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特開2024-129133グリシン輸送体を有効成分として含む神経変性脳疾患を治療するための薬学的組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129133
(43)【公開日】2024-09-26
(54)【発明の名称】グリシン輸送体を有効成分として含む神経変性脳疾患を治療するための薬学的組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/17 20060101AFI20240918BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20240918BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240918BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20240918BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20240918BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20240918BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20240918BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20240918BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240918BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
A61K38/17
A61P25/28 ZNA
A61K48/00
A61K31/7088
A61K35/76
A61K35/12
C07K14/47
C12N15/12
C12N15/63 Z
C12N5/10
A61P25/28
A61K38/17 ZNA
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024108775
(22)【出願日】2024-07-05
(62)【分割の表示】P 2022562362の分割
【原出願日】2021-03-22
(31)【優先権主張番号】10-2020-0044988
(32)【優先日】2020-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0031435
(32)【優先日】2021-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Witepsol
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】521237192
【氏名又は名称】アミルロイド ソリューション インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】AMYLOID SOLUTION INC.
【住所又は居所原語表記】(Sampyeong-dong) 601,58, Pangyo-ro 255beon-gil, Bundang-gu, Seongnam-si Gyeonggi-do 13486 Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】キム ソンムク
(72)【発明者】
【氏名】パク ソンジョン
(72)【発明者】
【氏名】キム へジュ
(72)【発明者】
【氏名】キム ヨンス
(72)【発明者】
【氏名】キム ヘヨン
(57)【要約】      (修正有)
【課題】神経変性脳疾患を治療するための薬学的組成物を提供する。
【解決手段】グリシン輸送体タンパク質、その断片またはそれらをコードする核酸分子、前記核酸分子を含むベクター、前記核酸分子を含むベクターで形質転換された細胞を有効成分として含む組成物によれば、優れたアミロイドベータの凝集の抑制および/または分解効果を達成できるだけでなく、タウタンパク質を分解(および/または凝集抑制)し、タウタンパク質の過剰リン酸化を抑制し、血脳障壁透過能に優れるため脳組織に首尾よく作用可能にすることによって、アミロイドベータ凝集、タウタンパク質凝集、および/または過剰リン酸化されたタウタンパク質に関連する様々な神経変性脳疾患の予防および/または治療に有用に適用することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリシン輸送体(glycine transporter)タンパク質、その断片、またはそれらをコードする核酸分子を有効成分として含む、神経変性脳疾患の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項2】
グリシン輸送体(glycine transporter)タンパク質、またはその断片をコードする核酸分子を含むベクターを有効成分として含む、神経変性脳疾患の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項3】
グリシン輸送体(glycine transporter)タンパク質、またはその断片をコードする核酸分子を含むベクターで形質転換された細胞を有効成分として含む、神経変性脳疾患の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項4】
グリシン輸送体(glycine transporter)タンパク質、その断片、それらをコードする核酸分子、前記核酸分子を含むベクター、又は前記ベクターで形質転換された細胞を有効成分として含む、アミロイドベータ凝集の抑制用薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
グリシン輸送体を有効成分として含む神経変性脳疾患を治療するための薬学的組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
神経変性脳疾患は、中枢神経系の神経細胞に神経変性変化が現れ、運動および感覚機能の損傷、記憶、学習、演算、推理などの高次の原因機能が阻害するなどの様々な症状が誘発される疾患である。代表的な疾患としては、アルツハイマー病(Alzheimer‘s disease)、パーキンソン病(Parkinson’s disease)、記憶障害などがある。神経変性脳疾患は、急激にまたはゆっくり進行する壊死(necrosis)やアポトーシス(apoptosis)による神経細胞の死滅が現れる。したがって、神経細胞の死滅機序に対する理解は、中枢神経系疾患の予防、調節、および治療法の開発のためになされるべきである。
【0003】
一方、神経変性脳疾患の一種であるアルツハイマー病の重要な病理学的特徴は、老人斑(senile plaque)と呼ばれるペプチド凝集体の形成であり、これにより、シナプスの機能障害および神経細胞の死滅が誘発される。そのような老人斑の主成分は、40~42アミノ酸長のアミロイドベータ(amyloid-beta)である。アミロイドベータ単量体は、オリゴマー、プロトフィブリル(protofibril)、およびベータシートが豊富な繊維であり、自己組織化(self-assemble)されやすく、神経毒性の発症に関連する。
【0004】
アミロイドベータプラークと神経毒性との間の相関関係は、まだ明確にわかっていないが、アミロイドベータの中間に位置するオリゴマーまたは凝集体への自己組織化は、アルツハイマー病などの脳神経疾患の発症と関連すると考えられている。
【0005】
したがって、本発明者らは、アミロイドベータプラークの産生を阻害して、神経変性脳疾患の治療のための本発明を完成した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一態様は、グリシン輸送体(glycine transporter)タンパク質、その断片、またはそれらをコードする核酸分子を有効成分として含む神経変性脳疾患の予防、または治療用薬学的組成物を提供することである。
【0007】
別の態様は、グリシン輸送体(glycine transporter)タンパク質、またはその断片をコードする核酸分子を含むベクターを有効成分として含む神経変性脳疾患の予防、または治療用薬学的組成物を提供することである。
【0008】
別の態様は、グリシン輸送体(glycine transporter)タンパク質、またはその断片をコードする核酸分子を含むベクターで形質転換された細胞を有効成分として含む、神経変性脳疾患の予防または治療用薬学的組成物を提供することである。
【0009】
別の態様は、グリシン輸送体(glycine transporter)タンパク質、その断片、またはそれらをコードする核酸分子を、それを必要とする個体に投与するステップを含む、神経変性脳疾患を予防または治療する方法を提供することである。
【0010】
別の態様は、グリシン輸送体(glycine transporter)タンパク質、その断片、またはそれらをコードする核酸分子を神経変性脳疾患の予防または治療用組成物の製造に使用するための用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一態様は、グリシン輸送体(glycine transporter)タンパク質、その断片、またはそれらをコードする核酸分子を有効成分として含む神経変性脳疾患の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
【0012】
前記グリシン輸送体は神経伝達物質輸送体であり、シナプス間隙から再びシナプス前ニューロンにグリシンを再吸収させることによって、グリシンのシグナル伝達を終結させることができる。したがって、一実施形態では、前記グリシン受容体は、細胞外グリシンの細胞内への輸送を促進することができる。
【0013】
一実施形態では、前記グリシン輸送体はGlyT1(Glycine Transporter-1)であり得、前記GlyT1は配列番号1のポリヌクレオチド配列を含むことができる。
【0014】
本明細書において「ポリヌクレオチド(polynucleotide)」という用語は、一本鎖または二本鎖の形態で存在するデオキシリボヌクレオチド、またはリボヌクレオチドのポリマーである。RNAゲノム配列、DNA(gDNAおよびcDNA)及びそれらから転写されるRNA配列を包含し、特に断りのない限り、天然のポリヌクレオチドの類似体を含み得る。
【0015】
前記ポリヌクレオチドは、前記グリシン輸送体タンパク質のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列だけでなく、その配列に相補的な(complementary)配列も含むことができる。前記相補的な配列は完全に相補的な配列だけでなく、実質的に相補的な配列も含み、これは当技術分野で知られている緊縮条件(stringent conditions)下で、例えば、前記タンパク質のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列のヌクレオチド配列とハイブリダイゼーションすることができる配列を意味する。
【0016】
一実施形態において前記薬学的組成物は、
(1)アミロイドベータの凝集レベルが神経変性脳疾患を有しない正常個体よりも高いかあるいは高い危険性がある個体、
(2)タウタンパク質の凝集レベルが、神経変性脳疾患を有しない正常個体よりも高いかあるいは高い危険性がある個体、
(3)タウタンパク質のリン酸化のレベルが、神経変性脳疾患を有しない正常個体よりも高いかあるいは高い危険性がある個体、および
(4)前期(1)~(4)中1つ以上に該当する個体に投与するためのものであってもよい。
【0017】
前記アミロイドベータまたはタウタンパク質の凝集レベルは、アミロイドベータ凝集体またはタウタンパク質の凝集体の量(濃度)、または全体アミロイドベータまたは全体タウタンパク質に対するアミロイドベータ凝集体またはタウタンパク質凝集体の割合を意味してもよい。
【0018】
前記タウタンパク質のリン酸化レベルは、リン酸化されたタウタンパク質の量(濃度)または全体タウタンパク質に対するリン酸化されたタウタンパク質の割合を意味してもよい。
【0019】
ヒトアミロイドベータ(amyloid-beta)は、約36~43個のアミノ酸を含むペプチド分子であり、アルツハイマー病を有する患者の脳で発現されるアミロイドプラークの主な成分であり、アルツハイマー病の発症に関与することが知られている。前記アミロイドベータペプチド分子は、アミロイド前駆体タンパク質(amyloid precursor protein(APP);UniProtKB P05067)をベータセクレターゼ(beta secretase)およびガンマセクレターゼ(gamma secretase)によって切断して得られるものであってもよい。アミロイドベータのペプチド分子は、凝集して神経細胞の毒性オリゴマーを形成し、神経変性脳疾患を誘発する。
【0020】
前記タウ(Tau)タンパク質は、N末端突出部分、プロリン(proline)凝集ドメイン、微小管結合ドメイン、C末端の4つの部分からなっており(Mandelkow et al., Acta.Neuropathol., 103, 26-35, 1996)、中枢神経系の神経細胞の中でタウが異常に過剰リン酸化されたり変形されたりする場合、パーキンソン病、タウオパチー(tauopathy)などの神経変性脳疾患が誘発されると知られている。
【0021】
一実施形態において、前記アミロイドベータの凝集はグリシン(glycine)によるものであり得る。したがって、前記グリシン輸送体はアミロイドベータの凝集を抑制することができる。
【0022】
本明細書において、「神経変性脳疾患」という用語は、脳の神経変性変化と関連するすべての疾患、特に、脳および/または脳神経細胞におけるアミロイドベータの凝集などの要因によって誘発され得るすべての疾患(脳疾患)を包括的に記載するために使用される。一実施形態において、前記神経変性脳疾患は、認知症、アルツハイマー病(Alzheimer’s disease)、パーキンソン病、ハンチントン病、軽度認知障害(mild cognitive impairment)、大脳アミロイド血管症、ダウン症候群、アミロイド性脳卒中(stroke)、全身性アミロイドーシス、ダッチ(Dutch)型アミロイドーシス、ニーマン・ピック病、老人性認知症、筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis)、脊髄小脳萎縮症(Spinocerebellar Atrophy)、トゥレット症候群(Tourette`s Syndrome)、フリードライヒ運動失調症(Friedrich` s Ataxia)、マチャド・ジョセフ病(Machado-Joseph`s disease)、レビー小体型認知症(Lewy Body Dementia)、ジストニア(Dystonia)、進行性核上性麻痺(Progressive Supranuclear Palsy)、および前頭側頭型認知症(Frontotemporal Dementia)からなる群から選択されるものであってもよいが、これに限定されるものではなく、アミロイドベータの凝集による病気であれば、いずれの病気でも対象となり得る。
【0023】
前記「正常」は、前記薬学的組成物が適用される個体と同種の個体中、先に定義した「神経変性脳疾患」を有していない個体または前記個体から分離および/または培養された脳組織または脳細胞(脳神経細胞)であってもよい。
【0024】
別の態様は、グリシン輸送体(glycine transporter)タンパク質、またはその断片をコードするヌクレオチド配列を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを提供する。
【0025】
前記グリシン輸送体またはその断片をコードするヌクレオチド配列は、例えば、配列番号1と少なくとも70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一性を有するヌクレオチド配列を含み、前記ポリヌクレオチド配列によってコードされたタンパク質は、配列番号1で表されるタンパク質の機能的活性を実質的に有する。
【0026】
別の態様は、前記AAVベクターで形質転換された細胞を提供する。
【0027】
別の態様は、グリシン輸送体(glycine transporter)タンパク質またはその断片をコードする核酸分子を含むベクターを有効成分として含む、神経変性脳疾患の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
【0028】
一実施形態において、前記ベクターは、プラスミドベクター、コスミドベクター、バクテリオファージベクター、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクターおよびアデノ随伴ウイルスベクター からなる群から選択されるいずれかであってもよいが、これらに限定されない。また、前記アデノ随伴ウイルスベクターは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10およびAAV11からなる群から選択されるいずれかであってもよいが、これらに限定されない。
【0029】
具体的には、本発明は、グリシン輸送体、その断片をコードするヌクレオチド配列を含むAAVベクターを提供することであってもよい。好ましくは、AAVベクターはAAV粒子の形態である。ウイルスベクターおよびウイルスベクター粒子、例えば、AAV由来のものを調製および変形させる方法は当業界において既知のことである。
【0030】
AAVベクターは、AAVゲノムまたはその断片または誘導体を含み得る。AAVゲノムはポリヌクレオチド配列であり、これはAAV粒子の産生に必要な機能をコードする。これらの機能は、AAV粒子へのAAVゲノムのカプシド形成を含み、宿主細胞でのAAVの複製とパッケージング周期でのこれらのオペレーティングを含む。天然に生じるAAVは複製欠損性であり、複製およびパッケージング周期を完了するため、トランスに(in trans)作用するヘルパー機能の提供に依存する。AAVゲノムは、1本鎖形態のポジティブ又はネガティブセンスのいずれであってもよく、あるいは、2本鎖形態であってもよい。2本鎖形態の使用により、標的細胞でのDNA複製ステップのバイパスが可能となり、その結果、導入遺伝子の発現を加速することができる。
【0031】
AAVゲノムは、AAVの任意の天然由来の血清型、又はAAVの分離株若しくはクレード(clade)のいずれでもよい。したがって、AAVゲノムは、天然に生じるAAVの完全なゲノムであってよい。当業界で既知のとおり、天然に生じるAAVは、様々な生物学的システムに従って分類され得る。一般に、AAVはその血清型に関して言及される。血清型は、カプシド表面抗原の発現のプロファイルのため、他の様々な変異体亜種とそれを区別するのに使用され得る独自の反応性を有する様々なAAVの変異体亜種に対応する。概して、特定のAAV血清型を有するウイルスは、他のいかなるAAV血清型に特異的な中和抗体とも効率的に交差反応しない。 AAV血清型は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10およびAAV11、また、霊長類の脳から最近同定されたRec2、Rec3等の組み換え血清型を含む。そのような任意のAAV血清型を本発明で使用することができる。
【0032】
AAVはまた、クレードまたはクローンに関して言及することができる。これは、天然由来のAAVの系統発生的関係を指し、概して、共通の祖先に遡ることができるAAVの系統発生グループを指し、それら全ての子孫を含む。さらに、AAVは、特定の分離株、すなわち、天然に見出された特定のAAVの遺伝的分離株に関して言及され得る。遺伝的分離株という用語は、他の天然に生じるAAVと限定された遺伝的混合を経験したAAV集団をいい、それにより、遺伝的レベルで認知可能な集団を定義する。
【0033】
当業者は業界で共通した一般知識に基づいて、本発明での使用に向けたAAVの適した血清型、クレード、クローンまたは分離株を選択することができる。
【0034】
前記アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターは、特定の細胞にウイルスを作ることができる材料を導入することによって作製されたものであり、本発明による核酸を含む発現ベクターは、当業界における既知の方法、例えば、これらに限定されないが、一過性トランスフェクション(transient transfection)、マイクロインジェクション 、 形質導入(transduction)、細胞融合、リン酸カルシウム沈殿法、リポソーム媒介トランスフェクション(liposome-mediated transfection)、DEAEデキストラン媒介トランスフェクション(DEAE Dextran- mediated transfection)、ポリブレン媒介トランスフェクション(polybrene-mediated transfection)、電気穿孔法(electroporation)、遺伝子銃(gene gun)、および細胞内に核酸を流入させるための他の既知の方法によって細胞に導入することができる。例えば、グリシン輸送体をAAVに挿入して発現ベクターを作製した後、このベクターをパッケージング(packaging) 細胞に形質導入し、形質導入されたパッケージング細胞を培養した後、濾過してAAV溶液を得て、これを用いて脳細胞、神経細胞および/または神経前駆細胞などの細胞を感染させることにより、細胞にグリシン輸送体遺伝子を導入することができる。
【0035】
AAVを含む前記ベクターは、宿主細胞で目的遺伝子を発現させるための手段を意味するものであり得る。前記ベクターは、目的遺伝子発現のための要素(elements)を含むものであり、 複製起点(replication origin)、プロモーター、作動遺伝子(operator)、転写終結配列(terminator)などを含み、宿主細胞のゲノム内への導入に適した酵素部位(例えば、制限酵素部位)および/または宿主細胞への成功した導入を確認するための選択マーカーおよび/またはタンパク質への翻訳のためのリボソーム結合部位(ribosome binding site;RBS)、IRES(Internal Ribosome Entry Site)などをさらに含むことができる。前記ベクターは、前記プロモーター以外の転写制御配列(例えば、エンハンサーなど)をさらに含み得る。
【0036】
前記組み換えベクター中、前記タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列は、プロモーターに作動的に連結されるものであり得る。「作動的に連結された(operatively linked)」という用語は、プロモーター配列などのヌクレオチド発現制御配列と他のヌクレオチド配列との間の機能的結合を意味し、それによって前記制御配列は前記他のヌクレオチド配列の転写および/または解読を制御するようになる。
【0037】
前記組み換えベクターは、宿主細胞内で安定的に前記グリシン輸送体タンパク質を発現させることができる発現用ベクターであり得る。前記発現用ベクターは、当業界において植物、動物または微生物から外来のタンパク質を発現する上で用いられる通常のものを使用することができる。前記組み換えベクターは、当業界における既知の様々な方法を通じて構築することができる。
【0038】
また、前記ベクターは遺伝子治療用発現ベクターを意味するものであってもよい。したがって、前記ウイルスベクターは、所望の細胞、組織および/または器官に治療遺伝子または遺伝物質を送達できるウイルスベクターを意味することであってもよい。前記「遺伝子治療(gene therapy)」という用語は、遺伝子異常によって誘発される各種遺伝子疾患を治療するために、遺伝子異常を有する細胞に正常遺伝子を挿入するか、または新たな機能を提供してその機能を正常化する方法を意味するものであってもよい。したがって、本発明の組み換えベクターまたは組み換え細胞は、グリシン輸送体遺伝子を発現することによって神経変性脳疾患を予防または治療することができる。
【0039】
別の態様は、グリシン輸送体(glycine transporter)タンパク質またはその断片をコードする核酸分子を含むベクターで形質転換された細胞を有効成分として含む、神経変性脳疾患の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
【0040】
本明細書において「形質転換」という用語は、外部から与えられたDNAによって生物の遺伝的性質が変化すること、すなわち、生物のある系統の細胞から抽出された核酸の一種であるDNAを他の系統の生細胞に導入したとき、DNAがその細胞に入り、遺伝形質が変化する現象を意味するものであり得る。
【0041】
一実施形態では、前記形質転換された細胞は、幹細胞、前駆細胞または動物細胞であり得るが、これらに限定されない。また、前記幹細胞は、具体的には胚幹細胞、成体幹細胞または 人工多能性幹細胞(induced pluipotent stem cell、iPS)であってもよいが、これらに限定されず、前記幹細胞から分化した幹細胞、例えば胚幹細胞由来の間葉系幹細胞、人工多能性幹細胞由来の間葉系幹細胞、人工多能性幹細胞由来の神経幹細胞等を全て含むものであってもよい。さらに、前記細胞は自己由来 (autologous)または他家、または同種他家由来(allogenic)または異種由来(Xenogenic)であり得る。
【0042】
本明細書において「治療」という用語は、病状の軽減または改善、疾患部位の減少、疾患進行の遅延または緩和、疾患状態または症状の改善、軽減、または安定化、部分的または完全な回復、生存の延長、他の有益な治療の結果などをすべて含む意味で使用される。「予防」という用語は、特定の病気を有していない対象に作用し、前期特定の病気が発症しないようにするか、その発症時期を遅らせるか、または発症頻度を低減するすべてのメカニズムおよび/または効果を含む意味で使用される。
【0043】
「薬学的組成物」という用語は、対象への投与時にいくつかの有利な効果を与える分子または化合物を指すことができる。有利な効果は以下のとおりである。診断的決定を可能にし、病気、症状、障害または病態を改善し、病気、症状、障害または疾患の発症を減少または予防し、 及び一般に、病気、症状、障害又は病態に対応することを含み得る。
【0044】
前記薬学的組成物は、前記有効成分に加えて、薬学的に許容可能な担体、賦形剤、希釈剤、充填剤、増量剤、湿潤剤、崩壊剤、乳化剤(界面活性剤)、潤滑剤、甘味料、香味剤、懸濁剤、保存剤などからなる群より選択される1種以上の補助剤をさらに含んでもよい。前記補助剤は、前記薬学的組成物が適用される製剤に応じて適切に調整されてもよく、薬剤学分野で通常的に使用され得る全ての補助剤中の1つ以上を選択して使用してもよい。一実施形態において、前記薬学的に許容可能な担体は、薬物の製剤化に通常的に利用されるものとして、食塩水、滅菌水、リンゲル液、緩衝食塩水、デキストローズ溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノール、リポソーム及びこれら成分のうち1成分以上を混合して使用することができ、必要に応じて抗酸化剤、緩衝液、静菌剤など他の通常の添加剤を添加することができる。また、希釈剤、分散剤、界面活性剤、結合剤及び潤滑剤をさらに添加して、水溶液、懸濁液、乳濁液などのような注射用製剤、丸薬、カプセル、顆粒または錠剤で製剤化することができ、標的器官に特異的に作用するよう標的器官特異的抗体または他のリガンドを前記担体と結合させ使用することができる。ひいては、この技術分野における適正な方法を用いて、またはレミントンの文献(Remington’s Pharmaceutical Science(最近版),Mack Publishing Company,Easton PA)に開示されている方法を用いて、各疾患に対応して、または成分によって、適宜に製剤化することができる。
【0045】
前記有効成分の有効量、または前記薬学的組成物は、臨床投与時に経口投与または非経口投与することができ、一般的な医薬品製剤の形態で使用してもよい。非経口投与とは、直腸、静脈、腹膜、筋肉、動脈、経皮、鼻腔(Nasal)、吸入、眼球または皮下などの経口以外の投与経路を介した投与を意味することができ、 病変部位の局所投与などによって投与してもよい。経口投与の時、前記薬学的組成物は、活性成分が胃内で分解されないようにするために、活性成分をコーティングするか、または胃の分解作用から保護可能な製剤に製剤化されてもよい。本発明における前記薬学的組成物を医薬品として用いる場合、同一または類似の機能を示す有効成分1種以上をさらに含有してもよい。
【0046】
また、本明細書において「有効成分」という用語は、本明細書で述べられた物質が、本明細書で述べられた薬理学的な活性(例えば、神経変性脳疾患の治療)を達成するために使用される生理活性物質を意味してもよく、これは、本明細書で述べられた病気を治療するために、前記物質のみを投与するか、または他の物質と一緒に併用投与、あるいは付加的に投与することとは区別される。すなわち、前記グリシン輸送体タンパク質、その断片またはそれらをコードする核酸分子、前記核酸分子を含むベクター、前記核酸分子を含むベクターで形質転換された細胞は、神経変性脳疾患の直接的な治療効果のための単独の有効性成分として投与されるものであり得る。
【0047】
前記薬学的組成物は、水性または油性媒体中の溶液、懸濁液、シロップ剤またはエマルジョンの形態であるか、または散剤、粉末剤、顆粒剤、錠剤またはカプセル剤などの形態で製剤化されてもよく、製剤化のために分散剤または安定化剤をさらに含んでもよい。前記薬学的組成物を製剤化する際に通常使用する充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤などの希釈剤または賦形剤を用いて調製することができる。非経口投与のための製剤には、滅菌水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤、坐剤が含まれてもよい。非水性溶剤、懸濁溶剤としては、プロピレングリコール(Propylene glycol)、ポリエチレングリコール、オリーブ油などの植物油、エチルオレートなどの注射可能なエステルなどを用いることができる。坐剤の基剤としては、 ウイテプゾール(Witepsol)、マクロゴール、ツイン(Tween)61、カカオ脂、ラウリン脂、グリセロゼラチンなどが用いられる。
【0048】
前記薬学的組成物は、生理食塩水や有機溶媒のように薬剤として許容された様々な担体(carrier)と混合して用いることができ、安定性や吸収性を向上させるために、グルコース、スクロース、デキストランなどの炭水化物、アスコルビン酸(Ascorbic acid)、グルタチオン(Glutathione)などの抗酸化剤(Antioxidants)、キレート剤(Chelating agents)、低分子タンパク質、他の安定化剤(Stabilizers)などを薬剤として用いることができる。
【0049】
前記薬学的組成物は薬学的有効量で投与してもよい。その与方量において特に制約されることはなく、患者の生体内吸収性、体重、年齢、性別、健康状態、食餌、投与時間、投与方法、排泄率および疾患の重症度などによって有効投与量が変化し得る。本発明の薬学的組成物は有効量範囲を考慮して製造するようにし、このように製剤化された単位用量製剤は、必要に応じて薬剤の投与を監視または観察する専門家の判断と個人の要求に従って専門化された投薬法を使用することも、所定の間隔をあけて複数回投与することもできる。薬学的組成物の投与量は、1日1μg/kg/日~1,000mg/kg/日であり得るが、これらに限定されない。前記1日または1回投与量は、単位容量形態で一つの製剤として製剤化されるか、適切な量に分けて製剤化されるか、または大容量容器内に組み込まれて製造されてもよい。
【0050】
前記個体は哺乳類、例えば、ヒト、ウシ、ウマ、ブタ、イヌ、ヒツジ、ヤギ、またはネコであり得る。前記個体は、神経変性脳疾患の治癒を必要とする個体であり得る。
【0051】
本発明の有効成分が組み換えベクターである場合、具体的には0.01~500mgを含有することができ、より具体的には0.1~300mgを含有することができ、前記組み換えベクターを含む組み換えウイルスの場合、具体的には103~1012 IU(10~1010PFU)を含有することができ、より具体的には105~1010IUを含有することができるが、これに限定されない。
【0052】
本発明の有効成分が細胞である場合、具体的には103~108個を含有することができ、より具体的には104~107個を含有することができるが、これに限定されない。
【0053】
本発明における組成物の有効用量は、組み換えベクターの場合は0.05~12.5mg/kg(体重)、組み換えウイルスの場合は107~1011ウイルス粒子(105~109IU)/kg、細胞の場合は103~106細胞/kgであってもよく、具体的に組み換えベクターの場合は0.1~10mg/kg、組み換えウイルスの場合は108~1010粒子(106~108IU)/kg、細胞の場合は102~105細胞/kgであってもよく、1日1~3回投与することができる。前記組成は必ずしもこれに限定されず、患者の状態および発症の程度に応じて変わり得る。
【0054】
別の態様は、前記アミロイドベータ凝集を阻害および/または分解を必要とする個体に、前記グリシン輸送体タンパク質、その断片またはそれらをコードする核酸分子、前記核酸分子を含むベクター、前記核酸分子を含むベクターで形質転換された細胞を有効成分として含む薬学的有効量を投与するステップを含む、アミロイドベータ凝集阻害および/または分解方法を提供する。前記方法は、前記投与ステップの前に、アミロイドベータ凝集抑制および/または分解を必要とする個体を確認するステップをさらに含んでもよい。
【0055】
前記タウタンパク質の分解(および/または凝集抑制)および/またはタウタンパク質のリン酸化抑制を必要とする個体に、前記グリシン輸送体タンパク質、その断片またはそれをコードする核酸分子、前記核酸分子を含むベクター、前記核酸分子を含むベクターで形質転換された細胞を有効成分として含む薬学的有効量を投与するステップを含む、タウタンパク質の分解(および/または凝集抑制)および/またはタウタンパク質のリン酸化抑制方法を提供する。
【0056】
前記方法は、前記投与ステップの前に、タウタンパク質の分解(および/または凝集抑制)および/またはタウタンパク質のリン酸化抑制を必要とする対象を確認するステップをさらに含んでもよい。
【0057】
前記神経変性脳疾患の予防および/または治療を必要とする個体に、前記グリシン輸送体タンパク質、その断片またはそれらをコードする核酸分子、前記核酸分子を含むベクター、前記核酸分子を含むベクターで形質転換された細胞を有効成分として含む薬学的有効量を投与するステップを含む、神経変性脳疾患の予防および/または治療方法を提供する。前記方法は、前記投与ステップの前に、神経変性脳疾患の予防および/または治療を必要とする個体を確認するステップをさらに含み得る。
【0058】
別の態様は、グリシン輸送体(glycine transporter)タンパク質、その断片またはそれらをコードする核酸分子、前記核酸分子を含むベクター、前記核酸分子を含むベクターで形質転換された細胞を有効成分として含む神経変性脳疾患の予防または改善のための健康機能性食品を提供する。
【0059】
別の態様は、グリシン輸送体(glycine transporter)タンパク質、その断片またはそれらをコードする核酸分子、前記核酸分子を含むベクター、前記核酸分子を含むベクターで形質転換された細胞を有効成分として含む、認知障害の予防または改善、または記憶力改善用健康機能性食品を提供する。
【0060】
本明細書において「認知」という用語は、思考、経験および感覚を通じて知識および理解を得る精神的活動またはプロセスであり得る。これには、知識、注意、記憶およびワーキングメモリー、判断および評価、推論および計算、問題解決および意思決定、言語の理解および生成などのプロセスが含まれてもよい。前記認知障害は、学習、記憶、知覚および問題解決に主に影響を及ぼす精神的健康障害のカテゴリーであり、記憶喪失、認知症およびせん妄(delirium)を含み得る。
【0061】
前記記憶力改善は、神経解剖学的構造の損傷の結果、記憶の保存、保持および再収集を改善することを意味し得る。また、進行性であり得る(アルツハイマー病を含む)記憶力障害を改善することを意味し得る。
【0062】
前記健康機能性食品は、毎日の食事で不足しやすい栄養素や人体に有用な機能を有する原料や成分(以下、「機能性原料」)を使用して製造した食品であり、健康を維持したり、所定の病気や症状を予防および/または改善したりするために役立つ全ての食品を意味し、最終製品形態は、特に限定されない。例えば、前記健康機能性食品は、各種の食品、飲料組成物、食品添加物などからなる群より選択されるものであってもよいが、これらに限定されない。
【0063】
前記健康機能性食品に含まれる有効成分の含有量は、食品の形態、 所望の用途などに応じて適切に調整することができ、特に限定されなく、例えば、全体食品の重量に対して、0.0001~99重量%、0.0001~95重量%、0.0001~90重量%、0.0001~80重量%、0.0001~50重量%、0.001~99重量%、0.001~95重量%、0.001~90重量%、0.001~80重量%、0.001~50重量%、0.01~99重量%、0.01~95重量%、0.01~90重量%、0.01~80重量%、0.01~50重量%、0.1~99重量%、0.1~95重量%、0.1~90重量%、0.1~80重量%、0.1~50重量%、0.1~30重量%、0.1~10重量%、1~99重量%、1~95重量%、1~90重量%、1~80重量%、1~50重量%、1~30重量%、1~10重量%、10~99重量%、10~95重量%、10~90重量%、10~80重量%、10~50重量%、10~30重量%、25~99重量%、25~95重量%、25~90重量%、25~80重量%、25~50重量%、25~30重量%、40~99重量%、40~95重量%、40~90重量%、40~80重量%、40~50重量%、50~99重量%、50~95重量%、50~90重量%、50~80重量%、60~99重量%、60~95重量%、60~90重量%、または60~80重量%であってもよいが、これらに限定されない。
【0064】
前記健康機能性食品は、様々な栄養剤、ビタミン、鉱物(電解質)、合成フレーバー又は天然フレーバーなどのフレーバー、着色剤、増進剤(チーズ、チョコレートなど)、ペクチン酸またはその塩、アルギン酸またはその塩、有機酸、保護性コロイド増粘剤、pH調整剤、安定化剤、防腐剤、グリセリン、アルコール、炭酸飲料に使用される炭酸化剤などからなる群より選択される1種以上をさらに含有してもよい。これらの添加剤の割合は、全体の健康機能性食品の100重量部当たり、0.001~約20重量部の範囲内で選択されるのが一般的であるが、これに限定されない。
【0065】
前記発明について記述した用語および方法などは、各発明において同様に適用される。
【発明の効果】
【0066】
一態様によるグリシン輸送体タンパク質、その断片またはそれらをコードする核酸分子、前記核酸分子を含むベクター、前記核酸分子を含むベクターで形質転換された細胞を有効成分として含む組成物によれば、優れたアミロイドベータの凝集の抑制および/または分解効果を達成できるだけでなく、タウタンパク質を分解(および/または凝集抑制)し、タウタンパク質の過剰リン酸化を抑制し、血脳障壁透過能に優れるため、脳組織に首尾よく作用可能にすることによって、アミロイドベータ凝集、タウタンパク質凝集、および/または過剰リン酸化されたタウタンパク質に関連する様々な神経変性脳疾患の予防および/または治療に有用に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
図1】アルツハイマー型認知症患者の脳組織でGlyT1の発現を確認した結果を示す組織染色画像であり、正常な対照群に比べて海馬および前頭葉でプラークが蓄積された患者の脳部位でGlyT1の発現が著しく低いことを示す。
図2】アミロイドプラークがまだ十分に形成されていない形質転換されたアルツハイマー型認知症動物(APP/PS1 TG)におけるGlyT1の阻害によりアミロイドベータプラークの形成が著しく増加した結果を示す組織染色画像であり、対照群であるGlyT2阻害は、プラークの増加が観察されないことをみれば、GlyT1が特異的にアミロイドベータプラークの形成に関与していることを示している。
図3】形質転換されたアルツハイマー型認知症動物(APP/PS1 TG)におけるアミロイドベータプラークの分解をチオフラビンS(Thioflavin S)染色を用いて確認した結果を示す組織染色画像であり、AAV-GlyT1の投与によるアミロイドベータ凝集分解効果を示す。
図4】形質転換されたアルツハイマー型認知症動物(APP/PS1 TG)におけるアミロイドベータプラークの分解をチオフラビンS染色を用いて確認した結果を示すグラフであり、AAV-GlyT1投与によるアミロイドベータ凝集分解効果を示めす。大脳半球の大脳皮質(cortex)部位と海馬(hippocampus)におけるアミロイドベータプラークの総面積を求めた値で陰性対照群であるAAV-GFPを投与したTGマウスと比較してAAV-GlyT1の投与群で有意に上記の値が減少することを示す。
図5】形質転換されたアルツハイマー型認知症動物(APP/PS1 TG)にAAV-GlyT1を投与した後、12週目のY-maze test(Y字型迷路試験)を行った結果であり、実験動物が周辺の手がかりを把握して順次敵に迷路に入る相対的頻度を測定した自発的交代行動率(spontaneous alteration)(%)を示す値で、院生対照群であるAAV-GFP投与群に比べて陽性対照群であるWT-Vehに近く記憶力の数値が向上することを示す。
【発明を実施するための形態】
【0068】
以下では、実施例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明するが、これは例示的なものにすぎず、本発明の範囲は、限定されない。下記に記載の実施例は、発明の本質的な要旨を逸脱しない範囲で変形できることは当業者にとって自明であろう。
【0069】
実施例1:アルツハイマー型認知症患者の脳組織におけるGlyT1発現の減少の確認
1.1.ヒトの脳組織の準備
アルツハイマー型認知症患者の死後脳組織は、ソウル大学の脳銀行で分譲された認知症患者群と正常な対照群の前頭葉および海馬で確認した(表1)。アルツハイマー型認知症患者群(AD)5個、正常対照群(Non-AD)5個ずつで、それぞれ年齢と性別の異なる組織を得て実験した。
【0070】
1.2.免疫組織化学染色
前記実施例1.1.で準備した固定した脳組織を30μmの厚さに切片を作製して免疫組織化学染色を行った。前記固定した組織を0.5%チオフラビンS溶液に10分間反応させてAβプラークを染色した。さらに、GlyT1抗体を用いて組織を染色した。50%エタノールで2回洗浄およびDPBSで1回洗浄を行った後、スライドガラスに染色した組織をマウントし、共焦点レーザー顕微鏡で観察した。
【0071】
その結果、図1の正常人およびアルツハイマー患者の脳組織の免疫組織化学染色の結果、海馬および前頭葉でプラークが蓄積されたアルツハイマー患者の脳部位でGlyT1の発現が正常対照群と比較して顕著に低いことを確認した。
【0072】
実施例2:APP/PS1 TGマウスにおけるGlyT1及びGlyT2阻害による形質転換マウスの病理観察
2.1.APP/PS1 TGマウスモデルの準備
トランスジェニックマウス(APP/PS1 TG; アルツハイマー病動物モデル; B6C3-Tg(APPswe,PSEN1dE)85Dbo/Mmjax)および野生型マウスは、Jackson Laboratory(Bar Harbor, Maine, USA)由来であった。APP/PS1 TGマウスは野生型マウスと交差してダブルヘミ接合体(double hemizygotes)で維持された。全ての遺伝子型は、Jackson Laboratoryの標準PCR条件に従い、尾DNA(tail DNA)を用いたPCR分析によって確認した。マウスは動物飼育室でプラスチックケージごとに1匹ずつ収容され、12時間の明暗サイクルを交互に21±1℃に維持し、食物と水を自由に摂取した。
【0073】
2.2.マウスモデルへのGlyT1およびGlyT2阻害剤の投与
GlyT1阻害剤(LY2365109hydrochloride)とGlyT2阻害剤(N-Arachidonylglycine)を、まだアミロイドベータプラークが十分に生成されていない7ヶ月齢トランスジェニックマウスに、それぞれ10mg/kg/day濃度で4週間毎日経口投与した。
【0074】
2.3.脳組織サンプルの準備
2%アベルチン(20 mg/g, i.p.)を使用してマウスを麻酔した。前記マウスを0.9%NaClで灌流させ、脳を切除した。前記ヘミブレインを4℃、4%パラホルムアルデヒド(pH7.4)で一晩固定した。
【0075】
2.4.免疫組織化学染色
前記実施例2.3.で準備した固定した脳組織を30μmの厚さに切片を作製して免疫組織化学染色を行った。前記固定した組織を0.5%チオフラビンS溶液に10分間反応させてAβプラークを染色した。50%エタノールで2回洗浄およびDPBSで1回洗浄を行った後、スライドガラスに染色した組織をマウントし、共焦点レーザー顕微鏡で観察した。
【0076】
その結果、図2のアミロイドベータプラークの染色画像に示されたように、GlyT2阻害剤を投与したマウス(TG GlyT2 inhibitor)と比較したとき、前記プラーク数および総プラーク面積がGlyT1阻害剤を投与したマウス(TG、GlyT1 inhibitor)において顕著に増加することが確認された。これは、GlyT1が特異的にアミロイドベータプラークの形成に関与していることを示している。
【0077】
実施例3:APP/PS1 TGマウスにおいて大槽(CM)に投与されたAAV-GlyT1によるアミロイドプラーク減少効果の確認
3.1.APP/PS1 TGマウスモデルの準備
トランスジェニックマウス(APP/PS1 TG; アルツハイマー病動物モデル; B6C3-Tg(APPswe,PSEN1dE)85Dbo/Mmjax)および野生型マウスは、Jackson Laboratory(Bar Harbor, Maine, USA)由来であった。APP/PS1 TGマウスは野生型マウスと交差してダブルヘミ接合体(double hemizygotes)で維持された。全ての遺伝子型は、Jackson Laboratoryの標準PCR条件に従い、尾DNA(tail DNA)を用いたPCR分析によって確認した。マウスは動物飼育室でプラスチックケージごとに1匹ずつ収容され、12時間の明暗サイクルを交互に21±1℃に維持し、食物と水を自由に摂取した。
【0078】
3.2.マウスモデルへのAAV(Adeno-associated virus)-GlyT1の投与
配列番号1のグリシン輸送体(GlyT1)を発現するAAV(AAV-GlyT1)作製は、Vigene Biosciences(Rockville、MD、USA)の作製方法に従って組み換えた。
【0079】
具体的には、GlyT1遺伝子をAAV9血清型(serotype)を有するAAVに挿入して発現ベクターを作製した後、このベクターを包装(packaging)細胞に形質導入し、形質導入された包装細胞を培養した後、濾過してAAV粒子(AAV particles)を含む溶液を得て、これを濃縮および精製した。次いで、AAV-GlyT1を5ヶ月齢のAPP/PS1 TGマウスの大槽(CM)に5×1010 VP(viral particles)または1.5×1011 VPの濃度で単回投与した。対照群には5×1010 VPのAAV-GFPを投与した。
【0080】
3.3.脳組織サンプルの準備
2%アベルチン (20mg/g,i.p.)を使用してマウスを麻酔した。前記マウスを0.9%NaClで灌流させ、脳を切除した。前記ヘミブレインを4℃、4%パラホルムアルデヒド(pH7.4)で一晩固定した。
【0081】
3.4.免疫組織化学染色
前記実施例1.3.で準備した固定した脳組織を30μmの厚さに切片を作製して免疫組織化学染色を行った。前記固定した組織を0.5%チオフラビンS溶液に10分間反応させてAβプラークを染色した。50%エタノールで2回洗浄およびDPBSで1回洗浄を行った後、スライドガラスに染色した組織をマウントし、共焦点レーザー顕微鏡で観察した。
【0082】
その結果、図3のアミロイドベータプラークの染色画像と図4のグラフに示すように、対照群のマウス(TG-Veh)と比較したとき、前記プラーク数および総プラーク面積がAAV-GlyT1を投与されたマウスで著しく減少することを確認した。
【0083】
実施例4:APP/PS1 TGマウスにおいてに大槽(CM)に投与されたAAV-GlyT1による認知機能向上効果の確認
4.1.APP/PS1 TGマウスモデルの準備
トランスジェニックマウス(APP/PS1 TG; アルツハイマー病動物モデル; B6C3-Tg(APPswe,PSEN1dE)85Dbo/Mmjax)および野生型マウスは、Jackson Laboratory(Bar Harbor, Maine, USA)由来であった。これらのAPP/PS1 TGマウスは、野生型マウスと交差しダブルヘミ接合体(double hemizygotes)で維持された。全ての遺伝子型は、Jackson Laboratoryの標準PCR条件に従い、尾DNA(tail DNA)を用いたPCR分析によって確認した。マウスは動物飼育室でプラスチックケージごとに1匹ずつ収容され、12時間の 明暗サイクルを交互に21±1℃に維持し、食物と水を自由に摂取した。
【0084】
4.2.マウスモデルへのAAV-GlyT1の投与
前記1.2.と同じ方法で調製したAAV-GlyT1を5ヶ月齢のAPP/PS1 TGマウスの大槽(CM)に5×1010 VPまたは1.5×1011 VPの濃度で単回投与した。対照群には5×1010 VPのAAV-GFPを投与した。
【0085】
4.3.Y-maze test(Y字型迷路試験)
Y字型迷路試験は、40cmの長さ(壁の高さ15cm)の同じ3つのアームを120度の角度で配置して作った迷路のフレームを用いた。この実験はげっ歯類の本能的な探索習性を利用した行動実験であり、新しい領域を探索する可能性が高いことに着目した方法である。直前に探索したアームを記憶し、同じアームに入らないほど高い記憶力の数値を示した。個体当たり8分の探索時間を提供し、最終結果は 自発的交替行動率(%)値で表した。
【0086】
自発的交替行動率(%)は、次の式で計算した。
[式] 自発的交替行動率(%) = トリプレット数 /(総アーム選択数-2)×100
【0087】
行動パターンの分析は、SMART VIDEO TRACKING Software(Panlab、USA)を用いて行った。実験で得られた全てのデータはmean±Standard Error Mean(SEM)と表記し、比較対象群である薬物投与群の間での比較と薬物未投与群との比較を行い、スチューデントのt検定(Student’s t-test)で群間分析を行った。
【0088】
その結果、図5のように形質転換されたアルツハイマー型認知症動物(APP/PS1 TG)にAAV-GlyT1を投与した後、12週目にY-maze test(Y字型迷路試験)を行った結果、周辺の手がかりを把握し、順次迷路に入る相対頻度を測定した自発的交替行動率(%)の値が陰性対照群(TG、AAV-GFP)に比べて陽性対照群(WT、Veh)に近く数値が向上することを確認した。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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