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特開2024-129116幹細胞培養上清液およびその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129116
(43)【公開日】2024-09-26
(54)【発明の名称】幹細胞培養上清液およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0775 20100101AFI20240918BHJP
   A61K 35/14 20150101ALI20240918BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20240918BHJP
   A61K 8/98 20060101ALI20240918BHJP
   A61Q 17/04 20060101ALI20240918BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240918BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20240918BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240918BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
C12N5/0775
A61K35/14
A61K35/28
A61K8/98
A61Q17/04
A61Q19/00
A61P27/02
A61P35/00
A61P25/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024107235
(22)【出願日】2024-07-03
(62)【分割の表示】P 2022130872の分割
【原出願日】2022-08-19
(71)【出願人】
【識別番号】520103296
【氏名又は名称】セルプロジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130845
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100201020
【弁理士】
【氏名又は名称】野中 信宏
(74)【代理人】
【識別番号】100140350
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 和宏
(72)【発明者】
【氏名】佐俣 文平
(57)【要約】      (修正有)
【課題】従来とは異なる活性を有する幹細胞培養上清液を提供すること。
【解決手段】2種類以上の異なる組織に由来する間葉系幹細胞を共培養することにより、優れた活性を有する幹細胞培養上清液が得られることが見出された。本開示は、i)2種類以上の間葉系幹細胞を共培養すること、およびii)培養上清液を回収することを含む、間葉系幹細胞培養上清液の製造方法に関する。本開示の方法により得られる細胞培養上清液は、医薬品または化粧品に応用され得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
間葉系幹細胞培養上清液の製造方法であって、
i)2種類以上の間葉系幹細胞を共培養すること、および
ii)培養上清液を回収すること
を含む、方法。
【請求項2】
共培養に先立ち、前記2種類以上の間葉系幹細胞を個別に培養することをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記間葉系幹細胞が、脂肪、臍帯、羊膜、羊水、歯髄、ワルトン膠様質(Wharon’s jelly)、CPJ(Cord Placenta Junction)、絨毛膜、肝臓、肺、脊椎、臍帯血、胎盤、末梢血、真皮、子宮内膜、母乳、および毛包から成る群から選択される組織由来の細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
2種類の間葉系幹細胞が用いられる、請求項1記載の方法。
【請求項5】
ヒト脂肪幹細胞とヒト臍帯幹細胞、ヒト脂肪幹細胞とヒト羊膜幹細胞、またはヒト臍帯幹細胞とヒト羊膜幹細胞が用いられる、請求項1記載の方法。
【請求項6】
間葉系幹細胞培養上清液中に、前記2種類以上の間葉系幹細胞を個別に培養した場合には存在しない成分が含まれている、請求項1記載の方法。
【請求項7】
間葉系幹細胞培養上清液中に、Double-strand-break repair protein rad21 homolog(RAD21)、Glutamate-cysteine ligase catalytic subunit (GCLC)、およびRho-related GTP-binding protein RhoE(RND3)から成る群から選択される成分が含まれている、請求項1記載の方法。
【請求項8】
間葉系幹細胞培養上清液中に、前記2種類以上の間葉系幹細胞を個別に培養した場合に含まれる量に比べて増加した量のDouble-strand-break repair protein rad21 homolog(RAD21)、Glutamate-cysteine ligase catalytic subunit (GCLC)、およびRho-related GTP-binding protein RhoE(RND3)から成る群から選択される成分が含まれている、請求項1記載の方法。
【請求項9】
MSCの未分化性を維持する無血清培地、基本培地に血清を添加した培地、ヒト間葉系幹細胞用培養培地、間葉系幹細胞用フィーダーレス培地、および/または化学的に定義された無血清培地中で細胞を培養することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項記載の方法により得られる細胞培養上清液。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか1項記載の方法により得られる細胞培養上清液を含む医薬組成物 。
【請求項12】
請求項1~9のいずれか1項記載の方法により得られる細胞培養上清液を含む化粧用組成物 。
【請求項13】
請求項1~9のいずれか1項記載の方法により得られる細胞培養上清液を凍結乾燥させることを含む、間葉系幹細胞培養上清粉末の製造方法。
【請求項14】
請求項13記載の方法により得られる間葉系幹細胞培養上清粉末。
【請求項15】
請求項13記載の方法により得られる間葉系幹細胞培養上清粉末を含む医薬組成物。
【請求項16】
請求項13記載の方法により得られる間葉系幹細胞培養上清粉末を含む化粧用組成物。
【請求項17】
眼疾患、眼障害、がん、および脱髄性疾患から成る群から選択される疾患または障害の治療、予防若しくは改善に用いるための、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項18】
眼疾患、眼障害、がん、および脱髄性疾患から成る群から選択される疾患または障害の治療、予防若しくは改善に用いるための、請求項15に記載の医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幹細胞培養上清液およびその製造方法に関する。より詳細には、複数の組織に由来する間葉系幹細胞を共培養することで製造される間葉系幹細胞培養上清液とその製造方法に関する。また、本発明は、間葉系幹細胞培養上清液またはその乾燥粉末を含む医薬組成物または化粧用組成物にも関する。
【背景技術】
【0002】
間葉系幹細胞は、骨髄や滑膜、脂肪、臍帯の中に存在する体性幹細胞であり、軟骨や骨、脂肪、神経細胞への分化能を有することが報告されている(非特許文献1)。成人の組織からも分離できることから、半月板や軟骨の損傷部の再生治療に用いられている(非特許文献2)。また、間葉系幹細胞は抗炎症作用や免疫調節等の作用も有することから、肝疾患や移植片対宿主病、自己免疫疾患など、既に様々な疾患に対して幅広く利用されていることが知られている。
【0003】
こうした中、細胞移植治療において生体内に移植されたこれらの間葉系幹細胞の働きには、間葉系細胞から分泌される種々のサイトカイン等の生理活性物質が大きく寄与していることが明らかにされてきた。
【0004】
間葉系幹細胞をインビトロで培養した際には、培養液中にこうした生理活性物質が放出されることになる。そこで、間葉系幹細胞の培養に使用した培養液を回収し、細胞から放出される物質を多く含むこの培養液を利用して、組織を再生すること等に成功した例が報告されている(非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5)。
【0005】
このように、間葉系幹細胞の培養過程で生成される培養上清液は、エクソソームを始めとする幹細胞から分泌した成長因子や免疫調節因子(サイトカイン)など、細胞活性に重要な働きをする情報伝達物質を豊富に含んでおり、体内の損傷を受けた組織や細胞の機能回復に役立つと考えられている。上清液に豊富に含まれるエクソソーム・成長因子・サイトカインなどが周囲に存在している幹細胞に作用し、老化や損傷などによって機能が低下した箇所に細胞を集めることによって、組織再生や免疫力向上などの機能回復効果が期待されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Colter, D. C., Sekiya, I. & Prockop, D. J. Identification of a subpopulation of rapidly self-renewing and multipotential adult stem cells in colonies of human marrow stromal cells. Proc Natl Acad Sci. 2001;98:7841-7845.
【非特許文献2】Sekiya I., Muneta T., Horie M. & Koga H. Arthroscopic Transplantation of Synovial Stem Cells Improves Clinical Outcomes in Knees With Cartilage Defects. Clin Orthop Relat Res. 2015;473:2316-26.
【非特許文献3】Osugi M., Katagiri, W., Yoshimi, R., Inukai, T., Hibi, H., Ueda M. Conditioned media from mesenchymal stem cells enhanced bone regeneration in rat calvarial bone defects. Tissue Engineering Part A.2012;18:1479-1489
【非特許文献4】Shohara, R., Yamamoto, A., Takikawa, S., Iwase, A., Hibi, H., Kikkawa, F., Ueda, M. Mesenchymal stromal cells of human umbilical cord Wharton's jelly accelerate wound healing by paracrine mechanisms. Cytotherapy,2012;14(10):1171-1181
【非特許文献5】Kawai, T., Katagiri, W., Osugi, M., Sugimura, Y., Hibi, H., Ueda, M. Secretomes from bone marrow-derived mesenchymal stromal cells enhance periodontal tissue regeneration. Cytotherapy,2015;17(4):369-381
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示は、従来とは異なる活性を有する幹細胞培養上清液を提供することを目的の1つとする。また、本開示は、従来とは異なる活性を有する幹細胞培養上清液に基づく医薬品および/または化粧品を提供することも目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、2種類以上の間葉系幹細胞を共培養することにより、予想外の成分を含み、優れた活性を有する幹細胞培養上清液が得られることを見出した。
【0009】
本開示はこのような知見に基づくものであり、以下の態様を包含する:
(実施態様1)
間葉系幹細胞培養上清液の製造方法であって、
i)2種類以上の間葉系幹細胞を共培養すること、および
ii)培養上清液を回収すること
を含む、方法。
(実施態様2)
共培養に先立ち、前記2種類以上の間葉系幹細胞を個別に培養することをさらに含む、実施態様1記載の方法。
(実施態様3)
前記間葉系幹細胞が、脂肪、臍帯、羊膜、羊水、歯髄、ワルトン膠様質(Wharon’s jelly)、CPJ(Cord Placenta Junction)、絨毛膜、肝臓、肺、脊椎、臍帯血、胎盤、末梢血、真皮、子宮内膜、母乳、および毛包から成る群から選択される組織由来の細胞である、実施態様1記載の方法。
(実施態様4)
2種類の間葉系幹細胞が用いられる、実施態様1記載の方法。
(実施態様5)
ヒト脂肪幹細胞とヒト臍帯幹細胞、ヒト脂肪幹細胞とヒト羊膜幹細胞、またはヒト臍帯幹細胞とヒト羊膜幹細胞が用いられる、実施態様1記載の方法。
(実施態様6)
間葉系幹細胞培養上清液中に、前記2種類以上の間葉系幹細胞を個別に培養した場合には存在しない成分が含まれている、実施態様1記載の方法。
(実施態様7)
間葉系幹細胞培養上清液中に、Double-strand-break repair protein rad21 homolog(RAD21)、Glutamate-cysteine ligase catalytic subunit (GCLC)、およびRho-related GTP-binding protein RhoE(RND3)から成る群から選択される成分が含まれている、実施態様1記載の方法。
(実施態様8)
間葉系幹細胞培養上清液中に、前記2種類以上の間葉系幹細胞を個別に培養した場合に含まれる量に比べて増加した量のDouble-strand-break repair protein rad21 homolog(RAD21)、Glutamate-cysteine ligase catalytic subunit (GCLC)、およびRho-related GTP-binding protein RhoE(RND3)から成る群から選択される成分が含まれている、実施態様1記載の方法。
(実施態様9)
MSCの未分化性を維持する無血清培地、基本培地に血清を添加した培地、ヒト間葉系幹細胞用培養培地、間葉系幹細胞用フィーダーレス培地、および/または化学的に定義された無血清培地中で細胞を培養することを含む、実施態様1記載の方法。
(実施態様10)
実施態様1~9のいずれか1項記載の方法により得られる細胞培養上清液。
(実施態様11)
実施態様1~9のいずれか1項記載の方法により得られる細胞培養上清液を含む医薬組成物。
(実施態様12)
実施態様1~9のいずれか1項記載の方法により得られる細胞培養上清液を含む化粧用組成物 。
(実施態様13)
実施態様1~9のいずれか1項記載の方法により得られる細胞培養上清液を凍結乾燥させることを含む、間葉系幹細胞培養上清粉末の製造方法。
(実施態様14)
実施態様13記載の方法により得られる間葉系幹細胞培養上清粉末。
(実施態様15)
実施態様13記載の方法により得られる間葉系幹細胞培養上清粉末を含む医薬組成物。
(実施態様16)
実施態様13記載の方法により得られる間葉系幹細胞培養上清粉末を含む化粧用組成物。
(実施態様17)
眼疾患、眼障害、がん、および脱髄性疾患から成る群から選択される疾患または障害の治療、予防若しくは改善に用いるための、実施態様11に記載の医薬組成物。
(実施態様18)
眼疾患、眼障害、がん、および脱髄性疾患から成る群から選択される疾患または障害の治療、予防若しくは改善に用いるための、実施態様15に記載の医薬組成物。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】培養上清液の製造フローを示す模式図である。
図2A】ヒト脂肪由来MSCとヒト臍帯由来MSCの共培養の培養上清液抽出時の細胞の写真である。
図2B】ヒト脂肪由来MSCとヒト羊膜由来MSCの共培養の培養上清液抽出時の細胞の写真である。
図2C】ヒト臍帯由来MSCとヒト羊膜由来MSCの共培養の培養上清液抽出時の細胞の写真である。
図3A】表1に示されているRND3に関するプロテオーム解析の結果を表すグラフである。
図3B】表1に示されているGCLCに関するプロテオーム解析の結果を表すグラフである。
図3C】表1に示されているRAD21に関するプロテオーム解析の結果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
上述のとおり、本発明者らは、2種類以上の間葉系幹細胞を共培養することにより、予想外の優れた活性を有する幹細胞培養上清液が得られることを見出した。以下に、本発明を詳細に説明する。
【0012】
(MSCの共培養)
本開示の1つの態様は、間葉系幹細胞培養上清液の製造方法に関し、より具体的には、例えば、i)2種類以上の間葉系幹細胞を共培養すること、およびii)培養上清液を回収することを含む、方法に関する。また、本開示の別の態様は、上記の製造方法により得られる細胞培養上清液に関する。
【0013】
間葉系幹細胞(MSC)は、臍帯、骨髄、脂肪組織などの複数の組織に存在する多能性の成体幹細胞である。間葉系幹細胞(MSC)は稀な細胞であるが、骨髄には1万から10万個の有核骨髄細胞につき1個の割合で存在すると推定されている。間葉系幹細胞(MSC)は自己増殖能を有し、骨芽細胞(骨細胞)、軟骨細胞、筋細胞、脂肪細胞などの様々な細胞種に分化することができる。
【0014】
いくつかの実施形態において、本開示に係る方法で用いられる間葉系幹細胞には、ヒトの組織、例えば、脂肪、臍帯、羊膜、羊水、歯髄、ワルトン膠様質(Wharon’s jelly)、CPJ(Cord Placenta Junction)、絨毛膜、肝臓、肺、脊椎、臍帯血、胎盤、末梢血、真皮、子宮内膜、母乳、または毛包から単離された細胞が含まれるが、これらに限定はされない。
【0015】
間葉系幹細胞(MSC)は、Dominici et al., Minimal criteria for defining multipotent mesenchymal stromal cells. The International Society for Cellular Therapy position statement., Cytotherapy. 2006;8(4):315-7による定義によれば、(1)プラスチック培養容器に接着し、(2)CD105(エンドグリン)、CD73(エクト5’-ヌクレオチダーゼ)、CD90(Thy-1)を陽性マーカー、CD45、CD34、CD14、CD11b、CD79α、CD19、HLA-ClassII(DR)を陰性マーカーとし、(3)骨、脂肪、軟骨への分化能を有する細胞であるとされている。従来的な間葉系幹細胞の単離方法では、プラスチック培養容器に接着して増殖するというMSCの性質が利用されるが、細胞表面マーカーに基づき、FACS(fluorescence activated cell sorting)などを用いてMSCを単離することもできる。FACSでは、蛍光抗体で細胞を染色し、個々の細胞が発する蛍光を測定して分析することによって、特定の細胞を分取(ソーティング)する。FACSシステムとしては、例えば、BDバイオサイエンス社のBD FACSAria(商標)セルソーターを使用することができる。
【0016】
上述のように、間葉系幹細胞は多くの場合、骨髄等の組織から得た細胞を長期間培養した後に、培養皿に付着した細胞を増殖させることによって単離されるが、表面抗原マーカーを用いて間葉系幹細胞を単離する技術も開発されており、例えば、Ogataらは細胞表面マーカーとしてLNGFRとTHY-1の2つを用いてヒトMSCを純化できることを示している(Ogata et al., PLoS One. 2015 Jun 8;10(6):e0129096.)。
【0017】
MSCとして同定されるためには、培養された細胞集団の95%よりも多くがCD73、CD90およびCD105を発現しなければならず、そして、CD11bまたはCD14、CD34、CD45、CD19またはCD79α、およびHLA-DRに関して陰性(≦2%の陽性細胞)でなければならない。
【0018】
いくつかの実施形態において、本開示に係る方法は、2種類以上の間葉系幹細胞を共培養するステップを含む。例えば、脂肪、臍帯、羊膜、羊水、歯髄、ワルトン膠様質(Wharon’s jelly)、CPJ(Cord Placenta Junction)、絨毛膜、肝臓、肺、脊椎、臍帯血、胎盤、末梢血、真皮、子宮内膜、母乳、または毛包に由来するMSCのうち、任意の2種類以上(例えば、2種類、3種類、4種類、5種類、またはそれ以上)の組み合わせでの共培養を行うことができる。例えば、共培養のために、脂肪幹細胞、臍帯幹細胞、および羊膜幹細胞のうちの2種類、または3種類すべてを選択することができ、例えば、ヒト脂肪幹細胞とヒト臍帯幹細胞の組み合わせ、ヒト脂肪幹細胞とヒト羊膜幹細胞の組み合わせ、またはヒト臍帯幹細胞とヒト羊膜幹細胞の組み合わせが使用されうるが、これらに限定はされない。
【0019】
いくつかの実施形態において、本開示に係る方法は、共培養に先立ち、2種類以上の間葉系幹細胞を個別に培養するステップを含んでいてもよい。
【0020】
細胞の培養には、接着培養法、浮遊培養法、旋回培養法、ハンギングドロップ培養法、不織布培養法、またはチューブ培養法が用いられうるが、これらに限定はされない。
【0021】
細胞の培養には、培養用容器として、例えば、接着培養用の培養容器、例えば、コーニング社から入手可能なCellBIND、コーニング社から入手可能な組織培養用ディッシュ、Falcon社から入手可能なセルカルチャーディッシュ、IWAKI社から入手可能な組織培養用ディッシュ、Greinar社から入手可能なCELLSTAR Advancedシャーレなどを使用することができるが、これらに限定はされない。
【0022】
細胞の播種は、例えば、1,000~25,000 cells/cm2の細胞密度、例えば、約1,000 cells/cm2、約2,000 cells/cm2、約3,000 cells/cm2、約4,000 cells/cm2、約5,000 cells/cm2、約6,000 cells/cm2、約7,000 cells/cm2、約8,000 cells/cm2、約9,000 cells/cm2、または約10,000 cells/cm2の細胞密度で行うことができる。なお、本明細書で使用される「約」という用語は、記載されている値の+/-10%を意味するものとする。つまり、本明細書において、「約1,000」という表現は、900~1,100の範囲に含まれる任意の数値を意味しうる。
【0023】
細胞の培養には、培養培地として、例えば、MSCの未分化性を維持する無血清培地、基本培地に血清を添加した培地、ヒト間葉系幹細胞用培養培地、間葉系幹細胞用フィーダーレス培地、化学的に定義された無血清培地、例えば、ニプロ社から入手可能なヒト間葉系幹細胞用培養液(#87-072)、味の素社から入手可能なStemFit For Mesenchymal Stem Cell、コージンバイオ社から入手可能なKBM ADSC-4培地(#16030044)、ロート製薬社から入手可能なR:STEM Medium for hMSC High Growthなどを使用することができるが、これらに限定はされない。
【0024】
典型的には、細胞は37℃および5%CO2で培養されるが、条件は適宜調整されうる。細胞は低酸素または高酸素条件で培養されてもよく、また接着培養や浮遊培養、マイクロビーズや不織布を使った大量培養法でも構わない。
【0025】
培地交換頻度は、例えば、1日1回、2日に1回、3日に1回、4日に1回、5日に1回、または1週間に1回の頻度でありうる。
【0026】
接着培養によりMSCを単離する際には、組織由来の細胞の培養を少なくとも1回、継代して培養することができる。MSCの単離のために行われる継代の回数は、例えば、1回、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、または10回でありうるが、これらに限定はされない。
【0027】
2種類以上の異なる組織に由来するMSCを個別に培養した後、2種類以上の異なる組織に由来するMSCを共培養に付すことができる。共培養の際、各MSCはそれぞれ等しい細胞数(または比率)で播種されてもよいし、異なる細胞数(または比率)で播種されてもよい。2種類の細胞が用いられる場合、比率は、例えば、50:50、40:60、30:70、20:80、または10:90でありうるが、これらに限定はれない。2種類の細胞が用いられる場合、比率は、例えば、約50:50でありうる。3種類以上の細胞が用いられる場合も、任意の比率が用いられうる。
【0028】
いくつかの実施形態において、培養上清液の回収は、共培養を行った細胞がコンフルエントに達した後に行われうる。培養上清液とは、細胞培養の過程で採取される上澄み液のことをいう。培養上清液には、タンパク質の一種であるサイトカインや成長因子が数十から数百種類も含まれており、多岐にわたる治療効果が期待できる。また、遺伝情報(細胞成分やDNA)を含まず、投与に伴う拒絶反応や異物反応が生じにくく、汎用性が高い。いくつかの実施形態において、培養上清液の回収は、共培養を行った細胞がコンフルエントに達した後、培地の交換を行い、さらに培養を行った後(例えば、12時間、1日、2日、3日、4日、または5日間の培養後)に行われうる。
【0029】
いくつかの実施形態では、回収した上清液には、滅菌処理(例えば、フィルター滅菌)が行われうる。いくつかの実施形態では、回収した上清液は、凍結保存されうる(例えば、-80℃での凍結保存)。いくつかの実施形態では、回収した上清液は、凍結乾燥されうる。いくつかの実施形態では、凍結乾燥された上清は、粉末化されうる。いくつかの実施形態では、粉末化された上清は、さらに錠剤化されうる。
【0030】
本開示の1つの態様は、間葉系幹細胞培養上清粉末の製造方法であって、i)2種類以上の間葉系幹細胞を共培養すること、ii)培養上清液を回収すること、およびiii)回収した培養上清液を凍結乾燥させることを含む、製造方法に関する。また、本開示の別の態様は、上記の製造方法により得られる細胞培養上清粉末に関する。
【0031】
いくつかの実施形態では、本開示に係る共培養法により得られる細胞培養上清液には、2種類以上の間葉系幹細胞を個別に培養した場合には存在しない成分が含まれている。細胞培養上清液中に含まれる成分は、例えば、プロテオーム解析により調べることができる。表1に本開示に係る共培養法により得られる細胞培養上清液に含まれるが、各間葉系幹細胞を個別に培養した場合には存在しない成分をまとめた。
【0032】
いくつかの実施形態では、間葉系幹細胞培養上清液中に、Glutamate-cysteine ligase catalytic subunit (GCLC)、Rho-related GTP-binding protein RhoE(RND3)、およびDouble-strand-break repair protein rad21 homolog(RAD21)から成る群から選択される成分が含まれている。これらの成分は、脂肪、臍帯、羊膜由来のMSCをそれぞれ個別に培養した場合の細胞培養上清液には含まれていないが、脂肪MSC、臍帯MSC、羊膜MSCのうちの2つを組み合わせて共培養した細胞培養上清液中には存在している。
【0033】
よって、本開示の別の態様は、Glutamate-cysteine ligase catalytic subunit (GCLC)、Rho-related GTP-binding protein RhoE(RND3)、およびDouble-strand-break repair protein rad21 homolog(RAD21)から成る群から選択される成分を含む、間葉系幹細胞培養上清液に関する。さらに、本開示の別の態様は、Glutamate-cysteine ligase catalytic subunit (GCLC)、Rho-related GTP-binding protein RhoE(RND3)、およびDouble-strand-break repair protein rad21 homolog(RAD21)から成る群から選択される成分を含む、間葉系幹細胞培養上清粉末に関する。
【0034】
また、本開示の別の態様は、Glutamate-cysteine ligase catalytic subunit (GCLC)、Rho-related GTP-binding protein RhoE(RND3)、およびDouble-strand-break repair protein rad21 homolog(RAD21)から成る群から選択されるタンパク質の製造方法に関する。
【0035】
いくつかの実施形態では、本開示に係る共培養法により得られる細胞培養上清液には、2種類以上の間葉系幹細胞を個別に培養した場合に含まれる量に比べて増加した量のGlutamate-cysteine ligase catalytic subunit (GCLC)、Rho-related GTP-binding protein RhoE(RND3)、およびDouble-strand-break repair protein rad21 homolog(RAD21)から成る群から選択される成分が含まれている。
【0036】
(医薬組成物)
本開示の1つの態様は、上記の細胞培養上清液、または上記の細胞培養上清粉末を含む医薬組成物に関する。
【0037】
一般的に、MSC培養上清液には、皮膚などの組織の再生・修復効果、創傷治癒効果、血管新生効果などがあると考えられている。また、表2に示されているように、例えば、Glutamate-cysteine ligase catalytic subunit (GCLC)は、がん(例えば、結腸がん)に対して抑制的に働くことから、GCLCを含む本開示に係るMSC培養上清液は、抗がん剤として、がんの治療/予防に利用することができる。また、Rho-related GTP-binding protein RhoE(RND3)は、オリゴデンドロサイトの形成とミエリン化に必要であり、RND3を含む本開示に係るMSC培養上清液は、多発性硬化症などの脱髄性疾患の治療/予防に利用されうる。さらに、Double-strand-break repair protein rad21 homolog(RAD21)は、角膜基質の発生において重要な働きを担うことが知られており、RAD21を含む本開示に係るMSC培養上清液は、眼疾患および眼障害(例えば、強膜化角膜を含む)の薬剤として有用となりうる。さらに、これらいずれの因子もUV刺激による細胞死及び傷害に関与しており、化粧品(日焼け止めクリームなど)としての有用性が想定される。
【0038】
いくつかの実施形態は、がん、脱髄性疾患、眼疾患および眼障害から成る群から選択される疾患または障害の治療、予防若しくは改善に用いるための医薬組成物に関する。
【0039】
本開示に係る本開示に係る医薬組成物は、錠剤、粉末、液体、半固体などの任意の形態をとることができる。本開示に係る医薬組成物は、皮膚を通して、あるいは皮膚病巣に直接加える局所治療に用いる塗布剤のような外用薬であってもよく、基剤に各種の主剤を配合して調製されうる。本開示に係る医薬組成物は、上記の有効成分に加えて、薬学的に許容可能な賦形剤、添加剤、緩衝剤、等張調節のための塩類、抗酸化剤、保存剤、薬剤安定剤等を含みうる。賦形剤としては、例えば、水、精製水、アルコール、グリセリン、乳糖、デンプン、デキストリン、白糖、沈降シリカ、蜂蜜、コメデンプン、トラガントが挙げられるが、これらに限定はされない。また、本開示に係る医薬組成物には、他の活性成分が配合されていてもよい。各成分の配合量は、医薬として許容される範囲で適宜決定することができる。また、組成物の投与量は、使用する薬剤の種類、投与する対象に応じて、適宜決定することができる。例えば、有効成分は、0.01~15重量%、例えば、0.1~5重量%とすることもできる。
【0040】
投与経路についても、使用する薬剤の種類、投与する対象に応じて、適宜決定することができる。本開示に係る医薬組成物の投与方法としては特に制限されないが、血管内投与(好ましくは静脈内投与)、腹腔内投与、腸管内投与、皮下投与、皮内投与、筋肉内投与、点眼等を好適に例示することができ、中でも、血管内投与をより好適に例示することができる。本開示に係る医薬組成物は、ドレッシング材のような創傷被覆材に含まれていてもよい。ドレッシング材は、湿潤環境を維持して創傷治癒に最適な環境を提供することのできる医療材料である。
【0041】
哺乳動物としては、例えば、ヒト、ならびにサル、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ヒツジ、ヤギ、アルパカ、ウマ、ウシ、ブタ、ミンク、キツネ、テン、タヌキ、チンチラ、ラッコ、カワウソ、ビーバー、アザラシなどの非ヒト哺乳動物が含まれる。投与量は、使用する薬剤の種類、投与する対象に応じて、適宜決定することができる。投与経路についても、使用する薬剤の種類、投与する対象に応じて、適宜決定することができる。好ましい投与経路としては、例えば、液剤、ローション剤、クリーム剤の皮膚への塗布または噴霧、あるいは、液剤の皮下注射、静脈内注射、髄腔内注射、点眼、固形剤、液剤の経口投与を挙げることができる。本開示に係る組成物を含有する貼付剤を調製して皮膚に適用してもよい。
【0042】
また、本開示の1つの態様は、処置を必要とする対象に対して、治療有効量の本開示に係る医薬組成物を投与することを含む、疾患または障害の治療および/または予防するための方法に関し、ここで、疾患または障害は、がん、脱髄性疾患、眼疾患および眼障害から成る群から選択されうる。さらに、本開示の別の態様は、疾患または障害の治療および/または予防に用いるための医薬品の製造における、本開示に係る細胞培養上清液の使用に関し、ここで、疾患または障害は、がん、脱髄性疾患、眼疾患および眼障害から成る群から選択されうる。
【0043】
(化粧用組成物)
本開示の1つの態様は、上記の細胞培養上清液、または上記の細胞培養上清粉末を含む化粧用組成物に関する。表3に示されているように、本開示に係る共培養によって得られる細胞培養上清液には、皮膚にとって有益な成分が多数含まれていると考えられる。
【0044】
実施形態の1つにおいて、本開示に係る化粧用組成物は、スキンケアに用いるための組成物である。いくつかの実施形態において、本開示に係る化粧用組成物は、例えば、皮膚のシワ、シミ、および/またはハリの改善のために、または皮膚の再生の促進のために用いられうる。実施形態の1つにおいて、本開示に係る化粧用組成物は、皮膚表面への適用のための組成物に関する。本組成物は、限定はされないが、溶液、懸濁液、ローション、クリーム、ゲル、化粧水、スティック、ペンシル、スプレー、エアゾール、軟膏、クレンジング洗剤液およびクレンジング棒状固形物、シャンプーおよびヘアコンディショナー、パスタ、フォーム、パウダー、ムース、髭剃りクリーム、ワイプ、ストリップ、パッチ、電動パッチ、創傷被覆材および粘着性包帯、ヒドロゲル、フィルム形成製品、顔および皮膚マスク(不溶性シートを有するおよび有さない)、ファンデーション、アイライナーおよびアイシャドウなどのメイクアップ用品などの様々な製品形態をとり得る。
【0045】
本開示に係る化粧用組成物は、皮膚抗老化剤、皮膚色調剤、抗炎症剤、日焼け止め剤のうちの少なくとも1つを更に含んでいてもよい。皮膚抗老化剤としては、例えば、抗老化作用を有するペプチド(WO2014157485A1)が挙げられるが、これに限定はされない。好適な皮膚色調剤としては、糖アミン、アルブチン、デオキシアルブチン、ヘキシルレゾルシノール、コウジ酸、ヘキサミジン化合物、サリチル酸、並びにプロピオン酸レチノールおよびプロピオン酸レチニルを含むレチノイドが挙げられるが、これらに限定されない。
【0046】
好適な抗炎症剤としては、非ステロイド系抗炎症剤(イブプロフェン、ナプロキセンなどのNSAIDS)、グリチルリチン酸(グリチルレチン酸グリコシドとしても既知である)、およびグリチルリチン酸ジカリウムなどの塩、グリシルレテン酸(glycyrrhetenic acid)、甘草抽出物、ビサボロール(例えば、アルファビサボロール)、マンジスタ(アカネ属の植物、特にインドアカネ(Rubia cordifolia)から抽出される)、およびガッグル(guggal)(コンミフォラ属の植物、特にグッグル(Commiphora mukul)から抽出される)、コーラノキ抽出物、カミツレ、ムラサキツメクサ抽出物、およびムチサンゴ抽出物(ヤギ目の植物からの抽出物)、上記のいずれかの誘導体、およびこれらの混合物が挙げられるがこれらに限定されない。
【0047】
好適な日焼け止め剤は、2-エチルヘキシル-p-メトキシシンナメート、4,4'-t-ブチルメトキシジベンゾイルメタン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、オクチルジメチル-p-アミノ安息香酸、ジガロイルトリオレエート、2,2-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、エチル-4-(ビス(ヒドロキシプロピル)アミノベンゾエート、2-エチルヘキシル-2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリレート、2-エチルヘキシルサリチレート、グリセリル-p-アミノベンゾエート、3,3,5-トリ-メチルシクロヘキシルサリチレート、アントラニル酸メチル、p-ジメチル-アミノ安息香酸またはアミノベンゾエート、2-エチルヘキシル-p-ジメチルアミノベンゾエート、2-フェニルベンゾイミダゾール-5-スルホン酸、2-(p-ジメチルアミノフェニル)-5-スルホンベンゾオキサゾイン酸、オクトクリレン、酸化亜鉛、ベンジリデンカンファーおよびその誘導体、二酸化チタン、並びにこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0048】
本開示係る化粧用組成物は、化粧品分野において従来から使用され、本開示に係る組成物の特性には影響を及ぼさない、少なくとも1種の添加剤、例えば、増粘剤、香料、真珠光沢剤、保存料、日焼け防止剤、陰イオンもしくは非イオンもしくは陽イオンあるいは両性ポリマー、タンパク質、タンパク質加水分解物、例えば18-メチルエイコサン酸、ビタミン、パンテノール、シリコン、植物油、動物油、鉱物油または合成油等の脂肪酸、ゲル化剤、酸化防止剤、溶媒、フィルター、スクリーニング剤、臭気吸収剤、着色料、研磨剤、吸収剤、芳香剤などの美容成分、色素、顔料/着色剤、精油、アンチケーキング剤、消泡剤、抗菌剤、結合剤、生物学的添加剤、緩衝剤、充填剤、キレート化剤、化学添加剤、美容収斂剤、美容殺生物剤、変性剤、薬物収斂剤、皮膚軟化剤、外用鎮痛剤、フィルム形成剤または材料、乳白剤、pH調整剤、保存剤、噴霧剤、還元剤、捕捉剤、皮膚冷却剤、皮膚保護剤、増粘剤粘度調節剤、ビタミン、およびこれらの組み合わせも含んでもよい。これらの添加剤は、組成物の総重量に関し、限定されないが、好ましくはまたは有利には0から50重量%、5から40重量%または30から50重量%の範囲に収まる割合で、本開示に係る組成物中に存在し得る。
【0049】
本開示係る化粧用組成物は、皮膚への局所適用のために、特に、水性または油性溶液、ローションまたはセラム型の分散物、水相中への脂肪相の分散(O/W)またはその逆(W/O)によって得られる、ミルク型の液体または半液体の稠度を有する乳液、水性もしくは無水ゲルまたはクリーム型の軟稠度を有する懸濁液または乳液、他にはマイクロカプセルもしくは微粒子、イオンおよび/または非イオン型の小胞分散物、或いは泡状の形態を有し得る。これらの組成物は、通常の方法に従って調製される。組成物は、5から99.5%の間の水相を有することが好ましい。
【0050】
本開示に係る化粧用組成物のpHは、限定されないが、一般的には2から12の間であり、好ましくは3から9の間である。pHは、例えば、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、またはモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、イソプロパノールアミンもしくは1,3-プロパンジアミン等の第1級、第2級もしくは第3級(ポリ)アミンの塩基(有機または無機)を組成物に添加することにより、またはリジンもしくはアルギニンのような塩基性アミノ酸もしくはポリアミノ酸を伴って、あるいは、無機酸もしくは有機酸、好ましくは、例えばクエン酸等のカルボン酸を添加することにより、目標値に調製され得る。
【0051】
本開示に係る化粧用組成物は、特に、顔、手、足、主要な身体構造上のひだもしくは体を、洗う、保護する、処理するもしくはケアするためのクリーム(例えば、デイクリーム、ナイトクリーム、アンチエイジングクリーム、保湿クリーム、メイクアップ除去用クリーム、ファンデーションクリーム、またはサンクリーム)、リキッドファンデーション、メイクアップ除去用ミルク、保護用もしくはケア用ボディミルク、サンミルク、ローション、皮膚をケアするためのゲルまたはフォーム、例えばクレンジングローション、サンローション、人工日焼けローション、入浴用組成物、殺菌剤を含む脱臭組成物、アフターシェーブゲルまたはローション、脱毛クリーム、虫刺されに対応するための組成物を構成する。
【0052】
本開示に係る化粧用組成物は、処置期間中、少なくとも1日1回、1日2回、または1日により頻繁に適用され得る。1日2回適用する場合、1回目と2回目の適用には、例えば、少なくとも1~12時間の間隔をあける。典型的には、組成物は、朝および/または就寝前の夜に適用され得る。
【0053】
また、本開示の1つの態様は、処置を必要とする対象に対して、有効量の本開示に係る化粧用組成物を投与または塗布することを含む、美容方法に関する。さらに、本開示の1つの態様は、化粧品の製造における、本開示に係る細胞培養上清液の使用に関する。
【0054】
以下に、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではない。
【実施例0055】
<例1:MSCの共培養>
ヒト脂肪由来MSC細胞、ヒト臍帯由来MSC細胞、ヒト羊膜由来MSC細胞をそれぞれ以下の方法で培養した。細胞培養プレート上に細胞密度5,000 cells/cm2で細胞を播種し、MSC培養培地中で培養した。培地交換は2~3日に1度の頻度で行った。脂肪由来MSC、臍帯由来MSC、羊膜由来MSCを複数回継代した後、酵素処理により細胞剥離を行い、その後、下記の6条件で細胞播種を行った。
【0056】
1)ヒト脂肪由来MSC細胞を5,000 cells/cm2の細胞密度で播種する群
2)ヒト臍帯由来MSC細胞を5,000 cells/cm2の細胞密度で播種する群
3)ヒト羊膜由来MSC細胞を5,000 cells/cm2の細胞密度で播種する群
4)脂肪MSCと臍帯MSCを1:1の割合で合計5,000 cells/cm2の細胞密度で播種する群
5)臍帯MSCと羊膜MSCを1:1の割合で合計5,000 cells/cm2の細胞密度で播種する群
6)脂肪MSCと羊膜MSCを1:1の割合で合計5,000 cells/cm2の細胞密度で播種する群
【0057】
これらの細胞を播種し、コンフルエントに達した段階で培地を取り除き、PBSによる洗浄を2回繰り返した後に、基本培地を加えた。基本培地を加えて培養を行った後、培地を回収し、細胞培養上清液を取得した。上清液を0.22μmフィルターでろ過滅菌し、その後、-80℃で保管した。
【0058】
<例2:上清液のプロテオーム解析>
回収した上清液中の成分のプロテオーム解析はプロメガ株式会社(東京)に依頼して行った。その結果、表1に示すように、脂肪由来MSC、臍帯由来MSC、羊膜由来MSCをそれぞれ個別に培養した場合の細胞培養上清液中には存在せず、共培養を行った場合にのみ存在が確認される複数の成分が同定された。表1には、脂肪由来MSC、臍帯由来MSC、羊膜由来MSCをそれぞれ個別に培養した場合、および脂肪×臍帯、臍帯×羊膜、脂肪×羊膜の組み合わせで共培養した場合に細胞培養上清液中に存在する各タンパク質の定量値がまとめられている。この結果は、共培養により得られる細胞培養上清液が、従来のような単独培養で得られる細胞培養上清液とは異なる活性を有しており、医薬品または化粧品として有用となることを示している。表2および表3に、これらの成分の一部(GCLC、RAD21、RND3)の薬理効果および美容効果をまとめた。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
【表3】
【0062】
本明細書には、本発明の好ましい実施態様を示してあるが、そのような実施態様が単に例示の目的で提供されていることは、当業者には明らかであり、当業者であれば、本発明から逸脱することなく、様々な変形、変更、置換を加えることが可能であろう。本明細書に記載されている発明の様々な代替的実施形態が、本発明を実施する際に使用されうることが理解されるべきである。また、本明細書中において参照している特許および特許出願書類を含む、全ての刊行物に記載の内容は、その引用によって、本明細書中に明記された内容と同様に取り込まれていると解釈すべきである。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明者らは、2種類以上の間葉系幹細胞を共培養することにより、予想外の優れた活性を有する幹細胞培養上清液が得られることを見出した。例えば、脂肪、臍帯、羊膜由来のMSCのうち2つを組み合わせて共培養することによって、各MSC単独の培養上清液に含まれない成分を有する上清液を得ることができる。共培養によって得られる成分には、医薬品または化粧品として有用な効能を有するものが含まれており、産業上の利用が可能である。

図1
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C