(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129179
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】ジオポリマー組成物及びジオポリマー硬化体
(51)【国際特許分類】
C04B 28/26 20060101AFI20240919BHJP
C04B 12/04 20060101ALI20240919BHJP
C04B 24/02 20060101ALI20240919BHJP
C04B 24/00 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
C04B28/26
C04B12/04
C04B24/02
C04B24/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038204
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】501173461
【氏名又は名称】太平洋マテリアル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 良太
(72)【発明者】
【氏名】浜中 昭徳
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112PB14
4G112PB15
4G112PC11
(57)【要約】
【課題】フレッシュ時のワーカビリティを著しく改善できるジオポリマー組成物を提供する。また、乾燥収縮率を大幅に低減できるジオポリマー硬化体を提供する。
【解決手段】ケイ酸アルミニウムを主成分とする活性フィラーと、アルカリ溶液と、水と相溶性を有する有機溶媒を含むジオポリマー組成物。また、該ジオポリマー組成物が硬化してなるジオポリマー硬化体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ酸アルミニウムを主成分とする活性フィラーと、アルカリ溶液と、水と相溶性を有する有機溶媒を含むジオポリマー組成物。
【請求項2】
前記有機溶媒が、アルコール、アルデヒド、ケトン、エーテル及びアルキレンオキサイド付加物からなる群から選ばれる1種以上である請求項1に記載のジオポリマー組成物。
【請求項3】
前記活性フィラーが、高炉スラグ、フライアッシュ、メタカオリン及び石炭ガス化溶融スラグからなる群から選ばれる1種以上である請求項1又は2に記載のジオポリマー組成物。
【請求項4】
前記アルカリ溶液が、ケイ酸アルカリ及び/又は水酸化アルカリを含む請求項1~3いずれか1項に記載のジオポリマー組成物。
【請求項5】
請求項1~4いずれか1項に記載のジオポリマー組成物が硬化してなるジオポリマー硬化体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジオポリマー組成物及びジオポリマー硬化体に関する。
【背景技術】
【0002】
ジオポリマーは、ケイ酸アルミニウムを主成分とする原料(活性フィラー)とアルカリ溶液を用いて硬化させた無機ポリマーである。セメントのように、製造過程において脱炭酸を含まないこと、またバイプロ(製造副産物)の使用により製造時の焼成過程がない若しくは少ないため、温暖化ガスの発生が少ないことからセメントに代わる建設材料として期待されている。
【0003】
しかしながら、ジオポリマーの硬化はシリカ鎖が脱水縮合してポリマー化する脱水反応であるため、硬化に伴う収縮、硬化後の乾燥収縮が著しいのが課題である。また、フレッシュ時(硬化前)には、水溶したケイ酸が水素結合による相互作用のため粘性が非常に高くなり、練り混ぜや運搬(圧送)のワーカビリティが著しく悪い。また、ケイ酸と金属との相互作用により、施工器具への付着性が高く、施工作業に支障をきたすという問題があった。こうした性質がジオポリマーの普及を妨げる大きな要因の一つとなっている。
【0004】
上記の乾燥収縮の課題を解決する手段として、ジオポリマー用収縮低減剤を添加する方法が開示されている。例えば、特許文献1ではエステル化合物を含むジオポリマー用収縮低減剤が、特許文献2では、エーテル系化合物を含むジオポリマー用収縮低減剤が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-202963号公報
【特許文献2】特開2017-202964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ジオポリマーの課題である、フレッシュ時のワーカビリティを著しく改善できるジオポリマー組成物を提供する。また、硬化時の乾燥収縮率を大幅に低減できるジオポリマー硬化体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題解決のため鋭意検討した結果、特定の有機溶媒を添加することによって、前記課題を解決することを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は、以下の〔1〕~〔5〕である。
〔1〕ケイ酸アルミニウムを主成分とする活性フィラーと、アルカリ溶液と、水と相溶性を有する有機溶媒を含むジオポリマー組成物。
〔2〕前記有機溶媒が、アルコール、アルデヒド、ケトン、エーテル及びアルキレンオキサイド付加物からなる群から選ばれる1種以上である〔1〕のジオポリマー組成物。
〔3〕前記活性フィラーが、高炉スラグ、フライアッシュ、メタカオリン及び石炭ガス化溶融スラグからなる群から選ばれる1種以上である〔1〕又は〔2〕のジオポリマー組成物。
〔4〕前記アルカリ溶液が、ケイ酸アルカリ及び/又は水酸化アルカリを含む〔1〕~〔3〕いずれかのジオポリマー組成物。
〔5〕〔1〕~〔4〕いずれかのジオポリマー組成物が硬化してなるジオポリマー硬化体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ジオポリマー組成物のフレッシュ時のワーカビリティを著しく改善でき、また、ジオポリマー組成物が硬化してなるジオポリマー硬化体の乾燥収縮率を大幅に低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<ジオポリマー組成物>
本発明のジオポリマー組成物は、ケイ酸アルミニウムを主成分とする活性フィラーと、アルカリ溶液と、水と相溶性を有する有機溶媒を含む。以下、詳しく説明する。
【0010】
(活性フィラー)
本発明で用いる活性フィラーは、ケイ酸アルミニウムを主成分とする粉体である。活性フィラーとしては、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末、メタカオリンやラテライト焼成物等の非晶質アルミノケイ酸塩を含む焼成粘土、ごみ焼却灰溶融スラグ微粉末、下水汚泥溶融スラグ微粉末、石炭ガス化溶融スラグ微粉末、ゼオライト微粉末、火山灰等が挙げられる。特に高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、メタカオリン及び石炭ガス化溶融スラグからなる群から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0011】
(アルカリ溶液)
本発明で用いるアルカリ溶液は、前記活性フィラーと反応して脱水縮合反応をもたらすものであれば特に限定されないが、例えば、アルカリ金属のケイ酸塩、炭酸塩、水酸化物の水溶液が挙げられる。特に、ケイ酸アルカリ及び/又は水酸化アルカリの水溶液が好ましい。具体的には、ケイ酸アルカリとしてはケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム及びケイ酸リチウムが挙げられ、水酸化アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び水酸化リチウムが挙げられる。アルカリ溶液の水溶液の濃度としては、5~60質量%であることが好ましく、15~55質量%であることがより好ましい。なお、アルカリ溶液全体のSiO2/R2O(R=Na,K)のモル比は0.2~2.5であることが好ましく、0.3~2.0であることがより好ましい。
【0012】
ジオポリマー組成物におけるアルカリ溶液の含有量は、前記活性フィラー100質量部に対して、アルカリ溶液中の固形分換算で、1~30質量部であることが好ましく、5~25質量部であることがより好ましい。
【0013】
(有機溶媒)
本発明で用いる有機溶媒は水と相溶性を有する有機溶媒である。水と相溶性を有する有機溶媒を用いることによって、速やかにジオポリマー組成物中に分散し、その効果を発現することができる。本発明における有機溶媒の効果は、フレッシュ時のジオポリマー組成物のワーカビリティを著しく向上させることが挙げられる。具体的には、有機溶媒を添加すると、練り混ぜ後のジオポリマー組成物の混錬物の粘度が大きく低下し、流動性も向上する。一般的にジオポリマーは粘性が大きく、練り混ぜること及び運搬や打設が容易ではなく、一般のセメントモルタルやコンクリートに比べ施工性に関し大きな課題があった。しかしながら、本発明によるジオポリマー組成物は、セメントモルタルやコンクリートに非常に近いワーカビリティが得られることから、施工性が大幅に改善される。また、有機溶媒の添加は乾燥収縮率の低減効果を有するが、流動性が向上することによってアルカリ溶液中の水分量を減らすことができるため、乾燥収縮率をより低減することが可能となる。
【0014】
相溶性を有する有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、各種グリコール等のアルコール類、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド等のアルデヒド類、アセトン等のケトン類、グリコールエーテル、ポリエーテル等のエーテル類、アルキレンオキサイド付加物等が挙げられる。この中で、特にアルコール類が好ましい。有機溶媒の含有量は、アルカリ溶液中の固形分に対して、4~35質量%であることが好ましく、6~30質量%であることがより好ましい。また、アルカリ溶液中のSiO2含有量に対して、12~50質量%であることが好ましく、12~45質量%であることがより好ましい。
【0015】
(骨材)
本発明のジオポリマー組成物は骨材を含んでいてもよい。骨材は特に限定されるものではなく、一般のモルタルコンクリートで使用される骨材を用いることができる。例えば、川砂、山砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂、川砂利、山砂利、陸砂利、砕石等が挙げられる。骨材の含有量は、用途に応じて適宜調整される。骨材の添加量は、活性フィラー100質量部に対して、50~600質量部であることが好ましく、80~500質量部であることがより好ましい。
【0016】
(その他の材料)
本発明のジオポリマー組成物には、本発明の効果を妨げない範囲で、一般のモルタルコンクリートに用いられる化学混和剤を含有していてもかまわない。化学混和剤としては、例えば、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、流動化剤等の分散剤、収縮低減剤、発泡剤、起泡剤、消泡剤、防水剤、保水剤、防錆剤、増粘剤、強度促進材、セメント混和用ポリマー等が挙げられる。さらに、補強材として各種繊維を含有していてもよい。
【0017】
本発明のジオポリマー組成物は、上記の各構成材料を混合して得られる。各材料の混合順序は、特に制限されるわけではなく、各材料を一緒に混合し、練り混ぜてもよいし、水と相溶性を有する有機溶媒を予めアルカリ溶液に混和(前添加)した後で、この混合溶液と活性フィラーとを練り混ぜてもよい。また、アルカリ溶液と活性フィラーを練り混ぜた後に、有機溶媒を添加(後添加)してもよい。フレッシュ時のワーカビリティをより高める点からは、有機溶媒を後添加することが好ましい。さらに、有機溶媒を所要の添加量一括で添加してもよいし、所要の添加量を分割して添加することもできる。例えば、所要の添加量の半分を予めアルカリ溶液に添加して混合溶液とした後に活性フィラーと混合し、練り混ぜた後に残りの半分を後添加することもできる。
【0018】
練り混ぜに使用する装置としては、特に制限されず、セメントモルタルの練り混ぜに使用するモルタルミキサ等を使用することができる。練り混ぜ時間としては、30秒~3分である。
【0019】
<ジオポリマー硬化体>
本発明のジオポリマー硬化体は、本発明のジオポリマー組成物が硬化してなるものである。各構成材料が混合され、練り混ぜられたジオポリマー組成物は、型枠内に投入され、脱水を伴う縮重合反応により硬化する。ジオポリマー硬化体の養生方法は、特に制限されず、気中養生、水中養生、封緘養生、蒸気養生等の方法が挙げられる。本発明によれば、乾燥収縮率の小さいジオポリマー硬化体を得ることができる。
【実施例0020】
以下に、本発明のジオポリマー組成物を、実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0021】
ジオポリマー組成物を作製するために使用する材料を下記に記す。
(使用材料)
(1)活性フィラー
・石炭ガス化溶融スラグ:ブレーン比表面積3500cm2/g調整品。
・フライアッシュ:JISII種品、ブレーン比表面積4100cm2/g
・高炉水砕スラグ粉末:デイ・シイ社製、ブレーン比表面積4000cm2/g
(2)アルカリ溶液
・ケイ酸アルカリ:1号水ガラス、固形分48.0%(SiO2;32.5%、Na2O;15.5%)、日本化学工業社製
・水酸化アルカリ:水酸化ナトリウム、関東化学社製1級試薬
(3)有機溶媒
・有機溶媒A:エタノール、関東化学社製1級試薬
(4)骨材:珪砂
(5)水:上水道水
【0022】
水ガラス、水酸化ナトリウム水溶液(48%水溶液に調製)及び水を混合し、アルカリ溶液とした。水ガラス中の固形分以外の残りは水として計上し、アルカリ溶液中の水分量を調整した。このアルカリ溶液と活性フィラーを混合し、JIS R 5201に規定するモルタルミキサを用い低速で30秒間練り混ぜた。これに珪砂を加え、さらに低速で30秒間練り混ぜた後、モルタルミキサを止め、練り残しなどをヘラで掻き落とし、90秒間静置した。その後、さらに低速で60秒間練り混ぜて練り上がりとした。エタノールの添加方法は、エタノールを予めアルカリ溶液に混和する方法(前添加)、及び練り上がり後に添加し低速で30秒間練り混ぜる方法(後添加)とした。
【0023】
作製したジオポリマー組成物について、フレッシュ性状を評価した。フレッシュ性状については、テーブルフロー及び粘度に加えて、練り上がったモルタルをさじでかき混ぜることにより練り返し易さを評価した。練り返し易さが極めて良好な場合を◎、良好な水準を〇、不良な場合を×とした。また、ジオポリマー組成物を型枠(サイズ:40×40×160mm角柱)に充填し、24時間封緘養生(20℃)した後脱型した。その後所定の材齢、気中養生(20℃湿度60%)し、ジオポリマー硬化体の供試体を得た。この供試体を用いて、硬化体の試験を実施した。各試験方法を以下に記す。
【0024】
(試験方法)
(1)テーブルフロー
JIS R 5201「モルタルの物理試験」に準拠して、フレッシュ時のジオポリマー組成物のテーブルフロー(15打フロー)を測定した。
(2)粘度測定
「地盤工学会基準JGS 1411:原位置ベーンせん断試験方法」に準拠し、フレッシュ時のジオポリマー組成物の粘度(Vane Share)を測定した。但し、試験装置は携帯型を使用し、ベーンブレードの大きさは縦40mm×横40mmを用いた。測定では、ベーンシャフトをジオポリマー組成物表面から15mmの深さまで押し込んだ。その深さ一定のままベーンを慎重に手動で回転させた。1°毎にトルク測定装置の指示値を読み取り、指示値の最大値を測定した。ベーンブレードの面積、トルクの最大値からベーンせん断強さτVを算出した。
(3)乾燥収縮率
JIS A 1129「モルタル及びコンクリートの長さ変化測定方法」に準拠し、ジオポリマー硬化体の材令7日及び28日の乾燥収縮率を測定した。但し、24時間脱型後、ジオポリマー硬化体の基長を測定し、その後20℃湿度60%で養生した。
(4)圧縮強度
JIS R 5201「モルタルの物理試験」に準拠して、ジオポリマー硬化体の材令7日及び28日の圧縮強度を試験した。但し、24時間脱型後、20℃湿度60%で養生した。
【0025】
(試験結果)
試験を実施したジオポリマー組成物の配合と試験結果を表1に示す。
比較例1および実施例1~4は石炭ガス化溶融スラグと高炉スラブ微粉末を活性フィラーとしたジオポリマーであり、比較例2および実施例5~6はフライアッシュと高炉スラグを活性フィラーとしたジオポリマーである。有機溶媒を含まない従来のジオポリマーである比較例1および2ではフレッシュ時の粘度が非常に高く、練り返しが困難であったが、有機溶媒を含む実施例ではいずれも粘度の大きな低下と練り返し易さの向上が認められた。また有機溶媒を前添加した実施例1および2に対し、それぞれ同一の量の有機溶媒を後添加した実施例3および4では、より一層の粘度低下と練り返し易さの向上が認められた。加えて、試験はほぼ同一軟度(テーブルフロー190±10mm)となるよう水量を決定したが、各々の活性フィラーのジオポリマーにつき、比較例に対し実施例ではより水量が少なくなる傾向であった。
さらに有機溶媒を含む実施例では各々と同等の活性フィラーの比較例に比して、乾燥収縮率の著しい低下が認められた。この傾向は、同一量の有機溶媒量の比較においては前添加に対し後添加でより顕著であった。
【0026】
前記有機溶媒が、アルコール、アルデヒド、ケトン、エーテル及びアルキレンオキサイド付加物からなる群から選ばれる1種以上である請求項1に記載のジオポリマー組成物。