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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129186
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】車両の情報表示方法および装置
(51)【国際特許分類】
   B60K 35/23 20240101AFI20240919BHJP
   G02B 27/01 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
B60K35/00 A
G02B27/01
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038216
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】荻巣 拓磨
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 博司
(72)【発明者】
【氏名】江口 隆
【テーマコード(参考)】
2H199
3D344
【Fターム(参考)】
2H199DA03
2H199DA32
2H199DA46
3D344AA30
3D344AB01
3D344AC25
(57)【要約】
【課題】右左折の矢印のような仮想画像11をAR-HUD1によって表示する交差点のノードの座標がずれていた場合でも、このずれが目立たないようにする。
【解決手段】交差点を示すノードと自車両との間の距離Dが所定値Dcに達するまでは、仮想画像11の表示幅Wを、ノードのずれを見込んだ比較的大きな一定幅(2・θe)とする(a)。所定値Dcに達したら、そのときの視角基準線L1とノードの方向とがなす角度θcを用いて、距離Dに応じて、表示幅Wを(2・θc×D/Dc)とする(b)。従って、距離Dの減少に伴い、表示幅Wは徐々に小さくなる。ノードに近付いたら最小の表示幅Wmin(=2・θmin)とする(c)。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行中の車両の前方に存在するノードの座標を取得し、
車両のAR-HUDを介して、ウインドシールドを通して見える前方の光景に重畳して、ノードの位置上に仮想画像を表示する、
車両の情報表示方法であって、
車両とノードとの間の距離を取得し、
この距離が所定値(Dc)に達するまでは上記仮想画像の水平方向の表示幅をノードのずれを見込んだ一定幅とし、
上記距離が所定値(Dc)に達したときに、水平面上で座標が示すノードの方向と車両の前後方向に沿った視角基準線とがなす角度(θc)を求め、
上記距離が所定値(Dc)に達した以降の上記仮想画像の水平方向の表示幅を、上記角度(θc)の2倍の大きさから距離の減少に応じて徐々に小さくする、
車両の情報表示方法。
【請求項2】
上記距離が所定値(Dc)に達した以降は、上記角度(θc)に基づいて上記仮想画像の表示位置を補正する、
請求項1に記載の車両の情報表示方法。
【請求項3】
上記距離が所定値(Dc)に達するまでの上記表示幅は、基準のずれ量に対応して、上記所定値(Dc)に達したときにノードの方向と角基準線とがなす角度として算出される角度(θe)の2倍の大きさを有する、
請求項1に記載の車両の情報表示方法。
【請求項4】
上記仮想画像は、右左折案内のために、複数の矢じり形記号が間隔をおいて並べられた形態を有し、
個々の矢じり形記号の間の間隔を変更することで当該仮想画像の表示幅の変更を行う、
請求項1に記載の車両の情報表示方法。
【請求項5】
上記仮想画像は、地点表示のために、ピン頭部と、このピン頭部の下方に拡がる座部と、を組み合わせた形態を有し、
上記仮想画像の表示幅の変更として、上記ピン頭部の大きさは変えずに上記座部の大きさを変更する、
請求項1に記載の車両の情報表示方法。
【請求項6】
上記視角基準線は、車両の中央を通って前後に延びる仮想の線である、
請求項1に記載の車両の情報表示方法。
【請求項7】
上記視角基準線は、運転者の視点を通って前後に延びる仮想の線である、
請求項1に記載の車両の情報表示方法。
【請求項8】
走行中の車両の前方に存在するノードの座標を取得するノード座標取得部と、
ウインドシールドを通して見える前方の光景に重畳して仮想のオブジェクトを表示するAR-HUDと、
上記ノード座標に基づくノードの位置上に上記オブジェクトとして仮想画像を表示するように上記AR-HUDを制御する制御部と、
を備えた車両の情報表示装置であって、
上記制御部は、
車両とノードとの間の距離を取得し、
この距離が所定値(Dc)に達するまでは上記仮想画像の水平方向の表示幅をノードのずれを見込んだ一定幅とし、
上記距離が所定値(Dc)に達したときに、水平面上で座標が示すノードの方向と車両の前後方向に沿った視角基準線とがなす角度(θc)を求め、
上記距離が所定値(Dc)に達した以降の上記仮想画像の水平方向の表示幅を、上記角度(θc)の2倍の大きさから距離の減少に応じて徐々に小さくする、
車両の情報表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、AR-HUD(拡張現実ヘッドアップディスプレイ)を用いて交差点等のノードの上に経路案内表示等の仮想画像を表示する車両の情報表示に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の運転中に必要な種々の情報を運転席前方のウインドシールドに投影して表示するHUD(ヘッドアップディスプレイ)が普及しつつある。またHUDをより進化させた技術としてAR-HUD(拡張現実ヘッドアップディスプレイ)が知られている。このAR-HUDでは、ウインドシールドを通して見える現実情報に、虚像からなる仮想情報を重ねて表示することができ、ウインドシールドのガラス面上に情報が表示される一般的なHUDに比較して運転者の視点ないし焦点の移動が少なくなる。
【0003】
特許文献1には、AR-HUDを介してカーナビゲーションシステムの案内情報を表示する技術が開示されている。例えば、右左折すべきことを示す矢印等の仮想画像が表示される。そして、特許文献1には、車両の振動に伴い生じる仮想画像のぶれに対処するために、例えば左右方向の振動に対しては仮想画像の左右の輪郭をぼかすことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-142932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
デジタル化した道路地図において道路網はノードとリンクとの組み合わせによって表現されており、それぞれ固有の番号を有している。ノードは、交差点やその他の道路網表現上の結節点などの点を示しており、ノード間がリンクで接続されて、道路網を構成する。
【0006】
例えば右左折の矢印表示をAR-HUDを介して交差点中央に表示する場合、交差点を示すノードの座標に基づき、ノードの位置上に仮想画像(いわゆるアイコン)を表示することになるが、ノードの座標が交差点中心から左右にずれている場合があり得る。
【0007】
このような場合に、仮想画像の水平方向の表示幅が小さいと、交差点中心から離れた位置に仮想画像が表示され、運転者に違和感を与える。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、
走行中の車両の前方に存在するノードの座標を取得し、
車両のAR-HUDを介して、ウインドシールドを通して見える前方の光景に重畳して、ノードの位置上に仮想画像を表示する、
車両の情報表示方法であって、
車両とノードとの間の距離を取得し、
この距離が所定値(Dc)に達するまでは上記仮想画像の水平方向の表示幅をノードのずれを見込んだ一定幅とし、
上記距離が所定値(Dc)に達したときに、水平面上で座標が示すノードの方向と車両の前後方向に沿った視角基準線とがなす角度(θc)を求め、
上記距離が所定値(Dc)に達した以降の上記仮想画像の水平方向の表示幅を、上記角度(θc)の2倍の大きさから距離の減少に応じて徐々に小さくする。
【0009】
車両とノードとの間の距離が所定値(Dc)に達するまでは、ノードの位置に対応した仮想画像は、ノードのずれを見込んだ比較的に広い一定幅で表示される。そのため、仮に座標で示されるノードの位置に多少のずれがあったとしても、このずれが目立つことがない。なお、地図製作会社が提供する地図データにおいては、ノードの座標のずれの最大値が概ね定まっており、少なくとも大半の場合にこのノード座標のずれをカバーできるように仮想画像の表示幅が設定される。
【0010】
そして、上記距離が所定値(Dc)に達すると、そのときの上記角度(θc)の2倍の大きさの表示幅となり、その後、ノードに近付くにつれて表示幅が徐々に小さくなる。上記角度(θc)は、上記距離が所定値(Dc)に達したときのノードの左右方向のずれに相当し、所定値(Dc)に達した時点では、このずれをカバーする大きさに表示幅が設定される。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、ノードまでの距離が所定値(Dc)に達するまではノードの位置に対応した仮想画像が広い表示幅で表示されるので、仮にノードの位置に多少のずれがあったとしても、このずれが目立たなくなり、運転者に違和感を与えにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一実施例の情報表示装置の構成説明図。
図2】ウインドシールドを通して見える仮想画像の一例を示す説明図。
図3】一実施例の角度θcについての説明図。
図4】距離Dに応じた表示位置の補正を示した説明図。
図5】仮想画像の表示幅の変化を示した説明図。
図6】表示幅が変化する仮想画像の一例を示す説明図。
図7】一実施例の表示位置制御の処理の流れを示したフローチャート。
図8】一実施例の表示幅制御の処理の流れを示したフローチャート。
図9】表示幅が変化する仮想画像の他の例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明の一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【0014】
図1は、一実施例の車両の情報表示装置の構成を示した説明図である。一実施例の車両は一般的な自動車であり、運転席に対してAR-HUD(拡張現実ヘッドアップディスプレイ)1を備えている。このAR-HUD1は、ウインドシールド2を通して見える現実情報に、仮想情報を重ねて表示するものである。本発明においては、その形式はどのようなものであってもよいが、例えばウインドシールド2の下部にプロジェクタを備え、ウインドシールド2の表面で反射して運転者の目に届く光により運転者前方の適当な距離(例えば数メートル)離れた仮想の焦点面に仮想情報の虚像が生成される。仮想情報としては、後述するように交差点に重畳して表示すべき経路案内のための右左折を示す仮想画像や、制限速度あるいは実車速等の適当な情報が含まれ得る。
【0015】
AR-HUD1は、コントローラ3によって制御される。つまりコントローラ3において仮想画像が生成され、かつその表示位置が制御される。コントローラ3には、車両の経路案内を行ういわゆるGPSを用いたカーナビゲーションシステム4が接続されている。カーナビゲーションシステム4は、地図情報を備えており、この地図情報には、交差点等のノードの座標データが含まれている。また、カーナビゲーションシステム4によって、自車位置が特定される。図示するシステムは、さらに、先行車や歩行者等の位置を検出するためにレーダー5やカメラ6等の情報取得デバイスを備えている。
【0016】
また、AR-HUD1を用いる一実施例の情報表示装置は、AR-HUD1の虚像位置を適切なものとするために運転者の視点位置を検出する視点検出用カメラ7を備えている。視点検出用カメラ7は、例えば、運転者の状態を監視するドライバーモニタリングシステム(DMS)の一部を構成する。視点検出用カメラ7は、例えばウインドシールド上縁付近に運転者頭部に向かって配置される。この視点検出用カメラ7が取得した画像をコントローラ3が処理することで、運転者の視点位置(つまり瞳の位置)が検出される。なお、運転者の視点位置の検出は、カメラによらずに行うようにしてもよく、例えば運転者の着座位置や運転者の身長等から間接的に視点位置の検出を行うものであってもよい。コントローラ3は、このように検出された視点位置に応じてAR-HUD1による虚像つまりオブジェクトの生成位置を修正し、ウインドシールド2を通して運転者が見る現実の光景とAR-HUD1のオブジェクトとが正しく重なり合うようにする。
【0017】
コントローラ3は、種々の制御を行う車載のコンピュータシステムの一部の機能として構成されており、カーナビゲーションシステム4によって経路案内を行っているモードにおいては、経路案内に必要な右左折箇所を示す仮想画像や目的地を示す仮想画像等をAR-HUD1を介して表示する。後述するように、カーナビゲーションシステム4を介したノードの座標の取得、仮想画像の基準表示位置の算出、自車両とノードとの間の距離の算出、この距離に応じた仮想画像の表示位置の補正、同じく上記距離に応じた仮想画像の表示幅の補正、等がコントローラ3によって行われる。
【0018】
図2は、ノードとなる交差点に車両が近付いたときにウインドシールド2を通して見える光景を簡略化して示した説明図であり、ウインドシールド2を通して見える範囲の一部に、長方形をなすAR-HUD1の表示エリア1Aが存在する。表示エリア1Aは、基本的に、運転者の正面となる位置に配置される。なお、表示エリア1A外周の枠線は必ずしも表示しなくてもよい。この表示エリア1Aには、上述したようにAR-HUD1を介して運転中に必要な種々の仮想情報が表示される。例えば、交差点のノードの上に、右折すべきことを示す矢印状の仮想画像11(いわゆるアイコン)が表示される。図示例の仮想画像11は、図6に示すように、3個の矢じり形記号11aが間隔をおいて並べられた形態を有している。この仮想画像11の例では、中央の矢じり形記号11aがノードの位置に対応する。なお、本発明が図2図6に例示したような形態の仮想画像11に限定されないことは言うまでもない。
【0019】
次に、本発明の要部である仮想画像11の表示幅を説明する前に、図3および図4を用いて、ノードの座標のずれ、および、このずれに対応した仮想画像11の表示位置の補正について説明する。なお、本発明においては、仮想画像11の表示位置の補正は必ずしも必須ではないが、本発明は仮想画像11の表示位置の補正と組み合わせることが好ましい。但し、表示位置の補正の方法は、下記の例に限定されるものではない。
【0020】
図3は、自車両13が2本の道路が交差する交差点に近付いている状況を示している。図中の「×」印は仮想画像11を表示すべき理想的なターゲットTの位置を示し、「○」印はノードNの座標上の位置を示す。図3の例では、ノード座標Nが理想的なターゲットT位置(例えば交差点中央)から例えば左側にずれ量(ずれの長さないし距離)Xeだけずれている。そのため、ノード座標に従ってノードNの上に表示される仮想画像11は、ターゲットTの位置が自車両13の運転者の正面にあるものと仮定すると、ノード座標NがターゲットTの位置から左側にずれていることで、ターゲットTよりも左に見える。すなわち、運転者の正面にあるターゲットTの方向とノードNを指向する方向との間で角度的なずれ、つまり偏り角θが生じる。
【0021】
この偏り角θは、図4に特性線L12として示すように、自車両13とノードNとの間の距離Dに応じて、この距離Dが小さくなるほど大きくなる。特性線L12は、ずれ量Xeが比較的に大きい場合の特性を例示している。なお、図4では、偏り角θの正負は、例えば左側に偏って見える場合を正とし、右側に偏って見える場合を負としてある。
【0022】
このようなノードNの座標のずれに伴う偏り角θを補正するために、一実施例の情報表示装置では、自車両13とノードNとの間の距離Dを取得し、この距離Dが所定値Dcに達したときに、水平面上で座標が示すノードNの方向と自車両13の前後方向に沿った視角基準線とがなす角度θc(換言すれば距離Dc時点での偏り角)を求め、この角度θcに基づいて仮想画像11の表示位置を補正する。図3は、自車両13とノードNとの間の距離Dが所定値Dcに達したときの状態を示しており、このときに水面上で座標が示すノードNの方向(線L2で示す)と、自車両13の前後方向に沿った視角基準線L1と、の間の角度が角度θcとして算出される。
【0023】
視角基準線L1は、運転者の視点を通って車両の前後方向に延びる仮想の線である。あるいは、単純化のために、車両13の中央を通って車両の前後方向に延びる仮想の線を視角基準線L1としてもよい。
【0024】
図4は、このように求めた距離Dcにおける角度θcに基づく表示位置の補正を示す。図中の直線L11は、距離Dが所定値Dcに達したときの角度θcから定まる補正直線を示している。距離Dが所定値Dcよりも短い領域では、この補正直線L11に沿った偏り角θの方向に仮想画像11が表示される。所定値Dcよりも遠い領域では、仮想画像11の表示位置の補正は行わない。
【0025】
例えば、図中の特性線L12は、上述したように表示位置の補正を行わない場合の偏り角θの特性を示しているが、自車両13が所定の距離Dcに達するまでは、仮想画像11の表示位置の補正は行わない。従って、座標が示すノードNの上に仮想画像11が表示されることとなり、正面を向いている運転者にとっては、車両の進行方向に対して偏り角θの方向に仮想画像11が表示される。しかし、このときにはノードNは比較的遠方にあり、かつ偏り角θが小さいので、違和感を与えることはない。
【0026】
距離Dが所定値Dcよりも短い領域では、距離Dに応じて、「θ=θc×(D/Dc)」として求められる偏り角θの方向に仮想画像11が表示される。つまり、補正直線L11で示すように、距離Dが0に近付くにつれて偏り角θが0に近付くように表示位置が補正される。換言すれば、図3において、仮想画像11の表示位置の方向が徐々に理想的なターゲットTの方向に近付いていくことなる。従って、運転者にとっては、車両の進行方向正面に仮想画像11が見えることとなり、特性線L12のように偏り角θが大きくなることによる違和感を抑制できる。
【0027】
このような表示位置の補正は、交差点に進入する手前の道が湾曲路であっても同様に行うことができる。また、ターゲットTが視角基準線L1上にない場合でも、ターゲットTへ向かう補正直線を求めることで同様の表示位置の補正が可能である。
【0028】
なお、所定値Dcは、図4の特性線L12から明らかなように、ずれ量Xeに基づく偏り角θが大きく増加し始める前に設定することが望ましい。
【0029】
次に、図5および図6に基づいて、本発明の要部である仮想画像11の水平方向の表示幅Wについて説明する。AR-HUD1により虚像として表示される仮想画像の水平方向の「表示幅W」は、画像の水平方向つまり左右方向の角度(角度範囲)で定義される。より厳密には、運転者の視点位置を中心とした角度で示される。
【0030】
本実施例においては、図3に示した表示位置の補正と同じく、自車両13とノードNとの間の距離Dを取得し、距離Dが所定値Dcに達したときに、水平面上で座標が示すノードNの方向(L2)と車両の前後方向に沿った視角基準線L1とがなす角度θcを求める。
【0031】
そして、距離Dが所定値Dcに達するまでは仮想画像11の水平方向の表示幅WをノードNのずれを見込んだ一定幅とする。カーナビゲーションシステム14の地図情報の基本となる地図製作会社が提供する地図データにおいては、許容される(換言すれば発生し得る)ノードの座標のずれの最大値が概ね定まっている。従って、このずれの最大値あるいは当該最大値に適当な1未満の係数を乗じたずれの値を基準として、この基準のずれを見込んだ表示幅Wが予め与えられている。地図データにおける多数のノードについてずれの大きさ(絶対値)を求め、その平均を基準のずれとしてもよい。好ましい一実施例では、上記の基準のずれに対して距離Dが所定値Dcであるときの偏り角θを算出(これをθeとする)し、この偏り角θeの2倍の大きさ(2・θe)に設定される。
【0032】
このように表示幅Wが設定された仮想画像11は、前述したように、距離Dが所定値Dcに達するまでは、図4の特性線L12に沿った偏り角θの方向にAR-HUD1によって表示される。詳しくは、偏り角θの方向を中心として、左右にそれぞれ角度θeの幅を有するような大きさで仮想画像11が表示される。従って、上記のノードNの座標のずれがカバーされる。少なくとも、大多数のノードのずれの大部分がカバーされる。換言すれば、ノードNの座標が上記の基準の大きさだけ交差点中心からずれていても、交差点中心に向かう視角基準線L1と接する位置まで仮想画像11が拡がっているため、ノードNの位置のずれが目立たなくなる。
【0033】
距離Dが所定値Dcに達したら、仮想画像11の水平方向の表示幅Wは、所定値Dcに達したときの角度θcに基づき、この角度θcの2倍の大きさ(2・θc)となる。そして、距離Dが所定値Dcよりも短い領域では、表示幅Wが(2・θc)から距離Dの減少に応じて徐々に小さくなる。つまり、表示幅Wは、「W=2・θc×D/Dc」となる。この場合も、表示幅Wは、前述した表示位置(偏り角θ)を中心として左右対称に、それぞれ角度θcを有するものとなる。なお、実際には、距離Dが0に近付いたときの適当な最小幅Wmin(=2・θmin)が設定されている。
【0034】
図5は、図4に示した表示位置の特性線に表示幅Wの変化の特性を重ねて示した説明図である。ドットを付して示した帯状の領域の角度幅(図の縦軸方向)が表示幅Wを表している。図示するように、距離Dが所定値Dcよりも大きい領域では、表示幅Wは、特性線L12を中心として対称の一定幅となる。距離Dが所定値Dcよりも小さい領域では、表示幅Wは、表示位置を示す補正直線L11を中心として対称で、かつ徐々に減少する幅となる。
【0035】
この図5の例では、ノードNの位置のずれが上述した基準のずれとほぼ等しい場合を例にしており、従って、距離Dが所定値Dcに達したときに表示幅Wは殆ど変化しない。つまり、所定値Dcに達する直前と直後の表示幅Wはほぼ等しい。
【0036】
このような表示幅Wの設定により、仮想画像11の左右の一端が常に視角基準線L1の方向(つまり運転者の正面方向)に見えることになり、ノードNの座標位置のずれが目立たなくなる。一方、自車両13がノードN(交差点)に近付くと、仮想画像11の表示幅Wが小さくなり、いわゆるピンポイントに地点を示すことができるようになる。
【0037】
図6は、仮想画像11の一例を示している。これは、右折を示す仮想画像11の例であり、前述したように3個の矢じり形記号11aが間隔をおいて並べられた形態を有している。そして、この例では、個々の矢じり形記号11aの間の間隔ΔLを変更することで仮想画像11の表示幅Wの変更を行う。図6の(a)は表示幅Wが大きいときの形態を示し、例えば(2・θe)の大きさを有する。(b)は表示幅Wが相対的に小さいときの形態を示し、例えば(2・θc×D/Dc)の大きさを有する。(c)は最小の表示幅Wmin(=2・θmin)を示している。このように、仮想画像11全体の表示幅Wが増減変化しても、個々の矢じり形記号11aの形状は変化しない。これにより、視認性が向上する。
【0038】
次に、図7および図8のフローチャートを参照して、コントローラ3が実行する処理をより詳しく説明する。図7は、図3図4で説明した仮想画像11の表示位置の制御の流れを示し、図8は、図5で説明した仮想画像11の表示幅Wの制御の流れを示す。両者は、コントローラ3において、並行して処理される。
【0039】
図7のフローチャートに示す処理には、仮想画像11の基準表示位置の算出(ステップ1~6)と、理想的なターゲットTの位置に近付くようにする表示位置の補正(ステップ7~13)と、が含まれている。なお、下記の座標系におけるx軸、y軸の方向は、x軸が車両の左右方向、y軸が車両の前後方向、である。
【0040】
最初のステップ1では、自車両13の位置座標(Xs,Ys)を取得する。ステップ2では、自車両13の前方に存在する交差点のノードNの座標(Xn,Yn)を取得する。なお、これらの座標はいわゆるグローバル座標である。ステップ3では、この交差点のノードNの座標と自車両13の位置との相対関係に基づき仮想画像11を表示すべき基準表示位置(θx,θy)を算出する。θxは正面に向かう視線基準線L1に対する左右方向の偏り角であり、θyは水平面もしくは基準の見下ろし角に対する上下方向の偏り角である。一つの例では、運転者が見る長方形をなすAR-HUD1の表示エリア1A(図2参照)の中心を基準として表示位置(θx,θy)が定められる。右左折を示す仮想画像11の場合は、路面上ではなく適当な高さに浮遊しているように表示するようにしてもよい。そして、ステップ4において、ステップ2で求めた基準表示位置(θx,θy)に沿ってAR-HUD1による仮想画像11の表示位置を更新する。
【0041】
ステップ5では、自車両13の位置から交差点を示すノードNまでの距離Dを取得し、ステップ6において、距離Dが所定値Dc以下であるかを判定する。NOであれば、ステップ1に戻り、上述の処理を繰り返す。従って、距離Dが所定値Dcに達するまでは、座標が示すノードNの地点上に仮想画像11が表示される。なお、図7のフローチャートでは視点位置の検出に基づく表示位置の補正の説明を省略してあるが、実際には、検出した視点位置に応じて補正がなされる。
【0042】
距離Dが所定値Dcに達したらステップ6からステップ7へ進み、その時点でのx軸方向の偏り角θcを取得する。この偏り角θcは、前述したように、距離Dが所定値Dcに達したときに、水平面上で座標が示すノードNの方向(L2)と車両の前後方向に沿った視角基準線L1とがなす角度θcに相当する。次に、ステップ8において自車両13の位置から交差点を示すノードNまでの距離Dを取得し、ステップ9において、この距離Dに基づいてx軸方向の表示位置θxを算出する。具体的には、「θx=θc×(D/Dc)」として求める。また、上下方向の表示位置の補正は不要であるので、その時点でのy軸方向の自車両13の位置座標Ysを取得し(ステップ10)、見下ろし角に相当するy軸方向の表示位置つまり偏り角θyを求める(ステップ11)。そして、ステップ12において、このように算出した表示位置(θx,θy)に沿ってAR-HUD1による仮想画像11の表示位置を更新する。
【0043】
ステップ13では、距離Dが0となったか判定し、NOであれば、ステップ8に戻り、上述の処理を繰り返す。従って、距離Dが所定値Dcから0となるまでは、前述した補正直線L11に沿うような特性でもってx軸方向の表示位置θxが制御される。これにより、仮想画像11のx軸方向の表示位置θxが徐々に視線基準線L1に近付いていくことになる。距離Dが0となったら、仮想画像11の表示が終了する。実際には、距離Dが0となる前の適当なところで仮想画像11の表示が終了する。
【0044】
図8に示すフローチャートにおいて、ステップ21~23は、自車両13からノードNまでの距離Dが所定値Dcに達するまでの処理である。ステップ21において、表示幅Wを予めノードNのずれθeを見込んだ所定の(2・θe)の大きさとして表示を開始する。ステップ22において距離Dを取得し、ステップ23において、この距離Dを所定値Dcと比較する。距離Dが所定値Dc以上となるまでは、ステップ21~23を繰り返す。これにより、距離Dが所定値Dcに達するまでは一定幅(2・θe)で仮想画像11が表示される。
【0045】
距離Dが所定値Dcに達したらステップ24に進み、所定値Dcに達した時点での偏り角θcと距離Dとを用いて、距離Dに応じた表示幅Wを(2・θc×D/Dc)として算出し、かつステップ25において、この算出した表示幅Wでもって仮想画像11の表示を行う。そしてステップ26において、算出した表示幅Wを最小表示幅Wmin(=2・θmin)と比較し、最小表示幅Wminとなるまでは、ステップ24,25を繰り返して、距離Dの減少に応じて表示幅Wを徐々に小さくしていく。最小表示幅Wminとなったら、ステップ27へ進み、最小表示幅Wminでもって仮想画像11の表示を続ける。
【0046】
AR-HUD1によって表示される仮想画像は、図6の形態に限らず、どのようなものであってもよい。そして、仮想画像の各部を一様に拡大・縮小してもよく、あるいは、図6に例示したように、その一部の寸法を拡大・縮小するようにしてもよい。図9は、一部の寸法を拡大・縮小するようにした仮想画像の他の例を示している。これは、例えば目的地等の地点表示に適した仮想画像21であり、円と三角形を組み合わせた形状のピン頭部21aと、このピン頭部21aの下方に拡がる座部21bと、を組み合わせた形態を有し、座部21bの左右方向の寸法を変更することで仮想画像21の表示幅Wの変更を行う。ピン頭部21aの形状・大きさは変更しない。図9の(a)は表示幅Wが大きいときの形態を示し、座部21bが例えば(2・θe)の大きさを有する。(b)は表示幅Wが相対的に小さいときの形態を示し、座部21bが例えば(2・θc×D/Dc)の大きさを有する。(c)は最小の表示幅Wminを示しており、このときには、座部21bが消失し、ピン頭部21aのみが表示される。換言すれば、Wmin=0である。このようにピン頭部21aの形状・大きさを維持することで、視認性が向上する。
【0047】
以上、この発明の一実施例を詳細に説明したが、この発明は、上記実施例に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。上記実施例では、表示位置の補正のための距離Dの所定値Dc(図3図4)と、表示幅Wの制御を切り換えるための距離Dの所定値Dc(図5)と、が等しい値となっているが、両者が異なる値であってもよい。また、前述したように、他の適当な表示位置の補正技術と組み合わせて本発明を適用することもできる。
【符号の説明】
【0048】
1…AR-HUD
2…ウインドシールド
3…コントローラ
4…カーナビゲーションシステム
7…視点検出用カメラ
11,21…仮想画像
N…ノード
L1…視角基準線
L11…補正直線
W…表示幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9