(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129347
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】予測方法および予測システム
(51)【国際特許分類】
G16H 50/80 20180101AFI20240919BHJP
G01N 35/00 20060101ALI20240919BHJP
G06Q 50/10 20120101ALI20240919BHJP
G06Q 10/04 20230101ALI20240919BHJP
C12Q 1/04 20060101ALN20240919BHJP
【FI】
G16H50/80
G01N35/00 A
G06Q50/10
G06Q10/04
C12Q1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038491
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110003502
【氏名又は名称】弁理士法人芳野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江崎 聡
(72)【発明者】
【氏名】若原 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】岡▲崎▼ 亮太郎
(72)【発明者】
【氏名】本多 了
【テーマコード(参考)】
2G058
4B063
5L010
5L049
5L050
5L099
【Fターム(参考)】
2G058GA20
2G058GD05
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ10
5L010AA04
5L049AA04
5L049CC20
5L050CC20
5L099AA01
(57)【要約】
【課題】感染症の陽性者数の増減傾向を予測できる予測方法および予測システムを提供すること。
【解決手段】予測方法は、下水のサンプルを採取する採取ステップS1と、サンプルを分析し、サンプルに含まれる感染症の病原体に関する病原体データを取得する分析ステップS2と、サンプルを採取した日以前の所定期間における陽性者数に関する陽性者数データを収集する収集ステップS3と、分析ステップS2により取得された病原体データと収集ステップS3により収集された陽性者数データとの比に基づいて、サンプルを採取した日以後における増減傾向を予測する予測ステップS4、S5と、を備える。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
感染症の陽性者数の増減傾向を予測する予測方法であって、
下水のサンプルを採取する採取ステップと、
前記サンプルを分析し、前記サンプルに含まれる前記感染症の病原体に関する病原体データを取得する分析ステップと、
前記サンプルを採取した日以前の所定期間における前記陽性者数に関する陽性者数データを収集する収集ステップと、
前記分析ステップにより取得された前記病原体データと前記収集ステップにより収集された前記陽性者数データとの比に基づいて、前記サンプルを採取した日以後における前記増減傾向を予測する予測ステップと、
を備えたことを特徴とする予測方法。
【請求項2】
前記予測ステップは、所定日における前記陽性者数データに対して前記所定日の1週間後における前記陽性者数データが増加した確率が所定確率以上となるときの前記比に基づいて、前記増減傾向を予測することを特徴とする請求項1に記載の予測方法。
【請求項3】
前記病原体データは、分流式下水道の汚水管を流れる前記下水の前記サンプルを分析することにより取得された前記病原体の濃度であることを特徴とする請求項1に記載の予測方法。
【請求項4】
前記病原体データは、分流式下水道の汚水管を流れる前記下水の前記サンプルを分析することにより取得された前記病原体の濃度に前記下水の流量を乗じて算出した前記病原体の負荷量であることを特徴とする請求項1に記載の予測方法。
【請求項5】
前記病原体データは、合流式下水道の合流管を流れる前記下水の前記サンプルを分析することにより取得された前記病原体の濃度であることを特徴とする請求項1に記載の予測方法。
【請求項6】
前記病原体データは、合流式下水道の合流管を流れる前記下水の前記サンプルを分析することにより取得された前記病原体の濃度に前記下水の流量を乗じて算出した前記病原体の負荷量であることを特徴とする請求項1に記載の予測方法。
【請求項7】
前記陽性者数データは、前記所定期間における前記陽性者数の合計値または平均値であることを特徴とする請求項1に記載の予測方法。
【請求項8】
前記陽性者数データは、前記所定期間における前記陽性者数のうちの入院者数の合計値または平均値であることを特徴とする請求項1に記載の予測方法。
【請求項9】
前記陽性者数データは、前記所定期間における前記陽性者数のうちの死亡者数の合計値または平均値であることを特徴とする請求項1に記載の予測方法。
【請求項10】
感染症の陽性者数の増減傾向を予測する予測システムであって、
採取された下水のサンプルに含まれる前記感染症の病原体に関する病原体データを取得するとともに、前記サンプルを採取した日以前の所定期間における前記陽性者数に関する陽性者数データを収集する算出部と、
前記算出部により取得された前記病原体データを記憶する病原体データ記憶部と、
前記算出部により収集された前記陽性者数データを記憶する陽性者数データ記憶部と、
前記病原体データ記憶部に記憶された前記病原体データと前記陽性者数データ記憶部に記憶された前記陽性者数データとの比に基づいて、前記サンプルを採取した日以後における前記増減傾向を予測する予測部と、
を備えたことを特徴とする予測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感染症の陽性者数の増減傾向を予測する予測方法および予測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
新型コロナウイルス等の感染症が拡散することを抑えるために、発熱などの症状が出た人に対してPCR検査や抗原検査などの感染症検査が行われている。そして、感染症検査で陽性反応が出た場合には、陽性者および濃厚接触者を隔離する対策などが行われている。しかし、陽性者の中には無症状の人がいたり、症状が出た場合であっても軽症等を理由として感染症検査を受けない人がいたりするため、感染症の陽性者数の増減傾向を予測することは困難である。
【0003】
特許文献1には、採取期間中における下水から試料を採取する採取工程と、試料中における感染性病原体の存在に関する情報を得る分析工程と、情報を採取期間と共に施設に通知をする通知工程と、を含む感染症検査方法が開示されている。特許文献1に記載された感染症検査方法では、通知された情報と採取期間は、少なくとも採取期間内における施設の滞在者中に感染性病原体の感染者が存在する可能性を示す。
【0004】
しかし、特許文献1に記載された感染症検査方法では、施設の滞在者中に感染性病原体の感染者が存在する可能性を示すことができる一方で、感染症の陽性者数の増減傾向を予測することは困難である。すなわち、下水から採取した試料中における感染性病原体の存在に関する分析結果と、保健行政を通じて集計される陽性者数に関する集計結果と、の間には、結果が判明する時期について差異が生ずるため、感染症の陽性者数の増減傾向を予測することは困難である。
【0005】
あるいは、下水から採取した試料中における感染性病原体の存在に関する分析(例えばPCR分析)は、連続分析ではない。すなわち、特許文献1に記載された感染症検査方法では、採取業者が下水から試料を採取して分析受託会社に提出し、分析受託会社が採取業者から提出された試料を分析して、試料中における感染性病原体の存在に関する情報を取得する。そのため、試料中における感染性病原体の存在に関する情報は、時間的に密に連続した情報とはならず、感染症の陽性者数の増減傾向を予測することは困難である。このような背景のもと、新型コロナウイルス等の感染症の陽性者数の増減傾向を予測することが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、感染症の陽性者数の増減傾向を予測できる予測方法および予測システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1態様は、感染症の陽性者数の増減傾向を予測する予測方法であって、下水のサンプルを採取する採取ステップと、前記サンプルを分析し、前記サンプルに含まれる前記感染症の病原体に関する病原体データを取得する分析ステップと、前記サンプルを採取した日以前の所定期間における前記陽性者数に関する陽性者数データを収集する収集ステップと、前記分析ステップにより取得された前記病原体データと前記収集ステップにより収集された前記陽性者数データとの比に基づいて、前記サンプルを採取した日以後における前記増減傾向を予測する予測ステップと、を備えたことを特徴とする予測方法である。
【0009】
本発明の第2態様は、感染症の陽性者数の増減傾向を予測する予測システムであって、採取された下水のサンプルに含まれる前記感染症の病原体に関する病原体データを取得するとともに、前記サンプルを採取した日以前の所定期間における前記陽性者数に関する陽性者数データを収集する算出部と、前記算出部により取得された前記病原体データを記憶する病原体データ記憶部と、前記算出部により収集された前記陽性者数データを記憶する陽性者数データ記憶部と、前記病原体データ記憶部に記憶された前記病原体データと前記陽性者数データ記憶部に記憶された前記陽性者数データとの比に基づいて、前記サンプルを採取した日以後における前記増減傾向を予測する予測部と、を備えたことを特徴とする予測システムである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、感染症の陽性者数の増減傾向を予測できる予測方法および予測システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態のウイルス濃度と陽性者数との関係を説明する模式図である。
【
図2】任意地域における陽性者数とウイルス濃度と7区間移動平均陽性者数との関係の一例を表すグラフである。
【
図3】ウイルスデータと陽性者数データとの比を説明する模式図である。
【
図4】本実施形態に係る予測システムの要部構成を表すブロック図である。
【
図5】本実施形態に係る予測システムの具体的な要部構成を表すブロック図である。
【
図6】本実施形態に係る予測方法を説明するフローチャートである。
【
図7】所定確率(閾値)の算出方法の第1具体例を説明するグラフである。
【
図8】所定確率(閾値)の算出方法の第2具体例を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
なお、以下に説明する実施形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。例えば、以下に説明する実施形態では、病原体の具体例として新型コロナウイルスを挙げているが、病原体は、新型コロナウイルスに限られず、インフルエンザウイルス、ノロウイルスなど、その他のウイルスであってもよい。さらに、病原体は、ウイルスに限られず、細菌であってもよい。また、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明を適宜省略する。
【0013】
図1は、本実施形態のウイルス濃度と陽性者数との関係を説明する模式図である。
図2は、任意地域における陽性者数とウイルス濃度と7区間移動平均陽性者数との関係の一例を表すグラフである。
図3は、ウイルスデータと陽性者数データとの比を説明する模式図である。
【0014】
まず、
図1~
図3を参照して、本実施形態に係る予測方法の概要を説明する。
例えば、新型コロナウイルス等の感染症が拡散することを抑えるために、発熱などの症状が出た人に対してPCR検査や抗原検査などの感染症検査が行われている。そして、感染症検査で陽性反応が出た場合には、陽性者および濃厚接触者を隔離する対策などが行われている。しかし、陽性者の中には無症状の人がいたり、症状が出た場合であっても軽症等を理由として感染症検査を受けない人がいたりするため、感染症の陽性者数の増減傾向を予測することは困難である。
【0015】
そこで、本発明者は、生活排水のような一般的な下水のサンプルを公共下水道から採取し、そのサンプルに含まれるウイルスに関するデータを利用して、その公共下水道の供用区域を含む行政区域における感染症の陽性者数の増減傾向を予測することを試みた。本願明細書では、説明の便宜上、下水のサンプルを単に「下水サンプル」とも呼び、下水サンプルに含まれるウイルスに関するデータを単に「ウイルスデータ」とも呼ぶ。ここで、ウイルスデータは、本発明の「病原体データ」の一例であり、合流式下水道の合流管または分流式下水道の汚水管における下水サンプルを分析することにより取得されたウイルスの濃度である。本願明細書では、説明の便宜上、このウイルスの濃度を単に「ウイルス濃度」とも呼ぶ。
【0016】
しかし、ある公共下水道の下水サンプルに含まれるウイルスに関するデータ(すなわちウイルスデータ)の結果と、その公共下水道の供用区域を含む行政区域における保健行政を通じて集計される陽性者数に関するデータの結果と、の間には、結果が判明する時期について差異が生ずる。本願明細書では、説明の便宜上、陽性者数に関するデータを単に「陽性者数データ」または「陽性者数」とも呼ぶ。そのため、ウイルスデータの増減傾向と、陽性者数データの増減傾向と、の間には、時間的差異が生ずる。例えば、
図1に表したように、感染症検査の陽性者(すなわち陽性者数データ)の増減傾向は、下水サンプルに含まれるウイルス濃度(すなわちウイルスデータ)の増減傾向よりも遅れる。
【0017】
図2は、本発明者が、ある行政区域において収集した陽性者数と、この陽性者数に関する直近7区間移動平均陽性者数と、その行政区域に含まれる合流式下水道(1系)のウイルス濃度と、同じくその行政区域に含まれる分流式下水道(2系)のウイルス濃度と、をまとめたグラフである。
図2によれば、陽性者数が増加し始めた1月6日以後のグラフ縦軸のピークは、最初が2月24日の2系のウイルス濃度、続いて3月3日の1系のウイルス濃度、最後が3月5日の7区間移動平均陽性者数となる。その後の5月5日以後の陽性者数の上昇局面においては、グラフ縦軸のピークは、最初が5月12日の1系のウイルス濃度、続いて5月19日の2系のウイルス濃度、最後が5月26日の7区間移動平均陽性者数となる。つまり、グラフ縦軸がピークを迎えるのは、ウイルス濃度については、1系が先になる場合もあれば2系が先になる場合もある。しかし、7区間移動平均陽性者数については、1月6日以後と5月5日以後のいずれにおいても最後になる。このことからも、陽性者数データの増減傾向は、ウイルスデータ(すなわち
図2のウイルス濃度)の増減傾向よりも遅れる、ことが分かる。
【0018】
このように、ウイルスデータの増減傾向と、陽性者数データの増減傾向と、の間には、時間的差異が生ずる。そのため、単に下水サンプルに含まれるウイルスに関するデータを取得するだけでは、感染症の陽性者数の増減傾向を予測することは困難である。例えば、
図1に表したように、下水のサンプルに含まれるウイルスの濃度(すなわちウイルス濃度)のある値Wには、増加傾向の第1時期T1におけるウイルス濃度W1と、減少傾向の第2時期T2におけるウイルス濃度W2と、の2つが存在する。そのため、単に下水サンプルに含まれるウイルスに関するデータを取得するだけでは、それが増加傾向の時期のものなのか、それとも減少傾向の時期のものなのか、が分からない。そのため、感染症の陽性者数の増減傾向を予測することは困難である。
【0019】
さらに、
図2に表したように、例えば下水サンプルをPCR検査等により分析してウイルス濃度を取得する場合、PCR検査等による分析は、連続分析ではない。すなわち、
図2の例では、下水サンプルを公共下水道から採取し、別の場所に配送し、ここで分析してウイルス濃度を取得する。そのため、取得したウイルス濃度は、時間的に密に連続したデータとはならない。具体的には、ウイルス濃度を取得するための下水サンプルの分析は、合流式下水道(1系)と分流式下水道(2系)とのいずれについても1週間に1回の頻度である。このため、例えば、今日取得したウイルス濃度が、増加傾向にあるのか、それとも減少傾向にあるのかは、1週間後にウイルス濃度を取得するまでは、正確に判断できない。この点、例えば
図2のウイルス濃度(2系)は、2月3日に一旦小さなピークを迎え、その後2月17日まで減少傾向にあったが、その翌週の2月24日に非常に大きなピークを迎えた。この例によれば、ウイルス濃度(2系)は、2月17日現在では、過去の2月3日から減少傾向にあり、もし過去から現在までの増減傾向に基づいて翌週を判断したならば、翌週の2月24日では現在(2月17日)よりも低くなるはずであった。しかし、実際はそうなっておらず、ウイルス濃度(2系)は、非常に高くなった。この例のように連続分析でない場合、感染症の陽性者数の増減傾向を予測することは困難である。
【0020】
そこで、本実施形態に係る予測方法では、ウイルスデータの増減傾向と、陽性者数データの増減傾向と、の間に時間的差異が生ずることを積極的に利用し、ウイルスデータと陽性者数データとの比に基づいて、下水サンプルを採取した日以後における感染症の陽性者数の増減傾向を予測する。
図1を参照して具体的に説明すると、第1時期T1におけるウイルス濃度W1と陽性者数C1との比(W1/C1)は、第2時期T2におけるウイルス濃度W2と陽性者数C2との比(W2/C2)よりも大きい。ここで、ウイルス濃度W1は、ウイルス濃度W2に等しい。
なお、本願明細書では、ウイルスデータと陽性者数データとの比を、陽性者数Cに対するウイルス濃度W(すなわちW/C)としているが、これに限定されず、その反対(すなわちC/W)としてもよい。
【0021】
本実施形態に係る予測方法は、このような性質を利用し、
図3に表したように、例えばウイルス濃度Wと陽性者数Cとの比(W/C)が相対的に高い第3時期T3には、陽性者数が今後増加する可能性がある、あるいは把握できていない陽性者の割合が多いと予測する。一方で、本実施形態に係る予測方法は、例えばウイルス濃度Wと陽性者数Cとの比(W/C)が相対的に低い第4時期T4には、陽性者数が今後減少する可能性がある、あるいは把握できていない陽性者の割合は少ないと予測する。あるいは、本実施形態に係る予測方法は、過去の統計値に基づいて、陽性者数が増加傾向にある時期と減少傾向にある時期とを区別する比(W/C)の閾値を設定し、所定日におけるウイルス濃度Wと陽性者数Cとの比(W/C)を閾値と比較することにより、陽性者数の増減傾向を予測する。
【0022】
以下、本実施形態に係る予測方法を、図面を参照してさらに説明する。
図4は、本実施形態に係る予測システムの要部構成を表すブロック図である。
【0023】
図4に表した予測システム2は、コンピュータ21と、記憶部22と、を有する。コンピュータ21は、制御部23(
図5参照)を有し、記憶部22に記憶されたプログラム221を読み出して種々の演算や処理を実行する。ここでいう「コンピュータ」とは、パソコンには限定されず、情報処理機器に含まれる演算処理装置、マイコン等も含み、プログラムによって本発明の機能を実現することが可能な機器、装置を総称している。
【0024】
記憶部22は、コンピュータ21によって実行されるプログラム221を格納する。記憶部22としては、予測システム2に内蔵された半導体メモリやハードディスクドライブ(HDD:Hard Disk Drive)などが挙げられる。あるいは、記憶部22は、コンピュータ21に接続された外部の記憶装置であってもよい。
【0025】
プログラム221は、ウイルスデータを分析したり処理したりするための演算プログラムや、陽性者数データを収集したり処理するための演算プログラムや、感染症の陽性者数の増減傾向を予測するための演算プログラムなどを含む。なお、プログラム221は、記憶部22に格納されていることには限定されず、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に予め格納され頒布されてもよく、あるいはネットワークを介して予測システム2にダウンロードされてもよい。
【0026】
図5は、本実施形態に係る予測システムの具体的な要部構成を表すブロック図である。
図5に表した予測システム2は、制御部23と、記憶部22と、通信部24と、を有する。制御部23は、例えばCPU(central processing unit)などであり、記憶部22に記憶されたプログラム221(
図4参照)を読み出して種々の演算や処理を実行する。制御部23は、算出部231と、予測部232と、を有する。算出部231および予測部232は、記憶部22に格納されているプログラム221をコンピュータ21が実行することにより実現される。なお、算出部231および予測部232は、ハードウェアによって実現されてもよく、ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせによって実現されてもよい。記憶部22は、ウイルスデータ記憶部222と、陽性者数データ記憶部223と、を有する。本実施形態のウイルスデータ記憶部222は、本発明の「病原体データ記憶部」の一例である。
【0027】
算出部231は、通信部24およびインターネット回線などを介して管理サーバ(図示せず)などから下水サンプルに含まれるウイルスに関するデータ(すなわちウイルスデータ)を取得し、ウイルスデータ記憶部222に記憶する。算出部231は、取得したウイルスデータをそのままウイルスデータ記憶部222に記憶してもよく、取得したウイルスデータに所定の処理を実行し、処理を施したウイルスデータをウイルスデータ記憶部222に記憶してもよい。
【0028】
ウイルスデータ記憶部222に記憶されるウイルスデータは、例えば、分流式下水道の汚水管を流れる下水のサンプルを分析することにより取得されたウイルスの濃度である。あるいは、ウイルスデータ記憶部222に記憶されるウイルスデータは、例えば、合流式下水道の合流管を流れる下水のサンプルを分析することにより取得されたウイルスの濃度である。
【0029】
前述したように、処理を施されたウイルスデータが、ウイルスデータ記憶部222に記憶されてもよい。例えば、ウイルスデータ記憶部222に記憶されるウイルスデータは、分流式下水道の汚水管を流れる下水のサンプルを分析することにより取得されたウイルスの濃度に下水の流量を乗じて算出したウイルスの負荷量である。あるいは、例えば、ウイルスデータ記憶部222に記憶されるウイルスデータは、合流式下水道の合流管を流れる下水のサンプルを分析することにより取得されたウイルスの濃度に下水の流量を乗じて算出したウイルスの負荷量である。
【0030】
また、算出部231は、通信部24およびインターネット回線などを介して管理サーバ(図示せず)などから陽性者数に関するデータ(すなわち陽性者数データ)を収集し、陽性者数データ記憶部223に記憶する。算出部231は、収集した陽性者数データをそのまま陽性者数データ記憶部223に記憶してもよく、収集した陽性者数データに所定の処理を実行し、処理を施した陽性者数データを陽性者数データ記憶部223に記憶してもよい。
【0031】
陽性者数データ記憶部223に記憶される陽性者数データは、例えば、下水のサンプルを採取した日以前の所定期間における陽性者数の合計値または平均値である。ここでいう「所定期間」とは、例えば一週間程度である。あるいは、陽性者数データ記憶部223に記憶される陽性者数データは、例えば、下水のサンプルを採取した日以前の所定期間における陽性者数のうちの入院者数の合計値または平均値である。あるいは、陽性者数データ記憶部223に記憶される陽性者数データは、例えば、下水のサンプルを採取した日以前の所定期間における陽性者数のうちの死亡者数の合計値または平均値である。
【0032】
予測部232は、ウイルスデータ記憶部222に記憶されたウイルスデータと、陽性者数データ記憶部223に記憶された陽性者数データと、の比に基づいて、下水のサンプルを採取した日以後における陽性者数の増減傾向を予測する。ウイルスデータ記憶部222に記憶されたウイルスデータの例は、前述した通りである。また、陽性者数データ記憶部223に記憶された陽性者数データの例は、前述した通りである。そこで、例えば、予測部232は、
図1~
図3に関して前述したように、ウイルス濃度Wと陽性者数Cとの比(W/C)に基づいて、下水のサンプルを採取した日以後における陽性者数の増減傾向を予測する。
【0033】
また、予測部232は、所定日における陽性者数データに対して所定日の1週間後における陽性者数データが増加した確率が所定確率(閾値)以上となるときの比に基づいて、陽性者数の増減傾向を予測する。この詳細については、後述する。
【0034】
図6は、本実施形態に係る予測方法を説明するフローチャートである。
まず、ステップS1において、下水のサンプルを採取する。本実施形態のステップS1は、本発明の「採取ステップ」の一例である。例えば、下水のサンプルは、分流式下水道の汚水管を流れる下水から採取される。あるいは、例えば、下水のサンプルは、合流式下水道の合流管を流れる下水から採取される。
【0035】
続いて、ステップS2において、採取した下水のサンプルを分析し、下水のサンプルに含まれるウイルスに関するデータ(すなわちウイルスデータ)を取得する。本実施形態のステップS2は、本発明の「分析ステップ」の一例である。ステップS2において取得されるウイルスデータの例は、
図5に関して前述した通りである。例えば、予測システム2の算出部231(
図5参照)は、通信部24およびインターネット回線などを介して管理サーバ(図示せず)などからウイルスデータを取得し、取得したウイルスデータをそのままウイルスデータ記憶部222に記憶したり、取得したウイルスデータに所定の処理を施したウイルスデータをウイルスデータ記憶部222に記憶したりする。
【0036】
続いて、ステップS3において、下水のサンプルを採取した日以前の所定期間における感染症の陽性者数に関する陽性者数データを収集する。本実施形態のステップS3は、本発明の「収集ステップ」の一例である。例えば、予測システム2の算出部231は、通信部24およびインターネット回線などを介して管理サーバ(図示せず)などから陽性者数に関するデータ(すなわち陽性者数データ)を収集し、収集した陽性者数データをそのまま陽性者数データ記憶部223に記憶したり、収集した陽性者数データに所定の処理を施した陽性者数データを陽性者数データ記憶部223に記憶したりする。
【0037】
続いて、ステップS4において、分析ステップ(ステップS2)により取得されたウイルスデータと、収集ステップ(ステップS3)により収集された陽性者数データと、の比を算出する。例えば、ステップS4では、予測システム2の予測部232(
図5参照)が、ウイルスデータ記憶部222に記憶されたウイルスデータと、陽性者数データ記憶部223に記憶された陽性者数データと、に基づいてウイルス濃度Wと陽性者数Cとの比(W/C)を算出する。
【0038】
続いて、ステップS5において、算出した比に基づいて、下水のサンプルを採取した日以後における陽性者数の増減傾向を予測する。本実施形態のステップS4およびステップS5は、本発明の「予測ステップ」の一例である。例えば、ステップS5では、所定日における陽性者数データに対して所定日の1週間後における陽性者数データが増加した確率が所定確率(閾値)以上となるときの比に基づいて、陽性者数の増減傾向を予測する。
【0039】
以下、所定確率(閾値)の算出方法の例を、図面を参照して説明する。
図7は、所定確率(閾値)の算出方法の第1具体例を説明するグラフである。
図7は、PCR検査の陽性者数(すなわち
図7の横軸に表したPCR陽性者数)の翌週の増加倍率と、ウイルス濃度Wと陽性者数Cとの比(すなわち
図7の左側の縦軸に表したW/C比)と、の関係の一例を表すグラフである。なお、
図7の右側の縦軸に表したW/C比は、ウイルス濃度に下水の流量を乗じて算出したウイルス負荷量Wと陽性者数Cとの比である(後述する
図8も同様)。
図7に表した横軸の値(PCR検査の陽性者数の翌週の増加倍率)が「1.00」よりも大きい場合には、所定日における陽性者数に対する所定日の1週間後における陽性者数が増加する。
図7に表した横軸の値が「1.00」よりも小さい場合には、所定日における陽性者数に対する所定日の1週間後における陽性者数が減少する。
【0040】
ここで、合流式下水道の合流管を流れる下水のサンプルのウイルス濃度Wと、陽性者数Cと、の比(W/C比;1系濃度)に着目すると、
図7の左側の縦軸に表したW/C比(ウイルス濃度)が400である場合、400以上のW/C比の全データ数(5個)のうち、
図7に表した横軸の値(PCR検査の陽性者数の翌週の増加倍率)が「1.00」よりも大きいデータ数は4個であり、
図7に表した横軸の値が「1.00」よりも小さいデータ数は1個である。
【0041】
そこで、本実施形態に係る予測方法の予測ステップでは、例えば、所定日における陽性者数データに対して所定日の1週間後における陽性者数データが増加した確率が80%(=4個/5個×100%)以上となるW/C比の閾値として「400」を設定する。そして、所定日におけるウイルス濃度Wと陽性者数Cとの比(W/C比;1系濃度)が400以上である場合に、陽性者数が増加傾向にあると予測する。一方で、所定日におけるウイルス濃度Wと陽性者数Cとの比(W/C比;1系濃度)が400未満である場合に、陽性者数が減少傾向にあると予測する。但し、「400」は、W/C比の閾値の一例であり、W/C比の閾値は、「400」だけに限定されるわけではない。
【0042】
図8は、所定確率(閾値)の算出方法の第2具体例を説明するグラフである。
図8は、
図7に関して前述したグラフと同様に、PCR検査の陽性者数の翌週の増加倍率と、ウイルス濃度Wと陽性者数Cとの比(W/C比)と、の関係の一例を表すグラフである。
図8に表した横軸の値(PCR検査の陽性者数の翌週の増加倍率)は、
図7に関して前述した通りである。
【0043】
ここで、分流式下水道の汚水管を流れる下水のサンプルのウイルス濃度Wと、陽性者数Cと、の比(W/C比;2系濃度)に着目すると、
図8の左側の縦軸に表したW/C比(ウイルス濃度)が400である場合、400以上のW/C比の全データ数(12個)のうち、
図8に表した横軸の値(PCR検査の陽性者数の翌週の増加倍率)が「1.00」よりも大きいデータ数は9個であり、
図8に表した横軸の値が「1.00」よりも小さいデータ数は3個である。
【0044】
そこで、本実施形態に係る予測方法の予測ステップでは、例えば、所定日における陽性者数データに対して所定日の1週間後における陽性者数データが増加した確率が75%(=9個/12個×100%)以上となるW/C比の閾値として「400」を設定する。そして、所定日におけるウイルス濃度Wと陽性者数Cとの比(W/C比;2系濃度)が400以上である場合に、陽性者数が増加傾向にあると予測する。一方で、所定日におけるウイルス濃度Wと陽性者数Cとの比(W/C比;2系濃度)が400未満である場合に、陽性者数が減少傾向にあると予測する。但し、
図7に関して前述した通り、「400」は、W/C比の閾値の一例であり、W/C比の閾値は、「400」だけに限定されるわけではない。
【0045】
本実施形態に係る予測方法によれば、単に下水のサンプルに含まれるウイルスに関するウイルスデータ(例えばウイルス濃度)に基づいて下水のサンプルを採取した日以後における陽性者数の増減傾向を予測するわけではなく、分析ステップにより取得されたウイルスデータ(例えばウイルス濃度W)と、収集ステップにより収集された陽性者数データ(例えば陽性者数C)との比(W/C比)に基づいて、下水のサンプルを採取した日以後における陽性者数の増減傾向を予測する。これにより、本実施形態に係る予測方法は、感染症の陽性者数の増減傾向を予測できる。
【0046】
また、所定日における陽性者数データに対して所定日の1週間後における陽性者数データが増加した確率が所定確率以上となるときの比に基づいて陽性者数の増減傾向を予測する場合、より高い精度で感染症の陽性者数の増減傾向を予測できる。
【0047】
また、陽性者数データとして、サンプルを採取した日以前の所定期間における陽性者数の合計値または平均値や、陽性者数のうちの入院者数の合計値または平均値や、陽性者数のうちの死亡者数の合計値または平均値を使用することにより、より高い精度で感染症の陽性者数の増減傾向を予測できる。
【0048】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は、上記実施形態に限定されず、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で種々の変更を行うことができる。上記実施形態の構成は、その一部を省略したり、上記とは異なるように任意に組み合わせたりすることができる。
【符号の説明】
【0049】
2:予測システム、 21:コンピュータ、 22:記憶部、 23:制御部、 24:通信部、 221:プログラム、 222:ウイルスデータ記憶部、 223:陽性者数データ記憶部、 231:算出部、 232:予測部、 C:陽性者数、 C1:陽性者数、 C2:陽性者数、 T1:第1時期、 T2:第2時期、 T3:第3時期、 T4:第4時期、 W:ウイルス濃度、 W1:ウイルス濃度、 W2:ウイルス濃度