(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024012929
(43)【公開日】2024-01-31
(54)【発明の名称】転動部品及び転がり軸受
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240124BHJP
C22C 38/26 20060101ALI20240124BHJP
C23C 8/26 20060101ALI20240124BHJP
C23C 8/32 20060101ALI20240124BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20240124BHJP
F16C 33/32 20060101ALI20240124BHJP
F16C 33/62 20060101ALI20240124BHJP
F16C 19/26 20060101ALI20240124BHJP
C21D 1/06 20060101ALN20240124BHJP
C21D 9/40 20060101ALN20240124BHJP
C21D 1/18 20060101ALN20240124BHJP
【FI】
C22C38/00 301Z
C22C38/26
C23C8/26
C23C8/32
F16C19/06
F16C33/32
F16C33/62
F16C19/26
C21D1/06 A
C21D9/40 A
C21D1/18 Y
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022114762
(22)【出願日】2022-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 美有
(72)【発明者】
【氏名】大木 力
【テーマコード(参考)】
3J701
4K028
4K042
【Fターム(参考)】
3J701AA02
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4K042DB07
4K042DC02
4K042DC04
4K042DC05
4K042DE02
4K042DE06
(57)【要約】
【課題】表面における耐摩耗性を確保しつつ、表面における耐圧痕形成能を高めることが可能な転動部品を提供する。
【解決手段】転動部品は、表面を有する鋼製である。転動部品は、表面からの距離が20μmまでの領域である表層部を備えている。鋼は、0.15質量パーセント以上1.10質量パーセント以下の炭素と、0.15質量パーセント以上0.70質量パーセント以下のシリコンと、0.30質量パーセント以上1.20質量パーセント以下のマンガンと、1.00質量パーセント以上1.70質量パーセント以下のクロムと、0.50質量パーセント以下のモリブデンと、0.50質量パーセント以下のバナジウムと、0.50質量パーセント以下のニオブと、残部を構成している鉄及び不可避不純物とを含有している。表層部における平均炭素濃度及び平均窒素濃度は、それぞれ0.7質量パーセント以上及び0.1質量パーセント以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面を有する鋼製の転動部品であって、
前記表面からの距離が20μmまでの領域である表層部を備え、
前記鋼は、0.15質量パーセント以上1.10質量パーセント以下の炭素と、0.15質量パーセント以上0.70質量パーセント以下のシリコンと、0.30質量パーセント以上1.20質量パーセント以下のマンガンと、1.00質量パーセント以上1.70質量パーセント以下のクロムと、0.50質量パーセント以下のモリブデンと、0.50質量パーセント以下のバナジウムと、0.50質量パーセント以下のニオブと、残部を構成している鉄及び不可避不純物とを含有し、
前記表層部における平均炭素濃度及び平均窒素濃度は、それぞれ0.7質量パーセント以上及び0.1質量パーセント以上であり、
前記表層部において、マルテンサイトブロックの{011}面の結晶方位密度の最大値は、4.0倍ランダム以下である、転動部品。
【請求項2】
前記表層部において、析出物が分散されており、
前記析出物は、セメンタイト、窒化物及び炭窒化物の少なくともいずれかであり、
前記窒化物及び前記炭窒化物の主成分は、クロム、バナジウム又はニオブであり、
前記表層部において、前記析出物の面積率は、2.0パーセント以上である、請求項1に記載の転動部品。
【請求項3】
前記表面からの距離が50μmとなる位置における硬さは、60HRC以上である、請求項1又は請求項2に記載の転動部品。
【請求項4】
前記鋼中におけるモリブデンの含有量は、0.01質量パーセント以上0.50質量パーセント以下である、請求項1又は請求項2に記載の転動部品。
【請求項5】
前記鋼中におけるバナジウムの含有量は、0.01質量パーセント以上0.50質量パーセント以下である、請求項1又は請求項2に記載の転動部品。
【請求項6】
前記鋼中のニオブの含有量は、0.01質量パーセント以上0.50質量パーセント以下である、請求項1に記載の転動部品。
【請求項7】
前記鋼は、0.20質量パーセント以上1.00質量パーセント以下の炭素と、0.20質量パーセント以上0.60質量パーセント以下のシリコンと、0.40質量パーセント以上1.10質量パーセント以下のマンガンと、1.10質量パーセント以上1.60質量パーセント以下のクロムと、0.50質量パーセント以下のモリブデンと、0.50質量パーセント以下のバナジウムと、0.50質量パーセント以下のニオブと、残部を構成している鉄及び不可避不純物とを含有している、請求項1又は請求項2に記載の転動部品。
【請求項8】
前記鋼中におけるモリブデンの含有量は、0.03質量パーセント以上0.30質量パーセント以下である、請求項7に記載の転動部品。
【請求項9】
前記鋼中におけるバナジウムの含有量は、0.03質量パーセント以上0.30質量パーセント以下である、請求項7に記載の転動部品。
【請求項10】
前記鋼中におけるニオブの含有量は、0.03質量パーセント以上0.30質量パーセント以下である、請求項7に記載の転動部品。
【請求項11】
前記表層部におけるマルテンサイトブロックの上位粒面積率30パーセントでの平均粒径は、3.0μm以下である、請求項1に記載の転動部品。
【請求項12】
前記表層部におけるマルテンサイトブロックの上位粒面積率30パーセントでの平均アスペクト比は、4.0以下である、請求項1又は請求項2に記載の転動部品。
【請求項13】
転がり軸受であって、
軌道輪と、
転動体とを備え、
前記軌道輪及び前記転動体の少なくともいずれかは、請求項1又は請求項2に記載の前記転動部品である、転がり軸受。
【請求項14】
前記転がり軸受は、水素利用機器用である、請求項13に記載の転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転動部品及び転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特開2000-234145号公報(特許文献1)には、転動部品(円錐ころ軸受のころ)が記載されている。特許文献1に記載の転動部品は、浸炭浸窒処理、焼入れ及び焼戻しの行われた鋼製である。特許文献1に記載の転動部品では、表層部における残留オーステナイト量が高められている。このように、従来から、耐摩耗性を向上させるために転動部品の表面に対する浸炭浸窒処理が適用されており、異物混入環境下での圧痕起点型剥離の抑制のために表層部における残留オーステナイト量の増加が適用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、表層部における残留オーステナイト量が増加すると、表面における耐圧痕形成能(静的負荷容量)が低下してしまう。本発明は、上記のような従来技術の問題点に鑑みてなされたものである。より具体的には、本発明は、表面における耐摩耗性を確保しつつ、表面における耐圧痕形成能を高めることが可能な転動部品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の転動部品は、表面を有する鋼製である。転動部品は、表面からの距離が20μmまでの領域である表層部を備える。鋼は、0.15質量パーセント以上1.10質量パーセント以下の炭素と、0.15質量パーセント以上0.70質量パーセント以下のシリコンと、0.30質量パーセント以上1.20質量パーセント以下のマンガンと、1.00質量パーセント以上1.70質量パーセント以下のクロムと、0.50質量パーセント以下のモリブデンと、0.50質量パーセント以下のバナジウムと、0.50質量パーセント以下のニオブと、残部を構成している鉄及び不可避不純物とを含有する。表層部における平均炭素濃度及び平均窒素濃度は、それぞれ0.7質量パーセント以上及び0.1質量パーセント以上である。表層部において、マルテンサイトブロックの{011}面の結晶方位密度の最大値は、4.0倍ランダム以下である。
【0006】
上記の転動部品では、表層部において、析出物が分散されていてもよい。析出物は、セメンタイト、窒化物及び炭窒化物の少なくともいずれかであってもよい。窒化物及び炭窒化物の主成分は、クロム、バナジウム又はニオブであってもよい。表層部において、析出物の面積率は、2.0パーセント以上であってもよい。
【0007】
上記の転動部品では、表面からの距離が50μmとなる位置における硬さが、60HRC以上であってもよい。
【0008】
上記の転動部品では、鋼中におけるモリブデンの含有量が0.01質量パーセント以上0.50質量パーセント以下であってもよい。
【0009】
上記の転動部品では、鋼中におけるバナジウムの含有量が0.01質量パーセント以上0.50質量パーセント以下であってもよい。
【0010】
上記の転動部品では、鋼中のニオブの含有量が0.01質量パーセント以上0.50質量パーセント以下であってもよい。
【0011】
上記の転動部品では、鋼が、0.20質量パーセント以上1.00質量パーセント以下の炭素と、0.20質量パーセント以上0.60質量パーセント以下のシリコンと、0.40質量パーセント以上1.10質量パーセント以下のマンガンと、1.10質量パーセント以上1.60質量パーセント以下のクロムと、0.50質量パーセント以下のモリブデンと、0.50質量パーセント以下のバナジウムと、0.50質量パーセント以下のニオブと、残部を構成している鉄及び不可避不純物とを含有していてもよい。
【0012】
上記の転動部品では、鋼中におけるモリブデンの含有量が0.03質量パーセント以上0.30質量パーセント以下であってもよい。
【0013】
上記の転動部品では、鋼中におけるバナジウムの含有量が0.03質量パーセント以上0.30質量パーセント以下であってもよい。
【0014】
上記の転動部品では、鋼中におけるニオブの含有量が0.03質量パーセント以上0.30質量パーセント以下であってもよい。
【0015】
上記の転動部品では、表層部におけるマルテンサイトブロックの上位粒面積率30パーセントでの平均粒径が、3.0μm以下であってもよい。上記の転動部品では、表層部におけるマルテンサイトブロックの上位粒面積率30パーセントでの平均アスペクト比が、4.0以下であってもよい。
【0016】
本発明の転がり軸受は、軌道輪と、転動体とを備える。軌道輪及び転動体の少なくともいずれかは、上記の転動部品である。上記の転がり軸受は、水素利用機器用であってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の転動部品及び転がり軸受によると、表面における耐摩耗性を確保しつつ、表面における耐圧痕形成能を高めることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図3】転がり軸受100の製造方法の変形例を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態の詳細を、図面を参照しながら説明する。以下の図面では、同一又は相当する部分に同一の参照符号を付し、重複する説明は繰り返さないものとする。実施形態に係る転がり軸受を、転がり軸受100とする。
【0020】
(転がり軸受100の構成)
図1は、転がり軸受100の断面図である。
図1に示されるように、転がり軸受100は、深溝玉軸受である。但し、転がり軸受100は深溝玉軸受に限られない。転がり軸受100は、例えば、高圧水素減圧弁、水素循環器等の水素利用機器用である。転がり軸受100は、FCV(Fuel Cell Vehicle)やEV(Electric Vehicle)のトランスアクスル用、CVT(Continuously Variable Transmission)等のトランスミッション用、モータ用であってもよい。転がり軸受100は、電装部品・補機(オルタネータ、カーエアコンの電磁クラッチ、ファンカップリング装置、中間プーリ、電動ファンモータ、圧縮機、電動アクチュエータ、電動パワーステアリング等)用であってもよい。転がり軸受100は、工作機械の主軸用、風力発電機の増速機用、鉄道車両の車軸、駆動装置又は主電動機用、建設機械のアクスル用、抄紙機用、変速機用であってもよい。転がり軸受100は、ハブベアリングであってもよい。
【0021】
転がり軸受100は、内輪10と、外輪20と、複数の転動体30と、保持器40とを有している。内輪10の中心軸を、中心軸Aとする。中心軸Aに沿う方向を、軸方向とする。中心軸Aに直交し、かつ中心軸Aを通る方向を、径方向とする。軸方向に沿って見た際に中心軸Aを中心とする円周に沿う方向を、周方向とする。
【0022】
内輪10は、リング状である。内輪10は、第1幅面10aと、第2幅面10bと、内径面10cと、外径面10dとを有している。第1幅面10a、第2幅面10b、内径面10c及び外径面10dを合わせて、内輪10の表面ということがある。
【0023】
第1幅面10a及び第2幅面10bは、軸方向における内輪10の端面である。第1幅面10aは、軸方向における一方側(
図1中では、左側)を向いている。第2幅面10bは、軸方向における他方側(
図1中では、右側)を向いている。すなわち、第2幅面10bは、軸方向における第1幅面10aの反対面である。
【0024】
内径面10c及び外径面10dは、周方向に延在している。内径面10cは径方向における内側を向いており、外径面10dは径方向における外側を向いている。すなわち、外径面10dは、径方向における内径面10cの反対面である。軸方向における内径面10cの一方端及び他方端は、それぞれ第1幅面10a及び第2幅面10bに連なっている。軸方向における外径面10dの一方端及び他方端は、それぞれ第1幅面10a及び第2幅面10bに連なっている。内輪10は、内径面10cにおいて、軸(図示せず)に嵌め合わされている。
【0025】
外径面10dは、軌道面10daを有している。軌道面10daは、転動体30に接触する外径面10dの部分である。軌道面10daは、周方向に延在している。外径面10dは、軌道面10daにおいて、内径面10c側に窪んでいる。軌道面10daは、周方向に直交する断面視において、部分円弧状である。軌道面10daは、軸方向において、外径面10dの中央部にある。
【0026】
外輪20は、リング状である。外輪20は、第1幅面20aと、第2幅面20bと、内径面20cと、外径面20dとを有している。第1幅面20a、第2幅面20b、内径面20c及び外径面20dを合わせて、外輪20の表面ということがある。
【0027】
第1幅面20a及び第2幅面20bは、軸方向における外輪20の端面である。第1幅面20aは、軸方向における一方側を向いている。第2幅面20bは、軸方向における他方側を向いている。すなわち、第2幅面20bは、軸方向における第1幅面20aの反対面である。
【0028】
内径面20c及び外径面20dは、周方向に延在している。内径面20cは径方向における内側を向いており、外径面20dは径方向における外側を向いている。すなわち、外径面20dは、径方向における内径面20cの反対面である。軸方向における内径面20cの一方端及び他方端は、それぞれ第1幅面20a及び第2幅面20bに連なっている。軸方向における外径面20dの一方端及び他方端は、それぞれ第1幅面20a及び第2幅面20bに連なっている。外輪20は、外径面20dにおいて、ハウジング(図示せず)に嵌め合わされている。外輪20は、内径面20cが外径面10dと間隔を空けて対向するように、内輪10の径方向における外側に配置されている。
【0029】
内径面20cは、軌道面20caを有している。軌道面20caは、転動体30に接触する内径面20cの部分である。軌道面20caは、周方向に延在している。内径面20cは、軌道面20caにおいて、外径面20d側に窪んでいる。軌道面20caは、周方向に直交する断面視において、部分円弧状である。軌道面20caは、軸方向において、内径面20cの中央部にある。軌道面20caは、軌道面10daと間隔を空けて対向している。
【0030】
転動体30は、球状である。転動体30は、外径面10dと内径面20cとの間に配置されている。より具体的には、転動体30は、軌道面10daと軌道面20caとの間に配置されている。複数の転動体30は、軌道面10daと軌道面20caとの間において周方向に並んでいる。保持器40は、隣り合う2つの転動体30の間の周方向における間隔が一定範囲内となるように、複数の転動体30を保持している。
【0031】
内輪10、外輪20及び転動体30は、焼入れ及び焼戻しの行われた鋼製である。内輪10、外輪20及び転動体30を構成している鋼に対しては、浸窒処理又は浸炭浸窒処理が行われていてもよい。
【0032】
内輪10、外輪20及び転動体30を構成している鋼の組成は、表1に示されている組成である。表1に示されている組成の鋼を、第1組成の鋼ということがある。
【0033】
【0034】
表1に示されるように、第1組成の鋼は、0.15質量パーセント以上1.10質量パーセント以下の炭素と、0.15質量パーセント以上0.70質量パーセント以下のシリコンと、0.30質量パーセント以上1.20質量パーセント以下のマンガンと、1.00質量パーセント以上1.70質量パーセント以下のクロムと、0.50質量パーセント以下のモリブデンと、0.50質量パーセント以下のバナジウムと、0.50質量パーセント以下のニオブと、残部を構成している鉄及び不可避不純物とを含有している。なお、第1組成の鋼は、モリブデン、バナジウム及びニオブを含有していなくてもよい。
【0035】
第1組成の鋼中の炭素含有量が1.10質量パーセント以下であるのは、焼割れを抑制するためである。第1組成の鋼中のシリコン含有量が0.15質量パーセント以上であるのは、焼戻し軟化抵抗を高めるため及び加工性を改善するためである。第1組成の鋼中のシリコン含有量が0.35質量パーセント以下であるのは、シリコン量が過剰となると加工性が却って低下するためである。
【0036】
第1組成の鋼中のマンガン含有量が0.30質量パーセント以上であるのは、焼入れ性確保のためである。第1組成の鋼中のマンガン含有量が1.20質量パーセント以下であるのは、マンガン含有量が過剰となると鋼中にマンガン系の非金属介在物が増加するためである。
【0037】
第1組成の鋼中のクロム含有量が1.00質量パーセント以上であるのは、焼入れ性を確保するため及び析出物を形成させるためである。第1組成の鋼中のクロム含有量が1.70質量パーセント以下であるのは、粗大な析出物が形成されることを抑制するためである。第1組成の鋼中にモリブデンが含まれているのは、析出物の析出量を増加させるため及び焼入れ性の改善するためである。第1組成の鋼中のモリブデン含有量が0.50質量パーセント以下であるのは、モリブデン添加に伴うコスト増大を抑制するためである。第1組成の鋼中では、モリブデン含有量が0.01質量パーセント以上であることが好ましい。
【0038】
第1組成の鋼中にバナジウムが含まれているのは、析出物の析出量を増加させるためである。第1組成の鋼中のバナジウム含有量が0.50質量パーセント以下であるのは、バナジウム添加に伴うコスト増大を抑制するためである。第1組成の鋼中にニオブが含まれているのは、析出物の析出量を増加させるためである。第1組成の鋼中のニオブ含有量が0.50質量パーセント以下であるのは、ニオブ添加に伴うコスト増大を抑制するためである。第1組成の鋼中では、バナジウム含有量が0.01質量パーセント以上であることが好ましく、ニオブ含有量が0.01質量パーセント以上であることが好ましい。
【0039】
内輪10、外輪20及び転動体30を構成している鋼の組成は、表2に示されている組成であってもよい。表2に示されている組成の鋼を、第2組成の鋼ということがある。
【0040】
【0041】
表2に示されるように、第2組成の鋼は、0.20質量パーセント以上1.00質量パーセント以下の炭素と、0.20質量パーセント以上0.60質量パーセント以下のシリコンと、0.40質量パーセント以上1.10質量パーセント以下のマンガンと、1.10質量パーセント以上1.60質量パーセント以下のクロムと、0.50質量パーセント以下のモリブデンと、0.50質量パーセント以下のバナジウムと、0.50質量パーセント以下のニオブと、残部を構成している鉄及び不可避不純物とを含有している。なお、第2組成の鋼は、モリブデン、バナジウム及びニオブを含有していなくてもよい。
【0042】
第2組成の鋼中では、モリブデン含有量が0.03質量パーセント以上0.30質量パーセント以下であることが好ましい。第2組成の鋼中では、バナジウム含有量が0.03質量パーセント以上0.30質量パーセント以下であることが好ましく、ニオブ含有量が0.03質量パーセント以上0.30質量パーセント以下であることが好ましい。
【0043】
内輪10、外輪20及び転動体30を構成している鋼の具体例としては、JIS規格に規定されているSUJ2、JIS規格に規定されているSUJ3、JIS規格に規定されているSCr435、JIS規格に規定されているSC420、JIS規格に規定されているSCM420が挙げられる。但し、内輪10、外輪20及び転動体30を構成している鋼は、これらの鋼種に限られない。
【0044】
表層部50における平均炭素濃度は、0.7質量パーセント以上である。表層部50における平均窒素濃度は、0.1質量パーセント以上である。表層部50における窒素濃度は、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)を用いて測定される。
【0045】
表層部50には、析出物が分散されている。析出物は、セメンタイト、窒化物及び炭窒化物の少なくともいずれかである。窒化物の主成分は、クロム、バナジウム又はニオブである。なお、クロム(バナジウム、ニオブ)を主成分とする窒化物とは、クロム(バナジウム、ニオブ)の窒化物又は当該窒化物のクロム(バナジウム、ニオブ)のサイトの一部が他の合金元素により置換されているものをいう。
【0046】
炭窒化物の主成分は、クロム、バナジウム又はニオブである。なお、クロム(バナジウム、ニオブ)を主成分とする炭窒化物とは、クロム(バナジウム、ニオブ)の炭窒化物又は当該炭窒化物のクロム(バナジウム、ニオブ)のサイトの一部が他の合金元素に置換されているものをいう。
【0047】
表層部50における析出物の面積率は、2.0パーセント以上である。表層部50における析出物の面積率は、鋼の組成、表層部50における平均炭素濃度及び表層部50における平均窒素濃度により変化する。表層部50における析出物の面積率は、以下の方法により測定される。
【0048】
第1に、表層部50を含断面において、SEM(Scanning Electron Microscope)を用いて断面画像(以下「SEM画像」とする)が取得される。このSEM画像を取得する際の倍率は、15000倍とされる。第2に、取得されたSEM画像に対して、画像処理が行われる。より具体的には、SEM画像中において析出物は白色に見えるため、SEM画像中において白色になっている部分の合計の面積を画像処理により算出する。第3に、SEM画像中において白色になっている部分の合計の面積をSEM画像の面積で除することにより、表層部50における析出物の面積率が得られる。
【0049】
表層部50において、内輪10、外輪20及び転動体30を構成している鋼は、マルテンサイトブロックを含んでいる。表層部50において、マルテンサイトブロックの{011}面の結晶方位密度の最大値は、4.0倍ランダム以下である。なお、マルテンサイトブロックの{011}面は、マルテンサイトブロックのすべり面である。表層部50におけるマルテンサイトブロックの{011}面の結晶方位密度の最大値は、以下の方法により測定される。
【0050】
第1に、表層部50を含む断面において、断面観察が行われる。この際、EBSD法により、観察視野に含まれているマルテンサイトブロックが特定される。この観察視野は、倍率1500倍で観察される領域である。第2に、EBSD法により得られた結晶方位データから、球面調和関数を用いたH.J. Bunge,Mathematische Methoden der Texturanalyse,Akademie-Verlag(1969)に記載の方法にしたがって、マルテンサイトブロックの{011}面の結晶方位密度分布が解析される。この結晶方位密度分布内における最も高い結晶方位密度の値が、{011}面の結晶方位密度の最大値と見做される。
【0051】
表層部50おけるマルテンサイトブロックの{011}面の結晶方位密度の最大値が小さいほど、表層部50おけるマルテンサイトブロックの{011}面の形成方位のランダム性が高いことになる。
【0052】
表層部50におけるマルテンサイトブロックの上位粒面積率30パーセントでの平均粒径は、3.0μm以下であることが好ましい。表層部50におけるマルテンサイトブロックの上位粒面積率30パーセントでの平均粒径は、以下の方法により測定される。
【0053】
第1に、表層部50を含む断面において、断面観察が行われる。この際、EBSD法により、観察視野に含まれているマルテンサイトブロックが特定される。この観察視野は、倍率1500倍で観察される領域である。第2に、EBSD法により得られた結晶方位データから、観察視野に含まれているマルテンサイトブロックの各々の面積が解析される。第3に、観察視野に含まれているマルテンサイトブロックの各々の面積を、面積が大きいものから順に加算していく。この加算は、観察視野に含まれているマルテンサイトブロックの合計面積の30パーセントに達するまで行われる。
【0054】
第4に、上記の加算の対象になったマルテンサイトブロックの各々について、円相当径が算出される。この円相当径は、マルテンサイトブロックの面積をπ/4で除した値の平方根である。上記の加算の対象になったマルテンサイトブロックの円相当径の平均値が、表層部50におけるマルテンサイトブロックの上位粒面積率30パーセントでの平均粒径と見做される。
【0055】
表層部50におけるマルテンサイトブロックの上位粒面積率30パーセントでの平均アスペクト比は、3.0μm以下であることが好ましい。表層部50におけるマルテンサイトブロックの上位粒面積率30パーセントでの平均アスペクト比は、以下の方法により測定される。
【0056】
第1に、表層部50を含む断面において、断面観察が行われる。この際、EBSD法により観察視野に含まれているマルテンサイトブロックが特定される。この観察視野は、倍率1500倍で観察される領域である。第2に、EBSD法により得られた結晶方位データから、観察視野に含まれているマルテンサイトブロックの各々の形状を最小二乗法により楕円近似される。この最小二乗法による楕円近似は、S. Biggin and D. J. Dingley, Journal of Applied Crystallography, (1977)10, 376-378に記載の方法にしたがって行われる。この楕円形状において、長軸の寸法を短軸の寸法で除することにより、各々のマルテンサイトブロックのアスペクト比が算出される。第3に、EBSD法により得られた結晶方位データから、観察視野に含まれているマルテンサイトブロックの各々の面積が解析される。
【0057】
第4に、観察視野に含まれているマルテンサイトブロックの各々の面積を、面積が大きいものから順に加算していく。この加算は、観察視野に含まれているマルテンサイトブロックの合計面積の30パーセントに達するまで行われる。上記の加算の対象になったマルテンサイトブロックのアスペクト比の平均値が、上位粒面積率30パーセントでの表層部50におけるマルテンサイトブロックの平均アスペクト比と見做される。
【0058】
表層部50において、マルテンサイトブロックの{011}面の結晶方位密度の最大値とマルテンサイトブロックの上位粒面積率30パーセントでの平均粒径とは、互いに相関している。より具体的には、マルテンサイトブロックの{011}面の結晶方位密度の最大値をXとすると、マルテンサイトブロックの上位粒面積率30パーセントでの平均粒径(単位:μm)は、0.77×X-0.17となる。この関係の相関係数Rは、0.94である。
【0059】
表層部50において、マルテンサイトブロックの{011}面の結晶方位密度の最大値とマルテンサイトブロックの上位粒面積率30パーセントでの平均アスペクト比とは、互いに相関している。より具体的には、マルテンサイトブロックの{011}面の結晶方位密度の最大値をXとすると、マルテンサイトブロックの上位粒面積率30パーセントでの平均アスペクト比は、0.24×X+2.83となる。この関係の相関係数Rは、0.72である。表層部50において、マルテンサイトブロックの上位粒面積率30パーセントでの平均粒径とマルテンサイトブロックの上位粒面積率30パーセントでの平均アスペクト比とは、互いに相関している。より具体的には、マルテンサイトブロックの上位粒面積率30パーセントでの平均粒径をY(単位:μm)とすると、マルテンサイトブロックの上位粒面積率30パーセントでの平均アスペクト比は、0.29×Y+2.94となる。この関係の相関係数Rは、0.70である。
【0060】
内輪10、外輪20及び転動体30を構成している鋼は、残留オーステナイトを含んでいる。表面からの距離が50μmとなる位置における内輪10、外輪20及び転動体30の残留オーステナイトの体積比は、転がり軸受100の使用に伴う寸法の経年変化を抑制する観点から、好ましくは35パーセント以下である。残留オーステナイトの体積比は、X線回折法により測定される。すなわち、オーステナイトのX線回折における回折ピークの積分強度とオーステナイト以外の相のX線回折における回折ピークの積分強度とを比較することにより、残留オーステナイトの体積比が算出される。
【0061】
表面からの距離が50μmとなる位置における内輪10、外輪20及び転動体30の硬さは、例えば、60HRC以上である。表面からの距離が50μmとなる位置における内輪10、外輪20及び転動体30の硬さは、JIS規格に規定されているロックウェル硬さ試験法により測定される。
【0062】
<変形例>
上記においては、内輪10、外輪20及び転動体30が第1組成又は第2組成の鋼により形成される例を示したが、内輪10、外輪20及び転動体30のうちの少なくともいずれかが第1組成又は第2組成の鋼により形成されていればよい。また、上記においては、内輪10、外輪20及び転動体30が上記のような表層部50を有する例を示したが、内輪10、外輪20及び転動体30のうちの少なくともいずれかが上記のような表層部50を有していればよい。
【0063】
(転がり軸受100の製造方法)
以下に、転がり軸受100の製造方法を説明する。
【0064】
図2は、転がり軸受100の製造工程図である。
図2に示されるように、転がり軸受100の製造方法は、準備工程S1と、浸窒処理工程S2と、第1焼入れ工程S3と、第1焼戻し工程S4と、第2焼入れ工程S5と、第2焼戻し工程S6と、後処理工程S7と、組み立て工程S8とを有している。なお、転がり軸受100の製造方法は、第1焼戻し工程S4及び第2焼入れ工程S5を有していなくてもよい。
【0065】
準備工程S1においては、加工対象部材が準備される。加工対象部材としては、内輪10及び外輪20を形成しようとする場合はリング状の部材が準備され、転動体30を形成しようとする場合は球状の部材が準備される。この加工対象部材は、第1組成又は第2組成の鋼により形成されている。
【0066】
浸窒処理工程S2においては、加工対象部材の表面に対する浸窒処理が行われる。この浸窒処理は、窒素源となるガスを含む雰囲気ガス中において、加工対象部材をA1変態点以上の温度で所定時間保持することにより行われる。雰囲気ガスは、炭素源となるガスを含んでいてもよい。浸窒処理工程S2においては、加工対象部材の表面に対する浸窒処理に代えて、加工対象部材の表面に対する浸炭浸窒処理が行われてもよい。浸窒処理工程S2において浸窒処理のみが行われる場合、保持温度は、例えば850℃である。浸窒処理工程S2において浸炭浸窒処理が行われる場合、保持温度は、例えば850℃以上960℃以下である。
【0067】
第1焼入れ工程S3においては、加工対象部材に対する焼入れが行われる。この焼入れは、加工対象部材をA1変態点以上の温度で所定時間保持した後に加工対象部材をMS変態点以下の温度まで冷却することにより行われる。第1焼入れ工程S3における保持温度は、例えば、810℃以上910℃以下である。
【0068】
第1焼戻し工程S4においては、加工対象部材に対する焼戻しが行われる。この焼戻しは、加工対象部材をA1変態点未満の温度で所定時間保持することにより行われる。第1焼戻し工程S4における保持温度は、例えば180℃である。
【0069】
第2焼入れ工程S5においては、加工対象部材に対する焼入れが行われる。この焼入れは、加工対象部材をA1変態点以上の温度で所定時間保持した後に加工対象部材をMS変態点以下の温度まで冷却することにより行われる。第2焼入れ工程S5における保持温度は、浸窒処理工程S2及び第1焼入れ工程S3における保持温度以下である。
【0070】
第2焼戻し工程S6においては、加工対象部材に対する焼戻しが行われる。この焼戻しは、加工対象部材をA1変態点未満の温度で所定時間加熱保持することにより行われる。第2焼戻し工程S6における保持温度は、例えば180℃である。
【0071】
後処理工程S7においては、加工対象部材に対する仕上げ加工(研削・研磨)及び洗浄が行われる。これにより、内輪10、外輪20及び転動体30が形成される。組み立て工程S8においては、内輪10、外輪20及び転動体30が、保持器40とともに組み立てられる。以上により、
図1に示される構造の転がり軸受100が製造される。
【0072】
<変形例>
図3は、転がり軸受100の製造方法の変形例を示す工程図である。
図3に示されるように、転がり軸受100の製造方法は、第1焼戻し工程S4を有していなくてもよく、第2焼入れ工程S5に代えてサブゼロ処理工程S9を有していてもよい。サブゼロ処理工程S9においては、加工対象部材を室温以下の温度まで冷却することにより行われる。
【0073】
(転がり軸受100の効果)
以下に、転がり軸受100の効果を説明する。
【0074】
表層部50においては、平均炭素濃度及び平均窒素濃度がそれぞれ0.7質量パーセント以上及び0.1質量パーセント以上になっており、その結果、面積率が2.0パーセント以上になるように析出物が多く分散している。そのため、内輪10、外輪20及び転動体30では、表面の耐摩耗性が改善されている。
【0075】
内輪10、外輪20及び転動体30の表面における耐圧痕形成能には、鋼のマクロ組織に依存する硬さのみならず、ミクロ組織であるマルテンサイトブロックの結晶配向性にも影響される。より具体的には、表層部50では、すべり面であるマルテンサイトブロックの{011}面の結晶方位密度の最大値が小さくなっているため、マルテンサイトブロックの塑性変形のしやすさが場所に拠らず均一になっている。
【0076】
その結果、内輪10、外輪20及び転動体30の表面では、他の転動部品との接触により圧痕が生じても、圧痕の大きさのばらつきが小さく、大きな圧痕が形成されがたい(耐圧痕形成能が高い)。転動疲労強度は最弱リンクモデルにより表現されるため、大きな圧痕が形成されがたいことにより、内輪10、外輪20及び転動体30の転動疲労強度が改善される。
【0077】
(実施例)
内輪のサンプルとして、サンプル1からサンプル16が準備された。表3に示されるように、サンプル1からサンプル16には、鋼種Aから鋼種Jの10種類の鋼種が用いられた。サンプル1からサンプル16では、表4に示されるように、鋼種に加えて、表層部50における平均炭素濃度、表層部50における平均窒素濃度、表層部50におけるマルテンサイトブロックの{011}面の結晶方位密度の最大値及び表層部50における析出物の面積率が変化された。また、サンプル1からサンプル16では、表層部50におけるマルテンサイトブロックの上位粒面積率30パーセントでの平均粒径、表層部50におけるマルテンサイトブロックの上位粒面積率30パーセントでの平均アスペクト比、軌道面からの距離が50μmとなる位置における硬さ及び軌道面からの距離が50μmとなる位置における硬さも変化された。
【0078】
サンプル1からサンプル16では、適用される熱処理が変化された。サンプル1からサンプル16に適用された熱処理は、熱処理Aから熱処理Fのいずれかである。熱処理Aでは、第1焼入れ工程S3及び第1焼戻し工程S4が行われた。熱処理Bでは、浸窒処理工程S2、第1焼入れ工程S3及び第1焼戻し工程S4が行われた。熱処理Bの浸窒処理工程S2では、浸窒処理のみが行われた。熱処理Cでは、浸窒処理工程S2、第1焼入れ工程S3及び第1焼戻し工程S4が行われた。熱処理Cの浸窒処理工程S2では、浸炭浸窒処理が行われた。
【0079】
熱処理Dでは、浸窒処理工程S2、第1焼入れ工程S3、サブゼロ処理工程S9及び第2焼戻し工程S6が行われた。熱処理Dの浸窒処理工程S2では、浸炭浸窒処理が行われた。熱処理E及び熱処理Fでは、浸窒処理工程S2、第1焼入れ工程S3、第1焼戻し工程S4、第2焼入れ工程S5及び第2焼戻し工程S6が行われた。熱処理Eの浸窒処理工程S2では浸窒処理のみが行われ、熱処理Fの浸窒処理工程S2では浸炭浸窒処理が行われた。
【0080】
熱処理Aは、サンプル10に適用された。熱処理Bは、サンプル1、サンプル2、サンプル5及びサンプル11に適用された。熱処理Cは、サンプル7及びサンプル12からサンプル16に適用された。熱処理Dは、サンプル3に適用された。熱処理Eは、サンプル4に適用された。熱処理Fは、サンプル6、サンプル8及びサンプル9に適用された。
【0081】
【0082】
【0083】
鋼の組成が第1組成の範囲内にあることを、条件1とする。表層部50における平均炭素濃度が0.7質量パーセント以上であることを、条件2とする。表層部50における平均窒素濃度が0.1質量パーセント以上であることを、条件3とする。表層部50におけるマルテンサイトブロックの{011}面の結晶方位密度の最大値が4.0倍ランダム以下であることを、条件4とする。サンプル1からサンプル9では、条件1から条件4の全てが満たされていた。サンプル10からサンプル16では、条件1から条件4の少なくとも1つが満たされていなかった。
【0084】
表5に示されるように、サンプル1からサンプル16において、軌道面における耐摩耗性及び耐圧痕形成能が評価された。軌道面における耐摩耗性は、摩耗試験後の摩耗量を対比することにより評価された。摩耗試験は、サバン型摩耗試験機を用いて、試験荷重が50N、相手材に対する相対速度が0.05m/s、試験時間が60分間、潤滑油がモービルベロシティオイルNo.3(登録商標)との条件で行われた。摩耗量が基準材(サンプル10)の1/3未満である場合に軌道面における耐摩耗性がAとされ、摩耗量が基準材の2/3未満である場合に軌道面における耐摩耗性がBとされ、摩耗量が基準材の2/3以上である場合に軌道面における耐摩耗性がCとされた。なお、軌道面における耐摩耗性は、Aである場合が最も高く、Cである場合が最も低い。
【0085】
軌道面における耐圧痕形成能は、セラミックス球を押し当てた際に形成される圧痕の深さにより評価された。セラミックス球は、直径が3/8インチであり、窒化シリコン製であった。セラミックス球は、最大押し込み荷重で120秒間押し付けられ、その後に除荷された。圧痕の深さは、サンプルごとに5箇所において測定が行われ、それらの測定値のうちの最大値が採用された。圧痕の深さが基準材(サンプル10)の0.8倍未満である場合に軌道面における耐圧痕形成能がAとされ、圧痕の深さが基準材の1.2倍未満である場合に軌道面における耐圧痕形成能がBとされ、圧痕深さが基準材の1.2倍以上である場合に軌道面における耐圧痕形成能がCとされた。なお、軌道面における耐圧痕形成能は、Aである場合が最も高く、Cである場合が最も低い。
【0086】
【0087】
サンプル1からサンプル9では、軌道面における耐摩耗性及び耐圧痕形成能の評価がともにB以上であった。他方で、サンプル10からサンプル16では、軌道面における耐摩耗性及び耐圧痕形成能の評価の少なくともいずれかが、Cであった。この比較から、条件1から条件4が満たされることにより、転動部品の表面における耐摩耗性を確保しつつ、転動部品の表面における耐圧痕形成能を高められることが明らかになった。
【0088】
以上のように本発明の実施形態について説明を行ったが、上記の実施形態を様々に変形することも可能である。また、本発明の範囲は、上記の実施形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含むことが意図される。
【符号の説明】
【0089】
100 転がり軸受、10 内輪、10a 第1幅面、10b 第2幅面、10c 内径面、10d 外径面、10da 軌道面、20 外輪、20a 第1幅面、20b 第2幅面、20c 内径面、20ca 軌道面、20d 外径面、30 転動体、40 保持器、50 表層部、A 中心軸、S1 準備工程、S2 浸窒処理工程、S3 第1焼入れ工程、S4 第1焼戻し工程、S5 第2焼入れ工程、S6 第2焼戻し工程、S7 後処理工程、S8 組み立て工程、S9 サブゼロ処理工程。