(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024012920
(43)【公開日】2024-01-31
(54)【発明の名称】基準電極
(51)【国際特許分類】
G01N 27/30 20060101AFI20240124BHJP
G01N 27/401 20060101ALI20240124BHJP
【FI】
G01N27/30 311Z
G01N27/401 313E
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022114740
(22)【出願日】2022-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】弁理士法人インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 良規
(72)【発明者】
【氏名】橋本 永手
(72)【発明者】
【氏名】山路 徹
(57)【要約】
【課題】液絡部と外部溶液とを長期間接触させた場合であっても、外部溶液が内部溶液側に侵入することを抑制できる基準電極を提供すること。
【解決手段】液絡部3を有する基準電極1であって、前記液絡部3を、超イオン伝導体から構成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液絡部を有する基準電極であって、
前記液絡部が、超イオン伝導体である、
基準電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基準電極に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の計測機器には、通常、基準電極が組み込まれている。一例としての基準電極は、ガラス製、又は樹脂製の支持管、内部電極、内部溶液、及び液絡部を有する。液絡部は、内部溶液と外部溶液(試験溶液、サンプル溶液等と称される場合もある)との電気的な導通を図るための部材であり、このような液絡部には、(i)イオン導電性を有すること、及び(ii)変質等しない化学的安定性を有することが求められている。さらに、液絡部には、(iii)内部溶液と、外部溶液とを分断できること、換言すれば、外部溶液が内部溶液側に侵入することを抑制できることが求められている。
【0003】
液絡部としては、多孔質セラミックスが広く使用されている(例えば、特許文献1、2)。しかしながら、多孔質セラミックスを使用した液絡部は、内部溶液と外部溶液とを十分に分断させることができず、外部溶液が内部溶液側に侵入し、内部溶液が汚染され、基準電極を破損させてしまうといった問題が内在している。この問題は、液絡部と外部溶液とを長期にわたって接触させたときに顕著に生じうる。現時点で提案がされている基準電極は、外部溶液と液絡部を長期にわたって接触させるような使用には適しておらず、この点で改善の余地が残されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-221271号公報
【特許文献2】特開2016-148517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、液絡部と外部溶液とを長期間接触させた場合であっても、外部溶液が内部溶液側に侵入することを抑制できる基準電極の提供を主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の実施の形態に係る基準電極は、液絡部を有する基準電極であって、前記液絡部が、超イオン伝導体である。
【0007】
上記発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではなく、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた発明となり得る。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る基準電極は、液絡部と外部溶液とを長期間接触させた場合であっても、外部溶液が内部溶液側に侵入することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態に係る基準電極の一例を示す模式図である。
【
図2】本実施形態に係る基準電極を使用した電位差測定の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0011】
<<基準電極>>
本実施形態に係る基準電極1は、電極電位の測定時に電位の基準点を与える電極である。本実施形態に係る基準電極1を、参照電極、比較電極、照合電極等と称してもよい。本実施形態に係る基準電極1は、各種の計測機器に組み込んで、又は組合せて使用できる。
【0012】
図1は、本実施形態に係る基準電極1の一例を示す模式図である。
図1に示す形態の基準電極1は、支持管2、内部電極5、内部溶液4、及び液絡部3を備えている。本実施形態に係る基準電極1は、液絡部3を有する基準電極1であって、液絡部3を、超イオン伝導体とした点を特徴とする。本実施形態に係る基準電極1は、超イオン伝導体から構成される液絡部3を具備すればよく、これ以外の構成についていかなる限定もされることはない。液絡部3以外の構成については、基準電極1の分野で従来公知の構成を適宜選択して使用できる。
【0013】
以下、本実施形態に係る基準電極1が、図示する形態である場合を中心に説明する。
【0014】
(支持管)
支持管2(収容部、本体部等と称してもよい)は、内部溶液4、及び内部電極5を収容する。支持管2は、その一部分において液絡部3と一体化している。支持管2に限定はなく、基準電極1の分野で従来公知のものを適宜選択して使用できる。内部電極5、及び内部溶液4についても同様である。一例としての支持管2は、ガラス製、又は樹脂製である。樹脂製の支持管2としては、アクリル、及びPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等を例示できる。一例としての支持管2は円筒管である。
【0015】
一例としての支持管2は、内部溶液4を補充できる補充孔(図示しない)を備える。一例としての支持管2は、分離可能な複数の部材から構成されている(図示しない)。この形態の支持管2は、部材を分離することで、内部溶液4を補充できる。一例としての支持管2は、第一支持管、及び第一支持管から着脱可能な第二支持管を含む。
【0016】
(内部電極)
一例としての内部電極5は、Ag線(5A)をAgCl(5B)で被覆したAg/AgCl電極である。
図1に示す形態の内部電極5は、AgCl(5B)の先端部が脱脂綿5Cで覆われている。内部電極5の先端は内部溶液4に接触しており、後端はリード線に接続されている。図示する形態では、Ag線(5A)、及びAgCl(5B)を絶縁ガラス5Dで覆っている。図示する形態では、脱脂綿5C部分において内部溶液4とAgCl(5B)が接触するように構成されている。図示する形態においては、絶縁ガラスで、AgCl(5B)のAg線(5A)からの脱落を抑制できる。
【0017】
(内部溶液)
内部溶液4としては、KCl溶液、及びNaCl溶液等を例示できる。内部溶液4の濃度に限定はない。一例としての内部溶液4は、飽和KCl溶液である。
【0018】
(液絡部)
液絡部3は、本実施形態に係る基準電極1を外部溶液に接触させたときに、外部溶液と内部溶液4とを電気的に導通させる部材である。液絡部3は、直接的に、又は接着部材等を介して間接的に支持管2と一体化している。
図1に示す形態では、液絡部3は、支持管2の先端部に配置されているが、液絡部3の位置に限定はない。
【0019】
本実施形態に係る基準電極1は、超イオン伝導体から構成された液絡部3を備える。超イオン伝導体は、固体でありつつも、高いイオン導電性を示す。超イオン伝導体から構成された液絡部3は、外部溶液との電気的な導通を十分に図ることができる。また、超イオン伝導体から構成された液絡部3は、化学的安定性が良好であり、液絡部3の変質等を抑制できる。
【0020】
また、本実施形態に係る基準電極1は、液絡部3において内部溶液4と外部溶液とを十分に分断できる。本実施形態に係る基準電極1は、液絡部3と外部溶液とを長期間接触させた場合であっても、外部溶液が内部溶液4側に侵入することを抑制できる。本実施形態に係る基準電極1は、当該基準電極1と外部溶液とを長期にわたって接触させるような場合に特に好適に使用できる。例えば、基準電極1を備えた計測機器を海中に沈めておくような場合に好適に使用できる。
【0021】
液絡部3を超イオン伝導体から構成することで、内部溶液4と外部溶液との分断性を良好にできるメカニズムは、現時点では必ずしも明らかではないが、超イオン伝導体は導電キャリアーが限定されることによるものと推察できる。
【0022】
超イオン伝導体について限定はなく、超イオン伝導体として周知のものを適宜選択して使用できる。
【0023】
超イオン伝導体としては、超イオン伝導体ガラス、NASICON(Na Super Ionic Conductor)型超イオン伝導体、及びガーネット型超イオン伝導体を例示できる。
【0024】
超イオン伝導体としては、内部溶液4との反応によって塩化物が生成されない、又は塩化物の生成を抑制できるものが好ましい。このようなイオン伝導体を使用することで、外部溶液の濃度にかかわらず電位差を一定にできる。例えば、Agを構成要素として含まない超イオン伝導体は、外部溶液の濃度にかかわらず電位差を一定にできる点で好ましい。また、塩化物が生成されるような場合であっても、当該生成された塩化物が水に溶解されるものであれば、特に考慮を要しない。
【0025】
超イオン伝導体ガラスとしては、AgI・Ag2O・Ge2O系等を例示できる。
NASICON型超イオン伝導体としては、Na3Zr2PSi2O12、Na5YSi4O12、Li-Al-Ge-Ti-(PO4)3系、及びLi2O-Al2O3-SiO2-P2O5-TiO2-GeO2系等例示できる。
ガーネット型超イオン伝導体としては、Li7La3Zr2O12等を例示できる。
【0026】
以上説明した本実施形態に係る基準電極1によれば、当該基準電極1の高耐久化を実現できる。
【0027】
<<複合電極>>
本発明の一実施形態の複合電極は、基準電極1を含む複合電極であって、基準電極1を、本実施形態に係る基準電極1としたものである。本発明の一実施形態の複合電極は、基準電極1を備えた従来公知の複合電極において、基準電極1の液絡部3を超イオン伝導体から構成した点を特徴とする。複合電極の種類に限定はない。一例としての複合電極は、本実施形態に係る基準電極1、及びガラス電極を含むpH電極である。
【0028】
<<計測機器>>
本発明の一実施形態の計測機器は、基準電極1を含む計測機器であって、基準電極1を、本実施形態に係る基準電極1としたものである。本発明の一実施形態の計測機器は、基準電極1を備えた従来公知の計測機器において、基準電極1の液絡部3を超イオン伝導体から構成した点を特徴とする。計測機器の種類に限定はない。
【実施例0029】
以下、本発明を実施例に基づきさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0030】
(電位差の測定)
図2に示す構成の液絡部を、下記にしたサンプル1、2を作製した。
サンプル1・・・液絡部(AgI・Ag
2O・Ge
2O系超イオン伝導体ガラス)
サンプル2・・・液絡部(Li
2O-Al
2O
3-SiO
2-P
2O
5-TiO
2-GeO
2系Li置換NASICON型)
外部溶液のKCl濃度を0.03%([濃度A])、0.3%([濃度B])、3%([濃度C])とし、このときの電位差を測定した。
サンプル1の濃度A、濃度B、濃度Cにおける電位差(mV)は、-170、-120、-63であり、やや、電位差に差が生じているものの、使用上問題ないレベルであった。
サンプル2の濃度A、濃度B、濃度Cにおける電位差(mV)は、7、19、19であり、電位差の変動を極めて小さいものとできた。
【0031】
(分断性評価)
図1における液絡部をLi
2O-Al
2O
3-SiO
2-P
2O
5-TiO
2-GeO
2系Li置換NASICON型とした実施例1の基準電極を作製した。実施例1の基準電極の液絡部を、海水循環水槽に88日間浸漬させて、内部溶液と、外部溶液との分断性を評価したところ、目視で内部溶液の汚染が確認できなかった。また、浸漬初期と比較し、電位の変動も確認されなかった。