(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129304
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】サイレントチェーン及びチェーン伝動機構
(51)【国際特許分類】
F16G 13/04 20060101AFI20240919BHJP
【FI】
F16G13/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038416
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003355
【氏名又は名称】株式会社椿本チエイン
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 信男
(74)【代理人】
【識別番号】100138254
【弁理士】
【氏名又は名称】澤井 容子
(72)【発明者】
【氏名】南里 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】矢吹 康佑
(57)【要約】 (修正有)
【課題】強度の高いサイレントチェーン及びチェーン伝動機構を提供すること。
【解決手段】サイレントチェーンは、複数のリンクプレートを連結ピンによって屈曲可能に連結して成るサイレントチェーンであって、前記複数のリンクプレートは、互いに形状の異なる二種以上のリンクプレートを含み、互いに形状の異なる前記リンクプレートは、スプロケットに着座した際に、ピッチラインが同一高さとなるように構成される。チェーン伝動機構はこれを有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のリンクプレートを連結ピンによって屈曲可能に連結してなるサイレントチェーンであって、
複数の前記リンクプレートは、互いに形状の異なる二種以上の前記リンクプレートを含み、
互いに形状の異なる前記リンクプレートは、スプロケットに着座した際に、ピッチラインが同一高さとなるように構成されたことを特徴とするサイレントチェーン。
【請求項2】
互いに形状の異なる前記リンクプレートは、内股角度が異なることを特徴とする請求項1に記載のサイレントチェーン。
【請求項3】
互いに形状の異なる前記リンクプレートは、前記内股角度の差が28°以内であるように構成されたことを特徴とする請求項2に記載のサイレントチェーン。
【請求項4】
前記サイレントチェーンは、各屈曲部に一対のロッカーピンを有するロッカージョイントピン型サイレントチェーンまたは各屈曲部に1本の丸ピンを有する丸ピン型サイレントチェーンであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のサイレントチェーン。
【請求項5】
複数のリンクプレートを連結ピンによって屈曲可能に連結して成るサイレントチェーンと、前記サイレントチェーンが巻き掛けられる複数のスプロケットを有するチェーン伝動機構であって、
複数の前記リンクプレートは、互いに形状の異なる二種以上の前記リンクプレートを含み、
前記サイレントチェーンの互いに形状の異なる前記リンクプレートは、前記複数のスプロケットの少なくとも一つに着座した際に、ピッチラインが同一高さとなるように構成されたことを特徴とするチェーン伝動機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイレントチェーン及びチェーン伝動機構に関する。
【背景技術】
【0002】
チェーン伝動機構として、複数のスプロケットと、当該スプロケットに掛け回されるサイレントチェーンを用いたものがある。このようなチェーン伝動機構は、駆動力の伝達、回転タイミングの同期、回転数やトルクの変更等の用途で広く用いられている。
【0003】
サイレントチェーンは、一般的に、一対の歯部及び一対のピン孔を有する多数のリンクプレートを各ピン孔内に挿入した連結ピンで屈曲可能に連結することにより構成されており、チェーン伝動機構は、複数のスプロケットに無端状に掛け回され、リンクプレートの歯部がスプロケットの歯に噛み合うことで回転を伝達するように構成されている。
【0004】
特許文献1では、二種類のリンクプレート、スプロケット歯に内側クロッチで噛み合い始めて外側フランクで着座する第1リンクプレートと、前記スプロケット歯に外側フランクのみで噛み合い着座する第2リンクプレートとがチェーン長手方向に混在して無端状に編成されたランダム配置型サイレントチェーンが開示されている。このサイレントチェーンでは、第1リンクプレートの全リンクプレートに対するプレート混在率が50%未満であるとともに、前記第2リンクプレートが、前記第1リンクプレートの前後に少なくとも1個以上ランダムに配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のようなランダム配置型サイレントチェーンでは、テンションサイドにかかる張力が大きくなり、リンクプレートが単一であるモノタイプのサイレントチェーンと比較すると強度が低いという問題がある。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、強度の高いサイレントチェーン及びチェーン伝動機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のサイレントチェーンは、複数のリンクプレートを連結ピンによって屈曲可能に連結して成るサイレントチェーンであって、複数の前記リンクプレートは、互いに形状の異なる二種以上の前記リンクプレートを含み、互いに形状の異なる前記リンクプレートは、スプロケットに着座した際に、ピッチラインが同一高さとなるように構成されたことを特徴とする。リンクプレートのピッチラインが同一高さとなるように各リンクプレートが構成されたことで、サイレントチェーンの着座状態を安定させ、チェーンにかかる最大張力が抑制されたため、強度を高めることが可能である。
【0009】
互いに形状の異なる前記リンクプレートは、内股角度が異なること、特に互いに形状の異なる前記リンクプレートは、前記内股角度の差が28°以内であるように構成されたことが好ましい。この範囲であることで、従来のサイレントチェーンよりも十分にチェーンにかかる張力が抑制され、強度をさらに高めることが可能である。
【0010】
本発明の好ましい実施形態としては、各屈曲部に一対のロッカーピンを有するロッカージョイントピン型サイレントチェーンまたは各屈曲部に1本の丸ピンを有する丸ピン型サイレントチェーンであることが挙げられる。
【0011】
また、本発明のチェーン伝動機構は、複数のリンクプレートを連結ピンによって屈曲可能に連結して成るサイレントチェーンと、前記サイレントチェーンが巻き掛けられる複数のスプロケットを有するチェーン伝動機構であって、複数の前記リンクプレートは、互いに形状の異なる二種以上の前記リンクプレートを含み、前記サイレントチェーンの互いに形状の異なる前記リンクプレートは、前記複数のスプロケットの少なくとも一つに着座した際に、ピッチラインが同一高さとなるように構成されたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高い強度を有するサイレントチェーン及びチェーン伝動機構を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態1に係るサイレントチェーン伝動装置を示す図。
【
図2】本発明の実施形態1のサイレントチェーンのリンクプレートの正面図。
【
図3】本発明の実施形態1のサイレントチェーンの着座状態を示す図。
【
図4】従来のサイレントチェーンの着座状態を示す図。
【
図5】第一リンクプレートと第二リンクプレートとの内股角度差に対する張力を示すグラフ。
【
図6】本実施形態のサイレントチェーンと従来のサイレントチェーンとのY方向の変位を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施形態1)
以下、本発明の一実施形態について添付図面を参照して詳細に説明する。ただし、この実施形態は例であり、本発明はこれに限定されるものではない。なお、同じ構成要素には同じ参照符号を付すが、位置や形状により区別するときには、参照符号にさらにアルファベットを付すこともある。
【0015】
図1に本実施形態に係るサイレントチェーン伝動装置1を示す。サイレントチェーン伝動装置1は、サイレントチェーン10と複数のスプロケット20とから構成されている。サイレントチェーン10は、ガイドプレートからなるガイド列11とリンクプレート30からなるリンクプレート列12とを、チェーン長手方向に半ピッチずらして交互に配置し、一対のピン13によって屈曲可能に連結したものである。
図2に示すように、リンクプレート30は、一対のピン13がそれぞれ挿入される一対のピン孔31と、一対の歯32とを備える。一対の歯32は、内フランク33と外フランク34を有する。
図1に戻り、本実施形態のサイレントチェーン10は、ランダムタイプであり、形状のことなる2種のリンクプレート30(後述する)を含む。このようなサイレントチェーン伝動装置1においては、サイレントチェーン10の各リンクプレート30がフリースパンからスプロケット20に進入する際、まず、リンクプレート30の歯32がスプロケット20の歯に当接して噛み合い(噛合動作)、サイレントチェーン10が巻き付き屈曲して着座する(着座動作)。回転中は各リンクプレート30が全てこの噛合・着座動作を高速、かつ周期的に繰り返す。
【0016】
図3に示す第一リンクプレート30Aと第二リンクプレート30Bとは、それぞれ内股角度が異なることでその形状が異なるリンクプレート30である。本実施形態では、一例としてサイレントチェーン10全体に対し、第一リンクプレート10が30%含有されているものを示している。第一リンクプレート30Aは、第二リンクプレート30Bよりもリンクプレート30の内股角度が大きい。ここで、本実施形態において内股角度とは、リンクプレート30の内フランク33の直線部分間の内角角度IAをいい、外股角度とは、リンクプレート30の外フランク34の直線部分間の内角角度OAをいう。したがって、第一リンクプレート30Aと第二リンクプレート30Bとでは、着座時のスプロケットとの内側フランクの噛み合い位置が異なる。
【0017】
他方で、第一リンクプレート30Aと第二リンクプレート30Bとでは、着座時のピッチラインPの高さが同一となるように構成されている。
図3中、各リンクプレート30のピッチラインPは一致している。即ち、第一リンクプレート30Aが第二リンクプレート30Bよりも内股角度が2°大きいので、第一リンクプレート30Aのピン孔31の形成位置が第二リンクプレート30Bのピン孔31と同一であると着座時のピッチラインPの高さが第二リンクプレート30Bよりも低くなってしまうので、ピッチラインPの高さを同一にするために、第一リンクプレート30Aはピン孔31の形成位置を第二リンクプレート30Bよりも高い位置としている。これにより、第一リンクプレート30Aと第二リンクプレート30Bとは、着座時のピッチラインPの高さが同一となっている。ここで、ピッチラインPの高さとは、リンクプレート30の着座時におけるピッチラインのスプロケット回転中心からの距離(半径)をいう。
【0018】
本実施形態では、サイレントチェーン10がスプロケット20に着座した際に、サイレントチェーン10を構成する全てのリンクプレート30のピッチラインPの高さが同じであるため、サイレントチェーン10がスプロケット20に巻き付く際のチェーンの浮き沈みを抑えてサイレントチェーン10の着座状態を安定させることが可能である。
【0019】
ここで、
図4に示すような従来の二種以上のリンクプレート41(第一リンクプレート41A、第二リンクプレート41B)を含むサイレントチェーンにおいては、スプロケット42に着座した際の第一リンクプレート41AのピッチラインPAと第二リンクプレート41BのピッチラインPBの高さは一定ではなかった。これによりサイレントチェーンがスプロケット42に巻き付く際の第一リンクプレート41Aと第二リンクプレート41Bとの切り替わり部ではリンクプレート41の浮き沈みが起こる為、サイレントチェーンのテンションサイドにかかる張力が大きくなり、単一のリンクプレート41のみからなるモノタイプのサイレントチェーンと比較すると強度が低下する原因となっていた。
【0020】
このような従来のピッチラインを考慮していないサイレントチェーンに比べ、本実施形態のサイレントチェーン10では、ピッチラインが同一となることでサイレントチェーン10の着座状態を安定させ、チェーンにかかる張力が抑制されたため、強度が高い。また、張力が抑制されるとともにチェーンの浮き沈みを抑えたことで弦振動が抑えられるので、音と振動も抑制することが可能である。また、本実施形態のサイレントチェーン10では、その強度が高いことにより、サイレントチェーン10の幅を細くすることができ、小型化、軽量化できる。さらには、サイレントチェーン10にかかる張力が抑制されることでサイレントチェーン10とスプロケット20との接触力が低下するので、サイレントチェーン10及びスプロケット20の摩耗を抑制することができる。
【0021】
また、本実施形態では、リンクプレート30の内股角度は、リンクプレート30全体での内股角度の角度差が28°以内であるように規定されている。
図5は、第一リンクプレート30Aと第二リンクプレート30Bとの間の内股角度を変更した場合のサイレントチェーン30にかかる張力変化を測定したグラフである。比較として、従来のサイレントチェーンにおける第一リンクプレート41A、第二リンクプレート41Bとの内股角度を変更した場合の張力変化、モノタイプのサイレントチェーンの張力を測定し、合わせて
図5に示す。
【0022】
図5に示すように、ピッチラインが同一である本実施形態のリンクプレート30の場合には、つねに従来のサイレントチェーンよりも張力が小さかったが、特に内股角度の差がー13°から15°の間で、即ち二つのリンクプレート30の内股角度の差が28°となる範囲(
図5中矢印で示す範囲)で、従来のサイレントチェーンの最小値よりも常に小さくなっている。したがって、内股角度がこの角度差範囲に含まれていることで、より張力を低下させ、音と振動を抑制することが可能である。リンクプレート30の内股角度の差は、好ましくは7°以内であることが挙げられる。この範囲にあることで、ランダムタイプのサイレントチェーンではなく、モノタイプのサイレントチェーンとほぼ同等の張力となり、より音と振動を抑制することが可能である。
【0023】
本実施形態のサイレントチェーンを実施例を用いて詳細に説明する。
図6は、本実施形態のサイレントチェーン10における任意のリンクプレートのテンションサイドでの走行ラインを示すグラフである。横軸はX方向での変位を、縦軸はY方向での変位を示す。ここで、X方向とはチェーンの走行方向を、Y方向は、チェーンの浮き上がり等走行方向に対して垂直方向の変位を意味する。また、比較として、従来の着座時のピッチラインの高さが一定ではないサイレントチェーンにおける任意のリンクプレートのテンションサイドでの走行ラインも示している。
【0024】
図6に示すように、従来の着座時のピッチラインの高さが一定ではないサイレントチェーンの場合(
図6中点線で示す)には、リンクプレートのX方向の変位に対し、Y方向の変位が大きかった。これに対し、本実施形態のサイレントチェーン10の場合(
図6中実線で示す)は、X方向の変位に対し、Y方向の変位が抑制されており、ピッチラインが一定となることで、サイレントチェーン10の着座状態を安定させ、チェーンにかかる張力を抑制することができた。
(変形例)
【0025】
本発明は上述した実施形態に限定されない。例えば、上述した実施形態では、二種のリンクプレート30を有するサイレントチェーン10を説明したが、これに限定されず、着座時のピッチラインの高さが同一である二種以上の形状の異なるリンクプレート30を有していてもよい。また、本実施形態では例として第一リンクプレート30Aの含有比を全体の30%であるものを示したが、リンクプレート30における二種以上のリンクプレート30の含有比も特に限定されない。さらに、第一リンクプレート30Aと第二リンクプレート30Bとは、その内股角度が異なるものであったが、外股角度を変更してもよい。リンクプレート30のスプロケット20の歯に対するかみ合いも、内側フランク33、外側フランク34のいずれであってもよい。また、本実施形態では、リンクプレート30の任意のリンクプレート30同士の内股角度差は28°以内としたが、これは好ましい形態であり、サイレントチェーンのリンクプレート30が少なくとも着座時のピッチラインの高さが一定であるように構成されていればよい。
【0026】
本実施形態のサイレントチェーンは、各屈曲部に一対のロッカーピンを有するロッカージョイントピン型サイレントチェーンや、各屈曲部に1本の丸ピンを有する丸ピン型サイレントチェーンとして用いることもできる。
【0027】
本実施形態のサイレントチェーン10を用いたチェーン電動装置1においては、リンクプレート30は、複数のスプロケット20の少なくとも一つに着座した際に、リンクプレートのピッチライン30が同一高さとなれば張力を抑制し、強度を高めることができるが、全てのスプロケットにおいてリンクプレートのピッチライン30が同一高さとなるように構成すればより張力を抑制でき、強度をさらに高めることができる。
【符号の説明】
【0028】
1 サイレントチェーン伝動装置
10 サイレントチェーン
11 ガイド列
12 リンクプレート列
13 ピン
20 スプロケット
30 リンクプレート
31 ピン孔
32 歯
33 内フランク
34 外フランク
41 リンクプレート
42 スプロケット
P ピッチライン
PA ピッチライン
PB ピッチライン