(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129176
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】人工皮革およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
D06N 3/00 20060101AFI20240919BHJP
【FI】
D06N3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038200
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】助川 竜一朗
(72)【発明者】
【氏名】大根田 俊
【テーマコード(参考)】
4F055
【Fターム(参考)】
4F055AA01
4F055BA02
4F055CA16
4F055DA07
4F055EA07
4F055EA11
4F055EA12
4F055EA24
4F055FA15
4F055GA03
4F055HA03
(57)【要約】
【課題】 極細繊維からなる不織布を構成要素として含む繊維絡合体と高分子弾性体を含む人工皮革において、均一な発色性を有し、軽量かつ耐光性に優れる人工皮革およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】 平均単繊維直径が1.0μm以上10.0μm以下の極細繊維からなる不織布を構成要素として含む繊維絡合体と、高分子弾性体とを含む人工皮革であって、下記の要件(1)~(4)を満たす人工皮革。
要件(1):前記極細繊維はポリオレフィン樹脂を主成分とする
要件(2):前記極細繊維は黒色顔料を含み、その含有量が0.5~2.0%である
要件(3):前記黒色顔料の平均粒子径が0.05μm以上0.20μm以下である
要件(4):前記極細繊維に含まれる黒色顔料の平均粒子径の変動係数(CV)が50%以下である
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均単繊維直径が1.0μm以上10.0μm以下の極細繊維からなる不織布を構成要素として含む繊維絡合体と、高分子弾性体を含む人工皮革であって、下記の要件(1)~(4)を満たす人工皮革。
要件(1):前記極細繊維はポリオレフィン樹脂を主成分とする
要件(2):前記極細繊維は黒色顔料を含み、その含有量が極細繊維の質量に対して0.5質量%以上2.0質量%以下である
要件(3):前記黒色顔料の平均粒子径が0.05μm以上0.20μm以下である
要件(4):前記極細繊維に含まれる黒色顔料の平均粒子径の変動係数(CV)が50%以下である
【請求項2】
前記ポリオレフィン樹脂がポリプロピレンである、請求項1に記載の人工皮革。
【請求項3】
前記黒色顔料がカーボンブラックである、請求項1または2に記載の人工皮革。
【請求項4】
前記人工皮革の立毛長さが200μm以上500μm以下である、請求項1または2に記載の人工皮革。
【請求項5】
下記(1)~(3)の工程を含む、請求項1または2に記載の人工皮革の製造方法。
工程(1):島成分として黒色顔料を0.5質量%以上2.0質量%以下含有しているポリオレフィン樹脂を用い、海成分としてアルカリ易溶解性ポリマーを用いた海島複合繊維からなる不織布を構成要素として含む繊維絡合体を形成する工程
工程(2):前記繊維絡合体から平均単繊維直径が1.0μm以上10.0μm以下の極細繊維を発現させる工程
工程(3):高分子弾性体を付与する工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工皮革およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
主として極細繊維からなる繊維絡合体と高分子弾性体とからなる天然皮革調の人工皮革は、耐久性の高さや品質の均一性等の天然皮革対比で優れた特徴を有している。そのため、衣料用素材としてのみならず、車両内装材、インテリアや靴等様々な分野で使用される。その中でも、鞄等の用途で主に屋外で使用される場合は優れた発色性かつ実使用に耐えうる高い耐光性が求められる。
【0003】
しかしながら、極細繊維において、その繊維径を小さくするにつれて極細繊維の比表面積が大きくなっていくため、濃色への染色は難しく発色性に劣ることが知られている。これに対して、濃色の色彩を出すために染料の濃度を上げて染色することが試みられることもあるが、その場合、染料使用量が多くなることでコストが高くなるとともに、人工皮革の耐光堅牢度や摩擦堅牢度等の堅牢性が低下してしまう。そこで、濃色で均一な発色性と染色堅牢性を両立するため、極細繊維にカーボンブラック等の顔料を添加する方法、いわゆる原着繊維を使用する方法が提案されている(特許文献1~4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-84334号公報
【特許文献2】特開2006-37254号公報
【特許文献3】特開2004-143654号公報
【特許文献4】国際公開第2020/129741号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1~4に開示された技術においては、染料に比べ耐光性に優れる顔料を用いることで、耐光性の低下を抑えながら濃色化を達成することが可能である。しかしながら、極細繊維に含まれる顔料の凝集度合いによって、表面色相に色ムラができる場合があり、また、鞄等の用途で用いられる際には均一な発色性や耐光性のみならず、軽量であることが求められるところ、特許文献1~4に開示された技術においては極細繊維にポリエステル樹脂を用いており、比重が大きくなるという課題がある。
【0006】
そこで本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、極細繊維からなる不織布を構成要素として含む繊維絡合体と高分子弾性体とを含む人工皮革において、均一な発色性を有し、軽量かつ耐光性に優れる人工皮革およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するべく鋭意検討を重ねた結果、平均粒子径とその変動係数を制限した黒色顔料を含むポリオレフィン樹脂を主成分とする極細繊維からなる不織布を構成要素として含む繊維絡合体に、高分子弾性体を付与することで、均一な発色性を持ち、耐光性に優れ、軽量である人工皮革とすることが可能であることを見出し、本発明に至った。
【0008】
本発明は、これら知見に基づいて完成に至ったものであり、本発明によれば、以下の発明が提供される。
【0009】
[1]平均単繊維直径が1.0μm以上10.0μm以下の極細繊維からなる不織布を構成要素として含む繊維絡合体と、高分子弾性体とを含む人工皮革であって、下記の要件(1)~(4)を満たす人工皮革。
【0010】
要件(1):前記極細繊維はポリオレフィン樹脂を主成分とする
要件(2):前記極細繊維は黒色顔料を含み、その含有量が極細繊維の質量に対して0.5質量%以上2.0質量%以下である
要件(3):前記黒色顔料の平均粒子径が0.05μm以上0.20μm以下である
要件(4):前記極細繊維に含まれる黒色顔料の平均粒子径の変動係数(CV)が50%以下である
【0011】
[2]前記ポリオレフィン樹脂がポリプロピレンである、前記[1]に記載の人工皮革。
【0012】
[3]前記黒色顔料がカーボンブラックである、前記[1]または[2]に記載の人工皮革。
【0013】
[4]前記人工皮革の立毛長さが200μm以上500μm以下である、前記[1]~[3]のいずれかに記載の人工皮革。
【0014】
[5]下記(1)~(3)の工程を含む、前記[1]~[4]のいずれかに記載の人工皮革の製造方法。
工程(1):島成分として黒色顔料を0.5質量%以上2.0質量%以下含有しているポリオレフィン樹脂を用い、海成分としてアルカリ易溶解性ポリマーを用いた海島複合繊維からなる不織布を構成要素として含む繊維絡合体を形成する工程
工程(2):前記繊維絡合体から平均単繊維直径が1.0μm以上10.0μm以下の極細繊維を発現させる工程
工程(3):高分子弾性体を付与する工程
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、平均粒子径とその変動係数を制限した黒色顔料を含むポリオレフィン樹脂を主成分とする極細繊維からなる不織布を構成要素として含む繊維絡合体に、高分子弾性体を付与することで、均一な発色性を持ち、耐光性に優れ、軽量である人工皮革を得られる。特に、本発明の人工皮革は、発色性や耐光性に優れ、軽量であるという特徴から、鞄等の用途に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の人工皮革は、平均単繊維直径が1.0μm以上10.0μm以下の極細繊維からなる不織布を構成要素として含む繊維絡合体と、高分子弾性体とからなる人工皮革であって、下記の要件(1)~(4)を満たす。
要件(1):前記極細繊維はポリオレフィン樹脂を主成分とする
要件(2):前記極細繊維は黒色顔料を含み、その含有量が極細繊維の質量に対して0.5質量%以上2.0質量%以下である
要件(3):前記黒色顔料の平均粒子径が0.05μm以上0.20μm以下である
要件(4):前記極細繊維に含まれる黒色顔料の平均粒子径の変動係数(CV)が50%以下である。
【0017】
以下に、その構成要素について詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下に説明する範囲に何ら限定されるものではなく、そして、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0018】
[繊維絡合体]
本発明において、繊維絡合体は、極細繊維からなる不織布を構成要素として含む。前記極細繊維は、軽量性に優れていることから、ポリオレフィン樹脂を主成分とする。ここで主成分とは、極細繊維を構成する成分として最も含有量の多い成分を意味し、極細繊維に対して90.0質量%以上であることが好ましい。
【0019】
前記のポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリプロピレンやポリエチレン、ならびに、これらのポリオレフィン樹脂の混合物、共重合体等を挙げることができる。
【0020】
また、前記のポリオレフィン樹脂には、種々の目的に応じ、本発明の目的を阻害しない範囲で、酸化チタン粒子等の無機粒子、潤滑剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、導電剤、蓄熱剤および抗菌剤等を添加することができる。
【0021】
極細繊維の断面形状としては、加工操業性の観点から、丸断面にすることが好ましいが、楕円、扁平および三角等の多角形、扇形および十字型、中空型、Y型、T型、およびU型等の異形断面の断面形状を採用することもできる。
【0022】
極細繊維の平均単繊維直径は、1.0μm以上10.0μm以下とすることが重要である。極細繊維の平均単繊維直径を、1.0μm以上、好ましくは1.5μm以上とすることにより、染色後の発色性や耐光性および摩擦堅牢性、紡糸時の安定性に優れた効果を奏する。一方、極細繊維の平均単繊維直径を10.0μm以下、好ましくは6.0μm以下、より好ましくは4.5μm以下とすることにより、緻密でタッチの柔らかい表面品位に優れた人工皮革が得られる。
【0023】
本発明において、極細繊維の平均単繊維直径は以下の方法により算出されるものとする。
(1)人工皮革の厚み方向に切断した断面を走査型電子顕微鏡(SEM、例えば、株式会社キーエンス製「VHX-D500/D510」型など)により観察する。
(2)観察面内における極細繊維についてランダムに30本選び、それぞれの極細繊維断面から単繊維直径を測定する。ただし、異型断面のポリオレフィン極細繊維を採用した場合には、まず単繊維の断面積を測定し、当該断面を円形と見立てた場合の直径を以下の式で算出することによって単繊維直径を求めるものとする
単繊維直径(μm)=(4×(単繊維の断面積(μm2))/π)1/2
(3)得られた30本の算術平均値(μm)を算出し、小数点以下第二位で四捨五入した値を極細繊維の平均単繊維直径(μm)とする。
【0024】
また、前記極細繊維は黒色顔料を含有する。この黒色顔料としては、カーボンブラックや黒鉛等の炭素系黒色顔料やチタンブラック等の絶縁性黒色顔料、四酸化三鉄、銅・クロムの複合酸化物等の酸化物系黒色顔料を用いることができるが、粒子径が小さく均一に分散しやすいことから、カーボンブラックを用いることが好ましい。
【0025】
極細繊維に含まれる黒色顔料の含有量は、極細繊維の質量に対して0.5質量%以上2.0質量%以下とすることが重要である。黒色顔料の含有量を0.5質量%以上、好ましくは0.7質量%以上、より好ましくは0.9質量%以上とすることにより、濃色の発色性に優れる人工皮革となる。顔料の割合を2.0質量%以下、好ましくは1.8質量%以下、より好ましくは1.6質量%以下とすることにより、極細繊維において強伸度等の物理特性の高い人工皮革とすることができる。
【0026】
本発明において、極細繊維に含まれる黒色顔料の割合は以下の方法により算出されるものとする。
(1)ジメチルホルムアミド等を含む溶液に人工皮革を浸漬させ高分子弾性体を取り除き、不織布から極細繊維を採取する。
(2)採取した極細繊維について、1,2-ジクロロベンゼンを用いてポリオレフィン成分を溶解させ、黒色顔料のみを抽出する。
(3)抽出した黒色顔料について発生ガス分析を実施し、黒色顔料を特定し、当該黒色顔料由来の発生ガスについての検量線を作成する。
(4)人工皮革を脱染料処理後、ジメチルホルムアミド等を用いて高分子弾性体を抽出し極細繊維のみにしたのち、極細繊維を採取する。
(5)採取した極細繊維について発生ガス分析を実施し、黒色顔料由来の発生ガス検出強度と(3)で作成した検量線から、極細繊維に含まれる黒色顔料の割合を算出する。
【0027】
本発明において優れた濃色の発色性を達成するために、極細繊維を構成するポリオレフィン樹脂には、粒子径の平均が0.05μm以上0.20μm以下の黒色顔料を含むことが重要である。
【0028】
ここでいう粒子径とは、黒色顔料が極細繊維中に存在している状態での粒子径のことであり、一般に二次粒子径とよばれるもののことをいう。
【0029】
粒子径の平均を0.05μm以上、好ましくは0.07μm以上とすることにより、黒色顔料が極細繊維の内部に把持されるため顔料の極細繊維からの脱落が抑制される。また、粒子径の平均を0.20μm以下、好ましくは0.18μm以下、より好ましくは0.16μm以下とすることにより、紡糸時の安定性と糸強度に優れたものとなる。
【0030】
また、本発明において均一な発色性を達成するために、極細繊維中に含まれる黒色顔料の粒子径の変動係数(CV)は50%以下であることが重要である。粒子径の変動係数が50%以下、好ましくは45%以下、より好ましくは40%以下であると粒子径の分布が小さくなり、小さい粒子の表面からの脱落や著しく凝集した粒子による紡糸不良、糸強度の著しい低下、人工皮革における表面色相の色ムラ等が抑制される。
【0031】
本発明において、粒子径の平均および変動係数は以下の方法により算出されるものとする。
(1)極細繊維の長手方向に垂直な面の断面方向に厚さ5~10μmの超薄切片を作製する。
(2)透過型電子顕微鏡(TEM)にて超薄切片中の繊維断面を10000倍で観察する。
(3)画像解析ソフトを使用して、観察像の2.3μm×2.3μmの視野の中に含まれる黒色顔料の粒子径の円相当径を20点測定する。
(4)測定した20点の粒子径について、平均値(算術平均)と変動係数を算出する。なお、本発明において、変動係数は以下の式により算出されるものとする。
粒子径の変動係数(%)=(粒子径の標準偏差)/(粒子径の算術平均)×100。
【0032】
本発明の人工皮革は、その中において前記極細繊維からなる不織布を構成要素として含む繊維絡合体の形態をなしているものである。繊維絡合体とすることにより、表面を起毛した際に均一で優美な外観や風合いを得ることができる。
【0033】
繊維絡合体を構成する不織布の形態としては、主としてフィラメントから構成される長繊維不織布と、主として100mm以下の繊維から構成される短繊維不織布がある。人工皮革を構成する繊維層の基材を長繊維不織布とする場合においては、強度に優れる人工皮革を得られるため好ましい。一方、短繊維不織布とする場合においては、長繊維不織布の場合に比べて人工皮革の厚さ方向に配向する繊維を多くすることができ、起毛させた際の人工皮革の表面に高い緻密感を有させることができる。
【0034】
本発明における「不織布を構成要素として含む繊維絡合体」としては、繊維絡合体が不織布である態様、後述するような、繊維絡合体が不織布と織編物が絡合一体化されてなる態様、さらには繊維絡合体が不織布と織編物以外の基材と絡合一体化されてなる態様であってよい。
【0035】
短繊維不織布を用いる場合の極細繊維の繊維長は、好ましくは25mm以上90mm以下である。繊維長を90mm以下、より好ましくは80mm以下、さらに好ましくは70mm以下とすることにより、良好な品位と風合いとなる。他方、繊維長を25mm以上、より好ましくは35mm以上、さらに好ましくは40mm以上とすることにより、耐摩耗性に優れた人工皮革とすることができる。
【0036】
本発明に係る人工皮革を構成する不織布の目付は、JIS L1913:2010「一般不織布試験方法」の「6.2 単位面積当たりの質量(ISO法)」で測定され、50g/m2以上500g/m2以下であることが好ましい。前記不織布の目付を、50g/m2以上、より好ましくは80g/m2以上とすることで、充実感のある、風合いの優れた人工皮革とすることができる。一方、500g/m2以下、より好ましくは400g/m2以下とすることで成型性に優れた、柔軟な人工皮革とすることができる。
【0037】
本発明の人工皮革においては、その強度や形態安定性を向上させる目的で、前記の不織布の内部もしくは片側に織編物を積層し絡合一体化させてもよい。
【0038】
前記の織編物を絡合一体化させる場合に使用する、織編物を構成する繊維の種類としては、フィラメントヤーン、紡績糸、フィラメントヤーンと紡績糸の混合複合糸などを用いることが好ましく、耐久性、特には機械的強度等の観点から、ポリエステル樹脂やポリアミド樹脂やポリオレフィン樹脂からなるマルチフィラメントを用いることがより好ましい。
【0039】
前記の織編物を構成する繊維の平均単繊維直径を好ましくは50.0μm以下、より好ましくは15.0μm以下、さらに好ましくは13.0μm以下とすることにより、柔軟性に優れた人工皮革が得られるだけでなく、人工皮革の表面に織編物の繊維が露出した場合でも、染色後に顔料を含有する極細繊維との色相差が小さくなるため、表面の色相の均一性を損なうことがない。一方、平均単繊維直径を好ましくは1.0μm以上、より好ましくは8.0μm以上、さらに好ましくは9.0μm以上とすることにより、人工皮革としての製品の形態安定性が向上する。
【0040】
本発明において織編物を構成する繊維の平均単繊維直径は、以下の方法により算出されるものとする。
【0041】
前記の織編物を構成する繊維がマルチフィラメントである場合、そのマルチフィラメントの総繊度は、JIS L1013:2010「化学繊維フィラメント糸試験方法」の「8.3 繊度」の「8.3.1 正量繊度 b) B法(簡便法)」で測定され、30dtex以上170dtex以下とすることが好ましい。
【0042】
織編物を構成する糸条の総繊度を170dtex以下とすることにより、柔軟性に優れた人工皮革が得られる。一方、総繊度を30dtex以上とすることにより、人工皮革としての製品の形態安定性が向上するだけでなく、不織布と織編物をニードルパンチ等で絡合一体化させる際に、織編物を構成する繊維が人工皮革の表面に露出しにくくなるため好ましい。このとき、経糸と緯糸のマルチフィラメントの総繊度は同じ総繊度とすることが好ましい。
【0043】
さらに、前記の織編物を構成する糸条の撚数は、1000T/m以上4000T/m以下とすることが好ましい。撚数を4000T/m以下、より好ましくは3500T/m以下、さらに好ましくは3000T/m以下とすることにより、柔軟性に優れた人工皮革が得られ、撚数を1000T/m以上、より好ましくは1500T/m以上、さらに好ましくは2000T/m以上とすることにより、不織布と織編物をニードルパンチ等で絡合一体化させる際に、織編物を構成する繊維の損傷を防ぐことができ、人工皮革の機械的強度が優れたものとなるため好ましい。
【0044】
[高分子弾性体]
本発明の人工皮革を構成する高分子弾性体は、人工皮革を構成する極細繊維を把持するバインダーであるため、本発明の人工皮革の柔軟な風合いを考慮すると、用いられる高分子弾性体としては、ポリウレタン、ポリウレタン、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)およびアクリル樹脂等が挙げられる。中でも、ポリウレタンを主成分として用いることが好ましい態様である。ポリウレタンを用いることにより、充実感のある触感、皮革様の外観および実使用に耐える物性を備えた人工皮革を得ることができる。
【0045】
本発明において、高分子弾性体にポリウレタンを用いる場合には、有機溶剤に溶解した状態で使用する有機溶剤系ポリウレタンと、水に分散した状態で使用する水分散型ポリウレタンのいずれも採用することができるが、環境配慮の観点から、水分散型ポリウレタンが好ましく用いられる。
【0046】
水分散型ポリウレタンを用いる場合、後述する高分子ポリオールと、有機ジイソシアネートと、親水性基を有する活性水素成分含有化合物とを反応させて親水性プレポリマーを形成し、その後に鎖伸長剤を添加・反応させて得られるポリウレタン前駆体に、架橋剤を反応させることによって得られる水分散型ポリウレタンがより好ましく用いられる。以下に、これらについて詳細を説明する。
【0047】
(a)高分子ポリオール
本発明で好ましく用いられる高分子ポリオールとしては、ポリエーテル系ポリオール、ポリエステル系ポリオール、ポリカーボネート系ポリオール等を挙げることができる。
【0048】
まず、ポリエーテル系ポリオールとしては、多価アルコールやポリアミンを開始剤として、エチレンオキシド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド、テトラヒドロフラン、エピクロルヒドリンおよびシクロヘキシレン等のモノマーを付加・重合して得られるポリオール、ならびに、前記のモノマーをプロトン酸、ルイス酸およびカチオン触媒等を触媒として開環重合して得られるポリオールが挙げられる。具体的には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなど、およびこれらを組み合わせた共重合ポリオールを挙げることができる。
【0049】
次に、ポリエステル系ポリオールとしては、各種低分子量ポリオールと多塩基酸とを縮合させて得られるポリエステルポリオールやラクトンを開重合することによって得られるポリオールなどを挙げることができる。
【0050】
ポリエステル系ポリオールに用いられる低分子量ポリオールとしては、例えば、「エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1.8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール」などの直鎖アルキレングリコールや、「ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール」などの分岐アルキレングリコール、1,4-シクロヘキサンジオールなどの脂環式ジオール、および1,4-ビス(β-ヒドロキシエトキシ)ベンゼンなどの芳香族2価アルコール、などから選ばれる1種または2種以上が挙げられる。また、ビスフェノールAに各種アルキレンオキサイドを付加させて得られる付加物も、低分子量ポリオールとして使用可能である。
【0051】
一方、ポリエステル系ポリオールに用いられる多塩基酸としては、例えば、コハク酸、マレイン酸、アジピン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、およびヘキサヒドロイソフタル酸などからなる群から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。
【0052】
そして、ポリカーボネート系ポリオールとしては、ポリオールとジアルキルカーボネート、あるいはポリオールとジアリールカーボネートなど、ポリオールとカーボネート化合物との反応によって得られる化合物を挙げることができる。
【0053】
ポリカーボネート系ポリオールに用いられるポリオールとしては、ポリエステル系ポリオールに用いられる低分子量ポリオールを用いることができる。一方、ジアルキルカーボネートとしては、ジメチルカーボネートやジエチルカーボネートなどを用いることができ、ジアリールカーボネートとしてはジフェニルカーボネートなどを用いることができる。
【0054】
なお、本発明で好ましく用いられる高分子ポリオールの数平均分子量は500以上5000以下であることが好ましい。高分子ポリオールの数平均分子量を500以上、より好ましくは1500以上とすることにより、人工皮革の風合いが硬くなるのを防ぎやすくすることができる。一方、数平均分子量を5000以下、より好ましくは4000以下とすることにより、バインダーとしての水分散型ポリウレタンの強度を維持しやすくすることができる。
【0055】
(b)有機ジイソシアネート
本発明で好ましく用いられる有機ジイソシアネートとしては、炭素数(イソシアネート(NCO)基中の炭素を除く、以下同様。)が6以上20以下の芳香族ジイソシアネート、炭素数が2以上18以下の脂肪族ジイソシアネート、炭素数が4以上15以下の脂環式ジイソシアネート、炭素数が8以上15以下の芳香脂肪族ジイソシアネート、これらのジイソシアネートの変性体(カーボジイミド変性体、ウレタン変性体、ウレトジオン変性体など。)およびこれらの2種以上の混合物等が含まれる。
【0056】
前記の炭素数が6以上20以下の芳香族ジイソシアネートの具体例としては、1,3-および/または1,4-フェニレンジイソシアネート、2,4-および/2,6-トリレンジイソシアネート、2,4’-および/または4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(以下MDIと略記)、4,4’-ジイソシアナトビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトジフェニルメタン、および1,5-ナフチレンジイソシアネートなどが挙げられ、中でも、水分散型ポリウレタンとした際の柔軟性に優れる、MDIを用いることが好ましい。
【0057】
前記の炭素数が2以上18以下の脂肪族ジイソシアネートの具体例としては、エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,6-ジイソシアナトメチルカプロエート、ビス(2-イソシアナトエチル)カーボネート、および2-イソシアナトエチル-2,6-ジイソシアナトヘキサエートなどが挙げられる。
【0058】
前記の炭素数が4以上15以下の脂環式ジイソシアネートの具体例としては、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、ビス(2-イソシアナトエチル)-4-シクロヘキシレン-1,2-ジカルボキシレート、および2,5-および/または2,6-ノルボルナンジイソシアネートなどが挙げられ、中でも水分散型ポリウレタンとした際の耐久性に優れる、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネートを用いることが好ましい。
【0059】
前記の炭素数が8以上15以下の芳香脂肪族ジイソシアネートの具体例としては、m-および/またはp-キシリレンジイソシアネートや、α,α,α’,α’-テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0060】
(c)親水性基を有する活性水素成分含有化合物
本発明で好ましく用いられる親水性基を有する活性水素成分含有化合物としては、ノニオン性基、アニオン性基およびカチオン性基から選択される基と活性水素とを含有する化合物等が挙げられる。これらの活性水素成分含有化合物は、中和剤で中和した塩の状態でも用いることができる。この親水性基を有する活性水素成分含有化合物を用いることによって、人工皮革の製造方法で用いられる水分散液の安定性を高めることができる。
【0061】
ノニオン性基と活性水素を有する化合物としては、2つ以上の活性水素成分または2つ以上のイソシアネート基を含み、側鎖に分子量250以上9000以下のポリオキシエチレングリコール基等を有している化合物、および、トリメチロールプロパンやトリメチロールブタン等のトリオール等が挙げられる。
【0062】
アニオン性基と活性水素を有する化合物としては、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸、2,2-ジメチロール吉草酸等のカルボキシル基含有化合物およびそれらの誘導体や、1,3-フェニレンジアミン-4,6-ジスルホン酸、3-(2,3-ジヒドロキシプロポキシ)-1-プロパンスルホン酸等のスルホン酸基を含有する化合物およびそれらの誘導体、並びにこれらの化合物を中和剤で中和した塩が挙げられる。
【0063】
カチオン性基と活性水素を含有する化合物としては、3-ジメチルアミノプロパノール、N-メチルジエタノールアミン、N-プロピルジエタノールアミン等の3級アミノ基含有化合物およびそれらの誘導体が挙げられる。
【0064】
(d)鎖伸長剤
本発明で好ましく用いられる鎖伸長剤としては、水、「エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコールおよびネオペンチルグリコールなど」の低分子ジオール、「1,4-ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサンなど」の脂環式ジオール、「1,4-ビス(ヒドロキシエチル)ベンゼンなど」の芳香族ジオール、「エチレンジアミンなど」の脂肪族ジアミン、「イソホロンジアミンなど」の脂環式ジアミン、「4,4-ジアミノジフェニルメタンなど」の芳香族ジアミン、「キシレンジアミンなど」の芳香脂肪族ジアミン、「エタノールアミンなど」のアルカノールアミン、ヒドラジン、「アジピン酸ジヒドラジドなど」のジヒドラジド、および、これらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0065】
これらのうち好ましい鎖伸長剤は、水、低分子ジオール、芳香族ジアミンであり、さらに好ましくは水、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、4,4’-ジアミノジフェニルメタンおよびこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0066】
(e)ポリウレタン前駆体の構成
前記のとおり、本発明で好ましく用いられるポリウレタン前駆体は、前記の高分子ポリオールと、有機ジイソシアネートと、親水性基を有する活性水素成分含有化合物とを反応させて親水性プレポリマーを形成し、その後に鎖伸長剤を添加・反応させることによって調製される。
【0067】
(f)架橋剤
本発明に用いられる架橋剤としては、ポリウレタン前駆体に導入された反応性基と反応し得る反応性基を、分子内に2個以上有するものを使用することができ、具体的には、水溶性イソシアネート化合物やブロックイソシアネート化合物等のポリイソシアネート系架橋剤、メラミン系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤等が挙げられる。架橋剤は、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用することもできる。
【0068】
水溶性イソシアネート系化合物は、分子内にイソシアネート基を2個以上有するものであり、前記の有機ポリイソシアネート含有の化合物等が挙げられる。
【0069】
ブロックイソシアネート系化合物は、分子内にブロックイソシアネート基を2個以上有するものである。ブロックイソシアネート基は、前記の有機ポリイソシアネート化合物をアミン類やフェノール類やイミン類やメルカプタン類や、ピラゾール類やオキシム類や活性メチレン類等のブロック化剤によりブロックしたものを意味する。
【0070】
オキサゾリン系架橋剤としては、分子内にオキサゾリン基(オキサゾリン骨格)を2個以上有する化合物が挙げられる。
【0071】
カルボジイミド系架橋剤としては、分子内にカルボジイミド基を2個以上有する化合物が挙げられる。
【0072】
これらの中でも、反応後に得られる水分散型ポリウレタンの耐久性や柔軟性に特に優れる、カルボジイミド化合物を用いることが好ましい。
【0073】
(g)水分散型ポリウレタンの構成
本発明で好ましく用いられる水分散型ポリウレタンは、柔軟性や耐久性の観点から、ポリエーテル系ポリオールおよび/またはポリカーボネート系ポリオールに由来する構成成分を含むことが好ましい。前記水分散型ポリウレタンがポリエーテル系ポリオールに由来する構成成分を含むことによって、そのエーテル結合の自由度が高いことでガラス転移温度が低く、かつ凝集力も弱いために、柔軟性に優れる水分散型ポリウレタンとすることができる。また、前記水分散型ポリウレタンがポリカーボネート系ポリオールに由来する構成成分を含むことによって、そのカーボネート基の有する高い凝集力により、耐水性、耐熱性、耐候性、力学物性に優れる水分散型ポリウレタンとすることができる。
【0074】
一般に、人工皮革における高分子弾性体の含有量は、使用する高分子弾性体の種類、高分子弾性体の製造方法および風合や物性を考慮して適宜調整することができるが、本発明においては、高分子弾性体の含有量は、人工皮革の質量に対して10質量%以上50質量%以下とすることが好ましい。高分子弾性体の含有量を10質量%以上、より好ましくは15質量%以上とすることで、耐摩耗性に優れた人工皮革とすることができる。一方、高分子弾性体の含有量を50質量%以下、より好ましくは35質量%以下とすることで、柔軟な風合いの人工皮革とすることができる。
【0075】
また、高分子弾性体には、目的に応じて各種の添加剤、例えば、カーボンブラック等の顔料、「リン系、ハロゲン系および無機系」等の難燃剤、「フェノール系、イオウ系およびリン系」等の酸化防止剤、「ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系、シアノアクリレート系およびオキザリックアシッドアニリド系」等の紫外線吸収剤、「ヒンダードアミン系やベンゾエート系」等の光安定剤、ポリカルボジイミド等の耐加水分解安定剤、可塑剤、耐電防止剤、界面活性剤、凝固調整剤および染料等を含有させることができる。
【0076】
本発明において優れた耐光性を達成するために、高分子弾性体には顔料としての黒色顔料を含むことが好ましい。本発明における黒色顔料としては、カーボンブラックや黒鉛等の炭素系黒色顔料やチタンブラック等の絶縁性黒色顔料、四酸化三鉄、銅・クロムの複合酸化物等の酸化物系黒色顔料を用いることができるが、粒子径が小さく均一に分散しやすいことから、カーボンブラックを用いることが好ましい。
【0077】
[人工皮革]
本発明の人工皮革においては、表面に立毛を有することが好ましい態様である。立毛は人工皮革の表面のみに有していてもよく、両面に有することも許容される。表面に立毛を有する場合の立毛形態は、意匠効果の観点から指でなぞったときに立毛の方向が変わることで跡が残る、いわゆるフィンガーマークが発する程度の立毛長と方向柔軟性を備えていることが好ましい。
【0078】
より具体的には、表面の立毛長は200μm以上であることが好ましく、250μm以上であることがより好ましい。一方、立毛長が長すぎると人工皮革の摩擦に対する耐久性が低下するため、500μm以下であることが好ましく、450μm以下であることがより好ましい態様である。
【0079】
本発明において、人工皮革の立毛長は以下の方法により算出されるものとする。
(1)リントブラシ等を用いて、人工皮革の立毛を逆立てた状態で、人工皮革の長手方向に垂直な断面を走査型電子顕微鏡(SEM、例えば、株式会社キーエンス製「VHX-D500/D510」型など)にて倍率50~120倍で撮影する。
(2)撮影したSEM画像において、人工皮革の断面の幅方向に200μm間隔で立毛部(極細繊維のみからなる層)の高さを10点測定する。
(3)測定した10点の立毛部(極細繊維のみからなる層)の高さについて、平均値(算術平均)を算出する。
【0080】
本発明の人工皮革は、JIS L1913:2010「一般不織布試験方法」の「6.1 厚さ(ISO法)」の「6.1.1 A法」で測定される厚みが、0.2mm以上1.2mm以下であることが好ましい。人工皮革の厚みを、0.2mm以上、より好ましくは0.3mm以上、さらに好ましくは0.4mm以上とすることで、製造時の加工性に優れるだけでなく、充実感のある、風合いに優れたものとなる。一方、厚みを1.2mm以下、より好ましくは1.1mm以下、さらに好ましくは1.0mm以下とすることで、成型性に優れた、柔軟な人工皮革とすることができる。
【0081】
本発明の人工皮革は、JIS L0849:2013「摩擦に対する染色堅ろう度試験方法」の「9.1 摩擦試験機I型(クロックメータ)法」で測定される摩擦堅牢度およびJISL0843:2006「キセノンアーク灯光に対する染色堅ろう度試験方法」の「7.2 露光方法 a) 第1露光法」で測定される耐光堅牢度がそれぞれ4級以上であることが好ましい。摩擦堅牢度および耐光堅牢度が4級以上であることで、実使用時に色落ちや衣服等への汚染を防ぐことができる。なお、それぞれの級数の判定には、人工皮革の摩擦堅牢度については、JIS L0805:2005「汚染用グレースケール」に規定の汚染用グレースケールを用いることとし、人工皮革の耐光堅牢度については、JIS L0804:2004「変退色用グレースケール」に規定の変退色用グレースケールを用いることとする。
【0082】
また、本発明の人工皮革はJIS L1096:2010「織物及び編物の生地試験方法」の「8.19 摩耗強さ及び摩擦変色性」の「8.19.5 E法(マーチンデール法)」で測定される耐摩耗試験において、押圧荷重を12.0kPaとし、20000回の回数を摩耗した後の人工皮革の重量減が10mg以下であることが好ましい。重量減が10mg以下であることで、実使用時の毛羽落ちによる汚染を防ぐことができる。
【0083】
また、本発明の人工皮革は濃色で均一な発色性を有し、表面の明度(L*値)が30以下であることが好ましい。表面の明度とは、人工皮革の立毛を有する面を測定面として、リントブラシ等を用いて立毛を寝かせた状態で、JIS Z8781-4:2013「測色-第4部:CIE1976L*a*b*色空間」の「3.3 CIE1976 明度指数」で規定されるL*値のことを指す。
【0084】
[人工皮革の製造方法]
本発明の人工皮革の製造方法は、下記(1)~(3)の工程を含むことが好ましい態様である。
工程(1):島成分として黒色顔料を0.5質量%以上2.0質量%以下含有しているポリオレフィン樹脂を用い、海成分としてアルカリ易溶解性ポリマーを用いた海島複合繊維からなる不織布を構成要素として含む繊維絡合体を形成する工程
工程(2):前記繊維絡合体から平均単繊維直径が1.0μm以上10.0μm以下の極細繊維を発現させる工程
工程(3):高分子弾性体を付与する工程
以下に、この好ましい態様の詳細について説明するが、本発明の要旨を超えない限り、以下に説明する範囲に何ら限定されるものではなく、そして、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0085】
(1)繊維絡合体を形成する工程
本工程においては、まず、繊維断面において黒色顔料を含むポリオレフィン樹脂を用いて島部を形成し、アルカリ易溶解性ポリマーが海部を形成する海島複合繊維を製造する。海島複合繊維を用いることは、それによって、海部を除去する際に島部間、すなわち繊維束内部の極細繊維間に適度な空隙を付与することができるため、人工皮革の風合いや表面品位の観点から好ましい。
【0086】
海島複合構造を紡糸する方法としては、海島複合繊維用口金を用い、海部と島部を相互配列して紡糸する高分子相互配列体を用いる方式が、均一な単繊維繊度の極細繊維が得られるという観点から好ましい。なお、この繊維は、公知の方法によって製造することができる。
【0087】
海島複合繊維の海部としては、有機溶剤を使用せずに分解可能なアルカリ分解性のアルカリ易溶解性ポリマーを用いることが好ましい。アルカリ易溶解性ポリマーとしては、5-スルホイソフタル酸ナトリウムやポリエチレングリコールなどを共重合させた共重合ポリエステルやポリ乳酸およびポリビニルアルコール(以下、PVAと略することがある)などが好ましく用いられる。その中でも、紡糸性と溶剤溶解性の観点から、好ましくは共重合ポリエステル、より好ましくは5-スルホイソフタル酸ナトリウムが共重合されたポリエステルが用いられる。
【0088】
海島複合繊維の島成分に含まれる黒色顔料の割合は、人工皮革の発色性と、極細繊維の糸強度低下の抑制を両立するため、海島複合繊維の島成分の質量に対し0.5質量%以上2.0質量%以下とすることが好ましい。
【0089】
海島複合繊維の島部に黒色顔料を含有させる方法としては、予め黒色顔料を前記のポリオレフィン樹脂に混練したチップのみを島成分として用いて紡糸する方法と、前記のポリオレフィン樹脂に黒色顔料を混練したマスターバッチと、前記のポリオレフィン樹脂のチップとを混合して島成分となし、紡糸する方法のいずれも採用することができる。その中でも、前記のポリオレフィン樹脂に黒色顔料を混練したマスターバッチと、前記のポリオレフィン樹脂のチップとを混合する手法は、紡糸時において極細繊維に含まれる顔料の量を調整し、簡便に品種展開をすることが可能であるため好ましい。
【0090】
マスターバッチを用いてポリオレフィン樹脂のチップと混合する場合、使用するマスターバッチに含まれる黒色顔料の一次粒子径の数平均が0.015μm以上0.045μm以下であり、変動係数(CV)が30%以下のマスターバッチを使用することが好ましい。一次粒子径が上記の範囲内のマスターバッチを使用することで極細繊維中の粒子径(二次粒子径)と変動係数(CV)を容易に適切な範囲とすることができる。
【0091】
この製造工程において、延伸加工後に捲縮加工することによって、海島複合繊維が捲縮を有するものとすることが好ましい。
【0092】
また、捲縮加工後の海島複合繊維の繊維長は、好ましくは25mm以上90mm以下である。繊維長を90mm以下、より好ましくは80mm以下、さらに好ましくは70mm以下とすることにより、良好な品位と風合いとなる。一方、繊維長を25mm以上、より好ましくは35mm以上、さらに好ましくは40mm以上とすることにより、耐摩耗性に優れた人工皮革とすることができる。
【0093】
また、本工程では、紡出された海島複合繊維を開繊したのちにクロスラッパー等により繊維ウェブとし、絡合させることにより不織布を得る。繊維ウェブを絡合させ不織布を得る方法としては、ニードルパンチ処理やウォータージェットパンチ処理等を用いることができる。
【0094】
不織布の形態としては、前述のように短繊維不織布でも長繊維不織布でも用いることができるが、短繊維不織布であると、人工皮革の厚さ方向を向く繊維が長繊維不織布に比べて多くなり、起毛した際の人工皮革の表面に高い緻密感を得ることができる。
【0095】
さらに、人工皮革が織編物を含む場合には、得られた不織布と織編物を積層し、そして絡合一体化させる。不織布と織編物の絡合一体化には、不織布の片面もしくは両面に織編物を積層するか、あるいは複数枚の不織布ウェブの間に織編物を挟んだ後に、ニードルパンチ処理やウォータージェットパンチ処理等によって不織布と織編物の繊維同士を絡ませることができる。
【0096】
前記の繊維絡合体には、繊維の緻密感向上のために、温水やスチームによる熱収縮処理を施すことも好ましい態様である。
【0097】
(2)極細繊維を発現させる工程
本工程においては、前記の繊維絡合体から、平均単繊維直径が1.0μm以上10.0μm以下の極細繊維を発現させる。
【0098】
極細繊維の発現処理は、海成分ポリマーがポリ乳酸や共重合ポリエステルであれば、海島複合繊維からなる繊維絡合体をアルカリ水溶液中に浸漬させて、海島複合繊維の海部を溶解除去することにより行うことができる。アルカリ水溶液としては、廃液処理を行う際、中和により生成する塩の処理をより容易に行うことができるため、水酸化ナトリウム水溶液が好ましく用いられる。
【0099】
(3)高分子弾性体を付与する工程
本工程においては、前記の繊維絡合体に、高分子弾性体を付与する。具体的には、高分子弾性体の溶液を含浸し、固化して高分子弾性体を付与する工程がより好ましい。
【0100】
高分子弾性体を繊維絡合体に固定する方法としては、高分子弾性体の溶液を繊維絡合体に含浸させた後、凝固浴中に浸漬させて固定する湿式凝固法、または、乾燥させて固定する乾式凝固法があり、付与する高分子弾性体の種類により適宜これらの方法を選択することができる。
【0101】
高分子弾性体としてポリウレタンを付与させる際に用いられる溶媒としては、N,N’-ジメチルホルムアミドやジメチルスルホキシド等、また、ポリウレタンを水中にエマルジョンとして分散させた水分散型ポリウレタン液等が好ましく用いられる。中でも、環境配慮の観点から、水分散型ポリウレタン液が好ましく用いられる。
【0102】
なお、ここでは、前記の極細繊維を発現させて繊維絡合体を形成する工程の後、前記の繊維絡合体に高分子弾性体を付与する工程を行う場合について説明したが、前記の繊維絡合体を形成する工程の後、極細繊維を発現させる前に、前記の繊維絡合体に高分子弾性体を付与してもよい。
【0103】
(4)その他の仕上げ工程
前記工程を終えて、高分子弾性体が付与されてなる人工皮革は、製造効率を向上させる観点から、厚み方向に半裁して2枚の人工皮革となるようにすることも好ましい態様である。
【0104】
さらに、前記の高分子弾性体が付与されてなる人工皮革あるいは半裁された高分子弾性体が付与されてなる人工皮革の表面に、起毛処理を施し、表面に立毛を有するようにすることができる。起毛処理は、サンドペーパーやロールサンダー等を用いて、研削する方法等により施すことができる。起毛処理は、人工皮革の片側表面のみに施しても、両面に施すこともできる。
【0105】
起毛処理を施す場合には、起毛処理の前にシリコーンエマルジョン等の滑剤を人工皮革の表面へ付与することができる。また、起毛処理の前に帯電防止剤を付与することで、研削によって人工皮革から発生した研削粉がサンドペーパー上に堆積しにくくなる。
【0106】
上記の人工皮革には、必要に応じてその表面に意匠性を施すことができる。例えば、パーフォレーション等の穴開け加工、エンボス加工、レーザー加工、ピンソニック加工、およびプリント加工等の後加工処理を施すことができる。
【0107】
以上に例示された製造方法によって得られる本発明の人工皮革は、均一な発色性を有し、軽量かつ耐光性に優れており、鞄等の用途に好適に用いられる。