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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129194
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】センサ素子およびガスセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20240919BHJP
   G01N 27/409 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
G01N27/416 331
G01N27/409 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038228
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 勇太
【テーマコード(参考)】
2G004
【Fターム(参考)】
2G004BB04
2G004BC02
2G004BE02
2G004BH06
2G004ZA04
(57)【要約】
【課題】水が外側リード部の内部を移動してコネクタ電極に到達するのを抑制する。
【解決手段】被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するためのセンサ素子20は、長手方向に沿った両端である前端および後端、長手方向に沿った表面である第1面60aを有し前端側が被測定ガスに晒される素子本体60と、第1面60aの前端側に配設された外側電極64と、第1面60aの後端側に配設され且つ外部と電気的に導通するための上側コネクタ電極71と、第1面60aに配設され且つ外側電極64と上側コネクタ電極71とを電気的に導通する外側リード線75とを備える。外側リード線75の導通経路の長さL1と外側リード線75の長手方向における長さL2との長さ比R(=L1/L2)は、1.05以上である。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するためのセンサ素子であって、
長手方向に沿った両端である前端および後端、前記長手方向に沿った表面である側面を有し、前記前端側が前記被測定ガスに晒される素子本体と、
前記側面の前記前端側に配設された外側電極と、
前記側面の前記後端側に配設され、外部と電気的に導通するためのコネクタ電極と、
前記側面に配設され、前記外側電極と前記コネクタ電極とを電気的に導通する外側リード部と、
を備え、
前記外側リード部の導通経路の長さL1と前記外側リード部の前記長手方向における長さL2との長さ比R(=L1/L2)は、1.05以上である、
センサ素子。
【請求項2】
請求項1記載のセンサ素子であって、
前記長さ比Rは、1.10以上である、
センサ素子。
【請求項3】
請求項1または2記載のセンサ素子であって、
前記外側リード部は、局所的に肥大化した肥大部を有する、
センサ素子。
【請求項4】
請求項3記載のセンサ素子であって、
前記肥大部は、前記外側リード部のうち、直線状に延在する直線部、曲線状に延在する曲線部、屈曲する屈曲部の劣角側、前記屈曲部の優角側、のうちの少なくとも1つに設けられている、
センサ素子。
【請求項5】
請求項1または2記載のセンサ素子であって、
前記外側リード部は、劣角側の角度が90度以下の屈曲部を有する、
センサ素子。
【請求項6】
請求項1または2記載のセンサ素子であって、
前記外側リード部は、前記外側電極から前記コネクタ電極に向かって前記導通経路を辿ったときに、前記長手方向における前記前端側から前記後端側に向かって延在する第1延在部と、前記長手方向における前記後端側から前記前端側に向かって延在する第2延在部とを有する、
センサ素子。
【請求項7】
請求項1または2記載のセンサ素子であって、
前記素子本体は、前記側面を複数有し、
前記外側電極、前記コネクタ電極、前記外側リード部は、前記複数の側面のうち同一の側面に配設されている、
センサ素子。
【請求項8】
請求項1または2記載のセンサ素子を備えるガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサ素子およびガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の排気ガスなどの被測定ガスにおけるNOxなどの特定ガスの濃度を検出するセンサ素子が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1のセンサ素子は、素子本体と外側電極とコネクタ電極と外側リード部とを備えている。素子本体の前端側は、被測定ガスに晒される。外側電極は、素子本体の側面の前端側に配設されている。コネクタ電極は、素子本体の側面の後端側に配設されており、コネクタの接触部と電気的に導通する。外側リード部は、素子本体の側面に配設されており、外側電極とコネクタ電極とを電気的に導通する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2019/155865号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のようなセンサ素子では、被測定ガス中の水蒸気(水蒸気や水蒸気に溶けた硫酸など)が液化し、液体の水が外側リード部の内部を毛細管現象によりコネクタ電極側に移動する場合がある。この水がコネクタ電極に到達すると、コネクタ電極やコネクタの接触部に錆や腐食が発生し、検出値が異常値となる懸念がある。
【0005】
本発明のセンサ素子およびガスセンサは、水が外側リード部の内部を移動してコネクタ電極に到達するのを抑制することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のセンサ素子およびガスセンサは、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
[1]本発明のセンサ素子は、
被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するためのセンサ素子であって、
長手方向に沿った両端である前端および後端、前記長手方向に沿った表面である側面を有し、前記前端側が前記被測定ガスに晒される素子本体と、
前記側面の前記前端側に配設された外側電極と、
前記側面の前記後端側に配設され、外部と電気的に導通するためのコネクタ電極と、
前記側面に配設され、前記外側電極と前記コネクタ電極とを電気的に導通する外側リード部と、
を備え、
前記外側リード部の導通経路の長さL1と前記外側リード部の前記長手方向における長さL2との長さ比R(=L1/L2)は、1.05以上である、
ことを要旨とする。
【0008】
本発明のセンサ素子では、外側リード部の導通経路の長さL1と外側リード部の長手方向における長さL2との長さ比R(=L1/L2)は、1.05以上である。すなわち、外側リード部の導通経路の長さL1は、長さ比Rが1.05未満である場合、例えば、外側リード部が全体として略直線状で延在する場合に比して長くなっている。これにより、センサ素子(素子本体)の前端側が被測定ガスに晒された場合に、被測定ガス中の水蒸気(水蒸気や水蒸気に溶けた硫酸など)が液化し、液体の水が外側リード部の内部を毛細管現象によりコネクタ電極側に移動しても、その水がコネクタ電極に到達するのを抑制できる。発明者らは、このことを実験や解析により確認した。
【0009】
[2]上述したセンサ素子([1]に記載のセンサ素子)において、前記長さ比Rは、1.10以上であるものとしてもよい。こうすれば、液体の水がコネクタ電極に到達するのをより抑制できる。
【0010】
[3]上述したセンサ素子([1]または[2]に記載のセンサ素子)において、前記外側リード部は、局所的に肥大化した肥大部を有するものとしてもよい。こうすれば、肥大部に液体の水が貯留されたり、肥大部による外側リード部の断面積の増加により水の移動速度が遅くなったりして、水がコネクタ電極に到達するのをより抑制できる。
【0011】
[4]この場合([3]に記載のセンサ素子)において、前記肥大部は、前記外側リード部のうち、直線状に延在する直線部、曲線状に延在する曲線部、屈曲する屈曲部の劣角側、前記屈曲部の優角側、のうちの少なくとも1つに設けられているものとしてもよい。
【0012】
[5]上述したセンサ素子([1]~[4]の何れかに記載のセンサ素子)において、前記外側リード部は、劣角側の角度が90度以下の屈曲部を有するものとしてもよい。こうすれば、外側リード部の長さL1を長くすることができる。
【0013】
[6]上述したセンサ素子([1]~[5]の何れかに記載のセンサ素子)において、前記外側リード部は、前記外側電極から前記コネクタ電極に向かって前記導通経路を辿ったときに、前記長手方向における前記前端側から前記後端側に向かって延在する第1延在部と、前記長手方向における前記後端側から前記前端側に向かって延在する第2延在部とを有するものとしてもよい。第2延在部を有することにより、外側リード部の長さL1を長くすることができる。
【0014】
[7]上述したセンサ素子([1]~[6]の何れかに記載のセンサ素子)において、前記素子本体は、前記側面を複数有し、前記外側電極、前記コネクタ電極、前記外側リード部は、前記複数の側面のうち同一の側面に配設されているものとしてもよい。
【0015】
[8]本発明のガスセンサは、上述した何れかの態様のセンサ素子([1]~[7]の何れかに記載のセンサ素子)を備えることを要旨とする。したがって、本発明のセンサ素子が奏する効果、例えば、水が外側リード部の内部を移動してコネクタ電極に到達するのを抑制することができる効果などと同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】ガスセンサ10が配管58に取り付けられた様子を示す縦断面図。
図2】センサ素子20の斜視図。
図3】センサ素子20の縦断面図。
図4】センサ素子20の上面図。
図5】比較形態のセンサ素子20Zの上面図。
図6】変形例のセンサ素子220の上面図。
図7】変形例のセンサ素子20Bの上面図。
図8】変形例のセンサ素子20Cの上面図。
図9】変形例のセンサ素子20Dの上面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。図1は、本発明の一実施形態であるガスセンサ10が配管58に取り付けられた様子を示す縦断面図である。図2は、センサ素子20を右上前方から見た斜視図である。図3は、センサ素子20の縦断面を模式的に示す縦断面図である。図4は、センサ素子20の上面図である。図4では、見易さを考慮して、センサ素子20のうち多孔質層80の図示を省略した。本実施形態において、図1図4に示すように、センサ素子20の素子本体60の長手方向を前後方向(長さ方向)とし、素子本体60の固体電解質層の積層方向(厚さ方向)を上下方向とし、前後方向および上下方向に垂直な方向を左右方向(幅方向)とする。
【0018】
図1に示すように、ガスセンサ10は、組立体15と、ナット47と、外筒48と、コネクタ50と、リード線55と、ゴム栓57とを備えている。組立体15は、センサ素子20と、保護カバー30と、素子封止体40とを備えている。ガスセンサ10は、例えば車両の排ガス管などの配管58に取り付けられて、被測定ガスとしての排気ガスに含まれるNOxやO2等の特定ガスの濃度(特定ガス濃度)を測定するために用いられる。本実施形態では、ガスセンサ10は、特定ガス濃度としてNOx濃度を測定するものとした。センサ素子20の長手方向に沿った両端(前端および後端)のうち、前端側が被測定ガスに晒される側である。
【0019】
保護カバー30は、図1に示すように、センサ素子20の前端側を覆う有底筒状の内側保護カバー31と、この内側保護カバー31を覆う有底筒状の外側保護カバー32とを備えている。内側保護カバー31および外側保護カバー32の各々には、被測定ガスを流通させるための複数の孔が形成されている。内側保護カバー31で囲まれた空間として素子室33が形成されており、センサ素子20の第5面60e(前端面)は、この素子室33内に配置されている。
【0020】
素子封止体40は、センサ素子20を封止固定する部材である。素子封止体40は、主体金具42および内筒43を有する筒状体41と、碍子44a~44c(緻密体の一例)と、圧粉体45a,45bと、メタルリング46とを備えている。センサ素子20は、素子封止体40の中心軸(ここでは前後方向に延在する軸)に沿って延在するように配置されており、素子封止体40を軸方向に貫通している。
【0021】
主体金具42は、筒状の金属製部材である。主体金具42は、前側が後側よりも内径の小さい肉厚部42aとなっている。主体金具42のうちセンサ素子20の前端と同じ側(前側)には、保護カバー30が取り付けられている。主体金具42の後端は、内筒43のフランジ部43aと溶接されている。肉厚部42aの内周面の一部は、段差面である底面42bとなっている。この底面42bは、碍子44aが前方に飛び出さないようにこれを押さえている。主体金具42は、軸方向(ここでは前後方向)に沿って主体金具42を貫通する貫通孔を有しており、この貫通孔の内部をセンサ素子20が貫通している。
【0022】
内筒43は、筒状の金属製部材であり、前端にフランジ部43aを有している。内筒43と主体金具42とは、同軸に溶接されている。また、内筒43には、圧粉体45bを内筒43の中心軸方向に押圧するための縮径部43cと、メタルリング46を介して碍子44a~44cおよび圧粉体45a,45bを前側に押圧するための縮径部43dとが形成されている。内筒43は、軸方向(ここでは前後方向)に沿って内筒43を貫通する貫通孔を有しており、この貫通孔の内部をセンサ素子20が貫通している。主体金具42の貫通孔と内筒43の貫通孔とは軸方向に連通しており、これらが筒状体41の貫通孔を構成している。
【0023】
碍子44a~44cおよび圧粉体45a,45bは、筒状体41の貫通孔の内周面とセンサ素子20との間に配置されている。碍子44a~44cは、圧粉体45a,45bのサポーターとしての役割を果たす。碍子44a~44cの材質としては、例えばアルミナ、ステアタイト、ジルコニア、スピネル、コージェライト、ムライトなどのセラミックス、またはガラスを挙げることができる。碍子44a~44cは、緻密な部材であり、その気孔率は例えば1%未満である。碍子44a~44cの各々は、軸方向(ここでは前後方向)に沿って自身を貫通する貫通孔を有する中空柱状の部材であり、この貫通孔の内部をセンサ素子20が貫通している。碍子44a~44cの各々の貫通孔は、本実施形態では、センサ素子20の形状に合わせて、軸方向に垂直な断面が四角形状になっている。圧粉体45a,45bは、例えば粉末を成型したものであり、封止材としての役割を果たす。圧粉体45a,45bの材質としては、例えばタルクのほか、アルミナ粉末、ボロンナイトライドなどのセラミックス粉末が挙げられ、圧粉体45a,45bは、それぞれこれらの少なくとも何れかを含んでいてもよい。圧粉体45a,45bを構成する粒子の平均粒径は、150~300μmであってもよい。圧粉体45aは、碍子44a,44b間に充填され、碍子44a,44bにより軸方向の両側(前後)から挟まれて押圧されている。圧粉体45bは、碍子44b,44c間に充填され、碍子44b,44cにより軸方向の両側(前後)から挟まれて押圧されている。碍子44a~44cおよび圧粉体45a,45bは、主体金具42の肉厚部42aの底面42bと、縮径部43dおよびメタルリング46と、により軸方向に両側(前後)から挟まれて押圧されている。縮径部43c,43dからの押圧力によって、圧粉体45a,45bが筒状体41とセンサ素子20との間で圧縮されることにより、圧粉体45a,45bは、保護カバー30内の素子室33と外筒48内の空間49との間を封止すると共にセンサ素子20を固定している。
【0024】
ナット47は、主体金具42と同軸に主体金具42の外側に固定されている。ナット47の外周面には、雄ネジ部が形成されている。この雄ネジ部は、配管58に溶接された固定用部材59の内周面に設けられた雌ネジ部と螺合される。これにより、ガスセンサ10は、センサ素子20の前端側や保護カバー30の部分が配管58内に突出するように配管58に固定される。
【0025】
外筒48は、筒状の金属製部材であり、内筒43と、センサ素子20の後端側と、コネクタ50とを覆っている。外筒48の内側には、主体金具42の後端部が挿入されている。外筒48の前端部は、主体金具42と溶接されている。外筒48の後端からは、コネクタ50に接続された複数のリード線55が外部に引き出されている。コネクタ50は、ハウジング51と、複数の接触部52とを有する。ハウジング51は、筒状の樹脂部材である。複数の接触部52は、何れも、金属製部材であり、ハウジング51の内側に固定されている。複数の接触部52は、それぞれ、センサ素子20の後端側の表面に配設された複数の上側コネクタ電極71および複数の下側コネクタ電極72のうち対応するコネクタ電極に接触して電気的に導通していると共に、複数のリード線55のうち対応するリード線と電気的に導通している。複数のリード線55は、それぞれ、コネクタ50と、複数の上側コネクタ電極71および複数の下側コネクタ電極72のうちの何れかと介して、センサ素子20の内部の複数の電極64~68およびヒータ69のうちの何れかと電気的に導通している。外筒48とリード線55との隙間は、ゴム栓57によって封止されている。外筒48内の空間49は、基準ガスで満たされている。空間49には、センサ素子20の第6面60f(後端面)が配置されている。
【0026】
センサ素子20は、図2~4に示すように、素子本体60と、検出部63と、ヒータ69と、複数の上側コネクタ電極71と、複数の下側コネクタ電極72と、多孔質層80とを備えている。素子本体60は、ジルコニア(ZrO2)等の酸素イオン伝導性固体電解質層を複数(図3では6個)積層した積層体を有している。素子本体60は、長手方向が前後方向に沿っている直方体形状をしており、上下左右前後の各々の外表面として第1~第6面60a~60fを有している。第1面~第4面60a~60dは、素子本体60の長手方向に沿った表面であり、素子本体60の側面に相当する。第5面60eは、素子本体60の前端面であり、第6面60fは、素子本体60の後端面である。素子本体60の寸法は、例えば、前後方向の長さが25mm以上100mm以下、左右方向の幅が2mm以上10mm以下、上下方向の厚さが0.5mm以上5mm以下であってもよい。素子本体60には、第5面60eに開口して被測定ガスを自身の内部に導入する被測定ガス導入口61と、第6面60fに開口して特定ガス濃度の検出の基準となる基準ガス(ここでは大気)を自身の内部に導入する基準ガス導入口62とが形成されている。
【0027】
検出部63は、被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するためのものである。検出部63は、素子本体60の前端側に配設された複数の電極を有している。本実施形態では、検出部63は、第1面60aに配設された外側電極64と、素子本体60の内部に配設された内側主ポンプ電極65、内側補助ポンプ電極66、測定電極67、基準電極68とを備えている。内側主ポンプ電極65および内側補助ポンプ電極66は、素子本体60の内部の空間の内周面に配設されており、トンネル状の構造を有している。
【0028】
検出部63が被測定ガス中の特定ガス濃度を検出する原理は周知であるため、詳細な説明は省略する。検出部63は、例えば以下のように特定ガス濃度を検出する。検出部63は、外側電極64と内側主ポンプ電極65との間に印加された電圧に基づいて、内側主ポンプ電極65周辺の被測定ガス中の酸素の外部(素子室33)への汲み出しまたは汲み入れを行う。また、検出部63は、外側電極64と内側補助ポンプ電極66との間に印加された電圧に基づいて、内側補助ポンプ電極66周辺の被測定ガス中の酸素の外部(素子室33)への汲み出しまたは汲み入れを行う。これらにより、酸素濃度が所定濃度に調整された被測定ガスが、測定電極67周辺に到達する。測定電極67は、NOx還元触媒として機能し、到達した被測定ガス中の特定ガス(NOx)を還元する。そして、検出部63は、還元後の酸素濃度に応じて測定電極67と基準電極68との間に発生する起電力、または、その起電力に基づいて測定電極67と外側電極64との間に流れる電流を、電気信号として発生させる。このようにして検出部63が発生させた電気信号は、被測定ガス中の特定ガス濃度に応じた値(特定ガス濃度を導出可能な値)を示す信号であり、検出部63が検出した検出値に相当する。
【0029】
ヒータ69は、素子本体60の内部に配設された電気抵抗体である。ヒータ69は、外部から給電されることにより発熱して素子本体60を加熱する。ヒータ69は、素子本体60を形成する固体電解質層の加熱および保温を行って、固体電解質層が活性化する温度(例えば800℃)に調整することが可能となっている。
【0030】
複数の上側コネクタ電極71および複数の下側コネクタ電極72は、それぞれ素子本体60の側面の何れかの後端側に配設されており、外部と電気的に導通するための電極である。複数の上側コネクタ電極71および複数の下側コネクタ電極72は、いずれも多孔質層80に被覆されずに露出している。本実施形態では、4個の上側コネクタ電極71(図4では、71a~71d)は、左右方向に沿って並べられて、第1面60a(上面)の後端側に配設されている。4個の下側コネクタ電極72は、左右方向に沿って並べられて、第1面60a(上面)に対向する第2面60b(下面)の後端側に配設されている。4個の上側コネクタ電極71(71a~71d)および4個の下側コネクタ電極72は、それぞれ検出部63の複数の電極64~68およびヒータ69の何れかと電気的に導通している。本実施形態では、上側コネクタ電極71aが測定電極67と導通し、上側コネクタ電極71bが外側電極64と導通し、上側コネクタ電極71cが内側補助ポンプ電極66と導通し、上側コネクタ電極71dが内側主ポンプ電極65と導通し、3個の下側コネクタ電極72がそれぞれヒータ69と導通し、1個の下側コネクタ電極72が基準電極68と導通している。上側コネクタ電極71bと外側電極64とは、第1面60aに配設された外側リード線75を介して導通している(図3および図4参照)。それ以外のコネクタ電極は、素子本体60内部に配設されたリード線やスルーホールなどを介して、対応する電極またはヒータ69と導通している。
【0031】
外側リード線75は、例えば白金(Pt)等の貴金属またはタングステン(W)、モリブデン(Mo)等の高融点金属を含む導電体である。外側リード線75は、貴金属または高融点金属と、素子本体60に含まれる酸素イオン伝導性固体電解質(本実施形態ではジルコニア)と、を含むサーメットの導電体であることが好ましい。本実施形態では、外側リード線75は、白金とジルコニアとを含むサーメットの導電体とした。外側リード線75は、気孔率が5%以上の多孔質体である。外側リード線75の気孔率は、10%以上であってもよい。外側リード線75の気孔率は、40%以下であってもよい。外側リード線75の線幅(太さ)は、例えば0.1mm以上1.0mm以下であってもよい。外側リード線75の線厚(厚さ)は、例えば1.0μm以上30.0μm以下であってもよい。外側リード線75は、全体としてクランク状(つづら折り状)に形成されている。外側リード線75は、第1延在部76と第2延在部77と屈曲部78とをそれぞれ複数有する。複数の第1延在部76は、それぞれ、前後方向に直線状に延在している。複数の第2延在部77は、それぞれ、左右方向に直線状に延在している。複数の屈曲部78は、それぞれ、対応する第1延在部76と対応する第2延在部77との繋がり部(外側リード線75の折れ曲がり部)である。複数の屈曲部78は、それぞれ、劣角側の角度θaが90度となっている。外側リード線75の導通経路(延在方向)の長さL1と外側リード線75の前後方向(素子本体60の長手方向)における長さL2(図4参照)との長さ比R(=L1/L2)は、1.05以上である。外側リード線75の導通経路の長さL1は、例えば、外側リード線75の線幅方向における中心を外側リード線75の導通経路(延在方向)に沿って結んだ線の長さとして定義される。長さL2は、例えば、4.0mm以上60.0mm以下であってもよい。長さ比Rは、1.10以上であることが好ましい。外側リード線75と素子本体60の第1面60aとの間には、外側リード線75と素子本体60の固体電解質層とを絶縁するための図示しない絶縁層が配設されていてもよい。
【0032】
外側リード線75の気孔率は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察して得られた画像(SEM画像)を用いて以下のように導出した値とする。まず、外側リード線75の断面を観察面とするように外側リード線75の厚さ方向に沿ってセンサ素子20を切断し、切断面の樹脂埋めおよび研磨を行って観察用試料とする。続いて、SEMの倍率を1000倍から10000倍に設定して観察用試料の観察面を撮影することで外側リード線75のSEM画像を得る。次に、得た画像を画像解析することにより、画像中の画素の輝度データの輝度分布から判別分析法(大津の2値化)で閾値を決定する。その後、決定した閾値に基づいて画像中の各画素を物体部分と気孔部分とに2値化して、物体部分の面積と気孔部分の面積とを算出する。そして、全面積(物体部分と気孔部分の合計面積)に対する気孔部分の面積の割合を、気孔率(単位:%)として導出する。後述する内側多孔質層81(第1内側多孔質層83および第2内側多孔質層84)および外側多孔質層85の気孔率も、同様にして導出した値とする。
【0033】
多孔質層80は、上側、下側コネクタ電極71,72が配設された素子本体60の側面すなわち第1、第2面60a,60bの少なくとも一部を被覆する多孔質体である。多孔質層80は、第1、第2面60a,60bをそれぞれ被覆する内側多孔質層81と、内側多孔質層81の外側に配設された外側多孔質層85とを備えている。
【0034】
内側多孔質層81は、第1面60aの少なくとも一部を被覆する第1内側多孔質層83と、第2面60bの少なくとも一部を被覆する第2内側多孔質層84とを備えている。具体的には、第1内側多孔質層83は、第1面60aのうち上側コネクタ電極71が存在する領域を除いて被覆している。第1内側多孔質層83は、第1面60aに加えて、外側電極64および外側リード線75も被覆している。第1内側多孔質層83は、例えば、被測定ガス中の硫酸などの成分から外側電極64および外側リード線75を保護して、これらの腐食などを抑制する保護層としての役割を果たす。第2内側多孔質層84は、第2面60bのうち下側コネクタ電極72が存在する領域を除いて被覆している。
【0035】
外側多孔質層85は、第1~第5面60a~60eのそれぞれの少なくとも一部を被覆している。外側多孔質層85は、第1面60aおよび第2面60bについては、内側多孔質層81を被覆することにより、これらの面を被覆している。外側多孔質層85は、内側多孔質層81と比べて前後方向の長さが短くなっており、内側多孔質層81とは異なり素子本体60の前端および前端付近の領域だけを被覆している。これにより、外側多孔質層85は、素子本体60のうち検出部63の複数の電極64~68の周辺部分、言い換えると、素子本体60のうち素子室33内に配置されて被測定ガスに晒される部分を被覆している。この結果、外側多孔質層85は、例えば被測定ガス中の水等が付着して素子本体60にクラックが生じるのを抑制する保護層としての役割を果たす。
【0036】
多孔質層80は、例えばアルミナ多孔質体、ジルコニア多孔質体、スピネル多孔質体、コージェライト多孔質体、チタニア多孔質体、マグネシア多孔質体などのセラミックス多孔質体からなるものである。本実施形態では、多孔質層80は、アルミナ多孔質体からなるものとした。第1内側多孔質層83および第2内側多孔質層84の各々の厚さは、例えば5μm以上40μm以下であってもよい。外側多孔質層85の厚さは、例えば40μm以上800μm以下であってもよい。多孔質層80の気孔率は、10%以上である。多孔質層80は外側電極64や被測定ガス導入口61を覆っているが、多孔質層80の気孔率が10%以上であれば、被測定ガスは多孔質層80を通過できる。内側多孔質層81の気孔率は、10%以上50%以下であってもよい。外側多孔質層85の気孔率は、10%以上85%以下であってもよい。外側多孔質層85は、内側多孔質層81と気孔率が同一でもよいし、内側多孔質層81よりも気孔率が高くてもよい。
【0037】
次に、こうして構成されたガスセンサ10の製造方法について説明する。以下、センサ素子20の製造方法について説明した後に、センサ素子20を組み込んだガスセンサ10の製造方法について説明する。
【0038】
センサ素子20の製造方法について説明する。まず、素子本体60に対応する複数(ここでは6枚)の未焼成のセラミックスグリーンシートを用意する。各グリーンシートには、必要に応じて切欠や貫通孔や溝などを打ち抜き処理などによって設けたり、電極や外側リード線75などの配線パターンをスクリーン印刷したりする。また、焼成後に第1内側多孔質層83および第2内側多孔質層84となる未焼成多孔質層についても、スクリーン印刷によりグリーンシートのうち第1、第2面60a,60bに対応する面に形成する。その後に、複数のグリーンシートを積層する。積層された複数のグリーンシートは、焼成後に素子本体となる未焼成素子本体であり、未焼成多孔質層を備えている。そして、この未焼成素子本体を焼成して、第1内側多孔質層83、第2内側多孔質層84を備える素子本体60を得る。続いて、プラズマ溶射により外側多孔質層85を形成して、センサ素子20を得る。なお、多孔質層80の製造方法としては、スクリーン印刷やプラズマ溶射の他に、ゲルキャスト法、ディッピングなどを用いることもできる。
【0039】
センサ素子20を組み込んだガスセンサ10の製造方法について説明する。まず、筒状体41の貫通孔の内部にセンサ素子20を軸方向に貫通させ、且つ、筒状体41の内周面とセンサ素子20との間に碍子44a、圧粉体45a、碍子44b、圧粉体45b、碍子44c、メタルリング46をこの順に配置する。次に、メタルリング46を押圧して圧粉体45a,45bを圧縮し、その状態で縮径部43c,43dを形成することによって素子封止体40を製造し、筒状体41の内周面とセンサ素子20との間を封止する。その後に、素子封止体40に保護カバー30を溶接し、ナット47を取り付けて組立体15を得る。そして、ゴム栓57内を通したリード線55と、これに接続されたコネクタ50とを用意して、コネクタ50をセンサ素子20の後端側に接続し、コネクタ50の複数の接触部52を、それぞれ、複数の上側コネクタ電極71および下側コネクタ電極72のうち対応するコネクタ電極に電気的に接続する。その後に、外筒48を主体金具42に溶接固定して、ガスセンサ10を得る。
【0040】
次に、こうして構成されたガスセンサ10の使用例について説明する。ガスセンサ10が図1のように配管58に取り付けられた状態で、配管58内を被測定ガスが流れると、被測定ガスは保護カバー30内を流通して素子室33内に流入し、センサ素子20の前端側が被測定ガスに晒される。そして、被測定ガスが多孔質層80を通過して外側電極64に到達および被測定ガス導入口61からセンサ素子20内に到達すると、上述したようにこの被測定ガス中のNOx濃度に応じた電気信号を検出部63が発生させる。この電気信号を上側、下側コネクタ電極71,72を介して取り出すことにより、電気信号に基づいてNOx濃度が検出される。
【0041】
このとき、被測定ガス中に水蒸気(水蒸気や水蒸気に溶けた硫酸など)が含まれており、この水蒸気が液化し、液体の水が外側リード線75の内部を毛細管現象により上側コネクタ電極71(具体的には、上側コネクタ電極71b)側に移動する場合がある。この水が上側コネクタ電極71に到達すると、上側コネクタ電極71や、上側コネクタ電極71と接触するコネクタ50の接触部52に錆や腐食が発生し、検出値が異常値となる懸念がある。例えば、図5に示す比較形態のセンサ素子20Zでは、外側リード線75zは、全体として直線状で前後方向に延在している。このセンサ素子20Zでは、長さ比Rが1.05未満、具体的には1.00であり、液体の水が外側リード線75の内部を上側コネクタ電極71側に移動して上側コネクタ電極71に到達する懸念がある。これに対して、本実施形態のセンサ素子20では、上述したように、長さ比Rが1.05以上である。これにより、液体の水が外側リード線75の内部を上側コネクタ電極71側に移動しても、その水が上側コネクタ電極71に到達するのを抑制できる。この結果、上側コネクタ電極71や、コネクタ50の接触部52に錆や腐食が発生するのを抑制し、検出値が異常値となるのを抑制できる。しかも、長さ比Rが1.10以上である場合、液体の水が外側リード線75の内部を上側コネクタ電極71側に移動して上側コネクタ電極71に到達するのをより抑制できる。発明者らは、これらのことを実験や解析により確認した。
【0042】
ここで、本実施形態の構成要素と本発明の構成要素との対応関係を明らかにする。本実施形態のセンサ素子20が本発明のセンサ素子に相当し、素子本体60が素子本体に相当し、第1面60aが側面に相当し、外側電極64が外側電極に相当し、上側コネクタ電極71(71b)がコネクタ電極に相当し、外側リード線75が外側リード部に相当する。
【0043】
以上詳述した本実施形態のセンサ素子20によれば、外側リード線75の導通経路の長さL1と外側リード線75の前後方向(素子本体60の長手方向)における長さL2との長さ比R(=L1/L2)が1.05以上である。これにより、液体の水(水や水に溶けた硫酸など)が外側リード線75の内部を上側コネクタ電極71側に移動しても、長さ比Rが1.05未満である場合に比して、その水が上側コネクタ電極71に到達するのを抑制できる。しかも、長さ比Rが1.10以上である場合、水が上側コネクタ電極71に到達するのをより抑制できる。
【0044】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0045】
上述した実施形態では、センサ素子20の外側リード線75は、直線状の第1延在部76および第2延在部77と、劣角側の角度θaが90度の屈曲部78とをそれぞれ複数有していたが、これに限定されない。例えば、複数の第1延在部76のうちの少なくとも一部は、曲線状に形成されてもよい。複数の第2延在部77のうちの少なくとも一部は、曲線状に形成されてもよい。複数の屈曲部78のうちの少なくとも一部は、角度θaが90度未満または90度超過であってもよい。
【0046】
上述した実施形態では、センサ素子20は、外側リード線75を備えていたが、これに限定されない。例えば、図6の変形例のセンサ素子220に示すように、外側リード線275を備えていてもよい。図6のセンサ素子220の外側リード線275は、全体として、前後方向にN字状と逆N字状とを交互に組み合わせた形状に形成されている。外側リード線275は、第1延在部276と第2延在部277と屈曲部278とをそれぞれ複数有する。複数の第1延在部276は、それぞれ、外側電極64から上側コネクタ電極71に向かって外側リード部75の導通経路を辿ったときに、前後方向における前側(素子本体60の前端側)から後側(素子本体60の後端側)に向かって直線状に延在している部分である。複数の第2延在部277は、それぞれ、外側電極64から上側コネクタ電極71に向かって外側リード部75の導通経路を辿ったときに、前後方向における後側から前側に向かって且つ左右方向に傾きをもって直線状に延在している部分である。複数の屈曲部278は、それぞれ、対応する第1延在部276と対応する第2延在部277との繋がり部(外側リード線275の折れ曲がり部)である。複数の屈曲部278は、それぞれ、劣角側の角度θbが90度未満となっている。この変形例でも、長さ比Rは、1.05以上である。長さ比Rは、1.10以上であることが好ましい。なお、複数の第1延在部276のうちの少なくとも一部は、曲線状に形成されてもよい。複数の第2延在部277のうちの少なくとも一部は、曲線状に形成されてもよい。複数の屈曲部278のうちの少なくとも一部は、劣角側の角度θbが90度以上であってもよい。
【0047】
上述した実施形態では、センサ素子20は、外側リード線75を備えていたが、これに限定されない。例えば、図7図8図9の変形例のセンサ素子20B,20C,20Dに示すように、外側リード線75b,75c,75dを備えていてもよい。
【0048】
図7のセンサ素子20Bの外側リード線75bは、図4のセンサ素子20の外側リード線75の複数の第1延在部76の少なくとも一部および複数の第2延在部77の少なくとも一部に、局所的に肥大化した肥大部76b,77bが設けられた形状に形成されている。複数の肥大部76bは、それぞれ、対応する第1延在部76に対して左側または右側に設けられている。複数の肥大部77bは、それぞれ、対応する第2延在部77に対して前側または後側に設けられている。複数の肥大部76bおよび複数の肥大部77bは、それぞれ、四角形状または円形状に形成されている。なお、肥大部76bの数および肥大部77bの数は、それぞれ幾つであってもよい。肥大部76bは、第1延在部76に対して左側および右側のうちの一方にだけ設けられてもよい。肥大部76bは、第1延在部76の同一位置で左側および右側の両側に設けられてもよい。肥大部77bは、第2延在部77に対して前側および後側のうちの一方にだけ設けられてもよい。肥大部77bは、第2延在部77の同一位置で前側および後側の両方に設けられてもよい。肥大部76bおよび肥大部77bのうちの一方だけが設けられてもよい。肥大部76bの形状および肥大部77bの形状は、如何なる形状であってもよい。
【0049】
図8のセンサ素子20Cの外側リード線75cは、図4のセンサ素子20の外側リード線75の複数の屈曲部78の少なくとも一部の劣角側(内周側)に、局所的に肥大化した肥大部78cが設けられた形状に形成されている。複数の肥大部78cは、それぞれ、三角形状に形成されている。なお、肥大部78cの数は、幾つであってもよい。肥大部78cの形状は、如何なる形状であってもよい。
【0050】
図9のセンサ素子20Dの外側リード線75dは、図4のセンサ素子20の外側リード線75の複数の屈曲部78の少なくとも一部の優角側(外周側)に、局所的に肥大化した肥大部78dが設けられた形状に形成されている。複数の肥大部78dは、それぞれ、四角形状または円形状に形成されている。なお、肥大部78dの数は、幾つであってもよい。肥大部78dの形状は、如何なる形状であってもよい。
【0051】
センサ素子20Bにおいて、外側リード線75bの導通経路(延在方向)の長さL1は、それぞれ、例えば、肥大部76b,77bを除いた部分(図4に示したセンサ素子20の外側リード線75と同一形状)の、外側リード線75bの線幅方向における中心を外側リード線75bの導通経路(延在方向)に沿って結んだ線の長さとして定義される。センサ素子20C,20Dにおける外側リード線75c,75dの導通経路(延在方向)の長さL1も同様である。これらの場合、液体の水(水や水に溶けた硫酸など)が外側リード線75b,75c,75dの内部を上側コネクタ電極71側に移動するときに、肥大部76b,77b,78c,78dに水が貯留されたり、肥大部76b,77b,78c,78dによる外側リード線75b,75c,75dの断面積の増加により水の移動速度が遅くなったりして、水が上側コネクタ電極71に到達するのを抑制できる。なお、外側リード線75の第1延在部76および/または第2延在部77と、外側リード線75の屈曲部78の劣角側(内周側)と、屈曲部78の優角側(外周側)と、のうちの複数に肥大部が設けられてもよい。
【0052】
図4のセンサ素子20の外側リード線75を図7図9のセンサ素子20B,20C,20Dの外側リード線75b,75c,75dなどに置き換えてもよい旨について説明した。図6に示したセンサ素子220の外側リード線275についても、同様に考えることができる。すなわち、外側リード線275の第1延在部276および/または第2延在部277と、外側リード線275の屈曲部278の劣角側(内周側)と、屈曲部278の優角側(外周側)と、のうちの少なくとも1つに肥大部が設けられてもよい。
【0053】
上述した実施形態では、センサ素子20の第1内側多孔質層83は、第1面60aのうち上側コネクタ電極71が存在する領域を除いて被覆していたが、これに限定されない。例えば、第1内側多孔質層83は、第1面60aのうち、第1面60aの前端から上側コネクタ電極71の前端部またはそれよりも前側の所定位置までの領域を被覆していてもよい。また、第1内側多孔質層83のうちの少なくとも一部よりも後側で且つ上側コネクタ電極71よりも前側に、緻密層および/または隙間領域が設けられてもよい。緻密層は、気孔率が10%未満の緻密な層である。緻密層は、気孔率を除いて、多孔質層80と同様に形成することができる。隙間領域は、素子本体60の第1面60aを被覆していない(多孔質層も緻密層も存在しない)領域である。緻密層および/または隙間領域は、例えば、3個の碍子44a~44cの何れかの内周面とセンサ素子20の長手方向における位置が重複するように配置される。同様に、第2内側多孔質層84のうちの少なくとも一部よりも後側で且つ下側コネクタ電極72よりも前側に、緻密層および/または隙間領域が設けられてもよい。
【0054】
上述した実施形態では、センサ素子20は、外側多孔質層85を備えていたが、これを備えていなくてもよい。また、センサ素子20は、第1内側多孔質層83および第2内側多孔質層84を備えていたが、これらのうちの少なくとも一方を備えていなくてもよい。
【0055】
上述した実施形態では、素子本体60は、直方体形状としたが、これに限定されない。例えば、素子本体60は、円筒形状または円柱形状であってもよい。この場合、素子本体60は、側面を1つだけ有することになる。
【0056】
上述した実施形態では、ガスセンサ10は、2個の圧粉体45a,45bと3個の碍子44a~44cとを備えていたが、1または複数の圧粉体と複数の碍子(緻密体)とを備えていればよい。例えば、ガスセンサ10から碍子44bが取り除かれた構成としてもよい。この場合、圧粉体45a,45bが互いに前後方向において隣接する構成であるため、圧粉体45a,45bが一体化されていてもよい。
【実施例0057】
以下に、センサ素子を具体的に作製した例を実施例として説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0058】
[比較例1および実施例1~5]
図1図4のガスセンサ10と同様の製造方法によりセンサ素子をそれぞれ作製して、比較例1および実施例1~5とした。比較例1および実施例1~5では、多孔質層を形成せずに、外側リード線を露出させた。これらのセンサ素子の素子本体の寸法について、長さを67.5mm、幅を4.25mm、厚さを1.45mmとした。また、外側リード線について、線幅を0.5mmとし、線厚を10μmとし、気孔率を10%とした。さらに、長さL2を57.9mmとした。表1に示すように、比較例1では、長さ比Rを1.00とし、肥大部を無しとした。具体的には、外側リード線を図5のような形状とした。実施例1では、長さ比Rを1.05とし、肥大部を無しとした。実施例2では、長さ比Rを1.10とし、肥大部を無しとした。実施例3では、長さ比Rを1.05とし、外側リード線の直線部(直線状に延在している部分)に肥大部を設けた。実施例4では、長さ比Rを1.05とし、外側リード線の屈曲部の劣角側(内周側)に肥大部を設けた。実施例5では、長さ比Rを1.05とし、外側リード線の屈曲部の優角側(外周側)に肥大部を設けた。実施例1~5では、外側リード線は、何れも複数の直線部と複数の屈曲部とを有し、直線部や屈曲部の数、直線部の長さ、屈曲部の角度を調整することにより、長さ比Rを異ならせた。
【0059】
【表1】
【0060】
[液体浸入試験]
比較例1および実施例1~5のセンサ素子について、素子本体の前端側を液体に浸した場合にその液体が外側リード線の内部を毛細管現象により素子本体の後端側にどの程度浸入するかの試験を行なった。まず、センサ素子の前端側が下側で且つセンサ素子の長手方向が鉛直方向に沿うようにして、センサ素子の外側リード線の前端部よりも後端側の位置(以下、浸漬位置)までの部分をレッドチェック液に浸した。その状態で放置し、レッドチェック液がセンサ素子の上側コネクタ電極の前端部に到達するまでの時間を計測し、染み上がり時間とした。そして、センサ素子の浸漬位置から上側コネクタ電極の前端部までの前後方向の距離を染み上がり時間で除して染み上がり速度を演算した。比較例1の染み上がり速度を基準(F)とし、実施例1~5において、染み上がり速度が比較例1に比して10%以上20%未満低下した場合に良(B)と判定し、20%以上低下した場合に優(A)と判定した。レッドチェック液は、栄進化学製のR-3B(NT)プラスを用いた。レッドチェック液は、炭化水素油を40~60wt%、可塑性溶剤を10~20wt%、グリコールエーテルを1~20wt%、非イオン界面活性剤を12~50wt%、アゾ系油溶性赤色染料を1~5wt%含む。レッドチェック液は、20℃での密度が0.86g/cm3であり、水よりも密度が小さい。
【0061】
表1から分かるように、液体浸入試験において、長さ比Rが1.05以上である実施例1~5は、判定結果が良(B)または優(A)であった。すなわち、実施例1~5は、何れも比較例1に比して染み上がり速度が10%以上低下した。このことから、長さ比Rが1.05以上であることにより、液体の水が上側コネクタ電極に到達するのを抑制できることが確認された。
【0062】
また、表1から分かるように、液体浸入試験において、長さ比Rが1.05である実施例1は、判定結果が良(B)であったのに対し、長さ比Rが1.10である実施例2は、判定結果が優(A)であった。すなわち、実施例1は、比較例1に比して染み上がり速度が10%以上20%未満低下したのに対し、実施例2は、比較例1に比して染み上がり速度が20%以上低下した。このことから、長さ比Rが1.10以上であることにより、長さ比Rが1.05以上1.10未満の場合に比して、液体の水が上側コネクタ電極に到達するのを抑制できることが確認された。
【0063】
さらに、表1から分かるように、液体浸入試験において、長さ比Rが1.05である実施例1、3~5のうち、外側リード線に肥大部を設けていない実施例1は、判定結果が良(B)であったのに対し、外側リード線の直線部に肥大部を設けた実施例3、外側リード線の屈曲部の劣角側に肥大部を設けた実施例4、外側リード線の屈曲部の優角側に肥大部を設けた実施例5は、それぞれ判定結果が優(A)であった。このことから、外側リード線の直線部、屈曲部の劣角側、屈曲部の優角側の少なくとも何れかに肥大部を設けることにより、これらの何れにも肥大部を設けない場合に比して、液体の水が上側コネクタ電極に到達するのを抑制できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、自動車の排気ガスなどの被測定ガスにおけるNOxなどの特定ガスの濃度を検出するガスセンサに利用可能である。
【符号の説明】
【0065】
10 ガスセンサ、15 組立体、20,20B,20C,20D,20Z センサ素子、30 保護カバー、31 内側保護カバー、32 外側保護カバー、33 素子室、40 素子封止体、41 筒状体、42 主体金具、42a 肉厚部、42b 底面、43 内筒、43a フランジ部、43c,43d 縮径部、44a~44c 碍子、44a1,44a2,44b1,44b2,44c1,44c2 内周面、45a,45b 圧粉体、46 メタルリング、47 ナット、48 外筒、49 空間、50 コネクタ、55 リード線、57 ゴム栓、58 配管、59 固定用部材、60 素子本体、60a~60f 第1面~第6面、61 被測定ガス導入口、62 基準ガス導入口、63 検出部、64 外側電極、65 内側主ポンプ電極、66 内側補助ポンプ電極、67 測定電極、68 基準電極、69 ヒータ、71,71a~71d 上側コネクタ電極、72 下側コネクタ電極、75,75b,75c,75d,75z,275 外側リード線、76,276 第1延在部、76b,77b,78c,78d 肥大部、77,277 第2延在部、78 屈曲部、80 多孔質層、81 内側多孔質層、83 第1内側多孔質層、84 第2内側多孔質層、85 外側多孔質層。
図1
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図9