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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129402
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】回転伝達装置及び操舵装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 5/04 20060101AFI20240919BHJP
【FI】
B62D5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038582
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167380
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 隆
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 隆英
(72)【発明者】
【氏名】石川 慎太朗
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 光司
(72)【発明者】
【氏名】妙木 愛子
【テーマコード(参考)】
3D333
【Fターム(参考)】
3D333CB02
3D333CB29
3D333CB45
3D333CC19
3D333CD05
3D333CD08
3D333CD16
3D333CD20
3D333CD23
3D333CE53
(57)【要約】
【課題】回転の入力に対して回転を規制する位置を広範囲に設定できるようにする。
【解決手段】同軸状に配置され一方の部材が固定、他方の部材が前記一方の部材に対して軸回り相対回転可能に支持される外方部材21及び内方部材30と、一方の部材及び他方の部材に対して軸回り回転可能に支持される中間部材50と、中間部材50と一方の部材との間に設けられ互いの軸回り相対回転が所定の位置で規制されるストッパ部29,56と、他方の部材と中間部材50との間に設けられる減速機構60とを備え、他方の部材の軸回り回転が減速機構60によって減速されて中間部材50に伝達される回転伝達装置とした。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同軸状に配置され一方の部材が固定、他方の部材が前記一方の部材に対して軸回り相対回転可能に支持される外方部材(21)及び内方部材(30)と、
前記一方の部材及び前記他方の部材に対して軸回り回転可能に支持される中間部材(50)と、
前記中間部材(50)と前記一方の部材との間に設けられ互いの軸回り相対回転が所定の位置で規制されるストッパ部(29,56)と、
前記他方の部材と前記中間部材(50)との間に設けられる減速機構(60)と、
を備え、
前記他方の部材の軸回り回転が前記減速機構(60)によって減速されて前記中間部材(50)に伝達される回転伝達装置。
【請求項2】
前記減速機構(60)は、前記他方の部材及び前記中間部材(50)の対向面に形成された軸周りの円形溝(41)及び軸周り方向に沿って軸心からの半径が大半径部(51a)と小半径部(51b)との間で変化する波形溝(51)と、前記円形溝(41)及び前記波形溝(51)に収容される複数のボール(63)と、複数の前記ボール(63)を軸回り方向に沿って保持し且つ前記ボール(63)を前記大半径部(51a)と前記小半径部(51b)との半径差の範囲で半径方向へ移動可能に保持する保持器(61)とで構成されている請求項1に記載の回転伝達装置。
【請求項3】
前記波形溝(51)は、軸回り方向に沿って大半径部(51a)と小半径部(51b)とで曲率が異なるように形成されている請求項2に記載の回転伝達装置。
【請求項4】
前記減速機構(60)は、前記ボール(63)及び前記波形溝(51)の間に軸方向への予圧を付与する弾性部材(67)を備えている請求項1に記載の回転伝達装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一つに記載の回転伝達装置の前記他方の部材にステアリングシャフト(4)の軸回り回転が伝達され、
前記回転伝達装置を前記ステアリングシャフト(4)の軸心と同一軸心上、又は、前記ステアリングシャフト(4)の軸心とは異なる軸心上に設けた操舵装置。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか一つに記載の回転伝達装置の前記他方の部材にステアリングシャフト(4)の軸回り回転が伝達され、
前記ステアリングシャフト(4)の軸回り回転に基づいて転舵部材(3,3)の向きを変化させる転舵アクチュエータ(2)を備え、前記ステアリングホイール(4)に操舵反力を付与する反力モータ(6)を、前記ステアリングシャフト(4)と前記他方の部材との間に備えている操舵装置。
【請求項7】
請求項1から4のいずれか一つに記載の回転伝達装置の前記他方の部材にステアリングシャフト(4)の軸回り回転が伝達され、
前記ステアリングシャフト(4)の軸回り回転に基づいて転舵部材(3,3)の向きを変化させる転舵アクチュエータ(2)を備えた操舵装置を搭載した輸送用機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、回転伝達装置及びその回転伝達装置を用いた操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
運転者によるステアリングホイールの回転操作に応じて車両の転舵輪(一般には前輪)の向きを変化させる車両用の操舵装置として、ステアバイワイヤ方式のものが知られている。ステアバイワイヤ方式の操舵装置は、ステアリングホイールの操作量を検知する操舵センサと、ステアリングホイールに対して機械的に切り離して設けられた転舵アクチュエータとを有し、その転舵アクチュエータが、操舵センサで検知されるステアリングホイールの操作量に応じて作動し、左右一対の転舵輪の向きを変化させる。
【0003】
ステアバイワイヤ方式の操舵装置においては、運転者によって回転操作されるステアリングホイールと、左右一対の転舵輪の向きを変化させる転舵アクチュエータとが機械的に切り離されている。そのため、運転者が、車両停車中にステアリングホイールを操作して転舵輪の向きがその移動限界(ストロークエンド)に到達したときにも、運転者は、さらにステアリングホイールを回転操作することが可能である。そのため、転舵輪の向きがストロークエンドに到達しているにもかかわらず、運転者は、転舵輪の向きがストロークエンドに到達していることに気付かないという問題が生じる。
【0004】
そこで、特許文献1の操舵装置では、ステアリングホイールに連結されているステアリングシャフトと、ステアリングシャフトを回転可能に収容するステアリングコラムとの間に、ステアリングホイールの操舵角が閾値角度を超えないように機械的に規制する規制機構とを備えている。規制機構は、ステアリングシャフトに設けられている第1係止部と、ステアリングコラム内に設けられている第2係止部とを備え、第1係止部と第2係止部とが当接することで、それ以上のステアリングシャフトの軸回り回転を規制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-172202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のように、ステアリングシャフト側の第1係止部とステアリングコラム側の第2係止部とでステアリングシャフトの軸回り回転を規制すると、ステアリングシャフトの軸回り1回転(360度)を超える範囲で、その回転を規制することができないという問題がある。すなわち、ステアリングシャフトの中立位置から最大で右側へ180度、左側へ180度の範囲内でしか、その回転を規制できない。
【0007】
そこで、この発明の課題は、回転の入力に対して回転を規制する位置を広範囲に設定できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、この発明は、同軸状に配置され一方の部材が固定、他方の部材が前記一方の部材に対して軸回り相対回転可能に支持される外方部材及び内方部材と、前記一方の部材及び前記他方の部材に対して軸回り回転可能に支持される中間部材と、前記中間部材と前記一方の部材との間に設けられ互いの軸回り相対回転が所定の位置で規制されるストッパ部と、前記他方の部材と前記中間部材との間に設けられる減速機構とを備え、前記他方の部材の軸回り回転が前記減速機構によって減速されて前記中間部材に伝達される回転伝達装置を採用した(構成1)。
【0009】
構成1において、前記減速機構は、前記他方の部材及び前記中間部材の対向面に形成された軸周りの円形溝及び軸周り方向に沿って軸心からの半径が大半径部と小半径部との間で変化する波形溝と、前記円形溝及び前記波形溝に収容される複数のボールと、複数の前記ボールを軸回り方向に沿って保持し且つ前記ボールを前記大半径部と前記小半径部との半径差の範囲で半径方向へ移動可能に保持する保持器とで構成できる(構成2)。
【0010】
構成2において、前記波形溝は、軸回り方向に沿って大半径部と小半径部とで曲率が異なるように形成されている構成を採用できる(構成3)。
【0011】
構成1において、前記減速機構は、前記ボール及び前記波形溝の間に軸方向への予圧を付与する弾性部材を備えている構成を採用できる(構成4)。この構成4は、構成1と構成2を併せ持つ態様、又は、構成1、構成2及び構成3を併せ持つ態様においても採用できる。
【0012】
上記の構成1、又は、構成1に対して構成2から構成4の中から選択される単一の又は複数の構成を組み合わせた回転伝達装置を用い、前記他方の部材にステアリングシャフトの軸回り回転が伝達され、前記回転伝達装置を前記ステアリングシャフトの軸心と同一軸心上、又は、前記ステアリングシャフトの軸心とは異なる軸心上に設けた操舵装置を採用できる。
【0013】
また、上記の構成1、又は、構成1に対して構成2から構成4の中から選択される単一の又は複数の構成を組み合わせた回転伝達装置を用い、前記他方の部材にステアリングシャフトの軸回り回転が伝達され、前記ステアリングシャフトの軸回り回転に基づいて転舵部材の向きを変化させる転舵アクチュエータを備え、前記ステアリングホイールに操舵反力を付与する反力モータを、前記ステアリングシャフトと前記他方の部材との間に備えている操舵装置を採用できる。
【0014】
さらに、上記の構成1、又は、構成1に対して構成2から構成4の中から選択される単一の又は複数の構成を組み合わせた回転伝達装置を用い、前記他方の部材にステアリングシャフトの軸回り回転が伝達され、前記ステアリングシャフトの軸回り回転に基づいて転舵部材の向きを変化させる転舵アクチュエータを備えた操舵装置を搭載した輸送用機器を採用できる。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、回転の入力に対して回転を規制する位置を広範囲に設定できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】この発明の一実施形態であるステアバイワイヤ方式の操舵装置を示す模式図
図2】一実施形態の回転伝達装置近傍の縦断面図
図3A図2のIII-III線に沿った断面図
図3B図3の中間部材が時計回りに回転した状態を示す断面図
図4】回転伝達装置の分解斜視図
図5】回転伝達装置の分解斜視図
図6A】内方補助部材の正面図
図6B図6AのVI-VI線に沿った断面図
図7A】保持器の正面図
図7B図7AのVII-VII線に沿った断面図
図8A】中間部材の正面図
図8B図8AのVIII-VIII線に沿った断面図
図8C図8Bの右側面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1に、この発明に係るステアバイワイヤ方式の操舵装置の実施形態を示す。この操舵装置は、運転者によるステアリングホイール1の操作量を電気信号に変換し、その電気信号に基づいて転舵アクチュエータ2を制御することで、転舵部材3の向きを変化させるステアバイワイヤ方式のものである。
【0018】
操舵装置は、図1に示すように、運転者により操舵されるステアリングホイール1と、ステアリングホイール1に連結されたステアリングシャフト4と、ステアリングホイール1の操作量を検知する操舵センサ5と、ステアリングホイール1に操舵反力を与える反力モータ6と、ステアリングホイール1に対して機械的に切り離して設けられた転舵アクチュエータ2と、制御部8とを有する。また、ステアリングシャフト4の回転は、反力モータ6の反対側に設けた回転伝達装置20に伝達されるようになっている。
【0019】
ステアリングシャフト4は、ステアリングホイール1を操舵したときに、ステアリングホイール1と一体に軸回りに回転する。操舵センサ5は、ステアリングシャフト4に取り付けられている。操舵センサ5としては、例えば、ステアリングホイール1の操舵角を検知する操舵角センサ、運転者によってステアリングホイール1に入力される操舵トルクを検知する操舵トルクセンサなどが挙げられる。
【0020】
ステアリングシャフト4には反力モータ6が取り付けられている。反力モータ6は、通電により回転トルクを発生する電動モータである。反力モータ6は、ステアリングシャフト4の端部に連結されている。反力モータ6は、回転トルクをステアリングシャフト4に入力することで、そのステアリングシャフト4を介してステアリングホイール1に操舵反力を付与する。
【0021】
転舵アクチュエータ2は、転舵軸10と、転舵軸ハウジング11と、転舵軸10を車両の左右方向に移動させる転舵モータ12と、転舵軸10の位置を検知する転舵センサ13とを有する。転舵軸10は、車両の左右方向に移動可能に転舵軸ハウジング11で支持されている。転舵軸ハウジング11は、転舵軸10の左右両端が転舵軸ハウジング11から突出した状態となるように転舵軸10の中央部を収容している。
【0022】
転舵モータ12および転舵センサ13は、転舵軸ハウジング11に取り付けられている。転舵モータ12と転舵軸10の間には、転舵モータ12が出力する回転を転舵軸10の直線運動に変換する運動変換機構(図示せず)が組み込まれている。転舵軸10の左右両端は、タイロッド14を介して左右一対の転舵部材3(この実施形態では転舵部材3としてタイヤホイールを採用しているので、以下、これを転舵輪3と称する)に連結され、転舵軸10が軸方向に移動するとこれに連動して左右一対の転舵輪3の向きが変化するようになっている。
【0023】
図2は、一実施形態に係る回転伝達装置20の要部を示している。図2に示すように、反力モータ6は、モータケース6aと、モータケース6aからステアリングホイール1(図1参照)の側とは反対側に突出するモータシャフト6bとを有する。以下、モータケース6aに対してステアリングホイール1の側を軸方向一端、その反対側を軸方向他端と称する。モータシャフト6bは、モータケース6aの内部に組み込まれた図示しない転がり軸受によって、軸回り回転可能に支持されている。また、モータシャフト6bは、ステアリングホイール1およびステアリングシャフト4と一体に回転するように、そのステアリングシャフト4に連結されている。モータケース6aは、それ自体が回転しないように車体(図示せず)に固定されている。
【0024】
図1に示すように、反力モータ6、転舵モータ12は、制御部8で制御される。制御部8の入力側には、外部センサ9、操舵センサ5、転舵センサ13が電気的に接続されている。外部センサ9は、車両の走行速度を検知する車速センサ等である。制御部8の出力側には、反力モータ6、転舵アクチュエータ2が電気的に接続されている。
【0025】
制御部8は、操舵センサ5で検知されるステアリングホイール1の操作量と、外部センサ9で検知される車両の走行状況(車速等)とに応じて転舵モータ12を作動させ、左右一対の転舵輪3の向きを変化させる制御を行なう。また、このとき、制御部8は、ステアリングホイール1の操作量と車両の走行状況とに応じた大きさの操舵反力が発生するように反力モータ6を作動させる制御を行なう。
【0026】
モータシャフト6bは、モータケース6aの軸方向他端側に設けられた回転伝達装置20に接続されている。回転伝達装置20は、同軸状に配置される内方部材30と外方部材21を備えている。外方部材21は、モータケース6aに固定されるケースとしている。ケースに設けられた穴21g(図4及び図5参照)にボルトが挿通され、そのボルトがモータケース6aに設けられた雌ネジ穴にねじ込まれることで、ケースがモータケース6aに固定されている(ボルト及び雌ネジ穴は図示せず)。これにより、外方部材21(請求項でいう一方の部材に相当)は固定である。また、内方部材30(請求項でいう他方の部材に相当)は、軸受26を介して外方部材21に対して軸回り回転自在に支持されている。
【0027】
外方部材21は、図2に示すように、円筒状を成す筒状部21aと、その筒状部21aの軸方向他端側を閉じる端壁部21bとを備えている。ボルト用の穴21gは、筒状部21aの軸方向一端において、外径方向へ突出する外縁突出部21fに設けられている。外縁突出部21f及び穴21gは、周方向に沿って複数設けられている。軸受26の外輪は、筒状部21aの内周に設けられた嵌合凹部22に嵌合固定されて、止め輪27で抜け止めされている。
【0028】
内方部材30は、図2に示すように、軸方向一端側のベース部35から軸方向他端側の先端部36へ向かって徐々に階段状に縮径する本体部37と、その本体部37に対して軸回り回転自在の補助内方部材40とを備えている。ベース部35の軸方向一端側の端面には穴30aが開口しており、その穴30a内にモータシャフト6bが挿入されて、モータシャフト6bと内方部材30とは軸回り一体に回転する。実施形態では、モータシャフト6bと内方部材30とはスプラインによって結合されているが、その接続構造はスプライン結合には限定されず、例えば、セレーション結合、圧入等による接続構造としてもよい。また、モータシャフト6bと内方部材30とを一体に成型された部材で構成してもよい。また、軸受26の内輪は、ベース部35の外周に設けられた嵌合凹部31に嵌合固定されている。
【0029】
外方部材21と内方部材30との間には、その外方部材21と内方部材30に対してそれぞれ軸回り回転可能に支持される中間部材50が設けられている。図8A図8Cに示すように、中間部材50は環状の部材で構成されて、内方部材30に対して軸受24を介して軸回り回転可能に支持されている。軸受24の外輪は、それぞれに中間部材50の内周に設けられた嵌合凹部54に嵌合固定されている。また、軸受24の内輪は、内方部材30の先端部36の外周に設けられた嵌合凹部34に嵌合固定されている。また、中間部材50は、外方部材21に対して軸受25を介して軸回り回転可能に支持されている。軸受25の外輪は、中間部材50の内周に設けられた嵌合凹部52aに嵌合固定されている。また、軸受25の内輪は、外方部材21の端壁部21bから軸方向一端側へ立ち上がる筒状部21cの外周に設けられた嵌合部28に嵌合固定されている。なお、外方部材21、内方部材30及び中間部材50の軸心(回転中心)は設計上一致しており、同軸状に配置された状態である。
【0030】
中間部材50は、図8Bに示すように、円筒状部52の軸方向一端に内径側へ立ち上がる端壁53を備え、端壁53の中心部は孔55となっている。円筒状部52の内周の嵌合凹部52aは端壁53の他端側面53aに至る。端壁53の外周には外径側へ突出するフランジ57が形成されている。
【0031】
図4及び図5に示すように、中間部材50と外方部材21との間には、互いの軸回り相対回転が所定の位置で規制されるストッパ部29,56が設けられている。中間部材50側のストッパ部56は、円筒状部52の周方向の一部が外径側へ突出した形態となっている。また、外方部材21側のストッパ部26は、筒状部21aの内面の周方向の一部が内径側へ突出した形態となっている。
【0032】
また、内方部材30と中間部材50との間には減速機構60が設けられている。内方部材30の軸回り回転が、減速機構60によって減速されて中間部材50に伝達され、中間部材50が軸回り回転する。また、その中間部材50に軸回り回転は、ストッパ部29,56同士の当接によって、所定の方位の範囲内で規制される。
【0033】
減速機構60は、内方部材30と中間部材50との対向面に形成された軸周りの円形溝41及び波形溝51と、円形溝41及び波形溝51に収容されるボール63と、複数のボール63を保持する保持器61等で構成されたボール減速機である。実施形態では、円形溝41は内方部材30側の対向面に、波形溝51は中間部材50側の対向面に形成されているが、これを逆にして、円形溝41を中間部材50側の対向面に、波形溝51を内方部材30側の対向面に形成してもよい。
【0034】
円形溝41は、内方部材30が備える補助内方部材40の端面に形成されている。図6A及び図6Bに示すように、補助内方部材40は環状の部材で構成されている。また、補助内方部材40は、内方部材30の本体部37に対して軸受23を介して軸回り回転可能に支持されている。軸受23の外輪は、補助内方部材40の内周に設けられた嵌合凹部42aに嵌合固定されている。また、軸受23の内輪は、本体部37の外周に設けられた嵌合部32に嵌合固定されている。なお、内方部材30の本体部37と補助内方部材40の軸心(回転中心)は設計上一致しており、同軸状に配置された状態である。
【0035】
補助内方部材40は、図6Bに示すように、円筒状部42の軸方向他端に内径側へ立ち上がる端壁43を備え、端壁43の中心部は孔44となっている。円筒状部42の内周の嵌合凹部42aは端壁43の一端側面43aに至る。
【0036】
円形溝41は、図6Aに示すように、軸回り全周に亘って均一の幅で形成された円形の溝であり、端壁43の他端側面43bに形成されている。溝の中心線(溝の幅方向中心線)は、軸心周りの真円で構成されている。波形溝51は、図8Aに示すように、軸回り全周に亘って均一の幅で形成され、且つ、軸周り方向に沿って軸心からの半径が変化する波形の形状を成す溝である。波形溝51は、端壁53の一端側面53bに形成されている。波形溝51には、軸周り方向に沿って、軸心からの半径(溝の幅方向中心の半径)が最大となる大半径部51aと、その半径(溝の幅方向中心の半径)が最小となる小半径部51bとが交互に介在する。大半径部51aは、軸回り等分方位に設けられている。実施形態では、大半径部51aは軸回り3箇所に設けられているが、これを4箇所以上としてもよい。
【0037】
ここで、波形溝51は、軸回り方向に沿って大半径部51aと小半径部51bとで曲率が異なるように形成されていることが好ましい。実施形態では、大半径部51aでは小半径部51bよりも相対的に曲率を大きく(曲線半径を小さく)している。ここで、大半径部51aと小半径部51bのそれぞれにおいて、単一の曲率(半径)からなる円弧としてもよいし、複数の曲率(半径)の組み合わせからなる複合円弧としてもよい。複合円弧を採用する場合、大半径部51aの最大曲率が、小半径部51bの最小曲率以上になるように設定するとよい。
【0038】
円形溝41と波形溝51とは軸方向に対向し、その円形溝41と波形溝51との間に複数のボール63が収容される。ボール63の個数は、大半径部51aの数よりも一つ多い数に設定される。実施形態では、大半径部51aの数は3であるので、ボール63の数は4に設定される。
【0039】
保持器61は、図7A及び図7Bに示すように、プレート状を成す部材で構成されている。保持器61は、複数の前記ボール63を軸回り方向に沿って保持し、且つ、それらのボール63を大半径部51aと小半径部51bとの半径差の範囲で半径方向へ移動可能に保持するように、半径方向に長い長孔62が設けられている。ボール63は、長孔62内で周方向にほとんど移動しないように拘束されており、且つ、半径方向へはその長孔62の長手方向に沿って移動可能である。この移動の範囲が、ボール63が大半径部51aと小半径部51bとの間を移動する際の半径差に相当する。
【0040】
また、減速機構60は、図2に示すように、ボール63及び波形溝51の間に軸方向への予圧を付与する弾性部材67を備えている。これにより、ボール63は波形溝51の溝の縁に押し付けられて、その波形溝51内からの浮き上がりが防止される。弾性部材67として、例えば、ウェーブワッシャ、又は皿バネ等を採用できる。
【0041】
ここで、モータシャフト6bに連結された内方部材30(軸受23及び補助内方部材40を含む)は入力部材として機能し、ボール63を介して軸方向に対向する中間部材50が出力部材として機能する。
【0042】
入力部材の回転により、円形溝41が軸回り1回転すると、ボール63は保持器61の長孔62内を半径方向に1往復作動する。その作動により、出力部材は波形溝51の1波形分の位相だけ回動する。この実施形態では、波形溝51が3つ設定されているため、円形溝41の軸回り1回転につき、波形溝51は軸回り1/3回転する。つまり入力部材が3回転すると出力部材は1回転するように、減速比1/3の状態で減速して伝達される。
【0043】
図3Aは、ステアリングシャフト4が中立位置(直進状態)のときを示しており、図3Bは、ステアリングシャフト4が回転端(ストロークエンド)に至った状態を示している。 図3A及び図3Bでは、軸受25の外輪を符号25aで、内輪を符号25bで、転動体を符号25cで、転動体25cを保持する保持器を符号25dで示している。図3Aに示す中立位置からステアリングを転舵した際、入力部材が一方向へ1回転(360°)すると、出力部材は1/3回転(120°)し、図3Bに示すように、ストッパ部29,56の端面29b、56b同士が当接する。これにより、それ以上のステアリングシャフトの回転が規制される。また、入力部材が中立状態から逆方向に1回転(360°)すると、出力部材は1/3回転(120°)し、ストッパ部29,56の端面29a,56a同士が当接する。ストッパ部29,56同士が当接した状態は、ステアリングホイール1の操舵範囲の終点(左操舵のストロークエンド及び右操舵のストロークエンド)に相当し、これにより、ステアリングシャフト4及びステアリングホイール1の回転が所定の方位の範囲内で規制される。
【0044】
ただし、実施形態では、波形溝51の山(大半径部51a)の設定数が3の例を示しているが、ステアリングホイール1の回転角要求に応じて、波形溝51の山の数を変更することも可能である。例えば、波形溝51の山(大半径部51a)の設定数を4とし、ボール63の数を5とすることで、減速比1/4と設定できる。
【0045】
以上のように、減速機構60を用いた減速比の設定により、ステアリングシャフト4は、軸回り1回転(360度)を超えるような広い範囲で、回転を規制する位置を設定できるようになる。また、減速機構60として、ボール63と波形溝51で構成される廉価且つ薄型のボール減速機を採用したことで、ステアリングシャフト4の回転を減速しつつ、1回転以上の位相規制を実現できる。また、ボール減速機を採用したことにより、ステアバイワイヤシステム全体の小型化に貢献するとともに、低コスト化にも寄与し得る。
【0046】
なお、ストッパ部29,56は、図3A及び図3Bに示す軸直交断面において、外径側へ向かって徐々に幅(周方向に対する幅)が拡がる形状となっている。また、そのストッパ部29,56の端面29a,56a;29b,56bは、互いに平行なフラット面となっている。フラットな端面29a,56a;29b,56b同士の面接触であるので、互いの接触圧が低減されている。なお、部材の耐久性等が確保されるならば、端面29a,56a;29b,56bをそれぞれ円筒面又は球面等とすることで、両者を線接触や点接触としてもよい。
【0047】
上記の実施形態では、減速機構60として、円形溝41、波形溝51、ボール63及び保持器61等で構成されたボール減速機を採用したが、実施形態で示す構成以外の他のボール減速機を採用してもよい。また、ボール減速機以外の他の形態からなる減速機を採用してもよい。
【0048】
上記の実施形態では、回転伝達装置20の軸心、すなわち、内方部材30、中間部材50及び外方部材21の軸心をステアリングシャフト4の軸心と同一軸心上に配置したが、この実施形態以外にも、例えば、回転伝達装置20の軸心をステアリングシャフト4の軸心とは異なる軸心上に設けた構成を採用してもよい。
【0049】
さらに、上記の実施形態では、ステアリングホイール1に操舵反力を付与する反力モータ6を備え、その反力モータ6を、ステアリングシャフト4と内方部材30(回転伝達装置20)の間に備えている構成としたが、この実施形態には限定されず、反力モータ6の位置は自由に設定できる。例えば、ステアリングシャフト4を延長して回転伝達装置20の軸方向他端側へ突出させ、その突出させたステアリングシャフト4の他端に反力モータ6を設けてもよい。
【0050】
また、回転伝達装置20は、上記の実施形態に加え、通電と非通電の切り替えによりステアリングホイール1の回転を阻止するステアリングロック状態とステアリングホイール1の回転を許容するステアリングロック解除状態とを切り替える電磁式クラッチユニットを備えた構成としてもよい。
【0051】
さらに、上記の各実施形態の内外を逆転させて、内方部材30を固定とし(請求項でいう一方の部材に相当)、外方部材21が内方部材30に対して軸回り回転自在に支持されている(請求項でいう他方の部材に相当)としてもよい。この場合、ステアリングシャフト4の軸回り回転は、外方部材21に入力される構成となる。
【0052】
上記の各実施形態では、ステアバイワイヤ方式の操舵装置を例に、この発明の構成を説明したが、この実施形態には限定されず、この発明は、ステアバイワイヤ方式以外の各種の車両用の操舵装置、あるいは、車両用以外の操舵装置、その他各種の装置にも使用できる。なお、実施形態の車両用の操舵装置では、転舵部材3としてタイヤホイールを採用しているのでこれを転舵輪3と称したが、車輪を備えない輸送用機器、例えば、ステアリングホイール1の回転操作によりステアリングシャフト4を軸回り回転させ、その回転により舵(ラダー)を左右に動作させる舵取り装置を備えた輸送用機器(例えば、船舶や航空機等)においては、転舵部材3は舵(ラダー)に相当する。
【0053】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0054】
1 ステアリングホイール
2 転舵アクチュエータ
3 転舵部材
4 ステアリングシャフト
6 反力モータ
20 回転伝達装置
21 外方部材
29,56 ストッパ部
30 内方部材
40 補助内方部材
41 円形溝
50 中間部材
51 波形溝
51a 大半径部
52b 小半径部
60 減速機構
61 保持器
63 ボール
67 弾性部材
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C