(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129383
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】運転計画作成装置、運転計画作成方法および運転計画作成プログラム
(51)【国際特許分類】
H02J 3/00 20060101AFI20240919BHJP
H02J 3/38 20060101ALI20240919BHJP
H02J 3/32 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
H02J3/00 170
H02J3/38 120
H02J3/00 130
H02J3/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038556
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 秀輝
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼口 謙一
(72)【発明者】
【氏名】稲村 彰信
(72)【発明者】
【氏名】小熊 祐司
【テーマコード(参考)】
5G066
【Fターム(参考)】
5G066AA02
5G066AA03
5G066HB09
5G066JA05
5G066JB03
(57)【要約】
【課題】再生可能エネルギーを有効に活用できる運転計画を作成する。
【解決手段】運転計画作成装置10は、再生可能エネルギーに基づく電力を用いて成果物を得るプロセス装置3のための運転計画を作成する。運転計画作成装置10は、プロセス装置3に提供される電力量の予測値を得る予測部11と、所定の時刻であるときのプロセス装置3における成果物の製造量を示す項と、所定の時刻であるときのプロセス装置3が消費する消費電力量及び予測値が示す予測電力量を含んで定義される余剰電力量を示す項と、を含む混合整数計画問題(PG)を生成する目的関数・制約条件生成部12と、混合整数計画問題(PG)を解くことによって運転計画を得る最適化部13と、を備える。最適化部13は、運転計画として所定の時刻であるときのプロセス装置3が消費する消費電力(p
ely[k])と所定の時刻における余剰電力量(p
sur[k])とを決定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
再生可能エネルギーに基づく電力を用いて成果物を得る装置のための運転計画作成装置であって、
前記装置に提供される電力量の予測値を得る予測部と、
所定の時刻であるときの前記装置における前記成果物の製造量を示す項と、前記所定の時刻であるときの前記装置が消費する消費電力量及び前記予測値が示す予測電力量を含んで定義される余剰電力量を示す項と、を含む計画問題を生成する生成部と、
前記計画問題を解くことによって前記運転計画を得る演算部と、を備え、
前記演算部は、前記運転計画として前記所定の時刻であるときの前記装置が消費する前記消費電力量と前記所定の時刻における前記余剰電力量とを決定する、運転計画作成装置。
【請求項2】
前記生成部は、前記余剰電力量を示す項を含む目的関数を生成し、
前記余剰電力量に乗算される係数は、時刻の経過と共に減少する、請求項1に記載の運転計画作成装置。
【請求項3】
前記生成部は、前記計画問題を解くための制約条件として、第1の時刻における第1の余剰電力量が前記第1の時刻より過去の第2の時刻における第2の余剰電力量以上であるという条件を設定する、請求項1に記載の運転計画作成装置。
【請求項4】
前記装置に提供される電力量の前記予測値は、前記再生可能エネルギーに基づいて発電される電力量の予測値及び電力需要家によって消費される電力量の予測値を含んで定義される、請求項1に記載の運転計画作成装置。
【請求項5】
再生可能エネルギーに基づく電力を用いて成果物を得る装置のための運転計画作成装置であって、
前記装置に提供される電力量の予測値が示す予測電力量から所定の時刻であるときの前記装置が消費する消費電力量を減じた差分である余剰電力量を得る取得部と、
前記余剰電力量が正である場合に、余剰電力を受け入れる動作が実行可能か否かを判定する判定部と、を備える、運転計画作成装置。
【請求項6】
前記判定部は、前記余剰電力を受け入れる動作として、前記装置の消費電力を増やす動作が可能であるか否かを判定する、請求項5に記載の運転計画作成装置。
【請求項7】
前記装置を含むシステムは、前記再生可能エネルギーに基づく電力を蓄えることが可能であり、蓄えた前記電力を前記装置に提供可能な蓄電池をさらに含み、
前記判定部は、前記余剰電力を受け入れる動作として、前記蓄電池に前記余剰電力を蓄える動作が実行可能であるか否かを判定する、請求項5に記載の運転計画作成装置。
【請求項8】
再生可能エネルギーに基づく電力を用いて成果物を得る装置のための運転計画を作成する運転計画作成方法であって、
前記装置に提供される電力量の予測値が示す予測電力量から所定の時刻であるときの前記装置が消費する消費電力量を減じた差分である余剰電力量を得ることと、
前記余剰電力量が正である場合に、余剰電力を受け入れる動作が実行可能か否かを判定することと、を有する、運転計画作成方法。
【請求項9】
再生可能エネルギーに基づく電力を用いて成果物を得る装置を含むシステムの運転計画をコンピューターに作成させる運転計画作成プログラムであって、
前記装置に提供される電力量の予測値が示す予測電力量から所定の時刻であるときの前記装置が消費する消費電力量を減じた差分である余剰電力量を得ることと、
前記余剰電力量が正である場合に、余剰電力を受け入れる動作が実行可能か否かを判定することと、を前記コンピューターに実行させる、運転計画作成プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、運転計画作成装置、運転計画作成方法および運転計画作成プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギー利用における温室効果ガスの排出量削減は、持続型社会を実現するための喫緊の課題である。製造業においても脱二酸化炭素の取り組みは加速しており、特に、太陽光発電や風力発電の電力を用いて製造されるグリーン水素や、二酸化炭素と水素を反応させて合成メタンを製造する技術(メタネーション)は大きな注目を集めている。
【0003】
特許文献1~4は、プロセス装置の運転技術を開示する。
【0004】
特許文献1には、再生可能エネルギーによる発電装置と水素製造装置と燃料電池と蓄電池とを備え、再生可能エネルギーの発電予測値と電力需要の予測値をもとに、日中に蓄電池の充電量と水素製造装置の消費電力を決定するとともに、夜間に蓄電池の放電量と燃料電池の発電量を決定するシステムが記載されている。特許文献1の技術は、日中に電力を消費及び/又は充電し、夜間に電力を発電及び/又は放電する。
【0005】
特許文献2には、太陽光発電電力量の予測値と消費電力量の予測値に基づいて余剰電力量を予測し、余剰電力量があらかじめ設定した空調設備の消費電力の設定値を超える時間を求め、その超過時間が設定された連続運転設定時間を超える場合に、その超過時間を余剰電力による空調設備の運転時間として設定する電力管理システムが記載されている。
【0006】
特許文献3には、再生可能エネルギーの余剰電力を用いて水素の製造・貯蔵を行うシステムが記載されている。特許文献3の
図2には、再生可能エネルギーの発電と電力需要家の負荷をそれぞれ予測し、それらから余剰電力を推定して、水素製造・貯蔵計画を作成したのち、水素貯蔵装置(水素吸蔵合金)の予冷・予熱温度を開始する時刻を設定する内容が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6189448号
【特許文献2】特開2022-25398号公報
【特許文献3】特許第7008297号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
プロセス装置を含むシステムの運転計画を作成するとき、余剰電力の扱いについてもプロセス装置の計画とともに予測され、その扱いが計画される。例えば、再生可能エネルギーの電力が余剰になった場合には、その余剰電力を蓄電池で充電させる及び/又は水電解装置のようなプロセス装置で消費することが考案されている。
【0009】
しかし、再生可能エネルギーの不安定さに起因して、余剰電力が必ずしも予測したタイミングで発生するとは限らない。余剰電力が発生するタイミングの予測が外れた場合には、不必要な余剰電力を発生させる可能性がある。その結果、再生可能エネルギーを最大限に有効活用できない運転計画が作成されてしまう。
【0010】
本開示は、再生可能エネルギーを有効に活用できる運転計画を作成可能な運転計画作成装置、運転計画作成方法および運転計画作成プログラムを説明する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示は、再生可能エネルギーに基づく電力を用いて成果物を得る装置のための運転計画作成装置であって、装置に提供される電力量の予測値を得る予測部と、所定の時刻であるときの装置における成果物の製造量を示す項と、所定の時刻であるときの装置が消費する消費電力量及び予測値が示す予測電力量を含んで定義される余剰電力量を示す項と、を含む計画問題を生成する生成部と、計画問題を解くことによって運転計画を得る演算部と、を備え、演算部は、運転計画として所定の時刻であるときの装置が消費する消費電力量と所定の時刻における余剰電力量とを決定する。
【0012】
運転計画作成装置では、生成部が設定した計画問題を演算部が解くことにより、運転計画が得られる。この運転計画では、所定の時刻であるときの装置が消費する消費電力量と所定の時刻における余剰電力量とが決定されている。つまり、運転計画は、余剰電力をいつ発生させるかを計画問題の解として含んでいるので、再生可能エネルギーを有効に活用できるタイミングにおいて余剰電力を発生させる計画を作成することができる。従って、運転計画作成装置は、再生可能エネルギーを有効に活用できる運転計画を作成することができる。
【0013】
本開示の運転計画作成装置において、生成部は、余剰電力量を示す項を含む目的関数を生成し、余剰電力量に乗算される係数は、時刻の経過と共に減少させてもよい。この構成によれば、余剰電力を発生させるタイミングを計画区間における後方に配置することができる。
【0014】
本開示の装置において、生成部は、計画問題を解くための制約条件として、第1の時刻における余剰電力量が第1の時刻より過去の第2の時刻における余剰電力量以上であるという条件を設定してよい。この構成によっても、余剰電力を発生させるタイミングを計画区間における後方に配置することができる。
【0015】
本開示の運転計画作成装置において、装置に提供される電力量の予測値は、再生可能エネルギーに基づいて発電される電力量の予測値及び電力需要家によって消費される電力量の予測値を含んで定義されてもよい。この構成によれば、電力需要家が消費する電力を考慮した運転計画を作成することができる。
【0016】
別の開示は、再生可能エネルギーに基づく電力を用いて成果物を得る装置のための運転計画作成装置であって、装置に提供される電力量の予測値が示す予測電力量から所定の時刻であるときの装置が消費する消費電力量を減じた差分である余剰電力量を得る取得部と、余剰電力量が正である場合に、余剰電力を受け入れる動作が実行可能か否かを判定する判定部と、を備える。
【0017】
運転計画作成装置は、余剰電力量が正である場合に判定部が余剰電力を受け入れる動作が実行可能か否かを判定する。この処理によれば、余剰電力を発生させるタイミングを計画区間における後方に配置することができる。
【0018】
別の開示の装置において、判定部は、余剰電力を受け入れる動作として、装置の消費電力を増やす動作が可能であるか否かを判定してよい。この処理によれば、装置の消費電力を増やす動作によって、余剰電力を発生させるタイミングを計画区間における後方に配置することができる。
【0019】
別の開示の装置において、上記の装置を含むシステムは、再生可能エネルギーに基づく電力を蓄えることが可能であり、蓄えた電力を装置に提供可能な蓄電池を含み、判定部は、余剰電力を受け入れる動作として、蓄電池に余剰電力を蓄える動作が実行可能であるか否かを判定してよい。この処理によれば、蓄電池に余剰電力を蓄える動作によって、余剰電力を発生させるタイミングを計画区間における後方に配置することができる。
【0020】
さらに別の開示は、再生可能エネルギーに基づく電力を用いて成果物を得る装置のための運転計画を作成する運転計画作成方法であって、装置に提供される電力量の予測値が示す予測電力量から所定の時刻であるときの装置が消費する消費電力量を減じた差分である余剰電力量を得ることと、余剰電力量が正である場合に、余剰電力を受け入れる動作が実行可能か否かを判定することと、を有する。この運転計画作成方法によっても、再生可能エネルギーを有効に活用できる運転計画を作成することができる。
【0021】
さらに別の開示は、再生可能エネルギーに基づく電力を用いて成果物を得る装置を含むシステムの運転計画をコンピューターに作成させる運転計画作成プログラムであって、装置に提供される電力量の予測値が示す予測電力量から所定の時刻であるときの装置が消費する消費電力量を減じた差分である余剰電力量を得ることと、余剰電力量が正である場合に、余剰電力を受け入れる動作が実行可能か否かを判定することと、をコンピューターに実行させる。この運転計画作成プログラムによっても、再生可能エネルギーを有効に活用できる運転計画を作成することができる。
【発明の効果】
【0022】
本開示の運転計画作成装置、運転計画作成方法および運転計画作成プログラムによれば、再生可能エネルギーを有効に活用できる運転計画を作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、本開示の運転計画作成装置によって得た運転計画が適用されるマイクログリッドを示す図である。
【
図2】
図2は、運転計画作成装置の機能的な構成を示す図である。
【
図3】
図3は、運転計画作成装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、プロセス装置の製造流量と電力消費量の関係を示すグラフである。
【
図5】
図5は、混合整数計画問題を構成する記号(集合)の意味を示す表である。
【
図6】
図6は、混合整数計画問題を構成する記号(パラメータ、従属変数)の意味をまとめて示す表である。
【
図7】
図7は、混合整数計画問題を構成する記号(決定変数)の意味をまとめて示す表である。
【
図8】
図8は、計算例1、2で用いる数値例をまとめて示す表である。
【
図9】
図9は、計算例1、2に用いられる太陽光発電の発電電力量の予測値である。
【
図10】
図10は、計算例1の結果としての電力量を示すグラフである。
【
図11】
図11は、計算例1の結果としての製造量を示すグラフである。
【
図12】
図12は、計算例2の結果としての電力量を示すグラフである。
【
図13】
図13は、本開示の運転計画作成方法及び運転計画作成プログラムが実行する動作のフロー図である。
【
図14】
図14は、
図13に示すフロー図を実行する運転計画作成装置の機能的な構成を示す図である。
【
図15】
図15は、運転計画作成方法および運転計画作成プログラムによって得た運転計画が適用されるシステムの別の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<第1実施形態>
以下、添付図面を参照しながら本開示の運転計画作成装置の形態を詳細に説明する。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0025】
図1は、本開示の運転計画作成装置10が適用されるマイクログリッド1(システム)を示す。マイクログリッド1は、太陽光発電システム2と、プロセス装置3と、電力需要家4と、蓄電池システム5と、接続部6と、送電電力測定部7と、受電電力測定部8と、を有する。マイクログリッド1は、外部の電力系統9と接続している。マイクログリッド1は、電力系統9に電力を送電することができる。マイクログリッド1は、電力系統9から受電することもできる。
【0026】
太陽光発電(PV)システム2は、太陽光パネルおよびPV-PCS(パワーコンディショナー)から構成される。PV-PCSは直流を交流に変換する。なお、再生可能エネルギーを用いる発電システムは、太陽光発電システムに限定されない。再生可能エネルギーを用いる発電システムは、例えば、風力発電システム、地熱発電システムでもよいし、バイオマス発電システムやごみ発電システムであってもよい。太陽光発電システムは、気象条件(日射、温度、降雪)に影響を受けるので、発電量が変動する。風力発電システムは、風速の影響を受けて発電量が変動する。バイオマス発電システムおよびごみ発電システムは、原料となるバイオマスやごみ(廃棄物や汚泥等)の性状が一般には安定ではない。さらに、バイオマス発電システムおよびごみ発電システムは、一時的な焼却不適物の混入等により、出力が安定しない。
【0027】
プロセス装置3は、電力を消費して製品の製造を行う。プロセス装置3は、電力負荷装置である。プロセス装置3は、例えば水素製造装置である。一般に、水電解の方法には、PEM(固体高分子)型水電解法とアルカリ水電解法が存在する。水電解装置であるプロセス装置3は、PEM型水電解法に基づく装置であってもよいし、アルカリ水電解法に基づく装置であってもよい。さらには、水電解装置であるプロセス装置3は、別の方法に基づく装置であってもよい。製造した水素は水素貯蔵システムに保持される。貯蔵された水素は、例えば、水素圧縮機によってガードルや水素トレーラに充填され、水素需要地に輸送されてもよい。貯蔵された水素は、燃料電池車(FCV)に対してディスペンサーを経由して現地で供給してもよい。後者はオンサイト水素ステーションとも称される。また、貯蔵された水素は、パイプラインを通じて別の水素需要地に供給してもよい。
【0028】
電力需要家4は、電力を消費する設備群の集合である。例えば、マイクログリッド1を制御するエネルギーマネジメントシステムを構成するサーバー・ディスプレイ・制御/通信機器の消費電力、空調設備の消費電力、施設内の照明設備の消費電力、警備用装置(監視カメラなど)の消費電力の合算などである。電力需要家4は、そのほか、一般家庭をはじめとする低圧需要家を含んでいてもよい。電力需要家4の消費電力は、エネルギーマネジメントシステムからは制御できないと仮定する。
【0029】
蓄電池システム5は、二次電池である。二次電池は、一般型の二次電池、液循環型の二次電池、メカニカルチャージ型の蓄電池、高温動作型の蓄電池及び電子トラップ型の蓄電池が例示できる。
【0030】
例えば、一般型の二次電池として、鉛蓄電池、リチウムイオン二次電池、全固体電池、ニッケル・水素蓄電池、ニッケル・カドミウム蓄電池、ニッケル・鉄蓄電池(エジソン電池)、ニッケル・亜鉛蓄電池、酸化銀・亜鉛蓄電池、コバルトチタンリチウム二次電池が挙げられる。液循環型の二次電池として、レドックス・フロー電池、亜鉛・塩素電池及び亜鉛・臭素電池が挙げられる。メカニカルチャージ型の二次電池として、アルミニウム・空気電池、空気亜鉛電池及び空気・鉄電池が挙げられる。高温動作型の二次電池として、ナトリウム・硫黄電池(NAS電池)及びリチウム・硫化鉄電池が挙げられる。電子トラップ型の蓄電池として、半導体二次電池が挙げられる。
【0031】
また、蓄電池(二次電池)は、電力の充電及び/又は放電が可能な機器の総称である。蓄電池システム5の直流を交流に変換する蓄電池PCSや、蓄電池残量の監視装置も、蓄電池システム5に含まれるとする。蓄電池は、同様な機能を持つコンデンサーやフライホイール、圧縮空気エネルギー貯蔵(CAES)設備、揚水発電設備、電気を一時的に熱として蓄えて必要な時に熱から電気に再変換する蓄熱発電設備などのエネルギー貯蔵装置に置き換えることもできる。
【0032】
接続部6は、各部の電力を配分する。接続部6が分配する電力は、外部の電力系統9から受ける電力も含んでもよい。接続部6は、例えば分電盤である。受電電力測定部8は、外部系統(電力系統9)から受ける受電電力を測定する。送電電力測定部7は、外部系統(電力系統9)へ送る送電電力を測定する。
【0033】
なお、プロセス装置3や蓄電池システム5で再生可能エネルギーの発電電力を消費(充電)できない場合、太陽光発電の電力の一部は、電力需要家4で消費され、さらに余った電力は最終的に電力系統9に送電される。一般的に送電単価は受電単価に比べて低いため、送電よりもプロセス装置3で余剰電力を消費したい(製造したい)というニーズがある。余剰電力は、蓄電池システム5で充電しておきたいというニーズもある。電力系統9の空き容量の関係で余剰電力を電力系統9へ送電できない場合もある。余剰電力を電力系統9へ送電できない場合は、太陽光発電システム2の出力を抑制する。この場合も発電の機会損失につながり好ましくない。本開示では、可能な限り太陽光発電電力はマイクログリッド1内で消費するものとする。
【0034】
図2は運転計画作成装置10の機能図である。ただし、本開示の運転計画作成装置10が意図する機能(運転計画作成機能)のみを記載している。そのほかの機能、例えば、プロセス装置3、蓄電池システム5の状態監視機能、運転指令機能、トレンドデータの保存機能、デマンド監視機能については省略している。運転計画作成装置10と各装置の通信は、アナログ信号やイーサネット(登録商標)などの有線通信でもよいし、無線通信でもよい。また、通信のプロトコルは、modbus/TCPやECHONET Lite(登録商標)でもよい。
【0035】
運転計画作成装置10は、操作部105において運転計画の作成に関するパラメータが設定および変更される。具体的には、ユーザは、コンピューター100(
図3参照)の画面とキーボードもしくはマウスといった操作部105を用いて運転計画の作成に関するパラメータを設定する。設定されたパラメータは、各設定データベース(DB)内に保持される。
【0036】
図3を参照して、運転計画作成装置10のハードウェア構成について説明する。コンピューター100は、CPU(Central Processing Unit)であるプロセッサ101と、主記憶部102と、補助記憶部103と、外部通信部104と、操作部105と、出力部106とを有する。運転計画作成装置10は、これらのハードウェアと、プログラム等のソフトウェアとにより構成された1または複数のコンピューター100によって構成される。
【0037】
運転計画作成装置10が複数のコンピューター100によって構成される場合には、これらのコンピューター100はローカルで接続されてもよいし、インターネット又はイントラネットなどの通信ネットワークを介して接続されてもよい。この接続によって、論理的に1つの運転計画作成装置10が構築される。
【0038】
プロセッサ101は、オペレーティングシステムやアプリケーション・プログラムなどを実行する。主記憶部102は、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)により構成される。補助記憶部103は、ハードディスク及びフラッシュメモリなどにより構成される記憶媒体である。補助記憶部103は、一般的に主記憶部102よりも大量のデータを記憶する。運転計画作成装置10を構成する各部の少なくとも一部は、補助記憶部103によって実現される。例えば、
図2に示す各種DBは、補助記憶部103によって実現されてもよい。外部通信部104は、ネットワークカード又は無線通信モジュールにより構成される。運転計画作成装置10を構成する各部の少なくとも一部は、外部通信部104によって実現されてもよい。操作部105は、キーボード、マウス、タッチパネル、及び、音声入力用マイクなどにより構成される。出力部106は、ディスプレイ及びプリンタなどにより構成される。例えば、運転計画作成装置10は、運転計画等をディスプレイ等に表示してもよい。
【0039】
補助記憶部103は、予め、プログラム及び処理に必要なデータを格納している。プログラムは、運転計画作成装置10の各機能要素をコンピューター100に実行させる。例えば、プログラムは、プロセッサ101又は主記憶部102によって読み込まれ、プロセッサ101、主記憶部102、補助記憶部103、外部通信部104、操作部105、及び出力部106の少なくとも1つを動作させる。例えば、プログラムは、主記憶部102及び補助記憶部103におけるデータの読み出し及び書き込みを行う。
【0040】
なお、
図3に示す運転計画作成プログラム110は、第2実施形態として説明する数理計画法を用いない余剰電力の再配置法を実行するものである。運転計画作成プログラム110は、例えば、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリなどの有形の記録媒体に記録された上で提供されてもよい。運転計画作成プログラム110は、データ信号として通信ネットワークを介して提供されてもよい。
【0041】
<運転計画作成装置>
再び
図2を参照しながら、運転計画作成装置10の具体的な機能構成について説明する。運転計画作成装置10は、外部通信部104と、予測部11と、目的関数・制約条件生成部12と、最適化部13と、を有する。さらに、運転計画作成装置10は、各種DBを有する。例えば、運転計画作成装置10は、プロセス装置設定DB14と、蓄電池システム設定DB15と、外部系統設定DB16と、重みDB17と、を有する。
図2に示す符号「101」は、予測部11と、目的関数・制約条件生成部12と、最適化部13とがプロセッサ101においてプログラムが実行されることによって実現されることを模式的に示す。
【0042】
運転計画作成装置10は、インターネットや専用回線を通じて、外部の気象予報サービスと接続されている。これらの接続は、外部通信部104によって実現されている。気象予報サービス201は、気象衛星データや各地の観測データを基に、スーパーコンピューターによる気象シミュレーションや人工知能による数値補正技術などを用いて、マイクログリッド1の緯度および経度を含んだエリアにおける将来1日~30日程度の気象データを定期的に計算している。気象データは、例えば、気温、湿度、風速、風向、降水量、降雪量、積雪深、全天日射量、雲量等を含む。運転計画作成装置10は、気象予報サービスからはFTP(File Transfer Protocol)やHTTP(HypertextTransfer Protocol)などの通信プロトコルによって、定期的に気象予報データを取得する。取得するタイミングは、1日1回、1日4回、1日48回(30分毎)など様々である。
【0043】
予測部11は、プロセス装置3に提供される電力量を予測する。プロセス装置3には、接続部6を介して電力が提供される。プロセス装置3に提供される電力量は、例えば、太陽光発電システム2の発電電力量の予測によって得ることができる。この場合には、予測部11は、取得した気象予報データを利用して、運転計画期間における太陽光発電システム2の発電電力量(PV発電量)の予測値を出力する。予測部11(予測部)は、例えば、気象予報データの日射量や気温を利用して、発電電力量の予測値を計算する。
【0044】
予測部11の動作は、気象予報データを用いた予測動作に限定しない。例えば、予測部11は、マイクログリッド1内の日射計の実績値とPV発電量の実績値から、機械学習や統計的手法を用いて、将来のPV発電量を予測してもよい。予測部11は、マイクログリッド1内の全天球カメラから雲の動きの予測結果から、PV発電量を予測してもよい。予測部11は、インターネット等を経由して外部システムから直接にPV発電量の予測値を受信してもよい。少なくとも、予測部11が出力するPV発電電力の予測値は、後述の運転計画の計画区間における予測値を含むものとする。
【0045】
なお、予測部11は、プロセス装置3に提供される電力量の予測に際して、太陽光発電システム2の発電電力量とは別の要素を含めてもよい。例えば、予測部11は、電力需要家4の消費電力量を予測値に含めてもよい。この場合には、予測部11は、太陽光発電システム2の発電電力量から電力需要家4の消費電力量を減算した値をプロセス装置3に提供される電力量の予測値として出力する。
【0046】
以下、予測された太陽光発電の発電電力量を、蓄電池システム5に充電させる動作及びプロセス装置3で消費させる動作のための計画を作成する動作について詳細に説明する。
【0047】
運転計画の作成は1日のある時刻(例えば午前3:00)に運転計画作成装置10内で定期的に実行する。運転計画の作成は、1時間ごとに定期的・自動的に行ってもよい。運転計画の作成は、手動でも行ってもよい。運転計画の作成は、気象予報データが到着したタイミングで実施してもよい。運転計画作成装置10は、定期実行や手動実行などのタイミングで、運転計画の作成を行う。
【0048】
目的関数・制約条件生成部12(生成部)は、数理計画法に必要なパラメータを各部から収集する。目的関数・制約条件生成部12は、必要に応じて蓄電池制御部51から必要な情報を得てもよい。そして、目的関数・制約条件生成部12は、混合整数計画問題(PG)として定式化する。最小化問題で使用する記号の定義を
図5の表及び
図6の表に示す。
図6の表には、パラメータをいずれの構成要素から取得するかも併せて記載する。
【0049】
【0050】
各式の意味は以下のとおりである。
【0051】
式(1)は、プロセス装置3の生産量を最大化することを示す。式(1)の第1項は、計画区間における製造量を表す。遠くの将来よりも近くの将来の生産量を重視するための係数ρ
Pのk乗をつけて重みを調整している。式(1)の第2項は、余剰電力の発生を可能な限り後ろ倒しにするための項である。この第2項は、本開示の運転計画作成装置10の本質的部分である。式(1)の第2項に含まれる係数f
sは、時刻kに対して非負かつ単調減少(単調非増加)するものである。このような係数の一例として、忘却係数ρ
sのべき乗が例示できる。係数f
sの例示を下記に示す。
【数2】
【0052】
なお、係数fsは必ずしも時刻kごとに係数を設計しなくてもよい。
【0053】
係数fsの設定の変形例として、運転計画の区間が複数日にまたがる場合、初日の係数を1とし、2日目以降の係数を0とする設定にしてもよい。こうすることで、初日分に対してなるべく余剰電力量を発生させないという効果が期待できる。
【0054】
さらに変形例として、初日の係数を1とし、2日目の係数を0.9とし、3日目の係数を0.8とする、といったように、日数ごとに係数を設定してもよい。この方法だと、余剰電力量を後ろ倒しにする効果が日数をまたぐ場合にのみ機能する。こうした設定は、ユーザにとって設定するパラメータの数が減るという効果がある。また、作成された運転計画の結果を解釈しやすくなる。
【0055】
式(2)は、各時刻において電力の供給と需要は一致していることを示す。
【0056】
式(3)は、受電電力量は最大電力量以下であることを示す。
【0057】
式(4)は、余剰電力量は受電時にゼロであり、そうでない場合は太陽光発電の電力量以下であることを示す。
【0058】
式(5)は、蓄電池システム5の充放電電力量は所定の範囲内であることを示す。
【0059】
式(6)は、蓄電池システム5の蓄電残量は所定の上下限のなかで運転されることを示す。
【0060】
式(7)は、プロセス装置3は製造中に所定の範囲内の消費電力をとり、製造していない場合の消費電力は待機電力をとることを示す。
【0061】
式(8)は、蓄電池システム5は買電しているときは充電しない(太陽光発電の電力で充電する)ことを示す。
【0062】
式(9)は、プロセス装置3は買電しているときは製造しない(太陽光発電の電力で製造する)ことを示す。
【0063】
式(10)は、プロセス装置3の消費電力量と製造量の関係を表す(
図4参照)。製造時は消費電力と製造量は1次式の関係にあり、非製造時の製造量はゼロであることを示す。
【0064】
式(11)は、蓄電池システム5の充放電電力量と蓄電残量の関係を示す。
【0065】
さて、目的関数・制約条件生成部12で作成された混合整数計画問題(PG)は、最適化部13(演算部)で求解され、決定変数(
図7の表を参照)が確定する。上記の混合整数計画問題(PG)は定式化されているため、例えば市販の最適化ソルバーを用いて容易に求解できる。
【0066】
なお、計画区間の始点が将来(例えば12時間後)である場合、その始点時刻における蓄電池システム5の残量は一般には不明である。そのため、計画区間の始点が将来である場合は、蓄電池システム5の残量を、所定値として仮定する。例えば、午前1:00に蓄電池の電圧のバランスをとるために満充電にしているといった仮定が挙げられる。また、始点の時刻における蓄電池システム5の残量は、蓄電池システム5の残量計画値のデータベースに基づいて、その計画値を参照することにより決定してもよい。過去に作成した運転計画のうちの、蓄電池残量の該当時刻における値を参照してもよい。
【0067】
運転計画作成装置10は、運転計画が作成された後、運転計画の情報を、作業員に対してモニター表示やランプの点灯、アラーム音、メール通知等で指示・助言してもよい。運転計画作成装置10は、運転計画をもとに、該当時刻になった時に自動的にプロセス装置3の運転や蓄電池システム5の充放電を実施してもよい。このように運転計画の作成と、当該計画に従う制御を実行する機能を有する場合には、運転計画作成装置10は、マイクログリッド1のためのエネルギーマネジメントシステムであるとも言える。運転計画作成装置10は、プロセス装置3と蓄電池システム5のいずれか一方の装置の運転のみを行ってもよい。また運転計画の用途はこれら機器の運転操作に限られない。運転計画は、電力市場への入札又は電力の自己託送の申請に使用されてもよい。運転計画は、電力のひっ迫状況を回避するためのデマンドレスポンスの指令や応答判断等に使用されてもよい。運転計画は、水素製造量を管理する別の図示しない上位システムに製造量のスケジュールを伝達してもよい。
【0068】
なお、運転計画どおりにすべての機器が動作した場合、余剰電力は、電力需要家4で消費され、さらに太陽光発電の電力量が余っていれば系統へと送電される。ただし、最終余剰電力が具体的にどのような意味の電力量になるかについては、前提条件によって異なる。例えば、特開2022-25398号公報に記載の技術のように太陽光発電の電力量から電力需要家4の消費電力量を減算した値を中間余剰電力量として、上記目的関数・制約条件生成部12のPV発電電力量ppvへ入力すれば、計画した余剰電力は、送電電力の計画値と同義である。この仮定は、ppv[k]の代わりにppv[k]-pload[k]を用いることと同義である。なお、pload[k]は電力需要家4の消費電力量の予測値である。
【0069】
上記において、電力需要家4の予測値は、過去の実績値や気象予報データを組み合わせて統計的手法や機械学習によって予測される。また予測値は固定値でもよい。例えば、電力需要家4の予測値は、電力需要家4の消費電力の平均値としてもよい。いずれにせよ、本開示では、再生可能エネルギー、もしくは再生可能エネルギーから何らかの電力量を減算したものを入力値として、プロセス装置3(デバイス)の運転計画を作成する。また、段落0032で述べたように、系統の空き容量がなければ、余剰電力量は再エネの出力抑制量となる。いずれにせよ、運転計画の余剰電力量を実際にどうするか(送電する・再エネを出力抑制する・蓄電池などに一時貯蔵するなど)は、前提条件・システムによって異なる。本開示では計画した余剰電力量の計画後の扱いについてはこれ以上言及しない。
【0070】
<作用効果>
以下、従来技術が抱える問題点を指摘した後に、運転計画作成装置10が奏する作用効果について説明する。
【0071】
従来から再生可能エネルギーの電力が余剰になった場合には、その余剰電力を蓄電池で充電させる又は水電解装置のようなプロセス装置で消費することが考案されてきた。しかし、蓄電池の容量や充放電電力の定格といった制約を超えてしまう場合には蓄電及び/又は消費しきれない余剰電力が発生してしまう。また、プロセス装置の消費電力の定格といった制約を超えてしまう場合にも蓄電及び/又は消費しきれない余剰電力が発生してしまう。これらに例示される各種の制約を超えた場合に発生してしまう、蓄電及び/又は消費しきれない余剰電力の扱いについては改善の余地があった。なお、蓄電及び/又は消費しきれない余剰電力のことを、本開示では、最終余剰電力と称する。
【0072】
特許第6189448号の段落0027に記載されているように、太陽光発電の予測値が一定基準を上回る場合に、太陽光発電の発電が終了する時点で蓄電池を所定の容量まで充電させる充電量と水電解装置に供給する電力を決定している。しかし、蓄電池をフル充電させてかつ水素製造装置をフル操業したと仮定した場合でも、太陽光発電電力をすべて消費することはできない。つまり、最終余剰電力が発生する場合のことまでは特に考慮されていない。このような場合は、最終余剰電力を発生させる時刻に自由度があるが、そのことは特に考慮されていない。なお、特許第6189448号の技術では最終余剰電力は施設で消費している。
【0073】
特開2022-25398号公報は、再生可能エネルギーの発電電力や蓄電池残量の予測値を用いて負荷装置の消費電力の上げ下げを行っている。特開2022-25398号公報の技術にて想定している設備は、家庭設備である。一般に、家庭内の負荷をすべて起動させた場合の消費電力が家庭用太陽光発電の電力を下回る状況、すなわち、最終余剰電力が発生する状況ということは家庭設備では想定しにくい。そのため、特開2022-25398号公報の技術でも最終余剰電力をいつ発生させるかということは考慮していない。
【0074】
特許第7008297号は、再生可能エネルギーの発電電力量の予測値と電力需要家の予測値に基づき、余剰電力を電池で充電させる技術について記載されている。また、余剰電力を水素製造装置で消費する技術についても記載されている。しかし、特許第7008297号の段落0020に、水電解製造装置の入力電力は余剰電力の推定値と一致する旨の記載がある。この記載から特許第7008297号では、水電解製造装置は発生しうるすべての余剰電力を消費できることを前提していることがわかる。
【0075】
本開示の運転計画作成装置10は、以下のような構成によりこれらの従来技術が抱える課題を解決する。本開示の本開示の運転計画作成装置10は、再生可能エネルギーを有効に活用するためには余剰電力をいつ発生させればよいか、という点に注目する。つまり、本開示の運転計画作成装置10は、余剰電力を発生させるタイミングを決定変数として採用する。
【0076】
さらに、仮に最終余剰電力が前倒しで発生する前倒し計画と、最終余剰電力が後倒しで発生する後倒し計画があった時、前倒し計画と後倒し計画のどちらが好ましいかを検討する。最終余剰電力を売電する場合、前倒し計画において余剰電力の発生する時間帯と後倒し計画において余剰電力の発生する時間帯の売電電力単価が高い方が好ましい、というもの一つの考え方である。しかし、売電しない場合、売電単価が等しい場合、ほとんど違いがない場合及び売電収入よりも別の評価規範に従う場合などは、その限りではない。
【0077】
本開示の運転計画作成装置10は、後倒し計画のほうが前倒し計画よりも好ましいとの考えに成り立ってる。なぜならば、前倒し計画で想定している余剰電力が本当に発生しうるか、不確かだからである。例えば、太陽光発電の電力の予測がずれて、予測値よりも低い発電電力になった場合、前倒し計画で不必要な余剰電力を発生させてしまう可能性があるからである。換言すると、太陽光発電の電力の予測がずれてしまった場合には、本来、発生させずに済んだ余剰電力を発生させてしまう可能性があるからである。また、製造量を最大化するという観点からは、電力をなるべく早い段階で成果物に転化させた方が、太陽光発電電力の将来の不確実性に対する対処として望ましい。
【0078】
運転計画作成装置10は、再生可能エネルギーに基づく電力を用いて成果物を得るプロセス装置3のための運転計画を作成する。運転計画作成装置10は、プロセス装置3に提供される電力量の予測値を得る予測部11と、所定の時刻であるときのプロセス装置3における成果物の製造量を示す項と、所定の時刻であるときのプロセス装置3が消費する消費電力量及び予測値が示す予測電力量を含んで定義される余剰電力量を示す項と、を含む混合整数計画問題(PG)を生成する目的関数・制約条件生成部12と、混合整数計画問題(PG)を解くことによって運転計画を得る最適化部13と、を備える。最適化部13は、運転計画として所定の時刻であるときのプロセス装置3が消費する消費電力(pely[k])と所定の時刻における余剰電力量(psur[k])とを決定する。
【0079】
運転計画作成装置10では、目的関数・制約条件生成部12が設定した混合整数計画問題(PG)を最適化部13が解くことにより、運転計画が得られる。この運転計画では、所定の時刻であるときのプロセス装置3が消費する電力と所定の時刻における余剰電力量とが決定されている。つまり、運転計画は、余剰電力をいつ発生させるかを計画問題の解として含んでいるので、再生可能エネルギーを有効に活用できるタイミングにおいて余剰電力を発生させる計画を作成することができる。従って、運転計画作成装置10は、再生可能エネルギーを有効に活用できる運転計画を作成することができる。
【0080】
運転計画作成装置10において、目的関数・制約条件生成部12は、余剰電力量を示す項を含む目的関数を生成する。余剰電力量に乗算される係数は、時刻の経過と共に減少させる。この構成によれば、余剰電力を発生させるタイミングを計画区間における後方に配置することができる。
【0081】
運転計画作成装置10において、プロセス装置3に提供される電力量の予測値は、再生可能エネルギーである太陽光に基づいて発電する太陽光発電システム2の発電電力量の予測値及び電力需要家4によって消費される電力量の予測値を含んで定義されてもよい。この構成によれば、電力需要家4が消費する電力を考慮した運転計画を作成することができる。
【0082】
つまり、本開示の運転計画作成装置10では、プロセス装置3や蓄電池システム5で蓄電及び/又は消費しきれない余剰電力(最終余剰電力)が発生してしまう場合に、最終余剰電力が発生する時刻がなるべく将来の時刻になるようにデバイスの運転計画を作成する。このような運転計画によれば、最終余剰電力の発生を遅らせることによって、再生可能エネルギーを最大限有効活用することができる。
【0083】
<計算例1:実施例>
実施形態の運転計画作成装置10による計算例1を以下に示す。使用するパラメータを
図8の表に示す。運転計画は、2018年4月12日から1時間間隔で36ステップである。つまり1日半の計画を行うとした。
図9は、計算例1、2に用いられる太陽光発電の発電電力量の予測値である。
【0084】
計算例1の最適化結果を
図10及び
図11に示す。
図10はマイクログリッド1の電力バランスと電力貯蔵量の推移を表す図である。
図11はプロセス装置3の製造量の推移を表す図である。
【0085】
図10において、積み上げ棒グラフの正の値は電力消費側の動き(余剰も含む)を示す。棒グラフG1は、プロセス装置3の消費電力である。棒グラフG2は、蓄電池システム5の充電電力である。棒グラフG3は蓄電池システムの放電電力である。棒グラフG4は余剰電力である。棒グラフG6は、太陽光発電電力である。積み上げ棒グラフの負の値は発電側の動きを示す。これらの発電量は、左側の座標軸に対応する。上下対称であるから、発電と消費のバランスが取れていることがわかる。また、折れ線グラフG7はSoC[%]の推移を示す。折れ線グラフG5は、右側の座標軸に対応する。
図10を参照すると、太陽光発電の立ち上がり時に蓄電池システム5をうまく充電及び/又は放電しながらプロセス装置3で最大限電力を消費させ、余剰電力G4を最小限にとどめていることがわかる。4月12日の6時にプロセス装置3が生産していないのは、太陽光発電が188kWh程度で、蓄電池システム5で放電させてもプロセス装置3の最低消費電力300kWhに到達しないためである。4月12日の13時と14時にのみ余剰電力G4が発生しているが、これは、蓄電池システム5の蓄電残量が限界に到達し、プロセス装置3の消費電力G1も最大(500kW)に達しているからである。日没後も、蓄電池システム5の貯蔵電力を用いて、プロセス装置3で製造を行い、製造量を最大化していることがわかる。そして夜間は蓄電池システム5の貯蔵電力G2を使って待機電力を賄っており、この区間内では買電電力がゼロであることがわかる。
【0086】
<計算例2:参考例>
本開示の運転計画作成装置、運転計画作成方法および運転計画作成プログラムの効果を示すため、上記の(1)式を以下の式(12)に変更した場合を参考例として計算を行った。
式(1)は、第2項に時刻kに対して非負かつ単調減少する係数を含むのに対して、式(12)は、時刻によらず一定値である係数を含むものとして捉えることができる。つまり、式(12)は、式(1)における係数fsをつねに「1」としたものであるといえる。式1(12)を含む問題を解いた結果を、
図12に示す。製造量のグラフは、
図11と同じであるから省略する。
【数3】
【0087】
計算例1では余剰電力の発生時刻を可能な限り遅らせていた。これは、式(1)の第2項が含む時刻kに対して非負かつ単調減少する係数f
sの効果である。これに対して、
図12では余剰電力が4月12日の5:00から9:00にかけて分散して発生している。生産量自体は計画区間内では変わらない。その一方で、蓄電池システム5がフル充電になる前に余剰電力を発生させているため、水素製造量を最大化するという目的をもつマイクログリッド1の運用者から見たとき、計算例1の結果の計画と計算例2の結果の計画で製造される水素製造量が等しいとしても、計算例2の結果の計画は違和感のある計画になっている。
【0088】
例えば4月12日の12時から15時に実際の太陽光発電の発電電力量が予測値とずれて、予測値よりも低い発電電力量になった場合を仮定する。この仮定においては、
図11の計画に従って蓄電池システム5とプロセス装置3を動かした場合のほうが、
図12の計画に従って動かす場合よりも水素製造量が高いことが期待される。
図11のほうが早めに蓄電しているためである。
【0089】
製造量に対して忘却係数を用いた理由は、なるべく確実にプロセス装置3で製造を行いたいからである。本開示は、太陽光発電の予測値を使用する。予測値は遠い将来であればあるほど不確実性が高い。そのため、計画通りに製造できる可能性が高い、近い未来の生産量に対して遠い未来の生産量より高い評価値を与えるために、忘却係数を導入した。
【0090】
<第2実施形態>
運転計画を得る際に、必ずしも数理計画法を使わなくてもよい。例えば運転計画を収支最大化の最適化問題を解くことによって作成し、余剰電力が発生した場合は、余剰電力が後ろ倒しにできるかどうかを判定し、もし後ろ倒しにできる場合はそのように再配置する方法でもよい。再配置の方法を
図13に示す。また、
図13に示す方法を実行する運転計画作成装置10Aを
図14に示す。
図14に示す運転計画作成装置10Aは、計画作成部10Sを有する。
図13及び
図14では、プロセス装置3として水素製造装置を例示する。
【0091】
以下の動作は、
図3に示すコンピューター100の補助記憶部103に保存された運転計画作成プログラム110によって実行される。運転計画作成プログラム110がコンピューター100のプロセッサ101によって実行されることによって、
図14に示す機能構成が実現される。
【0092】
まず、プロセス装置3に提供される電力量の予測値を得る(S1)。この動作は、予測部11によって実行される。次に、収支最大化の最適化問題を解くことによって運転計画を作成する(S2)。この動作は、目的関数・制約条件生成部12及び最適化部13によって実行される。ステップS2を実行した結果、運転計画を得る。
【0093】
なお、ステップS2の結果として得られる運転計画は、必ずしも運転計画作成装置10Aが作成する必要はない。上述のとおり、運転計画は、運転計画作成装置10Aが作成してもよいが、運転計画作成装置10Aとは別の手段によって作成され、運転計画作成装置10Aは、その運転計画を単に受け取るだけでもよい。この場合には、運転計画作成装置10Aは、予測部11、目的関数・制約条件生成部12及び最適化部13を省略することができる。
【0094】
そして、余剰電力が発生するか否かを判定する(S3)。この動作は、取得部18によって実行される。時刻iにおいて余剰電力が発生する場合(S3:YES)には、次の処理(S4)に移行する。時刻iにおいて余剰電力が発生しない場合(S3:NO)には、時刻iにおける処理を終了し、次の時刻i+1の処理を開始する。
【0095】
次に、プロセス装置3の例示である水素製造装置の消費電力を増やすことが可能であるか否かを判定する(S4)。この動作は、判定部19によって実行される。水素製造装置の消費電力を増やすことが可能である場合(S4:YES)には、時刻iであるときの水素製造装置の消費電力を余剰電力以下の範囲において最大限に増加させる(S5)。そして、次の処理(S6)に移行する。水素製造装置の消費電力を増やすことが可能でない場合(S4:NO)に、処理(S6)に移行する。
【0096】
処理(S6)では、時刻iにおいて余剰電力が未だに存在するか否かを判定する。この動作も、判定部19によって実行される。余剰電力が未だに存在する場合(S6:YES)には、次の処理(S7)に移行する。余剰電力が存在しない場合(S6:NO)には、時刻iにおける処理を終了し、次の時刻i+1の処理を開始する。
【0097】
処理(S7)では、蓄電池システム5の充電電力を増加させることが可能であるか否かを判定する。この動作も、判定部19によって実行される。蓄電池システム5の充電電力を増加させることが可能である場合には、蓄電池システム5の貯蔵量が計画区間内で上限を超えないように、時刻iであるときの充電量を余剰電力以下で増加させる(S8)。また、蓄電池システム5の充電電力を増加させることが可能であるであって、蓄電池システム5が放電を行っている場合には、放電量を削減してもよい(S8)。そして、時刻iにおける処理を終了し、次の時刻i+1の処理を開始する。
【0098】
蓄電池システム5の充電電力を増加させることが可能でない場合にも、時刻iにおける処理を終了し、次の時刻i+1の処理を開始する。
【0099】
上記の処理を時刻i=0~N-1まで実行する。
【0100】
上記の運転計画作成装置10Aは、再生可能エネルギーに基づく電力を用いて成果物を得るプロセス装置3のための運転計画を作成する。運転計画作成装置10Aは、プロセス装置3に提供される電力量の予測値が示す予測電力量から所定の時刻であるときのプロセス装置3が消費する消費電力量を減じた差分である余剰電力量を得る取得部18と、余剰電力量が正である場合(S3:YES)に、余剰電力量を受け入れる動作が実行可能か否かを判定する判定部19と、を備える。
【0101】
運転計画作成装置10Aの判定部19は、余剰電力量が正である場合に判定部19が余剰電力量を受け入れる動作(S5、S8)が実行可能か否かを判定する(S4、S7)。この処理によれば、余剰電力を発生させるタイミングを計画区間における後方に配置することができる。
【0102】
判定部19は、余剰電力を受け入れる動作として、プロセス装置3の消費電力を増やす動作(S5)が可能であるか否かを判定する(S4)。この処理(S4)によれば、プロセス装置3の消費電力を増やす動作によって、余剰電力を発生させるタイミングを計画区間における後方に配置することができる。
【0103】
マイクログリッド1は、再生可能エネルギーに基づく電力を蓄えることが可能であり、蓄えた電力を装置に提供可能な蓄電池システム5を含む。判定部19は、余剰電力を受け入れる動作として、蓄電池システム5に余剰電力を蓄える動作(S8)が実行可能であるか否かを判定する(S7)。この処理(S7)によれば、蓄電池システム5に余剰電力を蓄える動作によって、余剰電力を発生させるタイミングを計画区間における後方に配置することができる。
【0104】
運転計画作成方法は、再生可能エネルギーに基づく電力を用いて成果物を得るプロセス装置3のための運転計画を作成する。運転計画作成方法は、プロセス装置3に提供される電力量の予測値が示す予測電力量から所定の時刻であるときのプロセス装置3が消費する消費電力量を減じた差分である余剰電力量を得ること(S3)と、余剰電力量が正である場合(S3:YES)に、余剰電力を受け入れる動作(S5、S8)が実行可能か否かを判定すること(S4、S7)と、を有する。この運転計画作成方法によっても、再生可能エネルギーを有効に活用できる運転計画を作成することができる。
【0105】
運転計画作成プログラム110は、再生可能エネルギーに基づく電力を用いて成果物を得るプロセス装置3のための運転計画をコンピューターに作成させる。運転計画作成プログラム110は、プロセス装置3に提供される電力量の予測値が示す予測電力量から所定の時刻であるときのプロセス装置3が消費する消費電力量を減じた差分である余剰電力量を得ること、余剰電力量が正である場合に、余剰電力を受け入れる動作が実行可能か否かを判定することと、をコンピューターに実行させる。この運転計画作成プログラムによっても、再生可能エネルギーを有効に活用できる運転計画を作成することができる。
【0106】
<変形例>
以上、本開示の運転計画作成装置、運転計画作成方法及び運転計画作成プログラムの例示について説明した。本開示の運転計画作成装置、運転計画作成方法及び運転計画作成プログラムは、上記の例示に限定されることなく様々な形態で実施してよい。
【0107】
実施形態では製造量の最大化を目的関数とした。目的関数は、製造コストの最小化、収支の最大化又は製造物の収入の最大化であってもよい。その場合は、売電電力単価、買電電力単価、プロセス装置3の生産物の単価情報が追加で必要となる。なお、コスト最小化など、評価関数の最小化を行う場合は、前述の実施形態と同様の効果(余剰電力量を後ろ倒しにする効果)を得るためには、式(1)の右辺第二項の余剰電力量の項は、マイナスからプラスに変更する必要がある。
【0108】
実施形態ではプロセス装置3を水素製造装置とした。プロセス装置3は、別の装置でもよい。例えば、プロセス装置3は、電気ボイラでもよい。プロセス装置3は、スクラップ鉄を融解する電気炉でもよいし、鉄鉱石から粗鉄を作る電解・電気精錬装置でもよい。プロセス装置3は、その他のメタネーションなどの化学プロセス装置であってもよい。プロセス装置3は、圧延などの塑性加工装置、食品加工装置、蒸留装置、表面熱処理などの熱処理炉でもよい。電力を消費する装置であれば、プロセス装置とは異なる装置でもよい。例えば、任意の時間に実行・待機が可能な情報処理装置で、電力を消費させたい時間帯に演算処理を集中させる(電力を消費させたくない場合は待機させる)形態でもよい。上記情報処理装置は、ブロックチェーンのPoW(Proof of Work)を行うコンピューターでもよい。
【0109】
実施形態では蓄電池システム5とプロセス装置3はそれぞれ1つとした。蓄電池システム5は、複数であってもよいし、プロセス装置3も複数であってもよい。混合整数計画問題(PG)を複数台数に拡張することは容易である。また、蓄電池システム5のみ、プロセス装置3のみという場合でも、本開示の運転計画作成装置、運転計画作成方法および運転計画作成プログラムを適用可能である。実施形態では、蓄電池システム5とプロセス装置3の運転計画を同時に作成した。しかし、蓄電池システム5とプロセス装置3の運転計画を同時に作成する必要はない。例えば、蓄電池システム5及びプロセス装置3のうち、一方の運転計画は運転計画作成装置10以外の別のシステムによって作成され、他方の運転計画は上記の数理計画法によって運転計画作成装置10が作成してもよい。
【0110】
実施形態では
図1のように1つのマイクログリッド1内に再生可能エネルギー発電機、蓄電池システム5、プロセス装置3がすべて存在した。しかし、運転計画作成装置10、10A、運転計画作成方法及び運転計画作成プログラムによって得られる運転計画が適用されるシステムは、マイクログリッドに限定されない。例えば、運転計画は、
図15に示すように、各設備が電力系統9を介した仮想的な接続をした電力システムにも適用できる。つまり、
図15に示すような接続形態のデバイス群を仮想的なマイクログリッドとみなして、運転計画作成装置10、10A、運転計画作成方法及び運転計画作成プログラムによって得られる運転計画を適用してよい。電力システム1Bは、発電事業者Aが所有する太陽光発電システム2Bと、事業者Bが所有するプロセス装置3Bと、事業者Cが所有する蓄電池システム5Bと、を含む。これらの太陽光発電システム2B、プロセス装置3B及び蓄電池システム5Bは、電力系統9を介して接続されている。つまり、各システムを所有する事業者は異なっていてもよい。このとき、各事業者間の契約は、電力市場を介した取引でも、相対取引でもよい。
【0111】
実施形態では1つの数理計画法で運転計画を求めたが、複数の段階で運転計画を作成してもよい。例えば、最初に上述の混合整数計画問題(PG)を解いて、余剰電力の発生を可能な限り最小かつ後ろ倒しにした余剰電力のスケジュールを求め、次に得られた余剰電力のスケジュールを制約条件として、操業収支など別の指標を用いた最適化によって運転計画を行ってもよい。これによって余剰電力の発生を可能な限り最小かつ後ろ倒しにした状態で、経済性を考慮した運転計画を求めることができる。
【0112】
実施形態では余剰電力の発生タイミングを目的関数で重みを与えることで計画区間の後方に配置させたが、余剰電力量をなるべく計画区間の後方に配置するような制約条件を与えることで代用してもよい。例えば、以下の式(13)を制約条件に加えてもよい。
【数4】
【0113】
つまり、運転計画作成装置10において、目的関数・制約条件生成部12は、混合整数計画問題(PG)を解くための制約条件として、第1の時刻における余剰電力量が第1の時刻より過去の第2の時刻における余剰電力量以上であるという条件(式(13))を設定する。この構成によっても、余剰電力を発生させるタイミングを計画区間における後方に配置することができる。
【0114】
ただし、式(13)において、Mは適当に大きな正の定数である。vは新たなバイナリ変数かつ決定変数である。vは、余剰電力が発生するときに1であり、余剰電力が発生しないときに0である。この制約式は、「余剰電力が発生する時間帯同士の比較では、時刻が遅いほうが早い方の余剰電力量以上であること」という意味をもつ。別の制約条件によって余剰電力を計画区間の後方に集中させる方式でもよい。
【0115】
実施形態では水素製造装置は消費電力の上限値・下限値に関する制約しかなかったが、水素貯蔵システムを含めた場合を考えると、貯蔵量の上限も、水素製造装置の消費電力に関する制約として扱うことができる。貯蔵量が上限に達して余剰電力が発生する場合も、第1実施形態の混合整数計画問題(PG)を拡張することで容易に対応可能である。さらに、水素製造装置と水素貯蔵システムに加えて、水素発電機をマイクログリッド1に加えてもよい。水素発電機とは、例えば燃料電池や水素ガスタービンである。この場合、水素の貯蔵量が上限値に達する前に、水素発電機で例えば夜間に水素を消費して夜間に電力供給しておく、といった計画が作成され、(水素貯蔵量が上限に達することに起因した)余剰電力の発生をさらに遅らせることができる。この際、水素発電機の発電(水素の消費)と、水素製造装置による水素の製造は同時刻に発生しないように、制約条件を付与することが一般的である。
【0116】
実施形態では数理計画問題を混合整数計画問題(PG)として定式化したが、特にこれに限定しない。例えば非線形計画問題として定式化してもよい。非線形計画問題を解くアルゴリズムとして、例えば、遺伝的アルゴリズム(Genetic Algorithm:GA)や粒子群最適化(Particle Swarm Optimization:PSO)を用いてもよい。非線形計画問題は大域的最適解を求めることが難しいことが知られているため、準最適解(近似解)を求める形態でもよい。
【0117】
実施形態では、水素の製造流量と電力消費量の関係式(
図4参照)は1次式であったが、より高次の関係式でもよいし、非線形マップでもよい。
【0118】
実施形態では、運転計画の対象をプロセス装置3と蓄電池システム5はそれぞれ1つとしたが、運転計画の対象は複数であってもよい。定式化自体は当事者であれば拡張が容易である。
【0119】
実施形態では簡単のため、蓄電池システム5の充放電によるエネルギー損失について考慮しなかった。実際の蓄電池システム5は、充電した電力量のすべてを放電で取り出すことはできない。そこで充放電による損失を考慮して運転計画を作成してもよい。
【0120】
計算資源は現地にある必要はなく、クラウドでもよい。
【0121】
実施形態では外部とエネルギーを授受するシステムを便宜的に「マイクログリッド1」と呼んでいるが、その態様はかならずしも単一の工場・事業場に限定されない。たとえば複数の工場を束ねた工場団地でもよい。
【0122】
[付記]
本開示は、<1>「再生可能エネルギーによる発電装置の発電電力の一部もしくはすべてを消費もしくは蓄電する1つもしくは複数のデバイスの運転計画を作成する運転計画作成装置であって、前記運転計画作成装置は、前記発電電力の余剰電力を、計画区間の後方に配置することを特徴とする運転計画作成装置。」である。
【0123】
本開示は、<2>「前記デバイスのうち少なくとも1つは蓄エネルギー装置であることを特徴とする上記<1>に記載の運転計画作成装置。」である。
【0124】
本開示は、<3>「前記デバイスのうち、少なくとも1つは水素製造装置であることを特徴とする上記<1>に記載の運転計画作成装置。」である。
【0125】
本開示は、<4>「前記余剰電力は「再生可能エネルギーの発電電力-デバイスの消費・充電電力」か「再生可能エネルギーの発電電力-デバイスの消費・充電電力-電力需要家の消費」か「送電電力」であることを特徴とする上記<1>に記載の運転計画作成装置。」である。
【0126】
本開示は、<5>「前記運転計画の作成において、余剰電力を後方に配置する目的の数理計画問題を解くステップが少なくとも一つ含まれることを特徴とする上記<1>に記載の運転計画作成装置。」である。
【0127】
本開示は、<6>「前記運転計画の作成において、いったん作成した仮の運転計画をもとに、余剰電力を仮の運転計画よりも後方に再配置するステップが少なくとも一つ含まれることを特徴とする上記<1>に記載の運転計画作成装置。」である。
【0128】
[その他]
本開示の運転計画作成装置、運転計画作成方法および運転計画作成プログラムは、再生可能エネルギーの余剰電力を有効活用して生産設備を稼働させる技術に関する。従って、本開示の運転計画作成装置、運転計画作成方法および運転計画作成プログラムは、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の以下の目標7、9に貢献する。
・目標7「すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する」。
・目標9「強靱(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進およびイノベーションの推進を図る」。
【符号の説明】
【0129】
1 マイクログリッド(システム)
2,2B 太陽光発電システム
3,3B プロセス装置
4 電力需要家
5,5B 蓄電池システム
6 接続部
7 送電電力測定部
8 受電電力測定部
9 電力系統
10,10A 運転計画作成装置
10S 計画作成部
11 予測部
12 目的関数・制約条件生成部(生成部)
13 最適化部(演算部)
14 プロセス装置設定DB
15 蓄電池システム設定DB
16 外部系統設定DB
17 重みDB
18 取得部
19 判定部
51 蓄電池制御部
100 コンピューター
101 プロセッサ
102 主記憶部
103 補助記憶部
104 外部通信部
105 操作部
106 出力部
110 運転計画作成プログラム
201 気象予報サービス