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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129317
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】分散型アンテナシステム装置
(51)【国際特許分類】
   H04B 1/56 20060101AFI20240919BHJP
   H04B 3/04 20060101ALI20240919BHJP
   H04B 1/10 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
H04B1/56
H04B3/04
H04B1/10 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038439
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】000001122
【氏名又は名称】株式会社日立国際電気
(74)【代理人】
【識別番号】100093104
【弁理士】
【氏名又は名称】船津 暢宏
(72)【発明者】
【氏名】堀田 昇
【テーマコード(参考)】
5K011
5K046
5K052
【Fターム(参考)】
5K011BA02
5K011DA02
5K011DA12
5K011KA05
5K046AA05
5K046BA05
5K046EE57
5K052AA01
5K052DD15
5K052FF32
5K052FF33
5K052GG48
(57)【要約】
【課題】 下り信号に対する上り信号の回り込みによる干渉を除去して、TDDのタイミングをより正確に制御することができる分散型アンテナシステム装置を提供する。
【解決手段】 サーキュレータ101が、上位装置からの下り信号を、下り信号処理部に出力すると共に、上り信号処理部からの上り信号を上位装置に出力するよう制御し、上り信号回り込みキャンセル部111が、サーキュレータ101からの下り信号を入力すると共に上り信号処理部からの上り信号を入力して、下り信号に含まれる上り信号の回り込みをキャンセルしてキャンセル済の信号を出力し、TDD検出部107が、キャンセル済の信号に基づいて時分割複信のタイミングを検出する分散型アンテナシステム装置としている。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
時分割複信方式の無線通信に用いられる分散型アンテナシステム装置であって、
下り信号の信号処理を行う下り信号処理部と、
上り信号の信号処理を行う上り信号処理部と、
上位装置からの下り信号を前記下り信号処理部に出力すると共に前記上り信号処理部からの上り信号を前記上位装置に出力するよう制御するサーキュレータと、
前記サーキュレータからの下り信号を入力すると共に前記上り信号処理部からの上り信号を入力して、前記サーキュレータからの下り信号に含まれる上り信号の回り込みをキャンセルしてキャンセル済の信号を出力するキャンセル部と、
前記キャンセル済の信号に基づいて時分割複信のタイミングを検出する検出部と、を有することを特徴とする分散型アンテナシステム装置。
【請求項2】
前記下り信号処理部は、前記サーキュレータからの下り信号が、前記キャンセル部を経由した前記キャンセル済の信号について信号処理を行うことを特徴とする請求項1記載の分散型アンテナシステム装置。
【請求項3】
前記キャンセル部は、
入力された前記サーキュレータからの下り信号を振幅変換する第1の振幅変換部と、
入力された下位装置からの上り信号を遅延調整値に基づき遅延調整する遅延調整部と、
前記遅延調整部で遅延された信号を振幅変換する第2の振幅変換部と、
前記第2の振幅変換部で振幅変換された信号のゲインをゲイン調整値に基づき調整してレプリカ信号を生成するゲイン調整部と、
前記第1の振幅変換部で振幅変換された信号に含まれる上り信号の回り込みを前記レプリカ信号でキャンセルしてキャンセル済の信号を出力するキャンセル器と、
前記下り信号及び前記遅延調整部で遅延された信号を入力し、前記下り信号に含まれる上り信号の回り込みに対する下位装置からの上り信号の遅延量を算出して前記遅延調整値を出力すると共に前記第2の振幅変換部で振幅変換された信号のゲインを算出して前記ゲイン調整値を出力する遅延・ゲイン算出部と、を有することを特徴とする請求項1又は2記載の分散型アンテナシステム装置。
【請求項4】
前記遅延・ゲイン算出部は、
前記遅延調整部で遅延調整された上り信号を入力して疑似レプリカ信号を生成し、タイミングを変えてプロンプト信号、アーリー信号及びレイト信号を出力する疑似レプリカ信号生成部と、
下り信号と前記プロンプト信号、前記下り信号と前記アーリー信号及び前記下り信号と前記レイト信号の相関演算を行い、各々の相関演算値を出力する相関演算部と、
前記下り信号と前記プロンプト信号との相関演算値からゲイン調整値を算出するゲイン調整値算出部と、
前記下り信号と前記アーリー信号との相関演算値と、前記下り信号と前記レイト信号との相関演算値とから、前記遅延調整された上り信号と前記下り信号に含まれる前記回り込みとのタイミングの差分を演算する弁別器と、
前記タイミングの差分を加算して遅延調整値を出力するアキュムレータと、を有することを特徴とする請求項3記載の分散型アンテナシステム装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散型アンテナシステム装置に係り、特に、下り信号に対する上り信号の回り込みによる干渉を除去して、時分割複信のタイミング制御をより正確に行うことができる分散型アンテナシステム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
[従来の技術]
分散型アンテナシステム(DAS:Distributed Antenna System)では、基地局装置と複数の子局とを接続する親局が設けられている。
TDD(Time Division Duplex:時分割複信)方式の携帯電話基地局の分散型アンテナシステムにおいては、無線信号のアンテナは送受信で共用となっており、適宜送受を切り替えて使用する。このため、親局は何らかの方法で送受の切り替えタイミングを把握し、そのタイミングを子局に伝達する必要がある。
【0003】
切り替えタイミングを把握するための手法の一つとして、基地局から受信した無線信号の電力の変化をもとに下り信号の立ち上がりを検出し、子局のアンテナにおける送受の切り替えをそのタイミングに同期させるものがある。
【0004】
[従来の分散型アンテナシステム装置:図5
親局として用いられる従来の分散型アンテナシステム装置について図5を用いて説明する。図5は、従来の分散型アンテナシステム装置の構成を示す説明図である。
図5に示すように、従来の分散型アンテナシステム装置は、同軸ケーブル500と、サーキュレータ501と、アナログ回路部502と、A/D変換部503と、デジタル信号処理部(下り)504と、トランシーバ回路部505と、TDD検出部506と、光ケーブル507と、アナログ回路部508と、D/A変換部509と、デジタル信号処理部510とを備えている。
【0005】
同軸ケーブル500は、上位装置(基地局)と分散型アンテナシステム装置とを接続する。
サーキュレータ501は、上り信号と下り信号とを絶縁するものであり、同軸ケーブル500から入力される上位装置からの下り信号をアナログ回路部502に出力し、アナログ回路部508からの上り信号を、同軸ケーブル500を介して上位装置に出力する。
アナログ回路部502は、下り信号について増幅等のアナログ処理を行う。
A/D変換部503は、下り信号をアナログ信号からデジタル信号に変換する。
デジタル信号処理部(下り)504は、下りのデジタル信号について遅延調整やフィルタリング等のデジタル信号処理を行う。
【0006】
TDD検出部506は、下りデジタル信号の電力に基づいて、その立ち上がりを検出してTDDにおける送受のタイミングを切り替える。
トランシーバ回路部505は、デジタル処理部(下り)504からの下りの電気信号を光信号に変換して、光ケーブル507に出力し、光ケーブル507からの上りの光信号を電気信号に変換してデジタル信号処理部(上り)510に出力する。
光ケーブル507は、分散型アンテナシステム装置と下位装置(子局)とを接続する。
【0007】
デジタル信号処理部(上り)510は、上りのデジタル信号についてデジタル信号処理を行う。
D/A変換部509は、上りのデジタル信号をアナログ信号に変換する。
アナログ回路部508は、上りのアナログ信号のアナログ処理を行い、サーキュレータ501に出力する。
【0008】
[TDDのタイミング検出]
図5に示したように、下り信号の受信電力から下り信号の立ち上がりを検出して送受のタイミングを制御する従来の分散型アンテナシステム装置では、上り信号と下り信号のアイソレーションを高めるためにサーキュレータ501を備えている。しかし、信号のダイナミックレンジを上回る絶縁性能を有したサーキュレータを実現することは困難であるため、上り/下り信号間の干渉を完全に取り除くことは不可能である。
つまり、図5に示すように、サーキュレータ501からアナログ回路部502への下り信号に、上り信号の回り込み信号が干渉信号として入り込んでしまう。
【0009】
また、一般的に、上り/下り信号の電力は、接続する基地局-移動局間の距離等によって動的に変化するため、上り信号と下り信号それぞれの電力の絶対値やその大小関係は一定ではない。
そのため、無線信号の受信電力のみを用いてその信号が上り/下りいずれかであるかの判別や、下り信号の立ち上がりタイミングのみを選択的に検出することは困難である。
【0010】
更に、受信電力を用いるのではなく、下り信号の同期信号を復調し、その復調結果から同期タイミングを検出する方法も考えられるが、復調処理を行う回路部をアンテナ分散システム装置内に実装する必要があるため、回路規模が増大してしまい、現実的ではない。
【0011】
[関連技術]
尚、関連する先行技術として、国際公開第2018/143043号「無線機及び無線通信方法」(特許文献1)がある。
特許文献1には、サーキュレータを備え、TDD方式の無線通信とFDD方式の無線通信とを1台の装置で実現できる無線機が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第2018/143043号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述したように、従来の分散型アンテナシステム装置では、受信電力に基づいてTDDのタイミングを制御する場合、上り信号の回り込みによる干渉のために、下り信号の立ち上がりを精度よく検出することができず、正確なタイミングを検出できないという問題点があった。
【0014】
尚、特許文献1には、下り信号に含まれる上り信号の回り込み成分を除去した信号を用いて、下り信号の立ち上がりを検出し、TDDのタイミングを制御する構成の記載がない。
【0015】
本発明は上記実情に鑑みて為されたもので、下り信号の立ち上がりを検出する際に、上り信号の回り込みによる干渉の影響を抑え、TDDのタイミングをより正確に制御することができる分散型アンテナシステム装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記従来例の問題点を解決するための本発明は、時分割複信方式の無線通信に用いられる分散型アンテナシステム装置であって、下り信号の信号処理を行う下り信号処理部と、上り信号の信号処理を行う上り信号処理部と、上位装置からの下り信号を下り信号処理部に出力すると共に上り信号処理部からの上り信号を上位装置に出力するよう制御するサーキュレータと、サーキュレータからの下り信号を入力すると共に上り信号処理部からの上り信号を入力して、サーキュレータからの下り信号に含まれる上り信号の回り込みをキャンセルしてキャンセル済の信号を出力するキャンセル部と、キャンセル済の信号に基づいて時分割複信のタイミングを検出する検出部と、を有することを特徴としている。
【0017】
また、本発明は、上記分散型アンテナシステム装置において、下り信号処理部は、サーキュレータからの下り信号が、キャンセル部を経由したキャンセル済の信号について信号処理を行うことを特徴としている。
【0018】
また、本発明は、上記分散型アンテナシステム装置において、キャンセル部は、入力されたサーキュレータからの下り信号を振幅変換する第1の振幅変換部と、入力された下位装置からの上り信号を遅延調整値に基づき遅延調整する遅延調整部と、記遅延調整部で遅延された信号を振幅変換する第2の振幅変換部と、第2の振幅変換部で振幅変換された信号のゲインをゲイン調整値に基づき調整してレプリカ信号を生成するゲイン調整部と、第1の振幅変換部で振幅変換された信号に含まれる上り信号の回り込みをレプリカ信号でキャンセルしてキャンセル済の信号を出力するキャンセル器と、下り信号及び遅延調整部で遅延された信号を入力し、下り信号に含まれる上り信号の回り込みに対する下位装置からの上り信号の遅延量を算出して遅延調整値を出力すると共に前記第2の振幅変換部で振幅変換された信号のゲインを算出してゲイン調整値を出力する遅延・ゲイン算出部と、を有することを特徴としている。
【0019】
また、本発明は、上記分散型アンテナシステム装置において、遅延・ゲイン算出部は、遅延調整部で遅延調整された上り信号を入力して疑似レプリカ信号を生成し、タイミングを変えてプロンプト信号、アーリー信号及びレイト信号を出力する疑似レプリカ信号生成部と、下り信号とプロンプト信号、下り信号とアーリー信号及び下り信号とレイト信号の相関演算を行い、各々の相関演算値を出力する相関演算部と、下り信号とプロンプト信号との相関演算値からゲイン調整値を算出するゲイン調整値算出部と、下り信号とアーリー信号との相関演算値と、下り信号とレイト信号との相関演算値とから、遅延調整された上り信号と下り信号に含まれる回り込みとのタイミングの差分を演算する弁別器と、タイミングの差分を加算して遅延調整値を出力するアキュムレータと、を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、時分割複信方式の無線通信に用いられる分散型アンテナシステム装置であって、下り信号の信号処理を行う下り信号処理部と、上り信号の信号処理を行う上り信号処理部と、上位装置からの下り信号を下り信号処理部に出力すると共に上り信号処理部からの上り信号を上位装置に出力するよう制御するサーキュレータと、サーキュレータからの下り信号を入力すると共に上り信号処理部からの上り信号を入力して、サーキュレータからの下り信号に含まれる上り信号の回り込みをキャンセルしてキャンセル済の信号を出力するキャンセル部と、キャンセル済の信号に基づいて時分割複信のタイミングを検出する検出部と、有する分散型アンテナシステム装置としているので、下り信号に含まれる上り信号の回り込みの影響を抑えて、下り信号の立ち上がりを正確に検出して、時分割複信の送受信のタイミングを精度よく制御し、通信品質を良好にすることができる効果がある。
【0021】
また、本発明によれば、下り信号処理部は、サーキュレータからの下り信号が、キャンセル部を経由したキャンセル済の信号について信号処理を行う上記分散型アンテナシステム装置としているので、干渉成分を含まない下り信号を子局に送信でき、通信品質を良好にすることができる効果がある。
【0022】
また、本発明によれば、キャンセル部は、入力されたサーキュレータからの下り信号を振幅変換する第1の振幅変換部と、入力された下位装置からの上り信号を遅延調整値に基づき遅延調整する遅延調整部と、記遅延調整部で遅延された信号を振幅変換する第2の振幅変換部と、第2の振幅変換部で振幅変換された信号のゲインをゲイン調整値に基づき調整してレプリカ信号を生成するゲイン調整部と、第1の振幅変換部で振幅変換された信号に含まれる上り信号の回り込みをレプリカ信号でキャンセルしてキャンセル済の信号を出力するキャンセル器と、下り信号及び遅延調整部で遅延された信号を入力し、下り信号に含まれる上り信号の回り込みに対する下位装置からの上り信号の遅延量を算出して遅延調整値を出力すると共に前記第2の振幅変換部で振幅変換された信号のゲインを算出してゲイン調整値を出力する遅延・ゲイン算出部と、を有する上記分散型アンテナシステム装置において、遅延・ゲイン算出部で、下位装置からの上り信号の遅延量及びゲインを調整し、下り信号に含まれる上り信号の回り込み成分の特性に追従したキャンセル信号を生成し、回り込み成分を精度よくキャンセルできる効果がある。
【0023】
また、本発明によれば、遅延・ゲイン算出部は、遅延調整部で遅延調整された上り信号を入力して疑似レプリカ信号を生成し、タイミングを変えてプロンプト信号、アーリー信号及びレイト信号を出力する疑似レプリカ信号生成部と、下り信号とプロンプト信号、下り信号とアーリー信号及び下り信号とレイト信号の相関演算を行い、各々の相関演算値を出力する相関演算部と、下り信号とプロンプト信号との相関演算値からゲイン調整値を算出するゲイン調整値算出部と、下り信号とアーリー信号との相関演算値と、下り信号とレイト信号との相関演算値とから、遅延調整された上り信号と下り信号に含まれる回り込みとのタイミングの差分を演算する弁別器と、タイミングの差分を加算して遅延調整値を出力するアキュムレータと、を有する上記分散型アンテナシステム装置としているので、タイミングを早めたアーリー信号と遅らせたレイト信号を用いて、下位装置からの上り信号の遅延量を、下り信号に含まれる上り信号の回り込み成分の特性に動的に追従させることができ、回り込み成分を精度よくキャンセルできる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本アンテナシステム装置の構成を示す説明図である。
図2】上り信号回り込みキャンセル部の構成ブロック図である。
図3】遅延測定/ゲイン算出部204の構成ブロック図である。
図4】応用例のアンテナシステム装置の構成を示す説明図である。
図5】従来の分散型アンテナシステム装置の構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
[実施の形態の概要]
本発明の実施の形態に係る分散型アンテナシステム装置(本アンテナシステム装置)は、分散型アンテナシステムの親局として用いられ、上位装置からの下り信号を下り信号処理部に出力すると共に上り信号処理部からの上り信号を上位装置に出力するよう制御するサーキュレータと、サーキュレータからの下り信号を入力すると共に上り信号処理部からの上り信号を入力して、下り信号に含まれる上り信号の回り込みをキャンセルしてキャンセル済の信号を出力するキャンセル部と、キャンセル済の信号に基づいて時分割複信のタイミングを検出する検出部を備え、下り信号における上り信号の回り込みの影響を除去することができ、装置規模を大幅に増大させることなく、下り信号の立ち上がりから時分割複信のタイミングを正確に検出することができるものである。
【0026】
[本アンテナシステム装置の構成:図1
本アンテナシステム装置の構成について図1を用いて説明する。図1は、本アンテナシステム装置の構成を示す説明図である。
図1に示すように、本アンテナシステム装置は、基本的な構成部分は図5に示した従来の分散型アンテナシステム装置と同様であり、同軸ケーブル100と、サーキュレータ101と、アナログ回路部102と、A/D変換部103と、デジタル信号処理部(下り)104と、トランシーバ回路部105と、TDD検出部107と、アナログ回路部108と、D/A変換部109と、デジタル信号処理部(上り)110と、光ケーブル112とを備え、本アンテナシステムの特徴部分として、上り信号回り込みキャンセル部111を備えている。
従来と同様の部分については、詳細な説明を省略する。
【0027】
上り信号回り込みキャンセル部111は、デジタル信号処理部(上り)110からの上り信号と、A/D変換部103からの下り信号(回り込み成分が重畳されている)を入力して、回り込み成分のキャンセル信号を生成し、上り信号の回り込み成分が重畳された下り信号から回り込み成分をキャンセルするものである。
上り信号回り込みキャンセル部111の構成及び動作については後述する。
【0028】
そして、本アンテナシステム装置では、サーキュレータ101から出力される下り信号に回り込んだ上り信号を、上り信号回り込みキャンセル部111においてキャンセルして、TDD検出部107において、回り込み信号を含まない下り信号に基づいてTDDのタイミングを検出するものである。
【0029】
これにより、送受信切替のタイミングを正確に検出して子局に対するタイミング制御を行うことができ、通信品質を良好にすることができるものである。
また、本アンテナシステム装置では、復調回路を備えてタイミングを検出する構成に比べて、装置規模を小さくすることができ、低コストで実現することができるものである。
【0030】
[上り信号回り込みキャンセル部の構成:図2
上り信号回り込みキャンセル部111の構成について図2を用いて説明する。図2は、上り信号回り込みキャンセル部の構成ブロック図である。
図2に示すように、上り信号回り込みキャンセル部111は、下り振幅変換部201と、下りデータダンプ部202と、上りデータダンプ部203と、遅延測定/ゲイン算出部204と、キャンセル部205と、遅延調整部206と、上り振幅変換部207と、ゲイン調整部208とを備えている。
【0031】
また、これらの内、遅延調整部206と、上り振幅変換部207と、ゲイン調整部208は、干渉レプリカ生成部209を構成しており、下り信号に回り込む上り信号をキャンセルするためのレプリカ信号を生成する。
【0032】
上り信号回り込みキャンセル部111の各部について説明する。
下り振幅変換部201は、上り信号の回り込み成分が重畳された下り信号の振幅(√(I2+Q2))を算出して振幅を変換する。
下りデータダンプ部202は、回り込み成分が重畳された下り信号をダンプして遅延測定/ゲイン算出部204に出力する。
上りデータダンプ部203は、遅延調整された上り信号をダンプし、遅延測定/ゲイン算出部204に出力する。
【0033】
遅延測定/ゲイン算出部204は、下り信号に重畳された上り信号の回り込み成分(干渉成分)をキャンセルするレプリカ信号を生成するためのパラメータとして、回り込み成分が重畳された下り信号と上り信号から、干渉成分に応じてレプリカ信号を生成するための遅延とゲインを算出し、遅延調整値とゲイン調整値を干渉レプリカ生成部209に出力する。遅延測定/ゲイン算出部204の構成及び動作については後述する。
【0034】
上り遅延調整部206は、上り信号について、遅延測定/ゲイン算出部204から出力される遅延調整値に基づいて、遅延する。
上り振幅変換部207は、上り信号の振幅を算出して振幅を変換する。
ゲイン調整部208は、遅延測定/ゲイン算出部204からのゲイン調整値に基づいて、振幅調整された上り信号のゲインを調整し、上り信号回り込み干渉レプリカ信号(レプリカ信号)を生成する。
【0035】
キャンセル部205は、下り振幅変換部201から入力される上り信号の回り込み成分が重畳された下り信号と、ゲイン調整部208から入力されるレプリカ信号とに基づいて回り込み成分が重畳された下り信号からレプリカ信号を減算して、回り込み成分を含まない下り信号(キャンセル済み信号)を出力する。
【0036】
[上り信号回り込みキャンセル部111の動作:図2
上り信号回り込みキャンセル部111の動作について図2を用いて説明する。
回り込み成分が重畳された下り信号は、分岐されて、一方は下り振幅変換部201で振幅が算出されて変換され、他方は下りデータダンプ部202でダンプされ、遅延測定/ゲイン算出部204に入力される。
【0037】
また、遅延調整部206で遅延調整された上り信号は、上りデータダンプ部205でダンプされて、遅延測定/ゲイン算出部204に入力される。
遅延測定/ゲイン算出部204では、回り込み成分を含む下り信号と上り信号とから、干渉レプリカ生成部209における上り信号の遅延調整値とゲイン調整値が算出される。
【0038】
また、デジタル信号処理部(上り)110から出力された上り信号は、遅延調整部206で遅延調整値に基づいて遅延調整され、分岐されて上りデータダンプ部205と上り振幅変換部207に出力され、上り振幅変換部207で振幅が算出されて変換され、ゲイン調整部208でゲイン調整値に基づいてゲイン調整されて、レプリカ信号が生成されてキャンセル部205に出力される。
【0039】
そして、キャンセル部205において、下り振幅変換部201からの回り込み成分が重畳された下り信号から、レプリカ信号が減算されて、回り込み成分を含まないキャンセル済み信号が出力される。
このようにして、上り信号回り込みキャンセル部111の動作が行われる。
【0040】
[遅延測定/ゲイン算出部204の構成:図3
次に、図2に示した遅延測定/ゲイン算出部の構成について図3を用いて説明する。図3は、遅延測定/ゲイン算出部204の構成ブロック図である。
図3に示すように、遅延測定/ゲイン算出部204は、疑似レプリカ信号生成部301と、相関演算部302~304と、ゲイン調整値算出部305と、弁別器306と、アキュムレータ307とを備えている。
【0041】
疑似レプリカ信号生成部301は、上りデータダンプ部205から入力された上り信号を入力し、タイミングをずらして3種類の疑似レプリカ信号を生成して出力する。
疑似レプリカ信号としては、上り信号をそのまま再出力する(タイミングをずらさない)プロンプト信号(P)、1サンプル分タイミングを早めたアーリー信号(E)、1サンプル分タイミングを遅らせたレイト信号(L)がある。タイミングをずらす量を0.5サンプル分としてもよい。
【0042】
相関演算部302は、下りデータダンプ部202から回り込み成分を含む下り信号を入力すると共に、疑似レプリカ信号生成部からプロンプト信号(P)を入力して、相関演算を行って相関値(P)を出力する。
相関演算部303は、回り込み成分を含む下り信号と、アーリー信号(E)との相関演算を行って相関値(E)を出力する。
相関演算部304は、回り込み成分を含む下り信号と、レイト信号(L)との相関演算を行って相関値(L)を出力する。
【0043】
ゲイン調整値算出部305は、相関演算部302から出力される相関値(P)から、干渉レプリカ信号を生成する際のゲイン調整値を算出する。
弁別器306は、相関演算部303からの相関値(E)と相関演算部304からの相関値(L)とに基づいて、上り信号と、下り信号に含まれる上り信号回り込み成分とのタイミングの差分(d)を、(式1)に基づいて算出する。
d=(E-L)/2(E+L) (式1)
(式1)において、Eは相関値(E)、Lは相関値(L)を示す。
アキュムレータ307は、弁別器306で算出されたタイミング差分値(d)を積算し、干渉レプリカ信号の遅延調整値に変換する。
【0044】
[遅延測定/ゲイン算出部204の動作:図3
遅延測定/ゲイン算出部204の動作について図3を用いて説明する。
上りデータダンプ部205からの上り信号は、疑似レプリカ信号生成部310に入力されて、プロンプト信号(P)、アーリー信号(E)、レイト信号(L)が生成される。
相関演算部302において、上り信号の回り込み成分を含む下り信号とプロンプト信号(P)の相関演算により、回り込み成分とプロンプト信号(P)との相関値(P)が算出され、ゲイン調整値算出部305において、相関値(P)に基づいてゲイン調整値が算出されて、上り信号回り込みキャンセル部111のゲイン調整部208に出力される。
【0045】
また、相関演算部303で、下り信号に含まれる上り信号の回り込み成分とアーリー信号(E)との相関値(E)が算出され、相関演算部304で、回り込み成分とレイト信号(L)との相関値(L)が算出され、弁別器306でタイミング差分値(d)が算出される。
そして、アキュムレータ307でタイミング差分値(d)が積算されて、積算値が遅延調整値に変換されて、上り信号回り込みキャンセル部111の遅延調整部206に出力される。
このようにして、遅延測定/ゲイン算出部204の動作が行われる。
【0046】
つまり、本アンテナシステム装置では、タイミングを早めた疑似レプリカ信号であるアーリー信号(E)及びタイミングを遅らせた疑似レプリカ信号であるレイト信号(L)と、下り信号との相関値から、入力される上り信号と下り信号に含まれる回り込み成分とのタイミングのずれを算出し、上り信号回り込みキャンセル部111でレプリカ信号を生成する際の上り信号の遅延量を動的に制御することができ、レプリカ信号のタイミングを回り込み成分のタイミングに一致させて、下り信号に含まれる回り込み成分を精度よくキャンセルすることができるものである。
【0047】
[応用例:図4
上述した例では、図1において、上り信号回り込みキャンセル部111から出力される回り込み成分がキャンセルされた下り信号は、TDD検出部107のみに入力されて下り信号立ち上がりのタイミング検出に用いているが、応用例では、キャンセル済みの下り信号をデジタル信号処理部(下り)104に入力して下り信号として利用する。
応用例の分散型アンテナシステム装置(応用例のアンテナシステム装置)について図4を用いて説明する。図4は、応用例のアンテナシステム装置の構成を示す説明図である。
【0048】
図4に示すように、応用例のアンテナシステム装置では、A/D変換部103からの下り信号(回り込み信号を含む)をデジタル信号処理部(下り)104に入力せず、上り信号回り込みキャンセル部111のみに入力する。
そして、上り信号回り込みキャンセル部111からのキャンセル済み信号を、TDD検出部107と、デジタル信号処理部(下り)104に入力する。
【0049】
これにより、上り信号の回り込み成分を含まない下り信号に基づいてTDDのタイミングを検出して制御できると共に、回り込み成分による干渉の影響を除いた下り信号を子局に送信でき、通信の品質を向上させることができるものである。
【0050】
[実施の形態の効果]
本分散型アンテナシステム装置によれば、サーキュレータ101が、上位装置からの下り信号を、デジタル信号処理部(下り)104を含む下り信号処理部に出力すると共に、デジタル信号処理部(上り)110を含む上り信号処理部からの上り信号を上位装置に出力するよう制御し、上り信号回り込みキャンセル部111が、サーキュレータ101からの下り信号を入力すると共に上り信号処理部からの上り信号を入力して、下り信号に含まれる上り信号の回り込みをキャンセルしてキャンセル済の信号を出力し、TDD検出部107が、キャンセル済の信号に基づいて時分割複信のタイミングを検出する分散型アンテナシステム装置としているので、下り信号における上り信号の回り込みの影響を除去して、下り信号の立ち上がりから時分割複信のタイミングを正確に検出して下位装置に対してタイミング制御を行うことができ、通信品質を良好にすることができる効果がある。
【0051】
また、本分散型アンテナシステム装置によれば、既存の装置に上り信号回り込みキャンセル部111を追加することで、良好なタイミング検出を実現でき、復調回路を用いてタイミングを抽出する手法と比較して回路規模を縮小できる効果がある。
【0052】
更に、本分散型アンテナシステム装置によれば、上り信号回り込みキャンセル部111の遅延測定/ゲイン算出部204が、タイミングを早めたアーリー信号(E)及びタイミングを遅らせたレイト信号(E)と、下り信号との相関値を算出して、上り信号と回り込み成分のタイミングのずれを算出して、干渉レプリカ生成部209における上り信号の遅延量を実際の回り込み成分のタイミングに合わせて動的に制御することができ、回り込み成分を精度よくキャンセルすることができる効果がある。
【0053】
また、本分散型アンテナシステム装置の応用例によれば、デジタル信号処理部(下り)104が、サーキュレータ101からの信号ではなく、上り信号回り込みキャンセル部111から出力されるキャンセル済の信号を入力して信号処理を行うようにしているので、回り込み信号を含まない下り信号を下位装置に送信することができ、通信品質を一層良好にすることができる効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、下り信号に対する上り信号の回り込みによる干渉を除去して、TDDのタイミングをより正確に制御することができる分散型アンテナシステム装置に適している。
【符号の説明】
【0055】
100,500…同軸ケーブル、 101,108,502,508…アナログ回路部、 103,503…A/D変換部、 104,504…デジタル信号処理部(下り)、 105,505…トランシーバ回路部、 107,506…TDD検出部、 109,509…D/A変換部、 110,510…デジタル信号処理部(上り)、 111…上り信号回り込みキャンセル部、 112,507…光ケーブル、 201,207…振幅変換部、 202…データダンプ(下り信号)、 203…データダンプ(上り信号)、 204…遅延測定/ゲイン算出部、 205…キャンセル部、 206…遅延調整部、 208…ゲイン調整部、 209…干渉レプリカ生成部、 301…疑似レプリカ信号生成部、 302,303,304…相関演算部、 305…ゲイン調整値算出部、 306…弁別器、 307…アキュムレータ
図1
図2
図3
図4
図5