(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129362
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】履帯ローラ、履帯式走行装置および履帯式機械
(51)【国際特許分類】
B62D 55/14 20060101AFI20240919BHJP
【FI】
B62D55/14 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038513
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】505236469
【氏名又は名称】キャタピラー エス エー アール エル
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】内藤 貴之
(57)【要約】
【課題】履帯との摩擦による温度上昇を抑制できる履帯ローラ、これを有する履帯式走行装置、および、これを備えた履帯式機械を提供する。
【解決手段】履帯ローラ13は、円筒状のローラ本体部25と、ローラ本体部25から径方向に突出する履帯14の脱落防止用の対をなすフランジ部26と、これらフランジ部26と、これらフランジ部26を除くローラ本体部25の外周面と、の少なくともいずれかに形成され、底部の少なくとも一部が溶接部を伴わない放熱用の溝部95と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
履帯を支持および案内する履帯ローラであって、
円筒状のローラ本体部と、
このローラ本体部から径方向に突出する履帯の脱落防止用の対をなすフランジ部と、
これらフランジ部と、これらフランジ部を除くローラ本体部の外周面と、の少なくともいずれかに形成され、底部の少なくとも一部が溶接部を伴わない放熱用の溝部と、
を備えることを特徴とする履帯ローラ。
【請求項2】
溝部は、ローラ本体部の外周面において、ローラ本体部の軸方向に対し交差する方向に形成されている
ことを特徴とする請求項1記載の履帯ローラ。
【請求項3】
溝部は、ローラ本体部の外周面において、ローラ本体部の軸方向に沿って形成されている
ことを特徴とする請求項1記載の履帯ローラ。
【請求項4】
溝部は、ローラ本体部の外周面において、ローラ本体部の軸方向に対し螺旋状に形成されている
ことを特徴とする請求項1記載の履帯ローラ。
【請求項5】
フランジ部に形成されている溝部は、同心円状に形成されている
ことを特徴とする請求項1記載の履帯ローラ。
【請求項6】
フランジ部に形成されている溝部は、径方向に放射状に形成されている
ことを特徴とする請求項1記載の履帯ローラ。
【請求項7】
履帯と、
この履帯を支持および案内する請求項1乃至6いずれか一記載の履帯ローラと、
を備えることを特徴とする履帯式走行装置。
【請求項8】
請求項7記載の履帯式走行装置を備える
ことを特徴とする履帯式機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、履帯を支持および案内する履帯ローラ、これを有する履帯式走行装置、および、これを備えた履帯式機械に関する。
【背景技術】
【0002】
履帯式トラクタまたは掘削機などの作業機械は、通常、1組の下部走行体アセンブリによって支持され移動する。各下部走行体アセンブリは、複数の相互接続される連節構成部品またはリンクを有する無端状の駆動履帯チェーンを備える。また、下部走行体アセンブリは、通常、駆動スプロケット、1またはそれ以上の従動輪、多数のトラックローラ、および、キャリアローラを備え、それらの各々の回りに駆動履帯チェーンを駆動させて前後進させる(例えば、特許文献1乃至3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-187589号公報
【特許文献2】特開2001-354172号公報
【特許文献3】特開2021-98513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
トラックローラ、および、キャリアローラは走行時に駆動履帯チェーンと接触しながら回転する。これらローラは、滑らかに回転するために潤滑用のグリスを注入したり、潤滑油を封入されたりするものが多い。しかしながら、高速での走行が続くと、駆動履帯チェーンとの摩擦によりローラが発熱し、高温となる場合がある。高温になることで、潤滑剤を封入するシール部品の性能が劣化し、油漏れ、グリス漏れの不具合につながる。このような油漏れ、グリス漏れが発生すると、土場がグリスや油で汚染されてしまう。さらに、ローラが高温の状態が長時間続くと、潤滑剤が劣化したり、潤滑が不十分となり軸受け部が焼き付いたりするおそれがある。ローラが滑らかに回転できなくなると、駆動履帯チェーンとの間に大きな摩擦が生じ、ローラや駆動履帯チェーンの摩耗による破損が懸念される。
【0005】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、履帯との摩擦による温度上昇を抑制できる履帯ローラ、これを有する履帯式走行装置、および、これを備えた履帯式機械を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、履帯を支持および案内する履帯ローラであって、円筒状のローラ本体部と、このローラ本体部から径方向に突出する履帯の脱落防止用の対をなすフランジ部と、これらフランジ部と、これらフランジ部を除くローラ本体部の外周面と、の少なくともいずれかに形成され、底部の少なくとも一部が溶接部を伴わない放熱用の溝部と、を備えるものである。
【0007】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の履帯ローラにおける溝部が、ローラ本体部の外周面において、ローラ本体部の軸方向に対し交差する方向に形成されているものである。
【0008】
請求項3記載の発明は、請求項1記載の履帯ローラにおける溝部が、ローラ本体部の外周面において、ローラ本体部の軸方向に沿って形成されているものである。
【0009】
請求項4記載の発明は、請求項1記載の履帯ローラにおける溝部が、ローラ本体部の外周面において、ローラ本体部の軸方向に対し螺旋状に形成されているものである。
【0010】
請求項5記載の発明は、請求項1記載の履帯ローラにおけるフランジ部に形成されている溝部が、同心円状に形成されているものである。
【0011】
請求項6記載の発明は、請求項1記載の履帯ローラにおけるフランジ部に形成されている溝部が、径方向に放射状に形成されているものである。
【0012】
請求項7記載の発明は、履帯と、この履帯を支持および案内する請求項1乃至6いずれか一記載の履帯ローラと、を備える履帯式走行装置である。
【0013】
請求項8記載の発明は、履帯と、この履帯を支持および案内する請求項7記載の履帯式走行装置を備える履帯式機械である。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載の発明によれば、履帯ローラの表面積を溝部によって大きくし、放熱性を向上させることができるので、走行時の履帯との摩擦により仮に発熱しても、溝部により拡大された表面から熱を放出し、温度上昇を抑制できる。
【0015】
請求項2記載の発明によれば、ローラ本体部の外周面を有効に利用して、溝部を多数、容易に形成できる。
【0016】
請求項3記載の発明によれば、ローラ本体部の外周面を有効に利用して、溝部を多数、容易に形成できる。
【0017】
請求項4記載の発明によれば、ローラ本体部の外周面を有効に利用して、溝部を多数、容易に形成できる。
【0018】
請求項5記載の発明によれば、フランジ部を有効に利用して、溝部を多数、容易に形成できる。
【0019】
請求項6記載の発明によれば、フランジ部を有効に利用して、溝部を多数、容易に形成できる。
【0020】
請求項7記載の発明に寄れば、履帯ローラを滑らかに回転させることが可能となるので、履帯ローラと履帯との摩擦を抑制でき、履帯ローラや履帯の摩耗や破損を抑制できる。
【0021】
請求項8記載の発明によれば、耐久性および信頼性が高い履帯式機械を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明に係る履帯ローラの一実施の形態を示し、(a)は履帯ローラとしてのトラックローラの第一の例の断面図、(b)はその側面図である。
【
図2】(a)は同上履帯ローラとしてのトラックローラの第二の例の断面図、(b)はその側面図である。
【
図3】(a)は同上履帯ローラとしてのトラックローラの第三の例の断面図、(b)はその側面図である。
【
図4】(a)は同上履帯ローラとしてのトラックローラの第四の例の断面図、(b)はその側面図である。
【
図5】(a)は同上履帯ローラとしてのキャリアローラの例を示す断面図、(b)はその側面図である。
【
図6】同上履帯ローラを有する履帯式走行装置を備える履帯式機械の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を、
図1乃至
図6に示された一実施の形態に基いて詳細に説明する。
【0024】
図6に履帯式機械1を示す。本実施の形態において、履帯式機械1は、例えば掘削等の作業を行う油圧ショベルを例に挙げる。履帯式機械1は、履帯式走行装置2と、下部走行体である履帯式走行装置2により支持される機体3と、を有する。機体3には、オペレータが搭乗する運転室を形成するキャブ4、エンジン、作動流体用のタンクなどが搭載される。本実施の形態では、機体3は、履帯式走行装置2に対し旋回可能に支持される上部旋回体であり、機体3には作業装置5が配置されている。履帯式機械1は、建設機械に限られず、農作業機などでもよい。
【0025】
履帯式走行装置2は、左右一対設定されている。各履帯式走行装置2は、フレーム10、スプロケット11、従動輪(アイドラ)12、複数の履帯ローラ13、および、無端状の履帯14を備える。前後に長尺のフレーム10に対し、スプロケット11、従動輪12および履帯ローラ13がそれぞれ回転自在に設けられ、履帯14がそれらに亘り巻き掛けられている。履帯14は、駆動履帯チェーンなどとも呼ばれ、
図1(a)に示すように、左右一対のリンク16が円筒状のブッシュ17に挿通されたピン18を介して無端状に複数連結され、リンク16を覆ってシュー(履板)がリンク16に固定されて構成されている。そして、
図6に示すように、履帯14がスプロケット11により駆動されて、従動輪12および履帯ローラ13の回りを回転することで、履帯式機械1が前後進するように構成されている。
【0026】
本実施の形態では、従動輪12はスプロケット11と対をなし、前後いずれかにのみ設定されているが、履帯式機械1の種類によっては、複数設定されていてもよい。
【0027】
履帯ローラ13には、フレーム10の下部に位置するトラックローラ20と、フレーム10の上部に位置するキャリアローラ21と、が設定されている。
【0028】
図1乃至
図4に例を示すトラックローラ20は、円筒状のローラ本体部25と、ローラ本体部25に形成された対をなすフランジ部26と、を有する。ローラ本体部25の軸方向の両端部には、円筒状のカラー27がそれぞれ配置され、これらカラー27,27間に亘り、ローラ本体部25を貫通してシャフト28が配置されている。カラー27とシャフト28とが、固定ピン29により回り止めされて互いに固定されている。そして、カラー27とシャフト28との少なくともいずれかがフレーム10(
図6)に対して固定されることで、ローラ本体部25がフランジ部26とともにシャフト28を中心として回転するようになっている。
【0029】
ローラ本体部25は、一定の外径寸法を有していてもよいし、外径寸法がフランジ部26の外径寸法を超えない範囲で変化していてもよい。本実施の形態において、ローラ本体部25は、相対的に外径寸法が小さい小径部31と、相対的に外径寸法が大きい大径部32と、を有する。図示される例では、軸方向の中央部に小径部31が形成され、小径部31の両端部に大径部32が形成されている。小径部31の両端部と大径部32とは、段差状に連なっている。大径部32の外周面32aは、履帯14のリンク16が下部において接触する接触部となっており、小径部31の外周面31aは、履帯14に対して離れて対向する対向部となっている。
【0030】
また、ローラ本体部25の内部には、シャフト28が挿通される挿通穴34が形成されているとともに、挿通穴34に連通して、潤滑剤保持部35が形成されている。挿通穴34は、ローラ本体部25の両端部間に亘り、一定または略一定の径寸法を有している。潤滑剤保持部35は、内部に潤滑油などの流体状の潤滑剤を保持する部分であり、挿通穴34に対して拡大されて形成されている。本実施の形態では、潤滑剤保持部35は、ローラ本体部25の長手方向の中央部に位置し、小径部31の内部にある。
【0031】
ローラ本体部25は、トラックローラ20の大きさに応じて、複数の部材から構成されていてもよいし、一体に形成されていてもよい。本実施の形態では、ローラ本体部25は、二つの円筒状のリム部材37が軸方向に突き合せられて互いに溶接されて一体的に形成されている。したがって、ローラ本体部25の軸方向の中央部には、リム部材37同士を溶接する溶接部38が形成されている。溶接部38は、リム部材37の互いに対向する端面に位置し、ローラ本体部25の全周に亘り連なっている。
【0032】
フランジ部26は、履帯14がトラックローラ20から脱落しないように、履帯14の左右の位置を規制するものである。フランジ部26は、トラックローラ20の大きさに応じて、一対でも二対以上でもよいが、本実施の形態では、ローラ本体部25の両端部、本実施の形態では各大径部32に設定された、一対のものを示す。フランジ部26は、ローラ本体部25の全周に亘り、ローラ本体部25の外周面から径方向に突出する。
【0033】
さらに、ローラ本体部25の両端部には、凹部40がそれぞれ形成されている。凹部40は、挿通穴34に連通して形成されている。凹部40から挿通穴34に亘りブッシュ41が配置されているとともに、凹部40の内部にシールアセンブリ42が配置されている。
【0034】
ブッシュ41は、シャフト28が挿通される円筒状となっている。ブッシュ41は、円筒状のブッシュ本体部44と、ブッシュ本体部44から径方向にフランジ状に突出するブッシュフランジ部45と、を有する。ブッシュ本体部44は、挿通穴34に圧入され、凹部40から潤滑剤保持部35に亘り挿通穴34の内面に外周面が密着されている。ブッシュフランジ部45は、凹部40に位置し、カラー27の端面を受けている。ブッシュ41の内径寸法は、シャフト28の外径寸法よりわずかに大きく、トラックローラ20とともにシャフト28に対して回転可能となっている。
【0035】
シールアセンブリ42は、潤滑剤保持部35からの潤滑剤の漏れ、および、外部から潤滑剤保持部35への泥や土などの回転部への入り込みを防止するものである。シールアセンブリ42は、ローラ本体部25側に位置する第一シール部としてのローラ側シール部47と、カラー27側に位置する第二シール部としてのカラー側シール部48と、が軸方向に隣接して構成されている。
【0036】
ローラ側シール部47は、円環状のシールリング50と、シールリング50の外周に保持されてローラ本体部25に対し凹部40の内面に圧接されるシール部材51と、を有する。同様に、カラー側シール部48は、円環状のシールリング52と、シールリング52の外周に保持されてカラー27に対し圧接されるシール部材53と、を有する。シールリング50,52同士が、トラックローラ20の軸方向に隣接して位置する。
【0037】
カラー27は、シールリング50,52と凹部40の内側面との間およびシール部材51,53と凹部40の内側面との間を潤滑剤が通過するのを防止する位置でシャフト28の端部に圧入される。カラー27は、円筒状のカラー本体部55と、カラー本体部55の外周面から延出する延出部56と、を有する。カラー本体部55は、シャフト28に圧入され、一端部がブッシュ41のブッシュフランジ部45に対向し、他端部が凹部40から外方に突出している。カラー本体部55の内面には、シャフト28の外周面に圧接される円環状のシール57が配置されている。また、カラー本体部55の一端部とブッシュ41のブッシュフランジ部45との間には、潤滑剤を潤滑剤保持部35からシールアセンブリ42に供給するために、軸方向の隙間が形成されている。延出部56は、カラー本体部55の外周面からローラ本体部25の端部側に屈曲して延び、先端部が凹部40内に挿入されて凹部40に密着される。ブッシュ本体部44からシャフト28に亘り形成された貫通穴に固定ピン29が挿入されてカラー27とシャフト28とが一体的に固定される。
【0038】
また、
図5(a)および
図5(b)に例を示すキャリアローラ21は、円筒状のローラ本体部60と、ローラ本体部60に形成された対をなすフランジ部61と、を有する。ローラ本体部60の軸方向の一端部には、円筒状のリテーナ62が配置され、ローラ本体部60の他端部には、カバー63が配置されて、ローラ本体部60からリテーナ62に亘り、シャフト64が配置されている。リテーナ62とシャフト64とが、固定部材により回り止めされて互いに固定されている。そして、リテーナ62から延出するシャフト64の端部がフレーム10(
図6)に対して固定されることで、ローラ本体部60がフランジ部61とともにシャフト64を中心として回転するようになっている。
【0039】
ローラ本体部60は、一定の外径寸法を有していてもよいし、外径寸法がフランジ部61の外径寸法を超えない範囲で変化していてもよい。本実施の形態において、ローラ本体部60は、相対的に外径寸法が大きい大径部66と、相対的に外径寸法が小さい小径部67と、を有する。図示される例では、軸方向の中央部に大径部66が形成され、大径部66の両端部に小径部67が形成されている。大径部66の両端部と小径部67との間に、フランジ部61がそれぞれ位置している。小径部67の外周面67aは、履帯14のリンク16が上部において接触する接触部となっており、大径部66の外周面66aは、履帯14に対して離れて対向する対向部となっている。
【0040】
また、ローラ本体部60の内部には、シャフト64が挿通される挿通穴70が形成されているとともに、挿通穴70に連通して、潤滑剤保持部71が形成されている。挿通穴70は、ローラ本体部60の両端部間に亘り、一定または略一定の径寸法を有している。潤滑剤保持部71は、内部に潤滑油などの流体状の潤滑剤を保持する部分であり、挿通穴70に対して拡大されて形成されている。本実施の形態では、潤滑剤保持部71は、ローラ本体部60の長手方向の中央部に位置し、大径部66の内部にある。
【0041】
ローラ本体部60は、キャリアローラ21の大きさに応じて、複数の部材から構成されていてもよいし、一体に形成されていてもよい。本実施の形態では、ローラ本体部60は、二つの円筒状のリム部材73が軸方向に突き合せられて互いに溶接されて一体的に形成されている。したがって、ローラ本体部60の軸方向の中央部には、リム部材73同士を溶接する溶接部74が形成されている。溶接部74は、リム部材73の互いに対向する端面に位置し、ローラ本体部60の全周に亘り連なっている。
【0042】
フランジ部61は、履帯14がキャリアローラ21から脱落しないように、履帯14の左右の位置を規制するものである。フランジ部61は、キャリアローラ21の大きさに応じて、一対でも二対以上でもよいが、本実施の形態では、ローラ本体部60の両端部よりも中央部寄り、本実施の形態では大径部66と各小径部67とが連なる位置に設定された、一対のものを示す。フランジ部61は、ローラ本体部60の全周に亘り、ローラ本体部60の外周面から径方向に突出する。
【0043】
さらに、ローラ本体部60の両端部には、凹部76がそれぞれ形成されている。凹部76は、挿通穴70に連通して形成されている。凹部76から挿通穴70に亘りブッシュ77が配置されているとともに、一端部側の凹部76の内部にシールアセンブリ78が配置されている。
【0044】
ブッシュ77は、シャフト64が挿通される円筒状となっており、挿通穴70の両端部にそれぞれ圧入され、凹部76から潤滑剤保持部71に亘り挿通穴70の内面に外周面が密着されている。ブッシュ77の内径寸法は、シャフト64の外径寸法よりわずかに大きく、キャリアローラ21とともにシャフト64に対して回転可能となっている。
【0045】
シールアセンブリ78は、潤滑剤保持部71からの潤滑剤の漏れ、および、外部から潤滑剤保持部71への泥や土などの回転部への入り込みを防止するものである。シールアセンブリ78は、ローラ本体部60側に位置する第一シール部としてのローラ側シール部80と、リテーナ62側に位置する第二シール部としてのリテーナ側シール部81と、が軸方向に隣接して構成されている。
【0046】
ローラ側シール部80は、円環状のシールリング83と、シールリング83の外周に保持されてローラ本体部60に対し凹部76の内面に圧接されるシール部材84と、を有する。同様に、リテーナ側シール部81は、円環状のシールリング85と、シールリング85の外周に保持されてリテーナ62に対し圧接されるシール部材86と、を有する。シールリング83,85同士が、キャリアローラ21の軸方向に隣接して位置する。
【0047】
リテーナ62は、シールリング83,85と凹部76の内側面との間およびシール部材84,86と凹部76の内側面との間を潤滑剤が通過するのを防止する位置でシャフト64の端部に圧入される。リテーナ62は、円筒状に形成されており、外周面が一端部側に向かい縮径される円錐台(截頭円錐)状である。リテーナ62の一端部が凹部76内に挿入され、他端部側がローラ本体部60から突出している。リテーナ62の一端部とブッシュ77との間には、潤滑剤を潤滑剤保持部71からシールアセンブリ78に供給するために、軸方向の隙間が形成されている。
【0048】
また、ローラ本体部60の他端部側の凹部76は、カバー63により覆われている。カバー63は、円筒状のカバー本体部88と、カバー本体部88の外周面から突出するカバーフランジ部89と、を有する。カバー本体部88は、凹部76に圧入され、外周面が凹部76の内側面に密着している。フランジ部61は、凹部76の外側でローラ本体部60の端部に当接している。
【0049】
さらに、シャフト64の他端部には、円形板状のリテーナプレート91が例えばボルト92などにより固定されている。
【0050】
そして、本実施の形態において、履帯ローラ13には、放熱用の溝部95が形成されている。溝部95は、トラックローラ20の少なくともいずれか、および/または、キャリアローラ1の少なくともいずれか、に形成されている。溝部95は、例えば断面略V字状に形成されている。つまり、溝部95は、底部から立ち上がる側面が、底部から離れるほど互いに遠ざかっており、底部に対し開口側に拡大されている。
【0051】
図1乃至
図4に、トラックローラ20に形成された溝部95の例を示す。この溝部95は、フランジ部26と、これらフランジ部26を除くローラ本体部25の外周面と、の少なくともいずれかに形成されている。
【0052】
図1(a)および
図1(b)に示す第一の例では、溝部95は、ローラ本体部25の外周面、すなわち小径部31の外周面31aおよび大径部32の外周面32aにそれぞれ円環状に形成されている。この例では、溝部95は、複数形成され、軸方向に互いに離れて独立している。溝部95は、小径部31の外周面31aに複数ずつ、大径部32の外周面32aに複数ずつ、それぞれ形成されている。小径部31の外周面31aに形成される溝部95については、溶接部38を避けた位置に形成されている。この例では、小径部31の外周面31aに形成されている溝部95の深さが、大径部32の外周面32aに形成されている溝部95の深さよりも大きく設定されている。また、小径部31の外周面31aに形成されている複数の溝部95の間隔は一定または略一定である。同様に、大径部32の外周面32aに形成されている複数の溝部95の間隔は一定または略一定である。
【0053】
また、
図2(a)および
図2(b)に示す第二の例では、溝部95は、トラックローラ20(ローラ本体部25)の軸方向に沿って、ローラ本体部25の外周面に複数形成されている。この例では、溝部95は、フランジ部26,26間に亘り、大径部32の外周面32aと小径部31の外周面31aとに連なって形成されている。したがって、この例では、溝部95は、溶接部38を横切って形成され、それぞれの溝部95の中央部の底部に溶接部38が位置する。溝部95は、周方向に等配または略等配されている。すなわち、溝部95は、周方向に互いに離れて独立している。例えば、溝部95は、ローラ本体部25の軸方向の中央部に向かい徐々に深さが大きくなるように形成されている。図示される例では、各溝部95は、直線状となっているが、これに限らず、例えば互いに間隔を保って周方向に湾曲した螺旋状などとなっていてもよい。
【0054】
さらに、
図3(a)および
図3(b)に示す第三の例では、溝部95は、トラックローラ2(ローラ本体部25)の軸方向に対し螺旋状に形成されている。図示される例では、溝部95は、一方のフランジ部26の近傍の位置から他方のフランジ部26の近傍の位置に亘り、螺旋状に形成されている。図示される例では、溝部95は、一方の大径部32の外周面32aと、小径部31の外周面31aと、他方の大径部32の外周面32aと、にそれぞれ独立して形成されている。したがって、この例では、小径部31の外周面31aに形成されている溝部95が溶接部38を横切って形成され、この溝部95の中央部の底部に溶接部38が位置する。
【0055】
また、
図4(a)および
図4(b)に示す第四の例では、溝部95は、フランジ部26に形成されている。この例では、溝部95は、フランジ部26の外側の端面に円環状に形成されている。図示される例では、溝部95は、一つ形成されているが、これに限らず、同心円状に複数形成されていてもよい。また、溝部95は、径方向に放射状に形成されていてもよいし、円環状および放射状に形成されていてもよい。
【0056】
その他、
図1乃至
図4に示される溝部95の例を任意に組み合わせてもよい。
【0057】
また、上記の例では、溝部95は、一定または略一定の幅寸法に形成されているが、これに限らず、幅寸法が異なる部分が一部に含まれていてもよい。
【0058】
さらに、
図5(a)および
図5(b)に、キャリアローラ21に形成された溝部95の例を示す。この溝部95は、フランジ部61と、これらフランジ部61を除くローラ本体部60の外周面と、の少なくともいずれかに形成されている。
【0059】
図示される例では、溝部95は、ローラ本体部60の外周面、すなわち大径部66の外周面66aおよび小径部67の外周面67aにそれぞれ円環状に形成されている。この例では、溝部95は、複数形成され、軸方向に互いに離れて独立している。溝部95は、大径部66の外周面66aに複数ずつ、小径部67の外周面67aに複数ずつ、それぞれ形成されている。大径部66の外周面66aに形成される溝部95については、溶接部74を避けた位置に形成されている。この例では、大径部66の外周面66aに形成されている溝部95の幅寸法が、小径部67の外周面67aに形成されている溝部95の幅寸法よりも小さく、大径部66の外周面66aに形成されている溝部95の深さが、小径部67の外周面67aに形成されている溝部95の深さよりも大きく、それぞれ設定されている。また、大径部66の外周面66aに形成されている複数の溝部95の幅寸法および間隔は一定または略一定である。同様に、小径部67の外周面67aに形成されている複数の溝部95の幅寸法および間隔は一定または略一定である。
【0060】
なお、キャリアローラ21においても、
図2乃至
図4に示されるトラックローラ20の例と同様に、溝部95がローラ本体部60の外周面に、軸方向に沿って、および/または螺旋状に、形成されてもよいし、フランジ部61の端面に形成されてもよいし、それらを任意に組み合わせてもよい。
【0061】
溝部95は、トラックローラ20および/またはキャリアローラ21の製造時に形成される。例えば、本実施の形態のように、溶接部38,74を有する場合には、溶接部38,74の溶接後に切削加工などにより形成してもよいし、溶接部38,74を有さない場合には、鋳造、あるいは転造時などに形成してもよい。
【0062】
なお、上記のように、トラックローラ20が溶接部38を有する場合、および、キャリアローラ21が溶接部74を有する場合、製造上、溶接部38,74に沿って不可避的に溝部が形成されることがある。本実施の形態の溝部95は、このような溶接に伴い溶接部38,74に沿って不可避的に形成される溝部を含まないものとする。
【0063】
このように、フランジ部26,61と、フランジ部26,61を除くローラ本体部25,60の外周面と、の少なくともいずれかに、底部の少なくとも一部が溶接部を伴わない放熱用の溝部95を形成することで、履帯ローラ13(トラックローラ20、キャリアローラ21)の表面積を溝部95により大きくし、放熱性を向上させることができるので、走行時の履帯14との摩擦により仮に発熱しても、溝部95により拡大された表面から熱を放出し、温度上昇を抑制できる。したがって、履帯ローラ13が高温になることに起因するシール部材51,53あるいはシール部材84,86、あるいは潤滑剤などの劣化を抑制でき、潤滑剤の漏れによる土壌の汚染、泥などの入り込み、および、潤滑不良に伴う焼き付きなどを抑制できる。
【0064】
溝部95を、ローラ本体部25,60の外周面において、ローラ本体部25,60の軸方向に対し交差する方向に形成したり、ローラ本体部25,60の軸方向に沿って形成したり、ローラ本体部25,60の軸方向に対し螺旋状に形成したりすることで、ローラ本体部25,60の外周面を有効に利用して、溝部95を多数、容易に形成できる。
【0065】
また、フランジ部26,61に形成されている溝部95を、同心円状、あるいは径方向に放射状とすることで、フランジ部26,61を有効に利用して、溝部95を多数、容易に形成できる。
【0066】
そして、上記の履帯ローラ13(トラックローラ20および/またはキャリアローラ21)を備えることで、履帯ローラ13を滑らかに回転させることが可能となるので、履帯ローラ13と履帯14との摩擦を抑制でき、履帯ローラ13や履帯14の摩耗や破損を抑制できる履帯式走行装置2を提供できるとともに、この履帯式走行装置2を採用することで、耐久性および信頼性が高い履帯式機械1を提供できる。
【0067】
なお、上記の実施の形態においては、履帯ローラ13(トラックローラ20および/またはキャリアローラ21)を説明するために内部構造の例を詳細に記載したが、本発明は、上記のような内部構造を有する履帯ローラ13に限らず、任意の内部構造を有する履帯ローラに適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、履帯ローラ、履帯式走行装置、および履帯式機械を製造、販売する産業において利用可能である。
【符号の説明】
【0069】
1 履帯式機械
2 履帯式走行装置
13 履帯ローラ
14 履帯
25,60 ローラ本体部
26,61 フランジ部
95 溝部