(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129205
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】防水混和材、セメント組成物及びセメント硬化体、並びにセメント硬化体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20240919BHJP
C04B 22/06 20060101ALI20240919BHJP
C04B 22/14 20060101ALI20240919BHJP
C04B 103/65 20060101ALN20240919BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B22/06 A
C04B22/14 B
C04B103:65
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038241
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】501173461
【氏名又は名称】太平洋マテリアル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】竹下 永造
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112MA01
4G112MB23
4G112PB03
4G112PB11
4G112PC07
(57)【要約】
【課題】防水性に優れ、強度発現性も良好なセメント硬化体を製造するうえで有効な防水混和材を提供する。
【解決手段】遊離石灰を有効成分とする石灰焼成物及び石膏類を含有し、前記石灰焼成物の粒度が150μm以下であり、且つ平均粒径が50μm以下であることを特徴とする防水混和材。また、セメントと前記防水混和材を含むセメント組成物。さらに、前記セメント組成物を硬化してなるセメント硬化体。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊離石灰を有効成分とする石灰焼成物及び石膏類を含有し、
前記石灰焼成物の粒度が150μm以下であり、且つ平均粒径が50μm以下であることを特徴とする防水混和材。
【請求項2】
セメントと、請求項1に記載の防水混和材を含むセメント組成物。
【請求項3】
請求項2に記載のセメント組成物を硬化してなるセメント硬化体。
【請求項4】
細孔径1μm以上の累積細孔容積が0.020ml/g以下である請求項3に記載のセメント硬化体。
【請求項5】
防水性に優れるセメント硬化体の製造方法であって、
遊離石灰を有効成分とする石灰焼成物及び石膏類を含有し、前記石灰焼成物の粒度が150μm以下であり、且つ平均粒径が50μm以下である防水混和材を、セメントに混和することを特徴とするセメント硬化体の製造方法。
【請求項6】
前記セメント硬化体における細孔径1μm以上の累積細孔容積が0.020ml/g以下であることを特徴とする請求項5に記載のセメント硬化体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防水性に優れるセメント硬化体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モルタル又はコンクリートを使用した建築構造物には、経済的な側面に加え環境的な観点からも、今まで以上に耐久性が求められている。耐久性の劣化の要因としては、塩害、凍害、酸性雨等が挙げられるが、これらはいずれも構造物内への水分の浸透で生じる。例えば、塩害は塩化物イオンを含む水が構造物中へ浸透することによって発生する。このような問題を防ぐためには、モルタル、コンクリートの防水性を高めて、構造物内への水の浸透を抑制することが重要になる。また、地下構造物、水中構造物など常時水に接するような構造物である場合、あるいは防水工事のメンテナンスが困難な部位を有する場合などにおいても、コンクリート自体に防水性が求められる。
【0003】
コンクリートに防水性を付与するためには、コンクリート自体の水密性を高めることが重要であり、そのための添加材として、天然に産出する白土や粘土等のポゾラン質物質、フェロシリコン製造時に副生するシリカヒユーム等が使用されている。特許文献1では、ボーキサイトからアルミナを作る際の残渣である赤泥、及び一部をシリカフュームや高炉スラグ微粉末等で置換した混和材を添加し、水密性を改善して防水性を高めたコンクリート構造体が提案されている。しかしながら、天然のポゾラン物質や副生品は、物理的、化学的性質にバラツキが多く、防水コンクリートとしての品質安定性に問題があった。また、シリカヒユームは、性能は優れるものの、微粉で凝集し易く扱いが難しいこと、供給源が限られており価格が高いという問題があった。この他、特許文献2では、アスファルトとポリプロピレンを含む水性エマルジョンを粉末化したものを添加する防水性コンクリートの製造方法が提案されている。
【0004】
一方、モルタル又はコンクリート構造物への外部からの水分の浸透を防ぐ簡便な手段としては、構造物表面に各種防水剤を塗布し、含浸させる方法が知られている。例えば、特許文献3では、シラン化合物内部に含浸させる方法が提案されている。しかしながら、塗布・含浸による方法は構造物表面に薄い防水層を形成するものであり、このような防水層は時間の経過によって機能を喪失する虞があり、耐久性に優れるものとは言い難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1-261253号公報
【特許文献2】特開平6-127996号公報
【特許文献3】特開平1-160886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の問題を解決するものであり、防水性に優れ、強度発現性も良好なセメント硬化体を製造するうえで有効な防水混和材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題解決のため鋭意検討した結果、特定の石灰焼成物と石膏類を含む混和材を用いることにより、前記課題を解決することを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下の〔1〕~〔6〕である。
〔1〕遊離石灰を有効成分とする石灰焼成物及び石膏類を含有し、前記石灰焼成物の粒度が150μm以下であり、且つ平均粒径が50μm以下であることを特徴とする防水混和材。
〔2〕セメントと、〔1〕の防水混和材を含むセメント組成物。
〔3〕〔2〕のセメント組成物を硬化してなるセメント硬化体。
〔4〕細孔径1μm以上の累積細孔容積が0.020ml/g以下である〔3〕のセメント硬化体。
〔5〕防水性に優れるセメント硬化体の製造方法であって、遊離石灰を有効成分とする石灰焼成物及び石膏類を含有し、前記石灰焼成物の粒度が150μm以下であり、且つ平均粒径が50μm以下である防水混和材を、セメントに混和することを特徴とするセメント硬化体の製造方法。
〔6〕前記セメント硬化体における細孔径1μm以上の累積細孔容積が0.020ml/g以下であることを特徴とする〔5〕のセメント硬化体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の防水混和材を使用することによって、強度発現性を損ねることなく、防水性に優れるモルタルコンクリート等のセメント硬化体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の防水混和材を用いたモルタルの細孔径と細孔容積の関係図
【
図2】本発明の防水混和材を用いたモルタルの細孔径と累積細孔容積の関係図
【発明を実施するための形態】
【0010】
(防水混和材)
本発明の防水混和材は、遊離石灰を有効成分とする石灰焼成物及び石膏類を含有し、前記石灰焼成物の粒度が150μm以下であり、且つ平均粒径が50μm以下である。以下、詳細に説明する。
【0011】
本発明の石灰焼成物とは、遊離石灰(f-CaO)を有効成分として含む。遊離石灰の含有量としては、30~90質量%が好ましく、40~80質量%がより好ましく、50~70質量%がさらに好ましい。遊離石灰以外の成分としては、エーライト、ビーライト等のカルシウムシリケート、カルシウムアルミネート、カルシウムアルミノフェライト、カルシウムアルミノシリケート、及びカルシウムサルホアルミネート等の水硬性化合物が例示され、これらの一種または二種以上が含まれる。水硬性化合物の含有量としては、10~50質量%が好ましく、20~40質量%がより好ましく、25~35質量%がさらに好ましい。この他に、焼成原料由来の不純物が含まれてもかまわない。不純物の成分としては、TiO2、MgO、K2O、Na2O、MnO等が挙げられる。不純物の含有量としては10質量%以下が好ましい。
【0012】
本発明の石灰焼成物は、生石灰、消石灰、石灰石等のCaO源、珪石等のSiO2源、アルミナ、バンド頁岩、粘土等のAl2O3源、弁柄、鉄滓、銅がらみ等のFe2O3源、石膏等のSO3源等を原料とし、所定の配合に混合され、電気炉、ロータリーキルン等の焼成装置によって、1200~1600℃の温度で焼成することによって得られる。焼成後、ボールミル等の粉砕装置で粉砕され、分級装置により分級されることによって、所定の粒度に調整される。
【0013】
本発明の石灰焼成物の粒度は、150μm以下であり、且つ平均粒径が50μm以下である。具体的には、日本工業規格( JIS A 1102「骨材のふるい分け試験方法」)に準じて、150μmの目開きの篩を全通する。粒度が150μmを超えるものが含まれると、充分な保水性能を付与することができなくなる。また、平均粒径が50μmを超えると、同じく充分な保水性能を付与することができなくなる。好ましくは40μm以下である。平均粒径の下限については特に限定されるものではないが、粉砕の経済性の点から、1μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましい。なお、平均粒径はレーザー回折式粒度分布測定装置等を用いて測定することができる。
【0014】
本発明で用いる石膏類としては、無水石膏、二水石膏、半水石膏等が挙げられる。これらの中では、強度発現性の点から、特に無水石膏が好ましい。また、石膏には天然石膏、人工的に製造又は副産される化学石膏があるが、いずれも使用することができる。副産される化学石膏としては、排煙脱硫石膏、リン酸石膏、フッ酸石膏、チタン石膏等が挙げられる。また、廃石膏ボードから中間処理を経て製造される再生石膏も使用することができる。石膏類の粉末のブレーン比表面積は3000~12000cm2/gが好ましく、4000~10000cm2/gがより好ましい。
【0015】
本発明の防水混和材における石灰焼成物と石膏類の割合は、防水性及び強度発現性の点から、石灰焼成物が50~95質量%、石膏類が5~50質量%であることが好ましい。また、石灰焼成物が60~90質量%、石膏類が10~40質量%であることがより好ましく、石灰焼成物が70~85質量%、石膏類が15~30質量%であることがさらに好ましい。
【0016】
本発明の防水混和材には、本発明の効果を損なわない範囲で、無機微粉末を含んでいてもかまわない。例えば、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末、シリカフューム、メタカオリン、石灰石微粉末、微粒セメント等が挙げられる。
【0017】
(セメント組成物)
本発明のセメント組成物は、セメントと上記防水混和材を含有する。
前記セメントは、水和反応により硬化する水硬性セメントであれば何れのものでも良く、例えば、普通、早強、超早強、低熱、中庸熱、白色等の各種ポルトランドセメント、エコセメント、各種ポルトランドセメントにフライアッシュ、高炉スラグ、シリカヒューム等を混合した各種混合セメント、カルシウムアルミネート及びカルシウムサルホアルミネート等の急硬成分を主体とする急硬性セメント、超速硬セメント、アルミナセメント等を用いることができ、これらを単独で使用し、または二種以上を併用することができる。
【0018】
セメント組成物中の防水混和材の含有量は、防水性及び強度発現性の点から、セメント100質量部に対して、2~12質量部が好ましく、5~8質量部がより好ましい。
【0019】
本発明のセメント組成物は、上記以外に、骨材、水を含むことができる。骨材は、特に限定されるものではなく、一般のモルタルコンクリートに用いるものを使用できる。例えば、川砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂、川砂利、陸砂利、砕石及び人工骨材等が挙げられる。これら一種または二種以上を使用することができる。骨材の含有量としては、セメント100質量部に対して、600~800質量部が好ましく、500~700質量部がより好ましい。水は、特に限定されるものではなく、例えば、上水道水等を使用できる。水の含有量としては、セメント100質量部に対して、40~80質量部が好ましく、50~70質量部がより好ましい。
【0020】
また、本発明のセメント組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、通常のモルタルやコンクリートに使用される各種混和材(剤)を添加することができる。このような混和材としては、例えば、減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、AE減水剤、流動化剤、AE剤、急結剤(材)、急硬剤(材)、顔料、撥水剤、発泡剤、起泡剤、消泡剤、遅延剤、硬化促進剤、収縮低減剤、増粘剤、水和熱抑制剤、保水剤、防錆剤、水中不分離性混和剤、セメント用ポリマー、石灰石粉、粘土鉱物粉末、スラグ粉末、フライアッシュ、繊維、シリカフューム等が挙げられる。
【0021】
(セメント硬化体)
本発明のセメント硬化体は、上記セメント組成物を硬化してなる。セメント硬化体は、モルタル、コンクリートを含む。本発明のセメント硬化体は優れた防水性を有する。具体的には、防水混和材無添加のものに比べて透水量を大幅に低減することができる。硬化体の細孔構造としてみた場合、細孔径1μm以上の累積細孔容積が小さいという特徴を有する。良好な防水性の点で、細孔径1μm以上の累積細孔容積は0.020ml/g以下であることが好ましく、0.015ml/g以下であることがより好ましい。累積細孔容積の測定は、水銀圧入式ポロシメーター等により測定することができる。
【0022】
(セメント硬化体の製造方法)
本発明の防水性に優れるセメント硬化体の製造方法は、遊離石灰を有効成分とする石灰焼成物及び石膏類を含有し、前記石灰焼成物の粒度が150μm以下であり、且つ平均粒径が50μm以下である上記防水混和材を、セメントに混和することを特徴とする。防水混和材の混和量は、セメント100質量部に対して、2~12質量部であることが好ましく、5~8質量部であることがより好ましい。具体的な製造方法としては、上記防水混和材、セメント、骨材及び水を混練して混練物とし、型枠等に充填された後、養生することにより製造することができる。混練方法としては、特に限定されるものではなく、一般的なモルタルコンクリートの混練方法によって製造することができる。また、養生方法は、特に限定されるものではなく、気中養生、水中養生、封緘養生、蒸気養生等、一般的なモルタルコンクリートの養生方法を用いることができる。
【実施例0023】
以下、本発明の実施例を示す。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0024】
(防水混和材の作製)
工業用生石灰、珪石粉、バンド頁岩(粉砕物)及び酸化鉄の混合物を、電気炉にて1400℃で焼成し、遊離生石灰が65質量%、エーライト(3CaO・SiO2)が20質量%、カルシウムアルミノフェライト(4CaO・Al2O3・Fe2O3)が8質量%含有する石灰焼成物を得た。この石灰焼成物を所定の粒度となるようボールミルで粉砕し、目開き150μmの篩を通して、全通品を得た。レーザー回折式粒度分布測定装置で測定した平均粒径は35μmであった。この石灰焼成物の粉末と無水石膏(試薬)を80:20の割合で混合し、防水混和材(記号:X)とした。
【0025】
(セメント硬化体の作製)
上記の防水混和材と、下記に示す使用材料を用い、表1に示す配合でセメント硬化体(モルタル)を製造した。防水混和材は骨材置換で添加した。また、硬化体のエントレインドエアがほぼ0%となるよう空気量調整剤を添加した。モルタルの練り混ぜは、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に準じて行った。比較例として、防水混和材を含まないもの(記号:PL)、市販されている防水混和材(コンクリート躯体防水混和材「ベストン」;ベストン社製(記号:BE))を使用したモルタルも作製した。
【0026】
(使用材料)
セメント(C):普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製、密度3.16g/cm3)
細骨材(S):東北珪砂5号(絶乾密度2.60g/cm3)
混和剤(Ad):空気量調製剤「マスターエア404」、ポゾリス ソリューションズ社製
水(W): 上水道水
【0027】
【0028】
(評価試験)
作製したモルタルの評価試験として、以下に示す通り、圧縮強度試験、乾燥収縮試験、透水性試験及び細孔径分布の測定を行った。
(1)圧縮強度試験
JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に準じて試験を行い、材齢2日、7日、28日の圧縮強度を測定した。
(2)乾燥収縮試験
セメント協会のマイクロメーター法に準じて試験を行い、材齢1日で脱型後、材齢7日まで水中養生し、その後材齢28日まで測定した。
(3)透水性試験
JIS A 1404「建築用セメント防水剤の試験方法」に準じて試験を行った。材齢2日で脱型したモルタル供試体(φ150mm×40mm)を、材齢21日まで湿度90%以上で気中養生した。その後材齢28日まで80℃強制乾燥し、さらに恒量となるまで100℃で強制乾燥を行った。このモルタル供試体を用いて試験を行い、7日経過後までの透水量を測定した。
(4)細孔径分布の測定
透水性試験と同様にして作製した材齢28日のモルタル供試体の細孔径分布を、水銀ポロシメーター(島津製作所製)を用いて測定した。モルタル供試体は中央を切断し、切断片中央から5mm×5mm×5mmのサイズを切り出し測定した。測定範囲は0.003~15μmとした。測定は2回行い、その平均値をもって測定結果とした。
【0029】
(試験結果)
試験結果を表2、表3、
図1及び
図2に示す。
本発明の防水混和材を使用したものは、良好な圧縮強度性を有し、乾燥収縮ひずみも比較例と比べて小さいことが分かる。透水量は、試験開始から5時間経過後までは大差ないものの、1日経過以降は防水混和材を含まないプレーン品(比較例2)に比べ大幅に少なくなっており、市販の防水混和材(比較例1)に比べても少ない値を示した。
また、
図1及び2に示す細孔径分布の測定結果をみると、本発明の防水混和材を用いた場合、1μm以上の細孔容積が少なくなっていることが分かる。1μm以上の累積細孔容積は、0.011ml/gであった。これに対して、比較例1は0.017ml/g、比較例2は0.021mg/gであった。この結果は、透水性試験結果と同様の傾向を示しており、セメント硬化体の細孔構造が透水性(防水性)と関連していることが伺われる。
【0030】
【0031】