低温破砕したpAMM-約600umの粒子サイズ(配合2)を受けた動物
グループ4:生検パンチングしたpADM-約1.5mmの粒子サイズ(配合3)を受けた動物
【0091】
約150mgの材料を各動物に注入した。各グループについて、半分の動物を注入後3週間で犠牲にし、半分の動物を注入後6週間で犠牲にした。
【0092】
図14は、注入された筋肉の重量増加率を、対応する未処理の反対側の筋肉と比較して示す棒グラフである。配合1を注入した筋肉は、3週後および6週後に、それぞれの反対側の筋肉よりも22%および10%の重量増加を示した。(グラフ中の配合1の3週目の13%の差は、この試験の値と、配合1を使用した別の試験の3週目の値の平均値である)。配合2を注入した筋肉は、3週後および6週後に、それぞれの反対側の筋肉よりも21%および17%の重量増加をそれぞれ示した。配合3を注入した筋肉は、3週後および6週後に、それぞれの反対側の筋肉よりも20%および11%の重量増加をそれぞれ示した。
【0093】
配合1を注入した筋肉のトリクローム染色画像では、注入後3週間で残留pAMMは検出されなかったが、配合2および配合3を注入した筋肉のトリクローム染色画像では、注入後3週間で少量ではあるが検出可能な量の残留pAMMが検出された(図15)。注入後6週間では、配合1および配合2のどちらも残存pAMMは検出されなかった。最小量の配合3は、注入後6週間でもまだ検出可能であった(図16)。
【0094】
pAMMの生体内保持は、粒子サイズに反比例し、大きな粒子は小さな粒子よりも長く保持される。しかしながら、配合2のpAMM注入は、注入後3週間および6週間の両方において、注入した筋肉と反対側の筋肉との間に最大の重量差をもたらした。
【0095】
実施例9:筋線維の保持に対するトリプシン濃度の影響
骨格筋に適用するトリプシンの濃度を変化させると、骨格筋の処理、特に筋線維の保持に影響を与えることが認識されている。そこで、様々な濃度のトリプシンを使用し、各ピース内および他のピースと比較した場合の両方で、処理したサンプルの均一性を調査した。組織の均一性は,すべての処理ステップの終わりに目視検査で判定した。
【0096】
ブタの筋肉組織を5cm×10cm×5mmのサイズにスライスした。その後、組織サンプルを凍結し、切断し、保護液で処理し、トリプシンで処理し、脱細胞化し、PBSで洗浄し、冷蔵庫で保管した。切断後、組織サンプルを室温で処置した。対照組織はトリプシンで処理せず、代わりに追加の時間、PBS内に置いた。
【0097】
図17Aは、体積比10-4重量の濃度でトリプシン処理した組織サンプルを示している。図17Bは、体積比10-5重量の濃度でトリプシン処理した組織サンプルを示している。図17Cは、体積比10-6重量の濃度でトリプシン処理した組織サンプルを示している。図17Dは、体積比10-7重量の濃度のトリプシン処理した組織サンプルを示している。図17Eは、体積比10-8重量の濃度でトリプシン処理した組織サンプルを示している。
【0098】
研究の結果は、脱細胞化した組織の目視検査と、処理終了時の示差走査熱量測定とによって判定した。この研究では、検討したトリプシン濃度の範囲は、ブタ組織内の筋線維の保持を制御できるという点で適切であったと考えられる。最終的な組織の外観は、各ピース内で均一であり、ピース間で一貫していた。高濃度(10-4から開始)では、組織はメッシュ状の特徴を示した。10-7および10-8の範囲の濃度では、処理した筋肉組織は、実験プロセスの終わりにその筋線維の殆どを保持できるように見えた。
【0099】
実施例10:ミオシン保持に対するトリプシン濃度と処理時間の影響
実施例9で述べた研究を、様々な時間、様々なトリプシン濃度で繰り返した。図18は、トリプシン処理後に測定したミオシン濃度を示している。
【0100】
体積比10-6重量の濃度での6~8時間のトリプシン処理により、新鮮な未処理の筋肉組織の40~60%のミオシン濃度を保持した組織が得られた。体積比10-4重量のトリプシン濃度で6~8時間処理した組織は、同じトリプシン濃度で一晩処理した組織と比較して、より多くのミオシンを保持していたが、体積比10-6重量の濃度での6~8時間処理した組織よりも少なかった。これらの結果は、ミオシン濃度が時間と酵素濃度に依存することを示唆している。
【0101】
実施例11:筋繊維保持に対するトリプシンおよびブロメラインの影響
8mmおよび5mmのブタの筋肉組織サンプルを、体積比10-2または10-4重量のトリプシン濃度で、実施例9で述べたように処理した。一部のサンプルは、1リットルあたり10ユニット(U/L)の濃度のブロメラインで処理した。トリプシン処理したサンプルは、4℃または室温の温度で処理した。トリプシン処理したサンプルの中には、断面に沿って切断したものもあれば、縦断面に沿って切断したものもある。
【0102】
図19Aは、トリプシンまたはブロメラインで処理しなかった対照組織を示している。図19Bは、室温で体積比10-4重量のトリプシン濃度で処理した厚さ8mmのブタの筋肉組織を示している。図19Cは、室温で体積比10-4重量のトリプシン濃度で処理した厚さ5mmのブタの筋肉組織を示している。図19Dは、室温で体積比10-2重量のトリプシン濃度で処理したブタの筋肉組織の断面を示している。図19Eは、室温で体積比10-2重量のトリプシン濃度で処理したブタの筋肉組織の縦断面を示している。図19Fは、4℃の温度で体積比10-2重量のトリプシン濃度で処理したブタの筋肉組織の断面を示している。図19Gは、4℃の温度で体積比10-2重量のトリプシン濃度で処理したブタの筋肉組織の縦断面を示している。図19Hは、室温で10U/Lのブロメラインで処理した厚さ5mmのブタの筋肉組織を示している。図19Iは、室温で10U/Lのブロメラインで処理した厚さ8mmのブタの筋肉組織を示している。図19Jは、室温で100U/Lのブロメラインで処理したブタの筋肉組織を示している。
【0103】
ブタ組織サンプルは、処理終了時に目視検査で評価した。トリプシンを使用せずに処理した対照組織は、処理中に筋繊維の喪失を殆ど示さなかった。対照組織は、色が濃く不透明であるように見えた。10-2トリプシン濃度で処理した組織では、筋線維の明らかな喪失を示し、メッシュ状の組織ネットワークが残った。これは、組織を断面方向で処理しても縦方向に処理しても同じであり、4℃でも室温でも同じであった。10-4トリプシン濃度を使用した場合、厚さ8mmの筋肉組織は厚さ5mmの筋肉組織よりも遥かに大きな筋線維の保持を示した。一方、10U/Lのブロメライン溶液は、筋線維を除去する効果が遥かに小さいように見えた。100U/Lのブロメラインで処理した組織は、図20に示すように、処理6時間後に88%の筋線維を保持し、処理23時間後に32%の筋線維を保持していた。
【0104】
上述した実施例は、本開示を例示することを意図しており、決して限定するものではない。開示したデバイスおよび方法の他の実施形態は、本明細書の検討と、本明細書に開示のデバイスおよび方法の実施とを通じて、当業者に明らかになるであろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9-1】
図9-2】
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17-1】
図17-2】
図18
図19-1】
図19-2】
図19-3】
図19-4】
図20
【手続補正書】
【提出日】2024-06-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筋肉組織の再生の補助を可能とする脱細胞化された筋肉マトリクスの粒子の集合体を含む筋肉インプラントにおいて、
前記粒子が、3μm~5000μmの大きさであり、未処理の筋肉サンプルに通常含まれるミオシンの一部のみを含む脱細胞化された筋肉マトリクスを含むことを特徴とする筋肉インプラント。
【請求項2】
請求項1に記載の筋肉インプラントにおいて、
前記脱細胞化された筋肉マトリクスが、実質的にすべてのアルファ-ガラクトース部分を欠いていることを特徴とする筋肉インプラント。
【請求項3】
請求項1に記載のインプラントにおいて、
前記筋肉インプラントが、凍結乾燥されているか、または水溶液中にあることを特徴とする筋肉インプラント。
【請求項4】
請求項1に記載の筋肉インプラントにおいて、
前記筋肉インプラントが実質的にバイオバーデンを欠いていることを特徴とする筋肉インプラント。
【請求項5】
請求項1に記載の筋肉インプラントにおいて、
前記脱細胞化された筋肉マトリクスの粒子の集合体が、未処理の筋肉サンプルに通常含まれるミオシンの20~30%を含むことを特徴とする筋肉インプラント。
【請求項6】
請求項1に記載の筋肉インプラントにおいて、
前記脱細胞化された筋肉マトリクスの粒子の集合体が、未処理の筋肉サンプルに通常含まれるミオシンの10~50%を含むことを特徴とする筋肉インプラント。
【請求項7】
請求項1に記載の筋肉インプラントにおいて、
前記脱細胞化された筋肉マトリクスの粒子が、100μmから800μmの間の大きさであることを特徴とする筋肉インプラント。
【請求項8】
請求項1に記載の筋肉インプラントにおいて、
前記脱細胞化された筋肉マトリクスの粒子が、50μmから200μmの間の大きさであることを特徴とする筋肉インプラント。
【請求項9】
筋肉インプラントを調製する方法において、
少なくとも1の筋肉サンプルを、プロテアーゼを含む溶液と接触させるステップと、
前記少なくとも1の筋肉サンプルを脱細胞化して、光学顕微鏡で測定されるように、少なくとも1の脱細胞化された筋肉マトリクスを生成するステップと、
前記筋肉マトリクスを処理して、3μm~5000μmの脱細胞化された筋肉マトリクス粒子の集合体を生成するステップであって、前記粒子の集合体が、筋肉組織の再生を補助することができるものであるステップと、を含み、
プロテアーゼを含む溶液との接触および脱細胞化が、処理前の筋肉サンプルに通常含まれるミオシンの一部のみが含まれるように制御されることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法において、
前記筋肉サンプルを、ポリエチレングリコール、ドデシル硫酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウムおよびポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートのうちの少なくとも1つを含む脱細胞化溶液と接触させることにより、前記少なくとも1の筋肉サンプルが脱細胞化されることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項9に記載の方法において、
酵素溶液の曝露時間および濃度を制御することにより、少なくとも1の脱細胞化された筋肉マトリクスが、処理前の筋肉サンプルに通常含まれる筋繊維の20~80%を保持することを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項9に記載の方法が、さらに、
前記少なくとも1の筋肉サンプルをDNaseと接触させるステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項9に記載の方法が、さらに、
前記少なくとも1の筋肉サンプルをアルファ-ガラクトシダーゼと接触させるステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項9に記載の方法において、
前記少なくとも1の筋肉サンプルが、実質的にすべてのアルファ-ガラクトース部分を欠く動物に由来するものであることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項9に記載の方法において、
前記筋肉マトリクスを処理して粒子状のマトリクスを生成することが、前記筋肉インプラントを混合、切断、均質化または低温破砕して、粒子状の筋肉インプラントを形成することを含むことを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項9に記載の方法が、さらに、
バイオバーデンを低減するように前記筋肉インプラントを処理するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項9に記載の方法において、
前記筋肉インプラントが、電子ビームの放射に曝されることを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項9に記載の方法において、
前記プロテアーゼが、トリプシン、セリンプロテアーゼ、およびブロメラインのうちの少なくとも1つを含むことを特徴する方法。
【外国語明細書】