(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129285
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】振動素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H03H 3/04 20060101AFI20240919BHJP
H03H 3/007 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
H03H3/04 B
H03H3/007 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038387
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】大西 一
【テーマコード(参考)】
5J108
【Fターム(参考)】
5J108AA02
5J108BB01
5J108CC06
5J108EE03
5J108KK05
5J108MM08
5J108NA03
5J108NB05
(57)【要約】
【課題】振動部に予め調整膜を形成することなく振動素子の共振周波数を調整可能な技術の提供
【解決手段】振動素子を準備する工程と、第1面と前記第1面の裏面である第2面とを有し、エネルギー線を透過する透過基板を準備する工程と、前記第1面に質量調整物質を含む複数のドットを形成する工程と、前記透過基板の前記第1面側を前記振動素子に向けて配置する工程と、前記第2面側から前記エネルギー線を少なくとも一つの前記ドットに照射して前記質量調整物質を前記振動素子に転写し、前記振動素子の共振周波数を調整する工程と、を含む製造方法で振動素子を製造する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動素子を準備する工程と、
第1面と前記第1面の裏面である第2面とを有し、エネルギー線を透過する透過基板を準備する工程と、
前記第1面に質量調整物質を含む複数のドットを形成する工程と、
前記透過基板の前記第1面側を前記振動素子に向けて配置する工程と、
前記第2面側から前記エネルギー線を少なくとも一つの前記ドットに照射して前記質量調整物質を前記振動素子に転写し、前記振動素子の共振周波数を調整する工程と、
を含む振動素子の製造方法。
【請求項2】
前記ドットは、インクジェット法によって形成される、
請求項1に記載の振動素子の製造方法。
【請求項3】
前記ドットに含まれる前記質量調整物質の質量は、一つの前記ドットによって前記振動素子に与える共振周波数の変化幅に基づいて決定される、
請求項1または請求項2に記載の振動素子の製造方法。
【請求項4】
質量が異なる複数の前記ドットが前記第1面に形成される、
請求項1または請求項2に記載の振動素子の製造方法。
【請求項5】
複数の前記ドットは、質量毎に前記第1面に配列される、
請求項4に記載の振動素子の製造方法。
【請求項6】
前記振動素子は、基部と、前記基部から延出した複数の振動腕を含み、
前記質量調整物質は、前記振動腕の前記基部とは反対側の先端部に転写される、
請求項1または請求項2に記載の振動素子の製造方法。
【請求項7】
質量が異なる複数の前記ドットが前記第1面に形成され、
質量が最も小さい前記ドットは、前記振動腕の前記先端部における前記基部側に転写され、
質量が最も大きい前記ドットは、前記振動腕の前記先端部における前記基部側とは反対側に転写される、
請求項6に記載の振動素子の製造方法。
【請求項8】
前記振動素子の共振周波数は真空中で調整される、
請求項1または請求項2に記載の振動素子の製造方法。
【請求項9】
前記振動素子の共振周波数を調整する工程の後に、
前記エネルギー線を照射して、前記振動素子に転写された前記質量調整物質の少なくとも一部を除去する工程を含む、
請求項1または請求項2に記載の振動素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、振動素子の質量を調整することによって振動素子の共振周波数を調整する技術が知られている。例えば、特許文献1には、振動部に酸化モリブデンからなる調整膜を形成し、レーザーによって、調整膜のうち少なくとも一部を除去することによって共振子の共振周波数を調整する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の従来技術においては、振動部に予め形成された調整膜を除去することによって共振周波数が調整される。従って、所望の共振周波数に調整するためには、除去される調整膜を見越して、所望の共振周波数となる調整膜の量よりも多くなるように予め調整膜を形成しておく必要がある。このため、除去される調整膜が必ず発生し、材料が無駄になる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための一実施形態としての振動素子の製造方法は、振動素子を準備する工程と、第1面と前記第1面の裏面である第2面とを有し、エネルギー線を透過する基板を準備する工程と、前記第1面に質量調整物質を含む複数のドットを形成する工程と、前記第1面側を前記振動素子に向けて配置する工程と、前記第2面側から前記エネルギー線を少なくとも一つの前記ドットに照射して前記質量調整物質を前記振動素子に転写し、前記振動素子の共振周波数を調整する工程と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】実施形態に係る振動子の構成を示す概略平面図。
【
図3】振動子の製造方法を示す工程フローチャート。
【
図4】ドットを形成するための装置を説明するための図。
【
図7】ドットを転写するための装置を説明するための図。
【
図9】振動素子に転写されたドットを説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を具体化した実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下での説明例は、本発明の一実施形態であって、本発明を限定するものではない。また、本実施形態で説明される構成の全てが、本発明の必須構成要件であるとは限らない。また、以下の各図においては、説明を分かりやすくするため、実際とは異なる尺度で記載している場合がある。
【0008】
(実施形態)
まず、実施形態に係る振動子1について、
図1および
図2を参照して説明する。
図1は、実施形態に係る振動子1の構成を示す概略平面図である。
図2は、
図1に示すA-A線における概略断面図である。なお、
図1に示す概略平面図は、概略形状が直方体である振動子1の最も広い面に垂直な方向から振動子1を見た状態を示している。また、
図1においては、振動子1の内部の構成を説明する便宜上、リッド5を取り外した(透視した)状態を図示している。
【0009】
本実施形態に係る振動子1においては、
図1に示すように、内部にMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)素子である振動素子20が形成されている。振動子1は、ベースとしてのSOI(Silicon on Insulator)基板10と、振動素子20を気密封止し内封可能な蓋体としてのリッド5と、を含み構成されている。振動素子20は、三つの振動腕22を含み、隣り合う振動腕22を逆相で振動させる振動素子として機能する。
【0010】
蓋体として機能するリッド5は、直方体状の基板5aと基板5aに接合された枠状の基板5bとを含む。基板5aおよび基板5bの外周は、
図1に示す平面視においてSOI基板10の外周と同様の形状である。本実施形態において、基板5aは、ガラスやシリコン等で構成され、基板5bは、厚さ50μm程度の単結晶シリコン等で構成されている。基板5bは、
図1のように振動子1を見た場合の外縁に沿った枠状をなし、枠の内側が振動素子20を収容するキャビティー7として機能する。
【0011】
リッド5のキャビティー7は、基板5aと基板5bとによって形成される凹形状の空間であり、SOI基板10側に開口している。リッド5は、キャビティー7が設けられた側の面をSOI基板10側に向けた状態、すなわち、基板5bがSOI基板10の振動素子20を囲む状態でSOI基板10に接合されている。
【0012】
SOI基板10は、
図2に示すように、シリコン層11と、BOX(Buried Oxide)層12と、表面シリコン層13とが、この順で積層された基板である。例えば、シリコン層11および表面シリコン層13は、単結晶シリコンで構成され、BOX層12は、酸化ケイ素層(SiO
2等)で構成される。
【0013】
SOI基板10には、表面シリコン層13のシリコンで構成された振動素子20と、表面シリコン層13上に形成された電極パッド50と、振動素子20を駆動するための素子電極と電極パッド50とを接続する複数の配線46(
図2参照、
図1では図示せず)と、電極パッド50と接続しリッド5とは反対側の外面11rに電極を引き出す第1の配線電極58と、第1の配線電極58を形成するための第1の配線用貫通孔52と、リッド5のキャビティー7およびSOI基板10に形成されたキャビティー8により構成される内部空間を気密封止するための貫通孔と、が配設されている。貫通孔は、第1の孔部62および第1の孔部62に連通する第2の孔部64と、第1の孔部62と第2の孔部64との連通部を塞ぐ封止部(不図示)とを含み構成されている。
【0014】
そして、リッド5の枠状の基板5bは、キャビティー7およびキャビティー8により構成される内部空間に振動素子20を収容するように、SOI基板10の表面シリコン層13に、シリコン-シリコンの直接接合によって接合され、振動子1が構成される。
【0015】
振動素子20は、BOX層12によって支持された基部21と、BOX層12が除去された領域上において、基部21以外の周囲のシリコンから分離された複数の振動腕22と、を有している。本実施形態で例示する振動素子20は、並行するように配置されている三つの振動腕22を有しており、
図1に示す平面視において振動腕22は、基部21から第1の孔部62の逆方向に延出している。振動腕22とシリコン層11との間、振動腕22と表面シリコン層13との間、および振動腕22同士の間には、内部空間を構成するキャビティー8が設けられている。また、振動素子20(振動腕22)のリッド5側の面には、シリコン酸化膜である素子調整層30と、素子調整層30の少なくとも一部を覆う圧電駆動部40と、が設けられている。
【0016】
素子調整層30は、振動腕22の共振周波数の温度特性を補正するために設けられている。シリコンは、温度が高くなるにつれて低下する共振周波数を有しており、一方、シリコン酸化膜は、温度が高くなるにつれて上昇する共振周波数を有している。従って、シリコンの振動素子20上にシリコン酸化膜である素子調整層30を配設することにより、振動素子20の振動腕22と素子調整層30とで構成される複合体の共振周波数の温度特性をフラットに近付けることができる。
【0017】
振動腕22に設けられている圧電駆動部40は、第1の保護膜41と、第1の電極42と、圧電体としての圧電体層43と、第2の電極44と、を含んでいる。なお、本実施形態において、第1の電極42および第2の電極44は、圧電体としての圧電体層43の表面に設けられている電極(素子電極)に相当する。詳細に、第1の電極42は、圧電体層43の第1の保護膜41側の表面に配設され、第2の電極44は、圧電体層43の第1の保護膜41と反対側の表面に配設されている。また、ベースとしてのSOI基板10の表面シリコン層13と一体に構成されている基部21(
図1参照)および振動腕22と、第1の電極42と、圧電体としての圧電体層43と、第2の電極44とを含む振動素子20の構成が振動体に相当する。
【0018】
第1の保護膜41は、不純物がドープされていないポリシリコンで構成されているが、アモルファスシリコンで構成されてもよい。また、第1の保護膜41は、ポリシリコンとアモルファスシリコンの積層膜であってもよい。本実施形態において、第1の保護膜41は、振動素子20上に配設されている素子調整層30を覆うように設けられている。このように、第1の保護膜41と振動素子20との間に素子調整層30があることによって、第1の保護膜41が、圧電駆動部40の周囲のシリコン酸化膜のエッチングから素子調整層30を保護することができる。
【0019】
第1の電極42および第2の電極44は、圧電体層43を挟むように配設されている。本実施形態に示す例においては、三つの振動腕22に対応して、3組の第1の電極42、圧電体層43および第2の電極44が配設されている。
【0020】
複数の配線46は、隣り合う振動腕22を逆相で振動させるように、第1の電極42および第2の電極44に電気的に接続されている。また、複数の配線46は、電極パッド50と電気的に接続されており、2つの電極パッド50間に第1の配線電極58や不図示の配線電極を介して外部から電圧を印加することにより、隣り合う振動腕22を逆相で振動させることができる。
【0021】
なお、これらを構成する材料としては、例えば、圧電体層43は、窒化アルミニウム(AlN)等で構成され、第1の電極42および第2の電極44は、窒化チタン(TiN)等で構成され、複数の配線46および電極パッド50は、アルミニウム(Al)または銅(Cu)等で構成されている。
【0022】
振動子1は、2つの電極パッド50を介して、第1の電極42と第2の電極44との間に電圧が印加されると、それによって圧電体層43が伸縮して振動腕22が振動する。その振動は、固有の共振周波数において大きく励起されて、インピーダンスが最小となる。その結果、この振動子1は、発振回路に接続することで、主に振動腕22の共振周波数によって決定される発振周波数で発振する。
【0023】
第1の配線用貫通孔52は、
図1に示すように、平面視で、リッド5のキャビティー7の領域で、振動素子20の幅方向の両側に一つずつ配設され、表面シリコン層13の電極パッド50と重なる位置に配設されている。
【0024】
電極パッド50は、平面視で、第1の配線用貫通孔52と重なる位置において、配線46を介して第1の配線電極58と電気的に接続されるよう配設されている。また、電極パッド50は、第1の配線用貫通孔52と重ならない位置では、表面シリコン層13上に素子調整層30、第1の保護膜41および配線46を介して配設されている。このような構成により、電極パッド50と第1の配線電極58とが電気的に接続され、第1の電極42および第2の電極44を、シリコン層11の振動素子20が形成されている側とは反対側の外面11rに引き出すことができる。なお、第1の配線電極58を構成する材料としては、チタニウム(Ti)やタングステン(W)や銅(Cu)等で構成されている。また、第1の配線電極58は、メッキ法により形成されたメッキ層によって構成されている。
【0025】
リッド5のキャビティー7とSOI基板10のキャビティー8とにより構成される内部空間を気密封止するための封止孔として機能する貫通孔は、シリコン層11および酸化膜としてのBOX層12を貫通する第1の孔部62と、表面シリコン層13を貫通して第1の孔部62に連通する第2の孔部64と、を含み構成されている。
【0026】
貫通孔は、平面視で、リッド5のキャビティー7の領域で、基部21に対して振動腕22が設けられている側と反対側に配設されている。貫通孔を構成する第1の孔部62は、表面シリコン層13に設けられている第2の孔部64と重なる位置に配設されている。また、貫通孔を構成する第1の孔部62は、第2の孔部64に連通するようにシリコン層11およびBOX層12に配設されている。
【0027】
第1の孔部62は、シリコン層11の外面11rからシリコン層11およびBOX層12を貫通している。第1の孔部62によって外面11r側と反対側に開口する開口部には、第1の孔部62と第2の孔部64との連通部となる表面シリコン層13の裏面が対向している。第1の孔部62は、表面シリコン層13の内部空間側(キャビティー7側)と第2の孔部64とが連通されるように表面シリコン層13を貫通している。
【0028】
貫通孔は、第1の孔部62と第2の孔部64との連通部となる表面シリコン層13の裏面側から第2の孔部64にかけて配設される封止膜や封止材の充填などによる封止部(不図示)によって封止されている。これにより、キャビティー7およびキャビティー8により構成される内部空間を気密に封止することができる。
【0029】
なお、振動子1を構成するベースとしてのSOI基板10は、ガラス基板とすることもできる。この場合、ベースとしてのガラス基板は、SOI基板10のシリコン層11に相当するガラス層と、SOI基板10のBOX(Buried Oxide)層12に相当する酸化ケイ素層(SiO2等)と、SOI基板10の表面シリコン層13に相当し、振動素子20を構成する表面ガラス層によって構成することができる。ここで、ベースとしてガラス基板を用いた場合におけるリッド5との接合は、陽極接合、もしくは直接接合を適用することができる。
【0030】
(振動素子の製造方法)
以上の構成に係る本実施形態においては、振動素子20の重量を調整することによって振動素子20の共振周波数を調整することが可能である。以下においては、当該共振周波数の調整を含む振動素子20の製造方法を説明する。
図3は、振動素子20の製造方法を示すフローチャートである。
【0031】
振動素子20の製造方法が開始されると、まず、ウエハにベースとしてのSOI基板10が形成され、当該SOI基板10の一方面側に振動体としての振動素子20が形成される(ステップS10)。当該ステップS10が実施されると、振動素子20が準備された状態となる。具体的には、シリコン層11と、BOX層12と、表面シリコン層13とが、この順で積層されたSOI基板10が形成され、さらに、表面シリコン層13に振動腕22を含む振動素子20の外形形状が形成される。そして、振動腕22に圧電体層43が形成され、圧電体層43の表面に第1の電極42および第2の電極44が形成される。以上の形成工程は、公知の技術によって実現可能であり、例えば、特開2020-36063号公報に開示された各工程と同様の工程で実現可能である。
【0032】
一方、ステップS10と並行して、または、ステップS10の前後のいずれかにおいて透過基板にドットが形成される(ステップS15)。ドットの形成に先立ち、透過基板が準備される。
図4は、ドットを形成するための装置と透過基板130との関係を示す図である。本実施形態において、透過基板130は、板状の部材であり、最も広い2つの面は、ドットDtが形成される第1面130aと、当該第1面の裏面である第2面130bを構成する。透過基板130は、振動素子20の製造に用いられる基板であり、エネルギー線を透過する基板である。本実施形態においてエネルギー線はレーザーであり、透過基板130は光透過性(透光性)を有するガラス基板である。
【0033】
透過基板130が透過させる光の波長は、用いられるレーザーの波長を含めば良く、例えば、可視光領域(波長:350nm~700nm)、近赤外光領域(波長:700nm~2.5μm)、中赤外光領域(波長:2.5μm~4μm)、遠赤外光領域(波長:4μm~1000μm)等が挙げられる。厚さは任意であるが、例えば、厚さ100μm程度の光透過性(透光性)を有するガラス、所謂透明ガラスで構成可能である。このように、光透過性を有する基板としてガラスを用いることにより、容易に入手可能であり、且つ低コストの基板とすることができる。透過基板130は、各種の透過材料で構成されて良く、例えばサファイア基板(サファイアガラス基板)、水晶基板、もしくはアクリル基板(アクリルガラス基板)などを適用することができる。
【0034】
本実施形態においては、インクジェット法によって第1面130aにドットが形成される。本実施形態において、ドットは質量調整物質を含んでいる。また、透過基板130の第1面130aには、質量が異なる複数のドットが形成される。なお、質量調整物質は、振動素子20の質量を調整することができる物質であり、例えば、銀等の金属、各種の合金、酸化物等を用いることができる。
【0035】
図4においては、透過基板130にドットを形成するための装置の概略も示されている。本実施形態においては、ドット形成のためのインクジェット印刷装置100と、透過基板130またはインクジェット印刷装置100を移動させるための移動制御部110が用いられる。本例においては、透過基板130が、図示しないX-Yステージに取り付けられる。移動制御部110は、X-Yステージに取り付けられた透過基板130を2次元的に移動させることができる。また、移動制御部110は、X-Yステージでの移動と同期させてインクジェット印刷装置100を制御し、図示しないノズルから質量調整物質を含む記録材を吐出させることができる。なお、移動制御部110は、インクジェット印刷装置100を移動させてもよいし、インクジェット印刷装置100とSOI基板10との双方を移動させても良い。
【0036】
本実施形態においては、
図4に示すように、透過基板130の第1面130aがインクジェット印刷装置100側になるように、X-Yステージにセットされる。従って、インクジェット印刷装置100のノズルから透過基板130に向けて吐出された記録材は、第1面130aに印刷される。本実施形態において、記録材は、質量調整物質と溶媒と分散剤とを含んでいる。従って、記録材が透過基板130の第1面130aに印刷され、溶媒および分散剤が揮発すると第1面130a上にドットDtが形成される。なお、本実施形態においてインクジェット印刷装置100によるドットの形成は大気中で実施されるが、アルゴン雰囲気などでもよく、大気圧と同等の環境で実施されて良い。
【0037】
本実施形態において、ドットDtは、透過基板130の第1面130aにおいて、質量毎に配列される。
図5は、ドットDtが形成された透過基板130を第1面130a側から見た場合の例を示す図である。
図5においては、透過基板130に複数の径のドットDtl,Dtm,Dtsが形成されている例を示している。各ドットDtl,Dtm,Dtsにおいては、ドットに含まれる質量調整物質の質量が異なっている。以下、ドットDtlを大ドット、ドットDtmを中ドット、ドットDtsを小ドットと呼ぶ。
【0038】
各ドットに含まれる質量調整物質の質量は、大ドットDtl>中ドットDtm>小ドットDtsである。このようなドット径の大きさの調整は、例えば、インクジェット印刷装置100が備えるピエゾ素子の駆動電圧を調整することによって実現可能である。また、ピエゾ素子の駆動電圧を調整することで、大ドットDtl,中ドットDtm,小ドットDtsの径の大きさを微調整することも可能である。
【0039】
本実施形態において複数のドットは、質量毎に第1面130aに配列される。例えば、
図5に示す例であれば、ドットに含まれる質量調整物質の質量が最も大きい大ドットDtlは、透過基板130の長さ方向に3個、幅方向に6個並べて配列されている。質量調整物質の質量が2番目に大きい中ドットDtmは、透過基板130の長さ方向に3個、幅方向に9個並べて配列されている。質量調整物質の質量が最も小さい小ドットDtsは、透過基板130の長さ方向に4個、幅方向に12個並べて配列されている。また、本実施形態においては、透過基板130の先端側から反対側に向けて大ドットDtl,中ドットDtm,小ドットDtsの順に配列されている。
【0040】
本実施形態においては、透過基板130に形成されたドットDtに含まれる質量調整物質が振動素子20に対して転写されることによって、振動素子20の共振周波数が調整される。すなわち、質量調整物質によって振動素子20の質量が調整されることによって振動素子20の共振周波数が調整される。このため、透過基板130に形成されるドットDtに含まれる質量調整物質の質量は、一つのドットDtによって振動素子20に与える共振周波数の変化幅に基づいて決定される。
【0041】
具体的には、ドットDtに含まれる質量調整物質の質量に対応した共振周波数の変化幅、共振周波数の変化幅の代表値が特定され、図示しない記憶媒体にデータベースとして登録されている。
図6は、データベースの構成例を示す図である。
図6に示すデータベースにおいては、ドットDtの質量に対して、当該ドットDtが振動素子20に形成されることによる共振周波数の変化幅が対応付けられている。本例において、ドットDtの質量は、大ドットDtlの質量Wl,中ドットDtmの質量Wm、小ドットDtsの質量Wsの3種類である。各質量に対して、共振周波数の変化幅が対応付けられる。例えば、質量Wlのドットを振動素子20に形成すると、振動素子20の共振周波数はΔflだけ変化する。
【0042】
なお、振動素子20に転写される質量調整物質の位置が異なると共振周波数の変化幅が異なり得る。このため、データベースにおいては、ドットの質量と、質量調整物質が振動素子20に転写される位置と、の組合せに対して共振周波数の変化幅が対応付けられていても良い。この場合、後述の共振周波数の調整工程において、ドットの質量および位置が選択され、質量調整物質が振動素子20に対して転写される。この構成によれば、より詳細に共振周波数を調整することができる。
【0043】
図5に示す例は一例であり、任意のドットが任意の位置に形成され得る構成であっても良い。また、大ドット、中ドット、小ドット等の区別がなくドットの質量が変化する様に構成されていても良いし、ドットの種類はより多数であっても良いし、少数であっても良い。なお、本実施形態においては、質量調整物質が透過基板130から振動素子20に転写されることにより、当該ドットDtに含まれる質量調整物質の質量と同じだけ振動素子20の質量が増加するため、ドットの形成により共振周波数は小さくなる。但し、
図6において共振周波数の変化幅は、変化の大きさを示す正の値としてデータベース化される。
【0044】
ステップS10における振動素子20の形成工程およびステップS15におけるドットの形成工程が終了すると、透過基板130とウエハとが対向した状態で真空槽内に設置される(ステップS20)。ここで、透過基板130とウエハとが対向した状態とは、透過基板130上に形成されたドットDtが振動素子20の振動腕22に向いた状態である。
【0045】
図7は、SOI基板10と、レーザー光学系200と、SOI基板10を移動させる移動制御部210と、の関係を模式的に示す図である。ステップS10における振動素子20の形成工程が終了すると、例えば、
図2に示す断面図において、リッド5が接合されていない状態となる。
図7においては、振動素子20の形成工程が終了することによって得られた、リッド5が接合されていない振動子1の概略断面図を示している。
図7においては、振動子1の一部を
図1に示すB-B線で切断した状態の振動子1の概略断面図で示している。但し、
図7における振動素子20の断面図は概略図であり、例えば、圧電駆動部40は省略されている。以上のようにして形成された振動素子20において、振動腕22にはシリコン層11側を向いた面とシリコン層11と反対側を向いた面とが存在する。本実施形態においては、シリコン層11と反対側の面を第1面22a、シリコン層11側の面を第2面22bと呼ぶ。
【0046】
なお、振動素子20はウエハに形成されるため、複数の振動子1が備える振動素子20が同時に形成される。すなわち、SOI基板10は、ウエハに複数個形成される。本実施形態においては、ウエハ上で特定の方向にSOI基板10が複数個並び、さらに、当該特定の方向に垂直な方向にもSOI基板10が複数個並ぶように形成される。従って、SOI基板10は、ウエハ上で格子状に並ぶ。
図7においては、複数個存在するSOI基板10の中の1個を模式的に示している。
【0047】
SOI基板10が形成されたウエハと、透過基板130とは、真空槽221内に設置される。すなわち、真空槽221には、図示しないウエハの保持部と透過基板130の保持部とが設けられている。本実施形態においては、透過基板130の第1面130aが振動素子20に向くように、透過基板130およびウエハが真空槽221内に配置され、保持される。真空槽221内に透過基板130およびSOI基板10が保持されると、図示しない真空ポンプによって真空槽221内が真空引きされる。真空槽221においては、レーザー光学系200とSOI基板10との間に位置する面の少なくとも一部が透過材料221a(例えばガラス)で構成されている。
【0048】
レーザー光学系200は、透過材料221aを透過するレーザーを出力する光学系である。SOI基板10が形成されたウエハ、透過基板130は、図示しない移動機構に取り付けられる。移動制御部210は、レーザー光学系200から出力されたレーザーが透過基板130に形成された任意のドットに照射されるように、レーザー光学系200と透過基板130との相対位置関係を制御することができる。また、移動制御部210は、レーザーが照射されたドットが揮発し、質量調整物質が所望の振動素子20に転写されるように、透過基板130とウエハとの相対位置関係を制御することができる。移動制御部210は、ウエハ、透過基板130およびレーザー光学系200の少なくとも一つを移動させることによって、任意のドットにレーザーを照射可能であり、任意の振動素子20に質量調整物質を転写することができればよい。ここでは、レーザー光学系200および透過基板130の位置が固定された状態で、ウエハが移動される例を説明する。
【0049】
真空槽221内に透過基板130およびウエハが設置され、真空引きが完了すると、スタート列の処理位置にウエハが移動され(ステップS30)、周波数調整処理(ステップS40)が行われる。本実施形態にかかるウエハおいては、2次元方向に並ぶ複数のSOI基板10が格子状に配列されている。本実施形態においては、複数のSOI基板10が並ぶ格子の一方向を行方向、行方向に直交する方向を列方向としたとき、一行毎または一列毎に周波数調整が行われる。周波数調整処理の詳細は後述する。
【0050】
本明細書では、一列毎に周波数調整が行われる例が想定されており、行方向において最も端に位置する列が最初に処理されるスタート列であり、1列の処理が終了すると処理対象が順次隣の列に移動し、逆側の列まで処理が行われる。そこで、ステップS30においては、スタート列に存在する振動素子20を調整するための初期位置に透過基板130が配置されるように移動制御部210によってウエハが移動される。
【0051】
次に、ステップS40において、処理対象の列に存在する振動素子20の周波数調整処理が行われる。処理対象の列に存在する振動素子20の周波数調整処理が行われると、全ての列の調整が終了したか否か判定される(ステップS50)。ステップS50において、全ての列の調整が終了したと判定されない場合、次の列の処理位置にウエハが移動される(ステップS60)。すなわち、次に処理対象となる列に存在する振動素子20を調整するための初期位置に透過基板130が配置されるように移動制御部210によってウエハが移動される。そして、当該列を処理対象として、ステップS40の周波数調整処理が行われる。
【0052】
ステップS50において、全ての列の調整が終了したと判定された場合、ウエハが真空槽221から取り出され(ステップS70)、振動素子20が封入される(ステップS80)。振動素子20の封入は、リッド5の形成、接合、振動子1の内部空間の真空引き、封止を含む。具体的には、基板5aに基板5bが接合され、基板5aに接合された基板5bが枠状にエッチングされることによってリッド5が形成される。リッド5の形成工程は、公知の技術によって実現可能であり、例えば、特開2020-36063号公報に開示された各工程と同様の工程で実現可能である。
【0053】
リッド5が形成されると、リッド5を構成する枠状の基板5bの枠内(キャビティー7)に振動素子20が配置された状態で、基板5bと表面シリコン層13とが接合される。このときの接合は、SOI基板10の表面シリコン層13と、リッド5を構成する枠状の基板5bとの、シリコン-シリコンの直接接合が適用される。
【0054】
リッド5が表面シリコン層13に接合され、振動子1として一体化されると、振動子1の内部空間が真空引きされる。すなわち、
図1に示す第1の孔部62、第2の孔部64を介して、図示しない減圧器等によって振動子1の内部空間が減圧され、既定の圧力以下とされる。その後、表面シリコン層13の裏面側から第2の孔部64にかけて配設される封止膜や封止材の充填などによって封止されている。これにより、キャビティー7およびキャビティー8により構成される内部空間が真空状態となって封止される。以上のようにして複数の振動子1が形成されると、各振動子1が切断されて複数の振動子1が完成する。
【0055】
次に、ステップS40における周波数調整処理を説明する。
図8は、周波数調整処理のフローチャートである。周波数調整処理が開始されると、処理対象の列内の振動素子20の共振周波数fが測定される(ステップS400)。すなわち、SOI基板10または振動素子20に対して、図示しないプローブが電気的に接続され、各振動素子20の共振周波数fが測定される。共振周波数fを測定するための回路は、公知の回路によって実現可能である。
【0056】
次に、所望の共振周波数f0との差分が算出される(ステップS405)。すなわち、測定された共振周波数fと所望の共振周波数f0との差分であるf-f0が、振動素子20のそれぞれについて算出される。なお、当該差分はf-f0の絶対値である(以下同様)。次に、処理対象の列内に差分が閾値以上の振動素子20が存在するか否か判定される(ステップS410)。ここで、閾値は、振動素子20の共振周波数fが所望の共振周波数f0と一致したと見なせるか否か判定するための値であり、予め決定される。
【0057】
ステップS410において、処理対象の列内に差分が閾値以上の振動素子20が存在すると判定されない場合、処理対象の列内に存在する全ての振動素子20の共振周波数fが所望の共振周波数f0と一致していると見なされる。この場合、処理対象の列内に存在する振動素子20について周波数調整を行う必要はない。このため、処理対象の列の周波数調整処理が終了し、
図3に示すフローチャートに戻る。
【0058】
ステップS410において、処理対象の列内に差分が閾値以上の振動素子20が存在すると判定された場合、差分が閾値以上の振動素子20が調整対象の振動素子20となる。次に、測定された共振周波数fが所望の共振周波数f0より小さい振動素子20が調整対象外に設定される(ステップS415)。本実施形態においては、透過基板130に形成されたドットDtにレーザーを照射し、質量調整物質を振動素子20に転写することによって共振周波数fが調整される。振動素子20の質量が大きくなるほど、共振周波数fは小さくなるため、本実施形態においては、振動素子20に質量調整物質が転写されていない状態において、共振周波数fが所望の共振周波数f0より大きくなるように設計されている。このため、設計通りであれば、振動素子20に対して質量調整物質を転写させていくことで、共振周波数fが小さくなるように調整し、所望の共振周波数f0に近づけることができる。
【0059】
しかし、転写前のステップS415において既に共振周波数fが所望の共振周波数f0より小さい振動素子20は、所望の共振周波数f0に調整することができない。このような状況は通常発生しないが、振動素子20の製造過程で不具合等が生じた場合に発生し得る。そこで、ステップS410において、調整対象とされた振動素子20であっても、共振周波数fが所望の共振周波数f0より小さくなっている振動素子20は、調整対象から除外される。
【0060】
次に、列内の振動素子20の全てについて調整が終了したか否か判定される(ステップS420)。すなわち、ステップS415の処理により、調整対象とされた振動素子20が存在しなくなったか、または、ステップS420~S465のループ処理の過程で、振動素子20の周波数調整が進み、調整対象の振動素子20がなくなった場合、列内の振動素子20の全てについて調整が終了したと判定される。ステップS420において、列内の振動素子20の全てについて調整が終了したと判定された場合、処理対象の列の周波数調整処理が終了したことになるため、
図3に示すフローチャートに戻る。
【0061】
一方、ステップS420において、列内の振動素子20の全てについて調整が終了したと判定されない場合、列内の振動素子20の一つが選択される(ステップS425)。すなわち、ステップS430~S445のループ処理の対象として選択されていない振動素子20の中から一つの振動素子20が選択される。次に、選択された振動素子20の共振周波数fが所望の共振周波数f0より大きいか否か判定される(ステップS430)。ステップS430において、選択された振動素子20の共振周波数fが所望の共振周波数f0より大きいと判定された場合、共振周波数fを小さくする調整が必要である。この場合、ドットDtにレーザーが照射され、質量調整物質が振動素子20に転写されて質量が大きくなれば、共振周波数fが小さくなり、共振周波数fを共振周波数f0に近づけることができる。
【0062】
そこで、共振周波数の差分f-f0に基づいて、レーザーの照射による転写対象のドットが特定される(ステップS435)。具体的には、
図6に示すデータベースが参照されて、転写対象のドットが特定される。ドットを特定するための処理は、種々の処理であって良い。例えば、大ドットDtl,中ドットDtm,小ドットDtsの中から任意の数のドットが選択され、選択されたドットによる共振周波数の変化幅の和が算出される。そして、当該和が差分f-f0に最も近くなるようにドットの数が特定される。
【0063】
図6に示す例において、例えば、振動素子20にドットが転写されていない状態を想定する。この状態においてf-f0がΔfl+Δfm+Δfsにほぼ等しい場合、大ドットDtl,中ドットDtm,小ドットDtsが転写対象として特定される。
【0064】
一方、ステップS430において、選択された振動素子20の共振周波数fが所望の共振周波数f0より大きいと判定されない場合、共振周波数fが所望の共振周波数f0より小さい状態である。従って、共振周波数fを大きくする調整が必要である。この場合、既に振動素子20に形成されているドットDtにレーザーが照射され、質量調整物質が振動素子20から除去されて質量が小さくなれば、共振周波数fが大きくなり、共振周波数fを共振周波数f0に近づけることができる。
【0065】
そこで、共振周波数の差分f-f0に基づいて、レーザーの照射による除去対象のドットが特定される(ステップS440)。具体的には、
図6に示すデータベースが参照されて、除去対象のドットが特定される。ドットを特定するための処理は、種々の処理であって良い。例えば、選択された振動素子20に既に転写されたドットが特定される。なお、ここでは、透過基板130から振動素子20に転写された質量調整物質もドットと呼ぶ。さらに、転写されたドットに含まれていた質量調整物質の質量に対応した共振周波数の変化幅が特定される。そして、共振周波数の変化幅の和が、差分f-f0に最も近くなるように、転写されたドットDtの組合せが特定される。
【0066】
図6に示す例において、例えば、振動素子20に大ドットDtl,中ドットDtm,小ドットDtsが一つずつ転写されている状態を想定する。この状態において、f-f0がΔfm+Δfsにほぼ等しい場合、中ドットDtm,小ドットDtsの転写によって振動素子20に形成されたドットが除去対象のドットとなる。
【0067】
次に、列内の振動素子20の全てについて対象が特定されたか否か判定される(ステップS445)。すなわち、処理対象の列内に存在し、調整対象から除外されていない振動素子20の全てについて、ステップS435において転写対象が特定されるか、または、ステップS440において除去対象が特定された場合、列内の振動素子20の全てについて対象が特定されたと見なされる。ステップS445において、列内の振動素子20の全てについて対象が特定されたと判定されない場合、ステップS425以降の処理が繰り返される。
【0068】
ステップS445において、列内の振動素子20の全てについて対象が特定されたと判定された場合、転写対象および除去対象のドットにレーザーが照射される(ステップS450)。すなわち、ステップS435およびS440で特定された転写対象および除去対象にレーザーが照射される。
【0069】
具体的には、転写対象が特定された振動素子20についての処理が行われる場合、透過基板130に形成してあるドットのうち、ステップS435において特定されたドットが振動素子20に対向するように、移動制御部210がウエハを移動させる。そして、レーザー光学系200からレーザーが出力され、第2面130b側から当該ドットに照射される。この結果、レーザーが照射されたドットに含まれている質量調整物質が振動素子20に転写される。同一の振動素子20に対して複数のドットが転写される場合、移動制御部210は、各ドットを転写可能な位置にウエハを移動させ、レーザー光学系200によってレーザーが照射される。
【0070】
本実施形態において、ドットは、振動腕22の基部21とは反対側の先端部に転写される。
図9は、振動素子20の振動腕22における先端部23を模式的に示す図である。
図9に示されるように、透過基板130に形成されたドットは、振動素子20に対して転写され、振動素子20上で質量調整物質がドットを形成する。転写が行われる領域は、先端部23である。
【0071】
さらに、本実施形態において、質量が最も小さいドットは、先端部23における基部21側に配置され、質量が最も大きいドットは、先端部23における基部21側とは反対側に配置される。このような構成は、例えば、先端部23において、大ドットDl用の領域23a,中ドットDm用の領域23b,小ドットDs用の領域23cが設けられており、各領域に各ドットが転写される構成によって実現可能である。なお、
図9においては、領域23a~23cに転写可能なドットの最大数まで転写されている状態が示されている。しかし、実際には、ステップS435において特定されたドットが振動素子20に転写されることになるため、多くの場合、転写されるドットの数はより少ない。
【0072】
除去対象が特定された振動素子20についての処理が行われる場合、振動素子20に対して質量調整物質が転写されて振動素子20上に形成されたドットのうち、ステップS440において特定されたドットがレーザーの照射位置に配置されるように、移動制御部210がウエハを移動させる。そして、レーザー光学系200からレーザーが出力され、振動素子20上のドットに照射される。この結果、レーザーが照射されたドットに含まれている質量調整物質が振動素子20から除去される。同一の振動素子20から複数のドットが除去される場合、移動制御部210は、各ドットを除去可能な位置にウエハを移動させ、レーザー光学系200によってレーザーが照射される。
【0073】
次に、調整対象の振動素子20の共振周波数fが測定される(ステップS455)。すなわち、SOI基板10または振動素子20に対して、図示しないプローブが電気的に接続され、調整対象の振動素子20の共振周波数fが測定される。共振周波数fを測定するための回路は、公知の回路によって実現可能である。次に、所望の共振周波数f0との差分が算出される(ステップS460)。すなわち、測定された共振周波数fと所望の共振周波数f0との差分であるf-f0が、振動素子20のそれぞれについて算出される。
【0074】
次に、差分が閾値以下の振動素子20が調整対象から除外される(ステップS465)。ここで、閾値は、ステップS410で用いられた閾値と同一である。すなわち、共振周波数fが所望の共振周波数f0と一致したと見なせる場合、その振動素子20は、調整対象から除外される。この後、ステップS420に戻り、処理が続けられる。すなわち、列内の振動素子の全てについて調整が終了するまで、ステップS425~S465の処理が繰り返される。むろん、この処理には例外が設けられていても良い。例えば、同一の振動素子20に対して既定回数の転写および除去が行われても差分f-f0が閾値以下にならない場合には、当該振動素子20を調整対象から除外する等の処理が行われてもよい。
【0075】
以上の構成によれば、振動素子20に対して質量調整物質を転写させていくことによって、振動素子20の共振周波数fを所望の共振周波数f0に調整することができる。従って、振動素子20に対して質量調整物質が付されていない状態から共振周波数の調整を開始することができる。このため、従来技術のように、予め過大な量の調整膜を振動素子20に形成させておく必要はなく、質量調整物質の無駄が生じにくい。
【0076】
また、本実施形態において、透過基板130上のドットDtはインクジェット法によって形成される。インクジェット法は、極めて少量の記録材であっても正確に印刷することが可能である。このため、本実施形態によれば、所望の質量のドットを容易に形成することができる。
【0077】
さらに、本実施形態においては、透過基板130上に予め決められた質量のドットが形成されており、当該質量は、ドットの有無によって振動素子20に与えられる共振周波数の変化幅に対応している。従って、本実施形態によれば、ドットの形成または除去により、正確に既定の変化幅で共振周波数を変化させることができ、効率的に周波数調整を行うことができる。また、透過基板130上に質量が異なる複数のドットが形成されることにより、振動素子20の共振周波数の調整自由度を向上させることができ、正確な共振周波数の調整を行うことが容易になる。さらに、ドットは、透過基板130上に質量毎に配列されるため、容易に共振周波数の変化幅を選択可能であり、周波数調整が容易になる。
【0078】
さらに、本実施形態において、ドットは振動素子20の振動腕22の先端に形成される。ドットは、振動腕22の基部側よりも先端側に形成された方が、ドットの有無による共振周波数の変化幅が大きくなる。従って、本実施形態においては、基部21側にドットが形成される構成と比較して、効率的に共振周波数を変化させることが可能である。
【0079】
さらに、本実施形態においては、小ドットは大ドットよりも基部21側に形成される。小ドットは、大ドットよりも質量が小さいため、小ドットの有無によって変化する共振周波数の変化幅は大ドットより小さい。また、ドットは、振動腕22の先端側よりも基部21側に形成された方が、ドットの有無による共振周波数の変化幅が小さくなる。従って、小ドットが基部21側に形成されると、共振周波数を微調整することが容易になる。また、大ドットが基部21と反対側に形成されると、共振周波数を粗調整することが容易になる。
【0080】
さらに、透過基板130上に形成されたドットの転写と、振動素子20に形成されたドットの除去は、真空槽221内で実施される。振動子1は封止された状態、すなわち、内部空間が真空である状態で使用される。このため、真空以外の状態、例えば、大気中で振動素子20の共振周波数が調整されると、真空状態での共振周波数と異なる場合がある。この結果、振動子1の使用時の共振周波数を、所望の共振周波数に調整することが困難になる。しかし、本実施形態においては、真空中で共振周波数が調整されるため、振動子1が使用される際の共振周波数を容易に所望の共振周波数に調整することができる。
【0081】
さらに、本実施形態によれば、エネルギー線であるレーザーを振動素子20上に形成されたドットに照射することにより、ドットを容易に除去することができる。このため、共振周波数の調整過程において、振動素子20の共振周波数が小さくなりすぎた場合であっても、ドットの除去により、共振周波数を大きくすることが可能である。この結果、振動素子20および振動子1が不良品となることを防止することができる。
【0082】
(他の実施形態)
上述の実施形態は本発明を実施するための例であり、他にも種々の実施形態を採用可能である。例えば、振動腕22の数は3個に限定されない。また、ドットの数、質量、形成位置等は上述の例に限定されない。例えば、任意の大きさのドットが振動素子20の先端部23の任意の位置に形成されても良い。さらに、透過基板130の第1面130aに形成されたドットに対して第2面130b側から、光軸が第2面130bに垂直なレーザーが照射される構成に限定されない。例えば、レーザーの光軸は第2面130bに傾斜していても良いし、第1面130a側からレーザーがドットに照射されても良い。
【0083】
振動素子を準備する工程は、質量調整物質を転写可能な振動腕を有する振動素子を準備することができればよく、工程は、上述の実施形態のような工程に限定されない。また、振動素子の準備が完了した場合における振動素子周辺の構成は、
図7のような構成に限定されず、例えば、第1の保護膜41,配線46,電極パッド50が形成されていない状態の振動素子が準備されても良い。
【0084】
透過基板を準備する工程は、エネルギー線を透過する基板であって、ドットが形成される第1面と表裏の関係にある第2面を有する基板を準備することができればよい。従って、透過基板の形状は直方体に限定されず、第1面および第2面を有する他の形状であっても良い。
【0085】
ドットを形成する工程は、第1面に質量調整物質を含む複数のドットを形成することができればよい。ドットの形成方法はインクジェット法に限定されず、例えば、マスクとエッチングとを用いる半導体製造プロセスが適用されてドットが形成されても良い。
【0086】
透過基板の前記第1面側を振動素子に向けて配置する工程は、第1面に形成されたドットにエネルギー線が照射されることにより、ドットに含まれる質量調整物質が振動素子に転写される工程であれば良い。従って、第1面と振動素子の転写先の面とが平行である構成に限定されず、両者の距離等も限定されない。
【0087】
振動素子の共振周波数を調整する工程は、第2面側からエネルギー線を少なくとも一つのドットに照射して質量調整物質を振動素子に転写することができればよい。すなわち、透過基板を透過したエネルギー線が透過基板からドットを除去し、かつ、除去によって質量調整物質が振動素子の表面に移動し、付着するように、透過基板の厚さおよび材料、エネルギー線のエネルギー、ビーム径等が調整されれば良い。振動素子に転写されたドットの除去においても、振動素子に転写されたドット毎に除去ができるように、エネルギー線のエネルギー、ビーム径等が調整されれば良い。
【0088】
以上の実施形態は発明を実施する例である。従って、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置換することができる。また、本発明に、他の任意の構成物が付加されていてもよい。また、前述した各実施形態を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0089】
1…振動子、5…リッド、5a…基板、5b…基板、7…キャビティー、8…キャビティー、10…SOI基板、11…シリコン層、12…BOX層、13…表面シリコン層、20…振動素子、21…基部、22…振動腕、22a…第1面、22b…第2面、23…先端部、30…素子調整層、40…圧電駆動部、41…第1の保護膜、42…第1の電極、43…圧電体層、44…第2の電極、46…配線、50…電極パッド、52…第1の配線用貫通孔、58…第1の配線電極、62…第1の孔部、64…第2の孔部、100…インクジェット印刷装置、110…移動制御部、130…透過基板、130a…第1面、130b…第2面、200…レーザー光学系、210…移動制御部、221…真空槽、221a…透過材料