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特開2024-129257設備挙動シミュレーションモデル構築システム及び設備挙動シミュレーションモデル構築方法
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  • 特開-設備挙動シミュレーションモデル構築システム及び設備挙動シミュレーションモデル構築方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129257
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】設備挙動シミュレーションモデル構築システム及び設備挙動シミュレーションモデル構築方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20240919BHJP
   G06Q 50/04 20120101ALI20240919BHJP
【FI】
G05B23/02 G
G05B23/02 302Z
G06Q50/04
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038341
(22)【出願日】2023-03-13
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-04-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平野 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】渋川 直紀
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 健司
(72)【発明者】
【氏名】山本 誠二
(72)【発明者】
【氏名】藁科 正彦
(72)【発明者】
【氏名】堀江 英樹
(72)【発明者】
【氏名】柏瀬 翔一
(72)【発明者】
【氏名】塚田 圭祐
【テーマコード(参考)】
3C223
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
3C223AA01
3C223BA01
3C223BB17
3C223CC01
3C223DD01
3C223EB01
3C223FF02
3C223FF03
3C223FF12
3C223FF13
3C223FF22
3C223FF23
3C223FF32
3C223FF35
3C223FF42
3C223FF45
3C223FF52
3C223FF53
3C223GG01
3C223HH03
3C223HH29
5L049CC03
5L049DD02
5L050CC03
5L050DD02
(57)【要約】
【課題】設備の挙動を模擬するシミュレーションモデルを迅速且つ高精度に構築して、設備に発生した異常原因の究明及び対策の提示を迅速且つ低コストに実現できること。
【解決手段】設備挙動シミュレーションモデル構築システム10において、設備の構成機器の物理モデルを基本要素モデルとして格納する基本要素モデルDB11と、設備の構成機器の構成及び仕様に関する機器情報を取得する機器情報取得手段13と、設備の異常等発生前に、前記機器情報に基づき基本要素モデルDBから対応する基本要素モデルを選定し組み合せることで第1モデル17を構築する第1モデル構築手段14と、正常運転時の運転情報、異常等発生時の運転情報を収集する運転情報収集手段15と、設備の異常等発生後に前記機器情報及び前記運転情報に基づき第1モデルを調整して、設備挙動シミュレーションモデルとしての第2モデル18を構築する第2モデル構築手段16と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
設備における異常原因の究明及び対策の提示のために、前記設備の挙動を模擬する設備挙動シミュテーションモデルを構築する設備挙動シミュテーションモデル構築システムにおいて、
前記設備を構成する複数の機器の物理モデルをそれぞれ基本要素モデルとして格納する基本要素モデルデータベースと、
前記設備を構成する前記機器の構成及び仕様に関する機器情報を取得する機器情報取得手段と、
前記設備の異常またはその兆候発生前に、前記機器情報取得手段にて取得された前記機器情報に基づき、前記基本要素モデルデータベースから対応する前記基本要素モデルを選定して調整し組み合せることで、前記設備の挙動を模擬可能な第1モデルを構築する第1モデル構築手段と、
前記設備における正常運転時の運転情報、異常またはその兆候発生時の運転情報をそれぞれ収集する運転情報収集手段と、
前記設備の異常またはその兆候発生後に、前記機器情報取得手段からの前記機器情報及び前記運転情報収集手段からの前記運転情報に基づき、前記第1モデルの前記基本要素モデルを調整して、前記設備挙動シミュレーションモデルとしての第2モデルを構築する第2モデル構築手段と、を有して構成されたことを特徴とする設備挙動シミュテーションモデル構築システム。
【請求項2】
前記第2モデル構築手段が構築する第2モデルは、機器情報取得手段からの機器情報及び運転情報収集手段からの正常時の運転情報に基づき構築された正常時第2モデルであることを特徴とする請求項1に記載の設備挙動シミュテーションモデル構築システム。
【請求項3】
前記第2モデル構築手段が構築する第2モデルは、機器情報取得手段からの機器情報及び運転情報収集手段からの正常時の運転情報に基づき構築された正常時第2モデルと、前記機器情報取得手段からの前記機器情報及び前記運転情報収集手段からの異常またはその兆候発生時の運転情報に基づき構築された異常時第2モデルとの2種類であることを特徴とする請求項1に記載の設備挙動シミュテーションモデル構築システム。
【請求項4】
前記基本要素モデルを組み合せた典型的な機器構成の設備モデルをテンプレートとして格納する設備モデルテンプレートデータベースを更に有し、
第1モデル構築手段は、前記設備モデルテンプレートデータベースからの前記テンプレートを参照して第1モデルを構築するよう構成されたことを特徴とする請求項1に記載の設備挙動シミュテーションモデル構築システム。
【請求項5】
前記基本要素モデルデータベースに格納される基本要素モデルは、機器の正常時の運転状態を模擬可能なほか、想定する異常時の状態も模擬可能に構成されたことを特徴とする請求項1に記載の設備挙動シミュテーションモデル構築システム。
【請求項6】
前記運転情報収集手段にて収集される運転情報は、設備の巡視点検により収集された運転情報のほかに、追加の点検により収集された点検情報が含まれる場合があることを特徴とする請求項1に記載の設備挙動シミュテーションモデル構築システム。
【請求項7】
設備における異常原因の究明及び対策の提示のために、前記設備の挙動を模擬する設備挙動シミュテーションモデルを構築する設備挙動シミュテーションモデル構築方法において、
前記設備の異常またはその兆候発生前に、前記設備を構成する機器の構成及び仕様に関する機器情報に基づき、前記設備の挙動を模擬可能な第1モデルを構築し、
前記設備の異常またはその兆候発生後に、前記設備の運転情報及び前記機器情報に基づき前記第1モデルを調整して、前記設備挙動シミュレーションモデルとしての第2モデルを構築することを特徴とする設備挙動シミュテーションモデル構築方法。
【請求項8】
前記第2モデルは、機器情報及び正常時の運転情報に基づき構築する正常時第2モデルであることを特徴とする請求項7に記載の設備挙動シミュテーションモデル構築方法。
【請求項9】
前記第2モデルは、機器情報及び正常時の運転情報に基づき構築する正常時第2モデルと、前記機器情報及び異常またはその兆候発生時の運転情報に基づき構築する異常時第2モデルとの2種類であることを特徴とする請求項7に記載の設備挙動シミュテーションモデル構築方法。
【請求項10】
前記第1モデルを構築する際には、設備を構成する複数の機器の物理モデルをそれぞれ基本要素モデルとして事前に準備し、前記設備を構成する前記機器の構成及び仕様に関する機器情報に基づき、前記基本要素モデルを選択して調整し組み合せることで前記第1モデルを構築することを特徴とする請求項7に記載の設備挙動シミュテーションモデル構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は設備挙動シミュレーションモデル構築システム、及び設備挙動シミュレーションモデル構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製品製造のための設備を持つ工場等の施設は、発電所や変電所などの機械設備や電気設備を所有している。これらの多くの施設では、設備を安定して運転できるように保守管理を行っている。長期間の安定運転が求められる上述の機械設備や電気設備では、設備の状態を継続的に計測して監視し、異常事象が発生する前に予兆を検知した場合には、速やかに対策を講じる予知保全等の技術が適用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6784551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
計測・監視したデータの変化から、設備に発生した異常の予兆を検知する手法として、設備の物理モデルを構築し、この物理モデル上で異常挙動に起因する要素部をモデル化することで、異常時の挙動を再現する手法が提案されている(特許文献1)。この手法は、設備に発生した異常事象以外の事象に対する挙動を評価することが可能であり、物理モデルから得られた挙動と計測・監視したデータの挙動を突き合わせることで、異常原因の特定を可能にするものである。
【0005】
上述の特許文献1では、物理モデルを適用することにより、想定される異常事象を再現することが可能であるが、物理モデルのパラメータの調整を含めたモデル構築には相応の工数と時間が必要になる。また、設備の保全方式は、異常や故障の発生頻度と、その発生時の影響の大きさを勘案して決定されるが、上述の物理モデルを用いた状態監視保全は比較的大きな保全コストが必要になる。このため、状態監視保全を適用可能な設備が限定されるという課題がある。
【0006】
本発明の実施形態は、上述の事情を考慮してなされたものであり、状態監視保全の対象でない設備に対しても、設備の挙動を模擬するシミュレーションモデルを迅速且つ高精度に構築し、実質的な事後保全によって、設備に発生した異常原因の究明及び対策の提示を迅速且つ低コストに行うことができる設備挙動シミュレーションモデル構築システム及び設備挙動シミュレーションモデル構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態における設備挙動シミュテーションモデル構築システムは、設備における異常原因の究明及び対策の提示のために、前記設備の挙動を模擬する設備挙動シミュテーションモデルを構築する設備挙動シミュテーションモデル構築システムにおいて、前記設備を構成する複数の機器の物理モデルをそれぞれ基本要素モデルとして格納する基本要素モデルデータベースと、前記設備を構成する前記機器の構成及び仕様に関する機器情報を取得する機器情報取得手段と、前記設備の異常またはその兆候発生前に、前記機器情報取得手段にて取得された前記機器情報に基づき、前記基本要素モデルデータベースから対応する前記基本要素モデルを選定して調整し組み合せることで、前記設備の挙動を模擬可能な第1モデルを構築する第1モデル構築手段と、前記設備における正常運転時の運転情報、異常またはその兆候発生時の運転情報をそれぞれ収集する運転情報収集手段と、前記設備の異常またはその兆候発生後に、前記機器情報取得手段からの前記機器情報及び前記運転情報収集手段からの前記運転情報に基づき、前記第1モデルの前記基本要素モデルを調整して、前記設備挙動シミュレーションモデルとしての第2モデルを構築する第2モデル構築手段と、を有して構成されたことを特徴とするものである。
【0008】
本発明の実施形態における設備挙動シミュテーションモデル構築方法は、設備における異常原因の究明及び対策の提示のために、前記設備の挙動を模擬する設備挙動シミュテーションモデルを構築する設備挙動シミュテーションモデル構築方法において、前記設備の異常またはその兆候発生前に、前記設備を構成する機器の構成及び仕様に関する機器情報に基づき、前記設備の挙動を模擬可能な第1モデルを構築し、前記設備の異常またはその兆候発生後に、前記設備の運転情報及び前記機器情報に基づき前記第1モデルを調整して、前記設備挙動シミュレーションモデルとしての第2モデルを構築することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の実施形態によれば、状態監視保全の対象でない設備に対しても、設備の挙動を模擬するシミュレーションモデルを迅速且つ高精度に構築し、実質的な事後保全によって、設備に発生した異常原因の究明及び対策の提示を迅速且つ低コストに行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態に係る設備挙動シミュレーションモデル構築システムの構成を示すブロック図。
図2】一実施形態に係る設備挙動シミュレーションモデル構築方法を含む対象設備の異常診断手順を示すフローチャート。
図3図1の基本要素モデルデータベースに格納される基本要素モデルの例を示す説明図。
図4図1の第1モデル及び第2モデルの例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態を、図面に基づき説明する。
図1は、一実施形態に係る設備挙動シミュレーションモデル構築システムの構成を示すブロック図である。この図1に示す設備挙動シミュレーションモデル構築システム10は、設備に発生した異常原因の究明及びその異常に対する対策の提示を行うために、その設備の挙動を模擬する設備挙動シミュレーションモデルを構築するものであり、基本要素モデルDB11(DBはデータベースの略称である。以下同様)、設備モデルテンプレートDB12、機器情報取得手段13、第1モデル構築手段14、運転情報収集手段15及び第2モデル構築手段16を有して構成される。
【0012】
基本要素モデルDB11は、標準的な設備を構成する複数の機器の特性を評価可能な物理モデルを、それぞれ基本要素モデルとして予め格納したものである。例えば、設備が潤滑油供給系統設備である場合、この設備はポンプ、バルブ、熱交換器、配管などにより構成されている。従って、ポンプ、バルブ、熱交換器、配管などの物理モデルが基本要素モデルとして、図3に示すように作成されて基本要素モデルDB11に格納される。基本要素モデルDB11には、種々の設備に共通する機器の基本要素モデルが格納されている。
【0013】
上記基本要素モデルは、機器の物理モデルを表す関係式(方程式)と、この関係式で使用される係数であるパラメータとからなり、プログラム言語で記載されている。このプログラム言語は、設備挙動のシミュレーション(模擬)で用いられるプログラムに準拠した形式である。ここで、パラメータとして具体的には、機器の材料、寸法、回転数、軸受型式、及び特性値(例えばバルブ開度と流量との関係を表す比率)、機器及び配管内の温度及び圧力など、配管の外径及び肉厚などの仕様情報が挙げられる。
【0014】
また、基本要素モデルは、機器の正常時の運転状態を模擬可能なほか、想定する異常時の状態を模擬可能に構成される。従って、基本要素モデルのパラメータは、機器の特性への影響が大きな、例えばポンプにおける流量と圧力の特性(関係)を規定する関係式の係数や、想定される異常を適切に模擬可能な関係式の係数が挙げられる。この想定される異常を適切に模擬可能な関係式の係数としては、ポンプの漏れ流量と圧力との関係を規定する関係式の係数、配管の破断や詰まり等による流量と圧力との関係を規定する関係式の係数などである。
【0015】
設備モデルテンプレートDB12は、複数の基本要素モデルを組み合せた典型的な機器構成の設備モデルをテンプレートとして予め格納する。例えば、潤滑油タンクからの潤滑油をロータの軸受へ供給する潤滑油供給系統設備の場合には、図3に示すポンプ、熱交換器、バルブ、フィルタなどの機器の基本要素モデルを組み合せた典型的な機器構成の設備モデルが、テンプレートとして設備モデルテンプレートDB12に格納される。
【0016】
機器情報取得手段13は、対象設備を構成する機器の構成(機器の名称や識別番号など)及び仕様(機器の寸法や回転数、軸受型式など)に関する機器情報を取得する。この機器情報取得手段13は、対象設備の写真や機器に貼付された銘版の写真などの画像、及び系統図などの設計図書などから上記機器情報をデジタル情報として取得する。
【0017】
なお、機器情報取得手段13は、自動化された処理システムにより機器情報を迅速に取得してもよい。この処理システムは、例えば、図面に記載された機器を表すシンボルが予め格納されたシンボルDBを用いて対象設備の図面からポンプやバルブなどのシンボルを自動的に抽出し、また、設備の図面中の文字の表示位置や表示内容等の記載ルールが格納された仕様表示ルールDBを用いて、対象設備の図面中の文字から機器の仕様情報を含む情報(機器の識別番号や配管外径など)を自動で抽出するものなどである。
【0018】
第1モデル構築手段14は、対象設備に異常またはその兆候が発生する前に、まず、機器情報取得手段13にて取得された機器情報における機器の構成情報に基づいて、基本要素モデルDB11から対応する基本要素モデルを選定し、設備モデルテンプレートDB12からのテンプレートを参照して、選定した基本要素モデルを組み合せる。更に、第1モデル構築手段14は、選定した基本要素モデルの組み合せの前または後に、これらの基本要素モデルのパラメータを、機器情報取得手段13にて取得された機器情報における機器の仕様情報に基づいて調整することで、対象設備の挙動を模擬可能な設備モデルとしての第1モデル17を、図4に示すように構築する。
【0019】
運転情報収集手段15は、対象設備において正常運転時の運転情報、異常またはその兆候発生時の運転情報をそれぞれ収集する。この収集される運転情報は、運転条件や各種のプロセスデータである。また、これらの運転情報は、通常、対象設備の巡視点検時に収集されるが、必要に応じて追加の点検により収集される。この追加の点検としては、例えば360度カメラや追加のセンサを含めたデータ収集システムによる点検である。
【0020】
第2モデル構築手段16は、対象設備に異常またはその兆候が発生した後に、機器情報取得手段13からの機器情報及び運転情報収集手段15からの運転情報に基づき、第1モデル17における基本要素モデルのパラメータを調整(チューニング)して、設備挙動シミュレーションモデルとしての第2モデル18を構築する。この第2モデル18は、第1モデル17と同様な図4に示す設備モデルであるが、対象設備に専用のシミュレーションモデルであって、対象設備の挙動を精度よく模擬可能に構成される。
【0021】
また、第2モデル構築手段16は、正常時第2モデルの1種類を構築する場合と、正常時第2モデルと異常時第2モデルの2種類を構築する場合とがある。正常時第2モデルは、第2モデル構築手段16によって、機器情報取得手段13からの機器情報及び運転情報収集手段15からの正常時の運転情報に基づき、第1モデル17おける基本要素モデルのパラメータが調整(チューニング)されて構築されたものである。また、異常時第2モデルは、第2モデル構築手段16によって、機器情報取得手段13からの機器情報及び運転情報収集手段15からの異常またはその兆候発生時の運転情報に基づき、第1モデル17における基本要素モデルのパラメータが調整(チューニング)されて構築されたものである。
【0022】
なお、第1モデル17における基本要素モデルのパラメータの調整に際しては、各パラメータの変化と対象設備の挙動の変化との関係を感度情報として保管し、この感度情報を、後述の異常診断時に「想定される異常の原因」を推定するために活用してもよい。また、異常時第2モデルを構築する際の異常またはその兆候発生時の運転情報には、対象設備の巡視点検時における異常またはその兆候発生時の運転情報のほか、追加点検により異常またはその兆候が計測された場合の運転情報や、過去に同様の異常を経験している場合の運転情報が含まれる。
【0023】
次に、設備挙動シミュレーションモデル構築方法を含む対象設備の異常診断手順について、図2を参照して説明する。
【0024】
(1)デモンストレーション(S1)
標準的な設備を構成する機器(例えばポンプ、バルブ、配管など)の特性を評価可能な基本要素モデルを作成して基本要素モデルDB11に格納しておく。更に、これらの基本要素モデルを組み合せた典型的な機器構成の設備モデルをテンプレートとして作成し、設備モデルテンプレートDB12に格納しておく。
【0025】
(2)契約後の導入作業(S2)
設備の保全に関する顧客との契約成立後に、対象設備及びその構成機器に関する写真などの画像や系統図などの設計図書の開示を顧客に依頼する。そして、これらの画像や設計図書から対象設備を構成する機器の構成及び仕様に関する機器情報を機器情報取得手段13により取得する。
【0026】
上述の機器情報取得後、この機器情報に基づき基本要素モデルDB11から対応する基本要素モデルを選定し、この選定した基本要素モデルを、設備モデルテンプレートDB12のテンプレートを参照して組み合せ、各基本要素モデルのパラメータを調整して、対象設備の挙動を模擬可能な第1モデル17を構築する。
【0027】
(3)顧客による情報収集及び保管(S3)
対象設備の正常運転時における顧客による巡視点検の際に、この正常運転時の運転情報を運転情報収集手段15により取得する。必要に応じて、追加の点検により対象設備の正常運転時の運転情報を取得する。また、対象設備に異常またはその兆候が発生した際における運転情報についても、上記巡視点検、追加点検の際に運転情報収集手段15により取得する。
【0028】
(4)異常等発生時のモデル構築(S4)
対象設備に異常またはその兆候が発生して顧客から依頼があった際に、対象設備に専用の設備挙動シミュレーションモデルである第2モデル18を第2モデル構築手段16により構築する。この場合、第2モデル構築手段16は、対象設備の正常運転時の運転情報等に基づく正常時第2モデルの1種類を構築する場合と、対象設備の異常またはその兆候発生時の運転情報等に基づく異常時第2モデルと上記正常時第2モデルの2種類を構築する場合とがある。
【0029】
(5)事後保全(S5)
対象設備の異常診断を、構築された第2モデル18を用いた解析により実施して、異常(またはその兆候)原因の究明と対策の提示を行う。この第2モデル18を用いた異常原因の究明には、次の2つのパターンがある。第1のパターンは、正常時第2モデルにおける基本要素モデルのパラメータに、前述の感度情報を参考にして想定される異常原因を与え、これにより、対象設備の挙動を模擬(シミュレーション)させる。そして、そのシミュレーション結果と実際の対象設備の計測データとを照合することで、対象設備の異常原因を究明する。
【0030】
第2のパターンは、対象設備における正常時の運転情報が第2モデル18の基本要素モデルのパラメータに与えられた正常時第2モデルと、対象設備における異常またはその兆候発生時の運転情報が第2モデル18の基本要素モデルのパラメータに与えられた異常時第2モデルとを用いる。これらの正常時第2モデルと異常時第2モデルのそれぞれのシミュレーション結果に差異を生じさせた各第2モデル(正常時第2モデル、異常時第2モデル)おける基本要素モデルのパラメータの差異から、対象設備の異常原因を推定して究明する。
【0031】
以上のように構成されたことから、本実施形態によれば次の効果を奏する。
対象設備の異常またはその兆候発生前に、第1モデル構築手段14が、対象設備の機器情報に基づき対象設備の挙動を模擬可能な第1モデル17を構築し、対象設備の異常またはその兆候発生後に、第2モデル構築手段16が、対象設備の運転情報等に基づき第1モデル17の基本要素モデルのパラメータを調整(チューニング)して、設備挙動シミュレーションモデルとしての第2モデル18を構築することから、この第2モデル18を迅速且つ高精度に構築できる。従って、異常や故障の発生頻度が低く且つ保全コストの低減が要請される等の理由で状態監視保全の対象でない設備に対しても、対象設備に専用の第2モデル18を用いて対象設備の挙動を精度良く模擬することができ、実質的な事後保全によって、対象設備に発生した異常原因の究明及び対策の提示を迅速且つ低コストに行うことができる。
【0032】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合せを行うことができ、また、それらの置き換えや変更、組み合せは、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0033】
10…設備挙動シミュレーションモデル構築システム、11…基本要素モデルDB、12…設備モデルテンプレートDB、13…機器情報取得手段、14…第1モデル構築手段、15…運転情報収集手段、16…第2モデル構築手段、17…第1モデル、18…第2モデル
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2024-03-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
設備における異常原因の究明及び対策の提示のために、前記設備の挙動を模擬する設備挙動シミューションモデルを構築する設備挙動シミューションモデル構築システムにおいて、
前記設備を構成する複数の機器の物理モデルをそれぞれ基本要素モデルとして格納する基本要素モデルデータベースと、
前記設備を構成する前記機器の構成及び仕様に関する機器情報を取得する機器情報取得手段と、
前記設備の異常またはその兆候発生前に、前記機器情報取得手段にて取得された前記機器情報に基づき、前記基本要素モデルデータベースから対応する前記基本要素モデルを選定して調整し組み合せることで、前記設備の挙動を模擬可能な第1モデルを構築する第1モデル構築手段と、
前記設備における正常運転時の運転情報、異常またはその兆候発生時の運転情報をそれぞれ収集する運転情報収集手段と、
前記設備の異常またはその兆候発生後に、前記機器情報取得手段からの前記機器情報及び前記運転情報収集手段からの前記運転情報に基づき、前記第1モデルの前記基本要素モデルを調整して、前記設備挙動シミュレーションモデルとしての第2モデルを構築する第2モデル構築手段と、を有して構成されたことを特徴とする設備挙動シミューションモデル構築システム。
【請求項2】
前記第2モデル構築手段が構築する第2モデルは、機器情報取得手段からの機器情報及び運転情報収集手段からの正常時の運転情報に基づき構築された正常時第2モデルであることを特徴とする請求項1に記載の設備挙動シミューションモデル構築システム。
【請求項3】
前記第2モデル構築手段が構築する第2モデルは、機器情報取得手段からの機器情報及び運転情報収集手段からの正常時の運転情報に基づき構築された正常時第2モデルと、前記機器情報取得手段からの前記機器情報及び前記運転情報収集手段からの異常またはその兆候発生時の運転情報に基づき構築された異常時第2モデルとの2種類であることを特徴とする請求項1に記載の設備挙動シミューションモデル構築システム。
【請求項4】
前記基本要素モデルを組み合せた典型的な機器構成の設備モデルをテンプレートとして格納する設備モデルテンプレートデータベースを更に有し、
第1モデル構築手段は、前記設備モデルテンプレートデータベースからの前記テンプレートを参照して第1モデルを構築するよう構成されたことを特徴とする請求項1に記載の設備挙動シミューションモデル構築システム。
【請求項5】
前記基本要素モデルデータベースに格納される基本要素モデルは、機器の正常時の運転状態を模擬可能なほか、想定する異常時の状態も模擬可能に構成されたことを特徴とする請求項1に記載の設備挙動シミューションモデル構築システム。
【請求項6】
前記運転情報収集手段にて収集される運転情報は、設備の巡視点検により収集された運転情報のほかに、追加の点検により収集された点検情報が含まれる場合があることを特徴とする請求項1に記載の設備挙動シミューションモデル構築システム。
【請求項7】
設備における異常原因の究明及び対策の提示のために、前記設備の挙動を模擬する設備挙動シミューションモデルを構築する設備挙動シミューションモデル構築方法において、
前記設備の異常またはその兆候発生前に、前記設備を構成する機器の構成及び仕様に関する機器情報に基づき、前記設備の挙動を模擬可能な第1モデルを構築し、
前記設備の異常またはその兆候発生後に、前記設備の運転情報及び前記機器情報に基づき前記第1モデルを調整して、前記設備挙動シミュレーションモデルとしての第2モデルを構築することを特徴とする設備挙動シミューションモデル構築方法。
【請求項8】
前記第2モデルは、機器情報及び正常時の運転情報に基づき構築する正常時第2モデルであることを特徴とする請求項7に記載の設備挙動シミューションモデル構築方法。
【請求項9】
前記第2モデルは、機器情報及び正常時の運転情報に基づき構築する正常時第2モデルと、前記機器情報及び異常またはその兆候発生時の運転情報に基づき構築する異常時第2モデルとの2種類であることを特徴とする請求項7に記載の設備挙動シミューションモデル構築方法。
【請求項10】
前記第1モデルを構築する際には、設備を構成する複数の機器の物理モデルをそれぞれ基本要素モデルとして事前に準備し、前記設備を構成する前記機器の構成及び仕様に関する機器情報に基づき、前記基本要素モデルを選択して調整し組み合せることで前記第1モデルを構築することを特徴とする請求項7に記載の設備挙動シミューションモデル構築方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
本発明の実施形態における設備挙動シミューションモデル構築システムは、設備における異常原因の究明及び対策の提示のために、前記設備の挙動を模擬する設備挙動シミューションモデルを構築する設備挙動シミューションモデル構築システムにおいて、前記設備を構成する複数の機器の物理モデルをそれぞれ基本要素モデルとして格納する基本要素モデルデータベースと、前記設備を構成する前記機器の構成及び仕様に関する機器情報を取得する機器情報取得手段と、前記設備の異常またはその兆候発生前に、前記機器情報取得手段にて取得された前記機器情報に基づき、前記基本要素モデルデータベースから対応する前記基本要素モデルを選定して調整し組み合せることで、前記設備の挙動を模擬可能な第1モデルを構築する第1モデル構築手段と、前記設備における正常運転時の運転情報、異常またはその兆候発生時の運転情報をそれぞれ収集する運転情報収集手段と、前記設備の異常またはその兆候発生後に、前記機器情報取得手段からの前記機器情報及び前記運転情報収集手段からの前記運転情報に基づき、前記第1モデルの前記基本要素モデルを調整して、前記設備挙動シミュレーションモデルとしての第2モデルを構築する第2モデル構築手段と、を有して構成されたことを特徴とするものである。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
本発明の実施形態における設備挙動シミューションモデル構築方法は、設備における異常原因の究明及び対策の提示のために、前記設備の挙動を模擬する設備挙動シミューションモデルを構築する設備挙動シミューションモデル構築方法において、前記設備の異常またはその兆候発生前に、前記設備を構成する機器の構成及び仕様に関する機器情報に基づき、前記設備の挙動を模擬可能な第1モデルを構築し、前記設備の異常またはその兆候発生後に、前記設備の運転情報及び前記機器情報に基づき前記第1モデルを調整して、前記設備挙動シミュレーションモデルとしての第2モデルを構築することを特徴とするものである。