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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129286
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】振動素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H03H 3/04 20060101AFI20240919BHJP
   H03H 3/007 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
H03H3/04 B
H03H3/007 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038388
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】大西 一
【テーマコード(参考)】
5J108
【Fターム(参考)】
5J108AA02
5J108BB01
5J108CC06
5J108DD05
5J108EE03
5J108KK01
5J108KK05
5J108MM08
5J108MM11
5J108NA03
5J108NB05
(57)【要約】
【課題】振動素子の共振周波数を所望の共振周波数に調整すること。
【解決手段】第1面と前記第1面の裏面である第2面とを有する振動素子を準備する工程と、前記第1面に質量調整物質を含み、質量が異なる複数のドットを形成する工程と、エネルギー線を少なくとも一つの前記ドットに照射して前記振動素子から除去し、前記振動素子の共振周波数を調整する工程と、を含む製造方法で振動素子を製造する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面と前記第1面の裏面である第2面とを有する振動素子を準備する工程と、
前記第1面に、質量調整物質を含み、質量が異なる複数のドットを形成する工程と、
エネルギー線を少なくとも一つの前記ドットに照射して前記振動素子から除去し、前記振動素子の共振周波数を調整する工程と、
を含む振動素子の製造方法。
【請求項2】
前記ドットは、インクジェット法によって形成される、
請求項1に記載の振動素子の製造方法。
【請求項3】
前記ドットに含まれる前記質量調整物質の質量は、一つの前記ドットによって前記振動素子に与える共振周波数の変化幅に基づいて決定される、
請求項1または請求項2に記載の振動素子の製造方法。
【請求項4】
複数の前記ドットは、質量毎に前記第1面に配列される、
請求項1または請求項2に記載の振動素子の製造方法。
【請求項5】
前記振動素子の共振周波数は真空中で調整される、
請求項1または請求項2に記載の振動素子の製造方法。
【請求項6】
前記振動素子は、基部と、前記基部から延出した複数の振動腕を含み、
前記ドットは、前記振動腕の前記基部とは反対側の先端部に形成される、
請求項1または請求項2に記載の振動素子の製造方法。
【請求項7】
複数の前記ドットは、質量毎に前記第1面に配列され、
質量が最も小さい前記ドットは、前記先端部における前記基部側に配置され、
質量が最も大きい前記ドットは、前記先端部における前記基部側とは反対側に配置される、
請求項6に記載の振動素子の製造方法。
【請求項8】
前記振動素子は、水晶またはシリコンから構成されており、
前記振動素子の共振周波数を調整する工程において、前記エネルギー線は、前記振動素子の前記第2面側から照射される、
請求項1または請求項2に記載の振動素子の製造方法。
【請求項9】
前記振動素子が固定された第1基板に、少なくとも一部が前記エネルギー線を透過する透過材料で構成された第2基板を接合し、前記第1基板と前記第2基板との間に前記振動素子を封入する工程、を含み、
前記振動素子の共振周波数を調整する工程において、前記エネルギー線が、前記透過材料を透過して、前記ドットに照射される、
請求項1または請求項2に記載の振動素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、振動素子の質量を調整することによって振動素子の共振周波数を調整する技術が知られている。例えば、特許文献1には、電極を有するMEMS素子が設けられたベースと光透過性を有する基板を含むリッドとが接合された振動体に対し、光透過性を有する基板を介してレーザーを電極に照射し、蒸発・昇華させることによって、電極の一部を除去し、振動部の共振周波数を調整する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-36063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の従来技術においては、レーザーの出力のばらつきや、レーザーを照射する位置のばらつき、レーザーを照射する時間のばらつきなどに起因して、除去される電極の量がばらついてしまい、所望の共振周波数に調整することができないおそれがあった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための一実施形態としての振動素子の製造方法は、第1面と前記第1面の裏面である第2面とを有する振動素子を準備する工程と、前記第1面に質量調整物質を含み、質量が異なる複数のドットを形成する工程と、前記エネルギー線を少なくとも一つの前記ドットに照射して前記振動素子から除去し、前記振動素子の共振周波数を調整する工程と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】実施形態に係る振動子の構成を示す概略平面図。
図2】振動子の構成を示す図1のA-A断面図。
図3】振動子の製造方法を示す工程フローチャート。
図4】ドットを形成するための装置を説明するための図。
図5】振動素子に形成されたドットを示す図。
図6】ドット形成の処理を示すフローチャート。
図7】データベースの例を示す図。
図8】周波数調整処理のフローチャート。
図9】ドットを除去するための装置を説明するための図。
図10】他の実施形態に係る振動子の製造方法を示す工程フローチャート。
図11】他の実施形態に係る周波数調整処理のフローチャート。
図12】他の実施形態に係るドットを除去するための装置を説明するための図。
図13】他の実施形態に係るドットを除去するための装置を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を具体化した実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下での説明例は、本発明の一実施形態であって、本発明を限定するものではない。また、本実施形態で説明される構成の全てが、本発明の必須構成要件であるとは限らない。また、以下の各図においては、説明を分かりやすくするため、実際とは異なる尺度で記載している場合がある。
【0008】
(実施形態)
まず、実施形態に係る振動子1について、図1および図2を参照して説明する。図1は、実施形態に係る振動子1の構成を示す概略平面図である。図2は、図1に示すA-A線における概略断面図である。なお、図1に示す概略平面図は、概略形状が直方体である振動子1の最も広い面に垂直な方向から振動子1を見た状態を示している。また、図1においては、振動子1の内部の構成を説明する便宜上、リッド5を取り外した(透視した)状態を図示している。
【0009】
本実施形態に係る振動子1においては、図1に示すように、内部にMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)素子である振動素子20が形成されている。振動子1は、ベースとしてのSOI(Silicon on Insulator)基板10と、振動素子20を気密封止し、内封可能な蓋体としてのリッド5と、を含み構成されている。振動素子20は、三つの振動腕22を含み、隣り合う振動腕22を逆相で振動させる振動素子として機能する。
【0010】
蓋体として機能するリッド5は、光透過性(透光性)を有する基板としてのガラス基板5aと、ガラス基板5aに接合されている枠状のシリコン基板5bとを含み構成されている。ガラス基板5aとシリコン基板5bとは、例えば陽極接合法を用いて接合されている。ここでの「光」とは、後述するエネルギー線としてのレーザーを含む。従って、ガラス基板5aは、エネルギー線を透過する透過材料で構成された第2基板である。ガラス基板5aが透過させる光の波長としては、例えば、可視光領域(波長:350nm~700nm)、近赤外光領域(波長:700nm~2.5μm)、中赤外光領域(波長:2.5μm~4μm)、遠赤外光領域(波長:4μm~1000μm)の少なくともいずれかを含む。
【0011】
ガラス基板5aは、厚さ100μm程度の光透過性(透光性)を有するガラス、所謂透明ガラスで構成されている。このように、光透過性を有する基板としてガラスを用いることにより、容易に入手可能であり、且つ低コストの基板とすることができる。
【0012】
なお、ガラス基板5aは、アルカリイオン(アルカリ金属イオン、可動イオン)を含むガラス(例えば、パイレックス(登録商標)ガラスやテンパックス(登録商標)ガラスのような硼珪酸ガラス)を用いるのが好ましい。このように、アルカリイオンを含むガラスをガラス基板5aに用いることにより、ガラス基板5aとシリコン基板5bとの接合を陽極接合により容易に行なうことができる。
【0013】
また、ガラス基板5aは、レーザーを透過し、透過したレーザーを振動素子20に照射可能であれば良い。従って、ガラス基板5aは、少なくとも一部においてレーザーを透過する基板であっても良い。さらに、リッド5は各種の透過材料で構成されて良く、例えばサファイア基板(サファイアガラス基板)、水晶基板、もしくはアクリル基板(アクリルガラス基板)などを適用することができる。
【0014】
本実施形態において、ガラス基板5aに接合されているシリコン基板5bは、厚さ50μm程度の単結晶シリコン等で構成されている。シリコン基板5bは、図1のように振動子1を見た場合の外縁に沿った枠状をなし、枠の内側が振動素子20を収容するキャビティー7として機能する。
【0015】
リッド5のキャビティー7は、ガラス基板5aとシリコン基板5bとによって形成される凹形状の空間であり、SOI基板10側に開口している。リッド5は、キャビティー7が設けられた側の面をSOI基板10側に向けた状態、すなわち、シリコン基板5bがSOI基板10の振動素子20を囲む状態でSOI基板10に接合されている。
【0016】
基板としてのSOI基板10は、図2に示すように、シリコン層11と、BOX(Buried Oxide)層12と、表面シリコン層13とが、この順で積層された基板である。例えば、シリコン層11および表面シリコン層13は、単結晶シリコンで構成され、BOX層12は、酸化ケイ素層(SiO2等)で構成される。
【0017】
SOI基板10には、表面シリコン層13のシリコンで構成された振動素子20と、表面シリコン層13上に形成された電極パッド50と、振動素子20を駆動するための素子電極と電極パッド50とを接続する複数の配線46(図2参照、図1では図示せず)と、電極パッド50と接続しリッド5とは反対側の外面11rに電極を引き出す第1の配線電極58と、第1の配線電極58を形成するための第1の配線用貫通孔52と、リッド5のキャビティー7およびSOI基板10に形成されたキャビティー8により構成される内部空間を気密封止するための貫通孔と、が配設されている。貫通孔は、第1の孔部62および第1の孔部62に連通する第2の孔部64と、第1の孔部62と第2の孔部64との連通部を塞ぐ封止部(不図示)とを含み構成されている。
【0018】
そして、リッド5の枠状のシリコン基板5bは、キャビティー7およびキャビティー8により構成される内部空間に振動素子20を収容するように、SOI基板10の表面シリコン層13に、シリコン-シリコンの直接接合によって接合され、振動子1が構成される。
【0019】
振動素子20は、BOX層12によって支持された基部21と、BOX層12が除去された領域上において、基部21以外の周囲のシリコンから分離された複数の振動腕22と、を有している。本実施形態で例示する振動素子20は、並行するように配置されている三つの振動腕22を有しており、図1に示す平面視において振動腕22は、基部21から第1の孔部62の逆方向に延出している。振動腕22とシリコン層11との間、振動腕22と表面シリコン層13との間、および振動腕22同士の間には、内部空間を構成するキャビティー8が設けられている。また、振動素子20(振動腕22)のリッド5側の面には、シリコン酸化膜である素子調整層30と、素子調整層30の少なくとも一部を覆う圧電駆動部40と、が設けられている。
【0020】
素子調整層30は、振動腕22の共振周波数の温度特性を補正するために設けられている。シリコンは、温度が高くなるにつれて低下する共振周波数を有しており、一方、シリコン酸化膜は、温度が高くなるにつれて上昇する共振周波数を有している。従って、シリコンの振動素子20上にシリコン酸化膜である素子調整層30を配設することにより、振動素子20の振動腕22と素子調整層30とで構成される複合体の共振周波数の温度特性をフラットに近付けることができる。
【0021】
振動腕22に設けられている圧電駆動部40は、第1の保護膜41と、第1の電極42と、圧電体としての圧電体層43と、第2の電極44と、を含んでいる。なお、本実施形態において、第1の電極42および第2の電極44は、圧電体としての圧電体層43の表面に設けられている電極(素子電極)に相当する。詳細に、第1の電極42は、圧電体層43の第1の保護膜41側の表面に配設され、第2の電極44は、圧電体層43の第1の保護膜41と反対側の表面に配設されている。また、ベースとしてのSOI基板10の表面シリコン層13と一体に構成されている基部21(図1参照)および振動腕22と、第1の電極42と、圧電体としての圧電体層43と、第2の電極44とを含む振動素子20の構成が振動体に相当する。また、以上のように、本実施形態においては、振動素子20が固定されたSOI基板10が第1基板に相当する。
【0022】
第1の保護膜41は、不純物がドープされていないポリシリコンで構成されているが、アモルファスシリコンで構成されてもよい。また、第1の保護膜41は、ポリシリコンとアモルファスシリコンの積層膜であってもよい。本実施形態において、第1の保護膜41は、振動素子20上に配設されている素子調整層30を覆うように設けられている。このように、第1の保護膜41と振動素子20との間に素子調整層30があることによって、第1の保護膜41が、圧電駆動部40の周囲のシリコン酸化膜のエッチングから素子調整層30を保護することができる。
【0023】
第1の電極42および第2の電極44は、圧電体層43を挟むように配設されている。本実施形態に示す例においては、三つの振動腕22に対応して、3組の第1の電極42、圧電体層43および第2の電極44が配設されている。
【0024】
複数の配線46は、隣り合う振動腕22を逆相で振動させるように、第1の電極42および第2の電極44に電気的に接続されている。また、複数の配線46は、電極パッド50と電気的に接続されており、2つの電極パッド50間に第1の配線電極58や不図示の配線電極を介して外部から電圧を印加することにより、隣り合う振動腕22を逆相で振動させることができる。
【0025】
なお、これらを構成する材料としては、例えば、圧電体層43は、窒化アルミニウム(AlN)等で構成され、第1の電極42および第2の電極44は、窒化チタン(TiN)等で構成され、複数の配線46および電極パッド50は、アルミニウム(Al)または銅(Cu)等で構成されている。
【0026】
振動子1は、2つの電極パッド50を介して、第1の電極42と第2の電極44との間に電圧が印加されると、それによって圧電体層43が伸縮して振動腕22が振動する。その振動は、固有の共振周波数において大きく励起されて、インピーダンスが最小となる。その結果、この振動子1は、発振回路に接続することで、主に振動腕22の共振周波数によって決定される発振周波数で発振する。
【0027】
第1の配線用貫通孔52は、図1に示すように、平面視で、リッド5のキャビティー7の領域で、振動素子20の幅方向の両側に一つずつ配設され、表面シリコン層13の電極パッド50と重なる位置に配設されている。
【0028】
電極パッド50は、平面視で、第1の配線用貫通孔52と重なる位置において、配線46を介して第1の配線電極58と電気的に接続されるよう配設されている。また、電極パッド50は、第1の配線用貫通孔52と重ならない位置では、表面シリコン層13上に素子調整層30、第1の保護膜41および配線46を介して配設されている。このような構成により、電極パッド50と第1の配線電極58とが電気的に接続され、第1の電極42および第2の電極44を、シリコン層11の振動素子20が形成されている側とは反対側の外面11rに引き出すことができる。なお、第1の配線電極58を構成する材料としては、チタニウム(Ti)やタングステン(W)や銅(Cu)等で構成されている。また、第1の配線電極58は、メッキ法により形成されたメッキ層によって構成されている。
【0029】
リッド5のキャビティー7とSOI基板10のキャビティー8とにより構成される内部空間を気密封止するための封止孔として機能する貫通孔は、シリコン層11および酸化膜としてのBOX層12を貫通する第1の孔部62と、表面シリコン層13を貫通して第1の孔部62に連通する第2の孔部64と、を含み構成されている。
【0030】
貫通孔は、平面視で、リッド5のキャビティー7の領域で、基部21に対して振動腕22が設けられている側と反対側に配設されている。貫通孔を構成する第1の孔部62は、表面シリコン層13に設けられている第2の孔部64と重なる位置に配設されている。また、貫通孔を構成する第1の孔部62は、第2の孔部64に連通するようにシリコン層11およびBOX層12に配設されている。
【0031】
第1の孔部62は、シリコン層11の外面11rからシリコン層11およびBOX層12を貫通している。第1の孔部62によって外面11r側と反対側に開口する開口部には、第1の孔部62と第2の孔部64との連通部となる表面シリコン層13の裏面が対向している。第1の孔部62は、表面シリコン層13の内部空間側(キャビティー7側)と第2の孔部64とが連通されるように表面シリコン層13を貫通している。
【0032】
貫通孔は、第1の孔部62と第2の孔部64との連通部となる表面シリコン層13の裏面側から第2の孔部64にかけて配設される封止膜や封止材の充填などによる封止部(不図示)によって封止されている。これにより、キャビティー7およびキャビティー8により構成される内部空間を気密に封止することができる。
【0033】
なお、振動子1を構成するベースとしてのSOI基板10は、ガラス基板とすることもできる。この場合、ベースとしてのガラス基板は、SOI基板10のシリコン層11に相当するガラス層と、SOI基板10のBOX(Buried Oxide)層12に相当する酸化ケイ素層(SiO2等)と、SOI基板10の表面シリコン層13に相当し、振動素子20を構成する表面ガラス層によって構成することができる。ここで、ベースとしてガラス基板を用いた場合におけるリッド5との接合は、陽極接合、もしくは直接接合を適用することができる。
【0034】
(振動素子の製造方法)
以上の構成に係る本実施形態においては、振動素子20の重量を調整することによって振動素子20の共振周波数を調整することが可能である。以下においては、当該共振周波数の調整を含む振動素子20の製造方法を説明する。図3は、振動素子20の製造方法を示すフローチャートである。
【0035】
振動素子20の製造方法が開始されると、まず、ウエハにベースとしてのSOI基板10が形成され、当該SOI基板10の一方面側に振動体としての振動素子20が形成される(ステップS10)。当該ステップS10が実施されると、第1面と第1面の裏面である第2面とを有する振動素子20が準備される。具体的には、シリコン層11と、BOX層12と、表面シリコン層13とが、この順で積層されたSOI基板10が形成され、さらに、表面シリコン層13に振動腕22を含む振動素子20の外形形状が形成される。そして、振動腕22に圧電体層43が形成され、圧電体層43の表面に第1の電極42および第2の電極44が形成される。以上の形成工程は、公知の技術によって実現可能であり、例えば、特開2020-36063号公報に開示された各工程と同様の工程で実現可能である。
【0036】
ステップS10における振動素子20の形成工程が終了すると、例えば、図2に示す断面図において、リッド5が接合されていない状態となる。図4は、振動素子20の形成工程が終了することによって得られた振動子1の一部の概略断面図である。図4においては、振動子1の一部を図1に示すB-B線で切断した状態の概略断面図で示している。但し、図4における振動素子20の断面図は概略図であり、例えば、圧電駆動部40は省略されている。以上のようにして形成された振動素子20において、振動腕22にはシリコン層11側を向いた面とシリコン層11と反対側を向いた面とが存在する。本実施形態においては、シリコン層11と反対側の面を第1面22a、シリコン層11側の面を第2面22bと呼ぶ。なお、振動素子20はウエハに形成されるため、複数の振動子1となるSOI基板10が同時に形成され得る。図3に示すフローチャートは、複数の振動子1の製造が並行して進められることで実現されても良いし、1個の振動子1の製造方法として実現されても良い。なお、前者の場合、図3に示すフローチャートが実行された後に、ダイシング工程が実施され、複数の振動子1となる。
【0037】
次に振動素子20にドットが形成される(ステップS20)。本実施形態においては、インクジェット法によって第1面22aにドットが形成される。本実施形態において、ドットは質量調整物質を含んでいる。また、振動素子20の第1面22aには、質量が異なる複数のドットが形成される。なお、質量調整物質は、振動素子20の質量を調整することができる物質であり、例えば、銀等の金属、各種の合金、酸化物等を用いることができる。
【0038】
図4においては、振動素子20にドットを形成するための装置の概略も示されている。本実施形態においては、ドット形成のためのインクジェット印刷装置100と、振動素子20およびインクジェット印刷装置100の少なくとも一方を移動させるための移動制御部110が用いられる。本例においては、振動素子20が形成されたSOI基板10は、図示しないX-Yステージに取り付けられる。移動制御部110は、X-Yステージに取り付けられたSOI基板10を2次元的に移動させることができる。また、移動制御部110は、X-Yステージでの移動と同期させてインクジェット印刷装置100を制御し、図示しないノズルから質量調整物質を含む記録材を吐出させることができる。なお、移動制御部110は、インクジェット印刷装置100を移動させてもよいし、インクジェット印刷装置100とSOI基板10との双方を移動させても良い。
【0039】
本実施形態においては、図4に示すように、振動素子20の第1面22aがインクジェット印刷装置100側になるように、X-Yステージにセットされる。従って、インクジェット印刷装置100のノズルから振動素子20に向けて吐出された記録材は、第1面22aに印刷される。本実施形態において、記録材は、質量調整物質と溶媒と分散剤とを含んでいる。従って、記録材が振動腕22の第1面22aに印刷され、溶媒および分散剤が揮発すると第1面22a上にドットDtが形成される。
【0040】
なお、図4においては、1個の振動子1となる3個の振動腕22を模式的に示しているが、SOI基板10は平面視で例えば1mm角などの小さい基板であるため、インクジェット印刷装置100による印刷は、ウエハに形成された複数のSOI基板10がX-Yステージの移動方向に沿って並べられた状態で実施されてもよい。また、本実施形態においてインクジェット印刷装置100によるドットの形成は大気中で実施されるが、アルゴン雰囲気などでもよく、大気圧と同等の環境で実施されて良い。
【0041】
本実施形態において、ドットDtは、振動素子20の振動腕22の先端部23(図1参照)、すなわち、基部21と反対側の端部に形成される。また、ドットDtは、振動素子20の第1面22aに形成される。図5は、ドットDtが形成された振動腕22を第1面22a側から見た場合の例を示す図である。図5においては、先端部23に複数の径のドットDtl,Dtm,Dtsが形成されている例を示している。各ドットDtl,Dtm,Dtsにおいては、ドットに含まれる質量調整物質の質量が異なっている。以下、ドットDtlを大ドット、ドットDtmを中ドット、ドットDtsを小ドットと呼ぶ。
【0042】
各ドットに含まれる質量調整物質の質量は、大ドットDtl>中ドットDtm>小ドットDtsである。このようなドット径の大きさの調整は、例えば、インクジェット印刷装置100が備えるピエゾ素子の駆動電圧を調整することによって実現可能である。また、ピエゾ素子の駆動電圧を調整することで、大ドットDtl,中ドットDtm,小ドットDtsの径の大きさを微調整することも可能である。
【0043】
本実施形態において複数のドットは、質量毎に第1面22aに配列される。例えば、図5に示す例であれば、ドットに含まれる質量調整物質の質量が最も大きい大ドットDtlは、振動腕22の長さ方向に3個、振動腕22の幅方向に2個並べて配列されている。質量調整物質の質量が2番目に大きい中ドットDtmは、振動腕22の長さ方向に3個、振動腕22の幅方向に3個並べて配列されている。質量調整物質の質量が最も小さい小ドットDtsは、振動腕22の長さ方向に4個、振動腕22の幅方向に4個並べて配列されている。
【0044】
さらに、本実施形態においては、質量が最も小さい小ドットDtsは、先端部23における基部21側に配置され、質量が最も大きい大ドットDtlドットは、先端部23における基部21側とは反対側に配置される。例えば、図5に示す例において、基部21は図示されておらず右側に存在する。従って、図5においては、図の右側が基部21側、図の左側が基部21と反対側、すなわち、先端部23側である。そして、図5に示す例においては、質量調整物質の質量が最も大きい大ドットDtlが最も先端部23側に存在し、質量調整物質の質量が最も小さい小ドットDtsが最も基部21側に存在する。また、質量調整物質の質量が2番目に大きい中ドットDtmが、大ドットDtl,小ドットDtsの間に存在する。
【0045】
なお、図5に示す例においては、先端部23に大ドットDtlが6個、中ドットDtmが9個、小ドットDtsが16個形成されている例が示されているが、これらの数や大きさは一例であり、他の数および大きさであっても良い。また、振動素子20の最も先端部23側から基部21側に向けて長さ方向において複数の位置P1~P10を設定した場合に、位置P1~P3に大ドットDtl、位置P4~P6に中ドットDtm、位置P7~P10に小ドットDtsが形成されている。
【0046】
以上の構成において、ドットDtに含まれる質量調整物質の質量は、一つのドットDtによって振動素子20に与える共振周波数の変化幅に基づいて決定される。図6は、ステップS20において、振動素子20にドットDtを形成する際の処理を詳細に説明するためのフローチャートである。当該処理が実行される前には、予め、ドットDtに含まれる質量調整物質の質量、位置に対応した共振周波数の変化幅、共振周波数の変化幅の代表値が特定され、図示しない記憶媒体にデータベースとして登録されている。
【0047】
図7は、データベースの構成例を示す図である。図7に示すデータベースにおいては、ドットDtの質量と位置との組合せに対して、当該ドットDtが振動素子20に形成されることによる共振周波数の変化幅が対応付けられている。本例において、ドットDtの質量は、大ドットDtlの質量Wl,中ドットDtmの質量Wm、小ドットDtsの質量Wsの3種類である。各質量に対して、各質量のドットが形成され得る位置が対応付けられ、質量および位置の組合せに対して共振周波数の変化幅が対応付けられる。例えば、質量Wlのドットを位置P1に形成すると、振動素子20の共振周波数はΔfl1だけ変化する。
【0048】
さらに、データベースにおいては、ドットDtの質量に対して、当該質量のドットDtが振動素子20に形成されることによる共振周波数の変化幅の代表値が対応付けられている。当該代表値は、例えば、当該質量のドットが各位置に形成された場合の変化幅の平均値等である。代表値が平均値である場合、例えば、質量Wlのドットであれば、位置P1,位置P2,位置P3に形成された場合の共振周波数の変化幅であるΔfl1,Δfl2,Δfl3の平均値Δflが質量Wlに対して対応付けられた代表値となる。
【0049】
同じ質量である大ドットDtlを位置P1,位置P2,位置P3のそれぞれに形成した場合の共振周波数の変化幅は互いに異なるが、その差異はドットの大きさを変化させた場合の共振周波数の変化幅より小さい。従って、ドット形成位置を変化させると微調整が可能である。一方、ドット形成位置の変化による共振周波数の変化幅は小さいため、振動素子20の共振周波数を大きく変化させる粗調整を行う場合には、ドット形成位置の変化よりドットの質量を変化させる方が好ましい。このため、本実施形態においては、ドットの質量による共振周波数の変化幅を把握できるように、共振周波数の変化幅の代表値がドットDtの質量に対して対応付けられている。
【0050】
なお、図7に示す例において、添え字lは大ドットDtl、添え字mは中ドットDtm、添え字sは小ドットDtsについての値であることが想定されている。また、大ドットDtlは、位置P1~P3のいずれかまたは組合せに形成され、中ドットDtmは、位置P4~P6のいずれかまたは組合せに形成され、小ドットDtsは、位置P7~P10のいずれかまたは組合せに形成されることが想定されている。
【0051】
むろん、以上の例は一例であり、任意のドットが任意の位置に形成され得る構成であっても良い。また、大ドット、中ドット、小ドット等の区別がなくドットの質量が変化する様に構成されていても良いし、位置はより多数であっても良いし、少数であっても良い。なお、本実施形態においては、ドットDtを振動素子20に形成することにより、当該ドットDtに含まれる質量調整物質の質量と同じだけ振動素子20の質量が増加するため、ドットの形成により共振周波数は小さくなる。但し、図7において共振周波数の変化幅は、変化の大きさを示す正の値としてデータベース化される。
【0052】
以上のようなデータベースが用意され、図6に示されたドット形成処理が開始されると、まず、大ドットDtlの形成が行われる。このために、共振周波数fが所望の周波数f0より小さくなるようにドットの数、位置が取得される(ステップS200)。具体的には、振動素子20の共振周波数が共振周波数fとなるように大ドットDtlの数が決定されるが、この際、共振周波数fが所望の共振周波数f0(設計された目標共振周波数)より小さくなるように大ドットDtlの数が決定される。本実施形態においては、後述の周波数調整によりドットを除去し、振動素子20の質量を軽くすることができる。この結果、振動素子20の共振周波数fを大きくするような調整を行うことができる。しかし、後述の周波数調整において振動素子20にドットを形成することはできないため、共振周波数fを小さくするような調整を行うことはできない。
【0053】
そこで、ステップS200においては、所望の共振周波数f0よりも共振周波数fが小さくなるように大ドットDtlの数が決定される。大ドットDtlが形成された後の共振周波数fは、所望の共振周波数f0より小さければ良い。但し、両者の差分が大きいほど後述するドット除去の工程が増加する可能性が高くなり、差分があまりに小さいと各種の誤差等で共振周波数fが所望の共振周波数f0より大きくなって調整不可能になる可能性が高くなる。また、後述する中ドットDtmおよび小ドットDtsが形成された後の共振周波数が所望の共振周波数f0を超えないように、大ドットDtlの形成後の共振周波数fと所望の共振周波数f0との差分が設けられている必要がある。そこで、共振周波数fと所望の共振周波数f0との差分は、振動素子20が調整不可能になるほど小さくなく、過度にドット除去の工程が増加せず、中ドットDtmおよび小ドットDtsを形成する余地があるように予め決められれば良い。
【0054】
共振周波数fが決まると、大ドットDtlが形成された後の共振周波数が当該共振周波数fに最も近くなるように、大ドットDtlの数が決定される。具体的には、ドットDtlが形成されていない状態における振動素子20の共振周波数fiは予め測定されて既知である。そこで、ターゲットとなる共振周波数fと共振周波数fiとの差分を、大ドットDtlの質量で除することにより、大ドットDtlの数が取得される。なお、差分を、大ドットDtlの質量で除した値が整数ではない場合、切り捨てまたは切り上げによって大ドットDtlの数が取得される。
【0055】
大ドットDtlの数が取得されると、これらの大ドットDtlが形成される位置が取得される。図5に示す例においては、大ドットDtlの最大個数が6個、大ドットDtlを形成可能な位置が位置P1~P3の3カ所である状況が想定されている。このため、大ドットDtlの数が3個以上であれば、位置P1~位置P3の全てに大ドットDtlが形成されるように位置が決められることが好ましい。大ドットDtlの数が2個以下であれば、位置P1~位置P3から大ドットDtlの位置が選択される。
【0056】
以上のようにして大ドットDtlの数、位置が取得されると、取得した数、位置に大ドットDtlが形成される(ステップS205)。すなわち、ステップS200で取得された位置がインクジェット印刷装置100による印刷位置となるように、移動制御部110が振動素子20を移動させる。そして、インクジェット印刷装置100において、予め決められた大ドットDtlの質量に相当する記録材が吐出されるようにピエゾ素子が駆動される。この結果、大ドットDtlが振動素子20に形成される。以上の処理が、大ドットDtlの数だけ各位置について繰り返されることで、振動素子20に大ドットDtlが形成される。
【0057】
次に、中ドットDtmの形成が行われる。具体的には、中ドットDtmの質量の和≧大ドットDtlの質量となるように、中ドットDtmの数が決められる(ステップS210)。すなわち、本実施形態においては、大ドットDtl個分の共振周波数の変化幅を超える調整が中ドットDtmのみで実施できるように中ドットDtmの数が取得される。この構成によれば、後述する共振周波数の調整工程において、中ドットDtmを用いて大ドットDtl1個分以上の変化幅で共振周波数を調整することが可能である。この結果、例えば、中ドットDtmによる調整が、大ドットDtl1個分に満たない変化幅に限定されることを防止することができる。
【0058】
より具体的には、例えば、中ドットDtmの質量が大ドットDtlの質量の1/4である構成において、中ドットDtmが2個しか形成されていないと、大ドットDtl1個分の変化幅の1/4,1/2となるような調整が可能であるが、大ドットDtl1個分の変化幅の3/4となるような調整を行うことができない。しかし、中ドットDtmの質量の和≧大ドットDtlの質量となるように、中ドットDtmの数が決められれば、共振周波数を調整する際の変化幅がより多様になる。なお、ステップS210においては、中ドットDtmの質量の和≧大ドットDtlの質量となるように、中ドットDtmの数が決められていればよい。従って、中ドットDtmの質量の和=大ドットDtlの質量であるような中ドットDtmの数が中ドットDtmの数の最小値であり、中ドットDtmの数はより多くても良い。図5においては、中ドットDtmの質量の和=大ドットDtlの質量であるような中ドットDtmの数より多数の中ドットDtmが形成されている例が想定されている。
【0059】
中ドットDtmの数が取得されると、これらの中ドットDtmが形成される位置が取得される。図5に示す例においては、中ドットDtmの最大個数が9個、中ドットDtmを形成可能な位置が位置P4~P6の3カ所である状況が想定されている。このため、中ドットDtmの数が3個以上であれば、位置P4~位置P6の全てに中ドットDtmが形成されるように位置が決められることが好ましい。中ドットDtmの数が2個以下であれば、位置P4~位置P6から中ドットDtmの位置が選択される。
【0060】
以上のようにして中ドットDtmの数、位置が取得されると、取得した数、位置に中ドットDtmが形成される(ステップS215)。すなわち、ステップS210で取得された位置がインクジェット印刷装置100による印刷位置となるように、移動制御部110が振動素子20を移動させる。そして、インクジェット印刷装置100において、予め決められた中ドットDtmの質量に相当する記録材が吐出されるようにピエゾ素子が駆動される。この結果、中ドットDtmが振動素子20に形成される。以上の処理が、中ドットDtmの数だけ各位置について繰り返されることで、振動素子20に中ドットDtmが形成される。
【0061】
次に、小ドットDtsの形成が行われる。具体的には、小ドットDtsの質量の和≧中ドットDtmの質量となるように、小ドットDtsの数が決められる(ステップS220)。すなわち、大ドットDtlの質量と中ドットDtmの質量の関係が、中ドットDtmの質量と小ドットDtsの質量の関係と同等になるように、小ドットDtsの数が決定される。なお、この構成は一例であり、小ドットDtsの質量の和≧大ドットDtlの質量となるように、小ドットDtsの数が決められてもよい。
【0062】
小ドットDtsの数が取得されると、これらの小ドットDtsが形成される位置が取得される。図5に示す例においては、小ドットDtsの最大個数が16個、小ドットDtsを形成可能な位置が位置P7~P10の4カ所である状況が想定されている。このため、小ドットDtsの数が4個以上であれば、位置P7~位置P10の全てに小ドットDtsが形成されるように位置が決められることが好ましい。小ドットDtsの数が3個以下であれば、位置P7~位置P10から小ドットDtsの位置が選択される。
【0063】
以上のようにして小ドットDtsの数、位置が取得されると、取得した数、位置に小ドットDtsが形成される(ステップS225)。すなわち、ステップS220で取得された位置がインクジェット印刷装置100による印刷位置となるように、移動制御部110が振動素子20を移動させる。そして、インクジェット印刷装置100において、予め決められた小ドットDtsの質量に相当する記録材が吐出されるようにピエゾ素子が駆動される。この結果、小ドットDtsが振動素子20に形成される。以上の処理が、小ドットDtsの数だけ各位置について繰り返されることで、振動素子20に小ドットDtsが形成される。
【0064】
以上のようにして、ドットが形成されると、図3に示す製造方法において、次の工程、すなわち、振動素子の封入工程(ステップS30)が実施される。封入工程は、リッド5の形成、接合、振動子1の内部空間の真空引き、封止を含む。具体的には、光透過性を有する基板であるガラス基板5aにシリコン基板5bが接合され、ガラス基板5aに接合されたシリコン基板5bが枠状にエッチングされることによってリッド5が形成される。リッド5の形成工程は、公知の技術によって実現可能であり、例えば、特開2020-36063号公報に開示された各工程と同様の工程で実現可能である。
【0065】
リッド5が形成されると、リッド5を構成する枠状のシリコン基板5bの枠内(キャビティー7)に振動素子20が配置された状態で、シリコン基板5bと表面シリコン層13とが接合される。このときの接合は、SOI基板10の表面シリコン層13と、リッド5を構成する枠状のシリコン基板5bとの、シリコン-シリコンの直接接合が適用される。
【0066】
リッド5が表面シリコン層13に接合され、振動子1として一体化されると、振動子1の内部空間が真空引きされる。すなわち、図1に示す第1の孔部62、第2の孔部64を介して、図示しない減圧器等によって振動子1の内部空間が減圧され、既定の圧力以下とされる。その後、表面シリコン層13の裏面側から第2の孔部64にかけて配設される封止膜や封止材の充填などによって封止されている。これにより、キャビティー7およびキャビティー8により構成される内部空間が真空状態となって封止される。
【0067】
以上のようにして、振動子1の内部空間が真空状態になると、振動素子20の周波数調整処理が行われる(ステップS40)。図8は、周波数調整処理のフローチャートである。周波数調整処理は、複数の振動子1について並行して実施されてもよいし、1個ずつ実行されてもよい。周波数調整処理が開始されると、振動素子20の共振周波数f1が測定される(ステップS400)。すなわち、ステップS30の封入によって回路として機能する状態となった振動子1に対して、図示しないプローブが電気的に接続され、振動子1内の振動素子20の共振周波数f1が測定される。共振周波数f1を測定するための回路は、公知の回路によって実現可能である。
【0068】
次に、所望の共振周波数f0との差分が算出される(ステップS405)。すなわち、測定された共振周波数f1と所望の共振周波数f0との差分であるf1-f0が算出される。なお、当該差分f1-f0は絶対値である(以下同様)。次に、差分に基づいて除去すべきドットの数が取得される(ステップS410)。具体的には、図7に示すデータベースが参照されて、除去すべきドットの数が取得される。本実施形態においては、ステップS405~S425において粗調整が行われ、ステップS430~S450において微調整が行われる。このため、ステップS410においては、図7に示すドットDtの各質量に対応した共振周波数の変化幅の代表値が参照される。
【0069】
そして、差分f1-f0に相当する共振周波数を変化させるためのドットの質量、数の組合せが特定される。この処理は、例えば、差分f1-f0を質量が大ドットDtlに対応した共振周波数の変化幅で除し、余りを中ドットDtmに対応した共振周波数の変化幅で除し、さらに、余りを小ドットDtsに対応した共振周波数の変化幅で除すことによって実現可能である。
【0070】
図7に示す例であれば、f1-f0=Δfl×Ql+Rl(但しQlは式を満たす最大の整数値、Rlは正の数)となる余りRlが計算される。また、Rl=Δfm×Qm+Rm(但しQmは式を満たす最大の整数値、Rmは正の数)となる余りRmが計算される。さらに、Rm=Δfs×Qs+Rs(但しQsは式を満たす最大の整数値、Rsは正の数)となる余りRsが計算される。このようにして得られたQlが大ドットDtlの数、Qmが中ドットDtmの数、Qsが小ドットDtsの数とされる。
【0071】
次に、振動素子20の内部にレーザーが照射され、ドットが除去される(ステップS415)。図9は、振動素子20からドットを除去するための装置と、振動子1との関係を模式的に示す図である。図9においては、振動子1を図1に示すB-B線で切断した状態の概略断面図で示し、当該振動子1と、レーザー光学系200と、移動制御部210と、の関係を模式的に示している。なお、図9における振動子1の断面図は概略図であり、例えば、圧電駆動部40は省略されている。
【0072】
レーザー光学系200は、透過材料であるリッド5のガラス基板5aを透過するレーザーを出力する光学系である。振動素子20が形成されたSOI基板10は、図示しないX-Yステージに取り付けられる。移動制御部210は、X-Yステージに取り付けられたSOI基板10を2次元的に移動させることができる。また、移動制御部210は、X-Yステージでの移動と同期させてレーザー光学系200を制御し、振動素子20の所望の位置に存在するドットDtにレーザーを照射することができる。なお、移動制御部210は、レーザー光学系200を移動させてもよいし、レーザー光学系200とSOI基板10との双方を移動させても良い。
【0073】
本実施形態においては、ステップS410で特定された数のドットをレーザー光学系200から出力されたレーザーによって除去する。すなわち、大ドットDtl、中ドットDtm、小ドットDtsのそれぞれについて特定された数だけ各ドットが除去される。なお、図9においては、一つの振動子1を模式的に示しているが、振動子1は平面視で例えば1mm角などの小さい基板であるため、レーザー光学系200によるドットの除去は、ウエハに形成された複数の振動子1がX-Yステージの移動方向に沿って並べられた状態で実施されてもよい。本実施形態においては、振動子1が封止された後にレーザーが照射されるため、振動素子20の共振周波数は真空中で調整される。
【0074】
次に、振動素子20の共振周波数f1が測定される(ステップS420)。測定のための処理は、ステップS400と同様である。振動素子20の共振周波数f1が測定されると、測定された共振周波数f1と所望の共振周波数f0との差分f1-f0が閾値Th1以下であるか否かが判定される(ステップS425)。閾値Th1は、振動素子20の共振周波数f1が所望の共振周波数f0に近づいたか否か判定するための値であり、予め決定される。閾値Th1は、粗調整を終了するか否かを判定するための閾値であり、後述する閾値Th2より大きい値である。
【0075】
ステップS425において、差分f1-f0が閾値Th1以下であると判定されない場合、ステップS405以降の処理、すなわち、粗調整が繰り返される。ステップS425において、差分f1-f0が閾値Th1以下であると判定された場合、測定された共振周波数f1と所望の共振周波数f0との差分f1-f0が算出される(ステップS430)。次に、差分に基づいて除去すべきドットの数、位置が取得される(ステップS435)。具体的には、図7に示すデータベースが参照されて、除去すべきドットの数および位置が取得される。ステップS430~S450においては微調整が行われるため、ステップS435においては、図7に示すドットDtの各質量および位置の組合せに対応した共振周波数の変化幅が参照される。
【0076】
そして、差分f1-f0に最も近くなる各質量のドットの数および位置の組合せが特定される。微調整の段階では、差分f1-f0は僅かである。このため、振動素子20上に残存しているドットDtのそれぞれについて図7に基づいて共振周波数の変化幅が特定され、1個以上のドットが除去された場合の共振周波数の変化幅と、差分f1-f0とが比較されることで、差分f1-f0に最も近くなるドットの質量、数、位置の組合せが特定される。
【0077】
次に、振動素子20の内部にレーザーが照射され、ステップS435で取得されたドットが除去される(ステップS440)。ここでの処理は、ステップS415と同様である。次に、振動素子20の共振周波数f1が測定される(ステップS445)。測定のための処理は、ステップS400と同様である。振動素子20の共振周波数f1が測定されると、測定された共振周波数f1と所望の共振周波数f0との差分f1-f0が閾値Th2以下であるか否かが判定される(ステップS450)。閾値Th2は、振動素子20の共振周波数f1が所望の共振周波数f0と一致したと見なせるか否か判定するための値であり、予め決定される。
【0078】
以上の構成によれば、振動素子20上に形成されたドットDtを単位にして振動素子20の共振周波数を調整することができる。従って、レーザーの出力のばらつきや、レーザーを照射する位置のばらつき、レーザーを照射する時間のばらつきなどが生じたとしても、ドットDtを除去すれば、ドットDtに対応した変動幅で共振周波数を調整することができる。このため、一定の面積にわたって形成された電極の一部を電極で除去する構成と比較して、容易に、所望の共振周波数に調整することが可能になる。
【0079】
また、本実施形態において、ドットDtはインクジェット法によって形成される。インクジェット法は、極めて少量の記録材を正確に所望の位置に印刷することが可能である。このため、本実施形態によれば、所望の位置に所望の質量のドットを容易に形成することができる。
【0080】
さらに、本実施形態においては、振動素子20に予め決められた質量のドットが形成されており、当該質量は、ドットの有無によって振動素子20に与えられる共振周波数の変化幅に対応している。従って、本実施形態によれば、ドットの形成または除去により、正確に既定の変化幅で共振周波数を変化させることができ、効率的に周波数調整を行うことができる。さらに、ドットは、第1面22aに質量毎に配列されるため、容易にドットの形成位置を特定可能であり、簡易な制御によってインクジェット法等によって容易にドットを形成することができる。この結果、周波数調整が容易になる。
【0081】
さらに、振動素子20に形成されたドットの除去は、振動子1が封止された後、すなわち、真空中で実施される。振動子1は封止された状態、すなわち、内部空間が真空である状態で使用される。このため、真空以外の状態、例えば、大気中で振動素子20の共振周波数が調整されると、真空状態での共振周波数と異なる場合がある。この結果、振動子1の使用時の共振周波数を、所望の共振周波数に調整することが困難になる。しかし、本実施形態においては、真空中で共振周波数が調整されるため、振動子1が使用される際の共振周波数を容易に所望の共振周波数に調整することができる。
【0082】
さらに、本実施形態において、ドットは振動素子20の振動腕22の先端に形成される。ドットは、振動腕22の基部側よりも先端側に形成された方が、ドットの有無による共振周波数の変化幅が大きくなる。従って、本実施形態においては、基部21側にドットが形成される構成と比較して、効率的に共振周波数を変化させることが可能である。
【0083】
さらに、本実施形態において、小ドットは大ドットよりも基部21側に形成される。小ドットは、大ドットよりも質量が小さいため、小ドットの有無によって変化する共振周波数の変化幅は大ドットより小さい。また、ドットは、振動腕22の先端側よりも基部21側に形成された方が、ドットの有無による共振周波数の変化幅が小さくなる。従って、小ドットが基部21側に形成されると、共振周波数を微調整することが容易になる。また、大ドットが基部21と反対側に形成されると、共振周波数を粗調整することが容易になる。
【0084】
さらに、本実施形態によれば、エネルギー線であるレーザーを振動素子20上に形成されたドットに照射することにより、ドットを容易に除去することができる。このため、容易にドットの質量に応じた変化幅で振動素子20の共振周波数を変化させることができる。また、レーザーによれば、封止された振動子1の内部空間内に存在する振動素子20上のドットを容易に除去することができる。
【0085】
(他の実施形態)
上述の実施形態は本発明を実施するための例であり、他にも種々の実施形態を採用可能である。例えば、振動腕22の数は3個に限定されない。また、ドットの数、質量、形成位置等は上述の例に限定されない。さらに、レーザーは、第1面22a、第2面22bに光軸が垂直に向いている構成に限定されず、傾斜した状態で各面に照射されても良い。
【0086】
さらに、図3図6図8等に示されたフローチャートに対して別の処理が追加されたり、一部が省略されたり、順序が変更されたりしてもよい。例えば、図6に示す処理順序は一例であり、ステップS200,S210,S220が実行された後にステップS205,S215,S225が実行されてもよい。また、大ドット、中ドット、小ドットの順に処理される構成に限定されず、先に小ドットから処理されても良い。
【0087】
さらに、図3に示す処理において、ステップS30,S40の順序が逆であっても良い。図10は、周波数調整処理の後に振動素子の封入が行われる場合の手順を示すフローチャートである。すなわち、図10に示す手順において、ステップS10,S20は図3に示す手順と同一である。その後、ステップS31において周波数調整処理が実行され、さらに、ステップS41において振動素子の封入が行われる。
【0088】
図10におけるステップS10,S20は、図3におけるステップS10,S20と同様である。従って、ステップS20が終了すると、SOI基板10に形成された振動素子20の第1面22aにドットDtが形成された状態になる。図10に示す例においては、この状態において、ステップS31の周波数調整処理が行われる。
【0089】
図11は、ステップS31の周波数調整処理を詳細に示す図である。なお、図11に示す周波数調整処理において、図8に示す周波数調整処理と同様の処理が行われる場合、図11においても、図8に示された符号と同一の符号が付されている。ステップS31の周波数調整処理は、真空中で実施される。このため、まず、ドットDtが形成された振動素子20が真空槽に設置される(ステップS399)。図12は、振動素子20からドットを除去するための装置と、振動素子20を含むSOI基板10との関係を模式的に示す図である。図12においては、振動素子20を含むSOI基板10を図4と同様の状態の概略断面図で示している。また、当該SOI基板10と、レーザー光学系200と、SOI基板10を移動させる移動制御部210と、の関係を模式的に示している。
【0090】
図12に示すSOI基板10は、真空槽221内に設置される。すなわち、真空槽221には、1個以上のSOI基板10を保持する図示しない保持部が設置されている。真空槽221内にSOI基板10が保持されると図示しない真空ポンプによって真空槽221内が真空引きされる。真空槽221においては、レーザー光学系201とSOI基板10との間に位置する面の少なくとも一部が透過材料221a(例えばガラス)で構成されている。
【0091】
レーザー光学系201は、レーザー光学系200と同様の構成であって良い。レーザー光学系201は、透過材料221aを介して、レーザーを真空槽221内に照射することができる。移動制御部211は、振動素子20上に形成された任意の位置のドットに対してレーザーを照射する位置にレーザー光学系201を移動させ、レーザーを照射することができる。なお、移動制御部211は、SOI基板10を移動させることが可能であっても良いし、レーザー光学系201とSOI基板10との双方を移動させることが可能であっても良い。
【0092】
ステップS399において、振動素子20が真空槽内に設置されると、ステップS400~S410が実施される。ステップS410において、除去すべきドットの数が取得されると、真空槽221の内部にレーザーが照射され、ドットが除去される(ステップS416)。すなわち、ステップS410で除去対象として特定された大ドットDtl、中ドットDtm、小ドットDtsのそれぞれにレーザーを照射可能な位置にレーザー光学系201が移動され、各ドットが除去される。
【0093】
以後、さらに、ステップS420~S435が実行される。ステップS435において、除去すべきドットの数、位置が取得されると、真空槽221の内部にレーザーが照射され、ドットが除去される(ステップS441)。すなわち、ステップS435で除去対象として特定された大ドットDtl、中ドットDtm、小ドットDtsのそれぞれにレーザーを照射可能な位置にレーザー光学系201が移動され、各ドットが除去される。この後、ステップS445,S450が実行されることによって周波数調整処理が行われる。
【0094】
さらに、ドットDtが形成される第1面22aは、図9のようにレーザー光学系200側を向いている面に限定されない。図13は、振動子1の内部空間に形成された振動素子20の振動腕22において、第1面22aがシリコン層11側を向いており、第2面22bがリッド5側を向いている構成の例である。この例において、ドットDtは、第1面22aに形成される。この構成は、例えば、表面シリコン層13とシリコン層11とが別に製造され、表面シリコン層13から形成された振動素子20にインクジェット法とによってドットが形成された後に表面シリコン層13とシリコン層11とが接続される構成等で実現される。図13に示す例において、ドットDtが形成される面以外は図9に示す例と同様である。
【0095】
また、図13に示す構成において振動素子20は、透過材料である水晶またはシリコンから構成される。従って、レーザー光学系200から出力されたレーザーが第2面22b側から照射されると、レーザーは振動腕22を透過し、第1面22aまで達する。第1面22aに形成されたドットDtにレーザーが照射されると、当該ドットDtを除去することができる。レーザーがドットDtに照射されると、ドットDtを構成する質量調整物質が振動腕22から遊離してドットDtが除去されるが、この際、質量調整物質は第1面22aから離れる方向に飛散する。従って、図13に示すように、第1面22aが下方に向いた状態であれば、振動腕22から遊離した質量調整物質は重力によってシリコン層11側に移動し、振動腕22側に再度移動しづらい。従って、図13に示す構成であれば、ドットDtの除去による共振周波数の変化幅の誤差を小さくすることができる。
【0096】
振動素子を準備する工程は、ドットが形成される第1面と表裏の関係にある第2面を有する振動素子を準備することができればよく、工程は、上述の実施形態のような工程に限定されない。また、振動素子の準備が完了した場合における振動素子周辺の構成は、図4のような構成に限定されず、例えば、第1の保護膜41,配線46,電極パッド50が形成されていない状態の振動素子が準備されても良い。
【0097】
ドットを形成する工程は、第1面に質量調整物質を含み、質量が異なる複数のドットを形成することができればよい。ドットの形成方法はインクジェット法に限定されず、例えば、マスクとエッチングとを用いる半導体製造プロセスが適用されてドットが形成されても良い。
【0098】
振動素子の共振周波数を調整する工程は、エネルギー線を少なくとも一つのドットに照射して振動素子から除去することができればよい。すなわち、振動素子に照射されたエネルギー線が振動素子からドットを除去できるように、エネルギー線のエネルギー、ビーム径等が調整されれば良い。
【0099】
以上の実施形態は発明を実施する例である。従って、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置換することができる。また、本発明に、他の任意の構成物が付加されていてもよい。また、前述した各実施形態を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0100】
1…振動子、5…リッド、5a…ガラス基板、5b…シリコン基板、7…キャビティー、8…キャビティー、10…SOI基板、11…シリコン層、12…BOX層、13…表面シリコン層、20…振動素子、21…基部、22…振動腕、22a…第1面、22b…第2面、23…先端部、30…素子調整層、40…圧電駆動部、41…第1の保護膜、42…第1の電極、43…圧電体層、44…第2の電極、46…配線、50…電極パッド、52…第1の配線用貫通孔、58…第1の配線電極、62…第1の孔部、64…第2の孔部、100…インクジェット印刷装置、110…移動制御部、200…レーザー光学系、201…レーザー光学系、210…移動制御部、211…移動制御部、221…真空槽、221a…透過材料
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13