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特開2024-129338風力発電システム、風力発電装置の使用方法および風力発電装置が設置された建造物
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  • 特開-風力発電システム、風力発電装置の使用方法および風力発電装置が設置された建造物 図1
  • 特開-風力発電システム、風力発電装置の使用方法および風力発電装置が設置された建造物 図2
  • 特開-風力発電システム、風力発電装置の使用方法および風力発電装置が設置された建造物 図3
  • 特開-風力発電システム、風力発電装置の使用方法および風力発電装置が設置された建造物 図4
  • 特開-風力発電システム、風力発電装置の使用方法および風力発電装置が設置された建造物 図5
  • 特開-風力発電システム、風力発電装置の使用方法および風力発電装置が設置された建造物 図6
  • 特開-風力発電システム、風力発電装置の使用方法および風力発電装置が設置された建造物 図7
  • 特開-風力発電システム、風力発電装置の使用方法および風力発電装置が設置された建造物 図8
  • 特開-風力発電システム、風力発電装置の使用方法および風力発電装置が設置された建造物 図9
  • 特開-風力発電システム、風力発電装置の使用方法および風力発電装置が設置された建造物 図10
  • 特開-風力発電システム、風力発電装置の使用方法および風力発電装置が設置された建造物 図11
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129338
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】風力発電システム、風力発電装置の使用方法および風力発電装置が設置された建造物
(51)【国際特許分類】
   F03D 9/45 20160101AFI20240919BHJP
【FI】
F03D9/45
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038478
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】大竹 悠介
(72)【発明者】
【氏名】川口 大輔
(72)【発明者】
【氏名】中津 欣也
【テーマコード(参考)】
3H178
【Fターム(参考)】
3H178AA15
3H178AA22
3H178AA36
3H178AA53
3H178BB31
3H178BB77
3H178DD12Z
(57)【要約】
【課題】様々な風向においても高い発電量が期待される風力発電システム、風力発電装置の使用方法および風力発電装置が設置された建造物を提供する。
【解決手段】本発明の風力発電システムは、風111を受けて回転する翼500tと、翼500tの回転エネルギーを伝達する主軸500sと、回転エネルギーを電気に変換する発電機とを有する風力発電装置500と、風力発電装置500が設置された建造物20と、を備える風力発電システムSであって、建造物20は、面取り形状の角部20kと、角部20kに隣接する二つの壁面20mとを有し、角部20kと、角部20kに隣接する二つの壁面20mのそれぞれを有する面とからなる設置領域r1内に翼500tが設置されている。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
風を受けて回転する翼と、前記翼の回転エネルギーを伝達する主軸と、前記回転エネルギーを電気に変換する発電機とを有する風力発電装置と、前記風力発電装置が設置された建造物と、を備える風力発電システムであって、
前記建造物は、面取り形状の角部と、前記角部に隣接する二つの壁面とを有し、
前記角部と、前記角部に隣接する二つの壁面のそれぞれを有する面とからなる設置領域内に前記翼が設置されている
ことを特徴とする風力発電システム。
【請求項2】
請求項1に記載の風力発電システムにおいて、
前記面取り形状は、上面視で隅丸型である
ことを特徴とする風力発電システム。
【請求項3】
請求項1に記載の風力発電システムにおいて、
前記面取り形状は、上面視で隅切型である
ことを特徴とする風力発電システム。
【請求項4】
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の風力発電システムにおいて、
前記建造物は、前記設置領域に突出部を有し、
前記翼は、前記突出部に設置されている
ことを特徴とする風力発電システム。
【請求項5】
請求項4に記載の風力発電システムにおいて、
前記突出部は、前記建造物の階を支持する構造支持部材を有し、前記翼は、前記構造支持部材上に設置されていることを特徴とする風力発電システム。
【請求項6】
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の風力発電システムにおいて、
前記設置領域内において、前記翼の設置位置を可変とする位置変更部を備えている
ことを特徴とする風力発電システム。
【請求項7】
請求項6に記載の風力発電システムにおいて、
前記建造物に流入する風向に応じて、前記翼の設置位置を変更する制御部を備えている
ことを特徴とする風力発電システム。
【請求項8】
風を受けて回転する翼と、前記翼の回転エネルギーを伝達する主軸と、前記回転エネルギーを電気に変換する発電機とを有する風力発電装置の使用方法であって、
前記風力発電装置は建造物に設置され、
前記建造物は、面取り形状の角部と、前記角部に隣接する二つの壁面とを有し、
前記角部と、前記角部に隣接する二つの壁面のそれぞれを有する面とからなる設置領域内に前記翼が設置されている
ことを特徴とする風力発電装置の使用方法。
【請求項9】
風を受けて回転する翼と、前記翼の回転エネルギーを伝達する主軸と、前記回転エネルギーを電気に変換する発電機とを有する風力発電装置が設置された建造物であって、
前記建造物は、面取り形状の角部と、前記角部に隣接する二つの壁面とを有し、
前記角部と、前記角部に隣接する二つの壁面のそれぞれを有する面とからなる設置領域内に前記翼が設置されている
ことを特徴とする風力発電装置が設置された建造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風力発電システム、風力発電装置の使用方法および風力発電装置が設置された建造物
に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化対策に向けた取り組みの一つとして、再生可能エネルギーの使用がある。
そこで、電力系統を経由せずに再エネを確保する電力の地産地消が注目されている。
地産地消の取り組みとして、ビル近くに風力発電装置を設置することが行われつつある。
【0003】
ビルに代表される人工建築物周辺では、人工建築物に風が衝突することによって風の流れの特性が変化する。特に人工建築物の角部においては、形状が急に凹状に変化するため、風の流れの剥離と呼ばれる剥離現象が発生することが知られている。剥離現象のような風の特性変化により、人工建築物の周辺では風速が増加する増速領域と風速が低下する減速領域とが発生する。
【0004】
一方、風力発電装置における発電量は風速に依存する。そこで、発電量確保のため、風速が高い場所に風力発電装置を設置することが望ましい。
そこで、人工建築物に対する風力発電装置の設置方法として、例えば特許文献1、2に記載される技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002―98037号公報(図1図3,段落0013~0015等)
【特許文献2】特開2011―174448号公報(図1図2,段落0027,0028等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、流れの剥離現象は人工建築物に沿って流れている風が、人工建築物の角部周辺において人工建築物の壁面から離れるように流れる現象である。この現象により、人工建築物周辺では風速が増加する領域(増速領域)と風速が低下する領域(減速領域)の双方が発生し、これら領域が混在することとなる。
【0007】
そこで、風力発電装置に関しては、発電量は風速の高低に依存するため風速が高い位置に設置することが望ましい。
そこで、人工建築物周辺においては、風力発電装置を、風速の高い増速領域に設置することでより多くの発電量を期待することができる。
そこで、下記の特許文献1、2では、人工建築物周辺への風力発電装置の設置方法が検討されている。
【0008】
特許文献1においては、建築物の隅角部、隣接する建築物同士の間又はその近傍に配置した垂直軸型風力発電装置によって発電することを特徴とする風力発電方法が記載されている。また、前記垂直軸型風力発電装置の直線翼を風の通路に配置することが記載されている。また、隅角部に凹部を設け、前記凹部内に垂直軸型風力発電装置を取り付けたことを特徴とする建築物が記載されている。
【0009】
特許文献2においては、超高層建物の高さの中間位置よりも上方位置に、方位四方向に開口した中間階を設けている。そして、当該中間階に流入する風のエネルギーによって発電する風力発電装置を、中間階に設置したことを特徴とする発電システムを備えた超高層建物が記載されている。
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載の風力発電方法の場合、人工建築物正面から風が吹いている場合において高い発電量が期待できるものの、風向変化によっては発電量が低下してしまう可能性がある。
【0010】
本発明は上記実状に鑑み創案されたものであり、様々な風向においても高い発電量が期待される風力発電システム、風力発電装置の使用方法および風力発電装置が設置された建造物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するため、本発明の風力発電装置は、風を受けて回転する翼と、前記翼の回転エネルギーを伝達する主軸と、前記回転エネルギーを電気に変換する発電機とを有する風力発電装置と、前記風力発電装置が設置された建造物と、を備える風力発電システムであって、前記建造物は、面取り形状の角部と、前記角部に隣接する二つの壁面とを有し、前記角部と、前記角部に隣接する二つの壁面のそれぞれを有する面とからなる設置領域内に前記翼が設置されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、様々な風向においても高い発電量が期待される風力発電システム、風力発電装置の使用方法および風力発電装置が設置された建造物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】従来の面取り形状を有さない人工建築物に正面から風が流入した場合の風特性の上面図。
図2】従来の面取り形状を有さない人工建築物に斜めから風が流入した場合の風特性の上面図。
図3】角部に面取り形状を有し、面取り部分を隅丸形状とした場合の人工建築物に正面から風が流入した場合の風特性の上面図。
図4】角部に面取り形状を有し、面取り部分を隅丸形状とした場合の人工建築物に斜めから風が流入した場合の風特性の上面図。
図5】実施形態1に係る風力発電装置の設置方法の上面図。
図6】実施形態1に係る風力発電装置の設置方法の立体図
図7】角部に面取り形状を有し、面取り部分を隅切形状とした場合の人工建築物に正面から風が流入した場合の風特性の上面図。
図8】角部に面取り形状を有し、面取り部分を隅切形状とした場合の人工建築物に斜めから風が流入した場合の風特性の上面図。
図9】実施形態2に係る風力発電装置の設置方法の上面図。
図10】実施形態3に係る風力発電装置の設置方法の上面図。
図11】実施形態4に係る風力発電装置の設置位置の決定方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、人工建築物に設置される風力発電装置に係る。特に、風力発電装置の都市部での設置方法として、人工建築物の形状によって発生する風の変化を有効活用して高発電を可能とする。
以下、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
なお、本明細書での説明にあたり、本発明の実施形態に係る風力発電装置として鉛直軸型の風力発電装置を形態に説明するが、鉛直軸型風力発電装置における別機種、或いは、水平軸型の風力発電装置においても同様に適用できる。
【0015】
また、人工建築物として直方体型を形態に説明するが、本発明における人工建築物の断面形状は角部を有するものであれば、上面視で、四角形に限定されず、三角形や五角形などと多角形であっても適用可能である。また、人工建築物の高度に関しても、低層及び高層の双方ともに適用可能である。
また、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明されている諸要素及びその組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0016】
なお、各図面において同一の構成については同一の符号を付し、重複する部分についてはその詳細な説明は省略する。
<角部10kに面取り形状を有さない人工建築物10>
【0017】
図1に、従来の角部10kに面取り形状を有さない人工建築物10に対し正面から風101が流入した場合の風特性の上面図を示す。
人工建築物10に当たるように流入する風101は、人工建築物10が障害物となって風101をせき止める力が発生する。そのため、風101は人工建築物10を避けるように流れる(図1の矢印α11)。
そこで、人工建築物10の風上側領域には、風101が人工建築物10を避けるように流れ風速が低下し、減速領域301が生成される。
【0018】
さらに、人工建築物10の角部10k近くでは、風101が人工建築物10から離れる流れの剥離現象(図1の矢印α12)が発生する。すなわち、風101は人工建築物10に沿って流れることはなく、角部10k通過時の風向きに基づいて人工建築物10から離れていく(図1の矢印α12)。
そのため、風101の人工建築物10からの剥離現象の影響により風速が低下する減速領域302が生成される。
【0019】
加えて、人工建築物10の風下側においては、人工建築物10に遮られ風101の流入がないため、減速領域303が生成される。
一方、図1の矢印α12に示すように、人工建築物10の角部10k近傍で剥離後の風101は周辺の風101と合流することで風101の運動エネルギー(mv/2)が増加する。これにより、角部10kの外側に、風101の風速vが高い増速領域311が生成される。
【0020】
図2に、図1と同様の従来の角部10kに面取り形状を有さない人工建築物10に対し斜め方向から風101が流入した場合の風特性の上面図を示す。
人工建築物10の斜め方向から(人工建築物10の角部10kに向かって)風101が吹いた場合においても、人工建築物10に当たるように流入する風101に対して人工建築物10が障害物となって風をせき止める力が発生する。
そのため、風101は人工建築物10を避けるように流れる(図2の矢印α21)。そのため、人工建築物10の風上側領域には、風101が人工建築物10を避けて流れ風速が低下し、減速領域301が生成される。
【0021】
さらに、図2の矢印α22に示すように、人工建築物10の角部10kにおいて流れの剥離現象が発生する。そのため、風101は人工建築物10に沿って流れることはなく、角部10k通過時の風向きに基づいて人工建築物10から離れていく。そのため、風101の人工建築物10からの剥離現象の影響により風速が低下する減速領域302が生成される。
一方、角部10kでの剥離後の風101は、周辺の風101と合流することで風の運動エネルギー(mv/2)が増加し、角部10k外側に風速vが高い増速領域311が生成される。
【0022】
図1及び図2に示す通り、角部10k(図1図2参照)を有する人工建築物10においては、風101の流れの人工建築物10からの剥離現象により人工建築物10周辺の多くが減速領域301、302となることから風速vが低い領域が多い。そのため、人工建築物10の角部10k近傍は風速vが低く運動エネルギーが小さいため、風力発電装置の設置に適さないことが明らかとなった。
【0023】
<<実施形態1>>
図3から図6を用いて、実施形態1に係る風力発電装置の設置方法を説明する。
<人工建築物20の角部20kが面取り形状の隅丸型>
【0024】
図3に、実施形態1の角部20kを面取り形状の隅丸型とした人工建築物20に対し正面から風111が流入した場合の風特性の上面図を示す。
実施形態1の人工建築物20は、図3に示すように、上面視で、角部20kを面取り形状の隅丸型、または、円弧状の形状、または、風111が沿って流れるような曲率をもつ形状としている。
【0025】
図3に示すように、人工建築物20に当たるように流入する風111は人工建築物20が障害物となって風111をせき止める力が発生する。そのため、人工建築物20を避けるように流れることとなる点は面取り形状を有さない人工建築物10(図1参照)と同様である。そのため、人工建築物20の風上側領域には、風111が人工建築物20から離れるように流れ(図3の矢印α31)風速が低下し、減速領域301が生成される。
一方、人工建築物20では角部301kを面取り形状の隅丸型、または、円弧状の形状、または風111が沿って流れるような曲率をもつ形状とする。
これによって、風111の流れの人工建築物20からの剥離現象が抑制され、風111は人工建築物20に沿って(人工建築物20の近くを)流れることとなる。
【0026】
そのため、人工建築物20の風下側に減速領域303が生成されるものの、人工建築物20からの剥離現象に起因する減速領域302(図1図2参照)の生成は抑制される。一方で、角部20kにおいては、人工建築物20を避けた風111が周辺の風111と合流することで風111の運動エネルギー(mv/2)が増加し、風速vが増加する増速領域312が生成される。
【0027】
図4に、角部20kを面取り形状の隅丸型とした人工建築物20に対して斜めから(角部20kに向かって)風111が流入した場合の風特性の上面図を示す。
人工建築物20(角部20kに向かって)に流入する風111は、人工建築物20が障害物となって風をせき止める力が発生する。そのため、風111が人工建築物20を避けるように流れることとなる点、は図1図2に示す面取り形状を有さない人工建築物10と同様である。
【0028】
そのため、人工建築物20の風上側領域は、風速が低下して減速領域301(図4参照)が生成される。
一方、人工建築物20では角部20kを面取り形状の隅丸型、円弧状の形状、または、図4に示すように、風111が沿って流れるような曲率をもつ形状としている。
この角部20kの形状によって、流れの人工建築物20からの剥離現象が抑制されており、風111は人工建築物20に沿って流れることとなる。
【0029】
そのため、人工建築物20の風下側に減速領域303が生成されるものの、人工建築物20からの剥離現象に起因する減速領域の生成は抑制される。また、人工建築物20を避けた風111が周辺の風111と合流することで風111の運動エネルギー(mv/2)が増加し風速vが大きくなり、角部20k近傍に増速領域312が生成される。
【0030】
図3及び図4に示す通り、角部20kを面取り形状の隅丸型、つまり円弧状の形状、または風111が沿って流れるような曲率をもつ形状とすることにより、人工建築物20に側壁外部、特に角部20k近傍が増速領域312(図3図4参照)となる。そこで、角部20k(図3図4参照)近くの外側に風力発電装置を配置する。これにより、高風速vの大きな運動エネルギー(mv/2)が得られる増速領域312に風力発電装置を設置することが可能となる。
【0031】
図5に、風力発電装置500が設置される人工建築物20の上面図を示す。
風力発電装置500は、人工建築物20の四方すべての角部20kの外壁の外側に設置されている。角部20kは、面取り形状である隅丸形状、円弧状の形状、または風111が沿って流れるような曲率をもつ形状とされている。
人工建築物20は、面取り形状の角部20kと、角部20kに隣接する二つの壁面20mを有している。
風力発電装置500は風111を受けて回転する形状の翼500tと、翼500tの回転エネルギーを伝達する主軸500sと、回転エネルギーを電気に変換する発電機(図示せず)とを有している。
【0032】
実施形態1の風力発電システムSは、風111を受けて回転する翼500tと、翼500tの回転エネルギーを伝達する主軸500sと、回転エネルギーを電気に変換する発電機とを有する風力発電装置500と、風力発電装置500が設置された人工建築物20(建造物)と、を備えている。
翼500tは、人工建築物20の角部20kと、角部20kに隣接する二つの壁面20mのそれぞれを有する面とからなる設置領域r1内に設置されている。
【0033】
風力発電装置500においては、風111の持つ運動エネルギーを、翼500tを用いて、翼500tが回転する回転エネルギーに変換する。そして、翼500tの回転エネルギーを、発電機によって電気エネルギーに変換している。
ところで、風111の持つ運動エネルギー(mv/2)は風速vによって変化する。つまり、風速vの増加に伴い風111の持つ運動エネルギーも増加する。このことから、風力発電装置500から得られる電気に関しても風速vに依存する。そのため、より大きな発電量を実現するには風速vが高い領域(風111の持つ運動エネルギーが高い領域)に風力発電装置500を設置する必要がある。
【0034】
実施形態1においては、図3及び図4に示す通り、風力発電装置500を人工建築物20の角部20kを活用することにより、増速領域312に風力発電装置500を設置することが可能となる。
【0035】
図5に示すように、四方すべての角部20k近傍に風力発電装置500を設置する。これにより、どの風向から風が吹いた場合(図3図4参照)においても、常時、何れかの風力発電装置500が増速領域312に位置することとなる。そのため、どのような風向条件においても、風力発電装置500は、増速領域312(図3図4参照)で発電量が高くなるような発電運転を継続することが可能となる。
【0036】
図6に、風力発電装置500が設置される人工建築物20の立体図を示す。
風力発電装置500は、人工建築物20における上下方向に複数基設置することが可能である。そのため、高層建築物である人工建築物20においては、高度方向にも多数の風力発電装置500を設置することが可能となる。
また、風力発電装置500は、人工建築物20における各階20fを支持する構造支持部材510の高さに合わせて設置されている。風力発電装置500を、構造支持部材510で支持することにより、重量物である風力発電装置500を、人工建築物20の各階20fに安全に保持することが可能となる。
換言すれば、建造物の人工建築物20は、設置領域r1に構造支持部材(突出部)510を有している。翼500tは、構造支持部材(突出部)510に設置されている。
【0037】
以上より、実施形態1によれば、風力発電装置500を増速領域312(図3図4参照)に設置し、かつ、高度方向に多数の風力発電装置500を設置する(図6参照)ことが可能となる。これにより、人工建築物20として大きな発電量を実現することができる。
そこで、実施形態1では人工建築物20の角部20kの形状を、隅丸形状、円弧状の形状、または風111が沿って流れるような曲率をもつ形状に変更し、流れの剥離現象を抑制する。これによって、図3図4に示す様々な風向において高い発電量が期待される風力発電装置500を設置できる。
【0038】
実施形態1によれば、人工建築物20周辺の増速領域312を活用して、人工建築物20における角部20kでの剥離現象が抑制され、人工建築物20周辺の減速領域301、303が縮小される。そのため、風力発電装置500をより簡便に増速領域312に設置することが可能となる。
したがって、より高い発電量が期待される風力発電装置500の設置方法を提供できる。
【0039】
<<実施形態2>>
次に、図7から図9を用いて実施形態2に係る風力発電装置500の設置方法について説明する。
【0040】
図7に、実施形態2の角部30kを面取り形状の隅切型とした人工建築物30に対し正面から風112が流入した場合の風特性の上面図を示す。
実施形態2における風力発電装置500は、図3図4に示す実施形態1における角部20kの切欠形状を、隅切型とする点が実施形態1と異なる。
【0041】
図7に示す通り、人工建築物30に当たるように流入する風112は人工建築物30が障害物となって風をせき止める力が発生する。そのため、風112が人工建築物30を避けるように流れることとなる点は面取り形状を有さない人工建築物10(図1図2参照)や、角部20k(図3図4参照)を面取り形状の隅丸型とした人工建築物20と同様である。
そのため、人工建築物30の風上側領域は、風112が人工建築物30から逃げることで風速が低下し、減速領域301が生成される。
【0042】
実施形態2の人工建築物30では角部30kを面取り形状の隅切型または角部30kを平面で切った形状とする。これによって、図3図4に示す人工建築物20と同様に、風112の流れの人工建築物30からの剥離現象が抑制され、風112は人工建築物30に沿って流れることとなる。
そのため、図7に示すように、人工建築物30の風下側に減速領域303が生成されるものの、剥離現象に起因する減速領域302(図1参照)の生成は抑制される。
【0043】
一方、角部30kにおいては、人工建築物30を避けた風112(図7の矢印α51)が周辺の風112と合流することで風112の運動エネルギー(mv/2)が増加し、風速vが増加する増速領域312が生成される。
【0044】
図8に、実施形態2の角部30kを面取り形状の隅切型とした人工建築物30に対し斜めから風112が流入した場合の風特性の上面図を示す。
人工建築物30に斜めに当たって(人工建築物30の角部30kに)流入する風112は、人工建築物30が障害物となって風112をせき止める力が発生する。そのため、人工建築物30を避けるように流れることとなる点は、図1図2に示す面取り形状を有さない人工建築物10と同様である。
【0045】
そのため、図8に示すように、人工建築物30の風上側領域には、風112が逃げることで風速が低下し、減速領域301が生成される。
一方、人工建築物30では角部30kを面取り形状の隅切型または角部30kを平面で切った形状とすることによって流れの人工建築物30からの剥離現象が抑制され、風112は人工建築物30に沿って流れることとなる。
そのため、人工建築物30の風下側に減速領域303(図8参照)が生成されるものの、人工建築物30からの剥離現象に起因する減速領域302(図1参照)の生成は抑制される。
【0046】
一方、人工建築物30を避けた風112が周辺の風112と合流することで風112の運動エネルギーが増加し、角部30kの近傍に風112の増速領域312が生成される。
図7及び図8に示す通り、角部30kを面取り形状の隅切型または角部30kを平面で切った形状とした場合、増速領域312は、図3図4で示す隅丸型の角部20kよりも減少するものの、図1図2に示す尖がった角形の角部10kを有する人工建築物10と比較した場合、人工建築物30からの剥離現象が大幅に抑制される。
【0047】
そのため、人工建築物30の側壁外部、特に角部30k近傍が増速領域312(図7図8参照)となる。
そこで、図7図8に示す角部30kの面取り形状を隅切型または角部を平面で切った形状にした場合においても、角部30k近傍に風力発電装置500を配置することで、高風速vが期待される増速領域312(図7図8参照)に風力発電装置500を設置することが可能となる。
【0048】
図9に、実施形態2の風力発電装置500が設置される人工建築物30の上面図を示す。
実施形態2の風力発電装置500は、人工建築物30の角部30k外壁の外側、四方すべてに設置されている。角部30kは、隅切形状または尖った角部を平面で切った面取り形状となっている。
人工建築物30は、面取り形状の角部30kと、角部30kに隣接する二つの壁面30mを有している。
【0049】
実施形態2の風力発電システムS1は、風112を受けて回転する翼500tと、翼500tの回転エネルギーを伝達する主軸500sと、回転エネルギーを電気に変換する発電機とを有する風力発電装置500と、風力発電装置500が設置された人工建築物30(建造物)と、を備えている。
実施形態2においては、図7及び図8に示す通り、風力発電装置500を、人工建築物30の角部30k近くに設置することで、増速領域312(図7図8参照)に設置することが可能となる。
翼500tは、人工建築物30の角部30kと、角部30kに隣接する二つの壁面30mのそれぞれを有する面とからなる設置領域r2内に設置されている。
【0050】
また、図9に示すように、四方すべての角部30kに風力発電装置500を設置することにより、図7図8に示すように、どの風向から風112が吹いた場合においても常に何れかの風力発電装置500が増速領域312に位置する。これにより、どのような風向条件においても、風力発電装置500で、発電効率がよい発電運転を継続することが可能となる。
また、実施形態2においても、図6の実施形態1と同様に、風力発電装置500は上下方向に複数基設置することが可能である。そのため、高層建築物において、多数の風力発電装置500を設置することが可能となる。
【0051】
また、風力発電装置500は、図6と同様に、人工建築物30における各階の構造支持部材510の高さに合わせて設置されており、重量物である風力発電装置500を構造支持部材510で支持して、人工建築物30に安全に保持することが可能となる。
以上のように、実施形態2によれば、風力発電装置500を増速領域312(図7図8参照)に設置し、かつ、高さ方向に多数の風力発電装置500を設置することが可能となる。したがって、人工建築物30として大きな発電量を実現することが可能となる。
【0052】
また、角部30kの形状を隅切型または尖った角部を平面で切った形状とすることで、直線構造にて建築することが可能となる。したがって、より簡便に、風力発電装置500を人工建築物30に適用することが可能となる。
【0053】
<<実施形態3>>
図10に、実施形態3に係る風力発電装置の設置方法の上面図を示す。
次に、図10を用いて、実施形態3に係る風力発電装置500の設置方法について説明する。
実施形態3における風力発電装置500は、人工建築物20の角部20kの面取り形状の内部の領域20r(図10の斜線部)(角部30kの面取り形状の内部の領域30r(図9参照))において、位置が可変(図10の矢印α11、α12)となるように設置されていることを特徴とする。
【0054】
前記した図3図4及び図7図8に示したように、角部20k、30kに面取り形状を有する人工建築物20、30は、角部20k、30kにおける風111、112の剥離現象が抑制され、風速が高い増速領域312が生成される。
増速領域312は、人工建築物20、30に対して流れ込む風況に応じて変化する特性をもつ。また、風力発電装置500の設置に最も適した場所に関しても、人工建築物20、30に流れ込む風111、112に応じて変化する。
【0055】
人工建築物20、30に流れ込む風111、112の特性を変化させる要因の1つとして、人工建築物20、30の周辺環境の変化が挙げられる。
例えば、都市部においては、新たな建物の建築や古くなった建物の取壊しが随時行われている。風力発電装置500が設置された人工建築物20、30の周辺に新たな建物が建設された場合、新規建築物の影響を受けた風111、112が流れ込み、従来とは異なる特性をもった風111、112が人工建築物20、30に流れ込むこととなる。
【0056】
逆に、風力発電装置500が設置された人工建築物20、30周辺の建物が取り壊された場合、従来あった建物の遮蔽物としての役割が無くなる。そのため、従来建物があった方向からの風111、112の特性が変化する。これらの風111、112の特性変化により人工建築物20、30周辺の増速領域312は変化することから、風力発電装置500の設置に適した場所も変化する。
【0057】
人工建築物20、30に流れ込む風111、112の特性を変化させるもう一つの要因として風向変化が挙げられる。図3図4および図7図8を比較するとわかる通り、人工建築物20、30に対する風向が変化した場合、増速領域312および減速領域301、302、303の位置も変化する。
そこで、実施形態3における風力発電装置500の設置方法においては、人工建築物20における隅丸型の面取り形状部分の領域20r(図10の斜線部)(人工建築物30における角部30kの隅丸型の面取り形状の内部の領域30r(図9参照))の構造支持部材510上に位置が可変となるように、位置変更部500i(図10参照)で風力発電装置500を設置する。
【0058】
例えば、風力発電装置500の位置を可変として設置する位置変更部500iとしては、構造支持部材510上に、風力発電装置500が移動するためのレール(図示せず)を敷設し、位置変更部500iのレール上に風力発電装置500を固定する。
或いは、風力発電装置500に脚部を有する位置変更部500iを設け、位置変更部500iの脚部をレール構造に代えて可搬型とする。なお、風力発電装置500の位置を変更できる構成であれば、これら以外の構成としてもよい。
【0059】
以上のように、実施形態3によれば風力発電装置500の設置位置を周辺建物の状況といった周辺環境に応じて、位置変更部500iで変更する。
風力発電装置500を可動にして位置が変更できる構成とすることで、より高い発電量が期待される位置に風力発電装置500を移動させて設置することが可能となる。
【0060】
<<実施形態4>>
図11に、実施形態4に係る風力発電装置500の制御部600cの設置位置決定におけるブロック線図を示す。
次に、実施形態4に係る風力発電装置500の設置方法について説明する。
実施形態4における風力発電装置500は、周辺環境に応じて設置位置を決定する制御方法の一例である。
【0061】
実施形態3に記載の通り、風力発電装置500の設置に適した人工建築物10、20の周辺の増速領域312は、建物の周辺環境や風111、112の風向に応じて変化する。
そこで、実施形態4においては周辺環境及び風向に応じて風力発電装置500の設置位置を、制御部600cを用いて決定する。
【0062】
<制御部600c>
風力発電装置500の位置制御を行う制御部600cは、風向読込部600、風況評価部601、位置演算部602、位置出力部603、および風況記録部610を有している。制御部600cは、パソコン等のコンピュータに格納されるソフトウェアで実現される。なお、制御部600cは一部、ハードウェアで構成してもよい。
風向読込部600は、気象庁から提供される風向きのデータ、屋上に設置した風向計のデータ、民間に流通する風向きのデータ等を読み込む入力部である。
【0063】
風況記録部610には、事前の解析により、増速領域312、減速領域301、302、303等(図3図7参照)の風況データが記録されている。
風況データとして、風況記録部610では、風向毎の人工建築物20、30の周辺の風況場の概要、特に増速領域312と、減速領域301、302、303等が記録されている。なお、風況記録部610に記録される風況データは、現地にて計測されたデータであっても、予め用意した風洞実験等の縮小モデルによって再現されたデータであっても、数値流体力学に基づいた風況のシミュレーション結果でもよい。
【0064】
位置制御装置である制御部600cでは、まず、風向読込部600において風力発電装置500が設置された人工建築物20、30への流入風向を取り込む。この際、風向読込部600に取り込まれる風向データとしては、気象庁により公開された気象データや気象予測データ、もしくは、人工建築物20、30の周辺で計測された風向データなどがある。なお、これら以外にも、人工建築物20、30が建設された地域や対象となる季節の既知の代表的な風向を使用してもよい。
【0065】
風向読込部600で取り込まれた風向データは風況評価部601に送られ、人工建築物20、30周辺の風況の評価に使用される。
風況評価部601では、風向データに加え、人工建築物20、30の周辺の風況データを風況記録部610から読み込む。
風況評価部601では、上記の風向データと、上記の事前評価された風況データから人工建築物20、30周辺の風況(図3図7等)を再現する。
【0066】
次に、位置演算部602にて、風況評価部601で得られた風況データから増速領域312を抽出し、風力発電装置500に適した設置位置を増速領域312(図3図4図7図8)内に決定する。
最後に、位置出力部603から人工建築物20、30の角部20k、30kの面取り形状(図5図9参照)において風力発電装置500の設置に最も適した設置位置の指令値が出力される。
【0067】
制御部600cからの指令値にしたがって、位置変更部500i(図10参照)が風力発電装置500の位置を変更する。
実施形態4によれば、周辺環境や風向の変化に応じて生じる人工建築物20、30の周辺の風況変化の影響を加味し、風力発電装置500の設置に適した増速領域312を常に評価することが可能となる。
また、図11に記載の制御部600cの出力に合わせて風力発電装置500の設置位置を変更することにより、より高い発電量が期待される増速領域312(図3図4図7図8)に風力発電装置500を設置することが可能となる。
【0068】
また、人工建築物20、30における角部20k、30kでの剥離現象を抑制し、人工建築物20、30周辺の増速領域312(図3図4図7図8)を活用して、より高い発電量が期待される風力発電装置500の設置方法を提供できる。
【0069】
<<その他の実施形態>>
1.前記実施形態では、角部20k、30kについて隅丸型、隅切型等の面取り形状を例示したが、平面と曲面とを混在させた形状でもよい。或いは、風111、112が人工建築物20、30から剥離が抑制されるように、角部20k、30kが設けられていれば、面取り形状は、任意に適宜選択できる。
2.前記実施形態において、風力発電装置500の全ての構成が設置領域r1、r2に設置されていなくてもよく、少なくとも風を受ける翼500tが設置領域r1、r2に設置されていればよい。
3.本発明は、前記した実施形態、変形形態の構成に限られることなく、添付の特許請求の範囲内で様々な変形形態、具体的形態が可能である。
【符号の説明】
【0070】
20 角部を隅丸型とした人工建築物(建造物)
20f 階
20k 隅丸型の角部、建物の角部(面取り形状の角部)
20r、30r 面取り形状部分の領域(面取り形状の領域)
30 角部を隅切型とした人工建築物(建造物)
30k 隅切型の角部、建物の角部(面取り形状の角部)
111、112 風
301、302、303 減速領域
312 増速領域
500 風力発電装置
500s 主軸
500t 翼
510 構造支持部材
600 風向読込部(制御部)
600c 制御部
601 風況評価部(制御部)
602 位置演算部(制御部)
603 位置出力部(制御部)
610 風況記録部(制御部)
111、112 風
r1、r2 設置領域
S、S1 風力発電システム
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
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図11