(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129334
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】真空ポンプ
(51)【国際特許分類】
F04D 19/04 20060101AFI20240919BHJP
F04C 25/02 20060101ALI20240919BHJP
F04D 29/00 20060101ALI20240919BHJP
F16C 32/04 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
F04D19/04 D
F04D19/04 A
F04C25/02 A
F04D29/00 B
F16C32/04 A
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038473
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114971
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修
(72)【発明者】
【氏名】川島 敏明
【テーマコード(参考)】
3H129
3H130
3H131
3J102
【Fターム(参考)】
3H129AA24
3H129AB06
3H129BB24
3H130AA12
3H130AB28
3H130AB52
3H130AC01
3H130BA13Z
3H130CA21
3H130DA02Z
3H130DB01X
3H130DB02Z
3H130DB10X
3H130DD01X
3H130DF00Z
3H130EA07D
3H130EA07E
3H130EA07G
3H130EA08D
3H130EA08E
3H130EA08G
3H131AA02
3H131CA04
3H131CA13
3H131CA16
3J102AA01
3J102BA03
3J102BA17
3J102BA18
3J102CA02
3J102CA22
3J102CA27
3J102DA03
3J102DA08
3J102DA26
3J102DB05
3J102DB08
3J102DB10
3J102DB11
3J102DB18
3J102GA06
(57)【要約】
【課題】 ロータの振動が抑制されやすい真空ポンプを得る。
【解決手段】 ラジアル磁気軸受装置301は、ロータ軸113をラジアル方向において回転可能に磁力で保持する。そして、ラジアル磁気軸受装置301は、能動型磁気軸受装置であって、ロータ軸113の方向において、上述の磁力の定常成分の合成力の位置と、上述の磁力の非定常成分の合成力の位置とを互いに異ならせるオフセット手段(第2ステータコア301b2)を備える。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータ軸と、前記ロータ軸に配置され前記ロータ軸とともに回転する回転体とを備えたロータと、
前記ロータ軸をラジアル方向において回転可能に磁力で保持するラジアル磁気軸受装置とを備え、
前記ラジアル磁気軸受装置は、能動型磁気軸受装置であって、前記ロータ軸の方向において、前記磁力の定常成分の合成力の位置と、前記磁力の非定常成分の合成力の位置とを互いに異ならせるオフセット手段を備えること、
を特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
前記磁力の非定常成分の合成力の位置は、前記ロータの重心位置とは異なり、
前記磁力の定常成分の合成力の位置は、前記ロータの重心位置、または前記ロータの重心位置と前記磁力の非定常成分の合成力の位置との間のいずれかの位置であること、
を特徴とする請求項1記載の真空ポンプ。
【請求項3】
前記ラジアル磁気軸受装置は、前記磁力を誘起する磁束を発生するコイルと前記コイルの中空部分に配置された第1ステータコアとを有する電磁石を備え、
前記オフセット手段は、第2ステータコアであり、
前記第1ステータコアおよび前記第2ステータコアは、前記ロータ軸の方向に沿って配列されており、
前記第2ステータコアの磁損は、前記第1ステータコアの磁損とは異なり、
前記ロータ軸の方向において、前記第2ステータコアの位置での前記磁力の非定常成分は、前記第1ステータコアの位置での前記磁力の非定常成分より弱いこと、
を特徴とする請求項1記載の真空ポンプ。
【請求項4】
前記ラジアル磁気軸受装置は、前記磁力を誘起する磁束を発生するコイルと前記コイルの中空部分に配置されたステータコアとを有する電磁石を備え、
前記オフセット手段は、前記コイルの中空部分に配置され、前記磁束のうち、前記コイルの中空部分を通過する非定常磁束の一部または全部を、前記ロータ軸の方向において一部の区間において相殺するショートコイルであること、
を特徴とする請求項1記載の真空ポンプ。
【請求項5】
前記ラジアル磁気軸受装置は、少なくとも前記磁力の非定常成分を誘起する非定常磁束を発生する第1コイルと前記第1コイルの中空部分に配置された第1ステータコアとを有する第1電磁石と、少なくとも前記磁力の定常成分を誘起する定常磁束を発生する第2コイルと前記第2コイルの中空部分に配置された第2ステータコアとを有する第2電磁石とを備え、
前記ロータ軸の方向において、前記第2電磁石は、前記第1電磁石とは異なる位置に配置されていること、
を特徴とする請求項1記載の真空ポンプ。
【請求項6】
前記ロータ軸の方向において前記ラジアル磁気軸受装置とは別の位置で、前記ロータ軸をラジアル方向において回転可能に磁力で保持する受動型ラジアル磁気軸受装置をさらに備えることを特徴とする請求項1から請求項5のうちのいずれか1項記載の真空ポンプ。
【請求項7】
真空ポンプのロータにおいてロータ軸をラジアル方向において回転可能に磁力で保持するラジアル磁気軸受装置において、
当該ラジアル磁気軸受装置は、能動型磁気軸受装置であって、前記ロータ軸の方向において、前記磁力の定常成分の合成力の位置と、前記磁力の非定常成分の合成力の位置とを互いに異ならせるオフセット手段を備えること、
を特徴とするラジアル磁気軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ある真空ポンプでは、ロータのラジアル方向の変位を抑制する能動型のラジアル磁気軸受装置が、ロータの重心位置より排気側(下流側)に設けられている(例えば特許文献1参照)。これにより、ロータ軸の振れ回りを抑制しロータ軸を平衡位置(振れ回りのない状態での位置)に戻そうとする際に、ラジアル磁気軸受装置によりロータ(ロータ軸)に掛かる磁力の向きが、平衡位置への方向になる。したがって、この磁力に起因して、ロータ軸の下流側の部位においても、平衡位置への方向の力が現れ、この力の方向が、別に下流側に設置されているラジアル磁気軸受装置による磁力(平衡位置に戻そうとする磁力)の向きと一致するため、ロータ(ロータ軸)の振れ回りが効果的に抑制されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
水平に設置される真空ポンプの場合、ロータには、鉛直方向(下方向)に、定常的な力(つまり、重力)が掛かるため、ロータは、鉛直方向(下方向)に変位しようとする。そのため、上述のラジアル磁気軸受装置は、ロータ(ロータ軸)に対して、鉛直方向(上方向)に磁力を掛けて重力を相殺することで、ロータ(ロータ軸)を平衡位置に保とうとする。
上述のような真空ポンプでは、上流側のラジアル磁気軸受装置の位置がロータ重心位置から外れており、これにより重力の相殺のための定常的な磁力の合成力(ロータ軸方向に分布する磁力をモーメントが一致するようにまとめた力)がロータ重心位置から外れているため、この定常的な磁力によってロータ(ロータ軸)にモーメントが発生する。そのため、他の(ここでは下流側の)ラジアル磁気軸受装置において、ロータの振れ回りを抑制するための磁力に加えて、上流側のラジアル磁気軸受装置の磁力によるモーメントを相殺する磁力をロータ(ロータ軸)に掛ける必要があり、ロータの振動(振れ回りなど)が減衰しにくくなる可能性がある。
【0005】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、ロータの振動が抑制されやすい真空ポンプを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る真空ポンプは、ロータ軸と、ロータ軸に配置されロータ軸とともに回転する回転体とを備えたロータと、ロータ軸をラジアル方向において回転可能に磁力で保持するラジアル磁気軸受装置とを備える。そして、ラジアル磁気軸受装置は、能動型磁気軸受装置であって、ロータ軸の方向において、上述の磁力の定常成分の合成力の位置と、上述の磁力の非定常成分の合成力の位置とを互いに異ならせるオフセット手段を備える。
【0007】
本発明のラジアル磁気軸受装置は、真空ポンプのロータにおいてロータ軸をラジアル方向において回転可能に磁力で保持するラジアル磁気軸受装置であって、当該ラジアル磁気軸受装置は、能動型磁気軸受装置であって、ロータ軸の方向において、上述の磁力の定常成分の合成力の位置と、上述の磁力の非定常成分の合成力の位置とを互いに異ならせるオフセット手段を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ロータの振動が抑制されやすい真空ポンプが得られる。
【0009】
本発明の上記又は他の目的、特徴および優位性は、添付の図面とともに以下の詳細な説明から更に明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、ターボ分子ポンプを示す縦断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すターボ分子ポンプの電磁石の励磁制御をするアンプ回路を示す回路図である。
【
図3】
図3は、電流指令値が検出値より大きい場合の制御を示すタイムチャートである。
【
図4】
図4は、電流指令値が検出値より小さい場合の制御を示すタイムチャートである。
【
図5】
図5は、本発明の実施の形態1に係る真空ポンプを示す断面図である。
【
図6】
図6は、
図5におけるラジアル磁気軸受装置302のアーマチャディスク111の一例を示す斜視図である。
【
図7】
図7は、
図5におけるラジアル磁気軸受装置302の動作について説明する図である。
【
図8】
図8は、
図5におけるラジアル磁気軸受装置301の一例を示す斜視図である。
【
図9】
図9は、実施の形態1におけるステータコア301bの一例を示す断面図である。
【
図10】
図10は、ラジアル磁気軸受装置301による磁力の非定常成分の合成力Facについて説明する図である。
【
図11】
図11は、ラジアル磁気軸受装置301による磁力の定常成分の合成力Fdcについて説明する図である。
【
図12】
図12は、本発明の実施の形態2に係る真空ポンプを示す断面図である。
【
図13】
図13は、本発明の実施の形態3に係る真空ポンプを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0012】
真空ポンプ(ターボ分子ポンプ)の説明
【0013】
このターボ分子ポンプ100の縦断面図を
図1に示す。
図1において、ターボ分子ポンプ100は、円筒状の外筒127の上端に吸気口101が形成されている。そして、外筒127の内方には、ガスを吸引排気するためのタービンブレードである複数の回転翼102(102a、102b、102c・・・)を周部に放射状かつ多段に形成した回転体103が備えられている。この回転体103の中心にはロータ軸113が取り付けられており、このロータ軸113は、例えば5軸制御の磁気軸受により空中に浮上支持かつ位置制御されている。回転体103は、一般的に、アルミニウム又はアルミニウム合金などの金属によって構成されている。
【0014】
上側径方向電磁石104は、4個の電磁石がX軸とY軸とに対をなして配置されている。この上側径方向電磁石104に近接して、かつ上側径方向電磁石104のそれぞれに対応して4個の上側径方向センサ107が備えられている。上側径方向センサ107は、例えば伝導巻線を有するインダクタンスセンサや渦電流センサなどが用いられ、ロータ軸113の位置に応じて変化するこの伝導巻線のインダクタンスの変化に基づいてロータ軸113の位置を検出する。この上側径方向センサ107はロータ軸113、すなわちそれに固定された回転体103の径方向変位を検出し、制御装置200に送るように構成されている。
【0015】
この制御装置200においては、例えばPID調節機能を有する補償回路が、上側径方向センサ107によって検出された位置信号に基づいて、上側径方向電磁石104の励磁制御指令信号を生成し、
図2に示すアンプ回路150(後述する)が、この励磁制御指令信号に基づいて、上側径方向電磁石104を励磁制御することで、ロータ軸113の上側の径方向位置が調整される。
【0016】
そして、このロータ軸113は、高透磁率材(鉄、ステンレスなど)などにより形成され、上側径方向電磁石104の磁力により吸引されるようになっている。かかる調整は、X軸方向とY軸方向とにそれぞれ独立して行われる。また、下側径方向電磁石105及び下側径方向センサ108が、上側径方向電磁石104及び上側径方向センサ107と同様に配置され、ロータ軸113の下側の径方向位置を上側の径方向位置と同様に調整している。
【0017】
さらに、軸方向電磁石106A、106Bが、ロータ軸113の下部に備えた円板状の金属ディスク111を上下に挟んで配置されている。金属ディスク111は、鉄などの高透磁率材で構成されている。ロータ軸113の軸方向変位を検出するために軸方向センサ109が備えられ、その軸方向位置信号が制御装置200に送られるように構成されている。
【0018】
そして、制御装置200において、例えばPID調節機能を有する補償回路が、軸方向センサ109によって検出された軸方向位置信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bのそれぞれの励磁制御指令信号を生成し、アンプ回路150が、これらの励磁制御指令信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bをそれぞれ励磁制御することで、軸方向電磁石106Aが磁力により金属ディスク111を上方に吸引し、軸方向電磁石106Bが金属ディスク111を下方に吸引し、ロータ軸113の軸方向位置が調整される。
【0019】
このように、制御装置200は、この軸方向電磁石106A、106Bが金属ディスク111に及ぼす磁力を適当に調節し、ロータ軸113を軸方向に磁気浮上させ、空間に非接触で保持するようになっている。なお、これら上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150については、後述する。
【0020】
一方、モータ121は、ロータ軸113を取り囲むように周状に配置された複数の磁極を備えている。各磁極は、ロータ軸113との間に作用する電磁力を介してロータ軸113を回転駆動するように、制御装置200によって制御されている。また、モータ121には図示しない例えばホール素子、レゾルバ、エンコーダなどの回転速度センサが組み込まれており、この回転速度センサの検出信号によりロータ軸113の回転速度が検出されるようになっている。
【0021】
さらに、例えば下側径方向センサ108近傍に、図示しない位相センサが取り付けてあり、ロータ軸113の回転の位相を検出するようになっている。制御装置200では、この位相センサと回転速度センサの検出信号を共に用いて磁極の位置を検出するようになっている。
【0022】
回転翼102(102a、102b、102c・・・)とわずかの空隙を隔てて複数枚の固定翼123(123a、123b、123c・・・)が配設されている。回転翼102(102a、102b、102c・・・)は、それぞれ排気ガスの分子を衝突により下方向に移送するため、ロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成されている。固定翼123(123a、123b、123c・・・)は、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。
【0023】
また、固定翼123も、同様にロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成され、かつ外筒127の内方に向けて回転翼102の段と互い違いに配設されている。そして、固定翼123の外周端は、複数の段積みされた固定翼スペーサ125(125a、125b、125c・・・)の間に嵌挿された状態で支持されている。
【0024】
固定翼スペーサ125はリング状の部材であり、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。固定翼スペーサ125の外周には、わずかの空隙を隔てて外筒127が固定されている。外筒127の底部にはベース部129が配設されている。ベース部129には排気口133が形成され、外部に連通されている。チャンバ(真空チャンバ)側から吸気口101に入ってベース部129に移送されてきた排気ガスは、排気口133へと送られる。
【0025】
さらに、ターボ分子ポンプ100の用途によって、固定翼スペーサ125の下部とベース部129の間には、ネジ付スペーサ131が配設される。ネジ付スペーサ131は、アルミニウム、銅、ステンレス、鉄、又はこれらの金属を成分とする合金などの金属によって構成された円筒状の部材であり、その内周面に螺旋状のネジ溝131aが複数条刻設されている。ネジ溝131aの螺旋の方向は、回転体103の回転方向に排気ガスの分子が移動したときに、この分子が排気口133の方へ移送される方向である。回転体103の回転翼102(102a、102b、102c・・・)に続く最下部には円筒部102dが垂下されている。この円筒部102dの外周面は、円筒状で、かつネジ付スペーサ131の内周面に向かって張り出されており、このネジ付スペーサ131の内周面と所定の隙間を隔てて近接されている。回転翼102および固定翼123によってネジ溝131aに移送されてきた排気ガスは、ネジ溝131aに案内されつつベース部129へと送られる。
【0026】
ベース部129は、ターボ分子ポンプ100の基底部を構成する円盤状の部材であり、一般には鉄、アルミニウム、ステンレスなどの金属によって構成されている。ベース部129はターボ分子ポンプ100を物理的に保持すると共に、熱の伝導路の機能も兼ね備えているので、鉄、アルミニウムや銅などの剛性があり、熱伝導率も高い金属が使用されるのが望ましい。
【0027】
かかる構成において、回転翼102がロータ軸113と共にモータ121により回転駆動されると、回転翼102と固定翼123の作用により、吸気口101を通じてチャンバから排気ガスが吸気される。回転翼102の回転速度は通常20000rpm~90000rpmであり、回転翼102の先端での周速度は200m/s~400m/sに達する。吸気口101から吸気された排気ガスは、回転翼102と固定翼123の間を通り、ベース部129へ移送される。このとき、排気ガスが回転翼102に接触する際に生ずる摩擦熱や、モータ121で発生した熱の伝導などにより、回転翼102の温度は上昇するが、この熱は、輻射又は排気ガスの気体分子などによる伝導により固定翼123側に伝達される。
【0028】
固定翼スペーサ125は、外周部で互いに接合しており、固定翼123が回転翼102から受け取った熱や排気ガスが固定翼123に接触する際に生ずる摩擦熱などを外部へと伝達する。
【0029】
なお、上記では、ネジ付スペーサ131は回転体103の円筒部102dの外周に配設し、ネジ付スペーサ131の内周面にネジ溝131aが刻設されているとして説明した。しかしながら、これとは逆に円筒部102dの外周面にネジ溝が刻設され、その周囲に円筒状の内周面を有するスペーサが配置される場合もある。
また、ターボ分子ポンプ100の用途によっては、吸気口101から吸引されたガスが上側径方向電磁石104、上側径方向センサ107、モータ121、下側径方向電磁石105、下側径方向センサ108、軸方向電磁石106A、106B、軸方向センサ109などで構成される電装部に侵入することのないよう、電装部は周囲をステータコラム122で覆われ、このステータコラム122内はパージガスにて所定圧に保たれる場合もある。
【0030】
この場合には、ベース部129には図示しない配管が配設され、この配管を通じてパージガスが導入される。導入されたパージガスは、保護ベアリング120とロータ軸113間、モータ121のロータとステータ間、ステータコラム122と回転翼102の内周側円筒部の間の隙間を通じて排気口133へ送出される。
【0031】
ここに、ターボ分子ポンプ100は、機種の特定と、個々に調整された固有のパラメータ(例えば、機種に対応する諸特性)に基づいた制御を要する。この制御パラメータを格納するために、上記ターボ分子ポンプ100は、その本体内に電子回路部141を備えている。電子回路部141は、EEP-ROM等の半導体メモリ及びそのアクセスのための半導体素子等の電子部品、それらの実装用の基板143等から構成される。この電子回路部141は、ターボ分子ポンプ100の下部を構成するベース部129の例えば中央付近の図示しない回転速度センサの下部に収容され、気密性の底蓋145によって閉じられている。
【0032】
ところで、半導体の製造工程では、チャンバに導入されるプロセスガスの中には、その圧力が所定値よりも高くなり、或いは、その温度が所定値よりも低くなると、固体となる性質を有するものがある。ターボ分子ポンプ100内部では、排気ガスの圧力は、吸気口101で最も低く排気口133で最も高い。プロセスガスが吸気口101から排気口133へ移送される途中で、その圧力が所定値よりも高くなったり、その温度が所定値よりも低くなったりすると、プロセスガスは、固体状となり、ターボ分子ポンプ100内部に付着して堆積する。
【0033】
例えば、Alエッチング装置にプロセスガスとしてSiCl4が使用された場合、低真空(760[torr]~10-2[torr])かつ、低温(約20[℃])のとき、固体生成物(例えばAlCl3)が析出し、ターボ分子ポンプ100内部に付着堆積することが蒸気圧曲線からわかる。これにより、ターボ分子ポンプ100内部にプロセスガスの析出物が堆積すると、この堆積物がポンプ流路を狭め、ターボ分子ポンプ100の性能を低下させる原因となる。そして、前述した生成物は、排気口133付近やネジ付スペーサ131付近の圧力が高い部分で凝固、付着し易い状況にあった。
【0034】
そのため、この問題を解決するために、従来はベース部129等の外周に図示しないヒータや環状の水冷管149を巻着させ、かつ例えばベース部129に図示しない温度センサ(例えばサーミスタ)を埋め込み、この温度センサの信号に基づいてベース部129の温度を一定の高い温度(設定温度)に保つようにヒータの加熱や水冷管149による冷却の制御(以下TMSという。TMS;Temperature Management System)が行われている。
【0035】
次に、このように構成されるターボ分子ポンプ100に関して、その上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150について説明する。このアンプ回路150の回路図を
図2に示す。
【0036】
図2において、上側径方向電磁石104等を構成する電磁石巻線151は、その一端がトランジスタ161を介して電源171の正極171aに接続されており、また、その他端が電流検出回路181及びトランジスタ162を介して電源171の負極171bに接続されている。そして、トランジスタ161、162は、いわゆるパワーMOSFETとなっており、そのソース-ドレイン間にダイオードが接続された構造を有している。
【0037】
このとき、トランジスタ161は、そのダイオードのカソード端子161aが正極171aに接続されるとともに、アノード端子161bが電磁石巻線151の一端と接続されるようになっている。また、トランジスタ162は、そのダイオードのカソード端子162aが電流検出回路181に接続されるとともに、アノード端子162bが負極171bと接続されるようになっている。
【0038】
一方、電流回生用のダイオード165は、そのカソード端子165aが電磁石巻線151の一端に接続されるとともに、そのアノード端子165bが負極171bに接続されるようになっている。また、これと同様に、電流回生用のダイオード166は、そのカソード端子166aが正極171aに接続されるとともに、そのアノード端子166bが電流検出回路181を介して電磁石巻線151の他端に接続されるようになっている。そして、電流検出回路181は、例えばホールセンサ式電流センサや電気抵抗素子で構成されている。
【0039】
以上のように構成されるアンプ回路150は、一つの電磁石に対応されるものである。そのため、磁気軸受が5軸制御で、電磁石104、105、106A、106Bが合計10個ある場合には、電磁石のそれぞれについて同様のアンプ回路150が構成され、電源171に対して10個のアンプ回路150が並列に接続されるようになっている。
【0040】
さらに、アンプ制御回路191は、例えば、制御装置200の図示しないディジタル・シグナル・プロセッサ部(以下、DSP部という)によって構成され、このアンプ制御回路191は、トランジスタ161、162のon/offを切り替えるようになっている。
【0041】
アンプ制御回路191は、電流検出回路181が検出した電流値(この電流値を反映した信号を電流検出信号191cという)と所定の電流指令値とを比較するようになっている。そして、この比較結果に基づき、PWM制御による1周期である制御サイクルTs内に発生させるパルス幅の大きさ(パルス幅時間Tp1、Tp2)を決めるようになっている。その結果、このパルス幅を有するゲート駆動信号191a、191bを、アンプ制御回路191からトランジスタ161、162のゲート端子に出力するようになっている。
【0042】
なお、回転体103の回転速度の加速運転中に共振点を通過する際や定速運転中に外乱が発生した際等に、高速かつ強い力での回転体103の位置制御をする必要がある。そのため、電磁石巻線151に流れる電流の急激な増加(あるいは減少)ができるように、電源171としては、例えば50V程度の電圧が使用されるようになっている。また、電源171の正極171aと負極171bとの間には、電源171の安定化のために、通常コンデンサが接続されている(図示略)。
【0043】
かかる構成において、トランジスタ161、162の両方をonにすると、電磁石巻線151に流れる電流(以下、電磁石電流iLという)が増加し、両方をoffにすると、電磁石電流iLが減少する。
【0044】
また、トランジスタ161、162の一方をonにし他方をoffにすると、いわゆるフライホイール電流が保持される。そして、このようにアンプ回路150にフライホイール電流を流すことで、アンプ回路150におけるヒステリシス損を減少させ、回路全体としての消費電力を低く抑えることができる。また、このようにトランジスタ161、162を制御することにより、ターボ分子ポンプ100に生じる高調波等の高周波ノイズを低減することができる。さらに、このフライホイール電流を電流検出回路181で測定することで電磁石巻線151を流れる電磁石電流iLが検出可能となる。
【0045】
すなわち、検出した電流値が電流指令値より小さい場合には、
図3に示すように制御サイクルTs(例えば100μs)中で1回だけ、パルス幅時間Tp1に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をonにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、正極171aから負極171bへ、トランジスタ161、162を介して流し得る電流値iLmax(図示せず)に向かって増加する。
【0046】
一方、検出した電流値が電流指令値より大きい場合には、
図4に示すように制御サイクルTs中で1回だけパルス幅時間Tp2に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をoffにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、負極171bから正極171aへ、ダイオード165、166を介して回生し得る電流値iLmin(図示せず)に向かって減少する。
【0047】
そして、いずれの場合にも、パルス幅時間Tp1、Tp2の経過後は、トランジスタ161、162のどちらか1個をonにする。そのため、この期間中は、アンプ回路150にフライホイール電流が保持される。
【0048】
実施の形態1.
【0049】
図5は、本発明の実施の形態1に係る真空ポンプを示す断面図である。なお、
図5に示す真空ポンプは、以下に示すもの以外の構成および動作については、
図1~
図4に示すものと同様であるので、その説明を省略する。
【0050】
例えば
図5に示すように、実施の形態1に係る真空ポンプは、水平置きの真空ポンプである。つまり、ロータ軸113の方向が水平方向となっている。実施の形態1に係る真空ポンプは、ロータを備え、そのロータは、ロータ軸113と、ロータ軸113に配置されロータ軸113とともに回転する回転体103とを備える。また、
図1~
図4に図示されている構成のうち、
図5に図示されていないものが、実施の形態1に係る真空ポンプに設けられていてもよい。
【0051】
また、例えば
図5に示すように、実施の形態1に係る真空ポンプは、ロータ軸113をラジアル方向において回転可能に磁力(ラジアル方向の力)で保持する能動型のラジアル磁気軸受装置301を備えている。さらに、例えば
図5に示すように、実施の形態1に係る真空ポンプは、ロータ軸113をラジアル方向において回転可能に磁力で保持する受動型のラジアル磁気軸受装置302を備えている。例えば
図5に示すように、ガス流路において、ラジアル磁気軸受装置302は、ラジアル磁気軸受装置301より下流側に配置されており、ロータ軸113の方向においてラジアル磁気軸受装置301とは別の位置で、ロータ軸113をラジアル方向において回転可能に磁力で保持する。
【0052】
ここで、まず、ラジアル磁気軸受装置302について説明する。
【0053】
ラジアル磁気軸受装置302は、ラジアル方向の磁気軸受およびアキシャル方向の磁気軸受の両方として機能し、金属ディスク(以下、アーマチャディスクともいう)111、軸方向電磁石106A,106Bおよび軸方向センサ109を備えている。
【0054】
図6は、
図5におけるラジアル磁気軸受装置302のアーマチャディスク111の一例を示す斜視図である。
図7は、
図5におけるラジアル磁気軸受装置302の動作について説明する図である。
【0055】
例えば
図5に示すように、アーマチャディスク111は、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bとの間隙に配置され、その中心においてロータ軸113に固定されている。また、アーマチャディスク111の表面(両側)には、例えば
図6および
図7に示すように、円形状の凸条111aおよび溝111bが形成されている。
【0056】
他方、軸方向電磁石106Aおよび軸方向電磁石106Bのヨークには、アーマチャディスク111の凸条111aおよび溝111bに対向する位置に円形状の凸条106pおよび溝106qが形成されている。なお、
図7では、軸方向電磁石106Aとアーマチャディスク111の一方の表面の形状が示されているが、軸方向電磁石106Bとアーマチャディスク111の他方の表面の形状も同様である。
【0057】
そして、ロータ軸113が平衡位置にあるときに、アーマチャディスク111の凸条111aおよび軸方向電磁石106A,106Bの凸条106pは、アーマチャディスク111の凸条111aの径方向の位置と軸方向電磁石106A,106Bの凸条106pの径方向の位置が一致するように形成されており、ロータ軸113(つまり、ロータ)が径方向において平衡位置から変位した場合、アーマチャディスク111の凸条111aおよび軸方向電磁石106A,106Bの凸条106pを導通する磁束Bによって、アーマチャディスク111が平衡位置に戻す磁力が発生するようになっている。
【0058】
このように、ラジアル磁気軸受装置302は、ラジアル方向において受動的に動作し、ロータ軸113(ロータ)は、ラジアル磁気軸受装置301のラジアル方向2軸およびラジアル磁気軸受装置302のアキシャル方向1軸について、制御装置200によって能動的に3軸制御される。
【0059】
次に、ラジアル磁気軸受装置301について説明する。
【0060】
図8は、
図5におけるラジアル磁気軸受装置301の一例を示す斜視図である。例えば
図8に示すように、このラジアル磁気軸受装置301は、上述の上側径方向電磁石104および上側径方向センサ107を備えている。
【0061】
例えば
図8に示すように、ラジアル磁気軸受装置301では、複数の電磁石104が、周方向に沿って配列されており、それぞれ、コイル301aおよびステータコア301bを備える。ここでは、
図8に示すように、4極(8個)の電磁石104が配置されている。コイル301aは、導通電流に応じた磁束を発生し、その磁束によって径方向の磁力がラジアル磁気軸受装置301(電磁石104)とロータ軸113との間に誘起される。上述の制御装置200は、センサ107のセンサ出力に応じて、電流をコイル301aに導通させて磁束を発生させる。
【0062】
また、ステータコア301bは、コイル301aの中空部分に配置されている。
図9は、実施の形態1におけるステータコア301bの一例を示す断面図である。
【0063】
実施の形態1では、例えば
図9に示すように、ステータコア301bは、第1ステータコア301b1および第2ステータコア301b2を備える。
【0064】
ここでは、第1ステータコア301b1は、積層された所定厚さ(第1厚さ)の複数の電磁鋼板であり、第2ステータコア301b2は、無垢の(一塊の)電磁鋼板、または積層された第1厚さより大きい第2厚さの複数の電磁鋼板である。
【0065】
これにより、第2ステータコア301b2の磁損は、第1ステータコア301b1の磁損とは異なり、特に、高周波成分について、第2ステータコア301b2の磁損が、第1ステータコア301b1の磁損より大きくなっている。
【0066】
第1ステータコア301b1および第2ステータコア301b2は、ロータ軸113の方向に沿って配列されている。ここでは、第2ステータコア301b2は、第1ステータコア301b1より上流側(つまり、ラジアル磁気軸受装置302とは反対方向)になるように配置されている。
【0067】
なお、ロータ軸113における電磁石104に対向する部分は、小さい磁損となるように、積層された電磁鋼板113aで構成されている。
【0068】
ここで、コイル301aの導通電流は、ロータ軸113の振れ回りに対応した非定常成分、およびロータ軸113の一定方向へ変位(ここでは、重力による鉛直方向への変位)に対応した定常成分(直流バイアス)を含んでいる。そのため、コイル301aで発生する磁束は、導通電流の非定常成分に対応する非定常成分、および導通電流の定常成分に対応する定常成分を含んでいる。そして、上述のように、高周波成分に対する第2ステータコア301b2の磁損が大きいため、第2ステータコア301b2における非定常成分の磁束密度は、第1ステータコア301b1における非定常成分の磁束密度より小さくなる。そのため、ロータ軸113の方向において、第2ステータコア301b2の位置での磁力の非定常成分は、第1ステータコア301b1の位置での磁力の非定常成分より弱くなっている。他方、第1ステータコア301b1および第2ステータコア301b2における定常成分の磁束密度の差は、非定常成分の差に比べて小さい。
【0069】
このように、ロータ軸113の方向において、上述の磁束による磁力の定常成分の合成力の位置と、上述の磁束による磁力の非定常成分の合成力の位置とは互いに異なる。つまり、実施の形態1では、第2ステータコア301b2が、ロータ軸113の方向において、磁力の定常成分の合成力の位置と、磁力の非定常成分の合成力の位置とを互いに異ならせるオフセット手段として機能する。
【0070】
ここで、ラジアル磁気軸受装置301による磁力の非定常成分の合成力Facおよび定常成分の合成力Fdcについて説明する。
図10は、ラジアル磁気軸受装置301による磁力の非定常成分の合成力Facについて説明する図である。
図11は、ラジアル磁気軸受装置301による磁力の定常成分の合成力Fdcについて説明する図である。
【0071】
図10に示すように、磁力の非定常成分の合成力Facの位置は、ロータの重心位置CGとは異なり、重心位置CGより下流側(つまり、ラジアル磁気軸受装置302の方向)
になっている。
【0072】
これにより、ロータ軸の振れ回りを抑制しロータ軸を平衡位置に戻そうとする際に、ラジアル磁気軸受装置301によりロータ(ロータ軸113)に掛かる磁力Facの向きが、平衡位置(振れ回りのない状態でのロータ中心軸)への方向になる。したがって、この磁力Facに起因して、ロータ軸113の下流側の部位(ラジアル磁気軸受装置302の位置BLなど)においても、平衡位置への方向の力Fac2が現れ、この力Fac2の方向が、ラジアル磁気軸受装置302による磁力Fdac(平衡位置に戻そうとする磁力)の向きと一致するため、ロータ(ロータ軸113)の振れ回りが効果的に抑制される。
【0073】
また、
図9に示すように、磁力の定常成分の合成力Fdcの位置は、ここでは、ロータの重心位置CGとなっている。なお、磁力の定常成分の合成力Fdcの位置は、ロータの重心位置CGと磁力の非定常成分の合成力Facの位置との間のいずれかの位置でもよい。
【0074】
図11に示すように、重心位置CGからラジアル磁気軸受装置301による磁力の定常成分の合成力Fdcの位置BUdcまでの距離をL1とし、重心位置CGからラジアル磁気軸受装置302による磁力の定常成分の合成力Fddcの位置BL(ここでは、アーマチャディスク111の接続位置)までの距離をL2とすると、ラジアル磁気軸受装置302に要求される磁力の定常成分Fddcは、モーメントのつり合いから、次式で表される。
【0075】
Fddc=Fdc×L1/L2
【0076】
したがって、磁力の定常成分の合成力Fdcの位置BUdcは、重心位置CGに近いほど、ラジアル磁気軸受装置302に要求される磁力の定常成分Fddcが少なくなり、
図9に示すように重心位置CGとなるのが好ましい(つまり、L1=0となり、Fddc=0となる)。
【0077】
次に、実施の形態1に係る真空ポンプの動作について説明する。
【0078】
当該真空ポンプの吸気口101にチャンバなどが接続され、制御装置200からの指令に従ってモータ部6が動作することで、ロータ軸113が回転し、ロータも回転する。これにより、回転翼102および固定翼123によって、吸気口101を介して飛来した気体分子が、流路に進行させられ、排気口133から排出される。
【0079】
ロータ回転時、センサ107によって、ロータ軸113のラジアル方向の変位が検出され、制御装置200は、その検出された変位に応じて、その変位を抑制するように調整した電流をラジアル磁気軸受装置301の電磁石104に供給する。これにより、ロータ軸113に対して磁力が誘起し、その磁力の非定常成分によって、ロータの振れ回りが抑制され、その磁力の定常成分によって、重力が相殺される。
【0080】
その際、上述のように、その磁力の定常成分の合成力の位置がほぼ重心位置CG(またはその付近)となるように、ラジアル磁気軸受装置301が構成されているため、ラジアル磁気軸受装置301による磁力の定常成分のモーメントを相殺するために要求されるラジアル磁気軸受装置302による磁力がほとんど不要となり、ラジアル磁気軸受装置302による磁力が、ほとんどロータの振れ回りによる変位に対応した磁力のみとなり、ロータの振れ回りが効果的に抑制される。
【0081】
以上のように、上記実施の形態1によれば、ラジアル磁気軸受装置301は、ロータ軸113をラジアル方向において回転可能に磁力で保持する。そして、ラジアル磁気軸受装置301は、能動型磁気軸受装置であって、ロータ軸113の方向において、上述の磁力の定常成分の合成力の位置と、上述の磁力の非定常成分の合成力の位置とを互いに異ならせるオフセット手段を備える。
【0082】
これにより、ラジアル磁気軸受装置301による磁力の定常成分に起因するモーメントが低減され、他のラジアル磁気軸受装置302の負荷が軽減されるため、ロータの振動が抑制されやすくなる。
【0083】
実施の形態2.
【0084】
図12は、本発明の実施の形態2に係る真空ポンプを示す断面図である。
【0085】
実施の形態2では、例えば
図12に示すように、ラジアル磁気軸受装置301は、ショートコイル321を備える。ショートコイル321は、コイル301aで発生する磁束のうち、コイル301aの中空部分を通過する非定常磁束の一部または全部を、ロータ軸113の方向において一部の区間において相殺するためのものであり、コイル301aの中空部分に配置されている環状のコイルである。具体的には、ショートコイル321は、ショートコイル321の中心軸がコイル301aの中空部分の中央より上流側(つまり、ラジアル磁気軸受装置302とは反対方向)になるように配置されている。なお、
図12に示すように、ショートコイル321の中空部分には、ステータコア301bの一部が配置されている。
【0086】
ショートコイル321によって、コイル301aで発生する磁束のうち、ショートコイル321に鎖交する高周波成分は抑制されるため、ショートコイル321の位置では、磁力の定常成分に比べて磁力の非定常成分が抑制される。
【0087】
したがって、ラジアル磁気軸受装置301による磁力の定常成分の合成力の位置は、その磁力の非定常成分の合成力の位置とは異なる位置となり、上述のように、重心位置CG、または重心位置CGと非定常成分の合成力の位置との間の位置とされる。
【0088】
なお、実施の形態2に係る真空ポンプのその他の構成および動作については実施の形態1と同様であるので、その説明を省略する。
【0089】
実施の形態3.
【0090】
図13は、本発明の実施の形態3に係る真空ポンプを示す断面図である。
【0091】
実施の形態3では、例えば
図13に示すように、ラジアル磁気軸受装置301は、電磁石341と、電磁石341とは別の電磁石342とを備える。電磁石341は、少なくとも磁力の非定常成分を誘起する非定常磁束を発生するコイル341aとコイル341aの中空部分に配置されたステータコア341bとを有する。電磁石342は、少なくとも磁力の定常成分を誘起する定常磁束を発生するコイル342aと第2コイル342aの中空部分に配置されたステータコア342bとを有する。
【0092】
ロータ軸113の方向において、電磁石342は、電磁石341とは異なる位置に配置されている。具体的には、電磁石341および電磁石342は、ロータ軸113の方向に沿って配列されている。ここでは、電磁石342は、電磁石341より上流側(つまり、ラジアル磁気軸受装置302とは反対方向)になるように配置されている。
【0093】
ここでは、コイル341aおよびコイル342aは電気的に並列に接続されており、制御装置200は、コイル341aおよびコイル342aの並列回路に駆動電圧が印加され、コイル341aおよびコイル342aのインダクタンスに応じた電流がコイル341aおよびコイル342aのそれぞれに導通する。この実施の形態では、電磁石342は、高インダクタンス特性を有し、導通電流の非定常成分(高周波成分)に対してはインダクタンスが高くなり、導通電流の非定常成分は小さく抑制される。したがって、電磁石342では、主に、上述の磁力の定常成分を誘起する定常磁束が発生する。他方、電磁石341は、電磁石342に比べて低インダクタンス特性を有するため、導通電流の非定常成分は特に小さくならない。したがって、電磁石341では、上述の磁力の定常成分を誘起する定常磁束が発生するとともに、上述の磁力の非定常成分を誘起する定常磁束が発生する。
【0094】
このように、ここでは、電磁石341による磁束密度の非定常成分は、電磁石342による磁束密度の非定常成分より小さく、電磁石341による磁束密度の定常成分は、電磁石342による磁束密度の定常成分とほぼ同じである。
【0095】
そのため、上述の磁力の定常成分の合成力の位置は、電磁石341の中心と電磁石342の中心との間の特定の位置となる。一方、上述の磁力の非定常成分の合成力の位置は、ほぼ電磁石341の中心位置となる。
【0096】
したがって、ラジアル磁気軸受装置301による磁力の定常成分の合成力の位置は、その磁力の非定常成分の合成力の位置とは異なる位置となり、上述のように、重心位置CG、または重心位置CGと非定常成分の合成力の位置との間の位置とされる。
【0097】
なお、実施の形態3に係る真空ポンプのその他の構成および動作については実施の形態1または2と同様であるので、その説明を省略する。
【0098】
なお、上述の実施の形態に対する様々な変更および修正や組合せについては、当業者には明らかである。そのような変更および修正や組合せは、その主題の趣旨および範囲から離れることなく、かつ、意図された利点を弱めることなく行われてもよい。つまり、そのような変更および修正や組合せが請求の範囲に含まれることを意図している。
【0099】
例えば、上記実施の形態1~3のそれぞれにおいて、上述のラジアル磁気軸受装置301は、独立した1つの装置としてもよい。
【0100】
また、上記実施の形態1では、第1ステータコア301b1と第2ステータコア301b2とは、同一の材質で、積層状態が互いに異なっているが、その代わりに、第1ステータコア301b1と第2ステータコア301b2とは、互いに磁損の異なる材質で構成されていてもよい。
【0101】
また、上記実施の形態3では、コイル341aおよびコイル342aが電気的に並列に接続され、制御装置200が、コイル341aおよびコイル342aの並列回路を駆動しているが、その代わりに、非定常成分の導電電流と定常成分の導電電流とをコイル341aおよびコイル342aにそれぞれ個別的に供給するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明は、例えば、真空ポンプに適用可能である。
【符号の説明】
【0103】
102 回転翼(ロータの一例の一部)
103 回転体(ロータの一例の一部)
104 上側径方向電磁石
113 ロータ軸(ロータの一例の一部)
301 ラジアル磁気軸受装置
301a コイル
301b ステータコア
301b1 第1ステータコア
301b2 第2ステータコア
302 ラジアル磁気軸受装置
321 ショートコイル
341 電磁石
341a コイル
341b ステータコア
342 電磁石
342a コイル
342b ステータコア