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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129188
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】地下水諸元推定システム
(51)【国際特許分類】
   E02D 1/06 20060101AFI20240919BHJP
【FI】
E02D1/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038218
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】390023249
【氏名又は名称】国際航業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂本 拓二
(72)【発明者】
【氏名】三家本 史郎
【テーマコード(参考)】
2D043
【Fターム(参考)】
2D043AA05
2D043AA07
2D043AC01
(57)【要約】
【課題】本願発明の課題は、従来の問題を解決することであり、すなわち現地で実測して得られた地下水位を用いることなく、空間区分ごとに涵養量や透水係数を推定することができる地下水諸元推定システムを提供することである。
【解決手段】本願発明の地下水諸元推定システムは、対象領域の地下水に関する諸元を推定するシステムであり、河道抽出手段と湧水点抽出手段、地下水面高設定手段、空間区分分類手段、推計量レンジ設定手段、検証地点設定手段、検証水位算出手段、推計水位算出手段を備えたものである。区分涵養量レンジ内で涵養量を変えながら繰り返し推計水位を求めるとともに、設定した検証水位に最も近い推計水位に係る涵養量を空間区分の区分涵養量として決定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象領域の地下水に関する諸元を推定するシステムであって、
前記対象領域の3次元地形モデルに基づいて河道を抽出する河道抽出手段と、
前記河道に基づいて湧水点を抽出する湧水点抽出手段と、
前記湧水点の標高に基づいて、前記対象領域の地下水面の高さである地下水面高を設定する地下水面高設定手段と、
前記3次元地形モデルから得られる地形と、地質情報と、に基づいて前記対象領域を複数種類の空間区分に分類する空間区分分類手段と、
前記空間区分ごとに、涵養量の下限値と上限値からなる区分涵養量レンジを設定する推計量レンジ設定手段と、
前記対象領域の範囲内にある検証地点を設定する検証地点設定手段と、
前記地下水面高設定手段によって推定された前記地下水面高に基づいて、前記検証地点における地下水の高さである検証水位を求める検証水位算出手段と、
前記空間区分ごとの涵養量に基づいて、前記検証地点における地下水の高さである推計水位を求める推計水位算出手段と、を備え、
前記区分涵養量レンジ内で涵養量を変えながら繰り返し前記推計水位を求めるとともに、前記検証水位に最も近い該推計水位に係る涵養量を前記空間区分の区分涵養量として決定する、
ことを特徴とする地下水諸元推定システム。
【請求項2】
対象領域の地下水に関する諸元を推定するシステムであって、
前記対象領域の3次元地形モデルに基づいて河道を抽出する河道抽出手段と、
前記河道に基づいて湧水点を抽出する湧水点抽出手段と、
前記湧水点の標高に基づいて、前記対象領域の地下水面の高さである地下水面高を設定する地下水面高設定手段と、
前記3次元地形モデルから得られる地形と、地質情報と、に基づいて前記対象領域を複数種類の空間区分に分類する空間区分分類手段と、
前記空間区分ごとに、透水係数の下限値と上限値からなる区分透水係数レンジを設定する推計量レンジ設定手段と、
前記対象領域の範囲内にある検証地点を設定する検証地点設定手段と、
前記地下水面高設定手段によって推定された前記地下水面高に基づいて、前記検証地点における地下水の高さである検証水位を求める検証水位算出手段と、
前記空間区分ごとの透水係数に基づいて、前記検証地点における地下水の高さである推計水位を求める推計水位算出手段と、を備え、
前記区分透水係数レンジ内で透水係数を変えながら繰り返し前記推計水位を求めるとともに、前記検証水位に最も近い該推計水位に係る透水係数を前記空間区分の区分透水係数として決定する、
ことを特徴とする地下水諸元推定システム。
【請求項3】
対象領域の地下水に関する諸元を推定するシステムであって、
前記対象領域の3次元地形モデルに基づいて河道を抽出する河道抽出手段と、
前記河道に基づいて湧水点を抽出する湧水点抽出手段と、
前記湧水点の標高に基づいて、前記対象領域の地下水面の高さである地下水面高を設定する地下水面高設定手段と、
前記3次元地形モデルから得られる地形と、地質情報と、に基づいて前記対象領域を複数種類の空間区分に分類する空間区分分類手段と、
前記空間区分ごとに、涵養量の下限値と上限値からなる区分涵養量レンジ、及び透水係数の下限値と上限値からなる区分透水係数レンジを設定する推計量レンジ設定手段と、
前記対象領域の範囲内にある検証地点を設定する検証地点設定手段と、
前記地下水面高設定手段によって推定された前記地下水面高に基づいて、前記検証地点における地下水の高さである検証水位を求める検証水位算出手段と、
前記空間区分ごとの涵養量と透水係数の組合せに基づいて、前記検証地点における地下水の高さである推計水位を求める推計水位算出手段と、を備え、
前記区涵養量レンジ、及び前記区分透水係数レンジ内で涵養量と透水係数の組合せを変えながら繰り返し前記推計水位を求めるとともに、前記検証水位に最も近い該推計水位に係る涵養量と透水係数の組合せを前記空間区分の区分涵養量、及び区分透水係数として決定する、
ことを特徴とする地下水諸元推定システム。
【請求項4】
前記湧水点抽出手段は、前記河道のうち同じ次数の水流どうしの交点を前記湧水点として抽出する、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の地下水諸元推定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、涵養量や透水係数といった地下水に関する諸元の推定に関する技術であり、より具体的には、現地で測定された各種測定値を用いることなく空間区分(地形や地質に応じた区分)ごとに涵養量や透水係数を推定することができる地下水諸元推定システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地下水の利用に対する関心が高まっている。例えば、平成27年7月に閣議決定された水循環基本計画では、地下水マネジメントによる「災害時の地下水利用」の推進が示されている。また、世界的な取り組みとも言える「持続可能な開発目標(いわゆるSDGs)」では、過度な地下水くみ上げによる水不足が問題視される一方で、積極的な地下水の利用も唱えられている。
【0003】
地下水を利用するためには、その地域でどの程度の地下水が賦存されているか、すなわち地下水賦存量の増減に大きく関わる地下水涵養量を把握することが重要になる。ところが、地下水涵養量を把握する場合、対象領域が広大となるケースが多く、ボーリング等によって地下水に係る情報を把握することは現実的ではないうえ、地下水涵養量を直接的に把握できるものでもない。そのため解析等によって地下水涵養量を推定することとなるが、地下水は地形や地質といった地域特性が大きく影響するうえ、このような影響を勘案したうえで地下水涵養量を推定することは容易ではない。
【0004】
そこで、地下水の状況を把握するための技術がこれまで数多く提案されている。例えば特許文献1では、水資源の循環状態がモデル化された分布型水循環モデルを用い、各メッシュに対応する水資源の収支に関する水収支算定値を取得するとともに、この水収支算定値と各メッシュの位置情報に基づいて地点毎の水資源の循環状態を推定する技術について提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-117715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したとおり、対象領域を全体的に網羅するようにボーリング等を実施して地下水涵養量を把握するのは現実的ではない。そのため、解析等によって地下水涵養量を推定することとなるが、このような解析を行う上では検証用としての地下水位が必要となる。そして、検証用の地下水位を得るためには、少ない数ではあっても現地にて実際に地下水位を測定しているのが実情である。しかしながら、少数とはいえども現地に赴いて実測するには相当のコストがかかるし、場合によってはそもそも現地に到達できないケースも想定される。
【0007】
本願発明の課題は、従来の問題を解決することであり、すなわち現地で実測して得られた地下水位を用いることなく、空間区分ごとに涵養量や透水係数を推定することができる地下水諸元推定システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明は、対象領域の地下水面高(地下水面の高さ)を設定し、この地下水面高を検証用の地下水位としたうえで空間区分ごとに涵養量や透水係数を推定する、という点に着目したものであり、従来にはなかった発想に基づいてなされた発明である。
【0009】
本願発明の地下水諸元推定システムは、対象領域の地下水に関する諸元を推定するシステムであり、河道抽出手段と湧水点抽出手段、地下水面高設定手段、空間区分分類手段、推計量レンジ設定手段、検証地点設定手段、検証水位算出手段、推計水位算出手段を備えたものである。このうち河道抽出手段は、対象領域の3次元地形モデルに基づいて河道を抽出する手段であり、湧水点抽出手段は、河道に基づいて湧水点を抽出する手段であり、地下水面高設定手段は、湧水点の標高に基づいて地下水面高(対象領域の地下水面の高さ)を設定する手段である。また空間区分分類手段は、地形(3次元地形モデルから得られる)と地質情報に基づいて対象領域を複数種類の空間区分に分類する手段であり、推計量レンジ設定手段は、空間区分ごとに区分涵養量レンジ(涵養量の下限値と上限値からなる範囲)を設定する手段であり、検証地点設定手段は、対象領域の範囲内にある検証地点を設定する手段である。検証水位算出手段は、地下水面高設定手段によって推定された地下水面高に基づいて検証水位(検証地点における地下水の高さ)を求める手段であり、推計水位算出手段は、空間区分ごとの涵養量に基づいて推計水位(検証地点における地下水の高さ)を求める手段である。そして、区分涵養量レンジ内で涵養量を変えながら繰り返し推計水位を求めるとともに、検証水位に最も近い推計水位に係る涵養量を空間区分の区分涵養量として決定する。
【0010】
本願発明の地下水諸元推定システムは、区分涵養量に代えて区分透水係数を決定するものとすることもできる。この場合、推計量レンジ設定手段は、透水係数の下限値と上限値からなる区分涵養量レンジを設定する。そして、区分透水係数レンジ内で透水係数を変えながら繰り返し推計水位を求めるとともに、検証水位に最も近い推計水位に係る透水係数を空間区分の区分透水係数として決定する。
【0011】
本願発明の地下水諸元推定システムは、区分涵養量と区分透水係数を決定するものとすることもできる。この場合、推計量レンジ設定手段は、区分涵養量レンジと区分透水係数レンジを設定する。そして、区分涵養量レンジ内で涵養量を変えながら、さらに区分透水係数レンジ内で透水係数を変えながら、繰り返し推計水位を求めるとともに、検証水位に最も近い推計水位に係る涵養量と透水係数の組合せを空間区分の区分涵養量、及び区分透水係数として決定する。
【0012】
本願発明の地下水諸元推定システムは、河道のうち同じ次数の水流どうしの交点を湧水点として抽出するものとすることもできる。
【発明の効果】
【0013】
本願発明の地下水諸元推定システムには、次のような効果がある。
(1)区分涵養量や区分透水係数を推定することができすなわち地下水涵養量を把握することができることから、水資源上重要な地域を特定することができる。
(2)例えば、遠隔地や進入困難な場所に赴くことなく、地下水涵養量を把握することができる。その結果、地下水涵養量を把握するためのコストや時間を大幅に低減することができる。
(3)対象領域の地下水面の高さである「地下水面高」を設定することから、所望の地点で推計した水位を検証することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本願発明の地下水諸元推定システムの主な構成を示すブロック図。
図2】地下水モデルと地下水解析用プログラムを用いて抽出された河道を出力した平面図。
図3】3次元地形モデルから生成された地下水モデルの例を示す平面図。
図4】対象領域の河道に基づいて抽出された湧水点の例を示す平面図。
図5】対象領域の地下水面高を等高線で表した例を示す平面図。
図6】対象領域が7種類の空間区分に分類された例を示す平面図。
図7】(a)は空間区分と区分涵養量レンジの関係を示すグラフ図、(b)は空間区分と区分透水係数レンジの関係を示すグラフ図。
図8】本願発明の地下水諸元推定システムの主な処理の流れを示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本願発明の地下水諸元推定システムの実施形態の例を図に基づいて説明する。
【0016】
図1は、本願発明の地下水諸元推定システム100の主な構成を示すブロック図である。この図に示すように地下水諸元推定システム100は、河道抽出手段101と湧水点抽出手段102、地下水面高設定手段103、空間区分分類手段104、推計量レンジ設定手段105、検証地点設定手段106、検証水位算出手段107、推計水位算出手段108を含んで構成され、さらに諸元値決定手段109や3D地形モデル記憶手段110、地質情報記憶手段111、ディスプレイやプリンタといった出力手段などを含んで構成することもできる。
【0017】
地下水諸元推定システム100を構成する、河道抽出手段101と湧水点抽出手段102、地下水面高設定手段103、空間区分分類手段104、推計量レンジ設定手段105、検証地点設定手段106、検証水位算出手段107、推計水位算出手段108、諸元値決定手段109は、専用のものとして製造することもできるし、汎用的なコンピュータ装置を利用することもできる。すなわち、所定のプログラムによってコンピュータ装置に演算処理を実行させることで、それぞれの手段特有の処理を行うわけである。このコンピュータ装置は、CPU等のプロセッサ、ROMやRAMといったメモリを具備しており、さらにマウスやキーボード等の入力手段やディスプレイを含むものもあり、例えばパーソナルコンピュータ(PC)やサーバなどによって構成することができる。
【0018】
また、「3次元地形モデル」を記憶する3D地形モデル記憶手段110と「地質情報」を記憶する地質情報記憶手段111は、汎用的コンピュータ(例えば、パーソナルコンピュータ)の記憶装置を利用することもできるし、データベースサーバに構築することもできる。データベースサーバに構築する場合、ローカルなネットワーク(LAN:Local Area Network)に置くこともできるし、インターネット経由で保存するクラウドサーバとすることもできる。ここで3次元地形モデルとは、DSM(Digital Surface Model)やDEM(Digital Elevation Model)、DTM(Digital Terrain Model)に代表されるような地形を表すモデルであって、合成開口レーダ(SAR:Synthetic Aperture Radar)計測や、航空(衛星)写真測量、航空レーザー計測などによって得られる3次元点群に基づいて形成されるモデルである。また地質情報とは、地盤の性状に関する情報であり、例えば砂岩や花崗岩、粘板岩といった岩盤区分、あるいは砂質土や礫質土、粘性土といった土質区分のことであり、既存の資料等に基づいて作成することができる。
【0019】
以下、本願発明の地下水諸元推定システム100を構成する主な要素ごとに詳しく説明する。
【0020】
(河道抽出手段)
河道抽出手段101は、対象とする領域(以下、単に「対象領域」という。)の3次元地形モデルに基づいて河道を抽出する手段である。具体的には、対象領域の3次元地形モデルから地形解析を行って河道を抽出するとともに、各河道に水流次数を付与するものである。図2は、地形解析手法を用いて抽出された河道を出力した平面図である。なおこの図では、便宜上モノクロで表示しているが、実際には水流次数ごとに色分けして表示している。
【0021】
対象領域の3次元地形モデルから地下水モデルを生成するにあたっては、地下水の流向と、地下水の流域界、地盤の高低界などを設定することによって生成するとよい。図3は、3次元地形モデルから生成された地下水モデルの例を示す平面図である。例えば地下水の流向は、地表水の大きな流れ(例えば海に向かう流れ)と概ね平行と考えて設定することができる。地下水の流域界は、地表水の流域界(特に上流側)や尾根線などによって囲まれた領域を地下水の出入りのない「閉鎖境界」として設定することもできるし、あるいは地下の地質情報に基づき、水理地質的観点から地下水の出入りのない「閉鎖境界」を設定することもできる。また、海域の地形や地質などを参考にして地下水の流れの下流側にあたる「地下水の出口」を設定したうえで、地下水モデルを生成することができる。さらに地盤の高低界は、地表面を上限とし、被圧帯水層の分布深度を下限とすることで設定するとよい。なお、地下水解析用のプログラムを用いて解析する場合、一般的には対象領域を平面分割する格子(いわゆるメッシュ)を設定するが、東西500m×南北500mとするなど、その格子サイズは対象領域の面積に応じて任意に設定することができる。
【0022】
(湧水点抽出手段)
湧水点抽出手段102は、河道抽出手段101によって抽出された河道に基づいて湧水点を抽出する手段である。図4は、対象領域の河道に基づいて抽出された湧水点の例を示す平面図である。地下水露頭浸食モデルの概念に従えば、河道のうち同じ次数の水流どうし(1次水流と1次水流や、2次水流と2次水流など)の交点は地下水の湧出点を示していると考えることができる。そこで湧水点抽出手段102は、河道のうち同じ次数の水流どうしの交点を湧水点として抽出する仕様とすることができる。あるいは、河道と地形や地質情報(特に、透水層や不透水層など)に基づいて湧水点を抽出するといった仕様とすることもできる。
【0023】
(地下水面高設定手段)
地下水面高設定手段103は、湧水点抽出手段102によって抽出された湧水点の標高に基づいて、対象領域の地下水面の高さ(以下、「地下水面高」という。)を設定する手段である。図5は、対象領域の地下水面高を等高線(コンター)で表した例を示す平面図である。地下水露頭浸食モデルの概念に従えば、抽出された湧出点は地下水面と地表が交わる地点であると考えられる。そこで地下水面高設定手段103は、湧出点の平面位置と標高に基づいて、すなわち湧出点を繋げていくことによって地下水面高を設定する仕様とすることができる。あるいは、河道と地形や地質情報(特に、透水層や不透水層など)に基づいて地下水面高を設定するといった仕様とすることもできる。
【0024】
(空間区分分類手段)
空間区分分類手段104は、3次元地形モデルから得られる地形と地質情報に基づいて、対象領域を複数種類の領域(以下、「空間区分」という。)に分類する手段であり、いわゆるゾーニングを行ったうえで所定の空間区分を設定するものである。図6は、対象領域が7種類の空間区分に分類された例を示す平面図である。このゾーニングは、3次元地形モデルから得られる地形の要素と地質の要素を勘案したうえで人(例えば、技術者など)によって実行される。例えば図6では、「扇状地」と「丘陵地」、「山地」の地形要素で分類するとともに、この図では示されていないが山地に関してはさらに「急傾斜な地形」と「鞍部を含む地形」といった地形要素で4種類の空間区分に分類している。また丘陵地は、「凝灰岩を主体とする層」と「扇状地に準じた振る舞いをする層」の2種類の地質要素で分類している。ゾーニングを行うにあたっては、地形要素と地質要素に加え、「農耕地が広く分布する」、あるいは「常緑広葉樹林が広く分布する」といった土地被覆の要素も勘案したうえで行うことができる。
【0025】
ゾーニングの結果は、オペレータが空間区分分類手段104を操作することによって設定される。空間区分分類手段104としては、地理情報システム(GIS:Geographic Information System)やCAD(computer-aided design)といったソフトウェアを利用することができ、すなわちこのようなソフトウェアがコンピュータ装置に演算処理を実行させることで空間区分を設定する仕様とすることができる。
【0026】
(推計量レンジ設定手段)
推計量レンジ設定手段105は、空間区分ごとに「地下水諸元」の範囲を設定する手段である。ここで地下水諸元とは、対象領域の地下水に関する種々の物理量であり、特に涵養量と区分透水係数を挙げることができる。なお、本願発明では空間区分ごとに地下水諸元を決定することから、便宜上ここでは区分別の涵養量のことを「区分涵養量」、区分別の透水係数のことを「区分透水係数」ということとする。
【0027】
地下水諸元の範囲は、その下限値と上限値によって決定される。すなわち推計量レンジ設定手段105は、区分涵養量の下限値と上限値からなる範囲(以下、「区分涵養量レンジ」という。)や、区分透水係数の下限値と上限値からなる範囲(以下、「区分透水係数レンジ」という。)を設定する。具体的には、オペレータが区分涵養量や区分透水係数の下限値と上限値を入力し、この入力値に基づいて推計量レンジ設定手段105が区分涵養量レンジや区分透水係数レンジを設定する仕様とすることができる。図7(a)は空間区分と区分涵養量レンジの関係を示すグラフ図であり、図7(b)は空間区分と区分透水係数レンジの関係を示すグラフ図である。なおこの図にも示すように、空間区分によってその下限値と上限値が異なるように、換言すれば空間区分ごとに特有の区分涵養量レンジや区分透水係数レンジを設定することができる。なお推計量レンジ設定手段105は、区分涵養量レンジと区分透水係数レンジのうちいずれか一方のみを設定する仕様とすることもできるし、区分涵養量レンジと区分透水係数レンジの両方を設定する仕様とすることもできる。
【0028】
後述するように地下水諸元推定システム100は、区分涵養量や区分透水係数に基づいて所定地点の水位を求める。なお便宜上ここでは、区分涵養量や区分透水係数に基づいて算出された水位のことを「推計水位」ということとする。またこの推計水位は、区分涵養量や区分透水係数の値を少しずつ変えながら繰り返し計算され、すなわち所定地点に係る複数の推計水位を求める。なお、区分涵養量は区分涵養量レンジ内でその値が変更され、同様に区分透水係数は区分透水係数レンジ内でその値が変更される。そのため推計量レンジ設定手段105は、区分涵養量レンジにおける変化幅(以下、「涵養量ピッチ」という。)や、区分透水係数レンジにおける変化幅(以下、「透水係数ピッチ」という。)を設定する仕様とすることができる。例えば、区分涵養量(あるいは、区分透水係数)の値を少しずつ変える際、その下限値からスタートするとともに、前回の区分涵養量(区分透水係数)に涵養量ピッチ(あるいは、透水係数ピッチ)を加算することによって区分涵養量(区分透水係数)を変えていくわけである。
【0029】
(検証地点設定手段)
検証地点設定手段106は、対象領域のうち任意の地点を設定する手段であり、オペレータが地下水の状況を把握したい地点(以下、「検証地点」という。)を座標(2次元座標や3次元座標)とともに設定するものである。例えば、ディスプレイ等に重畳表示された3D地形モデルと空間区分を目視しながら、オペレータがポインティングデバイス(マウスやタッチパネル、ペンタブレット、タッチパッド、トラックパッド、トラックボールなど)やキーボードを利用して検証地点を3D地形モデル上に入力し、この入力に基づいて検証地点設定手段106が検証地点を設定する仕様とすることができる。もちろんオペレータが入力した数だけ、すなわち1または2以上の検証地点を設定することができる。
【0030】
(検証水位算出手段)
検証水位算出手段107は、地下水面高設定手段103によって設定された地下水面高に基づいて、検証地点における地下水の高さを求める手段である。なお便宜上ここでは、地下水面高に基づいて算出された水位のことを「検証水位」ということとする。図5にも示すように、地下水面高設定手段103によって設定された地下水面高は、等高線で表示することができ、すなわち任意地点の水位を求めることができる。したがって、検証地点設定手段106によって設定された検証地点(特に、平面座標)を条件とすれば、その水位(つまり、検証水位)を求めることができるわけである。もちろん、2以上の検証地点が設定されている場合は、それぞれの検証地点で(つまり、2以上の)検証水位が算出される。
【0031】
(推計水位算出手段)
推計水位算出手段108は、区分涵養量や区分透水係数に基づいて検証地点における推計水位を求める手段である。もちろん、2以上の検証地点が設定されている場合は、それぞれの検証地点で(つまり、2以上の)推計水位が算出される。既述したとおり推計水位算出手段108は、区分涵養量レンジと区分透水係数レンジのうちいずれか一方のみを設定する仕様とすることもできるし、区分涵養量レンジと区分透水係数レンジの両方を設定する仕様とすることもできる。したがって、推計水位算出手段108が区分涵養量レンジのみを設定した場合、当然ながら推計水位算出手段108は区分涵養量に基づいて推計水位を求め、推計水位算出手段108が区分透水係数レンジのみを設定した場合、推計水位算出手段108は区分透水係数に基づいて推計水位を求め、推計水位算出手段108が区分涵養量レンジと区分透水係数レンジを設定した場合、推計水位算出手段108は区分涵養量レンジと区分透水係数レンジ(あるいは、この場合も区分涵養量のみや区分透水係数レンジのみ)に基づいて推計水位を求めることとなる。
【0032】
また推計水位算出手段108は、区分涵養量レンジ内で区分涵養量の値を変更しながら、あるいは区分透水係数レンジ内で区分透水係数の値を変更しながら繰り返し計算することによって、検証地点に係る複数の推計水位を求める。すなわち、推計水位算出手段108が区分涵養量に基づいて推計水位を求める場合は区分涵養量の値を変更しながら、推計水位算出手段108が区分透水係数に基づいて推計水位を求める場合は区分透水係数の値を変更しながら、推計水位算出手段108が区分涵養量と区分透水係数に基づいて推計水位を求める場合は区分涵養量と区分透水係数の値をともに変更しながら、複数の推計水位を求めていく。このとき、推計量レンジ設定手段105によって設定された涵養量ピッチや透水係数ピッチを用いて、区分涵養量や区分透水係数を変えていくことができるのは既述したとおりである。
【0033】
上記したとおり推計水位算出手段108は、区分涵養量や区分透水係数の値を変更しながら繰り返し計算を実行する。そして、区分涵養量や区分透水係数は、空間区分ごとにそれぞれ値が異なることが想定される。したがって推計水位算出手段108は、空間区分ごとにそれぞれ区分涵養量や区分透水係数の値を変更しながら繰り返し計算を実行することとなる。仮に、n(nは自然数)種類の空間区分が設定されるとともに、それぞれの空間区分でm(mは自然数)個の数値(区分涵養量や区分透水係数)で計算する場合、mのn乗(m)回だけ繰り返し計算が実行され、m種類の推計水位が得られる。そのため推計水位算出手段108は、所定のプログラムによってコンピュータ装置に演算処理を実行させることで、自動的に繰り返し計算を実行する仕様にするとよい。
【0034】
(諸元値決定手段)
既述したとおり従来技術は、地下水に関する解析を行うにあたって、現地で実測して得られた地下水位を検証用の水位として用いていたが、この場合、例えば遠隔地や進入困難な場所に赴くことが求められる。そこで本願発明では、地下水面高設定手段103によって設定された地下水面高を検証用の水位(つまり、検証水位)として利用することで、現地で地下水位を実測するという不都合を回避することとした。
【0035】
諸元値決定手段109は、区分涵養量や区分透水係数を決定する手段である。具体的には、検証地点における検証水位と複数種類(例えば、m種類)の推計水位を照らし合わせ、この検証水位に最も近い(あるいは同一の)推計水位を抽出するとともに、その推計水位を算出した際の区分涵養量や区分透水係数を検出する。便宜上ここでは、検証水位と照らし合わせる段階における区分涵養量や区分透水係数のことをそれぞれ「暫定区分涵養量」、「暫定区分透水係数」と、最終的に検出された区分涵養量や区分透水係数のことをそれぞれ「決定区分涵養量」、「決定区分透水係数」ということとする。
【0036】
ところで、2以上の検証地点が設定されているときは、それぞれの検証地点において検証水位と推計水位を照らし合わせることとなる。この場合、検証水位と推計水位との較差(例えば、絶対値)の合計が最小となるケースを抽出し、そのケースに係る暫定区分涵養量や暫定区分透水係数を、決定区分涵養量や決定区分透水係数として決定するとよい。あるいは、検証地点にそれぞれ「重み」を付与するとともに、検証水位と推計水位との較差(例えば、絶対値)に「重み」を乗じた値の合計が最小となるケースを抽出する仕様とすることもできる。
【0037】
(処理の流れ)
以下、図8を参照しながら地下水諸元推定システム100の主な処理について詳しく説明する。図8は、本願発明の地下水諸元推定システム100の主な処理の流れを示すフロー図である。なおこのフロー図では、中央の列に実施する行為を示し、左列にはその行為に必要なものを、右列にはその行為から生ずるものを示している。また地下水諸元推定システム100は、地下水諸元として区分ごとに涵養量(区分涵養量)と透水係数(区分透水係数)を推定するものであり、区分涵養量のみによって推計水位を求めたうえで区分涵養量を推定することも、区分透水係数のみによって推計水位を求めたうえで区分透水係数を推定することもできるが、便宜上ここでは区分涵養量と区分透水係数によって推計水位を求めたうえで区分涵養量と区分透水係数を推定する例で説明する。
【0038】
図8に示すように、まず3D地形モデル記憶手段110から対象領域の3次元地形モデルを読み出し、河道抽出手段101がその3次元地形モデルに基づいて河道を抽出する(図8のStep201)。河道抽出手段101によって河道が抽出されると、湧水点抽出手段102がその河道に基づいて湧水点を抽出し(図8のStep202)、地下水面高設定手段103がその湧水点の標高に基づいて地下水面高を設定する(図8のStep203)。
【0039】
他方、人(例えば、技術者など)が地形と地質情報を勘案したうえで対象領域のゾーニングを実施し、オペレータが空間区分分類手段104を操作することによってゾーニングの結果を空間区分として設定する(図8のStep204)。なお、技術者などがゾーニングを行う際には、3D地形モデル記憶手段110に記憶された3次元地形モデルを地形情報として利用するとともに、地質情報記憶手段111に記憶された地質情報を利用するとよい。また、「空間区分の分類(図8のStep204)」は、「河道の抽出(図8のStep201)」に先立って処理することもできるし、「河道の抽出(図8のStep201)」~「地下水面高の設定(図8のStep203)」と並行して処理することもできる。
【0040】
次いで、オペレータが空間区分ごとに区分涵養量と区分透水係数の下限値と上限値を入力し、この入力値に基づいて推計量レンジ設定手段105が空間区分ごとに区分涵養量レンジと区分透水係数レンジを設定する(図8のStep205)。そしてオペレータが、ディスプレイに重畳表示された3D地形モデルと空間区分を目視しながら、ポインティングデバイスなどを操作することによって検証地点を3D地形モデル上に入力し、この入力に基づいて検証地点設定手段106が検証地点を設定する(図8のStep206)。
【0041】
検証地点設定手段106によって検証地点が設定されると、検証水位算出手段107が検証地点における検証水位を算出し(図8のStep207)、推計水位算出手段108が検証地点における推計水位を算出する(図8のStep208)。このとき推計水位算出手段108は、空間区分ごとにそれぞれ暫定区分涵養量と暫定区分透水係数(以下、これらを総称して「暫定区分諸元値」という。)を変更しながら繰り返し計算を実行し、複数種類(例えば、m種類)の推計水位を求める(図8のStep209)。
【0042】
検証水位算出手段107によって検証水位が算出され、さらに推計水位算出手段108によって複数種類の推計水位が算出されると、諸元値決定手段109が検証水位と複数の推計水位を照らし合わせ、この検証水位に最も近い(あるいは同一の)推計水位を抽出する。そして、ここで抽出された推計水位を算出したときの暫定区分諸元値(暫定区分涵養量と暫定区分透水係数)を、それぞれ決定区分涵養量と決定区分透水係数として決定する(図8のStep210)。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本願発明の地下水諸元推定システム100は、遠隔地や進入困難な場所など様々な地域を対象に利用することができる。本願発明が、改正水循環基本計画法が推進する地下水の適正な保全及び利用に関する施策や、SDGsが唱える水資源問題の解決などにとって有益な手段となり得ることを考えれば、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献が期待できる発明といえる。
【符号の説明】
【0044】
100 本願発明の地下水諸元推定システム
101 (地下水諸元推定システムの)河道抽出手段
102 (地下水諸元推定システムの)湧水点抽出手段
103 (地下水諸元推定システムの)地下水面高設定手段
104 (地下水諸元推定システムの)空間区分分類手段
105 (地下水諸元推定システムの)推計量レンジ設定手段
106 (地下水諸元推定システムの)検証地点設定手段
107 (地下水諸元推定システムの)検証水位算出手段
108 (地下水諸元推定システムの)推計水位算出手段
109 (地下水諸元推定システムの)諸元値決定手段
110 (地下水諸元推定システムの)3D地形モデル記憶手段
111 (地下水諸元推定システムの)地質情報記憶手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8