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  • 特開-水トリーの検出方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129382
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】水トリーの検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 25/72 20060101AFI20240919BHJP
   G01N 21/95 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
G01N25/72 K
G01N21/95 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038555
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】000002255
【氏名又は名称】SWCC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福嶋 瞬
【テーマコード(参考)】
2G040
2G051
【Fターム(参考)】
2G040AA06
2G040AB06
2G040BA14
2G040BA28
2G040CA12
2G040CA23
2G040EA08
2G040EB02
2G040EC01
2G040GC01
2G040HA14
2G040ZA01
2G051AA90
2G051AB02
2G051BB05
2G051CB05
(57)【要約】
【課題】作業者の技術レベルの影響が抑制された水トリーの検出方法を提供すること。
【解決手段】水トリーの検出方法は、水トリーを含むケーブルのスライス片を準備する工程と、スライス片の水トリーの内部に水を含む第1液体を浸透させる工程と、水を含む第2液体に第1液体を浸透させたスライス片を浸漬した状態で、暗視野観察によりスライス片の水トリーを検出する工程と、を含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水トリーを含むケーブルのスライス片を準備する工程と、
前記スライス片の前記水トリーの内部に水を含む第1液体を浸透させる工程と、
水を含む第2液体に前記第1液体を浸透させた前記スライス片を浸漬した状態で、暗視野観察により前記スライス片の前記水トリーを検出する工程と、
を含む、水トリーの検出方法。
【請求項2】
請求項1に記載の水トリーの検出方法において、
前記第1液体は、界面活性剤をさらに含むことを特徴とする、水トリーの検出方法。
【請求項3】
請求項2に記載の水トリーの検出方法において、
前記第1液体を浸透させる工程では、前記スライス片を前記第1液体で煮沸することを特徴とする、水トリーの検出方法。
【請求項4】
請求項1に記載の水トリーの検出方法において、
前記第2液体は、水溶性の有機溶媒と界面活性剤とをさらに含むことを特徴とする、水トリーの検出方法。
【請求項5】
請求項4に記載の水トリーの検出方法において、
前記水溶性の有機溶媒は、エタノールであることを特徴とする、水トリーの検出方法。
【請求項6】
請求項1に記載の水トリーの検出方法において、
前記水トリーを検出する工程では、2枚のガラス板の間に前記第1液体を浸透させた前記スライス片と、前記第2液体とを挟み込んだ状態で前記水トリーを検出することを特徴とする、水トリーの検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水トリーの検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高電圧用のケーブルとして架橋ポリエチレン絶縁ビニルシースケーブル(CVケーブル)などが多く使用されている。CVケーブルは、例えば、導体と、導体の周りに配置された架橋ポリエチレンを含む絶縁層と、絶縁層の周りに配置されたシースとを有する。このようなCVケーブルは、高電圧下かつ高湿度下で長時間使用すると、絶縁層に樹枝状の亀裂(水トリー)が発生することがある。水トリーは、メチレンブルーで染色することで検出できることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、CVケーブルの絶縁層に生じたトリー状電気的欠損部分(水トリー)をメチレンブルーで染色して検出する方法が記載されている。特許文献1に記載の検出方法では、まず、CVケーブルをカットしてスライスカット物を得る。次いで、スライスカット物を入れたメチレンブルー溶解水溶液を煮沸する。最後に、顕微鏡などでトリー状電気的欠損部分を観察する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-83922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の検出方法では、スライスカット物を作製するときのばらつき、メチレンブルー溶解水溶液におけるメチレンブルーの濃度や煮沸時間の違いによる染色度合いのばらつきにより、作業者毎にトリー状電気的欠損部分の検出精度が異なるという問題があった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、作業者の技術レベルの影響が抑制された水トリーの検出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明の一態様によれば、
水トリーを含むケーブルのスライス片を準備する工程と、
前記スライス片の前記水トリーの内部に水を含む第1液体を浸透させる工程と、
水を含む第2液体に前記第1液体を浸透させた前記スライス片を浸漬した状態で、暗視野観察により前記スライス片の前記水トリーを検出する工程と、
を含む、水トリーの検出方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、作業者の技術レベルによらず水トリーを高感度に検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、ケーブルの構成を示す模式的な断面図である。
図2図2は、水トリーの検出方法を説明するためのフローチャートである。
図3図3A~Cは、水トリーの検出結果の例を示す暗視野画像である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施の形態に係る水トリーの検出方法について、図面を参照して詳細に説明する。本発明に係る水トリーの検出方法は、以下に示す実施の形態に限定されない。本実施の形態に係る水トリーの検出方法は、CVケーブルなどにおける架橋ポリエチレンを含む絶縁層に生じることがある樹枝状の亀裂(水トリー)を検出するための方法である。
【0011】
まず、検出対象である水トリーが生じることがあるケーブルの例について説明する。
【0012】
図1は、ケーブルの構成を示す模式的な断面図である。
【0013】
図1に示されるように、ケーブル10は、例えば、導体11と、内部半導電層12と、絶縁層13と、外部半導電層14と、遮蔽層15と、シース層16とを有する。
【0014】
導体11は、最も内側に配置されている。導体11の種類は、上記の機能を発揮できれば特に限定されない。導体11の例には、軟銅線による円形撚線や円形圧縮撚線などが含まれる。
【0015】
内部半導電層12は、導体11および絶縁層13の間に配置されており、導体11および絶縁層13の接触を良好にし、間隙を生じさせないように機能する。内部半導電層12の材料は、上記の機能を発揮できれば特に限定されない。内部半導電層12の材料の例には、架橋ポリオレフィンにカーボンを混合した半導電性材料などが含まれる。
【0016】
絶縁層13は、内部半導電層12および外部半導電層14の間に配置されており、導体11からの漏電を防止する。絶縁層13は、架橋ポリエチレンで形成されている。
【0017】
外部半導電層14は、絶縁層13および遮蔽層15の間に配置されており、絶縁層13および遮蔽層15の接触を良好にし、間隙を生じさせないように機能する。外部半導電層14の材料は、上記の機能を発揮できれば特に限定されない。外部半導電層14の材料は、内部半導電層12の材料と同じ材料を使用できる。
【0018】
例えば、内部半導電層12と、絶縁層13と、外部半導電層14とは、3層同時に押し出し形成される。
【0019】
遮蔽層15は、外部半導電層14およびシース層16の間に配置されており、外部のノイズから保護するとともに、外部にノイズが漏れないように機能する。遮蔽層15の材料は、上記の機能を発揮できれば特に限定されない。遮蔽層15の材料の例には、軟銅テープ、軟アルミテープが含まれる。
【0020】
シース層16は、遮蔽層15よりも外側に配置されており、ケーブル10全体を保護する。シース層16の材料の例には、塩化ビニルが含まれる。
【0021】
ケーブル10は、図1に示されるような単芯型でもよいし、3心一括シース型でもよい。
【0022】
図1に示されるように、本実施の形態では、水トリー18は、絶縁層13に発生する。水トリー18は、内部半導電層12を起点として生じる内導水トリー18aと、外部半導電層14を起点として生じる外導水トリー18bと、絶縁層13に起点を有するボウタイ状水トリー18cとを含む。水トリー18にはコメット状水トリーも含まれる。本実施の形態の水トリー18の検出方法は、上記いずれの水トリー18も検出できる。
【0023】
図2は、本実施の形態に係る水トリーの検出方法を示すフローチャートである。
【0024】
図2に示されるように、本実施の形態に係る水トリー18の検出方法は、スライス片を準備する工程(S10)と、第1液体を浸透させる工程(S20)と、水トリー18を検出する工程(S30)とを有する。
【0025】
スライス片を準備する工程(S10)では、水トリー18を含みうるケーブル10のスライス片を準備する。作業者が自らケーブル10をスライスしてもよいし、第三者によりスライスされたスライス片を入手してもよい。なお、検出対象は、水トリー18であるため、ケーブル10全体をスライスする必要はない。すなわち、ケーブル10全体をスライスしてもよいし、水トリー18が生じうる絶縁層13のみをスライスしてもよい。例えば、ケーブル10を所定の長さ(厚さ)に切断し、外部半導電層14と、遮蔽層15と、シース層16とを剥離した後、導体11と、内部半導電層12とを引き抜いて絶縁層13のみとした状態でスライスしてもよい。本実施の形態では、絶縁層13のみをスライスしている。スライス片の厚みは、水トリー18を検出する工程(S30)において暗視野観察を適切に行うことができれば特に限定されないが、例えば0.5~1mmの範囲内が好ましい。
【0026】
第1液体を浸透させる工程(S20)では、スライス片の水トリー18の内部に水を含む第1液体を浸透させる。これにより、絶縁層13の屈折率および水トリー18の屈折率の差が大きくなり、水トリー18を検出しやすくなる。第1液体は、屈折率が絶縁層13の屈折率と異なっていればよい。この工程では、水トリー18を染色しなくてもよいため、第1液体は、メチレンブルーなどの色素を含んでいなくてもよい。例えば、第1液体は、水である。
【0027】
水トリー18の内部に第1液体を浸透させる方法は、特に限定されない。例えば、スライス片を第1液体中で煮沸してもよいし、スライス片を第1液体に浸漬した状態で減圧処理してもよい。本実施の形態では、利便性の観点から、スライス片を第1液体で煮沸することで、水トリー18の内部に第1液体を浸透させる。
【0028】
水トリー18を検出する工程(S30)では、上記工程(S20)で第1液体を浸透させたスライス片を、水を含む第2液体に浸漬した状態で、暗視野観察によりスライス片の水トリーを検出する。この工程では、適切に暗視野観察できればスライス片の状態は、特に限定されない。例えば、シャーレ内において、第1液体を浸透させたスライス片を、第2液体に浸漬した状態で観察してもよいし、2枚のガラス板の間に第1液体を浸透させたスライス片と、第2液体とを挟み込んだ状態で観察してもよい。本実施の形態では、2枚のガラス板の間に第1液体を浸透させたスライス片と、第2液体とを挟み込んだ状態で観察している。
【0029】
第2液体は、水を含む液体である。第2液体は、水であってもよいが、スライス片の表面の傷を目立ちにくくする観点から、水に加えて水溶性の有機溶媒をさらに含むことが好ましい。水溶性の有機溶媒の例には、エタノールが含まれる。エタノールは、安価であり、かつスライス片の表面の傷を目立ちにくくする作用を有する。また、第2液体にエタノールを含ませることにより、後述のガラス板で挟み込んだときに気泡の抱き込みを減少させることもできる。第2液体において、水とエタノールとは、ほぼ同量含まれていることが好ましい。
【0030】
なお、第1液体は、水に加えて界面活性剤をさらに含んでもよく、第2液体も、水および水溶性の有機溶媒(例えばエタノール)に加えて、界面活性剤をさらに含んでいてもよい。当該界面活性剤は、第1液体に対しては水トリー18への侵入を促進させることができ、第2液体に対しては濡れ性を向上させ、ガラス板で挟み込んだときに気泡の抱き込みを減少させることもできる。界面活性剤の種類は、特に限定されない。界面活性剤の種類の例には、陰イオン系(アニオン系)界面活性剤、非イオン系(ノニオン系)界面活性剤、両性イオン界面活性剤、陽イオン系(カチオン系)界面活性剤が含まれる。例えば、界面活性剤は、水およびエタノールの合計量に対して、数滴程度加えればよい。
【0031】
本実施の形態に係る水トリーの検出方法では、暗視野観察で水トリーを観察する。具体的には、観察のための光学系の光軸に対して傾斜した角度で光を照射し、第1液体を含む水トリー18で屈折、反射または散乱した光を検出する。暗視野観察に使用される照明は、落射照明でもよいし、透過照明でもよい。本実施の形態では、暗視野観察をすることで、水トリー18を染色することなく、背景に対して視認しやすい状態で検出している。
【0032】
(効果)
本実施の形態に係る水トリーの検出方法では、暗視野観察により観察しているため、作業者の技術レベルによらず水トリーを精度よく検出できる。
【実施例0033】
ここで、本実施の形態の水トリー18の検出方法を用いて、水トリー18を検出した例について説明する。
【0034】
図3Aは、スライス片の暗視野画像であり、図3B図3Aに示される領域Aの拡大図であり、図3C図3Aに示される領域Bの拡大図である。
【0035】
まず、スライス片を準備する工程(S10)として、上述した構成のケーブル10を所定の長さに切断し、外部半導電層14と、遮蔽層15と、シース層16とを剥離した後、導体11と、内部半導電層12とを引き抜いた絶縁層13のみをスライスしてスライス片を作製した。スライス片の厚みは、1mmであった。
【0036】
次いで、第1液体を浸透させる工程(S20)として、作製したスライド片を第1液体で、60分間煮沸した。第1液体としては、界面活性剤を数滴含んだ水を使用した。
【0037】
最後に、水トリー18を検出する工程(S30)として、暗視野観察で水トリー18を検出した。水を浸透させたスライス片を第2液体に浸した状態で、ガラス板で挟んだ。第2液体は、界面活性剤を数滴含んだ水と、エタノールとを等量加えた液体を使用した。
第1液体および第2液体において、界面活性剤を含んだ水として、1Lの水に界面活性剤としてアニオン系界面活性剤を2~3滴添加したものを使用した。顕微鏡は、デジタルマイクロスコープ(キーエンス社製VHX-2000)を使用した。観察倍率は40倍程度とし、照明は落射照明とした。
【0038】
上記各工程を行った結果、図3A~Cに示されるように、作業者の技術レベルによらず水トリー18を容易に精度よく検出できた。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の水トリーの検出方法は、作業者の技術レベルによらず水トリーを検出できるため、ケーブルを取り扱う技術分野において有用である。
【符号の説明】
【0040】
10 ケーブル
11 導体
12 内部半導電層
13 絶縁層
14 外部半導電層
15 遮蔽層
16 シース層
18 水トリー
18a 内導水トリー
18b 外導水トリー
18c ボウタイ状水トリー
図1
図2
図3