(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129447
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】保護システム、直流電力システム及び保護方法
(51)【国際特許分類】
H02J 1/00 20060101AFI20240919BHJP
H02H 3/087 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
H02J1/00 301D
H02H3/087
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038666
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 和樹
(72)【発明者】
【氏名】佐孝 恭一
【テーマコード(参考)】
5G004
5G165
【Fターム(参考)】
5G004AA04
5G004AB01
5G004BA03
5G165BB04
5G165CA01
5G165CA05
5G165DA06
5G165DA07
5G165EA02
5G165EA06
5G165EA10
5G165JA07
5G165LA04
(57)【要約】
【課題】直流電力系統において、系統構成が変化する場合であっても、系統故障に対する半導体遮断器の保護を好適に実行する。
【解決手段】直流電力系統の系統故障時に、前記直流電力系統から系統に接続される機器へ流れる故障電流を遮断する半導体遮断器を保護する保護システムにおいて、前記半導体遮断器は、半導体スイッチ素子と、前記半導体スイッチ素子に発生する過電圧を吸収するクランプ回路と、を有し、前記直流電力系統の送電網との接続を切り替える開閉器の開閉状態を監視するモニタリング装置と、前記モニタリング装置の監視結果に基づいて、前記クランプ回路の回路定数を設定する回路制御部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電力系統の系統故障時に、前記直流電力系統から系統に接続される機器へ流れる故障電流を遮断する半導体遮断器を保護する保護システムにおいて、
前記半導体遮断器は、半導体スイッチ素子と、前記半導体スイッチ素子に発生する過電圧を吸収するクランプ回路と、を有し、
前記直流電力系統の送電網との接続を切り替える開閉器の開閉状態を監視するモニタリング装置と、
前記モニタリング装置の監視結果に基づいて、前記クランプ回路の回路定数を設定する回路制御部と、を備える保護システム。
【請求項2】
前記開閉器の開閉状態に基づいて前記直流電力系統で発生する前記故障電流の電流特性を算出する計算モデルと、前記直流電力系統で発生する前記故障電流の電流特性と前記回路定数とが対応付けられる回路定数設定情報と、を記憶する記憶部を、さらに備え、
前記回路制御部は、監視結果に基づく前記開閉器の開閉状態から、前記計算モデルを用いて前記故障電流の電流特性を推定し、前記回路定数設定情報を参照して、推定した前記故障電流の電流特性に対応付けられた前記回路定数を取得し、取得した前記回路定数を前記クランプ回路に設定する請求項1に記載の保護システム。
【請求項3】
前記回路定数設定情報は、前記故障電流の電流変化率が高くなるにつれて、または、前記故障電流により発生する磁気エネルギーが小さくなるにつれて、前記半導体スイッチ素子のゲート抵抗値及びコレクタ側抵抗値の少なくとも一方が小さくなる回路定数となるように、前記故障電流の電流特性と前記回路定数とが対応付けられている請求項2に記載の保護システム。
【請求項4】
前記モニタリング装置は、前記直流電力系統で発生する前記故障電流の電流特性をさらに監視しており、
前記回路制御部は、前記開閉器の開閉状態と前記故障電流の電流特性とに基づいて、前記回路定数を設定する請求項1に記載の保護システム。
【請求項5】
前記半導体遮断器は、前記送電網に接続される負荷の上流側に設けられる請求項1に記載の保護システム。
【請求項6】
前記半導体遮断器は、前記送電網に接続される分電盤の上流側に設けられる請求項1に記載の保護システム。
【請求項7】
送電網と、前記送電網との接続を切り替える開閉器と、を有する直流電力系統と、
前記直流電力系統に設けられる、請求項1から6のいずれか1項に記載の保護システムと、を備える直流電力システム。
【請求項8】
直流電力系統の系統故障時に、前記直流電力系統から系統に接続される機器へ流れる電流を遮断する半導体遮断器を保護する保護方法において、
前記半導体遮断器は、半導体スイッチ素子と、前記半導体スイッチ素子に発生する過電圧を吸収するクランプ回路と、を有し、
前記直流電力系統の送電網との接続を切り替える開閉器の開閉状態を監視するステップと、
監視結果に基づいて、前記クランプ回路の回路定数を設定するステップと、を実行する保護方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、保護システム、直流電力システム及び保護方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体スイッチング素子を過電圧から保護する保護回路を備えた半導体装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。この半導体装置では、半導体スイッチング素子がターンオフする際のサージ電圧が小さくなるように、ゲート抵抗を調整して、半導体スイッチング素子の出力端子に流れる電流を減少させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、半導体スイッチング素子を含む半導体遮断器は、直流電力系統に設けられる場合がある。直流電力系統では、直流電力系統への接続を切り替える開閉器の開閉状態によって系統構成が変化する。しかしながら、直流電力系統では、系統構成によって、系統故障の発生時における過電流の性質が異なるため、半導体遮断器を適切に保護することが困難となる可能性がある。
【0005】
そこで、本開示は、直流電力系統において、系統構成が変化する場合であっても、系統故障に対する半導体遮断器の保護を好適に実行することができる保護システム、直流電力システム及び保護方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の保護システムは、直流電力系統の系統故障時に、前記直流電力系統から系統に接続される機器へ流れる故障電流を遮断する半導体遮断器を保護する保護システムにおいて、前記半導体遮断器は、半導体スイッチ素子と、前記半導体スイッチ素子に発生する過電圧を吸収するクランプ回路と、を有し、前記直流電力系統の送電網との接続を切り替える開閉器の開閉状態を監視するモニタリング装置と、前記モニタリング装置の監視結果に基づいて、前記クランプ回路の回路定数を設定する回路制御部と、を備える。
【0007】
本開示の直流電力システムは、送電網と、前記送電網との接続を切り替える開閉器と、を有する直流電力系統と、前記直流電力系統に設けられる、上記の保護システムと、を備える。
【0008】
本開示の保護方法は、直流電力系統の系統故障時に、前記直流電力系統から系統に接続される機器へ流れる電流を遮断する半導体遮断器を保護する保護方法において、前記半導体遮断器は、半導体スイッチ素子と、前記半導体スイッチ素子に発生する過電圧を吸収するクランプ回路と、を有し、前記直流電力系統の送電網との接続を切り替える開閉器の開閉状態を監視するステップと、監視結果に基づいて、前記クランプ回路の回路定数を設定するステップと、を実行する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、直流電力系統の送電網において、系統構成が変化する場合であっても、系統故障に対する半導体遮断器の保護を好適に実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る直流電力システムの概略構成図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る保護システムの概略構成図である。
【
図3】
図3は、開閉器の開閉状態とゲート抵抗値及びドレイン側インピーダンス値との関係を示す説明図である。
【
図4】
図4は、本実施形態に係る保護方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本開示に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの開示が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能であり、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせることも可能である。
【0012】
[本実施形態]
本実施形態に係る保護システム20は、直流電力システム10に設けられ、直流電力系統の系統故障時に、直流電力系統12から系統に接続される機器へ流れる電流を遮断する半導体遮断器16を保護するシステムである。
【0013】
図1は、本実施形態に係る直流電力システムの概略構成図である。
図2は、本実施形態に係る保護システムの概略構成図である。
図3は、開閉器の開閉状態とゲート抵抗値及びドレイン側インピーダンス値との関係を示す説明図である。
図4は、本実施形態に係る保護方法のフローチャートである。先ず、
図1を参照して、直流電力システム10について説明する。
【0014】
(直流電力システム)
直流電力システム10は、直流方式により電力を供給するシステムとなっており、例えば、移動体に設けられるDCグリッド、陸上に設けられるDCマイクログリッド等の設備である。なお、マイクログリッドは、外部の電力系統から切り離しても独立して運用可能な電力系統である。
図1に示すように、直流電力システム10は、直流電力系統12と、保護システム20と、を備えている。
【0015】
直流電力系統12は、系統構成を切り替え可能となっており、直流電力系統12には、電源13及び負荷17が接続されている。直流電力系統12は、送電網14と、開閉器15と、半導体遮断器16と、を有している。
【0016】
電源13は、例えば、交流発電機とAC/DCコンバータとを含む直流電源、または畜電池を含む電池等である。以下の説明において、電源13は、系統故障時において短絡電流を発生させる短絡電流源となる。
【0017】
送電網14は、母線22と、インダクタ23と、を含んでいる。母線22は、電源13から供給される電力を送電先へ送電する電路となっている。母線22の電圧は、一定となるように電圧が制御されている。インダクタ23は、電源13側から送電先となる負荷17側へ流れる直流電流が、電源13側へ逆流することを抑制している。インダクタ23は、母線22に複数設けられている。
【0018】
半導体遮断器16は、半導体スイッチ素子25と、クランプ回路26と、を含む一体のユニットとなっている。半導体遮断器16は、例えば、SSCB(Solid-State Circuit Breaker)である。半導体スイッチ素子25は、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等であり、ゲート電圧を調整して、コレクタからエミッタへ流れる電流を制御する。半導体スイッチ素子25は、ターンオフ時においてサージ電圧が発生するが、クランプ回路26によってサージ電圧を低下させている。
【0019】
クランプ回路26は、故障電流のエネルギーを消費して吸収して、サージ電圧を低下させる回路である。クランプ回路26は、2つの過電流保護器31a,31bと、コレクタ側可変抵抗(コレクタ側インピーダンス)32と、ゲート可変抵抗33と、限流可変抵抗34と、2つのゲート固定抵抗35a,35bと、2つの定電圧ダイオード(ツェナーダイオード)36a,36bと、コンデンサ37と、を有している。
【0020】
2つの過電流保護器31a,31bは、例えば、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)であり、半導体スイッチ素子25のコレクタ側に接続されている。2つの過電流保護器31a,31bは、母線22側からインダクタ23を介して半導体遮断器16に供給される過電流(短絡電流)を抑制する過電流保護器31aと、負荷17側へ供給される過電流を抑制する過電流保護器31bと、を含む。2つの過電流保護器31a,31bは、ドレイン端子と、ソース端子と、ゲート端子とを含む。2つの過電流保護器31a,31bは、ドレイン側からソース側へ向かって供給される直流電流が過電流となると、ゲート電圧を低下させてターンオフすることで、電流を抑制する。このため、2つの過電流保護器31a,31bは、半導体スイッチ素子25のコレクタ側に供給されるコレクト電流を低下させている。
【0021】
コレクタ側可変抵抗32は、半導体スイッチ素子25のコレクタ側に接続され、過電流保護器31a,31bを介して供給されるコレクタ電流の電圧を低下させる抵抗となっている。コレクタ側可変抵抗32は、抵抗値を可変でき、後述する保護システム20の回路制御部42によって、抵抗値が切り替えられる。
【0022】
ゲート可変抵抗33は、半導体スイッチ素子25のゲート側に接続され、ゲート電圧を低下させる抵抗となっている。ゲート可変抵抗33は、抵抗値を可変でき、後述する保護システム20の回路制御部42によって、抵抗値が切り替えられる。
【0023】
限流可変抵抗34は、半導体スイッチ素子25のゲートに突入する電流を制限する抵抗となっている。限流可変抵抗34は、過電流保護器31aからゲート可変抵抗33までの間の電路に設けられ、ゲート可変抵抗33と直列に設けられる。限流可変抵抗34は、抵抗値を可変でき、後述する保護システム20の回路制御部42によって、抵抗値が切り替えられる。
【0024】
ここで、コレクタ側可変抵抗32、ゲート可変抵抗33及び限流可変抵抗34は、
図2に示すように、例えば、タップ切り替えにより抵抗値を可変する機構であり、無電圧状態時において、抵抗値を切り替え可能となっている。
【0025】
2つのゲート固定抵抗35a,35bは、半導体スイッチ素子25のエミッタとゲートとの間に並列に設けられている。2つのゲート固定抵抗35a,35bは、半導体スイッチ素子25のエミッタ側からゲート側に向かう電流を抑制し、ゲート電圧を低下させている。
【0026】
2つの定電圧ダイオード36a,36bは、半導体スイッチ素子25のゲートとコレクタとの間に設けられる定電圧ダイオード36aと、半導体スイッチ素子25のエミッタとゲートとの間に設けられる定電圧ダイオード36aと、を含む。定電圧ダイオード36aは、過電流保護器31aから半導体スイッチ素子25のゲート側へ向かう電流に対して、逆方向電圧となるように配置される。定電圧ダイオード36bは、半導体スイッチ素子25のエミッタからゲート側へ向かう電流に対して、順方向電圧となるように配置される。また、定電圧ダイオード36bのゲート側の端部には、ゲート固定抵抗35aが直列に接続されている。
【0027】
コンデンサ37は、過電流保護器31a,31bのターンオン時に充電を行う一方で、過電流保護器31a,31bのターンオフ時に放電を行う。コンデンサ37は、過電流保護器31aの出力側と半導体遮断器16のアース側との間に接続される。コンデンサ37は、過電流保護器31a,31bのターンオフ時に放電することで、半導体遮断器16内に電力を供給する。つまり、コンデンサ37は、過電流保護器31a,31bのターンオフ後において、半導体スイッチ素子25のターンオフを遅れさせている。
【0028】
このような半導体遮断器16において、供給される直流電流が過電圧となると、後述する回路制御部42が、過電流保護器31a,31bのゲート電圧を低くすることにより、過電流保護器31a,31bをターンオフさせる。また、半導体遮断器16は、供給される直流電流が過電圧となると、定電圧ダイオード36aから、限流可変抵抗34及びゲート可変抵抗33を通って、ゲート電圧が半導体スイッチ素子25に印加される。なお、半導体スイッチ素子25には、過電流保護器31aのターンオフ後においても、コンデンサ37から、定電圧ダイオード36a及び限流可変抵抗34を通ってゲート電圧が半導体スイッチ素子25のゲート側に印加される。
【0029】
半導体スイッチ素子25は、ゲート電圧が印加されてターンオンされると、コレクタ側からエミッタ側へ向けて電流を流通させる。エミッタ側へ流れる電流は、その一部が定電圧ダイオード36b、2つのゲート固定抵抗35a,35b及びゲート可変抵抗33を通って、半導体スイッチ素子25のゲート側に流れる。
【0030】
半導体スイッチ素子25は、ゲート可変抵抗33及び限流可変抵抗34によりゲート電流が小さくなるため、サージ電圧を低減させることができる。また、半導体スイッチ素子25は、コレクタ側可変抵抗32により、コレクタとエミッタ間の電圧を耐電圧以下にすることができる。
【0031】
半導体スイッチ素子25は、ゲート電圧が印加されてターンオンされた後、各抵抗32,33,34,35a,35bにおいて故障電流によるエネルギーが消費されると、ゲート電圧が低下することで、ターンオフされる。このとき、半導体スイッチ素子25は、各抵抗32,33,34,35a,35bにおいて故障電流によるエネルギーが消費されていることから、半導体スイッチ素子25のコレクタとエミッタ間の電圧が耐電圧以下となり、この状態でターンオフされる。
【0032】
半導体遮断器16を介して母線22側に接続される負荷17は、例えば、電気機器である。なお、半導体遮断器16と負荷17との間に、分電盤を設けてもよい。つまり、半導体遮断器16は、負荷17の上流側に設けられてもよいし、分電盤の上流側に設けられてもよい。
【0033】
(保護システム)
次に、保護システム20について説明する。保護システム20は、系統故障の発生時において半導体遮断器16を保護するシステムである。保護システム20は、モニタリング装置41と、回路制御部42と、記憶部43と、を有している。
【0034】
モニタリング装置41は、直流電力系統12の送電網14に設けられる複数の開閉器15の開閉状態を監視する装置である。モニタリング装置41は、複数の開閉器15にそれぞれ設けられる複数の開閉検出センサ45を有している。複数の開閉検出センサ45は、回路制御部42に接続されており、開閉器15の開閉状態に応じたスイッチ信号S1~S3を、回路制御部42に出力している。
【0035】
回路制御部42は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等の集積回路を含んでいる。回路制御部42は、モニタリング装置41から取得した監視結果であるスイッチ信号S1~S3に基づいて、半導体遮断器16を制御している。具体的に、回路制御部42は、半導体遮断器16のクランプ回路26の回路定数を設定している。回路定数としては、コレクタ側可変抵抗32、ゲート可変抵抗33及び限流可変抵抗34の抵抗値であり、回路制御部42は、設定された回路定数に基づく抵抗値となるように、タップ切り替え機構によりコレクタ側可変抵抗32、ゲート可変抵抗33及び限流可変抵抗34の抵抗値を切り替える。なお、コレクタ側可変抵抗32、ゲート可変抵抗33及び限流可変抵抗34は、クランプ回路26が動作していない、すなわち系統故障が発生していない無電圧状態で、抵抗値が切り替えられている。
【0036】
記憶部43は、半導体記憶デバイス及び磁気記憶デバイス等の任意の記憶デバイスである。この記憶部43には、故障電流の電流特性を計算するための計算モデルMと、故障電流の電流特性と回路定数とを対応付けたテーブル(回路定数設定情報)Tと、が記憶されている。
【0037】
ここで、
図3を参照して、計算モデルM及びテーブルTについて説明する。計算モデルMは、スイッチ信号S
1~S
3に基づいて直流電力系統12で発生する故障電流の電流特性を計算するモデルであり、電流特性として、故障電流の電流変化率または故障電流により発生する磁気エネルギーの少なくとも一方を算出している。なお、計算モデルMは、一般的な電気の過渡現象をもとに演算する計算モデルとなっている。
【0038】
具体的に、回路制御部42は、スイッチ信号S1~S3に基づいて、計算モデルMから、半導体遮断器16から電源13側を見たときの直流電力系統12のインピーダンスLを算出している。そして、回路制御部42は、算出したインピーダンスLから、故障電流の電流変化率または故障電流により発生する磁気エネルギーを算出している。
【0039】
テーブルTは、故障電流の電流特性と回路定数とを対応付けたものである。
図3に示すように、テーブルTでは、故障電流の電流変化率及び故障電流により発生する磁気エネルギーと、ゲート抵抗値及びコレクタ側抵抗値とを対応付けている。具体的に、テーブルTでは、故障電流により発生する磁気エネルギー(E=L
i
2/2)が小さくなるにつれて、ゲート抵抗値及びコレクタ側抵抗値が小さくなるように対応付けられている。また、テーブルTでは、故障電流の電流変化率(di/dt=v/L)が高くなるにつれて、ゲート抵抗値及びコレクタ側抵抗値が小さくなるように対応付けられている。
【0040】
なお、本実施形態では、計算モデルM及びテーブルTを用いて、回路定数を設定したが、開閉器15の開閉状態に基づいて回路定数を設定可能であれば、何れの構成であってもよい。例えば、開閉器15の開閉状態と回路定数とを直接的に対応付けたテーブルを用いてもよい。
【0041】
(保護方法)
次に、
図4を参照して、保護システム20を用いた保護方法について説明する。
図4に示す保護方法は、直流電力系統12において故障電流が発生していない状態で実行されるものであり、故障電流の発生時において、保護方法により設定した回路定数に基づく半導体遮断器16の保護が実行される。
【0042】
先ず、直流電力システム10は、システム運用に関する指令を取得する(ステップS1)。すると、直流電力システム10は、取得したシステム運用に基づいて、直流電力システム10の再構成が必要か否かを判定する(ステップS2)。直流電力システム10は、直流電力システム10の再構成が必要であると判定すると(ステップS2:Yes)、直流電力系統12に設けられる開閉器15の開閉制御を行って、システム運用に応じた系統構成とする(ステップS3)。この後、保護システム20は、開閉器15の開閉状態に応じたスイッチ信号S1~S3を開閉情報として取得する(ステップS4)。保護システム20の回路制御部42は、取得したスイッチ信号S1~S3に基づいて、計算モデルMから、短絡時において推定されるインピーダンスLを算出する(ステップS5)。この後、回路制御部42は、算出したインピーダンスLから、故障電流の電流特性を算出し、算出した電流特性に基づいて、テーブルTから、電流特性に対応する回路定数としてのゲート抵抗値及びコレクタ側抵抗値を決定し取得する(ステップS6)。回路制御部42は、取得したゲート抵抗値及びコレクタ側抵抗値となるように、クランプ回路26へ向けて回路構成の変更の指令を出力する(ステップS7)。クランプ回路26は、取得した回路定数に基づいて、ゲート抵抗値及びコレクタ側抵抗値を変更する(ステップS8)。そして、直流電力システム10は、再構成されたシステムによる負荷変化等の運用を実行する(ステップS9)。一方で、直流電力システム10は、ステップS2において、直流電力システム10の再構成が不要であると判定すると(ステップS2:No)、ステップS9に進み、負荷変化等の運用を実行する。ステップS9の実行後、保護システム20は、保護方法に関する一連の処理を終了する。
【0043】
なお、本実施形態において、モニタリング装置41は、複数の開閉器15の開閉状態を監視していたが、この構成に特に限定されない。モニタリング装置41は、複数の開閉器15の開閉状態の他、直流電力系統12で発生する故障電流の電流特性をさらに監視してもよい。故障電流の電流特性としては、例えば、電流値、電圧値、及び周波数等である。この場合、回路制御部42は、計算モデルMを用いて算出したインピーダンスLを、故障電流の電流特性を用いて補正してもよい。これにより、回路制御部42は、インピーダンスLの算出精度を向上させて、適切な回路定数を設定することが可能となる。
【0044】
以上のように、本実施形態に記載の保護システム20、直流電力システム10及び保護方法は、例えば、以下のように把握される。
【0045】
第1の態様に係る保護システム20は、直流電力系統12の系統故障時に、前記直流電力系統12から送電先へ流れる故障電流を遮断する半導体遮断器16を保護する保護システム20において、前記半導体遮断器16は、半導体スイッチ素子25と、前記半導体スイッチ素子25に発生する過電圧を吸収するクランプ回路26と、を有し、前記直流電力系統12の送電網14との接続を切り替える開閉器15の開閉状態を監視するモニタリング装置41と、前記モニタリング装置41の監視結果に基づいて、前記クランプ回路26の回路定数を設定する回路制御部42と、を備える。
【0046】
この構成によれば、開閉器15の開閉状態に応じた直流電力系統12の系統構成に対応するように、クランプ回路26の回路定数を設定することができる。このため、直流電力系統12の系統構成が変化する場合であっても、系統故障に対する半導体遮断器16の保護を好適に実行することができる。
【0047】
第2の態様として、第1の態様に係る保護システム20において、前記開閉器15の開閉状態に基づいて前記直流電力系統12で発生する前記故障電流の電流特性を算出する計算モデルMと、前記直流電力系統12で発生する前記故障電流の電流特性と前記回路定数とが対応付けられる回路定数設定情報(テーブルT)と、を記憶する記憶部43を、さらに備え、前記回路制御部42は、監視結果に基づく前記開閉器15の開閉状態から、前記計算モデルMを用いて前記故障電流の電流特性を推定し、前記回路定数設定情報を参照して、推定した前記故障電流の電流特性に対応付けられた前記回路定数を取得し、取得した前記回路定数を前記クランプ回路26に設定する。
【0048】
この構成によれば、直流電力系統12の系統構成に応じた故障電流の電流特性を推定することで、クランプ回路26の回路定数を適切に設定することができるため、半導体遮断器16の保護をより好適に実行することができる。
【0049】
第3の態様として、第2の態様に係る保護システム20において、前記回路定数設定情報は、前記故障電流の電流変化率が高くなるにつれて、または、前記故障電流により発生する磁気エネルギーが小さくなるにつれて、前記半導体スイッチ素子25のゲート抵抗値及びコレクタ側抵抗値の少なくとも一方が小さくなる回路定数となるように、前記故障電流の電流特性と前記回路定数とが対応付けられている。
【0050】
この構成によれば、故障電流の電流特性に応じた適切な回路定数を設定することができる。
【0051】
第4の態様として、第1から第3のいずれか1つの態様に係る保護システム20において、前記モニタリング装置41は、前記直流電力系統12で発生する前記故障電流の電流特性をさらに監視しており、前記回路制御部42は、前記開閉器の開閉状態と前記故障電流の電流特性とに基づいて、前記回路定数を設定する。
【0052】
この構成によれば、直流電力系統12の系統構成に応じた故障電流の電流特性を、より精度よく推定することができるため、クランプ回路26の回路定数を適切に設定することができ、半導体遮断器16の保護をより好適に実行することができる。
【0053】
第5の態様として、第1から第4のいずれか1つの態様に係る保護システム20において、前記半導体遮断器16は、前記送電網14に接続される負荷17の上流側に設けられる。
【0054】
この構成によれば、半導体遮断器16を好適に保護しつつ、故障電流による負荷17への影響を抑制することができる。
【0055】
第6の態様として、第1から第4のいずれか1つの態様に係る保護システム20において、前記半導体遮断器は、前記送電網に接続される分電盤の上流側に設けられる。
【0056】
この構成によれば、半導体遮断器16を好適に保護しつつ、故障電流による分電盤への影響を抑制することができる。
【0057】
第7の態様に係る直流電力システム10は、送電網14と、前記送電網14との接続を切り替える開閉器15と、を有する直流電力系統12と、前記直流電力系統12に設けられる、上記の保護システム20と、を備える。
【0058】
この構成によれば、直流電力系統12の系統構成が変化する場合であっても、系統故障に対する半導体遮断器16の保護を好適に実行しつつ、故障電流による負荷17等への影響を抑制することができる。
【0059】
第8の態様に係る保護方法は、直流電力系統12の系統故障時に、前記直流電力系統12から送電先へ流れる電流を遮断する半導体遮断器16を保護する保護方法において、前記半導体遮断器16は、半導体スイッチ素子25と、前記半導体スイッチ素子25に発生する過電圧を吸収するクランプ回路26と、を有し、前記直流電力系統12の送電網14との接続を切り替える開閉器15の開閉状態を監視するステップS4と、監視結果に基づいて、前記クランプ回路26の回路定数を設定するステップS8と、を実行する。
【0060】
この構成によれば、開閉器15の開閉状態に応じた直流電力系統12の系統構成に対応するように、クランプ回路26の回路定数を設定することができる。このため、直流電力系統12の系統構成が変化する場合であっても、系統故障に対する半導体遮断器16の保護を好適に実行することができる。
【符号の説明】
【0061】
10 直流電力システム
12 直流電力系統
13 電源
14 送電網
15 開閉器
16 半導体遮断器
17 負荷
20 保護システム
22 母線
23 インダクタ
25 半導体スイッチ素子
26 クランプ回路
31a,31b 過電流保護器
32 コレクタ側可変抵抗
33 ゲート可変抵抗
34 限流可変抵抗
35a,35b ゲート固定抵抗
36a,36b 定電圧ダイオード
37 コンデンサ
41 モニタリング装置
42 回路制御部
43 記憶部
45 開閉検出センサ
T テーブル
M 計算モデル