(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129433
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】車両用灯具の制御装置、車両用灯具システム
(51)【国際特許分類】
B60Q 1/04 20060101AFI20240919BHJP
F21S 41/141 20180101ALI20240919BHJP
F21S 41/663 20180101ALI20240919BHJP
F21W 102/14 20180101ALN20240919BHJP
F21W 102/17 20180101ALN20240919BHJP
F21W 102/19 20180101ALN20240919BHJP
F21W 102/20 20180101ALN20240919BHJP
F21Y 115/10 20160101ALN20240919BHJP
F21Y 115/30 20160101ALN20240919BHJP
【FI】
B60Q1/04 Z
B60Q1/04 E
F21S41/141
F21S41/663
F21W102:14
F21W102:17
F21W102:19
F21W102:20
F21Y115:10
F21Y115:30
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038644
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】弁理士法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】石井 優輝
(72)【発明者】
【氏名】深澤 勝利
(72)【発明者】
【氏名】藁谷 剛司
(72)【発明者】
【氏名】中島 航
(72)【発明者】
【氏名】山口 歩
【テーマコード(参考)】
3K339
【Fターム(参考)】
3K339AA02
3K339BA01
3K339CA01
3K339DA01
3K339DA05
3K339GB01
3K339JA02
3K339JA05
3K339KA07
3K339LA06
3K339LA24
3K339LA26
3K339LA33
3K339LA35
3K339MA02
3K339MA03
3K339MA04
3K339MA07
3K339MC13
3K339MC36
3K339MC37
3K339MC48
3K339MC77
3K339MC90
(57)【要約】 (修正有)
【課題】歩行者の視認性をより向上させ得る技術の提供。
【解決手段】配光パターンが可変である車両用灯具の動作を制御するための装置であって、コントローラは、第1センサにより検出される降雨量と第2センサにより検出される雨滴サイズの関係が光膜現象を発生させないと推定される第1天候条件に該当する場合には第1ビームを照射するように前記車両用灯具を制御し、前記第1センサにより検出される前記降雨量と前記第2センサにより検出される前記雨滴サイズの関係が前記光膜現象を発生させると推定される第2天候条件に該当する場合には前記第1ビームよりも照度を相対的に低く設定した第2ビームを照射するように前記車両用灯具を制御する、車両用灯具の制御装置である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配光パターンが可変である車両用灯具の動作を制御するための装置であって、
降雨量を検出可能な第1センサと、
雨滴サイズを検出可能な第2センサと、
前記第1センサ及び前記第2センサのそれぞれと接続されたコントローラと、
を含み、
前記コントローラは、
前記第1センサにより検出される前記降雨量と前記第2センサにより検出される前記雨滴サイズの関係が光膜現象を発生させないと推定される第1天候条件に該当する場合には第1ビームを照射するように前記車両用灯具を制御し、
前記第1センサにより検出される前記降雨量と前記第2センサにより検出される前記雨滴サイズの関係が前記光膜現象を発生させると推定される第2天候条件に該当する場合には前記第1ビームよりも照度を相対的に低く設定した第2ビームを照射するように前記車両用灯具を制御する、
車両用灯具の制御装置。
【請求項2】
前記第2ビームは、前記第1ビームに比べて前記自車両の正面方向を照射する成分が相対的に少ない、
請求項1に記載の車両用灯具の制御装置。
【請求項3】
前記車両用灯具は、前記自車両前部の右側と左側にそれぞれ設置された一対の前照灯ユニットを含み、
前記第1ビームは、前記一対の前照灯ユニットの各々から自車線の側方を含む領域に向けて照射されるビームを合わせて構成され、前記第2ビームは、前記一対の前照灯ユニットのうち前記自車両の走行する車線側の路肩から相対的に近い側の前記前照灯ユニットから前記自車線の側方を含む領域に向けて照射されるビームを用いて構成される、
請求項1に記載の車両用灯具の制御装置。
【請求項4】
前記第1天候条件と前記第2天候条件は、前記降雨量と前記雨滴サイズの各々を変数に設定して得られる境界線によって区分けされる二領域に対応付けられるものであり、
前記コントローラは、前記降雨量と前記雨滴サイズの関係が前記二領域のうち第1領域に属する場合に前記第1天候条件に該当するものとし、前記降雨量と前記雨滴サイズの関係が前記二領域のうち第2領域に属する場合に前記第1天候条件に該当するものとして前記車両用灯具を制御する、
請求項1に記載の車両用灯具の制御装置。
【請求項5】
前記コントローラは、前記第1ビーム又は前記第2ビームとともにロービームを照射させるように前記車両用灯具を制御する、
請求項1に記載の車両用灯具の制御装置。
【請求項6】
前記第1ビーム、前記第2ビームは、それぞれ前記ロービームの照射範囲内に重ねて照射される、
請求項5に記載の車両用灯具の制御装置。
【請求項7】
前記コントローラは、
前記自車両の車速が第1閾値以上である場合において、前記第1天候条件に該当する場合には、前記第1ビーム及び前記ロービームとともに、ハイビームの照射範囲内において前記自車両の前方に存在する他車両の位置に応じた範囲を減光ないし遮光するものであるアダプティブドライビングビームを照射させるように前記車両用灯具を制御し、
前記自車両の車速が第1閾値以上である場合において、前記第2天候条件に該当する場合には、前記第2ビーム及び前記ロービームとともに前記自車線の側方を含む領域へ向けて第3ビームを照射させるように前記車両用灯具を制御するものであり、
前記第3ビームは、鉛直方向において前記第2ビームよりも相対的に上側に照射されるビームである、
請求項5に記載の車両用灯具の制御装置。
【請求項8】
前記コントローラは、
前記自車両の車速が前記第1閾値より大きい第2閾値以上である場合において、前記第1天候条件に該当する場合には、前記第1ビームを照射させず、かつ、前記ロービームと前記アダプティブドライビングビームを照射させるように前記車両用灯具を制御し、
前記自車両の車速が前記第1閾値より大きい第2閾値以上である場合において、前記第2天候条件に該当する場合には、前記第2ビームを照射させず、かつ、前記ロービームと前記第3ビームを照射させるように前記車両用灯具を制御する、
請求項7に記載の車両用灯具の制御装置。
【請求項9】
前記コントローラは、
前記自車両の車速が第1閾値以上である場合において、前記第1天候条件に該当する場合には、前記第1ビーム及び前記ロービームとともにハイビームを照射させるように前記車両用灯具を制御し、
前記自車両の車速が第1閾値以上である場合において、前記第2天候条件に該当する場合には、前記第2ビーム及び前記ロービームを照射させるように前記車両用灯具を制御する、
請求項5に記載の車両用灯具の制御装置。
【請求項10】
前記コントローラは、
前記自車両の車速が前記第1閾値より大きい第2閾値以上である場合において、前記第1天候条件に該当する場合には、前記第1ビームを照射させず、かつ、前記ロービームと前記ハイビームを照射させるように前記車両用灯具を制御し、
前記自車両の車速が前記第1閾値より大きい第2閾値以上である場合において、前記第2天候条件に該当する場合には、前記第2ビームと前記ロービームを照射させるように前記車両用灯具を制御する、
請求項10に記載の車両用灯具の制御装置。
【請求項11】
請求項1~10の何れかに記載の制御装置と、
前記制御装置と接続される車両用灯具と、
を含む、車両用灯具システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両用灯具の制御装置、車両用灯具システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特開2022-109440号公報(特許文献1)には、降雨量が所定値以上である場合に、第1前照灯ユニットの照射光が第2前照灯ユニットの照射光に比べて相対的に暗くなるように制御する車両用灯具システムが記載されている。この先行例によれば、空中の雨滴に強い光が当たることで光が散乱して靄状になる現象である光膜現象が抑制される。しかし、天候の状況によっては降雨量が少なくても光膜現象が発生してしまう場合があり、それによって例えば路肩に存在する歩行者の視認性の低下を招くことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示に係る具体的態様は、歩行者の視認性をより向上させ得る技術を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[1]本開示に係る一態様の装置は、配光パターンが可変である車両用灯具の動作を制御するための装置であって、(a)降雨量を検出可能な第1センサと、(b)雨滴サイズを検出可能な第2センサと、(c)前記第1センサ及び前記第2センサのそれぞれと接続されたコントローラと、を含み、(d)前記コントローラは、(d1)前記第1センサにより検出される前記降雨量と前記第2センサにより検出される前記雨滴サイズの関係が光膜現象を発生させないと推定される第1天候条件に該当する場合には第1ビームを照射するように前記車両用灯具を制御し、(d2)前記第1センサにより検出される前記降雨量と前記第2センサにより検出される前記雨滴サイズの関係が前記光膜現象を発生させると推定される第2天候条件に該当する場合には前記第1ビームよりも照度を相対的に低く設定した第2ビームを照射するように前記車両用灯具を制御する、車両用灯具の制御装置である。
[2]本開示に係る一態様の車両用灯具システムは、前記[1]の制御装置と、当該制御装置と接続される車両用灯具と、を含む、車両用灯具システムである。
【0006】
上記構成によれば、歩行者の視認性をより向上させ得る技術を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、一実施形態の車両用灯具システムの構成を示す図である。
【
図2】
図2は、光膜現象の発生条件を説明するための図である。
【
図3】
図3は、天候と車速に応じて可変に設定される照射態様を説明するための図である。
【
図4】
図4は、天候と車速に応じて可変に設定される照射態様を説明するための図である。
【
図5】
図5(A)、
図5(B)は、第1態様を例示的に説明するための図である。
図5(C)、
図5(D)は、第2態様を例示的に説明するための図である。
【
図6】
図6(A)、
図6(B)は、第3態様を例示的に説明するための図である。
図6(C)、
図6(D)は、第4態様及び第4’態様を例示的に説明するための図である。
【
図7】
図7(A)、
図7(B)は、第5態様を例示的に説明するための図である。
図7(C)、
図7(D)は、第6態様を例示的に説明するための図である。
【
図8】
図8(A)、
図8(B)は、第7態様を例示的に説明するための図である。
図8(C)、
図8(D)は、第8態様を例示的に説明するための図である。
【
図9】
図9は、アダプティブドライビングビーム(ADB)を形成可能である場合における車両用灯具システムの動作手順を示すフローチャートである。
【
図10】
図10は、アダプティブドライビングビーム(ADB)を形成可能ではない場合における車両用灯具システムの動作手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1は、一実施形態の車両用灯具システムの構成を示す図である。図示の車両用灯具システムは、コントローラ100、カメラ11、降雨量センサ12、雨滴センサ13、一対の前照灯ユニット30L、30Rを含んで構成されている。この車両用灯具システムは、車両前方へ光照射を行うためのものである。なお、本明細書においては、コントローラ10、カメラ11、降雨量センサ12、雨滴センサ13を含んで車両用灯具の制御装置が構成されている。
【0009】
コントローラ10は、各前照灯ユニット30L、30Rによる光照射の動作を制御するものである。このコントローラ10は、例えばプロセッサ(CPU:Centra Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ等の記憶デバイス、入出力インターフェースなどを備えたコンピュータシステムを用いて構成することができる。本実施形態のコントローラ10は、予め記憶デバイス(あるいはROM)に記憶されたプログラムがプロセッサによって読み出されて実行されることにより、所定の機能を発揮できる状態となる。
【0010】
また、コントローラ10は、車両に備わったワイパースイッチ14、ランプスイッチ15、車速センサ16のそれぞれと接続されている。ここでいう「接続」とは、信号線などを介して直接的に接続される場合と、図示しない制御ユニット等を介して間接的に接続される場合を含む。また、制御ユニット等を介した「接続」には、制御ユニット等から通信手段を介してワイパースイッチ14、ランプスイッチ15、車速センサ16のそれぞれの作動状況をデジタル信号などで受信する場合を含む。
【0011】
カメラ11は、自車両前方の空間を撮影して得られる画像データに基づいて所定の画像認識処理を行うことにより、前方車両(先行車両、対向車両)や歩行者の位置などの状況を検出するものである。なお、画像認識処理の機能の一部又は全部はコントローラ10側に設けられていてもよい。その場合には、カメラ11から画像データがコントローラ10へ供給され、コントローラ10において所定のプログラムを実行することで画像認識処理が行われる。
【0012】
降雨量センサ12は、自車両の存在する場所における降雨量を検出し、降雨量に応じた変化を示す信号(又はデータ。以下同様)を出力する。降雨量センサ12としては公知の種々のものを用いることが可能であり、例えば、帯状レーザー光を発する発光素子とそれを受光する受光素子を対にして構成された降雨量センサを用いることができる。この降雨量センサは、帯状レーザー光を雨滴が通過した際に受光素子で発生する電圧信号の低下度合いに基づいて雨滴の粒径と速度を検出可能である。そして、雨滴の粒径と速度に基づき、降雨量を特定することができる。
【0013】
雨滴センサ13は、自車両の存在する場所における雨滴のサイズ(径)を検出し、サイズに応じた変化を示す信号(又はデータ)を出力する。雨滴センサ13としては公知の種々のものを用いることが可能であり、例えば、対となる電極を有し、電極間をつなぐように雨滴が付着した際に電極間に電流が流れるように構成された雨滴センサを用いることができる。この降雨センサでは、例えばフロントガラスの一部に、電極間距離を例えば0.1mm間隔とした透明電極を複数配置しておくことで、付着した雨滴のサイズに応じて電極間を流れる電流が変化するので、その電流の大きさから雨滴サイズを検出することができる。
【0014】
ワイパースイッチ14は、自車両の運転席付近において運転者によって操作可能な位置に設置されている。このワイパースイッチ14は、自車両のフロントガラスやリアガラスに設置されたワイパーを作動させたい際に運転者によって操作されるものである。
【0015】
ランプスイッチ15は、自車両の運転席付近において運転者によって操作可能な位置に設置されている。このランプスイッチ15は、前照灯ユニット30L、30Rによる光照射を行わせたい場合に運転者によって操作される。また、ランプスイッチ15は、方向指示灯を点灯させるためのウィンカースイッチを兼ねている。
【0016】
車速センサ16は、自車両の車速を検出するものである。車速センサ16は、例えば車輪の回転に応じてパルス信号を出力するものである。出力されるパルス信号に基づいて車速を特定することができる。
【0017】
コントローラ10は、プログラム実行によって実現される機能ブロックとしての配光パターン設定部21、制御信号生成部22を含む。
【0018】
配光パターン設定部21は、カメラ11による前方車両等の検出結果と、降雨量センサ12により検出される降雨量、雨滴センサ13により検出される雨滴サイズに基づいて各前照灯ユニット30L、30Rによる照射光の配光パターンを設定する。
【0019】
制御信号生成部22は、配光パターン設定部21によって設定される配光パターンに応じた照射光を各前照灯ユニット30L、30Rに形成させるための制御信号を生成し、各前照灯ユニット30L、30Rへ供給する。
【0020】
一対の前照灯ユニット30L、30Rは、自車両前部の左右の所定位置に搭載されており、コントローラ10から与えられる制御信号に応じて動作して自車両前方へ照射される光を形成する。本実施形態の前照灯ユニット30L、30Rは、配光パターンが可変に設定できるものであり、ロービーム(すれ違い灯)、ハイビーム(走行灯)の各照射光を形成可能であるとともに、前方車両の位置等に応じて設定される範囲を部分的に減光(または消灯)した照射光であるアダプティブドライビングビーム(ADB)を形成可能である。また、前照灯ユニット30L、30Rは、ロービーム、ハイビーム、アダプティブドライビングビームに加えて、降雨状況に応じて道路脇領域などを照射するための追加的な照射光である追加的ビームを形成可能である。
【0021】
各前照灯ユニット30L、30Rとしては公知の種々の構成を採用することができる。例えば、光源バルブと反射鏡や遮蔽板を組み合わせた構成のランプユニットによりハイビーム、ロービーム、追加的ビームを形成することができる。また、LED(Light Emitting Diode)などの発光素子が一方向または二方向に配列されており、各発光素子の点灯状態を個別に制御可能なランプユニットを用いてアダプティブドライビングビームを形成することもできる。また、光源と液晶素子などを備え、液晶素子の各画素の光透過状態を個別に制御可能なランプユニットを用いてアダプティブドライビングビームを形成することもできる。また、レーザダイオードなどの発光素子と、この発光素子から出射する光を走査するミラーデバイス等の走査素子などを備え、発光素子の点消灯のタイミングと走査素子による走査タイミングを制御可能なランプユニットを用いてアダプティブドライビングビームを形成することも可能である。さらに、これらの構成のランプユニットにおいてアダプティブドライビングビームに加えてハイビーム、ロービーム、追加的ビームが形成されてもよい。
【0022】
図2は、光膜現象の発生条件を説明するための図である。
図2では、降雨量と雨滴サイズの各々を変数とし、縦軸を降雨量、横軸を雨滴サイズに設定して、光膜現象の発生する境界条件が特性線(境界線)によって示されている。図示の例は、雨滴サイズが0~6.0(mm)、降雨量が0~300(mm/h)の範囲内において、出願人が実験施設を用いて実際にいくつかの条件で降雨状況と光膜発生の有無を主観評価にて確認し、その結果に基づいて曲線近似を行うことにより特性線を得たものである。図示のように、雨滴サイズが0~6.0(mm)、降雨量が0~300(mm/h)の範囲内において、特性線によって区分けされる2つの領域が得られる。図中、特性線の下側領域は光膜現象が発生しない条件(第1天候条件)に対応する第1領域であり、特性線の上側領域は光膜現象が発生する条件(第2天候条件)に対応する第2領域である。
【0023】
図中に例示するように、例えば雨滴サイズが相対的に大きい値(例えばa1)であっても降雨量が相対的に大きい値(例えばb1)には光膜現象が発生しない場合があり、他方で雨滴サイズが相対的に小さい値(例えばa2)であっても降雨量も相対的に少ない値(例えばb2)には光膜現象が発生する場合もある。すなわち、単純に降雨量又は雨滴サイズの何れかだけを条件としたのでは光膜現象が発生する場合と光膜現象が発生しない場合とを的確に判別しにくいところ、本実施形態では降雨量と雨滴サイズとの関係に着目し、当該関係が第1領域と第2領域のいずれに属するかを求めることで光膜現象の有無をより的確に判別できる。
【0024】
図3、
図4は、それぞれ、天候と車速に応じて可変に設定される照射態様を説明するための図である。
図3は、ハイビームの照射範囲内において、前方車両の位置等に応じて設定される範囲を部分的に減光(または消灯)した照射光であるアダプティブドライビングビーム(ADB)を形成可能である場合について示す。
図4は、ハイビームの照射範囲内において、アダプティブドライビングビーム(ADB)を形成可能ではなく、通常のハイビームを形成可能な場合について示す。
【0025】
各図において、天候については、晴天(雨天ではない天候を含む)、光膜現象が発生しない天候条件である第1領域、光膜現象が発生する天候条件である第2領域の3種類に区分される。また、車速については、所定の閾値V1(例えば時速30km)より小さい場合、車速が閾値V1以上であって閾値V2(例えば時速60km)より小さい場合、車速が閾値V2以上の場合の3種類に区分される。従って、天候と車速の各区分に対応してマトリクスを作ると9つの条件に分けられる。そして、天候と車速に応じて配光パターン設定部21によりいずれかの条件が選択される。
【0026】
まず、
図3を参照しながら、各前照灯ユニット30L、30Rがアダプティブドライビングビーム(ADB)を形成可能である場合における照射態様を説明する。
【0027】
天候が晴天、車速がV1より小さい場合については、ロービームを照射する態様である第1態様が選択される。第1態様の具体例については後述の
図5(A)、
図5(B)にて説明する。ここでいうロービームとは、主に夜間において自車両前方の概ね40mの距離内に存在する他車両や歩行者などの交通上の障害となり得る対象体を確認できるように照射される光である。
【0028】
天候が第1領域(光膜現象なし)、車速がV1より小さい場合については、ロービームと合わせて歩行者強調ロービームを照射する態様である「第2態様」が選択される。第2態様の具体例については後述の
図5(C)、
図5(D)にて説明する。ここでいう歩行者強調ロービーム(第1ビーム)とは、主にロービームの照射範囲内において自車線の側方を含む領域、より具体的な一態様としては自車線側の路肩(自車両の走行する車線に隣接する路肩)を含む領域に向けて照射される光である。この歩行者強調ロービームによれば、視認性が低下しやすい雨天においても路肩(路側帯や歩道を含む)に存在する歩行者の視認性が向上し、運転者が歩行者を発見しやすくなる。なお、「自車線側の路肩を含む領域」に向けて光を照射する態様とは、路肩が含まれるように照射すること、路肩に向けて照射すること、路肩を照射すること、路肩以外の領域とともに路肩も照射すること、のいずれの態様も包含する概念である。当該概念は、後述する第3態様等の各態様における歩行者強調ロービームや歩行者強調ハイビームにおいても共通する概念である。
【0029】
天候が第2領域(光膜現象あり)、車速がV1より小さい場合については、ロービームと合わせて歩行者強調ロービームを照射する態様であって当該歩行者強調ロービームの照射光強度を相対的に低くした態様である「第3態様」が選択される。第3態様の具体例については後述の
図6(A)、
図6(B)にて説明する。ここでいう照射範囲を狭めた歩行者強調ロービーム(第2ビーム)とは、主にロービームの照射範囲内において自車両の運転席側の前照灯ユニット30Rからの照射光を減光ないし消灯し、主に自車線の側方を含む領域、より具体的な一態様としては自車線側の路肩を含む領域に対して近い側の前照灯ユニット30Lからの照射光によって形成した歩行者強調ロービームである。以降、この歩行者強調ロービームを「歩行者強調ロービーム(片側)」という。これにより、自車両の正面方向を照射する光の成分が相対的に少なくなるので、雨天時において主に運転席から見た前方における光膜現象の発生を抑えて視認性を確保し、かつ路肩の歩行者についても発見を容易にすることができる。
【0030】
天候が晴天、車速がV1以上であってV2より小さい場合については、アダプティブドライビングビーム(ADB)を照射する態様である「第4態様」が選択される。第4態様の具体例については後述の
図6(C)、
図6(D)にて説明する。ここでいうアダプティブドライビングビーム(ADB)とは、主に夜間において自車両前方の概ね100mの距離内に存在する他車両や歩行者などの交通上の障害となり得る対象体を確認できるように照射される光であるハイビームの照射範囲内において、前方車両の位置等に応じて設定される範囲を部分的に減光(または消灯)した照射光である。それにより、前方車両等へのグレアを防ぎつつ前方の視認性を向上させることができる。
【0031】
天候が第1領域(光膜現象なし)、車速がV1以上でV2より小さい場合については、ロービーム、アダプティブドライビングビーム(ADB)と合わせて歩行者強調ロービームを照射する態様である「第6態様」が選択される。第6態様の具体例については後述の
図7(C)、
図7(D)にて説明する。ここでいうアダプティブドライビングビーム(ADB)、歩行者強調ロービームの内容及び効果は上記と同様である。
【0032】
天候が第2領域(光膜現象あり)、車速がV1以上かつV2より小さい場合については、ロービーム、歩行者強調ハイビーム及び歩行者強調ロービーム(片側)を照射する態様である「第7態様」が選択される。歩行者強調ハイビーム(第3ビーム)とは、ハイビームの照射範囲内において、自車線の側方を含む領域、より具体的な一態様としては自車線側の路肩を含む領域に向けて照射される光である。第7態様の具体例については後述の
図8(A)、
図8(B)にて説明する。
【0033】
天候が晴天、車速がV2以上の場合については、ロービームとアダプティブドライビングビーム(ADB)を照射する態様である「第4態様」が選択される。同様に、天候が第1領域(光膜現象なし)、車速がV2以上の場合についても、ロービームとアダプティブドライビングビーム(ADB)を照射する態様である「第4態様」が選択される。
【0034】
天候が第2領域(光膜現象あり)、車速がV2以上の場合については、ロービームと合わせて歩行者強調ハイビームを照射する態様である「第8態様」が選択される。第8態様の具体例については後述の
図8(C)、
図8(D)にて説明する。
【0035】
次に、
図4を参照しながら、各前照灯ユニット30L、30Rがアダプティブドライビングビーム(ADB)を形成可能ではない場合における照射態様を説明する。なお、上記
図3を参照しながら説明したものと同じ照射態様については適宜説明を省略する。
【0036】
天候が晴天、車速がV1より小さい場合については、ロービームを照射する態様である第1態様が選択される。天候が第1領域(光膜現象なし)、車速がV1より小さい場合については、ロービームと合わせて歩行者強調ロービームを照射する態様である第2態様が選択される。天候が第2領域(光膜現象あり)、車速がV1より小さい場合については、ロービームと合わせて歩行者強調ロービーム(片側)を照射するである第3態様が選択される。
【0037】
天候が晴天、車速がV1以上であってV2より小さい場合については、ロービームとハイビームを照射する態様である「第4’態様」が選択される。第4’態様の具体例については後述の
図6(C)、
図6(D)にて説明する。天候が第1領域(光膜現象なし)、車速がV1以上かつV2より小さい場合については、ロービーム及びハイビームと合わせて歩行者強調ロービームを照射する態様である第5態様が選択される。第5態様の具体例については後述の
図7(C)、
図7(D)にて説明する。天候が第2領域(光膜現象あり)、車速がV1以上かつV2より小さい場合については、ロービームと歩行者強調ロービーム(片側)を照射する態様である第3態様が選択される。
【0038】
天候が晴天、車速がV2以上の場合については、ロービームとハイビームを照射する態様である第4’態様が選択される。同様に、天候が第1領域(光膜現象なし)、車速がV2以上の場合についても、ロービームとハイビームを照射する態様である第4’態様が選択される。天候が第2領域(光膜現象あり)、車速がV2以上の場合については、ロービームと合わせて歩行者強調ロービーム(片側)を照射する態様である第3態様が選択される。
【0039】
図5(A)、
図5(B)は、第1態様を例示的に説明するための図である。
図5(A)は、自車両前方の所定位置(例えば25m前方)に仮想的なスクリーンを想定し、当該スクリーン上に照射される光の形状を示したものである。
図5(B)は、自車両上方から俯瞰して各前照灯ユニット30L、30Rから照射される光の形状を平面的に示したものである。なお、各図は照射態様を概念的に示すものであり、図示の便宜上、縮尺は必ずしも一致していない(以下においても同様)。
【0040】
第1態様においては、概ね水平線Hよりも下側の領域において鉛直線Vを挟んで図中左右に広がるようにしてロービームLBが照射される(
図5(A)参照)。ロービームLBは、歩行者hの頭付近には照射されずに胴体や足下などの体部分に照射される。このロービームLBは、自車両前部の左右に設置された各前照灯ユニット30L、30Rから照射されるロービームLB1、LB2を合成して得られる(
図5(B)参照)。
【0041】
図5(C)、
図5(D)は、第2態様を例示的に説明するための図である。上記と同様に、
図5(C)は、仮想的なスクリーン上の光の形状を示したものであり、
図5(D)は、自車両上方から俯瞰した光の形状を示したものである。第2態様においては上記と同様のロービームLBに加え、主にロービームの照射範囲内における自車線側の路肩を照射する照射光として歩行者強調ロービームSBが照射される(
図5(C)参照)。図示の例では、鉛直線Vを基準に図中左側(自車線側の路肩側)に偏った位置においてロービームLBに重ねて歩行者強調ロービームSBが照射されている。これにより歩行者hの存在が強調され、歩行者を発見しやすくなる。この歩行者強調ロービームSBは、各前照灯ユニット30L、30Rから照射される歩行者強調ロービームSB1、SB2を合成して得られる(
図5(D)参照)。
【0042】
図6(A)、
図6(B)は、第3態様を例示的に説明するための図である。上記と同様に、
図6(A)は、仮想的なスクリーン上の光の形状を示したものであり、
図6(B)は、自車両上方から俯瞰した光の形状を示したものである。第3態様においては上記と同様のロービームLBに加え、主にロービームの照射範囲内における自車線側の路肩を照射する照射光として歩行者強調ロービームであってその照射光強度を相対的に低くした歩行者強調ロービームSB’が照射される(
図6(A)参照)。図示の例では、鉛直線Vを基準に図中左側(自車線側の路肩側)に偏った位置においてロービームLBに重ねて歩行者強調ロービームSB’が照射されている。この歩行者強調ロービームSB’は、左右の各前照灯ユニット30L、30Rのうち、前照灯ユニット30Lを点灯し前照灯ユニット30Rを消灯(ないし減光)することで得られる(
図6(B)参照)。これにより、自車両の正面方向を照射する光の成分が相対的に少なくなるので、雨天時において主に運転席から見た前方における光膜現象の発生を抑えて視認性を確保し、かつ路肩の歩行者hについても発見を容易にすることができる。
【0043】
図6(C)、
図6(D)は、第4態様及び第4’態様を例示的に説明するための図である。上記と同様に、
図6(C)は、仮想的なスクリーン上の光の形状を示したものであり、
図6(D)は、自車両上方から俯瞰した光の形状を示したものである。第4態様においては上記と同様のロービームLBに加え、水平線Hよりもやや下側から上側の領域において鉛直線Vを挟んで図中左右に広がるようにしての照射範囲内においてアダプティブドライビングビームADBが照射される(
図6(C)参照)。図示の例では前方車両100の位置に応じて減光範囲(ないし遮光範囲)が設けられたアダプティブドライビングビームADBが照射されている。この場合は第4態様に対応する。ハイビームの場合にはこのような減光範囲が設けられない(後述の
図7(A)参照)。この場合は第4’態様に対応する。
【0044】
図7(A)、
図7(B)は、第5態様を例示的に説明するための図である。上記と同様に、
図7(A)は、仮想的なスクリーン上の光の形状を示したものであり、
図7(B)は、自車両上方から俯瞰した光の形状を示したものである。第5態様においては上記と同様のロービームLB、ハイビームHBが照射され、さらに歩行者強調ロービームSBが照射される。それにより、歩行者を発見しやすくなる。
【0045】
図7(C)、
図7(D)は、第6態様を例示的に説明するための図である。上記と同様に、
図7(C)は、仮想的なスクリーン上の光の形状を示したものであり、
図7(D)は、自車両上方から俯瞰した光の形状を示したものである。第6態様においては上記と同様のロービームLB、アダプティブドライビングビームADBが照射され、さらに歩行者強調ロービームSBが照射される。それにより、歩行者を発見しやすくなる。
【0046】
図8(A)、
図8(B)は、第7態様を例示的に説明するための図である。上記と同様に、
図8(A)は、仮想的なスクリーン上の光の形状を示したものであり、
図8(B)は、自車両上方から俯瞰した光の形状を示したものである。第7態様においては上記と同様のロービームLB、歩行者強調ロービームSB’が照射され、さらに自車線側の路肩を選択的に照らすように歩行者強調ハイビームSHBが照射される。歩行者強調ハイビームSHBについては、
図8(B)に例示するように主に自車両左側の前照灯ユニット30Lによって形成されるものであるが、さらに前照灯ユニット30Rを僅かに点灯させてその照射光を併用してもよい。それにより、歩行者を発見しやすくなる。
【0047】
図8(C)、
図8(D)は、第8態様を例示的に説明するための図である。上記と同様に、
図8(C)は、仮想的なスクリーン上の光の形状を示したものであり、
図8(D)は、自車両上方から俯瞰した光の形状を示したものである。第8態様においては上記と同様のロービームLBが照射され、さらに自車線側の路肩を選択的に照らすように歩行者強調ハイビームSHBが照射される。第7態様と異なり、歩行者強調ロービームSB(ないしSB’)については照射されない。それにより、光膜現象が発生し得る状況であっても前方視認性を確保しつつ歩行者を発見しやすくなる。
【0048】
図9は、アダプティブドライビングビーム(ADB)を形成可能である場合における車両用灯具システムの動作手順を示すフローチャートである。なお、ここに示す各処理については情報処理の結果に矛盾や不整合を生じない限りにおいて、それらの順序を入れ替えることも可能であり、またここでは明示しない他の処理を追加することも可能である。
【0049】
運転者によって操作されるランプスイッチ15の作動状況がヘッドランプの自動点灯を指示するものである場合において(ステップS10;YES)、車速センサ16の出力に基づいて特定される自車両の車速が所定の閾値V1以上であり(ステップS11;YES)、当該車速がV1より大きい所定の閾値V2以上であり(ステップS12;YES)、かつ降雨量センサ12の出力に基づいて特性される天候が雨天であり(ステップS13;YES)、さらに降雨量センサ12の出力と雨滴センサ13の出力に基づいて特定される天候条件が「第1領域」(
図2参照)に該当する場合に(ステップS14;YES)、コントローラ10の配光パターン設定部21は、各前照灯ユニット30L、30Rによる照射パターンを「第4態様」に設定する(ステップS15)。この設定された照射パターンに基づいて制御信号生成部22によって制御信号が生成されて各前照灯ユニット30L、30Rへ出力されることにより、第4態様での光照射が実行される(
図6(C)、
図6(D)参照)。
【0050】
上記した閾値V1、V2については実験やシミュレーションなどに基づいて適宜設定することが可能であり、一例としてV1を時速30km、V2を時速50kmと設定することができる。ステップS11での閾値V1を用いた条件分岐は、アダプティブドライビングビームを用いるか否かを分けるためのものである。自車両が閾値V1より低速である場合には、例えば市街地走行中などでアダプティブドライビングビームを用いるのに適しない状況であると考えられるためである。なお、この条件分岐においては、例えば自車両周囲の灯火条件(夜、市街地、環境照度)、対向車両の前照灯やウィンカーなどの発する光、先行車両の尾灯やウィンカーなどの発する光、などを用いて判断を行ってもよい。また、天候が雨天であるか否かの条件分岐については降雨量に基づく判断のほか、ワイパーの作動状況、車外から通信を介して得られる天候情報、環境照度、車速域、車線数、街灯数、トンネル有無、舵角、ヨーレートなどを用いて判断を行ってもよい。
【0051】
降雨量センサ12の出力と雨滴センサ13の出力に基づいて特定される天候条件が「第2領域」(
図2参照)に該当する場合に(ステップS14;NO)、コントローラ10の配光パターン設定部21は、各前照灯ユニット30L、30Rによる照射パターンを「第8態様」に設定する(ステップS16)。この設定された照射パターンに基づいて制御信号生成部22によって制御信号が生成されて各前照灯ユニット30L、30Rへ出力されることにより、第8態様での光照射が実行される(
図6(A)、
図6(B)参照)。
【0052】
また、降雨量センサ12の出力に基づいて特性される天候が雨天ではない場合には(ステップS13;NO)、コントローラ10の配光パターン設定部21は、各前照灯ユニット30L、30Rによる照射パターンを「第4態様」に設定する(ステップS17)。この設定された照射パターンに基づいて制御信号生成部22によって制御信号が生成されて各前照灯ユニット30L、30Rへ出力されることにより、第4態様での光照射が実行される(
図6(C)、
図6(D)参照)。
【0053】
他方で、車速センサ16の出力に基づいて特定される自車両の車速が閾値V2より小さく(ステップS12;NO)、かつ降雨量センサ12の出力に基づいて特性される天候が雨天であり(ステップS18;YES)、さらに降雨量センサ12の出力と雨滴センサ13の出力に基づいて特定される天候条件が「第1領域」(
図2参照)に該当する場合に(ステップS19;YES)、コントローラ10の配光パターン設定部21は、各前照灯ユニット30L、30Rによる照射パターンを「第5態様」に設定する(ステップS20)。この設定された照射パターンに基づいて制御信号生成部22によって制御信号が生成されて各前照灯ユニット30L、30Rへ出力されることにより、第5態様での光照射が実行される(
図7(A)、
図7(B)参照)。
【0054】
また、降雨量センサ12の出力と雨滴センサ13の出力に基づいて特定される天候条件が「第2領域」(
図2参照)に該当する場合に(ステップS19;NO)、コントローラ10の配光パターン設定部21は、各前照灯ユニット30L、30Rによる照射パターンを「第7態様」に設定する(ステップS21)。この設定された照射パターンに基づいて制御信号生成部22によって制御信号が生成されて各前照灯ユニット30L、30Rへ出力されることにより、第7態様での光照射が実行される(
図8(A)、
図8(B)参照)。
【0055】
また、降雨量センサ12の出力に基づいて特性される天候が雨天ではない場合には(ステップS18;NO)、コントローラ10の配光パターン設定部21は、各前照灯ユニット30L、30Rによる照射パターンを「第6態様」に設定する(ステップS22)。この設定された照射パターンに基づいて制御信号生成部22によって制御信号が生成されて各前照灯ユニット30L、30Rへ出力されることにより、第6態様での光照射が実行される(
図7(C)、
図7(D)参照)。
【0056】
他方で、車速センサ16の出力に基づいて特定される自車両の車速が閾値V1より小さく(ステップS11;NO)、かつ降雨量センサ12の出力に基づいて特性される天候が雨天であり(ステップS23;YES)、さらに降雨量センサ12の出力と雨滴センサ13の出力に基づいて特定される天候条件が「第1領域」(
図2参照)に該当する場合に(ステップS24;YES)、コントローラ10の配光パターン設定部21は、各前照灯ユニット30L、30Rによる照射パターンを「第2態様」に設定する(ステップS25)。この設定された照射パターンに基づいて制御信号生成部22によって制御信号が生成されて各前照灯ユニット30L、30Rへ出力されることにより、第2態様での光照射が実行される(
図5(C)、
図5(D)参照)。
【0057】
また、降雨量センサ12の出力と雨滴センサ13の出力に基づいて特定される天候条件が「第2領域」(
図2参照)に該当する場合に(ステップS24;NO)、コントローラ10の配光パターン設定部21は、各前照灯ユニット30L、30Rによる照射パターンを「第3態様」に設定する(ステップS26)。この設定された照射パターンに基づいて制御信号生成部22によって制御信号が生成されて各前照灯ユニット30L、30Rへ出力されることにより、第3態様での光照射が実行される(
図6(A)、
図6(B)参照)。
【0058】
また、降雨量センサ12の出力に基づいて特性される天候が雨天ではない場合には(ステップS23;NO)、コントローラ10の配光パターン設定部21は、各前照灯ユニット30L、30Rによる照射パターンを「第1態様」に設定する(ステップS27)。この設定された照射パターンに基づいて制御信号生成部22によって制御信号が生成されて各前照灯ユニット30L、30Rへ出力されることにより、第1態様での光照射が実行される(
図5(A)、
図5(B)参照)。
【0059】
他方で、運転者によって操作されるランプスイッチ15の作動状況がヘッドランプの自動点灯を指示するものではなく、手動選択を指示するものである場合において(ステップS10;NO)、コントローラ10の配光パターン設定部21は、ランプスイッチ15の作動状況に応じて照射パターンを第1態様、第2態様、第3態様、第7態様、第8態様の何れかに設定する(ステップS28)。この設定された照射パターンに基づいて制御信号生成部22によって制御信号が生成されて各前照灯ユニット30L、30Rへ出力されることにより、何れかの態様での光照射が実行される。
【0060】
図10は、アダプティブドライビングビーム(ADB)を形成可能ではない場合における車両用灯具システムの動作手順を示すフローチャートである。なお、ここに示す各処理については情報処理の結果に矛盾や不整合を生じない限りにおいて、それらの順序を入れ替えることも可能であり、またここでは明示しない他の処理を追加することも可能である。
【0061】
図10に示す動作手順は基本的に
図9に示した動作手順と共通であり、ステップS15、S16、S17、S21、S22において設定される照射パターンが異なっている。このため、相違点のみ説明する。ステップS15、S17、S22のそれぞれでは、
図9の場合に代えてそれぞれ第4’態様が設定される。第4’態様は、アダプティブドライビングビームに代えて通常のハイビームを用いる態様である。また、ステップS16、S21のそれぞれでは、
図9の場合に代えてそれぞれ第3態様が設定される。
【0062】
以上のような実施形態によれば、光膜現象の発生をより的確に回避し、路肩に存在する歩行者の視認性をより向上させることができる。また、前方視認性を向上させることができる。
【0063】
なお、本開示は上記した実施形態の内容に限定されるものではなく、本開示の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。例えば、上記した実施形態では、車両が左側通行の場合を例示しているが、これとは異なり、車両が右側通行の場合には、上記した実施形態における左右を逆にして制御すればよいことは言うまでもない。
【0064】
また、上記した実施形態では車速が閾値V1より小さい場合であって晴天時には照射パターンとしてロービームのみを照射する第1態様を設定していたが(
図3、
図4参照)、照射パターンとして歩行者強調ロービームを追加して照射する第2態様ないし第3態様を設定してもよい。それにより、晴天時における歩行者の発見しやすさが向上する。
【0065】
本開示は、以下に付記する特徴を有する。
(付記1)
配光パターンが可変である車両用灯具の動作を制御するための装置であって、
降雨量を検出可能な第1センサと、
雨滴サイズを検出可能な第2センサと、
前記第1センサ及び前記第2センサのそれぞれと接続されたコントローラと、
を含み、
前記コントローラは、
前記第1センサにより検出される前記降雨量と前記第2センサにより検出される前記雨滴サイズの関係が光膜現象を発生させないと推定される第1天候条件に該当する場合には第1ビームを照射するように前記車両用灯具を制御し、
前記第1センサにより検出される前記降雨量と前記第2センサにより検出される前記雨滴サイズの関係が前記光膜現象を発生させると推定される第2天候条件に該当する場合には前記第1ビームよりも照度を相対的に低く設定した第2ビームを照射するように前記車両用灯具を制御する、
車両用灯具の制御装置。
(付記2)
前記第2ビームは、前記第1ビームに比べて前記自車両の正面方向を照射する成分が相対的に少ない、
付記1に記載の車両用灯具の制御装置。
(付記3)
前記車両用灯具は、前記自車両前部の右側と左側にそれぞれ設置された一対の前照灯ユニットを含み、
前記第1ビームは、前記一対の前照灯ユニットの各々から自車線の側方を含む領域に向けて照射されるビームを合わせて構成され、前記第2ビームは、前記一対の前照灯ユニットのうち前記自車両の走行する車線側の路肩から相対的に近い側の前記前照灯ユニットから前記自車線の側方を含む領域に向けて照射されるビームを用いて構成される、
付記1又は2に記載の車両用灯具の制御装置。
(付記4)
前記第1天候条件と前記第2天候条件は、前記降雨量と前記雨滴サイズの各々を変数に設定して得られる境界線によって区分けされる二領域に対応付けられるものであり、
前記コントローラは、前記降雨量と前記雨滴サイズの関係が前記二領域のうち第1領域に属する場合に前記第1天候条件に該当するものとし、前記降雨量と前記雨滴サイズの関係が前記二領域のうち第2領域に属する場合に前記第1天候条件に該当するものとして前記車両用灯具を制御する、
付記1~3の何れかに記載の車両用灯具の制御装置。
(付記5)
前記コントローラは、前記第1ビーム又は前記第2ビームとともにロービームを照射させるように前記車両用灯具を制御する、
付記1~4の何れかに記載の車両用灯具の制御装置。
(付記6)
前記第1ビーム、前記第2ビームは、それぞれ前記ロービームの照射範囲内に重ねて照射される、
付記5に記載の車両用灯具の制御装置。
(付記7)
前記コントローラは、
前記自車両の車速が第1閾値以上である場合において、前記第1天候条件に該当する場合には、前記第1ビーム及び前記ロービームとともに、ハイビームの照射範囲内において前記自車両の前方に存在する他車両の位置に応じた範囲を減光ないし遮光するものであるアダプティブドライビングビームを照射させるように前記車両用灯具を制御し、
前記自車両の車速が第1閾値以上である場合において、前記第2天候条件に該当する場合には、前記第2ビーム及び前記ロービームとともに自車線の側方を含む領域へ向けて第3ビームを照射させるように前記車両用灯具を制御するものであり、
前記第3ビームは、鉛直方向において前記第2ビームよりも相対的に上側に照射されるビームである、
付記5に記載の車両用灯具の制御装置。
(付記8)
前記コントローラは、
前記自車両の車速が前記第1閾値より大きい第2閾値以上である場合において、前記第1天候条件に該当する場合には、前記第1ビームを照射させず、かつ、前記ロービームと前記アダプティブドライビングビームを照射させるように前記車両用灯具を制御し、
前記自車両の車速が前記第1閾値より大きい第2閾値以上である場合において、前記第2天候条件に該当する場合には、前記第2ビームを照射させず、かつ、前記ロービームと前記第3ビームを照射させるように前記車両用灯具を制御する、
付記7に記載の車両用灯具の制御装置。
(付記9)
前記コントローラは、
前記自車両の車速が第1閾値以上である場合において、前記第1天候条件に該当する場合には、前記第1ビーム及び前記ロービームとともにハイビームを照射させるように前記車両用灯具を制御し、
前記自車両の車速が第1閾値以上である場合において、前記第2天候条件に該当する場合には、前記第2ビーム及び前記ロービームを照射させるように前記車両用灯具を制御する、
付記5に記載の車両用灯具の制御装置。
(付記10)
前記コントローラは、
前記自車両の車速が前記第1閾値より大きい第2閾値以上である場合において、前記第1天候条件に該当する場合には、前記第1ビームを照射させず、かつ、前記ロービームと前記ハイビームを照射させるように前記車両用灯具を制御し、
前記自車両の車速が前記第1閾値より大きい第2閾値以上である場合において、前記第2天候条件に該当する場合には、前記第2ビームと前記ロービームを照射させるように前記車両用灯具を制御する、
付記9に記載の車両用灯具の制御装置。
(付記11)
付記1~10の何れかに記載の制御装置と、
前記制御装置と接続される車両用灯具と、
を含む、車両用灯具システム。
【符号の説明】
【0066】
10:コントローラ、11:カメラ、12:降雨量センサ、13:雨滴センサ、14::ワイパースイッチ、15:ランプスイッチ、16:車速センサ、30L、30R:前照灯ユニット、h:歩行者、LB:ロービーム、SB:歩行者強調ロービーム、SB’:歩行者強調ロービーム(片側)、ADB:アダプティブドライビングビーム、HB:ハイビーム、SHB:歩行者強調ハイビーム