(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129199
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】累進屈折力レンズの累進態様の変更方法、累進屈折力レンズの累進態様の変更システム、及び累進屈折力レンズの累進態様の変更システム用のプログラム
(51)【国際特許分類】
G02C 7/06 20060101AFI20240919BHJP
【FI】
G02C7/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038235
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】509333807
【氏名又は名称】ホヤ レンズ タイランド リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HOYA Lens Thailand Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【弁理士】
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】加賀 唯之
【テーマコード(参考)】
2H006
【Fターム(参考)】
2H006BD03
(57)【要約】
【課題】設計上の破綻を生じさせず、加入プロファイルの形状を手軽に変更する。
【解決手段】累進屈折力レンズの累進態様の変更方法であって、累進態様1から累進態様2に変更するためのxy平面座標上のウエイトマップであってxy平面座標上の全方位において連続性を有するウエイトマップを得るウエイトマップ取得工程と、設計面である面α上の各点におけるxy平面座標上の近似曲率C
pに、ウエイトマップ上の各点に対応するウエイトw
pを乗じ、座標値z
addpを得るz座標値取得工程と、z座標取得工程により得たz座標値z
addpに基づいて新たな面α´を設計する設計工程と、を有する、累進屈折力レンズの累進態様の変更方法及びその関連技術を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体側の面と眼球側の面とを備え、且つ、近方距離の物体を視認するための近用部と、該近方距離よりも離れた物体を視認可能な遠用部と、両部の間において屈折力を累進させる中間部とを備える累進屈折力レンズの累進態様の変更方法であって、
眼鏡装用状態において、物体側から眼球側に向けてレンズ中心を通る軸をz軸、下方から上方に向かいz軸に直交する軸をy軸、左から右に向かいz軸に直交する軸をx軸としたとき、
累進態様1から累進態様2に変更するためのxy平面座標上のウエイトマップであってxy平面座標上の全方位において連続性を有するウエイトマップを得るウエイトマップ取得工程と、
設計面である面α上の各点に対する近似曲率C
pのxy平面座標上の分布図を取得する近似曲率マップ取得工程と、
前記分布図のxy平面座標上の各点における近似曲率C
pに、前記ウエイトマップ上の前記各点に対応するウエイトw
pを乗じ、以下の式によりz座標値z
addpを得るz座標値取得工程と、
【数1】
前記z座標値取得工程により得たz座標値z
addpに基づいて新たな面α´を設計する設計工程と、
を有する、累進屈折力レンズの累進態様の変更方法。
なお、前記近似曲率C
pは以下のように定義される。
前記面α上の任意の点p(x,y,z)の近似曲率C
pは、z軸に垂直なxy平面において、点pと回転対称にある点p’(-x,-y,z)及び(0,0,0)の3点を通る円の半径の逆数を用いる。但し、点pが(0,0,0)の場合、近似曲率C
pは前記面αにおける点pの2つの主曲率の平均を用いる。
【請求項2】
前記ウエイトマップ取得工程は、
xy平面座標上における累進開始点から近用度数測定基準点までの累進態様1の加入曲線に対する累進態様2の加入曲線の変化割合を、xy平面座標上における累進開始点から近用度数測定基準点までの距離に応じて得る線状ウエイトマップ作成工程と、
前記線状ウエイトマップ作成工程で得られる前記距離と前記変化割合との関係を、累進開始点を回転対称としてxy平面座標上に展開する面状ウエイトマップ作成工程と、
前記面状ウエイトマップ作成工程で得られる面状ウエイトマップにおいて累進開始点よりも上方では前記変化割合を1に変更しつつ、該変更に伴い発生する前記面状ウエイトマップの不連続性を平滑化して連続性を維持させる面状ウエイトマップ調整工程と、
を有する、請求項1に記載の累進屈折力レンズの累進態様の変更方法。
【請求項3】
前記面状ウエイトマップ調整工程では、前記面状ウエイトマップにおけるxy平面座標を極座標に変換しつつ、前記面状ウエイトマップを構成する関数における前記変化割合に係る項に対し、該極座標が0≦θ<πのときは0を乗じ、該極座標がπ≦θ<2πのときはsin2θを乗じ、前記面状ウエイトマップの不連続性を平滑化して連続性を維持させる、請求項2に記載の累進屈折力レンズの累進態様の変更方法。
【請求項4】
累進態様1から累進態様2に変更する際、変更前の加入度数に対しする変更後の加入度数の変化割合は0.125未満とする、請求項1又は2に記載の累進屈折力レンズの累進態様の変更方法。
【請求項5】
前記近用部は、屈折力が(球面度数S+加入度数ADD-0.12D)以上の領域であり、
前記遠用部は、近方距離よりも離れた物体を視認するための部分であり且つ屈折力が(球面度数S±0.12D)の範囲内にある領域である、請求項1又は2に記載の累進屈折力レンズの累進態様の変更方法。
【請求項6】
前記設計工程により設計される面α´における加入度数と、ウエイトw
pを乗じる前の前記面αにおける加入度数との差が閾値を超えるか否か、及び、
前記設計工程により設計される面α´における遠用部の曲率と、ウエイトw
pを乗じる前の前記面αにおける遠用部の曲率との差が閾値を超えるか否か、
の少なくともいずれかを判定する判定工程を有し、
前記判定工程において閾値を超えると判定された場合、以下の式により前記各点の新たなz座標値z
p(x,y)を取得し、前記各点が該z座標値z
pを備える面α´´を設計する再設計工程を行う、請求項5に記載の累進屈折力レンズの累進態様の変更方法。
【数2】
C
fbはウエイトw
pを乗じる前の遠用部の曲率であり、C
nbはウエイトw
pを乗じる前の近用部の曲率であり、C
faはウエイトw
pを乗じた後の遠用部の曲率であり、C
naはウエイトw
pを乗じた後の近用部の曲率である。
【請求項7】
物体側の面と眼球側の面とを備え、且つ、近方距離の物体を視認するための近用部と、該近方距離よりも離れた物体を視認可能な遠用部と、両部の間において屈折力を累進させる中間部とを備える累進屈折力レンズの累進態様の変更方法であって、
眼鏡装用状態において、物体側から眼球側に向けてレンズ中心を通る軸をz軸、下方から上方に向かいz軸に直交する軸をy軸、左から右に向かいz軸に直交する軸をx軸としたとき、
累進態様1から累進態様2に変更するためのxy平面座標上のウエイトマップであってxy平面座標上の全方位において連続性を有するウエイトマップを得るウエイトマップ取得工程と、
設計面である面α上の各点に対するxy平面座標上のz座標値の分布図を取得するz座標値マップ取得工程と、
前記分布図のxy平面座標上のz座標値に、前記ウエイトマップ上の前記各点に対応するウエイトwpを乗じ、z座標値zaddpを得るz座標値取得工程と、
前記z座標値取得工程により得たz座標値zaddpに基づいて新たな面α´を設計する設計工程と、
を有する、累進屈折力レンズの累進態様の変更方法。
【請求項8】
物体側の面と眼球側の面とを備え、且つ、近方距離の物体を視認するための近用部と、該近方距離よりも離れた物体を視認可能な遠用部と、両部の間において屈折力を累進させる中間部とを備える累進屈折力レンズの累進態様の変更システムであって、
眼鏡装用状態において、物体側から眼球側に向けてレンズ中心を通る軸をz軸、下方から上方に向かいz軸に直交する軸をy軸、左から右に向かいz軸に直交する軸をx軸としたとき、
累進態様1から累進態様2に変更するためのxy平面座標上のウエイトマップであってxy平面座標上の全方位において連続性を有するウエイトマップを得るウエイトマップ取得部と、
設計面である面α上の各点に対する近似曲率C
pのxy平面座標上の分布図を取得する近似曲率マップ取得部と、
前記分布図のxy平面座標上の各点における近似曲率C
pに、前記ウエイトマップ上の前記各点に対応するウエイトw
pを乗じ、以下の式によりz座標値z
addpを得るz座標値取得部と、
【数3】
前記z座標値取得部により得たz座標値z
addpに基づいて新たな面α´を設計する設計部と、
を有する、累進屈折力レンズの累進態様の変更システム。
なお、前記近似曲率C
pは以下のように定義される。
前記面α上の任意の点p(x,y,z)の近似曲率C
pは、z軸に垂直なxy平面において、点pと回転対称にある点p’(-x,-y,z)及び(0,0,0)の3点を通る円の半径の逆数を用いる。但し、点pが(0,0,0)の場合、近似曲率C
pは前記面αにおける点pの2つの主曲率の平均を用いる。
【請求項9】
前記ウエイトマップ取得部は、
xy平面座標上における累進開始点から近用度数測定基準点までの累進態様1の加入曲線に対する累進態様2の加入曲線の変化割合を、xy平面座標上における累進開始点から近用度数測定基準点までの距離に応じて得る線状ウエイトマップ作成部と、
前記線状ウエイトマップ作成部で得られる前記距離と前記変化割合との関係を、累進開始点を回転対称としてxy平面座標上に展開する面状ウエイトマップ作成部と、
前記面状ウエイトマップ作成部で得られる面状ウエイトマップにおいて累進開始点よりも上方では前記変化割合を1に変更しつつ、該変更に伴い発生する前記面状ウエイトマップの不連続性を平滑化して連続性を維持させる面状ウエイトマップ調整部と、
を備える、請求項8に記載の累進屈折力レンズの累進態様の変更システム。
【請求項10】
前記設計部により設計される面α´における加入度数と、ウエイトwpを乗じる前の前記面αにおける加入度数との差が閾値を超えるか否か、及び、
前記設計部により設計される面α´における遠用部の曲率と、ウエイトwpを乗じる前の前記面αにおける遠用部の曲率との差が閾値を超えるか否か、
の少なくともいずれかを判定する判定部と、
前記判定部において閾値を超えると判定された場合、前記式により前記各点の新たなz座標値zp(x,y)を取得し、前記各点が該z座標値zpを備える面α´´を設計する再設計部と、
を備える、請求項8又は9に記載の累進屈折力レンズの累進態様の変更システム。
【請求項11】
物体側の面と眼球側の面とを備え、且つ、近方距離の物体を視認するための近用部と、該近方距離よりも離れた物体を視認可能な遠用部と、両部の間において屈折力を累進させる中間部とを備える累進屈折力レンズの累進態様の変更システム用のプログラムであって、
眼鏡装用状態において、物体側から眼球側に向けてレンズ中心を通る軸をz軸、下方から上方に向かいz軸に直交する軸をy軸、左から右に向かいz軸に直交する軸をx軸としたとき、
累進態様1から累進態様2に変更するためのxy平面座標上のウエイトマップであってxy平面座標上の全方位において連続性を有するウエイトマップを得るウエイトマップ取得部、
設計面である面α上の各点に対する近似曲率C
pのxy平面座標上の分布図を取得する近似曲率マップ取得部、
前記分布図のxy平面座標上の各点における近似曲率C
pに、前記ウエイトマップ上の前記各点に対応するウエイトw
pを乗じ、以下の式によりz座標値z
addpを得るz座標値取得部、及び、
【数4】
前記z座標値取得部により得たz座標値z
addpに基づいて新たな面α´を設計する設計部としてコンピュータを機能させる、累進屈折力レンズの累進態様の変更システム用のプログラム。
なお、前記近似曲率C
pは以下のように定義される。
前記面α上の任意の点p(x,y,z)の近似曲率C
pは、z軸に垂直なxy平面において、点pと回転対称にある点p’(-x,-y,z)及び(0,0,0)の3点を通る円の半径の逆数を用いる。但し、点pが(0,0,0)の場合、近似曲率C
pは前記面αにおける点pの2つの主曲率の平均を用いる。
【請求項12】
前記ウエイトマップ取得部は、
xy平面座標上における累進開始点から近用度数測定基準点までの累進態様1の加入曲線に対する累進態様2の加入曲線の変化割合を、xy平面座標上における累進開始点から近用度数測定基準点までの距離に応じて得る線状ウエイトマップ作成部と、
前記線状ウエイトマップ作成部で得られる前記距離と前記変化割合との関係を、累進開始点を回転対称としてxy平面座標上に展開する面状ウエイトマップ作成部と、
前記面状ウエイトマップ作成部で得られる面状ウエイトマップにおいて累進開始点よりも上方では前記変化割合を1に変更しつつ、該変更に伴い発生する前記面状ウエイトマップの不連続性を平滑化して連続性を維持させる面状ウエイトマップ調整部と、
を備える、請求項11に記載の累進屈折力レンズの累進態様の変更システム用のプログラム。
【請求項13】
前記設計部により設計される面α´における加入度数と、ウエイトwpを乗じる前の前記面αにおける加入度数との差が閾値を超えるか否か、及び、
前記設計部により設計される面α´における遠用部の曲率と、ウエイトwpを乗じる前の前記面αにおける遠用部の曲率との差が閾値を超えるか否か、
の少なくともいずれかを判定する判定部、及び、
前記判定部において閾値を超えると判定された場合、前記式により前記各点の新たなz座標値zp(x,y)を取得し、前記各点が該z座標値zpを備える面α´´を設計する再設計部としてコンピュータを機能させる、請求項11又は12に記載の累進屈折力レンズの累進態様の変更システム用のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、累進屈折力レンズの累進態様の変更方法、累進屈折力レンズの累進態様の変更システム、及び累進屈折力レンズの累進態様の変更システム用のプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の請求項1には、近くの距離と前記遠くの距離との間の距離であって予め設定された目標距離に対応する度数が中間領域の所定の部分に備わるように、ゼロを超えた度数が特定領域の処方度数に上乗せされた、累進屈折力レンズが記載されている。特許文献1に記載のように、主注視線上の距離と加入度数との関係を調整する技術は公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2016/047712号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本明細書では、該関係を「加入プロファイル」とも言う。この加入プロファイルの形状を変更するのは容易ではない。仮に、加入プロファイルの形状を変更すると、当然ながら主注視線以外の部分においても変更が生じる。その結果、加入プロファイルの形状の変更に伴い、眼鏡レンズ全体における非点収差分布及び度数分布に破綻が生じていない(即ち累進屈折力レンズの設計上の破綻が生じていない)ことを、非点収差分布図及び度数分布図により確認しなければならない。しかもその確認は、加入プロファイルの形状を変更するたびに行わなければならない。
【0005】
累進屈折力レンズの装用者によっては、中間部における近用部近傍においては度数の変化を緩くした方が良い場合もあるし、逆に中間部における近用部近傍においては度数の変化を大きくしつつその分中間部における遠用部近傍においては度数の変化を緩くする方が良い場合もある。つまり、装用者に応じ、加入プロファイルを上記段落に記載の状況に比べて手軽に変更することが望まれているという課題を、本発明者は知見した。
【0006】
本発明の一実施例は、設計上の破綻を生じさせず、加入プロファイルの形状を手軽に変更することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく、本発明の一実施例では、累進態様1から累進態様2に変更するためのxy平面座標上のウエイトマップであってxy平面座標上の全方位において連続性を有するウエイトマップの各点の値であるウエイトに対し、該各点における、後で詳述する近似曲率又はz座標値を乗じることを本発明者は知見した。この知見に基づき創出されたのが以下の態様である。
【0008】
本発明の第1の態様は、
物体側の面と眼球側の面とを備え、且つ、近方距離の物体を視認するための近用部と、該近方距離よりも離れた物体を視認可能な遠用部と、両部の間において屈折力を累進させる中間部とを備える累進屈折力レンズの累進態様の変更方法であって、
眼鏡装用状態において、物体側から眼球側に向けてレンズ中心を通る軸をz軸、下方から上方に向かいz軸に直交する軸をy軸、左から右に向かいz軸に直交する軸をx軸としたとき、
累進態様1から累進態様2に変更するためのxy平面座標上のウエイトマップであってxy平面座標上の全方位において連続性を有するウエイトマップを得るウエイトマップ取得工程と、
設計面である面α上の各点に対する近似曲率C
pのxy平面座標上の分布図を取得する近似曲率マップ取得工程と、
前記分布図のxy平面座標上の各点における近似曲率C
pに、前記ウエイトマップ上の前記各点に対応するウエイトw
pを乗じ、以下の式によりz座標値z
addpを得るz座標値取得工程と、
【数1】
前記z座標値取得工程により得たz座標値z
addpに基づいて新たな面α´を設計する設計工程と、
を有する、累進屈折力レンズの累進態様の変更方法である。
なお、前記近似曲率C
pは以下のように定義される。
前記面α上の任意の点p(x,y,z)の近似曲率C
pは、z軸に垂直なxy平面において、点pと回転対称にある点p’(-x,-y,z)及び(0,0,0)の3点を通る円の半径の逆数を用いる。但し、点pが(0,0,0)の場合、近似曲率C
pは前記面αにおける点pの2つの主曲率の平均を用いる。
【0009】
本発明の第2の態様は、
前記ウエイトマップ取得工程は、
xy平面座標上における累進開始点から近用度数測定基準点までの累進態様1の加入曲線に対する累進態様2の加入曲線の変化割合を、xy平面座標上における累進開始点から近用度数測定基準点までの距離に応じて得る線状ウエイトマップ作成工程と、
前記線状ウエイトマップ作成工程で得られる前記距離と前記変化割合との関係を、累進開始点を回転対称としてxy平面座標上に展開する面状ウエイトマップ作成工程と、
前記面状ウエイトマップ作成工程で得られる面状ウエイトマップにおいて累進開始点よりも上方では前記変化割合を1に変更しつつ、該変更に伴い発生する前記面状ウエイトマップの不連続性を平滑化して連続性を維持させる面状ウエイトマップ調整工程と、
を有する、第1の態様に記載の累進屈折力レンズの累進態様の変更方法である。
【0010】
本発明の第3の態様は、
前記面状ウエイトマップ調整工程では、前記面状ウエイトマップにおけるxy平面座標を極座標に変換しつつ、前記面状ウエイトマップを構成する関数における前記変化割合に係る項に対し、該極座標が0≦θ<πのときは0を乗じ、該極座標がπ≦θ<2πのときはsin2θを乗じ、前記面状ウエイトマップの不連続性を平滑化して連続性を維持させる、第2に記載の累進屈折力レンズの累進態様の変更方法である。
【0011】
本発明の第4の態様は、
累進態様1から累進態様2に変更する際、変更前の加入度数に対しする変更後の加入度数の変化割合は0.125未満とする、第1~第3の態様のいずれか一つに記載の累進屈折力レンズの累進態様の変更方法である。
【0012】
本発明の第5の態様は、
前記近用部は、屈折力が(球面度数S+加入度数ADD-0.12D)以上の領域であり、
前記遠用部は、近方距離よりも離れた物体を視認するための部分であり且つ屈折力が(球面度数S±0.12D)の範囲内にある領域である、第1~第4の態様のいずれか一つに記載の累進屈折力レンズの累進態様の変更方法である。
【0013】
本発明の第6の態様は、
前記設計工程により設計される面α´における加入度数と、ウエイトw
pを乗じる前の前記面αにおける加入度数との差が閾値を超えるか否か、及び、
前記設計工程により設計される面α´における遠用部の曲率と、ウエイトw
pを乗じる前の前記面αにおける遠用部の曲率との差が閾値を超えるか否か、
の少なくともいずれかを判定する判定工程を有し、
前記判定工程において閾値を超えると判定された場合、以下の式により前記各点の新たなz座標値z
p(x,y)を取得し、前記各点が該z座標値z
pを備える面α´´を設計する再設計工程を行う、第5の態様に記載の累進屈折力レンズの累進態様の変更方法である。
【数2】
C
fbはウエイトw
pを乗じる前の遠用部の曲率であり、C
nbはウエイトw
pを乗じる前の近用部の曲率であり、C
faはウエイトw
pを乗じた後の遠用部の曲率であり、C
naはウエイトw
pを乗じた後の近用部の曲率である。
【0014】
本発明の第7の態様は、
物体側の面と眼球側の面とを備え、且つ、近方距離の物体を視認するための近用部と、該近方距離よりも離れた物体を視認可能な遠用部と、両部の間において屈折力を累進させる中間部とを備える累進屈折力レンズの累進態様の変更方法であって、
眼鏡装用状態において、物体側から眼球側に向けてレンズ中心を通る軸をz軸、下方から上方に向かいz軸に直交する軸をy軸、左から右に向かいz軸に直交する軸をx軸としたとき、
累進態様1から累進態様2に変更するためのxy平面座標上のウエイトマップであってxy平面座標上の全方位において連続性を有するウエイトマップを得るウエイトマップ取得工程と、
設計面である面α上の各点に対するxy平面座標上のz座標値の分布図を取得するz座標値マップ取得工程と、
前記分布図のxy平面座標上のz座標値に、前記ウエイトマップ上の前記各点に対応するウエイトwpを乗じ、z座標値zaddpを得るz座標値取得工程と、
前記z座標値取得工程により得たz座標値zaddpに基づいて新たな面α´を設計する設計工程と、
を有する、累進屈折力レンズの累進態様の変更方法である。
【0015】
本発明の第8の態様は、
物体側の面と眼球側の面とを備え、且つ、近方距離の物体を視認するための近用部と、該近方距離よりも離れた物体を視認可能な遠用部と、両部の間において屈折力を累進させる中間部とを備える累進屈折力レンズの累進態様の変更システムであって、
眼鏡装用状態において、物体側から眼球側に向けてレンズ中心を通る軸をz軸、下方から上方に向かいz軸に直交する軸をy軸、左から右に向かいz軸に直交する軸をx軸としたとき、
累進態様1から累進態様2に変更するためのxy平面座標上のウエイトマップであってxy平面座標上の全方位において連続性を有するウエイトマップを得るウエイトマップ取得部と、
設計面である面α上の各点に対する近似曲率C
pのxy平面座標上の分布図を取得する近似曲率マップ取得部と、
前記分布図のxy平面座標上の各点における近似曲率C
pに、前記ウエイトマップ上の前記各点に対応するウエイトw
pを乗じ、以下の式によりz座標値z
addpを得るz座標値取得部と、
【数3】
前記z座標値取得部により得たz座標値z
addpに基づいて新たな面α´を設計する設計部と、
を有する、累進屈折力レンズの累進態様の変更システムである。
なお、前記近似曲率C
pは以下のように定義される。
前記面α上の任意の点p(x,y,z)の近似曲率C
pは、z軸に垂直なxy平面において、点pと回転対称にある点p’(-x,-y,z)及び(0,0,0)の3点を通る円の半径の逆数を用いる。但し、点pが(0,0,0)の場合、近似曲率C
pは前記面αにおける点pの2つの主曲率の平均を用いる。
【0016】
本発明の第9の態様は、
前記ウエイトマップ取得部は、
xy平面座標上における累進開始点から近用度数測定基準点までの累進態様1の加入曲線に対する累進態様2の加入曲線の変化割合を、xy平面座標上における累進開始点から近用度数測定基準点までの距離に応じて得る線状ウエイトマップ作成部と、
前記線状ウエイトマップ作成部で得られる前記距離と前記変化割合との関係を、累進開始点を回転対称としてxy平面座標上に展開する面状ウエイトマップ作成部と、
前記面状ウエイトマップ作成部で得られる面状ウエイトマップにおいて累進開始点よりも上方では前記変化割合を1に変更しつつ、該変更に伴い発生する前記面状ウエイトマップの不連続性を平滑化して連続性を維持させる面状ウエイトマップ調整部と、
を備える、第8の態様に記載の累進屈折力レンズの累進態様の変更システムである。
【0017】
本発明の第10の態様は、
前記設計部により設計される面α´における加入度数と、ウエイトwpを乗じる前の前記面αにおける加入度数との差が閾値を超えるか否か、及び、
前記設計部により設計される面α´における遠用部の曲率と、ウエイトwpを乗じる前の前記面αにおける遠用部の曲率との差が閾値を超えるか否か、
の少なくともいずれかを判定する判定部と、
前記判定部において閾値を超えると判定された場合、前記式により前記各点の新たなz座標値zp(x,y)を取得し、前記各点が該z座標値zpを備える面α´´を設計する再設計部と、
を備える、第8又は第9の態様に記載の累進屈折力レンズの累進態様の変更システムである。
【0018】
本発明の第11の態様は、
物体側の面と眼球側の面とを備え、且つ、近方距離の物体を視認するための近用部と、該近方距離よりも離れた物体を視認可能な遠用部と、両部の間において屈折力を累進させる中間部とを備える累進屈折力レンズの累進態様の変更システム用のプログラムであって、
眼鏡装用状態において、物体側から眼球側に向けてレンズ中心を通る軸をz軸、下方から上方に向かいz軸に直交する軸をy軸、左から右に向かいz軸に直交する軸をx軸としたとき、
累進態様1から累進態様2に変更するためのxy平面座標上のウエイトマップであってxy平面座標上の全方位において連続性を有するウエイトマップを得るウエイトマップ取得部、
設計面である面α上の各点に対する近似曲率C
pのxy平面座標上の分布図を取得する近似曲率マップ取得部、
前記分布図のxy平面座標上の各点における近似曲率C
pに、前記ウエイトマップ上の前記各点に対応するウエイトw
pを乗じ、以下の式によりz座標値z
addpを得るz座標値取得部、及び、
【数4】
前記z座標値取得部により得たz座標値z
addpに基づいて新たな面α´を設計する設計部としてコンピュータを機能させる、累進屈折力レンズの累進態様の変更システム用のプログラムである。
なお、前記近似曲率C
pは以下のように定義される。
前記面α上の任意の点p(x,y,z)の近似曲率C
pは、z軸に垂直なxy平面において、点pと回転対称にある点p’(-x,-y,z)及び(0,0,0)の3点を通る円の半径の逆数を用いる。但し、点pが(0,0,0)の場合、近似曲率C
pは前記面αにおける点pの2つの主曲率の平均を用いる。
【0019】
本発明の第12の態様は、
前記ウエイトマップ取得部は、
xy平面座標上における累進開始点から近用度数測定基準点までの累進態様1の加入曲線に対する累進態様2の加入曲線の変化割合を、xy平面座標上における累進開始点から近用度数測定基準点までの距離に応じて得る線状ウエイトマップ作成部と、
前記線状ウエイトマップ作成部で得られる前記距離と前記変化割合との関係を、累進開始点を回転対称としてxy平面座標上に展開する面状ウエイトマップ作成部と、
前記面状ウエイトマップ作成部で得られる面状ウエイトマップにおいて累進開始点よりも上方では前記変化割合を1に変更しつつ、該変更に伴い発生する前記面状ウエイトマップの不連続性を平滑化して連続性を維持させる面状ウエイトマップ調整部と、
を備える、第11の態様に記載の累進屈折力レンズの累進態様の変更システム用のプログラムである。
【0020】
本発明の第13の態様は、
前記設計部により設計される面α´における加入度数と、ウエイトwpを乗じる前の前記面αにおける加入度数との差が閾値を超えるか否か、及び、
前記設計部により設計される面α´における遠用部の曲率と、ウエイトwpを乗じる前の前記面αにおける遠用部の曲率との差が閾値を超えるか否か、
の少なくともいずれかを判定する判定部、及び、
前記判定部において閾値を超えると判定された場合、前記式により前記各点の新たなz座標値zp(x,y)を取得し、前記各点が該z座標値zpを備える面α´´を設計する再設計部としてコンピュータを機能させる、第11又は第12の態様に記載の累進屈折力レンズの累進態様の変更システム用のプログラムである。
【発明の効果】
【0021】
本発明の一実施例によれば、設計上の破綻を生じさせず、加入プロファイルの形状を手軽に変更できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本発明の一態様である累進屈折力レンズの累進態様の変更方法のフロー概略図である。
【
図2】
図2は、本発明の一態様である累進屈折力レンズの累進態様の変更システムの構成ブロック概略図である。
【
図3】
図3は、参照例1(実線)、実施例1(ADDを10%減少)(一点鎖線)、実施例2(ADDを10%増加)(点線)の加入プロファイルである。
【
図4A】
図4Aは、参照例1における累進屈折面の平均度数分布図である。
【
図4B】
図4Bは、参照例1における累進屈折面の非点収差分布図である。
【
図5】
図5は、実施例1(下側)及び実施例2(上側)における線状ウエイトマップを、参照例1の加入プロファイルと共に記載した図であり、左縦軸は加入プロファイルの屈折力(D)を表し、右縦軸はウエイトの値を表し、横軸はxy平面座標上における累進開始点から近用度数測定基準点までの距離(mm)を表す。
【
図6】
図6は、実施例1における線状ウエイトマップを、累進開始点を回転対称としてxy平面座標上に展開した面状ウエイトマップであり、横軸(紙面左右方向)はx軸、縦軸(紙面上下方向)はy軸であり、立体方向はt軸(wp)である。
【
図7】
図7は、実施例1における面状ウエイトマップにおいて累進開始点を通過する水平線(x軸方向)よりも上方(+y方向)では前記変化割合を1に変更しつつ、該変更に伴い発生する前記面状ウエイトマップの不連続性を平滑化して連続性を維持させた様子を示す図である。
【
図8A】
図8Aは、実施例1における累進屈折面の平均度数分布図である。
【
図8B】
図8Bは、実施例1における累進屈折面の非点収差分布図である。
【
図9】
図9は、実施例2における線状ウエイトマップを、累進開始点を回転対称としてxy平面座標上に展開した面状ウエイトマップであり、横軸(紙面左右方向)はx軸、縦軸(紙面上下方向)はy軸であり、立体方向はt軸(wp)である。
【
図10】
図10は、実施例2における面状ウエイトマップにおいて累進開始点を通過する水平線(x軸方向)よりも上方(+y方向)では前記変化割合を1に変更しつつ、該変更に伴い発生する前記面状ウエイトマップの不連続性を平滑化して連続性を維持させた様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について述べる。以下における図面に基づく説明は例示であって、本発明は例示された態様に限定されるものではない。本明細書において「~」は所定の値以上且つ所定の値以下を指す。
【0024】
<定義>
本明細書で挙げる眼鏡レンズは、物体側の面と眼球側の面とを有する。「物体側の面」とは、眼鏡レンズを備えた眼鏡が装用者に装用された際に物体側に位置する表面であり、「眼球側の面」とは、その反対、すなわち眼鏡レンズを備えた眼鏡が装用者に装用された際に眼球側に位置する表面である。物体側の面のことを外面、眼球側の面のことを内面と称しても差し支えない。
【0025】
本明細書では、眼鏡レンズで言うところの外面に対向したときの向き(以降、平面視)において左右方向をx方向、上下方向をy方向、眼鏡レンズの厚さ方向であってx方向及びy方向に垂直な方向をz方向とする。z方向は眼鏡レンズの光軸方向でもある。原点はレンズ中心とする。なお、レンズ中心は、眼鏡レンズの光学中心又は幾何中心を指す。本明細書では光学中心と幾何中心とが略一致する場合を例示する。
右方(3時方向)を+x方向、左方(9時方向)を-x方向、上方(0時方向)を+y方向、下方(6時方向)を-y方向、物体側方向を+z方向、その逆方向(奥側方向)を-z方向とする。
x方向のことをx軸、y方向のことをy軸、z方向のことをz軸とも言う。本段落の内容を以下のように言い換え可能である。
「眼鏡レンズの装用状態において、物体側から眼球側に向けてレンズ中心を通る軸をz軸、下方から上方に向かいz軸に直交する軸をy軸、左から右に向かいz軸に直交する軸をx軸とする。」
【0026】
本発明の一態様に係る眼鏡レンズとして、近方距離の物体を視認するための近用部と、該近方距離よりも離れた物体を視認するための遠用部と、両部の間において屈折力を累進させる中間部とを備える累進屈折力レンズを例示する。以降、累進屈折力レンズである眼鏡レンズのことを単に「レンズ」とも言う。
【0027】
本発明の一態様に係る近用部では、近方距離にある物体を見るための屈折力を備える。該屈折力は近用度数であり、球面度数S(遠用度数)と加入度数ADDとを足した値である。少なくとも近用部測定基準点Nにおいて度数を測定したときには近用度数以上となる。累進開始点から近用部測定基準点Nに向かう方向において近用部測定基準点Nを超えた後でも屈折力を増加させ、近用部の屈折力が近用度数を一時的に超えても(いわゆるオーバーシュートさせても)構わない。本発明の一態様では、屈折力が(近用度数-0.12D)以上の領域を近用部とみなす。
【0028】
本発明の一態様に係る遠用部では、近方距離よりも離れた物体を見るための屈折力を備える。該屈折力は球面度数S(遠用度数)である。少なくとも遠用部測定基準点Fにおいて度数を測定したときには球面度数S以下となる。本発明の一態様に係る遠用部では、屈折力が略一定である。本発明の一態様では、屈折力が(球面度数S±0.12D)の範囲内にある領域を遠用部とみなす。
【0029】
中間部では、徐々に屈折力が変化している。遠方の物体を見る屈折力と近方にある物体を見る屈折力との差を加入度数ADD(単位はD[ディオプター]、以降、本明細書に記載の屈折力及び度数に関しては同様。)という。本明細書では、一般的にレンズの屈折の程度を示す文言として、いわゆる度数、パワーの代わりに屈折力を用いることもある。
【0030】
中間部では、屈折力が連続的に変化する。中間部のことを累進帯と呼んでも差し支えない。累進帯長は、屈折力の変化が始まる累進開始点と終了する累進終了点との間の距離として定義される。
【0031】
遠用部は、累進屈折力レンズの、上記累進開始点及び累進開始点の上方の領域である。近用部は、一般的には累進終了点及びその下方を含む、累進屈折力レンズの領域である。中間部は、遠用部と近用部との間の領域であり、屈折力が累進的に変化する領域である。
【0032】
本発明の一態様においては説明をわかりやすくするために、外面が球面又はトーリック面、かつ、内面が累進面である場合(いわゆる内面累進レンズ)を例示する。もちろんこれは一例であり、外面が累進面であっても構わない。本発明の一態様における累進面は以下の構成を有する。
【0033】
本発明の一態様に係るレンズの内面においては、近くの距離(例えば40cm~60cm)を見るための近用領域が、レンズを装用した際のレンズにおける下方(-y方向)に配される。
【0034】
その一方、本発明の一態様においては、近方距離よりも遠くの距離にある物を視認するための遠用部が近用部の上方(+y方向)に配置される。本発明の一態様における遠用部には特に制限はなく、遠距離(例えば2m~無限遠)用であっても構わないし、中距離(例えば60cm~200cm)用であっても構わない。
【0035】
つまり、本発明の一態様に係るレンズは、中間距離(1m~40cm)ないし近方距離(40cm~10cm)の物体距離に対応する中近(intermediate-near)レンズ、該近方距離内にて対応する近近(near-near)レンズであってもよい。
【0036】
本発明の一態様においては、説明の便宜上、遠用部が遠距離用領域である場合を例示する。
【0037】
なお、近用部には基準となる度数を測定するための近用部測定基準点が設定されている。同様に、遠用部にも基準となる度数を測定するための遠用部測定基準点が設定されている。ここでの度数がいわゆる球面度数Sとなる。近用部測定基準点での度数は(S+ADD(加入度数))となる。
【0038】
「遠用部測定基準点」は、装用者情報の処方データに記載される球面屈折力及び円柱屈折力を累進屈折力レンズに与える点をいう。球面屈折力はいわゆる球面度数S(遠用度数S)を指し、円柱屈折力はいわゆる乱視度数Cを指す。遠用部測定基準点(以降、単に測定基準点F、点Fともいう。)は、例えば、子午線上に位置し、2つの隠しマークの位置を結ぶ水平線から遠用部の側に、8.0mm離間した位置にある点である。
【0039】
「アイポイント(EP)」は、累進屈折力レンズを装用した際に、真正面に向いたときに視線が通る位置である。一般的には、測定基準点Fよりも数mm下方の位置に配置される。屈折力の変化は、このEPから下方にて発生させる。累進力の変化が開始する点を累進開始点とも呼ぶ。実施形態においてはEPの更に下方の幾何中心GCと累進開始点とを一致させており、プリズム参照点とも一致させている。
【0040】
「近用部測定基準点」は、装用者情報の処方データに記載される球面屈折力に対して加入度数ADDが付加された状態の点をいい、レンズ上方から下方に向かって見たときに最初に球面度数S+ADDが実現される点をいう。近用部測定基準点(以降、単に測定基準点N、点Nともいう。)も、子午線上に位置する。
【0041】
ちなみに、装用者情報の処方データは、累進屈折力レンズのレンズ袋に記載されている。つまり、レンズ袋があれば、装用者情報の処方データに基づいた累進屈折力レンズの物としての特定が可能である。そして、累進屈折力レンズはレンズ袋とセットになっていることが通常である。そのため、レンズ袋が付属した累進屈折力レンズも本発明の技術的思想が反映されているし、レンズ袋と累進屈折力レンズとのセットについても同様である。
【0042】
また、測定基準点F、フィッティングポイント又はアイポイントEP、測定基準点Nは、レンズ製造業者が発行するリマークチャート(Remark chart)又はセントレーションチャート(Centration chart)を参照することにより、位置の特定は可能となる。また、累進開始点も、度数測定用のレンズメータを使用すれば特定可能である。
【0043】
「主注視線」とは、累進屈折力レンズにおける近用部、遠用部及び中間部において、物体を正面視したとき、視線が移動するレンズ表面上の軌跡線である。主注視線は、中間部及び近用部において鼻寄りに移動する。この鼻寄りの移動距離を内寄せ量という。
【0044】
「子午線」とは、累進屈折力レンズに設けられる2つの隠しマークの位置を結ぶ水平線に対して直交し、2つの隠しマークの位置の中点を通る垂直方向の線をいう。子午線は、本願各図に示す分布図のy軸に相当する。
【0045】
<本発明の一態様に係る累進屈折力レンズの累進態様の変更方法>
図1は、本発明の一態様である累進屈折力レンズの累進態様の変更方法のフロー概略図である。
【0046】
本発明の一態様に係る累進屈折力レンズの累進態様の変更方法は、少なくとも以下の各工程を有する。
・累進態様1から累進態様2に変更するためのxy平面座標上のウエイトマップであってxy平面座標上の全方位において連続性を有するウエイトマップを得るウエイトマップ取得工程S1
・設計面である面α(例えば二つの前記面のうち少なくとも一つの面、本発明の一態様では内面)上の各点に対する近似曲率C
pのxy平面座標上の分布図を取得する近似曲率マップ取得工程S2
・前記分布図のxy平面座標上の各点における近似曲率C
pに、前記ウエイトマップ上の前記各点に対応するウエイトw
pを乗じ、以下の式によりz座標値z
addpを得るz座標値取得工程S3
【数5】
・・・(式1)
・前記z座標値取得工程により得たz座標値z
addpに基づいて新たな面α´を設計する設計工程S4
【0047】
近似曲率Cpは以下のように定義される。
前記面α上の任意の点p(x,y,z)の近似曲率Cpは、z軸に垂直なxy平面において、点pと回転対称にある点p’(-x,-y,z)及び(0,0,0)の3点を通る円の半径の逆数を用いる。但し、点pが(0,0,0)の場合、近似曲率Cpは前記面αにおける点pの2つの主曲率の平均を用いる。「2つの主曲率」とは、曲率のうち最も大きい曲率と最も小さい曲率を指す。
【0048】
近似曲率Cpのxy平面座標上の分布図のことを「近似曲率マップ」と称してもよい。この近似曲率マップは、xy平面座標上においてCpの値を第3の軸とした分布図である。<定義>にて記載したz軸と区別するために、該第3の軸をs軸と称する。本発明の一態様では、s軸は、z軸と同様、xy平面の法線であり原点はレンズ中心とする。
【0049】
近似曲率マップは、分布図として具体的に視認可能に得てもよいし、データ上の分布図として得てもよい。
【0050】
近似曲率マップは、既に用意してあるものを取得しても構わない。既に得てある近似曲率マップを取得する近似曲率マップ取得工程S2を行ってもよい。或いは、本発明の一態様を実施するに際して既にある面形状の各点のxyz座標値から近似曲率を算出してもよい。平滑前の面αの各点のxyz座標値から近似曲率を算出する近似曲率マップ取得工程S2を行ってもよい。
【0051】
本発明の一態様に係るウエイトマップは、近似曲率マップのxy平面座標に対応する各点に重みをつけるためのものである。このウエイトマップは、xy平面座標上においてウエイトwpの値を第3の軸とした分布図である。<定義>にて記載したz軸と区別するために、該第3の軸をt軸と称する。本発明の一態様では、t軸は、z軸と同様、xy平面の法線であり原点はレンズ中心とする。
【0052】
本発明の一態様に係るウエイトマップは、xy平面座標上の全方位において連続性を有する。これは、xytという3軸においてウエイトマップが連続線(直線又は曲線)で表現できることを意味する。
【0053】
ウエイトマップは、分布図として具体的に視認可能に得てもよいし、データ上の分布図として得てもよい。
【0054】
本発明の一態様に係るウエイトマップは、既に用意してあるものを取得しても構わない。既に得てあるウエイトマップを取得するウエイトマップ取得工程S1を行ってもよい。或いは、以下の一具体例の手法にてウエイトマップを作成するウエイトマップ取得工程S1を行ってもよい。
【0055】
前記ウエイトマップ取得工程S1は、
xy平面座標上における累進開始点から近用度数測定基準点までの累進態様1の加入曲線に対する累進態様2の加入曲線の変化割合を、xy平面座標上における累進開始点から近用度数測定基準点までの距離に応じて得る線状ウエイトマップ作成工程S1aと、
前記線状ウエイトマップ作成工程で得られる前記距離と前記変化割合との関係を、累進開始点を回転対称としてxy平面座標上に展開する面状ウエイトマップ作成工程S1bと、
前記面状ウエイトマップ作成工程で得られる面状ウエイトマップにおいて累進開始点よりも上方(詳しくは累進開始点を通過する水平線よりも上方、別の例だと遠用部)では前記変化割合を1に変更しつつ、該変更に伴い発生する前記面状ウエイトマップの不連続性を平滑化して連続性を維持させる面状ウエイトマップ調整工程S1cと、
を有してもよい。
【0056】
前記面状ウエイトマップ調整工程S1cでは、前記面状ウエイトマップにおけるxy平面座標を極座標に変換しつつ、前記面状ウエイトマップを構成する関数における前記変化割合に係る項に対し、該極座標が0≦θ<πのときは0を乗じ、該極座標がπ≦θ<2πのときはsin2θを乗じ、前記面状ウエイトマップの不連続性を平滑化して連続性を維持させてもよい。
【0057】
本発明の一態様としては上記例を面状ウエイトマップの不連続性の平滑化の手法として挙げたが、該手法には限定は無い。例えば画像処理にて用いられる平滑化フィルタ処理を行っても構わない。また、B-スプライン平滑化、或いはポリゴン曲面の平滑化に係る公知の手法を採用しても構わない。
【0058】
累進態様1から累進態様2に変更する際、変更前の加入度数に対する変更後の加入度数の変化割合は0.125未満とするのが、無理な変更を伴わず、好ましい。
【0059】
本発明の一態様では、z座標値取得工程S3により得たz座標値zaddpに基づいて新たな面α´を設計する設計工程S4を行う。各座標値(各点)の間は、公知の手法(例えばスプライン補間(spline interpolation))により曲面を補間すればよい。そして、レンズ基材として使用する素材の屈折率が既知であれば、該面α´の所定の箇所における屈折力も把握可能である。
【0060】
本発明の一態様では、設計面αが内面の累進面である場合を例示したが、本発明はこの例に限定されない。例えば、設計面αは特定の一つの面ではなく、物体側の面と眼球側の面とを合わせたときの度数分布及び非点収差分布を備える仮想の面を設計面αとしてもよい(後掲の実施例の項目ではこの内容を採用)。そして、設計工程により新たな面α´を設計した後、その面α´の度数分布及び非点収差分布への寄与を、物体側の面と眼球側の面とで分配させてもよい。
【0061】
以下、本発明の一態様が更に有用であることを示す事例を挙げる。本発明の一態様に係る累進屈折力レンズの累進態様の変更方法は、更に以下の工程を有するのが好ましい。
【0062】
・前記設計工程により設計される面α´における加入度数と、前記平滑化処理工程前の前記面αにおける加入度数とが閾値を超えて異なるか否か(判定1)、及び、
前記設計工程により設計される面α´における遠用部の曲率と、前記平滑化処理工程前の前記面αにおける遠用部の曲率とが閾値を超えて異なるか否か(判定2)、
の少なくともいずれか(好ましくは判定1と判定2の両方)を判定する判定工程S5
・前記判定工程において異なると判定された場合、以下の式により前記各点の新たなz座標値z
p(x,y)を得るz座標値再取得工程を行い、前記各点が該z座標値z
pを備える面α´´を設計する再設計工程S6
【数6】
・・・(式2)
C
fbはウエイトw
pを乗じる前の遠用部の曲率であり、C
nbはウエイトw
pを乗じる前の近用部の曲率であり、C
faはウエイトw
pを乗じた後の遠用部の曲率であり、C
naはウエイトw
pを乗じた後の近用部の曲率である。
遠用部の曲率は、遠用部測定基準点Fで測定される遠用度数即ち球面度数Sと言いかえてもよい。
【0063】
前記設計工程により設計される面α´における加入度数と、前記平滑化処理工程前の前記面αにおける加入度数とが相違することがままある。また、遠用部の曲率についても同様である。面αと面α´における相違が大きいか否かを判定するのが上記判定工程S5である。
【0064】
この相違が大きいか否かを、閾値を超えて異なるか否かにより判定してもよい。この閾値としては、判定1及び判定2共に、例えば0.25D(好適には、0.12D、0.10D、0.08D、0.05D、0.03D、0.01D)が挙げられる。
【0065】
面αと面α´における相違が大きい場合、その相違を低減させるのが好ましい。この具体的な手法を規定したのが上記再設計工程S6である。
【0066】
本発明の一態様では、上記再設計工程を行うだけで、面αと面α´における加入度数及び/又は遠用部の曲率の相違を閾値以下に低減(場合によっては解消)できる。これは、本発明の一態様では「近似曲率Cpとz座標値zaddpとの関係性」という概念を採用したうえで、xy平面座標上で連続性を有するウエイトマップにより重みを、同じくxy平面座標上の近似曲率マップに乗じるという技術的思想を採用したからこそである。この好適例も、本発明の効果であるところの、設計上の破綻を生じさせず、加入プロファイルの形状を手軽に変更できるという内容に大きく貢献する。更に、手軽に変更できることにより、累進態様の変更に要する時間の軽減にも大きく貢献する。
【0067】
本発明の一実施例によれば、設計上の破綻を生じさせず、加入プロファイルの形状を手軽に変更できる。
【0068】
<変形例等>
以上、本発明の一態様を説明したが、上述した開示内容は、本発明の例示的な一態様を示すものである。すなわち、本発明の技術的範囲は、上述の例示的な一態様に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。また、以下の変形例に対し、上述した開示内容を任意に選択して組み合わせることも可能である。
【0069】
本発明の一態様に係る眼鏡レンズとして、近方距離よりも離れた物体を視認するための遠用部を挙げた。その一方、近方距離よりも離れた物体を安定して視認することを目的とした部分ではなく、近方距離よりも離れた物体を単に視認“可能”とする遠用部であってもよい。
【0070】
本発明の一態様に係る眼鏡レンズにおける遠用部は狭い部分であっても構わない。例えば、累進開始点から下方のみならず上方にも屈折力が累進する(大抵の場合は上方に向けて屈折力が減少する)構成の累進屈折力レンズであってもよい。その際、累進屈折力レンズには遠用部測定基準点が用意されるが、それはあくまで所定距離に対する屈折力が確保できているかの確認のための基準点であり、広い遠用部は必要無い。そのような態様の眼鏡レンズとしては製品名レクチュール(登録商標)TFが挙げられる。
【0071】
累進態様の変更は、加入度数の増減に限られない。例えば、中間部における近用部近傍においては度数の変化を緩くしたり、逆に中間部における近用部近傍においては度数の変化を大きくしつつその分中間部における遠用部近傍においては度数の変化を緩くしたりしてもよい。いずれにせよ、近似曲率とz座標値の関係を、累進態様の変更の際のパラメータとして本発明の一態様では活かしている。そのうえで、ウエイトについてもウエイトマップを利用する。そして、ウエイトマップのxy平面座標に対応する近似曲率に対し重みづけする。以上の技術的思想に基づく限り、いかなる累進態様の変更も、設計上の破綻なく手軽に行える。その点で、本発明の技術的意義は極めて大きい。
【0072】
本発明の一態様として近似曲率を用いる場合を例示した。その一方、近似曲率ではなくz座標そのものを採用しても構わない。つまり、近似曲率マップの代わりに、xy平面上のz座標値マップを取得し、該z座標値マップを活用しても構わない。その技術的思想を反映した構成は以下の通りである。以下の構成は、累進態様の変更方法のみならず、後掲の製造方法、システム、プログラムにも応用可能である。
「物体側の面と眼球側の面とを備え、且つ、近方距離の物体を視認するための近用部と、該近方距離よりも離れた物体を視認可能な遠用部と、両部の間において屈折力を累進させる中間部とを備える累進屈折力レンズの累進態様の変更方法であって、
眼鏡装用状態において、物体側から眼球側に向けてレンズ中心を通る軸をz軸、下方から上方に向かいz軸に直交する軸をy軸、左から右に向かいz軸に直交する軸をx軸としたとき、
累進態様1から累進態様2に変更するためのxy平面座標上のウエイトマップであってxy平面座標上の全方位において連続性を有するウエイトマップを得るウエイトマップ取得工程と、
設計面である面α上の各点に対するxy平面座標上のz座標値の分布図を取得するz座標値マップ取得工程と、
前記分布図のxy平面座標上のz座標値に、前記ウエイトマップ上の前記各点に対応するウエイトwpを乗じ、z座標値zaddpを得るz座標値取得工程と、
前記z座標値取得工程により得たz座標値zaddpに基づいて新たな面α´を設計する設計工程と、
を有する、累進屈折力レンズの累進態様の変更方法。」
【0073】
本発明の一態様に係る累進屈折力レンズの累進態様の変更方法により設計された面を実現するようにレンズ基材を加工する、眼鏡レンズの製造方法にも本発明の技術的思想が反映されている。
【0074】
図2は、本発明の一態様である累進屈折力レンズの累進態様の変更システムの構成ブロック概略図である。
【0075】
本発明は、累進屈折力レンズの累進態様の変更システム10に対しても技術的思想を適用できる。その構成の一例は以下の通りである。
「物体側の面と眼球側の面とを備え、且つ、近方距離の物体を視認するための近用部と、該近方距離よりも離れた物体を視認可能な遠用部と、両部の間において屈折力を累進させる中間部とを備える累進屈折力レンズの累進態様の変更システムであって、
累進態様1から累進態様2に変更するためのxy平面座標上のウエイトマップであってxy平面座標上の全方位において連続性を有するウエイトマップを得るウエイトマップ取得部1と、
設計面である面α上の各点に対する近似曲率Cpのxy平面座標上の分布図を取得する近似曲率マップ取得部2と、
前記分布図のxy平面座標上の各点における近似曲率Cpに、前記ウエイトマップ上の前記各点に対応するウエイトwpを乗じ、上記式1によりz座標値zaddpを得るz座標値取得部3と、
前記z座標取得部により得たz座標値zaddpに基づいて新たな面α´を設計する設計部4と、
を有する、累進屈折力レンズの累進態様の変更システム10。」
【0076】
ウエイトマップ取得部1が行う内容は上記ウエイトマップ取得工程と同内容であるため記載を省略する。近似曲率マップ取得部2が行う内容は上記近似曲率マップ取得工程と同内容であるため記載を省略する。z座標値取得部3が行う内容は上記z座標値取得工程と同内容であるため記載を省略する。設計部4が行う内容は上記設計工程と同内容であるため記載を省略する。
【0077】
ウエイトマップ取得部1、近似曲率マップ取得部2、z座標値取得部3及び設計部4(並びに、後掲の線状ウエイトマップ作成部1a、面状ウエイトマップ作成部1b、面状ウエイトマップ調整部1c、判定部5及び再設計部6)は、コンピュータ内の演算部がそれらの役割を担ってもよいし、その演算部を含めて制御コンピュータ部がそれらの役割を担ってもよい。
【0078】
制御コンピュータ部は、所定プログラムで指示された情報処理を行うコンピュータ装置としての機能を有するものであり、具体的にはCPU(Central Processing Unit)、HDD(Hard disk drive)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、外部インタフェース(I/F)等の組み合わせによって構成されたものである。
【0079】
本発明の一態様に係る累進屈折力レンズの累進態様の変更システム10は、好適には、以下の構成も備える。
「前記ウエイトマップ取得部1は、
xy平面座標上における累進開始点から近用度数測定基準点までの累進態様1の加入曲線に対する累進態様2の加入曲線の変化割合を、xy平面座標上における累進開始点から近用度数測定基準点までの距離に応じて得る線状ウエイトマップ作成部1aと、
前記線状ウエイトマップ作成部で得られる前記距離と前記変化割合との関係を、累進開始点を回転対称としてxy平面座標上に展開する面状ウエイトマップ作成部1bと、
前記面状ウエイトマップ作成部で得られる面状ウエイトマップにおいて累進開始点よりも上方では前記変化割合を1に変更しつつ、該変更に伴い発生する前記面状ウエイトマップの不連続性を平滑化して連続性を維持させる面状ウエイトマップ調整部1cと、を備える。」
【0080】
本発明の一態様に係る累進屈折力レンズの累進態様の変更システム10は、好適には、以下の構成も備える。
・前記設計部により設計される面α´における加入度数と、ウエイトwpを乗じる前の前記面αにおける加入度数との差が閾値を超えるか否か、及び、
前記設計部により設計される面α´における遠用部の曲率と、ウエイトwpを乗じる前の前記面αにおける遠用部の曲率との差が閾値を超えるか否か、
の少なくともいずれかを判定する判定部5
・前記判定部において閾値を超えると判定された場合、上記式2により前記各点の新たなz座標値zp(x,y)を取得し、前記各点が該z座標値zpを備える面α´´を設計する再設計部6
【0081】
本発明は、累進屈折力レンズの累進態様の変更システム10用のプログラムに対しても技術的思想を適用できる。その構成の一例は以下の通りである。
「物体側の面と眼球側の面とを備え、且つ、近方距離の物体を視認するための近用部と、該近方距離よりも離れた物体を視認可能な遠用部と、両部の間において屈折力を累進させる中間部とを備える累進屈折力レンズの累進態様の変更システムであって、
累進態様1から累進態様2に変更するためのxy平面座標上のウエイトマップであってxy平面座標上の全方位において連続性を有するウエイトマップを得るウエイトマップ取得部1、
設計面である面α上の各点に対する近似曲率Cpのxy平面座標上の分布図を取得する近似曲率マップ取得部2、
前記分布図のxy平面座標上の各点における近似曲率Cpに、前記ウエイトマップ上の前記各点に対応するウエイトwpを乗じ、上記式1によりz座標値zaddpを得るz座標値取得部3、及び、
前記z座標取得部により得たz座標値zaddpに基づいて新たな面α´を設計する設計部4としてコンピュータを機能させる、累進屈折力レンズの累進態様の変更システム用のプログラム。」
【0082】
本発明の一態様に係る累進屈折力レンズの累進態様の変更システム10用のプログラムは、好適には、上記線状ウエイトマップ作成部1a、面状ウエイトマップ作成部1b、面状ウエイトマップ調整部1c、判定部5及び再設計部6としてコンピュータを機能させる。
【実施例0083】
以下、本発明の実施例を用いて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0084】
<参照例1>
本発明の一態様に係る平滑化処理工程をかける対象として、具体的な外面又は内面ではなく設計面として累進屈折面を用意した。この累進屈折面はWO97/019382号公報におけるオリジナル累進屈折面に対応する面である。このオリジナル累進屈折面をレンズの面に落とし込む具体的な方法は該公報に記載の手法を採用すればよい。
【0085】
図3は、参照例1(実線)、実施例1(ADDを10%減少)(一点鎖線)、実施例2(ADDを10%増加)(点線)の加入プロファイルである。
図4Aは、参照例1における累進屈折面の平均度数分布図である。
図4Bは、参照例1における累進屈折面の非点収差分布図である。
以降に記載の平均度数分布図及び非点収差分布図のピッチは0.25Dである。
【0086】
参照例1に係る累進屈折面では、球面度数Sは0Dとし、乱視度数Cは0Dとし、加入度数ADDは2.00Dとした。累進屈折面の近似曲率マップも得た。
【0087】
<実施例1>
本発明の一態様として記載した累進屈折力レンズの累進態様の変更方法に基づき、参照例1の累進屈折面(累進態様1)に対し、加入度数ADDを10%減少させた(累進態様2)状態へと変更した。ウエイトマップ取得工程の詳細は以下の通りである。
【0088】
図5は、実施例1(下側)及び実施例2(上側)における線状ウエイトマップを、参照例1の加入プロファイルと共に記載した図であり、左縦軸は加入プロファイルの屈折力(D)を表し、右縦軸はウエイトの値を表し、横軸はxy平面座標上における累進開始点から近用度数測定基準点までの距離(mm)を表す。ウエイトは、xy平面座標上における累進開始点から近用度数測定基準点までの累進態様1の加入曲線に対する累進態様2の加入曲線の変化割合を表す。このように線状ウエイトマップ作成工程S1aを行う。
【0089】
図6は、実施例1における線状ウエイトマップを、累進開始点を回転対称としてxy平面座標上に展開した面状ウエイトマップであり、横軸(紙面左右方向)はx軸、縦軸(紙面上下方向)はy軸であり、立体方向はt軸(w
p)である。このように面状ウエイトマップ作成工程S1bを行う。
【0090】
図7は、実施例1における面状ウエイトマップにおいて累進開始点を通過する水平線(x軸方向)よりも上方(+y方向)では前記変化割合を1に変更しつつ、該変更に伴い発生する前記面状ウエイトマップの不連続性を平滑化して連続性を維持させた様子を示す図である。このように面状ウエイトマップ調整工程S1cを行う。
【0091】
具体的には、面状ウエイトマップ調整工程S1cでは、前記面状ウエイトマップにおけるxy平面座標を極座標に変換しつつ、前記面状ウエイトマップを構成する関数における前記変化割合に係る項に対し、該極座標が0≦θ<πのときは0を乗じ、該極座標がπ≦θ<2πのときはsin2θを乗じ、前記面状ウエイトマップの不連続性を平滑化して連続性を維持させた。
【0092】
前記分布図のxy平面座標上の各点における近似曲率Cpに、前記ウエイトマップ上の前記各点に対応するウエイトwpを乗じ、以下の式によりz座標値zaddpを得るz座標値取得工程S3と、前記z座標値取得工程S3により得たz座標値zaddpに基づいて新たな面α´を設計する設計工程S4とを行った。
【0093】
図8Aは、実施例1における累進屈折面の平均度数分布図である。
図8Bは、実施例1における累進屈折面の非点収差分布図である。
【0094】
本実施例においては、設計上の破綻を生じさせず、加入プロファイルの形状を手軽に変更できた。これは、近似曲率を使用しているためである。言い換えると、これは、近似曲率というパラメータにより、累進屈折力レンズの累進態様の変更に伴う設計の破綻を恐れることなく累進態様の変更を行えることを意味する。この効果は以降に記載の実施例でも同様である。
【0095】
<実施例2>
本実施例では、参照例1の累進屈折面(累進態様1)に対し、加入度数ADDを10%増加させた(累進態様2´)状態へと変更した。それ以外は実施例1と同様とした。
【0096】
図5に示すように線状ウエイトマップ作成工程S1aを行う。
【0097】
図9は、実施例2における線状ウエイトマップを、累進開始点を回転対称としてxy平面座標上に展開した面状ウエイトマップであり、横軸(紙面左右方向)はx軸、縦軸(紙面上下方向)はy軸であり、立体方向はt軸(w
p)である。このように面状ウエイトマップ作成工程S1bを行う。
【0098】
図10は、実施例2における面状ウエイトマップにおいて累進開始点を通過する水平線(x軸方向)よりも上方(+y方向)では前記変化割合を1に変更しつつ、該変更に伴い発生する前記面状ウエイトマップの不連続性を平滑化して連続性を維持させた様子を示す図である。このように面状ウエイトマップ調整工程S1cを行う。
【0099】
具体的には、面状ウエイトマップ調整工程S1cでは、前記面状ウエイトマップにおけるxy平面座標を極座標に変換しつつ、前記面状ウエイトマップを構成する関数における前記変化割合に係る項に対し、該極座標が0≦θ<πのときは0を乗じ、該極座標がπ≦θ<2πのときはsin2θを乗じ、前記面状ウエイトマップの不連続性を平滑化して連続性を維持させた。
【0100】
前記分布図のxy平面座標上の各点における近似曲率Cpに、前記ウエイトマップ上の前記各点に対応するウエイトwpを乗じ、以下の式によりz座標値zaddpを得るz座標値取得工程S3と、前記z座標値取得工程S3により得たz座標値zaddpに基づいて新たな面α´を設計する設計工程S4とを行った。
【0101】
図11Aは、実施例1における累進屈折面の平均度数分布図である。
図11Bは、実施例2における累進屈折面の非点収差分布図である。
【0102】
本実施例においても、設計上の破綻を生じさせず、加入プロファイルの形状を手軽に変更できた。ちなみに、実施例1では、遠用部と中間部とがつながる部分において比較的広い明視域(非点収差が0.25D以下の領域)が得られ、実施例2では、近用部と中間部とがつながる部分において比較的広い明視域が得られた。