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特開2024-129418レーザ加工の品質評価方法及び装置、レーザ加工システム、並びに、レーザ加工品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129418
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】レーザ加工の品質評価方法及び装置、レーザ加工システム、並びに、レーザ加工品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/00 20140101AFI20240919BHJP
【FI】
B23K26/00 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038620
(22)【出願日】2023-03-13
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)(出願人による申告)令和元年度 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 次世代人工知能・ロボットの中核となるインテグレート技術開発/人工知能技術の適用領域を広げる研究開発のうちレーザ加工の知能化による製品への応用開発期間の半減と、不良品を出さないものづくりの実現に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】317006683
【氏名又は名称】地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001885
【氏名又は名称】弁理士法人IPRコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】奥田 誠
(72)【発明者】
【氏名】森 清和
(72)【発明者】
【氏名】中村 紀夫
(72)【発明者】
【氏名】福山 遼
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168CA05
4E168CB03
4E168DA23
4E168DA24
4E168EA17
4E168FB01
(57)【要約】
【課題】 レーザ加工においてインプロセスモニタリングによる欠陥検出および原因推定を可能とする。
【解決手段】 実行中のレーザ加工の状況を測定する測定ステップと、前記測定ステップにおいて得られた測定データを用いて算出された指標を第1しきい値と比較して、前記実行中のレーザ加工が予め設定された加工条件を逸脱するか否かを判定する逸脱検出ステップと、レーザ加工の状況の測定データと当該レーザ加工の加工条件との関係を機械学習することにより得られた学習済みモデルを用いて、上記得られた測定データから、前記実行中のレーザ加工における前記予め設定された加工条件からの逸脱の原因を推定する原因推定ステップと、前記逸脱の原因ごとに前記算出された指標を第2しきい値と比較して、前記実行中のレーザ加工の品質の良否を判定するとともに、品質不良の原因となる加工条件を推定する品質判定ステップと、を含むことを特徴とするレーザ加工の品質評価方法。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
実行中のレーザ加工の状況を測定する測定ステップと、
前記測定ステップにおいて得られた測定データを用いて算出された指標を第1しきい値と比較して、前記実行中のレーザ加工が予め設定された加工条件を逸脱するか否かを判定する逸脱検出ステップと、
レーザ加工の状況の測定データと当該レーザ加工の加工条件との関係を機械学習することにより得られた学習済みモデルを用いて、上記得られた測定データから、前記実行中のレーザ加工における前記予め設定された加工条件からの逸脱の原因を推定する原因推定ステップと、
前記逸脱の原因ごとに前記算出された指標を第2しきい値と比較して、前記実行中のレーザ加工の品質の良否を判定するとともに、品質不良の原因となる加工条件を推定する品質判定ステップと、
を含むことを特徴とするレーザ加工の品質評価方法。
【請求項2】
実行中のレーザ加工の状況を測定する測定部と、
前記測定部において得られた測定データを用いて算出された指標を第1しきい値と比較して、前記実行中のレーザ加工が予め設定された加工条件を逸脱するか否かを判定する逸脱検出部と、
レーザ加工の状況の測定データと当該レーザ加工の加工条件との関係を機械学習することにより得られた学習済みモデルを用いて、上記得られた測定データから、前記実行中のレーザ加工における前記予め設定された加工条件からの逸脱の原因を推定する原因推定部と、
前記逸脱の原因ごとに前記算出された指標を第2しきい値と比較して、前記実行中のレーザ加工の品質の良否を判定するとともに、品質不良の原因となる加工条件を推定する品質判定部と、
を含むことを特徴とするレーザ加工の品質評価装置。
【請求項3】
前記品質判定部の判定結果に基づいて算出された、前記実行中のレーザ加工に関わる加工条件の補正値を出力する出力部を更に含むこと、
を特徴とする請求項2に記載のレーザ加工の品質評価装置。
【請求項4】
前記品質判定部の判定結果に基づいて、加工対象における加工部位ごとに加工品質の良否及び品質不良の原因を表示させる出力部を更に含むこと、
を特徴とする請求項2に記載のレーザ加工の品質評価装置。
【請求項5】
前記測定部が、レーザ加工中の発光強度、音、振動、及び電磁波のうち少なくとも1つを測定すること、
を特徴とする請求項2に記載のレーザ加工の品質評価装置。
【請求項6】
前記予め設定された加工条件が、レーザ出力、レーザと加工対象との間の焦点位置、加工対象の間のギャップ、レーザ波長、及びレーザのパワーストラテジのうち少なくとも1つを含むこと、
を特徴とする請求項3に記載のレーザ加工の品質評価装置。
【請求項7】
加工対象に対してレーザ加工を実行するレーザ加工装置と、
請求項2に記載のレーザ加工の品質評価装置と、を含み、
前記レーザ加工装置が、前記品質評価装置による品質判定の結果を参照して加工条件を決定すること、
を特徴とするレーザ加工システム。
【請求項8】
加工対象に対してレーザ加工を実行するレーザ加工ステップと、
請求項1に記載のレーザ加工の品質評価方法を、を含み、
前記品質評価方法における品質判定の結果を参照して前記レーザ加工ステップにおける加工条件が決定されること、
を特徴とするレーザ加工品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工における欠陥検出および欠陥発生原因の推定に関する。
【背景技術】
【0002】
材料をレーザ加工する場合に、加工対象である母材をレーザによりに溶融させ、溶融金属と混合・一体化して接合させる。加工の品質は、母材の重ね方や製品としての要求により様々であるが、外観だけで判断できる場合はあまりなく、非破壊試験のみでの評価は困難である。また、材料の組成によっては良好な品質の加工条件の領域が狭くなることがあるため、全数検査の実施が可能なインプロセスモニタリングが行われている。
【0003】
例えば特許文献1(特開2020-189305号公報)では、異常の原因を含む品質評価の高精度化を実現するべく、少なくとも1つのレーザ条件とレーザ加工中に測定される少なくとも1つの測定値を用いて、正常および既知の異常原因のうち一番発生確率の高い項目を出力する。
かかる品質評価では、その評価結果は正常および異常原因のうち発生確率が高いものを出力するが、基準品質からの乖離度を出力できるわけではない。したがって、正常から異常発生に至る間のいわゆる「グレーな状態」の検知は困難であり、異常発生の有無と異常が発生した際の原因特定に限定される。
【0004】
また、特許文献2(特開2022-124799号公報)では、品質評価精度と評価に用いるアルゴリズムの構築作業の簡素化とを両立するべく、レーザ光の出力状態、反射光の状態を示すデータを含む情報から、閾値との比較を行うアルゴリズムあるいは機械学習により構築された判定モデルを用いて、溶接品質が正常であるか否かを判定あるいは基準品質からの乖離度の算出値を出力する。
かかる品質評価では、溶接中に得られたデータから、欠陥の有無や基準品質からの乖離度を出力するが、その欠陥が発生した原因については検知できない、欠陥が発生した場合には現場でトラブルシューティングが行われ、多大な工数が取られていることが想定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-189305号公報
【特許文献2】特開2022-124799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
連続生産下ではロバストな加工条件で加工が行われているが、様々な要因で突発的もそくは段階的に品質不良が発生する可能性がある。また、例えば後工程の検査で品質不良が発生した場合、原因追及に多大な時間と労力を要する。そのため、インプロセスモニタリングによる欠陥検出および原因推定が求められている。
【0007】
そこで、本発明は、レーザ加工においてインプロセスモニタリングによる欠陥検出および原因推定を可能とする手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決すべく、本発明では、加工中に発生する現象(例えば光の強度)を測定し、その測定データ(その特徴量を含む)から段階を踏まえて品質判定を行う。ここでは、第1に正常データ群からの差分あるいはしきい値の超過による加工条件逸脱の検出、第2に逸脱した原因の推定、第3に逸脱原因毎の高精度な品質予測、第4に品質判定と推定原因の可視化を含み得るものである。
【0009】
すなわち、本発明の第1の態様は、
実行中のレーザ加工の状況を測定する測定ステップと、
前記測定ステップにおいて得られた測定データを用いて算出された指標を第1しきい値と比較して、前記実行中のレーザ加工が予め設定された加工条件を逸脱するか否かを判定する逸脱検出ステップと、
レーザ加工の状況の測定データと当該レーザ加工の加工条件との関係を機械学習することにより得られた学習済みモデルを用いて、上記得られた測定データから、前記実行中のレーザ加工における前記予め設定された加工条件からの逸脱の原因を推定する原因推定ステップと、
前記逸脱の原因ごとに前記算出された指標を第2しきい値と比較して、前記実行中のレーザ加工の品質の良否を判定するとともに、品質不良の原因となる加工条件を推定する品質判定ステップと、
を含むことを特徴とするレーザ加工の品質評価方法、を提供する。
【0010】
また、本発明の第2の態様は、
実行中のレーザ加工の状況を測定する測定部と、
前記測定部において得られた測定データを用いて算出された指標を第1しきい値と比較して、前記実行中のレーザ加工が予め設定された加工条件を逸脱するか否かを判定する逸脱検出部と、
レーザ加工の状況の測定データと当該レーザ加工の加工条件との関係を機械学習することにより得られた学習済みモデルを用いて、上記得られた測定データから、前記実行中のレーザ加工における前記予め設定された加工条件からの逸脱の原因を推定する原因推定部と、
前記逸脱の原因ごとに前記算出された指標を第2しきい値と比較して、前記実行中のレーザ加工の品質の良否を判定するとともに、品質不良の原因となる加工条件を推定する品質判定部と、
を含むことを特徴とするレーザ加工の品質評価装置、を提供する。
【0011】
本発明のレーザ加工の品質評価装置は、前記品質判定部の判定結果に基づいて算出された、前記実行中のレーザ加工に関わる加工条件の補正値を出力する出力部を更に含むこと、が好ましい。
【0012】
本発明のレーザ加工の品質評価装置は、前記品質判定部の判定結果に基づいて、加工対象における加工部位ごとに加工品質の良否及び品質不良の原因を表示させる出力部を更に含むこと、が好ましい。
【0013】
本発明のレーザ加工の品質評価装置では、前記測定部が、レーザ加工中の発光強度、音、振動、及び電磁波のうち少なくとも1つを測定すること、が好ましい。
【0014】
本発明のレーザ加工の品質評価装置では、前記予め設定された加工条件が、レーザ出力、レーザと加工対象との間の焦点位置、加工対象の間のギャップ、レーザ波長、及びレーザのパワーストラテジのうち少なくとも1つを含むこと、が好ましい。
【0015】
また、本発明の第3の態様は、
加工対象に対してレーザ加工を実行するレーザ加工装置と、
上記に記載のレーザ加工の品質評価装置と、を含み、
前記レーザ加工装置が、前記品質評価装置による品質判定の結果を参照して加工条件を決定すること、
を特徴とするレーザ加工システム、を提供する。
【0016】
また、本発明の第4の態様は、
加工対象に対してレーザ加工を実行するレーザ加工ステップと、
請求項1に記載のレーザ加工の品質評価方法を、を含み、
前記品質評価方法における品質判定の結果を参照して前記レーザ加工ステップにおける加工条件が決定されること、
を特徴とするレーザ加工品の製造方法、を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、加工中に品質予測が可能となるだけでなく、品質不良になりそうなグレーな状態(加工条件を逸脱しているが品質不良とは言えない状態)の提示や品質不良の原因の推定をすることができ、連続生産において現場での素早いトラブルシューティングが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の代表的な実施形態に係るレーザ加工装置1の全体構成図である。
図2】品質評価装置20のソフトウェア構成を示すブロック図である。
図3】品質評価の手順を示すフロー図である。
図4】連続生産の加工条件とその逸脱条件での実験例を示す図である。
図5図4の実験から得られた、マハラノビス距離による加工条件の逸脱検出の例を示す図である。
図6】モニタリングデータの1種である発光波形から加工条件の逸脱要因を推定する手法の一例を示す図である。
図7】加工条件の逸脱原因毎に品質判定の基準を設定する手法の一例を示す図である。
図8】品質判定の結果と推定される不良原因の出力例を示す図である。
図9】品質評価に基づくレーザ加工の制御例を示すフロー図である。
図10】ある加工条件(例えばレ―ザ出力)に対応するマハラノビス距離D の乖離度と補正値との対応関係を示す対応表及びグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係るレーザ加工の品質評価及び装置、レーザ加工システム、並びに、レーザ加工品の製造方法の代表的な実施形態を、図面を参照しつつ詳細に説明する。ただし、本発明はこれら図面に限定されるものではない。また、図面は、本発明を概念的に説明するためのものであるから、理解容易のために、寸法、比又は数を誇張又は簡略化して表している場合もある。
【0020】
本実施形態では、レーザ加工の一例としてレーザ溶接を挙げ、その品質評価及び品質評価に基づくフィードバック制御を説明する。ただし、本発明は、肉盛り溶接や金属積層造形(additive manufacturing)等の他のレーザ加工にも利用可能である。
【0021】
1.レーザ加工装置1について
本実施形態に係るレーザ加工装置1は、レーザ光13を加工対象(ワーク)Wに照射し、ワークWを局所的に溶融・凝固させることでワークWを接合する。レーザ光13としては、COレーザ、YAGレーザなど、任意の種類のレーザを利用できる。また、ワークWとしては主に金属材料を想定しているが、これに限られない。
【0022】
図1に示すように、レーザ加工装置1は、レーザ光13を生成するレーザ発振器11、レーザ光13が進む光路12(光ファイバーなど)、レーザ光13を集光するための集光光学系14(レンズなど)、集光したレーザ光13を所望の位置に照射する駆動系(図示せず)、及び、ワークWの酸化を防ぐシールドガス系15、レーザ発振器11等を制御する制御系16などから構成されている。
【0023】
ここで、レーザ加工装置1における加工条件としては例えばレーザ出力(図4及び図5では「POWER」と、図6及び図7では「PWR」と表示している。)、加工速度、焦点位置(WD;例えば、ワーク上面とレーザの焦点位置との誤差分(上方向が+方向)。これは、ワーク上面でもよいし、ワーク中間でもよいし、レーザ加工対象物や環境によって変わるものである。)、ワークW間の隙間(GAP)、レーザ波長、レーザのパワーストラテジ、ワークの材料、厚さ、形状(形状によっては加工位置の情報を記憶しつつ加工品質を判断する)などが挙げられるが、これらに限られない。
また、レーザ加工の品質は、溶け込み深さ、接合部の界面幅、接合部の硬度分布、接合強度、歪み、ビード中の亀裂、欠陥の有無など、加工形態によって様々であり、任意のものを品質基準として用いることができるが、本実施形態では接合の有無を基準としている。
【0024】
レーザ加工装置1は、その加工プロセスをリアルタイムで監視して加工の品質を評価する品質評価装置20を備えていてもよい。品質評価装置20は、加工中や加工後に品質不良を検出するインプロセスモニタリングシステムである。
【0025】
2.品質評価装置20について
品質評価装置20は、レーザ加工の連続生産下における段階的・突発的な変動を検知し、その変動原因を推定する。品質評価装置20は、レーザ加工装置1の構成要素の1つとして予めレーザ加工装置1に組み込まれてもよいし、あるいは、既設のレーザ加工装置に後付けされてもよい。
【0026】
図2に示すように、品質評価装置20は、測定部21、逸脱検出部22、原因推定部23、品質判定部24、及び出力部25を含む。逸脱検出部22、原因推定部23、品質判定部24、及び出力部25は、演算デバイス、記憶デバイス、入力デバイス、及び出力デバイスを備えたコンピュータとして実現することができる。
以下、これらの構成要素を順に説明する。
【0027】
測定部21は、レーザ加工中の状況(例えば溶接部)を測定し、モニタリングデータ(測定データ)を取得する。モニタリングデータとしては、加工部位から発せられる光の強度、温度、音、振動などが挙げられるが、これらに限られない。測定部21として、フォトダイオード、温度センサ、マイクロホン、振動センサ、イメージセンサなどの各種センサを用いることができる。
【0028】
逸脱検出部22は、解析対象とする加工が予め設定された加工条件(以下、連続生産の加工条件ということがある。)から逸脱したか否かを検出する。例えば、ある指標を用いて、連続生産の加工条件を正常データ群とし、正常データ群とそれ以外のデータ群とを分ける境界ないし基準としてしきい値(第1しきい値)を設定する。逸脱検出部22は、実行中の加工について算出された指標がしきい値を超えると、条件逸脱(ここではグレーな状態という。)と判定し、しきい値以下であると正常ないし適正な状態と判定する(例えば図5参照)。
ここで、しきい値は、正常データ群とそれ以外のデータ群とを区分けできるものであればよい。しきい値は、加工条件を問わず共通の値でもよいし、加工条件ごとに異なっていてもよい。
【0029】
指標としては、例えばマハラノビス距離D が好適に用いられるが、ミンコフスキー距離などの他の距離や主成分分析などの多変量解析の手法が用いられてもよい。かかる指標を得るために、予め実験を行い、連続生産の加工条件に対応する指標の値、及び、この加工条件からの外れた条件(以下、逸脱条件と呼ぶことがある。)に対応する指標の値を算出しておいてもよい(図4参照)。
【0030】
ここで、指標として、発光強度の特徴量から算出したマハラノビス距離D が用いられる場合について更に具体的に説明する。
実験等により、正常データ群として、所定の品質基準を満たす加工において測定された測定データから得られる特徴量(k個の変量yを持つ;例えば、取得した発光強度から得られる特徴量)を示すn組のデータy(=ynk)を用意する。
変量yごとに平均mと標準偏差σを算出し、次式を用いて各データyijを正規化し、正規化された変量Y(=Yij)を得る。
k個の変量Yから2個を取り出す全ての組合せについて、次式を用いて相関係数r(=rpq)を算出する。
相関係数rを用いて、次の相関係数行列Rを作る。
相関係数行列Rの逆行列Aを算出する。
任意のデータ1組と逆行列R-1とを用いて、当該データのマハラノビス距離D を例えば次式で算出する。
そして、例えば、算出された全てのマハラノビス距離D から最小値を選び出し、基準値とする。あるいは、基準値として「1」あるいはその他の数値を採用してもよい。
併せて、算出された全てのマハラノビス距離D から最大値を選び出し、この最大値と基準値との差をしきい値として設定する。あるいは、「最大値+α」(α>0)と基準値との差をしきい値として採用してもよい。
【0031】
図5の例では、相関係数行列Rの基準値として、連続生産の加工条件のほぼ下限(ここではマハラノビス距離D が「10」に近い値)を基準値としている。
また、マハラノビス距離D が10に近い値が連続生産の加工条件のほぼ上限である。したがって、この例では、おおむねD =10をしきい値としている。
【0032】
実行中の加工の解析においては、逸脱検出部22は、上述した基準値を用いて算出された相関係数行列Rを使ってマハラノビス距離D を算出する。次いで、逸脱検出部22は、当該距離と基準値との差分を取って乖離度を算出する。
そして、逸脱検出部22は、算出された乖離度をしきい値と比較する。乖離度≦しきい値である場合には、当該加工は所定の加工条件を満たすものとし、逆に乖離度>しきい値である場合には、当該加工は所定の加工条件を満たさないとする。
【0033】
原因推定部23は、解析対象となる加工の、連続生産の加工条件からの逸脱原因を推定する。例えば、原因推定部23は、連続生産において想定される変動因子(逸脱原因)を目的変数とし、実行中の加工のモニタリングデータを説明変数として機械学習することで得られた学習済みモデルを用いてもよい。
本実施形態では、逸脱原因として、レーザ出力の低下(又は増大)、ワークW間の隙間の増大、レーザの焦点位置の上昇(又は下降)が用いられるが、これ以外の変動因子が用いられてもよい。
【0034】
学習済みモデルの生成は例えば次のように行われる(図6参照)。
すなわち、連続生産の加工条件および上述した逸脱条件の下で実験を行い、各々の加工条件下でのモニタリングデータ(例えばその時刻に加工部位から発せられる光の強度(ここでは発光強度と呼ぶ。)や音の強度が挙げられる。時刻情報又は当該ワークの位置情報と光又は音の強度とが関連付けられてモニタリングデータとして記憶されてもよく、かかる種類のモニタリングデータをここでは発光波形や音声波形と呼ぶ。)を得る。得られたモニタリングデータはそのまま学習に利用されてもよいし、あるいは、解析により特徴量の抽出が行われ、この特徴量が学習に利用されてもよい。
このようにして得られたデータを教師データとして機械学習を実施して、モニタリングデータ(その特徴量を含む。)を入力とし、逸脱原因を出力とする学習済みモデルを得る。学習モデルとしては、ニューラルネットワークだけでなく、ランダムフォレストや勾配ブースティングなど任意の機械学習モデルを用いることができる。
なお、学習済みモデルの生成は品質評価装置20で実施されてもよいし、品質評価装置20とは別のコンピュータで実施されてもよい。
【0035】
品質判定部24は、逸脱原因ごとに品質判定を行う。例えば、品質判定部24は、逸脱原因ごとに、先に算出した指標(マハラノビス距離など)が予め設定されたしきい値(第2しきい値)を逸脱するかどうかを判定する。例えば、逸脱原因ごとに、指標の基準値からの乖離度が算出され、この乖離度をしきい値と比較してもよい(図7参照)。
【0036】
ここでのしきい値は、加工品質が良好か不良かを分けるためのものであり、逸脱原因毎に異なっていてもよく、実験結果に基づいて決定されてよい。図7から分かるように逸脱要因毎に品質のOK/NGのマハラノビス距離の境界値が異なるため、逸脱要因毎に異なるしきい値を設けることで、より精度の高い品質評価が可能となる。例えば、図5の例では、加工条件の条件逸脱のしきい値は一律にD =10付近に設定されているが、図7の例では、加工品質の良否のしきい値は、レーザ出力増大についてはD =10付近に、焦点位置上昇についてはD =10付近に、それぞれ設定されている。
【0037】
品質判定部24は、逸脱原因に対応する指標がしきい値を逸脱していると判断すると、該当する逸脱要因が品質不良の原因であると判定する。あるいは、品質判定部24は、該当する指標がしきい値を逸脱していないと判断すると、該当する逸脱要因についてグレーの判定を維持する。
更に、品質判定部24は、該当する逸脱要因について、乖離度から補正値を算出する。例えば、品質判定部24は、加工条件ごとに、乖離度と補正値との関係を示す数式や変換表を保有しており、該当する逸脱要因について乖離度から補正値を得てもよい(図10参照)。図10の例では、レーザ出力における乖離度から補正値を得るための対応表及び関係式(グラフ)が示されている。
【0038】
出力部25は、得られた品質判定の結果を出力する。出力の方式としては、ディスプレイへの表示(図8参照)のほか、印刷、スピーカの鳴動、ライトの点灯・点滅などでもよいし、レーザ加工装置1へのフィードバックでもよい。
例えばディスプレイへの表示ないし印刷では、ワークWごとに、加工の方向に沿って加工品質を表示してもよい。図8の例では、横軸が時間軸でワークの位置に対応していることが容易に分かるように表示されている。例えば「ワーク1」の品質は、加工開始時には「正常」であったが、その後に「グレー」となり、更には、「焦点位置上昇」が原因と推定される不良を生じていることが示されている。このようなディスプレイへの表示ないし印刷により、加工の品質を視覚的に容易に把握できる。
【0039】
3.品質評価の手順
次いで、図3等を参照して、品質評価の手順を説明する。
実行中のレーザ加工の状態を測定し、モニタリングデータを取得する(ステップS1)。モニタリングデータは適宜解析され、適切な特徴量及びマハラノビス距離等の指標が算出されてよい。
【0040】
次いで、モニタリングデータないしそれに対応する指標から、実行中のレーザ加工が連続生産の加工条件を逸脱しているかを判定する(ステップS2)。
すなわち、加工条件の逸脱の有無にしたがい、加工品質を正常又はグレーに分離する(図5参照)。例えば、指標(当該指標から算出された乖離度を含む。以下、同じ。)が所定のしきい値(第1しきい値)を逸脱していない(適正な加工条件の範囲内である)と判断されると、実施中の加工は正常ないし適正であると評価される。逆に、指標が所定のしきい値を逸脱していると判断されると、条件逸脱(ここではグレーと呼ぶ。)と評価される。なお、この段階では、条件逸脱を直ちに品質不良とは評価しない。
【0041】
グレーと評価されると、条件逸脱の原因を推定する(ステップ3)。
逸脱原因の推定は、モニタリングデータ(その特徴量を含む)を学習済みの推定モデルに入力し、原因と推定される加工条件の状態を出力することで行われる(図6参照)。モデルの学習については先に述べたとおりである。出力の例としては、レーザ出力の低下、焦点位置の上昇、ワークW間の隙間の増大などが挙げられる。
【0042】
更に、推定された逸脱原因毎に、上述した指標を所定のしきい値(第2しきい値)と比較する(ステップS4)。ここで用いられるしきい値は、加工品質の適否を判別するものであるから、先に用いられたしきい値(第1しきい値)とは異なる値でよく、しかも逸脱原因ごとに異なる値でもよい(図5及び図7参照)。
【0043】
そして、しきい値の超過の有無にしたがい、加工品質を不良とそれ以外に分離する(ステップS5)。すなわち、逸脱原因に対応する指標が当該逸脱原因に対応するしきい値を超えると、当該逸脱原因により当該ワークWの該当箇所に不良が生じていると評価される。それ以外の場合には、「グレー」と評価される。ここでいう「グレー」は、進行中の加工が連続生産の加工条件を逸脱していて品質に問題が生じ得ることを指す。
【0044】
そして、品質判定の結果と推定される原因は予め設定された形式で出力される(ステップS6)。例えば、出力の例としてディスプレイへの表示が挙げられるが、これについては図8との関係で述べたとおりである。
【0045】
4.レーザ加工の手順
次に、図9を参照して、レーザ加工の手順について、特に制御系16及び品質評価装置20に着目して説明する。
【0046】
レーザ加工装置1は、予め設定され又はシミュレーション等により得られた連続生産の加工条件(すなわち良好な品質の加工を継続して得るために満たすべき加工条件)にしたがって、ワークWにレーザ加工処理を施している(ステップS11)。加工処理の状況(例えば)は各種センサにおいて計測されて、モニタリングデータが生成される。
【0047】
生成されたモニタリングデータ又は当該データの解析により生成された指標(上述した乖離度を含む。)を用いて、上述したように連続生産の加工条件からの逸脱の判定が行われる(ステップS12)。逸脱がない場合には正常と判定され、逸脱がある場合には、欠陥要素すなわち逸脱原因を推定する(ステップS13)。そして、推定された欠陥要素ごとに、該当する指標を用いて、正常品質からの逸脱の有無を評価する(ステップS14)。例えば、該当する指標を、加工条件ごとに設定されたしきい値と比較して、逸脱していれば品質不良と判定し、逸脱していなければグレーと判定する。
【0048】
品質評価の結果は制御系16にフィードバックされる(ステップS15)。
すなわち、算出された乖離度を用いて加工条件の補正値が算出される(図10参照)。補正値の算出は品質評価装置20側で行われてもよいし、制御系16側で行われてもよい。
制御系16は、この補正値を用いてレーザ発振器11、集光光学系14、駆動系(図示せず)、及びシールドガス系15などの動作を調整する。これにより、進行中の加工が適正な加工条件に復帰し、良好な加工品質が保たれる。
【0049】
併せて、加工品質がディスプレイ等に表示される(ステップS16;ディスプレイ表示に関して図8参照)。先に述べた以外の加工品質としては、例えば加工点出力の低下、レンズの汚れ、ワークの寸法差などが挙げられる(図9参照)。これにより、不良及びグレーと評価されたワークW及び該当部位をより詳細に検査したり、加工し直したりすることで、不良品の出荷ないし使用を効果的に抑止することが可能となる。
【0050】
5.本実施形態の効果
本実施形態によれば、加工中の品質予測や不良原因の推定が可能となるだけでなく、基準品質と不良の間のグレーな状態を検知することが可能となる。このようにグレーゾーンを可視化することで、品質不良になる前に、兆候を掴むことが可能となる。
また、逸脱原因が分かるため、連続生産において異常が発生する前のメンテナンスが可能となり、しかも、現場でのトラブルシューティングの大幅な工数削減及び早期解決が見込まれる。これにより、レーザ加工装置のダウンタイム削減に寄与し、生産性の向上に寄与する。
【0051】
更に、品質評価の結果をフィードバック制御に利用することで、連続生産の安定化につながる。また、グレーな状態を検知することにより品質不良が発生する前の連続生産の変動に気付くことができ、トラブルの発生を防ぐことが可能となる。
【0052】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、種々の設計変更が可能であり、それらも本発明に含まれる。
【実施例0053】
図4に示すように、レーザによる2枚の重ね溶接において、図中に記号「〇」で示す連続生産の加工条件(レーザ出力(図4ではPowerと表示している)980W、加工速度(図4ではSpeedと表示している)37mm/s、焦点位置(図4ではWDと表示している)1.0mm、ワーク間の隙間(図4ではGAPと表示している)0.1mmの加工条件)にて複数回実験を行った。さらに、変動が予測される因子であるレーザ出力低下、隙間増大、及び焦点位置上昇を想定して、これらの因子を意図的に変動させた実験(逸脱実験)を行った。図4中の矢印が加工条件の逸脱の方向を示している。また、これらの実験において接合の状態を調べ、正常品質と不良品質とに分けた。
【0054】
これらの実験中に溶接部から発せられる光の強度を、可視光を含むフォトディテクタによる同軸観察光学系で測定し、測定データから特徴量(低周波や音声解析結果)を抽出し、連続生産の加工条件を正常データ群としてマハラノビス距離(指標)を算出してプロットした(図5)。また、正常データ群の1つをマハラノビス距離の算出のための基準値に設定した。図5から、変動の予測される因子が連続生産の加工条件から離れるほど、マハラノビス距離がほぼ線形的に大きくなることが判る。
したがって、適切なしきい値を設け、加工中のモニタリングデータから得られる指標の基準値からの乖離度を当該しきい値と対比することで、連続生産の加工条件を逸脱したか否かを検出できる。ここではD =10にしきい値が設定された。
【0055】
上記の実験から得られたモニタリングデータを用いて、上述した変動の予測される因子を目的変数とした学習モデルにより機械学習を行った。ここではニューラルネットワークを用いて学習済みモデルを得た。したがって、この学習済みモデルは、発光強度のデータを入力すると、レーザ出力低下、隙間増大、及び焦点位置上昇のうち少なくとも1つを逸脱原因として出力する(図6参照)。
【0056】
上記実験により得られた加工品質のデータから、推定した逸脱原因毎に、対応するマハラノビス距離の乖離度に対して適切なしきい値を設定した。設定されたしきい値は、レーザ出力に対してD =10、隙間に対してD =10、及び焦点位置に対してD =10である(図7参照)。
【0057】
したがって、ここでは、連続生産の加工条件に適合する加工を「正常」に、連続生産の加工条件から逸脱するが加工品質に問題ないと評価される加工を「グレー」に、また、連続生産の加工条件から逸脱し、かつ加工品質に問題ありと評価される加工を「不良」に、それぞれ分類している。そして、最後のパターンに対しては、推定される原因を出力することとしている。
【0058】
かかる品質評価手法を「ワーク1」~「ワーク5」へのレーザ溶接に適用したところ、図8に示す結果が得られた。図8については先に詳しく述べた。
このように実施することで、品質の正常・グレー・異常を判別でき、しかも、異常の場合はその原因(レーザ出力低下、隙間増大、及び/又は焦点位置上昇)を可視化することができる。また、加工条件の逸脱と加工品質の良好・不良との基準(しきい値)を異ならせることで、より高精度な品質判定が可能となる。
【符号の説明】
【0059】
1 レーザ加工装置
11 レーザ発振器
12 光路
13 レーザ光
14 集光光学系
15 シールドガス系
16 制御系
20 品質評価装置
21 測定部
22 逸脱検出部
23 原因推定部
24 品質判定部
25 出力部
W ワーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10