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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129303
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】防護網及び防護網の施工方法
(51)【国際特許分類】
   E01F 7/04 20060101AFI20240919BHJP
【FI】
E01F7/04
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038415
(22)【出願日】2023-03-13
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-07-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003528
【氏名又は名称】東京製綱株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100098268
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 豊
(74)【代理人】
【識別番号】100166420
【弁理士】
【氏名又は名称】福川 晋矢
(74)【代理人】
【識別番号】100150865
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 司
(72)【発明者】
【氏名】橋口 寛史
(72)【発明者】
【氏名】河野 和人
【テーマコード(参考)】
2D001
【Fターム(参考)】
2D001PA06
2D001PB04
2D001PC03
2D001PD05
2D001PD10
2D001PD11
2D001PE01
(57)【要約】
【課題】金網自体の緩衝性能のより効率的な利用及び阻止面をシンプルな構造とすることを可能とし、これにより部品点数の削減若しくは設置作業の簡略化が図られた防護網の提供。
【解決手段】複数の支柱12と、支柱12の上部から斜面下方へ向かって吊持される金網であって、アンカーに接続された索体が阻止面において配置されていない金網11と、支柱12の上部に対する金網11の取り付けにおいて、落石などの衝突エネルギーが金網11に加わった際に、金網11が支柱12の上部から繰り出されるように構成されている上部金網繰出構造と、を備える、防護網1。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
傾斜地に設置される防護網であって、
複数の支柱と、
前記支柱の上部から斜面下方へ向かって吊持される金網であって、固定部材に接続された索体が阻止面において配置されていない金網と、
前記支柱の上部に対する前記金網の取り付けにおいて、落石などの衝突エネルギーが前記金網に加わった際に、前記金網が繰り出されるように構成されている上部金網繰出構造と、
を備える、防護網。
【請求項2】
前記上部金網繰出構造が、
前記支柱の上部に掛け渡され、前記金網の上部を摺動可能に保持する上部金網保持索体と、
前記金網の側部において上下方向に延びて、前記金網の側部と一端がアンカーに接続された側部連結索体とを連結する側部連結部材であって、前記支柱の上部に連結されており、前記支柱の上部から下方への所定の範囲においては前記金網と連結されていない、側部連結部材と、
によって構成されている、請求項1に記載の防護網。
【請求項3】
前記側部連結部材が複数の前記側部連結索体と連結されており、前記所定の範囲が、前記支柱の上部から、複数の前記側部連結索体のうちの最上部の側部連結索体までの間である、請求項2に記載の防護網。
【請求項4】
前記金網の下部側の取り付けにおいて、落石などの衝突エネルギーが前記金網に加わった際に、前記金網の下部側が繰り出されるように構成されている下部金網繰出構造を備える、請求項1に記載の防護網。
【請求項5】
前記下部金網繰出構造が、
前記金網の下部を摺動可能に保持する下部金網保持索体と、
前記金網の側部において上下方向に延びて、前記金網の側部と一端がアンカーに接続された側部連結索体とを連結する側部連結部材であって、前記下部金網保持索体に摺動可能に連結されており、前記下部金網保持索体に対する連結位置から上方への所定の範囲においては前記金網と連結されていない、側部連結部材と、
によって構成されている、請求項4に記載の防護網。
【請求項6】
前記側部連結部材が索体であり、当該索体の下端側でワイヤグリップによって前記下部金網保持索体との連結のためのアイ部が形成されており、前記所定の範囲が、前記下部金網保持索体に対する連結位置から、前記ワイヤグリップが配置されている範囲である、請求項5に記載の防護網。
【請求項7】
前記上部金網保持索体が、エネルギーを吸収しながら長さを伸長しつつ、ストッパー機構により連結が維持される第1の緩衝装置を有して、アンカーと連結され、
前記側部連結索体が、エネルギーを吸収しながら長さを伸長しつつ、連結を維持するためのストッパー機構を備えない第2の緩衝装置を有する、請求項2に記載の防護網。
【請求項8】
前記下部金網保持索体が、エネルギーを吸収しながら長さを伸長しつつ、ストッパー機構により連結が維持される第1の緩衝装置を有して、アンカーと連結され、
前記側部連結索体が、エネルギーを吸収しながら長さを伸長しつつ、連結を維持するためのストッパー機構を備えない第2の緩衝装置を有する、請求項5に記載の防護網。
【請求項9】
前記第2の緩衝装置が、複数素線を束ねた帯状体によって形成され、前記帯状体の中央部が屈曲されて形成されたアイ部と、前記アイ部から伸びる2本の螺旋状部と、を備え、前記側部連結索体が余長を有して前記2本の螺旋状部によって巻き付けられ、落石などの衝突エネルギーが加わった際には、当該巻き付け部分が摩擦力をもって摺動するように構成されている、請求項7又は8に記載の防護網。
【請求項10】
前記支柱の上部に、前記上部金網保持索体を摺動可能に通す索体配置路を2つ備える、請求項2、3、7の何れかに記載の防護網。
【請求項11】
前記金網が2重構造を有する、請求項1から8の何れかに記載の防護網。
【請求項12】
前記支柱の上部に掛け渡された上部金網保持索体を備え、
前記2重構造を構成する2枚の金網の一方が他方の金網より上方に突出しており、当該一方の金網の突出部分を、前記上部金網保持索体を巻き込むように折り返すことで、前記金網の上部が前記上部金網保持索体によって摺動可能に保持されている、請求項11に記載の防護網。
【請求項13】
前記金網の下部を摺動可能に保持する下部金網保持索体を備え、
前記2重構造を構成する2枚の金網の一方が他方の金網より下方に突出しており、当該一方の金網の突出部分を、前記下部金網保持索体を巻き込むように折り返すことで、前記金網の下部が前記下部金網保持索体によって摺動可能に保持されている、請求項11に記載の防護網。
【請求項14】
請求項12に記載の防護網の施工方法であって、
防護網の設置現地において、前記2重構造を構成させる2枚の金網の一方の金網を所定高さまで吊り上げた状態とし、これに対して他方の金網を締結コイルを用いて締結するステップと、
前記他方の金網が締結された前記一方の金網をさらに吊り上げて、前記上部金網保持索体に対する取り付けを行うステップと、
を備える、防護網の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、傾斜地に設置される防護網及びその施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
傾斜地等において対象物を所定領域に留め置くための防護施設の一つに、支柱から斜面下方へ向かって吊持される網体を備える防護網があり、ワイヤロープ等の索体及び金網によって構成された網体を備える防護網が利用されている。
このような防護網に関する従来技術が、特許文献1~4によって開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-148113号公報
【特許文献2】特許第3825218号公報
【特許文献3】特許第5007957号公報
【特許文献4】特許第6343706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1~3は、阻止面として、縦横に組み合わせたロープ材で編成された網体をベースとし、これに金網が設けられた防護網が開示されている。各横ロープの両端がアンカーに締結され、また、各縦ロープが横ロープと格子状に連結されて両サイドの縦ロープの上部が支柱上部に締結されており、縦横ロープ材で形成された網体に、金網が設けられているものである。
一方、特許文献4には縦ロープが無く、両端がアンカーに締結された複数の横ロープに対して、金網が設けられているものが開示されている。
特許文献1~3の防護網では、縦横に組み合わせたロープ材によって網体を構成する作業が必要であり、また、これらのロープ材と金網を締結する作業も必要であるため、施工に非常に手間がかかる(コストを要する)ものであった。また、各部材の締結のための部材を要する等、部品点数が多く、この点でもコストを要するものであった。
特許文献4の防護網では、縦ロープが無い分、特許文献1~3よりは上記問題が低減され得るものであるが、阻止面全体にわたって各横ロープに金網を締結することを要し、また、各横ロープに阻止面の両端付近でワイヤグリップを取り付ける必要があり、依然として、施工コストや部品点数の増加によるコストを要するものである。
また、特許文献1~4によって開示されている防護網は、その基本的な思想として、阻止面においてロープ材(及びロープ材に設けられる緩衝装置)で落石を受け止めているものということができる。金網はロープ材に締結されているため、その部分で金網の動きが制限され、金網自体の緩衝性能を最大限発揮できるものではなかった。
【0005】
本発明は、上記の点に鑑み、金網自体の緩衝性能のより効率的な利用及び阻止面をシンプルな構造とすることを可能とし、これにより部品点数の削減若しくは設置作業の簡略化が図られた防護網を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(構成1)
傾斜地に設置される防護網であって、複数の支柱と、前記支柱の上部から斜面下方へ向かって吊持される金網であって、固定部材に接続された索体が阻止面において配置されていない金網と、前記支柱の上部に対する前記金網の取り付けにおいて、落石などの衝突エネルギーが前記金網に加わった際に、前記金網が繰り出されるように構成されている上部金網繰出構造と、を備える、防護網。
【0007】
(構成2)
前記上部金網繰出構造が、前記支柱の上部に掛け渡され、前記金網の上部を摺動可能に保持する上部金網保持索体と、前記金網の側部において上下方向に延びて、前記金網の側部と一端がアンカーに接続された側部連結索体とを連結する側部連結部材であって、前記支柱の上部に連結されており、前記支柱の上部から下方への所定の範囲においては前記金網と連結されていない、側部連結部材と、によって構成されている、構成1に記載の防護網。
【0008】
(構成3)
前記側部連結部材が複数の前記側部連結索体と連結されており、前記所定の範囲が、前記支柱の上部から、複数の前記側部連結索体のうちの最上部の側部連結索体までの間である、構成2に記載の防護網。
【0009】
(構成4)
前記金網の下部側の取り付けにおいて、落石などの衝突エネルギーが前記金網に加わった際に、前記金網の下部側が繰り出されるように構成されている下部金網繰出構造を備える、構成1から3の何れかに記載の防護網。
【0010】
(構成5)
前記下部金網繰出構造が、前記金網の下部を摺動可能に保持する下部金網保持索体と、前記金網の側部において上下方向に延びて、前記金網の側部と一端がアンカーに接続された側部連結索体とを連結する側部連結部材であって、前記下部金網保持索体に摺動可能に連結されており、前記下部金網保持索体に対する連結位置から上方への所定の範囲においては前記金網と連結されていない、側部連結部材と、によって構成されている、構成4に記載の防護網。
【0011】
(構成6)
前記側部連結部材が索体であり、当該索体の下端側でワイヤグリップによって前記下部金網保持索体との連結のためのアイ部が形成されており、前記所定の範囲が、前記下部金網保持索体に対する連結位置から、前記ワイヤグリップが配置されている範囲である、構成5に記載の防護網。
【0012】
(構成7)
前記上部金網保持索体が、エネルギーを吸収しながら長さを伸長しつつ、ストッパー機構により連結が維持される第1の緩衝装置を有して、アンカーと連結され、前記側部連結索体が、エネルギーを吸収しながら長さを伸長しつつ、連結を維持するためのストッパー機構を備えない第2の緩衝装置を有する、構成2から6の何れかに記載の防護網。
【0013】
(構成8)
前記下部金網保持索体が、エネルギーを吸収しながら長さを伸長しつつ、ストッパー機構により連結が維持される第1の緩衝装置を有して、アンカーと連結され、前記側部連結索体が、エネルギーを吸収しながら長さを伸長しつつ、連結を維持するためのストッパー機構を備えない第2の緩衝装置を有する、構成5又は6に記載の防護網。
【0014】
(構成9)
前記第2の緩衝装置が、複数素線を束ねた帯状体によって形成され、前記帯状体の中央部が屈曲されて形成されたアイ部と、前記アイ部から伸びる2本の螺旋状部と、を備え、前記側部連結索体が余長を有して前記2本の螺旋状部によって巻き付けられ、落石などの衝突エネルギーが加わった際には、当該巻き付け部分が摩擦力をもって摺動するように構成されている、構成7又は8に記載の防護網。
【0015】
(構成10)
前記支柱の上部に、前記上部金網保持索体を摺動可能に通す索体配置路を2つ備える、構成2から9の何れかに記載の防護網。
【0016】
(構成11)
前記金網が2重構造を有する、構成1から10の何れかに記載の防護網。
【0017】
(構成12)
前記支柱の上部に掛け渡された上部金網保持索体を備え、前記2重構造を構成する2枚の金網の一方が他方の金網より上方に突出しており、当該一方の金網の突出部分を、前記上部金網保持索体を巻き込むように折り返すことで、前記金網の上部が前記上部金網保持索体によって摺動可能に保持されている、構成11に記載の防護網。
【0018】
(構成13)
前記金網の下部を摺動可能に保持する下部金網保持索体を備え、前記2重構造を構成する2枚の金網の一方が他方の金網より下方に突出しており、当該一方の金網の突出部分を、前記下部金網保持索体を巻き込むように折り返すことで、前記金網の下部が前記下部金網保持索体によって摺動可能に保持されている、構成11又は12に記載の防護網。
【0019】
(構成14)
構成12又は13に記載の防護網の施工方法であって、防護網の設置現地において、前記2重構造を構成させる2枚の金網の一方の金網を所定高さまで吊り上げた状態とし、これに対して他方の金網を締結コイルを用いて締結するステップと、前記他方の金網が締結された前記一方の金網をさらに吊り上げて、前記上部金網保持索体に対する取り付けを行うステップと、を備える、防護網の施工方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、金網自体の緩衝性能のより効率的な利用及び阻止面をシンプルな構造とすることを可能とし、これにより部品点数の削減若しくは設置作業の簡略化が図られた防護網を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明に係る実施形態の防護網を示す側面図
図2】実施形態の防護網を示す正面図
図3】実施形態の防護網の支柱を示す図
図4】支柱の上部を示す図
図5】第2の緩衝装置(緩衝グリップ)を示す図
図6】第1の緩衝装置を示す図
図7】実施形態の防護網の施工方法を示す写真
図8】重錘衝突実験に用いた供試体を示す図及び写真
図9】重錘衝突実験の実験設備を示す図
図10】重錘衝突実験の実験状況を示す写真
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を具体化する際の一形態であって、本発明をその範囲内に限定するものではない。
【0023】
図1、2は、本発明に係る実施形態の防護網の構成を示す図であり、それぞれ、図1:側面図、図2:正面図(谷側からみた図)である。
本実施形態の防護網1は、傾斜地に設置される防護施設であって、金網が支柱の上部から斜面下方へ向かって吊持される形式の、落石及び雪崩の双方に対応可能な防護網である。
【0024】
図1、2に示されるように、防護網1は、
複数の支柱12と、
支柱12の上部から斜面下方へ向かって吊持される金網であって、アンカー等の固定部材に接続された横ロープ等の索体が阻止面において配置されていない金網11と、
支柱12の上部に掛け渡され、金網11の上部を摺動可能に保持する上段横ロープ(上部金網保持索体)13と、
金網11の下部を摺動可能に保持する下段横ロープ(下部金網保持索体)14と、
一端がそれぞれアンカーA3に接続された複数の張出ロープ(側部連結索体)16と、
金網11の側部において上下方向に延びて、金網11の側部と張出ロープ(側部連結索体)16を連結する縦ロープ(側部連結部材)15と、
上段横ロープ(上部金網保持索体)13、下段横ロープ(下部金網保持索体)14に設けられる第1の緩衝装置18と、
張出ロープ(側部連結索体)16に設けられる第2の緩衝装置17と、
支柱12を支持するための各控えロープと、
を備えている。
【0025】
阻止面を構成する金網11は、引張強度が1400MPa以上の高張力線材を用いて形成された高強度金網である。
本実施形態の防護網1は、金網11が、3列の金網11a、11b、11cによって構成されている。それぞれの金網11a、11b、11cは、阻止面において2枚の金網を重ねて構成されており、上端部及び下端部においては金網1枚構成となっている。即ち、重ね合わされる金網の一方が上下方向により長く形成され、これに対して他方の(短い)金網が、一方の金網の上部と下部が突出するように配置されて重畳されているものである。これにより、「2重構造を構成する2枚の金網の一方が他方の金網より上方に突出」すると共に「2重構造を構成する2枚の金網の一方が他方の金網より下方に突出」しているものとなる。この際、他方(短い方)の金網は衝突面側(山側)に配置するのが望ましい(以下で説明するように、金網11は一方(長い方)の金網の上下の突出部分でロープ材に取り付けられるため、一方(長い方)の金網の破網の危険性をできるだけ低減した方が好ましく、従って、一方(長い方)の金網は落石が直接接触する衝突面側に配置しない方がよい)が、他方(短い方)の金網を衝突面反対側(谷側)に配置するものとしてもよい。なお、同じ長さの金網を上下に少しずらして重畳することで、基本的に2枚が重ね合わされた金網であって、金網の上端及び下端では金網1枚となるように構成するもの等であってもよい。
金網11は、ひし形金網であり、金網を構成する列線が横方向(水平方向)となるような向きで配置され、これにより、縦方向に展開、畳む(横方向を折り目として折り曲げる)ことが可能な配置とされている。
それぞれの金網11a、11b、11cは、接合部で重畳され、それぞれの重畳部分において縦方向に2列設けられる締結コイルC1によって相互に締結される。なお、3列の金網11a、11b、11cによって金網11を構成しているのは、支柱間のスパンに対して金網の幅が足りないからであり(金網の製造設備の都合や、現場(傾斜地)へ搬入・作業することを考慮したサイズ感等に基づく)、3列とすることが必須というものではない。1列や2列で対応できる場合には1列や2列であってもよいし、4列以上とするものであってもよい。
防護網1は、阻止面にロープ材(アンカーに接続されたロープ)を有せず、非常に簡素化された構造である。また、これにより、金網の動きが阻止面のロープ材によって制限されないため、阻止面が高い柔構造を有している。
なお、阻止面とは、面材(金網)のうち、設計思想として落石が当たることが想定されている箇所をいう。本実施形態の防護網1においては、2重構造になっている金網部分であって、両サイドの縦ロープ15よりも内側の部分である。
【0026】
図3、4は支柱12を示す図であり、それぞれ、図3(a):正面図、図3(b):側面図、図3(c):底面図、図4(a):上面図、図4(b):支柱上部の仕切り板121を示す図、図4(c):山側側面板122を示す図、である。
支柱12は、本実施形態ではH形鋼を用いて形成されており、その底部にはヒンジ板124を底部に有するベースプレート、上部には上段横ロープ13を摺動可能に保持するためのロープ保持構造をそれぞれ備えている(H形鋼の底部と上部にそれぞれの部材が溶接されている)。
支柱12は、斜面に形成された基礎上に、ヒンジ構造を有して傾動可能に設置される。基礎上には、支柱12の底部のヒンジ板124に対応したヒンジ板(特に図示せず)が設置されており、両者がボルト等をヒンジ軸として接合されることで、斜面方向に傾動可能に設置される。
支柱12は、以下で説明する各控えロープが接続されることで、支柱12の設置姿勢が保持される。
支柱上部のロープ保持構造は、支柱上面を正面視で曲線状にする天板123(図4(b)参照)と、当該天板123上に溶接される2枚の仕切り板121と、支柱上部の山側に設けられた山側側面板122と、を有している。
天板123は、支柱上面で横方向(正面視における左右方向)に摺動する上段横ロープ13の動作を円滑にする(摺動時の上段横ロープ13に対するダメージを低減する)ために、支柱上面にRを設ける部材である。
仕切り板121は、上段横ロープ13を摺動可能に通す索体配置路P1(及びP2)を形成するための仕切り板であり、図4(b)に示されるように、底面側が天板123に沿った形状であり、天板123に固定(溶接)される。仕切り板121は、上面視(図4(a))において、その両端が谷側に向かって屈曲するように形成されている。落石衝突時等において、谷側へと引っ張られる上段横ロープ13の動作を円滑にする(摺動時の上段横ロープ13に対するダメージを低減する)ための形状である。
本実施形態では、仕切り板121を2枚用いることで、P1及びP2の2本の索体配置路を形成している(図4(a)参照)。索体配置路P1及びP2により2本の上段横ロープ13をそれぞれ摺動可能に保持することが可能であり、隣り合うスパンの上段横ロープを1本の支柱で支持することができるものである。即ち、隣り合う防護網において支柱を共用化することにより、一層のコストダウンを図ることができる。なお、このような機能が不要である場合には、索体配置路を1つ(仕切り板121を1枚)とするものであってよい。
山側側面板122は、索体配置路P1を形成するために山側に設けられる平板状の部材である。山側側面板122の、谷側の両サイドの角部は、摺動時の上段横ロープ13に対するダメージを低減するために、面取りがされている(図4(c)参照)。
仕切り板121と山側側面板122にはそれぞれ対応する高さにボルト締結穴121hと122hが形成されており、索体配置路P1(及びP2)に上段横ロープ13を配した上で、ボルト締結穴121hと122hにピンボルト等を通して締結することで、上段横ロープ13が支柱12から外れることを防止する。
支柱12の上部には、控えロープを締結するための取付部材125が設けられている。山側の側面の取付部材125は、山側側面板122に対して固定(溶接)されており、谷側の側面の取付部材125は、谷側側面板126を用いて山側の側面の取付部材と同じ高さとなるように固定(溶接)されている。また、支柱12の横方向の両サイドの取付部材125は、H形鋼のフランジに直接固定(溶接)されている。
なお、本実施形態では、支柱12がH形鋼を用いて形成されるものを例としたが、本発明をこれに限るものでは無く、支柱として用いることができる(必要な強度を有する)任意の部材を使用するものであってよい。同様に、控えロープ等を取り付けるための構成についても、図示した取付部材125に限られるものではなく、索体などを取り付けるために用いられる任意の構造や機構を用いることができる。
【0027】
支柱12を支持するための控えロープは、本実施形態では、
各支柱12の上部(支柱12の山側の側面の取付部材125)と、山側に打設されたアンカーA1と、を接続する控えロープSW1と、
各支柱12の上部(支柱12の横方向の両サイドの取付部材125)と、各支柱12の両脇で斜面に打設されたアンカーA5と、を接続する控えロープSW2と、
を備えている。
なお、控えロープの他、各ロープ材を各部材に接続するための構成は、巻き付けグリップやワイヤグリップ等のアイ部の形成に用いる各部材や、シャックルやリング部材等の接続部材を適宜用いる等、索体等の各部材の締結に用いられる任意の構成(必要な強度を得られる構成)を用いることができる。
また、本実施形態では上記した各控えロープを備えるものを例としているが、本発明をこれに限るものではなく、必要な固定強度を得るために、控えロープ(及びこれの引留めに必要なアンカー等)の数の増減や、これらを設ける位置の変更をするもの等であってよい。
【0028】
上段横ロープ13は、ワイヤロープによって構成され、第1の緩衝装置18を有して、斜面に打設されたアンカーA2に、その両端が連結されている(図2参照)。
上段横ロープ13は、2本の支柱12のそれぞれの上部において、索体配置路P1(若しくはP2)に配され、支柱12の上部で摺動可能に支持される。
【0029】
下段横ロープ14も、ワイヤロープによって構成され、第1の緩衝装置18を有して、斜面に打設されたアンカーA4に、その両端が連結されている。
【0030】
縦ロープ15は、ワイヤロープによって構成され、その上端が支柱12の上部と連結され、下端が下段横ロープ14に摺動可能に連結されている。より具体的には、上端にワイヤグリップによってアイ部が形成され、支柱12の谷側の取付部材125に対してピンボルト等の接続金具等を用いて接続される。下端側ではワイヤグリップによってアイ部が形成され、シャックル等の接続金具を介して、下段横ロープ14に対して摺動可能に連結されている(なお、シャックル等の接続金具によらずに、アイ部に下段横ロープを通すことによって、摺動可能に連結するもの等であってもよい)。
縦ロープ15は、金網11の両サイドに設けられて金網11と複数の張出ロープ16とに接続されることにより、金網11の側部の張出ロープ16による支持を、点ではなく線で接続させる機能を有している。
【0031】
張出ロープ16は、ワイヤロープによって構成され、第2の緩衝装置17を有して、一端が縦ロープ15に連結され、他端が斜面に打設されたアンカーA3に連結されている。
なお、張出ロープ16の数は、必要な強度や耐力に応じて適宜増減することができる。
【0032】
図5は、第2の緩衝装置17を示す図であり、それぞれ、図5(a):取り付け状態を示す図、図5(b):使用前の状態を示す図、図5(c):取り付け作業時の状態を示す図、である。
第2の緩衝装置(緩衝グリップ)17は、複数素線を束ねた帯状体によって形成され、この帯状体の中央部が屈曲されて形成されたアイ部171と、アイ部171から伸びる2本の螺旋状部172と、を備えている。
第2の緩衝装置17は、張出ロープ(側部連結索体)16に対して、余長部分161を有して2本の螺旋状部172によって巻き付けられ(図5(c)参照)、落石などの衝突エネルギー(所定以上のエネルギー)が加わった際には、巻き付けられた部分である螺旋状部172が摩擦力をもって張出ロープ16に対して摺動するように構成されている。
本実施形態では、第2の緩衝装置17(及びこれに連結された張出ロープ16)の縦ロープ15への連結は、ワイヤグリップWGを用いて行われている(図5(a)参照)。
第2の緩衝装置17は、その構造的には巻き付けグリップと同様のものであるが、スリップさせることを前提としている点で、概念的に巻き付けグリップとは全く異なるものである。第2の緩衝装置17は、一般的な巻き付けグリップの螺旋部分を短くカットすること等によって形成することもできる。
第2の緩衝装置17は、落石などの衝突エネルギーが加わった際には、一定の張力がかかるまではスライドせずにネットの形状を維持するほうに機能し、一定以上の張力がかかった際には摩擦力をもって張出ロープ16を送り出すように機能する。送り出しの長さが余長部分161よりも長くなった場合には、張出ロープ16が抜け出る(連結が維持されない)ことで、金網のより大きな動きを許容する。また、張出ロープ16が抜けることでアンカーA3への負荷を低減することができる。従って、「張出ロープ(側部連結索体)が、エネルギーを吸収しながら長さを伸長しつつ、連結を維持するためのストッパー機構を備えない緩衝装置」として機能する。
【0033】
図6は、第1の緩衝装置18を示す図であり、それぞれ、図6(a):取り付け状態を示す図、図6(b)~(d):第1の緩衝装置18の各部材を示す図、である。
第1の緩衝装置18は、上段横ロープ13(若しくは下段横ロープ14)に働く張力を緩衝させるものであり、
張力が軸線方向に加わるように直列状に配置された複数の管状部材181と、
これら複数の管状部材181の間及び端部に配される複数の座金182と、
接続金具を介す等してアンカー(A1/A4)等の固定部材に接続される側の部材であるエッジ部材183と、
エッジ部材183に摺動可能に挿通されたブラケット材184と、
上段横ロープ13(若しくは下段横ロープ14)と接続され、管状部材181の内部及びブラケット材184に挿通されるシャフト部材185と、
を有している。
管状部材181は、図6(d)に示されるように、筒状の部材(本実施形態では鋼管によって形成)であって、軸線方向に加わる圧縮荷重若しくは引っ張り荷重の少なくとも一部を曲げ荷重として加える(圧縮若しくは引っ張り荷重を曲げ荷重に変換する)荷重変換部1811を備えている。これにより、軸線方向に荷重が加わった際には、先ず荷重変換部1811が変形して緩衝機能を発揮する。
座金182は、各管状部材181相互の多少のずれを許容させる(各管状部材181の軸が少しずれたような場合においても、荷重が各部材に適切に伝搬されるようにする)ための部材である。なお、例えば、管状部材181の内部に挿通されるシャフト部材185等によって、管状部材181の軸ずれが防止され、各部材への荷重の伝搬に問題が無いような場合には、座金182は必ずしも必要ない。
エッジ部材183は、本実施形態ではワイヤロープによって形成されている。ワイヤロープの中央部でアイ部1831が形成され、この両側のワイヤロープを摺動可能に通す穴が形成されている2つのブラケット材184を通した上で、その両端部にストッパー1832が形成されているものである。なおここではエッジ部材183がワイヤロープによって構成されるものを例としたが、同様の機能を有する部材を金物として形成するもの等であってもよい。また、ストッパー1832は、ブラケット材184から抜けないように構成されるものであればよく、例えば、エッジ部材183を金物として形成する場合等において、エッジ部材183の端部に形成したボルト部分をブラケット材184に通して(座金を介すなどして)、ナットで留めるもの等であってよい。
ブラケット材184は、直列に配置された管状部材181を挟み込むようにして、上段横ロープ13(若しくは下段横ロープ14)に働く張力を、各管状部材181に加えるための部材である。ブラケット材184には、エッジ部材183のワイヤロープを摺動可能に通す一方で、ストッパー1832は通さない(突き当たる)ように構成された穴が形成されている。また、シャフト部材185を摺動可能に通す一方で、座金182(若しくは管状部材181)は通さない(突き当たる)ように構成された穴が形成されている。
シャフト部材185は、本実施形態ではワイヤロープによって形成され、一端側がワイヤグリップを用いること等によってアイ部が形成されて上段横ロープ13(若しくは下段横ロープ14)の端部に形成されたアイ部と接続され、他端側はストッパー1851が形成されている。シャフト部材185のアイ部が形成される前の一端側が各部材(ブラケット材184、管状部材181、座金182)を通された上で、当該一端側にアイ部が形成されて上段横ロープ13(若しくは下段横ロープ14)と接続されることで、図6(a)に示されるように組み合わせられる。なおここではシャフト部材185がワイヤロープによって構成されるものを例としたが、同様の機能を有する部材を金物として形成するもの等であってもよい。また、上段横ロープ13(若しくは下段横ロープ14)そのものを、シャフト部材185として使用するものであってもよい。加えて、ストッパー1851は、ブラケット材184から抜けないように構成されるものであればよく、上記したストッパー1832に関する説明と同様に、ボルト(ロッドネジ)とこれに螺合するナット(および座金)で構成されるもの等であってよい。
第1の緩衝装置18は、上記の各部材が図6(a)に示されるように組み合わせられることにより、上段横ロープ13(若しくは下段横ロープ14)に働く張力を、直列に配置された管状部材181に対する軸線方向の圧縮力として加えるように構成されている。
第1の緩衝装置18では、落石衝突時の衝撃エネルギーに基づく張力に応じて、各管状部材181が段階的に潰れて行き、これに伴って上段横ロープ13(若しくは下段横ロープ14)を送り出すように機能する。各管状部材181が完全に潰れ切った場合には、そこで上段横ロープ13(若しくは下段横ロープ14)は引き留められる。従って、第1の緩衝装置18は、「エネルギーを吸収しながら長さを伸長しつつ、ストッパー機構により連結が維持される緩衝装置」として機能する。
第1の緩衝装置18は、管状部材181の数の変更により、緩衝性能を簡便に調節することが可能である。本実施形態では、上段横ロープ13と下段横ロープ14において、同様の第1の緩衝装置18を用いているが、配置する管状部材181の数を上段横ロープ13の方でより多くすることで、上段横ロープ13の方が高い緩衝能力を有するように構成されている。
【0034】
本実施形態の防護網1は、金網11を、その柔構造を生かすように取り付けるために、「支柱上部に対する金網の取り付けにおいて、落石などの衝突エネルギーが金網に加わった際に、金網が支柱上部から繰り出されるように構成されている上部金網繰出構造」を有している。
上部金網繰出構造は、金網11が上段横ロープ13に対して摺動可能に取り付けられていることと、金網11が縦ロープ15に対して、支柱12の上部から下方への所定の範囲においては連結されていないことを含んでいる。
金網11の上部における上段横ロープ13に対する取り付けは、上記説明した金網11の上端で金網が1枚構成となっている部分(一方の金網の突出部分)を、上段横ロープ13を巻き込むように折り返して、折り返した部分を金網11と締結コイルで締結することにより、金網11の上部が上段横ロープ13に摺動可能に取り付けられる。
また、金網11の両サイド部では、縦ロープ15が締結コイルによって金網11に締結され、この縦ロープに対して各張出ロープ16が連結されるものであるが、支柱上部から、複数の張出ロープ16のうちの最上部の張出ロープ16までの間(図2のL1の範囲)においては、縦ロープ15に対する金網11の連結がされていない(縦ロープ15は、L2の範囲で締結コイルによって金網11に締結されている)。
これらにより、金網11の上部における動きに自由度が生じ、後に説明する実験結果にも表れるように、落石などの衝突エネルギーが金網11に加わった際に金網11が繰り出され(図10の連続写真の上から3枚目の写真で白く囲った部分参照)、金網11が柔軟に且つ全体的に変形することを可能とし、金網11全体で効率的に衝撃エネルギーが吸収される。
また、上記説明した、上段横ロープ13の第1の緩衝装置18による送り出し機能や、張出ロープ16の第2の緩衝装置17による送り出し機能も、上部金網繰出構造として機能する。
【0035】
また、本実施形態の防護網1は、金網11を、その柔構造を生かすように取り付けるために、「金網の下部側の取り付けにおいて、落石などの衝突エネルギーが金網に加わった際に、金網の下部側が繰り出されるように構成されている下部金網繰出構造」も有している。
下部金網繰出構造は、金網11が下段横ロープ14に対して摺動可能に取り付けられていることと、金網11が縦ロープ15に対して、縦ロープの15の下段横ロープ14に対する連結位置から上方への所定の範囲においては連結されていないことを含んでいる。
金網11の下部における下段横ロープ14に対する取り付けは、上記説明した金網11の下端で金網が1枚構成となっている部分(一方の金網の突出部分)を、下段横ロープ14を巻き込むように折り返して、折り返した部分を金網11と締結コイルで締結することにより、金網11の下部が下段横ロープ14に摺動可能に取り付けられる。
また、縦ロープ15を下段横ロープ14に連結するためのアイ部の形成のために使用したワイヤグリップが配置されている範囲(図2のL3の範囲)においては、縦ロープ15に対する金網11の連結がされていない(縦ロープ15は、L2の範囲で締結コイルによって金網11に締結されている)。
これらにより、金網11の下部における動きにも自由度が生じ、後に説明する実験結果にも表れるように、落石などの衝突エネルギーが前記金網に加わった際に金網11が繰り出され(図10の白く囲った部分参照)、金網11が柔軟に且つ全体的に変形することを可能とし、金網11全体で効率的に衝撃エネルギーが吸収される。
また、上記説明した、下段横ロープ14の第1の緩衝装置18による送り出し機能や、張出ロープ16の第2の緩衝装置17による送り出し機能も、下部金網繰出構造として機能する。
【0036】
なお、上段横ロープ13、下段横ロープ14、張出ロープ16や各控えロープが接続される各アンカー(A1~A5)は、その頭部側に接続部を有し、斜面に打設されて、各ロープが接続されることで、各部材を引き留める(固定する)ものである。各アンカー(A1~A5)には、各種のアンカーを用いることができ、打設する箇所の地層の状況や求められる強度等に応じて、適切なものを選択すればよい。同様に、各部材のアンカーへの取り付けに関する部材や方法は、従来使用されている任意の取り付け部材や方法を用いることができる。
【0037】
上記説明した防護網1の施工方法は、
支柱12をそれぞれ斜面に立設し、各控えロープで支持するステップと、
各アンカー(A1~A5)を打設するステップと、
上段横ロープ13を2本の支柱12の上部に掛け渡して、第1の緩衝装置18を介してアンカーA2と連結するステップと、
金網11を、上段横ロープ13に対して設置するステップと、
両サイドの縦ロープ15をそれぞれ支柱12の上部に連結するステップと、
下段横ロープ14を第1の緩衝装置18を介してアンカーA4と連結するステップと、
両サイドの縦ロープ15をそれぞれ下段横ロープ14に連結するステップと、
金網11を、下段横ロープ14、縦ロープ15に取り付けるステップと、
各張出ロープ16を、第2の緩衝装置17を介して縦ロープ15とアンカーA3に連結するステップと、
を有する。
なお、上記の工程は一例であって、一部の工程が前後するものであっても構わない。
【0038】
金網11を、上段横ロープ13に締結するまでの工程では、
防護網の設置現地において、金網11の2重構造を構成させる2枚の金網の一方の金網を所定高さまで吊り上げた状態とし、これに対して他方の金網を締結コイルを用いて締結するステップと、
他方の金網が締結された一方の金網をさらに吊り上げて、上段横ロープ13に対する取り付けを行うステップと、
を有する。
図7は、以下で示す実験に使用した本実施形態の防護網(実験供試体)を設置する際の作業を撮影した写真である。
図7の上側の2枚の写真に示されるように、クレーンで1枚目の金網111を所定高さ(2枚目の金網112の上端を取り付ける作業をし易い高さ)まで吊り上げた状態とし、2枚目の金網112の上端を、締結コイルC2を用いて金網111に対して締結する。その際には、番線を用いた仮止めをすることで、締結コイルC2の締結作業がしやすくなる。
金網111に対する金網112の上端の締結がなされたら、図7の下側の2枚の写真に示されるように、クレーンでそのままさらに吊り上げることで、金網11(金網111及び金網112)が吊り上げられていく。金網112の下端が所定高さ(金網112の下端を取り付ける作業をし易い高さ)まで吊り上げられたら、金網112の下端を、締結コイル(特に図示せず)を用いて金網111に対して締結する。
そして、金網を、上段横ロープ13に対する取り付けをすることができる高さ及び位置へと引き続き移動して、金網111の上端を上段横ロープ13を囲うように折り返して、折り返し部分を締結コイルで締結する。(さらに、金網111の下端を下段横ロープ14を囲うように折り返して、折り返し部分を締結コイルで締結する作業や、両サイドで縦ロープ15と締結コイルで締結する作業を行う。)
上記の施工方法によれば、図7の写真からも理解されるように、現場に搬入された巻取り状態の金網から、2重構造の金網を形成して取り付けるまで、連続的な流れの作業とすることができるため、作業効率に優れている。
なお、本実施形態のごとく幅方向に複数の金網(11a、11b、11c)を使用する場合には、幅方向に並べた金網をクレーンで複数枚同時に吊り上げて行くものであっても良いし、一枚ずつ吊り上げる(上記の作業を複数回繰り返す)ものであってもよい。複数枚同時に吊り上る方式であれば、徐々に吊り上げながら幅方向に隣り合う金網の相互の締結コイルC1による締結の作業も行うことができるため、作業効率に優れる。
【0039】
以上のごとく、本実施形態の防護網1によれば、金網自体の緩衝性能のより効率的な利用及び阻止面をシンプルな構造とすることを可能とし、これにより部品点数の削減若しくは設置作業の簡略化ができる。
阻止面において、アンカー等の固定部材に接続された横ロープ等の索体が配置されていないこと及び上記説明した上部金網繰出構造や下部金網繰出構造により、以下の衝突実験(図10)でも示されるように、柔構造を有する金網全体の動きが効率化され、金網本来の緩衝機能を最大限生かすことが可能となっている。金網は、局所的に見れば、横ロープ等の索体よりも線材が細く、局所的には強度が弱いと言えるが、金網全体でのエネルギー吸収能力においては高いポテンシャルを有している。本実施形態の防護網1は、金網全体の動きが効率化されることで衝撃エネルギーを金網全体に効率的に伝搬(荷重分散)可能とし、金網全体としての高い緩衝能力を発揮させるものである。
同時に、阻止面においてアンカー等の固定部材に接続された横ロープ等の索体が配置されていないシンプルな構造であるため、部品点数の削減及び施工の簡素化がなされ、これらによって施工性及び経済性の向上が可能となっている。
【0040】
なお、実施形態では、阻止面の金網が2枚重ねであるものを例として説明したが、本発明をこれに限るものではなく、必要な強度が金網1枚で得られる場合には1枚構成としてもよいし、3枚以上の金網を重ねるものであっても構わない(なお、3重以上の金網も、2重構造を有しているものであり、従って、「金網が2重構造を有する」とは、3重以上の金網も含む概念である)。
また、実施形態では引張強度が1400MPa以上の高張力線材を用いて形成された高強度金網を用いるものを例としているが、これより引張強度が低い線材で形成された金網を用いるもの(例えばこれを3枚以上重ねるもの等)であってもよい。
【0041】
実施形態では、縦ロープ15を下段横ロープ14に連結するためのアイ部の形成のために使用したワイヤグリップが配置されている範囲(図2のL3の範囲)において、縦ロープ15に対する金網11の連結がされていないものを例としているが、縦ロープ15の下端から複数の張出ロープ16のうちの最下部の張出ロープ16までの間において、縦ロープ15に対する金網11の連結をしないものとしてもよい。
【0042】
実施形態では、基本的には落石に対する防護として説明したが、本発明に係る防護網は、落石だけでなく、積雪のせり出し、雪崩や土砂崩壊による防護等にも応用できる。
【0043】
(防護網の重錘衝突実験)
次に、実施形態で説明した防護網1に対して行った重錘衝突試験とその結果について説明する。
図8の上部の図は、本試験で使用した実験供試体(防護網1)の仕様を示したものであり、下部の写真は、防護網1の設置状態を示す正面及び側面の写真である。
【0044】
実験条件
図9に示すように、鋼製部材で架台を作製しその上に設置したレールの射出口を飛び出した重錘が実験供試体(防護網1)の阻止面と直角状態になるよう供試体を設置した。重錘(図9の左上に示されている重錘)を射出口レールからウインチにて所定の高さまで巻上げ、エアー式離脱装置に固定する。準備完了後、バルブを開放して離脱装置を作動し、重錘を滑走させ供試体に衝突させた。重錘速度は重錘の全長を高速カメラで読み取り計測した。
実験方式:斜路滑走方式
重錘形状・材質・重量:W=2.9t(EOTA型、多面体鋼製殻付コンクリート、車輪付き)
重錘速度:V=31.2m/s
金網角度:θ=88°
【0045】
実験結果
重錘衝突によって阻止面が最大変位し捕捉した前後の全体状況をコマ割りで図10に示す。
図10の連続写真からも理解されるように、重錘衝突時に金網は柔軟に変形して、重錘を捉え、衝突エネルギーを吸収している。
阻止面においてアンカー等に接続された縦ロープや横ロープがなく、また、図10の連続写真の上から3枚目の写真で白く囲った部分からもわかるように、上部金網繰出構造や下部金網繰出構造によって金網が繰り出され、これらによって金網の柔軟な変形が得られているものである。
【0046】
実験結果まとめ
2枚張りした衝突近傍の金網に破網箇所は見当たらず、重錘エネルギー1409kJを捕捉した。なお、金網が1重構造となる上段横ロープ折り返し部までの間に一部破網が見られた。
上段、下段、控え、縦ロープは全て健全であった。
上段折り返し金網の両端スライド状態を確認した。
衝突部の金網は縦伸びの変形、横伸びの変形が見られた。
第1の緩衝装置は一部及び全体緩衝を確認した。
張出ロープは衝突近傍の緩衝グリップ(第2の緩衝装置)に一定のスリップを確認した(抜けが生じたものも確認された)。
支柱は頭頂部に上段横ロープ滑りによる圧痕はあったが、その他有害な設置角度は無く、曲げ圧縮による変形は見られなかった。
緩衝コイルは衝突両端2辺に組み込んだが阻止面の張出ロープ取付近辺が大きく作用した。
【符号の説明】
【0047】
1...防護網
11...金網
12...支柱
P1、P2...索体配置路
13...上段横ロープ(上部金網保持索体)
14...下段横ロープ(下部金網保持索体)
15...縦ロープ(側部連結部材)
16...張出ロープ(側部連結索体)
17...第2の緩衝装置
171...アイ部
172...螺旋状部
18...第1の緩衝装置
1...
A1~A5...アンカー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10