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  • 特開-封止用樹脂組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129417
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】封止用樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 63/00 20060101AFI20240919BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240919BHJP
   C08L 51/00 20060101ALI20240919BHJP
   C08L 61/06 20060101ALI20240919BHJP
   C08G 59/20 20060101ALI20240919BHJP
   C08G 59/40 20060101ALI20240919BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
C08L63/00 Z
C08K3/013
C08L51/00
C08L61/06
C08G59/20
C08G59/40
H01L23/30 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038618
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】西山 開
【テーマコード(参考)】
4J002
4J036
4M109
【Fターム(参考)】
4J002BN03Y
4J002BN12Y
4J002BN14Y
4J002BN17Y
4J002CC03X
4J002CD00W
4J002CD04W
4J002CD05W
4J002CD06W
4J002DE076
4J002DE136
4J002DE146
4J002DE186
4J002DF016
4J002DJ016
4J002DJ046
4J002DK006
4J002FD016
4J002FD14X
4J002GJ02
4J002GQ00
4J036AC01
4J036AC02
4J036DA05
4J036FA01
4J036FA05
4J036FA13
4J036FB00
4J036FB08
4J036GA04
4J036JA07
4M109AA01
4M109EA02
4M109EB03
4M109EB04
4M109EB06
4M109EB07
4M109EB08
4M109EB09
4M109EB12
4M109EB13
4M109EB19
4M109EC04
4M109GA05
(57)【要約】
【課題】低熱膨張性であるとともに、低弾性であり、よって半導体封止材に適した樹脂組成物を提供する。
【解決手段】エポキシ樹脂と、硬化剤と、無機充填材と、コアシェル型ゴム粒子と、を含む封止用樹脂組成物であって、下記(式1)で表される、前記エポキシ樹脂と前記硬化剤と前記コアシェル型ゴム粒子との合計量に対する、前記コアシェル型ゴム粒子の配合比率が、0.1以上0.25以下であり;
配合比率=(コアシェル型ゴム粒子の質量)/[(エポキシ樹脂の質量)+(硬化剤の質量)+(コアシェル型ゴム粒子の質量)]・・・(式1)
当該封止用樹脂組成物の硬化物の40℃から80℃における平均線膨張係数が、12ppm/℃以下である、封止用樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂と、
硬化剤と、
無機充填材と、
コアシェル型ゴム粒子と、を含む封止用樹脂組成物であって、
下記(式1)で表される、前記エポキシ樹脂と前記硬化剤と前記コアシェル型ゴム粒子との合計量に対する、前記コアシェル型ゴム粒子の配合比率が、0.1以上0.25以下であり;
配合比率=(コアシェル型ゴム粒子の質量)/[(エポキシ樹脂の質量)+(硬化剤の質量)+(コアシェル型ゴム粒子の質量)]・・・(式1)
当該封止用樹脂組成物の硬化物の40℃から80℃における平均線膨張係数が、12ppm/℃以下である、封止用樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の封止用樹脂組成物であって、
前記無機充填材の量は、当該封止用樹脂組成物全体に対して、85質量%以上である、封止用樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の封止用樹脂組成物であって、
当該封止用樹脂組成物の硬化物の25℃における靭性指数は、8以上である、封止用樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の封止用樹脂組成物であって、
当該封止用樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度は、175℃以上である、封止用樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の封止用樹脂組成物であって、
当該封止用樹脂組成物の硬化物の、IEC60112に準拠した比較トラッキング指数(CTI)が、600V以上である、封止用樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1に記載の封止用樹脂組成物であって、
当該封止用樹脂組成物の25℃における曲げ弾性率は、22000MPa以下である、封止用樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1に記載の封止用樹脂組成物であって、
当該封止用樹脂組成物の25℃における曲げ強度は、130MPa以上である、封止用樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1に記載の封止用樹脂組成物であって、
前記エポキシ樹脂は、多官能型エポキシ樹脂を含む、封止用樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1に記載の封止用樹脂組成物であって、
前記硬化剤は、多官能型フェノール樹脂を含む、封止用樹脂組成物。
【請求項10】
硬化促進剤をさらに含む、請求項1に記載の封止用樹脂組成物。
【請求項11】
前記無機充填材は、シリカ、タルク、アルミナ、チタンホワイト、窒化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ホウ酸亜鉛、モリブデン酸亜鉛および窒化珪素から選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の封止用樹脂組成物。
【請求項12】
パワー半導体を封止するために使用される、請求項1乃至11のいずれか一項に記載の封止用樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品の封止に用いられる封止用樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置を封止する方法として、エポキシ樹脂に代表される熱硬化性樹脂を使用した樹脂封止が広く実用化されている。特に多官能エポキシ樹脂、ノボラック型フェノール樹脂硬化剤、無機質充填材を主成分とした樹脂組成物が耐熱性、成形性、電気特性に優れているため封止樹脂の主流となっている。
【0003】
半導体装置用の封止剤に求められる性能の1つに、半導体装置内部の応力緩和が挙げられる。通常、半導体装置は単結晶ケイ素を主成分とするチップを、エポキシ樹脂等を主成分とするダイボンド剤を介して、金属或いはプラスチックを主成分とする基板に接合し、更にこれらをエポキシ樹脂と無機充填剤を主成分とする封止材で保護するため、封止材内部或いは封止材と周辺部材との界面には、これらの構成部材の特性、即ち熱膨張や弾性率の相違による大きな応力が発生する。そのため、このような応力を吸収または発散して応力緩和することが求められる。
【0004】
半導体装置内の応力を低減する方法としては、封止樹脂の熱膨張率を小さくして、チップのそれとの差を小さくすることが考えられるが、現実には封止樹脂の熱膨張率とチップのそれとの差は大きく、これを縮めるためには熱膨張率の小さい無機充填剤を樹脂中に高充填しなければならない。しかし、無機充填剤を高充填すると、封止樹脂の曲げ弾性率が高くなり、基板に対する密着性が損なわれる上、封止樹脂の成形性が悪化する。
【0005】
上記の応力緩和のための別の手段の1つとして、封止樹脂中に、シリコーン成分を配合する手法が提案されている。例えば、特許文献1には、所定の多官能フェノール樹脂を硬化剤として用い、シリコーンゴム粒子を添加することにより応力を低減する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-264037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、エポキシ樹脂とシリコーンゴムは、本来、相溶性に乏しく、例えば外的衝撃により、両者の界面が起点となり硬化物に欠陥が生じ易い。即ち、シリコーンゴム粒子の添加量に比例して硬化物の弾性率は低下するものの、曲げ強度等の機械的特性も低下する場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を鑑みなされたものであり、高い信頼性を要求される半導体の封止に適した、低熱膨張性であるとともに、低弾性である半導体封止用組成物を提供することを目的とする。
【0009】
本発明によれば、以下に示す封止用樹脂組成物が提供される。
[1]エポキシ樹脂と、
硬化剤と、
無機充填材と、
コアシェル型ゴム粒子と、を含む封止用樹脂組成物であって、
下記(式1)で表される、前記エポキシ樹脂と前記硬化剤と前記コアシェル型ゴム粒子との合計量に対する、前記コアシェル型ゴム粒子の配合比率が、0.1以上0.25以下であり;
配合比率=(コアシェル型ゴム粒子の質量)/[(エポキシ樹脂の質量)+(硬化剤の質量)+(コアシェル型ゴム粒子の質量)]・・・(式1)
当該封止用樹脂組成物の硬化物の40℃から80℃における平均線膨張係数が、12ppm/℃以下である、封止用樹脂組成物。
[2]項目[1]に記載の封止用樹脂組成物であって、
前記無機充填材の量は、当該封止用樹脂組成物全体に対して、85質量%以上である、封止用樹脂組成物。
[3]項目[1]または[2]に記載の封止用樹脂組成物であって、
当該封止用樹脂組成物の硬化物の25℃における靭性指数は、8以上である、封止用樹脂組成物。
[4]項目[1]乃至[3]のいずれかに記載の封止用樹脂組成物であって、
当該封止用樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度は、175℃以上である、封止用樹脂組成物。
[5]項目[1]乃至[4]のいずれかに記載の封止用樹脂組成物であって、
当該封止用樹脂組成物の硬化物の、IEC60112に準拠した比較トラッキング指数(CTI)が、600V以上である、封止用樹脂組成物。
[6]項目[1]乃至[5]のいずれかに記載の封止用樹脂組成物であって、
当該封止用樹脂組成物の25℃における曲げ弾性率は、22000MPa以下である、封止用樹脂組成物。
[7]項目[1]乃至[6]のいずれかに記載の封止用樹脂組成物であって、
当該封止用樹脂組成物の25℃における曲げ強度は、130MPa以上である、封止用樹脂組成物。
[8]項目[1]乃至[7]のいずれかに記載の封止用樹脂組成物であって、
前記エポキシ樹脂は、多官能型エポキシ樹脂を含む、封止用樹脂組成物。
[9]項目[1]乃至[8]のいずれかに記載の封止用樹脂組成物であって、
前記硬化剤は、多官能型フェノール樹脂を含む、封止用樹脂組成物。
[10]硬化促進剤をさらに含む、項目[1]乃至[9]のいずれかに記載の封止用樹脂組成物。
[11]前記無機充填材は、シリカ、タルク、アルミナ、チタンホワイト、窒化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ホウ酸亜鉛、モリブデン酸亜鉛および窒化珪素から選択される少なくとも1つである、項目[1]乃至[10]のいずれかに
記載の封止用樹脂組成物。
[12]パワー半導体を封止するために使用される、項目[1]乃至[11]のいずれかに記載の封止用樹脂組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、低熱膨張性と低弾性とを両立して有し、よって高い信頼性を要求される半導体の封止に適した、半導体封止用の樹脂組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1(a)は本実施形態のパワーモジュールの概略断面図を示し、図1(b)は概略上面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本明細書中、数値範囲の説明における「a~b」との表記は、特に断らない限り、a以上b以下のことを表す。例えば、「1~5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」を意味する。
【0013】
本明細書における基(原子団)の表記において、置換か無置換かを記していない表記は、置換基を有しないものと置換基を有するものとの両方を包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有しないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
本明細書における「有機基」の語は、特に断りが無い限り、有機化合物から1つ以上の水素原子を除いた原子団のことを意味する。例えば、「1価の有機基」とは、任意の有機化合物から1つの水素原子を除いた原子団のことを表す。
【0014】
[封止用樹脂組成物]
本実施形態の封止用樹脂組成物(本明細書中、「樹脂組成物」と称する場合がある)は、エポキシ樹脂(A)、硬化剤(B)、無機充填剤(C)、およびコアシェル型ゴム粒子(D)を含む。本実施形態の樹脂組成物において、コアシェル型ゴム粒子(D)は、下記(式1)にしたがう、エポキシ樹脂(A)と硬化剤(B)とコアシェル型ゴム粒子(D)との合計量に対するコアシェル型ゴム粒子(D)の配合比率が、0.1以上0.25以下となる量で配合される。
配合比率=(コアシェル型ゴム粒子の質量)/[(エポキシ樹脂の質量)+(硬化剤の質量)+(コアシェル型ゴム粒子の質量)]・・・(式1)
【0015】
また本実施形態において、本発明の封止樹脂組成物の硬化物の25℃における靭性指数は、80以上100以下である。
なお、本明細書において、「靭性指数」は、硬化物の25℃における曲げ強度を、硬化物の25℃における曲げ弾性率の値で除し、10000を乗じた値として規定される。
靭性指数=(曲げ強度/曲げ弾性率)×10000
【0016】
本実施形態の樹脂組成物の靭性指数は、成分(A)の種類、その配合量、樹脂組成物の製造方法を選択することにより、調整することができる。
以下に本実施形態の樹脂組成物に用いられる各成分について説明する。
【0017】
(エポキシ樹脂(A))
本実施形態の樹脂組成物は、エポキシ樹脂(A)を含む。
エポキシ樹脂としては、1分子内にエポキシ基を2個以上有する(換言すると、多官能の)モノマー、オリゴマー、ポリマー全般を用いることができる。
エポキシ樹脂としては、特に、非ハロゲン化エポキシ樹脂が好ましい。
【0018】
エポキシ樹脂(A)としては、たとえばビフェニル型エポキシ樹脂;ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;スチルベン型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂等の多官能エポキシ樹脂;フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂等のフェノールアラルキル型エポキシ樹脂;ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、ジヒドロキシナフタレンの2量体をグリシジルエーテル化して得られるエポキシ樹脂等のナフトール型エポキシ樹脂;トリグリシジルイソシアヌレート、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート等のトリアジン核含有エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂等の有橋環状炭化水素化合物変性フェノール型エポキシ樹脂などを挙げることができる。
【0019】
エポキシ樹脂(A)は、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂(例えばo-クレゾールノボラックエポキシ樹脂)、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、およびトリフェノールメタン型エポキシ樹脂のうちの少なくとも1つを含むことがより好ましい。高温の弾性率を制御するためにはビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂がとくに好ましい。
【0020】
エポキシ樹脂(A)としては、例えば下記一般式(1)で表されるエポキシ樹脂、下記一般式(2)で表されるエポキシ樹脂、下記一般式(3)で表されるエポキシ樹脂、下記一般式(4)で表されるエポキシ樹脂、および下記一般式(5)で表されるエポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含有するものを用いることができる。これらの中でも、下記一般式(1)で表されるエポキシ樹脂、および下記一般式(4)で表されるエポキシ樹脂から選択される一種以上を含むものがより好ましい態様の一つとして挙げられる。
【0021】
【化1】
【0022】
一般式(1)中、
Arはフェニレン基またはナフチレン基を表し、Arがナフチレン基の場合、グリシジルエーテル基はα位、β位のいずれに結合していてもよい。
Arはフェニレン基、ビフェニレン基またはナフチレン基のうちのいずれか1つの基を表す。
およびRは、それぞれ独立に炭素数1~10の炭化水素基を表す。
gは0~5の整数であり、hは0~8の整数である。nは重合度を表し、その平均値は1~3である。
【0023】
【化2】
【0024】
一般式(2)中、
複数存在するRcは、それぞれ独立に水素原子または炭素数1~4の炭化水素基を表す。
は重合度を表し、その平均値は0~4である。
【0025】
【化3】
【0026】
一般式(3)中、
複数存在するRおよびRは、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~4の炭化水素基を表す。
は重合度を表し、その平均値は0~4である。
【0027】
【化4】
【0028】
一般式(4)中、
複数存在するRは、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~4の炭化水素基を表す。
は重合度を表し、その平均値は0~4である。
【0029】
【化5】
【0030】
一般式(5)中、
複数存在するRは、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~4の炭化水素基を表す。
は重合度を表し、その平均値は0~4である。
【0031】
エポキシ樹脂(A)の数分子量は特に限定されず、樹脂組成物に所望される流動性、硬化性などの観点から適宜選択すればよい。一例として数分子量は100~700程度である。
また、流動性などの観点から、エポキシ樹脂(A)の、150℃でのICI粘度は、0.1~5.0poiseであることが好ましい。
【0032】
本実施形態の樹脂組成物は、エポキシ樹脂(A)を1種のみ含んでもよいし、2種以上含んでもよい。
【0033】
エポキシ樹脂(A)のエポキシ当量は、好ましくは、100~400g/eq、より好ましくは、150~350g/eqである。なお、樹脂組成物が複数のエポキシ樹脂(A)を含む場合、複数のエポキシ樹脂(A)全体としてのエポキシ当量が、上記数値となることが好ましい。
【0034】
樹脂組成物中のエポキシ樹脂(A)の量の下限値は、樹脂組成物の全体に対して、例えば3質量%以上であることが好ましく、4質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上とすることが特に好ましい。エポキシ樹脂(A)の含有量を上記下限値以上とすることにより、樹脂組成物の流動性を向上させ、成形性の向上を図ることができる。
一方、エポキシ樹脂(A)量の上限値は、樹脂組成物の全体に対して、例えば50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。エポキシ樹脂(A)の含有量を上記上限値以下とすることにより、樹脂組成物を用いて形成される封止材を備えるパワーデバイスなどの電子装置の、耐湿信頼性や耐リフロー性を向上させることができる。
【0035】
エポキシ樹脂(A)のエポキシ当量を適切に選択したり、樹脂組成物中のエポキシ樹脂(A)の量を適切に調整したりすることで、樹脂組成物中の硬化反応が最適化される。また、エポキシ当量やエポキシ樹脂の量を適切に調整することで、樹脂組成物の硬化/流動特性などが適切に調整される。
【0036】
(硬化剤(B))
本実施形態の樹脂組成物は、硬化剤(B)を含む。
硬化剤(B)としては、エポキシ樹脂(A)と反応しうるものであれば特に制限は無い。例えば、フェノール系硬化剤、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、メルカプタン系硬化剤などが挙げられる。
これらの中でも、耐燃性、耐湿性、電気特性、硬化性、保存安定性等のバランスの点から、フェノール系硬化剤が好ましい。
【0037】
・フェノール系硬化剤
フェノール系硬化剤としては、封止用樹脂組成物に一般に使用されているものであれば特に制限はない。例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂をはじめとするフェノール、クレゾール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェニルフェノール、アミノフェノール、α-ナフトール、β-ナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のフェノール類とホルムアルデヒドやケトン類とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるノボラック樹脂、上記したフェノール類とジメトキシパラキシレン又はビス(メトキシメチル)ビフェニルから合成されるビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂、フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂などのフェノールアラルキル樹脂、トリスフェニルメタン骨格を有するフェノール樹脂などが挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
・アミン系硬化剤
アミン系硬化剤としては、ジエチレントリアミン(DETA)やトリエチレンテトラミン(TETA)やメタキシリレンジアミン(MXDA)などの脂肪族ポリアミン、ジアミノジフェニルメタン(DDM)やm-フェニレンジアミン(MPDA)やジアミノジフェニルスルホン(DDS)などの芳香族ポリアミンのほか、ジシアンジアミド(DICY)や有機酸ジヒドララジドなどを含むポリアミン化合物などが挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
・酸無水物系硬化剤
酸無水物系硬化剤としては、ヘキサヒドロ無水フタル酸(HHPA)やメチルテトラヒドロ無水フタル酸(MTHPA)や無水マレイン酸などの脂環族酸無水物、無水トリメリット酸(TMA)や無水ピロメリット酸(PMDA)やベンゾフェノンテトラカルボン酸(BTDA)、無水フタル酸などの芳香族酸無水物などが挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
・メルカプタン系硬化剤
メルカプタン系硬化剤としては、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトブチレート)、トリメチロールエタントリス(3-メルカプトブチレート)などが挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
・その他硬化剤
その他の硬化剤としては、イソシアネートプレポリマーやブロック化イソシアネートなどのイソシアネート化合物、カルボン酸含有ポリエステル樹脂などの有機酸類などが挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
硬化剤(B)については、異種のものを2種以上組み合わせて用いてもよい。例えば、フェノール系硬化剤とアミン系硬化剤とを併用してもよい。
【0043】
硬化剤(B)の量は、樹脂組成物全体に対して、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、1.5質量%以上であることが特に好ましい。
一方、硬化剤(B)の含有量は、樹脂組成物全体に対して、9質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましく、7質量%以下であることが特に好ましい。
硬化剤(B)の量を適切に調整することで、樹脂組成物の硬化/流動特性などを適切に調整することができる。
【0044】
別観点として、硬化剤(B)の量は、エポキシ樹脂(A)の量との関係で適切に調整されることが好ましい。具体的には、いわゆる「モル当量」(反応性基のモル比)が適切に調整されることが好ましい。
例えば、硬化剤(B)がフェノール系硬化剤である場合、フェノール系硬化剤に対するエポキシ樹脂(A)の量は、官能基のモル当量(エポキシ基/ヒドロキシ基)で、好ましくは0.9~1.5、より好ましくは1.0~1.4、さらに好ましくは1.0~1.3、特に好ましくは1.01~1.20である。
【0045】
(無機充填剤(C))
本実施形態の樹脂組成物は、無機充填剤(C)を含む。
無機充填剤(C)として具体的には、シリカ、タルク、アルミナ、チタンホワイト、窒化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ホウ酸亜鉛、モリブデン酸亜鉛、および窒化珪素等が挙げられる。
【0046】
無機充填剤(C)としては、シリカが好ましい。シリカとしては、溶融破砕シリカ、溶融球状シリカ、結晶シリカ、微粉シリカ、2次凝集シリカ等を挙げることができる。これらの中でも特に溶融球状シリカが好ましい。
【0047】
無機充填剤(C)は、通常、粒子である。粒子の形状は、略真球状であることが好ましい。
無機充填剤(C)の平均粒径は、特に限定されないが、典型的には1~100μm、好ましくは1~50μm、より好ましくは1~20μmである。平均粒径が適当であることにより、硬化時の適度な流動性を確保すること等ができる。
無機充填剤(C)の平均粒径は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(例えば、株式会社堀場製作所製の湿式粒度分布測定機LA-950)により体積基準の粒子径分布のデータを取得し、そのデータを処理することで求めることができる。測定は、通常、乾式で行われる。
【0048】
シリカ等の無機充填剤(C)には、あらかじめ(他の成分と混合して樹脂組成物を調製する前に)シランカップリング剤などのカップリング剤による表面修飾が行われていてもよい。
これにより、無機充填剤(C)の凝集が抑制され、より良好な流動性を得ることができる。また、無機充填剤(C)と他の成分との親和性が高まり、無機充填剤(C)の分散性が向上する。このことは、硬化物の機械的強度の向上や、マイクロクラックの発生抑制などに寄与すると考えられる。
【0049】
無機充填剤(C)の表面処理に用いられるカップリング剤としては、後述のカップリング剤(E)として挙げているものを用いることができる。なかでも、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシランを好ましく用いることができる。
無機充填剤(C)の表面に、エポキシ樹脂(A)と反応しうる基(アミノ基等)を修飾させることで、樹脂組成物中での無機充填剤(C)の分散性を高めることができる。
また、無機充填剤(C)の表面処理に使用するカップリング剤の種類を適宜選択したり、カップリング剤の配合量を適宜調整したりすることにより、樹脂組成物の流動性や、硬化後の強度等を制御することができる。
【0050】
カップリング剤による無機充填剤(C)の表面処理は、例えば次のように行うことができる。
まず、ミキサーを用いて無機充填剤(C)とカップリング剤を混合攪拌する。混合攪拌には、公知のミキサー、例えばリボンミキサー等を用いることができる。ミキサーの稼働方法としては、(i)あらかじめ無機充填剤(C)とカップリング剤をミキサー内に仕込んだうえで羽根を回してもよいし、(ii)まずは無機充填剤(C)のみを仕込んで羽根を回しつつ、スプレーノズル等でミキサー内に少しずつカップリング剤を加えるようにしてもよい。
【0051】
混合攪拌の際には、ミキサー内を低湿度(例えば、湿度50%以下)とすることが好ましい。低湿度とすることにより、無機充填剤(C)の表面に水分が付着するのを抑制することができる。さらに、カップリング剤に水分が混入し、カップリング剤同士が反応してしまうのを抑制することができる。
【0052】
次いで、得られた混合物をミキサーから取り出し、エージング処理し、カップリング反応を促進させる。エージング処理は、例えば、20±5℃、40~50%RHの条件下で、1日間以上(好ましくは1~7日間)放置することにより行われる。このような条件でおこなうことにより、無機充填剤(C)の表面にカップリング剤を均一に結合させることができる。
エージング処理の後、ふるいにかけ、粗大粒子を除去することにより、表面処理(カップリング処理)が施された無機充填剤(C)が得られる。
【0053】
樹脂組成物は、無機充填材(C)を1種のみ含んでもよいし、2種以上含んでもよい。
無機充填材(C)の含有量の下限値は、封樹脂組成物の全体に対して、好ましくは、85質量%以上であり、より好ましくは、86質量%以上であり、より好ましくは、87質量%以上である。
無機充填材(C)の含有量の上限値は、例えば、96質量%以下であり、好ましくは、94質量%以下であり、より好ましくは、91質量%以下である。
無機充填剤(C)の量を適切に調整することで、樹脂組成物の硬化/流動特性などを適切に調整することができるとともに、得られる樹脂組成物の硬化物の熱膨張性を所望の範囲に調整することができる。
【0054】
(コアシェル型ゴム粒子(D))
本実施形態の樹脂組成物は、コアシェル型ゴム粒子(D)を含む。コアシェル型ゴム粒子は、優れた強靭化効果を有するため、このコアシェル型ゴム粒子(D)を含む樹脂組成物は、高強度かつ低弾性率を有し、よって高い靭性を有する。
【0055】
コアシェル型ゴム粒子とは、架橋されたゴム状ポリマーを主成分とする粒子状コア成分の表面に、前記コア成分とは異なるポリマーをグラフト重合することで粒子状コア成分表面の一部または全部をシェル成分で被覆したゴム粒子をいう。
【0056】
前記コア成分としては、例えば、架橋ゴム粒子が挙げられる。架橋ゴム粒子としては、ジエン系ゴム、アクリル系ゴム、およびポリシロキサン系ゴムが挙げられる。より具体的には、ブタジエンゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、スチレンゴム、合成天然ゴム、エチレンプロピレンゴム等が挙げられる。
【0057】
シェル成分としては、例えば、ジエン系ゴム、アクリル系ゴム、およびポリシロキサン系ゴムが挙げられる。好ましくは、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル及び芳香族ビニル化合物からなる群より選ばれ1種または複数種のモノマーから重合された重合体等が挙げられる。なお、シェル成分は、コア成分にグラフト重合されており、コア成分を構成するポリマーと化学結合していることが好ましい。なお、コア成分として、スチレンとブタジエンの重合体から構成される架橋ゴム状ポリマーを使用する場合、シェル成分としては、メタクリル酸エステルであるメタクリル酸メチルと芳香族ビニル化合物であるスチレンの重合体を用いることが好ましい。
【0058】
コアシェル型ゴム粒子の市販品としては、例えば、ブタジエン・メタクリル酸アルキル・スチレン共重合物からなる"パラロイド(登録商標)"EXL-2655(呉羽化学工業株式会社製)、アクリル酸エステル・メタクリル酸エステル共重合体からなる"スタフィロイド(登録商標)"AC-3355、TR-2122(武田薬品工業株式会社製)、アクリル酸ブチル・メタクリル酸メチル共重合物からなる"PARALOID(登録商標)"EXL-2611、EXL-3387(Rohm&Haas社製)、"カネエース(登録商標)"MXシリーズ(株式会社カネカ製)等が挙げられる。
【0059】
コアシェル型ゴム粒子(D)は、低熱膨張性かつ低弾性率を有する硬化物を形成可能な樹脂組成物を得る観点から、下記(式1)にしたがう、エポキシ樹脂(A)と硬化剤(B)とコアシェル型ゴム粒子(D)との合計量に対するコアシェル型ゴム粒子(D)の配合比率が、0.1以上0.25以下となる量で配合される。(式1)にしたがうコアシェル型ゴム粒子(D)の配合割合は、好ましくは、0.11以上0.24である。
配合比率=(コアシェル型ゴム粒子の質量)/[(エポキシ樹脂の質量)+(硬化剤の質量)+(コアシェル型ゴム粒子の質量)]・・・(式1)
【0060】
上記(式1)にしたがう、コアシェル型ゴム粒子(D)の配合割合は、好ましくは、0.11以上0.24
【0061】
樹脂組成物全体に対するコアシェル型ゴム粒子(D)の量は、好ましくは、0.1質量%以上であり、より好ましくは、0.5質量%以上である。樹脂組成物中のコアシェル型ゴム粒子(D)の含有量の上限値は、好ましくは、10質量%以下であり、より好ましくは、5質量%以下である。上記範囲内の量でコアシェル型ゴム粒子(D)をも散ることにより、低熱膨張性かつ低弾性率を有する硬化物を形成可能な樹脂組成物を得ることができる。
【0062】
また、コアシェル型ゴム粒子(D)の一次粒子の平均粒径は、高強度かつ低弾性率を有する硬化物を形成可能な樹脂組成物が得られることから、50~500nmの範囲が好ましく、50~300nmの範囲がより好ましい。
【0063】
(硬化促進剤(E))
一実施形態において、樹脂組成物は、硬化促進剤(E)を含んでもよい。硬化促進剤(E)は、エポキシ樹脂(A)と、硬化剤(B)との反応(典型的には架橋反応)を促進させるものであればよい。
【0064】
硬化促進剤(E)としては、例えば、有機ホスフィン、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物等のリン原子含有化合物;1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン、ベンジルジメチルアミン、2-メチルイミダゾール等が例示されるアミジンや3級アミン、アミジンやアミンの4級塩等の窒素原子含有化合物から選択される1種類または2種類以上を含むことができる。
これらの中でも、樹脂組成物の硬化性を向上させる観点からはリン原子含有化合物を含むことがより好ましい。また、成形性と硬化性のバランスを向上させる観点からは、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物等の潜伏性を有するものを含むことがより好ましい。
【0065】
有機ホスフィンとしては、例えばエチルホスフィン、フェニルホスフィン等の第1ホスフィン;ジメチルホスフィン、ジフェニルホスフィン等の第2ホスフィン;トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン等の第3ホスフィンが挙げられる。
【0066】
テトラ置換ホスホニウム化合物としては、例えば下記一般式(6)で表される化合物等が挙げられる。
【0067】
【化6】
【0068】
一般式(6)において、
Pはリン原子を表す。
、R、RおよびRは、それぞれ独立に、芳香族基またはアルキル基を表す。
Aはヒドロキシル基、カルボキシル基、チオール基から選ばれる官能基のいずれかを芳香環に少なくとも1つ有する芳香族有機酸のアニオンを表す。
AHはヒドロキシル基、カルボキシル基、チオール基から選ばれる官能基のいずれかを芳香環に少なくとも1つ有する芳香族有機酸を表す。
x、yは1~3、zは0~3であり、かつx=yである。
【0069】
一般式(6)で表される化合物は、例えば、以下のようにして得られる。
まず、テトラ置換ホスホニウムハライドと芳香族有機酸と塩基を有機溶剤に混ぜ均一に混合し、その溶液系内に芳香族有機酸アニオンを発生させる。次いで水を加えると、一般式(6)で表される化合物を沈殿させることができる。一般式(6)で表される化合物において、リン原子に結合するR、R、RおよびRがフェニル基であり、かつAHはヒドロキシル基を芳香環に有する化合物、すなわちフェノール類であり、かつAは該フェノール類のアニオンであるのが好ましい。上記フェノール類としては、フェノール、クレゾール、レゾルシン、カテコールなどの単環式フェノール類、ナフトール、ジヒドロキシナフタレン、アントラキノールなどの縮合多環式フェノール類、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールSなどのビスフェノール類、フェニルフェノール、ビフェノールなどの多環式フェノール類などが例示される。
【0070】
ホスホベタイン化合物としては、例えば、下記一般式(7)で表される化合物等が挙げられる。
【0071】
【化7】
【0072】
一般式(7)において、
Pはリン原子を表す。
は炭素数1~3のアルキル基、Rはヒドロキシル基を表す。
fは0~5であり、gは0~3である。
【0073】
一般式(7)で表される化合物は、例えば以下のようにして得られる。
まず、第三ホスフィンであるトリ芳香族置換ホスフィンとジアゾニウム塩とを接触させ、トリ芳香族置換ホスフィンとジアゾニウム塩が有するジアゾニウム基とを置換させる工程を経て得られる。
【0074】
ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物としては、例えば、下記一般式(8)で表される化合物等が挙げられる。
【0075】
【化8】
【0076】
一般式(8)において、
Pはリン原子を表す。
10、R11およびR12は、炭素数1~12のアルキル基または炭素数6~12のアリール基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよい。
13、R14およびR15は水素原子または炭素数1~12の炭化水素基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよく、R14とR15が結合して環状構造となっていてもよい。
【0077】
ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物に用いるホスフィン化合物としては、例えばトリフェニルホスフィン、トリス(アルキルフェニル)ホスフィン、トリス(アルコキシフェニル)ホスフィン、トリナフチルホスフィン、トリス(ベンジル)ホスフィン等の芳香環に無置換またはアルキル基、アルコキシル基等の置換基が存在するものが好ましく、アルキル基、アルコキシル基等の置換基としては1~6の炭素数を有するものが挙げられる。入手しやすさの観点からはトリフェニルホスフィンが好ましい。
【0078】
また、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物に用いるキノン化合物としては、ベンゾキノン、アントラキノン類が挙げられ、中でも、p-ベンゾキノンが保存安定性の点から好ましい。
【0079】
ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物の製造方法としては、有機第三ホスフィンとベンゾキノン類の両者が溶解することができる溶媒中で接触、混合させることにより付加物を得ることができる。溶媒としてはアセトンやメチルエチルケトン等のケトン類で付加物への溶解性が低いものがよい。しかしこれに限定されるものではない。
【0080】
一般式(8)で表される化合物において、リン原子に結合するR10、R11およびR12がフェニル基であり、かつR13、R14およびR15が水素原子である化合物、すなわち1,4-ベンゾキノンとトリフェニルホスフィンを付加させた化合物が樹脂組成物の硬化物の熱時弾性率を低下させる点で好ましい。
【0081】
ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物としては、例えば下記一般式(9)で表される化合物等が挙げられる。
【0082】
【化9】
【0083】
一般式(9)において、
Pはリン原子を表し、Siは珪素原子を表す。
16、R17、R18およびR19は、それぞれ、芳香環または複素環を有する有機基、あるいは脂肪族基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよい。
20は、基YおよびYと結合する有機基である。
21は、基YおよびYと結合する有機基である。
およびYは、プロトン供与性基がプロトンを放出してなる基を表し、同一分子内の基YおよびYが珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。
およびYはプロトン供与性基がプロトンを放出してなる基を表し、同一分子内の基YおよびYが珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。
20、およびR21は互いに同一であっても異なっていてもよく、Y、Y、YおよびYは互いに同一であっても異なっていてもよい。
は芳香環または複素環を有する有機基、あるいは脂肪族基である。
【0084】
一般式(9)において、R16、R17、R18およびR19としては、例えば、フェニル基、メチルフェニル基、メトキシフェニル基、ヒドロキシフェニル基、ナフチル基、ヒドロキシナフチル基、ベンジル基、メチル基、エチル基、n-ブチル基、n-オクチル基およびシクロヘキシル基等が挙げられ、これらの中でも、フェニル基、メチルフェニル基、メトキシフェニル基、ヒドロキシフェニル基、ヒドロキシナフチル基等のアルキル基、アルコキシ基、水酸基などの置換基を有する芳香族基もしくは無置換の芳香族基がより好ましい。
【0085】
一般式(9)において、R20は、YおよびYと結合する有機基である。同様に、R21は、基YおよびYと結合する有機基である。YおよびYはプロトン供与性基がプロトンを放出してなる基であり、同一分子内の基YおよびYが珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。同様にYおよびYはプロトン供与性基がプロトンを放出してなる基であり、同一分子内の基YおよびYが珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。基R20およびR21は互いに同一であっても異なっていてもよく、基Y、Y、Y、およびYは互いに同一であっても異なっていてもよい。このような一般式(9)中の-Y-R20-Y-、およびY-R21-Y-で表される基は、プロトン供与体が、プロトンを2個放出してなる基で構成されるものであり、プロトン供与体としては、分子内にカルボキシル基、または水酸基を少なくとも2個有する有機酸が好ましく、さらには芳香環を構成する隣接する炭素にカルボキシル基または水酸基を少なくとも2個有する芳香族化合物が好ましく、芳香環を構成する隣接する炭素に水酸基を少なくとも2個有する芳香族化合物がより好ましく、例えば、カテコール、ピロガロール、1,2-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレン、2,2'-ビフェノール、1,1'-ビ-2-ナフトール、サリチル酸、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、クロラニル酸、タンニン酸、2-ヒドロキシベンジルアルコール、1,2-シクロヘキサンジオール、1,2-プロパンジオールおよびグリセリン等が挙げられるが、これらの中でも、カテコール、1,2-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレンがより好ましい。
【0086】
一般式(9)中のZは、芳香環または複素環を有する有機基または脂肪族基を表し、これらの具体的な例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基およびオクチル基等の脂肪族炭化水素基や、フェニル基、ベンジル基、ナフチル基およびビフェニル基等の芳香族炭化水素基、グリシジルオキシプロピル基、メルカプトプロピル基、アミノプロピル基等のグリシジルオキシ基、メルカプト基、アミノ基を有するアルキル基およびビニル基等の反応性置換基等が挙げられるが、これらの中でも、メチル基、エチル基、フェニル基、ナフチル基およびビフェニル基が熱安定性の面から、より好ましい。
【0087】
ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物の製造方法は、例えば以下である。
メタノールを入れたフラスコに、フェニルトリメトキシシラン等のシラン化合物、2,3-ジヒドロキシナフタレン等のプロトン供与体を加えて溶かし、次に室温攪拌下ナトリウムメトキシド-メタノール溶液を滴下する。さらにそこへ予め用意したテトラフェニルホスホニウムブロマイド等のテトラ置換ホスホニウムハライドをメタノールに溶かした溶液を室温攪拌下滴下すると結晶が析出する。析出した結晶を濾過、水洗、真空乾燥すると、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物が得られる。
【0088】
樹脂組成物は、硬化促進剤(E)を1種のみ含んでもよいし、2種以上含んでもよい。
硬化促進剤(E)の含有量は、樹脂組成物の全体に対して0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.10質量%以上であることがさらに好ましい。
一方で、硬化促進剤(E)の含有量は、樹脂組成物全体に対して2.0質量%以下であることが好ましく、1.5質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以下であることがさらに好ましい。
硬化促進剤(E)の量を適切に調整することで、樹脂組成物の硬化/流動特性などを適切に調整することもできる。
【0089】
(カップリング剤(F))
本実施形態の樹脂組成物は、カップリング剤(F)を含んでもよい。なお、ここでのカップリング剤(F)は、カップリング剤(F)単体として樹脂組成物に含まれるものである。例えば前述の、無機充填剤(C)の表面処理に用いられた(無機充填剤(C)と結合した)カップリング剤は、ここでのカップリング剤(F)には該当しない。
【0090】
カップリング剤(F)としては、たとえばエポキシシラン、メルカプトシラン、アミノシラン、アルキルシラン、ウレイドシラン、ビニルシラン、メタクリルシラン等の各種シラン系化合物、チタン系化合物、アルミニウムキレート類、アルミニウム/ジルコニウム系化合物等の公知のカップリング剤を用いることができる。
より具体的には、以下を例示することができる。
【0091】
・シラン系カップリング剤
ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アニリノプロピルトリメトキシシラン、γ-アニリノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-[ビス(β-ヒドロキシエチル)]アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、γ-(β-アミノエチル)アミノプロピルジメトキシメチルシラン、N-(トリメトキシシリルプロピル)エチレンジアミン、N-(ジメトキシメチルシリルイソプロピル)エチレンジアミン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミンの加水分解物等。
【0092】
・チタネート系カップリング剤
イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、イソプロピルトリ(N-アミノエチル-アミノエチル)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2-ジアリルオキシメチル-1-ブチル)ビス(ジトリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート等。
【0093】
樹脂組成物がカップリング剤(F)を含む場合、1種のみのカップリング剤(F)を含んでもよいし、2種以上のカップリング剤(F)を含んでもよい。
カップリング剤(F)の含有量は、樹脂組成物全体に対して0.1質量%以上であることが好ましく、0.15質量%以上であることがより好ましい。カップリング剤(F)の含有量を上記下限値以上とすることにより、無機充填材(C)の分散性を良好なものとすることができる。
一方で、カップリング剤(F)の含有量は、樹脂組成物全体に対して、好ましくは、1質量%以下であり、より好ましくは、0.5質量%以下である。カップリング剤(F)の含有量を上記上限値以下とすることにより、封止成形時における樹脂組成物の流動性を向上させ、充填性や成形性の向上を図ることができる。
【0094】
(その他の成分)
本実施形態の樹脂組成物は、さらに必要に応じて、イオン捕捉剤、難燃剤、着色剤、離型剤、低応力剤、酸化防止剤、重金属不活性化剤等の各種添加剤を含んでもよい。
【0095】
イオン捕捉剤(イオンキャッチャー、イオントラップ剤などとも呼ばれる)としては、例えば、ハイドロタルサイトを用いることができる。また、ビスマス酸化物やイットリウム酸化物などもイオン捕捉剤として知られている。
イオン捕捉剤を用いる場合、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
イオン捕捉剤を用いる場合、その量は、樹脂組成物の全体に対して、例えば0.01~0.5質量%、好ましくは0.05~0.3質量%である。
【0096】
難燃材としては、無機系難燃剤(例えば水酸化アルミニウム等の水和金属系化合物、住友化学株式会社等から入手可能)、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、有機金属塩系難燃剤などを挙げることができる。
難燃剤を用いる場合、1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
難燃材の量は、樹脂組成物全体に対して、例えば0~15質量%、好ましくは0~10質量%である。
【0097】
着色剤としては、具体的には、カーボンブラック、ベンガラ、酸化チタン等が挙げられる。
着色剤を用いる場合、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
着色剤を用いる場合、その量は、樹脂組成物全体に対して例えば0.1~0.8質量%、好ましくは0.2~0.5質量%である。
【0098】
離型剤としては、天然ワックス、モンタン酸エステル等の合成ワックス、高級脂肪酸もしくはその金属塩類、パラフィン、酸化ポリエチレン等が挙げられる。
離型剤を用いる場合、1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
離型剤を用いる場合、その量は、封樹脂組成物全体に対して、例えば0.1~0.8質量%、好ましくは0.2~0.5質量%である。
【0099】
低応力剤としては、例えば、エポキシ化大豆油等のエポキシ基(オキシラン環)含有アシルグリセロール、シリコーンオイル、ポリクロロプレン、ポリ(オキシプロピレン)、ポリ(オキシテトラメチレン)グリコール、ポリオレフィングリコール、ポリ-ε-カプロラクトン等の熱可塑性エラストマー等を挙げることができる。
低応力剤を用いることにより、樹脂組成物の曲げ弾性率や収縮率を所望の範囲に制御して、得られる半導体装置の反りの発生を抑えることができる。
低応力剤を用いる場合、1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
低応力剤の量は、樹脂組成物の全体に対して例えば0~5質量%、好ましくは0~3質量%である。
【0100】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤(ジブチルヒドロキシトルエン等)、イオウ系酸化防止剤(メルカプトプロピオン酸誘導体等)、リン系酸化防止剤(9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド等)などが挙げられる。
酸化防止剤を用いる場合、1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
酸化防止剤を用いる場合、その量は、樹脂組成物全体に対して、例えば0~3質量%、好ましくは0~2質量%である。
【0101】
重金属不活性化剤としては、例えば、アデカスタブCDAシリーズ(株式会社ADEKA社製)などを挙げることができる。
重金属不活性化剤を用いる場合、1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
重金属不活性化剤の量は、樹脂組成物全体に対して、例えば0~1質量%、好ましくは0~0.5質量%である。
【0102】
[封止用樹脂組成物の製造方法]
前述したように、本実施形態の封止用樹脂組成物において、その硬化物の25℃における靭性指数を80以上100以下の範囲内とするには、封止用樹脂組成物の製造方法(調製方法)が非常に重要である。
【0103】
例えば、上述の各成分を、公知のミキサー等で混合し、さらにロール、ニーダーまたは押出機等の混練機で溶融混練し、そして冷却、粉砕することで封止用樹脂組成物を得ることができる。
封止用樹脂組成物の性状は、粉砕したままのパウダー状または顆粒状のもの、粉砕後にタブレット状に打錠成型したもの、粉砕したものを篩分したもの、遠心製粉法、ホットカット法などで適宜分散度や流動性等を調整した造顆方法により製造した顆粒状のもの等とすることができる。
【0104】
本実施形態の樹脂組成物は、
・まず、エポキシ樹脂(A)とゴム粒子(D)とのみを、混合してマスターバッチとし、
・その後、このマスターバッチを、他の成分(硬化剤(B)、無機充填剤(C))など)と混合する、
という手順で製造することが好ましい。
【0105】
このような製造方法を採用することで、樹脂組成物中のゴム粒子(D)の分散性が高度に均一化され、得られる硬化物の熱膨張性を増大させることなく、その硬化物の弾性率を低減させることができ、硬化物の強度および弾性率を所望の範囲とすることができる。
【0106】
上記成分を所定の量で含む本実施形態の樹脂組成物は、その硬化物の40℃から80℃における線膨張係数が、12ppm/K以下であり、好ましくは、例えば、11ppm/K以下であり、より好ましくは、10ppm/K以下である。線膨張係数の下限値は、例えば、510ppm/K以上である。本実施形態の封止用樹脂組成物は、熱時における熱膨張係数が抑制されているため、樹脂の硬化過程における加熱や冷却時に生じる変形(熱膨張、熱収縮)を抑制することができ、結果として、得られる封止構造体の封止樹脂側への反りが低減され、よって信頼性に優れる封止構造体が得られる。
【0107】
上記方法で得られる本実施形態の樹脂組成物の硬化物は、25℃における靭性指数が、8以上であり、好ましくは、8.5以上であり、より好ましくは、9以上である。
また上記方法で得られる本実施形態の樹脂組成物の硬化物の25℃における曲げ弾性率は、例えば、22000MPa以下であり、好ましくは、21000MPa以下である。本実施形態の樹脂組成物の硬化物の25℃における曲げ弾性率の下限値は、例えば、9000MPa以上である。
また本実施形態の樹脂組成物の硬化物の25℃における曲げ強度は、例えば、130MPa以上であり、好ましくは、140MPa以上である。樹脂組成物の硬化物の25℃における曲げ強度の上限値は、例えば、190MPa以下である。
【0108】
また本実施形態の樹脂組成物の硬化物の200℃における曲げ弾性率は、例えば、9000MPa以下であり、好ましくは、8000MPa以下である。本実施形態の樹脂組成物の硬化物の200℃における曲げ弾性率の下限値は、例えば、4000MPa以上である。
また本実施形態の樹脂組成物の硬化物の200℃における曲げ強度は、例えば、20MPa以上であり、好ましくは、25MPa以上である。樹脂組成物の硬化物の260℃における曲げ強度の上限値は、例えば、40MPa以下である。
【0109】
本実施形態の樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度は、175℃以上であり、好ましくは,180℃以上であり、より好ましくは、185℃以上である。
【0110】
本実施形態の樹脂組成物は、上述の成分を特定の配合量で使用することにより、または特定の方法で調製されることにより、特に室温における硬化物の高強度化および低弾性化が達成され、結果として高靭性化が達成される。
【0111】
上記成分を所定の量で含む本実施形態の樹脂組成物は、その硬化物のCTI(IEC60112法)が、例えば、600V以上であり、好ましくは、620Vである。このような樹脂組成物であれば、より耐トラッキング特性に優れた硬化物を与え、よってこれを封止材として備える半導体装置は信頼性に優れる。
【0112】
[用途]
本実施形態の樹脂組成物は、半導体装置の封止用途に好適に用いられる。特に、靭性に優れることから、パワーデバイス用の封止材として好適に使用される。
より具体的には、本実施形態の封止用樹脂組成物を用いて、パワー半導体を封止することにより、パワーモジュールを製造することができる。
本実施形態の封止用樹脂組成物を用いて製造されるパワーモジュールは、例えば、図1に示す構造を有する。
図1(a)に示すように、パワーモジュール10は、パワー半導体素子12と、絶縁放熱回路基板20と、外部接続端子22と、封止材24と、を備える。
【0113】
パワー半導体素子12としては、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、パワートランジスタ、パワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)、GaN-HEMT(High Electron Mobility Transistor)、SiC MOSFET等を挙げることができる。
【0114】
封止材24は、パワー半導体素子12、パワー半導体素子12に対向する絶縁放熱回路基板20の金属層16、および複数の外部接続端子22の一部を封止する。図1(b)に示すように、上面視において封止材24は矩形状である。
【0115】
図1(b)に示すように、パワーモジュール10は、外部接続端子22を複数備えており、これらは外方向に並行に延設され、封止材24の外周側面から突出している。外部接続端子22は、半田やワイヤー等によりパワー半導体素子12と電気的に接続され、封止材24で封止されていない露出した外部接続端子22を介して外部機器に電気的に接続することができる。
【0116】
外部接続端子22、22の間の封止材24の外周側面には、外部接続端子22、22間の沿面距離を確保するために設けられた凹部(ノッチ、切り込み)26を備える。
【0117】
図1(a)に示すように、絶縁放熱回路基板20は、パワー半導体素子12の両面上に設けられているが、パワー半導体素子12の片面に設けられていてもよい。
【0118】
絶縁放熱回路基板20は、セラミック基板14の両面に金属層16,16が積層されている。セラミック基板14としては、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等からなる基板が挙げられる。金属層16としては、銅またはアルミニウムからなる層が挙げられる。
【0119】
絶縁放熱回路基板20上には、図示しないベース基板(放熱基板)および放熱部材が順に積層され、パワー半導体素子の熱を放熱することができるように構成することができる。放熱部材としては放熱フィンなどが挙げることができる。
【0120】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例0121】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0122】
[実施例1~6、比較例1~3]
(封止用樹脂組成物の調製)
表1に示す各成分の同表に示す量(重量部)を、常温でヘンシェルミキサーを用いて混合し、混合物を得た。その後、その混合物を、70~100℃でロール混練し、混練物を得た。得られた混練物を冷却し、その後、粉砕し、封止用樹脂組成物を得た。
【0123】
各成分の量比(質量部)は表1に記載のとおりである。また、表1に記載の成分の詳細を以下に示す。
【0124】
(無機充填材)
・無機充填材1:溶融球状シリカ(デンカ株式会社製、FB-950FC)
・無機充填材2:溶融球状シリカ(アドマテックス社製、SC-2500-SQ)
【0125】
(エポキシ樹脂)
・エポキシ樹脂1:ビフェニル型エポキシ樹脂(三菱化学株式会社製、YX-4000K)
・エポキシ樹脂2:トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型固形エポキシ樹脂(三菱化学社製、1032H60)
・エポキシ樹脂3:ビフェニル型エポキシ化合物とトリスフェノールメタン型エポキシ樹脂との混合物(三菱ケミカル株式会社製、YL6677)
【0126】
(硬化剤)
・硬化剤1:トリフェノールメタン型フェノール樹脂(UBE株式会社製)
【0127】
(硬化促進剤)
・硬化促進剤1:4-ヒドロキシ-2-(トリフェニルホスホニウム)フェノラート(ケイ・アイ化成社製、TPP-BQ)
・硬化促進剤2:テトラフェニルホスホニウム・4,4'-スルフォニルジフェノラート
・硬化促進剤3:テトラフェニルホスホニウムビス(ナフタレン-2,3-ジオキシ)フェニルシリケート
【0128】
(コアシェル型ゴム粒子)
・コアシェル型ゴム粒子1:コアシェルゴム(コア:ブタジエン系ゴム、シェル:アクリル系ゴム)(ダウケミカル社製、EXL-2655)
【0129】
(カップリング剤)
・カップリング剤1:N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング社製、CF-4083)
・カップリング剤2:メルカプトカップリング剤(チッソ社製、S810
【0130】
(着色剤)
・着色剤1:カーボンブラック(三菱化学社製、カーボン#5)
(難燃剤)
・難燃剤1:水酸化アルミニウム(住友化学社製、CL-303)
(ワックス)
・ワックス1:モンタン酸ワックス(クラリアントジャパン社製、WE-4)
・ワックス2:ステアリン酸(日油社製、SR-サクラ)
(添加剤)
・イオンキャッチャー:マグネシウム・アルミニウム・ハイドロオキサイド・カーボネート・ハイドレート(協和化学工業社製、DHT-4H)
・密着助剤12-ヒドロキシ-N-1H-1,2,4-トリアゾール-3-イルベンズアミド(株式会社ADEKA製、CDA-1M)
・密着助剤2:3-アミノ-5-メルカプト-1,2,4-トリアゾール(日本カーバイド社製)
・低応力剤1:エポキシ・ポリエーテル変性シリコーンオイル(東レ・ダウコーニング社製、FZ-3730)
・低応力剤2:シリコーンレジン(信越化学工業社製、KR-480)
【0131】
(封止用樹脂組成物の物性評価)
各実施例および各比較例で得られた封止用樹脂組成物について、以下の物性を測定した。結果を表1に示す。
(ガラス転移温度)
各例で得られた封止用樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度を以下のように測定した。
まず、低圧トランスファー成形機(コータキ精機社製、「KTS-15」)を用いて金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、硬化時間120秒で樹脂組成物を注入成形し、10mm×4mm×4mmの試験片を得た。次いで、得られた試験片を175℃、4時間で後硬化した後、熱機械分析装置(セイコー電子工業社製、TMA100)を用いて、測定温度範囲0℃~320℃、昇温速度5℃/分の条件下で測定をおこなった。そして、この測定結果から、ガラス転移温度(℃)を算出した。
【0132】
(平均線膨張係数)
各例で得られた樹脂組成物の硬化物を、熱機械分析装置(セイコーインスツル株式会社製、TMA100)にセットし、温度範囲0℃~320℃、昇温速度5℃/分の条件下で測定を行った。測定データを解析し、40℃から80℃にわたる温度領域での、平均線膨張係数を求めた。平均線膨張係数の単位は[ppm/K]である。
【0133】
(曲げ弾性率)
樹脂組成物を、180℃/3分でのトランスファー成型後に、更に180℃/4時間で硬化して、JIS6911に準じて、25℃および200℃での曲げ弾性率を測定した。
(曲げ強度)
上記の曲げ弾性率の測定と同様に硬化物を作成し、JIS6911に準じて、25℃および200℃での曲げ強度を測定した。
(靭性指数)
以下の式より、25℃における靭性指数を算出した。
靭性指数=曲げ強度/曲げ弾性率×10000
【0134】
(耐トラッキング特性(CTI)試験)
各実施例および各比較例について、得られた樹脂組成物を、成形温度175℃、成形圧力6.9N/mm、成形時間120秒の条件で硬化成形して、厚み3mm、直径50mmの硬化物を成形し、該硬化物を175℃で4時間ポストキュアーした。その硬化物を用いてJIS C 2134(IEC60112)の方法に基づき、耐トラッキング特性試験を実施した。耐トラッキング特性電圧として、測定個数n=5の評価において、50滴以上の塩化アンモニウム0.1%水溶液で、すべての硬化物が破壊しない最大電圧を測定した。この最大電圧が高いほど、耐トラッキング特性が優れることを示す。
【0135】
(耐クラック性評価)
各実施例および各比較例で得られた樹脂組成物を用い、トランスファー成形にて、パワー半導体素子を封止し、図1に示すパワーモジュールを製造した。
詳細には、まず、DBC基板(フェローテック社製、構成:Cu/セラミック/Cu、サイズ:28mm×28mm、厚み:920μm)を、金型温度175℃、注入圧力9.3MPa、硬化時間90秒間でトランスファー成形し、175℃で4時間の後硬化をした。得られたパワーモジュールのパッケージサイズは、48mm×90mm×高さ4340μmであった。得られたパワーモジュールを、ヒートサイクル試験機を用いて、-40℃~150℃の温度域で1000サイクルのヒートサイクル試験に供し、ヒートサイクル試験後の、封止樹脂とDBC基板との間のクラックの有無を、顕微鏡観察により確認した。クラックが観察された場合を、「NG」、クラックが観察されない場合を、「OK」として、表1に示す。
【0136】
【表1】
【符号の説明】
【0137】
10 パワーモジュール
12 パワー半導体素子
14 セラミック基板
16 金属(Cu)層
20 絶縁放熱回路基板
22 外部接続端子
24 封止材
26 凹部
図1