IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 松田産業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129306
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】貴金属蒸着材料
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/24 20060101AFI20240919BHJP
【FI】
C23C14/24 E
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038422
(22)【出願日】2023-03-13
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】596133201
【氏名又は名称】松田産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 孝博
(72)【発明者】
【氏名】川下 温
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029BA04
4K029BA05
4K029BA13
4K029CA01
4K029DB03
4K029DB07
(57)【要約】
【課題】本開示の課題は、真空蒸着法で用いられる貴金属の蒸着材料であって、真空蒸着時に突沸現象の発生を抑制できる貴金属の蒸着材料を提供することである。
【解決手段】貴金属から構成される蒸着材料であって、蒸着材料の表面50μm×50μmの面積についてエネルギー分散型X線分光法を用いて面分析したとき、Feが10重量%未満あり、ICP発光分光分析法を用いて分析したとき、Feが10重量ppm以下である蒸着材料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貴金属から構成される蒸着材料であって、蒸着材料の表面50μm×50μmの面積についてエネルギー分散型X線分光法を用いて面分析したとき、Feが10重量%未満あり、ICP発光分光分析法を用いて分析したとき、Feが10重量ppm以下である蒸着材料。
【請求項2】
貴金属から構成される蒸着材料であって、蒸着材料の表面50μm×50μmの面積についてエネルギー分散型X線分光法を用いて面分析したとき、Siが10重量%未満であり、ICP発光分光分析法を用いて分析したとき、Siが10重量ppm以下である蒸着材料。
【請求項3】
貴金属から構成される蒸着材料であって、蒸着材料の表面50μm×50μmの面積についてエネルギー分散型X線分光法を用いて面分析したとき、Cが10重量%以下であり、非分散型赤外線吸収法を用いて分析したとき、Cが10重量ppm以下である蒸着材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、真空蒸着法で用いられる貴金属蒸着材料に関する。
【背景技術】
【0002】
真空蒸着法は、成膜技術の一つであり、真空中で蒸着材料を加熱して、気体分子となった蒸着材料が基板に付着することによって薄膜を形成する技術である。真空蒸着法は、電子部品、半導体デバイス、光学薄膜、磁気デバイス、LED、有機EL、LCD等における素子の形成に広く利用されている。
【0003】
蒸着材料を坩堝に充填し、電子ビーム等を用いて溶解すると、突沸現象が発生して、薄膜上に溶融飛沫が付着するという問題があった。この問題に関して、引用文献1には、蒸着材料に含まれる不純物を低減して、突沸を防ぐ技術が開示されている。また、特許文献2には蒸着材料の表面を王水で洗浄することで、溶融飛沫の付着を防ぐことが記載されている。
【0004】
出願人は、以前、真空蒸着法で用いられる金の蒸着材料であって、真空蒸着時に突沸現象を抑制することができる技術を開示した。例えば、特許文献3では、表面粗さRaが10μm以下であり、面積円相当径0.1mm以上のマイクロクラックの数を低減した蒸着材料を開示し、また、特許文献4では、平均結晶粒径が0.1mm以上であり、酸素含有量が10wtppm以下、水素含有量が5wtppm以下の蒸着材料を開示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1-180961号公報
【特許文献2】特開2018-123389号公報
【特許文献3】国際公開第2022/070432号
【特許文献4】国際公開第2022/070433号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示の課題は、真空蒸着法で用いられる貴金属の蒸着材料であって、真空蒸着時に突沸現象の発生を抑制できる貴金属の蒸着材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の要旨は、以下に示す通りである。
[1]
貴金属から構成される蒸着材料であって、蒸着材料の表面50μm×50μmの面積についてエネルギー分散型X線分光法を用いて面分析したとき、Feが10重量%未満あり、ICP発光分光分析法を用いて分析したとき、Feが10重量ppm以下である蒸着材料。
[2]
貴金属から構成される蒸着材料であって、蒸着材料の表面50μm×50μmの面積についてエネルギー分散型X線分光法を用いて面分析したとき、Siが10重量%未満であり、ICP発光分光分析法を用いて分析したとき、Siが10重量ppm以下である蒸着材料。
[3]
貴金属から構成される蒸着材料であって、蒸着材料の表面50μm×50μmの面積に
ついてエネルギー分散型X線分光法を用いて面分析したとき、Cが10重量%以下であり、非分散型赤外線吸収法を用いて分析したとき、Cが10重量ppm以下である蒸着材料。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、貴金属蒸着材料の溶解の際、突沸現象を効果的に抑制することができる。これにより、基板上に付着するパーティクルの低減を期待できる。したがって、製品の歩留まり改善に寄与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
真空蒸着法で用いられる貴金属の蒸着材料は、通常、原料として純度99.9重量%以上の貴金属原料を使用し、この貴金属原料をアルミナなどのセラミック坩堝やカーボン坩堝で大気溶解する。溶解後、貴金属の溶湯を鋳型に流し込んでインゴットを作製し、得られたインゴットについて、潤滑油を使用して伸線(線引き加工)した後、所定の長さに切断し、ペレット(棒状のもの)を作製する。その後、ペレット表面を酸や有機溶媒で洗浄し、表面に付着した不純物等を除去する。以上の工程を経ることで、比較的不純物の少ないペレット状の貴金属蒸着材料を作製することができる。
【0010】
ところが、このような比較的不純物の少ない貴金属の蒸着材料を用いた場合であっても、蒸着初期に突沸現象が発生して、実際に蒸着する前の予備蒸着の時間が長くなったり、蒸着装置の条件設定を変更しなくてはならなくなったりして、生産効率が低下するという問題が生じていた。特に、貴金属は材料として非常に高価であることから、予備蒸着の時間が長くなればなるほど、その分費用が嵩むという問題があった。また、突沸により装置や坩堝内を汚染して、装置洗浄の頻度が増加するという問題も発生した。
【0011】
本発明者らは、蒸着材料の表面及び内部を分析したところ、その表面及び内部には鉄系成分(鉄又はその化合物)、シリコン系成分(シリコン又はその化合物)、カーボン系成分(カーボン又はその化合物)が多く存在し、これらの成分(以下、不純物成分ということがある)が多く存在すると、そこを起点として、突沸現象が増加することを見出した。そして、これら不純物成分を減少させることにより、真空蒸着時の突沸現象を抑制することができるとの知見が得られた。
【0012】
本開示において、蒸着材料の表面における不純物成分の存在量は、エネルギー分散型X線分光法を用いて面分析される結果によって代表されるものであり、蒸着材料の内部における不純物成分の存在量は、ICP発光分光分析法又は非分散型赤外線吸収法を用いて分析される結果によって代表されるものである。また、本開示において、エネルギー分散型X線分光法を用いた面分析は、サンプルごとにバラツキが大きいため、10個のサンプルを任意に抽出して、それぞれのサンプルの中心部について測定を行い、それら10個の平均値を蒸着材料の表面における不純物成分の存在量とする。
【0013】
本開示の一実施形態は、貴金属から構成される蒸着材料であって、蒸着材料の表面50μm×50μmの面積についてエネルギー分散型X線分光法を用いて面分析したとき、Feが10重量%以下であり、ICP発光分光分析法を用いて分析したとき、Feが10重量ppm以下である。鉄系成分は、鉄(Fe)を主成分とする化合物や酸化鉄であり、使用する原料に含まれ、また、伸線時に使用する装置部材から混入すると考えられる。
【0014】
Feを、貴金属蒸着材料の表面において10重量%未満、内部において10重量ppm以下まで低減することで、蒸着時の突沸現象を効果的に抑制することができる。Feは、貴金属蒸着材料の表面において、5重量%以下であることが好ましく、より好ましくは1重量%以下である。また、貴金属蒸着材料の内部において、Feが5重量ppm以下であ
ることが好ましく、より好ましくは、1重量ppm以下である。
【0015】
本開示の一実施形態は、貴金属から構成される蒸着材料であって、蒸着材料の表面50μm×50μmの面積についてエネルギー分散型X線分光法を用いて面分析したとき、Siが10重量%未満であり、ICP発光分析装置を用いて分析したとき、Siが10重量ppm以下である。シリコン系成分は、シリコン(Si)を主成分とする化合物や酸化シリコンであり、使用する原料に含まれることはもちろんのこと、溶解時に環境雰囲気(大気)や使用する坩堝から混入すると考えられる。
【0016】
Siを、貴金属蒸着材料の表面において10重量%未満、内部において10重量ppm以下まで低減することで、蒸着時の突沸現象を効果的に抑制することができる。Siは、貴金属蒸着材料の表面において、5重量%以下であることが好ましく、より好ましくは1重量%以下である。また、貴金属蒸着材料の内部において、Siが5重量ppm以下であることが好ましく、より好ましくは1重量ppm以下である。
【0017】
本開示の一実施形態は、貴金属から構成される蒸着材料であって、蒸着材料の表面50μm×50μmの面積についてエネルギー分散型X線分光法を用いて面分析したとき、Cが10重量%以下であり、非分散型赤外線吸収法を用いて分析したとき、Cが10重量ppm以下である。カーボン系成分は、カーボン(C)を主成分とする化合物であり、カーボン製の坩堝や鋳型を用いた場合に混入したり、伸線時に使用する潤滑油から混入したりすると考えられる。
【0018】
Cを、貴金属蒸着材料の表面において10重量%以下、内部において10重量ppm以下まで低減することで、蒸着時の突沸現象を効果的に抑制することができる。Cは、貴金属蒸着材料の表面において、5重量%以下であることが好ましく、より好ましくは1重量%以下である。
【0019】
本開示の実施形態に係る蒸着材料は、少なくとも、Fe、Si、Cのいずれか1種が上述した範囲内であればよく、より好ましくは、Fe、Si、Cのいずれか2種が上述した範囲内であればよく、さらに好ましくは、Fe、Si、Cのいずれもが上述した範囲内にあることである。これらの不純物が蒸着材料の表面に多く存在すると、突沸現象の原因となることから、混入の由来は特に問わない。
【0020】
本開示において、蒸着材料は、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)のいずれか一種の貴金属から構成される。通常、99.9重量%以上、99.99重量%以上の高純度品を用いることができる。不純物は、突沸現象の一因であるため、高純度品を用いることで突沸現象を一定程度に抑えることができる。但し、高純度品は高価になるため、用途や目的によって適宜、変更することができる。
【0021】
以下、本実施形態の蒸着材料の製造方法について詳述する。なお、製造条件等については例示であって、この条件に限定する意図はない。また、開示する製造方法が不必要に不明瞭となることを避けるために、周知の製造工程や処理動作の説明は省略する。
【0022】
(鋳造工程)
純度99.9重量%以上の貴金属原料をEB(電子ビーム)溶解、或いはスカル溶解等を行う。一般的な貴金属の鋳造では、セラミック坩堝やカーボン坩堝が用いるが、これらの坩堝を用いると、不純物成分が混入するため、汚染の少ない銅坩堝によるEB溶解、或いは、坩堝からの汚染の少ないスカル溶解を用いることが好ましい。溶解温度は、対象貴金属の融点から50℃以上、200℃以下に設定することが好ましい。貴金属原料を真空中又は不活性ガスを含んだ雰囲気(真空度:1000~0.001Pa)で溶解後は、溶
湯を水冷銅製の鋳型に流し込み、その後、室温で冷却して、貴金属のインゴット(鋳造品)を作製する。なお、この工程の方法では坩堝や鋳型からの汚染を防ぐことができるが、原料に由来する不純物成分は残留する。
【0023】
(鍛造工程、圧延工程)
次工程の伸線工程で処理可能な所定形状とするために、鍛造や圧延を行う。この工程において、装置部材等から不純物成分が混入する惧れがあるが、300℃以上、対象とする貴金属の融点よりも100℃以上低い温度範囲で加熱しながら鍛造や圧延することで、原料由来或いは装置部材等から混入する不純物成分を表面に濃縮させることができる。加熱温度は300℃以上とすることが好ましい。一方、対象貴金属の融点を超える温度で加熱すると貴金属の一部が溶融してしまうことから、対象とする貴金属の融点よりも100℃以上低い温度とすることが好ましい。鍛造や圧延では装置部材や周囲から、表面に不純物成分が付着することがあるが、これらの工程の際に所定の温度で加熱することで、貴金属の表面に濃縮させることができる。
【0024】
(伸線工程、切断)
得られた貴金属(鍛造品又は圧延品)を伸線(線引き加工)して、線状にする。この伸線工程の前後或いは伸線工程中に熱処理しながら、不純物成分を内部から表面に濃化させる。熱処理温度は、蒸着材料の種類によって最適な範囲が異なり、下記の通りに、熱処理の温度を調整することが好ましい。
金(Au)の熱処理温度 :300℃以上、900℃以下
白金(Pt)の熱処理温度 :500℃以上、1500℃以下
パラジウム(Pd)の熱処理温度 :300℃以上、1000℃以下
銀(Ag)の熱処理温度 :300℃以上、800℃以下
伸線工程により、装置や環境雰囲気から不純物成分が表面に付着することがあるが、内部にはほとんど存在しないため、後述する酸洗浄によって、それらの成分は除去することができる。なお、通常、伸線時に潤滑油を使用するが、カーボン系成分による汚染の原因となるため、潤滑油の使用を避けるのが好ましい。伸線後、所定の長さで切断する。切断する長さは、装置などによって異なるため、特に制限はなく、例えば、10mm以上、20mm以上、30mm以上とすることができる。
【0025】
(酸洗、洗浄工程)
切断後、貴金属(蒸着材料)を酸洗、洗浄することにより、その表面に濃縮した不純物成分を除去することができる。酸に用いられる溶液として王水、塩酸等が挙げられる。その後アセトン、純水洗浄を行う。以上により、所望の貴金属蒸着材料(棒状)を作製することができる。
【実施例0026】
次に、本発明の実施例及び比較例について説明する。なお、以下の実施例は、代表的な例を示しているもので、本発明は、これらの実施例によって制限される必要はなく、明細書の記載される技術思想の範囲で解釈されるべきものである。
【0027】
本実施例及び比較例は、以下の装置等を用いて分析を行った。
(エネルギー分散型X線分光法を用いた面分析)
分析装置:Aztec Advanced Ultim Max40
オックスフォード社製
加速電圧:10kVまたは15kV
倍率:200~20,000倍
照射電流:7~10μA
対物絞り:3
分析面積:100μm×100μm
作業距離(WD):10mm
検出器:二次電子
分解能:127eV
測定方法:直径2mm、長さ20mmのサンプルを用意する。面分析は、サンプルごとにバラツキが大きいため、10個のサンプルを任意に抽出し、それぞれのサンプルの中心部について測定を行い、10個の測定値から平均値を求めた。
【0028】
(ICP発光分光分析法を用いた分析)
分析装置:AMETEK製 ICP-OES、SPECTROGREEN FMD46
サンプル:蒸着材料から約2g分取し、王水で溶解、濾過後、定容した。
【0029】
(非分散型赤外線吸収法を用いた分析)
分析装置:堀場製作所製 材料炭素・硫黄分析装置 EMIA-920V
助燃材:W 1.5g、Sn 3.5g
【0030】
(突沸現象の評価)
蒸着材料の電子ビーム溶解の際に突沸現象が発生すると、蒸着装置内部に蒸着材料が付着して蒸着材料の重量が減少する。このため、溶解後の蒸着材料の重量減少量を測定することで、突沸現象を評価することができる。蒸着材約40gを銅坩堝に投入して、真空度:1×10-1Pa 、電子ビーム照射パワー:6kW、電子ビーム照射時間:2分の条
件で電子ビーム溶解し、溶解後の重量減少量を測定する。なお、この溶解条件では蒸発によるロスはほとんど起こらない。そして、重量減少率が0.01wt%未満を◎(非常に良好)、重量減少率が0.01以上0.1wt%未満を〇(良好)、重量減少率が0.1以上1wt%未満を△(悪い)、重量減少率が1wt%以上を×(非常に悪い)、と判定した。
【0031】
(実施例1:Au蒸着材料)
純度99.99wt%以上のAu原料を水冷銅坩堝にて真空度10Paで電子ビーム溶解して、インゴットを作製した。得られたインゴットを300℃で鍛造、圧延して50mm角にした。その後、500℃で熱処理しながら伸線した。伸線途中では潤滑油を使用せず、直径2mm程度まで細線化した。伸線後、20mmの長さで切断した後、表面を王水で酸洗し、その後アセトン洗浄・乾燥を行った。
伸線化したサンプル表面をSEM(JSM-7000E、日本電子製:倍率100倍)で観察し、エネルギー分散型X線分光法を用いて面分析した結果、Fe、Si、Cはいずれも10重量%未満であった。また、ICP発光分光分析法を用いて分析した結果、Fe、Siは1重量ppm未満であった。非分散型赤外線吸収法を用いて分析した結果、Cは10重量ppm未満であった。得られたサンプルについて突沸現象の評価を行った結果、重量減少率は0.01%未満で非常に良好であった。
【0032】
(比較例1:Au蒸着材料)
純度99.99wt%以上のAu原料をカーボン坩堝にて大気溶解し、インゴットを作製した。得られたインゴットを鍛造、圧延して、50mm角にした。その後、熱処理せずに、伸線を行った。伸線途中では潤滑油を使用せずに細線化した。伸線後、20mmの長さで切断した後、表面を王水で酸洗し、その後、表面をアセトン洗浄・乾燥を行った。
伸線化したサンプル表面を実施例1と同様にエネルギー分散型X線分光法を用いて面分析した結果、Fe、Si、Cはいずれも10重量%以上であった。また、ICP発光分光分析法を用いて分析した結果、Fe、Siはそれぞれ18重量ppm、12重量ppmであった。非分散型赤外線吸収法の装置を用いて分析した結果、Cは30重量ppmであった。得られたサンプルについて突沸現象の評価を行った結果、重量減少率は0.2wt%
と悪い結果であった。
【0033】
(実施例2:Pt蒸着材料)
純度99.95wt%以上のPt原料を水冷銅坩堝にて真空度0.1Paでスカル溶解して、インゴットを作製した。得られたインゴットを900℃で鍛造、圧延して50mm角にした。その後、800℃で熱処理しながら伸線した。伸線途中では潤滑油を使用せず、直径2mm程度まで細線化した。伸線後、20mmの長さで切断した後、表面を王水で酸洗し、その後アセトン洗浄・乾燥を行った。
伸線化したサンプル表面を実施例1と同様にエネルギー分散型X線分光法を用いて面分析した結果、Fe、Si、Cはいずれも10重量%以下であった。また、ICP発光分光分析法を用いて分析した結果、Fe、Siはそれぞれ3重量ppm、2重量ppmであっ
た。非分散型赤外線吸収法を用いて分析した結果、Cは10重量ppm未満であった。得られたサンプルについて突沸現象の評価を行った結果、重量減少率は0.02%で良好であった。
【0034】
(比較例2:Pt蒸着材料)
純度99.95wt%のPt原料をセラミック坩堝にて大気溶解し、インゴットを作製した。得られたインゴットを鍛造、圧延して、50mm角にした。その後、熱処理せずに、伸線を行った。伸線途中では潤滑油を使用せずに細線化した。伸線後、20mmの長さで切断した後、表面を王水で酸洗し、その後、表面をアセトン洗浄・乾燥を行った。
伸線化したサンプル表面を実施例1と同様にエネルギー分散型X線分光法を用いて面分析した結果、Fe、Si、Cはいずれも10重量%以上であった。また、ICP発光分光分析法を用いて分析した結果、Fe、Siはそれぞれ15重量ppm、20重量ppmで
あった。非分散型赤外線吸収法を用いて分析した結果、Cは20重量ppmであった。得られたサンプルについて突沸現象の評価を行った結果、重量減少率は1.5wt%と非常に悪い結果であった。
【0035】
(実施例3:Pd蒸着材料)
純度99.9wt%以上のPd原料を水冷銅坩堝にて、アルゴンを導入した真空度500Paでスカル溶解して、インゴットを作製した。得られたインゴットを1000℃で鍛造、圧延して50mm角にした。その後、600℃で熱処理しながら伸線した。伸線途中では潤滑油を使用せず、直径2mm程度まで細線化した。伸線後、20mmの長さで切断した後、表面を王水で酸洗し、その後アセトン洗浄・乾燥を行った。
伸線化したサンプル表面を実施例1と同様にエネルギー分散型X線分光法を用いて面分析した結果、Fe、Siはいずれも10重量%未満、Cは10重量%であった。また、ICP発光分光分析法を用いて分析した結果、Fe、Siはそれぞれ5重量ppm、8重量
ppmであった。非分散型赤外線吸収法を用いて分析した結果、Cは10重量ppmであった。得られたサンプルについて突沸現象の評価を行った結果、重量減少率は0.09%で良好であった。
【0036】
(比較例3:Pd蒸着材料)
純度99.9wt%以上のPd原料をセラミック坩堝にて大気溶解し、インゴットを作製した。得られたインゴットを鍛造、圧延して、50mm角にした。その後、熱処理せずに、伸線を行った。伸線途中では潤滑油を使用せずに細線化した。伸線後、20mmの長さで切断した後、表面を王水で酸洗し、その後、表面をアセトン洗浄・乾燥を行った。
伸線化したサンプル表面を実施例1と同様にエネルギー分散型X線分光法を用いて面分析した結果、Fe、Si、Cはいずれも10重量%以上であった。また、ICP発光分光分析法で分析した結果、Fe、Siはそれぞれ30重量ppm、45重量ppmでであった。非分散型赤外線吸収法を用いて分析した結果、Cは20重量ppmであった。得られたサンプルについて突沸現象の評価を行った結果、重量減少率は2.7wt%と非常に悪
い結果であった。
【0037】
(実施例4:Ag蒸着材料)
純度99.99wt%以上のAg原料を水冷銅坩堝にて、真空度10Paで電子ビーム溶解して、インゴットを作製した。得られたインゴットを500℃で鍛造、圧延して50mm角にした。その後、300℃で熱処理しながら伸線した。伸線途中では潤滑油を使用せず、直径2mm程度まで細線化した。伸線後、20mmの長さで切断した後、表面を王水で酸洗し、その後アセトン洗浄・乾燥を行った。
伸線化したサンプル表面を実施例1と同様にエネルギー分散型X線分光法を用いて面分析した結果、Fe、Si、Cはいずれも10重量%未満であった。また、ICP発光分光分析法を用いて分析した結果、Fe、Siはいずれも1重量ppm未満であった。非分散
型赤外線吸収法用いて分析した結果、Cは10重量ppm未満であった。得られたサンプルについて突沸現象の評価を行った結果、重量減少率は0.01%未満で非常に良好であった。
【0038】
(比較例4)
純度99.99wt%以上のAg原料をカーボン坩堝にて大気溶解し、インゴットを作製した。得られたインゴットを鍛造、圧延して、50mm角にした。その後、熱処理せずに、伸線を行った。伸線途中では潤滑油を使用せずに細線化した。伸線後、20mmの長さで切断した後、表面を王水で酸洗し、その後、表面をアセトン洗浄・乾燥を行った。
伸線化したサンプル表面を実施例1と同様にエネルギー分散型X線分光法を用いて面分析した結果、Fe、Si、Cはいずれも10重量%以上であった。また、ICP発光分光分析法で分析した結果、Fe、Siはそれぞれ12重量ppm、15重量ppmであった。非分散型赤外線吸収法を用いて分析した結果、Cは50重量ppmであった。得られたサンプルについて突沸現象の評価を行った結果、重量減少率は0.5wt%と悪い結果で
あった。
【0039】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0040】
本開示によれば、貴金属蒸着材料の溶解の際、突沸現象を効果的に抑制することができる。これにより、基板上に付着するパーティクルの低減を期待できる。したがって、製品の歩留まり改善に寄与することができる。本開示の貴金属蒸着材料は、電子部品、半導体デバイス、光学薄膜、磁気デバイス、LED、有機EL、LCD等における素子形成に有用である。
【手続補正書】
【提出日】2023-08-29
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貴金属から構成される蒸着材料用ペレットであって、蒸着材料の表面50μm×50μmの面積についてエネルギー分散型X線分光法を用いて面分析したとき、Feが10重量%以下、Siが10重量%以下、Cが10重量%以下、であり、ICP発光分光分析法を用いて分析したとき、Feが10重量ppm以下、Siが10重量ppm以下、非分散型赤外線吸収法を用いて分析したとき、Cが10重量ppm以下、である蒸着材料用ペレット
【請求項2】
金から構成される蒸着材料用ペレットであって、蒸着材料の表面50μm×50μmの面積についてエネルギー分散型X線分光法を用いて面分析したとき、Feが10重量%未満、Siが10重量%未満、Cが10重量%未満、であり、ICP発光分光分析法を用いて分析したとき、Feが1重量ppm未満、Siが1重量ppm未満、非分散型赤外線吸収法を用いて分析したとき、Cが10重量ppm未満、である蒸着材料用ペレット。
【請求項3】
白金から構成される蒸着材料用ペレットであって、蒸着材料の表面50μm×50μmの面積についてエネルギー分散型X線分光法を用いて面分析したとき、Feが10重量%以下、Siが10重量%以下、Cが10重量%以下、であり、ICP発光分光分析法を用いて分析したとき、Feが10重量ppm以下、Siが10重量ppm以下、非分散型赤外線吸収法を用いて分析したとき、Cが10重量ppm未満、である蒸着材料用ペレット。
【請求項4】
パラジウムから構成される蒸着材料用ペレットであって、蒸着材料の表面50μm×50μmの面積についてエネルギー分散型X線分光法を用いて面分析したとき、Feが10重量%未満、Siが10重量%未満、Cが10重量%以下、であり、ICP発光分光分析法を用いて分析したとき、Feが10重量ppm以下、Siが10重量ppm以下、非分散型赤外線吸収法を用いて分析したとき、Cが10重量ppm以下、である蒸着材料用ペレット。
【請求項5】
銀から構成される蒸着材料用ペレットであって、蒸着材料の表面50μm×50μmの面積についてエネルギー分散型X線分光法を用いて面分析したとき、Feが10重量%未
満、Siが10重量%未満、Cが10重量%未満、であり、ICP発光分光分析法を用いて分析したとき、Feが1重量ppm未満、Siが1重量ppm未満、非分散型赤外線吸収法を用いて分析したとき、Cが10重量ppm未満、である蒸着材料用ペレット。
【手続補正書】
【提出日】2023-11-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金から構成される蒸着材料用ペレットであって、蒸着材料の表面50μm×50μmの面積についてエネルギー分散型X線分光法を用いて面分析したとき、Feが10重量%未満、Siが10重量%未満、Cが10重量%未満、であり、ICP発光分光分析法を用いて分析したとき、Feが1重量ppm未満、Siが1重量ppm未満、非分散型赤外線吸収法を用いて分析したとき、Cが10重量ppm未満、である蒸着材料用ペレット。
【請求項2】
白金から構成される蒸着材料用ペレットであって、蒸着材料の表面50μm×50μmの面積についてエネルギー分散型X線分光法を用いて面分析したとき、Feが10重量%以下、Siが10重量%以下、Cが10重量%以下、であり、ICP発光分光分析法を用いて分析したとき、Feが10重量ppm以下、Siが10重量ppm以下、非分散型赤外線吸収法を用いて分析したとき、Cが10重量ppm未満、である蒸着材料用ペレット。
【請求項3】
パラジウムから構成される蒸着材料用ペレットであって、蒸着材料の表面50μm×50μmの面積についてエネルギー分散型X線分光法を用いて面分析したとき、Feが10重量%未満、Siが10重量%未満、Cが10重量%以下、であり、ICP発光分光分析法を用いて分析したとき、Feが10重量ppm以下、Siが10重量ppm以下、非分散型赤外線吸収法を用いて分析したとき、Cが10重量ppm以下、である蒸着材料用ペレット。
【請求項4】
銀から構成される蒸着材料用ペレットであって、蒸着材料の表面50μm×50μmの面積についてエネルギー分散型X線分光法を用いて面分析したとき、Feが10重量%未満、Siが10重量%未満、Cが10重量%未満、であり、ICP発光分光分析法を用いて分析したとき、Feが1重量ppm未満、Siが1重量ppm未満、非分散型赤外線吸収法を用いて分析したとき、Cが10重量ppm未満、である蒸着材料用ペレット。
【手続補正書】
【提出日】2024-03-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金から構成される蒸着材料用ペレットであって、蒸着材料の表面50μm×50μmの面積についてエネルギー分散型X線分光法を用いて面分析したとき、Feが10重量%未満、Siが10重量%未満、Cが10重量%未満、であり、ICP発光分光分析法を用いて分析したとき、Feが1重量ppm未満、Siが1重量ppm未満、非分散型赤外線吸収法を用いて分析したとき、Cが10重量ppm未満、である棒状の蒸着材料用ペレット。
【請求項2】
白金から構成される蒸着材料用ペレットであって、蒸着材料の表面50μm×50μmの面積についてエネルギー分散型X線分光法を用いて面分析したとき、Feが10重量%以下、Siが10重量%以下、Cが10重量%以下、であり、ICP発光分光分析法を用いて分析したとき、Feが10重量ppm以下、Siが10重量ppm以下、非分散型赤外線吸収法を用いて分析したとき、Cが10重量ppm未満、である棒状の蒸着材料用ペレット。
【請求項3】
パラジウムから構成される蒸着材料用ペレットであって、蒸着材料の表面50μm×50μmの面積についてエネルギー分散型X線分光法を用いて面分析したとき、Feが10重量%未満、Siが10重量%未満、Cが10重量%以下、であり、ICP発光分光分析法を用いて分析したとき、Feが10重量ppm以下、Siが10重量ppm以下、非分散型赤外線吸収法を用いて分析したとき、Cが10重量ppm以下、である棒状の蒸着材料用ペレット。
【請求項4】
銀から構成される蒸着材料用ペレットであって、蒸着材料の表面50μm×50μmの面積についてエネルギー分散型X線分光法を用いて面分析したとき、Feが10重量%未満、Siが10重量%未満、Cが10重量%未満、であり、ICP発光分光分析法を用いて分析したとき、Feが1重量ppm未満、Siが1重量ppm未満、非分散型赤外線吸収法を用いて分析したとき、Cが10重量ppm未満、である棒状の蒸着材料用ペレット。