(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129377
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】車両用の冷却装置
(51)【国際特許分類】
B60K 11/04 20060101AFI20240919BHJP
F01P 11/10 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
B60K11/04 K
F01P11/10 E
F01P11/10 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038544
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】521537852
【氏名又は名称】ダイムラー トラック エージー
(74)【代理人】
【識別番号】100176946
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 智恵
(74)【代理人】
【識別番号】110003649
【氏名又は名称】弁理士法人真田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】プラティック クマール プルシティ
(72)【発明者】
【氏名】スミット マーラ
(72)【発明者】
【氏名】サラスチャンドラ コナパラ
(72)【発明者】
【氏名】カーティック クマール
(72)【発明者】
【氏名】小川 徹
(72)【発明者】
【氏名】亀田 誠
【テーマコード(参考)】
3D038
【Fターム(参考)】
3D038AA05
3D038AB03
3D038AC12
3D038AC14
3D038AC15
3D038AC23
(57)【要約】
【課題】車長方向のコンパクト化が可能な冷却装置を提供する。
【解決手段】車両用の冷却装置10であって、駆動用装置とラジエータとの間に介在する円筒状のシュラウド11と、シュラウド11の後方側に配置されるとともにシュラウド11の後端部11Rに取り付けられ、且つ、駆動用装置に固定される第一部材12と、シュラウド11の前方側に配置されるとともにシュラウド11の前端部11Fに押圧され、且つ、ラジエータに固定される第二部材13と、を備えており、第二部材13は、シュラウド11の前端部11Fと向かい合う面においてシュラウド11の周方向に沿って車高方向及び車幅方向の双方に延在した接触面15を有し、シュラウド11は、前端部11Fが接触面15に対して車高方向及び車幅方向の双方へ摺動可能な状態で第二部材12に押圧されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動用装置を冷却するための冷却装置であって、
前記駆動用装置と前記駆動用装置に対して前記車両の前方側に配置されたラジエータとの間に介在し、前記ラジエータに対して前記車両の後方側に配置されたファンの作動による風を導くための通気経路を形成する円筒状のシュラウドと、
前記シュラウドに対して前記後方側に配置されるとともに前記シュラウドの後端部に取り付けられ、且つ、前記駆動用装置に固定される第一部材と、
前記シュラウドに対して前記前方側に配置されるとともに前記シュラウドの前端部に押圧され、且つ、前記ラジエータに固定される第二部材と、
を備えており、
前記第二部材は、前記シュラウドの前記前端部と向かい合う面において前記シュラウドの周方向に沿って車高方向及び車幅方向の双方に延在した接触面を有し、
前記シュラウドは、前記前端部が前記接触面に対して前記車高方向及び前記車幅方向の双方へ摺動可能な状態で前記第二部材に押圧されている
ことを特徴とする車両用の冷却装置。
【請求項2】
前記第二部材は、前記ラジエータに固定された本体部と、前記本体部に対し前記後方側に配設されており、前記シュラウドの前記周方向に沿ってリング状に前記接触面が形成されたスライディングプレートと、を含み、
前記スライディングプレートは、前記本体部よりも摩擦抵抗が少なく且つ硬質な材料で形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用の冷却装置。
【請求項3】
前記第二部材は、前記ラジエータに固定された本体部と、前記本体部に対して前記後方側に配設され前記シュラウドの前記周方向に沿ってリング状に前記接触面が形成されたスライディングプレートと、を含み、
前記スライディングプレートには、前記シュラウドが前記接触面から離脱することを防止する離脱防止構造が形成されている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用の冷却装置。
【請求項4】
前記離脱防止構造として、前記スライディングプレートの前記接触面における径方向の外縁部及び前記径方向の内縁部のそれぞれが先端へ向かうほど前記前方側に位置する傾斜面をなす
ことを特徴とする請求項3に記載の車両用の冷却装置。
【請求項5】
前記離脱防止構造として、前記スライディングプレートの前記接触面において径方向の外縁部の先端が前記後方へ折り倒されている
ことを特徴とする請求項3に記載の車両用の冷却装置。
【請求項6】
前記第一部材は、周方向に沿って前記車両の前後方向に延在した当接面を外周面に有したリング状部材で形成されており、
前記シュラウドは、前記後端部の内周面が前記当接面に面接触した状態で、前記第一部材に対して取り付けられている
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用の冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、車両用の冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば駆動用装置としてエンジンを備えた車両において、エンジンを冷却するためのラジエータをエンジンに対して車長方向の前方に配設するとともに、ラジエータ冷却用の外気を引き込むファンをラジエータとエンジンの間に配設した冷却装置が知られている。
例えば特許文献1には、円筒状のファンカバーがラジエータとファンとの間に配設された冷却装置が開示されている。詳しくは、ラジエータの車長方向の後方に配置されたファンシュラウド(特許文献1の
図1中符号220)と、ファンの外周側を覆うように配置されたファンリング(同
図1中符号330)との間にファンカバー(同
図1中符号100)が懸架されている。これらファンシュラウド,ファンカバー及びファンリングにより通気空間を形成してファンで引き込んだ外気で効率的にラジエータでの熱交換ができるとされる。
【0003】
上記特許文献1の冷却装置では、ファンカバーの取付構造として、ファンカバーの前端側に設けられた第一係合部(同
図1中符号110)とファンシュラウドの後端側に設けられた取付突部(同
図1中符号221)とが車長方向(前後方向)に並んで嵌合する固定構造を有している。特許文献1のファンカバーは、上記の固定構造によりファンシュラウドに対して脱落しにくいように固定される一方、ファンリングに対しては相対的移動可能な状態で取り付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記の冷却装置では、例えば設置スペースの制約が多い小型トラックなどにおけるレイアウトの関係上、シュラウドを含めた冷却装置全体のコンパクト化が望まれている。しかし、特許文献1の冷却装置では、上記固定構造のために車長方向にある程度長さを確保する必要があり、特に車長方向に関しコンパクト化が困難だった。
よって、特許文献1をはじめとする従来の車両用の冷却装置では、冷却装置のコンパクト化を図るうえで、改善の余地がある。
本件は、上記のような課題に鑑み創案されたものであり、車長方向のコンパクト化が可能な車両用の冷却装置を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本件は、上記の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様又は適用例として実現できる。
(1)適用例に係る車両用の冷却装置は、車両の駆動用装置を冷却するための冷却装置であって、前記駆動用装置と前記駆動用装置に対して前記車両の前方側に配置されたラジエータとの間に介在し、前記ラジエータに対して前記車両の後方側に配置されたファンの作動による風を導くための通気経路を形成する円筒状のシュラウドと、前記シュラウドに対して前記後方側に配置されるとともに前記シュラウドの後端部に取り付けられ、且つ、前記駆動用装置に固定される第一部材と、前記シュラウドに対して前記前方側に配置されるとともに前記シュラウドの前端部に押圧され、且つ、前記ラジエータに固定される第二部材と、を備えており、前記第二部材は、前記シュラウドの前記前端部と向かい合う面において前記シュラウドの周方向に沿って車高方向及び車幅方向の双方に延在した接触面を有し、前記シュラウドは、前記前端部が前記接触面に対して前記車高方向及び前記車幅方向の双方へ摺動可能な状態で前記第二部材に押圧されている。
【0007】
第二部材が接触面を有しており、シュラウドの前端部が第二部材の接触面に摺動可能に接触した状態で押圧されている。接触面は車両の前後方向の寸法が小さい(厚みが薄い)板片で形成できるので、嵌合式の固定構造を有する従来の技術に比べて、前後方向の寸法をコンパクト化することが可能である。よって、車両用の冷却装置を車長方向にコンパクト化することが可能である。
もちろん、シュラウドは、第一部材と第二部材とに接しておりラジエータ側からエンジン側への通気経路を形成するので、ファンの送風効率を向上し、冷却装置の基本的な性能を確保できる。
すなわち、冷却装置の基本的な性能を確保したうえで、車両用の冷却装置を車長方向にコンパクト化することが可能である。
【0008】
(2)適用例に係る車両用の冷却装置において、前記第二部材は、前記ラジエータに固定された本体部と、前記本体部に対し前記後方側に配設されており、前記シュラウドの前記周方向に沿ってリング状に前記接触面が形成されたスライディングプレートと、を含み、前記スライディングプレートは、前記本体部よりも摩擦抵抗が少なく且つ硬質な材料で形成されていてもよい。
この場合、第二部材の接触面をシュラウドの前端部が摺動しやすい。よって、シュラウドの前端部が接触面に摺動する構造において、摺動性と耐久性とを確保することができる。
【0009】
(3)適用例に係る車両用の冷却装置において、前記第二部材は、前記ラジエータに固定された本体部と、前記本体部に対し前記後方側に配設され、前記シュラウドの前記周方向に沿ってリング状に前記接触面が形成されたスライディングプレートと、を含み、前記スライディングプレートには、前記シュラウドが前記接触面から離脱することを防止する離脱防止構造が形成されていてもよい。
これにより、シュラウドを第二部材に固定せずに接触させるだけの押圧構造であっても、第二部材がシュラウドから離れることを抑制することができる。
【0010】
(4)適用例に係る車両用の冷却装置において、前記離脱防止構造として、前記スライディングプレートの前記接触面における径方向の外縁部及び前記径方向の内縁部のそれぞれが、先端へ向かうほど前記前方側に位置する傾斜面をなすものであってもよい。
この場合、シュラウドの前端部が、接触面から一時的にずれたとしても、ずれた状態から傾斜面に沿って接触面へ案内されるので、接触面と接触する通常の位置に復帰しやすい。これにより、離脱を防止することができる。
(5)適用例に係る車両用の冷却装置において、前記離脱防止構造として、前記スライディングプレートの前記接触面において径方向の外縁部の先端が前記後方へ折り倒されているものであってもよい。
この場合、シュラウドの前端部が移動したとしても、前端部が外縁部に突き当たり、前端部の移動が規制されるので、接触面から離脱しない。よって、離脱を防止することができる。
【0011】
(6)適用例に係る車両用の冷却装置において、前記第一部材は、周方向に沿って前記車両の前後方向に延在した当接面を外周面に有したリング状部材で形成されており、前記シュラウドは、前記後端部の内周面が前記当接面に面接触した状態で、前記第一部材に対して固定されていてもよい。
この場合、シュラウドの後端部が第一部材の当接面に面接触されているのでシュラウドと第一部材とが離れることを抑制できる。
【発明の効果】
【0012】
適用例に係る車両用の冷却装置によれば、車長方向の寸法をコンパクト化することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】適用例の係る車両用の冷却装置の側面図である。
【
図3】
図1に示す車両用の冷却装置のうち要部を抽出して示す分解斜視図である。
【
図4】適用例に係る車両用の冷却装置における離脱防止構造の説明図である。
【
図5】適用例に係る車両用の冷却装置における離脱防止構造に関する変形例の説明図である。
【
図6】適用例に係る車両用の冷却装置における離脱防止構造に関する別の変形例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図面を参照して、本件の適用例に係る車両用の冷却装置について説明する。以下の適用例はあくまでも例示に過ぎず、この適用例で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。下記の適用例の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。また、下記の適用例の各構成は、必要に応じて取捨選択でき、あるいは公知技術に含まれる各種構成と適宜組み合わせられる。
【0015】
以下の説明では、冷却装置が搭載された車両の前進方向を前方(図中「FR」)とし、この反対方向を後方(「RR」)とする。また、車両の前方を向いた状態を基準にして左右方向と上下方向とを定める。図中「LH」は左,「RH」は右,「UP」は上,「DW」は下を示す。
車両の前後方向(前方及び後方)に沿う方向は車両の長さ方向(車長方向)に対応する。また、左右方向は車両の車幅方向(車幅方向)に対応し、上下方向は車高方向(車高方向)に対応する。
【0016】
[1.構成]
図1は、一実施形態に係る車両用の冷却装置の側面図である。
図1は、冷却装置10を車両の左側から見た側面図であり、冷却装置10の一部を断面(
図3中の矢印Aから見た断面)で示している。
図2は、
図1の冷却装置10の要部拡大図である。また、
図3は、
図1の冷却装置10の要部分解斜視図である。
図1に示す冷却装置10は、トラック等の車両(図示省略)に搭載されており、冷却対象であるエンジン(駆動用装置)2に対して前方に配置されたファン3と、ファン3に対して前方に配置されたラジエータ4とを含んでいる。
【0017】
。
この冷却装置10は、エンジン2とラジエータ4との間に冷却水などの冷却媒体を循環させる循環経路(図示省略)を設けてエンジン2を冷却するものであり、ラジエータ4は車両走行時の走行風とファン3の送風とにより空気冷却されるようになっている。
すなわち、ファン3は、軸が前後方向に沿う姿勢でエンジン2の前面(ラジエータ4の後方)に取り付けられた送風機であり、エンジン2により駆動されて回転して、前方から外気を吸い込み後方へ吐き出すように構成されている。このファン3の作動により車両の低速走行時や停車時にもラジエータ4に対して送風される。
図1中の白抜き矢印は、ファン3による送風方向を示す。
【0018】
図1に示すように冷却装置10には、エンジン2とラジエータ4との間に介在するシールシュラウド(シュラウド)11と、シールシュラウド11に対して後方側に配置されておりエンジン2側に固定されたファンリング(第一部材)12と、シールシュラウド11に対して前方側に配置されておりラジエータ4側に固定されたラジエータシュラウド(第二部材)13とが含まれている。
【0019】
シールシュラウド11、ファンリング12及びラジエータシュラウド13は、ファン3の作動による風を導くための通気経路を形成するための部材である。これらの部材11~13は、車両の前方(ラジエータ4側)から後方(エンジン2側)へ向かってラジエータシュラウド13、シールシュラウド11、ファンリング12の順に配置されている。
シールシュラウド11は、軸方向の両端が開口をなす円筒状のゴム製部材(可撓性部材)であり、軸が前後方向に沿う姿勢で配置されている。このシールシュラウド11の周面で囲饒された空間が上記の通気経路をなす。
【0020】
ファンリング12は、
図1~
図3に示すように、ファン3の外周側を覆うように配置されたリング状部材で形成されており、シールシュラウド11の後端部11Rをエンジン2側に取り付けるための取付部材である。ファンリング12の内径は、シールシュラウド11の後端部11Rの内径と略同一寸法に設定されている。
【0021】
ファンリング12は、取付部12Aを介してエンジン2に固定されるとともに、シールシュラウド11に対して後方側においてシールシュラウド11と同軸上に配置されている。このファンリング12の外周面12Bに対し、シールシュラウド11の後端部11Rが取り付けられている。
【0022】
図1~
図3に示す例では、ファンリング12の外周面12Bは、周方向に沿って前後方向に延在した当接面をなす。この当接面(外周面12B)に対してシールシュラウド11の後端部11Rの内周面を面接触させた状態で、シールシュラウド11の後端部11Rがファンリング12に取り付けられている。ファンリング12に対するシールシュラウド11の後端部11Rの取り付けは、固定式および可動式の何れであってもよい。例えば、シールシュラウド11の後端部11Rは、例えば
図2に示すように、シールシュラウド11の後端部11Rの外周に取り付けられた環状バンド14により、ファンリング12に対して相対的に移動しないように固定される。なお、環状バンド14により固定された場合であっても、ファンリング12に対するシールシュラウド11の後端部11Rの移動が許容されてよい。
【0023】
シールシュラウド11の前端部11Fは、ラジエータシュラウド13に押圧されている。
ラジエータシュラウド13は、ラジエータ4の後面側、且つ、シールシュラウド11に対して前方側に配置されており、シールシュラウド11の前端部11Fをラジエータ4側に押圧する(接触させる)ための被押圧部材である。ラジエータシュラウド13には、前後に連通した開口13Cが設けられており、ラジエータシュラウド13、シールシュラウド11及びファンリング12によって、ラジエータ4の後面からエンジン2の前面にわたる通気経路が形成される。
【0024】
ラジエータシュラウド13は、
図1~
図3に示すように、ラジエータ4に固定された本体部13Aと、本体部13A対して後方側に配設されたスライディングプレート13Bとを含んでいる。
スライディングプレート13Bは、シールシュラウド11の前端部11Fの周方向に沿うリング状に形成された部位である。ラジエータシュラウド13は、スライディングプレート13Bがシールシュラウド11の前端部11Fに向かい合う姿勢で配置されている。
【0025】
スライディングプレート13Bでシールシュラウド11の前端部11Fと向かい合う面(すなわち後側を向いた面)には、上下方向及び左右方向の双方に延在した接触面15が設けられている。接触面15は、シールシュラウド11の前端部11Fを摺動可能に当接させるための面部であり、シールシュラウド11の前端部11Fの周方向の全周に対応する範囲に形成されている。
すなわち、シールシュラウド11の前端部11Fは、ラジエータシュラウド13に固定されておらず、スライディングプレート13Bの接触面15に対して上下方向及び左右方向の双方に摺動可能に接触した状態でラジエータシュラウド13に押圧されている。
【0026】
シールシュラウド11の前端部11Fは、
図1及び
図2に示すように、先端部を径方向の内側へ向けて前方へ向かって凸をなすように湾曲した形状をなす。この湾曲形状により、シールシュラウド11の前端部11Fは、その外周面において周方向に沿って接触面15に対して線接触するようになっている。そのため、シールシュラウド11の前端部11Fは、スライディングプレート13Bの接触面15に対して接触した状態での押圧を維持しやすく、且つ、接触面15に沿って摺動しやすいものとなっている。
【0027】
ラジエータシュラウド13は、本体部13Aとスライディングプレート13Bとで異なる材料を用いて形成されている。具体的には、スライディングプレート13Bは、本体部13Aよりも摩擦抵抗が少なく且つ硬質な材料で形成されている。言い換えれば、スライディングプレート13Bは、シールシュラウド11の前端部11Fの接触と摺動とに対して、損壊しにくく、且つ、摺動させやすい材料で形成されている。
【0028】
本体部13Aの材料の例として比較的安価なポリプロピレン(PP樹脂)が挙げられる。スライディングプレート13Bの材料の例として、ポリプロピレンよりも摩擦抵抗が少なく且つ硬質なポリオキシメチレン(POM樹脂)が挙げられる。この場合、ラジエータシュラウド13の一部だけを、比較的高価なPOM樹脂(摩擦抵抗が少なく且つ硬質な材料)で形成するので、ラジエータシュラウド13の全体をPOM樹脂で形成するよりも材料コストを抑制することができる。
【0029】
また、スライディングプレート13Bの内外周両側には、シールシュラウド11が接触面15から離脱することを防止する離脱防止構造16が形成されている。
すなわち、シールシュラウド11は、後端部11Rにおいてファンリング12に取り付けられる一方、前端部11Fにおいてラジエータシュラウド13のスライディングプレート13Bに対して固定されておらず、摺動可能に接触している。そのため、エンジン2の駆動に伴う振動(外力)に追従して、ラジエータシュラウド13に対して相対的に移動(振動)し得る。そこで、接触面15が上下方向及び左右方向の双方に延在しているので、シールシュラウド11の前端部11Fの可動域が上下方向及び左右方向に限られる。ただし、接触面15を超えてシールシュラウド11が移動した場合、シールシュラウド11が接触面15から離脱してしまう。
そこで、シールシュラウド11が移動した場合に、シールシュラウド11が接触面15から離脱することを防止するために離脱防止構造16が設けられている。
【0030】
具体的には、
図1~
図3に示すように、スライディングプレート13Bの接触面15における径方向の外縁部15A及び内縁部15Bのそれぞれが先端へ向かうほど、前方側に位置する傾斜面をなす。この傾斜面は、シールシュラウド11の前端部11Fが接触面15から一時的にずれたときに、ずれた状態から接触面15に接触した状態へ復帰させるように案内するガイド面をなす。すなわち、この傾斜面によりずれた状態から接触面15に接触した状態へ復帰させる構造が、離脱防止構造16として機能する。
【0031】
図4はシールシュラウド11の前端部11Fとスライディングプレート13Bとを拡大して示している。
図4において、実線で示すシールシュラウド11の前端部11Fは、振動(外力)が作用しておらず移動していない状態(通常状態)にある。破線は、振動(外力)が作用して、シールシュラウド11の前端部11Fが上方へ移動した状態を例示している。
図4において破線で示すように、シールシュラウド11の前端部11Fが上方(接触面15から径方向の外側へ離脱した位置)へ一時的に移動したとしても、前端部11Fは外縁部15Aの傾斜面に沿って接触面15へ案内されるため、接触面15に接触した状態(
図4中実線で示す前端部11Fの位置)に復帰しやすい。
シールシュラウド11の前端部11Fが接触面15から径方向の内側へ離脱した場合には、内縁部15Bの傾斜面に沿って接触面15へ案内される。
【0032】
また、本適用例のスライディングプレート13Bでは、接触面15の寸法(上下方向及び左右方向の寸法)は、シールシュラウド11の可動域を考慮して設定されている。
具体的には、通常状態におけるシールシュラウド11の前端部11Fの位置から接触面15の径方向外側の先端までの寸法Hは、エンジン2の駆動に伴う振動(外力)に起因するシールシュラウド11の可動域よりも大きく設定されるとよい。これにより、エンジン2の駆動に伴う通常の振動だけでは、シールシュラウド11の前端部11Fがスライディングプレート13Bから離脱し難くなる。
路面からの衝撃や、エンジン2の空ぶかしなどによる大きな振動が生じたとしても、上記の離脱防止構造16により離脱が抑制される。
【0033】
また、シールシュラウド11は、可動域を確保する観点から撓みやすい形状に形成されている。具体的には、
図1、
図2に示すように、側面から見た断面形状が径方向の外側へ向かって膨出した形状をなし、前後方向及び上下方向に撓みやすくなっている。
また、シールシュラウド11の外周には、周方向の複数個所に分散してリブ17が設けられている。リブ17は、シールシュラウド11を補強するものである。
【0034】
ここで、シールシュラウド11とファンリング12とのそれぞれは、ファン3の送風効率を向上する観点から、ファン3の外周との隙間ができるだけ小さくなるように配置されている。一方、シールシュラウド11は、可動域を確保する観点から前後方向及び上下方向に撓みやすくする必要がある。そこで、
図2に示すように、リブ17は、シールシュラウド11の外周においてファン3(
図2中点線で示す)に重複する領域(
図2の符号11X)に形成されている。これにより、シールシュラウド11のうち、ファン3に重複する領域(
図2の符号11X)ではリブ17により剛性が確保され、ファン3に重複しない領域(
図2の符号11Y)、具体的にはファン3の前面よりも前方の領域で撓みやすさが確保される。
ファン3に重複する領域(
図2の符号11X)でリブ17により剛性が確保されることで、シールシュラウド11が撓みにくくなるので、シールシュラウド11とファン3の外周との隙間ができるだけ小さく設定し、ファン3の送風効率を確保することができる。
【0035】
[2.作用及び効果]
本適用例に係る冷却装置10によれば、ラジエータシュラウド13が接触面15を有しており、シールシュラウド11の前端部11Fがラジエータシュラウド13の接触面15に摺動可能に接触した状態で押圧されている。
接触面15は前後方向の寸法が小さい(側面から見て厚みの薄い)板片で形成できる。そのため、嵌合式の固定構造を有する従来の技術に比べて、シールシュラウド11とラジエータシュラウド13との押圧構造の前後方向の寸法をコンパクト化することが可能である。よって、車両用の冷却装置10を車長方向にコンパクト化することが可能である。
もちろん、シールシュラウド11は、ファンリング12(第一部材)とラジエータシュラウド13(第二部材)とに押圧され、ラジエータ4側からエンジン2側への通気経路を形成するので、ファン3の送風効率を向上し、冷却装置10の基本的な性能を確保できる。
すなわち、冷却装置10の基本的な性能を確保したうえで、車両用の冷却装置を車長方向にコンパクト化することが可能である。
【0036】
また、本適用例に係る冷却装置10のラジエータシュラウド13では、接触面15を含むスライディングプレート13Bが本体部13Aよりも摩擦抵抗が少なく且つ硬質な材料で形成されている。そのため、スライディングプレート13Bの接触面15をシールシュラウド11の前端部11Fが摺動しやすい。よって、シールシュラウド11の前端部11Fが接触面15に摺動する構造において、摺動性と耐久性とを確保することができる。
【0037】
また、本適用例に係る冷却装置10のラジエータシュラウド13では、接触面15を含むスライディングプレート13Bに離脱防止構造16が設けられている。
具体的には、接触面15において径方向の外縁部15A及び内縁部15Bのそれぞれが先端へ向かうほど前方に位置する傾斜面をなす。これにより、シールシュラウド11の前端部11Fが、接触面15から一時的にずれたとしても、ずれた状態から傾斜面に沿って接触面15へ案内されるので、接触面15と接触する通常の位置に復帰しやすい。
よって、シールシュラウド11をラジエータシュラウド13に固定せずに接触させるだけの押圧構造であっても、シールシュラウド11がラジエータシュラウド13から離れることを抑制することができる。
また、シールシュラウド11の後端部11Rは、ファンリング12の外周面12B(当接面)に面接触した状態でファンリング12に取り付けられているので、シールシュラウド11とファンリング12とが離れることを抑制できる。
【0038】
[3.その他]
図5は、離脱防止構造16の変形例として離脱防止構造16′を示す。この場合、スライディングプレート13Bの接触面15において径方向の外縁部15A′の先端が後方へ折り倒されている。この構造により、外力によってシールシュラウド11の前端部11Fが移動したとしても、
図5において破線で示すように前端部11Fが外縁部15A′に突き当たり、前端部11Fの移動が規制されるので、接触面15から離脱しない。
よって、シールシュラウド11をラジエータシュラウド13に固定せずに接触させるだけの押圧構造であっても、シールシュラウド11からラジエータシュラウド13が離れることを抑制することができる。
【0039】
図6は、
図5の離脱防止構造16′の変形例として、接触面15を径方向の外側へ大きく延出させた構造16′′を示す。この場合、接触面15を径方向の外側へ拡張されていることで、前端部11Fが接触面15から離脱しにくくなっている。
そのほか、上記の実施形態では、シールシュラウド11の後端部11Rとファンリング12とが固定される場合を例に挙げたが、シールシュラウド11の後端部11Rとファンリング12とも相対的移動可能に取り付けられていてもよい。
【0040】
以下、本実施形態に関する付記を開示する。
[付記1]
車両の駆動用装置を冷却するための冷却装置であって、
前記駆動用装置と前記駆動用装置に対して前記車両の前方側に配置されたラジエータとの間に介在し、前記ラジエータに対して前記車両の後方側に配置されたファンの作動による風を導くための通気経路を形成する円筒状のシュラウドと、
前記シュラウドに対して前記後方側に配置されるとともに前記シュラウドの後端部に取り付けられ、且つ、前記駆動用装置に固定される第一部材と、
前記シュラウドに対して前記前方側に配置されるとともに前記シュラウドの前端部に押圧され、且つ、前記ラジエータに固定される第二部材と、
を備えており、
前記第二部材は、前記シュラウドの前記前端部と向かい合う面において前記シュラウドの周方向に沿って車高方向及び車幅方向の双方に延在した接触面を有し、
前記シュラウドは、前記前端部が前記接触面に対して前記車高方向及び前記車幅方向の双方へ摺動可能な状態で前記第二部材に押圧されている
ことを特徴とする車両用の冷却装置。
[付記2]
前記第二部材は、前記ラジエータに固定された本体部と、前記本体部に対し前記後方側に配設されており、前記シュラウドの前記周方向に沿ってリング状に前記接触面が形成されたスライディングプレートと、を含み、
前記スライディングプレートは、前記本体部よりも摩擦抵抗が少なく且つ硬質な材料で形成されている
ことを特徴とする付記1に記載の車両用の冷却装置。
[付記3]
前記第二部材は、前記ラジエータに固定された本体部と、前記本体部に対して前記後方側に配設され前記シュラウドの前記周方向に沿ってリング状に前記接触面が形成されたスライディングプレートと、を含み、
前記スライディングプレートには、前記シュラウドが前記接触面から離脱することを防止する離脱防止構造が形成されている
ことを特徴とする付記1又は2に記載の車両用の冷却装置。
[付記4]
前記離脱防止構造として、前記スライディングプレートの前記接触面における径方向の外縁部及び前記径方向の内縁部のそれぞれが先端へ向かうほど前記前方側に位置する傾斜面をなす
ことを特徴とする付記3に記載の車両用の冷却装置。
[付記5]
前記離脱防止構造として、前記スライディングプレートの前記接触面において径方向の外縁部の先端が前記後方へ折り倒されている
ことを特徴とする付記3に記載の車両用の冷却装置。
[付記6]
前記第一部材は、周方向に沿って前記車両の前後方向に延在した当接面を外周面に有したリング状部材で形成されており、
前記シュラウドは、前記後端部の内周面が前記当接面に面接触した状態で、前記第一部材に対して取り付けられている
ことうを特徴とする付記1~5の何れか一つに記載の車両用の冷却装置。
【符号の説明】
【0041】
2 エンジン
3 ファン
4 ラジエータ
10 冷却装置
11 シールシュラウド (シュラウド)
11F 前端部
11R 後端部
12 ファンリング (第一部材)
12A 取付部
12B 外周部 (当接面)
13 ラジエータシュラウド (第二部材)
13A 本体部
13B スライディングプレート
13C 開口
14 環状バンド
15 接触面
15A,15A′ 外縁部
15B 内縁部
16,16′,16′′ 離脱防止構造
17 リブ