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特開2024-129413T細胞受容体遺伝子再構成断片(TREC)、Igκ鎖遺伝子再構成断片(KREC)およびSMN1遺伝子の量を定量PCRにより同時に測定する方法およびそのための新規プライマー
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129413
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】T細胞受容体遺伝子再構成断片(TREC)、Igκ鎖遺伝子再構成断片(KREC)およびSMN1遺伝子の量を定量PCRにより同時に測定する方法およびそのための新規プライマー
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/686 20180101AFI20240919BHJP
   C12Q 1/6881 20180101ALI20240919BHJP
【FI】
C12Q1/686 Z ZNA
C12Q1/6881 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038609
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】318010328
【氏名又は名称】KMバイオロジクス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100221545
【弁理士】
【氏名又は名称】白江 雄介
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 和美
(72)【発明者】
【氏名】吉田 真一郎
(72)【発明者】
【氏名】山本 千尋
(72)【発明者】
【氏名】中村 公俊
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ42
4B063QR08
4B063QR56
4B063QR62
(57)【要約】
【課題】TREC、KRECおよびSMN1の量を同時に測定するための方法、それを使用した検査方法、およびそのキットを提供する。
【解決手段】T細胞受容体遺伝子再構成断片(TREC)、Igκ鎖遺伝子再構成断片(KREC)およびSMN1遺伝子の量を定量PCRにより同時に測定する方法であって、以下:
(i)対象から採取されたDNAとPCR試薬を混合する工程であって、ここで前記PCR試薬がプライマーのセット、およびプローブのセットを含む、工程;
(ii)定量PCR反応を行い、TREC、KRECおよびSMN1遺伝子の量を定量する工程、
を含み、
ここで、前記プライマーのセットが、配列番号4、5、7、10、37、および38で示される塩基配列を含む6つのプライマーを含み、かつ前記プローブのセットが、配列番号22、23、および28で示される塩基配列を含む3つのプローブを含む、方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
T細胞受容体遺伝子再構成断片(TREC)、Igκ鎖遺伝子再構成断片(KREC)およびSMN1遺伝子の量を定量PCRにより同時に測定する方法であって、以下:
(i)対象から採取されたDNAとPCR試薬を混合する工程であって、ここで前記PCR試薬がプライマーのセット、およびプローブのセットを含む、工程;
(ii)定量PCR反応を行い、TREC、KRECおよびSMN1遺伝子の量を定量する工程、
を含み、
ここで、前記プライマーのセットが、配列番号4、5、7、10、37、および38で示される塩基配列を含む6つのプライマーを含み、かつ前記プローブのセットが、配列番号22、23、および28で示される塩基配列を含む3つのプローブを含む、
方法。
【請求項2】
前記3つのプローブが蛍光物質およびクエンチャーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
対象から採取されたDNAが、乾燥血液ろ紙に由来する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
プライマーのセットの6つのプライマーおよびプローブのセットの3つのプローブから選択される少なくとも1つの核酸が核酸修飾をさらに含む、請求項1-3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1-4のいずれか一項で規定される方法で測定されたTREC、KRECおよびSMN1遺伝子の量に基づき、正常検体と比較した場合に、以下のリスクを評価する検査方法であって:
TRECが低い場合にT細胞減少症のリスクがあると評価し;
KRECが低い場合にB細胞減少症のリスクがあると評価し;
TRECが低い場合に重症複合免疫不全症(SCID)のリスクがあると評価し;または
SMN1が低い場合に脊髄性筋委縮症(SMA)のリスクがあると評価する、
検査方法。
【請求項6】
カットオフ値が、SMAについて200.0copies/μL未満、TRECについて20.0copies/μL未満、KRECについて10.0copies/μL未満である、請求項5に記載の検査方法。
【請求項7】
配列番号4、5、7、10、37、および38で示される塩基配列を含む6つのプライマーを含むプライマーのセット、および配列番号22、23、および28で示される塩基配列を含む3つのプローブを含むプローブのセットを含む、TREC、KRECおよびSMN1の量を同時に測定するためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般にT細胞受容体遺伝子再構成断片(TREC)、Igκ鎖遺伝子再構成断片(KREC)およびSMN1遺伝子の量を定量PCRにより同時に測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
新生児スクリーニングは、新生児に対する先天性代謝異常等についての集団検診である。新生児スクリーニングの目的は、生まれつき特定の栄養素を利用できないとか、成長ホルモンなどが過不足の状態となり、その結果知的障害や身体の発育に障害を起こす遺伝性疾患等について、早期発見・早期治療により未然に心身障害を予防することである。具体的なスクリーニング方法では、まず産科医療機関で生後4~6日目の新生児のかかとから、ごく少量の血液をろ紙(dried blood spot;DBS)に採り、スクリーニングセンターに郵送する。その後、スクリーニングセンターで乾燥血液ろ紙から抽出した試料から各種測定が行われる。
【0003】
日本では、1977年10月より検査料の公費負担による国の事業として新生児マススクリーニングが開始されている。現在日本における新生児マススクリーニングの対象疾患は、糖代謝異常症であるガラクトース血症、内分泌疾患である先天性甲状腺機能低下症や先天性副腎過形成症、アミノ酸代謝異常疾患であるフェニールケトン尿症やメイプルシロップ尿症、有機酸代謝異常疾患であるメチルマロン酸血症やプロピオン酸血症、脂肪酸代謝異常疾患であるVLCADやMCADなどの合計20疾患となっている。一方で、新生児マススクリーニングの対象になっていない、5つの条件を満たす疾患について、オプションで選択できる有料検査として、拡大スクリーニング(オプショナルスクリーニングとも呼ばれる)検査がある。5つの条件は、(a)治療法がある、(b)その病気であるかの可能性を調べる精度の高い検査方法がある、(c)先天性代謝異常症の中でも比較的に患者数が多い、(d)病気が発症する前にみつけると治療効果を高め症状を事前に予防したり、重い障害を防ぐことができる、(e)特徴的な症状が少なく、通常の診療で見つけることが難しい、である。
拡大スクリーニングとしては、ライソゾーム病、重症複合免疫不全症(severe combined immunodeficiency:以下、「SCID」という)および脊髄性筋委縮症(spinal muscular atrophy:以下、「SMA」という)に関するものがある。
【0004】
重症複合免疫不全症(SCID)は先天性免疫不全症の一つであり、液性および細胞性免疫の複合免疫不全症の最重症型と位置付けられる。通常生後数か月以内に日和見感染を含む様々な重症感染症を発症し、根本的治療である造血幹細胞移植を行わなければ生後1年以内に死亡する。発症頻度はおよそ5万出生あたり1人と推定されている。現在までにSCIDの病態の理解が進み、約20の原因遺伝子が同定されている。SCIDは造血幹細胞移植によって治癒しうるが、感染症を合併していると移植成績は不良となるため、いかに感染症罹患前に診断できるかが重要である(非特許文献1)。
【0005】
正常なT細胞が新たに造られる場合、通常T細胞では遺伝子の再構成が行われ、T細胞受容体遺伝子再構成断片(T-cell receptor excision circles:以下、「TRECs」という)と呼ばれる環状DNAが産生される。また、正常なB細胞でもこれが新たに造られる場合の産生マーカーとして、Igκ鎖遺伝子再構成断片(Kappa-deleting recombination excision circles:以下、「KRECs」という)、と呼ばれる環状DNAが産生される。このため、TRECsおよびKRECsをPCR(polymerase chain reaction)法で測定すればごく少量の血液からも測定が可能である(非特許文献2)したがって、血液ろ紙検体に含まれるTRECsおよびKRECsの量をTおよびB細胞の正常成熟の指標として評価することで、SCIDをスクリーニングすることができる。すなわち、TRECsの存在はT細胞、KRECsの存在はB細胞の成熟を意味するため、TRECsおよびKRECsの減少はSCIDをスクリーニングする指標となる。近年、欧米を中心にTRECを検出する定量PCR法を用いた新生児スクリーニングが行われるようになり、その有用性が示されてきている。一方、日本のSCID患者の予後改善のためにも、広く新生児マススクリーニングが行われることが望まれているものの、現在のところ、希望者のみの拡大スクリーニング検査となっている。
【0006】
脊髄性筋委縮症(SMA)は、脊髄前角細胞の変性による運動ニューロン病であり筋緊張低下と進行性の筋力低下を示し、知的障害は呈さない。発症年齢と最高到達運動機能によりI型(生涯座位未獲得)、II型(生涯立位未獲得)、III型(歩行可能)、IV型(成人期発症)に分類される。小児期発症のSMAでは95%が5番染色体長腕5q13に存在するSMN1遺伝子変異による。臨床的なSMAであっても、SMN1遺伝子欠失を認めない症例、いわゆるnon-5q SMAが存在し、その頻度はIII型、IV型で高くなる(非特許文献3)。我が国ではI型の重症例は、出生2万人に対して1人前後、乳児期~小児期に発症するSMAの罹患率は10万人に1~2人と言われている。近年、本国においてもSMAに対する治療薬が承認され、早期診断、早期治療が重要視されてきている。新生児におけるSMAのスクリーニング検査では、血液ろ紙検体に含まれるSMN1遺伝子を指標として評価することができる(非特許文献4:003-201804-kijyun.pdf (nanbyou.or.jp))。
【0007】
乾燥血液ろ紙ディスク(dried blood spot;DBS)を用いた定量PCRによるSCIDの測定方法としては、特許文献1(特許6761093、積水)、特許文献2(WO2021-049601、積水)、特許文献3(特開2022-053961、KMバイオロジクス出願特許)がある。また、定量PCRによるSMAの測定方法としては、特許文献4(WO2021-020161、積水)がある。これらの測定は対象疾患1つを個別に定量PCRで測定する方法であり、積水メディカルでは受託検査として、SCID(TREC/KREC)とSMAを個別に測定している。
しかしながら、拡大スクリーニングでは、対象とする疾患を同時に測定できた方が、早期診断だけでなく、受診者の費用面からもメリットがある。このため、SCIDとSMAを同時測定する検査キットが販売されている。パーキンエルマー社のNeoMDxキット(非特許文献5:NeoMDxキット-PerkinElmer Japan)およびThermoFisher社のTaqManTM SCID/SMA Plus Assay(非特許文献6:TaqManTM SCID/SMA Plus Assay (thermofisher.com))である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許6761093
【特許文献2】WO2021-049601
【特許文献3】特開2022-053961
【特許文献4】WO2021-020161
【特許文献5】特表2005-514005
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】金兼弘和,今井耕輔,森尾友宏:重症複合免疫不全症~その発見から今後の展望~.日本臨床免疫学会会誌.40,145-154(2017)
【非特許文献2】Chan K., Puck J.M.:Development of population-based screening for severe combined immunodeficiency.J Allergy Clin Immunol.115:391-398,2005.
【非特許文献3】荒川玲子,日野香織、北村裕梨、斎藤加代子:神経筋疾患の遺伝学的検査.脳と発達.50,192-196(2018)
【非特許文献4】難病情報センターウェブサイト:3 脊髄性筋委縮症003-201804-kijyun.pdf(nanbyou.or.jp)
【非特許文献5】パーキンエルマー社:NeoMDxキットNeoMDxキット-PerkinElmer Japan
【非特許文献6】ThermoFisher社:TaqMan(TM) SCID/SMA Plus AssayTaqMan(TM) SCID/SMA Plus Assay(thermofisher.com)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
TREC、KRECおよびSMN1遺伝子の量を同時に測定する方法が求められており、特異性・頑健性の点で特に優れた測定法を見出すことにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
TREC、KRECおよびSMN1に対する新規プライマーおよびプローブを検討し、最適なものを見出した。
したがって、本開示は以下を含む:
[項1]
T細胞受容体遺伝子再構成断片(TREC)、Igκ鎖遺伝子再構成断片(KREC)およびSMN1遺伝子の量を定量PCRにより同時に測定する方法であって、以下:
(i)対象から採取されたDNAとPCR試薬を混合する工程であって、ここで前記PCR試薬がプライマーのセット、およびプローブのセットを含む、工程;
(ii)定量PCR反応を行い、TREC、KRECおよびSMN1遺伝子の量を定量する工程、
を含み、
ここで、前記プライマーのセットが、配列番号4、5、7、10、37、および38で示される塩基配列を含む6つのプライマーを含み、かつ前記プローブのセットが、配列番号22、23、および28で示される塩基配列を含む3つのプローブを含む、
方法、
[項2]
前記3つのプローブが蛍光物質およびクエンチャーを含む、項1に記載の方法、
[項3]
対象から採取されたDNAが、乾燥血液ろ紙に由来する、項1または2に記載の方法、
[項4]
プライマーのセットの6つのプライマーおよびプローブのセットの3つのプローブから選択される少なくとも1つの核酸が核酸修飾をさらに含む、項1-3のいずれか一項に記載の方法、
[項5]
項1-4のいずれか一項で規定される方法で測定されたTREC、KRECおよびSMN1遺伝子の量に基づき、正常検体と比較した場合に、以下のリスクを評価する検査方法であって:
TRECが低い場合にT細胞減少症のリスクがあると評価し;
KRECが低い場合にB細胞減少症のリスクがあると評価し;
TRECが低い場合に重症複合免疫不全症(SCID)のリスクがあると評価し;または
SMN1が低い場合に脊髄性筋委縮症(SMA)のリスクがあると評価する、
検査方法、
[項6]
カットオフ値が、SMAについて200.0copies/μL未満、TRECについて20.0copies/μL未満、KRECについて10.0copies/μL未満である、項5に記載の検査方法、
[項7]
配列番号4、5、7、10、37、および38で示される塩基配列を含む6つのプライマーを含むプライマーのセット、および配列番号22、23、および28で示される塩基配列を含む3つのプローブを含むプローブのセットを含む、TREC、KRECおよびSMN1の量を同時に測定するためのキット。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、TREC、KRECおよびSMN1遺伝子の量を同時に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、KREC増幅用プライマーでPCRを行い、それらの組み合わせのPCR産物を電気泳動した結果を示す。
図2図2は、SMN1増幅用プライマーでPCRを行い、それらの組み合わせのPCR産物を電気泳動した結果を示す(a)-(i)。
図3図3は、SMN1増幅用プライマーでPCRを行い、それらの組み合わせのPCR産物を電気泳動した結果を示す(j)-(r)。
図4図4は、プローブTREC-PB1を使用した場合の、増幅結果を示す(アニーリング温度:62℃)。
図5図5は、プローブTREC-PB2を使用した場合の、増幅結果を示す(アニーリング温度:62℃)。
図6図6は、プローブKREC-PB1を使用した場合の、増幅結果を示す(アニーリング温度:62℃)。
図7図7は、プローブKREC-PB2を使用した場合の、増幅結果を示す(アニーリング温度:62℃)。
図8図8は、プローブSMN1-PB1を使用した場合の、増幅結果を示す(アニーリング温度:62℃)。
図9図9は、プローブSMN1-PB2を使用した場合の、増幅結果を示す(アニーリング温度:62℃)。
図10図10は、プローブSMN1-PB3を使用した場合の、増幅結果を示す(アニーリング温度:62℃)。
図11図11は、プローブSMN1-PB7を使用した場合の、増幅結果を示す(アニーリング温度:60℃)。シングルアッセイのみ行っている。
図12図12は、プローブSMN1-PB8を使用した場合の、増幅結果を示す(アニーリング温度:63℃)。
図13図13は、プローブSMN1-PB9を使用した場合の、増幅結果を示す(アニーリング温度:63℃)。
図14図14は、各種のプライマーおよびプローブ(表9)を使用した場合の、TREC、KRECおよびSMN1を同時に測定した結果を示す。
図15図15は、各種のプライマーおよびプローブ(表10)を使用した場合の、TREC、KRECおよびSMN1を同時に測定した結果を示す。
図16-1】図16は、新生児乾燥血液ろ紙から1.5mmφの乾燥血液ろ紙を採取し、各患者検体と健常人検体において、実施例5で確立した方法を用いてTREC、KRECおよびSMN1を測定した結果を示す。図16-1は、健常人から得られた試料を用いた場合の結果を示す。
図16-2】図16-2は、T細胞減少症を有する患者から得られた試料を用いた場合の結果を示す。
図16-3】図16-3は、SCIDを有する患者から得られた試料を用いた場合の結果を示す。
図16-4】図16-4は、B細胞欠損症を有する患者から得られた試料を用いた場合の結果を示す。
図16-5】図16-5は、SMN1欠損を有する患者(SMN2:2コピー)から得られた試料を用いた場合の結果を示す。
図16-6】図16-6は、SMN1欠損を有する患者(SMN2:3コピー)から得られた試料を用いた場合の結果を示す。
図17図17は、実施例5で確立した方法を用いて、正常判定検体(n=500)の新生児乾燥血液ろ紙から1.5mmφの乾燥血液ろ紙を採取し、SMAを測定した結果を示す。
図18図18は、実施例5で確立した方法を用いて、正常判定検体(n=500)の新生児乾燥血液ろ紙から1.5mmφの乾燥血液ろ紙を採取し、TRECを測定した結果を示す。
図19図19は、実施例5で確立した方法を用いて、正常判定検体(n=500)の新生児乾燥血液ろ紙から1.5mmφの乾燥血液ろ紙を採取し、KRECを測定した結果を示す。
図20図20は、本開示による方法と先行品を使用した場合とを比較した結果を示す。
図21図21は、TRECの検査対象に係る判定のアルゴリズムを示す。
図22図22は、KRECの検査対象に係る判定のアルゴリズムを示す。
図23図23は、SMAの検査対象に係る判定のアルゴリズムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
第一の側面では、本開示は、T細胞受容体遺伝子再構成断片(TREC)、Igκ鎖遺伝子再構成断片(KREC)およびSMN1遺伝子の量を定量PCRにより同時に測定する方法に関する。
【0015】
本開示において、「同時」に測定するとは、2以上の対象について同じ反応系において測定することを指す。本開示において、「個別」に測定するとは、2以上の対象について別の反応系において測定することを指す。2以上の対象とは、PCR反応においては、2つ以上の異なる標的配列を指す。例えば、1つのPCRチューブ(すなわち、同じ反応系)において、試料とPCR試薬を反応させてTRECとSMN1遺伝子の量を測定する場合、TRECとSMN1遺伝子は「同時」に測定される。例えば、「同時」に測定する場合、異なる2以上のプライマー対が同じ反応系において使用される。また、例えば、異なる2つのPCRチューブ(すなわち、別の反応系)において、試料とPCR試薬をそれぞれ反応させてTRECとSMN1遺伝子の量を測定する場合、TRECとSMN1遺伝子は「個別」に測定される。
【0016】
本開示において、TREC、KRECおよびSMN1遺伝子の量を同時に測定した結果、TREC、KRECおよびSMN1遺伝子のいずれか、または全てが検出されなくてもよい。例えば、検出されないまたは検出限界以下である場合、対応する核酸が試料に微量に存在することまたは存在しないことを示す。
【0017】
本開示に用いられる試料は核酸が含まれていれば特に限定されない。核酸は特に限定されないが、DNAまたはRNAであり、好ましくはDNAである。一実施形態では、試料は、対象から採取された核酸を含む試料であり、好ましくは生体に由来する試料である。生体に由来する試料は、新生児に由来してもよいが、特に限定されない。生体に由来する試料には血液試料が含まれ、例えばかかとから採取される。例えば血液試料を含むろ紙を乾燥させた乾燥血液ろ紙が使用されてもよい。用いられる試料の量は、前記試料に含まれる核酸の量を検討して当業者が適宜設定できる。試料として乾燥血液ろ紙が用いられる場合、乾燥血液ろ紙から切り出されるパンチ片の大きさは、含まれる血液の量を検討して当業者が適宜設定できる。前記パンチ片の大きさは、例えば直径約0.5mm、0.6mm、0.7mm、0.8mm、0.9mm、1.0mm、1.1mm、1.2mm、1.3mm、1.4mm、1.5mm、1.6mm、1.7mm、1.8mm、1.9mm、2.0mm、2.1mm、2.2mm、2.3mm、2.4mm、2.5mm、2.6mm、2.7mm、2.8mm、2.9mm、3.0mm、3.1mm、3.2mm、3.3mm、3.4mm、3.5mm、3.6mm、3.7mm、3.8mm、3.9mm、または4.0mmである。例えば使用される前記パンチ片の枚数は、1、2、3、4、5、または6枚である。ろ紙の量(例えば枚数)を増やすことで得られる測定対象となるDNA量は増えるが、DNA抽出効率の低下および反応系に持ち込まれる血液由来PCR阻害物質量も増加するため、使用されるろ紙の量(例えば枚数)は少ないことが好ましい。
【0018】
本開示に用いられるPCR試薬は、本開示におけるPCR反応を行うため、または増幅産物の検出に必要な試薬を含む。前記PCR試薬は、少なくともプライマーのセットおよびプローブのセットを含む。前記PCR試薬はさらに、ポリメラーゼ、dNTP(デオキシヌクレオシド三リン酸)を含んでもよい。また、典型的には前記PCR試薬はバッファーを含む。前記PCR試薬は当業者が公知のものを適宜選択して用いることができる。
【0019】
本開示において、プライマーまたはプローブについて配列番号に言及する場合は、当該プライマーまたはプローブがその配列番号で示される塩基配列を含むものとする。本開示のプライマーまたはプローブは、言及した配列に1、2、3の置換、欠失、挿入、および/または付加されていていもよい。
【0020】
本開示において、PCR反応に用いるプライマーおよびプローブの塩基長は特に限定されず、例えば13塩基長、14塩基長、15塩基長、16塩基長、17塩基長、18塩基長、19塩基長、20塩基長、21塩基長、22塩基長、23塩基長、24塩基長、25塩基長、26塩基長、27塩基長、28塩基長、29塩基長、30塩基長、31塩基長、32塩基長、33塩基長、34塩基長、35塩基長である。本開示において、PCR反応に用いるプライマーおよびプローブは、公知の修飾を含んでもよく、例えばLNA(Locked nucleic acid)修飾、2’-O-メトキシエチル(2’-MOE)、2’-O-メチル(2’-OMe)、5-メチルシチジン(5-Me-dC)を含む。LNA修飾により、プライマーおよびプローブのそれぞれの標的との結合親和性が増加することが企図される。LNA修飾された核酸は、当該核酸の表記の左側に「+」を付して本明細書で示される。例えば、ATGCからなる塩基配列で示される核酸の2番目のヌクレオチド「T」がLNA修飾されている場合、本明細書中では、A+TGCと示される。
【0021】
本開示において用いられるプライマーの塩基配列は、例えば配列番号4、5、7、10、37、および38からなる群から選択される配列で示される塩基配列を含む。好ましくは、本開示において用いられるプライマーの塩基配列は、配列番号4、5、7、10、37、および38からなる群から選択される配列で示される塩基配列からなる。本開示におけるプライマー対は、標的核酸を増幅させるためのプライマーの組み合わせをいい、例えば、3種のプライマー対が使用され、TRECについてのプライマー対は配列番号4、5の組み合わせ、KRECについてのプライマー対は配列番号7、10の組み合わせ、およびSMN1についてのプライマー対は配列番号37、38の組み合わせに関する。
【0022】
本開示において用いられるプローブの塩基配列は、例えば配列番号22、23、および28からなる群から選択される配列で示される塩基配列を含む。好ましくは、本開示において用いられるプローブの塩基配列は、配列番号22、23、および28からなる群から選択される配列で示される塩基配列からなる。本開示におけるプローブのセットは、標的核酸を検出するためのプローブのセットをいい、例えば、3種のプローブが使用され、TRECについてのプローブは配列番号22、KRECについてのプローブは配列番号23およびSMN1についてのプローブは配列番号28に関する。
【0023】
本開示において用いられるプローブは、蛍光物質およびクエンチャーを含んでもよい。当業者は適宜、蛍光物質およびクエンチャーを選択できる。蛍光物質には、Cy5、6FAM、SUN、Cy3、HEX、Yakima Yellowが含まれ、好ましくはCy5、6FAM、SUNである。蛍光物質は好ましくはプローブの5’末端に標識される。クエンチャーには、3IAbRQSp、3IABkFQが含まれる。クエンチャーは好ましくはプローブの3’末端に標識される。
【0024】
本開示において、特に明示されない限り、「qPCR」、「定量PCR」、「リアルタイムPCR」は相互互換的に使用される。定量PCR法は、一般的に、PCRにおける増幅産物の生成過程を一過的にまたは経時的にモニタリングする方法を意味する。本開示において、定量PCRにより検出する場合、例えばPCR反応の後に増幅された標的核酸(以下、単に増幅産物ともいう)が光学的手段により検出される。なお、増幅産物の検出は、例えば、PCR反応終了後に行ってもよいし、PCR反応工程と並行して行ってもよい。並行して行う場合、増幅産物の検出は、例えば、経時的に行うことができる。経時的な検出(モニタリング)は、例えば、連続的であっても非連続的(断続的)であってもよい。
【0025】
本開示の一実施形態では、マルチプレックスPCRが行われる。PCRの条件は、増幅断片が得られる範囲において特に制限はされず、適宜設定することができる。PCR反応における各ステップの温度変化は、例えば、サーマルサイクラー等を用いて自動的に制御できる。例えば、増幅サイクル数についても、用いる核酸増幅用酵素や増幅核酸長等に応じて、適宜設定することができる。例えば、増幅サイクル数としては、10~100サイクルが挙げられ、当該範囲の上限は90、80、70、60、50若しくは40であってもよく、当該範囲の下限は15、20、25、30、若しくは35であってもよい。PCR反応は、例えば、1cycle/95℃(10分)、45cycle/94℃(30秒)、1cycle/60℃(1分)で行うことができる。PCR反応により生成した増幅産物は、例えば、前記増幅産物から発生する蛍光強度を検出することにより検出できる。蛍光検出としては、特に制限されないが、従来公知のインターカレーター法、プローブ法、サイクリングプローブ法などがある。本開示において、好ましくは、プローブ法が使用され、より好ましくはTaqMan(登録商標)プローブ法が使用される。蛍光強度の検出は、例えば、蛍光光度計で行うことができる。また、一般に、PCR反応ユニット(例えば、サーマルサイクラー)と光学系ユニット(例えば、蛍光光度計)との両方を備える装置が使用される。
【0026】
本開示の標的核酸の定量方法は、試料中の標的核酸に対応する増幅産物を生成させ、前記増幅産物を光学的手段により検出して、前記増幅産物を定量する方法である。前記増幅産物が所定量となったPCRサイクル数をカウントすることによって、前記試料中に含まれる標的核酸を定量する方法ことができる。また、標準品から算出されたCq値の検量線から乾燥ろ紙血中の全血1μLのコピー数を換算して定量することもできる。
【0027】
一実施形態では、試料は溶出法または抽出法で処理される。例えば、抽出法では、市販のキット、NucleoSpin Tissue XS(TAKARA U0901B:74090.250)を用いることができ、溶出法では、市販のキット、Thermo Fisher SCIENTIFIC社製 DNA Extract All Reagents Kitを用いることができる。
【0028】
本開示の第二の側面は、TREC、KRECおよびSMN1遺伝子の量に基づき、正常検体と比較した場合に、疾患のリスクを評価する検査方法に関する。本開示の方法により試料におけるTREC、KRECおよびSMN1遺伝子の量を測定することにより、対象における疾患のリスクを評価してもよい。本開示の方法によれば、TREC、KRECおよびSMN1遺伝子の量を同時に測定することができるため、TREC、KRECおよびSMN1遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つの量を評価できるため、早期診断、費用、または工程などの観点から好ましい。前記疾患は、TREC、KRECおよびSMN1遺伝子の量に依存する疾患であれば特に限定されない。例えば、前記疾患は、T細胞減少症、B細胞減少症、重症複合免疫不全症(SCID)および脊髄性筋委縮症(SMA)が挙げられる。好ましくは、前記疾患は、重症複合免疫不全症(SCID)または脊髄性筋委縮症(SMA)である。
【0029】
本開示において、「リスクを評価する」とは、疾患を発症しているか、または疾患を発症する可能性があるかを、評価または判定することを指す。リスクを評価することにより、疾患の診断を補助してもよい。評価または判定には、カットオフ値または正常検体の値との比較に基づいて行われてもよい。本開示の方法により、同時マススクリーニングが可能となる。本開示の方法によりリスクが評価された対象は、再検査または精密医療機関でさらに検査が行われてもよい。
【0030】
一実施形態では、TRECが低い場合にT細胞減少症のリスクがあると評価し;KRECが低い場合にB細胞減少症のリスクがあると評価し;TRECが低い場合に重症複合免疫不全症(SCID)のリスクがあると評価し;またはSMN1が低い場合に脊髄性筋委縮症(SMA)のリスクがあると評価する。量が低い場合には、標的とするPCR産物が検出されないことも含まれる。
【0031】
一実施形態では、SMAについて、カットオフ値は10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、400、500、1000、1500、2000、2500、3000、3500、4000copies/μL未満である。好ましくは、カットオフ値は200.0copies/μL未満である。
【0032】
一実施形態では、TRECについて、カットオフ値は5、10、15、20、25、30、35、40copies/μL未満である。好ましくは、カットオフ値は20.0copies/μL未満である。
【0033】
一実施形態では、KRECについて、カットオフ値は1、2、3、4、5、6、7、8、9、10copies/μL未満である。好ましくは、カットオフ値は10.0copies/μL未満である。
【0034】
本開示の一実施形態では、例えば、検出の特異性が向上し、PCR反応の頑健性が向上し、またはリテスト率が低減される。本開示の別の実施形態では、偽陽性率が低減する。
【0035】
本開示の第三の側面は、TREC、KRECおよびSMN1の量を同時に測定するためのキットに関する。本開示のキットは、配列番号4、5、7、10、37、および38で示される塩基配列を含む6つのプライマーを含むプライマーのセット、および配列番号22、23、および28で示される塩基配列を含む3つのプローブを含むプローブのセットを含む、TREC、KRECおよびSMN1の量を同時に測定するためのキットである。本開示のキットは、さらに、指示書を含んでもよい。前記キットは、TREC、KRECおよびSMN1の量を同時に測定できる範囲内において、その他のプライマーまたはプローブを含んでもよい。前記キットはまた、プローブ、その他のPCR、リアルタイムPCRに使用される試薬や容器を含むこともできる。
【0036】
なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する。
【0037】
本明細書において「約」とは±10%、好ましくは±5%の範囲を意味する。
【0038】
以下、本開示を実施例により具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例0039】
[実施例1]
試験方法等
(1)検体、試薬、機器等
本開示は定量PCRで対象遺伝子を検出する蛍光標識プローブ法、いわゆるタックマン(TaqMan)・プローブ法を用いた。抽出法では、市販のキット、NucleoSpin Tissue XS(TAKARA U0901B:74090.250)を用いた。溶出法では、市販のキット、Thermo Fisher SCIENTIFIC社製 DNA Extract All Reagents Kitを用いた。
標準物質は株式会社日本遺伝子研究所にて作成した。配列を以下の表にまとめた。
【表1】
【0040】
その他、実施例において用いた検体、試薬等は以下の通りである。
[検体]
・検体:新生児乾燥血液ろ紙。
[qPCR用試薬・機器]
改良ダイレクト法:
・qPCRキット:Ampdirect Plus + BIOTAQ Shimadzu 241-08890-92
・qPCRプレート:MicroAmp Fast Optical 96-Well Reaction Plate,0.1mL,ABI,Cat#4346907
・qPCRプレートシール:MicroAmp 96-Optical Adhesive film,ABI,Cat#4360954または#4311971
・調製用プレートシール:BIO BIKシーリングフィルムB-TS
・qPCR機器:Quant Studio 5リアルタイムPCRシステム,ABI,QS5-96F
・サーマルサイクラー(加温用):サーマルサイクラーASTEC
【0041】
(2)測定操作
本実施例における測定操作は以下の通りである。
乾燥血液ろ紙よりDNAを溶出あるいは抽出したDNA溶液をクリーンベンチ内に持ち込み、定量PCR反応用96マイクロプレートのウェルに5μLずつ分注する。別途調製した4濃度の標準物質を5μLずつ2ウェルに分注する。その後プライマー、プローブを添加したマスターミックスを調製し、各ウェルに15μLずつ分注する。その後8連フラットキャップをしっかり装着し、プレート遠心機で遠心後Thermo Fisher社製 Quant Studio5 リアルタイムPCRシステムを用いて定量PCRを行う。機器の設定は、TRECs遺伝子に対しCy5(Reporter)/None(Quencher)、KRECs遺伝子に対しFAM(Reporter)/None(Quencher)、SMN1遺伝子に対しVIC(SUN)(Reporter)/None(Quencher)を用いることができる。PCR反応は、1cycle/95℃(10分)、45cycle/94℃(30秒)、62℃(1分)で行った。反応終了後、その量に応じた蛍光値を測定する。次に、既知量のTRECs遺伝子配列、KRECs遺伝子配列およびSMN1遺伝子配列を含むDNAスタンダードに対してPCR反応を行い、その量に応じた蛍光値から得られる検量線から、計算式を用いてTRECs遺伝子、KRECs遺伝子およびSMN1遺伝子の量(copies/μL)を定量した。
[抽出法]
抽出法では、市販キットNucleoSpin Tissue XS(TAKARA U0901B:74090.250)を用いて抽出を行った。使用する乾燥血液ろ紙の枚数は3枚、2枚、1枚で検討した結果、乾燥血液ろ紙より直径3.2mm専用パンチャーを用いてディスク1枚を切り出し、これに対し当該キットプロトコールを参考にDNA抽出操作を行った。具体的には、ディスク1枚を1.5mLマイクロチューブに入れ、Buffer T1(160μL)添加し、ボルテックス5秒を2回行った。ブロックインキュベーターにて94℃10分インキュベート後、室温に戻し、プロテイナーゼK溶液(16μL)を添加し、ボルテックス後軽くスピンダウンした。その後、56℃で1時間インキュベートした。その際、抽出効率を上げるため約10分毎にボルテックスを行った。その後、室温に戻してスピンダウンを行った後、当該溶液をマイクロピペットを用いて新しい1.5mLマイクロチューブに移し、Buffer B3(160μL)を添加し、ボルテックス5秒を2回行い、70℃で5分インキュベートし、その後、軽くボルテックス後、室温に戻し、スピンダウンした。その後、96~100%エタノールを160μL添加し、ボルテックス5秒を2回行い、軽くスピンダウンした。その後、Collection Tubeの中のNucleoSpin Tissue XS Columnに溶液を移し、11,000xgにて1分遠心後、flow-throughを取り除き、再度新しいCollection Tubeを取り付けた。その後、Buffer B5(50μL)をNucleoSpin Tissue XS Columnに添加し、11,000xgにて1分遠心後、Buffer B5(50μL)をNucleoSpin Tissue XS Columnに添加し、11,000xgにて今度は2分遠心後、Collection Tubeを取り除いた。最後にDNA抽出作業として、新しい1.5mLマイクロチューブを取り付け、70℃に加温したmilliQ滅菌水(20μL)を添加し、11,000xgにて1分遠心してDNA抽出液を得た。
[溶出法]
溶出法では、市販のキット、Thermo Fisher SCIENTIFIC社製 DNA Extract All Reagents Kitを用いた。
[パンチアウトろ紙枚数検討結果]
【表2】
ろ紙の枚数を増やすことで得られる測定対象となるDNA量は増えるが、DNA抽出効率の低下および反応系に持ち込まれる血液由来PCR阻害物質量も増加することが想定された。その結果、上記表の通りろ紙枚数が増加するに従い測定換算値は低くなる傾向が確認された。このため、検体毎のDNA抽出率およびPCR阻害物質の影響の差をなくすためにも、3.2mm1枚ろ紙での検査系構築を決定した。
【0042】
(3)解析操作
Quant Studio 5 リアルタイムPCRシステム,ABI,QS5-96Fに附属のDesign and Analysis Softwareを用いて解析を行った。
【0043】
[実施例2]
プライマーの設計
(1)TREC増幅用プライマー
TREC増幅用のForward(F)、Reverse(R)プライマーは、特願2020-160873(KMB出願特許)と同様の配列とした。表3にTREC増幅用プライマーの配列を記載する。
【表3】
(2)KREC増幅用プライマー
KRECの配列は表4のForward(F)、Reverse(R)それぞれ3種類ずつ設計し、それぞれの組み合わせ9通り((-)F3×R4、(a)F3×R6、(b)F3×R8、(c)F5×R4、(d)F5×R6、(e)F5×R8、(f)F7×R4、(g)F7×R6、(h)F7×R8)でPCRを行い電気泳動で確認した(図1)。
この結果非特異バンドがより少なく、当該バンドのシグナルが濃い、(a)F3×R6、(d)F5×R6、(g)F7×R6を選択し、以降の検討として他のTargetと同時反応の評価を行った結果、(d)の組み合わせを活用することとなった。
【表4】
(3)SMN1増幅用プライマー
SMN1の配列は表5のForward(F)3種類、Reverse(R)6種類設計し、それぞれの組み合わせ18通り((a)F1×R4、(b)F1×R5、(c)F1×R6、(d)F2×R4、(e)F2×R5、(f)F2×R6、(g)F3×R4、(h)F3×R5、(i)R3×R6、(j)F1×R13、(k)F1×R14、(l)F1×R15、(m)F2×R13、(n)F2×R14、(o)F2×R15、(p)F3×R13、(q)F3×R14、(r)F3×R15)でPCRを行い電気泳動で確認した。
この結果非特異バンドは無く、(a)~(i)の組み合わせよりも(j)~(r)の組み合わせの方がシグナル強度の高かったため、(j)~(r)の中から複数ピックアップし他Targetとの同時反応等の実験を行い、最終的に(r)F3×R15に決定した(図2および3)。
【表5】
【0044】
[実施例3]
プローブの設計
実施例2で決定したTREC、KRECおよびSMN1のプライマーを用いて、TREC、KRECおよびSMN1の各検出プローブの選定および作成を行った。プローブ設計はWebツールを用いて、立体構造・Tm値を参考に作成し、まずはTREC、KRECおよびSMN1の各単一測定により確認した。
(1)TREC検出プローブ
TREC検出用のプローブは、特開2022-053961(KMバイオロジクス出願特許)と同様の配列のTREC-PB1およびこれにLNA(Locked Nucleic Acid:1998年にWengelらが初めて報告;特許文献5:特表2005-514005)を入れたTREC-PB2の2つを作成した。表6に記載のTREC検出プローブの配列に蛍光物質およびクエンチャーで修飾した核酸を使用した。確認の結果、TREC-PB1では他Targetと同時反応を行った際相性が悪く、増幅が弱く不採用とした(図4および5)。結果TREC-PB2の方がTREC-PB1よりも反応性が優れていた。
【表6】
(2)KREC検出プローブ
KREC検出用のプローブは、5つ(KREC-PB1~5)を作成した。表7に記載のKREC検出プローブの配列に蛍光物質およびクエンチャーで修飾した核酸を使用した。
KREC-PB3~5は配列を設計したものの、インシリコの検討した結果、ヘアピン構造上にLNAがくる配列となり、PCR抑制の可能性が高かったため不採用とした。KREC-PB1とKREC-PB2を比較したところ、KREC-PB2は他Targetと同時反応をさせた場合相性が悪く、はっきりとした増幅が確認できなかった為、KREC-PB1を採用した(図6および7)。
【表7】
(3)SMN1検出プローブ
SMN1検出用のプローブは、9つ(SMN1-PB1~9)を作成した。表8にSMN1検出プローブの配列を記載する。SMN1-PB4~6は設計はしたもののインシリコの検討の結果、ヘアピン構造上にLNAが多くのることになるため、予期せぬ立体構造異常をきたすことを懸念し不採用とした。SMN1-PB7はSMN1のシングルアッセイのみ検討を行い、波形異常が多く安定した増幅を得られなかったため不採用とした。SMN1-PB1、2、3、8、9を他Targetと同時反応を行い検討した結果、SMN1-PB1が一番バランスよく安定的に増幅を確認することができ、反応性が最も優れていた(図8-13)。
【表8】
【0045】
[実施例4]
TREC、KRECおよびSMN1の同時測定(1)
実施例2および3で決定したTREC、KRECおよびSMN1のプライマーおよび検出プローブを用いて、TREC、KRECおよびSMN1の同時測定を行った。表9にTREC、KRECおよびSMN1のプライマーおよび検出プローブの配列を記載する。プローブとして、TREC-PB2は、5’末端をCy5、3’末端を3IAbRQSpで修飾しており、KREC-PB1は、5’末端を6FAM、3’末端を3IABkFQで修飾しており、SMN1-PB1は、5’末端をSUN、3’末端を3IABkFQで修飾している。確認の結果、SMN1の増幅がうまくいかないことが確認された(図14)。
【表9】
【0046】
[実施例5]
TREC、KRECおよびSMN1の同時測定(2)
実施例4でSMN1の増幅がうまくいかなかったことから、SMN1のプライマーにLNAを追加し、より特異性を高めることにした。この際、LNA導入箇所はSMN1とSMN2とで配列に違いのある部分に導入した。表10にTREC、KRECおよびSMN1のプライマーおよび検出プローブの配列を記載する。プローブとして、TREC-PB2は、5’末端をCy5、3’末端を3IAbRQSpで修飾しており、KREC-PB1は、5’末端を6FAM、3’末端を3IABkFQで修飾しており、SMN1-PB1は、5’末端をSUN、3’末端を3IABkFQで修飾している。確認の結果、SMN1の増幅がうまくいくことが確認された(図15)。
【表10】
【0047】
[実施例6]
実施例5で確立した方法を用いて、新生児乾燥血液ろ紙から1.5mmφの乾燥血液ろ紙を採取し、各患者検体を測定したところ、明確に識別できることを確認した(図16)。
【0048】
[実施例7]
実施例5で確立した方法を用いて、正常判定検体(n=500)の新生児乾燥血液ろ紙から1.5mmφの乾燥血液ろ紙を採取し、SMAを確認したところ、カットオフ値は<200.0copies/μL、平均は18733.3copies/μLであった(図17)。同様にTRECを確認したところ、カットオフは20.0copies/μL、平均は308.1copies/μLであった(図18)。KRECのカットオフは10.0copies/μLで平均は161.6copies/μLであった(図19)。
【0049】
[実施例8]
先行品との比較
実施例5で確立した方法を用いて、先行品であるパーキンエルマー社のNeoMDxキット(NeoMDxキット-PerkinElmer Japan)およびThermo Fisher社のTaqManTM SCID/SMA Plus Assay(TaqManTM SCID/SMA Plus Assay-Thermo fisher)との比較を行った(図20)。本法と先行品との比較によると、本開示の技術は3つの対象遺伝子すべてで蛍光強度が高く、バラつきの少ない測定系であることが確認できた。一方、パーキンエルマーはSMN1の蛍光強度が低く、Thermo FisherはTRECのベースラインが高く、バラついており、本開示の方法が優れていることが分かった。
【0050】
[アルゴリズム]
同時スクリーニングにおけるTREC、KRECおよびSMAの各検査対象に係る判定のアルゴリズムは、図21-23のものが挙げられる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本開示によれば、TREC、KRECおよびSMN1の量を同時に測定することができ、効率よく、対象におけるDNAを検出することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16-1】
図16-2】
図16-3】
図16-4】
図16-5】
図16-6】
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
【配列表】
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