(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024012927
(43)【公開日】2024-01-31
(54)【発明の名称】ブタ細胞試料のヒトへのウイルス感染性を検査する方法、及び異種移植材製品の作成方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/70 20060101AFI20240124BHJP
C12Q 1/6888 20180101ALI20240124BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20240124BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20240124BHJP
A61K 35/14 20150101ALI20240124BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240124BHJP
C12N 5/09 20100101ALN20240124BHJP
C12N 5/071 20100101ALN20240124BHJP
C12N 7/00 20060101ALN20240124BHJP
【FI】
C12Q1/70
C12Q1/6888 Z ZNA
C12Q1/02
A61L27/38 100
A61L27/38 120
A61K35/14 Z
A61P43/00 105
C12N5/09
C12N5/071
C12N7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022114759
(22)【出願日】2022-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】505327631
【氏名又は名称】株式会社栄養・病理学研究所
(71)【出願人】
【識別番号】503420833
【氏名又は名称】学校法人常翔学園
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(72)【発明者】
【氏名】井上 亮
(72)【発明者】
【氏名】塚原 隆充
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C081
4C087
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QQ08
4B063QQ10
4B063QR08
4B063QR42
4B063QR62
4B063QR66
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
4B065AA90X
4B065AA93X
4B065AA97X
4B065AC20
4B065CA44
4C081AB11
4C081AB12
4C081BA14
4C081CD34
4C081EA02
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB34
4C087DA06
4C087NA01
4C087NA06
4C087ZB21
(57)【要約】
【課題】ヒトへのブタウイルス感染性の検査が改善されたブタ細胞試料のヒトへのウイルス感染性を検査する方法、及び異種移植材製品の作成方法を提供すること。
【解決手段】ブタ細胞試料のヒトへのウイルス感染性を検査する方法であって、
ブタ細胞試料と、ヒト細胞とを、互いに接触可能な環境で共培養すること、
前記ヒト細胞がマーカー及び/又は標識を有し、
前記マーカー及び/又は標識に基づき前記ヒト細胞を前記ブタ細胞試料から分離すること、及び
前記分離後のヒト細胞において、前記ブタ細胞試料が有し得る少なくとも1種のウイルスを検出することを含む、前記ウイルスのヒトへの感染性を検査する方法。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブタ細胞試料のヒトへのウイルス感染性を検査する方法であって、
前記ブタ細胞試料と、ヒト細胞とを、互いに接触可能な環境で共培養すること、
前記ヒト細胞がマーカー及び/又は標識を有し、
前記マーカー及び/又は標識に基づき前記ヒト細胞を前記ブタ細胞試料から分離すること、及び
前記分離後のヒト細胞において、前記ブタ細胞試料が有し得る少なくとも1種のウイルスを検出することを含む、前記ウイルスのヒトへの感染性を検査する方法。
【請求項2】
前記ブタ細胞試料は、X線照射されていないブタ細胞試料である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ウイルスは、人獣共通感染症又はブタ感染症の原因となるウイルスである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ウイルスは、PERVを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ブタ細胞試料が、ブタ個体又はブタ個体から摘出した臓器、から採取した細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ヒト細胞が、ヒトがん細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記マーカーが細胞表面マーカーである、及び/又は、前記標識が蛍光標識である、及び/又は、前記分離がセルソーターにより行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
ブタミトコンドリアDNAもしくはRNAを排出するための継代培養を行わない、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
ブタ個体又はブタ個体から摘出した臓器から採取した細胞について、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法で感染性を検査すること、
感染性が所定基準を満たさないことに基づき、前記ブタ個体から摘出した臓器を材料として排除し、かつ/又は、感染性が所定基準を満たすことに基づき、前記ブタ個体から摘出した臓器を材料として選抜すること、及び
前記排除されなかったかつ/又は前記選抜された臓器を異種移植材へと製品化すること、
を含む、異種移植材製品の作成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異種移植材製品の提供に好適な、ブタ細胞試料のヒトへのウイルス感染性を検査する方法、及び異種移植材製品の作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
異種移植ドナーとして最も研究が進んでいる動物種はブタであるが、ブタは感染症に罹患しやすい。ブタ病原体ウイルスとしては、腫瘍、免疫不全等のリスクがあるブタ内在性レトロウイルス(Porcine endogenous retrovirus;PERV)、ブタサーコウイルス関連疾患(PCVAD)に関わるブタサーコウイルス、ブタ繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)ウイルス等が挙げられる。
異種移植に関し、移植片(移植された臓器、組織、細胞等)に病原体ウイルスが感染していた場合、レシピエントにその病原体ウイルスが感染するリスクが高まる。したがって、移植前にドナー及び移植片の病原体ウイルス検査を行い、病原体ウイルス感染のリスクが限りなく低いことを確認することが求められる。
【0003】
異種移植ドナーとして最も研究が進んでいるブタに関し、異種移植のドナーとなるのは、ブタ-ヒト間の異種移植の場合、ヒト及びブタに感染する可能性がある病原体ウイルスが存在しない医療グレードのDPF(Designated Pathogen Free)ブタをドナーとして選択することが世界的な共通認識となっている(例えば、非特許文献1)。
検査の対象となる病原体ウイルスは国や地域により異なるが、DPFブタは定期的に多数の病原体ウイルスに対する検査を受けるため、高い清浄度の移植片を得ることができる(例えば、非特許文献2)。
【0004】
病原体ウイルスの典型例として、例えば、ブタ内在性レトロウイルス(Porcine endogenous retrovirus;PERV)は異種移植において、ヒトへの感染が最も懸念される病原体ウイルスの1つである。
PERVはin vitroでヒト細胞に感染することが報告されている。その後、様々なin vitro試験系によりPERVの感染性が調査されたが、その多くでヒト細胞へ感染することが確認されている(非特許文献3)。
PERV感染のリスクを最小限にするために、生体内の状態を模倣したin vitro試験によりドナーとなるブタ及び移植片のPERV感染性を評価する必要があり、このことは厚生労働省の指針「ドナーブタからヒトへの感染の危険性が排除されるべき病原体リスト(俣野,2016年度版)」にも明記されている。つまり、ブタをドナーとした異種移植の実現に向けて、PERVの感染性を正確に評価することは極めて重要である。
【0005】
従来、PERVの感染性を検査するために、主に、下記(1)及び(2)の2種類の共培養系検査が実施されている。
(1)X線を照射したPERV産生ブタ細胞を標的ヒト細胞と共培養する検査(例えば、非特許文献3)。上記X線照射は一定期間の共培養の後、PERV産生ブタ細胞を死滅させ、標的ヒト細胞のみを選択、単離するために実施される。
(2)多孔質膜でPERV産生ブタ細胞と標的ヒト細胞を隔てて共培養する検査(非特許文献4)。上記多孔質膜には直径約0.4μmのポアがあり、2種類の細胞を接触させずにPERVなどのウイルス粒子だけを通過させることができる。
【0006】
しかしながら、上記従来法による(1)及び(2)のin vitro検査はいずれも、異種移植で起こり得る生体内の状態を模倣できているとは言い難く、以下のように、いくつかの問題点があった。
上記(1)の検査に関し、細胞へのX線照射は、照射線量や細胞の種類、状態により細胞の生存率が異なるため、PERV産生ブタ細胞を完全に除去することができず、PERV擬陽性という結果を招く可能性があった。また、X線照射は当該ブタ細胞の遺伝子発現変化(例えば、ウイルス発現変化)のリスクがあり、PERVの感染性自体に与える影響は確認されたことがなく、X線照射無しに移植される移植細胞の生体内における状態をどの程度模倣出来ているかについて大きな疑問が生じていた。
上記(2)の検査に関し、PERV産生ブタ細胞と標的ヒト細胞とが接触していないという点が問題となっていた。ブタの腎臓や心臓、肺を移植する異種移植では、移植片をレシピエントの臓器に生着させることが前提であり(非特許文献5)、移植細胞とレシピエント細胞との接触は免れない。細胞同士の接触の有無がPERVの感染性に必須であるかは未だ不明であるため、PERV産生ブタ細胞と標的ヒト細胞を接触させる共培養系でのPERV感染性の評価は必須であると考えられる。
【0007】
さらに、公定又はそれに準ずるPERVの感染性評価手法が策定されていないため、検査毎にPERV産生ブタ細胞と標的ヒト細胞との接触の有無や、PERV産生ブタ細胞と標的ヒト細胞の種類や割合、共培養期間、標的ヒト細胞の評価の際のPERV産生ブタ細胞混入検証の有無などが異なるという問題もあった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Spizzo,T.,Denner,J.,Gazda,L.,Martin,M.,Nathu,D.,Scobie,L.,&Takeuchi,Y.(2016).First update of the International Xenotransplantation Association consensus statement on conditions for undertaking clinical trials of porcine islet products in type 1 diabetes-Chapter 2a: source pigs-preventing xenozoonoses.Xenotransplantation,23(1),25-31.
【非特許文献2】Fishman JA.(2018).Infectious disease risks in xenotransplantation.Am J Transplant,(18),1857-1864.
【非特許文献3】Patience,C.,Takeuchi,Y.,& Weiss,R.A.(1997).Infection of human cells by an endogenous retrovirus of pigs.Nature medicine,3(3),282-286.
【非特許文献4】Rodrigues Costa,M.,Fischer,N.,Gulich,B.,& Tonjes,R.R.(2014).Comparison of porcine endogenous retroviruses infectious potential in supernatants of producer cells and in cocultures.Xenotransplantation,21(2),162-173.
【非特許文献5】佐原寿史,関島光裕,&山田和彦.(2015).異種移植の未来動向.移植,50(1),016-023.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
また、上記ブタ細胞試料でウイルス陽性と判定されたからといって、そのウイルスはヒトへの感染性があるとは必ずしも限らない。
一方、あるブタ細胞試料でウイルス陰性と判定されたからといって、ウイルス種によればプロウイルス化があり得ることから、上記ウイルスのヒトへの感染性は否定し得ない。
本発明は、このような従来技術の実情に鑑みてなされたものであり、正確性が改善された、ブタ細胞試料のヒトへのウイルス感染性を検査する方法、及び異種移植材製品の作成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記従来技術の問題点に鑑み、ブタ細胞のヒトへの移植後に近い状態、すなわちブタ細胞と標的ヒト細胞とを接触可能な状態で共培養することにより、ヒトへのウイルス感染性を高精度に検査し得ることを見出した。本発明は、上記知見に基づき完成されるに至ったものである。
すなわち本発明は以下の通りである。
【0011】
<1>ブタ細胞試料のヒトへのウイルス感染性を検査する方法であって、
上記ブタ細胞試料と、ヒト細胞とを、互いに接触可能な環境で共培養すること、
前記ヒト細胞がマーカー及び/又は標識を有し、
前記マーカー及び/又は標識に基づき前記ヒト細胞を前記ブタ細胞試料から分離すること、及び
前記分離後のヒト細胞において、前記ブタ細胞試料が有し得る少なくとも1種のウイルスを検出することを含む、前記ウイルスのヒトへの感染性を検査する方法。
<2>上記ブタ細胞試料は、X線照射されていないブタ細胞試料である、<1>に記載の方法。
<3>前記ウイルスは、人獣共通感染症又はブタ感染症の原因となるウイルスである、<1>に記載の方法。
<4>前記ウイルスは、PERVを少なくとも含む、<1>に記載の方法。
<5>前記ブタ細胞試料が、ブタ個体又はブタ個体から摘出した臓器、から採取した細胞である、<1>に記載の方法。
<6>前記ヒト細胞が、ヒトがん細胞である、<1>に記載の方法。
<7>前記マーカーが細胞表面マーカーである、及び/又は、前記標識が蛍光標識である、及び/又は、前記分離がセルソーターにより行われる、<1>に記載の方法。
<8>ブタミトコンドリアDNAもしくはRNAを排出するための継代培養を行わない、<1>に記載の方法。
<9>ブタ個体又はブタ個体から摘出した臓器から採取した細胞について、<1>~<8>のいずれか1項に記載の方法で感染性を検査すること、
感染性が所定基準を満たさないことに基づき、前記ブタ個体から摘出した臓器を材料として排除し、かつ/又は、感染性が所定基準を満たすことに基づき、前記ブタ個体から摘出した臓器を材料として選抜すること、及び
前記排除されなかったかつ/又は前記選抜された臓器を異種移植材へと製品化すること、
を含む、異種移植材製品の作成方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、正確性が改善されたブタ細胞試料のヒトへのウイルス感染性を検査する方法、及び異種移植材製品の作成方法を提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】標的ヒト細胞のゲーティングの一例を示す図である。
【
図2】単離した標的ヒト細胞のフローサイトメトリー解析の一例を示す図である。
【
図3】PERV産生ブタ細胞の混入確認を目的とした蛍光顕微鏡観察結果を示す図である。
【
図4】実施例の接触下でPK15細胞(High copy細胞)とHEK-293T(GFP)細胞(High sensitive細胞)とを共培養した標的ヒト細胞のブタミトコンドリア standard PCRの結果(接触期間検討)を示す図である。
【
図5】実施例の接触下でPK15細胞(High copy細胞)とHEK-293T(GFP)細胞(High sensitive細胞)とを共培養した標的ヒト細胞のブタミトコンドリアstandard PCRの結果(接触比率検討)を示す図である。
【
図6】実施例の接触下でPK15細胞(High copy細胞)とHUVEC細胞(Low sensitive細胞)とを共培養した標的ヒト細胞のブタミトコンドリアstandard PCRの結果を示す図である。
【
図7】実施例の接触下でPBMC(Low copy細胞)とHEK-293T(GFP)細胞(High sensitive細胞)とを共培養した標的ヒト細胞のブタミトコンドリアstandard PCRの結果を示す図である。
【
図8】PERV産生ブタ細胞のpol standard PCRの結果を示す図である。
【
図9】実施例の接触下でPK15細胞(High copy細胞)とHEK-293T(GFP)細胞(High sensitive細胞)とを共培養した標的ヒト細胞のpol standard PCRの結果(接触期間検討)を示す図である。
【
図10】実施例の接触下でPK15細胞(High copy細胞)とHEK-293T(GFP)細胞(High sensitive細胞)とを共培養した標的ヒト細胞のpol standard PCRの結果(接触比率検討)を示す図である。
【
図11】実施例の接触下でPK15細胞(High copy細胞)とHUVEC細胞(Low sensitive細胞)とを共培養した標的ヒト細胞のpol standard PCRの結果を示す図である。
【
図12】実施例の接触下でPBMC(Low copy細胞)とHEK-293T(GFP)細胞(High sensitive細胞)とを共培養した標的ヒト細胞のpol standard PCRの結果を示す図である。
【
図13】比較例の多孔質膜隔離下でPK15細胞(High copy細胞)とHEK-293T(GFP)細胞(High sensitive細胞)とを共培養した標的ヒト細胞のpol standard PCRの結果を示す図である。
【
図14】比較例の多孔質膜隔離下でPK15細胞(High copy細胞)とHUVEC細胞(Low sensitive細胞)とを共培養した標的ヒト細胞のpol standard PCRの結果を示す図である。
【
図15】比較例の多孔質膜隔離下でPBMC(Low copy細胞)とHEK-293T(GFP)細胞(High sensitive細胞)とを共培養した標的ヒト細胞のpol standard PCRの結果を示す図である。
【
図16】実施例の接触下でPERV陽性HEK-293T(GFP)細胞とHEK293細胞を共培養した標的ヒト細胞のpol standard PCRの結果を示す図である。
【
図17】比較例で使用した縦型共培養プレート及び水平型共培養容器の模式図(水平型共培養容器UniWells(登録商標)(和光純薬社製)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施態様について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施態様に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0015】
≪異種移植用材料の病原体感染を検査する方法≫
本発明の第1の態様は、ブタ細胞試料のヒトへのウイルス感染性を検査する方法であって、
ブタ細胞試料と、ヒト細胞とを、互いに接触可能な環境で共培養すること、
前記ヒト細胞がマーカー及び/又は標識を有し、
前記マーカー及び/又は標識に基づき前記ヒト細胞を前記ブタ細胞試料から分離すること、及び
前記分離後のヒト細胞において、前記ブタ細胞試料が有し得る少なくとも1種のウイルスを検出することを含む、前記ウイルスのヒトへの感染性を(好ましくは、in vitroで)検査する方法である。
【0016】
本発明において、ウイルスの感染性とは、上記ウイルスがヒト(好ましくはヒト細胞)に吸着又は侵入する性質ないしはその程度(例えば、侵入したウイルスのコピー数等)を意味する。
本発明において、ウイルスに対する感受性とは、上記ウイルスによる感染され易さ若しくはその程度(例えば、ウイルス取り込み量の多さ、取り込んだウイルスのコピー数の多さ等)を意味する。
【0017】
本発明において、互いに接触可能な環境で共培養するとは、上記ブタ細胞と、上記ヒト細胞との接触が、細胞不透過性の膜(例えば、多孔質膜)等で遮られない環境中(例えば、任意の容器(フラスコ、プレート、ディッシュ、シャーレ等)内)で共培養することを意味する(非特許文献4)。
本発明は、互いに接触可能な環境で共培養することにより、従来の検査方法よりもより生体内に近い状態となり、ヒトへのブタウイルス感染性検査の正確性を改善することができる。
異種移植は移植片をヒトレシピエントの臓器に直接接触させて生着させることが前提であり、本発明は異種移植用のブタ由来移植片の検査に好適である。
【0018】
第1の態様に係る検査方法は、上記共培養を動物体内ないしは動物臓器内で行うin vivo検査方法であってもよい。上記動物としてはブタ、マウス(例えば、上記ブタ細胞試料及び上記ヒト細胞を導入したマウス)等が挙げられる。
第1の態様に係る検査方法は、操作性、作業性等の観点から、in vitro検査方法であることが好ましい。
【0019】
共培養開始時における上記ブタ細胞と、上記ヒト細胞との比率(例えば、細胞数の比率)としては、例えば、上記ブタ細胞:上記ヒト細胞=10~1:1~10が挙げられ、上記ヒト細胞に対する上記ブタ細胞の比率が小さすぎると、検査感度が不十分となり得、偽陰性のリスクがある観点、及び、上記ヒト細胞に対する上記ブタ細胞の比率が大きすぎると、共培養におけるヒト細胞の生存性にリスクがあり、また、偽陽性のリスクがある観点から、9~1:1~9が好ましく、9~3:1~7が好ましく、9~5:1~5がより好ましく、7~5:3~5であってもよい。
上記ヒト細胞が、後述するHUVEC細胞等のウイルスに対する感受性が比較的に低い細胞の場合については、上記ブタ細胞に対する比率を増やして検査感度を向上させてもさせなくてもよい。その比率としては、例えば、上記ブタ細胞:上記ヒト細胞=9~3:1~7(好ましくは9~5:1~5、より好ましくは8~5:2~5)が挙げられる。
【0020】
共培養の培地としては、上記ブタ細胞と、上記ヒト細胞との両方が生存し得る限り特に制限はなく、例えば、血清添加DMEM培地[10%(v/v)非動化処理済みウシ胎児血清(fetal bovine serum:FBS,Sigma社)、50U/mlペニシリン(ナカライテスク社)、50μg/mlストレプトマイシン(ナカライテスク社)加DMEM(4.5g/l Glucose)培地(ナカライテスク社)]、血清添加RPMI培地[10%(v/v)FBS(Sigma社)、50U/mlペニシリン、50μg/mlストレプトマイシン加RPMI1640培地(ナカライテスク社)]、EBM(登録商標)-2基本培地(Lonza社)等が挙げられる。
共培養の温度としては、上記ブタ細胞と、上記ヒト細胞との両方が生存し得る限り特に制限はなく、例えば、25℃~39℃が挙げられ、30℃~38℃が好ましく、33℃~37℃がより好ましい。
CO2雰囲気としても、上記ブタ細胞と、上記ヒト細胞との両方が生存し得る限り特に制限はなく、例えば、3~10%のCO2雰囲気下が挙げられ、4~9%のCO2雰囲気下が好ましく、5~8%のCO2雰囲気下がより好ましい。
共培養時間としては、例えば、3時間以上が挙げられ、共培養時間が短すぎると接触不十分であり偽陰性のリスクがある観点から、6時間以上が好ましく、12時間以上がより好ましく、16時間以上が更に好ましく、20時間以上が特に好ましい。1日以上、2日以上又は3日以上であってもよい。
上記ヒト細胞が、後述するHUVEC細胞等のウイルスに対する感受性が比較的に低い細胞の場合については、上記共培養時間を増やして検査感度を向上させてもさせなくてもよい。その共培養時間としては、例えば、12時間以上(好ましくは20時間以上、より好ましくは1日以上)が挙げられ、2日以上又は3日以上であってもよい。
【0021】
比較例として後述するように、多孔質膜隔離下における従来の共培養検査系では、3週間又は2週間共培養しても、検査感度が低く、偽陰性が生じるリスクがある。
一方、本発明の検査方法によれば、そのような偽陰性のリスクがなく、共培養時間の上限としては、例えば、3週間以下、2週間以下、1週間以下、4日以下、3日以下、2日以下、又は24時間以下とすることができる。共培養時間が長すぎると、検査効率が悪く、また、偽陽性のリスクが生じ得る観点から、24時間以下が好ましい。
【0022】
本発明において、上記ブタ細胞の遺伝子発現変化(例えば、ウイルス発現変化)のリスク回避、及び、X線照射無しに移植される移植細胞の生体内における状態の模倣の観点から、上記ブタ細胞は、X線照射されていないことが好ましい。
上記ブタ細胞試料としては、ブタ細胞を含む試料である限り特に制限はなく、上記ブタ細胞としては、生きているブタ細胞が好ましく、ブタ個体又はブタ個体から摘出した臓器から任意の方法で採取した細胞が好ましい。
ブタ個体から摘出した上記臓器としては、完全な臓器であっても、臓器の一部分であってもよい。
ブタ個体から摘出した上記臓器としては、より具体的には、リンパ節、肺、肝臓、腎臓、膵臓、心臓等、血液、尿、汗等が挙げられる。
上記ブタ個体としては特に制限はなく、野生型(例えば、肉ブタ系統、固有種系統、ミニブタ等)であっても、遺伝子組み換えブタであっても、SPF(Specific Pathogen Free)ブタであっても、閉鎖系のよく管理された環境において、医療用として飼育された感染症、特に人獣共通感染症又はブタ感染症のリスクを排除した動物(例えば、SPFブタ又はDPFブタ)であってもよい。
【0023】
上記ブタ細胞として、ブタの細胞である限り特に制限はなく、例えば、ブタ腎臓上皮細胞(PK15細胞)、ブタ末梢血単核球(peripheral blood mononuclear cell;PBMC)、ブタ膵島細胞、ブタ大動脈内皮細胞、ブタ肝細胞、ブタリンパ節細胞等が挙げられるが、本発明はこれらに限定される発明ではない。
【0024】
ヒト細胞としては、マーカー(好ましくは細胞表面マーカー)及び/又は標識を有するヒト細胞である限り特に制限はなく、一定期間in vitroで培養できるヒト細胞が好ましく、例えば、ヒト胎児腎細胞(HEK293細胞)、ヒト線維芽細胞(例えば、ヒト初代線維芽細胞)、ヒトPBMC、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC細胞)等が挙げられる。
ウイルスに対する感受性が高く(例えば、ウイルスが入り込み易く)、上記ブタ細胞と、上記ヒト細胞との比率(例えば、細胞数の比率)の自由度が高く、また、共培養時間を短縮し得る観点から、ヒトがん細胞が好ましく、HEK293細胞がより好ましい。
HEK293細胞としてより詳細には、通常のHEK293細胞の他、HEK293T細胞、HEK293S細胞、HEK293F細胞、HEK293FT細胞等が挙げられる。
HUVEC細胞は、ウイルス感染(例えば、PERV感染)を阻害するAPOBEC3Gタンパクを発現することが知られ、ウイルスに対する感受性が比較的に低いといえる(Meije,Y.,Tonjes,R.R.,&Fishman,J.A.(2010).Retroviral restriction factors and infectious risk in xenotransplantation.American Journal of Transplantation,10(7),1511-1516.)。
【0025】
上記マーカーは、細胞帰属、分化段階等の同定、細胞性状の把握等の指標ないし目印になり得るものを意味し、マーカー分子が好ましい。
上記マーカーとしては、細胞表面に露出している細胞表面マーカーのみならず、免疫組織化学的ないし免疫細胞化学的な方法による後述の分離の観点から、細胞表面に露出していない細胞膜構成成分及び細胞膜下の細胞質、核等に存在するいかなるマーカーであってもよいが、細胞表面マーカーが好ましい。
細胞表面マーカーとしては、例えば、ヒト細胞表面抗原ないしエピトープが挙げられ、任意のヒト細胞表面CD抗原が好ましく、ヒトCD31抗原、ヒトCD34抗原、ヒトCD45抗原、ヒトCD54抗原等がより好ましい。
【0026】
上記標識としては特に制限はないが、蛍光標識(蛍光タンパク質発現による標識を含む。)、磁気標識、酵素標識、放射線標識、吸光度標識等が挙げられ、定量性及び後述の分離性の観点から、蛍光標識、磁気標識、酵素標識が好ましく、蛍光標識がより好ましい。
上記標識の態様としては、抗原抗体反応(例えば、1次抗体、2次抗体等を使用)等のアフィニティーによる標識等が挙げられる。
上記磁気標識としては、例えば、磁気ビーズ等が挙げられる。
【0027】
上記マーカー及び/又は標識に基づき上記ヒト細胞を上記ブタ細胞試料から分離(好ましくは単離)する方法としては、アフィニティーを利用する方法(抗体及び磁気ビーズを用いる免疫磁気分離法、抗体と比重遠心を用いる免疫比重遠心法、放射線標識を利用するラジオイムノアッセイ(RIA)法、酵素標識を利用する、酵素免疫測定法(EIA,ELISA)、蛍光酵素免疫測定法(FLEIA)、化学発光酵素免疫測定法(CLEIA)、化学発光免疫測定法(CLIA)、電気化学発光測免疫測定法(ECLIA)など、セルソーター、フローサイトメトリー等)、生物物理学的な方法(誘電泳動、フィールドフロー分画、光散乱検出等を利用して分離する方法等)、物理化学的な方法(遠心分離法、分離膜法)又はそれらの組み合わせ等の任意の方法であってよく特に制限はない。
上記マーカー及び/又は標識に基づき上記ヒト細胞を上記ブタ細胞試料から分離する方法として、セルソーター、フローサイトメトリー、顕微鏡観察(好ましくは蛍光顕微鏡観察)又はそれらの組み合わせが挙げられ、より確実に上記ヒト細胞を分離(好ましくは単離)することができる観点から、セルソーター、フローサイトメトリー又はそれらの組み合わせがより好ましく、
より確実に上記ヒト細胞を高純度(例えば、70%以上が挙げられ、好ましくは80%以上、より好ましくは90%、更に好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上)で単離することができる観点から、セルソーター及びフローサイトメトリーの組み合わせが更に好ましい。
【0028】
ヒト細胞は、外来(培地中)のミトコンドリアを細胞内部に取り込むこと、継代培養後(特にブタミトコンドリアについては数週間の継代培養後)には取り込んだ外来ミトコンドリアが排出され、減少することが知られている(Kesner,E.E.,Saada-Reich,A.,&Lorberboum-Galski,H.(2016).Characteristics of mitochondrial transformation into human cells.Scientific reports,6(1),1-15、及び
Garkavenko,O.,Wynyard,S.,Nathu,D.,Simond,D.,Muzina,M.,Muzina,Z.,...&Elliott,B.R.(2008).Porcine endogenous retrovirus(PERV) and its transmission characteristics:a study of the New Zealand designated pathogen-free herd.Cell transplantation,17(12),1381-1388.)。
本発明において、ブタミトコンドリアDNAもしくはRNAを排出するための継代培養を行ってもよい。
しかし、本発明によれば、確実に上記ヒト細胞を分離することができることから、ブタミトコンドリアDNAもしくはRNAを排出するための継代培養を省略することができる。これにより、ウイルス感染性の検査に要する時間が大幅に短縮される。
【0029】
上記マーカーに基づく分離の場合は、上記マーカーを認識する1次抗体及び上記1次抗体を認識する標識2次抗体の組み合わせ、上記マーカーを認識する標識抗体等を利用した分離法が挙げられる。
上記分離において、フローサイトメトリー(ないしその解析)を組み合わせることにより、より確実な上記ヒト細胞の高純度単離を達成することができる。
上記分離は、上記標識の強度(例えば、蛍光強度、磁気強度、酵素標識強度、放射線強度、吸光度等)に基づいていてもいなくてもよい。
【0030】
検出対象の少なくとも1種のウイルスとしては、2種以上のウイルスであってもよく、3種以上のウイルスであってもよく、4種以上のウイルスであってもよい。
検出対象のウイルスの種類の上限値としては、特に制限はないが、例えば、20種以下、15種以下、10種以下が挙げられる。
検出対象の病原体ウイルスとしては、人獣共通感染症、動物感染症(例えば、ブタ感染症)又はヒト感染症の原因となるウイルスが挙げられ、人獣共通感染症又はブタ感染症の原因となるウイルスが好ましい。
【0031】
検出対象のウイルスとして、具体的には、PERV、ブタサーコウイルス(例えば、ブタサーコウイルス1型、ブタサーコウイルス2型等)、ブタリンパ球向性ヘルペスウイルス(例えば、ブタリンパ球向性ヘルペスウイルス1型、ブタリンパ球向性ヘルペスウイルス2型等)、ブタサイトメガロウイルス、脳心筋炎ウイルス、ブタパルボウイルス、ブタロタウイルス(例えば、ブタロタウイルスA、ブタロタウイルスBアメリカ型、ブタロタウイルスBベトナム型、ブタロタウイルスC等)、哺乳類レオウイルス、ブタエンテロウイルス、ブタ赤血球凝集性脳脊髄炎ウイルス、ブタ繁殖・呼吸障害症候群ウイルス、E型肝炎ウイルス、ブタ伝染性胃腸炎ウイルス、ブタインフルエンザウイルス(例えば、ブタインフルエンザウイルスH1N1型、ブタインフルエンザウイルスH3N2型等)、ブタ呼吸器コロナウイルス、ブタ熱ウイルス、ブタポックスウイルス、アフリカブタ熱ウイルス、オーエスキー病ウイルス、ゲタウイルス、日本脳炎ウイルス、ブタ流行性下痢ウイルス、ブタ水疱病ウイルス、ブタ水疱疹ウイルス、水疱性口内炎ウイルス(例えば、水疱性口内炎ウイルスnew jersey、水疱性口内炎ウイルスindiana等)、口蹄疫ウイルス、狂犬病ウイルス(例えば、狂犬病ウイルス1、狂犬病ウイルス2、狂犬病ウイルス3、狂犬病ウイルス4、狂犬病ウイルス5、狂犬病ウイルス6、狂犬病ウイルス7等)、ブタアデノウイルス、ブタアストロウイルス(例えば、ブタアストロウイルス1、ブタアストロウイルス2、ブタアストロウイルス3、ブタアストロウイルス4、ブタアストロウイルス5等)、メナングルウイルス、ニパウイルス、ハンタウイルス、東部ウマ脳炎ウイルス(例えば、東部ウマ脳炎ウイルス1、東部ウマ脳炎ウイルス2、東部ウマ脳炎ウイルス3、東部ウマ脳炎ウイルス4等)、西部ウマ脳炎ウイルス、ベネズエラウマ脳炎ウイルス、ボルナウイルス、アポイウイルス、ポリオーマウイルス、ウシウイルス性下痢ウイルス(例えば、ウシウイルス性下痢ウイルス1型、ウシウイルス性下痢ウイルス2型、ウシウイルス性下痢ウイルス3型等)、ウシ伝染性鼻気管炎ウイルス、ブタトルクテノウイルス(例えば、ブタトルクテノウイルス1型、ブタトルクテノウイルス2型等)、サポウイルス(例えば、サポウイルス3型、サポウイルス6型、サポウイルス7a型、サポウイルス7b型、サポウイルス7c型、サポウイルス8型、サポウイルス9型、サポウイルス10型等)、ノロウイルス(例えば、ノロウイルスA型、ノロウイルスB型等)、ブタルブラウイルス、カリシウイルス、スピューマウイルス、ブタγヘルペスウイルスが挙げられる。
【0032】
異種移植に関し、移植前にドナー及び移植片の病原体ウイルス検査を行い、病原体ウイルス感染のリスクが限りなく低いことを確認することが求められているが、上記病原体ウイルス検出はPCR(ポリメラーゼ連鎖反応;real-time PCR(商標)を含む)による方法が一般的である。
しかし、上記PCRで陰性と判断された場合であっても、培養中ないし移植後に、病原体ウイルスが発現増加するリスクがある。
上記リスクないし偽陰性を回避する観点から、上記列挙した各種ウイルス(特に、PERV以外の上記列挙した各種ウイルス)を本発明の検出対象のウイルスとし得る。
【0033】
検出対象のウイルスとして、PERV、ブタ繁殖・呼吸障害症候群ウイルス、ブタサーコウイルス2型、ブタインフルエンザウイルスH1N1型、ブタリンパ球向性ヘルペスウイルス、ブタサイトメガロウイルス及びE型肝炎ウイルスを少なくとも含むことが好ましく、PERVを少なくとも含むことがより好ましい。
【0034】
PERVはブタゲノムに組み込まれているガンマレトロウイルスの一種であり、全てのブタに存在する。
プロウイルス化は生殖系列でも起こるため、PERVは子孫に受け継がれる。また、正常なブタ細胞から感染性を有するPERVが放出されることも確認されている(Mattiuzzo,G.,Takeuchi,Y.,&Scobie,L.(2012).Potential zoonotic infection of porcine endogenous retrovirus in xenotransplantation.In Xenotransplantation(pp.263-279).Humana Press,Totowa,NJ.)。
PERVのゲノムはgag、pol、envの3つの遺伝子から構成され、そのコピー数はブタの品種間や臓器間、さらには個体間で異なる。
PERVはenv遺伝子の配列の違いによりA型、B型、C型の3つのタイプに分類される。A型、B型は全てのブタで陽性であり、ヒトを含む様々な動物に感染することが報告されている(Takeuchi,Y.,Patience,C.,Magre,S.,Weiss,R.A.,Banerjee,P.T.,Le Tissier,P.,&Stoye,J.P.(1998).Host range and interference studies of three classes of pig endogenous retrovirus.Journal of virology,72(12),9986-9991.)。
したがって、上記ブタ細胞試料における上記A型又はB型のPERVのヒトへの感染性を検査する観点から、本発明の検査方法において、検出対象のウイルスとして、PERVの中でも、PERVのA型又はB型を含むことが好ましい。
一方、C型はいくつかのブタのみで陽性であり、ブタ以外の動物には感染しないが、A型と組み換えを起こし、感染性が500倍高い組み換え体となることが報告されている(Harrison,I.,Takeuchi,Y.,Bartosch,B.,&Stoye,J.P.(2004).Determinants of high titer in recombinant porcine endogenous retroviruses.Journal of virology,78(24), 13871-13879.)。
このため、PERV-C型のPCR検査(従来の検査)結果が陰性のブタ細胞試料を選抜し、異種移植材へと製品化してもよい。一方、ブタ細胞試料に関するPERV-C型のPCR検査を省略し、本発明の検査方法において、上記ヒト細胞における検出対象のウイルスとして、PERV-C型を含んでいてもよい。
【0035】
上記分離後のヒト細胞において、少なくとも1種の上記ウイルスを検出する手法としては、上記ヒト細胞における上記ウイルスの感染性(例えば、上記ヒト細胞における上記ウイルスの存在)を知得し得る限り特に制限はなく、例えば、PCR法による検出ないし定量が挙げられる。
より詳細には、少なくとも1種のウイルスの上記検出は、少なくとも1種類のウイルス各々の核酸(DNA、RNA等)に選択的に(好ましくは特異的に)結合するプライマーセット(以下、「プライマー対」ともいう。;Forwardプライマー(Fプライマー)及びReverseプライマー(Rプライマー)の対)を用いてPCR法により検出ないし定量してもよい。
PCR法による上記検出ないし定量の前に、当業界における技術常識に基づいて、細胞の溶解、RNA抽出等を行ってもよい。
【0036】
本発明において、PCR法は、標準的なPCR法(standardPCR)であってもなくてもよく、RNAウイルス(インフルエンザウイルス等)を検出する観点から、RNAを鋳型とし、逆転写酵素によって、一旦、相補的なcDNA合成してからPCRを行う、いわゆるRT-PCR法であってもなくてもよい。
また、PCR法は、定量性を高める観点から、リアルタイムPCR法(real-time PCR)(商標)であってもなくてもよい。
更に、PCR法は、特異性及び収率を向上させる等の観点からネステッドPCR法(nested PCR)等の変法であってもなくてもよい。
【0037】
上記少なくとも1種類のウイルス各々の核酸に選択的に結合するプライマーは特に制限されず、例えば、上記選択的に結合する配列に加えて任意の他の配列を含むものであり得る。上記プライマーの塩基長としても、上記少なくとも1種類のウイルス各々の核酸に選択的に結合し得るというプライマーとしての機能を発揮する程度の長さであれば特に制限されず、例えば、10~50塩基の長さが挙げられ、12~40塩基の長さが好ましく、15~30塩基の長さがより好ましい。
上記プライマーのTm値としては、ゲノム遺伝子(例えば、ブタゲノム遺伝子)等との非特異的アニーリングを回避する観点から、50℃以上であることが好ましく、55℃以上であることがより好ましい。
また、プライマーのTm値の上限値としては特に制限はないが、例えば、80℃以下であり、好ましくは75℃以下である。
また、少なくとも1種のウイルスの上記検出に使用する全プライマーの融解温度差が25℃以下(より好ましくは20℃以下、更に好ましくは15℃以下、特に好ましくは12℃以下)であることが好ましい。
全プライマーの融解温度差は小さければ小さいほど好ましく、融解温度差の下限値としては特に制限はないが、例えば、10℃以上、8℃以上、6℃以上、5℃以上、3℃以上、1℃以上等が挙げられ、理想的には0℃である。
【0038】
少なくとも1種のウイルスの上記検出が、2種以上のウイルス(3種以上のウイルスであってもよく、4種以上のウイルスであってもよい。)を、各々のウイルスの核酸に選択的に結合するプライマー対を用いてPCR法による検出であってもよい。
ウイルスの種類の上限値としては特に制限はないが、例えば、20種以下、15種以下、10種以下が挙げられる。
【0039】
ウイルスの核酸に選択的に結合するプライマーとしては、実施例の項で後述する配列番号1~16のいずれかで表されるプライマーが挙げられるが、本発明におけるプライマーとしてはこれらに限定されない。
【0040】
少なくとも1種のウイルスの上記検出において、ウイルスの核酸が統計的に有意に検出されれば特に制限はない。例えば、対照と対比して、上記核酸が1.1倍以上検出されることが挙げられ、1.2倍以上検出されることが好ましく、1.5倍以上検出されることがより好ましい。
上記核酸の検出の上限値としては特に制限はないが、例えば、10倍以下が挙げられる。
上記対照としては、上記ブタ細胞試料との共培養を行っていない点、又は、ヒト細胞だけで培養している点でのみ相違するヒト細胞から得られた測定値であっても、予め健常ヒト細胞の検体群から収集して得られた統計的な値ないし範囲であってもよい。
【0041】
上記検出は、上記標識の強度(例えば、蛍光強度、磁気強度、放射線強度、吸光度、酵素標識強度等)に基づいていてもいなくてもよい。
【0042】
少なくとも1種のウイルスの上記検出において、PCRのサーマルサイクル条件(例えば、温度、時間、サイクル数等)としては特に制限されず、当業界における技術常識を勘案して、二本鎖核酸を一本鎖化する変性反応、アニーリング反応及びDNAポリメラーゼなどの核酸合成酵素による核酸伸長反応が生じる温度及び時間を適宜設定し、これらの反応を数十サイクル繰り返すことにより実施することができる。
変性反応条件としては特に制限されず、例えば、標的核酸を90℃~100℃で数十秒~数分間に加熱する反応が挙げられる。
プライマーと標的核酸とがハイブリダイズするような条件下でプライマー及び標的核酸をおく反応であるアニーリング反応としても特に制限されないが、例えば、変性反応の後、例えば、急速に冷却して50℃~70℃(好ましくは、52℃~65℃)に数十秒間~数分間おく反応であることができる。
【0043】
核酸伸長反応としても特に制限されず、例えば、DNAポリメラーゼなどの核酸合成酵素を用い、該核酸合成酵素の酵素活性に適した温度で実施する反応をいうことができる。
【0044】
検出対象の上記ウイルスが複数種である場合、複数種の上記ウイルスの検出はできるだけ少ない回数で検出を行う観点から同時に行うことが好ましい。
できるだけ少ない回数で検出を行う観点から、複数種の上記ウイルスの検出を、同一のサーマルサイクル条件のPCR法により行うことが好ましい。また、上記ウイルスの検出に使用する使用する全プライマーの融解温度差が25℃以下(より好ましくは20℃以下、更に好ましくは15℃以下、特に好ましくは12℃以下)であることが好ましい。
全プライマーの融解温度差は小さければ小さいほど好ましく、融解温度差の下限値としては特に制限はないが、例えば、10℃以上、8℃以上、6℃以上、5℃以上、3℃以上、1℃以上等が挙げられ、理想的には0℃である。
第1の態様に係る検査方法を実施する時期、及び頻度等としては特に制限はないが、移植前が好ましい。
【0045】
≪異種移植材製品の作成方法≫
本発明の第2の態様は、ブタ個体又はブタ個体から摘出した臓器から採取した細胞について、第1の態様に係る検査方法で感染性を検査すること、
感染性が所定基準を満たさないことに基づき、前記ブタ個体から摘出した臓器を材料から排除し、かつ/又は、感染性が所定基準を満たすことに基づき、前記ブタ個体から摘出した臓器を材料として選抜すること、及び
前記排除されなかったかつ/又は前記選抜された臓器を異種移植材へと製品化すること、を含む、異種移植材製品の作成方法である。
上記排除及び/又は選抜により、所定基準を満たさない臓器は、異種移植材製品へと製品化できないと評価し、上記排除及び/又は選抜により、上記所定基準を満たす臓器を、異種移植材製品へと製品化し得ると評価し得る。
【0046】
第2の態様において、感染性検査に供する上記ブタ細胞試料としては、上記臓器の上記摘出元のブタ個体の別の箇所(例えば、臓器、組織)から採取した細胞であってもよいが、異種移植材として排除及び/又は選抜の対象となる上記臓器から採取したブタ細胞試料であることが好ましい。
【0047】
上記所定基準としては、例えば、上記ブタ細胞試料を第1の態様に係る検査方法に供することによりウイルス感染性陰性と判定されるか否かを基準とすることが挙げられる。例えば、上記感染性陰性か否かの判定は、上記ヒト細胞における上記ウイルスのコピー数に基づき判定することが挙げられ、例えば、上記ヒト細胞における上記ウイルスのコピー数が所定値未満(例えば、細胞当り1.5コピー未満が挙げられ、好ましくは1.0コピー未満、より好ましくは0.7コピー未満、更に好ましくは0.5コピー未満、特に好ましくは0.3コピー未満、とりわけ好ましくは0.1コピー未満、最も好ましくは0.07コピー未満)である場合をウイルス感染性陰性と判定することができる。
上記所定基準としては、ウイルス感染前の健常ブタ(野生型であっても、閉鎖系のよく管理された環境において、医療用として飼育された感染症、特に人獣共通感染症又はブタ感染症のリスクを排除したブタ(例えば、SPFブタ又はDPFブタ)であってもよい。)から採取したブタ細胞試料を第1の態様に係る検査方法に供して得られた検査結果ないし測定値であっても、予め健常ブタ(野生型であっても、閉鎖系のよく管理された環境において、医療用として飼育された感染症、特に人獣共通感染症又はブタ感染症のリスクを排除したブタ(例えば、SPFブタ又はDPFブタ)であってもよい。)の検体群から採取したブタ細胞試料を第1の態様に係る検査方法に供して得られた統計的な値ないし範囲であってもよい。
異種移植材製品としては、臓器(肝臓、腎臓、膵臓、心臓等)製品、血液製品、尿製品、汗製品等が挙げられ、臓器製品又は血液製品が好ましい。
第2の態様により得られた異種移植材製品は、病原体ウイルス感染のリスクが低減されており、異種移植に好適に使用し得る。
【実施例0048】
以下に本発明の実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の応用が可能である。
【0049】
<<材料及び方法>>
<1.1.供試細胞>
以下の実施例及び比較例において、PERV産生ブタ細胞としてPK15細胞及びミニブタ又は肉豚系統ブタのPBMCを、標的ヒト細胞としてHEK293細胞(GFPを発現しない)、HEK-293T(GFP)細胞、HUVEC細胞を使用した。
PK15細胞は大阪大学大学院 医学系研究科 小児成育外科・臓器移植学研究室の宮川周士先生から分与頂いた。
HEK293細胞、GFPを安定発現するHEK-293T(GFP)細胞、及びHUVEC細胞はそれぞれJCRB細胞バンク、コスモ・バイオ、Lonzaから購入した。ミニブタのPBMC(mini PBMC)は国立国際医療研究センターの霜田雅之先生から譲与頂いた。肉豚系統ブタのPBMC(hypo PBMC)は株式会社ポル・メド・テックから譲与いただいた肉豚系統ブタ(hypo系統)の全血から単離した。各細胞の継代培養、PBMCの刺激の手順を以下に記述した。
【0050】
(1.1.1.継代培養)
凍結保存されたPK15細胞、HEK293細胞、HEK-293T(GFP)細胞を37℃の温水で振盪しながら融解し、10mlの血清添加DMEM培地[10%(v/v)非動化処理済みウシ胎児血清(FBS,Sigma社)、50U/mlペニシリン(ナカライテスク社)、50μg/mlストレプトマイシン(ナカライテスク社)加DMEM(4.5g/l Glucose)培地(ナカライテスク社)]に添加した。この細胞懸濁液を室温で800×g、3分間遠心分離し、上清を除去した。細胞を1mlの血清添加DMEM培地で懸濁し、懸濁液中の細胞数をTC20(登録商標)Automated Cell Counter(BIO-RAD社)を用いて計数した。生細胞数濃度をもとにPK15細胞を5.0×105cells、HEK293細胞を1.0×106cells、HEK293T(GFP)細胞を8.6×105cells、それぞれ血清添加DMEM培地10mlに懸濁し、75cm2培養用フラスコ(Falcon社)に播種した。その後、37℃、6%CO2の条件下で培養した。翌日、培養上清を吸引除去し、10mlの血清添加DMEM培地を新たに添加して培地交換を行った。
80%コンフルエントになった時点で、フラスコ内の培地を吸引除去し、10mlのPBS(-)(和光純薬社)で洗浄した後、5mlの2.5g/lトリプシン-1mM EDTA(ナカライテスク社)を培養フラスコに加え、37℃、6%CO2の条件下で2~3分間、細胞剥離処理を行った。細胞剥離後、等量の血清添加DMEM培地を加えて反応を止め、細胞懸濁液を室温で800×g、3分間遠心分離した。上清を除去し、血清添加DMEM培地を3~5ml加えて細胞を懸濁した。上記と同様に、細胞懸濁液中の細胞数を計数し、必要細胞数を培養フラスコへと継代した。継代は3日もしくは4日ごとに行い、継代時に剥離した細胞を以下の共培養試験に用いた。
HUVEC細胞は、Clonetics(登録商標)血管内皮細胞システム 操作手順マニュアルに従い培養を行った。培地はEGM(登録商標)-2添加因子キット(Lonza社)を添加したEBM(登録商標)-2基本培地(Lonza社)(以下、EBM-2培地)を使用した。推奨播種密度を参考に、必要細胞数を15mlのEBM-2培地に懸濁し、75cm2培養用フラスコに播種した。その後、37℃6%CO2の条件下で培養した。70~80%コンフルエントになったHUVEC細胞は、上記と同様のマニュアルに従い、HEPES溶液(Lonza社)、トリプシン/EDTA(Lonza社)、トリプシン中和液(Lonza社)を用いて剥離、継代した。継代は2もしくは3日ごとに行い、継代時に剥離した細胞を以下の共培養試験に用いた。
【0051】
(1.1.2.PBMCの刺激)
PBMCは共培養前にフィトヘマグルチニン(PHA;レクチン キントキマメ(Phaseolus vulgaris)由来(Sigma-Aldrich社))で3日間刺激したもの(刺激PBMC)と、PHA無しで3日間培養したもの(非刺激PBMC)を使用した。PHAによる刺激は次の通り行った。miniPBMC及びhypoPBMCの生細胞をPHA濃度が2.5μg/mlの血清添加RPMI培地で5.0×105cells/mlになるよう調製した。調製後、37℃6%CO2の条件下で3日間培養した(以下、mini s-PBMC、hypo s-PBMC)。非刺激PBMC はPHAを含まない血清添加RPMI培地を用いてmini及びhypo PBMCを3日間培養した(以下、mini n-PBMC、hypo n-PBMC)。その後、全てのPBMCを洗浄するために、室温で800×g、3分間遠心分離後、上清除去し、5mlの血清添加RPMI培地で懸濁した。この洗浄を2回繰り返した後、細胞数を計数し共培養試験に用いた。また、4種類のPBMCはPERVコピー数計測のため、1.0×105cellずつ250μlの血清添加RPMI培地に懸濁し、750μlのTRIzol(登録商標)Reagent(Thermo Fisher Scientific社)と混合した後(細胞懸濁液:TRIzol=1:3)、RNA抽出に供するまで-80℃で保存した。なお、以降の実験では、細胞懸濁液とTRIzol(登録商標)Reagentは全てこの比率で混合した。
【0052】
<1.2.新規in vitro共培養系の確立(共培養細胞からの標的ヒト細胞の単離)>
(1.2.1.セルソーターによる標的ヒト細胞の単離)
以下の方法で共培養後に高純度で標的ヒト細胞を単離できることを確認した。細胞の単離にはセルソーター(SH800,SONY社)を用いた。HEK-293T(GFP)細胞はGFPの蛍光を、HUVEC細胞は血管内皮細胞のマーカー分子であるCD31を蛍光抗体で標識し、その蛍光をPERV産生ブタ細胞と区別するために利用した。HUVEC細胞とPK15細胞を含む細胞混合液は室温で200×g、5分間遠心分離し、上清を除去した後、0.5%(w/v)Bovine serum albumin(BSA,和光純薬社)を含むPBS(-)(以下、0.5%BSA-PBS)1mlで懸濁した。再び室温で200×g、5分間遠心分離し、上清を除去した後、1.0×10
6cellに対し120μlの希釈抗体液を添加し、混合した。希釈抗体液は0.5%BSA-PBS溶液100μlあたりに、FITC標識マウス抗ヒトCD31抗体(clone WM59;ベクトン ディッキンソン社)を20μl添加することで作製した。暗所で4℃30分間反応させた後、室温で200×g、5分間遠心分離し、上清を除去した。1mlの0.5%BSA-PBS溶液で懸濁し、再び室温で200×g、5分間遠心分離し、上清を除去した。その後、3mlのEBM-2培地で懸濁した。
図1Aは、GFPの蛍光強度によりHEK-293T(GFP)細胞を、
図1Bは、FITCの蛍光強度によりHUVEC細胞をそれぞれゲーティングした一例を示す図である。
HEK-293T(GFP)細胞とPK15細胞もしくはPBMC、及びHUVEC細胞とPK15細胞の細胞混合液はナイロンメッシュ(ポアサイズ32μm;東京スクリーン社)で濾過した後、セルソーターに供した。解析ソフトCell Sorter SH800 Series(SONY社)を用いて、前方散乱光の幅(Forward Scatte-Width (FSC-W))及び前方散乱光の高さ(Forward Scatter-Height(FSC-H))からダブレット(凝集細胞)を除去するようにゲーティング及び展開し、
図1に示すように、GFPの蛍光強度からHEK-293T(GFP)細胞を、FITCの蛍光強度からHUVEC細胞をゲーティングし、それぞれの細胞を単離した。
【0053】
(1.2.2.PERV産生ブタ細胞混入の確認)
単離した標的ヒト細胞をセルソーターもしくはAccuri(登録商標)C6 Flow Cytometer(ベクトン ディッキンソン社)に供し、フローサイトメトリー解析を行った。Accuri(登録商標)C6 Flow Cytometerを用いた際は測定ソフトC Sampler(登録商標)Software(ベクトン ディッキンソン社)を使用した。GFPもしくはFITCの蛍光強度から、PERV産生ブタ細胞の混入の有無を確認した。また、単離したHEK-293T(GFP)細胞はその一部を播種し、80%コンフルエントになった時点で、蛍光顕微鏡(Leica DM IL LED,Leica社)下で画像解析ソフトLeica Application Suite V4(Leica社)を用いて観察、撮影し、非蛍光細胞であるPERV産生ブタ細胞の混入の有無を確認した。
【0054】
<1.3.新規in vitro共培養系(実施例)及び従来の共培養系(比較例)によるPERV感染性の評価>
従来の共培養系(比較例)におけるPERVの感染性と比較することにより、新規in vitro共培養系(実施例)の有用性を以下検証した。
(1.3.1.実施例:接触下における共培養)
実施例として、X線照射などの処理を行わないPERV産生ブタ細胞を、標的ヒト細胞に接触させる共培養を行った。ここでは高コピーのPERVを産生するHigh copy細胞としてPK15細胞とPERVに感受性の高いHigh sensitive細胞としてHEK-293T(GFP)細胞を使用した。
評価は細胞の接触期間及び接触比率の2種類を対象とし、前者は1~4日間、1~3週間の接触期間を設け、後者はPK15細胞(High copy細胞)とHEK-293T(GFP)細胞(High sensitive細胞)の比率を9:1から1:9の範囲で複数設定し共培養を行った。
1、2、3週間の共培養では、週に2回継代を行ったが、HEK-293T(GFP)細胞の分裂速度がPK15細胞よりも速かったため、1週間に一度、別で培養したPK15細胞を新たに加え、細胞の比率を調整した。各共培養の条件及び播種時の各細胞数を下記表1に示す。
次に、PK15細胞(High copy細胞)とPERV感受性が低いと考えられるLow sensitive細胞としてHUVEC細胞を使用し、標的ヒト細胞のPERV感受性の違いがPERV感染性に与える影響を検討した。
PK15細胞及びHUVEC細胞を15mlのEBM-2培地に懸濁、混合した後、75cm
2培養用フラスコに播種し、培養した。播種時の各細胞数は下記表1に示した。
最後に、Low copy細胞であるPBMCとHEK-293T(GFP)細胞(High sensitive細胞)を共培養し、PERV産生ブタ細胞の違いがPERV感染性に与える影響を検討した。miniPBMCもしくはhypoPBMC及びHEK-293T(GFP)細胞を5mlの血清添加DMEM培地に懸濁、混合した後、25cm
2培養用フラスコ(Falcon社)に播種し、培養した。共培養の条件及び播種時の各細胞数を下記表1に示す。
【表1】
共培養後、上記1.1.1項の継代培養と同様に細胞を剥離し、細胞を回収した。PK15細胞またはPBMCと共培養したHEK-293T(GFP)細胞(High sensitive細胞)は回収後、Percoll溶液を用いて培養上清中に存在するPERV粒子の除去及び細胞の洗浄を行った。ここでは、SIP溶液10mlに6.4mlの0.15M NaClを添加した比重1.077g/mlのPercoll溶液を用いて、上記1.1.2項のPBMC単離と同様の操作を行った。
なお、HUVEC細胞を含む共培養細胞は、HUVEC細胞がPercollによる遠心分離でダメージを受けてしまうため、上記の操作は行わなかった。標的ヒト細胞の単離は上記1.2.1項と同様にセルソーターを用いて行い、得られた標的ヒト細胞はTRIzol(登録商標)Reagentと混合した後、-80℃で保存した。
【0055】
(1.3.2.比較例:多孔質膜隔離下における共培養)
細胞同士の接触の有無がPERV感染性に与える影響を検討するため、比較例としてPERV産生ブタ細胞と標的ヒト細胞とを多孔質膜で隔離した条件下でも共培養を行った。実施した細胞の組み合わせや条件は原則として上記接触下における共培養と同様とした。
図17は、比較例で使用した縦型共培養プレート及び水平型共培養容器の模式図(水平型共培養容器UniWells(登録商標)(和光純薬社製)を示す図である。
PK15細胞(High copy細胞)とHEK-293T(GFP)細胞(High sensitive細胞)の共培養では、
図17Aの形状の縦型共培養プレート24mm Transwell(登録商標)with0.4μmPore Polycarbonate Membrane Insert(6well plate;CORNING社)を使用した。
縦型共培養プレートは細胞の培養面積がインサート上部と下部で異なるため、インサート上部にPERV産生ブタ細胞を、下部に標的ヒト細胞を播種する共培養、及びその逆の上下を入れ替えたパターンでそれぞれの細胞を播種する共培養を実施した。
インサート上部の培地は1.5ml、下部は3.0mlとした。1、2、3週間の共培養では、HEK-293T(GFP)細胞のみを週に2回継代した。播種時の各細胞数は下記表2に示した。
PK15細胞(High copy細胞)とHUVEC細胞(Low sensitive細胞)、PBMC(Low copy細胞)とHEK-293T(GFP)細胞(High sensitive細胞)の共培養では、UniWells(登録商標)Horizontal Co-Culture Plate(和光純薬社)とUniWells(登録商標)Filter0.6μm(ポアサイズ0.6μm;和光純薬社)を組み合わせた
図17Bの形状の水平型共培養容器を使用した。水平型共培養容は細胞の培養面積が左右同じであるため、PERV産生ブタ細胞と標的ヒト細胞の入れ替えは行わなかった。なお、水平型共培養では左側にPERV産生ブタ細胞を、右側に標的ヒト細胞を播種し、培地量は1.5mlとした。共培養の条件及び播種時の各細胞数を下記表2に示す。
共培養後、標的ヒト細胞を剥離し、回収した。多孔質膜隔離下における共培養では、回収できる細胞数が少ないため、Percoll溶液を用いたPERV粒子の除去及び細胞洗浄は実施しなかった。回収した全ての標的ヒト細胞は、上述と同様にTRIzol(登録商標)Reagentと混合し、-80℃で保存した。
【表2】
【0056】
<1.4.感染ヒト細胞から未感染ヒト細胞へのPERV感染性の評価>
PERVが感染したヒト細胞から未感染のヒト細胞にPERV感染が起こるかどうかを確認するために、PERV感染が確認されたHEK-293T(GFP)細胞とHEK293細胞の接触下における共培養を行った。
まず、上記1.3項と同様にPK細胞(High copy細胞)とHEK-293T(GFP)細胞(High sensitive細胞)とを接触下で4日間共培養した。その後、HEK-293T(GFP)細胞をセルソーターにより単離し、一部をTRIzol(登録商標)Reagentと混合し-80℃で保存、一部を75cm2培養用フラスコに播種し、培養した。単離したHEK-293T(GFP)細胞を5回継代し、ブタミトコンドリアに対するPCR検査が陰性、PERV遺伝子に対するPCR検査が陽性であることを確認し、これをPERV陽性HEK-293T(GFP)細胞とした。
このPERV陽性HEK-293T(GFP)細胞とHEK293細胞を10mlの血清添加DMEM培地に懸濁、混合した後、75cm2培養用フラスコに播種し、接触下で共培養した。4日間の培養後、セルソーターにより標的ヒト細胞であるHEK293細胞(GFP陰性細胞)を単離した。単離したHEK293細胞を上述と同様にTRIzol(登録商標)Reagentと混合し、-80℃で保存した。各培養における播種時の条件及び各細胞数は上記表1に示した。
【0057】
<1.5.RNA抽出及びcDNA合成>
-80℃で保存した共培養後の細胞、及び全ての供試細胞(共培養前)からRNAを抽出し、cDNAを合成した。共培養前の供試細胞はそれぞれ1.0×105cellをTRIzol(登録商標)Reagentと混合し、室温で5分間インキュベートした。RNA抽出用にTrizol(登録商標)Reagentと混合後に保存した細胞は、凍結状態のものは解凍後、ボルテックスにより再度混合し、同様にインキュベートした。インキュベート後、細胞懸濁液を23Gの注射針(TERUMO社)に10回通し、細胞を溶解した。クロロホルムを200μl加え15秒間ボルテックスにより混合し、室温で3分静置した。4℃で12,000×g、15分間遠心分離し、遠心後の透明な上層(水層)を、500μl回収した。
RNeasy MinElute kit(Qiagen社)を用いて、回収した水層から全RNA精製を行った。回収した水層と等量の70%(v/v)エタノールを加えピペッティングした後、キット付属のカラムに混合液を2回に分けてアプライし、室温で8,000×g、30秒間遠心分離し、ろ液を廃棄した。カラムにBufferRW1を350μl添加し、再び室温で8,000×g、30秒間遠心分離し、ろ液を廃棄した。DNase処理にはRNase-Free DNase Set(QIAGEN社)を用いた。キット付属のDNaseI及びBufferRDDを1:7になるよう懸濁した溶液を75μl添加し、室温で7分静置した。DNase処理後、RW1を350μl添加し、室温で8,000×g、30秒間遠心分離し、ろ液を廃棄した。次にBuffer RPE500μlを添加し、室温で8,000×g、30秒間遠心分離し、ろ液を廃棄した。80%(v/v)エタノールを500μl添加し、室温、8,000×gで2分間遠心分離し、ろ液を廃棄した。エタノールの除去を目的として、カラムに何も添加せず室温で、8,000×g、5分間遠心分離した。最後にカラムを新しいチューブにセットし、RNase Free Water14μlを添加し、室温で8,000×g、1分間遠心分離した。
抽出したRNAからSuperScriptTM II Reverse Transcriptase(Thermo Fisher Scientific社)を用いてcDNA合成した。random primers(Thermo Fisher Scientific社)又はoligo dT20(Thermo Fisher Scientific社)1.5μl、2.5mM dNTP Mix4μl、RNA(25~200ng;RNA量は各共培養試験の標的ヒト細胞ごとに統一)1μl、RNase Free Water5.5μlを混合した12μlの反応液を作製した。65℃で5分間静置し、すぐ氷上に移動させた。その後の操作は、キット付属のプロトコルに従い行った。
【0058】
<1.6.ブタミトコンドリア及びPERVのstandardPCR検出>
合成したcDNAをサンプルとして、LifeECO(日本ジェネティクス社)により、ブタミトコンドリア遺伝子に対するstandardPCR(以下、ブタミトコンドリアstandardPCR)及びPERVのgag、pol、envA、envB遺伝子に対するstandardPCRを行った(以下、4種のPERV遺伝子のstandardPCRをPERV standardPCR、各遺伝子のstandardPCRをgag standardPCR、pol standardPCR、envA standardPCR、envB standardPCRと記載する)。なお、PERV standardPCRは、実施例の接触下における共培養試験では、標的ヒト細胞を単離後、ブタミトコンドリアstandardPCRが陰性になるまでの期間は実施しなかった。
ポジティブコントロール(PC)にはサンプルと同量のPK15細胞由来RNAから合成したcDNAを、ネガティブコントロール(NC)には200ngの共培養とは別に単体で培養したHEK-293T(GFP)細胞、HEK293細胞、HUVEC細胞のRNAから合成したcDNA及びNuclease Free Water(NFW)を用いた。KAPA HiFi Hot Start Ready Mix(日本ジェネティクス社)10μl、10μMプライマーセット各0.6μl、NFW7.3μl、サンプル1.5μlの計20μlの反応液を作製した。用いたプライマーの配列は下記表3に示した。
ブタミトコンドリアstandardPCRは92℃3分間の初期変性の後、92℃20秒間、58℃20秒間、72℃30秒間の温度サイクルを35サイクル行った。PERV standardPCRは94℃10分間の初期変性の後、94℃30秒間、65℃45秒間、72℃40秒間の温度サイクルを30サイクル、最後に72℃10分間の伸長反応を行った。
増幅後は、トリス-ホウ酸-EDTA緩衝原液(ナカライテスク社)を用い、1.5%アガロースゲルで電気泳動を行い、目的サイズと一致することを確認した。
【0059】
<1.7.PERVのreal time-PCR(商標)検出>
Light Cycler(登録商標)480(Roche社)を用いて、PERVのgag、pol、envA、envB遺伝子に対するreal time-PCR(商標)を実施した(以下、4種のPERV遺伝子のreal time-PCR(商標)をPERV real time-PCR(商標)、各遺伝子のreal time-PCR(商標)をgag real time-PCR、pol real time-PCR、envA real time-PCR、envB real time-PCRと記載する)。PERV real time-PCRは上記1.6項でPERV検出に供したものと同じサンプル、PC、NCで実施した。SYBR(登録商標)Premix Ex TaqII(Tli RNase Plus)(TAKARA社)5μl、10μMプライマーセット各0.2μl、NFW3.6μl、サンプル1μlの計10μlの反応液を作製した。用いたプライマーの配列は下記表3に示した。また、反応は2連で行った。95℃30秒間の初期変性の後、95℃5秒間、60℃30秒間の温度サイクルを40サイクル、95℃5秒間、65℃60秒間の融解曲線分析を行った。
【表3】
【0060】
<1.8.PERV遺伝子発現量(PERVのコピー数)測定>
PERV遺伝子の発現量を測定するため、合成したcDNAをサンプルとして1細胞当たりのPERVコピー数を測定した。pol real time-PCRで標的とした遺伝子配列を含むプラスミドを作成し、pol遺伝子1コピー=PERV1コピーと定義した。
PERV polプラスミドは以下の手順で作製した。PK15細胞から抽出、合成したcDNAを鋳型核酸として、上記1.7項と同様にpol real time-PCRを実施した。得られたreal time-PCR産物をPCR Clean-Up System(Promega社)を用いて精製した。PCR産物に等量のMembrane Binding Solutionを混合し、Econo Spin(登録商標)for DNA(Epoch Biolabs社)に全量添加した。室温で1分間静置した後、室温で16,000×g、1分間遠心分離した。ろ液を除去し、Membrane Wash Solution400μlを添加し、室温で16,000×g、1分間遠心分離した。再度、ろ液を除去し、Membrane Wash Solution400μlを添加し、室温で16,000×g、5分間遠心分離した。カラムを別のチューブにセットし、NFW30μlを添加して、室温で1分間静置した。室温で16,000×g、1分間遠心分離した。その後、TOPO TA(登録商標)Cloning(登録商標)kit(Thermo Fisher Scientific社)を用いてキット付属のクローニングベクターに組み込んだ。ベクター2μlを、熱ショック法でCompetent Quick DH5α(Green Cap)(TOYOBO社)に形質転換し、LB寒天培地に播種した。生育したコロニーのコロニーPCRを行い、インサートが挿入されたベクターを選抜した。コロニーPCRにはGoTaq(登録商標)Green Master Mix(Promega社)を用い、Master Mix12.5μl、TOPO TA(登録商標)Cloning(登録商標)kit付属のM13 Forward Primer及びM13 Reverse Primer(10μM)各0.5μl、NFW11.5μlの計25μlの反応液を作製した。10μl用ピペットチップでコロニーに軽く触れ、その先を反応液に添加した。94℃で2分間の初期変性後、98℃で10秒間の熱変性、55℃で30秒間のアニーリング、72℃で30秒間の伸長反応を30サイクル行った。上記1.6項と同様の方法で電気泳動を行った。目的サイズのバンドが確認できたコロニーを50μg/mlアンピシリンを含有するLB液体培地6mlに播種し、37℃で1晩培養した。
Mini Plus(登録商標)Plasmid DNA Extraction System(VIOGENE社)を用いて、キット付属のプロトコルに従いプラスミド抽出を行った。プラスミドの濃度をNanoPhotometer(登録商標)N50(IMPLEN社)で濃度測定を行い、コピー数を算出した。
作製したPERV polプラスミドを10倍ずつ段階希釈し、3.43×106copies/μl~0.343copies/μl(8段階)の濃度のプラスミドをPERV遺伝子発現量測定のスタンダードとした。このスタンダード及び上記1.6項でPERV検出に供したサンプルのうちrandom primerで合成したcDNAをサンプルとし、上記1.7項と同様にpol real time-PCRを実施した。コピー数算出のためのreal time-PCRは、スタンダードは3連で、サンプルは2連で行った。スタンダードのコピー数及びCp値を用いて検量線を作成した。この検量線にまとめた各サンプルの細胞数及びcDNA合成に用いたRNA量から、1つの細胞が発現するPERVコピー数を算出した。
また、3.43×103copies/μl~0.343copies/μl(5段階)のスタンダードを用いて、PERVコピー数測定(pol real time-PCR)の検出限界を算出した。各濃度8連で上記1.7項と同様にpol real time-PCR(商標)を実施し、統計解析ソフトRを用いてプロビット回帰解析を行った。
【0061】
<<結果>>
<2.1.セルソーターによる標的ヒト細胞の単離>
PERV産生ブタ細胞と標的ヒト細胞の混合液からセルソーターを用いて標的ヒト細胞を単離し、PERV産生ブタ細胞の混入をフローサイトメトリー解析及び蛍光顕微鏡観察により確認した。
図2Aは、単離した標的ヒト細胞HEK293T(GFP)細胞のフローサイトメトリー解析の一例を示す図であり、
図2Bは、単離した標的ヒト細胞HUVEC細胞のフローサイトメトリー解析の一例を示す図である。
単離後のプロットのうち、いずれの標的ヒト細胞でも、プロット中の標的ヒト細胞の割合は99.4%以上で、その他はデブリと考えられるプロットであり、非蛍光細胞であるPERV産生ブタ細胞の割合は0%であった。
【0062】
セルソーターによる単離後に標的ヒト細胞を播種・培養したHEK-293T(GFP)細胞の蛍光顕微鏡写真を
図3に示す。
図3Aは、単離前のHEK-293T(GFP)細胞を含む共培養細胞の写真を示す図であり(蛍光細胞がHEK-293T(GFP)細胞、非蛍光細胞がPK15細胞)、
図3Bは単離後に培養したHEK-293T(GFP)細胞を明視野で撮影した写真であり、
図3Cは暗視野(蛍光)で撮影した写真である。
図3から明らかなように、単離前の共培養細胞ではHEK-293T(GFP)細胞と非蛍光細胞であるPK15細胞の混在が確認されたが、単離後に培養したHEK-293T(GFP)細胞には非蛍光細胞であるPERV産生ブタ細胞の存在は確認されなかった。
【0063】
以上のように、接触下での共培養後にセルソーターを用いて標的ヒト細胞を単離し、フローサイトメトリー解析及び蛍光顕微鏡観察によりPERV産生ブタ細胞の混入を確認したところ、フローサイトメトリー解析では、供した細胞の99.4%以上が標的ヒト細胞でPERV産生ブタ細胞の混入は確認されず、蛍光顕微鏡観察でも同様であった。
したがって、セルソーターを使用することで標的ヒト細胞を高純度に単離することができるため、PERV産生ブタ細胞にPERVの発現に影響を与え得るX線照射などの処理をすることなく、実際の移植時と同様に細胞同士を接触させた状態で共培養できることが示された。このことからセルソーターにより標的ヒト細胞の単離を行う新規のin vitro共培養系を確立することができたと言える。
【0064】
<2.2.ブタミトコンドリア検出>
ブタミトコンドリアstandardPCRの結果を
図4~7に示す。
図4は、実施例の接触下でPK15細胞(High copy細胞)とHEK-293T(GFP)細胞(High sensitive細胞)とを共培養した標的ヒト細胞のブタミトコンドリア standard PCRの結果(接触期間検討)を示す図であり、
図4Aは単離直後、
図4Bは単離後継代4回目の標的ヒト細胞の結果である。
図5は、実施例の接触下でPK15細胞(High copy細胞)とHEK-293T(GFP)細胞(High sensitive細胞)とを共培養した標的ヒト細胞のブタミトコンドリアstandard PCRの結果(接触比率検討)を示す図であり、
図5Aは単離直後、
図5Bは単離後継代4回目の標的ヒト細胞の結果である。
図4、5中、Rはrandom primerにより合成したcDNA、Oはoligo dT primerにより合成したcDNAを使ったPCR結果を示す。陽性対照(PC)はPK15細胞、陰性対照(NC)はHEK293T(GFP)細胞から抽出したRNAを用いたPCR結果を示す。
【0065】
図6は、実施例の接触下でPK15細胞(High copy細胞)とHUVEC細胞(Low sensitive細胞)とを共培養した標的ヒト細胞のブタミトコンドリアstandard PCRの結果を示す図であり、
図6Aは単離直後、
図6Bは単離後継代4回目の標的ヒト細胞の結果である。
図6中、Rはrandom primerにより合成したcDNA、Oはoligo dT primerにより合成したcDNAを使ったPCR結果を指す。陽性対照 (PC) はPK15細胞、陰性対照 (NC) はHUVEC細胞から抽出したRNAを用いたPCR結果を示す。
図7は、実施例の接触下でPBMC(Low copy細胞)とHEK-293T(GFP)細胞(High sensitive細胞)とを共培養した標的ヒト細胞のブタミトコンドリアstandard PCRの結果を示す図である。
図7中、Rはrandom primerにより合成したcDNA、Oはoligo dT primerにより合成したcDNAを使ったPCR結果を指す。陽性対照(PC)はPK15細胞、陰性対照(NC)はHEK293T(GFP)細胞から抽出したRNAを用いたPCR結果である。
【0066】
ブタミトコンドリア遺伝子は接触下での共培養では、標的ヒト細胞のPERVの感受性を問わず、PK15細胞(High copy細胞)と共培養後に単離した直後の標的ヒト細胞から検出されたが(
図4A、
図5A、
図6A)、単離後3~8回継代培養した標的ヒト細胞からは検出されなかった(
図4B、
図5B、
図6B)。PBMC(Low copy細胞)と共培養した標的ヒト細胞からはブタミトコンドリア遺伝子は検出されなかった(
図7)。
【0067】
以上のように、フローサイトメトリー解析及び顕微鏡観察下でPERV産生ブタ細胞の混入が確認できなかったにも関わらず、単離直後の標的ヒト細胞においてブタミトコンドリア遺伝子が検出された。本実施例でも標的ヒト細胞を単離後3~8回継代培養するとブタミトコンドリア遺伝子が検出されなくなったことから、接触下での共培養では、PK15細胞(High copy細胞)が死滅した際に放出したミトコンドリアが標的ヒト細胞であるHEK-293T(GFP)細胞及びHUVEC細胞に取り込まれたと考えられる。
なお、従来のPERV産生ブタ細胞へX線を照射する共培養系検査においても、PERV産生ブタ細胞が死滅したと考えられる共培養後にブタミトコンドリア遺伝子が検出され、数週間の継代培養後にはブタミトコンドリア遺伝子が検出されなくなったという、本実施例と同様の現象が報告されている。
【0068】
<2.3.PERV遺伝子の検出>
(2.3.1.共培養前のPERV産生ブタ細胞及び標的ヒト細胞)
PERV産生ブタ細胞のreal time-PCR(商標)の結果、及び、PERV産生ブタ細胞のPERV遺伝子発現量(PERVのコピー数)測定結果を下記表4に示す。
【表4】
++は2連とも陽性、+は1連のみ陽性、-は2連とも陰性をそれぞれ示す。
NT(Not Tested)は実験を実施しなかったもの、ND(Not Detected)は検出ができなかったものをそれぞれ示す。
【0069】
上記表4に示した測定結果から明らかなように、PK15細胞(High copy細胞)のPERVコピー数はPBMC(Low copy細胞)の105倍以上のコピー数であり、PK15細胞(High copy細胞)のPERV遺伝子発現量は2261.78copies/cell、PBMCのPERV遺伝子発現量は高くても0.03copies/cellであった。
【0070】
本実施例でLow copy細胞として用いた2種(mini及びhypo)の刺激あり及び無しのPBMCにおけるPERV遺伝子の発現量は0.02~0.03copies/cellであり、PK15細胞(High copy細胞)の発現量の1/100,000以下と、顕著に低かった。
このPBMC(Low copy細胞)と共培養し単離した標的ヒト細胞からはPERV遺伝子が検出されず、PERVコピー数測定の検出限界値から、これらの標的ヒト細胞のPERV遺伝子発現量は0.02copies/cell以下であると推定された。
【0071】
また、PERV産生ブタ細胞のpol standard PCRの結果を
図8に示す。
図8及び表4から明らかなように、PK15細胞(High copy細胞)からはstandardPCR、real time-PCR(商標)を問わず、4種全てのPERV遺伝子が検出された。
PBMC(Low copy細胞)はstandard PCRにおいて、random primerを用いて合成したmini s-PBMCのcDNAからgag遺伝子が、全てのPBMC(Low copy細胞)からpol遺伝子が検出され(
図8)、real time-PCR(商標)においては全てのPBMC(Low copy細胞)からpol、gag、envB遺伝子が検出された。
hypo n-PBMC及びhypo s-PBMCは、envA standard PCRで目的サイズ付近にバンドが確認されたが(図示せず)、
envA real time-PCRではenvA遺伝子は検出されなかった。以下の共培養試験のenvA standard PCRにおいても目的サイズ付近にバンドが確認されたが、NCでも同様のバンドが確認されたため、以下env A遺伝子の検出はenvA real time-PCRの結果を反映することとした。
標的ヒト細胞からはstandard PCR、real time PCR(商標)を問わず、4種全てのPERV遺伝子が検出されなかった(図表なし、ただし、
図9~16のNCとしてpol standard PCRの結果を示す)。
【0072】
以上に示した結果から、ブタの品種及び細胞の種類の違いよりはむしろPERV遺伝子の発現量、逆転写酵素活性等、すなわち放出される感染性を有したPERVのウイルス数こそがヒト細胞へのPERV感染の成立に重要と考えられ、これが少ないブタ細胞の場合、ヒト細胞にPERVを感染させるリスクは低くなる、または無くなると考えられる。なお、仮に検出限界の0.02copies/cell以下のPERVが標的ヒト細胞に感染していたとしても、後述のように、感染したヒト細胞から無感染のヒト細胞に感染する際にPERVコピー数は減弱するので(HEK293からHEK293の場合は1/2,000程度)、そこから新たに感染が波及する可能性は低いと考えられる。
【0073】
(2.3.2.実施例:接触下における共培養)
フローサイトメトリー解析及び顕微鏡観察において、PERV産生ブタ細胞の混入は確認されず、セルソーターにより高純度で標識ヒト細胞を単離できることが明らかになった。そのため、実施例として、X線照射などの処理を行わないPERV産生ブタ細胞を、標的ヒト細胞に接触させる共培養を行った。
実施例の接触下で共培養した標的ヒト細胞のPERV real time-PCRの結果、及び、上記標的ヒト細胞のPERV遺伝子発現量(PERVのコピー数)測定結果を下記表5に示す。
【表5】
【0074】
上記表5から明らかなように、1日~3週間の接触期間でPK15細胞(High copy細胞)とHEK-293T(GFP)細胞(High sensitive細胞)を共培養した標的ヒト細胞のPERVコピー数は1日が131.74、2日が38.27、3日が35.93、4日が176.09、1週間が128.66、2週間が354.32、3週間が334.63copies/cellであった。接触下で2、3週間共培養した標的ヒト細胞のPERV遺伝子発現量は、1日~1週間共培養した標的ヒト細胞の約2~10倍であった。
PK15細胞(High copy細胞)とHEK-293T(GFP)細胞(High sensitive細胞)との比率を9:1から1:9の範囲で共培養した標的ヒト細胞のPERVコピー数はそれぞれ、9:1が5.07、7:3が9.04、5:5が4.01、3:7が1.02、1:9が0.30copies/cellであった。接触下でPK15細胞(High copy細胞)とHEK-293T(GFP)細胞(High sensitive細胞)とを7:3で共培養した標的ヒト細胞のPERV遺伝子発現量は、1:9で共培養した標的ヒト細胞の約30倍であった。
PK15細胞(High copy細胞)とHUVEC細胞(Low sensitive細胞)とを共培養した標的ヒト細胞のPERVコピー数はHEK-293T(GFP)細胞(High sensitive細胞)と同様にPK15細胞(High copy細胞)の比率が高い方が高値であり、1:1で1.39copies/cell、2:1で16.93 copies/cellであった。
接触下でPBMC(Low copy細胞)とHEK-293T(GFP)細胞(High sensitive細胞)とを共培養した標的ヒト細胞からはPERV遺伝子は検出されなかったため、PERVコピー数測定の検出限界である21.98copies/real time-PCR reactionとRNA抽出に供試した細胞数から算出した値である0.02copies/cell以下とした。
【0075】
細胞同士の接触期間とPERV感染性への影響をみると、2週または3週間共培養した標的ヒト細胞のPERV遺伝子発現量は1日~1週間共培養した標的ヒト細胞の発現量よりも2~10倍高かったが、その一方、2日または3日間共培養した標的ヒト細胞の発現量は1日共培養した標的ヒト細胞の発現量の約1/3以下であった。
一方、1日の共培養でも標的ヒト細胞への感染が確認されたことから、PK15細胞(High copy細胞)からHEK293細胞(High sensitive細胞)へのPERV感染は24時間以内に起こり得るという重要な事実が明らかになった。
【0076】
上記表5から明らかなように、PERV産生ブタ細胞と標的ヒト細胞の接触比率とPERVの感染性の相関については、比較的明確といえる。
PK15細胞(High copy細胞)の比率が高い方が、感染した標的ヒト細胞が発現するPERVのコピー数が高く、9:1では5.07copies/cell、7:3では9.04copies/cellsであるのに対し、1:9では0.30copies/cellと約1/10以下であった。
したがって、ヒト細胞が接触するPERV産生ブタ細胞の割合が高ければ高いほど、標的ヒト細胞が感染するリスクや感染するPERVコピー数が高くなると考えられる。
【0077】
また、実施例の接触下で共培養した標的ヒト細胞のpol standard PCRの結果を
図9~12に示す。
図9は、実施例の接触下でPK15細胞(High copy細胞)とHEK-293T(GFP)細胞(High sensitive細胞)とを共培養した標的ヒト細胞のpol standard PCRの結果(接触期間検討)を示す図である。
図10は、実施例の接触下でPK15細胞(High copy細胞)とHEK-293T(GFP)細胞(High sensitive細胞)とを共培養した標的ヒト細胞のpol standard PCRの結果(接触比率検討)を示す図である。
図9、10、表5に示した結果から明らかなように、実施例の接触下でPK15細胞(High copy細胞)とHEK-293T(GFP)細胞(High sensitive細胞)とを共培養した全ての標的ヒト細胞からは、接触期間及び接触比率を問わず、standard PCR及びreal time PCR(商標)どちらでもpol、gag、envB遺伝子が検出された(ただし、gag、envB遺伝子については図示せず)。
【0078】
図11は、実施例の接触下でPK15細胞(High copy細胞)とHUVEC細胞(Low sensitive細胞)とを共培養した標的ヒト細胞のpol standard PCRの結果を示す図である。
図12は、実施例の接触下でPBMC(Low copy細胞)とHEK-293T(GFP)細胞(High sensitive細胞)とを共培養した標的ヒト細胞のpol standard PCRの結果を示す図である。
図11、表5に示した結果から明らかなように、実施例の接触下でPK15細胞(High copy細胞)とHUVEC細胞(Low sensitive細胞)とを共培養した全ての標的ヒト細胞からも、同様にpol、gag、envB遺伝子が検出された(ただし、gag、envB遺伝子については図示せず)。
一方、接触下でPBMC(Low copy細胞)とHEK-293T(GFP)細胞(High sensitive細胞)とを共培養した全ての標的ヒト細胞からは、standard PCR、real time PCR(商標)を問わず、4種全てのPERV遺伝子が検出されなかった(
図12、表5)。
【0079】
以上をまとめると、実施例の共培養系にて接触下でのPERVの感染性検査において、PK15細胞(High copy細胞)と共培養したHEK293細胞(High sensitive細胞)からは、接触期間及び接触比率を問わず、検討した全ての条件でpol、gag、envB遺伝子が検出された。
このことから、ブタ細胞試料をヒト細胞とを接触させる本発明の検査方法によれば、ウイルス感染性を精度よく検査することができるといえる。
【0080】
また、PERV感染を阻害するAPOBEC3Gタンパクを発現するHUVEC細胞(Low sensitive細胞)を用いて、PK15細胞(High copy細胞)との共培養を行い、標的ヒト細胞のPERV感受性とPERV感染性との相関を確認した。
表5から明らかなように、単離したHUVEC細胞からpol、gag、envB遺伝子が検出され、PERVへの感染が示された。
X線を照射したPK15細胞とHUVEC細胞及びヒトPBMCを接触下で共培養した際、PERVが感染したことが報告されており、これは本実施例の上記結果と合致する。
このことから、少なくともPK15細胞(High copy細胞)からのPERV感染は標的ヒト細胞のPERV感受性を問わず起こり得ることが確認された。
また、上記表5から明らかなように、PK15細胞(High copy細胞)とHUVEC細胞(Low sensitive細胞)を1:1、2:1で共培養した際の標的ヒト細胞のPERV遺伝子の発現量はそれぞれ1.39、16.93copies/cellとして検出された。
一方、HUVEC細胞(Low sensitive細胞)よりも、がん細胞であるHEK293細胞の方が、共培養開始時における上記ブタ細胞と、上記ヒト細胞との比率(例えば、細胞数の比率)の自由度が高く、上記比率の広い範囲で制御し易いといえる。
また、がん細胞であるHEK293細胞の方が、共培養時間を短縮し得るといえる。
【0081】
また、PBMC(Low copy細胞)とHEK293細胞(High sensitive細胞)の共培養を行った結果、PBMC(Low copy細胞)から標的ヒト細胞へのPERV感染は確認されなかった。これにより、PERV感染性に、より重要なのはPERV産生ブタ細胞側の発現量であることが確認された。
【0082】
(2.3.3.比較例:多孔質膜隔離下における共培養)
比較例の多孔質膜隔離下で共培養した標的ヒト細胞のPERV real time-PCRの結果、及び、多孔質膜隔離下で共培養した標的ヒト細胞のPERV遺伝子発現量(PERVのコピー数)の測定結果を下記表6に示す。
【表6】
【0083】
上記表6から明らかなように、比較例の多孔質膜隔離下でPK15細胞(High copy細胞)とHEK-293T(GFP)細胞(High sensitive細胞)を1~4日間共培養した標的ヒト細胞のPERVコピー数は0.02~0.10copies/cellであり、1~3週間共培養した標的ヒト細胞のコピー数は0.03~0.63copies/cellであった。
比較例の多孔質膜隔離下でPK15細胞(High copy細胞)とHEK-293T(GFP)細胞(High sensitive細胞)とを共培養した標的ヒト細胞のPERV遺伝子発現量は、これらの細胞を接触下で共培養した標的ヒト細胞の約1/200~1/1000の発現量であり、接触下で共培養する実施例の検査系よりも検査感度に劣るといえる。
PK15細胞(High copy細胞)とHUVEC細胞(Low sensitive細胞)を共培養した標的ヒト細胞のPERVコピー数は0.21copies/cellであった。
比較例の多孔質膜隔離下でPK15細胞(High copy細胞)とHUVEC細胞(Low sensitive細胞)とを共培養した標的ヒト細胞のPERV遺伝子発現量は、これらの細胞を接触下で共培養した標的ヒト細胞の約1/7の発現量であり、接触下で共培養する実施例の検査系よりも検査感度に劣るといえる。
比較例の多孔質膜隔離下でPBMC(Low copy細胞)とHEK-293T(GFP)細胞(High sensitive細胞)とを共培養した標的ヒト細胞からはPERV遺伝子は検出されなかったが、PERVコピー数測定の検出限界とRNA抽出に供試した細胞数から算出した値である0.03copies/cell以下とした。
【0084】
また、比較例の多孔質膜隔離下で共培養した標的ヒト細胞のpol standard PCRの結果を
図13~15に示す。
図13は、比較例の多孔質膜隔離下でPK15細胞(High copy細胞)とHEK-293T(GFP)細胞(High sensitive細胞)とを共培養した標的ヒト細胞のpol standard PCRの結果を示す図である。
図13から明らかなように、多孔質膜隔離下でPK15細胞(High copy細胞)とHEK-293T(GFP)細胞(High sensitive細胞)とを共培養したいくつかの標的ヒト細胞から、standard PCRによりpol遺伝子が検出された。
検出された標的ヒト細胞は、インサート上部にHEK-293T(GFP)細胞(High sensitive細胞)を、下部にPK15細胞(High copy細胞)を播種した1週間の共培養の2連で実施したうちの1つの標的ヒト細胞、インサート上部にPK15細胞(High copy細胞)を、下部にHEK-293T(GFP)細胞(High sensitive細胞)を播種した1週間の共培養の2連で実施した両方の標的ヒト細胞及び3週間の共培養の2連で実施したうちの1つの標的ヒト細胞である(
図13)。standard PCRでは、上記以外の標的ヒト細胞からはPERVの遺伝子は検出されなかったことから(
図13)、偽陰性が生じ得るといえる。
【0085】
一方、real time-PCRでは、インサート上部にHEK-293T(GFP)細胞(High sensitive細胞)を、下部にPK15細胞(High copy細胞)を播種した2日間、3週間の共培養、及びインサート上部にPK15細胞(High copy細胞)を、下部にHEK-293T(GFP)細胞(High sensitive細胞)を播種した2、3週間の共培養の2連で実施したうちの1つの標的ヒト細胞のoligo dT primerを用いて合成したcDNAからのみ、4種全てのPERVの遺伝子が検出されず、偽陰性が生じ得るといえる。
これらを除く全ての標的ヒト細胞からはPERVのいずれかの遺伝子が検出された(表6)。
【0086】
図14は、比較例の多孔質膜隔離下でPK15細胞(High copy細胞)とHUVEC細胞(Low sensitive細胞)とを共培養した標的ヒト細胞のpol standard PCRの結果を示す図である。
図14から明らかなように、比較例の多孔質膜隔離下におけるPK15細胞(High copy細胞)とHUVEC細胞(Low sensitive細胞)との共培養では、standard PCRにより、2連で実施したうちの1つの標的ヒト細胞のrandom primerを用いて合成したcDNAから、pol遺伝子が検出された。
上記表6から明らかなように、real time-PCRではstandard PCRでpol遺伝子が検出されたcDNAから4種全てのPERV遺伝子が検出され、同じ標的ヒト細胞のoligo dT primerを用いて合成したcDNAからもpol、gag、envB遺伝子が検出された。
一方、standard PCRではその他のPERV遺伝子は検出されず(
図14)、偽陰性が生じ得るといえる。
【0087】
図15は、比較例の多孔質膜隔離下でPBMC(Low copy細胞)とHEK-293T(GFP)細胞(High sensitive細胞)とを共培養した標的ヒト細胞のpol standard PCRの結果を示す図である。
図15及び表6から明らかなように、比較例の多孔質膜隔離下でPBMC(Low copy細胞)とHEK-293T(GFP)細胞(High sensitive細胞)を共培養した全ての標的ヒト細胞からは、standard PCR、real time PCRを問わず、4種全てのPERV遺伝子が検出されなかった。
【0088】
比較例の多孔質膜を使用してPERV産生ブタ細胞と標的ヒト細胞を隔離した共培養検査系では、標的ヒト細胞にPERV感染が成立した場合でも、同じ条件の実施例の接触下の共培養時よりも発現量が1/10以下であったことから、上述のように、偽陰性が生じるリスクがあり、比較例の多孔質膜を使用した検査系はウイルス検査の正確性に劣るといえる。
上記した通り、移植臓器はヒト細胞と接触し得る。そのため、細胞同士が接触しない多孔質膜を使った従来の比較例の共培養系では、移植時のPERVの感染性を正確に評価できない可能性が高い。
【0089】
(2.3.4.PERV陽性HEK-293T(GFP)細胞とHEK293細胞の共培養)
PERV陽性HEK-293T(GFP)細胞と共培養したHEK293細胞のPERV real time-PCR(商標)の結果、及び、PERV遺伝子発現量(PERVのコピー数)測定結果を下記表7に示す。
【表7】
【0090】
上記表7から明らかなように、PERV陽性HEK-293T(GFP)細胞とHEK293細胞を1:1で共培養した標的ヒト細胞のPERVコピー数は0.04copies/cellであり、PERV陽性HEK-293T(GFP)細胞とHEK293細胞を2:1で共培養した標的ヒト細胞のコピー数は0.03copies/cellであった。
PERV陽性HEK-293T(GFP)細胞のコピー数は63.67copies/cellであったため、この細胞と共培養した標的ヒト細胞のPERV遺伝子発現量は、PERV陽性HEK-293T(GFP)細胞の約1/2000の発現量であった。
【0091】
また、PERV陽性HEK-293T(GFP)細胞とHEK293細胞を共培養した標的ヒト細胞のPERV standard PCRの結果を
図16に示す。
図16中、Rはrandom primerにより合成したcDNA、Oはoligo dT primerにより合成したcDNAを使ったPCR結果を指す。陽性対照(PC)はPK15細胞、陰性対照(NC)はHEK293細胞から抽出したRNAを用いたPCR結果である。
この標的ヒト細胞からは、standard PCR、real time PCR(商標)を問わず、pol、gag、envB遺伝子が検出された(
図16)。
【0092】
以上のように、PERVが感染したヒト細胞から未感染のヒト細胞へのPERV感染について、PERV陽性HEK-293T(GFP)細胞とHEK293細胞の接触下でPERVの感染が起こり得ることが確認された。
しかしながら、PK15細胞からPERVが感染したHEK-293T(GFP)細胞のPERV発現量が63.67copies/cellであったのに対し、PERV陽性HEK-293T(GFP)細胞からHEK293細胞に感染したPERV発現量は0.03 copies/cellsと約1/2,000に減弱した。
なお、PERV産生ブタ細胞にX線を照射する共培養系においても本実施例と同様に、PERV陽性HEK293細胞からHEK293細胞へPERVが感染し、感染を経るごとにPERVの逆転写酵素活性や遺伝子発現量、すなわちPERVの感染性が低下していくことが報告されている(Garkavenko,O.,Wynyard,S.,Nathu,D.,Simond,D.,Muzina,M.,Muzina,Z.,...&Elliott,B.R.(2008).Porcine endogenous retrovirus(PERV) and its transmission characteristics:a study of the New Zealand designated pathogen-free herd.Cell transplantation,17(12),1381-1388.;及びPatience,C.,Takeuchi,Y.,& Weiss,R.A.(1997).Infection of human cells by an endogenous retrovirus of pigs.Nature medicine,3(3),282-286.)。
【0093】
<2.4.まとめ>
以上の実施例と比較例との比較結果から、ウイルス感染性検査について以下のことが言える。
(1)本発明のウイルス検査方法によれば、ブタ細胞とヒト細胞とが接触することにより、ヒト細胞へのウイルス感染性を検査することができる。
(2)本発明のウイルス検査方法によれば、PK15細胞のようなウイルス遺伝子の発現量が高いブタ細胞からヒト細胞へのウイルス感染性を共培養24時間以内に検査することができる。
(3)本発明のウイルス検査方法では、ヒト細胞に接触するウイルス産生ブタ細胞の割合が多ければ多いほど、ヒト細胞へのウイルス感染性の感度が向上し得る。
(4)ブタ細胞から放出される感染性を有するウイルス数が多ければ多いほど、ヒト細胞へのウイルス感染性が向上し、本発明のウイルス検査方法の検査感度が向上し得る。
(5)ウイルス感染はヒト細胞からヒト細胞へと起こり得るが、感染を経るごとにウイルス感染性は減弱する。
【0094】
上記(1)から、多孔質膜によりブタ細胞とヒト細胞を隔離する従来の検査系は、PERV感染性の評価に不適切であると言える。
したがって、評価対象であるブタ細胞にX線照射を含む処理を行わず、移植時の生体内と同様にブタ細胞とヒト細胞を接触させた状態で共培養することを可能とする新規in vitro共培養系は、ウイルス感染性の評価において最良の方法の一つとして提案できる。
【0095】
上記(4)から、異種移植のドナー候補であるブタ細胞に対するウイルス感染性の評価において、ブタ細胞に与える影響を明確に把握できないX線照射は実施しないことが好ましい。
例えば、実際に移植に使われる膵島細胞や腎臓の細胞に対する適切なX線照射量や時間は不明であり、X線照射がPERV発現に影響を与える可能性が高い。