(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129274
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】発光素子
(51)【国際特許分類】
H10K 50/19 20230101AFI20240919BHJP
H10K 50/16 20230101ALI20240919BHJP
H10K 50/17 20230101ALI20240919BHJP
H10K 85/60 20230101ALI20240919BHJP
H10K 101/40 20230101ALN20240919BHJP
【FI】
H10K50/19
H10K50/16
H10K50/17
H10K85/60
H10K101:40
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038372
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】豊田 和也
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 泰
【テーマコード(参考)】
3K107
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107BB02
3K107BB03
3K107BB08
3K107CC04
3K107CC12
3K107DD52
3K107DD75
3K107DD76
3K107DD78
3K107DD86
3K107FF05
3K107FF15
(57)【要約】 (修正有)
【課題】駆動電圧が低くても高い発光効率が得られる発光素子を提供すること。
【解決手段】陽極1と陰極2との間に、発光層3、7、電子輸送層4,8、n型電荷発生層5、p型電荷発生層6および電子注入層9を有する発光素子であって、前記n型電荷発生層5の厚みに対する前記電子注入層9の厚みの比(電子注入層の厚み/n型電荷発生層の厚み)が0.06~19.0であり、前記n型電荷発生層5、前記電子輸送層4,8および前記電子注入層9のいずれかが下記一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体を含む、発光素子100。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と陰極との間に、発光層、電子輸送層、n型電荷発生層、p型電荷発生層および電子注入層を有する発光素子であって、前記n型電荷発生層の厚みに対する前記電子注入層の厚みの比(電子注入層の厚み/n型電荷発生層の厚み)が0.06~19.0であり、前記n型電荷発生層、前記電子輸送層および前記電子注入層のいずれかが下記一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体を含む、発光素子。
【化1】
(上記式(1)において、各Xは、それぞれ独立に、水素原子、シアノ基、ハロゲン、炭素数1~6のアルキル基、炭素数3~6のシクロアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数1~6のアルケニル基、炭素数3~6のシクロアルケニル基、炭素数1~6のアルキニル基、炭素数1~6のチオアルコキシ基、無置換のフェニル基および炭素数1~6のヘテロシクリル基のいずれかから選択され、これらの基は、前記フェニル基を除いて置換されていてもよい。置換されている場合、前記各炭素数は置換基中の炭素原子を含めた数である。Yは、単結合、単環の置換もしくは無置換のアリール基または置換もしくは無置換のヘテロシクリル基である。R
1~R
12は、それぞれ独立に、水素原子、シアノ基、ハロゲン、炭素数1~4のアルキル基、炭素数3~4のシクロアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数1~4のアルケニル基、炭素数3~4のシクロアルケニル基、炭素数1~4のアルキニル基および炭素数1~4のチオアルコキシ基のいずれかから選択され、これらの基は置換されていてもよい。置換されている場合、前記各炭素数は置換基中の炭素原子を含めた数である。)
【請求項2】
前記n型電荷発生層の厚みに対する前記電子注入層の厚みの比(電子注入層の厚み/n型電荷発生層の厚み)が、0.3~4.0である、請求項1記載の発光素子。
【請求項3】
前記n型電荷発生層および前記電子注入層の両方が、前記一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体を含む、請求項1または2に記載の発光素子。
【請求項4】
前記一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体の物が熱分解温度が380℃以下である、請求項1または2に記載の発光素子。
【請求項5】
前記電子注入層の厚みが7~20nmである、請求項1または2に記載の発光素子。
【請求項6】
前記電子輸送層の厚みに対する前記電子注入層の厚みの比(電子注入層の厚み/電子輸送層の厚み)が、0.33~3.3である、請求項1または2に記載の発光素子。
【請求項7】
前記電子注入層が金属キノリノールを含有する、請求項1または請求項2に記載の発光素子。
【請求項8】
前記電子注入層が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属およびハロゲン化金属からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する、請求項1または2に記載の発光素子。
【請求項9】
前記一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体が下記のいずれかの化合物である、請求項1または2に記載の発光素子。
【化2】
【請求項10】
前記一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体が、2-フェニル-9-[3-(2-フェニル-1,10-フェナントロリン-9-イル)フェニル]-1,10-フェナントロリンである、請求項1または2に記載の発光素子。
【請求項11】
前記一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体が、1,3-ジ(1,10-フェナントロリン-2-イル)ベンゼンである、請求項1または2に記載の発光素子。
【請求項12】
陽極と陰極との間に、発光層、電子輸送層、n型電荷発生層、p型電荷発生層および電子注入層を有し、前記n型電荷発生層の厚みに対する前記電子注入層の厚みの比(電子注入層の厚み/n型電荷発生層の厚み)が0.06~19.0である発光素子の、前記n型電荷発生層、前記電子輸送層および前記電子注入層のいずれかに用いられる、下記一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体。
【化3】
(上記式(1)において、各Xは、それぞれ独立に、水素原子、シアノ基、ハロゲン、炭素数1~6のアルキル基、炭素数3~6のシクロアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数1~6のアルケニル基、炭素数3~6のシクロアルケニル基、炭素数1~6のアルキニル基、炭素数1~6のチオアルコキシ基、無置換のフェニル基および炭素数1~6のヘテロシクリル基のいずれかから選択され、これらの基は、前記フェニル基を除いて置換されていてもよい。置換されている場合、前記各炭素数は置換基中の炭素原子を含めた数である。Yは、単結合、単環の置換もしくは無置換のアリール基または置換もしくは無置換のヘテロシクリル基である。R
1~R
12は、それぞれ独立に、水素原子、シアノ基、ハロゲン、炭素数1~4のアルキル基、炭素数3~4のシクロアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数1~4のアルケニル基、炭素数3~4のシクロアルケニル基、炭素数1~4のアルキニル基および炭素数1~4のチオアルコキシ基のいずれかから選択され、これらの基は置換されていてもよい。置換されている場合、前記各炭素数は置換基中の炭素原子を含めた数である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェナントロリン誘導体を含む発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
フェナントロリン誘導体を含む有機EL素子などの発光素子は,高電流密度での駆動時に発光効率が低下することが知られている。そのため、素子のさらなる高輝度化を実現するためには、電流密度に対する発光効率の変化が小さく、低電流密度で駆動させたときの発光効率が高い素子にする必要がある。陽極と陰極との間に、電荷発生層や電子注入層を形成した構造の素子にすると、従来の素子に比べて少ない電流で高い輝度を出すことが可能であり,低電流密度領域における発光効率の改善が期待される。
【0003】
そのような構造の発光素子として、例えば特許文献1に記載の技術が提案されている。特許文献1に記載の発光素子は、陽極と陰極との間に、発光層と、電子輸送層、電子注入層および電荷発生層からなる群より選ばれ、かつフェナントロリン誘導体を含む少なくとも1つの層と、を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、高い発光効率が得られる発光素子を得るためには駆動電圧を高める必要があるという課題があった。本発明者らは、上記課題が、電荷発生層と電子注入層との厚みの関係に起因することを見出した。例えば、特許文献1の実施例23等には、電子注入層の厚みをn型電荷発生層の厚みよりもかなり薄く形成することが記載されているが、このような場合、電子注入層による抵抗を低減し、かつ電子注入層形成の際の蒸着加工による他の有機層への熱ダメージを少なくすることができる。しかしながら、その場合にはn型電荷発生層全体の一部しか機能しない場合があり、その結果、n型電荷発生層内で電子が十分に発生できず、それを補うために、例えば駆動電圧を高くしなければならないといった、上記のような課題が生じていたことがわかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、蒸着加工などによりn型電荷発生層、電子輸送層、電子注入層などの層を形成する際の熱ダメージを少なくできる化合物を選定し、電子注入層とn型電荷発生層の厚みとの関係を適切に調整することで、上記課題を解決できることを見出した。
【0007】
すなわち本発明は、以下の構成をとる。
[1]陽極と陰極との間に、発光層、電子輸送層、n型電荷発生層、p型電荷発生層および電子注入層を有する発光素子であって、前記n型電荷発生層の厚みに対する前記電子注入層の厚みの比(電子注入層の厚み/n型電荷発生層の厚み)が0.06~19.0であり、前記n型電荷発生層、前記電子輸送層および前記電子注入層のいずれかが下記一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体を含む、発光素子。
【0008】
【0009】
(上記式(1)において、各Xは、それぞれ独立に、水素原子、シアノ基、ハロゲン、炭素数1~6のアルキル基、炭素数3~6のシクロアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数1~6のアルケニル基、炭素数3~6のシクロアルケニル基、炭素数1~6のアルキニル基、炭素数1~6のチオアルコキシ基、無置換のフェニル基および炭素数1~6のヘテロシクリル基のいずれかから選択され、これらの基は、前記フェニル基を除いて置換されていてもよい。置換されている場合、前記各炭素数は置換基中の炭素原子を含めた数である。Yは、単結合、単環の置換もしくは無置換のアリール基または置換もしくは無置換のヘテロシクリル基である。R1~R12は、それぞれ独立に、水素原子、シアノ基、ハロゲン、炭素数1~4のアルキル基、炭素数3~4のシクロアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数1~4のアルケニル基、炭素数3~4のシクロアルケニル基、炭素数1~4のアルキニル基および炭素数1~4のチオアルコキシ基のいずれかから選択され、これらの基は置換されていてもよい。置換されている場合、前記各炭素数は置換基中の炭素原子を含めた数である。)
[2]前記n型電荷発生層の厚みに対する前記電子注入層の厚みの比(電子注入層の厚み/n型電荷発生層の厚み)が、0.3~4.0である、[1]に記載の発光素子。
[3]前記n型電荷発生層および前記電子注入層の両方が、前記一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体を含む、[1]または[2]に記載の発光素子。
[4]前記一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体の物が熱分解温度が380℃以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の発光素子。
[5]前記電子注入層の厚みが7~20nmである、[1]~[4]のいずれかに記載の発光素子。
[6]前記電子輸送層の厚みに対する前記電子注入層の厚みの比(電子注入層の厚み/電子輸送層の厚み)が、0.33~3.3である、[1]~[5]のいずれかに記載の発光素子。
[7]前記電子注入層が金属キノリノールを含有する、[1]~[6]のいずれかに記載の発光素子。
[8]前記電子注入層が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属およびハロゲン化金属からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する、[1]~[7]のいずれかに記載の発光素子。
[9]前記一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体が下記のいずれかの化合物である、[1]~[8]のいずれかに記載の発光素子。
【0010】
【0011】
[10]前記一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体が、2-フェニル-9-[3-(2-フェニル-1,10-フェナントロリン-9-イル)フェニル]-1,10-フェナントロリンである、[1]~[8]のいずれかに記載の発光素子。
[11]前記一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体が、1,3-ジ(1,10-フェナントロリン-2-イル)ベンゼンである、[1]~[8]のいずれかに記載の発光素子。
[12]陽極と陰極との間に、発光層、電子輸送層、n型電荷発生層、p型電荷発生層および電子注入層を有し、前記n型電荷発生層の厚みに対する前記電子注入層の厚みの比(電子注入層の厚み/n型電荷発生層の厚み)が0.06~19.0である発光素子の、前記n型電荷発生層、前記電子輸送層および前記電子注入層のいずれかに用いられる、下記一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体。
【0012】
【0013】
(上記式(1)において、各Xは、それぞれ独立に、水素原子、シアノ基、ハロゲン、炭素数1~6のアルキル基、炭素数3~6のシクロアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数1~6のアルケニル基、炭素数3~6のシクロアルケニル基、炭素数1~6のアルキニル基、炭素数1~6のチオアルコキシ基、無置換のフェニル基および炭素数1~6のヘテロシクリル基のいずれかから選択され、これらの基は、前記フェニル基を除いて置換されていてもよい。置換されている場合、前記各炭素数は置換基中の炭素原子を含めた数である。Yは、単結合、単環の置換もしくは無置換のアリール基または置換もしくは無置換のヘテロシクリル基である。R1~R12は、それぞれ独立に、水素原子、シアノ基、ハロゲン、炭素数1~4のアルキル基、炭素数3~4のシクロアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数1~4のアルケニル基、炭素数3~4のシクロアルケニル基、炭素数1~4のアルキニル基および炭素数1~4のチオアルコキシ基のいずれかから選択され、これらの基は置換されていてもよい。置換されている場合、前記各炭素数は置換基中の炭素原子を含めた数である。)
【発明の効果】
【0014】
本発明の発光素子は、電子注入層などの層を上記化合物で構成することにより、蒸着加工などで当該層を形成する際の熱ダメージを少なくできる効果がある。その結果、電子注入層などの厚みを厚く形成することが可能となり、n型電荷発生層との厚みの差が減少して、例えば、駆動電圧が低くても高い発光効率が得られるなどの相乗効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態に係る発光素子の一例の概略断面図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る発光素子の別の一例の概略断面図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係る発光素子の別の一例の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る発光素子の好適な実施形態を、図を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、目的や用途に応じて種々に変更して実施することができる。
【0017】
図1~
図3は、それぞれ本発明の実施の形態に係る発光素子の一例を示す概略断面図である。
図1に示す発光素子100は、陽極1と陰極2との間に、発光層A3、電子輸送層A4、n型電荷発生層5、p型電荷発生層6、発光層B7、電子輸送層B8および電子注入層9を陽極1側からこの順に備える。陽極1と発光層A3との間に、正孔輸送層や正孔注入層などを設けてもよいし、p型電荷発生層6と発光層B7との間に、正孔輸送層などを設けてもよい。
【0018】
図2に示す発光素子200は、
図1に示す発光素子100の構成に対し、さらに、電子輸送層B8と電子注入層B9との間に、n型電荷発生層15、p型電荷発生層16、発光層C17および電子輸送層C18を備える。このように、電荷輸送層を挟んで発光層や電子輸送層が3層以上形成されていてもよい。
【0019】
図3に示す発光素子300は、
図1に示す発光素子100の構成に対し、さらに、電子輸送層A4とn型電荷発生層5との間に中間層45が備えられ、電子注入層9と電子輸送層B8との間に中間層89が備えられたものである。なお、中間層45と中間層89のうち一方のみが備わる形態でも構わない。
【0020】
これらの実施形態に各々備わる構成は、本発明の効果を損なわない範囲で、他の実施形態へも適用しうる。例えば、発光素子300における中間層を発光素子200が備えていてもよい。
【0021】
本発明の実施の形態に係る発光素子において、陽極1と陰極2との間に電圧を印加すると、n型電荷発生層5において電荷分離が生じる。ここで発生または分離した電子は、電子輸送層A4を介して発光層A3に供給される。また、陰極2において発生した電子は、電子輸送層B8を介して発光層B7に供給される。これら供給された電子によって発光層A3および発光層B7が発光する。その際、陰極2から電子輸送層B8への電子の注入が、電子注入層9により促進される。 本発明の実施の形態に係る発光素子は、n型電荷発生層の厚みに対する電子注入層の厚みの比(電子注入層の厚み/n型電荷発生層の厚み)が0.06~19.0であり、n型電荷発生層、電子輸送層および電子注入層のいずれかが後述の一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体を含む。
【0022】
n型電荷発生層内において電子を発生させる機能を有する領域は、電子注入層内の電子を注入する機能を有する領域と相関性がある。そのため、たとえn型電荷発生層が十分な厚みで形成されていても、電子注入層の厚みが薄いと、その薄い厚みに引きずられてn型電荷発生層内の電子を発生させる機能を有する領域が狭くなり、n型電荷発生層全体の一部しか機能しない場合がある。
【0023】
すなわち、n型電荷発生層内で電子を発生させることができる領域は電子注入層9の厚みに依存する関係がある。そのため、n型電荷発生層の厚みに対する電子注入層9の厚みの比が小さいと、n型電荷発生層内で電子を発生させることができる領域が狭くなり電子が十分に発生できない場合がある。そしてその結果、発光素子の駆動電圧が高くなる場合がある。一方、その反対にn型電荷発生層の厚みに対する電子注入層の厚みの比が大きすぎると、電子注入層による抵抗が増大し、その場合も駆動電圧が高くなる場合がある。
【0024】
これに対し本発明では、n型電荷発生層の厚みに対する電子注入層の厚みの比(電子注入層の厚み/n型電荷発生層の厚み)が0.06~19.0であるので、両層の厚みの関係が適切に調整されており、発光素子の駆動電圧が低くても高い発光効率を得ることができる。
【0025】
(電子注入層の厚み/n型電荷発生層の厚み)は、下限としては0.1以上が好ましく、0.2以上がより好ましく、0.3以上がさらに好ましく、0.4以上が特に好ましい。また、上限としては5.0以下が好ましく、4.0以下がさらに好ましく、3.0以下が特に好ましい。このような範囲内であれば、さらに低電圧かつ耐久性に優れた高寿命の発光素子が得られる。
【0026】
また、一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体は、相対的に低い温度で蒸着加工などをすることができるので、電子注入層やn型電荷発生層を形成する際の熱ダメージを少なくできる。その結果、電子注入層やn型電荷発生層を十分な厚みで形成することができ、n型電荷発生層内の電子を発生させる機能を有する領域が広くなり、n型電荷発生層の機能が向上する。また、この効果をより高める観点から、n型電荷発生層および電子注入層の両方が一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体を含むことが好ましい。
【0027】
【0028】
上記式(1)において、各Xは、それぞれ独立に、水素原子、シアノ基、ハロゲン、炭素数1~6のアルキル基、炭素数3~6のシクロアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数1~6のアルケニル基、炭素数3~6のシクロアルケニル基、炭素数1~6のアルキニル基、炭素数1~6のチオアルコキシ基、無置換のフェニル基および炭素数1~6のヘテロシクリル基のいずれかから選択され、これらの基は、上記フェニル基を除いて置換されていてもよい。置換されている場合、上記各炭素数は置換基中の炭素原子を含めた数である。Yは、単結合、単環の置換もしくは無置換のアリール基または置換もしくは無置換のヘテロシクリル基である。R1~R12は、それぞれ独立に、水素原子、シアノ基、ハロゲン、炭素数1~4のアルキル基、炭素数3~4のシクロアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数1~4のアルケニル基、炭素数3~4のシクロアルケニル基、炭素数1~4のアルキニル基および炭素数1~4のチオアルコキシ基のいずれかから選択され、これらの基は置換されていてもよい。置換されている場合、上記各炭素数は置換基中の炭素原子を含めた数である。
【0029】
上記の全ての基において、水素原子は重水素原子であってもよい。また、「無置換」とは、対象となる基に結合する原子が水素原子または重水素原子のみであることを意味する。
【0030】
アルキル基とは、脂肪族飽和炭化水素化合物から水素原子一個を除いた残りの官能基であり、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基などの飽和脂肪族炭化水素基を示し、これらは置換されていても無置換でもよい。それらの中でも蒸着加工温度低減の観点から、メチル基、エチル基、n-プロピル基およびイソプロピル基が好ましく、メチル基およびエチル基がより好ましい。
【0031】
シクロアルキル基とは、例えば、シクロプロピル基、シクロプチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などの飽和脂環式炭化水素基を示し、これらも置換されていても無置換でもよい。それらの中でも蒸着加工温度低減の点から、シクロプロピル基およびシクロプチル基が好ましく、シクロプロピル基がより好ましい。
【0032】
アルコキシ基とは、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基、ブトキシカルボニル基などのエーテル結合を介して脂肪族炭化水素基が結合した官能基を示し、これらは置換されていても無置換でもよい。それらの中でも蒸着加工温度低減の観点から、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基およびイソプロポキシ基が好ましく、メトキシ基およびエトキシ基がより好ましい。
【0033】
アルケニル基とは、アルケンの水素原子を1個取り除いた残りの官能基のことであり、例えば、ビニル基(エテニル基)、アリル基(プロぺニル基)、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基などの二重結合を含む不飽和脂肪族炭化水素基を示し、これらは置換されていても無置換でもよい。それらの中でも蒸着加工温度低減の観点から、ビニル基、アリル基およびブテニル基が好ましく、ビニル基およびアリル基がより好ましい。
【0034】
シクロアルケニル基とは、例えば、シクロプロペニル基、シクロブテニル基、2-シクロペンテン-1-イル基、2-シクロヘキセン-1-イル基、3-シクロヘキセン-1-イル基などの二重結合を含む不飽和脂環式炭化水素基を示し、これらは置換されていても無置換でもよい。それらの中でも蒸着加工温度低減の観点から、シクロプロペニル基およびシクロブテニル基が好ましく、シクロプロペニル基がより好ましい。
【0035】
アルキニル基とは、アルキンの水素原子を1個取り除いた残りの官能基のことであり、例えば、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基などの三重結合を含む不飽和脂肪族炭化水素基を示し、これは置換されていても無置換でもよい。それらの中でも蒸着加工温度低減の観点から、エチニル基、プロピニル基およびブチニル基が好ましく、エチニル基およびプロピニル基がより好ましい。
【0036】
チオアルコキシ基とは、アルコキシ基のエーテル結合の酸素原子が硫黄原子に置換された官能基である。チオアルコキシ基中の炭化水素基も置換されていても無置換でもよい。それらの中でも蒸着加工温度低減の観点から、チオメトキシ基、チオエトキシ基、n-チオプロポキシ基およびチオイソプロポキシ基が好ましく、チオメトキシ基およびチオエトキシ基がより好ましい。
【0037】
シアノ基とは、-C≡Nで表される官能基である。ここで他の基と結合するのは炭素原子である。ハロゲンとは、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素を示す。
【0038】
単環のアリール基は、単環の芳香族炭化水素化合物から芳香環上の水素原子1個を除いた官能基であり、例えば、フェニル基、トリル基、ジメチルフェニル基、トリメチルフェニル基、テトラメチルフェニル基などの芳香族炭化水素基を示す。それらの中でも蒸着加工温度低減の観点から、フェニル基が好ましい。
【0039】
単環のヘテロシクリル基は、単環のヘテロ環式化合物の任意の環原子から水素を除去することにより生成される一価の官能基であり、ピリジル基、ピロリジニル基、ピロリル基、チエニル基などである。
【0040】
一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体の具体例としては、例えば、下記構造式で表される化合物が挙げられる。
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体は、熱分解温度が380℃以下であることが好ましい。そのような化合物を用いることで、蒸着加工をする際の加工温度を低温、例えば310℃以下にすることができる。なお、熱分解温度は、JISK7120:1987に規定されるプラスチックの熱重量測定を行うための一般的方法を適用して、流入ガスとして窒素を用いて当該化合物を1分当たり10℃の昇温速度で徐々に温度上昇していった際、当該化合物の重量減少が始まる温度のことである。
【0049】
上記熱分解温度は、375℃以下であることがより好ましい。熱分解温度が375℃以下の化合物を用いることで、蒸着加工をする際の加工温度をより低温、例えば305℃以下にすることができる。このとき、形成する層の厚みが20nm以下であるという条件下では、蒸着加工をする際に発生する熱ダメージをほとんどなくすことができる。
【0050】
一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体のうち熱分解温度が380℃の化合物としては、例えば、2-フェニル-9-[3-(2-フェニル-1,10-フェナントロリン-9-イル)フェニル]-1,10-フェナントロリンが好ましい例として挙げられる。
【0051】
さらに、より好ましい熱分解温度が375℃以下の化合物として、例えば下記式の化合物などが挙げられる。
【0052】
【0053】
これらの中でも1,3-ジ(1,10-フェナントロリン-2-イル)ベンゼンが最も好ましい。
【0054】
以下、本発明の実施の形態に係る発光素子を構成する各層について詳細に説明する。
【0055】
(電子注入層)
電子注入層は、陰極から電子輸送層への電子の注入を助ける層である。電子注入層に用いられる化合物には特に制限はなく、公知の化合物が用いられるが、上記一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体を含むことが好ましい。このとき、用いられる一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体は1種類でもよく複数種類でもよい。 電子注入層が一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体を含むことで、電子注入層を形成する際の蒸着加工温度を低くできるので、電子注入層を設ける前に形成した層(陽極側から各層を形成している場合、すでに発光層、電子輸送層、n型電荷発生層およびp型電荷発生層が積層されている)に与える熱ダメージを従来よりも少なくでき、それだけ電子注入層の厚みを厚く形成することができる。その結果、電子注入層9の厚みを従来よりも厚くすることができる。
【0056】
電子注入層の厚みは、1~50nmであることが好ましく、2~40nmであることがより好ましく、7~20nmであることがさらに好ましい。電子注入層の厚みを7nm以上にすることにより、ピンホールの発生が解消されて電子の注入量がより安定化する。その結果、発光素子は低い駆動電圧でも陰極から電子輸送層へ電子をより安定して注入することができる。一方、電子注入層の厚みを20nm以下にすることにより、電子注入層を形成する際の熱ダメージがより発生しにくくなる。
【0057】
電子注入層は2層以上からなる積層体であってもよい。その場合、上記に示す電子輸送層の厚みとは、電子注入層を構成する全ての層の合計厚みをいう。
【0058】
n型電荷発生層の厚みに対する電子注入層の厚みの比(電子注入層の厚み/n型電荷発生層の厚み)を0.06~20の範囲内とし、電子注入層を一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体を含むように構成すると、n型電荷発生層内での電子を発生させることが可能な領域を広くすることができる。そのため、n型電荷発生層内で十分に安定して電荷を発生させることができるので、陰極からの電子の注入が低電圧下で安定してなされ、駆動電圧を下げることなどが可能となる。
【0059】
電子注入層は、ドナー性材料を含有してもよい。ドナー性材料としては、例えば、リチウムなどのアルカリ金属、マグネシウムなどのアルカリ土類金属、ユーロピウムやイッテルビウムなどの希土類金属、フッ化リチウムなどのハロゲン化金属などの無機金属塩、リチウムキノリノールなどの金属キノリノールなどの金属有機錯体などが挙げられる。電子注入層は、これらを2種以上含有してもよい。これらの中でも、電子注入層が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属およびハロゲン化金属からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する構成や、金属キノリノールを含有する構成が好ましい。前者の場合、アルカリ金属を含有する構成がより好ましい。
【0060】
電子注入層がドナー性材料を含有する場合の具体的な態様としては、ドナー性材料をドーパントとして一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体との共蒸着により形成してもよいし、一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体からなる層の形成前および/または形成後に、ドナー性材料の層を積層形成してもよい。ドナー性材料がアルカリ金属やアルカリ土類金属の場合は前者および後者のいずれの構成でもよく、フッ化リチウム(LiF)やリチウムキノリノール(Liq)の場合は後者の構成の方が好ましい。
【0061】
前者の共蒸着による構成では、一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体とドナー性材料との重量比率は、一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体/ドナー性材料=99.9/0.1~80/20範囲が好ましく、99/1~90/10の範囲がさらに好ましい。後者の積層の構成では、一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体の層とドナー性材料の層との膜厚比率は、一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体/ドナー性材料=99/1~60/40範囲が好ましく、97/3~80/20の範囲がさらに好ましい。
【0062】
この後者の例は、電子注入層が複数層である場合に該当し、それらのいずれか一つの電子注入層9が一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体を含んでいれば、電子注入層が一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体を含むといえる。例えば、電子注入層の一つの層を一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体で構成し、ドナー性材料で構成される層を積層する場合が挙げられる。
【0063】
(電荷発生層)
電荷発生層は、n型電荷発生層およびp型電荷発生層からなるpn接合電荷発生層として用いられる。pn接合型電荷発生層は、発光素子中で電圧が印加されることにより、電荷を発生、または電荷を正孔および電子に分離し、正孔輸送層を経由してこれらの正孔および電子を発光層に注入する効果を有する。
【0064】
例えば、
図1に示すような発光素子100においては、n型電荷発生層5は、電圧の印加により電子を発生または分離し、隣接する層へ電子を供給する層であり、発光層A3および発光層B7が積層された発光素子において中間層の電荷発生層として作用し、陽極1側に存在する発光層A3に電子を供給する。一方、p型電荷発生層6は陰極2側に存在する発光層B7に正孔を供給する。それらの作用により、発光層A3と発光層B7とを積層した発光素子における発光効率をより向上させ、駆動電圧を下げることができ、素子の耐久寿命を向上させる効果がある。
【0065】
p型電荷発生層に用いられる化合物には特に制限はなく、公知の化合物が用いられる。
【0066】
p型電荷発生層は、p型ホストおよびp型ドーパントを含有することが好ましい。p型ホストとしては、例えば、アリールアミン誘導体などが挙げられる。p型ドーパントとしては、テトラフルオレ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン(F4-TCNQ)、テトラシアノキノジメタン誘導体、ラジアレン誘導体、ヨウ素、FeCl3、FeF3、SbCl5などが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。これらの中でも、ラジアレン誘導体が好ましい。
【0067】
n型電荷発生層に用いられる化合物には特に制限はなく、公知の化合物が用いられるが、一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体を含むことが好ましい。このとき、用いられる一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体は1種類でもよく複数種類でもよい。n型電荷発生層が一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体を含むことで、n型電荷発生層を形成する際の蒸着加工温度を低くできるので、n型電荷発生層を設ける前に形成した層(陽極側から各層を形成している場合、少なくとも、すでに発光層および電子輸送層が積層されている)に与える熱ダメージを従来よりも少なくでき、それだけn型電荷発生層の厚みを厚くできる。
【0068】
n型電荷発生層の厚みは、上述したn型電荷発生層の厚みに対する電子注入層の厚みの比が上記範囲であればとくに制限はない。例えば、電子注入層の厚みを10nmで形成するのであれば、n型電荷発生層の厚みは0.6~200nmの範囲で形成するのが好ましい。
【0069】
n型電荷発生層は、ドナー材料を含有してもよい。ドナー材料の種類や含有量、積層する際の態様なども前記電子注入層の場合と同様である。また、n型電荷発生層5は2層以上の積層構造を有してもよい。
【0070】
(電子輸送層)
電子輸送層は、陰極やn型電荷発生層から注入された電子を発光層に輸送する層である。電子輸送層に用いられる化合物はは、多環芳香族化合物、スチリル系芳香族化合物、キノン誘導体、リンオキサイド誘導体や、有機金属錯体などが挙げられる。
【0071】
多環芳香族化合物としては、例えば、ナフタレン系化合物、アントラセン系化合物が挙げられる。スチリル系芳香族化合物としては、例えば、スチリルアミン系化合物、スチリルラクトン系化合物が挙げられる。キノン誘導体としては、例えば、アントラキノン誘導体、ナフトキノン誘導体、ベンゾキノン誘導体、フェナントレンキノン誘導体が挙げられる。リンオキサイド誘導体としては、例えば、ホスフィンオキシド誘導体が挙げられる。
【0072】
有機金属錯体としては、例えば、トリス(8-キノリノラート)アルミニウム(III)などのキノリノール金属錯体、ベンゾキノリノール金属錯体、ヒドロキシアゾール金属錯体、アゾメチン金属錯体、トロポロン金属錯体、フラボノール金属錯体が挙げられる。
【0073】
電子輸送層の材質は、電子注入層やn型電荷発生層と異なる材質で構成するのであればとくに制限はない。この「異なる材質」とは、ホスト化合物がともに一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体であるが、ドナー材料などの添加剤の材料が異なる場合や、添加剤の含有量が異なる場合なども含む。また、
図1に示すように電子輸送層が離れた位置に2箇所以上存在する構成において、電子輸送層A4および電子輸送層B8は、同じ材質で構成されていてもよいし、互いに異なる材質で構成されていても よい。
【0074】
電子輸送層は、上記一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体を含むことが好ましい。このとき、用いられる一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体は1種類でもよく複数種類でもよい。電子輸送層が一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体を含むことで、電子輸送層を形成する際の蒸着加工温度を低くできるので、電子輸送層を設ける前に形成した層(陽極側から各層を形成している場合、少なくとも、すでに発光層が積層されている)に与える熱ダメージを従来よりも少なくでき、それだけ電子輸送層の厚みを厚くできる。
【0075】
電子輸送層の厚みは、1~50nmであることが好ましく、5~35nmであることがより好ましい。
【0076】
図1~
図3に示すようなタンデム構造の発光素子において、電子輸送層B8の厚みは、電子輸送層B8の厚みに対する電子注入層9の厚みの比(電子注入層9の厚み/電子輸送層B8の厚み)が、0.1~4.0となるように設定するのが好ましく、0.33~3.3となるように設定するのがより好ましい。この厚みの比の範囲内であると電子注入層9からの電子の注入量に偏りがほとんど生じず、大面積になっても発光ムラが少ない発光素子が得られる。一方、電子輸送層Aの厚みはとくに制限はなく、電子輸送層Bの厚みと同じにしてもよい。
【0077】
電子輸送層は、ドナー材料を含有してもよい。ドナー材料の種類や含有量、積層する際の態様なども前記電子注入層の場合と同様である。また、電子輸送層は2層以上の積層構造を有してもよい。
【0078】
(中間層)
中間層は、
図3に示すように、電子注入層9と電子輸送層B8との間や、電子輸送層A4とn型電荷発生層5との間に設けられる層である。中間層89は、電子注入層9および電子輸送層B8の両方に対しその材質が異なるが、本発明ではそれらのいずれかの層に当てはめる。本発明では、中間層89が、陰極2と電子注入層B9との界面と、発光層B7と電子輸送層Bとの界面と、のうちいずれから距離的に近いかで、中間層89が電子注入層9に含まれるのか電子輸送層B8に含まれるのかを区別する。
【0079】
例えば、陰極2と発光層B7との間に、互いに材質の異なる4層が、陰極2側から順に1nm、 3nm、3nm、5nmの膜厚で積層形成されている場合、前者の三層は電子注入層に含まれ、後者の一層のみが電子輸送層Bに含まれる。一方、陰極2と発光層B7との間に、互いに材質の異なる4層が、陰極2側から順に5nm、3nm、3nm、1nmの膜厚で積層形成されている場合、前者の一層のみが電子注入層に含まれ、後者の三層は電子輸送層Bに含まれる。なお、上記比較した距離が全く同じである場合は、中間層89は電子注入層に含める。
【0080】
また、中間層45は、電子輸送層A4およびn型電荷発生層5の両方に対しその材質が異なるが、本発明ではそれらのいずれかの層に当てはめる。本発明では、中間層45が、発光層A3と電子輸送層A4との界面と、p型電荷発生層6とn型電荷発生層5との界面と、のうちいずれから距離的に近いかで、中間層45が電子輸送層A4に含まれるのかn型電荷発生層5に含まれるのかを区別する。上記比較した距離が全く同じである場合は、中間層45はn型電荷発生層に含める。
【0081】
(陽極)
陽極は、発光層に正孔を効率的に注入する作用を有する電極である。そのため、光を取り出すために透明または半透明の材料であることが好ましく、酸化亜鉛、酸化錫、酸化インジウム、酸化錫、酸化錫インジウム(ITO)、酸化亜鉛インジウム(IZO)などの導電性金属酸化物や、金、銀、クロムなどの金属、ヨウ化銅、硫化銅などの無機導電性物質、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリンなどの導電性ポリマーなどの材料で構成される。
【0082】
これらの中でも、ITOガラスや酸化錫ガラスが好ましい。これらの電極材料は、単独で用いてもよいし、複数の材料を積層または混合して用いてもよい。透明電極の抵抗は、素子の発光に十分な電流が供給できればよいが、素子の消費電力の観点からは、低抵抗であることが好ましい。
【0083】
例えば、表面抵抗値が300Ω/sq以下のITO基板であれば素子電極として機能するが、現在では10Ω/sq程度の基板の供給も可能になっていることから、表面抵抗値が20Ω/sq以下の低抵抗の基板を使用することが好ましい。ITOの厚みは表面抵抗値に合わせて任意に選ぶ事ができ、45~300nmの間で設定するとよい。
【0084】
(陰極)
陰極は、発光層を挟んで陽極の反対側の表面に形成される電極であり、発光層に電子を効率よく注入する作用を有する電極である。そのため、白金、金、銀、銅、鉄、錫、アルミニウム、インジウムなどの金属、またはこれらの金属とリチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどの低仕事関数金属との合金や多層積層などで構成するとよい。
【0085】
中でも、電気抵抗値や製膜しやすさ、膜の安定性、発光効率などの面から、主成分としてはアルミニウム、銀、マグネシウムなどの金属が好ましく、とくにトップエミッションの発光素子の場合、電子輸送層および電子注入層への電子注入が容易であることから、マグネシウムと銀で構成されることがより好ましい。ボトムエミッションの発光素子の場合、陰極をアルミニウムにより構成することが好ましい。また、陰極の保護のために、陰極上に保護層(キャップ層)を形成してもよい。
【0086】
(発光層)
発光層は、正孔と電子の再結合によって発生した励起エネルギーにより発光する層である。
図1に示すようなタンデム構造の発光素子100において、陽極1とn型電荷発生層5との間に発光層A3が形成され、n型電荷発生層5と陰極2との間に発光層B7が形成される。また
図2に示すようなタンデム構造の発光素子300は、さらに発光層C17を有する。
【0087】
各発光層は、同じ材質で構成されていてもよいし、異なる材料で構成されていてもよい。発光層は、単一のホスト材料で構成されていてもよいが、色純度と発光強度の観点から、ホスト材料とドーパント材料とを含有する方が好ましい。
【0088】
ホスト材料としては、例えば、アリール環を有する化合物やその誘導体、ベンゾニトリル誘導体、トリアジン誘導体、ジスルホキシド誘導体、芳香族アミン誘導体、金属キレート化オキシノイド化合物、ジベンゾフラン誘導体、カルバゾール誘導体、ビススチリル誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、インデン誘導体、クマリン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピロロピリジン誘導体、ペリノン誘導体、シクロペンタジエン誘導体、ピロロピロール誘導体、チアジアゾロピリジン誘導体、ジベンゾフラン誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、トポリフェニレンビニレン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、トリフェニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ジヒドロフェナジン誘導体、チアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体などが挙げられる。
【0089】
その中でも、三重項発光(りん光発光)を行う際に用いられるホストとして、金属キレート化オキシノイド化合物、ジベンゾフラン誘導体、ジベンゾチオフェン誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、トリアジン誘導体、トリフェニレン誘導体などが好適に用いられる。
【0090】
ドーパント材料としては、アリール環を有する化合物やその誘導体、ヘテロアリール環を有する化合物やその誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、アミノスチリル誘導体、芳香族アセチレン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、スチルベン誘導体、アルダジン誘導体、ピロメテン誘導体、ジケトピロロ[3,4-c]ピロール誘導体、クマリン誘導体、アゾール誘導体、芳香族アミン誘導体などが挙げられる。
【0091】
(各層の形成方法)
発光素子の各層の形成方法は、抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、スパッタリング、分子積層法、コーティング法などが挙げられるが、安定した素子特性を得やすい観点から抵抗加熱蒸着または電子ビーム蒸着で形成するのが好ましい。
【0092】
発光素子の各層は、機械的強度を保ったり、熱変形を抑制したり、発光層への水蒸気や酸素の侵入を抑制したりする観点から、基板上に形成するのが好ましい。基板としては、例えば、ガラス板、セラミック板、樹脂フィルム、金属薄板などが挙げられる。特に、高い透明性を有するガラス基板や、ポリイミドフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム等の樹脂フィルムが好ましい。
【0093】
(発光素子の適用分野)
本発明の実施の形態に係る発光素子は、高い耐久性や駆動電圧の低減が求められる用途において、面積が大きくなるほどその顕著な効果が発現されるため、車載ディスプレイやテレビなどの表示装置、バックライトなどの照明装置などに好ましく用いることができる。
【0094】
また、本発明の実施の形態に係る発光素子は、ボトムエミッションおよびトップエミッションのいずれのタンデム構造発光素子にも好適に用いることができる。特に、精細な光路長調整が求められるトップエミッションのタンデム構造発光素子において、本発明の効果はより顕著に奏される。
【0095】
トップエミッション方式では、封止ガラス側の「上」から光を取り出すので画素回路などの光をさえぎるものがなく、発光した光を外部に効率よく取り出すことができる。そのため、光取り出し効率がボトムエミッション方式に比べて高く、低消費電力かつ長寿命を実現できるからである。
【0096】
一方でボトムエミッション方式では、製造工程が簡単で素子の評価がしやすいというメリットがある。ゆえに、本発明では、素子の評価としてはボトムエミッション方式の素子で行い、実製品ではトップエミッション方式を適用するとよい。
【実施例0097】
<実施例1 テスト用発光素子(TEG)の作成>
膜厚0.7mm、サイズ75mm×75mmの無アルカリガラス上にITO透明導電膜を100nm堆積させ、エッチングして透明電極パターンを形成し、セミコクリーン56”(商品名、フルウチ化学(株)製)で15分間超音波洗浄してから、超純水で洗浄した。次いで、この基板を、素子を作製する直前に1時間UV-オゾン処理し、真空蒸着装置内に設置して、装置内の真空度が5×10-4Pa以下になるまで排気した。
【0098】
次いで、直径2.26mmの発光パターン(発光面積約0.04cm2)を有するポリイミドバンクを被覆した後、抵抗加熱法によって正孔注入層として、TR-HILを10nm、続いて正孔輸送層として、TR-HTL-Aを105nmおよびTR-HTL-Bを10nmの厚さで形成した。次に、発光層Aとして、ホスト材料として化合物TR-ホストAを、またドーパント材料としてドーパント化合物Aをドープ濃度が3.0重量%になるようにして20nmの厚さで形成した。
【0099】
さらに電子輸送層Aとして、TR-ETL-Aを20nmの厚さで形成し、続いてn型電荷発生層としてET-5を2nmの厚さに蒸着加工温度285℃で形成した。さらにp型電荷発光層としてTR-HILを10nmの厚さで形成した。その上に上記と同様に正孔輸送層としてTR-HTL-Aを55nm、TR-HIL-Bを10nm積層し、発光層Bとしてホスト材料物TR-ホストAに化合物が3.0重量%ドープされた薄膜を20nm、電子輸送層BとしてTR-ETL-Aを膜厚16nmの厚さで形成した。
【0100】
次に、電子注入層としてET-6を37nmの厚さに蒸着加工温度280℃で形成した後、アルミニウムを100nmの厚さで形成して陰極とし、次いで、封止ガラスと紫外線硬化型樹脂を用いてガラス基板と接合した。次いで、乾燥窒素で置換されたグローブボックスの中で縦横三分割した後、サイズ22mm×17mmの封止ガラスを被覆し、紫外線照射により封止し、サイズ25mm×25mmの9個のボトムエミッションのテスト用発光素子(TEG)を作成した。
【0101】
<実施例2~53、比較例1~7 テスト用発光素子(TEG)の作成>
n型電荷発生層として膜厚2nmの化合物ET-5の代わりに表1~表3に記載の化合物を用い表1~表3に記載の膜厚および蒸着加工温度で形成し、電子輸送層Bとして膜厚16nmの化合物TR-ETL-Aの代わりに表1~表3に記載の化合物を用い表1~表3に記載の膜厚で形成し、電子注入層として膜厚37nmの化合物ET-6の代わりに表1~表3に記載の化合物を用い表1~表3に記載の膜厚および蒸着加工温度で形成した以外は、実施例1と同様にしてボトムエミッションのテスト用発光素子(TEG)を作成した。
【0102】
なお、TR-HIL、TR-HTL-A、TR-HTL-B、TR-ホストA、ドーパント化合物A、TR-ETL-A、ET-1~ET-9は下記に示す化合物である。
【0103】
【0104】
【0105】
【0106】
【0107】
<駆動電圧の評価方法>
駆動電圧は、各実施例および比較例において作製したテスト用発光素子(TEG)に10mA/cm2の直流電流を通電したときの電圧を測定して評価した。駆動電圧は発光素子の消費電力の観点から製品寿命に関わる重要な初期特性の指標であり、駆動電圧が低いほど優れた発光素子と評価できる。
【0108】
<発光効率の評価方法>
発光効率は、各実施例および比較例において作製したテスト用発光素子(TEG)について、環境温度を30℃に設定して、全光束補正値を1(輝度配向補正しないと仮定)とした場合の外部量子効率(EQE)を算出した。外部量子効率(EQE)は電気エネルギーが光エネルギーに変わって空気中に取り出されるもっとも重要な発光効率の指標であり、外部量子効率(EQE)が高いほど発光効率に優れると評価できる。
【0109】
<耐久性の評価方法>
耐久性は、各実施例および比較例において作製したテスト用発光素子(TEG)各2個(合計8ピクセル)ずつについて、環境温度を30℃に設定して、全光束補正値を1とし、初期電流を10mA/cm2で連続通電し、初期輝度の95%および90%の輝度となる時間(LT95、LT90とする)を測定し、その平均値を算出した。LT95およびLT90が高いほど耐久性に優れると評価できる。
【0110】
<評価結果>
各実施例および比較例の主な構成および評価結果を表1~表3に示す。なお表1~表3において、-Li(1%)はn型ドーパントに金属リチウムを用い、表に記載の化合物と金属リチウムの蒸着速度比が99:1になるようにして共蒸着した層であることを示す。また、-Li(1nm)、-LiF(1nm)、-Liq(1nm)は、前記化合物の層を形成した後、その層上に1nmの膜厚のリチウム(Li)、フッ化リチウム(LiF)、リチウムキノリノール(Liq)の層を積層形成した層であることを示す。
【0111】
【0112】
【0113】
【0114】
表1~表3の評価結果により、電子注入層およびn型電荷発生層が一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体で構成される実施例9、11、13、15、17、19、21、23、25および31のテスト用発光素子(TEG)は、同化合物で構成されていない比較例1~3のTEGと比べ、駆動電圧が低く、外部量子効率およびLT90、LT90大幅に向上していることが確認された。
【0115】
また、表2および表3の評価結果により、n型電荷発生層の厚みに対する電子注入層の厚みの比(電子注入層の厚み/n型電荷発生層の厚み)が0.06~20.0の実施例40~44、46、48および50のテスト用発光素子(TEG)は、上記厚みの比が上記範囲外の比較例4~7のTEGと比べ、駆動電圧が低く、外部量子効率およびLT90、LT90が大幅に向上していることが確認された。
【0116】
また、n型電荷発生層の厚みに対する電子注入層の厚みの比(電子注入層の厚み/n型電荷発生層の厚み)が0.3~4.0の実施例23~26および実施例31、32のテスト用発光素子(TEG)は、上記厚みの比が上記範囲外の実施例1~6のTEGよりも低駆動電圧、高EQE、長寿命の点で良好であることが、明らかになった。
【0117】
また、表2の評価結果により、電子注入層やn型電荷発生層にドナー性材料を含有または積層した実施例33~53のテスト用発光素子(TEG)の方が、ドナー性材料を用いていない実施例31および32のTEGよりも低駆動電圧、高EQE、長寿命の点で良好であることが、明らかになった。