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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129219
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】アウトフェージング増幅器
(51)【国際特許分類】
   H03F 1/02 20060101AFI20240919BHJP
   H03F 3/68 20060101ALI20240919BHJP
   H03F 3/60 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
H03F1/02 194
H03F3/68 220
H03F3/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038274
(22)【出願日】2023-03-13
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業/ポスト5G情報通信システムの開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】住吉 高志
【テーマコード(参考)】
5J067
5J500
【Fターム(参考)】
5J067AA04
5J067AA21
5J067AA41
5J067CA36
5J067FA12
5J067FA15
5J067HA09
5J067HA29
5J067HA33
5J067KA29
5J067KS01
5J067KS11
5J067LS00
5J067MA08
5J067TA01
5J067TA03
5J067TA05
5J500AA04
5J500AA21
5J500AA41
5J500AC36
5J500AF12
5J500AF15
5J500AH09
5J500AH29
5J500AH33
5J500AK29
5J500AM08
5J500AT01
5J500AT03
5J500AT05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】特性を向上させることが可能なアウトフェージング増幅器を提供する。
【解決手段】アウトフェージング増幅器100は、第1信号Siaを増幅する第1アンプ10及び第3アンプ12と、第2信号Sibを増幅する第2アンプ11及び第4アンプ13と、第1インピーダンス変換器14と、第2インピーダンス変換器15と、第1整合回路22と、第2整合回路23と、第3整合回路24と、第4整合回路25と、第3アンプが増幅した第1信号と第4アンプが増幅した第2信号とを合成し、合成した信号を出力信号Toutとして出力する合成器16と、を備える。第1整合回路が出力する第1信号に対する第3整合回路に入力する第1信号の第1位相差は、動作周波数帯域の中心周波数において90°未満であり、第2整合回路が出力する第2信号に対する第4整合回路に入力する第2信号の第2位相差は、動作周波数帯域の中心周波数において90°より大きい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1信号を増幅する第1アンプと、
第2信号を増幅する第2アンプと、
前記第1アンプが増幅した前記第1信号を増幅する第3アンプと、
前記第2アンプが増幅した前記第2信号を増幅する第4アンプと、
第1端が前記第1アンプに接続され、第2端が前記第3アンプに接続された第1インピーダンス変換器と、
第1端が前記第2アンプに接続され、第2端が前記第4アンプに接続された第2インピーダンス変換器と、
前記第1アンプの出力インピーダンスと前記第1インピーダンス変換器の入力インピーダンスとを整合させる第1整合回路と、
前記第2アンプの出力インピーダンスと前記第2インピーダンス変換器の入力インピーダンスとを整合させる第2整合回路と、
前記第1インピーダンス変換器の出力インピーダンスと前記第3アンプの入力インピーダンスとを整合させる第3整合回路と、
前記第2インピーダンス変換器の出力インピーダンスと前記第4アンプの入力インピーダンスとを整合させる第4整合回路と、
前記第3アンプが増幅した前記第1信号と前記第4アンプが増幅した前記第2信号とを合成し、前記合成した信号を出力信号として出力する合成器と、
を備え、
前記第1整合回路が出力する前記第1信号に対する前記第3整合回路に入力する前記第1信号の第1位相差は、動作周波数帯域の中心周波数において90°未満であり、
前記第2整合回路が出力する前記第2信号に対する前記第4整合回路に入力する前記第2信号の第2位相差は、前記中心周波数において90°より大きいアウトフェージング増幅器。
【請求項2】
前記出力信号の電力が動作として用いられる最小の値のときのアウトフェージング角をθboとしたとき、前記第1位相差は、85°-θbo以上かつ95°-θbo以下であり、前記第2位相差は、85°+θbo以上かつ95°+θbo以下である請求項1に記載のアウトフェージング増幅器。
【請求項3】
前記第3アンプから前記第3整合回路を見たインピーダンスは、前記第3整合回路から前記第3アンプをみたインピーダンスの複素共役から、スミスチャート上において時計回りに回転しており、
前記第4アンプから前記第4整合回路を見たインピーダンスは、前記第4整合回路から前記第4アンプをみたインピーダンスの複素共役から、スミスチャート上において反時計回りに回転している請求項1または請求項2に記載のアウトフェージング増幅器。
【請求項4】
前記第1整合回路が出力する前記第1信号に対する前記第3整合回路に入力する前記第1信号の挿入損失は、前記動作周波数帯域の低周波端より前記動作周波数帯域の高周波端の方が大きく、
前記第2整合回路が出力する前記第2信号に対する前記第4整合回路に入力する前記第2信号の挿入損失は、前記低周波端より前記高周波端の方が小さい請求項1または請求項2に記載のアウトフェージング増幅器。
【請求項5】
前記第3整合回路の挿入損失は、前記低周波端より前記高周波端の方が小さく、
前記第4整合回路の挿入損失は、前記低周波端より前記高周波端の方が大きい請求項4に記載のアウトフェージング増幅器。
【請求項6】
前記第1インピーダンス変換器から前記第3整合回路を見たインピーダンスのスミスチャート上の座標を極座標を用い表したとき動径は0.5以下であり、
前記第2インピーダンス変換器から前記第4整合回路を見たインピーダンスのスミスチャート上の座標を極座標を用い表したとき動径は0.5以下である請求項1または請求項2に記載のアウトフェージング増幅器。
【請求項7】
前記第1インピーダンス変換器は、前記中心周波数における波長の1/4の電気長を有する第1伝送線路であり、
前記第2インピーダンス変換器は、前記中心周波数における波長の1/4の電気長を有する第2伝送線路である請求項1または請求項2に記載のアウトフェージング増幅器。
【請求項8】
前記第1整合回路と前記第1伝送線路との間のノードに第1端が接続された第1オープンスタブと、
前記第2整合回路と前記第2伝送線路との間のノードに第1端が接続された第2オープンスタブと、
を備える請求項7に記載のアウトフェージング増幅器。
【請求項9】
前記第1整合回路と前記第1伝送線路との間のノードに第1端が接続され第2端が基準電位に接続されたキャパシタと、
前記第2整合回路と前記第2伝送線路との間のノードに第1端が接続され第2端が基準電位に接続されたインダクタと、
を備える請求項7に記載のアウトフェージング増幅器。
【請求項10】
前記第1インピーダンス変換器は、前記中心周波数における波長の1/4より短い電気長を有する第1伝送線路であり、
前記第2インピーダンス変換器は、前記中心周波数における波長の1/4より長い電気長を有する第2伝送線路である請求項1または請求項2に記載のアウトフェージング増幅器。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アウトフェージング増幅器に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波等の高周波信号を増幅する増幅器としてアウトフェージング増幅器が知られている。アウトフェージング増幅器は、信号処理器、2つのアンプおよび合成器を備えている。信号処理器は、入力された入力信号の振幅に基づきアウトフェージング角を変化させた2つの信号を出力する。2つのアンプは、信号処理器から出力された2つの信号をそれぞれ増幅する。合成器は、2つのアンプが増幅した2つの出力信号を1つの出力信号として合成する合成器を備える。合成器としてシレイ(Chireix)合成器を用いることが知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-156023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アウトフェージング増幅器において、並列に接続された2つのアンプをそれぞれ多段とすることが考えられる。多段のアンプを設計する場合、整合回路の設計を容易にするため、2つのアンプ間に、後段のアンプを見たインピーダンスがほぼ基準インピーダンスとなるノードを設けることがある。この場合、アンプの間にインピーダンス変換器を設けることが考えられる。しかしながら、アウトフェージング増幅器において、アンプの間にインピーダンス変換器を設けると、特性が劣化してしまう。
【0005】
本開示は、上記課題に鑑みなされたものであり、特性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一実施形態は、第1信号を増幅する第1アンプと、第2信号を増幅する第2アンプと、前記第1アンプが増幅した前記第1信号を増幅する第3アンプと、前記第2アンプが増幅した前記第2信号を増幅する第4アンプと、第1端が前記第1アンプに接続され、第2端が前記第3アンプに接続された第1インピーダンス変換器と、第1端が前記第2アンプに接続され、第2端が前記第4アンプに接続された第2インピーダンス変換器と、前記第1アンプの出力インピーダンスと前記第1インピーダンス変換器の入力インピーダンスとを整合させる第1整合回路と、前記第2アンプの出力インピーダンスと前記第2インピーダンス変換器の入力インピーダンスとを整合させる第2整合回路と、前記第1インピーダンス変換器の出力インピーダンスと前記第3アンプの入力インピーダンスとを整合させる第3整合回路と、前記第2インピーダンス変換器の出力インピーダンスと前記第4アンプの入力インピーダンスとを整合させる第4整合回路と、前記第3アンプが増幅した前記第1信号と前記第4アンプが増幅した前記第2信号とを合成し、前記合成した信号を出力信号として出力する合成器と、を備え、前記第1整合回路が出力する前記第1信号に対する前記第3整合回路に入力する前記第1信号の第1位相差は、動作周波数帯域の中心周波数において90°未満であり、前記第2整合回路が出力する前記第2信号に対する前記第4整合回路に入力する前記第2信号の第2位相差は、前記中心周波数において90°より大きいアウトフェージング増幅器である。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施例1に係るアウトフェージング増幅器のブロック図である。
図2図2は、実施例1に係るアウトフェージング増幅器のブロック図である。
図3図3は、実施例1における出力電力のベクトルの模式図である。
図4図4は、実施例1における出力電力のベクトルの模式図である。
図5図5は、比較例1におけるインピーダンスのスミスチャートである。
図6図6は、実施例1におけるインピーダンスのスミスチャートである。
図7図7は、比較例2に係るアウトフェージング増幅器の回路図である。
図8図8は、比較例2のアウトフェージング増幅器におけるインピーダンスを示すスミスチャートである。
図9図9は、比較例2のアウトフェージング増幅器における周波数に対する通過特性S21を示す図である。
図10図10は、実施例1のアウトフェージング増幅器におけるインピーダンスを示すスミスチャートである。
図11図11は、実施例1のアウトフェージング増幅器における周波数に対する通過特性S21を示す図である。
図12図12は、実施例2のアウトフェージング増幅器におけるインピーダンスを示すスミスチャートである。
図13図13は、実施例2のアウトフェージング増幅器におけるインピーダンスを示すスミスチャートである。
図14図14は、実施例2のアウトフェージング増幅器における周波数に対する通過特性S21を示す図である。
図15図15は、実施例3に係るアウトフェージング増幅器の回路図である。
図16図16は、実施例4に係るアウトフェージング増幅器の回路図である。
図17図17は、実施例5に係るアウトフェージング増幅器の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態の内容を列記して説明する。
(1)本開示の一実施形態は、第1信号を増幅する第1アンプと、第2信号を増幅する第2アンプと、前記第1アンプが増幅した前記第1信号を増幅する第3アンプと、前記第2アンプが増幅した前記第2信号を増幅する第4アンプと、第1端が前記第1アンプに接続され、第2端が前記第3アンプに接続された第1インピーダンス変換器と、第1端が前記第2アンプに接続され、第2端が前記第4アンプに接続された第2インピーダンス変換器と、前記第1アンプの出力インピーダンスと前記第1インピーダンス変換器の入力インピーダンスとを整合させる第1整合回路と、前記第2アンプの出力インピーダンスと前記第2インピーダンス変換器の入力インピーダンスとを整合させる第2整合回路と、前記第1インピーダンス変換器の出力インピーダンスと前記第3アンプの入力インピーダンスとを整合させる第3整合回路と、前記第2インピーダンス変換器の出力インピーダンスと前記第4アンプの入力インピーダンスとを整合させる第4整合回路と、前記第3アンプが増幅した前記第1信号と前記第4アンプが増幅した前記第2信号とを合成し、前記合成した信号を出力信号として出力する合成器と、を備え、前記第1整合回路が出力する前記第1信号に対する前記第3整合回路に入力する前記第1信号の第1位相差は、動作周波数帯域の中心周波数において90°未満であり、前記第2整合回路が出力する前記第2信号に対する前記第4整合回路に入力する前記第2信号の第2位相差は、前記中心周波数において90°より大きいアウトフェージング増幅器である。これにより、第1整合回路から第1インピーダンス変換回路を見たインピーダンスおよび第2整合回路から第2インピーダンス変換回路を見たインピーダンスのリアクタンス成分を抑制でき、アウトフェージング増幅器の特性を向上できる。
(2)上記(1)において、前記出力信号の電力が動作として用いられる最小の値のときのアウトフェージング角をθboとしたとき、前記第1位相差は、85°-θbo以上かつ95°-θbo以下であり、前記第2位相差は、85°+θbo以上かつ95°+θbo以下であってもよい。これにより、アウトフェージング角がθboにおける特性を向上できる。
(3)上記(1)または(2)において、前記第3アンプから前記第3整合回路を見たインピーダンスは、前記第3整合回路から前記第3アンプをみたインピーダンスの複素共役から、スミスチャート上において時計回りに回転しており、前記第4アンプから前記第4整合回路を見たインピーダンスは、前記第4整合回路から前記第4アンプをみたインピーダンスの複素共役から、スミスチャート上において反時計回りに回転していてもよい。これにより、広帯域化できる。
(4)上記(1)から(3)のいずれかにおいて、前記第1整合回路が出力する前記第1信号に対する前記第3整合回路に入力する前記第1信号の挿入損失は、前記動作周波数帯域の低周波端より前記動作周波数帯域の高周波端の方が大きく、前記第2整合回路が出力する前記第2信号に対する前記第4整合回路に入力する前記第2信号の挿入損失は、前記低周波端より前記高周波端の方が小さくてもよい。これにより、第1位相差を90°未満とし、第2位相差を90°以上にできる。
(5)上記(4)において、前記第3整合回路の挿入損失は、前記低周波端より前記高周波端の方が小さく、前記第4整合回路の挿入損失は、前記低周波端より前記高周波端の方が大きい。これにより、広帯域化できる。
(6)上記(1)から(5)のいずれかにおいて、前記第1インピーダンス変換器から前記第3整合回路を見たインピーダンスのスミスチャート上の座標を極座標を用い表したとき動径は0.5以下であり、前記第2インピーダンス変換器から前記第4整合回路を見たインピーダンスのスミスチャート上の座標を極座標を用い表したとき動径は0.5以下であってもよい。これにより、整合回路の設計が容易となる。
(7)上記(1)から(6)のいずれかにおいて、前記第1インピーダンス変換器は、前記中心周波数における波長の1/4の電気長を有する第1伝送線路であり、前記第2インピーダンス変換器は、前記中心周波数における波長の1/4の電気長を有する第2伝送線路であってもよい。これにより、インピーダンス変換器を実現できる。
(8)上記(7)において、前記第1整合回路と前記第1伝送線路との間のノードに第1端が接続された第1オープンスタブと、前記第2整合回路と前記第2伝送線路との間のノードに第1端が接続された第2オープンスタブと、を備えてもよい。これにより、第1位相差を90°未満とし、第2位相差を90°以上にできる。
(9)上記(7)において、前記第1整合回路と前記第1伝送線路との間のノードに第1端が接続され第2端が基準電位に接続されたキャパシタと、前記第2整合回路と前記第2伝送線路との間のノードに第1端が接続され第2端が基準電位に接続されたインダクタと、を備えてもよい。これにより、第1位相差を90°未満とし、第2位相差を90°以上にできる。
(10)上記(1)から(6)のいずれかにおいて、前記第1インピーダンス変換器は、前記中心周波数における波長の1/4より短い電気長を有する第1伝送線路であり、前記第2インピーダンス変換器は、前記中心周波数における波長の1/4より長い電気長を有する第2伝送線路であってもよい。これにより、第1位相差を90°未満とし、第2位相差を90°以上にできる。
【0010】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の実施形態にかかるアウトフェージング増幅器の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本開示はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0011】
[実施例1]
図1は、実施例1に係るアウトフェージング増幅器のブロック図である。図1に示すように、アウトフェージング増幅器100では、入力端子Tinと出力端子Toutとの間に2つの経路40および41が並列に接続して設けられている。経路40は、アンプ10と12との2段アンプであり、経路41は、アンプ11と13との2段アンプである。
【0012】
入力端子Tinに入力信号Siとして高周波信号が入力する。アウトフェージング増幅器100が移動体通信の基地局に用いられる場合、高周波信号の周波数は例えば0.5GHz以上かつ10GHz以下である。信号処理器18は入力信号Siを信号処理し、2つの信号Siaおよび信号Sibとして、それぞれ経路40および41に出力する。
【0013】
信号Siaは整合回路20を介しアンプ10に入力される。整合回路20は信号処理器18の出力インピーダンスとアンプ10の入力インピーダンスを整合させる。アンプ10は、整合回路20を介して入力された信号Siaを増幅し、増幅した信号Smaを、整合回路22、位相回路14および整合回路24を介しアンプ12に出力する。整合回路22、位相回路14および整合回路24は、アンプ10の出力インピーダンスとアンプ12の入力インピーダンスとを整合させる。アンプ12は、整合回路22、位相回路14および整合回路24を介して入力された信号Smaを増幅し、増幅した信号Soaを、整合回路26を介し合成器16に出力する。整合回路26は、アンプ12の出力インピーダンスと合成器16の入力インピーダンスとを整合させる。
【0014】
信号Sibは整合回路21を介しアンプ11に入力される。整合回路21は信号処理器18の出力インピーダンスとアンプ11の入力インピーダンスを整合させる。アンプ11は、整合回路21を介して入力された信号Sibを増幅し、増幅した信号Smbを、整合回路23、位相回路15および整合回路25を介しアンプ13に出力する。整合回路23、位相回路15および整合回路25は、アンプ11の出力インピーダンスとアンプ13の入力インピーダンスとを整合させる。アンプ13は、整合回路23、位相回路15および整合回路25を介して入力された信号Smbを増幅し、増幅した信号Sobを、整合回路27を介し合成器16に出力する。整合回路27は、アンプ13の出力インピーダンスと合成器16の入力インピーダンスとを整合させる。合成器16は、信号SoaとSobとを合成する。合成された信号は出力信号Soとして出力端子Toutから出力される。
【0015】
以上のように、アンプ10(第1アンプ)は信号Sia(第1信号)を増幅する。アンプ11(第2アンプ)は信号Sib(第2信号)を増幅する。アンプ12(第3アンプ)は、アンプ10が増幅した信号Smaを増幅する。アンプ13(第4アンプ)は、アンプ11が増幅した信号Smbを増幅する。
【0016】
アンプ10から13は、例えばFET(Field Effect Transistor)Q1a、Q1b、Q2aおよびQ2bをそれぞれ備える。FETQ1a、Q1b、Q2aおよびQ2bのソースSは接地され、ゲートGに信号が入力され、ドレインDは増幅した信号が出力する。FETQ1a、Q1b、Q2aおよびQ2bは、例えばGaN HEMT(Gallium Nitride High Electron Mobility Transistor)またはLDMOS(Laterally Diffused Metal Oxide Semiconductor)である。アンプ10から13は、FET以外のトランジスタを有していてもよい。
【0017】
FETQ1a、Q1b、Q2aおよびQ2bのゲートGには、不図示のバイアス回路を介しゲートバイアス電圧が印加され、ドレインDには、不図示のバイアス回路を介しドレインバイアス電圧が印加される。
【0018】
信号処理器18は、例えばSingnal Processing Unitであり、入力信号Siをデジタル処理し信号SiaおよびSibを出力する。アウトフェージング増幅器100では、入力信号Siの入力電力の振幅に対応した出力電力の振幅を有する出力信号Soを出力する。信号処理器18は、入力信号Siの振幅に依存した出力信号Soを出力するため、入力信号Siの振幅に依存して信号SiaおよびSibのアウトフェージング角を設定する。
【0019】
図2は、実施例1に係るアウトフェージング増幅器のブロック図である。図2では、図1に比べ、整合回路20、21、26および27の図示を省略し、位相回路14、15および合成器16内の構成を図示している。図2に示すように、実施例1のアウトフェージング増幅器100では、位相回路14は、伝送線路30とオープンスタブ34を備え、位相回路15は、伝送線路31とオープンスタブ35を備える。
【0020】
位相回路14では、伝送線路30の第1端はノードN1に電気的に接続され、伝送線路30の第2端はノードN3に電気的に接続されている。オープンスタブ34の第1端はノードN1に電気的に接続され、オープンスタブ34の第2端は開放されている。
【0021】
位相回路15では、伝送線路31の第1端はノードN2に電気的に接続され、伝送線路31の第2端はノードN4に電気的に接続されている。オープンスタブ35の第1端はノードN2に電気的に接続され、オープンスタブ35の第2端は開放されている。
【0022】
すなわち、伝送線路30(第1インピーダンス変換器)では、第1端がアンプ10に接続され、第2端がアンプ12に接続されている。伝送線路31(第2インピーダンス変換器)では、第1端がアンプ11に接続され、第2端がアンプ13に接続されている。
【0023】
また、整合回路22(第1整合回路)は、アンプ10の出力インピーダンスと伝送線路30の入力インピーダンスとを整合させる。整合回路23(第2整合回路)は、アンプ11の出力インピーダンスと伝送線路31の入力インピーダンスとを整合させる。整合回路24(第3整合回路)は、伝送線路30の出力インピーダンスとアンプ12の入力インピーダンスとを整合させる。整合回路25(第4整合回路)は、伝送線路31の出力インピーダンスとアンプ13の入力インピーダンスとを整合させる。
【0024】
合成器16は、シレイ合成器である。合成器16は、伝送線路32、33、オープンスタブ36および37を備えている。伝送線路32の第1端はノードN5に電気的に接続され、伝送線路32の第2端はノードN7に電気的に接続されている。伝送線路33の第1端はノードN6に電気的に接続され、伝送線路33の第2端はノードN7に電気的に接続されている。オープンスタブ36の第1端はノードN5に電気的に接続され、オープンスタブ36の第2端は開放されている。オープンスタブ37の第1端はノードN6に電気的に接続され、オープンスタブ37の第2端は開放されている。ノードN5に入力する信号Soaと、ノードN6に入力する信号Sobと、はノードN7において合成され、出力端子Toutに、出力電力Poの出力信号Soとして出力される。
【0025】
インピーダンスZ1aおよびZ1bは、それぞれアンプ10および11から整合回路22および23を見たインピーダンスである。インピーダンスZ2aおよびZ2bは、それぞれ整合回路22および23から位相回路14および15を見たインピーダンスである。インピーダンスZ3aおよびZ3bは、それぞれ位相回路14および15から整合回路24および25を見たインピーダンスである。インピーダンスZ4aおよびZ4bは、それぞれ整合回路24および25からアンプ12および13を見たインピーダンスである。インピーダンスZ5aおよびZ5bは、それぞれアンプ12および13から整合回路24および25を見たインピーダンスである。インピーダンスZ6aおよびZ6bは、それぞれ整合回路26および27(図1参照)から合成器16を見たインピーダンスである。
【0026】
通過特性S21aおよびS21bは、それぞれ位相回路14および15の通過特性であり、ノードN1およびN3をポート1とし、ノードN2およびN4をポート2としたときのSパラメータS21の絶対値に相当する。通過特性S21AおよびS21Bは、それぞれ整合回路24および25の通過特性であり、SパラメータS21の絶対値に相当する。
【0027】
[アウトフェージング動作の説明]
図3および図4は、実施例1における出力電力のベクトルの模式図である。図3は、アウトフェージング増幅器100の出力電力Poを最大とするときに相当し、図4は、アウトフェージング増幅器100の出力電力P0を最小とするときに相当する。動作において用いられるときの最大の値の出力電力Poを飽和電力と称し電力Psatで表す。動作において用いられるときの最小の値の出力電力Poをバックオフ電力と称し電力Pboで表す。
【0028】
図3および図4において、電力PaはノードN5における信号Soaの電力のベクトルであり、電力PbはノードN6における信号Sobの電力のベクトルである。電力PaおよびPbは、例えばそれぞれアンプ10および11の飽和電力である。電力PaとPbとの合成ベクトルは出力端子Toutから出力される出力電力Poである。アウトフェージング角をθaとし、電力PaとPaの位相差をθdとすると、2×θa+θd=180°である。すなわち、位相差θdが180°の状態から、電力P1の位相を+θa回転し、電力P2の位相を-θa回転させたとき、角θaをアウトフェージング角という。
【0029】
図3に示すように、出力電力Poを大きくするときには、アウトフェージング角θaを大きくし、90°に近づける。図4に示すように、出力電力Poを小さくするときには、アウトフェージング角θaを小さくし、0°に近づける。シレイ合成器である合成器16では、アウトフェージング角を90°付近および0°付近とすると、インピーダンスZ6aおよびZ6bのリアクタンス成分が大きくなり、アンプ10および11の負荷インピーダンスが最適値からずれてしまう。このため、アウトフェージング角θaは、90°より小さい角θsatと、0°より大きい角θboの範囲で用いる。すなわち、図3において、出力電力Poが電力Psatのときのアウトフェージング角θaは角θsatである。角θsatは、アウトフェージング増幅器100の動作において用いられる最大のアウトフェージング角θaである。図4において、出力電力Poが電力Pboのときのアウトフェージング角θaはθboである。角θboは、アウトフェージング増幅器100の動作において用いられる最小のアウトフェージング角θaである。角θsatは例えば70°であり、角θboは例えば20°である。
【0030】
アウトフェージング角θaの制御は信号処理器18が行う。例えば、出力電力Poを大きくするとき、信号処理器18は、信号SiaとSibのアウトフェージング角θaを大きくする。出力電力Poを小さくするとき、信号処理器18は、信号SiaとSibのアウトフェージング角θaを小さくする。信号SiaおよびSibのアウトフェージング角θaと、信号SiaおよびSibを増幅した信号SoaおよびSobのアウトフェージング角θaと、はほぼ同じである。よって、信号処理器18が信号SiaとSibのアウトフェージング角θaを変化させることで、アウトフェージング角θaを変化させることができる。このように、信号処理器18は、入力する入力信号Siに基づき、信号SiaとSibとのアウトフェージング角θaを変化させ、アンプ10および11にアウトフェージング角θaを変化させた信号SiaとSibとを出力する
【0031】
[シレイ合成器の説明]
オープンスタブ36および37の機能について説明するため、比較例1について説明する。比較例1に係るアウトフェージング増幅器では、合成器16にオープンスタブ36および37が設けられていない。比較例1の合成器はシレイ合成器ではない。
【0032】
図5は、比較例1におけるインピーダンスのスミスチャートであり、インピーダンスZ6aおよびZ6bのスミスチャートである。図5に示すように、点50はアウトフェージング角θaが0°のときを示し、点51はアウトフェージング角θaが90°のときを示す。アウトフェージング角θaが0°から90°まで変化すると、インピーダンスZ6aは、矢印52のように点50から点51に円弧の下半分の軌跡を移動する。インピーダンスZ6bは、矢印53のように点50から点51に円弧の上半分の軌跡を移動する。
【0033】
整合回路26および27は、インピーダンスZ6aおよびZ6bが実数(例えば標準インピーダンスの2倍)のとき、アンプ12および13の高周波特性が最適(例えばドレイン効率が最大)となるように、アンプ12および13の出力インピーダンスを変換する。これにより、図5において、インピーダンスZ6aおよびZ6bが実数のときアンプ12および13の特性が最大となる。点50および点51では、インピーダンスZ6aおよびZ6bは実数である。アウトフェージング角θaの範囲は、図3のθsatと図4のθboとの間の範囲である。この範囲では、インピーダンスZaおよびZbのリアクタンス成分(虚数成分)が大きく、アンプ12および13の負荷インピーダンスは最適値からずれてしまう。また、無効電力が大きくなってしまう。
【0034】
図6は、実施例1におけるインピーダンスのスミスチャートであり、インピーダンスZ6aおよびZ6bのスミスチャートである。オープンスタブ36の電気長を、容量性を有する電気長とし、オープンスタブ37の電気長を、誘導性を有する電気長とする。すなわち、オープンスタブ36を、2λより長くかつ4λより短くする。オープンスタブ37を、0λより長くかつ2λより短くする。なお、λは、アウトフェージング増幅器100の動作周波数帯域の中心周波数における波長である。
【0035】
図6に示すように、オープンスタブ36を設けることで、インピーダンスZ6aは、インピーダンスのスミスチャート上を、全体の円弧の形状を保った状態において、比較例1の図5に比べて、リアクタンス成分が正の方向にシフトしかつ反時計回りの方向に回転する。オープンスタブ37を設けることで、インピーダンスZ6bは、インピーダンスのスミスチャート上を、全体の円弧の形状を保った状態において、比較例1に比べて、リアクタンス成分が負の方向にシフトしかつ時計回りの方向に回転する。アウトフェージング角θaが0°の点50aおよびアウトフェージング角θaが90°のときの点51aにおけるインピーダンスZaのリアクタンス成分は正となる。アウトフェージング角θaが0°の点50bおよびアウトフェージング角θaが90°のときの点51bにおけるインピーダンスZbのリアクタンス成分は負となる。
【0036】
アウトフェージング増幅器では、出力電力Poがバックオフ電力Pboのときに、効率等の特性を向上させる。このため、オープンスタブ36の電気長を、180°-θboに設定し、オープンスタブ37の電気長を+θboに設定する。これにより、アウトフェージング角θaが角θboのときのインピーダンスZ6aおよびZ6bは、実軸上の点54となる。これにより、出力電力Poがバックオフ電力Pboのときに、効率等の特性を向上できる。アウトフェージング角θaがθsatのときのインピーダンスZ6aおよびZ6bは、実軸上とは限らないが、図5よりは、実軸に近づく。アウトフェージング角θaがθboとθsatとの範囲では、図5に比べインピーダンスZ6aおよびZ6bが実軸に近づきリアクタンス成分が小さくなる。よって、アンプ12および13の負荷インピーダンスは最適値に近くなる。これにより、ドレイン効率等の高周波特性が向上する。
【0037】
[比較例2の説明]
整合回路20、21、位相回路14、15、整合回路22および23の機能を、比較例2を用い説明する。図7は、比較例2に係るアウトフェージング増幅器の回路図である。図7に示すように、比較例2のアウトフェージング増幅器110では、位相回路14にオープンスタブ34が設けられておらず、位相回路15にオープンスタブ35が設けられていない。その他の構成は実施例1と同じである。
【0038】
多段アンプでは、アンプの間のノードにおけるインピーダンスを基準インピーダンスとすることがある。これは、整合回路等の設計を容易とするためである。例えば、アンプ10の出力インピーダンスとアンプ12の入力インピーダンスとを直接整合させることは難しい。以下、位相回路14、15、整合回路22および23の機能について、インピーダンスZ1aからZ5aおよびZ1bからZ5bのスミスチャート、および通過特性S21a、S21b、S21AおよびS21Bを用いて説明する。
【0039】
図8は、比較例2のアウトフェージング増幅器におけるインピーダンスを示すスミスチャートである。インピーダンスZ1aからZ4aおよびZ1bからZ4bは、整合回路20、21、位相回路14、15、整合回路22および23の機能を説明するための仮想のインピーダンスである。
【0040】
図8におけるインピーダンスZ1aからZ4aおよびZ1bからZ4bは、例えばアウトフェージング角θaがθboのときのインピーダンスZ1aからZ4aおよびZ1bからZ4bを示している。信号SoaとSobとの位相差(アウトフェージング角θa)を考慮してスミスチャートを示すと、図6において示したように、インピーダンスZ1aからZ4aおよびZ1bからZ4bの位置がスミスチャート上を回転し複雑になる。このため、図8では、アウトフェージング角θaによる回転を考慮せずにスミスチャートを示している。以下のスミスチャートについても同じである。図8の直線は実軸に相当する。
【0041】
図8に示すように、インピーダンスZ1aおよびZ1bは、アンプ10および11の特性が最適(例えばドレイン効率が最大)となるようにそれぞれ設定される。インピーダンスZ1aおよびZ1bは、リアクタンス成分を有し、実軸上に位置していない。
【0042】
整合回路22および23は、インピーダンスZ1aおよびZ1bのリアクタンス成分がほぼ0の実軸上のインピーダンスZ2aおよびZ2bにそれぞれ変換する。なお、ここで、実軸上(略実軸上)とは厳密に実軸上でなくてもよい。例えば、インピーダンスの抵抗成分(実部)に対しリアクタンス成分(虚部)が1/10以下であればよい。アンプ10および11の出力インピーダンスが低いため、インピーダンスZ2aおよびZ2bは、基準インピーダンスに比べ低くなる。
【0043】
位相回路14および15は、インピーダンスZ2aおよびZ2bをほぼ基準インピーダンス(例えば50Ω)であるインピーダンスZ3aおよびZ3bにそれぞれ変換する。インピーダンスZ2aおよびZ2bとインピーダンスZ3aおよびZ3bとはともに実軸上に位置する。このため、位相回路14および15をそれぞれλ/4の長さを有する伝送線路30および31とすることで、インピーダンスZ2aおよびZ2bをインピーダンスZ3aおよびZ3bにそれぞれインピーダンス変換することができる。
【0044】
整合回路24および25は、ほぼ基準インピーダンスであるインピーダンスZ3aおよびZ3bをインピーダンスZ4aおよびZ4bにそれぞれ変換する。インピーダンスZ4aおよびZ4bは、アンプ12および13の特性が最適となるように設定されている。インピーダンスZ4aおよびZ4bは、リアクタンス成分を有し、実軸上に位置していない。
【0045】
図9は、比較例2のアウトフェージング増幅器における周波数に対する通過特性S21を示す図である。周波数f1およびf2は、アウトフェージング増幅器の動作周波数帯域の低周波端および高周波端をそれぞれ示す。通過特性S21a、S21b、S21AおよびS21Bは、整合回路20、21、位相回路14、15、整合回路22および23の機能を説明するための仮想の通過特性である。
【0046】
図9に示すように、比較例2では、通過特性S21a、S21b、S21AおよびS21Bは、動作周波数帯域内において、ほとんど周波数によらず一定である。
【0047】
比較例2では、アウトフェージング動作を考慮していない。このため、図5のように、インピーダンスZ6aと同じように、アウトフェージング角θaが0°から90°まで変化すると、インピーダンスZ2aは、矢印52のように点50から点51に円弧の下半分の軌跡を移動する。インピーダンスZ2bは、矢印53のように点50から点51に円弧の上半分の軌跡を移動する。アウトフェージング角θaが角θboとθsatとの間の範囲では、インピーダンスZ2aおよびZ2bのリアクタンス成分(虚数成分)が大きく、アンプ10および11の負荷インピーダンスは最適値からずれてしまう。また、無効電力が大きくなってしまう。
【0048】
[実施例1における位相回路の説明]
実施例1では、位相回路14に容量性のオープンスタブ34を設けることで、インピーダンスZ2aは、インピーダンスのスミスチャート上を、反時計回りの方向に回転する。位相回路15に誘導性のオープンスタブ35を設けることで、インピーダンスZ2bは、インピーダンスのスミスチャート上を、時計回りの方向に回転する。これにより、アウトフェージング角θaがθboとθsatとの範囲では、図5に比べインピーダンスZ2aおよびZ2bが実軸に近づきリアクタンス成分が小さくなる。よって、アンプ10および11の負荷インピーダンスは最適値に近くなる。これにより、ドレイン効率等の高周波特性が向上する。
【0049】
図10は、実施例1のアウトフェージング増幅器におけるインピーダンスを示すスミスチャートである。図10では、図8と同じように、アウトフェージング角θaによる回転は考慮していない。このため、インピーダンスZ1aからZ4aおよびインピーダンスZ1bからZ4bは、図8の比較例2と同じである。インピーダンスZ5aおよびZ5bとインピーダンスZ4aおよびZ4bとはインピーダンス整合していることから複素共役の関係にある。
【0050】
図11は、実施例1のアウトフェージング増幅器における周波数に対する通過特性S21を示す図である。図11に示すように、通過特性S21aは、周波数f1において周波数f2より高くなる。これは、オープンスタブ34が容量性のためである。通過特性S21bは、周波数f1において周波数f2より低くなる。これは、オープンスタブ35が誘導性であるためである。通過特性S21AおよびS21Bは、比較例2の図9と同じように、周波数に対しほぼ一定である。
【0051】
このように、実施例1では、オープンスタブ34および35を設けることで、ドレイン効率等の高周波特性が向上するものの、通過特性S21aおよびS21bに周波数依存が存在するため、帯域が狭くなってしまう。
【0052】
[実施例2]
図12および図13は、実施例2のアウトフェージング増幅器におけるインピーダンスを示すスミスチャートである。図12は、インピーダンスZ1aからZ5aを示し、図13は、インピーダンスZ1bからZ5bを示す。図12および図13では、図8および図10と同じように、アウトフェージング角θaによる回転は考慮していない。
【0053】
図12および図13に示すように、インピーダンスZ1aからZ4aおよびインピーダンスZ1bからZ4bは、図8および図10の比較例2および実施例1と同じである。図12のように、インピーダンスZ4aは、アンプ12が最適動作する入力インピーダンスである。インピーダンスZ4a*は、インピーダンスZ4aの複素共役である。整合回路24が位相回路14とアンプ12とをインピーダンス整合させるためには、インピーダンスZ5aはインピーダンスZ4a*となっているはずである。しかし、実施例2では、整合回路24を実施例1より容量性とする。これにより、インピーダンスZ5aはインピーダンスZ4a*より時計方向に回転している。すなわち、整合回路24を通過する高周波信号の位相は実施例1より遅くなる。
【0054】
図13のように、アンプ12が最適動作する入力インピーダンスZ4bとインピーダンスZ4b*は複素共役である。実施例2では、整合回路25を実施例1より誘導性とする。インピーダンスZ5bはインピーダンスZ4b*より反時計方向に回転している。すなわち、整合回路25を通過する高周波信号の位相は実施例1より速くなる。
【0055】
図14は、実施例2のアウトフェージング増幅器における周波数に対する通過特性S21を示す図である。図14に示すように、通過特性S21aおよびS21bは、実施例1と同じである。整合回路24を容量性とすることで、通過特性S21Aは、周波数f1において周波数f2より低くなる。整合回路25を誘導性とすることで、通過特性S21Bは、周波数f1において周波数f2より高くなる。
【0056】
実施例2では、オープンスタブ34を設けたことにより、位相回路14の通過特性S21aが低周波数の信号を通過させるローパス特性となるが、整合回路24を容量性とすることで、整合回路24の通過特性S21Aを高周波数の信号を通過させるハイパス特性とする。これにより、経路40における通過特性の周波数依存が小さくなる。オープンスタブ35を設けたことにより、位相回路15の通過特性S21bがハイパス特性となるが、整合回路25を誘導性とすることで、整合回路25の通過特性S21Bをローパス特性とする。これにより、経路41における通過特性の周波数依存が小さくなる。以上により、アウトフェージング増幅器100を広帯域化することができる。
【0057】
[実施例3]
図15は、実施例3に係るアウトフェージング増幅器の回路図である。図15に示すように、実施例3に係るアウトフェージング増幅器102では、オープンスタブ34および36の代わりに、ノードN1およびN5にそれぞれシャント接続されたキャパシタC1およびC2が設けられている。オープンスタブ35および37の代わりに、ノードN2およびN6にそれぞれシャント接続されたインダクタL1およびL2が設けられている。その他の構成は実施例1および2と同じであり説明を省略する。
【0058】
[実施例4]
図16は、実施例4に係るアウトフェージング増幅器の回路図である。図16に示すように、実施例4に係るアウトフェージング増幅器104では、伝送線路30およびオープンスタブ34の代わりに伝送線路30aが設けられ、伝送線路32およびオープンスタブ36の代わりに伝送線路32aが設けられている。伝送線路31およびオープンスタブ35の代わりに伝送線路31aが設けられ、伝送線路33およびオープンスタブ37の代わりに伝送線路33aが設けられている。
【0059】
伝送線路30aおよび32aの電気長は、λ/4より短い。これにより、伝送線路30aは、実質的に伝送線路30およびオープンスタブ34として機能し、伝送線路32aは、実質的に伝送線路32およびオープンスタブ36として機能する。伝送線路31aおよび33aの電気長は、λ/4より長い。これにより、伝送線路31aは、実質的に伝送線路31およびオープンスタブ35として機能し、伝送線路33aは、実質的に伝送線路33およびオープンスタブ37として機能する。その他の構成は実施例1および2と同じであり説明を省略する。
【0060】
[実施例1から実施例4の説明]
実施例1から4によれば、整合回路22が出力する信号Smaに対する整合回路24に入力する信号Smaの第1位相差Δθ1(すなわち、ノードN1とN3の位相差)は、動作周波数帯域の中心周波数f0において90°未満である。整合回路23が出力する信号Smbに対する整合回路25に入力する信号Smbの第2位相差Δθ2(すなわち、ノードN2とN4の位相差)は、中心周波数f0において90°より大きい。
【0061】
これにより、図6のように、インピーダンスZ2aをスミスチャート上において反時計回りに回転させ、インピーダンスZ2bをスミスチャート上において時計回りに回転させることができる。よって、アウトフェージング角θaが角θboとθsatとの間において、インピーダンスZ2aおよびZ2bのリアクタンス成分を小さくできる。これにより、アウトフェージング増幅器の高周波特性を向上できる。
【0062】
インピーダンスZ2aおよびZ2bのリアクタンス成分を小さくする観点から、位相差Δθ1は、85°以下としてもよく、80°以下としてもよく、75°以下としてもよい。位相差Δθ2は、95°以上としてもよく、100°以上としてもよく、105°以上としてもよい。位相差Δθ1が小さすぎ、位相差Δθ2が大きすぎると、図6において、インピーダンスZ2aおよびZ2bが回転しすぎてしまい、インピーダンスZ2aおよびZ2bのリアクタンス成分が大きくなってしまう。この観点から、位相差Δθ1は、45°以上としてもよく、位相差Δθ2は、135°以下としてもよい。
【0063】
図6において、インピーダンスZ2aの回転角とインピーダンスZ2bの回転角とを同じとするため、|Δθ1-90°|-|Δθ2-90°|は、10°以下としてもよく、5°以下としてもよく、1°以下としてもよい。
【0064】
アウトフェージング増幅器では、出力電力Poが最小のバックオフ電力Pboのときにドレイン効率等の高周波特性を最適化することが多い。アウトフェージング角θaを角θboにおいて、インピーダンスZ2aおよびZ2bを図6の実軸上の点54とするためには、位相差Δθ1を90°-θboとし、位相差Δθ2を90°+θboとする。
【0065】
多少の誤差を許容すると、位相差Δθ1を、85°-θbo以上かつ95°-θbo以下としてもよく、88°-θbo以上かつ92°-θbo以下としてもよく、89°-θbo以上かつ91°-θbo以下としてもよい。位相差Δθ2を、85°+θbo以上かつ95°+θbo以下としてもよく、88°+θbo以上かつ92°+θbo以下としてもよく、89°+θbo以上かつ91°+θbo以下としてもよい。これにより、バックオフ電力Pboにおけるアウトフェージング増幅器の高周波特性を向上できる。
【0066】
実施例2では、図12のように、アンプ12から整合回路24を見たインピーダンスZ5aは,整合回路24からアンプ12をみたインピーダンスZ4aの複素共役(インピーダンスZ4a*)から、スミスチャート上において時計回り(右回り)に回転している。これにより、図14のように、通過特性S21Aをハイパス特性にできる。図13のように、アンプ13から整合回路25を見たインピーダンスZ5bは,整合回路25からアンプ13をみたインピーダンスZ4bの複素共役(インピーダンスZ4b*)から、スミスチャート上において反時計回り(左回り)に回転している。これにより、図14のように、通過特性S21Bをローパス特性にできる。よって、経路40と41の通過特性は周波数に対しほぼ一定にでき、アウトフェージング増幅器を広帯域化できる。
【0067】
実施例1および2のように、位相差Δθ1を90°未満とし、位相差Δθ2を90°より大きくする。これにより、位相回路14は容量性となり、位相回路15は誘導性となる。よって、図11および図14のように、整合回路22が出力する信号Smaに対する整合回路24に入力する信号Smaの挿入損失は、動作周波数帯域の低周波端の周波数f1より高周波端の周波数f2の方が大きくなる。整合回路23が出力する信号Smbに対する整合回路25に入力する信号Smbの挿入損失は、周波数f1より周波数f2の方が小さくなる。なお、図11および図14において、通過特性S21が小さくなると挿入損失が大きくなることに対応し、S21が大きくなると挿入損失が小さくなることに対応する。
【0068】
周波数f2におけるS21aは、周波数f1におけるS21aより、例えば0.5dB以上低くてもよく、1dB以上低くてもよく、2dB以上低くしてもよい。周波数f1におけるS21bは、周波数f1におけるS21bより、例えば0.5dB以上低くてもよく、1dB以上低くてもよく、2dB以上低くてもよい。
【0069】
実施例2では、図14のように、整合回路24の挿入損失は、周波数f1より周波数f2の方が小さい。整合回路25の挿入損失は、周波数f1より周波数f2の方が大きい。これにより、通過特性S21aのローパス特性と通過特性S21Aのハイパス特性とが補償し合い、経路40の動作周波数帯域内における通過特性が周波数に対し一定となる。通過特性S21bのハイパス特性と通過特性S21Bのローパス特性とが補償し合い、経路41の動作周波数帯域内における通過特性が周波数に対しほぼ一定となる。よって、アウトフェージング増幅器を広帯域化できる。
【0070】
周波数f1におけるS21Aは、周波数f2におけるS21Aより、例えば0.5dB以上低くてもよく、1dB以上低くてもよく、2dB以上低くしてもよい。周波数f2におけるS21Bは、周波数f1におけるS21Bより、例えば0.5dB以上低くてもよく、1dB以上低くてもよく、2dB以上低くてもよい。
【0071】
インピーダンスZ3aおよびZ3bをほぼ基準インピーダンスとすることで、整合回路24および25の設計が容易となる。スミスチャートの中心が基準インピーダンスに対応する。よって、インピーダンスZ3aおよびZ3bのスミスチャート上の座標を極座標を用い表し、スミスチャートの中心および外周の動径をそれぞれ0および1としたとき、動径は0.5以下であればよく、0.3以下でもよく、0.2以下でもよく、0.1以下でもよい。
【0072】
実施例1から4のように、第1インピーダンス変換器は、中心周波数f0における波長λの1/4の電気長を有する伝送線路30(第1伝送線路)である。第2インピーダンス変換器は、波長λの1/4の電気長を有する伝送線路31(第2伝送線路)である。これにより、実軸上のインピーダンスZ2aおよびZ2bからそれぞれ実軸上のインピーダンスZ3aおよびZ3bへのインピーダンス変換が可能となる。伝送線路30から33の電気長が波長λの1/4(略1/4)とは、実質的に実軸上のインピーダンスZ2aおよびZ2bから実軸上のインピーダンスZ3aおよびZ3bへの変換ができればよい。伝送線路30から33の電気長は、位相に換算し、80°以上かつ100°以下としてもよく、85°以上かつ95°以下としてもよい。
【0073】
実施例1および2のように、ノードN1に第1端が接続されたオープンスタブ34(第1オープンスタブ)と、ノードN2に第1端が接続されたオープンスタブ35(第2オープンスタブ)と、が設けられている。オープンスタブ34の電気長を位相に換算し90°より大きくかつ180°より小さくすることで、位相差Δθ1を90°未満とすることができる。オープンスタブ35の電気長を位相に換算し0°より大きくかつ90°より小さくすることで、位相差Δθ2を90°より大きくすることができる。
【0074】
バックオフ電力Pboにおいて、図6のインピーダンスZ2aおよびZ2bを実軸に近づけるためには、オープンスタブ34および35の電気長を、それぞれ180°-θboおよび+θboとする。多少の誤差を許容し、オープンスタブ34の電気長を位相に換算し、175°-θbo以上かつ185°-θbo以下としてもよく、178°-θbo以上かつ189°-θbo以下としてもよく、179°-θbo以上かつ181°-θbo以下としてもよい。
【0075】
実施例3のように、ノードN1に第1端が接続され第2端が基準電位に接続されたキャパシタC1と、ノードN2に第1端が接続され第2端が基準電位に接続されたインダクタL1と、が設けられていてもよい。これにより、位相差Δθ1を90°未満とし、位相差Δθ2を90°より大きくすることができる。
【0076】
実施例4のように、位相回路14および15には、オープンスタブ34、35、キャパシタC1およびインダクタL1がいずれも設けられていなくてもよい。伝送線路30aの電気長を1/4より短くし、伝送線路31aの電気長を1/4より長くする。これにより、位相差Δθ1を90°未満とし、位相差Δθ2を90°より大きくすることができる。
【0077】
バックオフ電力Pboにおいて、図6のインピーダンスZ2aおよびZ2bを実軸に近づける観点から、伝送線路30aの電気長は、位相に換算し、85°-θbo以上かつ95°-θbo以下としてもよく、88°-θbo以上かつ92°-θbo以下としてもよく、89°-θbo以上かつ91°-θbo以下としてもよい。伝送線路31aの電気長は、85°+θbo以上かつ95°+θbo以下としてもよく、88°+θbo以上かつ92°+θbo以下としてもよく、89°+θbo以上かつ91°+θbo以下としてもよい。
【0078】
実施例1から4では、アンプ12が増幅した信号Soaと、アンプ13が増幅した信号Sobと、を合成するシレイ合成器16を備える。これにより、図6において説明したように、アンプ12および13の負荷インピーダンスは最適値に近くなる。これにより、ドレイン効率等の高周波特性が向上する。
【0079】
[実施例5]
図17は、実施例5に係るアウトフェージング増幅器の回路図である。図17に示すように、実施例5に係るアウトフェージング増幅器106では、経路40において、整合回路24とアンプ12との間に、アンプ10a、整合回路22a、位相回路14aおよび整合回路24aが設けられている。経路41において、整合回路25とアンプ13との間に、アンプ11a、整合回路23a、位相回路15aおよび整合回路25aが設けられている。アンプ10a、整合回路22a、位相回路14aおよび整合回路24aの機能は、アンプ10、整合回路22、位相回路14および整合回路24とそれぞれ同じである。アンプ11a、整合回路23a、位相回路15aおよび整合回路25aの機能は、アンプ11、整合回路23、位相回路15および整合回路25とそれぞれ同じである。
【0080】
実施例5のように、実施例1から4において、経路40に3段以上のアンプが設けられていてもよく、経路41に3段以上のアンプが設けられていてもよい。
【0081】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0082】
10、10a、11、11a、12、13 アンプ
14、14a、15、15a 位相回路
16 合成器
18 信号処理器
20、21、22、22a、23、23a、24、24a、25、25a、26、27 整合回路
30、30a、31、31a、32、33 伝送線路
34、35、36、37 オープンスタブ
40、41 経路
50、50a、51、51a、51b、54 点
52、53 矢印
100、102、104、106、110 アウトフェージング増幅器
図1
図2
図3
図4
図5
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図17