(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129273
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】人工皮革およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
D06N 3/00 20060101AFI20240919BHJP
D06N 3/14 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
D06N3/00
D06N3/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038368
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山野 浩司
(72)【発明者】
【氏名】萩原 達也
(72)【発明者】
【氏名】大根田 俊
【テーマコード(参考)】
4F055
【Fターム(参考)】
4F055AA01
4F055AA11
4F055AA21
4F055BA02
4F055CA15
4F055DA07
4F055DA11
4F055EA11
4F055EA12
4F055EA24
4F055FA20
4F055GA03
4F055GA22
4F055HA11
(57)【要約】
【課題】人工皮革において、細かいメランジ効果を発現し、かつ優れた表面の触感と強力、耐摩耗性を有する人工皮革を提供すること。
【解決手段】不織布を構成要素として含む繊維絡合体と、高分子弾性体とを有する人工皮革であって、前記不織布は、単繊維直径が1.0μm以上8.0μm以下の極細繊維(A)と、単繊維直径が10.0μm以上50.0μm以下の繊維(B)とを含み、前記繊維(B)は少なくとも2種の熱可塑性樹脂で構成されてなり、前記人工皮革の少なくとも一方の表面は立毛を有する表面であって、前記人工皮革の断面における極細繊維(A)と繊維(B)とが面積比で(A)/(B)=30/70~70/30の範囲で混在する人工皮革。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布を構成要素として含む繊維絡合体と、高分子弾性体とを有する人工皮革であって、前記不織布は、単繊維直径が1.0μm以上8.0μm以下の極細繊維(A)と単繊維直径が10.0μm以上50.0μm以下の繊維(B)と、を含み、前記繊維(B)は少なくとも2種の熱可塑性樹脂で構成されてなり、前記人工皮革の少なくとも一方の表面は立毛を有する表面であって、前記人工皮革の断面における極細繊維(A)と繊維(B)とが面積比でA/B=30/70~70/30の範囲で混在する人工皮革。
【請求項2】
前記立毛を有する表面において、繊維(B)の面積被覆率が30%以上70%以下である、請求項1に記載の人工皮革。
【請求項3】
前記立毛を有する表面において、繊維(B)の面積被覆率のCV値が0%以上50%以下である、請求項1または2に記載の人工皮革。
【請求項4】
次の工程[1]~[6]を含む、人工皮革の製造方法。
[1]:3モル%以上15モル%以下である5-ナトリウムスルホイソフタル酸と数平均分子量が500以上3,500以下であるポリアルキレングリコールを共重合した共重合ポリエステルである海成分ポリマーと、島成分ポリマーからなる海島型複合繊維(A)と、3モル%以上15モル%以下である5-ナトリウムスルホイソフタル酸を、共重合した共重合ポリエステルである海成分ポリマーと、島成分ポリマーからなる海島型複合繊維(B)を紡糸する工程、
[2]:前記海島型複合繊維(A)と海島型複合繊維(B)とを質量比で(A)/(B)=30/70~70/30の割合で、混繊し延伸する工程、
[3]:前記海島型複合繊維(A)と海島型複合繊維(B)の混繊繊維で構成されてなる不織布を構成要素として含む海島型複合繊維絡合体を形成する工程、
[4]:単繊維直径が1.0μm以上8.0μm以下の極細繊維(A)と単繊維直径が10.0μm以上50.0μm以下の繊維(B)とを含む不織布を構成要素として含む繊維絡合体を形成する工程、
[5]:前記繊維絡合体に高分子弾性体を付与し、前記人工皮革の断面における極細繊維(A)と繊維(B)とが面積比でA/B=30/70~70/30の範囲で混在する 高分子弾性体付与シートを得る工程、
[6]:前記高分子弾性体付与シートの少なくとも一方の表面に対して起毛処理を行って表面に立毛を形成する工程。
【請求項5】
前記海島型複合繊維(A)の海成分ポリマーは前記ポリアルキレングリコールを0.1質量%以上15質量%以下共重合した共重合ポリエステルである、請求項4に記載の人工皮革の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細かいメランジ効果を発現し、かつ優れた表面の触感と強力、耐摩耗性を有する人工皮革及びその製法に関するものである。
【0002】
なお、本発明において、「メランジ効果」とは、2色以上の異色調の表面感(霜降り調、メランジ調等と呼ばれる)を伴う特別な視覚的効果を意味する。
【背景技術】
【0003】
主として極細繊維からなる不織布を構成要素として含むスエード調の人工皮革は、良好な外観品位を有することから、自動車内装材、家具、雑貨、衣料用途など幅広い分野で使用されている。
【0004】
その中でも、自動車内装材、家具、衣料用途などの分野では、高級感に加え、嗜好の多様性から、上記のようなメランジ効果を表現できるような人工皮革を有することが、素材バリエーションを増やすことになり、販売戦略上重要であることから、種々の技術が提案されてきた。
【0005】
例えば、特許文献1では、原着極細繊維及び非原着極細繊維からなる不織布と、該不織布に含浸された高分子弾性体からなる人工皮革で、原着極細繊維と非原着極細繊維のうち一方を極細繊維束とし、その重量比率を特定の範囲とした人工皮革が提案されている。そして、この文献では、この人工皮革が、シャープなメランジ効果と良好な表面の風合いを有することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されるような方法で得られる人工皮革は、極細繊維束からなる繊維ウェブと単繊維分散した極細繊維からなる繊維ウェブを積層した後に絡合処理し混繊するため、かなり丁寧に繊維全体を均一に混繊しないと、細かいメランジ効果を得られないことや、局所的な繊維の偏りが発生しやすく、人工皮革の強度や耐摩耗性にムラが生じてしまうことが課題である。
【0008】
そこで本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、細かいメランジ効果を発現し、かつ優れた表面の触感と強力、耐摩耗性を有する人工皮革を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため本発明は、次の構成を有する。すなわち、
(1)不織布を構成要素として含む繊維絡合体と、高分子弾性体とを有する人工皮革であって、前記不織布は、単繊維直径が1.0μm以上8.0μm以下の極細繊維(A)と、単繊維直径が10.0μm以上50.0μm以下の繊維(B)とを含み、前記繊維(B)は少なくとも2種の熱可塑性樹脂で構成されてなり、前記人工皮革の少なくとも一方の表面は立毛を有する表面であって、前記人工皮革の断面における極細繊維(A)と繊維(B)とが面積比で(A)/(B)=30/70~70/30の範囲で混在する人工皮革。
(2)前記立毛を有する表面において、繊維(B)の面積被覆率が30%以上70%以下である、(1)に記載の人工皮革。
(3)前記立毛を有する表面において、繊維(B)の面積被覆率のCV値が0%以上50%以下である、(1)または(2)に記載の人工皮革。
(4)次の工程[1]~[6]を含む、人工皮革の製造方法。
【0010】
[1]:3モル%以上15モル%以下である5-ナトリウムスルホイソフタル酸と数平均分子量が500以上3,500以下であるポリアルキレングリコールを共重合した共重合ポリエステルである海成分ポリマーと、島成分ポリマーからなる海島型複合繊維(A)と、3モル%以上15モル%以下である5-ナトリウムスルホイソフタル酸を、共重合した共重合ポリエステルである海成分ポリマーと、島成分ポリマーからなる海島型複合繊維(B)を紡糸する工程、
[2]:前記海島型複合繊維(A)と海島型複合繊維(B)とを質量比で(A)/(B)=30/70~70/30の範囲で、混繊し延伸する工程、
[3]:前記海島型複合繊維(A)と海島型複合繊維(B)の混繊繊維で構成されてなる不織布を構成要素として含む海島型複合繊維絡合体を形成する工程、
[4]:単繊維直径が1.0μm以上8.0μm以下の極細繊維(A)と単繊維直径が10.0μm以上50.0μm以下の繊維(B)とを含む不織布を構成要素として含む繊維絡合体を形成する工程、
[5]:前記繊維絡合体に高分子弾性体を付与し、前記人工皮革の断面における極細繊維(A)と繊維(B)とが面積比でA/B=30/70~70/30の範囲で混在する高分子弾性体付与シートを得る工程、
[6]:前記高分子弾性体付与シートの少なくとも一方の表面に対して起毛処理を行って表面に立毛を形成する工程。
(5)前記海島型複合繊維(A)の海成分ポリマーは前記ポリアルキレングリコールを0.1質量%以上15質量%以下共重合した共重合ポリエステルである、(4)に記載の人工皮革の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、細かいメランジ効果を発現し、かつ優れた表面の触感と強力、耐摩耗性を有する人工皮革を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の人工皮革にかかる立毛長の測定方法を説明するための断面概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の人工皮革は、不織布を構成要素として含む繊維絡合体と、高分子弾性体とを有する人工皮革であって、前記不織布は、単繊維直径が1.0μm以上8.0μm以下の極細繊維(A)と、単繊維直径が10.0μm以上50.0μm以下の繊維(B)とを含み、前記繊維(B)は少なくとも2種の熱可塑性樹脂で構成されてなり、前記人工皮革の少なくとも一方の表面は立毛を有する表面であって、前記人工皮革の断面における極細繊維(A)と繊維(B)とが面積比で(A)/(B)=30/70~70/30の範囲で混在する。以下に、その構成要素について詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下に説明する範囲に何ら限定されるものではない。
【0014】
[繊維絡合体]
まず、本発明の人工皮革は、不織布を構成要素として含む繊維絡合体を有する。このようにすることで、表面の立毛が均一で優美な外観を有する人工皮革とすることができる。
【0015】
この不織布としては、繊維長が概ね100mm以下の短繊維をカードやクロスラッパーを用いて積層繊維ウェブを形成させた後に、ニードルパンチやウォータージェットパンチを施すか、前記の短繊維に抄紙法を施して得られる短繊維不織布、スパンボンド法やメルトブロー法などから得られる長繊維不織布などが挙げられる。
【0016】
そして、この不織布は、単繊維直径が1.0μm以上8.0μm以下の極細繊維(A)と、単繊維直径が10.0μm以上50.0μm以下の繊維(B)と、を含む。この2種の繊維群を含むことによって、良好なメランジ効果を有しながらも、高強度を両立させた人工皮革とすることができる。
【0017】
まず、本発明の人工皮革に係る不織布は、単繊維直径が1.0μm以上8.0μm以下の極細繊維(A)を含む。極細繊維(A)の単繊維直径について、その範囲の下限が1.0μmに満たない場合には、耐光堅牢度および摩擦堅牢度に優れた人工皮革を得ることができない。一方、極細繊維(A)の単繊維直径について、その範囲の上限が8.0μmを超える場合には、緻密で表面触感の柔らかい人工皮革を得ることができない。極細繊維(A)の単繊維直径の好ましい下限は1.5μmであり、好ましい上限は5.0μmである。
【0018】
なお、本発明において、上記極細繊維(A)を含むことは、以下の方法によって判断するものとする。
(1)人工皮革の断面について、走査型電子顕微鏡(SEM:株式会社キーエンス製「VHX-D500/D510型」)写真を2,000倍にてランダムに10カ所撮影する。
(2)各画像について、円形または円形に近い楕円形の繊維をランダムに10本選び、単繊維直径を測定して、小数点以下第二位を四捨五入する。
(ただし、異型断面の繊維を採用した場合には、まず単繊維の断面積を測定し、当該断面を円形と見立てた場合の直径(円相当径)を算出することによって単繊維直径を求めるものとする。)
(3)全ての画像について単繊維直径を測定し、少なくとも1本、前記の極細繊維(A)の単繊維直径の範囲を満たす繊維があるならば、単繊維直径が前記の範囲の極細繊維(A)を含むとする。
【0019】
この極細繊維(A)は、熱可塑性樹脂で構成されてなることが好ましい。この熱可塑性樹脂とは、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、およびポリフェニレンスルフィド等のポリマーであることが好ましい。中でも、強度や寸法安定性、耐熱性の観点から、ポリエステルやポリアミドであることがより好ましい。このポリエステルの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポチトリメチレンテレフタレート、ポリ乳酸などを挙げることができる。また、ポリアミドの具体例としては、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド12などを挙げることができる。
【0020】
前記の極細繊維(A)に用いられる熱可塑性樹脂には、種々の目的に応じ、本発明の目的を阻害しない範囲で、酸化チタン等の無機粒子、潤滑剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、導電剤、蓄熱剤および抗菌剤等を添加することができる。
【0021】
そして、この極細繊維(A)は、繊維束を形成してなることが好ましい態様である。このようにすることで、人工皮革の強度と耐摩耗性が向上する。
【0022】
次に、本発明の人工皮革に係る不織布は、単繊維直径が10.0μm以上50.0μm以下の繊維(B)を含む。また、本発明において、前記の繊維(B)は、少なくとも2種の熱可塑性樹脂で構成されてなる。
【0023】
まず、繊維(B)の単繊維直径について、その範囲の下限が10.0μmに満たない場合には、引張強度に優れた人工皮革を得ることができない。一方、繊維(B)の単繊維直径について、その範囲の上限が50.0μmを超える場合には、表面触感の柔らかい人工皮革を得ることができない。繊維(B)の単繊維直径の好ましい下限は15.0μmであり、好ましい上限は30.0μmである。
【0024】
次に、この繊維(B)は、少なくとも2種の熱可塑性樹脂で構成されてなる。この熱可塑性樹脂のうち、少なくとも1種は、極細繊維(A)のそれと同様の熱可塑性樹脂であること、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、およびポリフェニレンスルフィド等のポリマーであることが好ましい。中でも、強度や寸法安定性、耐熱性の観点から、ポリエステルやポリアミドであることがより好ましい。このポリエステルの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポチトリメチレンテレフタレート、ポリ乳酸などを挙げることができる。また、ポリアミドの具体例としては、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド12などを挙げることができる。特に、繊維(B)に用いられる熱可塑性樹脂の少なくとも1種は極細繊維(A)に用いられる熱可塑性樹脂と同一の熱可塑性樹脂とすることもできる。そして、その場合、極細繊維(A)に用いられる熱可塑性樹脂と異なる熱可塑性樹脂は、ナトリウムスルホイソフタル酸やポリエチレングリコールなどを共重合した共重合ポリエステルであることが好ましい。もちろん、これらの樹脂は、繊維(B)に用いられる熱可塑性樹脂の少なくとも1種が極細繊維(A)に用いられる熱可塑性樹脂と異なる熱可塑性樹脂であったとしても、繊維(B)に用いられる熱可塑性樹脂の1種として、好ましく用いられる。
【0025】
本発明において、上記繊維(B)を含むことは、以下の方法によって判断するものとする。
(1)例えば、Sorvall社製ウルトラミクロトーム「MT6000型」などを用いて、人工皮革を断面方向から薄片化し、厚み0.40μmの超薄切片を5枚作製する。
(2)原子間力顕微鏡(AFM)を備えたナノスケール赤外分光分析装置(AFM-IR)Anasys Instruments社製「NanoIR1」を用い、(1)で作製した超薄切片から80μm四方の範囲でAFM像を取得し、AFM像内の繊維をランダムに10本選んで単繊維直径(μm)を測定し、小数点以下第二位を四捨五入する。異型断面の繊維の場合には、まず単繊維の断面積を測定し、当該断面を円形と見立てた場合の直径(円相当径)を算出することによって単繊維の直径を求めるものとする。
(3)上記測定を実施した繊維の中で繊維(B)の要件である単繊維直径の範囲を満たす繊維について、その繊維断面における複数成分の界面を境として、それぞれの成分のAFM-IRスペクトル測定を行う。複数成分の界面が確認できない場合は、その繊維は繊維(B)ではないとする。
(4)AFM-IRスペクトルから、繊維を構成する熱可塑性樹脂の成分を判別し、少なくとも2種の熱可塑性樹脂を検出したならば、その繊維が繊維(B)であるとする。例えば、一方の成分からポリエチレンテレフタレートに由来するIRスペクトルが得られ、他方の成分から共重合ポリエチレンテレフタレートに由来するIRスペクトルが得られたならば、ポリエチレンテレフタレートと共重合ポリエチレンテレフタレートの2種の熱可塑性樹脂で構成されてなると判別することができる。
(5)全ての超薄切片について(2)~(4)を行い、いずれかの超薄切片において、前記の繊維(B)の単繊維直径の範囲を満たし、かつ、少なくとも2種の熱可塑性樹脂からなる繊維が少なくとも1本あったならば、単繊維直径が前記の範囲であって、少なくとも2種類の熱可塑性樹脂で構成されてなる繊維(B)を含むとする。
【0026】
前記の繊維(B)に用いられる熱可塑性樹脂にも、種々の目的に応じ、本発明の目的を阻害しない範囲で、酸化チタン等の無機粒子、潤滑剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、導電剤、蓄熱剤および抗菌剤等を添加することができる。
【0027】
[高分子弾性体]
本発明の人工皮革を構成する高分子弾性体は、人工皮革を構成する繊維を把持するバインダーであるため、本発明の人工皮革の柔軟な触感を考慮すると、用いられる高分子弾性体としては、ポリウレタン、シリコーン、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)、エチレン-酢酸ビニル樹脂などのアクリル樹脂、ポリエステル系やポリアミド系およびポリオレフィン系などのエラストマー樹脂等が挙げられる。中でも、ポリウレタンを主成分として用いることが好ましい態様である。ポリウレタンを用いることにより、充実感のある触感、皮革様の外観および実使用に耐える強度を備えた人工皮革を得ることができる。なお、本発明でいう「主成分である」とは、高分子弾性体全体の質量に対してポリウレタンの質量が50質量%より多いことをいう。
【0028】
ポリウレタンとしては、ポリマージオールと、ジイソシアネートと、鎖伸長剤とを所定のモル比で反応させて得られたもの、あるいは、その変性物が挙げられる。そして、ポリマージオールとしては、例えば、平均分子量500以上3,000以下のポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリカーボネートジオール、あるいは、これらの混合物などが挙げられ、ジイソシアネートとしては、例えば、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族系のジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等の脂環族系のジイソシアネート、および、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族系のジイソシアネート、あるいは、これらの混合物などが挙げられ、鎖伸長剤としては、例えば、エチレングリコール、ブタンジオール、エチレンジアミンおよび4,4’-ジアミノジフェニルメタン等の2個以上の活性水素原子を有する低分子化合物、あるいはその混合物が挙げられる。
【0029】
本発明においてポリウレタンを用いる場合には、有機溶剤に溶解した状態で使用する有機溶剤系ポリウレタンと、水に分散した状態で使用する水分散型ポリウレタンのどちらも採用することができる。
【0030】
また、高分子弾性体には、種々の目的に応じて、本発明の目的を阻害しない範囲で、各種の添加剤、例えば、カーボンブラックなどの顔料、リン系難燃剤、ハロゲン系難燃剤および無機系難燃剤などの難燃剤、フェノール系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤およびリン系酸化防止剤などの酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤およびオキザリックアシッドアニリド系紫外線吸収剤などの紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤やベンゾエート系光安定剤などの光安定剤、ポリカルボジイミドなどの耐加水分解安定剤、可塑剤、帯電防止剤、界面活性剤、凝固調整剤、分散剤、柔軟剤、抗菌剤、防臭剤および染料などを含有させることができる。
【0031】
一般に、人工皮革における高分子弾性体の含有量は、使用する高分子弾性体の種類、高分子弾性体の製造方法および風合や強度を考慮して、適宜調整することができるが、本発明においては、高分子弾性体の含有量は、人工皮革の質量に対して15質量%以上50質量%以下とすることが好ましい。前記の高分子弾性体の含有量について、その範囲の下限が15質量%以上、より好ましくは20質量%以上であることで、繊維間の高分子弾性体による結合を強めることができ、人工皮革の耐摩耗性を向上させることができる。一方、前記の高分子弾性体の含有量について、その範囲の上限が50質量%以下、より好ましくは45質量%以下であることで、人工皮革の表面をより柔軟性の高いものとすることができる。
【0032】
[人工皮革]
本発明の人工皮革は、前記の繊維絡合体と、高分子弾性体とを有する人工皮革であって、その少なくとも一方の表面は立毛を有する表面であって、前記人工皮革の断面における極細繊維(A)と繊維(B)とが面積比でA/B=30/70~70/30の範囲で混在する。好ましくは、35/65~65/35であり、より好ましくは40/60~60/40である。極細繊維(A)と繊維(B)との面積比A/Bについて、その範囲の下限が30/70に満たない場合には、人工皮革のより細かいメランジ効果の発現と強度向上は達成できない。一方、極細繊維(A)と繊維(B)との面積比A/Bについて、その範囲の上限が70/30を超えない場合には、人工皮革のより細かいメランジ効果の発現とより柔軟な触感は達成できない。極細繊維(A)と繊維(B)との面積比A/Bの好ましい下限は35/65、より好ましい下限は40/60であり、好ましい上限は55/45、より好ましい上限は50/50である。
【0033】
なお、本発明において、人工皮革の断面における極細繊維(A)と繊維(B)の面積比A/Bは、以下の方法によって判断するものとする。
(1)例えば、Sorvall社製ウルトラミクロトーム「MT6000型」などを用いて、人工皮革を断面方向から薄片化し、厚み0.40μmの超薄切片を5枚作製する。
(2)走査型電子顕微鏡(SEM:株式会社キーエンス製「VHX-D500/D510型」)を用い、(1)で作製した超薄切片から80μm四方の範囲でAFM像を取得し、AFM像内の全ての繊維の単繊維直径(μm)を測定し、小数点以下第二位を四捨五入する。異型断面の繊維の場合には、まず単繊維の断面積を測定し、当該断面を円形と見立てた場合の直径(円相当径)を算出することによって単繊維の直径を求めるものとする。
(3)上記測定を実施した全ての繊維の中で極細繊維(A)の要件である単繊維直径の範囲を満たす繊維および、繊維(B)の要件である単繊維直径の範囲を満たす繊維について、その断面積を株式会社キーエンス製「VW―9000 Album」で測定し、その断面積の合計(μm2)をAFM像内の全ての繊維の断面積(μm2)で除して百分率とし、人工皮革断面における繊維(B)の極細繊維(A)と繊維(B)の面積比を算出する。
(4)すべての超薄切片について(2)~(3)を行い、5枚の面積比A/Bを算出する。
【0034】
また、人工皮革断面における極細繊維(A)と繊維(B)の面積比は、後述する海島型複合繊維を主構成成分とした繊維絡合体をアルカリ水溶液へ浸漬する際の含浸時間やアルカリ水溶液の温度、当該アルカリ水溶液に溶解させる溶質の濃度などを調整することによって、上記の範囲とすることができる。
【0035】
さらに、本発明の人工皮革は、前記の立毛を有する表面において、繊維(B)の面積被覆率(以降、単に面積被覆率と記載することがある)が30%以上70%以下であることが好ましい。面積被覆率の範囲について、その下限が好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上であることにより、人工皮革のより細かいメランジ効果の発現と耐摩耗性向上となる。一方、面積被覆率の範囲について、その範囲の上限が好ましくは70%以下、より好ましくは60%以下であることにより、より細かいメランジ効果の発現と柔らかい、表面品位に優れた人工皮革を得ることができる。
【0036】
なお、前記の面積被覆率は、以下の手順によって測定、算出される値のことを指す。なお、両側の表面が立毛を有する表面である場合には、どちらの表面も測定し、その算術平均値をその人工皮革についての面積被覆率とする。
(1)人工皮革の立毛を有する表面の走査型電子顕微鏡(SEM)株式会社キーエンス製「VHX-D500/D510型」による写真を800倍にてランダムに10カ所撮影する。
(2)各画像について、繊維(B)について、その表面積を測定し、合計(μm2)を画像の全ての面積(μm2)で除して百分率とし、人工皮革表面における繊維(B)の面積被覆率(%)を算出する。
(3)10枚の算術平均値を計算して、小数点第1位以下を四捨五入する。
【0037】
また、前記の面積被覆率は、前記海島型複合繊維を主構成成分とした繊維絡合体をアルカリ水溶液へ浸漬する際の含浸時間やアルカリ水溶液の温度、当該アルカリ水溶液に溶解させる溶質の濃度などを調整することによって、上記の範囲とすることができる。
【0038】
さらに、本発明の人工皮革は、前記の立毛を有する表面において、繊維(B)の面積被覆率のCV値が0%以上50%以下であることが好ましい。面積被覆率のCV値の範囲について、その上限が好ましくは50%以下、より好ましくは40%以下、さらに好ましくは30%以下であることにより、人工皮革のより細かいメランジ効果の発現となる。
【0039】
なお、前記の面積被覆率のCV値は、以下の方法によって測定、算出される、変動係数(Coefficient of Variation)のことを指す。
(1)前記の繊維(B)表面被覆率の算術方法の(3)において、その標準偏差(%)を求める。
(2)上記の標準偏差(%)を平均値(%)で割った値を百分率(%)で表し、その値の小数点以下第2位を四捨五入して、面積被覆率の変動係数を算出する。
【0040】
また、前記の繊維(B)の面積被覆率のCV値は、海島型複合繊維を主構成成分とした繊維絡合体での混繊具合を調整することによって、上記の範囲とすることができる。
【0041】
そして、本発明の人工皮革は、少なくとも一方の表面は立毛を有する表面である。立毛の形態は、意匠効果の観点から指でなぞったときに立毛の方向が変わることで跡が残る、いわゆるフィンガーマークが発する程度の立毛長と方向柔軟性を備えていることが好ましい。より具体的には、その表面の立毛の長さ(立毛長)は100μm以上400μm以下であることが好ましい。立毛長について、その範囲の下限が好ましくは100μm以上、より好ましくは150μm以上、さらに好ましくは200μm以上であることで、優美な外観品位を有する人工皮革とすることができる。一方、立毛長について、その範囲の上限が好ましくは400μm以下、より好ましくは350μm以下であることで、摩擦に対する耐久性の高い人工皮革とすることができる。
【0042】
なお、本発明において前記の立毛長は、以下の方法によって測定、算出される値のことを指す。
(1)立毛を有する表面について、リントブラシ等を用いてその立毛を逆立てる。
(2)立毛が逆立てられた状態で、人工皮革の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)株式会社キーエンス製「VHX-D500/D510型」を用い倍率120倍で2枚撮影する。
(3)
図1に例示するように、断面のうち、厚さ方向に配向する繊維のみからなる層を立毛部とし、厚さ方向に配向する繊維と人工皮革の面方向に配向する繊維との交点から、立毛の先端までの長さを立毛長(μm)として、それを10点測定する。
(4)全ての断面について(3)を繰り返し、前記の立毛長(μm)の算術平均値を算出し、小数点以下第1位で四捨五入する。
【0043】
また、本発明の人工皮革の目付は、100g/m2以上500g/m2以下であることが好ましい。目付について、その範囲の下限が好ましくは100g/m2以上、より好ましくは150g/m2以上であることにより、十分な形態安定性と寸法安定性が得られる。一方、目付について、その範囲の上限が好ましくは500g/m2以下、より好ましくは300g/m2以下であることにより、十分な柔軟性と触感が得られる。
【0044】
なお、本発明において前記の目付は、250mm×250mmの試験片を人工皮革からランダムに5枚採取し、JIS L 1913:2010「一般不織布試験方法」の「6.2 単位面積当たりの質量(ISO法)」に準じて測定し、算出した値を小数点以下第1位で四捨五入した値のことを指す。ここで、250mm×250mmの試験片を採取できない場合には、採取できる最大の正方形で試験片を採取し、その試験片の質量、寸法を測定して、単位面積当たりの質量(g/m2)を算出して得られる値とする。
【0045】
本発明の人工皮革は、その厚みが、0.1mm以上10.0mm以下であることが好ましい。厚さについて、その範囲の下限が好ましくは0.1mm以上、より好ましくは0.3mm以上であることにより、十分な形態安定性と寸法安定性が得られる。一方、厚さについて、その範囲の上限が好ましくは10.0mm以下、より好ましくは5.0mm以下であることにより、十分な柔軟性と触感が得られる。
【0046】
なお、本発明において前記の厚みは、50mm×50mmの試験片を人工皮革からランダムに5枚採取し、JIS L 1913:2010「一般不織布試験方法」の「6.1 厚さ(ISO法)」の「6.1.1 (A)法」に準じて、厚み測定器(例えば、株式会社尾崎製作所製ダイヤルシックネスゲージ「H20」など)を用いて測定し、算出した値を小数点以下第2位で四捨五入した値のことを指す。ここで、50mm×50mmの試験片を採取できない場合には、採取できる最大の正方形で試験片を採取し測定される値とする。
【0047】
本発明の人工皮革は、厚み調整等の目的で、織物や編物を貼り合わせることができる。例えば、織物の場合、平織、綾織および朱子織等が挙げられ、寸法安定性が良好なことから平織が好ましく用いられる。また、編物の場合は、丸編、トリコット編およびラッセル編等が挙げられる。このような織物や編物を構成する繊維の平均単繊維直径は、0.3μm~10μm程度であることが好ましい。
【0048】
本発明の人工皮革は、高強度を有し、優美な外観を併せ持つことから、家具、椅子および車両内装材から衣料用途まで幅広く用いることができるが、特に高い引張強度を有することから、車両内装材に好適に用いられる。
【0049】
[人工皮革の製造方法]
本発明の人工皮革の製造方法は、以下の工程の[1]~[6]を含む。
[1]:3モル%以上15モル%以下である5-ナトリウムスルホイソフタル酸と数平均分子量が500以上3,500以下であるポリアルキレングリコールを共重合した共重合ポリエステルである海成分ポリマーと、島成分ポリマーからなる海島型複合繊維(A)と、3モル%以上15モル%以下である5-ナトリウムスルホイソフタル酸を、共重合した共重合ポリエステルである海成分ポリマーと、島成分ポリマーからなる海島型複合繊維(B)を紡糸する工程(以下、工程[1])
[2]:前記海島型複合繊維(A)と海島型複合繊維(B)とを質量比でA/B=30/70~70/30の範囲で、混繊し延伸する工程(以下、工程[2])
[3]:前記海島型複合繊維(A)と海島型複合繊維(B)の混繊繊維で構成されてなる不織布を構成要素として含む海島型複合繊維絡合体を形成する工程(以下、工程[3])
[4]:単繊維直径が1.0μm以上8.0μm以下の極細繊維(A)と単繊維直径が10.0μm以上50.0μm以下の繊維(B)とを含む不織布を構成要素として含む繊維絡合体を形成する工程(以下、工程[4])
[5]:前記繊維絡合体に高分子弾性体を付与し、前記人工皮革の断面における極細繊維(A)と繊維(B)とが面積比でA/B=30/70~70/30の範囲で混在する高分子弾性体付与シートを得る工程(以下、工程[5])
[6]:前記の高分子弾性体付与シートの少なくとも一方の表面に対して起毛処理を行って表面に立毛を形成する工程(以下、工程[6])
以下に、各工程の詳細について説明する。
【0050】
<工程[1]>
本工程においては、アルカリ水溶液に対する溶解性が互いに異なる2種類以上の熱可塑性樹脂からなる海島型複合繊維を紡糸する。まず、3モル%以上15モル%以下である5-ナトリウムスルホイソフタル酸と数平均分子量が500以上3500以下であるポリアルキレングリコールを共重合した共重合ポリエステルである海成分ポリマーと、島成分ポリマーからなる海島型複合繊維(A)と、3モル%以上15モル%以下である5-ナトリウムスルホイソフタル酸を、共重合した共重合ポリエステルである海成分ポリマーと、島成分ポリマーからなる海島型複合繊維(B)を紡糸する。この海島型複合繊維(A)が、後の工程によって極細繊維(A)となり、海島型複合繊維(B)が、後の工程によって繊維(B)となる。
【0051】
海島型複合繊維(A)及び、海島型複合繊維(B)の海成分ポリマーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ナトリウムスルホイソフタル酸やポリエチレングリコールなどを共重合した共重合ポリエステル、およびポリ乳酸などを用いることができるが、製糸性やアルカリ易溶出性の観点から、共重合ポリエステルが好ましく用いられる。
【0052】
共重合ポリエステルとしては、5-ナトリウムスルホイソフタル酸を3モル%以上15モル%以下共重合してなる共重合ポリエステルを用いる。5-ナトリウムイソフタル酸成分の共重合量が3モル%に満たない場合には、十分なアルカリ溶出性が得られず、複合繊維に脆さを付与することができない。この場合、後述するポリアルキレングリコールを共重合することによっても、開繊および絡合処理した際に複合繊維を割れやすくする(海割れを発生させる)ことができない。また、5-ナトリウムスルホイソフタル酸成分の共重合量が15モル%以下を超えると、ポリエステルの増粘が抑えられず、複合繊維紡糸時の糸切れが発生しやすくなる。5-ナトリウムイソフタル酸成分の共重合量は、好ましくは7モル%以上13モル%以下の範囲である。
【0053】
また、前記海島型複合繊維(A)の海成分ポリマーである共重合ポリエステルは、数平均分子量が500以上3,500以下のポリアルキレングリコールが共重合されている。好ましくは1,000以上3,000以下の範囲である。ポリアルキレングリコールの数平均分子量が上記範囲を外れる場合には、海成分ポリマー中におけるポリアルキレングリコールの分散性に劣り、アルカリ溶出性が不良となる。また、複合繊維を開繊および絡合処理した際に複合繊維表面に海割れを数多く生じやすくすることができないため、繊維絡合体にアルカリ処理を施し極細繊維を発現させた際、海割れ部から島成分ポリマーが浸食されることが困難となり、極細繊維表面に細かい溝を発現することができない。
【0054】
前記海島型複合繊維(A)海成分ポリマーにおけるポリアルキレングリコールの共重合量は、0.1質量%以上15質量%以下の範囲が好ましく、より好ましくは1.5質量%以上10質量%以下である。ポリアルキレングリコールの共重合量を0.1質量%以上とすることにより、複合繊維を絡合処理した際に、複合繊維表面に海割れを生じやすくなる。また、ポリアルキレングリコールの共重合量を15質量%以下とすることにより、複合繊維紡糸時の糸切れが発生しにくいという効果を奏する。
【0055】
ポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールおよびポリブチレングリコール等が挙げられるが、使用の容易性やアルカリ水溶液への減量性等からポリエチレングリコールが好ましく用いられる。
【0056】
また、海島型複合繊維(A)及び、海島型複合繊維(B)を構成する海成分ポリマーとしては、一成分にエチレンテレフタレート単位を主とした繰り返し単位とするポリエチレンテレフタレート系ポリエステルを含んでいることが好ましく、テレフタル酸成分の一部を他の二官能性カルボン酸成分で置き換えたポリエステルであってもよい。また、海島型複合繊維(A)海成分ポリマーにおけるポリエチレングリコール成分の一部を他のポリオール成分で置き換えたポリエステルであってもよい。
【0057】
本発明で使用されるテレフタル酸以外の二官能性カルボン酸としては、例えば、イソフタル酸、ナフタリンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、および1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の芳香族、脂肪族、および脂環族の二官能性カルボン酸が好ましく用いられる。また、エチレングリコール以外のポリオール化合物としては、例えば、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、シクロヘキサン-1,4-ジメタノール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールS等の脂肪族、脂環族、および芳香族のポリオール化合物が好ましく用いられる。
【0058】
島成分ポリマーとしては、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィンおよびポリフェニレンスルフィド等を挙げることができる。ポリエステルやポリアミドに代表される重縮合系ポリマーは、融点が高いものが多く、例えば、人工皮革等とした場合に、良好な性能を示すことから、本発明で好ましく用いられる。ポリエステルの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートおよびポチトリメチレンテレフタレート等を挙げることができる。また、ポリアミドの具体例としては、ポリアミド6、ポリアミド66およびポリアミド12等を挙げることができる。
【0059】
海島型複合繊維の海成分ポリマーと島成分ポリマーの質量比は、20/80~80/20の範囲であることが好ましい。海成分ポリマーと島成分ポリマーの質量比を20/80以上とすることにより、海成分ポリマーの除去率を少なくすることができ、より生産性が向上する。また、海成分ポリマーと島成分ポリマーの質量比を80/20以下とすることにより、海成分ポリマーが除去された後の島成分ポリマー繊維、すなわち極細繊維の開繊性の向上、および島成分の合流を防止することができる。
【0060】
また、海島型複合繊維(A)及び、海島型複合繊維(B)を構成する海成分ポリマーと島成分ポリマーには、種々の目的に応じ、本発明の目的を阻害しない範囲で、酸化チタン粒子等の無機粒子、潤滑剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、導電剤、蓄熱剤および抗菌剤等を添加することができる。
【0061】
本発明の人工皮革の製造方法において、海島型複合繊維(A)及び、海島型複合繊維(B)の島部の強度が、2.5cN/dtex以上であることが好ましい。より好ましくは2.8cN/dtex以上であり、さらに好ましくは3.0cN/dtex以上である。島部の強度を2.5cN/dtex以上とすることで、人工皮革の耐摩耗性を向上させることができる。
【0062】
本発明において、海島型複合繊維(A)及び、海島型複合繊維(B)の島部の強度は以下の方法により算出されるものとする。
(1)長さ20cmの海島型複合繊維を10本束ねる。
(2)(1)の試料から易溶解性ポリマーを溶解除去したのちに、風乾する。
(3)JIS L 1013:2010「化学繊維フィラメント糸試験方法」の「8.5 引張強さ及び伸び率」の「8.5.1 標準時試験」にて、つかみ長さ5cm、引張速度5cm/分、荷重2Nの条件にて10回試験する(N=10)。
(4)(3)で得られた試験結果の算術平均値(cN/dtex)を小数点以下第二位で四捨五入して得られる値を、海島型複合繊維(A)及び、海島型複合繊維(B)を構成する島成分ポリマーの強度とする。
【0063】
海島型複合繊維(A)及び、海島型複合繊維(B)を紡糸する際の口金の吐出孔の孔径は、0.5mm以上1.0mm以下であることが好ましい。より好ましくは0.6mm以上0.8mm以下である。
【0064】
また、紡糸速度は500m/min以上2,000m/min以下であることが好ましい。より好ましくは1,000m/min以上1,500m/min以下である。
【0065】
口金の吐出孔の孔径および紡糸速度を前記範囲とすることで、紡糸時の糸切れを抑制することができ、また後述する海島型複合繊維(A)と海島型複合繊維(B)とを質量比率でA/B=30/70~70/30の範囲で混繊し延伸する工程において、延伸時の糸切れと繊度ムラを抑制することができる。
【0066】
<工程[2]>
本工程[2]においては、前記海島型複合繊維(A)と海島型複合繊維(B)とを質量比でA/B=30/70~70/30の範囲で、混繊し延伸する。
【0067】
延伸時に混繊することで、極細繊維(A)と繊維(B)とが人工皮革内で均一に分散された人工皮革を得ることができる。
【0068】
ここで、海島型複合繊維(A)と海島型複合繊維(B)とを混繊する方法としては、延伸する海島型複合繊維(A)と海島型複合繊維(B)との合計本数に対して、1%以上25%以下の本数となるような海島型複合繊維(A)の束、海島型複合繊維(B)の束を収束して形成した後、所定の質量比になるように海島型複合繊維束(A)と海島型複合繊維束(B)とをさらに収束して1つのサブトウとし、これを延伸することが好ましい。
【0069】
具体的には、以下の手順を例示することができる。
(i)複数本の海島型複合繊維(A)を1つの束に収束し、収束した繊維束をドラムに巻き付ける。
(ii)同様に複数の繊維束をドラムに巻き付ける。
(iii)海島型複合繊維(A)の複数の繊維束をドラムから送り出して、海島型複合繊維(A)のトウ缶αに収納する。
(iv)複数本の海島型複合繊維(B)を1つの束に収束し、収束した繊維束をドラムに巻き付ける。
(v)同様に複数の繊維束をドラムに巻き付ける。
(vi)海島型複合繊維(B)の複数の繊維束をドラムから送り出して海島型複合繊維(B)のトウ缶βに収納する。
(vii)海島型複合繊維(A)のトウ缶αと海島型複合繊維(B)のトウ缶βを質量比に合わせて並べた後、全ての繊維を1つの大きな束に収束してサブトウとした後にこれを送り出す。このときのトウ缶の配置の例を以下に示す。
<例1>
1列目:β/α/β/α/β/α/β/α/β/α
2列目:β/α/β/α/β/α/β/α/β/α
<例2>
1列目:β/β/α/β/β/α/β/β/α/β
2列目:β/β/α/β/β/α/β/β/α/β
<例3>
1列目:α/α/β/α/α/β/α/α/β/α
2列目:α/α/β/α/α/β/α/α/β/α
(viii)送り出されたサブトウを延伸する。なお、延伸には公知の方法を用いることができ、例えば、所定の雰囲気温度としたスチームボックス中で延伸することができる。
【0070】
ここで、海島型複合繊維(A)と海島型複合繊維(B)とを質量比で混繊する範囲としては、30/70~70/30であり、好ましくは35/65~65/35であり、より好ましくは40/60~60/40である。海島型複合繊維(A)と海島型複合繊維(B)の質量比について、その範囲の下限が30/70に満たない場合には、人工皮革のより細かいメランジ効果の発現と強度向上は達成できない。一方、海島型複合繊維(A)と海島型複合繊維(B)の質量比について、その範囲の上限が好ましくは70/30を超える場合には、人工皮革のより細かいメランジ効果の発現と柔軟な触感は達成できない。
【0071】
また、海島型複合繊維(A)と海島型複合繊維(B)を混繊し延伸加工した後に捲縮加工を施すことも好ましい。このようにすることで、繊維絡合体を形成する工程において、海島型複合繊維(A)と海島型複合繊維(B)の混繊繊維同士の絡合が効率的に進み、緻密な外観品位を有する人工皮革を得ることができる。なお、捲縮加工は、公知の方法を用いることができる。
【0072】
<工程[3]>
本工程[3]においては、前記の海島型複合繊維(A)と海島型複合繊維(B)の混繊繊維で構成されてなる不織布を構成要素として含む海島型複合繊維絡合体を形成する。この不織布の形態としては、前記のように、単繊維不織布であっても、長繊維不織布であってもよいが、前記のとおり、海島型複合繊維(A)と海島型複合繊維(B)の混繊繊維を繊維長が概ね100mm以下となるようにカット加工して短繊維を形成し、この短繊維をカードやクロスラッパーを用いて積層繊維ウェブを形成させた後に、ニードルパンチやウォータージェットパンチを施すか、前記の短繊維に抄紙法を施すかして得られる短繊維不織布がより好ましい。このように短繊維不織布とすることで、人工皮革の厚さ方向を向く繊維がより多くなり、立毛の緻密感を得ることができる。
【0073】
また、前記の海島型複合繊維絡合体は、この不織布のみとしてもよいし、前記の積層繊維ウェブに他の繊維基材を付与して、ニードルパンチやウォータージェットパンチを施すなどして絡合させたものとしてもよいが、海島型複合繊維(A)と海島型複合繊維(B)の混繊繊維で構成されてなる不織布が海島型複合繊維絡合体である態様がより好ましい。
【0074】
<工程[4]>
本工程[4]においては、前記の海島型複合繊維絡合体から、単繊維直径が1.0μm以上8.0μm以下の極細繊維(A)と、少なくとも2種の熱可塑性樹脂で構成されてなり、かつ、単繊維直径が10.0μm以上50.0μm以下の繊維(B)と、を発現させて、該極細繊維(A)と繊維(B)とを含む不織布を構成要素として含む繊維絡合体を形成する。前記の海島型複合繊維絡合体から、極細繊維(A)と繊維(B)とを発現させ、さらに、後工程を経て、人工皮革の断面における極細繊維(A)と繊維(B)とが面積比でA/B=30/70~70/30の範囲で混在させるには、前記の海島型複合繊維絡合体をアルカリ水溶液に特定の条件で浸漬することで達成することができる。
【0075】
極細繊維(A)と繊維(B)を発現させる方法は、海成分ポリマーがポリ乳酸や共重合ポリエステルであれば、海島型複合繊維からなる繊維絡合体をアルカリ水溶液中に浸漬させて、海島型複合繊維の海部を溶解除去することにより達成することができる。アルカリ水溶液としては、廃液処理を行う際、中和により生成する塩の処理をより容易に行うことができるため、水酸化ナトリウム水溶液が好ましく用いられる。例えば、水酸化ナトリウムの濃度を好ましくは1.0g/L~6.0g/L、より好ましくは2.0g/L~4.0g/Lとしたアルカリ水溶液に前記の海島型複合繊維絡合体を1分~3分浸漬させた後、引き上げてからスチーム雰囲気下において加熱する。このときのスチームの温度は90℃~100℃であることが好ましく、スチーム雰囲気下におく時間は好ましくは1分以上10分以下である。なお、このようにアルカリ水溶液を用いた場合には、スチーム雰囲気下において加熱した後、水洗してこのアルカリ水溶液とともに、分解した易溶解性ポリマーを除去することが好ましい。
【0076】
本工程[4]において、海島型複合繊維絡合体から、極細繊維(A)と繊維(B)とを発現させる前、または、後のいずれかで、極細繊維(A)や繊維(B)と、高分子弾性体とが密着することを阻害できる、熱水に可溶な阻害剤を付与することができる。この阻害剤を付与した後に高分子弾性体を付与することにより、繊維と高分子弾性体の密着性を下げることができ、柔軟な触感を達成することができ、好ましい。
【0077】
前記の阻害剤としては、繊維絡合体の補強効果が高く、水に溶出しにくいことから、ポリビニルアルコール(以下、PVAと略記することがある。)が好ましく用いられる。PVAの中でも、高分子弾性体として、水分散型ポリウレタンを付与する時に阻害剤が溶出しにくく、かつ、より極細繊維と高分子弾性体の密着を阻害できるという観点から、より水に難溶性である、高ケン化度のPVA(以下、単に高ケン化度PVAと略記することがある。)を適用することが、より好ましい態様である。なお、ここで言う「高ケン化度」とは、ケン化度が95%以上100%以下であることを指す。
【0078】
水分散型ポリウレタン液の付与時のPVA溶出をより抑制するためには、前記のようにケン化度が95%以上100%以下であるPVAを用いることが好ましく、すなわち、高ケン化度PVAを用いることが好ましく、ケン化度が98%以上100%以下であるPVAを用いることがより好ましい。
【0079】
PVAの重合度は、500以上3,500以下であることが好ましく、さらに好ましくは500以上2,000以下である。PVAの重合度を500以上にすることにより、水分散型ポリウレタン液の付与時のPVAの溶出を抑制することができる。また、PVAの重合度を3,500以下にすることにより、PVA溶液の粘度が高くなりすぎず、安定して繊維質基材にPVAを付与することができる。
【0080】
海島型複合繊維絡合体、あるいは、繊維絡合体へのPVAの付与量は、海島型複合繊維絡合体の繊維質量に対し、0.1質量%以上50質量%以下であり、好ましくは1質量%以上45質量%以下である。PVAの付与量を0.1量%以上とすることにより、柔軟性と触感の良好な人工皮革が得られ、PVAの付与質量を50質量%以下とすることにより、加工性が良く、耐摩耗性等の物理特性がより良好な人工皮革が得られる。
【0081】
<工程[5]>
本工程[5]においては、前記の繊維絡合体に高分子弾性体を付与し、前記人工皮革の断面における極細繊維(A)と繊維(B)とが面積比でA/B=30/70~70/30の範囲で混在する高分子弾性体付与シートを得る。高分子弾性体を繊維絡合体に含浸し固化する方法としては、高分子弾性体の溶液を繊維絡合体に含浸させた後、凝固浴中に浸漬させて固定する湿式凝固法、または、高分子弾性体の溶液を繊維絡合体に含浸させた後、その繊維絡合体に熱風を当てることで乾燥させて固定する乾式凝固法があり、付与する高分子弾性体の種類により適宜これらの方法を選択することができる。
【0082】
高分子弾性体としてポリウレタンを付与させる際に用いられる溶媒としては、N,N’-ジメチルホルムアミドやジメチルスルホキシド等が好ましく用いられる。また、ポリウレタンを水中にエマルジョンとして分散させた水分散型ポリウレタン液を用いてもよい。
【0083】
<工程[6]>
本工程[6]においては、前記の高分子弾性体付与シートの少なくとも一方の表面に対して起毛処理を行って表面に立毛を形成する。この工程によって得られるシートをそのまま人工皮革としてもよいし、得られた立毛シートに対してさらに後加工を施して人工皮革とすることも好ましい。なお、この際、生産効率を向上させる観点から、厚み方向に中央で分割して(半裁して)2枚の立毛シートとなるようにすることも好ましい態様である。
【0084】
立毛を形成する方法としては、サンドペーパーやロールサンダーなどを用いて、高分子弾性体付与シートの少なくとも一方の表面を研削する方法などにより施すことができる。もちろん、この立毛の形成は、高分子弾性体付与シートの片側表面のみに施しても、両面に施すこともできる。
【0085】
前記の立毛を形成する際には、その形成の前に、シリコーンエマルジョンなどの滑剤を高分子弾性体付与シートの表面へ付与することができる。また、立毛を形成する前に、帯電防止剤を付与することで、研削によって高分子弾性体付与シートから発生した研削粉が研削に使用するサンドペーパーなどの表面に堆積しにくくなる。
【0086】
<工程[7]>
さらに、前記の立毛シートに対し、工程[7]として、後加工を行うことも好ましい。
【0087】
後加工は具体的には、前記の立毛シートに対し、染色処理を施す。染色処理を施すことにより、極細繊維(A)と繊維(B)の染着性の差による色相、明度が異なる細かく均一なメランジ効果が発現できる。
【0088】
この染色処理としては、例えば、ジッガー染色機や液流染色機を用いた液流染色処理、連続染色機を用いたサーモゾル染色処理等の浸染処理、あるいはローラー捺染、スクリーン捺染、インクジェット方式捺染、昇華捺染および真空昇華捺染等による立毛面への捺染処理等を用いることができる。中でも、柔軟な触感が得られるとともに、品質や品位面の観点から液流染色機を用いることが好ましい。また、必要に応じて、染色後に各種の樹脂仕上げ加工を施すことができる。
【0089】
加えて、前記の立毛シート、あるいは、染色処理のなされた立毛シートに対して、所望の人工皮革の態様に応じてその表面に意匠性を施すこともできる。例えば、パーフォレーション等の穴開け加工、エンボス加工、レーザー加工、ピンソニック加工、およびプリント加工等の後加工処理を施すことができる。
【実施例0090】
次に、実施例を用いて本発明の人工皮革についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。ただし、各物性の測定において、特段の記載がないものは、前記の方法に基づいて測定を行ったものである。
【0091】
[測定方法]
(1)極細繊維(A)の単繊維直径(μm):
極細繊維(A)の単繊維直径の測定において、走査型電子顕微鏡(SEM)には、株式会社キーエンス製「VHX-D500/D510型」走査型電子顕微鏡を用い、前記の方法によって判断、あるいは、測定、算出した。
【0092】
(2)繊維(B)を含むことの判断(繊維(B)の成分分析)、繊維(B)の単繊維直径(μm):
繊維(B)を含むことの判断に係る、繊維(B)の成分分析、および、繊維(B)の単繊維直径の測定において、人工皮革の薄片化には、Sorvall社製ウルトラミクロトーム「MT6000型」を、原子間力顕微鏡(AFM)を備えたナノスケール赤外分光分析装置(AFM-IR)には、Anasys Instruments社製「NanoIR1」を用い、前記の方法によって分析、評価、あるいは、測定、算出した。
【0093】
(3)人工皮革の断面における極細繊維(A)と繊維(B)の面積比A/B:
人工皮革の断面における極細繊維(A)と繊維(B)の面積比A/Bについては、Sorvall社製ウルトラミクロトーム「MT6000型」を、走査型電子顕微鏡(SEM:株式会社キーエンス製「VHX-D500/D510型」)を、断面積の測定には株式会社キーエンス製「VW―9000 Album」を用い、前記の方法によって測定、算出した。
【0094】
(4)立毛を有する表面における、繊維(B)の面積被覆率(%)、面積被覆率のCV値:
立毛を有する表面における、繊維(B)の面積被覆率、面積被覆率のCV値の測定において、走査型電子顕微鏡(SEM)には、株式会社キーエンス製「VHX-D500/D510型」走査型電子顕微鏡を用い、前記の方法によって測定、算出した。
【0095】
(5)立毛長(μm):
立毛長の測定において、走査型電子顕微鏡(SEM)には、株式会社キーエンス製「VHX-D500/D510型」走査型電子顕微鏡を用い、前記の方法によって測定、算出した。
【0096】
(6)人工皮革の目付(g/m2)、厚み(mm)
人工皮革の目付は、前記の方法によって測定、算出した。また、人工皮革の厚みの測定には、株式会社尾崎製作所製ダイヤルシックネスゲージ「H20」を用い、前記の方法によって測定、算出した。
【0097】
(7)人工皮革の引張強度(N/cm):
引張試験機としてインストロン社製「型式:3343」を用い、JIS L 1913:2010「一般不織布試験方法」の「6.3.1 引張強さ及び伸び率(ISO法)」に準じて、人工皮革の立毛を寝かせた状態で、その立毛方向(立毛を寝かせたときに各立毛と平行な方向)、および、その立毛方向に対して人工皮革の面内で垂直な方向に各々2回測定し、計4点の数値の平均値(N/cm)を小数点以下第1位で四捨五入して、その人工皮革の引張強度とした。
【0098】
(8)人工皮革の耐摩耗性(mg):
摩耗試験器としてJames H. Heal & Co.社製「Model 406」を、標準摩擦布として同社の「Abrastive CLOTH SM25」を用いて前記の手順によって耐摩耗試験を行い、人工皮革の摩耗減量が5.0mg以下であった人工皮革を合格とした。
【0099】
(9)人工皮革のメランジ効果
人工皮革のメランジ効果の評価は被験者10人で目視による判定を行った。メランジ効果が強いと判断したものを2点、メランジ効果が弱いと判断したものを1点、メランジ効果が無いと判断したものを0点とし、各人に評価してもらいその総点から下記の基準に従い、表面品位を判定した。
【0100】
×:0~8点
△:9~14点
○:15~17点
◎:18~20点
(10)人工皮革の触感:
健康な成人男性と成人女性各10名ずつ、計20名を評価者として、官能評価によって、下記のように評価し、最も多かった評価を人工皮革の触感とした。なお、評価が同数となった場合は、より高い評価をその人工皮革の触感とすることとした。本発明において良好なレベルは、「AまたはB」である。
【0101】
A:柔軟で良好な触感である
B:わずかに柔軟で良好な触感である
C:わずかに強硬で不良な触感である
D:強硬で不良な触感である。
【0102】
[実施例1]
<工程[1]>
まず、島成分と海成分とからなる海島型複合繊維(A)と海島型複合繊維(B)を、以下の条件で溶融紡糸した。
【0103】
海島型複合繊維(A)
島成分:固有粘度(IV値)が0.73のポリエチレンテレフタレートA(PET)
海成分:5-スルホイソフタル酸ナトリウムを8モル%、および数平均分子量1,000のポリエチレングリコールを9質量%共重合した共重合PET
海島型複合繊維(B)
島成分:固有粘度(IV値)が0.73のポリエチレンテレフタレートA(PET)
海成分:5-スルホイソフタル酸ナトリウムを8モル%共重合した共重合PET
口金:島数が16島/ホール、ホール数が156ホール、吐出孔の孔径が0.7mmの海島型複合繊維用口金
紡糸温度:285℃
吐出量:1.2g/(分・ホール)
島成分/海成分の質量比:80/20
紡糸速度:1,100m/分
<工程[2]>
前記のとおりにして得られた海島型複合繊維(A)624本分を1つの束に収束し、収束した繊維束をドラムに巻き付けた。同様に7束をドラムに巻き付け、海島型複合繊維(A)4,992本(=624本×8束)をドラムから送り出してトウ缶αに収納した。さらに海島型複合繊維(B)624本分を1つの束に収束し、収束した繊維束をドラムに巻き付けた。同様に7束をドラムに巻き付け、海島型複合繊維(B)4,992本(=624本×8束)をトウ缶βに収納した。その後、海島型複合繊維(A)のトウ缶α10缶と海島型複合繊維(B)のトウ缶β10缶とを、以下のとおりに10缶ずつの2列に、トウ缶αとトウ缶βとを交互に並べた後、全ての繊維を1つの大きな束に収束してサブトウとした後、これを送り出した。
1列目:β/α/β/α/β/α/β/α/β/α
2列目:β/α/β/α/β/α/β/α/β/α
そして、150℃としたスチームボックス中で海島型複合繊維(A)と海島型複合繊維(B)の混繊繊維を2.7倍に延伸した。
【0104】
<工程[3]>
前記のとおりにして得られた延伸後の海島型複合繊維(A)と海島型複合繊維(B)の混繊繊維を51mmの長さにカットし、単繊維直径が19.7μmの海島型複合繊維(A)と海島型複合繊維(B)の混繊繊維原綿を形成した。
【0105】
そして、前記のようにして得られた海島型複合繊維(A)と海島型複合繊維(B)の混繊繊維原綿を用いて、カードおよびクロスラッパーを用いて積層繊維ウェブ(不織布)を形成し、ニードルパンチを施して海島型複合繊維絡合体を得た。
【0106】
<工程[4]>
前記のとおりにして得られた海島型複合繊維絡合体を、96℃に加熱した水で収縮処理した。
【0107】
その後、濃度3.0g/Lの水酸化ナトリウム水溶液に2分浸漬させた後、引き上げてから95℃のスチーム雰囲気下に1.5分間おくことで加熱した。その後、水洗して120℃で5分間乾燥することで、海島型複合繊維の海成分を部分的に除去し、単繊維直径が1.0μm以上8.0μm以下の極細繊維(A)と単繊維直径が10.0μm以上50.0μm以下の繊維(B)とを含む不織布を構成要素として含む繊維絡合体を形成させた。
【0108】
<工程[5]>
前記のとおりにして得られた繊維絡合体に、ポリカーボネート系水分散型ポリウレタン(ポリカーボネートジオールに平均分子量2,000のポリヘキサメチレンカーボネートジオール、イソシアネートにジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、鎖伸長剤にエチレンジアミンを適用)を主成分とする固形分の濃度が20質量%となるように調製した、水分散型ポリウレタン液に浸漬させ、温度120℃の熱風を10分間当てることで乾燥させ、続いて、温度150℃の熱風を2分間当てることで乾燥させて、乾式凝固法により高分子弾性体を固定することで、人工皮革に占めるポリウレタンの含有量が30質量%である高分子弾性体付与シートを得た。
【0109】
<工程[6]>
前記のとおりにして得られた高分子弾性体付与シートを、厚み方向にちょうど中央で分割して(半裁して)2枚のシートとなるようにした。その半裁されてできた表面(半裁面)とは反対側の表面(非半裁面)に対して、サンドペーパー番手が240番のエンドレスサンドペーパーで起毛処理を行い、厚み0.8mmの立毛シートを得た。
【0110】
<工程[7]>
前記のとおりにして得られた立毛シートを、液流染色機を用いて染色した。その後、100℃で7分間、乾燥処理を行って人工皮革を得た。得られた人工皮革は細かいメランジ効果を発現し、かつ優れた触感と強力、耐摩耗性を有していた。結果を表1に示す。
【0111】
[実施例2]
実施例1の工程[1]において、島数が16島/ホール、吐出孔の孔径が0.7mmの海島型複合繊維用口金を用いていたところ、島数が32島/ホール、吐出孔の孔径が0.7mmの海島型複合繊維用口金に変えたこと以外は、実施例1と同様にして人工皮革を得た。結果を表1に示す。
【0112】
[実施例3]
実施例1の工程[1]において、島数が16島/ホール、吐出孔の孔径が0.7mmの海島型複合繊維用口金を用いていたところ、口金の島数が8島/ホール、吐出孔の孔径が0.7mmの海島型複合繊維用口金に変えたこと以外は、実施例1と同様にして人工皮革を得た。結果を表1に示す。
【0113】
[実施例4]
実施例1の工程[4]において、海島型複合繊維絡合体をスチーム雰囲気下においた時間が1.5分間であったところ、3.0分間に変えたこと以外は、実施例1と同様にして人工皮革を得た。結果を表1に示す。
【0114】
[実施例5]
実施例1の工程[4]において、海島型複合繊維絡合体を濃度3.0g/Lの水酸化ナトリウム水溶液と、スチーム雰囲気下においた時間が1.5分間であったところ、水酸化ナトリウム水溶液濃度を1.0g/Lに、スチーム雰囲気下においた時間を1.0分間に変えたこと以外は、実施例1と同様にして人工皮革を得た。結果を表1に示す。
【0115】
【0116】
[実施例6]
実施例1の工程[4]において、海島型複合繊維絡合体から、極細繊維(A)と繊維(B)とを発現させる前に、濃度が5質量%となるように調製した、鹸化度98%、重合度550のポリビニルアルコール(PVA)水溶液を、海島型複合繊維繊維絡合体に含浸させ、さらにこれをロールで絞り、温度140℃の熱風で10分間加熱乾燥後、160℃の温度で5分間加熱処理を行い、不織布の質量に対するPVA質量の割合が8質量%となるようにしたPVA付シートを得たこと以外は、実施例4と同様にして人工皮革を得た。結果を表2に示す。
【0117】
[実施例7]
実施例1の工程[1]において、吐出量が1.2g/(分・ホール)、島成分/海成分の質量比が80/20であったところ、吐出量を2.4g/(分・ホール)に、島成分/海成分の質量比を40/60に変えた。さらに、実施例1の工程[2]を以下のとおりに変えたこと以外は、実施例1と同様にして人工皮革を得た。結果を表2に示す。
【0118】
<工程[2]>
前記工程[1]のとおりにして得られた海島型複合繊維(A)624本分を1つの束に収束し、収束した繊維束をドラムに巻き付けた。同様に3束をドラムに巻き付け、海島型複合繊維(A)2,496本(=624本×4束)をドラムから送り出してトウ缶αに収納した。さらに、海島型複合繊維(B)624本分を1つの束に収束し、収束した繊維束をドラムに巻き付けた。同様に3束をドラムに巻き付け、海島型複合繊維(B)2,496本(=624本×4束)をトウ缶βに収納した。その後、海島型複合繊維(A)のトウ缶α10缶と海島型複合繊維(B)のトウ缶β10缶とを、以下のとおりに10缶ずつの2列に、トウ缶αとトウ缶βとを交互に並べた後、全ての繊維を1つの大きな束に収束してサブトウとした後、これを送り出した。そして、150℃としたスチームボックス中で前記のサブトウ(海島型複合繊維(A)と海島型複合繊維(B)の混繊繊維)を2.7倍に延伸した。
1列目:β/α/β/α/β/α/β/α/β/α
2列目:β/α/β/α/β/α/β/α/β/α
[実施例8]
実施例1の工程[4]において、海島型複合繊維絡合体を濃度3.0g/Lの水酸化ナトリウム水溶液であったところ、濃度6.0g/Lの水酸化ナトリウム水溶液に変えたこと以外は、実施例1と同様にして人工皮革を得た。結果を表2に示す。
【0119】
[実施例9]
実施例6の工程[4]において、PVA濃度が5質量%となるように調製し、不織布の質量に対するPVA質量の割合が8質量%であったところ、PVA濃度が20質量%となるように調製し、不織布の質量に対するPVA質量を48質量%に変えたこと以外は、実施例6と同様にして人工皮革を得た。結果を表2に示す。
【0120】
[実施例10]
実施例1の工程[6]において、半裁されてできた表面(半裁面)とは反対側の表面(非半裁面)に対して起毛処理を行っていたところ、半裁されてできた表面(半裁面)に対して起毛処理を行うように変えたこと以外は、実施例1と同様にして人工皮革を得た。結果を表2に示す。
【0121】
【0122】
[実施例11]
実施例1の工程[2]において、海島型複合繊維(A)と海島型複合繊維(B)とを質量比でA/B=50/50の範囲で混繊を行っていたところ、A/B=30/70の割合で混繊を行うため、実施例1の工程[2]を以下のとおりに変えたこと以外は、実施例1と同様にして人工皮革を得た。結果を表3に示す。
【0123】
<工程[2]>
前記実施例1の工程[1]のとおりにして得られた海島型複合繊維(A)624本分を1つの束に収束し、収束した繊維束をドラムに巻き付けた。同様に7束をドラムに巻き付け、海島型複合繊維(A)4,992本(=624本×8束)をドラムから送り出してトウ缶αに収納した。さらに、海島型複合繊維(B)624本分を1つの束に収束し、収束した繊維束をドラムに巻き付けた。同様に7束をドラムに巻き付け、海島型複合繊維(B)4,992本(=624本×8束)をトウ缶βに収納した。その後、海島型複合繊維(A)のトウ缶α6缶と海島型複合繊維(B)のトウ缶β14缶を、以下のとおりに10缶ずつの2列に、トウ缶αとトウ缶βとを並べた後、全ての繊維を1つの大きな束に収束してサブトウとした後、これを送り出した。そして、150℃としたスチームボックス中で前記のサブトウ(海島型複合繊維(A)と海島型複合繊維(B)の混繊繊維)を2.7倍に延伸した。
1列目:β/β/α/β/β/α/β/β/α/β
2列目:β/β/α/β/β/α/β/β/α/β
[実施例12]
実施例1の工程[2]において、海島型複合繊維(A)と海島型複合繊維(B)とを重量比でA/B=50/50の範囲で混繊を行っていたところ、A/B=70/30の割合で混繊を行うため、実施例1の工程[2]を以下のとおりに変えたこと以外は、実施例1と同様にして人工皮革を得た。結果を表3に示す。
【0124】
<工程[2]>
前記実施例1の工程[1]のとおりにして得られた海島型複合繊維(A)624本分を1つの束に収束し、収束した繊維束をドラムに巻き付けた。同様に7束をドラムに巻き付け、海島型複合繊維(A)4,992本(=624本×8束)をドラムから送り出してトウ缶αに収納した。さらに、海島型複合繊維(B)624本分を1つの束に収束し、収束した繊維束をドラムに巻き付けた。同様に7束をドラムに巻き付け、海島型複合繊維(B)4,992本(=624本×8束)をトウ缶βに収納した。その後、海島型複合繊維(A)のトウ缶α14缶と海島型複合繊維(B)のトウ缶β6缶を、以下のとおりに10缶ずつの2列に、トウ缶αとトウ缶βとを並べた後、全ての繊維を1つの大きな束に収束してサブトウとした後、これを送り出した。そして、150℃としたスチームボックス中で前記のサブトウ(海島型複合繊維(A)と海島型複合繊維(B)の混繊繊維)を2.7倍に延伸した。
1列目:α/α/β/α/α/β/α/α/β/α
2列目:α/α/β/α/α/β/α/α/β/α
[実施例13]
実施例1の工程[1]において、海島型複合繊維(A)の海成分ポリマーにポリエチレングリコールを9質量%で共重合を行っていたところ、0.1質量%で共重合を行うように変えたこと以外は、実施例1と同様にして人工皮革を得た。結果を表3に示す。
【0125】
[実施例14]
実施例1の工程[1]において、海島型複合繊維(A)の海成分にポリエチレングリコールを9質量%で共重合を行っていたところ、15質量%で共重合を行うように変えたこと以外は、実施例1と同様にして人工皮革を得た。結果を表3に示す。
【0126】
【0127】
[比較例1]
実施例1の工程[1]において、島数が16島/ホール、吐出孔の孔径が0.7mmの海島型複合繊維用口金を用いていたところ、口金の島数が64島/ホール、吐出孔の孔径が0.7mmの海島型複合繊維用口金に変えたこと以外は、実施例1と同様にして人工皮革を得た。結果を表4に示す。極細繊維(A)の単繊維直径を小さくした場合、繊維絡合体の強力が低くなることから、得られる人工皮革は引張強度に劣るものとなった。
【0128】
[比較例2]
実施例1の工程[1]において、島数が16島/ホール、吐出孔の孔径が0.7mmの海島型複合繊維用口金を用いており、延伸倍率が2.7倍であったところ、口金の島数が8島/ホール、吐出孔の孔径が0.7mmの海島型複合繊維用口金を用いて、延伸倍率を2.5倍に変えたこと以外は、実施例1と同様にして人工皮革を得た。結果を表4に示す。極細繊維(A)の単繊維直径を大きくした場合、表面を被覆する繊維の単繊維直径が大きくなるため、得られる人工皮革は触感に劣るものとなった。
【0129】
[比較例3]
実施例1の工程[1]において、吐出量が1.2g/(分・ホール)、島成分/海成分の質量比が80/20であったところ、吐出量を1.0g/(分・ホール)に、島成分/海成分の質量比を95/5に変えた。さらに、実施例1の工程[2]を以下のとおりに変えたこと以外は、実施例1と同様にして人工皮革を得た。結果を表4に示す。繊維(B)の単繊維直径を小さくした場合、断面における面積比が低くなることから、得られる人工皮革は引張強度に劣り、さらには繊維(B)の表面の面積被覆率が低くなることから、メランジ効果に劣るものとなった。
【0130】
<工程[2]>
前記工程[1]のとおりにして得られた海島型複合繊維(A)624本分を1つの束に収束し、収束した繊維束をドラムに巻き付けた。同様に8束をドラムに巻き付け、海島型複合繊維(A)5,616本(=624本×9束)をドラムから送り出してトウ缶αに収納した。さらに、海島型複合繊維(B)624本分を1つの束に収束し、収束した繊維束をドラムに巻き付けた。同様に8束をドラムに巻き付け、海島型複合繊維(B)5,616本(=624本×9束)をトウ缶βに収納した。その後、海島型複合繊維(A)のトウ缶α10缶と海島型複合繊維(B)のトウ缶β10缶とを、以下のとおりに10缶ずつの2列に、トウ缶αとトウ缶βとを交互に並べた後、全ての繊維を1つの大きな束に収束してサブトウとした後、これを送り出した。そして、150℃としたスチームボックス中で前記のサブトウ(海島型複合繊維(A)と海島型複合繊維(B)の混繊繊維)を2.7倍に延伸した。
1列目:β/α/β/α/β/α/β/α/β/α
2列目:β/α/β/α/β/α/β/α/β/α
[比較例4]
実施例1の工程[1]において、吐出量が1.2g/(分・ホール)、島成分/海成分の質量比が80/20であったところ、吐出量を3.0g/(分・ホール)に、島成分/海成分の質量比を30/70に変えた。さらに、実施例1の工程[2]を以下のとおりに変えたこと以外は、実施例1と同様にして人工皮革を得た。結果を表4に示す。繊維(B)の単繊維直径を大きくした場合、表面を被覆する繊維の単繊維直径が大きくなるため、得られる人工皮革は触感に劣るものとなった。
【0131】
<工程[2]>
前記工程[1]のとおりにして得られた海島型複合繊維(A)624本分を1つの束に収束し、収束した繊維束をドラムに巻き付けた。同様に2束をドラムに巻き付け、海島型複合繊維(A)1,872本(=624本×3束)をドラムから送り出してトウ缶αに収納した。さらに、海島型複合繊維(B)624本分を1つの束に収束し、収束した繊維束をドラムに巻き付けた。同様に2束をドラムに巻き付け、海島型複合繊維(B)1,872本(=624本×3束)をトウ缶βに収納した。その後、海島型複合繊維(A)のトウ缶α10缶と海島型複合繊維(B)のトウ缶β10缶とを、以下のとおりに10缶ずつの2列に、トウ缶αとトウ缶βとを交互に並べた後、全ての繊維を1つの大きな束に収束してサブトウとした後、これを送り出した。そして、150℃としたスチームボックス中で前記のサブトウ(海島型複合繊維(A)と海島型複合繊維(B)の混繊繊維)を2.7倍に延伸した。
1列目:β/α/β/α/β/α/β/α/β/α
2列目:β/α/β/α/β/α/β/α/β/α
【0132】
【0133】
[比較例5]
実施例1の工程[4]において、海島型複合繊維絡合体を濃度3.0g/Lの水酸化ナトリウム水溶液と、スチーム雰囲気下においた時間が1.5分間であったところ、濃度8.0g/Lの水酸化ナトリウム水溶液と、スチーム雰囲気下においた時間3.0分間に変えたこと以外は、実施例1と同様にして人工皮革を得た。結果を表5に示す。繊維(B)が存在しない場合、得られる人工皮革はメランジ効果が発現せず、さらには耐摩耗性も劣るものとなった。
【0134】
[比較例6]
実施例1の工程[1]において、海島型複合繊維(A)の海成分ポリマーにポリエチレングリコールを9質量%で共重合を行っていたところ、ポリエチレングリコールを共重合しないこと以外は、実施例1と同様にして人工皮革を得た。結果を表5に示す。極細繊維(A)が存在しない場合、得られる人工皮革はメランジ効果が発現しないものとなった。
【0135】
[比較例7]
実施例1の工程[2]において、海島型複合繊維(A)と海島型複合繊維(B)とを質量比でA/B=50/50の範囲で混繊を行っていたところ、A/B=20/80の範囲で混繊を行うため、実施例1の工程[2]を以下のとおりに変えたこと以外は、実施例1と同様にして人工皮革を得た。結果を表5に示す。海島型複合繊維(B)の質量比率を大きくした場合、繊維(B)の表面の面積被覆率が高くなることから、メランジ効果に劣り、さらには表面を被覆する繊維の単繊維直径が大きくなるため、得られる人工皮革は触感に劣るものとなった。
【0136】
<工程[2]>
前記実施例1の工程[1]のとおりにして得られた海島型複合繊維(A)624本分を1つの束に収束し、収束した繊維束をドラムに巻き付けた。同様に7束をドラムに巻き付け、海島型複合繊維(A)4,992本(=624本×8束)をドラムから送り出してトウ缶αに収納した。さらに、海島型複合繊維(B)624本分を1つの束に収束し、収束した繊維束をドラムに巻き付けた。同様に7束をドラムに巻き付け、海島型複合繊維(B)4,992本(=624本×8束)をトウ缶βに収納した。その後、海島型複合繊維(A)のトウ缶α4缶と海島型複合繊維(B)のトウ缶β16缶を、以下のとおりに10缶ずつの2列に、トウ缶αとトウ缶βとを並べた後、全ての繊維を1つの大きな束に収束してサブトウとした後、これを送り出した。そして、150℃としたスチームボックス中で前記のサブトウ(海島型複合繊維(A)と海島型複合繊維(B)の混繊繊維)を2.7倍に延伸した。
1列目:β/β/β/β/α/β/β/β/β/α
2列目:β/β/β/β/α/β/β/β/β/α
[比較例8]
実施例1の工程[2]において、海島型複合繊維(A)と海島型複合繊維(B)とを質量比でA/B=50/50の範囲で混繊を行っていたところ、A/B=80/20の範囲で混繊を行うため、実施例1の工程[2]を以下のとおりに変えたこと以外は、実施例1と同様にして人工皮革を得た。結果を表5に示す。海島型複合繊維(B)の質量比率を小さくした場合、断面における面積比が低くなることから、得られる人工皮革は引張強度に劣り、さらには繊維(B)の表面の面積被覆率が低くなることから、メランジ効果に劣るものとなった。
【0137】
<工程[2]>
前記実施例1の工程[1]のとおりにして得られた海島型複合繊維(A)624本分を1つの束に収束し、収束した繊維束をドラムに巻き付けた。同様に7束をドラムに巻き付け、海島型複合繊維(A)4,992本(=624本×8束)をドラムから送り出してトウ缶αに収納した。さらに、海島型複合繊維(B)624本分を1つの束に収束し、収束した繊維束をドラムに巻き付けた。同様に7束をドラムに巻き付け、海島型複合繊維(B)4,992本(=624本×8束)をトウ缶βに収納した。その後、海島型複合繊維(A)のトウ缶α16缶と海島型複合繊維(B)のトウ缶β4缶を、以下のとおりに10缶ずつの2列に、トウ缶αとトウ缶βとを並べた後、全ての繊維を1つの大きな束に収束してサブトウとした後、これを送り出した。
1列目:α/α/α/α/β/α/α/α/α/β
2列目:α/α/α/α/β/α/α/α/α/β
そして、150℃としたスチームボックス中で前記のサブトウ(海島型複合繊維(A)と海島型複合繊維(B)の混繊繊維)を2.7倍に延伸した。
【0138】
【0139】
表1~3に示すように、実施例1~14の人工皮革は、脱海速度の異なる2種類の海成分を用いた2種類の海島型複合繊維(海島型複合繊維(A)、海島型複合繊維(B))を混繊し、同時に延伸することによって、均一な混繊状態とすることが可能であり、さらに前記の極細繊維形成処理を施す際、海島型複合繊維(A)と海島型複合繊維(B)の海成分除去速度に差をつけ、海島型複合繊維(B)を海成分一部未溶解とすることで、異繊維径とする極細繊維(A)と繊維(B)が得られ、染色処理時に染着性の差による色相、明度が異なる細かく均一なメランジ効果と、均一に極細繊維(A)と繊維(B)が混繊していることによる成形時での高強度や耐摩耗性の効果を持つものとなる。