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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129439
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】歪補償回路
(51)【国際特許分類】
   H03F 1/32 20060101AFI20240919BHJP
   H03F 3/24 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
H03F1/32 141
H03F3/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038656
(22)【出願日】2023-03-13
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、総務省、「電波資源拡大のための研究開発~100GHz以上の高周波数帯通信デバイスに関する研究開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】392026693
【氏名又は名称】株式会社NTTドコモ
(74)【代理人】
【識別番号】100121706
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128705
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 幸雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147773
【弁理士】
【氏名又は名称】義村 宗洋
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 恭宜
(72)【発明者】
【氏名】濱田 裕史
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 浩司
【テーマコード(参考)】
5J500
【Fターム(参考)】
5J500AA04
5J500AA41
5J500AC21
5J500AC36
5J500AC81
5J500AF07
5J500AF08
5J500AF10
5J500AF17
5J500AH19
5J500AH25
5J500AH29
5J500AK12
5J500AK26
5J500AK44
5J500AM13
5J500AS14
5J500AT01
5J500NG03
5J500NG06
(57)【要約】
【課題】サブテラヘルツ帯またはテラヘルツ帯において電力増幅器の低消費電力化を可能にする歪補償回路を提供する。
【解決手段】歪補償回路1は、歪補償回路1からの出力信号の電力を増幅する電力増幅器40からの出力信号の歪を補償する回路である。歪補償回路1は、サブテラヘルツ帯またはテラヘルツ帯の入力信号を、2個以上の周波数帯域に一対一で対応する2個以上の分割信号に分割する帯域分割回路10と、2個以上の分割信号のそれぞれに対して、歪が補償されるための信号処理を行う信号処理回路20と、信号処理回路20によって信号処理を受けた2個以上の分割信号を合成する合成回路30と、電力増幅器40からの出力信号に基づいて、信号処理回路20を制御する制御回路60を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歪補償回路からの出力信号の電力を増幅する電力増幅器からの出力信号の歪を補償する前記歪補償回路であって、
サブテラヘルツ帯またはテラヘルツ帯の入力信号を、2個以上の周波数帯域に一対一で対応する2個以上の信号(以下、「2個以上の分割信号」と呼称する)に分割する帯域分割回路と、
前記2個以上の分割信号のそれぞれに対して、前記歪が補償されるための信号処理を行う信号処理回路と、
前記信号処理回路によって前記信号処理を受けた前記2個以上の分割信号を合成する合成回路と、
前記電力増幅器からの前記出力信号に基づいて、前記信号処理回路を制御する制御回路と
を含む歪補償回路。
【請求項2】
歪補償回路からの出力信号の電力を増幅する電力増幅器からの出力信号の歪を補償する前記歪補償回路であって、
サブテラヘルツ帯またはテラヘルツ帯の入力信号から片側周波数帯域の信号を得るフィルタと、
前記入力信号と前記片側周波数帯域の信号のそれぞれに対して、前記歪が補償されるための信号処理を行う信号処理回路と、
前記信号処理回路によって前記信号処理を受けた前記入力信号と前記片側周波数帯域の信号を合成する合成回路と、
前記電力増幅器からの前記出力信号に基づいて、前記信号処理回路を制御する制御回路と
を含む歪補償回路。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の歪補償回路において、
前記信号処理回路は、ダイオードを用いたプリディストータを含むことを特徴とする
歪補償回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、サブテラヘルツ帯またはテラヘルツ帯において電力増幅器の低消費電力化を可能にする歪補償回路に関する。
【背景技術】
【0002】
モバイル通信、衛星通信、無線LAN(Local Area Network)などで使用される送信機は通例、電力増幅器を含む。電力増幅器は、所定の出力レベルまで信号の電力を増幅するデバイスである。
【0003】
電力増幅器は、電力増幅器の設定に応じて異なる動作をする。モバイル通信は線形変調を使用するので、モバイル通信における電力増幅器の設定は、所定の周波数帯域の外に漏洩する歪成分が無線システム規格値以下となるものである。一般に、AB級バイアス条件の場合、電力増幅器のバックオフ(Backoff)、つまり出力最大電力レベルと出力飽和電力レベルの差は、おおむね8dBである。
【0004】
近年、モバイル通信機器、基地局装置などの無線機の小型化と低消費電力化が求められている。電力増幅器の消費電力は無線機の消費電力の大部分を占めるので、電力増幅器の低消費電力化が求められている。バックオフを少なくすることによって飽和出力電力に近い動作点で電力増幅器を動作させ、この結果、電力増幅器の高効率化つまり電力増幅器の消費電力の低減を実現できる。しかし、バックオフの低減は帯域外歪成分の増大を惹起する。したがって、通例、リニアライザ(Linearizer)によって帯域外歪成分を抑圧することが行われている。
【0005】
リニアライザは、リニアライザの利用目的に応じて様々な実施形態を有する。飽和出力電力に近い領域で電力増幅器を動作させる場合、電力増幅器の発生する歪成分が周波数依存性を持つことが知られている。歪成分は、例えば、フィードフォワード(Feed Forward)歪補償技術によって補償されえる。或いは、ディジタルプリディストーション(Digital Predistortion)による歪補償技術(非特許文献1参照)によると、ディジタル信号処理で生成する歪成分に予め周波数特性を与えることによって、電力増幅器が発生する歪成分の周波数依存性を補償することができる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】日本国特開2006-352852号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Nick Pothecary, “Feedforward Linear Power Amplifiers,” Artech House , 1999.(ISBN-13:9781580530224)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
2030年代での商用開始に向けて、第6世代移動通信システム(以下、6Gと呼称する)の研究開発が進展している。6Gでは、第5世代移動通信システム(以下、5Gと呼称する)よりも高速および大容量を狙って、100GHz以上の周波数帯の利用も検討されている。さらに、6Gでは、5Gで使用される帯域幅よりも広い帯域幅を持つ無線チャネルを利用することも想定さている。
【0009】
6Gにおいても、無線機の小型化と低消費電力化をもたらす電力増幅器の高効率化が求められる。したがって、上述のとおり、電力増幅器の飽和出力電力に近い領域で電力増幅器が動作することが望ましいが、電力増幅器は周波数依存性を持つ歪成分を発生する。これまでのように、ディジタル信号処理によって歪成分の周波数依存性を補償することができるが、ディジタルアナログ変換器(Digital-Analog Converter)の動作速度の限界によって、6Gにおいて想定される広帯域幅無線チャンネルを用いることができない。5Gにおいて使用されているディジタルアナログ変換器の最高動作速度は12Gsps(Giga samples per second)程度であり、オーバーサンプリング率が8の条件の下で3次歪成分まで補償する場合、送信波の帯域幅は500MHz以下である。このようにディジタルアナログ変換器の動作速度の限界が原因で、100GHz以上の周波数帯において、先行技術のディジタルプリディストータは電力増幅器の発生する歪成分を補償できない課題があった。
【0010】
プリディストータはアナログ回路によっても実現でき、ダイオードを用いる構成が知られている。ダイオードによって電力増幅器の出力電力の特性を或る程度、平坦化できる。この場合、周波数依存性を持つ歪成分を補償する成分をディジタル信号処理によって生成する必要がないので、先行技術のディジタルアナログ変換器を用いることができる。しかし、6Gにおいて想定される広帯域幅無線チャンネルにおける歪成分の周波数特性は相当に複雑であるので、ダイオードを用いたプリディストータによると、歪成分の周波数逆特性を模擬できない課題があった。なぜなら、ダイオードによって実現できる逆特性は平坦な周波数特性になるからである。
【0011】
上述の背景技術および技術的課題に鑑みて、サブテラヘルツ帯またはテラヘルツ帯において電力増幅器の低消費電力化を可能にする歪補償回路を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
ここに記載される技術事項は、特許請求の範囲に記載された発明を明示的にまたは黙示的に限定するためではなく、さらに、本発明によって利益を受ける者(例えば出願人と権利者である)以外の者が特許請求の範囲に記載された発明を限定できるようにするためでもなく、単に、本発明の要点を容易に理解するために提供される。他の観点からの本発明の概要は、例えば、この特許出願の出願時の特許請求の範囲から理解できる。
【0013】
(第1の観点)
第1の観点からの本開示の歪補償回路は、当該歪補償回路からの出力信号の電力を増幅する電力増幅器からの出力信号の歪を補償する回路である。開示される歪補償回路は、サブテラヘルツ帯またはテラヘルツ帯の入力信号を、2個以上の周波数帯域に一対一で対応する2個以上の分割信号に分割する帯域分割回路と、2個以上の分割信号のそれぞれに対して、電力増幅器からの出力信号の歪が補償されるための信号処理を行う信号処理回路と、信号処理回路によって信号処理を受けた2個以上の分割信号を合成する合成回路と、電力増幅器からの出力信号に基づいて、信号処理回路を制御する制御回路を含む。
【0014】
(第2の観点)
第2の観点からの本開示の歪補償回路は、当該歪補償回路からの出力信号の電力を増幅する電力増幅器からの出力信号の歪を補償する回路である。開示される歪補償回路は、サブテラヘルツ帯またはテラヘルツ帯の入力信号から片側周波数帯域の信号を得るフィルタと、入力信号と片側周波数帯域の信号のそれぞれに対して、電力増幅器からの出力信号の歪が補償されるための信号処理を行う信号処理回路と、信号処理回路によって信号処理を受けた入力信号と片側周波数帯域の信号を合成する合成回路と、電力増幅器からの出力信号に基づいて、信号処理回路を制御する制御回路を含む。
【発明の効果】
【0015】
本開示の歪補償回路によると、サブテラヘルツ帯またはテラヘルツ帯において電力増幅器の低消費電力化を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1実施形態の歪補償回路の構成例。
図2】ダイオードを用いるプリディストータの構成例。
図3】第2実施形態の歪補償回路の構成例。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図面を参照しながら本開示の歪補償回路の実施形態を説明する。実施形態の要点を明らかにする観点から、実際には必要である或いは必要になりうるものの実施形態においては非本質的であると考えられる構成要素(電源回路、グラウンド線など)の図示およびその説明を省略する。
【0018】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態の歪補償回路1の構成例を示している。歪補償回路1は、歪補償回路1からの出力信号の電力を増幅する電力増幅器40からの出力信号の歪を補償する回路である。歪補償回路1は、帯域分割回路10と、信号処理回路20と、合成回路30と、方向性結合器50と、制御回路60を含む。
【0019】
帯域分割回路10は、サブテラヘルツ帯またはテラヘルツ帯の入力信号を、N個の周波数帯域に一対一で対応するN個の信号(以下、「N個の信号」のそれぞれを「分割信号」と呼称する)に分割する。Nは、N≧2を満たす、予め定められた正整数である。この明細書では、サブテラヘルツ帯を90GHz以上300GHz以下の周波数帯域として定義し、テラヘルツ帯を100GHz以上1THz以下の周波数帯域として定義する。
【0020】
N個の周波数帯域の帯域幅は入力信号の帯域幅に応じて予め定められており、N個の周波数帯域の中心周波数は互いに異なる。N個の周波数帯域のうちの隣り合う周波数帯域は、互いに接する、或いは、一部重複することは望ましい。例えば、入力信号の周波数帯域の中心周波数が100GHz、その帯域幅が10GHzであり、N=5である場合、1番目の周波数帯域は95GHz~97GHz(中心周波数:96GHz、帯域幅:2GHz)であり、2番目の周波数帯域は97GHz~99GHz(中心周波数:98GHz、帯域幅:2GHz)であり、3番目の周波数帯域は99GHz~101GHz(中心周波数:100GHz、帯域幅:2GHz)であり、4番目の周波数帯域は101GHz~103GHz(中心周波数:102GHz、帯域幅:2GHz)であり、5番目の周波数帯域は103GHz~105GHz(中心周波数:104GHz、帯域幅:2GHz)である。
【0021】
帯域分割回路10は、例えば、入力信号をN個の周波数帯域の信号に分割するデマルチプレクサ(demultiplexer)である。デマルチプレクサは、一般に低損失で信号を分割できるので、帯域分割回路10として好適である。他の例として、帯域分割回路10は、入力信号をN等分配する電力分配器(図示せず)と、中心周波数の異なるN個の帯域通過フィルタ(図示せず)を含む構成を持つ。後者の場合、N個の帯域通過フィルタのうちのn番目(n∈{1,…,N})の帯域通過フィルタは、電力分配器からのN個の出力信号のうちのn番目の出力信号から所定の周波数帯域の信号を抽出する。なお、帯域分割回路10においてN個の周波数帯域に対応するN個の信号経路の間に十分なアイソレーションが確保されていることが望ましい。図1に示す例では、N=5であり、帯域分割回路10は、入力信号を、5個の周波数帯域に一対一で対応する5個の分割信号に分割する。
【0022】
信号処理回路20は、N個の分割信号のそれぞれに対して、電力増幅器40からの出力信号の歪が補償されるための信号処理を行う。図1に示す例では、信号処理回路20はN個のアナログプリディストータ20a(以下、単に「プリディストータ」と呼称する)を含む。N個のプリディストータ20aのうちのn番目のプリディストータ20aは、後述する制御回路60からの制御信号の下、n番目のプリディストータ20aに入る帯域制限された信号(つまり、帯域制限されたn番目の分割信号)に対して、歪補償のための信号処理(つまり、プリディストーション)を行う。プリディストータ20aは、以下の例に限定されることなく、ダイオードを含む構成を持つことができる。この構成として先行技術を採用でき、例えば、プリディストータ20aは図2に示す構成を持つ。図2に示すプリディストータ20aにおいて、符号21は抵抗器、符号22,23はキャパシタ、符号24はダイオード、符号25は入力端子、符号26は出力端子、符号27はバイアス端子である。この構成は、ダイオード24の非線形性を利用する。ダイオード24のバイアス条件を調整することによって、歪補償される電力増幅器40のプリディストータ20aに対応する周波数帯域における出力特性と逆の特性を実現する。100GHz帯で動作するダイオードは十分な比帯域を持つので、N個のプリディストータ20aは互いに同じであってもよい。N個のプリディストータ20aのうちのn番目のプリディストータ20aは、N個の周波数帯域のうちのn番目の周波数帯域で動作する。n番目のプリディストータ20aに入る信号は帯域制限されているので、見かけ上、独立して動作する。なお、n番目のプリディストータ20aは、n番目の周波数帯域で動作するために最適化されたプリディストータであってもよい。
【0023】
合成回路30は、信号処理回路20によって信号処理を受けたN個の分割信号(つまり、図1に示す例において、N個のプリディストータ20aからのN個の出力信号である)を合成する。合成回路30は、例えば、N個の周波数帯域の信号から一つの信号を合成するマルチプレクサ(multiplexer)である。他の例として、合成回路30は、N個の周波数帯域に対応するN個の帯域通過フィルタ(図示せず)と、N個の帯域通過フィルタからのN個の信号を一つの信号に合成する電力合成器(図示せず)を含む構成を持つ。なお、合成回路30がマルチプレクサまたは帯域通過フィルタを含まない構成を持つ場合、合成回路30は所望の帯域以外の帯域の成分を阻止する構成を持つことが望ましい。なぜなら、或るプリディストータ20aの出力信号が他のプリディストータ20aの出力端子に注入することを防ぐことが望ましいからである。要するに、合成回路30においてN個の信号経路の間に十分なアイソレーションが確保されていることが望ましい。
【0024】
電力増幅器40は、合成回路30からの出力信号の電力を増幅する。方向性結合器50は、電力増幅器40からの出力信号の一部を帰還信号として取り出す。制御回路60は、方向性結合器50によって得られた電力増幅器40からの出力信号に基づいて、信号処理回路20を制御する。
【0025】
制御回路60は、方向性結合器50によって得られた電力増幅器40からの出力信号から、n番目(n∈{1,…,N})のプリディストータ20aが動作する周波数帯域の成分を抽出し、所定の歪補償量が得られるようにn番目のプリディストータ20aの制御を行う。制御回路60は、図2に示すプリディストータ20aに含まれるダイオード24のバイアス電圧を調整することによって歪補償の制御を行う。図1に示す例の場合、5個のプリディストータ20aが制御回路60の下で独立して動作する。N個のプリディストータ20aの制御に関して、N個の信号経路に対応するN個の制御系を具備する構成、或いは、スイッチングによって1個の制御系をN個の信号経路に順次対応させる構成を採用できる。いずれの制御構成も、歪補償の制御速度がさほど早くないので、実用上問題なくプリディストータ20aを動作させることができる。
【0026】
N個の周波数帯域のうち中央の周波数帯域で動作するプリディストータ20a(図1に示す例において、例えば、上から3番目のプリディストータ20a)は、送信波(つまり、電力増幅器40からの出力信号であり、これは変調信号である)の中心周波数と同じ中心周波数を持つ周波数帯域で動作する。したがって、送信波の復調信号のEVM(Error Vector Magnitude)を評価指標として使用して、中央の周波数帯域で動作するプリディストータ20aを制御することができる。
【0027】
上述のとおり、第1実施形態の歪補償回路1は、互いに近接するN個の周波数帯域のそれぞれで、N個のプリディストータ20aを個別に制御することによって電力増幅器40からの出力信号の歪が補償されるための信号処理を実施し、信号処理を受けたN個の分割信号を合成回路30によって合成する。したがって、電力増幅器40の非線形特性に基づく相互変調歪の発生を考慮した制御が望ましい。つまり、N個の周波数帯域のそれぞれにおいて最適なプリディストーションを実施しても、電力増幅器40からの出力信号の歪補償が最適化されるとは限らない。したがって、電力増幅器40の非線形特性が顕著である場合、N個のプリディストータ20aによるプリディストーションを、電力増幅器40からの出力信号の歪が所望のレベルまで抑制されるように、いわゆる摂動法を用いて巡回実施することが望ましい。図1に示す例では、(ステップS1)各n∈{1,…,N}について、電力増幅器40からの出力信号の歪が所望のレベルまで抑制されるように、n番目のプリディストータ20aのバイアス量を決定し(n番目のプリディストータ20a以外のプリディストータ20aのそれぞれのバイアス量は、初期値または前回の処理で決定された値に固定される)、(ステップS2)すべてのn∈{1,…,N}についてステップS1の処理を終えた後、電力増幅器40からの出力信号の歪が所望のレベルまで抑制されたか否かが判定され、この判定の結果、電力増幅器40からの出力信号の歪が所望のレベルまで抑制されていない場合、各n∈{1,…,N}についてステップS1の処理を実施する。
【0028】
<第2実施形態>
図3は、第2実施形態の歪補償回路2の構成例を示している。歪補償回路2は、歪補償回路2からの出力信号の電力を増幅する電力増幅器40からの出力信号の歪を補償する回路である。歪補償回路2は、フィルタ11と、信号処理回路20と、合成回路31と、方向性結合器50と、制御回路61を含む。
【0029】
フィルタ11は、サブテラヘルツ帯またはテラヘルツ帯の入力信号から片側周波数帯域の信号を得る。図3に示す例におけるフィルタ11は、例えば、電力分配器と、入力信号の上側周波数帯域を通過させるハイパスフィルタ(図示せず)と、入力信号の全体帯域を通過させる帯域通過フィルタ(図示せず)を含む構成を持っており、当該入力信号と上側周波数帯域を出力する。
【0030】
信号処理回路20は、フィルタ11からの2個の信号、つまり、サブテラヘルツ帯またはテラヘルツ帯の入力信号と片側周波数帯域の信号(この例では、上側周波数帯域)のそれぞれに対して、電力増幅器40からの出力信号の歪が補償されるための信号処理を行う。図3に示す例における信号処理回路20は、2個のアナログプリディストータ71,72(以下、単に「プリディストータ」と呼称する)を含む。プリディストータ71は、制御回路60からの制御信号の下、上側周波数帯域の信号に対して、歪補償のための信号処理を行う。プリディストータ72は、制御回路60からの制御信号の下、入力信号に対して、歪補償のための信号処理を行う。プリディストータ71,72は、以下の例に限定されることなく、ダイオードを含む構成を持つことができる。この構成として先行技術を採用でき、例えば、プリディストータ71,72のそれぞれは、図2に示すプリディストータ20aと同じ構成を持つ。
【0031】
合成回路31は、例えば、信号処理回路20によって信号処理を受けた片側周波数帯域の信号を通過させるハイパスフィルタ(図示せず)と、信号処理回路20によって信号処理を受けた入力信号を通過させる帯域通過フィルタ(図示せず)と、当該ハイパスフィルタからの信号と当該帯域通過フィルタからの信号を一つの信号に合成する電力合成器(図示せず)を含む構成を持っており、信号処理回路20によって信号処理を受けた入力信号と信号処理回路20によって信号処理を受けた片側周波数帯域の信号を合成する。なお、合成回路31において2個の信号経路の間に十分なアイソレーションが確保されていることが望ましい。
【0032】
電力増幅器40は、合成回路31からの出力信号の電力を増幅する。方向性結合器50は、電力増幅器40からの出力信号の一部を帰還信号として取り出す。制御回路61は、方向性結合器50によって得られた電力増幅器40からの出力信号に基づいて、信号処理回路20を制御する。
【0033】
制御回路61は、方向性結合器50によって得られた電力増幅器40からの出力信号から、プリディストータ71が動作する片側周波数帯域の成分を抽出し、所定の歪補償量が得られるようにプリディストータ71の制御を行う。制御回路61は、方向性結合器50によって得られた電力増幅器40からの出力信号に基づいて、所定の歪補償量が得られるようにプリディストータ72の制御を行う。制御回路61は、プリディストータ71,72に含まれるダイオード24のバイアス電圧を調整することによって歪補償の制御を行う。2個のプリディストータ71,72によるプリディストーションを、電力増幅器40からの出力信号の歪が所望のレベルまで抑制されるように、いわゆる摂動法を用いて巡回実施することが望ましい。図3に示す例では、(ステップS1)電力増幅器40からの出力信号の歪が所望のレベルまで抑制されるように、プリディストータ72のバイアス量を決定し(プリディストータ71のバイアス量は、初期値または前回の処理で決定された値に固定される)、(ステップS2)電力増幅器40からの出力信号の歪が所望のレベルまで抑制されるように、プリディストータ71のバイアス量を決定し(プリディストータ72のバイアス量は、初期値または前回の処理で決定された値に固定される)、(ステップS3)ステップS1とS2の処理を終えた後、電力増幅器40からの出力信号の歪が所望のレベルまで抑制されたか否かが判定され、この判定の結果、電力増幅器40からの出力信号の歪が所望のレベルまで抑制されていない場合、ステップS1とS2の処理を実施する。なお、ステップS2の処理では上側周波数帯域の信号に対してプリディストーションが実施されるが、電力増幅器40の発生する歪の周波数-スペクトラムレベルにおける対称性から、下側の周波数帯域の信号に対しても歪補償効果が望める。
【0034】
歪補償回路2は、見かけ上、先行技術のプリディスータの構成に、電力増幅器40からの出力信号の歪が補償されるための信号処理を片側周波数帯域において実施する回路を追加した構成を持っている。したがって、第2実施形態の歪補償回路2は、既存のプリディストータを利用して実現できるので、実施コストを抑制できる。さらに、ダイオード24が動作する周波数帯域が送信波の周波数帯域よりも十分に広いので、2個の信号経路のプリディストータで歪補償回路2を構成することができる。
【0035】
<補遺1>
例示的な実施形態を参照して本発明を説明したが、当業者は本発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更を行い、その要素を均等物で置き換えることができることを理解するであろう。さらに、本発明の本質的な範囲から逸脱することなく、特定のシステム、デバイス、またはそのコンポーネントを本発明の教示に適合させるために、多くの修正を加えることができる。したがって、本発明は、本発明を実施するために開示された特定の実施形態に限定されるものではなく、添付の請求の範囲に含まれるすべての実施形態を含むものとする。
【0036】
さらに、「第1」、「第2」などの用語(序数詞)の使用は、それがもしあれば、順序や重要性を示すものではなく、「第1」、「第2」などの用語(序数詞)は要素を区別するために使用される。本明細書で使用される用語は、実施形態を説明するためのものであり、本発明を限定することを意図するものでは決してない。用語「含む」とその語形変化は、本明細書および/または添付の請求の範囲で使用される場合、言及された特徴、ステップ、操作、要素、および/またはコンポーネントの存在を明らかにするが、一つ以上の他の特徴、ステップ、操作、要素、コンポーネント、および/またはそれらのグループの存在または追加を排除しない。「および/または」という用語は、それがもしあれば、関連するリストされた要素の一つ以上のありとあらゆる組み合わせを含む。請求の範囲および明細書において、特に明記しない限り、「接続」、「結合」、「接合」、「連結」、またはそれらの同義語、およびそのすべての語形は、例えば互いに「接続」または「結合」されているか互いに「連結」している2個の間の一つ以上の中間要素の存在を必ずしも否定しない。請求の範囲および明細書において、「任意」という用語は、それがもしあれば、特に明記しない限り、全称記号∀と同じ意味を表す用語として理解されるべきである。
【0037】
特に断りが無い限り、本明細書で使用されるすべての用語(技術用語および科学用語を含む)は、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。さらに、一般的に使用される辞書で定義されている用語などの用語は、関連技術および本開示の文脈におけるそれらの意味と一致する意味を有すると解釈されるべきであり、明示的に定義されていない限り、理想的にまたは過度に形式的に解釈されるものではない。
【0038】
本発明の説明において、多くの技法およびステップが開示されていることが理解されるであろう。これらのそれぞれには個別の利点があり、それぞれ他の開示された技法の一つ以上、または場合によってはすべてと組み合わせて使用することもできる。したがって、煩雑になることを避けるため、本明細書では、個々の技法またはステップのあらゆる可能な組み合わせを説明することを控える。それでも、明細書および請求項は、そのような組み合わせが完全に本発明および請求項の範囲内であることを理解して読まれるべきである。
【0039】
以下の請求項において手段またはステップと結合したすべての機能的要素の対応する構造、材料、行為、および同等物は、それらがあるとすれば、他の要素と組み合わせて機能を実行するための構造、材料、または行為を含むことを意図する。
【0040】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更と変形が許される。選択され且つ説明された実施形態は、本発明の原理およびその実際的応用を解説するためのものである。本発明は様々な変更あるいは変形を伴って様々な実施形態として使用され、様々な変更あるいは変形は期待される用途に応じて決定される。そのような変更および変形のすべては、添付の請求の範囲によって規定される本発明の範囲に含まれることが意図されており、公平、適法および公正に与えられる広さに従って解釈される場合、同じ保護が与えられることが意図されている。
【符号の説明】
【0041】
1 歪補償回路
2 歪補償回路
10 帯域分割回路
11 フィルタ
20 信号処理回路
20a アナログプリディストータ
21 抵抗器
22 キャパシタ
23 キャパシタ
24 ダイオード
25 入力端子
26 出力端子
27 バイアス端子
30 合成回路
31 合成回路
40 電力増幅器
50 方向性結合器
60 制御回路
61 制御回路
71 アナログプリディストータ
72 アナログプリディストータ
図1
図2
図3