(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129477
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】化学強化ガラス板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C03C 21/00 20060101AFI20240919BHJP
C03C 3/083 20060101ALI20240919BHJP
C03C 3/091 20060101ALI20240919BHJP
C03C 3/097 20060101ALI20240919BHJP
C03C 3/085 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
C03C21/00 101
C03C3/083
C03C3/091
C03C3/097
C03C3/085
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038707
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168550
【弁理士】
【氏名又は名称】友廣 真一
(72)【発明者】
【氏名】木下 清貴
(72)【発明者】
【氏名】西川 佳範
【テーマコード(参考)】
4G059
4G062
【Fターム(参考)】
4G059AA01
4G059AC16
4G059HB08
4G059HB13
4G059HB14
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4G059HB23
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4G062KK10
4G062MM12
4G062NN33
(57)【要約】
【課題】高い耐衝撃性と可撓性とを有する化学強化ガラス板を提供する。
【解決手段】化学強化ガラス板1は、薄肉部2と、厚肉部3と、薄肉部2および厚肉部3の各々表面部に形成された圧縮応力層6a,6bとを備え、薄肉部2において折り曲げ可能である。化学強化ガラス板1は、薄肉部2の最大圧縮応力深さをDOC1、厚肉部3の最大圧縮応力深さをDOC2、厚肉部3の厚みをt2とした場合に、DOC2>DOC1なる関係を有し、かつ、DOC2/t2≧0.05なる関係を有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄肉部と、前記薄肉部よりも厚い厚肉部と、前記薄肉部および前記厚肉部の各々表面部に形成された圧縮応力層とを備え、前記薄肉部において折り曲げ可能な化学強化ガラス板であって、
前記薄肉部の最大圧縮応力深さをDOC1、前記厚肉部の最大圧縮応力深さをDOC2、前記厚肉部の厚みをt2とした場合に、
DOC2>DOC1なる関係を有し、かつ、
DOC2/t2≧0.05なる関係を有することを特徴とする化学強化ガラス板。
【請求項2】
前記薄肉部の最大圧縮応力深さをDOC1、前記薄肉部の厚みをt1とした場合に、
DOC1/t1≦0.20なる関係を有する請求項1に記載の化学強化ガラス板。
【請求項3】
前記薄肉部の厚みt1が、0.01mm以上0.2mm以下であり、
前記厚肉部の厚みt2が、0.2mm超2.0mm以下である請求項1又は2に記載の化学強化ガラス板。
【請求項4】
前記薄肉部の最大圧縮応力深さをDOC1、前記厚肉部の最大圧縮応力深さをDOC2とした場合に、
DOC2/DOC1≧5なる関係を有する請求項1又は2に記載の化学強化ガラス板。
【請求項5】
前記薄肉部の最大圧縮応力深さDOC1が、2~20μmであり、
前記厚肉部の最大圧縮応力深さDOC2が、10~200μmである請求項1又は2に記載の化学強化ガラス板。
【請求項6】
前記薄肉部の最大圧縮応力値CS1が、100~1500MPaであり、
前記厚肉部の最大圧縮応力値CS2が、200~2000MPaである請求項1又は2に記載の化学強化ガラス板。
【請求項7】
前記薄肉部の最大圧縮応力値をCS1、前記厚肉部の最大圧縮応力値をCS2とした場合に、
CS2/CS1≦20なる関係を有する請求項1又は2に記載の化学強化ガラス板。
【請求項8】
前記厚肉部の圧縮応力層において、深さ方向の応力プロファイルが屈曲点を有する、請求項1又は2に記載の化学強化ガラス板。
【請求項9】
ガラス組成としてLi2OおよびNa2Oを含む請求項1又は2に記載の化学強化ガラス板。
【請求項10】
ガラス組成として、モル%で、SiO2 50~80%、Al2O3 8~25%、B2O3 0~10%、Li2O 3~15%、Na2O 3~21%、K2O 0~10%、MgO 0~10%、P2O5 0~15%を含む請求項9に記載の化学強化ガラス板。
【請求項11】
薄肉部と、前記薄肉部よりも厚い厚肉部と、前記薄肉部および前記厚肉部の各々表面部に形成された圧縮応力層とを備え、前記薄肉部において折り曲げ可能な化学強化ガラス板の製造方法であって、
前記厚肉部と前記薄肉部とを有する強化用ガラスを準備する準備工程と、
前記強化用ガラスに二段階のイオン交換処理を施すイオン交換処理工程とを備え、
前記イオン交換処理工程において、前記イオン交換処理後の化学強化ガラス板が、前記薄肉部の最大圧縮応力深さをDOC1、前記厚肉部の最大圧縮応力深さをDOC2、前記厚肉部の厚みをt2とした場合に、
DOC2>DOC1なる関係、かつ、
DOC2/t2≧0.05なる関係を満たすよう前記二段階のイオン交換処理を施すことを特徴とする化学強化ガラス板の製造方法。
【請求項12】
前記強化用ガラス板は、ガラス組成としてLi2OおよびNa2Oを含み、
前記イオン交換処理工程は、NaNO3を10%以上含む溶融塩を用いてイオン交換を行う第一イオン交換処理と、前記第一イオン交換処理後に、KNO3を30%以上含む溶融塩を用いてイオン交換を行う第二イオン交換処理とを含む請求項11に記載の化学強化ガラス板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学強化ガラス板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイの表示面を折りたたみ可能とする、いわゆるフォルダブルタイプのスマートフォンやダブレットPC等のデバイスが開発されている。このようなフォルダブルデバイスのカバーガラスは折り曲げ可能である必要がある。したがって、カバーガラスとして化学強化ガラス板を用いる場合、化学強化ガラス板も折り曲げ可能である必要がある。
【0003】
化学強化ガラス板を折り曲げ可能とするためには、化学強化ガラス板全体を薄肉とし、可撓性(柔軟性)を付与することが考えられる。しかしながら、全体が薄肉とされた化学強化ガラス板では、折り曲げることは可能であるが、高い耐衝撃性を付与することが難しいという問題がある。
【0004】
一方、化学強化ガラス板全体を厚肉とした場合、化学強化ガラス板に高い耐衝撃性を付与しやすくなるが、化学強化ガラス板に可撓性を付与しにくい。その結果、全体が厚肉とされた化学強化ガラス板では、折り曲げることが難しいという問題がある。
【0005】
そこで、化学強化ガラス板として、薄肉部と、薄肉部よりも厚い厚肉部とを有し、薄肉部において折り曲げ可能とされたものが開発されるに至っている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
化学強化ガラス板が、薄肉部と厚肉部とを有し、薄肉部で折り曲げ可能な場合でも、高い耐衝撃性と可撓性とを両立する上では依然として改良の余地がある。特に、この種の化学強化ガラス板では、厚肉部および薄肉部のうち、一方の耐衝撃性を高めると、他方の耐衝撃性が低くなりやすい。
【0008】
例えば、厚肉部における耐衝撃性を高めるべく圧縮応力層の深さ(DOC)を深くしようと一度のイオン交換処理で深部までイオン交換を行うと、薄肉部においてガラスの厚み方向の全域にわたってイオンが過剰拡散してしまい、ガラス中央部と表面部とのイオン濃度差が生じ難くなり、薄肉部の表面で高い圧縮応力を得られなくなる場合がある。逆に、薄肉部の表面で高い圧縮応力を得るべくイオン交換深さを浅く設定すると、厚肉部のDOCまで浅くなってしまう。このように、従来の技術では、厚肉部および薄肉部の双方で同時に高い耐衝撃性を実現することが困難であった。
【0009】
本発明は、高い耐衝撃性と可撓性とを有する化学強化ガラス板を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1) 上記の課題を解決するために創案された本発明は、薄肉部と、薄肉部よりも厚い厚肉部と、薄肉部および厚肉部の各々表面部に形成された圧縮応力層とを備え、薄肉部において折り曲げ可能な化学強化ガラス板であって、薄肉部の最大圧縮応力深さをDOC1、厚肉部の最大圧縮応力深さをDOC2、厚肉部の厚みをt2とした場合に、DOC2>DOC1なる関係を有し、かつ、DOC2/t2≧0.05なる関係を有することを特徴とする。
【0011】
このようにすれば、厚肉部の最大圧縮応力深さDOC2は、薄肉部の最大圧縮応力深さDOC1よりも深くなる(DOC2>DOC1)。また、厚肉部の最大圧縮応力深さDOC2は、厚肉部の厚みに対して十分な深さとなる(DOC2/t2≧0.05)。したがって、薄肉部および厚肉部のそれぞれの厚みに応じた適切な深さまで圧縮応力層を形成できる。つまり、薄肉部によって化学強化ガラス板に可撓性を付与しつつ、薄肉部および厚肉部のそれぞれで高い耐衝撃性を実現できる。
【0012】
(2) 上記(1)の構成において、薄肉部の最大圧縮応力深さをDOC1、薄肉部の厚みをt1とした場合に、DOC1/t1≦0.20なる関係を有することが好ましい。
【0013】
薄肉部の場合、イオン交換部分の体積膨張を抑え込む内部のガラスが少ないため、最大圧縮応力深さDOC1が深くなりすぎると、最大圧縮応力値CS1を高くすることが難しい。したがって、薄肉部の最大圧縮応力深さDOC1は、薄肉部の厚みt1の20%以下であることが好ましい(DOC1/t1≦0.20)。このようにすれば、薄肉部の最大圧縮応力値CS1を高め、薄肉部における耐衝撃性を向上させやすくなる。
【0014】
(3) 上記(1)又は(2)の構成において、薄肉部の厚みt1が、0.01mm以上0.2mm以下であり、厚肉部の厚みt2が、0.2mm超2.0mm以下であることが好ましい。
【0015】
このようにすれば、薄肉部が十分に薄くなって化学強化ガラス板の可撓性を高めやすくなる。また、厚肉部が十分に厚くなって化学強化ガラス板全体の耐衝撃性を高めやすくなる。
【0016】
(4) 上記(1)~(3)のいずれかの構成において、薄肉部の最大圧縮応力深さをDOC1、厚肉部の最大圧縮応力深さをDOC2とした場合に、DOC2/DOC1≧5なる関係を有することが好ましい。
【0017】
このようにすれば、薄肉部および厚肉部のそれぞれでより高い耐衝撃性を実現できる。
【0018】
(5) 上記(1)~(4)のいずれかの構成において、薄肉部の最大圧縮応力深さDOC1が、2~20μmであり、厚肉部の最大圧縮応力深さDOC2が、10~200μmであることが好ましい。
【0019】
このようにすれば、薄肉部および厚肉部のそれぞれでより高い耐衝撃性を実現できる。
【0020】
(6) 上記(1)~(5)のいずれかの構成において、薄肉部の最大圧縮応力値CS1が、100~1500MPaであり、厚肉部の最大圧縮応力値CS2が、200~2000MPaであることが好ましい。
【0021】
このようにすれば、薄肉部および厚肉部のそれぞれでより高い耐衝撃性を実現できる。
【0022】
(7) 上記(1)~(6)のいずれかの構成において、薄肉部の最大圧縮応力値をCS1、厚肉部の最大圧縮応力値をCS2とした場合に、CS2/CS1≦20なる関係を有することが好ましい。
【0023】
このようにすれば、薄肉部および厚肉部のそれぞれでより高い耐衝撃性を実現できる。
【0024】
(8) 上記(1)~(7)のいずれかの構成において、厚肉部の圧縮応力層において、深さ方向の応力プロファイルが屈曲点を有することが好ましい。
【0025】
このようにすれば、厚肉部の最大圧縮応力深さDOC2を増加させつつ、厚肉部の最大引張応力値CT2を低減できる。
【0026】
(9) 上記(1)~(8)のいずれかの構成において、ガラス組成としてLi2OおよびNa2Oを含むことが好ましい。
【0027】
このようにすれば、複数回(例えば二回)のイオン交換処理を施すことで、上記の応力特性を有する化学強化ガラス板を製造しやすくなる。具体的には、例えば、NaNO3を含む溶融塩と、KNO3を含む溶融塩とを用い、上記の応力特性を有する化学強化ガラス板を製造しやすくなる。
【0028】
(10) 上記(9)の構成において、ガラス組成として、モル%で、SiO2 50~80%、Al2O3 8~25%、B2O3 0~10%、Li2O 3~15%、Na2O 3~21%、K2O 0~10%、MgO 0~10%、P2O5 0~15%を含むことが好ましい。
【0029】
このようにすれば、複数回(例えば二段階)のイオン交換処理を施すことで、上記の応力特性を有する化学強化ガラス板を製造しやすくなる。
【0030】
(11) 上記の課題を解決するために創案された本発明は、薄肉部と、薄肉部よりも厚い厚肉部と、薄肉部および厚肉部の各々表面部に形成された圧縮応力層とを備え、薄肉部において折り曲げ可能な化学強化ガラス板の製造方法であって、厚肉部と薄肉部とを有する強化用ガラスを準備する準備工程と、強化用ガラスに二段階のイオン交換処理を施すイオン交換処理工程とを備え、イオン交換処理工程において、イオン交換処理後の化学強化ガラス板が、薄肉部の最大圧縮応力深さをDOC1、厚肉部の最大圧縮応力深さをDOC2、厚肉部の厚みをt2とした場合に、DOC2>DOC1なる関係、かつ、DOC2/t2≧0.05なる関係を満たすよう二段階のイオン交換処理を施すことを特徴とする。
【0031】
このようにすれば、高い耐衝撃性と可撓性とを有する化学強化ガラス板を製造できる。
【0032】
(12) 上記(11)の構成において、強化用ガラス板は、ガラス組成としてLi2OおよびNa2Oを含み、イオン交換処理工程は、NaNO3を10%以上含む溶融塩を用いてイオン交換を行う第一イオン交換処理と、第一イオン交換処理後に、KNO3を30%以上含む溶融塩を用いてイオン交換を行う第二イオン交換処理とを含むことが好ましい。
【0033】
このようにすれば、薄肉部では、Kイオン交換により最大圧縮応力値CS1を高くすることができる。また、厚肉部では、Naイオン交換により最大圧縮応力深さDOC2を深くしつつ、Kイオン交換により最大圧縮応力値CS2を高くすることができる。
【0034】
本発明は、また別の形態として下記の形態を取り得る。
(13)本発明の化学強化ガラス板は、別の態様において、薄肉部と、前記薄肉部よりも厚い厚肉部と、前記薄肉部および前記厚肉部の各々表面部に形成された圧縮応力層とを備え前記薄肉部において折り曲げ可能な化学強化ガラス板であって、前記薄肉部の厚みt1が、0.2mm以下であり、前記厚肉部の圧縮応力層において、深さ方向の応力プロファイルが屈曲点を有する、ことを特徴とし得る。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、高い耐衝撃性と可撓性とを有する化学強化ガラス板を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本発明の実施形態に係る化学強化ガラス板の平面図である。
【
図3】
図2の薄肉部周辺を拡大して示す断面図であって、薄肉部および厚肉部における圧縮応力層および引張応力層を示す図である。
【
図4】厚肉部における応力プロファイルの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態に係る化学強化ガラス板およびその製造方法について説明する。
【0038】
(化学強化ガラス板)
図1および
図2に示すように、本実施形態に係る化学強化ガラス板1は、薄肉部2と、薄肉部2よりも厚い厚肉部3とを有する。
【0039】
本実施形態では、化学強化ガラス板1は、平面視で長辺1aおよび短辺1bを有する矩形状(長方形状)である場合を例示する。化学強化ガラス板1の長辺1aの長さLaは、好ましくは、50mm以上500mm以下、65mm以上450mm以下、60mm以上400mm以下、70mm以上300mm以下、75mm以上200mm以下、80mm以上160mm以下である。化学強化ガラス板1の短辺1bの長さLbは、好ましくは、40mm以上400mm以下、45mm以上350mm以下、50mm以上300mm以下、55mm以上120mm以下、60mm以上80mm以下である。
【0040】
化学強化ガラス板1は、薄肉部2で折り曲げ可能である。化学強化ガラス板1は、薄肉部2で折り曲げた際に、破損することなく最小曲げ半径が10mm以下となる可撓性を有する。
【0041】
薄肉部2は、2つの厚肉部3を区画している。区画された2つの厚肉部3は、薄肉部2によって相互に連結されている。換言すれば、薄肉部2は、化学強化ガラス板1の一方端から他方端にかけて帯状に延在する。より詳細には、薄肉部2は、一方の長辺1aの中央部から他方の長辺1aの中央部にかけて化学強化ガラス板1の主表面を横断するように短辺1bと平行に設けられる。
【0042】
2つの厚肉部3は、薄肉部2を基準として互いに線対称となる形状であることが好ましい。このようにすれば、2つの厚肉部3が重なるようにして化学強化ガラス板1を折り曲げることができ、フォルダブルデバイス等の用途に好適である。
【0043】
薄肉部2の厚みt1は、好ましくは、0.01mm以上0.2mm以下、0.01mm以上0.15mm以下、0.01mm以上0.095mm以下、0.02mm以上0.085mm以下、0.03mm以上0.075mm以下である。このようにすれば、薄肉部2の可撓性と耐衝撃性を確保しやすくなる。なお、薄肉部2の厚みt1が過度に薄くなると、機械的強度の低下に加え、表面の圧縮応力値を高くすることが困難になり、かえって可撓性を損なうおそれがある。
【0044】
薄肉部2の厚みt1は一定であることが好ましい。薄肉部2の厚みが一定でない場合は、薄肉部2における最も薄い部位の厚み(最小厚み)をt1として求めることができる。
【0045】
薄肉部2の幅Wは、好ましくは、3mm以上50mm以下、5mm以上30mm以下である。このようにすれば、化学強化ガラス板1の折り曲げに必要な可動域を十分に確保できる。薄肉部2の幅Wは一定であることが好ましい。
【0046】
厚肉部3の厚みt2は、好ましくは、0.2mm超2.0mm以下、0.2mm超0.8mm以下、0.2mm超0.7mm以下、0.2mm超0.65mm以下、0.2mm超0.6mm以下である。このようにすれば、厚肉部3における変形性を適度に抑え、デバイスの組み立て製造時における取り回し性を向上できる。
【0047】
厚肉部3の厚みt2は一定であることが好ましい。厚肉部3の厚みが一定でない場合は、厚肉部3における最も厚い部位の厚み(最大厚み)をt2として求めることができる。
【0048】
化学強化ガラス板1は、一方の主表面1c側に凹溝4を有する。凹溝4は、主表面1c,1dと平行な平面からなる底面4aと、主表面1c,1dに対して傾斜した平面からなる側面4bとを備える。凹溝4の形状は特に限定されない。側面4bは、例えば、主表面1c,1dに対して垂直な平面であってもよいし、主表面1d側に窪んだ凹曲面であってもよい。底面4aは、例えば、主表面1d側に窪んだ凹曲面であってもよい。
【0049】
薄肉部2は、凹溝4に対応する位置に形成された他方の主表面1d側の残部5により構成されている。化学強化ガラス板1は、例えば、凹溝4側が外側となる方向(
図2の矢印R方向)へ折り曲げ可能である。このような方向へ折り曲げ可能とすることで、凹溝4のない平坦面をフォルダブルデバイスのタッチ面とすることができ、ファルダブルデバイスの折りたたみ時にタッチ面を保護できる。なお、凹溝4を両主表面1c,1dに形成することにより、薄肉部2を形成してもよい。
【0050】
図3に示すように、化学強化ガラス板1は、表面を含む表面部に形成された圧縮応力層6と、圧縮応力層6より内部側(板厚方向の中央側)に形成された引張応力層7とを備える。本実施形態では、圧縮応力層6は、薄肉部2に形成された圧縮応力層6aと、厚肉部3に形成された圧縮応力層6bとを含む。引張応力層7は、薄肉部2に形成された引張応力層7aと、厚肉部3に形成された引張応力層7bとを含む。ただし、薄肉部2および厚肉部3は、互いに応力特性が異なる。
【0051】
薄肉部2の最大圧縮応力深さDOC1は、厚肉部3の最大圧縮応力深さDOC2よりも浅い。つまり、DOC1<DOC2なる関係が成立する。このようにすれば、薄肉部2では圧縮応力層6aの深さが相対的に薄くなり、厚肉部3では圧縮応力層6bの深さが相対的に深くなる。したがって、薄肉部2および厚肉部3のそれぞれの厚みに応じて、圧縮応力層6a,6bの深さが調整され、薄肉部2および厚肉部3のそれぞれで高い耐衝撃性を実現しやすくなる。なお、DOC1は、薄肉部2における圧縮応力層6aの深さを意味し、DOC2は、厚肉部3における圧縮応力層6bの深さを意味する。薄肉部2の厚みが一定でない場合は、薄肉部2における最も薄い部位(つまり、厚みt1の部位)における最大圧縮応力深さをDOC1として求めることができる。後述するCS1、CT1も、DOC1と同様の部位で求めることができる。
【0052】
DOC2/DOC1の下限範囲は、好ましくは、5以上、7以上、10以上である。このようにすれば、薄肉部2および厚肉部3のそれぞれの厚みに応じて、圧縮応力層6a,6bの深さが最適化されやすい。一方、DOC2/DOC1の上限範囲は、好ましくは、200以下、100以下、50以下である。なお、DOC2/DOC1は、厚肉部3の最大圧縮応力深さDOC2を薄肉部2の最大圧縮応力深さDOC1で除した値である。
【0053】
薄肉部2の最大圧縮応力深さDOC1の下限範囲は、好ましくは、2μm以上、3μm以上、4μm以上、5μm以上である。薄肉部2の最大圧縮応力深さDOC1の上限範囲は、好ましくは、20μm以下、15μm以下、10μm以下である。厚肉部3の最大圧縮応力深さDOC2の下限範囲は、好ましくは、10μm以上、30μm以上、40μm以上、50μm以上、80μm以上である。厚肉部3の最大圧縮応力深さDOC2の上限範囲は、好ましくは、200μm以下、150μm以下である。
【0054】
DOC2/t2の下限範囲は、好ましくは、0.05以上、0.08以上、0.10以上、0.12以上、0.15以上である。このようにすれば、厚肉部3に占める圧縮応力層6bの割合が十分に大きくなり、高い耐衝撃性を実現できる。一方、DOC2/t2の上限範囲は、好ましくは、0.3以下、0.25以下、0.23以下である。このようにすれば、厚肉部1に占める圧縮応力層6bの割合が大きくなりすぎるのを抑制し、厚肉部1における最大圧縮応力値CS2を高めやすくなる。なお、DOC2/t2は、厚肉部3の最大圧縮応力深さDOC2を厚肉部3の厚みt2で除した値である。
【0055】
DOC1/t1の下限範囲は、好ましくは、0.01以上、0.02以上、0.05以上である。このようにすれば、厚肉部3に占める圧縮応力層6bの割合が十分に大きくなり、高い耐衝撃性を実現できる。一方、DOC1/t1の上限範囲は、好ましくは、0.02以下、0.10以下、0.08以下、0.05以下である。このようにすれば、薄肉部2に占める圧縮応力層6aの割合が大きくなりすぎるのを抑制し、薄肉部2における最大圧縮応力値CS1を高めやすくなる。特に薄肉部2の場合、イオン交換部分の体積膨張を抑え込む内部のガラスが少ないため、最大圧縮応力深さDOC1が深くなりすぎると、最大圧縮応力値CS1を高くすることが難しくなる。なお、DOC1/t1は、薄肉部2の最大圧縮応力深さDOC1を薄肉部2の厚みt1で除した値である。
【0056】
DOC2/t2とDOC1/t1との間には、DOC2/t2≧DOC1/t1なる関係が成立してもよい。例えば、DOC2/t2は、DOC1/t1の1.3倍以上、1.5倍以上、2倍以上であってもよい。
【0057】
薄肉部2の最大圧縮応力値をCS1、厚肉部3の最大圧縮応力をCS2した場合、CS2/CS1の上限範囲は、好ましくは、20以下、15以下、12以下、10以下、5以下、4以下、2以下、1.5以下である。CS2/CS1の下限範囲は、好ましくは、1以上、1.05以上、1.1以上、1.1以上である。このようにすれば、薄肉部2および厚肉部3の耐衝撃性をさらに高めやすくなる。なお、最大圧縮応力値CS1は、薄肉部2の表面における圧縮応力値である。最大圧縮応力値CS2は、厚肉部3の表面における圧縮応力値である。CS2/CS1は、厚肉部3の最大圧縮応力値CS2を薄肉部2の最大圧縮応力値CS1で除した値である。
【0058】
薄肉部2の最大圧縮応力値CS1の下限範囲は、好ましくは、100MPa以上、200MPa以上、300MPa以上、400MPa以上、500MPa以上である。薄肉部2の最大圧縮応力値CS1の上限範囲は、好ましくは、1500MPa以下、1300MPa以下、1100MPa以下、1000MPa以下、900MPa以下である。
【0059】
厚肉部3の最大圧縮応力値CS2の下限範囲は、好ましくは、200MPa以上、300MPa以上、400MPa以上、500MPa以上、600MPa以上、700MPa以上、800MPa以上、900MPa以上である。厚肉部3の最大圧縮応力値CS2の上限範囲は、好ましくは、2000MPa以下、1500MPa以下、1300MPa以下、1200MPa以下である。
【0060】
薄肉部2の最大引張応力値CT1の上限範囲は、好ましくは、1000MPa以下、500MPa以下、400MPa以下、285MPa以下、250MPa以下、240MPa、230MPa以下、220MPa以下、210MPa以下、200MPa以下、190MPa以下、180MPa以下、170MPa以下、160MPa以下、150MPa以下、145MPa以下、140MPa以下、130MPa以下、120MPa以下、110MPa以下、100MPa以下、95MPa以下、85MPa以下、70MPa以下である。一方、薄肉部2の最大引張応力値CT1の下限範囲は、好ましくは、20MPa以上、50MPa以上、60MPa以上である。このようにすれば、破壊時において危険な破壊態様とならない安全性を確保しながら、曲げに対する強度を確保できる。
【0061】
厚肉部3の最大引張応力値CT2の上限範囲は、好ましくは、1000MPa以下、500MPa以下、400MPa以下、285MPa以下、250MPa以下、240MPa、230MPa以下、220MPa以下、210MPa以下、200MPa以下、190MPa以下、180MPa以下、170MPa以下、160MPa以下、150MPa以下、145MPa以下、140MPa以下、130MPa以下、120MPa以下、110MPa以下、100MPa以下、95MPa以下、85MPa以下、70MPa以下である。一方、厚肉部3の最大引張応力値CT1の下限範囲は、好ましくは、20MPa以上、50MPa以上、60MPa以上である。このようにすれば、破壊時において危険な破壊態様とならない安全性を確保できる。
【0062】
DOC1、DOC2、CS1、CS2、CT1、CT2等の応力に関する数値は、例えば、折原製作所製FSM-6000やSLP-2000等の測定装置により化学強化ガラス板1の応力分布を測定することにより導出可能である。
【0063】
化学強化ガラス板1の全表面、すなわち、薄肉部2および厚肉部3を含む両主表面および端面は、全てエッチング面からなることが好ましい。全表面がエッチングされていることにより、全表面にわたって欠陥が低減され、高い強度を有する。エッチング面の表面粗さRaは、例えば、10.0~0.1nmである。なお、主表面とは、板状のガラス表面全体のうち端面を除いた表裏面の面を指す。
【0064】
本実施形態では、化学強化ガラス板1は、ガラス組成として、Li2OおよびNa2Oを含む。このようにすれば、複数回(例えば二回)のイオン交換処理を施すことで、上記の応力特性を有する化学強化ガラス板1を製造しやすくなる。
【0065】
詳細には、化学強化ガラス板1は、ガラス組成として、モル%で、SiO2 50~80%、Al2O3 8~25%、B2O3 0~10%、Li2O 3~15%、Na2O 3~21%、K2O 0~10%、MgO 0~10%、P2O5 0~15%を含むことが好ましい。各成分の含有範囲を限定した理由を下記に示す。なお、各成分の含有範囲の説明において、%表示は、特に断りがない限り、モル%を指す。
【0066】
SiO2は、ガラスのネットワークを形成する成分である。SiO2の含有量が少なすぎると、ガラス化しにくくなり、また熱膨張係数が高くなりすぎて、耐熱衝撃性が低下しやすくなる。よって、SiO2の好適な下限範囲は50%以上、55%以上、57%以上、59%以上、特に61%以上である。一方、SiO2の含有量が多すぎると、溶融性や成形性が低下しやすくなり、また熱膨張係数が低くなりすぎて、周辺材料の熱膨張係数に整合させにくくなる。よって、SiO2の好適な上限範囲は80%以下、70%以下、68%以下、66%以下、65%以下、特に64.5%以下である。
【0067】
Al2O3は、イオン交換性能を高める成分であり、また歪点、ヤング率、破壊靱性、ビッカース硬度を高める成分である。よって、Al2O3の好適な下限範囲は8%以上、10%以上、12%以上、13%以上、14%以上、14.4%以上、15%以上、15.3%以上、15.6%以上、16%以上、16.5%以上、17%以上、17.2%以上、17.5%以上、17.8%以上、18%以上、18%超、18.3%以上、特に18.5%以上、18.6%以上、18.7%以上、18.8%以上である。一方、Al2O3の含有量が多すぎると、高温粘度が上昇して、溶融性や成形性が低下しやすくなる。またガラスに失透結晶が析出しやすくなって、オーバーフローダウンドロー法等で板状に成形しにくくなる。特に、成形体耐火物としてアルミナ系耐火物を用いて、オーバーフローダウンドロー法で板状に成形する場合、アルミナ系耐火物との界面にスピネルの失透結晶が析出しやすくなる。さらに耐酸性も低下し、酸処理工程に適用しにくくなる。よって、Al2O3の好適な上限範囲は25%以下、21%以下、20.5%以下、20%以下、19.9%以下、19.5%以下、19.0%以下、特に18.9%以下である。
【0068】
B2O3は、高温粘度や密度を低下させると共に、ガラスを安定化させて、結晶を析出させにくくし、液相温度を低下させる成分である。B2O3の含有量が少なすぎると、ガラス中に含まれるLiイオンと溶融塩中のNaイオンのイオン交換における応力深さが深くなりすぎて、結果として最大圧縮応力値CS2が小さくなりやすい。また、ガラスが不安定になり、耐失透性が低下するおそれもある。よって、B2O3の好適な下限範囲は0%以上、0.01%以上、0.05%以上、0.1%以上、0.2%以上、0.5%以上、0.6%以上、0.7%以上、0.8%以上、0.9%以上、特に1%以上である。一方、B2O3の含有量が多すぎると、応力深さが浅くなるおそれがある。特にガラス中に含まれるNaイオンと溶融塩中のKイオンのイオン交換の効率が低下しやすくなり、最大圧縮応力深さDOCが小さくなりやすい。よって、B2O3の好適な上限範囲は10%以下、5%以下、4%以下、3.8%以下、3.5%以下、3.3%以下、3.2%以下、3.1%以下、3%以下、特に2.9%以下である。
【0069】
Li2Oは、イオン交換成分であり、特にガラス中に含まれるLiイオンと溶融塩中のNaイオンをイオン交換して、最大圧縮応力深さDOC2を深くするために必須の成分である。また、Li2Oは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分であると共に、ヤング率を高める成分である。よって、Li2Oの好適な下限範囲は3%以上、4%以上、5%以上、5.5%以上、6.5%以上、7%以上、7.3%以上、7.5%以上、7.8%以上、特に8%以上である。よって、Li2Oの好適な上限範囲は15%以下、13%以下、12%以下、11.5%以下、11%以下、10.5%以下、10%未満、特に9.9%以下、9%以下、8.9%以下である。
【0070】
Na2Oは、イオン交換成分であり、また高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分である。またNa2Oは、耐失透性を高める成分であり、特にアルミナ系耐火物との反応で生じる失透を抑制する成分である。よって、Na2Oの好適な下限範囲は3%以上、4%以上、5%以上、6%以上、7%以上、7.5%以上、8%以上、8.5%以上、8.8%以上、特に9%以上である。一方、Na2Oの含有量が多すぎると、熱膨張係数が高くなりすぎて、耐熱衝撃性が低下しやすくなる。またガラス組成の成分バランスが崩れて、かえって耐失透性が低下する場合がある。よって、Na2Oの好適な上限範囲は21%以下、20%以下、19%以下、特に18%以下、15%以下、13%以下、11%以下、特に10%以下である。
【0071】
K2Oは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分である。しかし、K2Oの含有量が多すぎると、熱膨張係数が高くなりすぎて、耐熱衝撃性が低下しやすくなる。また最表面の圧縮応力値が低下しやすくなる。よって、K2Oの好適な上限範囲は10%以下、7%以下、6%以下、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、1.5%以下、1%以下、1%未満、0.5%以下、特に0.1%未満である。なお、応力深さを深くする観点を重視すると、K2Oの好適な下限範囲は0%以上、0.1%以上、0.3%以上、特に0.5%以上である。
【0072】
MgOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やビッカース硬度を高める成分であり、アルカリ土類金属酸化物の中では、イオン交換性能を高める効果が大きい成分である。しかし、MgOの含有量が多すぎると、耐失透性が低下しやすくなり、特にアルミナ系耐火物との反応で生じる失透を抑制しにくくなる。よって、MgOの好適な含有量は0~10%、0~5%、0.1~4%、0.2~3.5%、特に0.5~3%未満である。
【0073】
P2O5は、イオン交換性能を高める成分であり、特に最大圧縮応力深さDOC2を深くする成分である。さらに耐酸性も向上させる成分である。P2O5の含有量が少なすぎると、イオン交換性能を十分に発揮できないおそれが生じる。特にガラス中に含まれるNaイオンと溶融塩中のKイオンのイオン交換の効率が低下しやすくなる。また、ガラスが不安定になり、耐失透性が低下するおそれもある。よって、P2O5の好適な下限範囲は0%以上、0.1%以上、0.4%以上、0.7%以上、1%以上、1.2%以上、1.4%以上、1.6%以上、2%以上、2.3%以上、2.5%以上、特に3%以上である。一方、P2O5の含有量が多すぎると、ガラスが分相したり、耐水性が低下しやすくなる。また、ガラス中に含まれるLiイオンと溶融塩中のNaイオンのイオン交換における応力深さが深くなりすぎて、結果として最大圧縮応力値CS2が小さくなりやすい。よって、P2O5の好適な上限範囲は15%以下、10%以下、5%以下、4.5%以下、4%以下である。すなわち、一態様において、P2O5は、実質的に不含有であってもよい。
【0074】
アルカリ金属酸化物は、イオン交換成分であり、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分である。アルカリ金属酸化物の含有量([Li2O]+[Na2O]+[K2O])が多すぎると、熱膨張係数が高くなるおそれがある。また、耐酸性が低下するおそれがある。よって、アルカリ金属酸化物([Li2O]+[Na2O]+[K2O])の好適な下限範囲は10%以上、11%以上、12%以上、13%以上、14%以上、15%以上である。よって、アルカリ金属酸化物([Li2O]+[Na2O]+[K2O])の好適な上限範囲は25%以下、23%以下、20%以下、19%以下、18%以下である。
【0075】
モル比[Li2O]/([Na2O]+[K2O])は、好ましくは0.4~1.0、0.5~0.9、特に0.6~0.8である。モル比[Li2O]/([Na2O]+[K2O])が小さすぎると、イオン交換性能を十分に発揮できないおそれが生じる。特にガラス中に含まれるLiイオンと溶融塩中のNaイオンのイオン交換の効率が低下しやすくなる。一方、モル比[Li2O]/([Na2O]+[K2O])が大きすぎると、ガラスに失透結晶が析出しやすくなって、オーバーフローダウンドロー法等で板状に成形しにくくなる。なお、「[Li2O]/([Na2O]+[K2O])」は、Li2Oの含有量をNa2OとK2Oの合量で除した値を指す。
【0076】
モル比([Na2O]-[Li2O])/([Al2O3]+[B2O3]+[P2O5])は、好ましくは0.29以下、0.27以下、0.26以下、0.25以下、0.23以下、0.20以下、特に0.15以下である。モル比([Na2O]-[Li2O])/([Al2O3]+[B2O3]+[P2O5])が大きすぎると、イオン交換性能を十分に発揮できないおそれが生じる。特にガラス中に含まれるLiイオンと溶融塩中のNaイオンがイオン交換の効率が低下しやすくなる。
【0077】
モル比([B2O3]+[Na2O]-[P2O5])/([Al2O3]+[Li2O])は、好ましくは0.30以上、0.35以上、0.40以上、0.42以上、0.43以上、特に0.45以上である。モル比([B2O3]+[Na2O]-[P2O5])/([Al2O3]+[Li2O])が小さすぎると、ガラスに失透結晶が析出しやすくなって、オーバーフローダウンドロー法等で板状に成形しにくくなる。
【0078】
([SiO2]+1.2×[P2O5]-3×[Al2O3]-2×[Li2O]-1.5×[Na2O]-[K2O]-[B2O3])は、好ましくは-40%以上、-30%以上、-25%以上、-24%以上、-23%以上、-22%以上、-21%以上、-20%以上、-19%以上、特に-18%以上である。([SiO2]+1.2×[P2O5]-3×[Al2O3]-2×[Li2O]-1.5×[Na2O]-[K2O]-[B2O3])が小さすぎると、耐酸性が低下しやすくなる。一方、([SiO2]+1.2×[P2O5]-3×[Al2O3]-2×[Li2O]-1.5×[Na2O]-[K2O]-[B2O3])が大きすぎると、イオン交換性能を十分に発揮できないおそれが生じる。よって、([SiO2]+1.2×[P2O5]-3×[Al2O3]-2×[Li2O]-1.5×[Na2O]-[K2O]-[B2O3])は、好ましくは30モル%以下、20モル%以下、15モル%以下、10モル%以下、5モル%以下、特に0モル%以下である。
【0079】
上記成分以外にも、例えば以下の成分を添加してもよい。
【0080】
CaOは、他の成分と比較して、耐失透性の低下を伴うことなく、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やビッカース硬度を高める成分である。しかし、CaOの含有量が多すぎると、イオン交換性能が低下したり、イオン交換処理時にイオン交換溶液を劣化させるおそれがある。よって、CaOの好適な上限範囲は6%以下、5%以下、4%以下、3.5%以下、3%以下、2%以下、1%以下、1%未満、0.5%以下、特に0.1%未満である。
【0081】
SrOとBaOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分であるが、それらの含有量が多すぎると、イオン交換反応が阻害されやすくなることに加えて、密度や熱膨張係数が不当に高くなったり、ガラスが失透しやすくなる。よって、SrOとBaOの好適な含有量は、それぞれ0~2%、0~1.5%、0~1%、0~0.5%、0~0.1%、特に0~0.1%未満である。
【0082】
ZnOは、イオン交換性能を高める成分であり、特に最大圧縮応力値CS2を高める効果が大きい成分である。また低温粘性を低下させずに、高温粘性を低下させる成分である。ZnOの好適な下限範囲は0%以上、0.1%以上、0.3%以上、0.5%以上、0.7%以上、特に1%以上である。一方、ZnOの含有量が多すぎると、ガラスが分相したり、耐失透性が低下したり、密度が高くなったり、応力深さが浅くなる傾向がある。よって、ZnOの好適な上限範囲は10%以下、6%以下、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、1.5%以下、1.3%以下、1.2%以下、特に1.1%以下である。
【0083】
ZrO2は、ビッカース硬度を高める成分であると共に、液相粘度付近の粘性や歪点を高める成分であるが、その含有量が多すぎると、耐失透性が著しく低下するおそれがある。よって、ZrO2の好適な含有量は0~3%、0~1.5%、0~1%、特に0~0.1%である。
【0084】
TiO2は、イオン交換性能を高める成分であり、また高温粘度を低下させる成分であるが、その含有量が多すぎると、透明性や耐失透性が低下しやすくなる。よって、TiO2の好適な含有量は0~3%、0~1.5%、0~1%、0~0.1%、特に、0.001~0.1モル%である。
【0085】
SnO2は、イオン交換性能を高める成分であるが、その含有量が多すぎると、耐失透性が低下しやすくなる。よって、SnO2は好適な下限範囲は0.005%以上、0.01%以上、特に0.1%以上であり、好適な上限範囲は3%以下、2%以下、特に1%以下である。
【0086】
Clは、清澄剤であるが、その含有量が多すぎると、環境や設備に悪影響を与える成分である。よって、Clの好適な下限範囲は0.001%以上、特に0.01%以上であり、好適な上限範囲は0.3%以下、0.2%以下、特に0.1%以下である。
【0087】
化学強化ガラス板1のヤング率は、好ましくは70~100GPa、75~100GPa、特に76~90GPaである。ヤング率が低いと、板厚が薄い場合に、カバーガラスが撓みやすくなる。なお、「ヤング率」は、周知の共振法で算出可能である。
【0088】
<化学強化ガラス板の製造方法>
化学強化ガラス板1の製造方法は、化学強化用ガラス板を準備する準備工程と、化学強化用ガラス板をイオン交換処理するイオン交換処理工程とを含む。
【0089】
準備工程では、化学強化用ガラス板を準備する。化学強化用ガラス板は、上述の化学強化ガラス板1と同様の形状寸法およびガラス組成により構成された未強化ガラス板である。つまり、化学強化用ガラス板は、ガラス組成としてLi2OおよびNa2Oを含有する矩形状である。
【0090】
化学強化用ガラス板は、例えば、オーバーフローダウンドロー法、スロットダウンドロー法、フロート法、リドロー法等の成形方法により得られた板状のマザーガラスを小片ガラスに切断、加工して得られる。平滑な表面を得るためには成形方法としてオーバーフローダウンドロー法を用いることが好ましい。
【0091】
切り出された小片ガラスには、薄肉部2を形成するために凹溝を形成する加工が施される。凹溝は、エッチング、研削等の加工により形成される。凹溝を形成する加工は、イオン交換処理工程前に実施される。
【0092】
化学強化用ガラス板の端面は、研磨、熱処理、エッチング等により面取りや強度向上のための処理が施されることが好ましい。
【0093】
化学強化用ガラス板の主表面は研磨処理されてもよい。あるいは、例えば、オーバーフローダウンドロー法により主表面が予め平滑に成形されている場合や、厚みが均一且つ精度よく成形されている場合には、化学強化用ガラス板の主表面は研磨処理が施されていない非研磨面としてもよい。オーバーフローダウンドロー法により成形された非研磨面は火造り面となる。化学強化用ガラスには、さらにエッチングにより厚みを減少させるスリミング処理が施されてもよい。
【0094】
イオン交換処理工程では、上述のようにして得られた化学強化用ガラス板に対して、複数回のイオン交換処理を行う。複数回のイオン交換処理は、NaNO3を10質量%以上含む第一溶融塩に化学強化用ガラス板を浸漬させる第一イオン交換処理と、第一イオン交換処理の後に、KNO3を30質量%以上含む第二溶融塩に化学強化用ガラス板を浸漬させる第二イオン交換処理とを備える。
【0095】
第一イオン交換処理では、第一溶融塩に含まれるNaNO3濃度は、好ましくは、10質量%以上、20質量%以上、30質量%以上、50質量%以上、70質量%以上である。第一溶融塩は、NaNO3のみからなる溶融塩であってもよいし、NaNO3およびKNO3の混合溶融塩などであってもよい。第一溶融塩としてNaNO3およびKNO3の混合溶融塩を用いる場合、KNO3濃度は、好ましくは0質量%以上、1質量%以上、5質量%以上、7質量%以上、10質量%以上、15質量%以上、20~90質量%である。KNO3濃度は、NaNO3の濃度よりも高いことが好ましい。KNO3濃度が高すぎると、ガラス中に含まれるLiイオンと溶融塩中のNaイオンがイオン交換する際に形成される圧縮応力値が低下しすぎるおそれがある。一方、KNO3濃度が低すぎると、表面応力計FSM-6000による応力測定が困難になるおそれがある。
【0096】
第一イオン交換処理では、第一溶融塩がNaNO3を含むため、ガラス中に含まれるLiイオンと溶融塩中のNaイオンがイオン交換する。第一溶融塩としてNaNO3およびKNO3の混合溶融塩を用いる場合、これに加えて、ガラス中に含まれるNaイオンと溶融塩中のKイオンがイオン交換する。ここで、ガラス中に含まれるLiイオンと溶融塩中のNaイオンのイオン交換は、ガラス中に含まれるNaイオンと溶融塩中のKイオンのイオン交換よりもスイードが速く、イオン交換の効率が高い。
【0097】
この際、化学強化用ガラス板の薄肉部を基準として第一イオン交換処理の条件を設定すると、薄肉部の最大圧縮応力深さを薄肉部の厚みに対して適正なものとできる。しかしながら、化学強化用ガラス板の厚肉部では、厚肉部の厚みに対して十分な深さまでNaイオンが拡散しない。その結果、厚肉部の最大圧縮応力深さが、厚肉部の厚みに対して浅くなりすぎる。この場合、例えば突起物等の圧入による破損に対する厚肉部の強度が低下してしまう。
【0098】
そこで、本実施形態では、厚肉部を基準として第一イオン交換処理の条件を設定している。これにより、化学強化用ガラス板の厚肉部では、厚肉部の厚みに対して十分な深さまでNaイオンが拡散する。その結果、厚肉部の最大圧縮応力深さが厚肉部の厚みに対して適正化される。ただし、この場合には、薄肉部の厚みに対して過剰な深さまでNaイオンが拡散し、薄肉部の厚み方向においてNaイオンの濃度分布の勾配が生じない。圧縮応力層は、拡散イオンの濃度分布の勾配に起因して形成されるため、第一イオン交換処理では、薄肉部は十分に強化されない。したがって、本実施形態では、厚肉部は第一イオン交換処理と第二イオン交換処理により強化し、薄肉部は第二イオン交換処理により強化するようにしている。
【0099】
第二イオン交換処理では、第二溶融塩に含まれるKNO3濃度は、好ましくは、30質量%以上、50質量%以上、70質量%以上、90質量%以上である。第二溶融塩は、KNO3のみからなる溶融塩であってもよいし、KNO3およびNaNO3の混合溶融塩などであってもよい。第二溶融塩としてKNO3およびNaNO3の混合溶融塩を用いる場合、NaNO3濃度は、好ましくは0超~5質量%、0超~3質量%、0超~2質量%0.5~2質量%である。ただし、KNO3濃度は、NaNO3濃度よりも高いことが好ましい。NaNO3濃度が低すぎると、ガラス表面近傍におけるNaイオンが離脱しやすくなり応力低下の要因となる。一方、NaNO3濃度が高すぎると、ガラス表面近傍におけるNaイオンと溶融塩中のKイオンのイオン交換によって形成される圧縮応力値が低下しすぎるおそれがある。
【0100】
なお、第二溶融塩は、KNO3、NaNO3、およびLiNO3の混合溶融塩であってもよいし、KNO3およびLiNO3の混合溶融塩であってもよい。いずれの場合であっても、第二溶融塩においてKNO3の含有量が他の塩に比べ最も多いことが好ましい。
【0101】
第二イオン交換処理では、第二溶融塩がKNO3を含むため、ガラス表面近傍(最表面から板厚の20%までの浅い領域)におけるNaイオンと溶融塩中のKイオンがイオン交換する。第二溶融塩としてKNO3およびLiNO3の混合溶融塩を用いる場合、これに加えて、ガラス表面近傍におけるNaイオンと溶融塩中のLiイオンがイオン交換する。すなわち、第二イオン交換処理では、ガラス表面近傍におけるNaイオンを離脱させつつ、イオン半径の大きいKイオンを導入することができる。
【0102】
この際、厚肉部では、Kイオンの導入により、第一イオン交換処理で形成された相対的に深い最大圧縮応力深さを維持しながら、最大圧縮応力値を高めることができる。一方、薄肉部では、Kイオンの導入により、相対的に浅い最大圧縮応力深さが形成されるとともに、最大圧縮応力値を高めることができる。つまり、このようなイオン交換処理工程を経て製造された化学強化ガラス板1は、厚肉部3および薄肉部2で、異なる応力特性(DOC1<DOC2など)を有する。なお、厚肉部3では、KイオンおよびNaイオンの濃度分布の勾配が存在する。一方、薄肉部2では、Kイオンの濃度分布の勾配は存在するが、Naイオンの濃度分布の勾配は実質的に存在しない。換言すれば、厚肉部3では、KイオンおよびNaイオンの濃度分布のそれぞれが、板厚中心に向かって減少傾向を示す。一方、薄肉部2では、Kイオンの濃度分布は板厚中心に向かって減少傾向を示すが、Naイオンの濃度分布は板厚中心に向かって大きく変化せず略一定となる。ここで、「減少傾向を示す濃度分布」には、全体として濃度分布が減少傾向であれば、板厚中心に向かう途中に減少から増加に転じる変曲点(ボトム)や、増加から減少に転じる変曲点(ピーク)などを有する場合も含まれる。
【0103】
上記第二イオン交換処理後の厚肉部3の圧縮応力層の深さ方向の応力プロファイルは、
図3に示すように屈曲点eを有する。
図4において、縦軸は圧縮応力値を、横軸は化学強化ガラス板1の表面からの深さを各々示す。
図4に示すように、厚肉部3の応力プロファイルは、表面において最大圧縮応力値CS2を有し、深さ方向へ比較的急峻な勾配αで屈曲点eまで減少する。さらに、同応力プロファイルにおける圧縮応力値は、屈曲点eから深さDOC2まで比較的緩慢な勾配βで漸減する。このような応力プロファイルによれば、厚肉部3において高い最大圧縮応力値CS2および低い最大引張応力値CT2を両立することができ、高い耐衝撃性を得ることができる。なお、屈曲点eは、例えば、応力プロファイルが二本の直線からなる折れ線により近似できる場合において、上記二本の直線の交点(折れ線の屈曲している点)の深さにおける応力プロファイル上の点として求めることができる。直線の近似は、例えば最小二乗法等の周知の手法を用いることができる。
【0104】
第一イオン交換処理では、第一溶融塩の温度は360~400℃が好ましく、イオン交換時間は30分~6時間が好ましい。第二イオン交換処理では、第二溶融塩の温度は370~400℃が好ましく、イオン交換時間は15分~3時間が好ましい。第二イオン交換処理のイオン交換時間は、第一イオン交換処理のイオン交換時間よりも短いことが好ましい。これは、第二イオン交換処理のイオン交換時間を長くしすぎると、薄肉部2の最大圧縮応力深さDOC1が深くなりすぎて、最大圧縮応力値CS1を高めにくくなるためである。
【0105】
なお、本発明の実施形態について説明したが、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を施すことが可能である。
【0106】
上記の実施形態では、化学強化ガラス板および化学強化用ガラス板が、ガラス組成としてLi2Oを含有する場合を例示したが、これに限定されない。化学強化ガラス板および化学強化用ガラス板は、ガラス組成としてLi2Oを実質的に含有していなくてもよい。
【0107】
具体的には、化学強化ガラス板および化学強化用ガラス板は、ガラス組成として、モル%で、SiO2 40%~80%、Al2O3 10%~30%、B2O3 0%~3%、Na2O 5%~25%、K2O 0%~5.5%、Li2O 0%~0.09%、MgO 0%~10%を含有していてもよい。
【0108】
このようにガラス組成としてLi2Oを実質的に含有していない化学強化用ガラス板の場合も、イオン交換処理工程として、第一イオン交換処理と、第二イオン交換処理とを実施することが好ましい。この場合、第一イオン交換処理で用いられる第一溶融塩および第二イオン交換処理で用いられる第二溶融塩は、ともにKNO3を含むことが好ましい。第一溶融塩に含まれるKNO3濃度は、第二溶融塩に含まれるKNO3濃度よりも高いことが好ましい。第一イオン交換処理のイオン交換時間は、第二イオン交換処理のイオン交換時間よりも長いことが好ましい。このようなイオン交換処理により、化学強化ガラス板1の薄肉部2では、第二イオン交換処理時のKイオンの導入により最大圧縮応力値CS1を高めることができる。また、化学強化ガラス板1の厚肉部3では、第一イオン交換処理時のKイオンの導入により最大圧縮応力深さDOC2を深くしつつ、第二イオン交換処理時のKイオンの導入により最大圧縮応力値CS2を高めることができる。
【実施例0109】
以下、本発明に係るガラス物品について実施例に基づいて説明する。なお、以下の実施例は単なる例示であって、本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
【0110】
化学強化用ガラス板として、下記のガラス組成Aを有するアルカリアルミノシリケートガラスと、下記のガラス組成Bを有するアルカリアルミノシリケートガラスとを準備した。それぞれの化学強化用ガラス板は、薄肉部(厚みt1)と厚肉部(厚みt2)とを有する。
【0111】
(ガラス組成A)
ガラス組成Aは、モル%で、SiO2 60.35%、Al2O3 18.90%、B2O3 0.20%、Li2O 7.20%、Na2O 8.20%、K2O 0.40%、MgO 0.40%、P2O5 4.30%、SnO2 0.05%を含む。
【0112】
(ガラス組成B)
ガラス組成Bは、モル%で、SiO2 66.38%、Al2O3 11.5%、B2O3 0.5%、Li2O 0.02%、Na2O 15.2%、K2O 1.4%、MgO 4.8%、CaO 0.1%、SnO2 0.1%を含む。
【0113】
上述の化学強化用ガラス板に対して表1に示す条件でイオン交換処理を行って化学強化ガラス板を作製し、各種応力特性を評価した。No.1~4は本発明の実施例であり、No.5は比較例である。
【0114】
【0115】
なお、No.1~4では第一イオン交換処理および第二イオン交換処理の計2回のイオン交換処理を行い、No.5では第一イオン交換処理のみの計1回のイオン交換処理を行った。
【0116】
応力特性は、No.1~4では第一イオン交換処理後と第二イオン交換処理後との計2回測定し、No.5では第一イオン交換処理後のみの計1回測定した。
【0117】
表中において、「K70/Na30」は、KNO3濃度が70質量%、NaNO3濃度が30質量%の溶融塩に浸漬してイオン交換処理を行うことを意味する。「Na100」は、NaNO3濃度が100質量%の溶融塩に浸漬してイオン交換処理を行うことを意味する。「K100」は、KNO3濃度が100質量%の溶融塩に浸漬してイオン交換処理を行うことを意味する。
【0118】
表中において、「FSM」は、折原製作所製のFSM-6000LEを意味する。「SLP」は、折原製作所製のSLP-2000を意味する。「FSM+SLP」は、FSM-6000LEおよびSLP-2000を用いることを意味し、応力特性はこれら2つの測定装置の測定結果を合成することにより求めた。
【0119】
表1の結果からも、実施例No.1~4における厚肉部の圧縮応力層の深さ(DOC2)は、比較例No.5における厚肉部の圧縮応力層の深さ(DOC2)に比べ、大幅に深くなっていることが確認できる。また、比較例No.5は、薄肉部を基準としてイオン交換処理条件を設定したものであるが、実施例No.1~4における薄肉部の圧縮応力層の深さ(DOC1)は、比較例No.5における薄肉部の圧縮応力層の深さ(DOC1)と同程度の良好な結果となっていることが確認できる。したがって、実施例No.1~4に係る化学強化ガラス板は、薄肉部によって可撓性を確保しつつ、厚肉部および薄肉部の双方で高い耐衝撃性を実現できる。その結果、実施例No.1~4に係る化学強化ガラス板は、フォルダブルデバイス等の用途に好適である。
【0120】
なお、上記実施例のガラス組成は一例であり、本願発明は例えば下記ガラス組成C、ガラス組成D等においても適用可能である。
【0121】
(ガラス組成C)
ガラス組成Cは、モル%で、SiO2 68.2%、Al2O3 9.5%、B2O3 0.1%、Li2O 8.0%、Na2O 8.2%、K2O 3.0%、MgO 3.0%、SnO2 0.1%を含む。
【0122】
(ガラス組成D)
ガラス組成Cは、モル%で、SiO2 66.9%、Al2O3 15.6%、B2O3 1.7%、Li2O 7.5%、Na2O 7.5%、K2O 0.3%、MgO 0.4%、SnO2 0.1%を含む。