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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129320
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】駆動操舵装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 9/04 20060101AFI20240919BHJP
【FI】
B62D9/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038445
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100095566
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 友雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179453
【弁理士】
【氏名又は名称】會田 悠介
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】北澤 浩一
(57)【要約】
【課題】操舵時の車両の移動距離を最小限に抑え、車両の移動の自由度を向上させることができる駆動操舵装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る駆動操舵装置1は、車輪2と、駆動軸5を介して車輪2の車軸21に動力を伝達することにより車輪2を回転駆動する駆動機構(駆動用モータ3、減速機4、駆動軸5、ベベルドライブギア51、ベベルドリブンギア22A、ベベルドリブンギア22B)と、車軸21に直交する操舵軸7を中心として車輪2の向きを変更する操舵機構(操舵用モータ6、ベベルドライブギア61、ベベルドリブンギア71、操舵軸7、車軸ホルダー8)と、を備え、操舵軸7は、車輪2の接地面に対して傾斜していることを特徴とする。
【選択図】図3

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と、
駆動軸を介して前記車輪の車軸に動力を伝達することにより前記車輪を回転駆動する駆動機構と、
前記車軸に直交する操舵軸を中心として前記車輪の向きを変更する操舵機構と、を備え、
前記操舵軸は、前記車輪の接地面に対して傾斜していることを特徴とする、駆動操舵装置。
【請求項2】
前記車輪は、前記車軸方向の両端部の各々に環状のタイヤが取り付けられており、
前記操舵軸は、その軸心が前記車軸の略中点を通るように構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の駆動操舵装置。
【請求項3】
前記車輪は、前記操舵機構による操舵状態として、前記車輪が直立する直立状態、前記車輪が左右のいずれかに45度傾けられた傾斜状態、及び前記車輪が左右のいずれかに90度傾けられた横向状態の各操舵状態の間を連続的に変化可能であることを特徴とする、請求項2に記載の駆動操舵装置。
【請求項4】
前記車輪は、前記操舵状態が前記直立状態である場合に前記両端部の前記タイヤがともに接地するとともに、前記操舵状態が前記傾斜状態又は前記横向状態である場合に前記両端部の前記タイヤのいずれかのみが接地することを特徴とする、請求項3に記載の駆動操舵装置。
【請求項5】
前記操舵機構の前記操舵軸は円筒状に形成され、前記駆動機構の前記駆動軸は前記操舵軸の内周側に配置されることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の駆動操舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪に駆動力及び操舵力を伝達する駆動操舵機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両等に用いられ、車輪を回転駆動させる駆動機構及び車輪を操舵する操舵機構を備える駆動操舵装置が知られている。例えば特許文献1では、全方位に移動可能な車両において、車輪を駆動する第1駆動装置と、車輪を操舵する第2駆動装置と、を備え、鉛直方向に延びる駆動軸と操舵軸を同心円状に配置し、転舵力伝達経路上に互いに操舵軸の軸方向に相対移動可能な第1部材及び第2部材とを備えるとともに、駆動力伝達経路上に互いに駆動軸の軸方向に相対移動可能な第3部材及び第4部材とを備えることで、車輪の上下方向のストロークを可能とし、車両の走行性能を向上させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-089562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、操舵軸が鉛直方向を向いているため、車輪を操舵したときの回転半径は比較的大きなものとなり、車輪の向きを変える際の車両の移動距離も比較的大きくなる。しかしながら、さらなる操作性の向上のため、操舵時に必要となる車両の移動を最小限とし、移動の自由度を向上させた駆動操舵装置が要望されている。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、操舵時の車両の移動距離を最小限に抑え、車両の移動の自由度を向上させることができる駆動操舵装置を提供することを目的とする。そして、延いては交通の安全性をより一層改善して持続可能な輸送システムの発展に寄与するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために、本発明の請求項1に係る駆動操舵装置1は、車輪2と、駆動軸5を介して車輪2の車軸21に動力を伝達することにより車輪2を回転駆動する駆動機構(実施形態における(以下、本項において同じ。)駆動用モータ3、減速機4、駆動軸5、ベベルドライブギア51、ベベルドリブンギア22A、ベベルドリブンギア22B)と、車軸21に直交する操舵軸7を中心として車輪2の向きを変更する操舵機構(操舵用モータ6、ベベルドライブギア61、ベベルドリブンギア71、操舵軸7、車軸ホルダー8)と、を備え、操舵軸7は、車輪2の接地面に対して傾斜していることを特徴とする。
【0007】
この駆動操舵装置においては、車輪の車軸に直交する操舵軸が、車輪の接地面に対して傾斜するように構成されているので、車輪を操舵する際、操舵軸を中心として車輪の向きが変わることにより車輪の接地面が変化する。すなわち、舵角に応じて車輪が路面に対して傾き、車輪の接地面が車輪の旋回方向側に偏ることとなる。これにより、操舵軸が鉛直方向を向いている場合と比較して車輪の旋回力が大きくなるため、この駆動操舵装置を用いた車両の操舵時の移動距離を小さくすることができる。したがって、本発明の駆動操舵装置によれば、操舵時の車両の移動距離を最小限に抑え、車両の移動の自由度を向上させることができる。
【0008】
本発明の請求項2に係る発明は、請求項1に記載の駆動操舵装置1において、車輪2は、車軸方向の両端部の各々に環状のタイヤ23A、23Bが取り付けられており、操舵軸7は、その軸心Sが車軸21の略中点を通るように構成されていることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、車輪の車軸方向の両端部にはそれぞれタイヤが設けられており、操舵軸は、軸心が車軸の略中点を通るように構成されている。これにより、車輪を操舵する際、車輪が左右いずれかの旋回方向側に傾いた場合に、旋回方向側のタイヤが接地することで、旋回の際の走行安定性が保たれるとともに、操舵時の車両の移動距離を最小限に抑えることができる。
【0010】
本発明の請求項3に係る発明は、請求項2に記載の駆動操舵装置1において、車輪2は、操舵機構による操舵状態として、車輪2が直立する直立状態、車輪2が左右のいずれかに45度傾けられた傾斜状態、及び車輪2が左右のいずれかに90度傾けられた横向状態の各操舵状態の間を連続的に変化可能であることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、車輪は、直立状態から操舵により左右にそれぞれ90度まで傾けることができるので、求められる旋回能力に応じて適切な操舵状態を選択することが可能である。また、例えば車両が車輪と本発明の駆動操舵装置を前後一対で備えることで、前後の車輪を直立状態とすることで車両を直進させ、前方の車輪のみを傾斜状態とすることで車両を左右に旋回させ、前後の車輪を互いに向きが異なる傾斜状態とすることで車両をその場で回転させ、前後の車輪を横向状態とすることで車両を横方向に移動させることが可能となる。これにより、操舵時の車両の移動距離を最小限に抑え、車両の移動の自由度を向上させることができる。
【0012】
本発明の請求項4に係る発明は、請求項3に記載の駆動操舵装置1において、車輪2は、操舵状態が直立状態である場合に両端部のタイヤ23A、23Bがともに接地するとともに、操舵状態が傾斜状態又は横向状態である場合に両端部の前記タイヤ23A、23Bのいずれかのみが接地することを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、車輪の直立状態においては、両端部のタイヤがともに接地することで安定した走行が可能であるとともに、傾斜状態又は横向状態においては、いずれかのタイヤのみが接地することで旋回半径を小さくして車両の移動距離を小さくすることができる。
【0014】
本発明の請求項5に係る発明は、請求項1~4のいずれかに記載の駆動操舵装置1において、操舵機構の操舵軸7は円筒状に形成され、駆動機構の駆動軸5は操舵軸7の内周側に配置されることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、操舵軸を円筒状に形成し、その内周側に駆動軸を配置するので、駆動機構の動力伝達経路と操舵機構の動力伝達経路とを同軸的な位置関係で構成することができ、コンパクト化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】(a)は本発明の一実施形態に係る駆動操舵装置を概略的に示す斜視図であり、(b)はその分解図である。
図2】駆動軸及び操舵軸と車輪との接続構造を示す車輪の拡大断面図である。
図3】車輪の操舵状態と接地面を示す図であり、(a)は直立状態、(b)は傾斜状態、(c)は横向状態をそれぞれ示す図である。
図4】2組の車輪及び駆動操舵装置を前後方向に接続した駆動操舵システム100における各操舵状態を示す図であり、(a)は直立状態、(b)は傾斜状態、(c)は横向状態をそれぞれ示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明の駆動操舵装置の構造について好ましい実施形態を詳細に説明する。以下に説明する構成は本発明の一例(代表例)であり、本発明はこれに限定されない。
【0018】
なお、以下の説明では、図面中の方向X1を右といい、方向X2を左という。また、図面中の方向Y1を上といい、方向Y2を下という。また、図面中の方向Z1を前といい、方向Z2を後ろという。
【0019】
図1(a)は、本実施形態における駆動操舵装置1を概略的に示す図であり、同図(b)はその分解図である。また、図2は、駆動操舵装置1と接続した車輪2の拡大断面図である。この駆動操舵装置1は、図示しないバッテリ等から供給される電気エネルギーを機械エネルギーに変換して車輪2を回転駆動するための動力を提供する駆動用モータ3を備える。以下、駆動操舵装置1における駆動機構について説明する。
【0020】
駆動用モータ3の出力軸(不図示)に形成されたドライブギアは、遊星歯車で構成された減速器4と噛合している。減速器4には駆動軸5の上端部が接続されており、駆動軸5は、駆動用モータ3からの動力により軸心Dを中心として回転する。図2に示すように、駆動軸5の下端部には、傘歯車により構成されるベベルドライブギア51が軸心Dと同軸的に形成されている。ベベルドライブギア51は、車輪2の車軸21に軸心Aと同軸的に形成されたベベルドリブンギア22A、22Bに噛合している。
【0021】
以上のように、駆動用モータ3からの動力により、駆動用モータ3の出力軸のドライブギアから減速器を介して駆動軸5に回転が伝達され、駆動軸5が軸心Dを中心として回転する。駆動軸5の回転は、ベベルドライブギア51と、ベベルドリブンギア22A、22B及び車軸21を介して、車輪2に伝達され、これにより車輪2が軸心Aを中心として回転する。
【0022】
なお、車輪2は、軸心Aの方向の両端部に、環状のタイヤ23A、23Bを有している。タイヤ23A、23Bとしては、ゴム製の空気入りタイヤを用いることができるが、用途に応じて中実のソリッドタイヤやエアレスタイヤ、その他のタイヤを用いることも可能である。後述するように、本実施形態の駆動操舵装置1においては、操舵軸7の回転に応じて車輪2が路面に対して傾き、タイヤ23A、23Bの接地面が変化する構成であるため、タイヤ23A、23Bのトレッド面は、一般的な自動車用タイヤに見られるような扁平なものよりも、円に近い断面形状を有することが旋回力向上のためには好ましい。
【0023】
また、駆動操舵装置1は、図示しないバッテリ等からの電力供給により駆動され、車輪2を操舵するための動力を提供する操舵用モータ6を備える。以下、駆動操舵装置1における操舵機構について説明する。
【0024】
本実施形態における操舵用モータ6は、駆動用モータ3の近傍に設けられる。操舵用モータ6の出力軸(不図示)の端部には、ベベルドライブギア61が形成されており、このベベルドライブギア61と噛み合うベベルドリブンギア71は、操舵軸7の上端部に接続されており、操舵軸7は、操舵用モータ6からの動力により軸心Sを中心として回転する。
【0025】
操舵軸7は、中空の円筒状に形成され、その内周側に駆動軸5が収容されるように配置される。したがって、この駆動操舵装置1において、駆動軸5の軸心Dと操舵軸7の軸心Sとは略一致している。なお、駆動軸5は、円筒状の操舵軸7の内周面には直接接触しておらず、したがって、駆動軸5と操舵軸7のそれぞれの回転は互いに干渉しないように構成されている。
【0026】
操舵軸7の下端部は、環状の車軸ホルダー8と接続しており、操舵軸7と車軸ホルダー8とは一体的に回転する。環状の車軸ホルダー8は、その内周側に車輪2の車軸21を収容するような位置関係で配置される。図2に示すように、車軸ホルダー8と車軸21及び車輪2との間には環状のベアリング9A、9Bが配置され、駆動機構による車軸21及び車輪2の回転は車軸ホルダー8に伝達されない構成となっている。
【0027】
駆動用モータ3、減速機4、駆動軸5、操舵用モータ6、ベベルドライブギア61、ベベルドリブンギア71、及び操舵軸7は、筒状の保護ケース10に収容される。保護ケース10の下端部は、サスペンションアーム、スプリング、及びダンパー等からなるサスペンションユニット11と接続されている。サスペンションユニット11の下部は、図示しないベアリングを介して車軸ホルダー8に接続されている。保護ケース10及びサスペンションユニット11は、駆動軸5、操舵軸7及び車軸ホルダー8とは直接接触しておらず、これらの回転からは独立している。
【0028】
駆動用モータ3の上部には、自在ボール12及びソケット13からなるボールジョイント14が形成されており、自在ボール12はソケット13に対して回動可能に構成されている。ソケット13は、駆動操舵装置1の固定のために車両の任意の部材又は構造に接続可能である。
【0029】
なお、本実施形態の駆動操舵装置1が用いられる車両としては、乗用自動車、キックスケーター、作業用車両、走行台車などが想定されるが、これに限らず、車輪を有する任意の有人又は無人車両に駆動操舵装置1を採用することが可能である。
【0030】
次に、本実施形態の駆動操舵装置1における各操舵状態と、それに応じた車輪2の接地状態について説明する。図3は、駆動操舵装置1の操舵機構による操舵が行われた際の車輪2の代表的な操舵状態と、そのときの車輪2(タイヤ23A、23B)の接地面を示す図である。
【0031】
図3(a)は、操舵軸7が車両を直進させるための直立状態(操舵が行われていないニュートラル位置)にある場合の車輪2の接地状態を示している。操舵軸7の操舵状態が直立状態であるとき、車輪2は直立する(車軸21の軸心Aが路面に対して略平行な向きとなる)。このとき、車輪2の両端部のタイヤ23A、23Bがともに接地し、車両は安定した直進(前進及び後進)走行を行うことができる。
【0032】
なお、同図に示すとおり、駆動操舵装置1において、操舵軸7は、車輪2(タイヤ23A、23B)の接地面又は路面に対して傾斜した向きで車軸ホルダー8と接続している。そのため、操舵軸7を回転させて車輪2を左右のいずれかに操舵したとき、舵角に応じて車輪2が路面に対して傾き、車輪2の接地面が変化することとなる。
【0033】
図3(b)は、操舵軸7が直立状態から図中の矢印方向に45度回転した傾斜状態にある場合の車輪2の接地状態を示している。操舵軸7の回転により、軸心Sを中心として、車軸ホルダー8に保持された車軸21ごと車輪2が路面に対して45度、左方向に傾き、それにより車輪2の接地面が旋回方向側に偏ることがわかる。この状態で車輪2が回転駆動すると、車輪2が直立した状態で左方向に向きを変えた場合と比較して旋回力が向上するため、より小さな旋回半径でコンパクトに旋回することができ、操舵時の車両の移動距離を小さくすることができる。
【0034】
図3(c)は、操舵軸7が直立状態から図中の矢印方向に90度回転した横向状態にある場合の車輪2の接地状態を示している。操舵軸7の回転により、軸心Sを中心として、車輪2が路面に対して90度、左方向に傾いた状態となり、車輪2の接地面は更に旋回方向に偏ることとなる。この状態で車輪2が回転駆動した場合にも、車輪2が直立した状態で左方向に向きを変えた場合と比較すると大きな旋回力が得られるため、よりコンパクトな旋回により、操舵時の車両の移動距離を小さくすることができる。
【0035】
なお、操舵軸7が車輪2の接地面又は路面に対して傾斜する角度については、求められる車両の旋回性能や、操舵に必要となるトルク、駆動操舵装置1にかかる負荷と剛性などを考慮して任意に設定可能である。主に車両の旋回性能の向上を目的とする場合は、操舵軸7が車輪2の接地面又は路面との間でなす角度を20~45度の範囲で設定することが好ましく、30度に設定することがさらに好ましい。
【0036】
以上に説明したとおり、本実施形態の駆動操舵装置1によれば、車輪2の車軸21に直交する操舵軸7が、車輪2の接地面に対して傾斜するように構成されている。したがって、操舵軸7を回転させることにより車輪2を操舵する際、操舵軸7を中心として車輪2の向きが変わることにより、舵角に応じて車輪2が路面に対して傾くとともに、車輪2の接地面が車輪2の旋回方向側に偏ることとなる。これにより、操舵軸が鉛直方向を向いている場合よりも大きな旋回力を得ることができるので、よりコンパクトな旋回が可能となり、操舵時の車両の移動距離を最小限に抑えることができ、車両の移動の自由度を向上させることができる。
【0037】
また、車輪2の両側面側の端部にはタイヤ23A、23Bがそれぞれ設けられており、操舵軸7は、その軸心Sが車軸21の略中点を通るように配置されている。これにより、車輪2を操舵する際、車輪2が左右いずれかの旋回方向側に傾いた場合に、旋回方向側のタイヤが接地することで、旋回の際の走行安定性が保たれるとともに、操舵時の車両の移動距離を最小限に抑えることができる。
【0038】
また、車輪2は、車輪2が直立する直立状態、左右のいずれかに45度傾けられた傾斜状態、左右のいずれかに90度傾けられた横向状態という各状態の間を連続的に変化可能であるので、求められる旋回能力に応じて適切な操舵状態を選択することが可能である。また、車輪2は、直立状態においては両端部のタイヤ23A、23Bがともに接地するとともに、傾斜状態又は横向状態においては両端部の前記タイヤ23A、23Bのいずれかのみが接地するように構成されているので、車両の直進時には安定した走行が可能であるとともに、車両の旋回時には旋回半径を小さくして車両の移動距離を小さくすることができる。
【0039】
さらに、操舵軸7が円筒状に形成され、駆動軸5が操舵軸7の内周側に配置されるので、車輪2を回転駆動させる動力の伝達経路と車輪2を操舵する動力の伝達経路とを同軸的な位置関係で構成することができ、コンパクト化することができる。
【0040】
続いて、上述した駆動操舵装置1及び車輪2を一対としたものを前後方向に二対接続してなる駆動操舵システム100の実施形態について説明する。この駆動操舵システム100では、上述した駆動操舵装置1のボールジョイント14のソケット13を、もう一つの駆動操舵装置1のソケット13と接続し、各車輪2、2をそれぞれ前輪又は後輪として用いる。したがって、この駆動操舵システム100を用いた車両は、車輪2ごとに駆動機構及び操舵機構を備え、2つの車輪2、2に4つのタイヤ23A、23B、23A、23Bを備えた変則的な二輪車である。この駆動操舵システム100における各操舵状態の例を図4に示す。
【0041】
図4(a)では、前後の車輪2、2がいずれも直立状態にある。この状態では、4つのタイヤ23A、23B、23A、23Bが全て接地しており、車両は安定した直進走行を行うことができる。この状態から、例えば前輪となる車輪2のみを左右いずれかの方向に操舵することにより、高い旋回性能で旋回走行を行うことができる。
【0042】
図4(b)では、前輪となる車輪2が左方向に傾く傾斜状態であり、後輪となる車輪2が右方向に傾く傾斜状態である。このように、前後の車輪2、2を互いに反対方向に操舵した状態で前後の車輪2、2をともに回転駆動させると、車両はその場で(前後左右の位置をほぼ変えずに)回転する回転走行を行うことができる。この回転走行は、例えば、駐車場や車庫などの所定のスペースに車両を駐車するときのような、限られたスペースで車両の向きと位置を正確にコントロールする必要がある場面などで活用することができる。
【0043】
図4(c)では、図4(b)に示す状態から更に操舵し、前輪となる車輪2を更に左方向に傾かせ、後輪となる車輪2を更に右方向に傾かせたことにより、いずれの車輪2、2も横向状態にある。この状態では、前輪となる車輪2を正回転、後輪となる車輪2を逆回転させるように駆動することで、車両は向きを維持したまま左方向に横移動走行を行うことができる。また、前輪となる車輪2を逆回転、後輪となる車輪2を正回転させるように駆動することで、車両は向きを維持したまま右方向に横移動走行を行うことができる。このような横移動走行は、例えば、限られたスペースで縦列駐車を行う必要がある場面などで活用することができる。
【0044】
以上に説明したとおり、本実施形態の駆動操舵システム100によれば、前後それぞれの駆動操舵装置1により、前後の車輪2、2の操舵状態を独立して駆動、操舵することができるので、状況に応じて直進走行、旋回走行、回転走行、横移動走行を適宜切り替えながら車両を走行させることができる。これにより、車両の操作性を向上させ、移動の自由度を向上させることができる。
【0045】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、駆動用モータ3を駆動軸5及び操舵軸7と同軸に配置し、操舵用モータ6を駆動軸5及び操舵軸7と別軸に配置したが、各モータの配置に関しては、適切な動力伝達経路が確保できる限り、車両のレイアウト設計に応じて任意の配置とすることが可能である。
【0046】
また、実施形態では、操舵によって車輪2が左右に90度回転することが可能な構成としたが、必ずしも車輪2を90度回転させた横向状態を取ることが可能に構成する必要はなく、例えば左右に最大75度回転可能な構成とした場合であっても、高い旋回力により操舵時の車両の移動距離を小さくすることが可能である。
【0047】
また、実施形態では、駆動操舵システム100を用いた二輪車の例について説明したが、駆動操舵システム100を左右に2つ並べた四輪車として用いることも可能である。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。
【符号の説明】
【0048】
1…駆動操舵装置
2…車輪
21…車軸
22A,22B…ベベルドリブンギア(駆動機構)
23A,23B…タイヤ
3…駆動用モータ(駆動機構)
4…減速機(駆動機構)
5…駆動軸(駆動機構)
51…ベベルドライブギア(駆動機構)
6…操舵用モータ(操舵機構)
61…ベベルドライブギア(操舵機構)
7…操舵軸(操舵機構)
71…ベベルドリブンギア(操舵機構)
8…車軸ホルダー(操舵機構)
A…車軸の軸心
D…駆動軸の軸心
S…操舵軸の軸心
図1
図2
図3
図4